(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122053
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】フィルム、多層フィルム及び保護フィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 18/02 20060101AFI20220815BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
C08G18/02 020
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019111
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】岸澤 周平
(72)【発明者】
【氏名】福田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】甲田 千佳子
(72)【発明者】
【氏名】本間 史朗
【テーマコード(参考)】
4F100
4J034
【Fターム(参考)】
4F100AK51A
4F100BA02
4F100EJ08A
4F100GB32
4F100JA05A
4F100JB04
4F100JB06
4F100JK02A
4F100JK07A
4F100JN01A
4F100YY00A
4J034AA01
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4J034DF02
4J034HA01
4J034HA07
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4J034HC46
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4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034JA01
4J034MA17
4J034QA03
4J034QB17
4J034RA05
4J034RA07
4J034RA12
(57)【要約】
【課題】 安価に製造することができ、耐候性及び防汚性に優れた自立膜としてのフィルムを提供することを目的とすること。
【解決手段】 単層構造を有している自立膜としてのフィルムであって、水性ポリウレタン樹脂(A)と、アダクト型、ビウレット型又はイソシアヌレート型イソシアネート化合物から選択される3官能以上のイソシアネート系架橋剤(B)を含むポリウレタン樹脂組成物の硬化物からなるフォルムが提供される。上記フィルムにおいて、水性ポリウレタン樹脂(A)は、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを20質量%以上含み、酸価が45乃至200mgKOH/gの範囲であり、また、水性ポリウレタン樹脂(A)に含まれるカルボキシル基とイソシアネート系架橋剤(B)に含まれるイソシアネート基との当量比[COOH]/[NCO]が、0.6以上1.4以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層構造を有している自立膜としてのフィルムであって、
ポリカーボネート系ポリオールを含むポリオール成分、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むイソシアネート成分、及び、カルボキシル基を含有する活性水素化合物の反応生成物であるイソシアネート基末端ウレタン系プレポリマーと、鎖伸長剤との反応生成物であるカルボキシル基を含む水性ポリウレタン樹脂(A)、及び
アダクト型、ビウレット型又はイソシアヌレート型イソシアネート化合物から選択される3官能以上のイソシアネート系架橋剤(B)
を含むポリウレタン樹脂組成物の硬化物であり、
前記水性ポリウレタン樹脂(A)中の前記1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの含有率が20質量%以上であり、前記水性ポリウレタン樹脂(A)の酸価が45乃至200mgKOH/gの範囲であり、前記水性ポリウレタン樹脂(A)に含まれる前記カルボキシル基と前記イソシアネート系架橋剤(B)に含まれるイソシアネート基との当量比[COOH]/[NCO]が、0.6以上1.4以下であるフィルム。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂は表面調整剤(C)を更に含有する、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記イソシアネート系架橋剤(B)は、イソシアネート基の含有率が10乃至30質量%である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
JIS K7361-1:1997に準拠して測定される、波長域が360乃至760nmの可視光線領域での全光線平均透過率が90%以上である、請求項1乃至3の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
JIS K7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値が2%未満である、請求項1乃至4の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
JIS K7373:2006に準拠して測定される黄色度(YI値)が1未満である、請求項1乃至5の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項7】
JIS K7127:1999に準拠して測定される破断引張強度が10乃至50MPaである、請求項1乃至6の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項8】
JIS K7127:1999に準拠して測定される破断引張伸度が50乃至600%である、請求項1乃至7の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
JIS K7127:1999に準拠して測定されるヤング率が200~2000MPaである、請求項1乃至8の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項10】
JIS K7121:1987に準拠して測定されるガラス転移温度(Tg)が0~50℃である、請求項1乃至9の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
周囲温度及び周囲圧力において95°以上の水接触角を示す、請求項1乃至10の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項12】
周囲温度及び周囲圧力において50°以上のオレイン酸接触角を示す、請求項1乃至11の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項13】
180W/m2の照度、63℃のブラックパネル温度及び60%の相対湿度の条件下で、1000時間にわたってキセノンウェザーメーター試験を行い、その後、JIS K7373:2006に準拠して測定される黄色度(YI値)が1未満である、請求項1乃至12の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項14】
60℃の温度及び95%の相対湿度の条件下で、1000時間にわたって耐湿熱試験を行い、その後、JIS K7136:2000に準拠して測定されるヘイズ値が2%未満である、請求項1乃至13の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項15】
60℃の温度及び95%の相対湿度の条件下で、1000時間にわたって耐湿熱試験を行い、その後、破断引張伸度測定を行うことにより得られる破断引張伸度は、前記耐湿熱試験を行う前の破断引張伸度に対して90%以上である、請求項1乃至14の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項16】
膜厚が1乃至400μmの範囲内にある、請求項1乃至15の何れか1項に記載のフィルム。
【請求項17】
2以上の層を備えた多層構造であり、前記層の少なくとも1つは請求項1乃至16の何れか1項に記載のフィルムである多層フィルム。
【請求項18】
