(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122140
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】cAMP指示薬及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20220815BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220815BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20220815BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20220815BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N21/64 E
G01N21/64 F
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019242
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】川田 聖香
【テーマコード(参考)】
2G043
4B063
4B064
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA01
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043KA02
2G043LA03
2G043MA01
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QS03
4B063QS36
4B063QX02
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064DA13
(57)【要約】
【課題】cAMPの動的挙動をリアルタイムイメージングするためのcAMP指示薬を提供する。
【解決手段】
cAMP受容体タンパク質に結合し、細胞内のcAMPの動的挙動を緑色励起光によってリアルタイムイメージングするためのcAMP指示薬であって、配列番号1記載のアミノ酸配列を有することを特徴とする。緑色励起光の波長は490~550nmである。動的挙動が観察される細胞は例えば神経細胞であり、好ましくは海馬神経細胞である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
cAMP受容体タンパク質に結合し、細胞内のcAMPの動的挙動を緑色励起光によってリアルタイムイメージングするためのcAMP指示薬であって、配列番号1記載のアミノ酸配列を有することを特徴とするcAMP指示薬。
【請求項2】
前記緑色励起光の波長は490~550nmであることを特徴とする請求項1に記載のcAMP指示薬。
【請求項3】
前記細胞は神経細胞であることを特徴とする請求項1又は2記載のcAMP指示薬。
【請求項4】
前記神経細胞は海馬神経細胞であることを特徴とする請求項3に記載のcAMP指示薬。
【請求項5】
配列番号1で表されるアミノ配列と90%以上の同一性のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のcAMP指示薬。
【請求項6】
配列番号1で表されるアミノ配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠損、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のcAMP指示薬。
【請求項7】
cAMP受容体タンパク質に結合し、細胞内のcAMPの動的挙動を紫色励起光によってリアルタイムイメージングするためのcAMP指示薬であって、配列番号2記載のアミノ酸配列を有することを特徴とするcAMP指示薬。
【請求項8】
前記紫色励起光の波長は380~430nmであることを特徴とする請求項7に記載のcAMP指示薬。
【請求項9】
前記細胞は神経細胞であることを特徴とする請求項7又は8記載のcAMP指示薬。
【請求項10】
前記神経細胞は海馬神経細胞であることを特徴とする請求項9に記載のcAMP指示薬。
【請求項11】
配列番号2で表されるアミノ配列と90%以上の同一性のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項7乃至10の何れか1項に記載のcAMP指示薬。
【請求項12】
配列番号2で表されるアミノ配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠損、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項7乃至10の何れか1項に記載のcAMP指示薬。
【請求項13】
