(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122130
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】地熱発電設備の異常判定システム、異常判定装置、データ取得装置、異常判定プログラム及びデータ取得プログラム
(51)【国際特許分類】
F03G 4/00 20060101AFI20220815BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
F03G4/00 511
G05B23/02 302S
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019230
(22)【出願日】2021-02-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本地熱学会、日本地熱学会 令和2年学術講演会 講演要旨集、令和2年11月11日 〔刊行物等〕 日本地熱学会、日本地熱学会 令和2年学術講演会 講演要旨集、令和2年11月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『地熱発電技術研究開発/地熱エネルギーの高度利用化に係る技術開発』委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中尾 吉伸
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA04
3C223BB08
3C223FF05
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF35
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】地熱発電設備の性能に影響を与える因子を考慮した上で異常を判定することができる地熱発電設備の異常判定システム、異常判定装置、データ取得装置、異常判定プログラム及びデータ取得プログラムを提供する。
【解決手段】地熱発電設備の構成機器を流通する作動媒体の流量に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、各構成機器の推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデル23を備え、因子データ、及び実性能データを取得し、データ取得手段から取得した因子データを学習モデル23に入力し、学習モデル23の演算処理を実行することで推定性能値を取得し、推定性能値に対して、実性能データが所定値以上乖離しているならば構成機器に異常が生じていると判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定システムであって、
前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルと、
前記因子データを計測・分析して得られた実性能データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段から取得した前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、
前記推定性能値に対して、前記データ取得手段により取得した前記実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、を備える
ことを特徴とする地熱発電設備の異常判定システム。
【請求項2】
請求項1に記載する地熱発電設備の異常判定システムであって、
前記地熱発電設備が正常に動作している期間における前記因子データを入力すると前記推定性能値を出力する機械学習を行うことで前記学習モデルを形成する学習モデル形成手段を備える
ことを特徴とする地熱発電設備の異常判定システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する地熱発電設備の異常判定システムであって、
前記地熱発電設備は、前記因子データを計測して計測値を表示するモニターを備え、
前記データ取得手段は、前記モニターに表示された前記計測値を画像解析により数値化することで前記因子データを取得し、分析によって、前記実性能データを取得する
ことを特徴とする地熱発電設備の異常判定システム。
【請求項4】
作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定装置であって、
前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルと、
前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、
前記推定性能値に対して、前記因子データを計測・分析して得られた実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、を備える
ことを特徴とする地熱発電設備の異常判定装置。
【請求項5】
作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定プログラムであって、
前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルを記憶した異常判定装置を、
