(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122123
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】温度補償回路
(51)【国際特許分類】
H03F 1/30 20060101AFI20220815BHJP
H03F 3/21 20060101ALI20220815BHJP
G05F 1/10 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
H03F1/30 210
H03F3/21
G05F1/10 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019223
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】394025094
【氏名又は名称】三菱電機特機システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木戸 政行
(72)【発明者】
【氏名】清野 清春
【テーマコード(参考)】
5H410
5J500
【Fターム(参考)】
5H410BB04
5H410CC02
5H410DD02
5H410EA12
5H410LL09
5J500AA04
5J500AA41
5J500AC02
5J500AC81
5J500AC87
5J500AC92
5J500AC98
5J500AF10
5J500AH02
5J500AH09
5J500AH19
5J500AH25
5J500AH43
5J500AK01
5J500AK12
5J500AK18
5J500AM08
5J500AT01
5J500AT04
5J500NC04
5J500NF06
5J500NF07
5J500NH20
(57)【要約】
【課題】構成が簡単で回路規模が小さい温度補償回路を提供する。
【解決手段】この開示の温度補償回路の非線形電圧生成部3は、ダイオード17と、前記温度対応電圧V2の特定温度(+25℃)に対応した電圧値において前記ダイオード17がオンになる閾値の電圧値Vsを設定する閾値回路31と、前記ダイオード17が接続され、前記温度対応電圧V2を入力して線形電圧と非線形電圧とを有する出力電圧V3を生成する増幅回路32とを有し、前記温度対応電圧V2に対応する温度が前記特定温度(+25℃)未満の場合、前記ダイオード17がオフの状態で、前記増幅回路32は、特定の電圧傾斜を有する線形電圧を生成し、前記温度対応電圧V2に対応する温度が前記特定温度以上(+25℃)の場合、前記ダイオード17がオンの状態で、前記増幅回路32は、前記線形電圧とは異なる電圧傾斜を有する非線形電圧を生成する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に対応した温度対応電圧V2を入力して出力電圧V3を生成する非線形電圧生成部を有する温度補償回路において、
前記非線形電圧生成部は、
ダイオードと、
前記温度対応電圧V2の特定温度に対応した電圧値において前記ダイオードがオンになる閾値の電圧値Vsを設定する閾値回路と、
前記ダイオードが接続され、前記温度対応電圧V2を入力して線形電圧と非線形電圧とを有する出力電圧V3を生成する増幅回路と
を有し、
前記温度対応電圧V2に対応する温度が前記特定温度未満の場合、前記ダイオードがオフの状態で、前記増幅回路は、特定の電圧傾斜を有する線形電圧を生成し、
前記温度対応電圧に対応する温度が前記特定温度以上の場合、前記ダイオードがオンの状態で、前記増幅回路は、前記線形電圧とは異なる電圧傾斜を有する非線形電圧を生成する温度補償回路。
【請求項2】
前記閾値回路は、抵抗12、抵抗13、バイアス端子18を有し、
抵抗13の一端には前記温度対応電圧V2が入力され、
抵抗13の他端には抵抗12の一端が接続され、
抵抗12の他端にはバイアス端子18が接続されている請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項3】
前記増幅回路は、抵抗13、抵抗14、抵抗15、抵抗16、バイアス端子19、オペアンプ20を有し、
抵抗13の一端と抵抗14の一端とには前記温度対応電圧V2が入力され、
抵抗13の他端にはダイオード17のカソード端子が接続され、
抵抗14の他端にはオペアンプ20の-端子が接続され、
ダイオード17のアノード端子にはオペアンプ20の-端子が接続され、
抵抗15の一端にはバイアス端子19に接続され、
抵抗15の他端にはオペアンプ20の-端子が接続され、
抵抗16の一端にはオペアンプ20の-端子に接続され、
抵抗16の他端にはオペアンプ20の出力端子に接続されている請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項4】
前記増幅回路は、抵抗13、抵抗14、抵抗15、抵抗16、バイアス端子19、オペアンプ20を有し、
抵抗13の一端と抵抗14の一端とには前記温度対応電圧V2が入力され、
抵抗13の他端にはダイオード17のアノード端子が接続され、
抵抗14の他端にはオペアンプ20の-端子が接続され、
ダイオード17のカソード端子にはオペアンプ20の-端子が接続され、
抵抗15の一端にはバイアス端子19に接続され、
抵抗15の他端にはオペアンプ20の-端子が接続され、
抵抗16の一端にはオペアンプ20の-端子に接続され、
抵抗16の他端にはオペアンプ20の出力端子に接続されている請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項5】
