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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121981
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】不燃木材
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/02 20060101AFI20220815BHJP
   B27M 3/00 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B27K3/02 C
B27M3/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019006
(22)【出願日】2021-02-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日笠 基
(72)【発明者】
【氏名】宮村 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】川村 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 篤史
【テーマコード(参考)】
2B230
2B250
【Fターム(参考)】
2B230AA07
2B230BA01
2B230BA04
2B230CA14
2B230CA19
2B230DA02
2B230EB01
2B250BA07
2B250DA04
2B250EA13
(57)【要約】
【課題】所望の耐火特性を有する不燃木材を実現する。
【解決手段】第1難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸された表面側の第1木質基材10aと、第1木質基材10aの裏面側に積層され、第2難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸された第2木質基材20aとを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1難燃剤を含有する第1難燃薬液が含浸された表面側の第1木質基材と、
上記第1木質基材の裏面側に積層され、第2難燃剤を含有する第2難燃薬液が含浸された第2木質基材とを備えていることを特徴とする不燃木材。
【請求項2】
請求項1に記載された不燃木材において、
上記第2木質基材の裏面側に積層され、第3難燃剤を含有する第3難燃薬液が含浸された第3木質基材を備えていることを特徴とする不燃木材。
【請求項3】
請求項2に記載された不燃木材において、
上記第1難燃剤は、リン酸系難燃剤であり、
上記第2難燃剤は、ホウ酸系難燃剤であり、
上記第3難燃剤は、リン酸系難燃剤又はホウ酸系難燃剤であることを特徴とする不燃木材。
【請求項4】
請求項3に記載された不燃木材において、
上記第1木質基材の厚さは、上記第2木質基材及び上記第3木質基材の厚さよりも薄くなっていることを特徴とする不燃木材。
【請求項5】
請求項2~4の何れか1つに記載された不燃木材において、
上記第1木質基材、上記第2木質基材及び上記第3木質基材は、互いに接着されていることを特徴とする不燃木材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃木材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リン酸系難燃剤等を用いた不燃木材は、従来より広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、表層にリン酸二水素アンモニウムが含有され、内層にポリリン酸アンモニウムが含有された難燃性を有するパーティクルボードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5089335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、国産の木材の利用拡大等を図るために、構造柱の側面を不燃木材で被覆する木製の耐火構造材が注目されている。ここで、木製の耐火構造材では、求める性能に応じて、不燃木材の耐火特性の調整することが要望されているものの、難燃剤が溶解された難燃化薬液を含浸する不燃木材の製造方法では、上記特許文献1のように、例えば、上層側及び下層側において、互いに異なる難燃剤を用いた構成を採用して、耐火特性を調整することが困難である。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る不燃木材は、第1難燃剤を含有する第1難燃薬液が含浸された表面側の第1木質基材と、上記第1木質基材の裏面側に積層され、第2難燃剤を含有する第2難燃薬液が含浸された第2木質基材とを備えていることを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、表面側の第1木質基材には、第1難燃剤を含有する第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材の裏面側に積層された第2木質基材には、第2難燃剤を含有する第2難燃薬液が含浸されている。これにより、第1難燃剤の成分と第2難燃剤の成分とを独立して選定すれば、第1木質基材の耐火特性と第2木質基材の耐火特性とが別々に設定されるので、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することができる。
【0009】
上記第2木質基材の裏面側に積層され、第3難燃剤を含有する第3難燃薬液が含浸された第3木質基材を備えていてもよい。
【0010】
上記の構成によれば、表面側の第1木質基材には、第1難燃剤を含有する第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材の裏面側に積層された第2木質基材には、第2難燃剤を含有する第2難燃薬液が含浸され、第2木質基材の裏面側に積層された第3木質基材には、第3難燃剤を含有する第3難燃薬液が含浸されている。これにより、第1難燃剤の成分と第2難燃剤の成分と第3難燃剤の成分とを独立して選定すれば、第1木質基材の耐火特性と第2木質基材の耐火特性と第3木質基材の耐火特性とが別々に設定されるので、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することができる。
【0011】
上記第1難燃剤は、リン酸系難燃剤であり、上記第2難燃剤は、ホウ酸系難燃剤であり、上記第3難燃剤は、リン酸系難燃剤又はホウ酸系難燃剤であってもよい。
【0012】
上記の構成によれば、表面側の第1木質基材に含浸された第1難燃薬液が第1難燃剤としてリン酸系難燃剤を含有するので、第1木質基材の表面での発火を抑制することができる。ここで、リン酸系難燃剤は、リン成分が燃焼時にセルロースの炭化を促進して、炭化層を形成し、その炭化層が酸素や熱を遮断するので、燃焼を抑制することができる。さらに、リン酸系難燃剤が窒素成分を含む場合には、吸熱反応により温度を低下させると共に、酸素濃度を低下させることができる。また、第1木質基材の裏面側の第2木質基材に含浸された第2難燃薬液が第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤を含有するので、炭化しても固いため脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果を得ることができる。ここで、ホウ酸系難燃剤は、ガラス質の発泡により燃焼を抑制することができる。また、第2木質基材の裏面側の第3木質基材に含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤を含有する場合には、炭化しても脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果をより得ることができる。また、第2木質基材の裏面側の第3木質基材に含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてリン酸系難燃剤を含有する場合には、仮に、表面側の第1木質基材及び第2木質基材が脱落しても、第3木質基材の表面での発火を抑制することができる。