請求項1乃至16の何れか1項に記載のフィルム、又は請求項17に記載の多層フィルムを備えた車両外装塗膜の保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、多層フィルム及び保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、自動二輪車、バス、電車などの外装部材表面には、意匠性や防錆性を高めるために、塗装によって塗膜が形成されている。外装部材表面の塗膜は、走行時の擦り傷、砂塵及び飛び石による傷、爪による引っ掻き傷等により剥がれ(チッピング)が生じるという問題がある。
【0003】
塗膜を保護するために、塗膜上にペイントプロテクションフィルム(以下、PPF)を用いることが提案されている。PPFは、多数の曲面を有する部材に沿って貼付させる必要がある。このため、PPFには、曲面性の高い部位にもフィルムが追従延伸することが必要とされる。したがって、フィルム基材としては、延伸性の高い熱可塑性ポリウレタンフィルムを用いることが多い。
【0004】
この熱可塑性ポリウレタンフィルムの作製方法としては、押出機とロール成形機を用いた連続シーティング法が一般的に用いられる。具体的には、単軸や二軸の押出機により溶融可塑化した熱可塑性ウレタン樹脂をTダイ法により連続的にフィルム形状に吐出し、一対の冷却ロールで挟持して固化させて、任意の厚みや表面形状のフィルムを得るのが一般的である。
【0005】
しかしながら、上記のTダイ法により作製した熱可塑性フィルムは、フィッシュアイと一般的に呼ばれる欠陥が発生しやすいという問題がある。フィッシュアイは、フィルム基材の原材料に起因するゲル状物による欠陥である。
【0006】
また、PPFは屋外環境で長い年月の間使用されるため、耐候性や汚染防止性も要求されるが、上記の熱可塑性ポリウレタンフィルムは、概ね未架橋であるため、紫外線などにより劣化し、防汚性や耐化学性を備えていない。
【0007】
特許文献1には、耐候性及び紫外線保護作用に優れるシートを提供するために、熱可塑性樹脂に複数種類の紫外線吸収剤と光安定剤を含有させる技術が開示されている。
【0008】
特許文献2には、分散安定性、耐溶剤性および耐熱性等に優れた水性ポリウレタン樹脂が開示されている。そこでは、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを含むポリイソシアネートと、高分子量ポリオールと、親水基を含有する活性水素化合物とを重合して得たプレポリマーを、水中で鎖伸長剤と反応させて水性エマルション化することにより、水性ポリウレタン樹脂を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2009-520859号公報
【特許文献2】特許第5545954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された方法により実使用年数で5~10年という耐候性能を発揮させるためには、紫外線吸収剤等の添加剤の含有量を増やす必要があるが、時間の経過と共に添加剤がフィルム表面に浮き出るブリードアウトが生じやすい。
【0011】
また、特許文献2に開示された水性ポリウレタン樹脂は、ポリウレタン樹脂を水性エマルション化する際に表面へカルボキシル基等の親水基を導入するが、この親水基が水分子と反応しやすい。PPFに要求される耐水性及び耐候性の基準は高いため、この水性ポリウレタン樹脂をPPFの材料として用いるためには、これら性能の更なる改善が求められる。
【0012】
本発明は、安価に製造することができ、耐候性及び防汚性に優れた自立膜としてのフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1側面によると、単層構造を有している自立膜としてのフィルムであって、ポリカーボネート系ポリオールを含むポリオール成分、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むイソシアネート成分、及び、カルボキシル基を含有する活性水素化合物の反応生成物であるイソシアネート基末端ウレタン系プレポリマーと、鎖伸長剤との反応生成物であるカルボキシル基を含む水性ポリウレタン樹脂(A)、及び、アダクト型、ビウレット型又はイソシアヌレート型イソシアネート化合物から選択される3官能以上のイソシアネート系架橋剤(B)を含むポリウレタン樹脂組成物の硬化物からなるフィルムが提供される。このフィルムにおいて、水性ポリウレタン樹脂(A)中の1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの含有率は20質量%以上であり、水性ポリウレタン樹脂(A)の酸価は45乃至200mgKOH/gの範囲であり、水性ポリウレタン樹脂(A)に含まれる上記カルボキシル基とイソシアネート系架橋剤(B)に含まれるイソシアネート基との当量比[COOH]/[NCO]は、0.6以上1.4以下である。
【0014】
本発明の第2側面によると、2以上の層を備えた多層構造であり、それらの層の少なくとも1つは、第1側面に係るフィルムである多層フィルムが提供される。
【0015】
本発明の第3側面によると、第1側面に係るフィルム、又は第2側面に係る多層フィルムを備えた車両外装塗膜の保護フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安価に製造することができ、耐候性及び防汚性に優れた自立膜としてのフィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルムを概略的に示す断面図。
【
図3】
図1に示すフィルムの応用例を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<フィルム>
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルムを概略的に示す断面図である。
このフィルム1は、単層構造を有している透明な自立膜である。ここで使用する用語「自立膜」とは、基板などの支持体によって支持されなくとも、それ自体を単独で取り扱うことができるフィルムを意味している。また、ここで使用する用語「フィルム」は、薄層形状及び可撓性を有している物品を意味し、厚さの概念は含まない。
【0020】
フィルム1は、後述するポリウレタン樹脂組成物の硬化物からなる。即ち、フィルム1は、ガラス、金属、炭素、タンパク質、セルロース、及び合成樹脂等の各種材料からなる織布又は不織布や、そのような材料からなる多孔質層を含んでいない。
【0021】
<ポリウレタン樹脂組成物>
ポリウレタン樹脂組成物は、水性ポリウレタン樹脂(A)と、イソシアネート架橋剤(B)を含み、表面調整剤(C)などの任意成分を更に含んでいてよい。ポリウレタン樹脂組成物は、一形態において、水分散液(ディスパージョン)であってよい。以下に、ポリウレタン樹脂組成物に含有される各成分について説明する。
【0022】
[水性ポリウレタン樹脂(A)]
水性ポリウレタン樹脂(A)は、イソシアネート基末端ウレタン系プレポリマーと、鎖伸長剤との反応により得られる。
(イソシアネート基末端ウレタン系プレポリマー)
イソシアネート基末端ウレタン系プレポリマー(以下、「ウレタン系プレポリマー」という。)は、ポリカーボネート系ポリオールを含むポリオール化合物、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むイソシアネート化合物、及び、カルボキシル基を含有する活性水素化合物を少なくとも反応させて得られる。
【0023】
(ポリオール化合物)
ポリオール化合物として、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等を使用することができるが、少なくともポリカーボネート系ポリオールを使用する。ポリカーボネート系ポリオールを使用することは、耐候性、機械強度の観点から好ましい。ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等のポリオールは、ポリカーボネートポリオールと併用する形態で使用することができる。耐変色性や透明性の観点からは、芳香族環式構造を有さない、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂肪族ポリエーテルポリオール、脂肪族ポリエステルポリオールを使用することが好ましい。
