(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122112
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】イオン注入装置およびイオン注入方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20220815BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20220815BHJP
H01J 37/12 20060101ALI20220815BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
H01J37/317
H01J37/147 D
H01J37/12
H01L21/265 603Z
H01L21/265 T
H01L21/265 603A
H01L21/265 603B
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019204
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和久
(72)【発明者】
【氏名】工藤 哲也
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101HH02
5C101HH05
5C101JJ06
(57)【要約】
【課題】動作パラメータの調整を迅速化する。
【解決手段】イオン注入装置は、ウェハに照射されるイオンビームを生成するビーム生成装置と、ビーム生成装置の動作を制御するための複数の動作パラメータを設定する制御装置52と、イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を測定する測定装置と、複数の動作パラメータの設定値のセットと、イオンビームの少なくとも一つのビーム特性の測定値とを対応付けたデータセットを蓄積する記憶装置56と、記憶装置56に蓄積された複数のデータセットに基づいて、複数の動作パラメータに含まれる少なくとも一つの特定パラメータの設定値から少なくとも一つのビーム特性を推定するための関数を生成する分析装置54と、を備える。制御装置52は、複数の動作パラメータの設定値を変更する場合、関数に少なくとも一つの特定パラメータの変更後の設定値を入力して、少なくとも一つのビーム特性の推定値を算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハに照射されるイオンビームを生成するビーム生成装置と、
前記ビーム生成装置の動作を制御するための複数の動作パラメータを設定する制御装置と、
前記イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を測定する測定装置と、
前記複数の動作パラメータの設定値のセットと、前記イオンビームの前記少なくとも一つのビーム特性の測定値とを対応付けたデータセットを蓄積する記憶装置と、
前記記憶装置に蓄積された複数のデータセットに基づいて、前記複数の動作パラメータに含まれる少なくとも一つの特定パラメータの設定値から前記少なくとも一つのビーム特性を推定するための関数を生成する分析装置と、を備え、
前記制御装置は、前記複数の動作パラメータの設定値を変更する場合、前記関数に前記少なくとも一つの特定パラメータの変更後の設定値を入力して、前記少なくとも一つのビーム特性の推定値を算出することを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記推定値に基づいて、前記複数の動作パラメータの少なくとも一つを調整することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記推定値が所定条件を満たす場合、前記測定装置による前記少なくとも一つのビーム特性の測定をスキップさせることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記推定値が所定条件を満たさない場合、前記測定装置に前記少なくとも一つのビーム特性を測定させることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記少なくとも一つのビーム特性の測定値と、前記関数とに基づいて、前記複数の動作パラメータの少なくとも一つを調整することを特徴とする請求項4に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記分析装置は、前記記憶装置に新規データセットが蓄積された場合、前記新規データセットを用いて前記関数を更新することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記分析装置は、前記記憶装置に蓄積される複数のデータセットを複数のクラスタに分類し、前記複数のクラスタのそれぞれに対応する複数の関数を生成し、
前記制御装置は、前記複数の関数のいずれかを用いて前記推定値を算出することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記複数の動作パラメータの変更後の設定値が前記複数のクラスタのいずれに分類されるかを特定し、前記特定したクラスタに対応する関数を用いて前記推定値を算出することを特徴とする請求項7に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記測定装置は、前記複数の動作パラメータの変更後の設定値が設定された前記ビーム生成装置により生成される前記イオンビームの第1ビーム特性を測定し、
前記制御装置は、前記変更後の設定値および前記第1ビーム特性の測定値を含むデータセットが前記複数のクラスタのいずれに分類されるかを特定し、前記特定したクラスタに対応する関数を用いて前記第1ビーム特性とは異なる第2ビーム特性の推定値を算出することを特徴とする請求項7に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記複数の動作パラメータの変更前の設定値が前記複数のクラスタのいずれに分類されるかを特定し、前記特定したクラスタに対応する関数を用いて前記推定値を算出することを特徴とする請求項7に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記測定装置は、前記複数の動作パラメータの変更前の設定値が設定された前記ビーム生成装置により生成される前記イオンビームの第1ビーム特性を測定し、
前記制御装置は、前記変更前の設定値および前記第1ビーム特性の測定値を含むデータセットが前記複数のクラスタのいずれに分類されるかを特定し、前記特定したクラスタに対応する関数を用いて前記第1ビーム特性とは異なる第2ビーム特性の推定値を算出することを特徴とする請求項7に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
前記分析装置は、前記少なくとも一つの特定パラメータとは異なる二以上の動作パラメータの設定値の間の相関に基づいて、前記複数のデータセットを前記複数のクラスタに分類することを特徴とする請求項8から11のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記特定したクラスタに含まれるデータセットの数および蓄積日時の少なくとも一方が所定条件を満たす場合、前記測定装置による前記少なくとも一つのビーム特性の測定をスキップさせることを特徴とする請求項8から12のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項14】
