(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121868
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】スプレーノズル、スプレーノズル用先端部材
(51)【国際特許分類】
B22D 11/124 20060101AFI20220815BHJP
B21B 45/02 20060101ALI20220815BHJP
C25F 3/16 20060101ALI20220815BHJP
C25F 3/24 20060101ALI20220815BHJP
B05B 1/00 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B22D11/124 G
B21B45/02 320B
C25F3/16 C
C25F3/24
B05B1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018829
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000142023
【氏名又は名称】株式会社共立合金製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信宏
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】千本 剛
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 武志
(72)【発明者】
【氏名】浴本 貴生
【テーマコード(参考)】
4E004
4F033
【Fターム(参考)】
4E004KA07
4F033AA05
4F033BA04
4F033DA01
4F033EA01
4F033FA00
4F033MA00
4F033NA01
(57)【要約】
【課題】スプレーノズルにおいて詰まりを抑制する。
【解決手段】水冷用のスプレーノズル又は先端部材であって、少なくともノズル吐出孔の内面の一部にCr濃化層が形成されており、Cr濃化層のCr濃度が25質量%以上80質量%以下であるとともに、Cr濃化層の表面粗さが最大高さRzで0.01μm以上5.00μm以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水冷用のスプレーノズルであって、
少なくともノズル吐出孔の内面の一部にCr濃化層が形成されており、前記Cr濃化層のCr濃度が25質量%以上80質量%以下であるとともに、前記Cr濃化層の表面粗さが最大高さRzで0.01μm以上5.00μm以下である、スプレーノズル。
【請求項2】
水冷用のスプレーノズルのための先端部材であって、
少なくともノズル吐出孔の内面の一部にCr濃化層が形成されており、前記Cr濃化層のCr濃度が25質量%以上80質量%以下であるとともに、前記Cr濃化層の表面粗さが最大高さRzで0.01μm以上5.00μm以下である、スプレーノズル用先端部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳片、鋼板、鋼管等の製造に用いられる水冷用のスプレーノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋳片、鋼片、鋼板又は鋼管等の製造工程におけるこれら材料の冷却は、適切な表面性状や組織を得るため、及び、均質化や安定した操業を確保する観点から重要である。
【0003】
この冷却のために冷却水を材料に供給する手段としてスプレーノズルが用いられる。スプレーノズルは、細いノズル吐出孔から冷却水を材料に向けて噴射するため、特にノズル吐出孔に詰まりが生じやすい。そして詰まりが生じると材料の冷却ができなくなり、被冷却物の品質に影響を与えてしまう。
【0004】
特許文献1には、スプレーノズルのチップ部(先端部材)に金属の表面被膜を施すことが記載されている。これによりスプレーノズルの詰まりを防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、詰まりを抑制することができるスプレーノズルを提供することを課題とする。また、そのための先端部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、水冷用のスプレーノズル又はそのための先端部材であって、少なくともノズル吐出孔の内面の一部にCr濃化層が形成されており、Cr濃化層のCr濃度が25質量%以上80質量%以下であるとともに、Cr濃化層の表面粗さが最大高さRzで0.01μm以上5.00μm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より確実にスプレーノズルの詰まりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、スプレーノズル10の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、ノズルチップ13の近傍に注目した図である。
