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特開2022-122146誘電体組成物、電子部品および積層電子部品
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  • 特開-誘電体組成物、電子部品および積層電子部品 図1A
  • 特開-誘電体組成物、電子部品および積層電子部品 図1B
  • 特開-誘電体組成物、電子部品および積層電子部品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122146
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】誘電体組成物、電子部品および積層電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20220815BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20220815BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
C04B35/468
H01B3/12 335
H01B3/12 326
H01B3/12 338
H01B3/12 309
H01B3/12 308
H01B3/12 336
H01B3/12 322
H01B3/12 329
H01B3/12 333
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019253
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村上 拓
(72)【発明者】
【氏名】森ケ▲崎▼ 信人
(72)【発明者】
【氏名】有泉 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】兼子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康裕
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
5G303
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E082AA01
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
5G303AA01
5G303AB06
5G303AB14
5G303AB20
5G303CA01
5G303CB03
5G303CB06
5G303CB10
5G303CB17
5G303CB18
5G303CB30
5G303CB32
5G303CB35
5G303CB36
5G303CB39
5G303CB40
5G303CB41
(57)【要約】
【課題】 温度特性、比誘電率および高温負荷寿命が良好な誘電体組成物等を提供する。
【解決手段】 主相粒子を含み、前記主相粒子が一般式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する主成分を含む誘電体組成物である。主相粒子の少なくとも一部がコアシェル構造を有する。誘電体組成物は、RA、RB、MおよびSiを含む。A、B、RA、RB、Mは特定の元素群から選択される1種以上の元素である。誘電体組成物において、主成分に対するRAの含有量をRA換算でCRAモル%、前記主成分に対するRBの含有量をRB換算でCRBモル%とし、コアシェル構造のシェル部におけるRAの平均含有量をSRAモル%、RBの平均含有量をSRBモル%とした場合に、SRA/SRB>CRA/CRBである。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相粒子を含み、前記主相粒子が一般式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する主成分を含む誘電体組成物であって、
前記主相粒子の少なくとも一部がコアシェル構造を有し、
前記誘電体組成物は、RA、RB、MおよびSiを含み、
AはBa、SrおよびCaから選択される少なくとも1種、
BはTi、ZrおよびHfから選択される少なくとも1種、
RAはEu、Gd、TbおよびDyから選択される少なくとも1種、
RBはY、HoおよびYbから選択される少なくとも1種、
MはMg、Mn、VおよびCrから選択される少なくとも1種であり、
前記誘電体組成物において、前記主成分に対するRAの含有量をRA換算でCRAモル%、前記主成分に対するRBの含有量をRB換算でCRBモル%とし、
前記コアシェル構造のシェル部におけるRAの平均含有量をSRAモル%、RBの平均含有量をSRBモル%とした場合に、
RA/SRB>CRA/CRB
である誘電体組成物。
【請求項2】
前記主相粒子と偏析粒子とを含み、
前記偏析粒子のうちRA、RB、Si、BaおよびTiを主に含む特定偏析粒子におけるRAの平均含有量をαモル%、RBの平均含有量をβモル%とした場合に、
α/β<CRA/CRB
である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記誘電体組成物の断面において、前記偏析粒子の合計面積に対する前記特定偏析粒子の合計面積の割合が80%以上である請求項2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
RAが0.60モル%以上2.40モル%以下、
RBが0.30モル%以上1.20モル%以下、
前記主成分に対するMの含有量がMO換算で0.20モル%以上1.00モル%以下、
前記主成分に対するSiの含有量がSiO換算で0.60モル%以上1.80モル%以下である請求項1~3のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の誘電体組成物を有する電子部品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の誘電体組成物からなる誘電体層と、電極層と、が交互に積層されてなる積層電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、電子部品および積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、良好な温度特性を有し、かつ、高温・高電界下において高い信頼性を有する誘電体組成物および当該誘電体組成物を有する電子部品および積層電子部品が求められている。