【0013】
上記第1木質基材の厚さは、上記第2木質基材及び上記第3木質基材の厚さよりも薄くなっていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、第1木質基材の厚さが第2木質基材及び第3木質基材の厚さよりも薄くなっているので、第1木質基材が炭化しても自重による脱落を抑制することができる。
【0015】
上記第1木質基材、上記第2木質基材及び上記第3木質基材は、互いに接着されていてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、第1木質基材、第2木質基材及び第3木質基材が互いに接着されているので、表面側の木質基材が炭化しても裏面側の木質基材に固定され、表面側の木質基材の脱落を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1木質基材に第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材に積層された第2木質基材に第2難燃薬液が含浸されているので、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(実施例1)の断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(実施例2)の断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(比較例1及び2)の断面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(実施例1)における耐火試験の結果を示すグラフである。
図5】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(実施例2)における耐火試験の結果を示すグラフである。
図6】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(比較例1)における耐火試験の結果を示すグラフである。
図7】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(比較例2)における耐火試験の結果を示すグラフである。
図8】本発明の第2の実施形態に係る不燃木材(実施例3)の断面図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る不燃木材(実施例3)における耐火試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施形態に限定されるものではない。
【0020】
《第1の実施形態》
図1図7は、本発明に係る不燃木材の第1の実施形態を示している。ここで、図1は、本実施形態の実施例1の不燃木材50aの断面図である。また、図2は、本実施形態の実施例2の不燃木材50bの断面図である。なお、図3は、本実施形態の比較例1及び比較例2の不燃木材150a及び150bの断面図である。
【0021】
不燃木材50aは、図1に示すように、表面側(図中上側)の第1木質基材10aと、第1木質基材10aの裏面側(図中下側)に積層された第2木質基材20aと、第2木質基材20aの裏面側(図中下側)に積層された第3木質基材30aと、第3木質基材30aの裏面側(図中下側)に積層された第4木質基材40aとを備えている。
【0022】
第1木質基材10a、第2木質基材20a、第3木質基材30a及び第4木質基材40aは、例えば、無垢材、集成材、合板、LVL(Laminated Veneer Lumber)、パーティクルボード等の木質板材である。また、第1木質基材10a、第2木質基材20a、第3木質基材30a及び第4木質基材40aは、例えば、レジルシノール系接着剤等により互いに接着されている。ここで、第1木質基材10aには、図1に示すように、第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸されている。また、第2木質基材20aには、図1に示すように、第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸されている。また、第3木質基材30aには、図1に示すように、第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第3難燃薬液が含浸されている。なお、第4木質基材40aには、何れの難燃薬液も含浸されていない。
【0023】
不燃木材50bは、図2に示すように、表面側(図中上側)の第1木質基材10bと、第1木質基材10bの裏面側(図中下側)に積層された第2木質基材20bと、第2木質基材20bの裏面側(図中下側)に積層された第3木質基材30bと、第3木質基材30bの裏面側(図中下側)に積層された第4木質基材40bとを備えている。
【0024】
第1木質基材10b、第2木質基材20b、第3木質基材30b及び第4木質基材40bは、例えば、無垢材、集成材、合板、LVL、パーティクルボード等の木質板材である。また、第1木質基材10b、第2木質基材20b、第3木質基材30b及び第4木質基材40bは、例えば、レジルシノール系接着剤等により互いに接着されている。ここで、第1木質基材10bには、図2に示すように、第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸されている。また、第2木質基材20bには、図2に示すように、第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸されている。また、第3木質基材30bには、図2に示すように、第3難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有する第3難燃薬液が含浸されている。なお、第4木質基材40bには、何れの難燃薬液も含浸されていない。
【0025】
第1木質基材10a及び10b、第2木質基材20a及び20b、並びに第3木質基材30a及び30bは、例えば、80℃程度に加温した水に、所定量の難燃剤を撹拌しながら加えることにより、難燃化薬液を調製した後に、木質基材に難燃化薬液を含浸する含浸処理を60℃程度で行って、乾燥することにより、作製することができる。
【0026】
上記構成の不燃木材50a及び50bは、例えば、木製の構造柱の側面を被覆して、木製の耐火構造材となるように構成されている。なお、本実施形態では、4層構造の不燃木材50a及び50bを例示したが、4層目の第4木質基材40a及び40bを構造柱の一部として設計して、4層目の第4木質基材40a及び40bを省略してもよい。
【0027】
次に、本実施形態の不燃木材50a及び50bの耐火性について、具体的に行った実験に基づいて説明する。
【0028】
<実施例1>
