(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121920
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20220815BHJP
【FI】
H01L21/52 D
H01L21/52 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018910
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】乙川 光平
(72)【発明者】
【氏名】片瀬 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】岩田 広太郎
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047AA14
5F047AA17
5F047AB08
5F047BA15
5F047BA34
5F047BA53
(57)【要約】
【課題】第1部材と第2部材とを銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物を介して接合する際にボイドの発生を防止し、接合性を向上する。
【解決手段】第1部材と第2部材とを銀粒子焼結層により接合してなる接合体を製造する方法であって、第1部材の表面に、銀粒子及び有機成分を含有してペースト状をなす接合用組成物を塗布する塗布工程と、塗布した接合用組成物に第2部材を載置して押し付ける載置工程と、第2部材が載置された接合用組成物を加熱して乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の接合用組成物を乾燥工程時の温度より高温に加熱して焼結させることにより銀粒子焼結層を形成し、該銀粒子焼結層により第1部材と第2部材とを接合する接合工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とを銀粒子焼結層により接合してなる接合体を製造する方法であって、前記第1部材の表面に、銀粒子及び有機成分を含有してペースト状をなす接合用組成物を塗布する塗布工程と、塗布した前記接合用組成物に前記第2部材を載置して押し付ける載置工程と、前記第2部材が載置された前記接合用組成物を加熱して乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の前記接合用組成物を前記乾燥工程時の温度より高温に加熱して焼結させることにより前記銀粒子焼結層を形成し、該銀粒子焼結層により前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合工程と、を有することを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程及び前記接合工程は、前記第2部材を無加圧状態で加熱することを特徴とする請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記接合工程は酸素濃度が1000ppm以下の低酸素雰囲気で加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第1部材の表面が銅又は銅合金からなり、前記第2部材が半導体素子であることを特徴とする請求項3に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子等の第1部材と絶縁回路基板の回路層等の第2部材とを接合して半導体装置等の接合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体素子を絶縁回路基板の回路層やリードフレーム等の導電部材に接着・固定するために、銀粉末、熱硬化性樹脂、及び溶剤を含むペースト状の接合用組成物(銀ペースト)が用いられている。
例えば、特許文献1には、第1部材、第2部材のいずれか又は両方に銀ペーストを塗布して銀ペースト層を形成する工程と、第1部材と第2部材とを銀ペースト層を介して積層して積層体を作製する工程と、積層体を加熱することにより銀ペースト層中の銀粒子を焼結させて接合層を形成させ、第1部材と第2部材とを接合層を介して接合された接合体を作製する工程とを含む接合体の製造方法が開示されている。この場合、銀ペースト層の焼結は、120℃~280℃の加熱温度に10分間~240分間保持することにより行われると記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、第一の接合体に銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物を塗布する工程(1)と、塗布した接合用組成物を加熱乾燥する工程(2)と、加熱乾燥された接合用組成物に第二の被接合体を押し付ける工程(3)と、接合用組成物を加熱して焼結させ、銀粒子焼結層を形成する工程(4)とを含む金属接合積層体の製造方法が開示されている。この場合、工程(2)における加熱乾燥は、接合用組成物中の有機成分の含有量を少なくし過ぎると、第二の被接合体が接合用組成物と充分に密着せずに、接合不良を引き起こしてしまうので、25℃以上100℃以下の温度で接合用組成物中の有機成分の含有量が4質量%以上6質量%以下となるように行うと記載されている。工程(4)における加熱温度は200~300℃と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2020/004342号