前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、
前記推定性能値に対して、前記因子データを計測・分析して得られた実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、して機能させる
ことを特徴とする地熱発電設備の異常判定プログラム。
【請求項6】
作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定装置と通信可能なデータ取得装置であって、
前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを分析して得られた実性能データを取得するデータ取得手段を備え、
前記異常判定装置は、
前記因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルと、
前記データ取得装置から取得した前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、
前記推定性能値に対して、前記データ取得装置により取得した前記実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、を備える
ことを特徴とする地熱発電設備のデータ取得装置。
【請求項7】
作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定装置と通信可能なデータ取得装置を、
前記地熱発電設備の各構成機器性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを分析して得られた実性能データを取得するデータ取得手段として機能させ、
前記異常判定装置は、
前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルと、
前記データ取得装置から取得した前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、
前記推定性能値に対して、前記データ取得装置により取得した前記実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、を備える
ことを特徴とする地熱発電設備のデータ取得プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱発電設備の異常判定システム、異常判定装置、データ取得装置、異常判定プログラム及びデータ取得プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温泉熱を活用した小規模の地熱発電設備(例えば、特許文献1参照)が増加している。一般に、地熱発電設備の利用率は、地熱や河川水・海水等の温度変化や気温など環境に関する因子によって変動する。また、地熱発電所の構成機器の故障や運転トラブルによっても利用率は変動する。
【0003】
このような利用率の変動の原因を特定するために、構成機器における性能が一定以上変化した場合に、当該構成機器に異常が生じたと判定することが考えられる。しかしながら、構成機器の性能は、上述したような故障や運転トラブルのみならず、環境変化によっても変動することから、構成機器の性能変化が故障等に基づくものであると断定しにくい。
【0004】
また、地熱発電設備は、構成機器を流通する作動媒体の温度、圧力、流量などの計測値を表示する管理機器が備えられているものの、その計測値がデータとして提供されない場合がほとんどである。このため、データに基づいて構成機器の性能を把握し異常判定を行うということが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、地熱発電設備の性能に影響を与える因子を考慮した上で異常を判定することができる地熱発電設備の異常判定システム、異常判定装置、データ取得装置、異常判定プログラム及びデータ取得プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の態様は、作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定システムであって、前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルと、前記因子データを計測・分析して得られた実性能データを取得するデータ取得手段と、前記データ取得手段から取得した前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、前記推定性能値に対して、前記データ取得手段により取得した前記実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とする地熱発電設備の異常判定システムにある。
【0008】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定装置であって、前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルと、前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、前記推定性能値に対して、前記因子データを計測・分析して得られた実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とする地熱発電設備の異常判定装置にある。