前記分析装置は、前記記憶装置に新規データセットが蓄積された場合、前記新規データセットを用いて前記複数のクラスタの分類を更新し、前記更新した複数のクラスタのそれぞれに対応する複数の関数を生成することを特徴とする請求項7から13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項15】
前記ビーム生成装置は、イオン生成装置と、前記イオン生成装置から引き出されるイオンビームを輸送するビームライン装置とを含み、
前記少なくとも一つのビーム特性は、前記ビームライン装置によって輸送される前記イオンビームのビーム電流であり、
前記少なくとも一つの特定パラメータは、前記イオン生成装置の動作を制御するための動作パラメータであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項16】
前記ビーム生成装置は、前記イオンビームに電場または磁場を印加して前記イオンビームを偏向させる偏向装置を含み、
前記少なくとも一つのビーム特性は、前記偏向装置によって前記イオンビームが偏向される偏向方向における前記イオンビームの角度であり、
前記少なくとも一つの特定パラメータは、前記偏向装置の動作を制御するための動作パラメータであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項17】
前記ビーム生成装置は、前記イオンビームに電場または磁場を印加して前記イオンビームを収束または発散させるレンズ装置を含み、
前記少なくとも一つのビーム特性は、前記イオンビームのビームサイズまたは収束/発散角度であり、
前記少なくとも一つの特定パラメータは、前記レンズ装置の動作を制御するための動作パラメータであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項18】
前記ビーム生成装置は、前記イオンビームに電場または磁場を印加して往復走査させるスキャナと、前記スキャナによって往復走査されたイオンビームに電場または磁場を印加して平行化するレンズ装置とを含み、
前記少なくとも一つのビーム特性は、前記イオンビームの平行度であり、
前記少なくとも一つの特定パラメータは、前記レンズ装置の動作を制御するための動作パラメータであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項19】
イオンビームを生成するビーム生成装置の動作を制御するための複数の動作パラメータの設定値のセットと、前記イオンビームの少なくとも一つのビーム特性の測定値とを対応付けたデータセットを蓄積することと、
前記蓄積された複数のデータセットを複数のクラスタに分類することと、
前記複数のクラスタのそれぞれに対応する複数の関数であって、前記複数の動作パラメータに含まれる少なくとも一つの特定パラメータの設定値から前記少なくとも一つのビーム特性を推定するための複数の関数を生成することと、
前記ビーム生成装置に設定される前記複数の動作パラメータの設定値を変更する場合、変更前または変更後の設定値が前記複数のクラスタのいずれに分類されるかを特定することと、
前記特定されたクラスタに対応する関数に、前記少なくとも一つの特定パラメータの変更後の設定値を入力して、前記少なくとも一つのビーム特性の推定値を算出することと、を備えることを特徴とするイオン注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置およびイオン注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程で使用される装置は、イオン注入装置と呼ばれる。イオン注入装置は、ウェハに照射すべきイオンビームのビーム電流やビーム角度といったビーム特性を計測し、計測値に基づいて動作パラメータを調整することで、所望のビーム特性を実現するよう構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、要求されるビーム特性の精度がより厳しくなっており、所望のビーム特性を実現するための調整に時間を要することがある。また、過去に実績のある動作パラメータを使用したとしても、過去に得られたビーム特性をそのまま実現できない場合があり、その場合には時間のかかる計測と調整を繰り返さなければならない。このような調整にかかる時間が長くなると、イオン注入装置の生産性が低下する。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、動作パラメータの調整を迅速化する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン注入装置は、ウェハに照射されるイオンビームを生成するビーム生成装置と、ビーム生成装置の動作を制御するための複数の動作パラメータを設定する制御装置と、イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を測定する測定装置と、複数の動作パラメータの設定値のセットと、イオンビームの少なくとも一つのビーム特性の測定値とを対応付けたデータセットを蓄積する記憶装置と、記憶装置に蓄積された複数のデータセットに基づいて、複数の動作パラメータに含まれる少なくとも一つの特定パラメータの設定値から少なくとも一つのビーム特性を推定するための関数を生成する分析装置と、を備える。制御装置は、複数の動作パラメータの設定値を変更する場合、関数に少なくとも一つの特定パラメータの変更後の設定値を入力して、少なくとも一つのビーム特性の推定値を算出する。
【0007】
本発明の別の態様は、イオン注入方法である。この方法は、イオンビームを生成するビーム生成装置の動作を制御するための複数の動作パラメータの設定値のセットと、イオンビームの少なくとも一つのビーム特性の測定値とを対応付けたデータセットを蓄積することと、蓄積された複数のデータセットを複数のクラスタに分類することと、複数のクラスタのそれぞれに対応する複数の関数であって、複数の動作パラメータに含まれる少なくとも一つの特定パラメータの設定値から少なくとも一つのビーム特性を推定するための複数の関数を生成することと、ビーム生成装置に設定される複数の動作パラメータの設定値を変更する場合、変更前または変更後の設定値が複数のクラスタのいずれに分類されるかを特定することと、特定されたクラスタに対応する関数に、少なくとも一つの特定パラメータの変更後の設定値を入力して、少なくとも一つのビーム特性の推定値を算出することと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動作パラメータの調整を迅速化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
【
図2】中央制御装置の機能構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】動作パラメータの調整方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】ビーム特性の調整方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】特定パラメータとビーム特性の相関を示す関数を模式的に示すグラフである。
【
図6】特定パラメータとビーム特性の相関を示す複数の関数を模式的に示すグラフである。
【
図7】複数のデータセットの分類方法を模式的に示す図である。
【