厚さ24mmの合板にリン酸グアニジンを主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で160kg/m含浸させた第1木質基材10aを作製した。また、厚さ24mmの合板にホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で180kg/m含浸させた第2木質基材20a及び第3木質基材30aを作製した。さらに、レゾルシノール系接着剤を用いて、第1木質基材10a、第2木質基材20a、第3木質基材30a及び第4木質基材40a(未含浸処理の厚さ24mmの合板)を貼り合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材50aを準備した。
【0029】
<実施例2>
厚さ24mmの合板にリン酸グアニジンを主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で160kg/m含浸させた第1木質基材10b及び第3木質基材30bを作製した。また、厚さ24mmの合板にホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で180kg/m含浸させた第2木質基材20bを作製した。さらに、レゾルシノール系接着剤を用いて、第1木質基材10b、第2木質基材20b、第3木質基材30b及び第4木質基材40b(未含浸処理の厚さ24mmの合板)を貼り合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材50bを準備した。
【0030】
<比較例1>
厚さ24mmの合板にリン酸グアニジンを主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で160kg/m含浸させた第1木質基材10dを作製した。また、厚さ24mmの合板にホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で180kg/m含浸させた第2木質基材20dを作製した。さらに、レゾルシノール系接着剤を用いて、第1木質基材10d、第2木質基材20d、第3木質基材30d(未含浸処理の厚さ24mmの合板)及び第4木質基材40d(未含浸処理の厚さ24mmの合板)を貼り合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材150a(図3参照)を準備した。
【0031】
<比較例2>
上記比較例1と同様に、第1木質基材10d及び第2木質基材20dを作製し、第3木質基材30d(未含浸処理の厚さ24mmの合板)及び第4木質基材40d(未含浸処理の厚さ24mmの合板)と重ね合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材150b(図3参照)を準備した。なお、不燃木材150aでは、第1木質基材10d、第2木質基材20d、第3木質基材30d及び第4木質基材40dが互いに接着されているものの、不燃木材150bでは、第1木質基材10d、第2木質基材20d、第3木質基材30d及び第4木質基材40dが互いに接着されていない。
【0032】
~耐火試験~
上記準備した不燃木材50a、50b、150a及び150bについて、ISO834-1に基づいて耐火試験を行った。具体的には、不燃木材50a、50b、150a及び150bの320mm×420mm×96mmの各試験体を耐火炉内に立てた状態に設置した後に、各試験体の表層側(第1木質基材)に向けて1方向から1時間加熱し、4時間放冷した際の試験体の温度変化を測定すると共に、試験後の試験体の表面状態を観察した。ここで、図4図5図6及び図7は、本実施形態の実施例1の不燃木材50a、実施例2の不燃木材50b、比較例1の不燃木材150a及び比較例2の不燃木材150bにおける耐火試験の結果を示すグラフである。また、図4図5図6及び図7のグラフにおいて、実線は、炉内平均温度を示し、線a、線b、線c、線d、線e及び線fは、図1図2及び図3の各不燃木材における測定点a、測定点b、測定点c、測定点d、測定点e及び測定点fの温度を示している。なお、耐火試験では、測定点a、測定点b及び測定点cを炉内において上側に配置させ、測定点d、測定点e及び測定点fを炉内において下側に配置させた。
【0033】
実施例1の不燃木材50aの試験結果としては、図4のグラフに示すように、第2木質基材20a及び第3木質基材30aの層間の測定点b及び測定点e、並びに第3木質基材30a及び第4木質基材40aの層間の測定点c及び測定点fにおいて、炭化の目安となる200℃を超えていなかったので、1時間の耐火性能を有していた。また、耐火試験後の不燃木材50aの1層目の第1木質基材10aにおいては、一部が脱落していた。
【0034】
実施例2の不燃木材50bの試験結果としては、図5のグラフに示すように、第2木質基材20b及び第3木質基材30bの層間の測定点b及び測定点e、並びに第3木質基材30b及び第4木質基材40bの層間の測定点c及び測定点fにおいて、炭化の目安となる200℃を超えていなかったので、1時間の耐火性能を有していた。また、耐火試験後の不燃木材50bの1層目の第1木質基材10bにおいては、一部が脱落していた。
【0035】
比較例1の不燃木材150aの試験結果としては、図6のグラフに示すように、第2木質基材20d及び第3木質基材30dの層間(下側)の測定点eにおいて、炭化の目安となる200℃を超えてしまったので、1時間の耐火性能を有していなかった。また、耐火試験後の不燃木材150aの1層目の第1木質基材10dにおいては、一部が脱落していた。
【0036】
比較例2の不燃木材150bの試験結果としては、図7のグラフに示すように、第2木質基材20d及び第3木質基材30dの層間(下側)の測定点e、並びに第3木質基材30d及び第4木質基材40dの層間(下側)の測定点fにおいて、炭化の目安となる200℃を超えてしまったので、1時間の耐火性能を有していなかった。これは、加熱中に不燃木材150bの1層目の接着されていない第1木質基材10dが炭化した後に脱落していまい、その部分から露出した2層目の第2木質基材20dが直接加熱され、温度が上昇し続けたと考えられる。また、耐火試験後の不燃木材150bの1層目の第1木質基材10dにおいては、ほぼ全部が脱落していた。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の不燃木材50a(50b)によれば、表面側の第1木質基材10a(10b)には、リン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材10a(10b)の裏面側に積層された第2木質基材20a(20b)には、ホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸され、第2木質基材20a(20b)の裏面側に積層された第3木質基材30a(30b)には、ホウ酸系難燃剤B(リン酸系難燃剤P)を含有する第3難燃薬液が含浸されている。これにより、第1木質基材10a(10b)の耐火特性と第2木質基材20a(20b)の耐火特性と第3木質基材の耐火特性30a(30b)とが別々に設定されるので、所望の耐火特性を有する不燃木材50a(50b)を実現することができる。
【0038】