【特許文献2】特許第6467114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、第1部材と第2部材とを接合用組成物を介して積層した後、接合用組成物を焼結させる際に、接合用組成物に含まれる溶媒が第1部材と第2部材との間から抜けきれずに残るおそれがあり、接合部にボイド(空隙)が発生する原因となりやすい。
特許文献2記載の製造方法では、工程(2)において乾燥後の接合用組成物中の有機成分を4質量%以上6質量%以下の狭い範囲に制御する必要があり、同一基板上であっても局部的にボイドが生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、第1部材と第2部材とを銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物を介して接合する際にボイドの発生を防止し、接合性を向上できる接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の接合体の製造方法は、第1部材と第2部材とを銀粒子焼結層により接合してなる接合体を製造する方法であって、前記第1部材の表面に、銀粒子及び有機成分を含有してペースト状をなす接合用組成物を塗布する塗布工程と、塗布した前記接合用組成物に前記第2部材を載置して押し付ける載置工程と、前記第2部材が載置された前記接合用組成物を加熱して乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の前記接合用組成物を前記乾燥工程時の温度より高温に加熱して焼結させることにより前記銀粒子焼結層を形成し、該銀粒子焼結層により前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合工程と、を有する。
【0008】
第1部材に塗布したペースト状の接合用組成物を焼結させる前に乾燥工程により乾燥させているので、有機成分等を予め揮発させることができ、その後の接合工程により形成される銀粒子焼結層内にボイドが発生することを抑制することができる。また、接合用組成物を乾燥させる前のペースト状のときに第2部材を載置し押圧しているので、第2部材を接合用組成物に正確な配置で確実に密着させることができる。
【0009】
本発明の接合体の製造方法において、前記乾燥工程及び前記接合工程は、前記第2部材を無加圧状態で加熱するとよい。
【0010】
載置工程において第1部材上の接合用組成物に第2部材を押し付けて密着させているので、乾燥工程及び接合工程で無加圧状態とすることができ、第2部材が半導体素子等の脆性材料を主体としている場合に、これを加圧しないので、その破損の発生等を抑制できる。
無加圧状態とは、第1部材に接合用組成物を介して配置された第2部材をこれらの積層方向に積極的に加圧しないことを意味しており、例えば、第2部材の自重や、第2部材の位置ずれ防止具等を第2部材上に配置することにより、第2部材にわずかな荷重が作用することまでを除外するものではない。
【0011】
本発明の接合体の製造方法において、前記接合工程は酸素濃度が1000ppm以下の低酸素雰囲気で加熱するとよい。
【0012】
接合工程は接合用組成物を焼結するまで高温に加熱されるため、第1部材及び第2部材が高温時に酸化され易い材料からなる場合に、その酸化を防止することができる。
この場合、前記第1部材は、その少なくとも接合面が銅又は銅合金からなるものとすることができる。銅は酸化により変色が生じ易いが、低酸素雰囲気中で加熱されることにより、その酸化が抑制される。
例えば、銅又は銅合金からなる回路層を有する絶縁回路基板と半導体措置とを接合する場合に有効に適用することができる。半導体素子の接合面には、一般に、金、銀、銅のいずれかのメタライズ層が形成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1部材と第2部材とを銀粒子焼結層を介して接合する際にボイドの発生を防止し、接合性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャート図である。
【
図2】
図1に示す半導体装置の製造方法により製造された半導体装置の断面図である。
【
図3】
図1に示す半導体装置の製造方法における塗布工程後の状態を示す断面図である。