図8】ビーム特性の推定方法の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態に係るイオン注入装置は、ウェハに照射されるイオンビームを生成するビーム生成装置と、ビーム生成装置の動作を制御するための複数の動作パラメータを設定する制御装置と、イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を測定する測定装置とを備える。制御装置は、ウェハにイオンビームを照射するイオン注入処理の事前に、所望のビーム特性を有するイオンビームが生成されるように動作パラメータを調整する。例えば、動作パラメータの設定後に少なくとも一つのビーム特性が測定され、ビーム特性の測定値が目標値からずれていれば、ビーム特性が目標値に近づくように少なくとも一つの動作パラメータが調整される。
【0013】
上述の調整工程は、イオンビームが有する複数のビーム特性の全てについて実行する必要がある。ここで、複数のビーム特性とは、ビームエネルギー、ビーム電流、ビーム電流密度分布、ビームサイズ、ビーム角度、ビーム平行度などである。近年では、要求されるビーム特性の精度がより厳しくなっており、複数のビーム特性のそれぞれを高精度に調整することが求められる。その一方で、複数のビーム特性のそれぞれを個別に測定し、測定値に基づいて動作パラメータを高精度に調整しようとすると、調整にかかる時間が非常に長くなり、イオン注入装置の生産性が低下してしまう。
【0014】
そこで、本実施の形態では、少なくとも一つのビーム特性を測定する代わりに、少なくとも一つのビーム特性を推定できるようにする。これにより、少なくとも一つのビーム特性の測定を省略(スキップ)して、推定値に基づいて調整できるようにする。具体的には、ビーム生成装置に設定される複数の動作パラメータの設定値から少なくとも一つのビーム特性を推定するための関数を生成し、関数を用いて少なくとも一つのビーム特性を推定する。この関数は、イオン注入装置の運用に伴って蓄積された複数のデータセットに基づいて生成される。各データセットは、複数の動作パラメータの設定値のセットと、少なくとも一つのビーム特性の測定値とを対応付けたデータセットである。このような関数を用いることで、動作パラメータの変更後にビーム特性を測定しなくても、ビーム特性が所望の条件を満たすか否かを推定できる。
【0015】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。イオン注入装置100は、ビーム生成装置90を備える。ビーム生成装置90は、イオン生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14と、ビーム偏向ユニット16と、ビーム輸送ユニット18とを含む。イオン注入装置100は、基板搬送処理ユニット20をさらに備える。本明細書において、イオン生成ユニット12、ビーム加速ユニット14、ビーム偏向ユニット16およびビーム輸送ユニット18を総称して「ビーム生成装置90」ともいう。
【0016】
イオン生成ユニット12は、イオン源10と、質量分析装置11とを有する。本明細書において、イオン生成ユニット12を「イオン生成装置」ともいう。イオン生成ユニット12では、イオン源10からイオンビームが引き出され、引き出されたイオンビームが質量分析装置11により質量分析される。質量分析装置11は、質量分析磁石11aと、質量分析スリット11bとを有する。質量分析スリット11bは、質量分析磁石11aの下流側に配置される。質量分析装置11による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次のビーム加速ユニット14に導かれる。
【0017】
ビーム加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置22a,22b,22cと、ビーム測定部23とを有し、ビームラインBLのうち直線状に延びる部分を構成する。複数の線形加速装置22a~22cのそれぞれは、一段以上の高周波加速部を備え、高周波(RF)電場をイオンビームに作用させて加速させる。ビーム測定部23は、ビーム加速ユニット14の最下流に設けられ、複数の線形加速装置22a~22cにより加速された高エネルギーイオンビームの少なくとも一つのビーム特性を測定する。ビーム測定部23は、ビームエネルギー、ビーム電流、ビームプロファイルなどのビーム特性を測定する測定装置であってもよい。
【0018】
本実施の形態では、三つの線形加速装置22a~22cが設けられる。第1線形加速装置22aは、ビーム加速ユニット14の上段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第1線形加速装置22aは、イオン生成ユニット12から出力される連続ビーム(DCビーム)を特定の加速位相に合わせる「バンチング(bunching)」を行い、例えば、1MeV程度のエネルギーまでイオンビームを加速させる。第2線形加速装置22bは、ビーム加速ユニット14の中段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第2線形加速装置22bは、第1線形加速装置22aから出力されるイオンビームを例えば2~3MeV程度のエネルギーまで加速させる。第3線形加速装置22cは、ビーム加速ユニット14の下段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第3線形加速装置22cは、第2線形加速装置22bから出力されるイオンビームを例えば4MeV以上の高エネルギーまで加速させる。
【0019】
ビーム加速ユニット14から出力される高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、ビーム加速ユニット14の下流で高エネルギーのイオンビームを往復走査および平行化させてウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0020】
ビーム偏向ユニット16は、ビーム加速ユニット14から出力される高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正を行う。ビーム偏向ユニット16は、ビームラインBLのうち円弧状に延びる部分を構成する。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ビーム輸送ユニット18に向かう。
【0021】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット27と、第1ファラデーカップ28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30と、第2ファラデーカップ31とを有する。エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルタ電磁石(EFM)とも呼ばれる。また、エネルギー分析電磁石24、横収束四重極レンズ26、エネルギー分析スリット27および第1ファラデーカップ28で構成される装置群は、総称して「エネルギー分析装置」とも呼ばれる。
【0022】
エネルギー分析スリット27は、エネルギー分析の分解能を調整するためにスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。エネルギー分析スリット27は、例えば、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。エネルギー分析スリット27は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つを選択することによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0023】