配列番号3記載のDNA配列を有するベクターを使用することにより前記DNAを細胞導入する工程を有することを特徴とする緑色励起光によってリアルタイムイメージングするcAMP指示薬の製造方法。
【請求項14】
前記緑色励起光の波長は490~550nmであることを特徴とする請求項13に記載のcAMP指示薬の製造方法。
【請求項15】
前記ベクターは大腸菌発現ベクターであることを特徴とする請求項13又は14に記載のcAMP指示薬の製造方法。
【請求項16】
配列番号4記載のDNA配列を有するベクターを使用することにより前記DNAを細胞導入する工程を有することを特徴とする紫色励起光によってリアルタイムイメージングするcAMP指示薬の製造方法。
【請求項17】
前記紫色励起光の波長は380~430nmであることを特徴とする請求項16に記載のcAMP指示薬の製造方法。
【請求項18】
前記ベクターは大腸菌発現ベクターであることを特徴とする請求項16又は17に記載のcAMP指示薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、cAMPの動的挙動をリアルタイムイメージングするためのcAMP指示薬及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのホルモンや神経伝達物質は、Gタンパク質共役型受容体に働き、細胞内セカンドメッセンジャーを介して様々な細胞活動を引き起こしている。セカンドメッセンジャーは細胞表面で受け取ったシグナルを中継する分子である。細胞表面の受容体には、タンパク質ホルモン、成長因子等が到達するが、セカンドメッセンジャーがそれを受けて細胞質又は核内の分子に作用する。セカンド・メッセンジャーはシグナルを中継するだけでなく、シグナルを増幅する役目も果たしている。
【0003】
代表的なセカンドメッセンジャーにサイクリックAMP(以下cAMPと記載することがある。)、サイクリックGMP(以下cGMPと記載することがある。)、イノシトールリン酸、ジアシルグリセロール、カルシウムイオン等がある。Gタンパク質共役型受容体では、レセプターと結合するGタンパク質の違いにより、異なるセカンドメッセンジャーが産生される。例えばGsタンパク質と共役する受容体(アドレナリンβ受容体やグルカゴン受容体等)ではアデニル酸シクラーゼが活性化されcAMPが生成される。
【0004】
これまでの遺伝子発現型cAMP指示薬として基礎研究レベルで報告されているものとして、R-FlincA(RedFluorescentindicatorforcAMP)、Pink-Flamindo、Flamindo2、CAMPr、ICUE、EPAC-S、EPAC-cAMP等がある。市販品として入手可能なものとしてcADDisがある。
【0005】
R-FlincAは、蛍光タンパク質mAppleを用いた高感度赤色蛍光cAMP指示薬であり、低濃度のcAMP結合によりその明るさが増光するR-FlincAを利用することで低濃度cAMP動態の検出を可能とする(非特許文献1)。
【0006】
Flamindo2は緑色蛍光タンパク質を基盤としたcAMPセンサーである。これは単色輝度変化型センサーと呼ばれ、分割された蛍光タンパク質の間に標的分子の結合部位が連結された構造をしており、標的分子が結合すると蛍光タンパク質の構造が変化し、蛍光強度が変化すると考えられている(非特許文献2)。
【0007】
cAMPは多様な生理機能の調節に関与しており、例えば膵β細胞では細胞内のcAMP濃度上昇によってインスリン分泌が促進され、脳の海馬の神経細胞ではcAMP濃度上昇が記憶学習反応を引き起こす。これらさまざまな生理機能のおけるcAMPの細胞内動態を解析するためには特異性の高い指示薬が必要である。
【0008】
しかしながらcGMPよりもcAMPに対して特異性の高い指示薬で十分な反応変化幅を持つものは開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yusaku Ohta et al.,Scientific Reports, 8(1866)1-9, Published online 30 January 2018
【非特許文献2】Kitaguchi et al., Biochem J, 2013; Odaka et al, PLoS ONE, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、特異性の高いcAMP指示薬及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるcAMP指示薬は、細胞内のcAMPの動的挙動を緑色励起光によってリアルタイムイメージングするためのcAMP指示薬であって、配列番号1記載のアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0012】