【
図4】
図1に示す半導体装置の製造方法における載置工程を説明する模式図である。
【
図5】
図1に示す半導体装置の製造方法における乾燥工程を示す模式図である。
【
図6】
図1に示す半導体装置の製造方法における接合工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
この実施形態では、第1部材としての絶縁回路基板10の回路層(導電部材)11と、第2部材としての半導体素子20とを銀粒子焼結層30により接合して半導体装置40を製造する方法を説明する。この半導体装置40は、例えば、パワーモジュールやLEDモジュールとして用いられる。
【0016】
[絶縁回路基板の構成]
絶縁回路基板10は、例えば、セラミックス回路基板やプリント回路基板等により構成される。この絶縁回路基板10は、
図2に示すように、絶縁基板12の上面に銅又は銅合金からなる回路層(導電部材)11が一体に形成されており、回路層11の上面(絶縁基板12とは反対側の面)が半導体素子20が接合されるべき接合面11aとされる。この接合面12aには、金、銀からなるめっき膜が形成されていてもよい。
絶縁回路基板10がリードフレーム基板である場合、回路層11は、絶縁基板12に支持されたリードフレームであり、そのリードフレームに半導体素子20が接合される。
【0017】
[半導体素子の構成]
半導体素子20は、
図2に示すように、表面及び裏面が相互に平行な矩形板状に形成され、その厚さは限定されるものではないが、100μm以上1mm以下とされている。この半導体素子20において、回路層11との接合面(裏面)には、スパッタ等により金、銀又は銅のいずれかからなるメタライズ層21が形成されている(
図4参照)。
【0018】
[銀粒子焼結層の構成]
銀粒子焼結層30は、絶縁回路基板10の回路層11と半導体素子20とを接合するものであり、ペースト状の接合用組成物31を加熱して焼結することにより形成される。
接合用組成物31は、銀粉末と脂肪酸銀と脂肪族アミンと溶媒とを含む。脂肪酸アミン、溶媒等により有機成分を含有する。
以下、各成分について、詳述する。
【0019】
(銀粉末)
本実施形態の銀粉末は、特に限定されず、市販の銀粉末を使用することができる。好ましくは、互いに粒径が異なる第1銀粒子(第1群の銀粒子)、第2銀粒子(第2群の銀粒子)、及び第3銀粒子(第3群の銀粒子)を含むことが好ましい。これら第1~第3銀粒子はいずれも一次粒子として互いに凝集し、凝集体(銀粉末)を形成している。第1銀粒子は、粒径が100nm以上500nm未満であることが好ましく、第1~第3銀粒子の合計量を100体積%とするとき、55体積%以上95体積%以下の範囲で含むことが好ましい。また、第2銀粒子は、粒径が50nm以上100nm未満であることが好ましく、第1~第3銀粒子の合計量を100体積%とするとき、5体積%以上40体積%以下の範囲で含むことが好ましい。更に、第3銀粒子は、粒径が50nm未満であることが好ましく、第1~第3銀粒子の合計量を100体積%とするとき、5体積%以下の範囲で含むことが好ましい。なお、ここでの「体積」は銀粒子そのものの体積を示す。ここで、第1~第3銀粒子の含有割合をそれぞれ前記範囲に限定したのは、比較的広い粒度分布を有することによって、焼結の際に、第1~第3銀粒子同士の隙間が小さく緻密な凝集体になることにより、ボイドの少ない接合層を作り易くなるからである。なお、第1~第3銀粒子中の銀の純度は、90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。これは、第1~第3銀粒子の純度が高い方が溶融し易くなるので、第1~第3銀粒子を比較的低温で焼結させることができるからである。第1~第3銀粒子中の銀以外の元素としては、Au、Cu、Pdなどを含んでもよい。
【0020】
また、粒径が100nm以上500nm未満である第1銀粒子は70体積%以上90体積%以下の範囲で含むことが好ましく、粒径が50nm以上100nm未満である第2銀粒子は10体積%以上30体積%以下の範囲で含むことが好ましく、粒径が50nm未満である第3銀粒子は1体積%以下の範囲で含むことが好ましい。第1~第3銀粒子の粒度分布が前記範囲内にあることによって、焼結の際に、第1~第3銀粒子同士の隙間の小さい緻密な銀粉末の凝集体を形成できる効果が高くなり、更にボイドの少ない接合層を作製し易くなる。
【0021】
銀粉末は、カルボン酸塩水溶液中のカルボン酸或いはその分解物からなる有機物を含むことが好ましく、この有機物は、150℃の温度で分解若しくは揮発するものであることが好ましい。このような銀粉末は、例えば、銀塩水溶液とカルボン酸塩水溶液を水中に同時に滴下して調製したカルボン酸銀スラリーに有機還元剤を添加し、加熱処理した後、乾燥することにより得られる。カルボン酸塩水溶液中のカルボン酸の例としては、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸及びこれらの塩類等が挙げられる。この銀粉末中の有機物の含有割合は、第1~第3銀粒子の合計量を100質量%とするとき、2質量%以下とすることが好ましい。