【0024】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、カーボネートとジオールとの反応生成物が挙げられる。ジオールとして2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)など、カーボネートとしてジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネートなどを用いたポリカーボネートポリオールを好適に使用することができる。
また、これら以外にも脂肪族環式構造を有するポリカーボネートポリオールでもよい。
【0025】
ポリエーテルポリオールとしては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの1種または2種以上を、2個以上の活性水素を有する化合物に付加重合せしめた生成物や、テトラヒドロフランを開環重合して得られるポリテトラメチレングリコール、テトラヒドロフランとアルキル置換テトラヒドロフランを共重合させた変性ポリテトラメチレングリコールや、ネオペンチルグリコールとテトラヒドロフランを共重合させた変性ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0026】
また、これら以外にも脂肪族環式構造を有するポリエーテルポリオールでもよい。
【0027】
ポリエステルポリオールとしては、例えば低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られる脂肪族ポリエステルポリオールや、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルや、これらの共重合ポリエステル等を使用することができる。
【0028】
また、これら以外にも脂肪族環式構造を有するポリエステルポリオールでもよい。
【0029】
アクリルポリオールとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどから選択される1以上のアクリルモノマー類を重合することにより得られるアクリルポリオールを使用することができる。
【0030】
ポリオール化合物の水酸基価は、ポリウレタン樹脂組成物の硬化物(以下において、「ポリウレタン硬化物」ともいう。)の破断強度及び破断伸びの観点から、好ましくは70~500mgKOH/g、更に好ましくは200~450mgKOH/gである。水酸基価が70mgKOH/g未満ではポリウレタン硬化物の破断強度が低下する傾向にあり、500mgKOH/gを超えるとポリウレタン樹脂の破断伸びが低下する傾向にある。水酸基価の分析方法はJIS K1557-1(2007年)に則り測定した。
【0031】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物として、少なくとも1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを使用する。1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを使用することにより、左右対称の長い鎖を作ることができ、分子同士がきれいに並ぶため、加水分解や紫外線による攻撃を受けにくくなる。この効果を損なわない範囲において、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン以外のイソシアネート化合物を併用することができる。
【0032】
1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンには、シス-1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(以下、シス1,4体とする。)、および、トランス-1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(以下、トランス1,4体とする。)の立体異性体がある。本発明の実施形態では、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとして、シス1,4体およびトランス1,4体の何れを用いてもよいし、双方を用いてもよい。本発明の実施形態において、トランス1,4体を、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの全量に対し、好ましくは50質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは70質量%100質量%以下、とりわけ好ましくは80質量%以上100質量%以下含有する。最も好ましくは、90質量%以上100質量%以下含有している。
【0033】
1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンは、例えば、特開平7-309827号公報に記載される冷熱2段法(直接法)や造塩法、あるいは、特開2004-244349号公報や特開2003-212835号公報などに記載されるホスゲンを使用しない方法などにより、製造することができる。
【0034】
また、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと併用できるイソシアネート化合物として、例えば、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトエチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトエチル)シクロヘキサン、2,5-または2,6-ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナンおよびその混合物などの脂環族ジイソシアネートが挙げられる。また、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-または2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0035】
さらに、水性ポリウレタン樹脂(A)の分散安定性、耐溶剤性、耐熱性および風合を損なわない範囲で、モノイソシアネートを併用することもできる。モノイソシアネートとしては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、n-ヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、2-エチルヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネートなどが挙げられる。
【0036】
1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと併用できるポリイソシアネートとして、好ましくは、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(別名:イソフォロンジイソシアネート(IPDI))、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2,5-または2,6-ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナンおよびその混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、ならびに上記した、これらポリイソシアネートの変性体が挙げられる。
【0037】
なお、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンには、シス-1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(以下、シス1,3体とする。)、および、トランス-1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(以下、トランス1,3体とする。)の立体異性体がある。1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと併用する場合には、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンは、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの全量に対し、トランス1,3体を、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%、とりわけ好ましくは90質量%以上含有させる。
【0038】
(カルボキシル基を含有する活性水素化合物)