温度に対して線形的に変動する電圧を生成する温度検出部を有し、
前記温度検出部は、
バイアス端子に直列接続された抵抗と正特性サーミスタの回路と、
バイアス端子に直列接続されたダイオードと抵抗の回路と、
バイアス端子に接続された正特性サーミスタのみの回路と
のいずれかの回路を有する請求項1から4のいずれか1項に記載の温度補償回路。
【請求項6】
前記閾値回路は、前記ダイオードの順方向電圧の温度特性の影響を打ち消すVbt生成回路を有する請求項1から5のいずれか1項に記載の温度補償回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、マイクロ波機器の利得の温度補償回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波機器にはFET(Field effect transistor)、バイポーラトランジスタ等の半導体が使用されており、これらの半導体は温度で利得が変動する。例えばFETを用いたSSPA(SolidStatePowerAmplifier)の場合、低温から常温では緩やかに利得が低下するのに対し、常温から高温では急峻に低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロ波機器の利得を温度で一定に保つために、低温から常温、常温から高温の制御電圧の傾きを自由に設定することができる温度補償回路を用いれば、高精度に利得の温度補償が可能となる。
しかし、従来の温度補償回路は、構成が複雑になり、回路規模も大きくなるとともに、調整箇所が多く、調整に時間を要するという課題がある。
【0005】
この開示は、簡易な回路で調整時間を著しく短縮できる温度補償回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示の温度補償回路は、温度に対応した温度対応電圧V2を入力して出力電圧V3を生成する非線形電圧生成部を有する温度補償回路において、
前記非線形電圧生成部は、
ダイオードと、
前記温度対応電圧V2の特定温度に対応した電圧値において前記ダイオードがオンになる閾値の電圧値Vsを設定する閾値回路と、
前記ダイオードが接続され、前記温度対応電圧V2を入力して線形電圧と非線形電圧とを有する出力電圧V3を生成する増幅回路と
を有し、
前記温度対応電圧V2に対応する温度が前記特定温度未満の場合、前記ダイオードがオフの状態で、前記増幅回路は、特定の電圧傾斜を有する線形電圧を生成し、
前記温度対応電圧に対応する温度が前記特定温度以上の場合、前記ダイオードがオンの状態で、前記増幅回路は、前記線形電圧とは異なる電圧傾斜を有する非線形電圧を生成する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、簡易な回路で調整時間を著しく短縮できる温度補償回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】この開示の実施の形態1によるFETを用いたSSPAのブロック図を示す図である。
【
図3】FETの利得のゲート電圧依存性を示す図である。
【
図4】SSPAの利得を温度補償するために必要なFETのゲート電圧を示す図である。
【
図5】比較例の温度補償回路の一例を示す図である。
【
図6】この開示の実施の形態1による温度補償回路の構成の一例を示す図である。
【
図7】この開示の温度検出部の出力電圧V1の温度特性を示す図である。
【
図8】この開示の加算増幅部の出力電圧V2の温度特性を示す図である。
【
図9】この開示の温度補償回路のダイオードオフの場合の等価回路を示す図である。
【
図10】この開示の温度補償回路のダイオードオンの場合の等価回路を示す図である。
【
図11】この開示の非線形電圧生成部の出力電圧V3の温度特性を示す図である。
【
図12】この開示の出力電圧V3の全体の電圧傾斜の調整例を示す図である。
【
図13】この開示の出力電圧V3の非線形部の電圧傾斜の調整例を示す図である。
【
図14】この開示の出力電圧V3の電圧オフセットの調整例を示す図である。
【
図15】実施の形態1による温度補償回路の構成の他の一例を示す図である。
【
図16】実施の形態1による他の一例の出力電圧V1の温度特性を示す図である。
【
図17】実施の形態1による他の一例の出力電圧V2の温度特性を示す図である。
【
図18】実施の形態1による他の一例の出力電圧V3の温度特性を示す図である。
【
図19】実施の形態1による温度補償回路の構成のまた他の一例を示す図である。
【
図20】この開示の実施の形態2による温度補償回路の構成の一例を示す図である。
【
図21】この開示の実施の形態3による温度補償回路の構成の一例を示す図である。
【
図22】実施の形態3の電圧Vbtの温度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この開示の温度補償回路について説明する。以下の説明では、「抵抗」「バイアス端子」等の同一の素子名が複数登場するが、この開示の明細書・図面・特許請求の範囲においては、「抵抗5」「抵抗7」「バイアス端子4」「バイアス端子10」のように素子名の後に符号を記載することにより、同一の素子名の複数の素子の各々を区別することにする。なお、特許請求の範囲における素子名の後に付された符号は、特許請求の範囲における識別子であり、素子名の後に付された符号により、特許請求の範囲が明細書・図面に記載された具体例に限定されるものでない。
【0010】
実施の形態1.