【0009】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定プログラムであって、前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルを記憶した異常判定装置を、前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、前記推定性能値に対して、前記因子データを計測・分析して得られた実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、して機能させることを特徴とする地熱発電設備の異常判定プログラムにある。
【0010】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定装置と通信可能なデータ取得装置であって、前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを分析して得られた実性能データを取得するデータ取得手段を備え、前記異常判定装置は、前記因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルと、前記データ取得装置から取得した前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、前記推定性能値に対して、前記データ取得装置により取得した前記実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とする地熱発電設備のデータ取得装置にある。
【0011】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、作動媒体によりタービンを駆動して発電する地熱発電設備の異常判定装置と通信可能なデータ取得装置を、前記地熱発電設備の各構成機器性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを分析して得られた実性能データを取得するデータ取得手段として機能させ、前記異常判定装置は、前記地熱発電設備の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られた因子データを入力すると、前記構成機器の性能を推定したものである推定性能値を出力するように機械学習を行った学習モデルと、前記データ取得装置から取得した前記因子データを前記学習モデルに入力し、前記学習モデルの演算処理を実行することで前記推定性能値を取得する運転状態推定手段と、前記推定性能値に対して、前記データ取得装置により取得した前記実性能データが所定値以上乖離しているならば前記構成機器に異常が生じていると判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とする地熱発電設備のデータ取得プログラムにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地熱発電設備の性能に影響を与える因子を考慮した上で異常を判定することができる地熱発電設備の異常判定システム、異常判定装置、データ取得装置、異常判定プログラム及びデータ取得プログラムを提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】異常判定システムの処理の流れを説明する図である。
【
図3】推定流量と実流量データの時系列変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、実施形態の説明は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の異常判定システム1は、地熱発電設備100の異常判定を行うものであり、データ取得装置10と、異常判定装置20とを備え、データ取得装置10と異常判定装置20はインターネットなどの通信手段を介して通信可能となっている。
【0016】
地熱発電設備100は、特に図示しないが、蒸発器、タービン、凝縮器、ポンプ、発電機、各種計測器等を備えた、いわゆるバイナリー型の地熱発電設備であり、地熱より温水を生成する温水系統、外気・河川水・海水等より冷却水を生成する冷却系統を含む。地熱により作動媒体が蒸気となり、その蒸気によってタービンを駆動して発電機により発電を行う。そして、タービンから排出された作動媒体を凝縮器で凝縮させ、蒸発器で再度蒸気とするように構成されている。ポンプは、作動媒体を圧送するためのものである。
【0017】
このような地熱発電設備100は、各種の計測器、及び蒸発器などの構成機器について運転状況を表示するモニター101を有している。計測器は、地熱発電設備100の構成機器の性能値を計測するものであり、例えば本実施形態では構成機器を流通した作動媒体の流量を測定する。また、他の計測器としては構成機器の周辺の気温など環境についての状態量を計測する装置である。
【0018】
計測器の具体例としては、各構成機器の出口における作動媒体の温度、圧力、流量、地熱井から得られた温水の温度や、凝縮器で用いられる海水温度、地熱発電設備100の周辺の気温などを測定する機器が挙げられる。
【0019】
モニター101は、各種計測器で測定された計測値の表示のみを行う装置である。