カルボキシル基を含有する活性水素化合物は、カルボキシル基を含有し、かつ、活性水素基を2つ以上含む化合物である。活性水素基としては、イソシアネート基と反応する基であって、水酸基、アミノ基、エポキシ基などが挙げられる。
【0039】
カルボキシル基を含有する活性水素化合物としては、例えば、2,2-ジメチロール酢酸、2,2-ジメチロール乳酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸(以下、DMPAと略する。)、2,2-ジメチロールブタン酸(以下、DMBAと略する。)、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸などのジヒドロキシルカルボン酸、例えば、リジン、アルギニンなどのジアミノカルボン酸、または、それらの金属塩類やアンモニウム塩類などが挙げられる。これらカルボキシル基を含有する活性水素化合物は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0040】
カルボキシル基を含有する活性水素化合物として、好ましくはカルボキシル基含有ポリオールが挙げられ、特に好ましくは、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)が挙げられる。
【0041】
カルボキシル基を含有する活性水素化合物の配合比は、ポリオール化合物の総量100質量部に対して、例えば10質量部以上、好ましくは15質量部以上であり、また、例えば45質量部以下、好ましくは40質量部以下である。
【0042】
(ウレタン系プレポリマーの合成)
ウレタン系プレポリマーは、ポリオール化合物、イソシアネート化合物及びカルボキシル基を含有する活性水素化合物を、バルク重合や溶液重合などの公知の重合方法によって反応させることにより得ることができる。
【0043】
この反応において、ポリオール化合物に含まれる水酸基に対するイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基の当量比[NCO]/[OH]は、例えば1.2以上、好ましくは1.3以上であり、また、例えば3.0以下、好ましくは2.5以下である。
【0044】
バルク重合では、例えば、窒素雰囲気下、上記成分を配合して、反応温度75~85℃で、1~20時間程度反応させる。
【0045】
溶液重合では、例えば、窒素雰囲気下、有機溶媒(溶剤)に、上記成分を配合して、反応温度20~80℃で、1~20時間程度反応させる。
【0046】
有機溶媒としては、イソシアネート基に対して不活性で、かつ、親水性に富む、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N-メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0047】
また、上記重合では、必要に応じて、例えば、アミン系、スズ系、鉛系などの反応触媒を添加してもよく、また、得られるウレタン系プレポリマーから未反応のポリイソシアネートを、例えば、蒸留や抽出などの公知の方法により、除去することもできる。
【0048】
また、この方法では、好ましくは、ウレタン系プレポリマーに中和剤を添加して中和し、カルボキシル基の塩を形成させる。
【0049】
中和剤としては、慣用の塩基、例えば、有機塩基(例えば、第3級アミン類(トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの炭素数1~4のトリアルキルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン、モルホリンなどの複素環式アミンなど))、無機塩基(アンモニア、アルカリ金属水酸化物( 水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物( 水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなど)、アルカリ金属炭酸塩( 炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど))が挙げられる。これらの塩基は、単独使用または2 種類以上併用できる。
【0050】
中和剤は、カルボキシル基1当量あたり、例えば0.4当量以上、好ましくは、0.6当量以上の割合で添加し、また、例えば、1.2当量以下、好ましくは、1当量以下の割合で添加する。
【0051】
このようにして得られるウレタン系プレポリマーは、その分子末端に、少なくとも1つの遊離のイソシアネート基を有するイソシアネート基末端プレポリマーである。
【0052】
また、ウレタン系プレポリマーのカルボキシル基濃度は、例えば0.1mmol/g以上、好ましくは0.2mmol/g以上であり、また、例えば1.2mmol/g以下、好ましくは1.0mmol/g以下、より好ましくは、0.8mmol/g以下である。
【0053】
ウレタン系プレポリマーのカルボキシル基濃度が上記範囲にあれば、安定した水性ポリウレタン樹脂(A)の水分散液(ディスパージョン)を得ることができる。
【0054】
水性ポリウレタン樹脂(A)を得るには、次いで、上記により得られるウレタン系プレポリマーと鎖伸長剤とを反応させる。
【0055】
(鎖伸長剤)
鎖伸長剤としては、例えば、低分子量ポリオール、ポリアミン、アミノアルコールなどが挙げられる。
低分子量ポリオールとしては、例えば、上記した低分子量ポリオールが挙げられる。
【0056】
ポリアミンとしては、例えば、4,4´-ジフェニルメタンジアミンなどの芳香族ポリアミン、例えば、1,3-または1,4-キシリレンジアミンもしくはその混合物などの芳香脂肪族ポリアミン、例えば、3 - アミノメチル- 3 , 5 , 5 - トリメチルシクロヘキシルアミン(慣用名:イソホロンジアミン)、4,4´-ジシクロヘキシルメタンジアミン、2,5(2,6)-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,3-もしくは1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンまたはそれらの混合物、1,3-もしくは1,4-シクロヘキサンジアミンまたはそれらの混合物などの脂環族ポリアミン、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン(水和物を含む。)、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの脂肪族ポリアミンなどが挙げられる。
【0057】
アミノアルコールとしては、例えば、N-(2-アミノエチル)エタノールアミンなどが挙げられる。
【0058】
また、鎖伸長剤として、例えば、アルコキシシリル基を含有する活性水素化合物が挙げられる。アルコキシシリル基を含有する活性水素化合物として、具体的には、例えば、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルジエトキシシラン、N,N´-ビス〔γ-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミンなどが挙げられる。好ましくは、N - β ( アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランが挙げられる。
【0059】
これら鎖伸長剤は、単独または2 種類以上併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、ポリアミンとアルコキシシリル基を含有する活性水素化合物との併用が挙げられる。
【0060】
(水性ポリウレタン樹脂(A)の合成)
水性ポリウレタン樹脂(A)は、上記により得られるウレタン系プレポリマー(イソシアネート基末端プレポリマー)と鎖伸長剤とを水中で反応させて分散させる。これによって、ウレタン系プレポリマーが鎖伸長剤によって鎖伸長された水性ポリウレタン樹脂(A)を、水分散液(ディスパージョン)として得ることができる。
【0061】
ウレタン系プレポリマーと鎖伸長剤とを水中で反応させるには、例えば、まず、ウレタン系プレポリマーを水に添加して、ウレタン系プレポリマーを分散させる。次いで、これに鎖伸長剤を添加して、ウレタン系プレポリマーを鎖伸長する。
【0062】
ウレタン系プレポリマーを分散させるには、攪拌下、ウレタン系プレポリマーを水に徐々に添加する。水は、ウレタン系プレポリマー100質量部に対して、好ましくは60~1000質量部の割合となるように添加される。
【0063】