【
図3】
図3(a)はノズルチップ13の外観を示す図、
図3(b)はノズルチップ13の断面図である。
【
図4】
図4は、
図3(b)のうち、ノズル吐出孔14の近傍に注目した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1には、1つの形態にかかる水冷用のスプレーノズル10の構造を示した。このスプレーノズル10は連続鋳造工程における鋳片の二次冷却用のスプレーノズルである。ただしこれは例示であり、他の工程の冷却に用いるスプレーノズルについても同様に考えることができる。他の工程としては例えば、鋳片の分塊圧延、形鋼圧延工程、熱間圧延工程等を挙げることができる。
【0011】
スプレーノズル10は、内側に中空部を有する混合器11、導管12、及び先端部材としてのノズルチップ13を有して構成されている。
図1からわかるように、空気の流路であるエア配管1及び冷却水の流路である水配管2が混合器11に接続され、その中空部で空気と冷却水とが混合するように構成されている。また、導管12の一端が混合器11に接続されており、導管12の他端にノズルチップ13が配置されている。
従って、エア配管1により供給された空気及び水配管2により供給された冷却水は、混合器11の中空部にて混合され、導管12を流れてノズルチップ13に達し、ノズルチップ13に設けられたノズル吐出孔14から材料(冷却対象)に向けて噴射される。
【0012】
図2には
図1のうち、ノズルチップ13に注目した部位を拡大して表した。また、
図3(a)にはノズルチップ13の外観図で、平面図及び右側面図、
図3(b)にはA-A断面図を示し、
図4には
図3(b)のうちノズル吐出孔14の部分を拡大して表した。
図2乃至
図4よりわかるように、ノズルチップ13はスプレーノズル用先端部材として機能し、外形が六角の筒状であり、その一方側の端部に底13aを有し、他方側の端部が開口している。底13aには、底13aを貫通するようスリット状の孔が設けられ、これがノズル吐出孔14とされている。本形態ではノズル吐出孔14はスリット状の孔であるが、これに限らず必要な形状であればよい。
一方、開口する他方側の端部から、ノズルチップ13の内側に導管12の端部が挿入されて固定されることでノズルチップ13が導管12に取り付けられている。
本形態では導管12とノズルチップ13とが異なる部材で固定されている態様であるが、これに限らず導管とノズルチップとが一体であり、区別することができない形態であってもよい。この場合には導管の先端にノズル吐出孔が設けられた態様となる。また、ノズルチップ13は、その全てが一体構造であってもよく、複数に分割された部材を後で組み合わせたものであってもよい。
【0013】
図4からわかるように、ノズルチップ13は、母材部15及びCr濃化層16を有しており、母材部15の少なくとも一部がCr濃化層16により覆われている。具体的には、少なくともノズル吐出孔14の内面の一部にCr濃化層16が形成されている。本形態では、ノズル吐出孔14の内面全部、ノズルチップ13の底13aのうちの外側面13b、及び内側面13c、特にその中でもノズル吐出孔14の周囲部分がCr濃化層16により覆われている。
ただし、これはノズルチップ13の全部、又は、上記以外の一部にも合わせてCr濃化層が形成されることを妨げるものではない。
【0014】
母材部15はノズルチップ13の大部分を構成する部位であり、本形態ではステンレス鋼からなる。用いられるステンレス鋼の種類は特に限定されることはないが、例えばSUS303を挙げることができる。
【0015】
Cr濃化層16は、母材部15のうち、上記したように、ノズル吐出孔14の内面、ノズルチップ13の底13aのうちの外側面13b、及び内側面13cなどを構成する部位の表面にCr濃度が高められた表層部である。なお、Cr濃化層16におけるCrはCr酸化物として存在している。
【0016】