第1ファラデーカップ28は、エネルギー分析スリット27の直後に配置され、エネルギー分析用のビーム電流測定に用いられる。第2ファラデーカップ31は、偏向電磁石30の直後に配置され、軌道補正されてビーム輸送ユニット18に入るイオンビームのビーム電流測定用に設けられる。第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31のそれぞれは、ファラデーカップ駆動部(不図示)の動作によりビームラインBLに出し入れ可能となるよう構成される。第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31のそれぞれは、ビーム電流やビームプロファイルなどのビーム特性を測定する測定装置であってもよい。
【0024】
ビーム輸送ユニット18は、ビームラインBLのうちもう一つの直線状に延びる部分を構成し、装置中央のメンテナンス領域MAを挟んでビーム加速ユニット14と並行する。ビーム輸送ユニット18の長さは、ビーム加速ユニット14の長さと同程度となるように設計される。その結果、ビーム加速ユニット14、ビーム偏向ユニット16およびビーム輸送ユニット18で構成されるビームラインBLは、全体でU字状のレイアウトを形成する。本明細書において、ビーム輸送ユニット18を「ビームライン装置」ともいう。
【0025】
ビーム輸送ユニット18は、ビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビームダンプ35と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルタ38と、左右ファラデーカップ39L,39Rとを有する。
【0026】
ビーム整形器32は、四重極レンズ装置(Qレンズ)などの収束/発散レンズを備えており、ビーム偏向ユニット16を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形器32は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの静電四重極レンズ装置を有する。ビーム整形器32は、三つのレンズ装置を用いることにより、イオンビームの収束または発散を水平方向(x方向)および鉛直方向(y方向)のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形器32は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0027】
ビーム走査器34は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査器34は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(不図示)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電場を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームが矢印Xで示される走査範囲にわたって走査される。
図1において、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を細実線で示している。なお、ビーム走査器34は、他のビーム走査装置で置き換えられてもよく、ビーム走査装置は磁場を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0028】
ビーム走査器34は、矢印Xで示される走査範囲を超えてビームを偏向させることにより、ビームラインBLから離れた位置に設けられるビームダンプ35にイオンビームを入射させる。ビーム走査器34は、ビームダンプ35に向けてビームラインBLからイオンビームを一時的に待避させることにより、下流の基板搬送処理ユニット20にイオンビームが到達しないようにイオンビームを遮断する。
【0029】
ビーム平行化器36は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインBLの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化器36は、中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(不図示)に接続されており、電圧印加により生じる電場をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化器36は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁場を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0030】
最終エネルギーフィルタ38は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方(-y方向)に偏向して基板搬送処理ユニット20に導くよう構成されている。最終エネルギーフィルタ38は、角度エネルギーフィルタ(AEF)と呼ばれることがあり、電場偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(不図示)に接続される。上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、最終エネルギーフィルタ38は、磁場偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電場偏向用のAEF電極対と磁場偏向用の磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0031】
左右ファラデーカップ39L,39Rは、最終エネルギーフィルタ38の下流側に設けられ、矢印Xで示される走査範囲の左端および右端のビームが入射しうる位置に配置される。左右ファラデーカップ39L,39Rは、ウェハWに向かうビームを遮らない位置に設けられ、ウェハWへのイオン注入時にビーム電流を測定する。
【0032】
ビーム輸送ユニット18の下流側、つまり、ビームラインBLの最下流には基板搬送処理ユニット20が設けられる。基板搬送処理ユニット20は、注入処理室40と、ビームモニタ41と、ビームプロファイラ42と、プロファイラ駆動装置43と、基板搬送装置44と、ロードポート46とを有する。注入処理室40には、イオン注入時にウェハWを保持し、ウェハWをビーム走査方向(x方向)と直交する方向(y方向)に動かすプラテン駆動装置(不図示)が設けられる。
【0033】
ビームモニタ41は、注入処理室40の内部のビームラインBLの最下流に設けられる。ビームモニタ41は、ビームラインBL上にウェハWが存在しない場合にイオンビームが入射しうる位置に設けられており、イオン注入工程の事前または工程間においてビーム特性を測定するよう構成される。ビームモニタ41は、ビーム電流、ビーム電流密度分布、ビーム角度、ビーム平行度などのビーム特性を測定する測定装置であってもよい。ビームモニタ41は、例えば、注入処理室40と基板搬送装置44との間を接続する搬送口(不図示)の近くに位置し、搬送口よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0034】
ビームプロファイラ42は、ウェハWの表面の位置におけるビーム電流を測定するよう構成される。ビームプロファイラ42は、プロファイラ駆動装置43の動作によりx方向に可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。ビームプロファイラ42は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定できる。ビームプロファイラ42は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、x方向にアレイ状に並んだ複数のファラデーカップを有してもよい。ビームプロファイラ42は、x方向のビーム電流密度分布を測定する測定装置であってもよい。
