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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121929
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】磁歪式センサ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20220815BHJP
   H01L 41/12 20060101ALI20220815BHJP
   H01L 41/47 20130101ALI20220815BHJP
【FI】
G01L3/10 301D
H01L41/12
H01L41/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018926
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】古平 健幸
(72)【発明者】
【氏名】網谷 健児
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、高いセンサ感度を有し、容易に作ることができる磁歪式センサを提供すること、さらに加えてヒステリシスが少ない磁歪式センサを提供すること。
【解決手段】溶射により部材上に形成され、熱処理されている磁歪部110を有する磁歪式センサであって、磁歪式センサは、熱処理によりセンサ感度が増加している。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射により部材上に形成され、所定の残留応力を有する熱処理された磁歪部(110)を有する磁歪式センサであって、
前記磁歪部(110)が、前記熱処理されたことにより入力トルクに対するセンサ出力が増加している、磁歪式センサ。
【請求項2】
前記磁歪部(110)は、前記熱処理によりヒステリシスが低減されている、請求項1に記載の磁歪式センサ。
【請求項3】
前記溶射は、ガラス転移温度以下で行われる、請求項1又は2に記載の磁歪式センサ。
【請求項4】
溶射により部材上に磁歪膜を形成する工程と、
前記磁歪膜を熱処理して残留応力を調整する工程と、を備える磁歪式センサの製造方法であって、
前記磁歪部(110)は、前記熱処理により入力トルクに対するセンサ出力が増加している、磁歪式センサの製造方法。
【請求項5】
前記磁歪部(110)は、熱処理によりヒステリシスが低減されている、請求項4に記載の磁歪式センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクを検出する磁歪式センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャフトに作用するトルクを検出するセンサが用いられている。特許文献1に記載された発明では、アモルファス磁性薄帯をシャフトに巻いて固定し、トルク変動に伴う回転軸のひずみ応力を、アモルファス磁性薄帯の磁気特性の変化を検出することによりトルクを測定している。また、低コスト、生産性の観点から、上記方法に替え、測定部材表面上に溶射材を溶射することにより形成された磁歪膜を有するセンサも用いられている。トルクセンサは、感度が高く、ヒステリシスが少ない特性であることが望ましい。アモルファスの磁歪膜は磁気等方性という特徴を有していてヒステリシスの減少に好都合であり、また、高透磁率、低ヤング率という特性より感度の面でも好都合なことから、アモルファスの磁歪膜を備えたセンサも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-123078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センサは、微小入力を高い精度で検出するために、高いセンサ感度が望まれている。また、アモルファス磁歪膜は、理論上上記利点があるものの、製造上は磁歪膜を構成する材料分子の部材に残留応力が発生するために、感度の低下やヒステリシスの増大が生じてしまうという短所があった。感度が低い、もしくはヒステリシスが大きいと測定精度が落ちるため、ヒステリシスが少ないセンサが望まれている。加えて、センサは、容易に生産できることが必要である。