図1の例では、モニター101には、温水温度、海水温度、蒸発器の作動媒体の流量(図では蒸発器流量と略記してある)の見出しとともに、具体的な計測値が表示されている。
【0020】
データ取得装置10は、各種計測器で測定された計測値を因子データとして異常判定装置に送信する。具体的には、データ取得装置10は、特に図示しないが、CPU、RAM、フラッシュディスクなどの記憶装置、入出力装置、通信手段、カメラ等を備えたコンピュータである。
【0021】
また、データ取得装置10の記憶装置には、データ取得プログラムがインストールされており、データ取得プログラムがRAMに読み込まれ、CPUにより実行される。このデータ取得プログラムは、データ取得装置10を、データ取得部11として機能させるプログラムである。
【0022】
データ取得手段は、因子データを計測・分析して得られた実性能データを取得する。本実施形態では、因子データの取得を行うデータ取得部11、データ分析部21からデータ取得手段が構成されている。データ取得部11はデータ取得装置10に備わっており、データ分析部21は異常判定装置20に備わっている。
【0023】
因子データとは、地熱発電設備100の各構成機器の性能に対して影響を与える因子を計測して得られたデータである。因子データとしては、各機器構成を流通する作動媒体の温度・圧力・流量・組成などを表すデータが挙げられる。他にも、因子データとしては地熱井から得られた熱水の温度、凝縮器に用いられる海水温度、地熱発電設備100の周辺の気温などが挙げられる。
【0024】
データ取得部11は、次のようにして因子データを取得する。地熱発電設備100の管理装置などが地熱発電設備の各構成機器から得られた計測値を公知のデータ通信手段を介して提供する場合では、データ取得部11はその管理装置から計測データを取得し、それを因子データとする。
【0025】
また、地熱発電設備100は、計測値をデータ通信手段によって提供していない場合であっても、運手状況に関する計測値を表示するモニター101を提供している場合がある。このような場合では、次のように画像処理により計測値を得る。まず、データ取得装置10に備わるカメラ12によってモニター101を撮像する。モニター101を撮像した画像には、各構成機器を流通する作動媒体の温度・圧力・流量・組成などの計測値、温水温度の計測値などが表示されているので、データ取得部11は、これらを画像解析によって数値データに変換し、因子データとする。
【0026】
データ取得部11としては、上述したように画像処理を介さず直接的に計測値を得る、又は画像処理を介さずに間接的に計測値を得る手段を採用できるが、これらは何れか一方のみを採用してもよいし、双方を採用してもよい。例えば、ある計測値については直接的に得て、他の計測値については間接的に得るなど地熱発電設備100による計測値の提供状況に合わせて適宜採用すればよい。
【0027】
データ取得部11が地熱発電設備100からデータ通信手段を介して計測値を得て因子データとするタイミングや、モニター101に表示された計測値から因子データを取得するタイミングは、一定間隔で行えばよく、例えば毎分行う。
【0028】
また、データ取得部11は、因子データに所定の処理を実行してもよい。例えば、複数の構成機器の各出口で得られる因子データのうち一部が欠落している場合は、その時に得られた因子データ全体を削除するなどデータが欠落していないかをチェックする処理が挙げられる。他にも、一定期間の因子データを平均化する処理などが挙げられる。
【0029】
データ取得部11は、このようにして取得した因子データを異常判定装置20に通信手段を介して送信する。データの送信タイミングに限定はなく、因子データを一定量、例えば一日分を蓄積してからまとめて送信してもよいし、因子データを取得するたびに送信してもよい。また、データ取得部11は、因子データをCSV、TSV、JSON、XMLなど任意の形式にして送信する。
【0030】
また、データ取得部11は、因子データを直接的に異常判定装置20に送信してもよいし、インターネットを通じて提供される、いわゆるクラウド型のストレージ(記憶装置)に記憶させてもよい。後者の場合、異常判定装置20がそのストレージに記憶された因子データを読み取る。
【0031】
異常判定装置20は、データ取得装置10から取得した因子データに基づいて地熱発電設備100の異常判定を行う。具体的には、異常判定装置20は、特に図示しないが、CPU、RAM、ハードディスク、フラッシュディスクなどの記憶装置、入出力装置、通信手段等を備えたコンピューターである。
【0032】
また、異常判定装置20の記憶装置には、異常判定プログラムがインストールされており、異常判定プログラムがRAMに読み込まれ、CPUにより実行される。この異常判定プログラムは、異常判定装置20を、データ分析部21、学習モデル形成手段22、運転状態推定手段24、異常判定手段25として機能させるプログラムである。
【0033】
データ分析部21は、データ取得部11が取得した因子データを分析して実性能データを取得する。実性能データとは、地熱発電設備100の性能やその構成機器の性能を表すデータである。実性能データとしては、例えば、発電端出力、送電端出力、タービン性能、各熱交換器性能、各ポンプ性能などである。
【0034】