そして、水中に分散したウレタン系プレポリマーに鎖伸長剤を、攪拌下、末端にイソシアネート基を有するウレタン系プレポリマーのイソシアネート基に対する鎖伸長剤の活性水素基(水酸基およびアミノ基など)の当量比(活性水素基/イソシアネート基)が、例えば、0.5~1.1、好ましくは、0.7~1の割合となるように、添加する。
【0064】
また、鎖伸長剤としてジアミン(アルコキシシリル基を含有するジアミンを含む)を用いる場合には、そのアミノ基は、ウレタン系プレポリマーのイソシアネート基との反応性が高く、また、反応により生成されるウレア結合は、分子間凝集力が非常に高いことから、鎖伸長剤とイソシアネートモノマーとの局所的な反応の低減が必要である。そのため、鎖伸長剤は、好ましくは、水溶液もしくは溶液として配合する。水溶液もしくは溶液中のジアミンの濃度は、少なくとも20質量%が好ましく、さらに好ましくは、少なくとも50質量%である。また、鎖伸長剤は、好ましくは、40℃以下の温度で添加し、添加終了後は、さらに撹拌しつつ、例えば、常温にて反応を完結させる。
【0065】
なお、イソシアネート基末端プレポリマーが溶液重合により得られている場合には、イソシアネート基末端プレポリマーの反応終了後に、有機溶媒を、例えば、減圧下において、適宜の温度で加熱することにより除去する。
【0066】
このようにして得られる水性ポリウレタン樹脂(A)の水分散液(ディスパージョン)は、その固形分が、例えば10~70質量%、好ましくは20~50質量%となるように調製される。
【0067】
水性ポリウレタン樹脂(A)の酸価は、機械強度や耐摩耗性の観点から、45乃至200mgKOH/gの範囲であり、好ましくは45乃至100mgKOH/gの範囲である。酸価の分析方法はJIS K-0070(1992年)に則り測定した。
【0068】
また、この水性ポリウレタン樹脂(A)に含有される1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの含有率は、耐候性の観点から、20質量%以上であり、好ましくは、25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である。また、水性ポリウレタン(A)に含有される1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの含有率は、例えば、50質量%以下である。
【0069】
また、この水性ポリウレタン樹脂(A)は、その数平均分子量(標準ポリスチレンを検量線とするGPC測定による数平均分子量)が、例えば、3,000~100,000、好ましくは、5,000~80,000である。
【0070】
[イソシアネート系架橋剤(B)]
上記により得られる水性ポリウレタン樹脂(A)の水分散液(ディスパージョン)とイソシアネート系架橋剤(B)とを混合することによりポリウレタン樹脂組成物が得られる。
イソシアネート系架橋剤(B)は、アダクト型、ビウレット型又はイソシアヌレート型イソシアネート化合物から選択される3官能以上のイソシアネート化合物である。水性ポリウレタン樹脂(A)が3官能以上のイソシアネート系架橋剤(B)で架橋されることにより、ポリウレタン硬化物に強固な機械強度と高い熱安定性が付与される。
【0071】
3官能以上のアダクト型イソシアネート化合物としては、2官能のイソシアネート化合物(分子中に2つのイソシアネート基を有する化合物)と分子中に3つ以上の活性水素基を有する化合物(3官能以上の例えばポリオール、ポリアミン又はポリチオール)とのアダクト体(付加物)が挙げられる。
【0072】
3官能以上のビウレット型又はイソシアヌレート型イソシアネート化合物としては、2官能のイソシアネート化合物の3量体(ビウレット構造又はイソシアヌレート構造)が挙げられる。
【0073】
3官能以上のアダクト型、ビウレット型又はイソシアヌレート型イソシアネート化合物が含む2官能のイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が挙げられる。耐候性の観点からは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が好ましい。
【0074】
3官能以上のアダクト型イソシアネート化合物は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、三井化学(株)のタケネート(登録商標)D-110N、D-120N、D-140N、及びD-160Nなどが挙げられる。
【0075】
3官能以上のビウレット型イソシアネート化合物は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、タケネート(登録商標)D-165N、NP1100(三井化学株式会社製)、スミジュール(登録商標)N3210(住化バイエルウレタン株式会社製)、デュラネート(登録商標)24A-100(旭化成株式会社製)などが挙げられる。
【0076】
3官能以上のイソシアヌレート型イソシアネート化合物は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、タケネート(登録商標)D-127N、D-170N、D-170HN、D-172N、D-177N(三井化学株式会社製)、スミジュールN3300、デスモジュール(登録商標)N3600、N3900、Z4470BA(住化バイエルウレタン) 、コロネート( 登録商標) H X 、H K ( 日本ポリウレタン株式会社製) 、デュラネート(登録商標)TPA-100、TKA-100、TSA-100、TSS -100、TLA-100、TSE-100(旭化成株式会社製)などが挙げられる。
【0077】
イソシアネート系架橋剤(B)における、イソシアネート基(NCO)の含有率は、ポリウレタン硬化物の破断強度及び破断伸びの観点から、好ましくは10~30質量%の範囲内にあり、更に好ましくは10~25質量%の範囲内にある。
【0078】
ポリウレタン樹脂組成物に含有される水性ポリウレタン(A)とイソシアネート系架橋剤(B)との配合比は、水性ポリウレタン樹脂(A)に含まれるカルボキシル基のモル数と、イソシアネート系架橋剤(B)に含まれるイソシアネート基のモル数との比である当量比[COOH]/[NCO]が、0.6以上1.4以下の範囲となるように調整される。当量比[COOH]/[NCO]がこの範囲となるよう調整することは、耐候性の観点から好ましい。当量比[COOH]/[NCO]は、好ましくは0.8以上1.2以下である。
【0079】
[表面調整剤(C)]
ポリウレタン樹脂組成物は、表面調整剤(C)を更に含有していてもよい。表面調整剤(C)としては、公知又は慣用のレベリング剤を使用することができる。中でも、硬化性樹脂組成物の表面張力の低下性能により優れる観点から、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤が好ましい。
【0080】
上記シリコーン系レベリング剤としては、市販のシリコーン系レベリング剤を使用できる。市販のシリコーン系レベリング剤としては、例えば、商品名「BYK-300」、「BYK-301/302」、「BYK-306」、「BYK-307」、「BYK-310」、「BYK-315」、「BYK-313」、「BYK-320」、「BYK-322」、「BYK-323」、「BYK-325」、「BYK-330」、「BYK-331」、「BYK-333」、「BYK-337」、「BYK-341」、「BYK-344」、「BYK-345/346」、「BYK-347」、「BYK-348」、「BYK-349」、「BYK-370」、「BYK-375」、「BYK-377」、「BYK-378」、「BYK-UV3500」、「BYK-UV3510」、「BYK-UV3570」、「BYK-3550」、「BYK-SILCLEAN3700」、「BYK-SILCLEAN3720」(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製);商品名「AC FS 180」、「AC FS 360」、「AC S 20」(以上、Algin Chemie製);商品名「ポリフローKL-400X」、「ポリフローKL-400HF」、「ポリフローKL-401」、「ポリフローKL-402」、「ポリフローKL-403」、「ポリフローKL-404」(以上、共栄社化学(株)製);商品名「KP-323」、「KP-326」、「KP-341」、「KP-104」、「KP-110」、「KP-112」(以上、信越化学工業(株)製);商品名「LP-7001」、「LP-7002」、「8032 ADDITIVE」、「57 ADDITIVE」、「L-7604」、「FZ-2110」、「FZ-2105」、「67 ADDITIVE」、「8618 ADDITIVE」、「3 ADDITIVE」、「56 ADDITIVE」(以上、東レ・ダウコーニング(株)製)等が挙げられる。