【0035】
ビームプロファイラ42は、ビーム電流を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。ビームプロファイラ42は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。ビームプロファイラ42は、x方向のビーム角度およびy方向のビーム角度を測定する測定装置であってもよい。ビームプロファイラ42は、ビームの角度情報として、角度重心や収束/発散角度などを測定してもよい。
【0036】
基板搬送装置44は、ウェハ容器45が載置されるロードポート46と、注入処理室40との間でウェハWを搬送するよう構成される。ロードポート46は、複数のウェハ容器45が同時に載置可能となるよう構成されており、例えば、x方向に並べられる4台の載置台を有する。ロードポート46の鉛直上方にはウェハ容器搬送口(不図示)が設けられており、ウェハ容器45が鉛直方向に通過可能となるよう構成される。ウェハ容器45は、例えば、イオン注入装置100が設置される半導体製造工場内の天井等に設置される搬送ロボットによりウェハ容器搬送口を通じてロードポート46に自動的に搬入され、ロードポート46から自動的に搬出される。
【0037】
イオン注入装置100は、さらに中央制御装置50を備える。中央制御装置50は、イオン注入装置100の動作全般を制御する。中央制御装置50は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。中央制御装置50により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0038】
中央制御装置50の近傍には、イオン注入装置100の動作パラメータを設定するための表示装置や入力装置を有する操作盤49が設けられる。操作盤49および中央制御装置50の位置は特に限られないが、例えば、イオン生成ユニット12と基板搬送処理ユニット20の間のメンテナンス領域MAの出入口48に隣接して操作盤49および中央制御装置50を配置できる。イオン注入装置100を管理する作業員による作業頻度の高いイオン源10、ロードポート46、操作盤49および中央制御装置50の場所を隣接させることで、作業効率を高めることができる。
【0039】
図2は、中央制御装置50の機能構成を模式的に示すブロック図である。中央制御装置50は、制御装置52と、分析装置54と、記憶装置56とを備える。
【0040】
制御装置52は、ビーム生成装置90の動作を制御するための複数の動作パラメータを設定する。制御装置52は、自動調整部60と、測定制御部62と、推定部64とを含む。自動調整部60は、複数の動作パラメータを調整するための自動調整プログラムを実行し、所望のビーム特性が実現されるように複数の動作パラメータを調整する。測定制御部62は、測定装置の動作を制御し、少なくとも一つのビーム特性の測定値を取得する。推定部64は、分析装置54により生成される関数を用いて、少なくとも一つのビーム特性の推定値を算出する。
【0041】
分析装置54は、記憶装置56に蓄積される複数のデータセットを分析する。分析装置54は、分類部66と、関数生成部68とを含む。分類部66は、複数のデータセットを複数のクラスタに分類する。関数生成部68は、分類部66によって分類されたクラスタごとに、少なくとも一つのビーム特性を推定するための関数を生成する。関数生成部68は、複数のクラスタのそれぞれに対応する複数の関数を生成する。
【0042】
記憶装置56は、複数の動作パラメータの設定値のセットと、少なくとも一つのビーム特性の測定値とを対応付けたデータセットを蓄積する。記憶装置56は、自動調整部60によって調整された複数の動作パラメータの設定値のセットと、測定装置から取得した少なくとも一つのビーム特性の測定値とを対応付けし、一つのデータセットとして記憶する。記憶装置56は、イオン注入装置100の運用に伴って生成される複数のデータセットを蓄積する。
【0043】
図3は、動作パラメータの調整方法の一例を示すフローチャートである。まず、複数の動作パラメータの初期値(初期パラメータともいう)を設定する(S10)。つづいて、イオンビームが有する複数のビーム特性を調整する(S12~S20)。
図3の例では、ビームエネルギー(S12)、ビーム電流(S14)、ビーム角度(S16)、ビーム平行度(S18)、および、ビーム電流密度分布(S20)が順に調整される。最後に調整が完了したデータセットが保存される(S22)。なお、S12~S20の調整の順序は問わず、調整の順序を適宜入れ替えてもよい。また、特定のビーム特性の調整が複数回実行されてもよい。例えば、第1ビーム特性を調整した後に第2ビーム特性を調整し、その後に第1ビーム特性を再度調整してもよい。
【0044】
S10では、例えば、目標とするビーム特性に応じた初期パラメータが決定される。自動調整部60は、所定のアルゴリズムを用いたシミュレーションによって初期パラメータを決定してもよい。自動調整部60は、記憶装置56に蓄積されるデータセットに基づいて初期パラメータを決定してもよい。例えば、目標とするビーム特性に一致または近似するビーム特性を有するイオンビームが得られた過去のデータセットがあれば、そのデータセットに含まれる動作パラメータの設定値を初期パラメータとしてもよい。
【0045】
S12のビームエネルギーの調整では、イオン生成ユニット12およびビーム加速ユニット14の動作パラメータが調整される。具体的には、イオン源10の引出電圧、ビーム加速ユニット14に含まれる複数段の高周波加速部のそれぞれに印加される高周波電圧VRFの振幅、周波数および位相といった動作パラメータを調整して、ビームエネルギーを調整する。ビームエネルギーは、例えば、ビーム測定部23によって測定される。
【0046】
S14のビーム電流の調整では、イオン生成ユニット12およびビーム加速ユニット14の動作パラメータが調整される。具体的には、イオン源10のソースガス流量、アーク電流、アーク電圧およびソースマグネット電流、質量分析スリット11bおよびエネルギー分析スリット27のスリット開口幅といった動作パラメータを調整して、ビーム電流を調整する。ビーム電流は、例えば、ビーム測定部23、第1ファラデーカップ28、第2ファラデーカップ31、ビームモニタ41またはビームプロファイラ42によって測定される。
【0047】
S16のビーム角度の調整では、ビーム偏向ユニット16およびビーム輸送ユニット18の動作パラメータが調整される。例えば、x方向のビーム角度重心は、偏向電磁石30のマグネット電流によって調整される。y方向のビーム角度重心は、最終エネルギーフィルタ38の印加電圧によって調整される。x方向およびy方向の収束/発散角度は、ビーム整形器32に含まれるQレンズの印加電圧によって調整される。ビーム整形器32に含まれるQレンズの印加電圧を調整することで、ビームサイズが調整されてもよい。ビーム角度およびビームサイズは、例えば、ビームモニタ41またはビームプロファイラ42によって測定される。
【0048】
S18のビーム平行度の調整では、ビーム輸送ユニット18の動作パラメータが調整される。具体的には、ビーム平行化器36に含まれる平行化レンズ電極の印加電圧を調整して、ビーム平行度を調整する。ビーム平行度は、例えば、ビームモニタ41またはビームプロファイラ42によって測定される。
【0049】
S20のビーム電流密度分布の調整では、ビーム輸送ユニット18の動作パラメータが調整される。具体的には、ビーム走査器34に含まれる走査電極対に印加される電圧波形を調整して、x方向のビーム電流密度分布を調整する。ビーム電流密度分布は、例えば、ビームモニタ41またはビームプロファイラ42によって測定される。