図1にFET(Field effect transistor)を用いたSSPA(SolidStatePowerAmplifier)のブロック図を示す。SSPAはAMP-A、AMP-B、AMP-Cからなるマイクロ波増幅器と、出力段のアイソレータと、温度補償回路とから構成される。一般的にSSPAを含むマイクロ波機器は、温度補償回路にて温度に対して所望のゲート電圧をマイクロ波増幅器に印可することで温度補償を実施し、使用温度範囲において利得や出力電力を一定としている。
SSPAの利得の温度特性は
図2に示す。温度補償なしのSSPAの特性を破線で示し、温度補償ありのSSPAの特性を実線で示す。
温度補償を行わない場合のSSPAの利得の温度特性は
図2の破線で示すように低温から常温では緩やかに利得が低下するのに対し、常温から高温では急峻に低下する。つまり、温度の増加に対して利得が非線形に低下する。この特性は、FETの利得の温度特性に依存している。
また、FETの利得のゲート電圧依存性を
図3に示す。
図3に示すようにFETの利得は、ゲート電圧の増加に対して比較的線形に増加する。このため、ゲート電圧を変化させることでSSPAの利得を使用温度範囲で一定にするためにはゲート電圧を
図4に示すとおり、低温から常温では緩やかに増加、常温から高温では急峻に増加させる、つまり温度の増加に対してゲート電圧を非線形に増加させる制御回路が必要である。
【0011】
*比較例*
温度に対してゲート電圧を非線形に制御し、
図2の実線のSSPAの特性が得られる温度補償回路の一例として、比較例として
図5に温度補償回路の一例を示す。この温度補償回路は、ダイオードと抵抗により生成した温度に対して線形的に変動する電圧をオフセットし反転増幅するオペアンプ(オペレーショナル・アンプリファイア)とその出力電圧を低温時(常温以下)の温度補償電圧の傾斜として設定するオペアンプを3つ用いた系Aと高温時(常温以上)の温度補償電圧の傾斜として設定する系Bに分けて、この2種類の電圧を結合するオペアンプ、オフセット、反転増幅する2つのオペアンプで、常温を境に低温から高温にかけて折れ線の温度補償電圧を実現しているが、高価なオペアンプを7つ用いた大規模な回路となり、調整箇所が多く、調整に時間を要する。
【0012】
■FETを用いたSSPAの温度補償
以下、この開示に係る実施の形態1による温度補償回路について説明する。
図6は実施の形態1による温度補償回路の構成を示す図である。この開示の温度補償回路は、温度に対して線形的に電圧を変動させる温度検出部1と、温度検出部1の電圧をオフセット、増幅し、任意の温度で0Vを出力する加算増幅部2と、線形的に変動する加算増幅部2の出力電圧を非線形にし、オフセットする非線形電圧生成部3とで構成される。
【0013】
<温度検出部1>
温度検出部1は、正特性サーミスタ、抵抗等を用いて温度に対して線形的に電圧を変動させる。温度検出部1は、サーミスタやダイオードといった温度特性を持つ部品を用い、温度に対して線形的に変動する電圧V1を生成する回路である。
図6に示す回路の場合、温度検出部1はバイアス端子4、抵抗5、正特性サーミスタ6のみから構成され、抵抗5と正特性サーミスタ6を直列接続、抵抗5の他端にはバイアス端子4を接続し、正特性サーミスタ6の他端は接地される。
正電圧をバイアス端子4から入力し、抵抗5、正特性サーミスタ6の接続部から分圧で生成された電圧V1を出力する。正特性サーミスタ6は温度が増加するにつれて、抵抗値が線形に増加する。このため、出力電圧V1は
図7に示すとおり、-10℃から+60℃の温度変化に対して、線形あるいは略線形に増加する特性となる。
【0014】
<加算増幅部2>
加算増幅部2は、オペアンプ(オペレーショナル・アンプリファイア)、抵抗を用いて温度検出部1の電圧V1をオフセット、増幅し、任意の温度で0Vを出力する。