また、本実施形態の不燃木材50a(50b)によれば、表面側の第1木質基材10a(10b)に含浸された第1難燃薬液が第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有するので、第1木質基材材10a(10b)の表面での発火を抑制することができる。また、第1木質基材10a(10b)の裏面側の第2木質基材20a(20b)に含浸された第2難燃薬液が第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有するので、炭化しても固いため脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果を得ることができる。また、本実施形態の不燃木材50aでは、第2木質基材20aの裏面側の第3木質基材30aに含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有するので、炭化しても脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果をより得ることができる。また、本実施形態の不燃木材50bでは、第2木質基材20bの裏面側の第3木質基材30bに含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有するので、仮に、表面側の第1木質基材10b及び第2木質基材20bが脱落しても、第3木質基材30bの表面での発火を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態の不燃木材50a(50b)によれば、第1木質基材10a(10b)、第2木質基材20a(20b)及び第3木質基材30a(30b)が互いに接着されているので、表面側の木質基材が炭化しても裏面側の木質基材に固定され、表面側の木質基材の脱落を抑制することができる。
【0040】
《第2の実施形態》
図8及び図9は、本発明に係る不燃木材の第2の実施形態を示している。ここで、図8は、本実施形態の実施例(実施例3)の不燃木材50cの断面図である。なお、以下の各実施形態において、図1図7と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0041】
不燃木材50cは、図8に示すように、表面側(図中上側)の第1木質基材10cと、第1木質基材10cの裏面側(図中下側)に積層された第2木質基材20cと、第2木質基材20cの裏面側(図中下側)に積層された第3木質基材30cと備えている。
【0042】
第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cは、例えば、無垢材、集成材、合板、LVL、パーティクルボード等の木質板材である。また、第1木質基材10cの厚さは、図8に示すように、第2木質基材20c及び第3木質基材30cの厚さよりも薄くなっている。また、第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cは、例えば、レジルシノール系接着剤等により互いに接着されている。ここで、第1木質基材10cには、図8に示すように、第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸されている。また、第2木質基材20cには、図8に示すように、第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸されている。また、第3木質基材30cには、図8に示すように、第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第3難燃薬液が含浸されている。
【0043】
第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cは、例えば、80℃程度に加温した水に、所定量の難燃剤を撹拌しながら加えることにより、難燃化薬液を調製した後に、木質基材に難燃化薬液を含浸する含浸処理を60℃程度で行って、乾燥することにより、作製することができる。
【0044】
上記構成の不燃木材50cは、例えば、木製の構造柱の側面を被覆して、木製の耐火構造材となるように構成されている。
【0045】
次に、本実施形態の不燃木材50cの耐火性について、具体的に行った実験に基づいて説明する。
【0046】
<実施例3>
厚さ12mmの合板にリン酸グアニジンを主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で160kg/m含浸させた第1木質基材10cを作製した。また、厚さ24mmの合板にホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で180kg/m含浸させた第2木質基材20c及び第3木質基材30cを作製した。さらに、レゾルシノール系接着剤を用いて、第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cを貼り合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材50cを準備した。
【0047】
~耐火試験~
上記準備した不燃木材50cについて、ISO834-1に基づいて耐火試験を行った。具体的には、不燃木材50cの320mm×420mm×60mmの試験体を耐火炉内に立てた状態に設置した後に、試験体の表層側(第1木質基材)に向けて1方向から1時間加熱し、4時間放冷した際の試験体の温度変化を測定すると共に、試験後の試験体の表面状態を観察した。ここで、図9は、本実施形態の実施例3の不燃木材50cにおける耐火試験の結果を示すグラフである。また、図9のグラフにおいて、実線は、炉内平均温度を示し、線a、線b、線c、線d、線e及び線fは、図8の不燃木材50cにおける測定点a、測定点b、測定点c、測定点d、測定点e及び測定点fの温度を示している。なお、耐火試験では、測定点a、測定点b及び測定点cを炉内において上側に配置させ、測定点d、測定点e及び測定点fを炉内において下側に配置させた。
【0048】
実施例3の不燃木材50cの試験結果としては、図9のグラフに示すように、第2木質基材20c及び第3木質基材30cの層間の測定点b及び測定点e、並びに第3木質基材30cの裏面の測定点c及び測定点fにおいて、炭化の目安となる200℃を超えていなかったので、1時間の耐火性能を有していた。また、耐火試験後の不燃木材50cの1層目の第1木質基材10cにおいては、脱落がほぼ認められなかった。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の不燃木材50cによれば、表面側の第1木質基材10cには、リン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材10cの裏面側に積層された第2木質基材20cには、ホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸され、第2木質基材20cの裏面側に積層された第3木質基材30cには、ホウ酸系難燃剤Bを含有する第3難燃薬液が含浸されている。これにより、第1木質基材10cの耐火特性と第2木質基材20cの耐火特性と第3木質基材の耐火特性30cとが別々に設定されるので、所望の耐火特性を有する不燃木材50cを実現することができる。
【0050】
また、本実施形態の不燃木材50cによれば、表面側の第1木質基材10cに含浸された第1難燃薬液が第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有するので、第1木質基材材10cの表面での発火を抑制することができる。また、第1木質基材10cの裏面側の第2木質基材20cに含浸された第2難燃薬液が第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有するので、炭化しても固いため脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果を得ることができる。また、第2木質基材20cの裏面側の第3木質基材30cに含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有するので、炭化しても脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果をより得ることができる。
【0051】