【0050】
S12~S20の調整工程では、例えば、調整対象となるビーム特性を測定し、測定したビーム特性の測定値に基づいて少なくとも一つの動作パラメータを調整する。測定制御部62は、測定装置を動作させて調整対象となるビーム特性の測定値を取得する。自動調整部60は、ビーム特性の測定値が所望の条件を満たしていれば、調整対象となるビーム特性の調整を終了する。自動調整部60は、ビーム特性の測定値が所望の条件を満たしていなければ、ビーム特性が所望の条件を満たすように動作パラメータの設定値を調整する。
【0051】
S12~S20の調整工程では、調整対象となるビーム特性を測定する代わりに、ビーム特性の推定値を算出し、ビーム特性の推定値に基づいて少なくとも一つの動作パラメータを調整してもよい。推定部64は、関数生成部68により生成される関数を用いて、少なくとも一つのビーム特性の推定値を算出する。自動調整部60は、ビーム特性の推定値が所望の条件を満たしていれば、調整対象となるビーム特性の測定をスキップし、調整対象となるビーム特性の調整を終了する。自動調整部60は、関数生成部68により生成される関数に基づいて、少なくとも一つの動作パラメータを調整してもよい。例えば、ビーム特性の推定値が所望の条件を満たすような動作パラメータの値を関数を用いて算出してもよい。自動調整部60は、推定部64から取得したビーム特性の推定値が所望の条件を満たしていなければ、推定値に基づいて動作パラメータの設定値を調整する。自動調整部60は、推定値に基づく動作パラメータの調整がうまくいかない場合、測定値に基づく動作パラメータの調整をしてもよい。自動調整部60は、推定値の信頼性が低い場合、測定値に基づく動作パラメータの調整をしてもよい。推定値の信頼性は、例えば、関数の生成に用いたデータセットの蓄積数や蓄積日時に基づいて決定されるが、詳細は別途後述する。
【0052】
図4は、ビーム特性の調整方法の一例を示すフローチャートである。
図4は、
図3のS12~S20のそれぞれにおいて一つのビーム特性を調整する工程の詳細を示す。所定条件を充足していれば(S30のY)、関数を用いて調整対象となるビーム特性を推定する(S32)。所定条件を充足していなければ(S30のN)、測定装置を用いて調整対象となるビーム特性を測定する(S34)。ここで、S30の所定条件は、様々な条件を含みうる。所定条件を充足する場合として、調整対象となるビーム特性を推定できる場合、調整対象となるビーム特性の推定値が信頼できる場合、推定値に基づく調整回数が所定数未満となる場合などである。推定または測定したビーム特性の調整が必要であれば(S36のY)、ビーム特性の推定値または測定値に基づいて動作パラメータを調整し(S38)、S30に戻る。S36にてビーム特性の調整が不要であれば(S36のN)、本フローを終了する。
【0053】
図4のフローの一例として、S30にて所定条件を充足する場合、ビーム特性の推定値に基づいて動作パラメータが調整され、ビーム特性の推定値が所望の条件を満たすようになれば、動作パラメータの調整が完了する。この場合、ビーム特性の調整工程においてビーム特性の測定がスキップされるため、ビーム特性の測定にかかる時間を短縮できる。一方、S30にて所定条件を充足しない場合、ビーム特性の測定値に基づいて動作パラメータが調整され、ビーム特性の測定値が所望の条件を満たすようになれば、動作パラメータの調整が完了する。例えば、ビーム特性の推定値が信頼できない場合や、ビーム特性の推定値に基づく調整回数が所定数まで繰り返された場合にビーム特性を測定することで、測定値に基づいて動作パラメータをより確実に調整できる。
【0054】
つづいて、ビーム特性を推定するための関数について説明する。本実施の形態では、ビーム生成装置90に設定される複数の動作パラメータに含まれる少なくとも一つの特定の動作パラメータ(特定パラメータともいう)に基づいて少なくとも一つのビーム特性を推定する。特定パラメータをp、推定されるビーム特性をq、関数をfとすると、q=f(p)と表すことができる。特定パラメータpは、ビーム特性qの調整に利用される動作パラメータである。特定パラメータpは、ビーム特性qとの相関が大きい動作パラメータであり、特定パラメータpの設定値を変更することで、ビーム特性qの実質的な変更が可能となる。このような特定パラメータpは、ビーム特性qの種類ごとに定められる。特定パラメータpの数は、一つのビーム特性qに対して一つでもよいし、一つのビーム特性qに対して複数でもよい。
【0055】
図5は、特定パラメータpとビーム特性qの相関を示す関数を模式的に示すグラフである。
図5のグラフに示される複数のプロット70は、記憶装置56に蓄積される複数のデータセットに対応する。各データセットは、特定パラメータpを含む複数の動作パラメータの設定値と、ビーム特性qを含む複数のビーム特性の測定値とを含む。関数生成部68は、各データセットに含まれる特定パラメータpの設定値とビーム特性qの測定値に基づいて、特定パラメータpとビーム特性qの相関を示す関数(例えば直線80)を決定する。直線80は、例えば、複数のプロット70の近似直線であり、最小自乗法などを用いて特定できる。
図5の例では、関数fが直線80で示される場合を示すが、関数fは直線に限られず、任意の非線形関数であってもよい。
【0056】
図6は、特定パラメータpとビーム特性qの相関を示す複数の関数を模式的に示すグラフである。
図6は、
図5の例と同じデータセットを用いているが、
図5に示される複数のプロット70を複数のクラスタに分類し、分類されたクラスタごとに関数(例えば直線81,82,83)を決定している。第1直線81は、例えば、第1クラスタに含まれる複数の第1プロット71の近似直線である。第2直線82は、第2クラスタに含まれる複数の第2プロット72の近似直線である。第3直線83は、第3クラスタに含まれる複数の第3プロット73の近似直線である。分類部66は、記憶装置56に蓄積される複数のデータセットを複数のクラスタに分類する。関数生成部68は、分類されたクラスタごとに、特定パラメータpとビーム特性qの相関を示す関数(例えば直線81~83)を生成する。
図6の例では、蓄積される複数のデータセットをクラスタリングし、クラスタごとに関数を生成するため、
図5の例に比べてビーム特性qの推定精度を高めることができる。
【0057】
図7は、複数のデータセットの分類方法を模式的に示す図である。
図7では、データセットに含まれる二つの成分u,vに基づいて複数のデータセットを5つのクラスタ91,92,93,94,95に分類している。第1クラスタ91に含まれる複数のプロット71は、
図6の複数のプロット71に対応する。第2クラスタ92に含まれる複数のプロット72は、
図6の複数のプロット72に対応する。第3クラスタ93に含まれる複数のプロット73は、
図6の複数のプロット73に対応する。クラスタリングに用いる成分u,vは、例えば、記憶装置56に蓄積される複数のデータセットを主成分分析(Principal Component Analysis; PCA)により分類する場合の主成分に相当する。クラスタリングに用いる成分u,vは、PCA以外の次元圧縮方法で生成されてもよい。成分u,vは、例えば、特定パラメータpとは異なる動作パラメータである。成分u,vは、特定パラメータpとは異なる動作パラメータと、特定パラメータpを用いて推定されるビーム特性qとは異なるビーム特性の組み合わせであってもよい。
図7の例では、二つの主成分u,vに基づいてクラスタリングがなされているが、クラスタリングに用いられる主成分は三以上であってもよい。
【0058】