【0022】
(脂肪酸銀)
本実施形態の脂肪酸銀としては、酢酸銀、シュウ酸銀、プロピオン酸銀、ミリスチン酸銀、酪酸銀等が挙げられる。
【0023】
(脂肪族アミン)
本実施形態の脂肪族アミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等が挙げられる。脂肪族アミンの炭素数は好ましくは8~12とすることが望ましい。上記炭素数が小さすぎると脂肪族アミンの沸点が低い傾向があるので、接合用組成物の印刷性が低下するおそれがある。上記炭素数が大きすぎると接合用組成物中の銀粒子の焼結を妨げ、十分な強度を有する接合体が得られないおそれがある。具体的な例として、第1級アミンには、エチルヘキシルアミン、アミノデカン、ドデシルアミン、ノニルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン等があり、第2級アミンには、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジオクチルアミン等があり、第3級アミンには、トリメチルアミン、トリエチルアミン等がある。
【0024】
ここで、接合用組成物において、脂肪酸銀に対する脂肪族アミンのモル比、即ち、脂肪族アミンのモル量/脂肪酸銀のモル量は、1.5~3の範囲内にあることが好ましい。
【0025】
(溶媒)
本実施形態の溶媒は、1価アルコールと誘電率が30以上の高誘電率アルコールを含むアルコール系溶媒である。アルコール系溶媒以外に、水、アセテート系溶媒、炭化水素系溶媒、及びそれらの混合物等を含んでもよい。
【0026】
・1価アルコール
1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール等の他に、脂肪族飽和1価アルコール、脂肪族不飽和アルコール、脂環式アルコール及び芳香族アルコールが挙げられる。
【0027】
・誘電率が30以上の高誘電率アルコール
誘電率が30以上の高誘電率アルコール(以下、単に高誘電率アルコールという。)としては、ジエチレングリコール(誘電率:34)、プロピレングリコール(誘電率:32)、1,3-プロパンジオール(誘電率:36)、1,2,4-ブタントリオール(誘電率:38)、ポリエチレングリコール(誘電率:30以上)、グリセリン(誘電率:44)等が挙げられる。これらの高誘電率アルコールは1種類で用いても、2種類以上混合して用いてもよい。
【0028】
・その他の溶媒
アセテート系溶媒には、ブチルカルビトールアセテート等があり、炭化水素系溶媒としては、デカン、ドデカン、テトラデカン、及びそれらの混合物等がある。
【0029】
(樹脂)
接合用組成物は、更に樹脂を含んでもよい。樹脂としては、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、及びそれらの混合物等が挙げられる。
【0030】
また、接合用組成物は、粘度が90Pa・s以上250Pa・s以下、チキソトロピーインデックスが0.83以上0.88以下とされている。より好ましくは、粘度が120Pa・s以上200Pa・s以下、チキソトロピーインデックスが0.84以上0.86以下であるとよい。なお、上記粘度及びチキソトロピーインデックスの各値は、25℃における値である。
【0031】
[半導体装置40の製造方法]
このような半導体装置40は、絶縁基板12の上に回路層11を形成してなる絶縁回路基板10を用意し、
図1のフローチャートに示すように、回路層11にペースト状の接合用組成物31を塗布する塗布工程と、塗布された接合用組成物31上に半導体素子20を対向させて載置し、半導体素子20を回路層11に向けて押圧する載置工程と、載置工程後に接合用組成物31を加熱して乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の接合用組成物31をさらに高温で加熱して焼結させ、銀粒子焼結層30を形成することにより、絶縁回路基板10の回路層11に半導体素子20を接合する接合工程と、を備えている。以下、各工程順に説明する。
【0032】
(塗布工程:S11)
まず、
図3に示すように、絶縁回路基板10の回路層11にペースト状の接合用組成物31を塗布する。接合用組成物31の塗布厚さは特に限定されないが、例えば30μm以上140μm以下とする。塗布領域は、半導体素子20のメタライズ層21の面積と略同じ面積又はそれより若干大きい面積で同じ形状又は相似形に設定される。
なお、この接合用組成物31の塗布は、メタルマスク法やスクリーン印刷法等が一般的であるが、これに限らず、ディスペンサ等による吐出供給でもよい。
【0033】
(載置工程:S12)