また、本実施形態の不燃木材50cによれば、第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cが互いに接着されているので、表面側の木質基材が炭化しても裏面側の木質基材に固定され、表面側の木質基材の脱落を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態の不燃木材50cによれば、第1木質基材10cの厚さが第2木質基材20c及び第3木質基材30cの厚さよりも薄くなっているので、第1木質基材10cが炭化しても自重による脱落を抑制することができる。
【0053】
《その他の実施形態》
上記第1及び第2の実施形態では、第1難燃剤としてリン酸系難燃剤が用いられ、第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤が用いられ、第3難燃剤としてリン酸系難燃剤又はホウ酸系難燃剤が用いられた不燃木材を例示したが、本発明は、他の難燃剤を用いた不燃木材にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明は、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0055】
B ホウ酸系難燃剤(第2難燃剤、第3難燃剤)
P リン酸系難燃剤(第1難燃剤、第3難燃剤)
10a,10b,10c 第1木質基材
20a,20b,20c 第1木質基材
30a,30b,30c 第2木質基材
50a,50b,50c 不燃木材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-06-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃木材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リン酸系難燃剤等を用いた不燃木材は、従来より広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、表層にリン酸二水素アンモニウムが含有され、内層にポリリン酸アンモニウムが含有された難燃性を有するパーティクルボードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5089335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、国産の木材の利用拡大等を図るために、構造柱の側面を不燃木材で被覆する木製の耐火構造材が注目されている。ここで、木製の耐火構造材では、求める性能に応じて、不燃木材の耐火特性の調整することが要望されているものの、難燃剤が溶解された難燃化薬液を含浸する不燃木材の製造方法では、上記特許文献1のように、例えば、上層側及び下層側において、互いに異なる難燃剤を用いた構成を採用して、耐火特性を調整することが困難である。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る不燃木材は、第1難燃剤を含有する第1難燃薬液が含浸された表面側の第1木質基材と、上記第1木質基材の裏面側に積層され、第2難燃剤を含有する第2難燃薬液が含浸された第2木質基材と、上記第2木質基材の裏面側に積層され、第3難燃剤を含有する第3難燃薬液が含浸された第3木質基材とを備え、上記第1木質基材、上記第2木質基材及び上記第3木質基材は、互いに接着され、上記第1難燃剤は、リン酸系難燃剤であり、上記第2難燃剤は、ホウ酸系難燃剤であり、上記第3難燃剤は、ホウ酸系難燃剤であることを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、表面側の第1木質基材には、第1難燃剤を含有する第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材の裏面側に積層された第2木質基材には、第2難燃剤を含有する第2難燃薬液が含浸されている。これにより、第1難燃剤の成分と第2難燃剤の成分とを独立して選定すれば、第1木質基材の耐火特性と第2木質基材の耐火特性とが別々に設定されるので、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することができる
【0009】
また、上記の構成によれば、表面側の第1木質基材には、第1難燃剤を含有する第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材の裏面側に積層された第2木質基材には、第2難燃剤を含有する第2難燃薬液が含浸され、第2木質基材の裏面側に積層された第3木質基材には、第3難燃剤を含有する第3難燃薬液が含浸されている。これにより、第1難燃剤の成分と第2難燃剤の成分と第3難燃剤の成分とを独立して選定すれば、第1木質基材の耐火特性と第2木質基材の耐火特性と第3木質基材の耐火特性とが別々に設定されるので、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することができる
【0010】
また、上記の構成によれば、表面側の第1木質基材に含浸された第1難燃薬液が第1難燃剤としてリン酸系難燃剤を含有するので、第1木質基材の表面での発火を抑制することができる。ここで、リン酸系難燃剤は、リン成分が燃焼時にセルロースの炭化を促進して、炭化層を形成し、その炭化層が酸素や熱を遮断するので、燃焼を抑制することができる。さらに、リン酸系難燃剤が窒素成分を含む場合には、吸熱反応により温度を低下させると共に、酸素濃度を低下させることができる。また、第1木質基材の裏面側の第2木質基材に含浸された第2難燃薬液が第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤を含有するので、炭化しても固いため脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果を得ることができる。ここで、ホウ酸系難燃剤は、ガラス質の発泡により燃焼を抑制することができる。また、第2木質基材の裏面側の第3木質基材に含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤を含有する場合には、炭化しても脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果をより得ることができる
【0011】
また、上記の構成によれば、第1木質基材、第2木質基材及び第3木質基材が互いに接着されているので、表面側の木質基材が炭化しても裏面側の木質基材に固定され、表面側の木質基材の脱落を抑制することができる。
【0012】
記第1木質基材の厚さは、上記第2木質基材及び上記第3木質基材の厚さよりも薄くなっていてもよい。
【0013】
上記の構成によれば、第1木質基材の厚さが第2木質基材及び第3木質基材の厚さよりも薄くなっているので、第1木質基材が炭化しても自重による脱落を抑制することができる
【0014】
上記第1難燃剤は、窒素成分を含むリン酸系難燃剤であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1木質基材に第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材に積層された第2木質基材に第2難燃薬液が含浸されているので、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(実施例1)の断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(実施例2)の断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(比較例1及び2)の断面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(実施例1)における耐火試験の結果を示すグラフである。