図7に示される複数のクラスタ91~95は、ビーム生成装置90がとりうる複数の装置状態を示唆する。ここで「装置状態」とは、例えば、ビーム生成装置90に明示的に設定できる動作パラメータとは異なる「隠れたパラメータ」により表現される状態と解釈できる。例えば、ビーム生成装置90を構成する各種機器が運用に伴って劣化していく場合、その劣化の度合いによって装置状態の変化が生じうる。また、ビーム生成装置90の動作を切り替えるような場合、切替前の装置状態によって切替後の装置状態が変化したり、切替後の装置状態が安定するまでに過渡的な装置状態となったりすることがある。このように装置状態が異なる場合、所望のビーム特性を得るために必要な複数の動作パラメータの設定値が装置状態によって異なりうる。言い換えれば、複数の動作パラメータの設定値を全く同じにしたとしても、生成されるイオンビームが有する少なくとも一つのビーム特性が互いに異なりうる。このような装置状態の違いを考慮して、複数の動作パラメータの設定値と得られるビーム特性の測定値とを含むデータセットを分類し、分類ごとに関数を生成することで、装置状態の違いに応じた複数の関数を生成できる。その結果、装置状態の違いによって関数を使い分けることができ、装置状態に応じた適切な関数を用いることで、ビーム特性の推定精度を高めることができる。
【0059】
分類部66は、記憶装置56に蓄積される複数のデータセットを分析し、複数のクラスタに分類する。分類部66は、少なくとも一つの特定パラメータpとは異なる成分u,vの間の相関に基づいて、複数のデータセットを複数のクラスタに分類する。データセットの蓄積数が少ない場合、分類部66は、複数のデータセットを複数のクラスタに分類できなくてもよい。分類部66は、記憶装置56に新規データセットが蓄積された場合、新規データセットを含む複数のデータセットを用いて複数のクラスタの分類を更新する。イオン注入装置100の運用に伴ってデータセットの蓄積数が増えていくと、クラスタの分類が更新され続けることとなり、例えば、クラスタがより細分化されてクラスタの数も増えていく。データセットの蓄積が進んでいくと、装置状態の違いをきめ細かく分類できるようになる。
【0060】
関数生成部68は、分類部66によって分類されるクラスタごとに関数を生成する。関数生成部68は、データセットの蓄積数が少なく、複数のデータセットを複数のクラスタに分類できない場合、複数のデータセットに基づく一つの関数のみを生成してもよい。関数生成部68は、記憶装置56に新規データセットが蓄積された場合、新規データセットを用いて関数を更新する。関数生成部68は、分類部66によるクラスタの分類が更新された場合、更新した複数のクラスタのそれぞれに対応する複数の関数を生成する。イオン注入装置100の運用に伴ってデータセットの蓄積数が増えていくと、細分化されたクラスタごとに関数を生成できるため、関数を用いたビーム特性の推定精度を高めることができる。また、データセットの蓄積数が増えていくと、一つの関数の生成に用いるデータセットの数が増えるため、関数を用いたビーム特性の推定精度を高めることができる。
【0061】
関数生成部68は、生成した関数ごとに信頼性を特定してもよい。関数の信頼性は、関数の生成に用いるデータセットの蓄積数や蓄積日時によって特定される。関数生成部68は、例えば、多くのデータセットに基づいて生成される関数の信頼性を、少ないデータセットに基づいて生成される関数の信頼性よりも高くする。例えば、
図7の第1クラスタ91や第3クラスタ93に対応する関数は、第4クラスタ94や第5クラスタ95に対応する関数よりも信頼性が高い。関数生成部68は、例えば、蓄積日時の新しいデータセットに基づいて生成される関数の信頼性を、蓄積日時の古いデータセットに基づいて生成される関数の信頼性よりも高くする。時間経過に伴ってビーム生成装置90の装置状態が変化していく場合、古いデータセットに対応する装置状態は、現在の装置状態とは異なる可能性が高い。そのため、古いデータセットに基づいて生成される関数を用いてビーム特性を推定すると、現在の装置状態におけるビーム特性との誤差が大きくなり、ビーム特性の推定精度が低くなる可能性がある。
【0062】
関数生成部68は、推定するビーム特性の種類に応じて、複数のデータセットの分類を互いに異ならせてもよい。第1ビーム特性q1(例えばビーム電流)を第1特定パラメータp1(例えばイオン源10の動作パラメータ)から推定するための第1関数f1は、第1特定パラメータp1とは異なる動作パラメータに基づいて分類されるクラスタごとに生成される。また、第2ビーム特性q2(例えばx方向のビーム角度重心)を第2特定パラメータp2(例えば偏向電磁石30の動作パラメータ)から推定するための第2関数f2は、第2特定パラメータp2とは異なる動作パラメータに基づいて分類されるクラスタごとに生成される。その結果、複数の第1関数f1のそれぞれに対応する複数のクラスタの分類は、複数の第2関数f2のそれぞれに対応する複数のクラスタの分類とは異なりうる。なお、第1特定パラメータp1および第2特定パラメータp2の双方と異なる動作パラメータに基づいて複数のクラスタが分類される場合、複数の第1関数f1のそれぞれに対応する複数のクラスタの分類は、複数の第2関数f2のそれぞれに対応する複数のクラスタの分類と共通であってもよい。
【0063】
推定部64は、関数生成部68が生成する関数を用いてビーム特性を推定する。関数生成部68によって複数のクラスタに対応する複数の関数が生成される場合、推定部64は、複数の関数のいずれかを選択し、選択した関数を用いてビーム特性を推定する。推定部64は、現在の装置状態が複数のクラスタのいずれに属するかを特定し、特定したクラスタに対応する関数を用いてビーム特性を推定する。具体的には、現在の装置状態を示唆するデータセットが複数のクラスタのいずれに属するかを特定し、特定したクラスタに対応する関数を用いてビーム特性を推定する。クラスタの特定に用いるデータセットは、記憶装置56に蓄積されるデータセットと同様の完全なデータセットであってもよいし、一部のビーム特性の測定値が欠如した不完全なデータセットであってもよい。不完全なデータセットは、例えば、
図3の調整工程の途中で生成される。
【0064】
図8は、ビーム特性の推定方法の一例を模式的に示す図である。
図8は、現在の装置状態に対応する関数を特定し、特定した関数を用いてビーム特性を推定し、ビーム特性の推定値に基づいて動作パラメータを変更する流れを示している。第1データセットD
Aは、調整工程において動作パラメータを変更する前の装置状態を示す。第1データセットD
Aは、第1特定パラメータの設定値p
1A、第2特定パラメータの設定値p
2A、第1ビーム特性の測定値q
1A、第2ビーム特性の測定値q
2Aを含む。第1データセットD
Aの一例は、
図3のS10にて設定される初期パラメータであり、例えば、直近のイオン注入処理で運用実績のある動作パラメータである。
【0065】
推定部64は、第1データセットDAが属するクラスタを特定し、特定したクラスタに対応する第1関数f1Aおよび第2関数f2Aを特定する(S40)。第1関数f1Aは、第1特定パラメータp1から第1ビーム特性q1を推定するための関数である。第2関数f2Aは、第2特定パラメータp2から第2ビーム特性q2を推定するための関数である。第1データセットDAに基づいて特定される第1関数f1Aおよび第2関数f2Aは、調整工程を開始する直前の装置状態におけるビーム特性を高精度で推定可能な関数である。調整工程を開始する直前の装置状態は、調整工程の途中における装置状態と同じか、十分に類似していると考えられる。そのため、第1データセットDAに基づいて特定される第1関数f1Aおよび第2関数f2Aは、調整工程の途中でビーム特性を高精度で推定する関数として使用できる。
【0066】