図4に示すように、半導体素子20の上面をコレット等の保持治具50により保持して、裏面(メタライズ層21の表面)を回路層11上の接合用組成物31に対向配置し、この接合用組成物31上に半導体素子20を載置して押圧する。具体的には、半導体素子20は上面が保持治具50により保持されているので、保持治具50により接合用組成物31上に載置する際に、そのまま半導体素子20を垂直方向に押圧する。
【0034】
この場合、半導体素子20と回路層11との間に良好な接合状態を得るために、0.01MPa以上の圧力で半導体素子20を回路層11に向けて押圧するとよい。圧力が小さすぎると、半導体素子20の接合面(メタライズ層21の表面)を回路層11の接合面11aに対して平行にできず、加熱時にボイドが発生するおそれがある。圧力の上限は、特に限定されないが、0.1MPa以下とすることが好ましい。0.1MPaを超える場合、半導体素子20と回路層11との間から接合用組成物31が外側に押し出されることで、半導体素子20と回路層11との間の接合用組成物31の量が少なくなり、接合不良となるおそれがある。なお、上記圧力は、0.02MPa以上0.07MPa以下であることがより好ましい。
【0035】
また、半導体素子20と回路層11とを確実に接合するために、保持治具50の押圧面50aは平坦面であり、押圧方向から視たときに、半導体素子20に対する保持治具50の押圧面50aが、半導体素子20の接合面(メタライズ層21の表面)に少なくとも70%の範囲で重なっているとよい。
この載置工程により形成される積層体(絶縁回路基板10の回路層11にペースト状の接合用組成物31を介して半導体素子20が載置された状態のもの)を符号61により示す。
【0036】
この載置工程では、ペースト状の接合用組成物31に半導体素子20を載置し保持治具50の平坦な押圧面50aで押圧しているので、半導体素子20を接合用組成物31に回路層11と平行にかつ正確な配置で確実に密着させることができる。
【0037】
(乾燥工程:S13)
載置工程後の積層体61の半導体素子20上から保持治具50を退避させ、この積層体61を無加圧状態で加熱して、ペースト状の接合用組成物31を乾燥する。この乾燥工程は、
図5に示すように、積層体61をコンベア71により搬送しながら、連続加熱炉70に通して加熱することにより実行するとよい。加熱温度は、回路層11の銅に酸化が生じにくい150℃以下とされる。連続加熱炉70内の雰囲気は大気でもよいが、窒素雰囲気や低酸素雰囲気でもよい。1000ppm以下の低酸素雰囲気でもよい。加熱温度での保持時間は特に限定されないが、好ましくは5分以上120分以下、さらに好ましくは5分以上60分以下がよい。加熱温度の下限は50℃とするのが適切である。
【0038】
この乾燥工程により、ペースト状の接合用組成物31は、溶媒や有機成分が揮発することで乾燥して固化する(これを乾燥した接合用組成物32とする)。半導体素子20は、載置工程でペースト状の接合用組成物31に押圧されていたので、乾燥した接合用組成物32に半導体素子20のメタライズ層21の全面が密着した状態に保持される。この乾燥した接合用組成物32により保持される積層体を符号62により示す。
【0039】
なお、無加圧状態とは、絶縁回路基板10上の半導体素子20をこれらの積層方向に積極的に加圧しないことを意味しており、例えば、半導体素子20の自重や、半導体素子20の位置ずれ防止具等を絶縁回路基板10上に配置することにより、半導体素子20にわずかな荷重(例えば、0.2mN以下の荷重)が作用することまでを除外するものではない。
【0040】
(接合工程:S14)
乾燥工程後の積層体62をバッチ式加熱炉80に投入し、150℃を超え300℃以下の温度に加熱して接合用組成物32を焼結し、銀粒子焼結層30を形成する。この場合も積層体62は無加圧状態とされる。加熱炉80内は窒素雰囲気、又は酸素濃度が1000ppm以下の低酸素雰囲気とされる。
加熱時間としては、加熱のピーク温度に10分以上240分以下に保持するのが好ましい。
【0041】
この接合により、接合用組成物62に含まれる銀粉末と脂肪酸銀と脂肪族アミンが反応して形成される錯体の銀が、高誘電率アルコールにより、還元されて銀ナノ粒子になる。銀粉末(第1銀粒子と第2銀粒子と第3銀粒子)をこの銀ナノ粒子とともに、焼結させて銀粒子焼結層30を形成させ、
図2に示すように、回路層11に半導体素子20がこの銀粒子焼結層30を介して接合された半導体装置40が作製される。なお、この接合工程においても、乾燥工程と同様、積層体62は無加圧状態に維持される。
【0042】
このような工程により製造される半導体装置40は、ペースト状の接合用組成物31を焼結させる前に乾燥工程により乾燥させるので、有機分等を予め揮発させることができ、その後の接合工程により形成される銀粒子焼結層30内にボイドが発生することを抑制することができ、良好な接合状態を得ることができる。
