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特開2022-122119ゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122119
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/00 20150101AFI20220815BHJP
   A63B 53/04 20150101ALI20220815BHJP
   A63B 60/42 20150101ALI20220815BHJP
   G01N 3/52 20060101ALI20220815BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20220815BHJP
【FI】
A63B53/00 B
A63B53/04 A
A63B60/42
G01N3/52
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019219
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】小山 心平
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002ZZ05
(57)【要約】
【課題】 ゴルフクラブヘッドの反発性能を簡単に短時間で推定する。
【解決手段】 ゴルフクラブヘッドの反発性能を推定するための方法であって、複数のゴルフクラブヘッドそれぞれの反発性能を計測する第1ステップS1と、前記複数のゴルフクラブヘッドそれぞれの特徴量を計測する第2ステップS2と、前記特徴量から前記反発性能を直接的又は間接的に推定するための推定式を導出する第3ステップS3と、前記推定式を用いて、前記複数のゴルフクラブヘッドとは別のゴルフクラブヘッドの反発性能を計算する第4ステップS4とを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドの反発性能を推定するための方法であって、
複数のゴルフクラブヘッドそれぞれの反発性能を計測する第1ステップと、
前記複数のゴルフクラブヘッドそれぞれの特徴量を計測する第2ステップと、
前記特徴量から前記反発性能を直接的又は間接的に推定するための推定式を導出する第3ステップと、
前記推定式を用いて、前記複数のゴルフクラブヘッドとは別のゴルフクラブヘッドの反発性能を計算する第4ステップとを含む、
ゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【請求項2】
前記第2ステップは、前記複数のゴルフクラブヘッドを変形させることなく、前記特徴量を計測するものである、請求項1に記載のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【請求項3】
前記特徴量は、前記ゴルフクラブヘッドの寸法、角度、重量、体積、肉厚、及び、重心に関する物理量の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【請求項4】
前記特徴量は、前記ゴルフクラブヘッドの寸法、角度、重量、体積、肉厚、及び、重心に関する物理量の2つ以上を含む、請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【請求項5】
前記推定式は、前記反発性能を目的変数とし、かつ、前記特徴量を説明変数とする回帰式を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【請求項6】
前記推定式は、ヘッド剛性を目的変数とし、かつ、前記特徴量を説明変数とする回帰式を含み、
前記第4ステップは、前記推定式を用いて、前記別のゴルフクラブヘッドの前記ヘッド剛性を計算するステップと、
計算された前記ヘッド剛性を、ペンデュラムテストを模式化した数値計算モデルの剛性を示す指標に代入して、前記反発性能を計算するステップとを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【請求項7】
前記反発性能は、CTである、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【請求項8】
前記反発性能は、CTを計測するためのペンデュラムテストにおける低速、中速及び高速それぞれの接触時間である、請求項1ないし6のいずれかに記載のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【請求項9】
前記接触時間を用いてCTを計算する工程をさらに含む、請求項8に記載のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ・オブ・セントアンドリュース)及びUSGA(全米ゴルフ協会)は、ゴルフクラブがゴルフボールにパワーを伝達する能力、すなわち、反発性能を制限し、それによってゴルファーが用具だけでライバルに勝る可能性を制限している。このような反発性能の指標として、CT(characteristic time)が挙げられる。CTがルールを超えるゴルフクラブヘッドは、公式競技では使用できない。