加算増幅部2は温度検出部1で生成した電圧V1をオフセット、増幅し、温度に対して線形に変動し、かつ任意の温度において0Vとなる電圧V2を生成する回路である。加算増幅部2は、抵抗7、抵抗8、抵抗9、バイアス端子10、オペアンプ11のみから構成される。オペアンプ11の-端子に抵抗7と抵抗8と抵抗9を接続し、抵抗7の他端には温度検出部の出力端子(電圧V1)、抵抗8の他端にはバイアス端子10、抵抗9の他端にはオペアンプ11の出力端子が接続される。また、オペアンプ11の+端子は接地され、オペアンプの出力端子から電圧V2が出力される。電圧V2は温度に対応して線形あるいは略線形に変動する電圧である。以下、電圧V2を温度対応電圧V2ともいう。
オペアンプ11の+端子は接地されているので、-端子の電位は0V(イマジナリショート)となる。オペアンプ11の-端子には電圧V1と-端子の電位差によって抵抗7に流れる電流とバイアス端子10への入力電圧と-端子の電位差によって抵抗8に流れる電流が流れる。それらの電流を加算した電流はオペアンプの入力端子がハイインピーダンスであるため、抵抗9を流れ、電圧V2が得られる。
ここで、抵抗7の値をR7、抵抗8の値をR8、抵抗9の値をR9、バイアス端子10への入力電圧をVaとすると、V2は数式1で表される。
【0015】
数式1
V2=-R9×(V1/R7+Va/R8)
【0016】
数式1で示されるように電圧V2はV1/R7とVa/R8を加算し、-R9で乗算し算出される。
電圧V2の温度特性を
図8に示す。電圧Vaの値は、
図8に示すとおり、電圧V2が+25℃(又は任意の温度)で0Vとなるように設定する。電圧V2を+25℃で0Vとすることで、抵抗9の値で+25℃の電圧値に影響を与えることなく、温度変化に対する電圧V2の傾斜を変更することが可能となる。電圧Vaの値を変更することにより、電圧V2が任意の温度で0Vとなるように設定することができる。
また、温度検出部1の抵抗5、正特性サーミスタ6の回路定数を変更することなく、抵抗9およびバイアス端子10に入力される電圧Vaによって、電圧V2の温度に対する電圧傾斜、オフセットの調整が可能であるため、温度検出部1の抵抗5、正特性サーミスタ6の値は調整が不要となる。これにより、温度検出部1の部品の品種統合が可能となり、部品の低価格化、試験調整時間の短縮化を実現することができる。
【0017】
<非線形電圧生成部3>
非線形電圧生成部3は、オペアンプ、ダイオード、抵抗を用いて線形的に変動する加算増幅部2の出力電圧V2を非線形にし、オフセットする。
非線形電圧生成部3は加算増幅部2の電圧V2を基に抵抗、ダイオード、オペアンプを用いて、温度増加に対して非線形に増加する電圧V3を生成する回路である。
非線形電圧生成部3は、温度に対応した温度対応電圧V2を入力して出力電圧V3を生成する。
非線形電圧生成部3は、ダイオード17と、閾値回路31と増幅回路32とを有する。
非線形電圧生成部3は、抵抗12、抵抗13、抵抗14、抵抗15、抵抗16、ダイオード17、バイアス端子18、バイアス端子19、オペアンプ20のみから構成される。
閾値回路31は、抵抗12、抵抗13、バイアス端子18のみから構成される。
増幅回路32は、抵抗13、抵抗14、抵抗15、抵抗16、バイアス端子19、オペアンプ20のみから構成される。
加算増幅部2の出力端子(電圧V2)に抵抗13の一端と、抵抗14の一端とを接続し、抵抗13の他端には抵抗12の一端とダイオード17のカソード端子が接続され、抵抗14の他端にはオペアンプ20の-端子が接続され、抵抗12の他端はバイアス端子18が接続され、ダイオード17のアノード端子にはオペアンプ20の-端子が接続される。また、抵抗15の一端はバイアス端子19に接続され、抵抗15の他端はオペアンプ20の-端子が接続される。さらに抵抗16の一端はオペアンプ20の-端子に接続され、抵抗16の他端はオペアンプ20の出力端子に接続される。電圧V3はオペアンプ20の出力端子から出力される。
【0018】
*閾値回路31*
非線形電圧生成部3は任意の温度以上でダイオード17をオンさせることによって、電圧V3の温度増加に対する非線形な増加を可能としている。ダイオード17がオンする温度は電圧V2が閾値である電圧値Vs以下となる温度となる。
閾値回路31は、温度対応電圧V2の特定温度(+25℃)に対応した電圧値において前記ダイオード17がオンになる閾値の電圧値Vsを設定する。