この場合、特許文献乾2のように乾燥させた接合用組成物に半導体素子を載置して押圧するのではなく、ペースト状の接合用組成物31に半導体素子20を載置して押圧し、その後の乾燥工程及び接合工程では無加圧状態としており、半導体素子の破損の発生等を抑制できる。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
実施形態では、第1部材としての絶縁回路基板の回路層を銅又は銅合金からなるものとしたが、このような回路層としては、銅又は銅合金からなるめっき層を表面に有する構成としてもよく、少なくとも表面が銅又は銅合金からなるものであればよい。
また、銅又は銅合金からなる回路層以外にも、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる回路層を第1部材とするものにも本発明を適用できる。さらに、絶縁回路基板の回路層だけでなく、リードフレーム等の導電部材を第1部材として適用することができる。第2部材も半導体素子以外に、表面実装型の各種電子部品に適用することができる。
また、乾燥工程を連続加熱炉、接合工程をバッチ式加熱炉を用いて行ったが、乾燥工程をバッチ式加熱炉を用いて行ってもよいし、接合工程も、回路層の酸化の影響がない場合等には連続加熱炉を用いて大気雰囲気等内で行ってもよい。
【実施例0044】
窒化珪素(Si3N4)からなるセラミックス基板の表面に銅からなる回路層(第1部材)を形成した絶縁回路基板と、端面に金のメタライズ層を形成したSiC又はSiからなる半導体素子(第2部材)とを用意した。この半導体素子は正方形板状とし、その厚さ、1辺のサイズは表1の通りとした。絶縁回路基板の1個の回路層の上に、同じ大きさの半導体素子を4個ずつ並べて接合した。
【0045】
また、粒径100nm以上500nm未満の第1銀粒子、粒径50nm以上100nm未満の第2銀粒子、粒径50nm未満の第3銀粒子が、体積%で、80:17.5:2.5の比率で含有する銀粉末を用意した。この銀粉末の有機物含有率は0.2体積%であった。一方、脂肪酸銀として酢酸銀を22.0質量%、脂肪族アミンとしてアミノデカンを41.3質量%、溶媒としてブチルカルビトールアセテートを36.7質量%含有する混合溶液を用意し、この混合溶液(24.00質量%)と銀粉末(75.00質量%)と高誘電率アルコールとしての1,2,4-ブタントリオール(D1)(1.00質量%)を混合した後、撹拌及び混練し、ペースト状の接合用組成物を得た。
【0046】
そして、この接合用組成物をセラミックス基板の回路層上に塗布し、塗布された接合用組成物の上に半導体素子を配置して、載置工程、乾燥工程、接合工程を経て、接合した。乾燥工程の雰囲気、昇温速度、保持温度、時間、及び接合工程の雰囲気、酸素濃度、昇温速度、保持温度、時間は表1の通りとした。
比較例として、載置工程後に乾燥工程を設けずに焼結させたもの(比較例7)、セラミックス基板の銅層に塗布した接合用組成物を乾燥させた後に半導体素子を積載して焼結させたもの(比較例8~10)、も作製した。
【0047】
このようにして作製された各試料について、接合性の評価を行った。
接合性の評価は、せん断強度評価試験機を用いて接合強度を測定し、また、超音波探傷装置を用いて接合面を観察することにより行った。
接合強度の測定は、絶縁回路基板を水平に固定し、銀粒子接合層の表面(上面)から50μm上方の位置でシェアツールにより、半導体素子を横から水平方向に押して、半導体素子が破断されたときの強度を測定することによって行った。シェアツールの移動速度は0.1mm/秒とした。1条件に付き4回強度試験を行い、それらの算術平均値を接合強度の測定値とした。
接合面の観察は、超音波探傷装置(SAT装置、日立ハイテック社製FineSAT)の反射モード(プローブ周波数:110MHz)で半導体素子側から銀粒子接合層を観察した。接合面にボイドが生じていると、観察画像においてボイドが白色で表示される。
【0048】
これらの結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示すように、実施例1~6は、いずれも接合強度が高く、剥離やボイドも認められず、良好な接合状態を得ることができた。
図7は試料2の接合面の超音波探傷画像であり、4個の半導体素子のいずれもが全面で接合されており、ボイドは認められない。
なお、実施例5及び実施例6は接合性には問題なかったが、接合工程時の雰囲気が実施例5では酸素濃度5000ppm、実施例6では大気雰囲気であったため、絶縁回路基板の回路層の露出面で銅の酸化が認められた。
これら実施例に対して、比較例7は、特許文献1と同様、乾燥工程を設けることなく焼結したために、剥離が生じた。比較例8~10は、特許文献2と同様に、ペースト状の接合用組成物を乾燥させた後に、半導体素子を載置したため、接合されずに剥離が認められ(比較例8,10)、あるいは、接合されたがボイドが生じていて接合強度も低かった。
図8は比較例9の接合面の超音波探傷画像であり、一部の銀粒子焼結層にボイドが認められる。