【0003】
CTは、具体的には、ペンデュラムテストによって計測される。ペンデュラムテストでは、まず、ゴルフクラブがペンデュラムテスト装置に所定の向きで固定され、次に、そのフェースに振り子を用いて鉄球を衝突させる。そして、前記鉄球の加速度データを測定し、前記鉄球と前記フェースとの接触時間からCTが計算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6604364号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、量産品であるゴルフクラブヘッドは、製造時の不可避的なバラツキや許容誤差等が含まれる。したがって、同一のスペックを意図して作られたゴルフクラブヘッドであっても、製造時のバラツキ等によって異なるCTを持つことがある。このため、ゴルフクラブメーカは、ゴルフクラブヘッドのCTをルール内に収めるために、販売に先立ち、ゴルフクラブヘッドのCTを把握することが重要である。関連する技術として、下記特許文献1がある。
【0006】
しかしながら、ゴルフクラブヘッドの全数についてペンデュラムテストを行うことは、多くの時間を要するという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、ゴルフクラブヘッドの反発性能を短時間で簡単に推定することができる方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴルフクラブヘッドの反発性能を推定するための方法であって、複数のゴルフクラブヘッドそれぞれの反発性能を計測する第1ステップと、前記複数のゴルフクラブヘッドそれぞれの特徴量を計測する第2ステップと、前記特徴量から前記反発性能を直接的又は間接的に推定するための推定式を導出する第3ステップと、前記推定式を用いて、前記複数のゴルフクラブヘッドとは別のゴルフクラブヘッドの反発性能を計算する第4ステップとを含む、ゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法である。
【0009】
本発明の他の態様では、前記第2ステップは、前記複数のゴルフクラブヘッドを変形させることなく、前記特徴量を計測するものであっても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記特徴量は、前記ゴルフクラブヘッドの寸法、角度、重量、体積、肉厚、及び、重心に関する物理量の少なくとも1つ、又は、2つ以上を含むことができる。
【0011】
本発明の他の態様では、前記推定式は、前記反発性能を目的変数とし、かつ、前記特徴量を説明変数とする回帰式を含むことができる。
【0012】
本発明の他の態様では、前記推定式は、ヘッド剛性を目的変数とし、かつ、前記特徴量を説明変数とする回帰式を含むことができ、前記第4ステップは、前記推定式を用いて、前記別のゴルフクラブヘッドの前記ヘッド剛性を計算するステップと、計算された前記ヘッド剛性を、ペンデュラムテストを模式化した数値計算モデルの剛性を示す指標代入して、前記反発性能を計算するステップとを含むことができる。
【0013】
本発明の他の態様では、前記反発性能は、CTであっても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記反発性能は、CTを計測するためのペンデュラムテストにおける低速、中速及び高速それぞれの接触時間であっても良い。この場合、本発明は、前記接触時間を用いてCTを計算する工程をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法は、上記の各ステップを採用することにより、ゴルフクラブヘッドの反発性能を短時間で簡単に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のゴルフクラブヘッドの反発性能の推定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図2】ゴルフクラブヘッドの正面図である。
図3】ゴルフクラブヘッドの平面図である。
図4】ゴルフクラブヘッドの底面図である。
図5】ペンデュラムテスト機の概略模式図である。
図6】ペンデュラムテストにおける半球体の速度及び加速度の時刻歴を示すグラフである。
図7】ペンデュラムテストにおける半球体の接触時間と衝突速度との関係を示すグラフである。
図8】ゴルフクラブヘッドの縦断面図である。
図9】ゴルフクラブヘッドの水平断面図である。
図10】ゴルフクラブヘッドと半球体との衝突を模したバネマスモデルの模式図である。
図11】バネマスモデルから計算された時刻と、ゴルフクラブヘッド及び半球体の変位との関係を示すグラフである。
図12】バネマスモデルから計算された時刻と、ゴルフクラブヘッド及び半球体の速度との関係を示すグラフである。
図13】バネマスモデルから計算された半球体の速度変化を示すグラフである。