閾値回路31は、閾値の電圧値Vsを設定するものであり、閾値の電圧値Vsは抵抗12の値R12、抵抗13の値R13、バイアス端子18の入力電圧Vbを用いて数式2で表される。ここで、閾値回路31が閾値である電圧値Vsを0Vに設定すると加算増幅部2において電圧V2が0Vとなるように設定した温度である+25℃にて、ダイオード17がオンとなる。この場合、電圧V3は低温から+25℃と、+25℃から高温とで電圧傾斜が異なる特性となる。
【0019】
数式2
Vs=-(R13/R12)×Vb
【0020】
*増幅回路32*
増幅回路32は、ダイオード17が接続され、温度対応電圧V2を入力して線形電圧と非線形電圧とを有する出力電圧V3を生成する。
出力端子21の出力電圧V3はダイオード17がオン、オフの場合、増幅回路32の動作はそれぞれ以下のとおりとなる。
【0021】
(1)ダイオード17がオフの場合(V2≧Vs)
ダイオードオフ時の等価回路は
図9となる。ダイオード17がオフのため、ダイオード17を流れる電流I1は0となる。また、オペアンプ20の+端子が接地されているので、-端子の電位は0V(イマジナリショート)となり、抵抗14を流れる電流I2は抵抗14の値をR14とするとV2/R14、抵抗15を流れる電流I3は抵抗15の値をR15、バイアス端子19の入力電圧をVcとするとVc/R15となる。
上記電流値と抵抗16の値R16から、出力電圧V3は数式3で表される。
【0022】
数式3
V3=-R16×(I1+I2+I3)
=-R16×(0+V2/R14+Vc/R15)
=-R16×(V2/R14+Vc/R15)
=-R16×{-R9×(1/R14)×(V1/R7+Va/R8)+Vc/R15}
【0023】
(2)ダイオード17がオンの場合(V2≦Vs)
ダイオードオン時の等価回路は
図10となる。オペアンプ20の+端子が接地されているので、-端子の電位は0V(イマジナリショート)となる。ダイオード17がオンのため、ダイオード17を流れる電流I1は抵抗13を流れ、抵抗13の抵抗値をR13とすると電流I1はV2/R13となる(理想ダイオード特性の場合)。また、抵抗14を流れる電流I2は抵抗14の値をR14とするとV2/R14、抵抗15を流れる電流I3は抵抗15の値をR15、バイアス端子19の電圧をVcとするとVc/R15となる。
上記電流値と抵抗16の値R16から、出力電圧V3は数式4で表される。
【0024】
数式4
V3=-R16×(I1+I2+I3)
=-R16×(V2/R13+V2/R14+Vc/R15)
=-R16×{-R9×(1/R13+1/R14)×(V1/R7+Va/R8)+Vc/R15}
【0025】
出力電圧V3の温度特性を
図11に示す。
温度対応電圧V2に対応する温度が特定温度(+25℃)未満の線形部の部分では、ダイオード17がオフの状態であり、増幅回路32は、特定の電圧傾斜を有する線形電圧を生成する。線形電圧とは温度に対して線形な電圧又は略線形な電圧をいう。
温度対応電圧V2に対応する温度が前記特定温度(+25℃)以上の非線形部の部分では、ダイオード17がオンの状態であり、増幅回路32は、線形電圧とは異なる電圧傾斜を有する非線形電圧を生成する。非線形電圧とは、特定温度(+25℃)未満の線形電圧に対して非線形な電圧をいう。非線形電圧は、特定温度(+25℃)以上において温度に対して線形な電圧又は略線形な電圧である。
図11では常温(+25℃)未満(V2>0V)で数式3が適用され、常温(+25℃)以上(V2≦0V)で数式4が適用されるように閾値の電圧値Vsを0Vに設定している。数式3に比べ、数式4の方が電圧の倍率が大きいため、常温(+25℃)以上で電圧傾斜が急となる非線形な特性が得られている。
【0026】
次に出力電圧V3の電圧特性調整方法について説明する。
【0027】
(1)全体の電圧傾斜
電圧V3の全体の電圧傾斜は抵抗9で調整することができる。抵抗9を調整した時の電圧V3の温度特性を
図12に示す。前述のとおり、出力電圧V2の値を+25℃(任意の温度)で0Vに設定することで、
