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特開2022-121877ビタミンDを含むキクラゲのゲル状食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121877
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】ビタミンDを含むキクラゲのゲル状食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 21/10 20160101AFI20220815BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20220815BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20220815BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20220815BHJP
【FI】
A23L21/10
A23L19/00 101
A23L3/00 101C
A23L33/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018843
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】521061494
【氏名又は名称】井上 九州男
(74)【代理人】
【識別番号】100110456
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 務
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】野村 克之
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4B021
4B041
【Fターム(参考)】
4B016LC06
4B016LC07
4B016LE03
4B016LE04
4B016LG14
4B016LK20
4B016LP01
4B016LP09
4B018LE06
4B018MD23
4B018MD82
4B018ME05
4B018MF04
4B018MF07
4B018MF09
4B021LA05
4B021LW10
4B021MC10
4B041LC07
4B041LC10
4B041LD01
4B041LD10
4B041LE08
4B041LK50
4B041LP03
4B041LP17
4B041LP18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ビタミンDを中心とした栄養素を損なわず、広範な料理に活用でき、かつ咀嚼も必要としない、キクラゲを原料とする食品の製造方法、及び該食品を提供する。
【解決手段】乾燥キクラゲを水戻しし、水切りせずに戻し水とともに破砕してキクラゲを細粒化し、その後F値を4~20とする加圧下高温処理を行う、キクラゲのゲル状食品の製造方法、及びビタミンDを含有する、ゲル状のキクラゲのレトルト食品を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥キクラゲを水戻しし、水切りせずに戻し水とともに破砕してキクラゲを細粒化し、その後F値を4~20とする加圧下高温処理を行う、キクラゲのゲル状食品の製造方法。
【請求項2】
115℃~135℃にて加圧下高温処理を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
加圧下高温処理の際の条件が115℃にて10.45分~52.21分、120℃にて4分~20分、125℃にて1.54分~7.67分、130℃にて0.59分(36秒)~2.94分、135℃にて0.23分(14秒)~1.13分(1分8秒)の範囲に含まれる条件から選択される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
加圧下高温処理の際の条件が120℃にて20分である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
細粒化の工程を1回行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
食品がレトルト食品の形態である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
ビタミンDを含有する、ゲル状のキクラゲのレトルト食品。
【請求項8】
ビタミンDをレトルト食品100 g中7.5μg以上を含有する、請求項7に記載のレトルト食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
キクラゲをレトルトパウチ加工することで、キクラゲの栄養特色でもある、全食品中でも高い含有量のビタミンDを維持したまま、粘性が高いジェル状の食品を作成することに関する。
【背景技術】
【0002】
キクラゲは、生食あるいは乾燥品の水戻しを利用する方法により食用されている食材であるが、近年、栄養学的な解析が進み、キクラゲは、特に、食物繊維およびビタミンDを豊富に含有する食材であることが明らかになっている。