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、高いセンサ感度を有し、容易に作ることができる磁歪式センサを提供すること、さらに加えてヒステリシスが少ない磁歪式センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る磁歪式センサは、所定の残留応力を有する熱処理された磁歪膜を有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁歪式センサが有する磁歪膜はセンサ感度が増加されている。よって、微小入力に対し高い精度でトルク等の出力を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係るトルクセンサのステータ構造における1個の磁気コアブロックを示す斜視図である。
図2図1の磁気コアブロックの溝内に巻線部を装着した状態を示す磁歪部を示す模式図である。
図3】トルクセンサの作動時の出力信号の説明図である。
図4図1の磁気コアブロックを複数組み合わせ、斜めの磁束を形成するティース端面を上下及び左右対称に配置した模式図である。
図5図1の磁気コアブロックを複数組み合わせ、磁路一体型コアの形態を示す模式図である。
図6図4の模式図の一部の拡大図である。
図7】本発明の実施の形態に係る磁歪式トルクセンサの感度を示す特性図である。
図8】本発明の実施の形態に係る磁歪式トルクセンサのヒステリシスを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る磁歪式センサは、溶射により部材上に形成され、熱処理されている磁歪膜を有する磁歪式センサである。磁歪膜は、金属ガラス材料を溶射して部材上に形成する。形成した磁歪膜に熱処理を加え、残留応力を所望の値に調整することで、熱処理されていない従来のセンサより、感度を増加させことができる。さらに、熱処理を特定の温度範囲とすることにより、感度を増加させるとともに、ヒステリシスを低減させることができる。
【0010】
以下に、本発明の実施の形態に係る磁歪式センサについて説明する。本発明は、部材上に形成され、熱処理された磁歪膜を有する点が発明の要旨であり、その発明の磁歪膜を用いたセンサは、所望の形態で実施できる。以下に、回転するシャフトのトルクを検出する磁歪式センサの実施の形態を説明する。本発明に係る磁歪式センサが備えられたトルクセンサは、回転軸に設けられた磁歪部のビラリ効果を利用し、回転軸を取り囲むステータ構造により歪み検出を行う構成である。ステータ構造は、回転軸と対向するティース端面に傾斜した辺を付け、各辺同士が向かい合うように配置し、軸方向に対して斜め方向に傾いた主磁束を流すことができ、歪みとその方向を磁束の変化として効率よく検出するよう構成されている。図6に、その概略の構造が示されている。ステータ構造10の内周面が対向する回転する軸90の外周面に、磁歪膜が形成され、磁歪部110が設けられている。以下に、ステータ構造10を説明する。
【0011】
図1は、本発明の磁歪式センサの実施の形態に係るトルクセンサのステータ構造における多数の磁気コアブロック10aの中の1個の磁気コアブロックを示すものである。
前記磁気コアブロック10aは、全体が磁性材を、例えば、金属射出成形機で一体に成形したものである。さらに詳しく言えば、基板の役目をなすバックヨーク100に対して一体に、第1ティース端面260a、第2ティース端面260b、及び第3ティース端面260cを形成した構成である。
【0012】
前記各ティース端面260a、260b、及び260c間には、第1溝101及び第2溝102が形成されており、前記各ティース端面260a、260b、260cの表面には、図2で示される軸90の周面91の曲面に対向する曲折面からなる第1辺30a、第2辺30b及び第3辺30cが、軸90の表面からわずかなギャップを介して配設されている。
【0013】
前記各溝101、102には、表面側Pからみてハの字型をなすように、一対の第1、第2巻線部105、106が配設され、第1磁束方向107及び第2磁束方向108が発生するように構成されている。
尚、前記各巻線部105、106は、各溝101、102の配設されていることが図2に示されているが、例えば、他の形態として、図示していないが、各ティース260a、260b、260cの周囲に巻き付けて各溝101、102を通る構成も可能である。
従って、図2の構成により、1個の磁歪部110が形成されている。
【0014】
図3は、図4で示す多数の磁気コアブロック10a、すなわち、磁歪部110を筒状(図5図6)に配設したステータ構造を用いて、前記軸90を回転させた時の第1磁束方向107から得られる第1信号VL1と第2磁束方向108(すなわち、第1磁束方向107と対称)から得られる第2信号VR1が得られ、その差分111が得られる。