また本発明にかかるcAMP指示薬は、細胞内のcAMPの動的挙動を紫色励起光によってリアルタイムイメージングするためのcAMP指示薬であって、配列番号2記載のアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0013】
本発明にかかるcAMP指示薬の製造方法は、配列番号3記載のDNA配列を有するベクターを使用することによりこのDNAを細胞導入する工程を有することを特徴とする。
【0014】
本発明にかかるcAMP指示薬の製造方法は、配列番号4記載のDNA配列を有するベクターを使用することによりこのDNAを細胞導入する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特異性の高いcAMP指示薬が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のcAMP指示薬がcGMPよりもcAMPに対して特異性が高いことを示す図。
【
図2】gCarviタンパク質における励起スペクトル及び蛍光スペクトルを示す図。
【
図3】gvCarviタンパク質における励起スペクトル及び蛍光スペクトルを示す図。
【
図4】海馬神経細胞におけるgCarviタンパク質の発現を示す写真図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0018】
本発明者は、大腸菌cAMP receptor proteinのcAMP結合ドメインを利用したcAMP指示薬をベースにcAMP/cGMP比を確認しつつスクリーニングを進めることで、cAMP特異性の高いcAMP指示薬を見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。本発明にかかるcAMP指示薬をCarviと称することがある。そして緑色励起光によってイメージングができるCarviをgCarviと称することがある。紫色励起光によってイメージングができるCarviをgvCarviと称することがある。
【0019】
本発明にかかるcAMP指示薬(gCarvi)は、配列番号1記載のアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0020】
本発明にかかるcAMP指示薬(gCarvi)は、配列番号1で表されるアミノ配列と90%以上の同一性の配列を有することを特徴とする。90%以上の同一性を有するアミノ酸配列の変異の場合タンパク質の機能の同一性が阻害されない場合があるからである。
【0021】
本発明にかかるcAMP指示薬(gCarvi)は、配列番号1で表されるアミノ配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠損、挿入又は付加された配列を有することを特徴とする。1又は複数個のアミノ酸配列の変異の場合タンパク質の機能の同一性が阻害されない場合があるからである。
【0022】
緑色励起光の波長は、特に限定されるものではないが、例えば490~550nmである。
【0023】
本発明にかかるcAMP指示薬(gvCarvi)は、配列番号2記載のアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0024】
本発明にかかるcAMP指示薬(gvCarvi)は、配列番号2で表されるアミノ配列と90%以上の同一性の配列を有することを特徴とする。
【0025】
本発明にかかるcAMP指示薬(gvCarvi)は、配列番号2で表されるアミノ配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠損、挿入又は付加された配列を有することを特徴とする。
【0026】
紫色励起光の波長は、特に限定されるものではないが、例えば380~430nmである。
【0027】
cAMPの動的挙動を観察する対象となる細胞は、特に限定されるものではないが、例えば神経細胞である。神経細胞は、特に限定されるものではないが、例えば大脳皮質(大脳新皮質、海馬等の大脳辺縁系皮質等)、間脳(視床、視床下部、大脳基底核等)、小脳、橋、延髄及び脊髄等の中枢神経系、又は体表、深部組織及び内臓器官等に分布する末梢神経系に例示される神経系を構成する組織又は器官における神経細胞であり、好ましくは海馬神経細胞である。
【0028】
cAMPは、アデノシンのリボースの3’位、5’位とリン酸が環状になった構造をとる環状ヌクレオチドの一種で、細胞外リガンドに応じた細胞の多種多様な生理的応答を媒介する。cAMPは、細胞質においてアデニル酸シクラーゼの働きによりアデノシン三リン酸(ATP)から合成され、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)の働きにより速やかに分解されてアデノシン5’-AMPとなる。cAMPの作動体分子としては、プロテインキナーゼA(PKA)、Epac、CNGチャネル(CNG channel)の3種が良く知られており、多種多様なcAMP下流シグナルを媒介する。神経細胞においてcAMPは、分化、生存、極性形成、突起伸長、軸索ガイダンス、軸索再生、シナプス伝達、シナプス可塑性、ホルモン分泌等多種多彩な過程に関与する。そのためcAMPを特異的にイメージングできる本発明の効果は重要である。