因子データから実性能データを得る分析方法としては、因子データを用いてプラント解析モデルを解くことにより実性能データを得る方法が挙げられる。プラント解析モデルは、各構成機器を流通する作動流体の温度・圧力・流量・組成等(これらは因子データとして得られている)が満たすべき関係式を表している。データ分析部21は、その関係式を解くことで各構成機器の作動流体の状態を計算する。そして、各構成機器については、作動流体の状態から構成機器の性能値を求める式が定義されており、データ分析部21は当該式及び作動流体の状態から各構成機器の性能値(実性能データ)を計算する。
【0035】
上述した分析方法は、EnergyWin(登録商標)により行うことができる。また、EnergyWin(登録商標)に関しては特許第5522684号公報及び特許第5618322号公報に開示されている。
【0036】
データ取得部11から取得した因子データのうち、地熱発電設備100が正常に動作している期間のものを学習データと称する。学習データは、次のようにして得る。人が地熱発電設備100の運転状況に基づいて正常に動作していると判断した期間を適宜選択し、その期間に得られた因子データを抽出して学習データとする。学習データは学習モデル23の形成に用いられる。
【0037】
一方、因子データのうち、正常運転時に取得したか、又は異常運転時に取得したかについて未知であるものをテストデータと称する。テストデータは、データ分析部21及び運転状態推定手段24に用いられる。
【0038】
学習モデル形成手段22は、このような学習データを用いて、因子データを入力すると、各構成機器の性能値を推定したものである推定性能値を出力する機械学習を行うことで学習モデル23を形成する。機械学習の具体例としては例えば、ニューラルネットワークや回帰を採用することができる。学習モデル形成手段22は、学習モデル23を異常判定装置20の記憶装置に記憶する。
【0039】
学習モデル23は、因子データを入力すると、地熱発電設備100が正常に動作している状態であれば得られるであろう各構成機器の推定性能値を出力する関数やパラメータ等からなる。
【0040】
運転状態推定手段24は、テストデータを学習モデル23に入力し、学習モデル23の演算処理を実行することで推定性能値を取得する。
【0041】
異常判定手段25は、運転状態推定手段24により得られた推定性能値に対して、データ取得部11及びデータ分析部21から取得した実性能データが所定値以上乖離しているならば構成機器に異常が生じていると判定する。上述したように、学習モデル23を用いて得られた推定性能値は、地熱発電設備100が正常に動作していれば計測されるであろう値である。したがって、実性能データが推定性能値から乖離しているということは、地熱発電設備100の構成機器に異常が生じている可能性が高いと考えられる。
【0042】
図2を用いて、異常判定システム1の処理の流れを説明する。
地熱発電設備100から直接的に得られた計測値、及びモニター101に表示された各構成機器の計測値は、データ取得装置10(データ取得部11)により因子データにされる。
【0043】
次に、学習モデル形成手段22は、因子データのうち正常運転時において得られたものを学習データとして機械学習を行い学習モデル23を形成する。
【0044】
次に、データ分析部21は、因子データのうち、正常運転時又は異常運転時の何れかの運転状態で得られたかが未知である因子データをテストデータとして、学習モデル23から推定性能値を取得する。一方、運転状態推定手段24もテストデータとされた因子データを元に分析を行い、実性能データを取得する。
【0045】
次に、異常判定手段25は、推定性能値と実性能データとを比較し、所定値以上乖離しているか否かを判定する。所定値以上乖離しているか否かは、例えば、実性能データが推定性能値に対して+5%以上である、又は-5%以下であるというように、推定性能値に対する比率を適宜設定することにより判定する。
【0046】
図3は、推定性能値と実性能データの時系列変化を示す図である。横軸は時間であり、縦軸はタービン性能を示す。実線の推定性能値はタービン性能の推定値の変化を表している。点線の実性能データは因子データを分析することで得られるタービン性能の変化を表している。時刻T1から時刻T2の間における実性能データをサンプルS1、時刻T3から時刻T4までの間における実性能データをサンプルS2とする。
【0047】
異常判定手段25は、実性能データのサンプルS1が時刻Taにおいて推定性能値から所定値以上に乖離しているので、タービンに異常が生じていると判定する。一方、異常判定手段25は、時刻Ta以外の時刻におけるサンプルS1、及びサンプルS2は推定性能値から所定値以内であるので、タービンに異常が生じていないと判定する。このような異常判定を、地熱発電設備100の構成機器ごとに行う。
【0048】
異常判定装置20は、異常判定を行った結果を、インターネットなどの通信手段を介して地熱発電設備100の管理者などが所有するスマートフォン30(
図1参照)から参照できるようにする。これにより、管理者は、異常判定の結果を確認し、異常が生じたと判定された構成機器を修理又は交換などを行う意思決定を行うことができる。これにより、早期に構成機器を修理又は交換して地熱発電設備100の利用率を向上させることができる。
【0049】
ここで、一般に、地熱発電設備100では、温水温度、海水温度、気温などが変化しても出力を最大化するようにポンプ等を制御する。この結果、各構成機器の性能たる作動媒体の流量は変動し、