尚、従来の状態では、各巻線部105及び106の励磁用コイル214aで励磁し、軸90のねじれを検出用コイル215aで出力信号を得るようにした構成であるが、本実施の形態では、前記軸90の透磁率の変化を利用し、多数の磁歪部110で出力電圧差として取り出す構成である。本実施の形態では、前述の磁歪部110を用いた周知のビラリ効果(Villari Effect)、すなわち、応力の作用下での、磁場中にある強磁性物質内における透磁率の変化を利用している。
【0015】
図4は、一対の磁気コアブロック10aを用い、斜め磁束を形成するティース端面260a、260b、260cの組み合わせによって、上下及び左右対称に配置した構成図で ある。以下に図4の基礎となる図1の動作について説明する。
軸90に付与した磁歪部110のビラリ効果を利用した磁歪式センサ150において、軸90と対向するティース端面260a、260b、260cに傾斜した辺30a、3 0b、30cを付け、完成品としては、その辺同士が向かい合うように配置することにより、軸90の軸方向Eに対して斜め方向(0°より大きく90°より小さい)に傾けた主磁束を流すことができ、歪みとその方向を磁束の変化として、効率よく検出できる。磁束の傾きが45°のとき、効率最大となる。また、ティースとそれを繋ぐ巻線部105、106及びバックヨーク100を一体化させ、連続した磁性体で構成することで、磁気的な損失の少ない効率的なコアとし、一対で製造することで製造誤差を抑える。さらに、同一コアで、複数のティースを用いて軸方向に対して斜め方向(0°より大きく90°より小さい)の磁束を上下又は左右対称に形成することで、歪み方向に対して対称な複数の信号VL1、VR1を得ることができ、図3のように、その差分111をとることで、検出精度を向上させることが出来る。
【0016】
図5の構成は、4個の磁気コアブロック10aを組み合わせた構成を示し、実際には、さらに5個の磁気コアブロック10aを設けて完成品とするが、ここでは4個を組み合わせた場合について述べる。
図4図6に本発明を実施する為の構成の一例を記載する。実施の形態の磁気コアブロックの最小単位を任意のN個とし、その磁気コアブロックを軸周方向に配置する。
本実施の形態では、軸90と対向するティース端面260a、260b、260cの傾斜した辺30a、30b、30c同士を向かい合わせ、図2に示す軸方向Eに対して斜め方向に傾けた主磁束を流すことができ、歪みとその方向を磁束の変化として、効率よく検出できる。また、ティース端面260a、260b、260cとそれを繋ぐ巻線部105、106及びバックヨーク100を一体化させ、連続した磁性体で構成することにより、磁気的な損失の少ない効率的な磁気コアブロックとする。さらに、同一の磁気コアブロックにおいて、上下または左右または上下左右対称な複数のティース端面260a、260b、260cの組み合わせにより、軸方向Eに対して斜め方向の磁束を上下または左右または上下左右対称に形成することで、歪み方向に対して対称な複数の信号VL1、VR1を得ることができ、その差分111をとることで、検出精度を向上させることが出来る。
【0017】
従って、主磁束を磁歪部110の軸方向Eに対して斜め方向に形成することで、検出効率(感度)を向上させることができる。ティース端面260a、260b、260cと巻線部105、106及びバックヨーク100を一体の連続した磁性体で構成することで、磁気的に効率の良い磁気コアブロックをつくり、製造誤差を抑えることができる。
同一の磁気コアブロックにおいて、複数のティース端面260a、260b、260cを組み合わせにより、磁歪部110の軸方向Eに対して斜めの磁束を上下または左右対称に形成することで、歪み方向に対して対称な複数の信号VL1、VR1を取得し、その差分111によって検出精度を向上させることができる。
【0018】
<磁歪膜の製造方法>
本実施の形態の磁歪式センサの磁歪膜の製造方法について説明する。磁歪膜は、部材の表面上に磁歪膜を形成する工程と、形成された磁歪膜を熱処理する工程との2つの工程を備えている。
【0019】