【0029】
また本発明にかかるcAMP指示薬(gCarvi)の製造方法は、配列番号3記載のDNA配列を有するベクターを使用することによりこのDNAを細胞導入する工程を有することを特徴とする。
【0030】
緑色励起光の波長は、特に限定されるものではないが、例えば490~550nmである。
【0031】
また本発明にかかるcAMP指示薬(gvCarvi)の製造方法は、配列番号4記載のDNA配列を有するベクターを使用することによりこのDNAを細胞導入する工程を有することを特徴とする。
【0032】
紫色励起光の波長は、特に限定されるものではないが、例えば380~430nmである。
【0033】
ベクターは、特に限定されるものではないが、例えば大腸菌発現ベクターである。
【実施例0034】
(1)gCarvi DNA配列及びgvCarvi DNA配列の取得
cAMP結合領域の配列は、大腸菌(DH5α株)のゲノムDNAを鋳型としたPCRによって取得した。PCRプライマーは以下の通りである。
Forward primer: TAGGATCCATGGTGCTTGGCAAACCG (配列番号5)
Reverse primer: TTACTCGAGCGCCAGGTTGCCCAC (配列番号6)
取得したcAMP結合領域の配列を鋳型として、CRP(cAMP受容タンパク質)135番目のアミノ酸をチロシンに置換したCarvi用cAMP結合領域DNA配列をPCRによって取得した。PCRプライマーは以下の通りである。
Forward primer: TAGGATCCATGGTGCTTGGCAAACCG (配列番号7)
Reverse primer: TTACTCGAGATACAGGTTGCCCAC (配列番号8)
cpGFP(蛍光タンパク質GFPの円順列変異体)配列は、GCaMP3(カルシウムセンサータンパク質)のDNA配列を鋳型としたPCRによって取得した。PCRプライマーは以下の通りである。
Forward primer: TAGGATCCCTCGAGAACGTCTATATCAAGGC (配列番号9)
Reverse primer: TAAGTCGACAAGCTTACTAGTGTTGTACTCCAGCTTGTGCC (配列番号10)
取得したcpGFP配列を鋳型として、cpGFP58番目のアミノ酸をイソロイシンに、cpGFP112番目のアミノ酸をグルタミンに置換したgCarvi用cpGFP DNA配列をPCRによって取得した。PCRプライマーは以下の通りである。
Sense primer #1 : CGTGCAGTCCATTCTTTCGAA (配列番号11)
Antisense primer #1 : TTCGAAAGAATGGACTGCACG (配列番号12)
Sense primer #2 : GCCCATCCAGGTCGAGC (配列番号13)
Antisense primer #2 : GCTCGACCTGGATGGGC (配列番号14)
取得したgCarvi用cpGFP DNA配列を鋳型として、cpGFP8番目のアミノ酸をグルタミン酸に、cpGFP162番目のアミノ酸をセリンに置換したgvCarvi用cpGFP DNA配列をPCRによって取得した。PCRプライマーは以下の通りである。
Sense primer #3 : AAGGCCGACGAGCAGAAGAAC (配列番号15)
Antisense primer #3 : GTTCTTCTGCTCGTCGGCCTT (配列番号16)
Sense primer #4 : CACCCTGTCCTACGGCGT (配列番号17)
Antisense primer #4 : ACGCCGTAGGACAGGGTG (配列番号18)
Carvi用cAMP結合領域DNA配列とgCarvi用cpGFP DNA配列を、制限酵素Xho I部位を切断後([5'-CTCGAG-3']配列を[C / TCGAG]に切断するとの意義。以下同義。)、両者を連結し、gCarvi配列とした。Carvi用cAMP結合領域DNA配列とgvCarvi用cpGFP DNA配列を、制限酵素Xho I部位を切断後、両者を連結し、gvCarvi配列とした。
【0035】
(2) gCarvi精製タンパク質の製造
gCarviは490~550nmの緑色の励起光によってイメージングを行う本発明にかかるcAMP指示薬である。配列番号3にかかるgCarvi DNA配列を大腸菌発現ベクター pCold I(タカラバイオ)に組み込んだ。pCold I-Carviを大腸菌BL21株に形質転換し、pCold Iのマニュアルに準拠した方法(15℃、24時間、0.5 mM IPTG添加)でgCarviタンパク質発現を誘導した。その後、pCold I配列に含まれるヒスチジンタグ配列を利用して、配列番号1記載のアミノ酸配列からなるgCarviタンパク質をコバルトレジンを用いて単離、精製した。