図3に示す特性S1と特性S2のように、地熱発電設備100が正常であるにも関わらず、温水温度等の変動によって流量が大きく異なる場合も生じる。
【0050】
このような地熱発電設備100において、
図4に示すように、実性能データのみで異常判定する場合を説明する。
図4のサンプルS1及びサンプルS2は
図3と同じである。実性能データに対して閾値Thを設け、閾値Thを上回るならば異常であると判定する場合では、サンプルS2は時刻T3において閾値Thを上回っているために異常であると判定されてしまう。また、サンプルS1は時刻Taにおいては閾値Thを下回っているために、異常ではないと判定されてしまう。このように
図3とは全く反対の判定結果が得られる場合がある。
【0051】
上述のごとく実性能データの変化に対して閾値を設定して異常判定を行う場合では、温水温度など作動媒体の流量に影響を与える因子が考慮されていないため、
図4に示したように異常・正常の判定を正確に行えない場合が生じ得る。
【0052】
しかしながら、本実施形態に係る異常判定システム1では、実性能データのみならず、地熱発電設備100が正常に運転しているときに得られた因子データを元に形成した学習モデル23から得られる推定性能値を用いて異常判定を行う。
【0053】
したがって、
図3に示すサンプルS2の時刻T3において比較的大きな実性能データが得られた場合であっても、それは温水温度などの因子の影響によるものであり、推定性能値からの乖離が小さいので地熱発電設備100は正常に動作していると判定することができる。また、サンプルS1の時刻Taにおいてそれほど大きくない実性能データが得られた場合であっても、温水温度などの因子を考慮に入れた推定性能値から大きく乖離しているので地熱発電設備100に異常が生じていると判定することができる。
【0054】
このように、本実施形態に係る異常判定システム1では、地熱発電設備100の性能に影響を与える環境変化の因子を考慮に入れた上で異常判定をするので、地熱発電設備100の異常判定をより正確に行うことができる。そして、このように異常判定を正確に行う結果、例えば、故障した構成機器を早期に発見し、修理や交換等を行って性能改善を図ることができるので、地熱発電設備100の利用率を向上することができる。
【0055】
また、本実施形態に係るデータ取得装置10は、地熱発電設備100が備えるモニター101に表示された計測値から因子データを取得する。これにより、地熱発電設備100が各種計測器の計測値をデータとして提供していない場合であっても、地熱発電設備100の異常を早期に知らせ、修理や交換等の対策を講じるための有用な情報を提供することができる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0057】
例えば、異常判定装置20は、必ずしも学習モデル形成手段22を備えていなくてもよい。この場合、学習モデル23を別の情報処理装置によって形成し、その学習モデル23を異常判定装置20の記憶装置に記憶させればよい。
【0058】
また、データ取得部11がデータ取得装置10に備わり、データ分析部21が異常判定装置20に備わる構成を例示したがこれに限定されない。例えば、データ取得部11及びデータ分析部21の双方がデータ取得装置10に備わっていてもよいし、又は双方が異常判定装置に備わっていてもよい。
【0059】
さらには、データ取得部11、データ分析部21、学習モデル形成手段22、運転状態推定手段24、異常判定手段25は、一台の異常判定装置20に備わっている必要はなく、複数台のコンピューターに備わっていてもよい。例えば、データ分析部21と学習モデル形成手段22を備えたコンピュータに学習モデル23を作成させる。そして、その学習モデル23を、運転状態推定手段24と異常判定手段25を備えたコンピュータに記憶させる。このようにして、全体として複数台のコンピューターに分散させて
図2に示したような一連の処理を行ってもよい。
【0060】
また、データ取得装置10や異常判定装置20の台数に特に限定はない。例えば、モニター101の台数や配置場所に応じて複数のデータ取得装置10を用いてもよい。また、負荷分散や計算速度の向上のために複数台の異常判定装置20を用いてもよい。
【0061】
また、データ取得装置10にデータ取得部を設けて計測値を因子データにしたが、このような構成に限定されない。例えば、データ取得装置10は、カメラで撮像した画像を通信手段を介して異常判定装置20に送信する。異常判定装置20はその画像を元に計測値を因子データにするようにしてもよい。この場合、データ取得装置10に備わるカメラや通信手段と、異常判定装置において画像を分析して因子データとする機能がデータ取得部となる。
【0062】
また、データ取得装置10と異常判定装置20とは、別々の装置である必要はない。すなわち、一台の情報処理装置に、学習モデルを記憶させるとともに、データ取得手段、運転状態推定手段、異常判定手段を備えるプログラム、もしくは、さらに学習モデル形成手段を備えるプログラムを実行させてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…異常判定システム、10…データ取得装置、11…データ取得部、12…カメラ、20…異常判定装置、22…学習モデル形成手段、23…学習モデル、24…運転状態推定手段、25…異常判定手段、30…スマートフォン、100…地熱発電設備、101…モニター