【0081】
上記フッ素系レベリング剤としては、市販のフッ素系レベリング剤を使用できる。市販のフッ素系レベリング剤としては、例えば、商品名「オプツール DSX」、「オプツール DAC-HP」(ダイキン工業(株)製);商品名「サーフロン S-242」、「サーフロン S-243」、「サーフロン S-420」、「サーフロン S-611」、「サーフロン S-651」、「サーフロン S-386」(AGCセイミケミカル(株)製);商品名「BYK-340」(ビックケミー・ジャパン(株)製);商品名「AC 110a」、「AC 100a」(以上、Algin Chemie製);商品名「メガファックF-114」、「メガファックF-410」、「メガファックF-444」、「メガファックEXP TP-2066」、「メガファックF-430」、「メガファックF-472SF」、「メガファックF-477」、「メガファックF-552」、「メガファックF-553」、「メガファックF-554」、「メガファックF-555」、「メガファックR-94」、「メガファックRS-72-K」、「メガファックRS-75」、「メガファックF-556」、「メガファックEXP TF-1367」、「メガファックEXP TF-1437」、「メガファックF-558」、「メガファックEXP TF-1537」(以上、DIC(株)製);商品名「FC-4430」、「FC-4432」(以上、住友スリーエム(株)製);商品名「フタージェント 100」、「フタージェント 100C」、「フタージェント 110」、「フタージェント 150」、「フタージェント 150CH」、「フタージェント A-K」、「フタージェント 501」、「フタージェント 250」、「フタージェント 251」、「フタージェント 222F」、「フタージェント 208G」、「フタージェント 300」、「フタージェント 310」、「フタージェント 400SW」(以上、(株)ネオス製);商品名「PF-136A」、「PF-156A」、「PF-151N」、「PF-636」、「PF-6320」、「PF-656」、「PF-6520」、「PF-651」、「PF-652」、「PF-3320」(以上、北村化学産業(株)製)等が挙げられる。
【0082】
上記レベリング剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合、例えば、2種以上のシリコーン系レベリング剤、2種以上のフッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤とフッ素系レベリング剤との組み合わせ等が挙げられる。
【0083】
表面調整剤(C)の配合量は、水性ポリウレタン樹脂(A)とイソシアネート系架橋剤(B)との合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であり、より好ましくは0.5~2質量部であり、更に好ましくは0.8~1.質量部である。
【0084】
[その他の成分(D)]
ポリウレタン樹脂組成物は、必要に応じて、他の成分(D)を更に含有することができる。
ポリウレタン樹脂組成物は、他の成分(D)として、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤(HALS等)、つや消し剤(シリカ、ガラス粉、金属酸化物等)、着色剤(染料、顔料等)、光拡散剤、低収縮剤、沈降防止剤、消泡剤、帯電防止剤、防曇剤、分散剤、増粘剤、タレ止め剤、乾燥剤、レベリング剤、カップリング剤、付着促進剤、防錆顔料、熱安定剤、皮膜物質改質剤、スリップ剤、スリキズ剤、可塑剤、防菌剤、防カビ剤、防汚剤、難燃剤、重合防止剤、光重合促進剤、増感剤、熱開始剤(熱カチオン重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤)、及び離型剤等の添加剤の1以上を更に含有していてもよい。
【0085】
他の成分(D)の配合量(2種以上含有する場合は合計の配合量)は、水性ポリウレタン樹脂(A)とイソシアネート系架橋剤(B)との合計量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。
【0086】
<ポリウレタン樹脂組成物の調製>
上記のポリウレタン樹脂組成物は、上述した成分を均一に混合することにより得る。この混合には、例えば、特に限定されないが、ディスパーミキサ、ウルトラミキサ、ホモジナイザ、及び遊星攪拌脱泡機等の攪拌機を用いることができる。
【0087】
<フィルムの製造>
図1に示すフィルム1は、例えば、上記のポリウレタン樹脂組成物(ディスパージョン)からなる塗膜を支持体上に形成し、塗膜を加熱し溶媒となる水を乾燥させたうえで硬化させ、その後、硬化した膜を支持体から剥離することにより得る。フィルム1の製造には、例えば、
図2に示す装置を利用することができる。
【0088】
図2は、フィルム製造装置の一例を概略的に示す図である。
このフィルム製造装置100は、ロール・ツー・ロール式のダイコータである。このフィルム製造装置は、巻出ロール110と、キャリアフィルム120と、ガイドロール130a乃至130eと、バックアップロール140と、ダイヘッド150と、ヒータ160と、剥離ロール170と、巻取ロール180a及び180bとを含んでいる。
【0089】
巻出ロール110には、キャリアフィルム120が巻かれている。巻出ロール110は、キャリアフィルム120を巻き出す。
【0090】
キャリアフィルム120は、ベルト形状を有している。キャリアフィルム120上には、上述したポリウレタン樹脂組成物を塗布し、このキャリアフィルム120上でポリウレタン樹脂組成物からなる塗膜の硬化を行う。
【0091】
キャリアフィルム120は、樹脂組成物の硬化物を剥離可能に支持し得るものである。キャリアフィルム120としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、セルロースアセテートフタレートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム(CAPフィルム)、セルローストリアセテート及びセルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体からなるフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン樹脂系フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホン系フィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、アクリルフィルム、及びポリアリレート系フィルムを挙げることができる。
【0092】
キャリアフィルム120の厚さは、制限を設けるわけではないが、6乃至700μmの範囲内にあることが好ましく、40乃至250μmの範囲内にあることがより好ましく、50乃至150μmの範囲内にあることが更に好ましい。
【0093】
ガイドロール130a乃至130eは、巻出ロール110から巻き出されたキャリアフィルム120を、ダイヘッド150とバックアップロール140との間の領域、ヒータ160、及び巻取ロール180aへと順次案内する。
【0094】
バックアップロール140は、ダイヘッド150と向き合うように設置されている。バックアップロール140は、ダイヘッド150とバックアップロール140との間を通過するキャリアフィルム120の裏面上を転動して、キャリアフィルム120とダイヘッド150との距離を一定に保つ役割を果たす。
【0095】
ダイヘッド150は、ダイヘッド150とバックアップロール140との間を通過するキャリアフィルム120の表面上に樹脂組成物を供給する。これにより、キャリアフィルム120の表面上に、樹脂組成物からなる塗膜を形成する。
【0096】
ここでは、樹脂組成物の塗工にダイヘッド150を利用するダイコート法について説明しているが、樹脂組成物の塗工には他の方法を利用してもよい。樹脂組成物の塗工には、例えば、ディッピング法、ワイヤーバーを使用する方法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、カーテン法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、及びグラビアオフセット法等の周知の方法を用いることができる。
【0097】