図12に示すように+25℃の電圧を変更することなく、全体の電圧傾斜を変更することができる。抵抗16でも電圧V3の全体の電圧傾斜が調整可能であるが、電圧傾斜だけでなく、+25℃を含むすべての温度の電圧値が変わってしまうため、電圧のオフセット調整も必要となる。このため、抵抗16より、抵抗9で電圧傾斜を調整した方が、調整が容易であり、調整時間の短縮が可能である。
【0028】
(2)非線形部の電圧傾斜
電圧V3の非線形部の電圧傾斜は抵抗12、抵抗13で調整することができる。抵抗12、抵抗13を調整した時の電圧V3の温度特性を
図13に示す。抵抗12、抵抗13を調整することで、
図13に示すように低温から常温の線形部の電圧値に影響を与えることなく、常温から高温の非線形部の電圧値を変更することができる。抵抗12と抵抗13の抵抗値の比が同じ値になるように抵抗12と抵抗13の抵抗値を調整することで、数式2で示される閾値を変更することなく、非線形部の電圧傾斜の変更が可能である。
【0029】
(3)電圧のオフセット
電圧V3の電圧オフセットはバイアス端子19に入力する電圧Vcで調整することができる。電圧Vcを調整した時の電圧V3の温度特性を
図14に示す。電圧Vcを調整することで、
図14に示すように温度に対する電圧傾斜を変更することなく、電圧V3をオフセットすることができる。また、電圧Vcを固定した状態で抵抗15を変更することで同様の調整が可能である。
【0030】
(4)調整手順
調整手順としては、まず電圧Vcで電圧のオフセットを調整し、+25℃の電圧値を決定する。次に、抵抗9で全体の電圧傾斜を調整することで+25℃の値を変更することなく線形部の低温の値を決定する。最後に、抵抗12、抵抗13で非線形部の電圧傾斜を調整することで低温から+25℃の電圧値に影響を与えることなく、非線形部の高温の値を決定する。このような手順で調整することで、各温度の電圧値を独立した箇所で他の温度の電圧値に影響を与えることなく決定することができ、試験調整時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0031】
■バイポーラトランジスタを用いたSSPAの温度補償(ダイオード17の向きを逆転)
ここまでは、FETを用いたSSPAの温度補償について説明をしてきたが、バイポーラトランジスタを用いたSSPAの温度補償についても説明する。
バイポーラトランジスタを用いたSSPAの場合、温度補償を行わない場合のSSPAの利得は、FETとは異なり温度が上昇するにつれて、利得が非線形に増加する。この特性はバイポーラトランジスタの利得の温度特性に依存している。また、バイポーラトランジスタの利得はベース電圧(ベース電流)依存性があり、ベース電圧の増加に対して、利得は比較的線形に増加する。このため、ベース電圧を変化させることで、SSPAの利得を一定に保つためには、バイポーラトランジスタのベース電圧Vbeを、温度に対して非線形に変化させる必要がある。
【0032】
図15にバイポーラトランジスタを用いたSSPAを温度補償する実施の形態1による温度補償回路の構成の他の一例を示す。
図15の温度補償回路は、
図6のダイオード17の向きを逆転させた構成となっている。
温度検出部1はバイアス端子4、抵抗5、正特性サーミスタ6のみから構成され、抵抗5と正特性サーミスタ6を直列接続、抵抗5の他端にはバイアス端子4を接続し、正特性サーミスタ6の他端は接地される。
バイアス端子4から入力する負電圧を抵抗5、正特性サーミスタ6で分圧し、出力電圧V1を生成する。出力電圧V1は
図16に示すとおり、温度の-10℃から+60℃の変化に対して、電圧が線形に低下する特性が得られる。
【0033】
加算増幅部2は、抵抗7、抵抗8、抵抗9、バイアス端子10、オペアンプ11のみから構成される。オペアンプ11の-端子に抵抗7と抵抗8と抵抗9を接続し、抵抗7の他端には温度検出部の出力端子(電圧V1)、抵抗8の他端にはバイアス端子10、抵抗9の他端にはオペアンプ11の出力端子が接続される。また、オペアンプ11の+端子は接地され、オペアンプの出力端子から電圧V2が出力される。