【0003】
キクラゲの原産が中国であったことから、これまでは、乾燥キクラゲの形態での販売が主流であった。最近では国内でのキクラゲ栽培が進んだ結果、生キクラゲが流通に乗るようになり、また乾燥キクラゲを粉砕した粉末キクラゲも流通されるようになっている。生キクラゲは、収穫してから一度も乾燥させていないキクラゲで、弾力のある食感が特徴である。調理前の水戻しが不要で、すぐに調理に使えるという利便性がある。これに対して、乾燥キクラゲは、収穫したキクラゲを乾燥させて、長期間保存できるようにしたものであり、生キクラゲと比べてコリコリとした歯ごたえのある食感が特徴である。乾物なので、調理前には水戻しが必要である。粉末キクラゲは、乾燥キクラゲを細かく砕いて、粉末状にしたものであり、小さく粉砕されているので、キクラゲ本来のコリコリとした食感はほとんどないが、混ぜるだけでキクラゲの栄養を取り入れることができるので、栄養補助的にキクラゲを取り入れたい場合に活用されている。
【0004】
このビタミンDは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)の総称であり、ビタミンD2は植物に存在するエルゴステロールから紫外線の照射によって生成され、ビタミンD3は動物に存在する7-デヒドロコレステロール(7-DHC)から生成され、いずれも光、熱、空気酸化、酸には不安定である。食品中には、カツオ塩辛、アンコウの肝、乾燥キクラゲに多く含まれていることが知られている(非特許文献1:日本食品標準成分表2015年版(七訂))。
【0005】
ビタミンDは骨の健康を維持する栄養素として、これまでも骨粗しょう症などに効果を発揮すると考えられており、それに伴い医療用投与も行われてきている(非特許文献2:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編集、日本骨粗鬆症学会、日本骨代謝学会、骨粗鬆症財団))。近年は免疫力の維持にも欠かせない栄養素として、がんや感染症研究の分野でも医学的エビデンスが集積されつつあり、その他にも血管系疾患の発生あるいはそれに起因する死亡率との関連、レニン-アンジオテンシン系を介したビタミンDの心血管保護作用、転倒予防・骨格筋における役割、免疫・感染防御との関連が報告され(非特許文献3:オレオサイエンス(第14巻第12号(2014)総説、531-537)、がんや感染症、うつ病、糖尿病など広範かつ重大な疾病との関連性についても分析されるようになっている。
【0006】
さらには、2020年初めから世界規模のパンデミックが発生している新型コロナウイルス感染症禍の中、感染症対策として人間個々の免疫力維持のための医療対策、健康管理が広く求められている。その中で、ビタミンDが免疫力維持のための重要な栄養素であることが世界各国の医学的知見が報告されている(非特許文献4:Aging Clin Exp Res. 2020 Jul;32(7):1195-1198)。
【0007】
キクラゲは、前述した通り、食品の中でも、比較的多くのビタミンDを含有するものであることが知られており、食材として生食あるいは乾燥品の状態で使用されている。しかしながら、生食、乾燥品のいずれも固形であるため、相応な咀嚼(そしゃく)が必要とされ、ビタミンDの摂取が特に必要とされる高齢者、幼児の場合は、咀嚼する力の不足、嚥下の機能の不足の多恵に、キクラゲは食材としては不適だった。このため、ビタミンDを中心とした栄養素を損なわず、広範な料理に活用でき、かつ咀嚼も必要としない加工食材の開発が希求されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本食品標準成分表2015年版(七訂)
【非特許文献2】骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編集、日本骨粗鬆症学会、日本骨代謝学会、骨粗鬆症財団)
【非特許文献3】オレオサイエンス(第14巻第12号(2014) 総説、531-537
【非特許文献4】Aging Clin Exp Res. 2020 Jul;32(7):1195-1198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ビタミンDを中心とした栄養素を損なわず、広範な料理に活用でき、かつ咀嚼も必要としない、キクラゲを原料とする食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ビタミンDの含量を高く保った状態でレトルト処理したキクラゲを含む食品を提供することで、上記課題を解決することができることを示した。具体的には、本発明は、細粒化してジェル化したキクラゲをレトルト処理することで、高齢者や幼児でも食用可能であり、かつビタミンDの含量を高く保った状態でレトルト処理したキクラゲを含む食品を提供することで、上記課題を解決することができることを示した。
【0011】
より具体的には、本件出願は、前述した課題を解決するため、以下の態様を提供する:
[1]: 乾燥キクラゲを水戻しし、水切りせずに戻し水とともに破砕してキクラゲを細粒化し、その後F値を4~20とする加圧下高温処理を行う、キクラゲのゲル状食品の製造方法;