まず、軸90の外周面上に磁歪膜を形成する方法について説明する。磁歪膜を形成するには、公知の溶射法で行う。溶射法では、溶射する材料に何らかのエネルギ源により運動エネルギを付加して溶射材の粒子を高速で飛ばし、測定対象部材上に磁歪膜を直接形成する。具体的には、ガスを燃焼させて熱源として溶射材の粒子を飛ばすフレーム溶射法、アルゴンガスなどのプラズマガスを流しながら高電圧を印加して、プラズマジェットにより溶射材の粒子を飛ばすプラズマ溶射法、高圧ガスを先細末広ノズルに通して超音速流にしたガスにより、溶射材の粒子を飛ばすコールドスプレー法、などが用いられる。何れかの溶射方法により、溶射材の粒子を飛ばし、軸90を回転させながら、過冷却液相状態の粒子を軸90の外周面上に堆積させて溶射被膜を形成する。
【0020】
磁歪膜を形成する材料は、測定対象部材上に磁歪膜を形成できる金属ガラス材料であれば何れのものも用いることができる。例えば、鉄、ニッケル、フェライト、鉄-コバルト系合金、鉄-ニッケル系合金等の金属材料が用いられる。本実施の形態では、溶射材として、鉄-コバルト系合金を主成分とした材料を用いる。溶射材は、粉体、ワイヤ状、等、溶射方法に合わせた形態で用いられる。
【0021】
本実施の形態の磁歪式センサでは、溶射後の熱処理により残留応力の調整を行って所望の状態とする。溶射工程では、溶射材を部材上にアモルファス状態で堆積させる。膜厚は、100μm程度が好ましい。
【0022】
次に、形成された磁歪膜を熱処理する方法について説明する。溶射により部材上に形成された磁歪膜は、所定の残留応力を有している。残留応力があるということは歪がある状態であるということであり、残留応力を低減すれば、センサ出力、すなわちセンサ感度を上げることができると考えられる。熱処理を加えると、センサ感度が変化するとともに、ヒステリシスも変化する。磁歪膜は、熱処理されて残留応力の向き、大きさが調整されることで、所望のセンサ感度とヒステリシスとを実現する。
【0023】
熱処理方法は、公知の方法を選択可能であるが、高周波加熱が好ましい。高周波加熱は、加熱したい部位のみを加熱しやすく、また温度を調整しやすい加熱方法である。本実施の形態では、磁歪部110が形成された軸90を、高周波加熱により熱処理を行う。熱処理は、磁性状態が変化するキュリー点温度以上、かつ結晶化が進行する温度である相変態温度以下の温度範囲で行う。本実施の形態で用いる鉄-コバルト系合金で形成された溶射材では、キュリー点温度は500℃、相変態温度は580℃である。軸90における磁歪膜が形成された部位を、500℃以上580℃以下の範囲の温度に加熱し、残留応力の調整を行う。加熱時間は溶射材の種類と、センサ特性値により5秒間~30秒間程度の範囲で選択する。本実施の形態では、10秒間加熱を行う。熱処理温度、及び熱処理時間は、溶射材の材料と、所望する残留応力とセンサ感度により、適宜決定する。
【0024】
<実施の形態による実験結果>
表1~表2は、形成された磁歪膜を熱処理した実施例と、比較のために行った比較例について、それぞれ感度と、ヒステリシスとを測定した結果を示している。溶射材は、鉄-コバルトを主成分とした溶射材を使った。磁歪膜は、フレーム溶射により軸90の外周面上に、膜厚100μmとなるように形成した。測定は、実施例1~5、及び比較例1の6つの試料について行った。実施例1~5、及び比較例1の磁歪膜は、全て同じ条件で形成されたものであり、磁歪膜形成後の熱処理条件のみ異なっている。
【0025】
各試料の熱処理温度は、実施例1は300℃、実施例2は450℃、実施例3は500℃、実施例4は550℃、実施例5は650℃である。実施例の熱処理は、全て目的温度に達した際に加熱を停止している。また、参考として、実施例1~5と同じように磁歪膜を作製し、熱処理をしていない比較例1も測定した。
【0026】
準備した各試料に予め決められた同一の値のトルク入力を与え、センサ出力をそれぞれ測定した。各試料の、予め決められた同一の値のトルク入力に対するセンサ出力の値、すなわちセンサ感度の測定結果は、次のとおりである。
【0027】
【表1】
【0028】
図7には、表1のセンサ感度測定結果が示されている。センサ感度について、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、及び、実施例5のセンサ感度は、それぞれ0.0770.151(V/Nm)、0.368(V/Nm)、0.358(V/Nm)、及び、0.190(V/Nm)であった。一方、熱処理無しの比較例1のセンサ感度は、0.052(V/Nm)であった。したがって、熱処理をした全ての試料について、センサ感度が増加した。特に、キュリー点温度以上、かつ相変態温度以下の温度で熱処理を行った実施例3、及び実施例4は、熱処理無しに比べて、大幅にセンサ感度が向上した。また、450℃から650℃の温度範囲では、熱処理無しに比べて、明確にセンサ感度が増加したと言える。