オペアンプ11の+端子は接地されているので、-端子の電位は0V(イマジナリショート)となる。オペアンプ11の-端子には電圧V1と-端子の電位差によって抵抗7に流れる電流とバイアス端子10の入力電圧と-端子の電位差によって抵抗8に流れる電流が流れる。それらの電流を加算した電流はオペアンプの入力端子がハイインピーダンスであるため、抵抗9を流れ、電圧V2が得られる。電圧V2の温度特性を
図17に示す。電圧V2は
図17に示すとおり、-10℃から+60℃まで線形に増加する。また、電圧Vaの値は、電圧V2が+25℃(任意の温度)で0Vとなるように設定する。電圧V2を+25℃で0Vとすることで、抵抗9の値で+25℃の電圧に影響を与えることなく、温度変化に対する電圧V2の傾斜を変更することが可能となる。
【0034】
非線形電圧生成部3は、抵抗12、抵抗13、抵抗14、抵抗15、抵抗16、ダイオード17、バイアス端子18、バイアス端子19、オペアンプ20のみから構成される。
加算増幅部2の出力端子(電圧V2)に抵抗13、抵抗14を接続し、抵抗13の他端には抵抗12とダイオード17のアノード端子、抵抗14の他端にはオペアンプ20の-端子が接続され、抵抗12の他端はバイアス端子18、ダイオード17のカソード端子にはオペアンプ20の-端子が接続される。また、抵抗15はバイアス端子19に接続され、抵抗15の他端はオペアンプ20の-端子が接続される。さらに抵抗16はオペアンプ20の-端子に接続され、抵抗16の他端はオペアンプ20の出力端子に接続される。電圧V3はオペアンプ20の出力端子から出力される。
非線形電圧生成部3は任意の温度以上でダイオード17をオンさせることによって、電圧V3の温度増加に対する非線形な低下を可能としている。
図15では、
図6とはダイオード17の向きを逆転させることで、常温から高温でダイオードをオンさせ、非線形の特性が得られるようにしている。ダイオードの向きを変更することで、低温から常温の特性を非線形とすることも可能である。
出力電圧V3の温度特性を
図18に示す。
図18に示すとおり常温(+25℃)以上で電圧傾斜が急峻となる非線形な特性が得られている。
【0035】
■ダイオード22による温度検出部1の構成
図19に実施の形態1による温度補償回路の構成のまた他の一例を示す。
図19では温度検出部1をバイアス端子4、ダイオード22、抵抗5、抵抗23を用いて構成される。ダイオード22のカソード端子と抵抗5を接続し、ダイオード22のアノード端子はバイアス端子4、抵抗5の他端は抵抗23と接続される。また、抵抗23の他端は接地される。
バイアス端子4に正電圧を印可し、ダイオード22の順方向電圧の温度特性を利用し、抵抗5と抵抗23の接続部から温度増加に対して変動する電圧V1を得る。ダイオードの順方向電圧の温度変動は約-2mV/℃であるので、出力電圧V1は温度の-10℃から+60℃の変化に対して、
図7と同様に線形に増加する特性となる。
電圧V2は、
図6の構成時と同様に、バイアス端子10への入力電圧Vaを変更し、任意の温度(例えば+25℃)で0Vとなるように設定することで、
図8と同様の特性が得られる。出力端子21の電圧V3の特性は
図6の構成と同じく、
図11に示すとおりとなる。
【0036】
***実施の形態1の特徴と効果***
実施の形態1の温度補償回路は、
温度に対して線形的に変動する電圧を生成する温度検出部1と、
温度検出部1の電圧をオフセット、増幅し、任意の温度で0Vを出力する加算増幅部2と、
加算増幅部2の電圧を非線形にし、オフセットする非線形電圧生成部3とを有する。
加算増幅部2は、オペアンプを1つのみ有している。
非線形電圧生成部3は、バイアス端子18から抵抗12を介してダイオード17に電圧を印可するよう構成されている。
非線形電圧生成部3は、オペアンプを1つのみ有している。
実施の形態1の温度補償回路によれば、簡易的な回路で、温度増加に対して、非線形な電圧制御を行い、温度に対する全体の電圧傾斜、非線形部の電圧傾斜、電圧オフセットを独立した箇所で調整できることを特徴とする。
実施の形態1の温度補償回路によれば、比較例と同等の性能をオペアンプを2つのみ用いた簡易的な回路で提供することができ、調整時間を著しく短縮できる効果がある。
【0037】
実施の形態2.