図14】第2実施形態の第3ステップの処理手順の一例を示すフローチャートである。
図15】第2実施形態の第4ステップの処理手順の一例を示すフローチャートである。
図16】CTの実測値と推定値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれていることが理解されなければならない。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態を示すゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)の反発性能の推定方法(以下、単に「方法」という場合がある。)のフローチャートである。本実施形態の方法は、ヘッドの反発性能を推定するための方法であって、複数のヘッドそれぞれの反発性能を計測する第1ステップS1と、前記複数のヘッドそれぞれの特徴量を計測する第2ステップS2と、前記特徴量から前記反発性能を直接的又は間接的に推定するための推定式を導出する第3ステップS3と、前記推定式を用いて、前記複数のヘッドとは別のヘッドの反発性能を計算する第4ステップS4とを含む。
【0019】
第1ステップS1、第2ステップS2及び第3ステップS3により、既存の複数のヘッドに基づいて、それらの反発性能と特徴量との関係性が得られる。また、第4ステップS4では、前記複数のヘッドとは別のヘッドについて、特徴量が計測され、この特徴量と前記関係性を用いて、別のヘッドの反発性能が推定値として計算される。したがって、本発明では、別のヘッドの反発性能を短時間で簡単に推定することができる。以下、反発性能が、CTである場合を例に挙げ、各ステップが詳細に説明される。
【0020】
[第1ステップS1]
本実施形態の第1ステップS1では、複数のヘッドそれぞれの反発性能が計測される。
【0021】
図2ないし4には、ヘッド1の正面図、平面図及び底面図がそれぞれ示される。図2ないし4に示されるように、ヘッド1は、例えば、内部が中空とされたウッド型のゴルフクラブヘッドであり、いずれも基準状態とされている。基準状態とは、ヘッド1が、当該ヘッド1に定められたライ角及びロフト角で水平面HP(図2)に置かれた状態である。
【0022】
ヘッド1は、全部又は主要部が、例えば、チタン合金やステンレス鋼といった金属材料で構成されている。ヘッド1は、ウッド型の典型的な構造として、例えば、フェース2、クラウン3、ソール4及びホーゼル5を含む。
【0023】
フェース2は、ボールを打撃するための表面を形成しており、その幾何学的中心であるフェースセンターFCを有する。クラウン3は、ヘッド上面を形成するようにフェース2の上縁からヘッド後方に延びている。クラウン3のヒール側には、ホーゼル5が設けられている。ホーゼル5には、クラブシャフト(図示省略)が固定される。ソール4は、ヘッド底面を形成するようにフェース2の下縁からヘッド後方に延びている。
【0024】
本実施形態の複数のヘッド1は、例えば、いずれも同一の量産モデル、すなわち、同一のスペック(重量、体積、ロフト角、ライ角等)を有することを意図して工業的手法により製造されたものである。一方、これらの複数のヘッド1は、製造時に不可避的に生じる許容誤差等を含むという意味において、完全な同一形状ではない。
【0025】
反発性能を計測するためのヘッド1の数は、特に限定されないが、第3ステップS3で求められる推定式の精度を高めるために、例えば30個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上とされるのが良い。
【0026】
第1ステップS1では、ヘッド1の反発性能としてCTが計測される。CTは、CORなどと同様に、反発性能と相関する指標の1つである。CTは、ペンデュラムテストプロトコル(R&A テスト内規)で規定されており、ペンデュラムテスト機を用いて測定される。
【0027】
図5は、ペンデュラムテスト機100の概略模式図である。図5に示されるように、ペンデュラムテスト機100は、振り子101を備える。振り子101の先端には、金属製の衝突子として、半球状をなす半球体102が設けられている。また、振り子101には、半球体102の加速度を計測するための加速度ピックアップ103が取り付けられている。また、ペンデュラムテスト機100には、測定対象のゴルフクラブ10のシャフト11を保持するための治具(図示省略)を備える。
【0028】
CTの測定は、次の要領で行われる。まず、フェース2に、振り子101の半球体202を衝突させる。衝突させる速度は、振り子101の高さを変えることで、低速、中速、高速の3条件とされる。各条件において、加速度ピックアップ103により、半球体102の加速度信号が計測される。
【0029】
図6は、フェース2へ衝突する前後の半球体102の加速度及びそれを時間積分した速度の変化を示すグラフである。図6において、横軸は時刻、縦軸左側は加速度、縦軸右側は速度をそれぞれ示す。前記速度は、半球体102がフェース2に衝突した瞬間がゼロとなるように調整されており、フェース2から離れる方向の速度を示す。図6において、半球体102の速度の最大値(図6では約0.6m/s)の5%から95%まで区間の時間は、接触時間と呼ばれる。