Cr濃化層16は、母材部15に対してCr濃度が高められた層であればよい。具体的には特に限定されることはないが、Cr濃化層16のCr濃度は25質量%以上80質量%以下であることが好ましい。Cr濃度が25質量%未満であるとスプレーノズルの詰まり抑制の効果が限定的になり、Cr濃度が80質量%を超えるとCr濃化層16の母材部15からの剥離の懸念が大きくなる。
また、Cr濃化層16には母材部15に含まれる組成物も全て含まれていることが好ましい。これにより母材部15とCr濃化層16との密着性を高めることができる。
Cr濃度は、C濃化層16の表面から深さ方向に分析を行う各種の手法により得ることができるが、例えば高周波グロー放電発光表面分析(GDS)により得ることが可能である。GDS(Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)は、グロー放電領域のカソードスパッタリングで表面のスパッタリングを行い、これによりスパッタされた原子に対してArプラズマ内における発光を分光測定するというものである。
【0017】
Cr濃化層16の表面粗さは、最大高さRz(JIS B 0601-2001)で0.01μm以上5.00μm以下であることが好ましい。これにより後述するようにスプレーノズルの詰まりを効果的に抑制することができる。
表面粗さは公知の測定装置により得ることができる。本形態ではCr濃化層16の断面をSEM観察することで得た。
【0018】
ここで、Cr濃化層16の表面粗さと、Cr濃度とが次の関係を満たすことがさらに好ましい。すなわち、Cr濃化層16のCr濃度をx(質量%、25≦x≦80)とし、Cr濃化層16の表面粗さRzをy(μm、0.01≦y≦5.00)としたとき次の式(1)及び式(2)を満たすことが好ましい。
y≧0.0007・(x-75)2-0.85 (1)
y≦-0.0015・(x-40)2+5.6 (2)
これにより、スプレーノズルの詰まりをさらに効果的に抑制することができる。
【0019】
Cr濃化層16の厚さ(範囲)は次のように考えることができる。
上記GDSによる分析において、Cr濃化層16の表面から母材部15に向けて厚さ方向にCr濃度を得て、Crの測定ピーク強度が最大となる位置Pと、母材部15のうちCr濃化層16との境界近傍と考えられる位置Bと、の厚さ方向の差をCr濃化層16の厚さ(範囲)とする。
ここで、位置Bを決めるに際しては、Cr濃化層16と母材部15とは必ずしも明確な境界を有するものではないため、Cr濃化層16に近い位置の母材部16を位置Bとすればよい。そのための手段は特に限定されることはないが、例えば、Cr濃化層16の表面から母材部15に向けて厚さ方向にCr濃度を測定し、Crのピーク強度の変動が十分に一定となったときの最初の点(例えば当該変動が1%未満である結果が厚さ方向に複数位置で得られたときの最初の位置)を位置Bとすることが挙げられる。
本形態でCr濃化層の厚さは特に限定されることはなく、この厚さがスプレーノズルの詰まり抑制に与える効果は限定的であると考えられる。後で示すように電解研磨によりCr濃化層を形成した場合にはCr濃化層は、条件にもよるが1nm以上90nm以下程度となる。
【0020】
Cr濃化層16は電解研磨により形成することができる。すなわち、母材部15の表面のうちCr濃化層16が必要である表面を電解研磨することでCr濃化層16を形成する。電解研磨によれば、Cr濃化層16のCr濃度、厚さ、及び表面粗さを電解研磨の条件を変えることで制御することができ、容易に所望のCr濃化層16の態様を得ることができる。
【0021】
以上のようなCr濃化層16を有するスプレーノズル10によれば、Cr濃化層16の表面粗さが小さいことにより、表面積が小さくなるため冷却水に含まれる異物の引っ掛かり原因部(トラップサイト)や析出原因部(析出サイト)が減少し、異物の固着が抑制される。これにより、スプレーノズルの詰まりが抑制される。
【0022】
またCr濃化層16における高い濃度のCrにより耐食性が向上するため、腐食による表面粗さの増大(粗面化)を抑制することができ、表面粗さが小さい状態を長い時間に亘って維持することが可能となる。かかる観点からもスプレーノズルの詰まりが抑制される。
表面の粗面化が顕著になると、冷却水中の異物が表面に引っかかるようにして堆積しやすくなる(上記トラップサイト)。また、粗面化した表面に冷却水中のカルシウム成分が析出すると、平滑な表面と比較してアンカー効果により析出したカルシウム成分が剥離し難くなる(上記析出サイト)。更に、析出したカルシウム成分は金属表面より親水性が高いため、一度析出すると加速度的に異物を捕捉しやすくなる。このように、粗面化は、その原因の種類によらず表面への異物の堆積を助長し、ノズル吐出孔の狭小化や詰まりの原因となる。これに対して本形態によれば、これら異物の堆積を抑制することができスプレーノズルの詰まりが抑制される。