■正特性サーミスタ24のみによる温度検出部1の構成
以下、主に実施の形態1と異なる点について説明する。
図20に実施の形態2の構成の一例を示す。
図20ではバイアス端子4に正特性サーミスタ24のみを接続することで温度検出部1を構成しており、部品の削減が可能である。
バイアス端子4に負電圧を印可し、正特性サーミスタを介して、加算増幅部2に電圧V1を入力する。加算増幅部2は、抵抗7、抵抗8、抵抗9、バイアス端子10、オペアンプ11から構成される。オペアンプ11の-端子に抵抗7と抵抗8と抵抗9を接続し、抵抗7の他端には温度検出部の出力端子(電圧V1)、抵抗8の他端にはバイアス端子10、抵抗9の他端にはオペアンプ11の出力端子が接続される。
オペアンプ11の+端子は接地されているので、-端子の電位は0V(イマジナリショート)となる。オペアンプ11の-端子にはバイアス端子4に入力される負電圧と-端子の電位差によって、正特性サーミスタ、抵抗7に流れる電流とバイアス端子10の入力電圧と-端子の電位差によって抵抗8に流れる電流が流れる。それらの電流を加算した電流が抵抗9を流れることで電圧V2を得る。正特性サーミスタ24は温度が増加するにつれて、抵抗値が線形に増加するため、電圧V2は高温で小さくなる。これにより電圧V2は、
図6の構成時と同様の
図8の特性が得られる。出力端子21の電圧V3の特性は
図6の構成と同じく、
図11に示すとおりとなる。
【0038】
***実施の形態2の特徴と効果***
実施の形態2の温度補償回路は、温度検出部1が、バイアス端子4に接続された正特性サーミスタ24のみを有することを特徴とする。
実施の形態2の温度補償回路によれば、部品の削減が可能である。
【0039】
実施の形態3.
■Vbt生成回路25
以下、主に実施の形態1、2と異なる点について説明する。
図21に実施の形態3の構成の一例を示す。
図6の構成の場合、理想ダイオードではない実際のダイオードでは、順方向電圧に温度特性(-2mV/℃)があるため、温度によりダイオード17がオンする電圧が変化する。この順方向電圧の温度特性が問題となる場合には数式2で示されるVsを温度によって変動させることで、ダイオードの順方向電圧の温度特性の影響を打ち消すことが可能である。
閾値回路31は、増幅回路32を構成するダイオード17の順方向電圧の温度特性の影響を打ち消すため、Vbt生成回路25を有する。
図21のVbt生成回路25で
図6の非線形電圧生成部3のバイアス端子18への入力電圧Vbに相当する電圧Vbtを生成する。Vbt生成回路25はバイアス端子26、抵抗27、抵抗28、正特性サーミスタ29で構成される。バイアス端子26に並列接続された抵抗27、正特性サーミスタ29が接続され、抵抗27と正特性サーミスタ29の他端には抵抗28が接続され、抵抗28の他端は接地される。
電圧Vbtは正電圧をバイアス端子26から入力し、並列接続された抵抗27、正特性サーミスタ29と抵抗28の接続部から出力される。
Vbt生成回路25の出力電圧Vbtを
図22に示す。
図22に示すように温度増加に対して、電圧が低下するように電圧Vbtを変化させることで、ダイオードの順方向電圧の温度特性の影響を打ち消し、温度補償回路の動作は理想ダイオードでの検討と同様の振舞いとなる。
Vbt生成回路25は、バイアス端子26の電圧を抵抗、正特性サーミスタによって分圧して、
図6のバイアス端子18に入力する電圧を生成する。電圧Vbtは、温度によって変動する電圧である。
【0040】
***実施の形態3の特徴と効果***
実施の形態3の温度補償回路は、増幅回路32を構成するダイオード17の順方向電圧の温度特性の影響を打ち消すVbt生成回路を有することを特徴とする。
実施の形態3の温度補償回路によれば、理想ダイオードではないダイオードを使用することができる。
【0041】
以上、複数の実施の形態について説明したが、これらの実施の形態のうち、いくつかを組み合わせて実施しても構わない。或いは、これらの実施の形態の一部を組み合わせて実施しても構わない。
【符号の説明】
【0042】
1 温度検出部、2 加算増幅部、3 非線形電圧生成部、4 バイアス端子、5 抵抗、6 正特性サーミスタ、7 抵抗、8 抵抗、9 抵抗、10 バイアス端子、11 オペアンプ、12 抵抗、13 抵抗、14 抵抗、15 抵抗、16 抵抗、17 ダイオード、18 バイアス端子、19 バイアス端子、20 オペアンプ、21 出力端子、22 ダイオード、23 抵抗、24 正特性サーミスタ、25 Vbt生成回路、26 バイアス端子、27 抵抗、28 抵抗、29 正特性サーミスタ、31 閾値回路、32 増幅回路。