【0030】
図7は、半球体102の低速、中速、高速の3条件の衝突速度で求めた前記接触時間と、前記衝突速度を-1/3乗した値との関係を示す。CTは、3条件(低速/中速/高速)の結果から得られた線形近似線Fの切片(接触時間)として特定される。ゴルフ規則では、このCTは、239μ秒+18μ秒(公差)、すなわち257μ秒を超えてはならないと規定されている。
【0031】
第1ステップS1では、以上のような要領で、複数のヘッド1のCTがそれぞれ計測される。
【0032】
[第2ステップS2]
本実施形態の第2ステップS2では、反発性能としてCTを測定した複数のヘッド1それぞれの特徴量が計測される。特徴量は、ヘッド1の寸法、角度、重量、体積、肉厚、及び、重心に関する物理量の少なくとも1つ、好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上を含むことができる。
【0033】
ヘッド1の寸法は、主として、ヘッド1の外形から定まる特徴量であって、例えば、図2又は図3に示されるように、ヘッド高さH1、フェース高さH2、フェース長さL1、フェースセンターFCのヘッド前後方向長さL2、ヘッドトウ・ヒール方向長さL3、ホーゼル外径r、図8に示されるようなヘッド縦断面でのフェース2の曲率半径であるフェースロールR1、図9に示されるようなヘッド水平断面でのフェース2の曲率半径であるフェースバルジR2等を含むことができる。
【0034】
ヘッド1の重量及び体積は、例えば、ヘッド1の全体の重量及び体積を含むことができる。
【0035】
ヘッド1の角度は、ヘッド1の任意の位置における角度に関する特徴量であって、例えば、ライ角、フック角、リアルロフト角、フェースプログレッション等を含むことができる。
【0036】
ヘッド1の肉厚は、ヘッド1の任意の位置の肉厚に関する特徴量であって、例えば、フェース2の各部の肉厚、クラウン3の肉厚、ソール4の肉厚等を含むことができる。
【0037】
ヘッド1の重心に関する物理量は、例えば、重心高さ、スイートスポット高さ、重心深度、重心を通る垂直軸周りの慣性モーメント、重心を通るトウ・ヒール方向に延びる水平軸周りの慣性モーメント、シャフト軸心周りの慣性モーメント等を含むことができる。
【0038】
また、上述の特徴量は、いずれも静的な計測、すなわち、ヘッド1を変形させることなく計測することができる。
【0039】
例えば、ヘッド1の形状については、三次元測定器などを用いることで、ヘッド1に接触することなく簡単に計測され得る。同様に、ヘッド1の肉厚は、例えば、超音波肉厚計を用いることで、ヘッド1を変形させることなく簡単に計測が可能である。このように、第2ステップS2において、複数のヘッド1を変形させることなく特徴量を計測した場合、計測時にヘッド1に傷が付くという課題を解決できる点で望ましい(上記特許文献1では、ヘッドに衝突体を衝突させることから、依然としてヘッドに細かい傷が付くという課題を解決できていない。)。
【0040】
また、上述の特徴量の計測は、ペンデュラムテストを実施するよりも短い時間で行うことができる。
【0041】
ヘッド1の特徴量は、上述のように様々な値を採用することができるが、好ましくは、製造時のばらつきが大きく、かつ、ヘッド1の反発性能への寄与が大きいものが選択されるのが望ましい。これにより、より高い精度でヘッドの反発性能を推定することが可能になる。そのような特徴量としては、例えば、フェース2の各部の肉厚や、フェースロールR1、フェースバルジR2等の1つ以上、好ましくは2つ以上が望ましい。フェース2は、ボールと直接接触する部分であり、ヘッド1の反発性能への寄与がより大きい。また、一般に、フェース2がプレスや鍛造で成形されることが多く、その金型は使用につれて摩耗することから、上記特徴量は、製造時のばらつきも生じやすいと推測される。
【0042】
本実施形態の第2ステップS2では、特徴量として、ヘッド1の肉厚及びフェースロールR1が計測される。
【0043】
ヘッド1の肉厚は、複数箇所測定されており、本実施形態では、フェース2、クラウン3及びソール4からそれぞれ少なくとも1箇所測定している。フェース2の肉厚としては、例えば、複数の位置の肉厚が望ましく、本実施形態では、フェースセンターFC、フェースセンターFCよりもトウ側、及び、フェースセンターFCよりもソール側それぞれの肉厚t1、t2及びt3が測定されている。また、クラウン3及びソール4については、フェース側近傍(例えば、フェース2から10mm以内等)で、かつ、トウ・ヒール方向のほぼ中間位置での肉厚t4及びt5がそれぞれ計測された。さらに、フェースロールR1は、フェースセンターFCを通るヘッド縦断面のフェース2の曲率半径として計測された。
【0044】
以上のとおり、本実施形態の第2ステップS2では、ヘッド1を変形させることなく複数の特徴量が計測され得る。ただし、第2ステップS2は、このような具体的な例示に限定されるものではない。
【0045】
[第3ステップS3]