[2]: 115℃~135℃にて加圧下高温処理を行う、[1]に記載の製造方法;
[3]: 加圧下高温処理の際の条件が115℃にて10.45分~52.21分、120℃にて4分~20分、125℃にて1.54分~7.67分、130℃にて0.59分(36秒)~2.94分、135℃にて0.23分(14秒)~1.13分(1分8秒)の範囲に含まれる条件から選択される、[1]または[2]に記載の製造方法;
[4]: 加圧下高温処理の際の条件が120℃にて20分である、[3]に記載の製造方法;
[5]: 細粒化の工程を1回行う、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法;
[6]: 食品がレトルト食品の形態である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法;
[7]: ビタミンDを含有する、ゲル状のキクラゲのレトルト食品;
[8]: ビタミンDをレトルト食品100g中7.5μg以上含有する、[7]に記載のレトルト食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によりキクラゲのゲル状食品を製造することにより、高い含有量のビタミンDを含むキクラゲのゲル状食品を提供することができる。このキクラゲのゲル状食品は、加圧下高温処理を行って製造することにより、長期間の保存が可能になるものであり、日常の広範な料理の食材として活用することができる。同時に、ゲル状のキクラゲ食品であることから、咀嚼や嚥下の力が弱い高齢者や幼児に対しても食用可能であり、ビタミンDを容易に摂取することが可能になる。特に、嚥下が機能しづらい状態にあり、ビタミンDの接種が望まれる高齢者に対して、病院食、介護食など医療用補充食材として、使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発明者は、鋭意検討を行った結果、ビタミンDの含量を高く保った状態でレトルト処理したキクラゲを含む食品を提供することで、ビタミンDを中心とした栄養素を損なわず、広範な料理に活用でき、かつ咀嚼も必要としない、キクラゲを原料とする食品を提供することを示した。
【0014】
本発明は一態様において、乾燥キクラゲを水戻しし、水切りせずに戻し水とともに破砕してキクラゲを細粒化し、その後F値が4~20となるように加圧下高温処理を行う、キクラゲのゲル状食品の製造方法を提供する。本発明の製造方法で製造したキクラゲのゲル状食品は、原料である乾燥キクラゲ中に含まれていたビタミンDの含有量を、高く維持した状態でキクラゲのゲル状食品として提供することができる。
【0015】
従来の加圧下高温処理による食品の製造方法では、一般的には、原料を洗浄し、調理した後、パッケージに詰込・注液し、これを脱気・密封してから、加圧下高温処理により殺菌(レトルト殺菌)することにより製造していた。キクラゲを原料として、従来方法の加圧下高温処理による食品の製造方法によりキクラゲ食品を製造したところ、最終製品のキクラゲ食品中のビタミンDが著しく失われていることが明らかになった。
【0016】
これに対して、本発明の発明者は、乾燥キクラゲを上記の加圧下高温処理によるキクラゲのゲル状食品の製造方法に適用する場合に、ビタミンDが脂溶性ビタミンであるにもかかわらず、乾燥キクラゲを水戻しした際に戻し水中に乾燥キクラゲに含まれていたビタミンDが多く流出していることを見出した。この知見に基づいて、本発明の一つの特徴的工程として、乾燥キクラゲを水戻しした際に、キクラゲを水切りせずに戻し水とともにその後の調理の工程において使用することとした。この工程を採用することにより、水戻しの工程でキクラゲから流出し、廃棄されていたビタミンDを食品中に残存させることができる。
【0017】
したがって、本発明のキクラゲのゲル状食品の製造方法は、乾燥キクラゲを水戻しし、水切りせずに戻し水と共に粉砕してキクラゲを細粒化する工程を行うことを特徴とする。この細粒化の工程は、回数を繰り返すごとに栄養価が失われるリスクが増えることから、できるだけ回数を少なく細粒化することが好ましい。本発明においては、細粒化の工程は1回行うことを特徴としている。
【0018】
本発明の発明者は、さらに、本発明のキクラゲのゲル状食品を製造する際の加圧下高温処理において、ビタミンDが比較的高温高圧条件に比較的耐性があるとはいうものの、加圧下高温処理の条件が厳しくなると、キクラゲ食品からビタミンDが喪失していることを見出した。より具体的には、本発明の発明者は、食品衛生法上必要とされる加圧下高温処理条件のF値=4以上という条件を満たしつつ、最大でF値=20以下とすることで、キクラゲのゲル状食品からのビタミンDの喪失を抑制することができることを見出した。この知見に基づいて、本発明の一つの特徴的工程として、F値が4~20となるように加圧下高温処理を行う工程を行うことを特徴とする。この工程を採用することにより、加圧下高温処理の工程で失われていたビタミンDをゲル状食品中に残存させることができる。
【0019】