【0036】
(3) gvCarvi精製タンパク質の製造
gvCarviは380~430nmの紫色の励起光によってイメージングを行う本発明にかかるcAMP指示薬である。配列番号4にかかるgvCarvi DNA配列を大腸菌発現ベクター pCold I(タカラバイオ)に組み込んだ。pCold I-Carviを大腸菌BL21株に形質転換し、pCold Iのマニュアルに準拠した方法でgvCarviタンパク質発現を誘導した。その後、pCold I配列に含まれるヒスチジンタグ配列を利用して、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるgvCarviタンパク質をコバルトレジンを用いて単離、精製した。
【0037】
(4)培養海馬神経細胞におけるgCarviタンパク質発現
配列番号3にかかるgCarvi DNA配列を哺乳動物神経細胞特異的発現ベクターであるpAAV2-hSyn-TetOFFに組み込んだ。pAAV2-hSyn-TetOFF-Carvi、pRC1(タカラバイオ)及びpHelper(タカラバイオ)の3つをHEK293T細胞に遺伝子導入することで、AAV-Carviを作製した。AAV-Carviを培養3~6日目の海馬神経細胞に感染させることで、培養12日目以降に配列番号1記載のアミノ酸配列からなるgCarviタンパク質の発現を確認できる。
【0038】
(5)培養海馬神経細胞におけるgvCarviタンパク質発現
配列番号4にかかるgvCarvi DNA配列を哺乳動物神経細胞特異的発現ベクターであるpAAV2-hSyn-TetOFFに組み込んだ。pAAV2-hSyn-TetOFF-Carvi、pRC1(タカラバイオ)及びpHelper(タカラバイオ)の3つをHEK293T細胞に遺伝子導入することで、AAV-Carviを作製した。AAV-Carviを培養3~6日目の海馬神経細胞に感染させることで、培養12日目以降に配列番号2記載のアミノ酸配列からなるgvCarviタンパク質の発現を確認できる。
【0039】
(6)gCarviタンパク質のcAMP特異性
精製gCarviタンパク質を50 mM HEPES緩衝液に溶解し、96穴ブラックプレート(Thermo Scientific #237108)に分注した。cAMP(Sigma)又はcGMP(Sigma)を添加したときの蛍光強度変化をマイクロプレートリーダー(Tecan、infinite F200)で測定した。
【0040】
図1に示されるように1μM付近からcGMPよりもcAMPに対する特異性が顕著となり、10μM付近ではcAMPの特異性は顕著なものであった。
【0041】
(7)gCarviタンパク質の励起・蛍光スペクトル
精製gCarviタンパク質を50 mM HEPES緩衝液に溶解し、その励起スペクトル及び蛍光スペクトルを分光度計(島津、UV-1800)を用いて解析した。点線はgCarviのみ、破線と実線はそれぞれ3 μM、10 μMのcAMPを添加したときのスペクトルである。
【0042】
図2に示されるようにgCarviタンパク質の励起スペクトルと蛍光スペクトルとはほぼ重なるものであったが、既存の実験設備を使用してcAMPの動的挙動をリアルタイムイメージングすることが可能である。
【0043】
(8)gvCarviタンパク質の励起・蛍光スペクトル
精製gvCarviタンパク質を50 mM HEPES緩衝液に溶解し、その励起スペクトル及び蛍光スペクトルを分光度計(島津、UV-1800)を用いて解析した。点線はgvCarviのみ、破線と実線はそれぞれ1 μM、10 μMのcAMPを添加したときのスペクトルである。
【0044】
図3に示されるようにgvCarviタンパク質は従来にはなかった紫色励起光を使用するものであり、gvCarviタンパク質の励起スペクトルと蛍光スペクトルとは重なるものではない。そのため紫励起光の実験系と共存しつつcAMPの動的挙動をリアルタイムイメージングすることが可能である。
【0045】
(9)海馬神経細胞におけるgCarviタンパク質の発現
AAV-Carviを培養3~6日目の海馬神経細胞に感染させることで、培養12日目以降にgCarviタンパク質の発現を確認できる。海馬神経細胞にgCarviタンパク質を発現させたときの、蛍光像(
図4左、
図4中)と微分干渉像(
図4右)を示す。アデニル酸シクラーゼはcAMPを産生する酵素であり、フォルスコリンはアデニル酸シクラーゼの作動薬である。フォルスコリン投与前はcAMP濃度が低く、gCarviの蛍光も弱い(
図4左)。フォルスコリン投与後はcAMP濃度が高まり、gCarviの蛍光が強くなった(
図4中)。gCarvi発現神経細胞の形態は十分に発達しており、gCarviの細胞毒性は観察されない(
図4右)。