ポリウレタン樹脂組成物からなる塗膜の硬化後の厚さ、即ち、フィルム1の厚さは、1乃至400μmの範囲内にあることが好ましい。薄すぎる場合、フィルム1の強度が低く、フィルム1がキャリアフィルム120から剥離する際に破断してしまう可能性が高い。厚すぎる場合、過度の剛性を発揮して塗装面等の曲面への追従性が低下したり、浮きが発生したりする可能性がある。
【0098】
ヒータ160は、塗膜の乾燥・硬化を行う。加熱温度は、80乃至120℃の範囲内とすることが好ましい。加熱時間は、30乃至1200秒の範囲内とすることが好ましい。
【0099】
ヒータ160による加熱には、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、及び赤外線照射等の加熱方法を、単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
剥離ロール170は、キャリアフィルム120に支持されたフィルム1上を転動するように設置されている。剥離ロール180は、キャリアフィルム120の移動方向に対して、フィルム1の移動方向を急激且つ大きく異ならしめ、これにより、フィルム1をキャリアフィルム120から剥離する。
【0100】
巻取ロール180aは、フィルム1を剥離したキャリアフィルム120を巻き取る。また、巻取ロール180bは、キャリアフィルム120から剥離したフィルム1を巻き取る。
【0101】
巻取ロール180aは、キャリアフィルム120に張力を与える。巻取ロール180aがキャリアフィルム120に与える張力は、キャリアフィルム120の厚さや材質によって異なるが、10乃至500N/mの範囲内とすることが好ましい。
【0102】
フィルム1は、360乃至760nmの波長領域における全光線平均透過率が90%以上であることが好ましい。平均透過率が90%以上であると、フィルム1は高い透明性を有する。全光線平均透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠した方法を用いて測定することができる。なお、この波長領域は、可視光線領域に相当する。
【0103】
フィルム1は、ヘイズ値が2%未満であることが好ましい。また、フィルム1は、60℃の温度及び95%の相対湿度の条件下で、1000時間にわたって耐湿熱試験を行い、その後、ヘイズ測定を行うことにより得られるヘイズ値が2%未満であることが好ましい。ヘイズ値は、JIS K7136:2000に準拠した方法を用いて測定することができる。フィルム1は、小さなヘイズ値を有している場合、高い透明性を有する。
【0104】
フィルム1は、黄色度(YI値)が1未満であることが好ましい。また、フィルム1は、180W/m2の照度、63℃のブラックパネル温度及び60%の相対湿度の条件下で、1000時間にわたってキセノンウェザーメーター試験を行い、その後、色相評価を行うことにより得られる黄色度(YI値)が1未満であることが好ましい。黄色度(YI)は、JIS K7373:2006に準拠した方法を用いて測定することができる。
【0105】
フィルム1は、破断引張強度が10乃至50MPaの範囲内にあることが好ましい。破断引張強度は、JIS K7127:1999に準拠した方法を用いて測定することができる。フィルム1は、破断引張強度が上記範囲内にある場合、高い機械的強度を有する。
【0106】
フィルム1は、破断引張伸度が50乃至600%の範囲内にあることが好ましい。破断引張伸度は、JIS K7127:1999に準拠した方法を用いて測定することができる。フィルム1は、破断引張伸度が上記範囲内にある場合、高い機械的強度を有する。
【0107】
フィルム1は、ヤング率が20乃至200MPaの範囲内にあることが好ましい。ヤング率は、JIS K7127:1999に準拠した方法を用いて測定することができる。フィルム1は、ヤング率が上記範囲内にある場合、可撓性に優れる。
【0108】
フィルム1は、ガラス転移温度Tgが0乃至50℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移温度Tgは、JIS K7121:1987に準拠した方法を用いて測定することができる。ガラス転移温度Tgが上記範囲内にあるフィルム1は、容易に製造することができる。
【0109】
フィルム1は、水接触角が95°以上であることが好ましい。水接触角は、具体的には、周囲温度及び周囲圧力における水接触角である。水接触角が95°以上であるフィルム1は、撥水性に優れる。
【0110】
フィルム1は、オレイン酸接触角が50°以上であることが好ましい。オレイン酸接触角は、具体的には、周囲温度及び周囲圧力におけるオレイン酸接触角である。オレイン酸接触角が50°以上であるフィルム1は、撥油性に優れる。
【0111】
上記の通り、このフィルム1は、ガラス繊維布などの基材を含んでいない。従って、このフィルム1は、ガラス繊維布などの基材を含んだフィルムと比較して、透明性やコストの点で有利である。また、このフィルム1は、上述したポリウレタン樹脂組成物から得られる。このようなフィルム1は、耐候性及び防汚性に優れている。即ち、このフィルム1は、耐候性及び防汚性に優れた自立膜としてのフィルムである。また、このフィルム1は、一例によると、安価に製造することができ、透明性及び可撓性にも優れている。
【0112】
<フィルムの応用例>
図3は、
図1に示すフィルムの応用例を概略的に示す断面図である。
図3には、
図1に示すフィルム1を含んだ多層フィルム10を描いている。多層フィルム10は、例えば、保護フィルムである。
【0113】
多層フィルム10は、第1層としてのフィルム1に加え、第2層2を含んでいる。フィルム1と第2層2とは多層構造を形成している。なお、
図3には、フィルム1以外の層として第2層2のみを描いているが、多層フィルム10は、フィルム1以外の層を、2以上含んでいてもよい。
【0114】
第2層2は、自立膜であってもよく、それ自体を単独で取り扱うことができない膜であってもよい。後者の場合、フィルム1は、第2層2の基材としての役割を果たす。
【0115】
第2層2は、例えば、自己修復層、ハードコート層、又は光触媒層である。またさらに、粘着層及びセパレートフィルムをこの順に積層してもよい。この場合は、セパレートフィルムを剥離して粘着層を露出させて、被対象物に貼り付けることができる。多層フィルム10がフィルム1以外の層を2以上含んでいる場合、フィルム1以外の2以上の層は、自己修復層、ハードコート層、及び光触媒層からなる群より選ばれる2以上を含んでいてもよい。
【0116】
上記の通り、フィルム1は、安価に製造することができ、耐候性及び防汚性に優れている。従って、このフィルム1を用いて得られる多層フィルム10も、安価に製造することができ、優れた耐候性及び防汚性を有し得る。
【0117】
フィルム1や多層フィルム10は、自動車、トラック、オートバイ、列車、航空機、海洋車両、及びスノーモービルの外面に貼り付けられる。代替実施形態において、複合フィルムは、自動車以外の構造物の表面、例えば付属品、建物及び建築用表面に貼り付けることができる。これらのフィルムの用途は事実上、主に室内又は屋外のいずれかであってよい。特に、低表面エネルギー及びクリーニング容易特性のためだけでなく、非常に可撓性がありながら、優れた耐候性、耐薬品性も示すため、屋外で有利である。
【実施例0118】
以下に、本発明の実施例を記載する。
<実施例1>
図1に示すフィルム1を以下の手順で作製した。
先ず、水性ポリウレタン樹脂(A)とイソシアネート系架橋剤(B)を、水性ポリウレタン樹脂(A)のカルボキシル基と、イソシアネート系架橋剤(B)のイソシアネート基との当量比[COOH]/[NCO]=1となるよう配合比を調整して混合した。次いで、水性ポリウレタン樹脂(A)とイソシアネート系架橋剤(B)との合計量100質量部に対して1質量部の表面調整剤(C)を加え、遊星攪拌脱泡機(マゼルスターKK5000、KURABO製)を用いて15分間攪拌して、塗液を調製した。
【0119】
ここで、水性ポリウレタン樹脂(A)としては、フォルティモ(三井化学(株)製)を使用した。フォルティモは、水性ポリウレタン樹脂(A)の水分散液であり、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとカルボキシル基含有活性水素化合物との反応生成物であるウレタン系プレポリマーと、鎖伸長剤との反応生成物である水性ポリウレタン樹脂である。この水性ポリウレタン樹脂において、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの含有率は20質量%以上であり、酸価は45乃至200mgKOH/gの範囲内である。
【0120】