【0023】
以上のようなスプレーノズル10のCr濃化層16以外の部分については、従来公知の方法により作製することができる。
【実施例0024】
[試験用ノズルチップ]
試験のためのノズルチップを
図3の形状に倣って作製した。その母材はステンレス鋼(SUS303)である。ノズルチップ形状の母材に対して電解研磨を行うことでCr濃化層を形成した。本例ではCr濃化層はノズルチップの全表面に亘って形成された。具体的にはSUS303をノズルチップの形状に加工した後、アセトンを用いて5分間の超音波洗浄を行い、その後に電解研磨を行って水洗、乾燥させることで試験用ノズルチップとした。電解研磨溶液は、60質量%のリン酸と15質量%のクロム酸を超純水に溶かした混酸とし、電解研磨は電流密度を0.4A/cm
2、温度を40℃、時間を実施例1は15分、実施例2は5分、実施例3は30分の条件でスターラ(回転速度2000rpm)により撹拌しながら行った。
【0025】
Cr濃化層の濃度測定にはグロー放電発光分光分析法(GDS)を用いた。GDSには、堀場製作所製GD-Profiler(マーカス型高周波グロー放電発光分析装置)を用い、RF出力は35W、スパッタリングガス種はAr、圧力は600Paとした。測定モードは、パルススパッタリングモードとし、スパッタリング間隔は300秒、測定間隔は0.04秒とした。
【0026】
Cr濃化層の表面粗さは、最大高さRz(JIS B 0601-2001)を測定することで評価した。最大高さRzは、Cr濃化層の断面において水平方向に50μmの基準長さを取り、その範囲内で最大山高さと最大谷深さとの和で表した。粗さ曲線は、SEMを用いてノズルチップの一部の断面を観察することにより得た。断面観察の位置は、ノズルチップの内面のうち、ノズル吐出孔とその反対側の開口との間の中央部分の任意の位置とした。
【0027】
[試験方法]
試験は加速試験により行った。
図5に加速試験に用いた加速試験機の概念図を表した。この加速試験機を用いて次のように試験を行った。
(1)準備した試験用ノズルチップを用いて
図1に示した例に倣ってスプレーノズルを作製する。
(2)作製したスプレーノズルを加速試験機に設置する。加速試験機ではスプレーノズル下方に設置した水槽から水をくみ上げてスプレーノズルに供給し、スプレーノズルから出射した水は水槽に戻ることにより水が循環するように構成されている。また、実際の製造工程を想定し、スプレーノズルの温度を高めるため、スプレーノズルを筐体で囲い、その中に熱風を循環させることができるようにしている。
(3)ここで循環させる水は稼働中の連続鋳造機から採取した冷却水を用い、さらに異物として鉄酸化物を50mg/L、モールドパウダー(カスピダイン、3CaO-2SiO
2-CaF
2)を50mg/L、及び炭酸カルシウムを50mg/Lで含ませた。
(4)エア配管からスプレーノズルに対して空気を供給しつつスプレーノズルからの出射水量が10L/minとなるように水を循環させた。また、熱風を循環させることによりスプレーノズルの表面温度が220℃となるようにした。
(5)スプレーノズルの表面温度が220℃に達した後、次の(a)から(e)を150回繰り返した。
(a)スプレーノズルから空気の噴射を開始
(b)空気の噴射を開始して5秒後に冷却水を噴射開始
(c)冷却水噴射開始から70秒経過で冷却水停止
(d)冷却水を停止してから5秒後の空気の噴射を停止
(e)15分静置(乾燥)
【0028】
[固着量の評価]
固着物の固着量を固着物の厚さで評価した。具体的にはノズルチップ断面をSEM観察し、画像解析ソフトを用いて50μmの範囲の視野における厚さをデータ点数270点で平均化して得た。測定箇所は粗さ測定を行った部位の近傍とした。
【0029】
[結果]
実施例1から実施例3として上記のように電解研磨をしたノズルチップを備えるスプレーノズル、及び、比較例として電解研磨を行わないノズルチップを備えるスプレーノズルを準備して試験を行った。結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
結果からわかるようにCr濃化層を設け、表面粗さを小さくすることにより固着物の固着量を低減することができた。これによればスプレーノズルの詰まりを抑制することができると考えられる。