したがって、本発明のキクラゲのゲル状食品の製造方法は、パッケージに封入したキクラゲを含む食品原料をF値=4~20となる加圧下高温処理を行う工程を行うことを特徴とする。ここで、F値とは、昇温から降温まで全ての加熱工程における殺菌効果を120℃での殺菌効果に換算した値である。厚生労働省は、レトルト殺菌食品の規格基準について、pHが5.5を越え、かつ水分活性が0.94を越える食品をレトルト殺菌する場合、食品の中心温度が120℃、4分間(F値4)以上、または、これと同等以上の効力を有する方法により殺菌することを定めている。F値は、以下の式:
【0020】
【数1】
【0021】
(ここで、tは加熱時間;Zはボツリヌス菌の細菌数を最初の細菌数から1/10にする殺菌時間を1/10にするための温度上昇分;Tは殺菌のために使用する食品の中心温度;を意味する)
の計算式に従って算出することができる。
【0022】
上記の計算式にしたがうと、例えば、F値=4となる条件として、温度115℃にて約10.45分、温度120℃にて4分、温度125℃にて約1.54分、温度130℃にて約0.59分(約36秒)、温度135℃にて約0.23分(約14秒)という条件を下限の条件として選択することができる。F値=20となる上限の条件として、温度115℃にて約52.21分、温度120℃にて20分、温度125℃にて約7.67分、温度130℃にて約2.94分、温度135℃にて約1.13分(約1分8秒)という条件を上限の条件として選択することができる。この下限の条件と上限の条件との間にある温度および時間の条件であれば、どのような条件を使用してもよい。本発明においては、F値=4~20となる加圧下高温処理を行う際、115℃~135℃、好ましくは120℃にて加圧下高温処理を行うことができることを特徴とする。
【0023】
加圧下高温処理を115℃~135℃で行い、F値=4~20となるように条件を設定する場合の加圧下高温処理の加温時間は、以下の通りである。
【0024】
【表1】

【0025】
すなわち、加圧下高温処理の際の温度として
・115℃を選択する場合、約10.45分(F値=4となる加圧下高温処理時間)~約52.21分(F値=20となる加圧下高温処理時間)のあいだで時間を設定することができ、
・120℃を選択する場合、4分(F値=4となる加圧下高温処理時間)~20分(F値=20となる加圧下高温処理時間)のあいだで時間を設定することができ、
・125℃を選択する場合、約1.54分(F値=4となる加圧下高温処理時間)~約7.67分(F値=20となる加圧下高温処理時間)のあいだで時間を設定することができ、
・130℃を選択する場合、約0.59分(約36秒)(F値=4となる加圧下高温処理時間)~約2.94分(F値=20となる加圧下高温処理時間)のあいだで時間を設定することができ、
・135℃を選択する場合、約0.23分(約14秒)(F値=4となる加圧下高温処理時間)~約1.13分(約1分8秒)(F値=20となる加圧下高温処理時間)のあいだで時間を設定することができ、
これらの範囲内に含まれる温度および時間の条件を任意に選択することができる。例えば、限定されるものではないが、実施例における製造例のように、加圧下高温処理の際の温度として120℃とする場合に、20分(F値=20)を選択することができる。
【0026】
本発明のキクラゲ食品の包装形態は、加圧下高温処理に対応できるものであればどのようなものであってもよく、例えば、缶詰、びん詰、レトルト食品を使用することができる。これらの包装形態は、使用用途に応じて選択することができ、例えば喫食時の温め直しの利便性を考慮する場合や輸送時の重量軽減を考慮する場合などにはレトルト食品の形態とすることが好ましい。
【0027】
本発明は別の一態様において、上述したゲル状のキクラゲ食品の製造方法により製造したキクラゲのレトルト食品もまた提供する。本発明の製造方法で製造したゲル状のキクラゲ食品は、原料である乾燥キクラゲ中に含まれていたビタミンDの含有量を、高く維持した状態でゲル状のキクラゲ食品として提供することができる。
【0028】
上述した通り、従来の加圧下高温処理による食品の製造方法では、一般的には、原料を洗浄し、調理した後、パッケージに詰込・注液し、これを脱気・密封してから、加圧下高温処理により殺菌(レトルト殺菌)することにより製造していたところ、従来方法の加圧下高温処理による食品の製造方法によりキクラゲ食品を製造したところ、最終製品のキクラゲ食品中のビタミンDが著しく失われていることが明らかになった。
【0029】
これに対して、本発明の製造方法により製造したキクラゲ食品は、製造工程におけるビタミンDの喪失を抑制できることから、ビタミンDを含有する、キクラゲのレトルト食品であることを特徴としている。本発明において、ビタミンDを含有するという場合、キクラゲのレトルト食品100 g中に、ビタミンDを7.5μg以上、好ましくはビタミンDを7.5μg~20μgの範囲で含有することを意味する。
【0030】
このレトルト食品では、原料のキクラゲを水戻しした後、戻し水とともに細粒化してから加圧下高温処理に供しているが、細粒化の工程を経ることで粘性が高まり、自然由来の増粘材として機能することもできる。その結果、最終製品のキクラゲ食品は、全体としてゲル状になっており、咀嚼や嚥下の力が弱い高齢者や幼児に対しても食用可能であるという特徴も発揮することができる。
【0031】