また、イソシアネート架橋剤(B)としては、タケネート(登録商標)WD-725(三井化学(株)製)を使用した。タケネートWD-725は、アダクト型、ビウレット型又はイソシアヌレート型イソシアネート化合物から選択される3官能以上のイソシアネート系架橋剤に該当する。
【0121】
そして、表面調整剤(C)としては、BYK-345(ビックケミー・ジャパン(株))を使用した。BYK-345は、シリコーン系レベリング剤である。
【0122】
次に、この塗液を用いて、
図2を参照しながら説明した方法により、厚さが100μmのフィルム1を製造した。ここでは、キャリアフィルム120として、厚さが100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製離型フィルム(パナピールPET100TP03、パナック(株)製)を使用した。加熱は、120℃にて600秒にわたって行った。なお、キャリアフィルム120は、50N/mの張力で巻き取った。
【0123】
<実施例2>
水性ポリウレタン樹脂(A)のカルボキシル基とイソシアネート系架橋剤(B)のイソシアネート基の当量比を[COOH]/[NCO]=0.8に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製した。
【0124】
<実施例3>
水性ポリウレタン樹脂(A)のカルボキシル基とイソシアネート系架橋剤(B)のイソシアネート基の当量比を[COOH]/[NCO]=1.2に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製した。
【0125】
<比較例1>
ポリウレタン樹脂組成物として、水性ポリウレタンエマルションW-6110(三井化学(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製した。
【0126】
<比較例2>
基材フィルムとして、ポリカプロラクタン系熱可塑性ポリウレタンフィルム(エスマーURS PX、日本マタイ(株)製、厚さ100μm)の表面側に、UV硬化性ウレタンアクリレート(AUP787、(株)トクシキ製、固形分50質量%)を乾燥後の厚さが10μmとなるように塗布し、90℃、3分で乾燥させ、保護層を形成した。乾燥後400mJ/cm2のUV照射条件で硬化させて、厚さ110μmのポリウレタンフィルムを得た。
【0127】
<比較例3>
水性ポリウレタン樹脂(A)のカルボキシル基とイソシアネート系架橋剤(B)のイソシアネート基の当量比を[COOH]/[NCO]=0.5に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製した。
【0128】
<比較例4>
水性ポリウレタン樹脂(A)のカルボキシル基とイソシアネート系架橋剤(B)のイソシアネート基の当量比を[COOH]/[NCO]=1.5に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によりフィルムを作製した。
【0129】
<評価方法>
(全光線平均透過率、ヘイズ、黄色度)
全光線平均透過率はJIS K7361-1:1997、ヘイズはJIS K7136:2000、黄色度(YI)はJIS K7373:2006に準拠して評価し、それぞれ以下の基準で判定した。
全光線平均透過率:90%以上の場合「A」、90%未満の場合「B」
ヘイズ :2%未満の場合「A」、2%以上の場合「B」
黄色度 :1未満の場合「A」、1以上の場合「B」
【0130】
(フィルム外観)
フィルムをA4サイズに切り出し、メック(株)製フィッシュアイカウンターを用いて、表面積0.01mm2以上のフィッシュアイを選択した後、顕微鏡観察により、選択したフィッシュアイのうち熱劣化に起因するもの、即ち、異物由来でないもの、言い換えると輪郭のないものを計数した。検査面積は0.04m2実施した。フィッシュアイがない場合を「A」、1個以上の場合を「B」とした。
【0131】
(撥水性の評価)
フィルムを100mm×50mmのサイズに切り出して試験サンプルを作製した。23℃、45%RHの雰囲気下で、接触角計(協和界面科学(株)製の「DM500」)の試験台に、試験サンプルを粘着テープで固定する。サンプル上に純水を2μL滴下して、サンプル表面と純水の接触角を測定し、接触角が95°以上の場合を「A」、接触角が95°未満の場合を「B」とした。
【0132】
(撥油性の評価)
フィルムを100mm×50mmのサイズに切り出して試験サンプルを作製した。23℃、45%RHの雰囲気下で、接触角計(協和界面科学(株)製の「DM500」)の試験台に、試験サンプルを粘着テープで固定する。サンプル上にオレイン酸を2μL滴下して、サンプル表面とオレイン酸の接触角を測定し、接触角が50°以上の場合を「A」、接触角が50°未満の場合を「B」とした。
【0133】
(耐候性試験:黄色度、ヘイズ、破断引張伸度)
(i)黄色度
・キセノンウェザーメーター試験
キセノンウェザーメーター(アイスーパーUV テスターSUV-W161、岩崎電気(株))を用い、下記の条件で黄色度測定用のフィルムを用意した。
照度 :180W/m2
温度 :63℃
相対湿度:60%RH
照射時間:1000時間
【0134】
・黄色度測定
フィルムの黄色度を、以下の基準で判定した。即ち、上記キセノンウェザーメーター試験後のフィルムの黄色度(YI値)を、JIS K7373:2006に準拠して測定した。黄色度(YI)が1未満の場合を「A」、黄色度(YI)が1以上の場合を「B」と評価した。
【0135】
(ii)ヘイズ及び破断引張伸度
・耐湿熱試験
エスペック社製の高度加速寿命試験装置EHS-211を用いて耐湿熱試験を行った。耐湿熱試験は、温度が60℃であり、相対湿度が95%である条件で、1000時間にわたって行った。
【0136】
・ヘイズ測定
フィルムのヘイズを、以下の基準で判定した。即ち、上記耐湿熱試験後のフィルムのヘイズを、JIS K7136:2000に準拠して測定した。ヘイズが2%未満の場合を「A」、ヘイズが2%以上の場合を「B」と評価した。
【0137】
・破断引張伸度測定
フィルムの破断引張伸度を、以下の基準で判定した。即ち、上記耐湿熱試験後の破断引張伸度保持率が90%以上の場合を「A」と判定した。そして、耐湿熱試験後の破断引張伸度保持率が90%未満の場合を「B」と判定した。破断引張伸度保持率は以下の式より算出した。
破断引張伸度保持率(%)=破断引張伸度(耐湿熱試験後)/破断引張伸度(耐湿熱試験前)×100
破断引張伸度は、島津製作所社製の卓上形精密万能試験機AGS-Xを用いて、フィルムの流れ方向(Machine Direction;MD)の引張特性試験を行うことにより得た。なお、試験片の寸法は、幅が15mmであり、長さが150mmであった。また、この試験は、チャック間距離を100mmとし、引張速度を300mm/分として行った。
【0138】
(耐低温環境性)
比較例2のポリウレタンフィルムに対し、以下の方法により耐低温環境性の評価を行った。まず、基材フィルムの保護層を設けた面の裏面側に、アクリル系粘着剤を40μmの厚さで塗工した。その後、アルミバット(アズワン、浅3号)の縁に、この粘着剤付きポリウレタンフィルムを200%に延伸して貼りあわせた。次いで、これを-20℃の冷凍機に2時間放置し、その後、基材フィルムと保護層との密着性を評価した。具体的には、粘着テープをポリウレタンフィルムの縁に圧着させ、これを剥がそうとしたときに、フィルムの破壊、具体的には基材フィルムと保護層との層間剥離を生じるか確認した。
【0139】
また、これと同様の評価を、実施例1乃至3及び比較例1、3乃至4のフィルムに対しても行った。これらフィルムは単層構造を有している(コート層を有していない)ので、冷凍機に放置後に、粘着テープをフィルムの縁に圧着させて剥がそうとしたときに、フィルムの破壊を生じるか確認した。
【0140】
そして、フィルムの破壊を生じた場合を「B」と評価し、フィルムの破壊を生じなかった場合を「A」と評価した。
【0141】
【0142】
表1に示すように、実施例1乃至3に係るフィルムは、外観、防汚性、耐候性、及び耐低温環境性の全てについて優れた性能を示した。これに対し、比較例1乃至4に係るフィルムは、外観、防汚性、耐候性、及び耐低温環境性の少なくとも1つの性能が不十分であった。
【0143】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
1…フィルム(第1層)、2…第2層、10…多層フィルム、100…フィルム製造装置、110…巻出ロール、120…キャリアフィルム、130a乃至130e…ガイドロール、140…バックアップロール、150…ダイヘッド、160…ヒータ、170…剥離ロール、180a及び180b…巻取ロール。