第3ステップS3では、第2ステップS2で得られた特徴量から反発性能を直接的又は間接的に推定するための推定式が導出される。
【0046】
まず、第2ステップS2で得られた特徴量から反発性能を直接的に推定するための推定式を導出する実施形態(第1実施形態)について述べる。ここで、前記「直接的」とは、推定式の目的変数が、反発性能そのものである場合を意味する。
【0047】
第1実施形態では、推定式として、第1ステップS1で計測された反発性能としてのCTを目的変数とし、かつ、第2ステップS2で計測された特徴量を説明変数とする回帰式が求められる。本実施形態では、反発係数としてのCTが、前記6つの特徴量t1ないしt5及びR1を用いて説明される以下の重回帰式(1)が作成される。この重回帰式(1)は、例えば、コンピュータに入力される。なお、式(1)において、a1、b1、c1、d1、e1及びf1は、いずれも定数である。
【数1】
【0048】
[第4ステップS4]
本実施形態の第4ステップS4では、第3ステップS3で得られた推定式を用いて、(反発性能をすでに計測した)複数のヘッド1とは別のヘッド(以下、単に「ヘッド1a」ということがある。)の反発性能が計算される。
【0049】
具体的には、まず、ヘッド1aについて、第2ステップS2と同様の手順により、前記特徴量が測定される。したがって、ヘッド1aは、例えば、変形することなく特徴量が計測されることから、ヘッド1aの傷付きが防止され、ひいては、商品価値が低下することもない。
【0050】
次に、ヘッド1aの特徴量が、第3ステップS3で導出された重回帰式(1)に代入され、ヘッド1aの反発性能としてCTが計算される。この計算は、例えば、重回帰式(1)を記憶させた前記コンピュータに、前記特徴量を入力することで行われる。すなわち、第3ステップS3及び第4ステップS4は、コンピュータを用いて処理され得る。
【0051】
以上のように、本実施形態のヘッドの反発性能の推定方法によれば、別のヘッド1aについて、予め定められた特徴量を計測し、これを推定式に代入することで、簡単にヘッド1aの反発性能を計算により推定することができる。
【0052】
また、第2ステップS2での特徴量の計測に要する時間は、ペンデュラムテストに要する時間に比べて短いことから、本実施形態の推定方法は、短時間で、ヘッド1aの反発性能を推定することができる。
【0053】
さらに、特徴量として、反発性能への寄与が大きいフェース2の肉厚や、クラウン3及びソール4の肉厚などを含ませることで、精度良く反発性能を推定することができる。
【0054】
なお、第1実施形態では、反発性能はCTとされたが、これに代えて、CTを計測するためのペンデュラムテストにおける低速、中速及び高速それぞれの接触時間とされても良い。この場合、第1実施形態の推定方法は、図7に示したように、前記3条件の速度での接触時間を用いてCTを計算する工程をさらに含むことができる。
【0055】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態が説明される。
第1実施形態の第3ステップS3では、計測された特徴量から反発性能を直接的に推定するための推定式が導出されたが、第2実施形態では、反発性能を間接的に推定するための推定式が導出される。ここで、前記「間接的」とは、推定式の目的変数が、反発性能そのものではない場合を意味する。反発性能としてのCTは、いわゆる一端固定の固有振動数であることから、単純な回帰式で推定すると、その物理的意味と乖離するところが発生するおそれがある。そこで、この実施形態では、物理的意味として,剛性だけをヘッド1aの特性(構造)と紐づけ、重量は別として取り扱うようにしている。これにより、第2実施形態では、第1実施形態よりも高い精度で反発性能の推定が可能になる。
【0056】
第2実施形態で導出される推定式は、ヘッド剛性を目的変数とし、かつ、前記特徴量を説明変数とする回帰式とされる。
【0057】
R&Aは、ペンデュラムテストの計測原理を検証するために、バネマスモデルにHerlzの接触理論を用いた数値計算モデルを採用する。この数値計算モデルには、ヘッド剛性のパラメータが組み込まれていることから、第2実施形態では、まず、ヘッド1の特徴量からヘッド剛性を推定する推定式を導出し、この推定されたヘッド剛性を数値計算モデルに代入して、反発性能を計算(推定)するものである。
【0058】
まず、図10を参照し、ペンデュラムテストの計測原理を説明する。図10は、ペンデュラムテストを数値計算モデルとして模式化したバネマスモデルを示す。このバネマスモデルは、振り子101の半球体102を模式化した第1モデルM1と、ゴルフクラブ10を模式化した第2モデルM2とを含む。
【0059】
第1モデルM1は、半球体102の質量mbのマス6と、半球体102の剛性に相当する非線形バネ定数kHのバネ7でモデル化されている。第2モデルM2は、ヘッド1の質量mcのマス8と、ヘッド剛性に相当する線形バネ定数kc(ヘッド剛性kcという場合もある。)のバネ9でモデル化されている。これらの第1モデルM1及び第2モデルM2は、点Pで接触する。また、ある時刻において、第1モデルM1のマス6の変位はxb、第2モデルM2のマス8の変位はxc、及び、点Pの変位はxfで表される。