【0029】
以上より、何れの温度において熱処理した場合でも、熱処理無しの場合よりセンサ感度は増加した。特に、キュリー点温度以上、かつ相変態温度以下の温度で熱処理した場合は、センサ感度を大幅に向上させることができた。これは、熱処理により磁歪膜の残留応力が除かれたことで、高いセンサ感度が得られたものと考える。なお、鉄-コバルト合金以外の材料を主成分とする溶射材で形成した場合でもキュリー点温度以上、かつ相変態温度以下の温度において熱処理することでセンサ感度を向上できると思われる。鉄-コバルト合金以外の材料を溶射材とした場合は、キュリー点温度、及び相変態温度は、溶射材の材質に応じた値となる。
【0030】
次に、各試料のヒステリシス測定結果は、次のとおりである。
【0031】
【表2】
【0032】
図8には、表2のヒステリシス測定結果が示されている。ヒステリシスについて、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、及び、実施例5のヒステリシスは、それぞれ1.04(F.S.%)、3.51(F.S.%)、2.69(F.S.%)、1.05(F.S.%)、及び、1.25(F.S.%)であった。一方、熱処理無しの比較例1のヒステリシスは、1.11(F.S.%)であった。実施例2、実施例3、及び、実施例5を含む温度域では、熱処理無しである比較例1に比べてヒステリシスは増加したが、実施例1、及び、実施例4を含む、一部の温度域において、ヒステリシスは減少した。図4において、比較例1を通り横軸に平行な直線をAとすると、直線Aより下に位置する範囲が、熱処理無しの場合よりもヒステリシスが低減される磁歪膜が得られる熱処理の温度範囲である。すなわち、550℃以上580℃未満の範囲の温度で熱処理する場合は、熱処理無しである比較例1よりヒステリシスが減少すると考える。
【0033】
以上より、300℃と、550℃以上580℃未満の範囲の温度で熱処理する場合は、熱処理無しの場合よりヒステリシスが減少する。
【0034】
上記の結果より、熱処理を行うと、センサ感度と、ヒステリシスとの両方の特性値が変化する。図7図8から明らかなように、センサ感度が増加する温度範囲と、ヒステリシスが減少する温度範囲とは、同じではない。したがって、センサの熱処理温度条件は、センサ感度と、ヒステリシスとのそれぞれの所望する値の範囲を決定した上で、最適な熱処理条件を決定する。センサ感度の増加を優先する場合、熱処理無しの場合に対し、センサ感度が十分増加する温度範囲は、450℃以上650℃以下である。特に、キュリー点温度以上、かつ相変態温度以下の温度範囲が好ましい。また、センサ感度を増加させるとともに、ヒステリシスをあまり増加させない場合は、熱処理温度範囲は、550℃以上が好ましい。特に、550℃以上、かつ相変態温度(580℃)未満であると、熱処理無しの場合に比べ、センサ感度を十分増加させ、かつヒステリシスも減少できる。
【0035】
本実施の形態における磁歪式センサ150は、所定の残留応力を有する熱処理された磁歪膜を有している。
【0036】
したがって、熱処理されていない磁歪膜を有している場合に比べて、センサ感度を増加させることができる。
【0037】
また、本実施の形態における磁歪式センサ150は、最適な熱処理温度にて熱処理されている磁歪膜を有している。
【0038】
したがって、熱処理されていない磁歪膜を有している場合に比べて、センサ感度の増加に加えて、ヒステリシスを低減させることができる。
【0039】
また、本実施の形態における磁歪式センサ150は、溶射時の熱履歴に依らず、溶射後の熱処理により特性の調整を行っている。
【0040】
したがって、溶射時の軸温度を一定に保ち特性を調整する場合に比べて、溶射時の温度管理が容易である。
【0041】
本実施の形態における磁歪式センサ150の製造方法は、磁歪膜を熱処理して残留応力を調整する工程を備えている。
【0042】
したがって、センサ感度を増加させることができる。
【0043】
本実施の形態における磁歪式センサ150の製造方法は、最適な熱処理温度にて磁歪膜を熱処理して残留応力を調整する工程を備えている。
【0044】
したがって、センサ感度に加えて、ヒステリシスを低減させることができる。
【符号の説明】
【0045】
150 磁歪式センサ、 110 磁歪部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8