このことから、本発明のキクラゲのレトルト食品は、咀嚼や嚥下の力が弱い高齢者や幼児でもビタミンDを容易に摂取することが可能になるという利点を有する。特に、嚥下が機能しづらい状態にあり、かつ骨代謝の観点からビタミンDの接種が望まれる高齢者に対して、病院食、介護食など医療用補充食材として、使用することができる。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示す。下記に示す実施例はいかなる方法によっても本発明を限定するものではない。
【実施例0033】
実施例1:キクラゲを原材料とするレトルト食品の製造例
本実施例においては、キクラゲに含まれるビタミンDを喪失しないキクラゲを原材料とするレトルト食品の製造を目指して製造試験を行った。
【0034】
原材料としてのキクラゲは、株式会社ハルカインターナショナルが栽培し、乾燥加工したキクラゲ(アラゲキクラゲ)100 gを使用する。この原材料キクラゲを1000 mlの水を使って、24時間かけて水戻しした。その後、水戻ししたキクラゲを戻し水とともに、ミキサーeDLC-N10J2PS、Cuisinart製)の中に入れて、1500~1800回転で20秒程度の細粒化作業を行った。
【0035】
細粒化したキクラゲ400 gを、レトルトパウチ用の袋に全量を入れて加圧高温処理機器(温水式レトルト殺菌機、日阪製作所製)で、120℃にて20分間、加圧高温処理を行った。レトルト処理を終了した後、細粒化キクラゲを含むレトルトパウチを室温に戻して保存した。
【0036】
上記の製造条件で2回のレトルト食品製造を行い、キクラゲを含むゲル状の食品が製造できた。その後、それぞれのレトルト食品検体の内容物中のビタミンD量を測定した(一般財団法人日本食品分析センター)。
【0037】
2検体についての各分析試験の結果、検体1のレトルト食品では、100μg中7.5μgのビタミンD、そして検体2のレトルト食品では、17.6μgのビタミンDが、それぞれ含有することが確認された。
【0038】
比較例1:キクラゲを原材料とするレトルト食品の比較例
本実施例においては、キクラゲを原材料とするレトルト食品の比較製造試験を行った。
【0039】
原材料としてのキクラゲは、株式会社ハルカインターナショナルが栽培し、乾燥加工したキクラゲ(アラゲキクラゲ)100 gを使用する。この原材料キクラゲを1000 mlの水を使って、24時間かけて水戻しした。その後、水戻ししたキクラゲから戻し水を分離し、取り出したキクラゲに対して新たに水を加えて1100 gとし、これをミキサー(DLC-N10J2PS、Cuisinart製)の中に入れて、1500~1800回転で20秒程度の細粒化作業を行った。
【0040】
細粒化したキクラゲ400 gを、レトルトパウチ用の袋に全量を入れて加圧高温処理機器(温水式レトルト殺菌機、日阪製作所製)で、120℃にて20分間、加圧高温処理を行った。レトルト処理を終了した後、細粒化キクラゲを含むレトルトパウチを室温に戻して保存した。
【0041】
上記の製造条件でレトルト食品製造を行い、キクラゲを含むゲル状の食品が製造できた。その後、そのレトルト食品検体の内容物中のビタミンD量を測定した(一般財団法人日本食品分析センター)。
【0042】
検体の分析試験の結果、本比較例の条件で製造したレトルト食品では、ビタミンDを含有しないことが確認された。
【0043】
比較例2:キクラゲを原材料とするレトルト食品の比較例
本実施例においては、キクラゲを原材料とするレトルト食品の比較製造試験を行った。
【0044】
原材料としてのキクラゲは、株式会社ハルカインターナショナルが栽培し、乾燥加工したキクラゲ(アラゲキクラゲ)100 gを使用する。この原材料キクラゲを1000 mlの水を使って、24時間かけて水戻しした。その後、水戻ししたキクラゲを戻し水とともに、ミキサー(DLC-N10J2PS、Cuisinart製)の中に入れて、1500~1800回転で20秒程度の細粒化作業を行った。
【0045】
細粒化したキクラゲ400 gを、レトルトパウチ用の袋に全量を入れて加圧高温処理機器(温水式レトルト殺菌機、日阪製作所製)で、120℃にて30分間、加圧高温処理を行った。レトルト処理を終了した後、細粒化キクラゲを含むレトルトパウチを室温に戻して保存した。
【0046】
上記の製造条件でレトルト食品製造を行い、キクラゲを含むゲル状の食品が製造できた。その後、そのレトルト食品検体の内容物中のビタミンD量を測定した(一般財団法人日本食品分析センター)。
【0047】
検体の分析試験の結果、本比較例の条件で製造したレトルト食品では、ビタミンDを含有しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の方法によりゲル状のキクラゲ食品を製造することにより、高い含有量のビタミンDを含むゲル状のキクラゲ食品を提供することができる。このキクラゲ食品は、加圧下高温処理を行って製造することにより、長期間の保存が可能になるものであり、日常の広範な料理の食材として活用することができる。同時に、ゲル状のキクラゲ食品であることから、咀嚼や嚥下の力が弱い高齢者や幼児に対しても食用可能であり、ビタミンDを容易に摂取することが可能になる。特に、嚥下が機能しづらい状態にあり、ビタミンDの接種が望まれる高齢者に対して、病院食、介護食など医療用補充食材として、使用することができる。