図5】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(実施例2)における耐火試験の結果を示すグラフである。
図6】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(比較例1)における耐火試験の結果を示すグラフである。
図7】本発明の第1の実施形態に係る不燃木材(比較例2)における耐火試験の結果を示すグラフである。
図8】本発明の第2の実施形態に係る不燃木材(実施例3)の断面図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る不燃木材(実施例3)における耐火試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施形態に限定されるものではない。
【0018】
《第1の実施形態》
図1図7は、本発明に係る不燃木材の第1の実施形態を示している。ここで、図1は、本実施形態の実施例1の不燃木材50aの断面図である。また、図2は、本実施形態の実施例2の不燃木材50bの断面図である。なお、図3は、本実施形態の比較例1及び比較例2の不燃木材150a及び150bの断面図である。
【0019】
不燃木材50aは、図1に示すように、表面側(図中上側)の第1木質基材10aと、第1木質基材10aの裏面側(図中下側)に積層された第2木質基材20aと、第2木質基材20aの裏面側(図中下側)に積層された第3木質基材30aと、第3木質基材30aの裏面側(図中下側)に積層された第4木質基材40aとを備えている。
【0020】
第1木質基材10a、第2木質基材20a、第3木質基材30a及び第4木質基材40aは、例えば、無垢材、集成材、合板、LVL(Laminated Veneer Lumber)、パーティクルボード等の木質板材である。また、第1木質基材10a、第2木質基材20a、第3木質基材30a及び第4木質基材40aは、例えば、レジルシノール系接着剤等により互いに接着されている。ここで、第1木質基材10aには、図1に示すように、第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸されている。また、第2木質基材20aには、図1に示すように、第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸されている。また、第3木質基材30aには、図1に示すように、第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第3難燃薬液が含浸されている。なお、第4木質基材40aには、何れの難燃薬液も含浸されていない。
【0021】
不燃木材50bは、図2に示すように、表面側(図中上側)の第1木質基材10bと、第1木質基材10bの裏面側(図中下側)に積層された第2木質基材20bと、第2木質基材20bの裏面側(図中下側)に積層された第3木質基材30bと、第3木質基材30bの裏面側(図中下側)に積層された第4木質基材40bとを備えている。
【0022】
第1木質基材10b、第2木質基材20b、第3木質基材30b及び第4木質基材40bは、例えば、無垢材、集成材、合板、LVL、パーティクルボード等の木質板材である。また、第1木質基材10b、第2木質基材20b、第3木質基材30b及び第4木質基材40bは、例えば、レジルシノール系接着剤等により互いに接着されている。ここで、第1木質基材10bには、図2に示すように、第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸されている。また、第2木質基材20bには、図2に示すように、第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸されている。また、第3木質基材30bには、図2に示すように、第3難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有する第3難燃薬液が含浸されている。なお、第4木質基材40bには、何れの難燃薬液も含浸されていない。
【0023】
第1木質基材10a及び10b、第2木質基材20a及び20b、並びに第3木質基材30a及び30bは、例えば、80℃程度に加温した水に、所定量の難燃剤を撹拌しながら加えることにより、難燃化薬液を調製した後に、木質基材に難燃化薬液を含浸する含浸処理を60℃程度で行って、乾燥することにより、作製することができる。
【0024】
上記構成の不燃木材50a及び50bは、例えば、木製の構造柱の側面を被覆して、木製の耐火構造材となるように構成されている。なお、本実施形態では、4層構造の不燃木材50a及び50bを例示したが、4層目の第4木質基材40a及び40bを構造柱の一部として設計して、4層目の第4木質基材40a及び40bを省略してもよい。
【0025】
次に、本実施形態の不燃木材50a及び50bの耐火性について、具体的に行った実験に基づいて説明する。
【0026】
<実施例1>
厚さ24mmの合板にリン酸グアニジンを主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で160kg/m含浸させた第1木質基材10aを作製した。また、厚さ24mmの合板にホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で180kg/m含浸させた第2木質基材20a及び第3木質基材30aを作製した。さらに、レゾルシノール系接着剤を用いて、第1木質基材10a、第2木質基材20a、第3木質基材30a及び第4木質基材40a(未含浸処理の厚さ24mmの合板)を貼り合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材50aを準備した。
【0027】
<実施例2>
厚さ24mmの合板にリン酸グアニジンを主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で160kg/m含浸させた第1木質基材10b及び第3木質基材30bを作製した。また、厚さ24mmの合板にホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で180kg/m含浸させた第2木質基材20bを作製した。さらに、レゾルシノール系接着剤を用いて、第1木質基材10b、第2木質基材20b、第3木質基材30b及び第4木質基材40b(未含浸処理の厚さ24mmの合板)を貼り合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材50bを準備した。
【0028】
<比較例1>
厚さ24mmの合板にリン酸グアニジンを主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で160kg/m含浸させた第1木質基材10dを作製した。また、厚さ24mmの合板にホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で180kg/m含浸させた第2木質基材20dを作製した。さらに、レゾルシノール系接着剤を用いて、第1木質基材10d、第2木質基材20d、第3木質基材30d(未含浸処理の厚さ24mmの合板)及び第4木質基材40d(未含浸処理の厚さ24mmの合板)を貼り合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材150a(図3参照)を準備した。
【0029】
<比較例2>