自動調整部60は、第1ビーム特性q1の調整を目的として、第1特定パラメータの変更後の設定値p1Bを決定する(S42)。推定部64は、S40で特定した第1関数f1Aに第1特定パラメータの変更後の設定値p1Bを入力することで、変更後の第1ビーム特性の推定値q1B=f1A(p1B)を算出する(S44)。推定部64は、S40で特定した第2関数f2Aに第2特定パラメータの設定値p2Aを入力することで、第2ビーム特性の推定値q2B=f2A(p2A)を算出してもよい(S44)。第1ビーム特性q1の調整途中の装置状態を示す第2データセットDBは、変更後の第1特定パラメータの設定値p1Bと、変更後の第1ビーム特性の推定値q1Bとを含む。S44にて第1ビーム特性の推定値q1Bを算出することで、自動調整部60は、第1ビーム特性の測定をスキップして、推定値q1Bに基づく動作パラメータの調整ができる。また、S44にて算出した第1ビーム特性の推定値q1Bが所望の条件を満たしていれば、第1ビーム特性q1の調整を完了し、別のビーム特性の調整に移ることができる。
【0067】
図8の例では、第1ビーム特性q
1の調整を目的として、第1特定パラメータの設定値をp
1Bからp
1Cに変更し、第1ビーム特性q
1を測定して測定値q
1Cを取得する(S46)。第3データセットD
Cは、第1特定パラメータの変更後の設定値p
1Cと、第1ビーム特性の測定値q
1Cとを含む。第3データセットD
Cは、調整工程の途中で第1ビーム特性q
1の調整が完了した時点での装置状態を示す。推定部64は、第3データセットD
Cが属するクラスタを特定し、特定したクラスタに対応する第2関数f
2Cを特定する(S48)。第3データセットD
Cに基づいて特定される第2関数f
2Cは、調整工程の途中の装置状態における第2ビーム特性q
2を高精度で推定可能な関数である。S48にて特定される第2関数f
2Cは、S40にて特定される第2関数f
2Aと同じになるかもしれないが、動作パラメータの調整内容によっては第2関数f
2Aとは異なることもある。
【0068】
自動調整部60は、第2ビーム特性q2の調整を目的として、第2特定パラメータの変更後の設定値p2Dを決定する(S50)。推定部64は、S48で特定した第2関数f2Cに第2特定パラメータの変更後の設定値p2Dを入力することで、変更後の第2ビーム特性の推定値q2D=f2C(p2D)を算出する(S52)。S52にて第2ビーム特性の推定値q2Dを算出することで、自動調整部60は、第2ビーム特性の測定をスキップして、推定値q2Dに基づく動作パラメータの調整ができる。また、S52にて算出した第3ビーム特性の推定値q2Dが所望の条件を満たしていれば、第2ビーム特性q2の調整を完了し、別のビーム特性の調整に移ることができる。
【0069】
図8のS40で特定される第1関数f
1Aは、第1データセットD
Aが属するクラスタに対応する。第1データセットD
Aは、調整工程の実行前のデータセットであり、複数の動作パラメータの変更前の設定値と、変更前の設定値が設定されたビーム生成装置90により生成されるイオンビームのビーム特性の測定値とを含む。したがって、第1関数f
1Aは、複数の動作パラメータの変更前の設定値と、変更前の設定値が設定されたビーム生成装置90により生成されるイオンビームのビーム特性の測定値とを含むデータセットが属するクラスタに対応する関数である。S44では、第1関数f
1Aに第1特定パラメータの変更後の設定値p
1Bを入力することで、第1ビーム特性の推定値q
1Bが算出される。これにより、調整工程の開始時であっても、第1ビーム特性を測定せずに推定できる。
【0070】
また、第1データセットDAは、変更前の設定値が設定されたビーム生成装置90により生成されるイオンビームの第2ビーム特性の測定値q2Aを含む。したがって、第1関数f1Aは、複数の動作パラメータの変更前の設定値と、変更前の設定値が設定されたビーム生成装置90により生成されるイオンビームの第1ビーム特性とは異なる第2ビーム特性の測定値q2Aとを含むデータセットが属するクラスタに対応する関数である。S44では、第1関数f1Aに第1特定パラメータの変更後の設定値p1Bを入力することで、第2ビーム特性とは異なる第1ビーム特性の推定値q1Bが算出される。
【0071】
図8のS48で特定される第2関数f
2Cは、第3データセットD
Cが属するクラスタに対応する。第3データセットD
Cは、調整工程の途中のデータセットであり、複数の動作パラメータの変更後の設定値と、変更後の設定値が設定されたビーム生成装置90により生成されるイオンビームの第2ビーム特性とは異なる第1ビーム特性の測定値q
1Cとを含む。したがって、第2関数f
2Cは、複数の動作パラメータの変更後の設定値と、変更後の設定値が設定されたビーム生成装置90により生成されるイオンビームの第2ビーム特性とは異なる第1ビーム特性の測定値q
1Cとを含むデータセットが属するクラスタに対応する関数である。S52では、第2関数f
2Cに第2特定パラメータの変更後の設定値p
2Dを入力することで、第1ビーム特性とは異なる第2ビーム特性の推定値q
2Dが算出される。これにより、調整工程の途中の状態を反映した第2関数f
2Cを用いて、第1ビーム特性とは異なる第2ビーム特性を測定せずに推定できる。
【0072】
調整工程の途中で測定される第1ビーム特性の一例は、ビーム電流である。ビーム電流は、例えば、ビームラインの最下流のビームモニタ41にて測定可能であり、測定にかかる時間はわずかである。したがって、ビーム電流については、測定をスキップして推測するのではなく、実際の測定値に基づいて調整してもよい。調整工程の途中で推定される第2ビーム特性の一例は、ビーム角度、ビーム平行度またはビーム電流密度分布である。ビーム角度、ビーム平行度およびビーム電流密度分布は、例えば、ビームプロファイラ42をx方向に移動させながら測定する必要があり、測定に要する時間が長くなる。そのため、調整のために測定を繰り返すと、調整が完了するまでの時間が大幅に長くなる。したがって、ビーム角度、ビーム平行度またはビーム電流密度分布については、実際に測定する代わりに、ビーム特性を推定することで測定をスキップするメリットが大きい。
【0073】
本実施の形態によれば、動作パラメータの調整時にビーム特性を推定してビーム特性の測定を省略することで、ビーム特性の測定にかかる時間を短縮化し、動作パラメータの調整を迅速化できる。また、本実施の形態によれば、調整対象となるビーム特性と特定パラメータの相関が関数によって特定されるため、所望のビーム特性を得るための特定パラメータの変更後の設定値を関数を利用して導出することも可能となる。そのため、測定と調整を繰り返して試行錯誤しながらパラメータを調整する場合に比べて、動作パラメータの調整を迅速化できる。また、推定値に基づく調整が完了してからビーム特性を測定することで、イオン注入処理に用いるイオンビームが有するビーム特性を最終確認しつつ、調整工程全体でのビーム特性の測定回数を減らして調整にかかる時間を短くできる。これにより、ビーム特性を高精度に調整しながら、イオン注入装置の生産性を高めることができる。
【0074】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組み合わせや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0075】
12…イオン生成ユニット、14…ビーム加速ユニット、16…ビーム偏向ユニット、18…ビーム輸送ユニット、20…基板搬送処理ユニット、22a,22b,22c…線形加速装置、23…ビーム測定部、24…エネルギー分析電磁石、26…横収束四重極レンズ、30…偏向電磁石、32…ビーム整形器、34…ビーム走査器、36…ビーム平行化器、38…最終エネルギーフィルタ、41…ビームモニタ、42…ビームプロファイラ、90…ビーム生成装置、100…イオン注入装置。