【0060】
第1モデルM1を非線形バネとしているのは、半球体102とフェース2とが接触する点Pの変位によってバネ定数が変わるためである。この非線形バネ定数kHは、下式(2)で計算することができる。
【数2】
【0061】
また、式(2)において、R及びEは、Herlzの接触理論に基づき、それぞれ式(3)及び式(4)で求めることができる。
【数3】
【数4】
ここで、式(3)及び(4)で使用されている符号は、次の通りである。
Rb:半球体102のフェース2と衝突する部分の曲率半径
Rc:フェース2の半球体102と衝突する部分の曲率半径
Eb:半球体102の弾性率
Ec:フェース2の弾性率
vb:半球体102のポアソン比
vc:フェース2のポアソン比
【0062】
さらに、上記バネマスモデルの運動方程式は、式(5)及び(6)で表すことができる。
【数5】
【数6】
【0063】
次に、上記運動方程式(5)及び(6)を数値積分して時間発展させると、第1モデルM1及び第2モデルM2のある時刻の位置と速度から微小時間後の位置と速度を、順次求めることができる。数値積分法としては、例えば、オイラー(Euler)法や2次ないし4次のルンゲ・クッタ(Runge-Kutta)法等が用いられる。
【0064】
図11ないし図13には上記数値計算結果の一例である。図11は、マス6及び8それぞれの変位xb及びxcの時刻歴である。図12は、マス6及び8それぞれの速度Vb及びVcの時刻歴である。図13は、マス6(すなわち、半球体)の速度(加速度の積分値)の時刻歴を示す。図13のグラフは、図6に示したペンデュラムテストで計測された半球体の速度時刻歴のグラフと同じ傾向を示すことがわかる。
【0065】
したがって、反発性能を推定する際に、特徴量からまずヘッド剛性(すなわち、第2モデルM2の線形バネ定数kc)を推定し、推定されたヘッド剛性を用いて、上記数値計算モデルの運動方程式を数値積分することで、図13に示したような関係を得ることができる。そして、この関係より、半球体102の速度の最大値(図13では約1.62m/s)の5%から95%まで区間の時間を「接触時間」として求めることができる。
【0066】
次に、第2実施形態の第3ステップS3及び第4ステップS4のより具体的な手順について述べる。
【0067】
[第3ステップ(第2実施形態)]
図14は、第2実施形態の第3ステップS3のより詳細なフローチャートである。第2実施形態の第3ステップS3では、まず、CTを計測するためのペンデュラムテストにおける低速、中速及び高速の3つの衝突速度条件について、バネマスモデル(図10)と、第1ステップS1で計測された接触時間とを用い、パラメータスタディによりヘッド剛性kcが計算される(ステップS31)。
【0068】
次に、低速、中速及び高速の3つの衝突速度条件について、ヘッド剛性kcを目的変数とし、第2ステップS2で計測された特徴量を説明変数とする下式(7)のような回帰式を導出する(ステップS32)。この重回帰式は、例えば、コンピュータに入力される。なお、式(7)において、a2、b2、c2、d2、e2及びf2は、いずれも定数である。
【数7】
【0069】
[第4ステップ(第2実施形態)]
図15には、第2実施形態の第4ステップS4のより詳細なフローチャートである。第2実施形態の第4ステップS4では、まず、別のヘッド1aの特徴量が測定される(ステップS41)。
【0070】
次に、低速、中速及び高速の3つの衝突速度条件について、上記回帰式(7)を用いて別のヘッド1aのヘッド剛性kcが推定値として計算される(ステップS42)。
【0071】
次に、低速、中速及び高速の3つの衝突速度条件について、別のヘッド1aのヘッド剛性kcが、ペンデュラムテストを模式化した数値計算モデルの剛性を示す指標に代入される。本実施形態では、上記ヘッド剛性が、数値計算モデルとしてのバネマスモデル(図10)に代入され、その運動方程式を数値積分して接触時間が計算される(ステップS43)。反発性能として、この接触時間が採用されても良い。
【0072】
好ましい態様では、次に、低速、中速及び高速の3つの衝突速度条件の接触時間から、CTが計算される(ステップS44)。
【0073】
図16は、CTの実測値と、第2実施形態によって計算されたCTの推定値との関係を示すグラフである(n=85)。図16から明らかなように、CTの実測値とCTの推定値について、良好な相関が得られていることがわかる。この例では、相関係数は約0.933である。
【0074】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。例えば、反発性能は、CTに制限されるものではなく、他の態様では、例えばCORであっても良い。また、本発明は、上記開示と均等な方法を含む。
【符号の説明】
【0075】
1、1a ゴルフクラブヘッド
2 フェース
10 ゴルフクラブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16