上記比較例1と同様に、第1木質基材10d及び第2木質基材20dを作製し、第3木質基材30d(未含浸処理の厚さ24mmの合板)及び第4木質基材40d(未含浸処理の厚さ24mmの合板)と重ね合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材150b(図3参照)を準備した。なお、不燃木材150aでは、第1木質基材10d、第2木質基材20d、第3木質基材30d及び第4木質基材40dが互いに接着されているものの、不燃木材150bでは、第1木質基材10d、第2木質基材20d、第3木質基材30d及び第4木質基材40dが互いに接着されていない。
【0030】
~耐火試験~
上記準備した不燃木材50a、50b、150a及び150bについて、ISO834-1に基づいて耐火試験を行った。具体的には、不燃木材50a、50b、150a及び150bの320mm×420mm×96mmの各試験体を耐火炉内に立てた状態に設置した後に、各試験体の表層側(第1木質基材)に向けて1方向から1時間加熱し、4時間放冷した際の試験体の温度変化を測定すると共に、試験後の試験体の表面状態を観察した。ここで、図4図5図6及び図7は、本実施形態の実施例1の不燃木材50a、実施例2の不燃木材50b、比較例1の不燃木材150a及び比較例2の不燃木材150bにおける耐火試験の結果を示すグラフである。また、図4図5図6及び図7のグラフにおいて、実線は、炉内平均温度を示し、線a、線b、線c、線d、線e及び線fは、図1図2及び図3の各不燃木材における測定点a、測定点b、測定点c、測定点d、測定点e及び測定点fの温度を示している。なお、耐火試験では、測定点a、測定点b及び測定点cを炉内において上側に配置させ、測定点d、測定点e及び測定点fを炉内において下側に配置させた。
【0031】
実施例1の不燃木材50aの試験結果としては、図4のグラフに示すように、第2木質基材20a及び第3木質基材30aの層間の測定点b及び測定点e、並びに第3木質基材30a及び第4木質基材40aの層間の測定点c及び測定点fにおいて、炭化の目安となる200℃を超えていなかったので、1時間の耐火性能を有していた。また、耐火試験後の不燃木材50aの1層目の第1木質基材10aにおいては、一部が脱落していた。
【0032】
実施例2の不燃木材50bの試験結果としては、図5のグラフに示すように、第2木質基材20b及び第3木質基材30bの層間の測定点b及び測定点e、並びに第3木質基材30b及び第4木質基材40bの層間の測定点c及び測定点fにおいて、炭化の目安となる200℃を超えていなかったので、1時間の耐火性能を有していた。また、耐火試験後の不燃木材50bの1層目の第1木質基材10bにおいては、一部が脱落していた。
【0033】
比較例1の不燃木材150aの試験結果としては、図6のグラフに示すように、第2木質基材20d及び第3木質基材30dの層間(下側)の測定点eにおいて、炭化の目安となる200℃を超えてしまったので、1時間の耐火性能を有していなかった。また、耐火試験後の不燃木材150aの1層目の第1木質基材10dにおいては、一部が脱落していた。
【0034】
比較例2の不燃木材150bの試験結果としては、図7のグラフに示すように、第2木質基材20d及び第3木質基材30dの層間(下側)の測定点e、並びに第3木質基材30d及び第4木質基材40dの層間(下側)の測定点fにおいて、炭化の目安となる200℃を超えてしまったので、1時間の耐火性能を有していなかった。これは、加熱中に不燃木材150bの1層目の接着されていない第1木質基材10dが炭化した後に脱落していまい、その部分から露出した2層目の第2木質基材20dが直接加熱され、温度が上昇し続けたと考えられる。また、耐火試験後の不燃木材150bの1層目の第1木質基材10dにおいては、ほぼ全部が脱落していた。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の不燃木材50a(50b)によれば、表面側の第1木質基材10a(10b)には、リン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材10a(10b)の裏面側に積層された第2木質基材20a(20b)には、ホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸され、第2木質基材20a(20b)の裏面側に積層された第3木質基材30a(30b)には、ホウ酸系難燃剤B(リン酸系難燃剤P)を含有する第3難燃薬液が含浸されている。これにより、第1木質基材10a(10b)の耐火特性と第2木質基材20a(20b)の耐火特性と第3木質基材の耐火特性30a(30b)とが別々に設定されるので、所望の耐火特性を有する不燃木材50a(50b)を実現することができる。
【0036】
また、本実施形態の不燃木材50a(50b)によれば、表面側の第1木質基材10a(10b)に含浸された第1難燃薬液が第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有するので、第1木質基材材10a(10b)の表面での発火を抑制することができる。また、第1木質基材10a(10b)の裏面側の第2木質基材20a(20b)に含浸された第2難燃薬液が第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有するので、炭化しても固いため脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果を得ることができる。また、本実施形態の不燃木材50aでは、第2木質基材20aの裏面側の第3木質基材30aに含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有するので、炭化しても脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果をより得ることができる。また、本実施形態の不燃木材50bでは、第2木質基材20bの裏面側の第3木質基材30bに含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有するので、仮に、表面側の第1木質基材10b及び第2木質基材20bが脱落しても、第3木質基材30bの表面での発火を抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態の不燃木材50a(50b)によれば、第1木質基材10a(10b)、第2木質基材20a(20b)及び第3木質基材30a(30b)が互いに接着されているので、表面側の木質基材が炭化しても裏面側の木質基材に固定され、表面側の木質基材の脱落を抑制することができる。
【0038】
《第2の実施形態》
図8及び図9は、本発明に係る不燃木材の第2の実施形態を示している。ここで、図8は、本実施形態の実施例(実施例3)の不燃木材50cの断面図である。なお、以下の各実施形態において、図1図7と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0039】
不燃木材50cは、図8に示すように、表面側(図中上側)の第1木質基材10cと、第1木質基材10cの裏面側(図中下側)に積層された第2木質基材20cと、第2木質基材20cの裏面側(図中下側)に積層された第3木質基材30cと備えている。
【0040】
第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cは、例えば、無垢材、集成材、合板、LVL、パーティクルボード等の木質板材である。また、第1木質基材10cの厚さは、図8に示すように、第2木質基材20c及び第3木質基材30cの厚さよりも薄くなっている。また、第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cは、例えば、レジルシノール系接着剤等により互いに接着されている。ここで、第1木質基材10cには、図8に示すように、第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸されている。また、第2木質基材20cには、図8に示すように、第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸されている。また、第3木質基材30cには、図8に示すように、第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有する第3難燃薬液が含浸されている。
【0041】
第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cは、例えば、80℃程度に加温した水に、所定量の難燃剤を撹拌しながら加えることにより、難燃化薬液を調製した後に、木質基材に難燃化薬液を含浸する含浸処理を60℃程度で行って、乾燥することにより、作製することができる。
【0042】
上記構成の不燃木材50cは、例えば、木製の構造柱の側面を被覆して、木製の耐火構造材となるように構成されている。
【0043】
次に、本実施形態の不燃木材50cの耐火性について、具体的に行った実験に基づいて説明する。
【0044】
<実施例3>
厚さ12mmの合板にリン酸グアニジンを主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で160kg/m含浸させた第1木質基材10cを作製した。また、厚さ24mmの合板にホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃化薬液を含浸した後に、乾燥して、難燃剤を固形分で180kg/m含浸させた第2木質基材20c及び第3木質基材30cを作製した。さらに、レゾルシノール系接着剤を用いて、第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cを貼り合わせた後に、その周囲を200mmの間隔でビス止めして、不燃木材50cを準備した。
【0045】
~耐火試験~
上記準備した不燃木材50cについて、ISO834-1に基づいて耐火試験を行った。具体的には、不燃木材50cの320mm×420mm×60mmの試験体を耐火炉内に立てた状態に設置した後に、試験体の表層側(第1木質基材)に向けて1方向から1時間加熱し、4時間放冷した際の試験体の温度変化を測定すると共に、試験後の試験体の表面状態を観察した。ここで、図9は、本実施形態の実施例3の不燃木材50cにおける耐火試験の結果を示すグラフである。また、図9のグラフにおいて、実線は、炉内平均温度を示し、線a、線b、線c、線d、線e及び線fは、図8の不燃木材50cにおける測定点a、測定点b、測定点c、測定点d、測定点e及び測定点fの温度を示している。なお、耐火試験では、測定点a、測定点b及び測定点cを炉内において上側に配置させ、測定点d、測定点e及び測定点fを炉内において下側に配置させた。
【0046】
実施例3の不燃木材50cの試験結果としては、図9のグラフに示すように、第2木質基材20c及び第3木質基材30cの層間の測定点b及び測定点e、並びに第3木質基材30cの裏面の測定点c及び測定点fにおいて、炭化の目安となる200℃を超えていなかったので、1時間の耐火性能を有していた。また、耐火試験後の不燃木材50cの1層目の第1木質基材10cにおいては、脱落がほぼ認められなかった。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の不燃木材50cによれば、表面側の第1木質基材10cには、リン酸系難燃剤Pを含有する第1難燃薬液が含浸され、第1木質基材10cの裏面側に積層された第2木質基材20cには、ホウ酸系難燃剤Bを含有する第2難燃薬液が含浸され、第2木質基材20cの裏面側に積層された第3木質基材30cには、ホウ酸系難燃剤Bを含有する第3難燃薬液が含浸されている。これにより、第1木質基材10cの耐火特性と第2木質基材20cの耐火特性と第3木質基材の耐火特性30cとが別々に設定されるので、所望の耐火特性を有する不燃木材50cを実現することができる。
【0048】
また、本実施形態の不燃木材50cによれば、表面側の第1木質基材10cに含浸された第1難燃薬液が第1難燃剤としてリン酸系難燃剤Pを含有するので、第1木質基材材10cの表面での発火を抑制することができる。また、第1木質基材10cの裏面側の第2木質基材20cに含浸された第2難燃薬液が第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有するので、炭化しても固いため脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果を得ることができる。また、第2木質基材20cの裏面側の第3木質基材30cに含浸された第3難燃薬液が第3難燃剤としてホウ酸系難燃剤Bを含有するので、炭化しても脱落し難く、その炭化した部分による断熱効果をより得ることができる。
【0049】
また、本実施形態の不燃木材50cによれば、第1木質基材10c、第2木質基材20c及び第3木質基材30cが互いに接着されているので、表面側の木質基材が炭化しても裏面側の木質基材に固定され、表面側の木質基材の脱落を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態の不燃木材50cによれば、第1木質基材10cの厚さが第2木質基材20c及び第3木質基材30cの厚さよりも薄くなっているので、第1木質基材10cが炭化しても自重による脱落を抑制することができる。
【0051】
《その他の実施形態》
上記第1及び第2の実施形態では、第1難燃剤としてリン酸系難燃剤が用いられ、第2難燃剤としてホウ酸系難燃剤が用いられ、第3難燃剤としてリン酸系難燃剤又はホウ酸系難燃剤が用いられた不燃木材を例示したが、本発明は、他の難燃剤を用いた不燃木材にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明は、所望の耐火特性を有する不燃木材を実現することができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0053】
B ホウ酸系難燃剤(第2難燃剤、第3難燃剤)
P リン酸系難燃剤(第1難燃剤、第3難燃剤)
10a,10b,10c 第1木質基材
20a,20b,20c 第2木質基材
30a,30b,30c 第3木質基材
50a,50b,50c 不燃木材
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1難燃剤を含有する第1難燃薬液が含浸された表面側の第1木質基材と、
上記第1木質基材の裏面側に積層され、第2難燃剤を含有する第2難燃薬液が含浸された第2木質基材と
上記第2木質基材の裏面側に積層され、第3難燃剤を含有する第3難燃薬液が含浸された第3木質基材とを備え
上記第1木質基材、上記第2木質基材及び上記第3木質基材は、互いに接着され、
上記第1難燃剤は、リン酸系難燃剤であり、
上記第2難燃剤は、ホウ酸系難燃剤であり、
上記第3難燃剤は、ホウ酸系難燃剤であることを特徴とする不燃木材。
【請求項2】
請求項に記載された不燃木材において、
上記第1木質基材の厚さは、上記第2木質基材及び上記第3木質基材の厚さよりも薄くなっていることを特徴とする不燃木材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された不燃木材において、
上記第1難燃剤は、窒素成分を含むリン酸系難燃剤であることを特徴とする不燃木材。