【0003】
特許文献1には、ABOを主成分とする誘電体セラミックに関する発明が記載されている。当該誘電体セラミックでは、希土類元素を二種類のグループに分け、それぞれの添加量を限定している。その結果、温度特性、比誘電率および高温負荷寿命が優れた誘電体セラミックが得られる。
【0004】
しかしながら、現在では、さらに温度特性、比誘電率および高温負荷寿命が良好な誘電体組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5541318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされ、その目的は、温度特性、比誘電率および高温負荷寿命が良好な誘電体組成物等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る誘電体組成物は、
主相粒子を含み、前記主相粒子が一般式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する主成分を含む誘電体組成物であって、
前記主相粒子の少なくとも一部がコアシェル構造を有し、
前記誘電体組成物は、RA、RB、MおよびSiを含み、
AはBa、SrおよびCaから選択される少なくとも1種、
BはTi、ZrおよびHfから選択される少なくとも1種、
RAはEu、Gd、TbおよびDyから選択される少なくとも1種、
RBはY、HoおよびYbから選択される少なくとも1種、
MはMg、Mn、VおよびCrから選択される少なくとも1種であり、
前記誘電体組成物において、前記主成分に対するRAの含有量をRA換算でCRAモル%、前記主成分に対するRBの含有量をRB換算でCRBモル%とし、
前記コアシェル構造のシェル部におけるRAの平均含有量をSRAモル%、RBの平均含有量をSRBモル%とした場合に、
RA/SRB>CRA/CRB
である。
【0008】
前記主相粒子と偏析粒子とを含んでもよく、
前記偏析粒子のうちRA、RB、Si、BaおよびTiを主に含む特定偏析粒子におけるRAの平均含有量をαモル%、RBの平均含有量をβモル%とした場合に、
α/β<CRA/CRB
であってもよい。
【0009】
前記誘電体組成物の断面において、前記偏析粒子の合計面積に対する前記特定偏析粒子の合計面積の割合が80%以上であってもよい。
【0010】
RAが0.60モル%以上2.40モル%以下、
RBが0.30モル%以上1.20モル%以下、
前記主成分に対するMの含有量がMO換算で0.20モル%以上1.00モル%以下、
前記主成分に対するSiの含有量がSiO換算で0.60モル%以上1.80モル%以下であってもよい。
【0011】
本発明に係る電子部品は、上記の誘電体組成物を有する。
【0012】
本発明に係る積層電子部品は、上記の誘電体組成物からなる誘電体層と、電極層と、が交互に積層されてなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、積層セラミックコンデンサの断面図である。
図1B図1Bは、図1AのIB-IB線に沿う積層セラミックコンデンサの断面図である。
図2図2は、誘電体組成物の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.積層セラミックコンデンサ
1.1 積層セラミックコンデンサの全体構成
本実施形態に係る積層電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が図1Aおよび図1Bに示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0015】
本実施形態では、素子本体10の縦寸法L0(図1A参照)は、5.7~0.4mmであってもよい。素子本体10の幅寸法W0(図1B参照)は、5.0~0.2mmであってもよい。素子本体10の高さ寸法H0(図1B参照)は、5.0~0.2mmであってもよい。
【0016】
素子本体10の具体的なサイズとしては、L0×W0が(5.7±0.4)mm×(5.0±0.4)mm、(4.5±0.4)mm×(3.2±0.4)mm、(3.2±0.3)mm×(2.5±0.2)mm、(3.2±0.3)mm×(1.6±0.2)mm、(2.0±0.2)mm×(1.2±0.1)mm、(1.6±0.2)mm×(0.8±0.1)mm、(1.0±0.1)mm×(0.5±0.05)mm、(0.6±0.06)mm×(0.3±0.03)mm、(0.4±0.04)mm×(0.2±0.02)mmの場合等が挙げられる。また、H0は特に限定されず、たとえばW0と同等以下程度である。
【0017】
1.2 誘電体層
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。
【0018】
誘電体層2の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。また、誘電体層2の積層数は特に限定されないが、本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、たとえば10以上であってもよく、100以上であってもよく、200以上であってもよい。
【0019】
1.3 内部電極層
本実施形態では、内部電極層3は、各端部が素子本体10の対向する2端面の表面に交互に露出するように積層してある。
【0020】
内部電極層3に含有される導電材としては特に限定されない。導電材として用いられる貴金属としては、たとえばPd、Pt、Ag-Pd合金等が挙げられる。導電材として用いられる卑金属としては、たとえばNi、Ni系合金、Cu、Cu系合金等が挙げられる。なお、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金中には、Pおよび/またはS等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0021】
1.4 外部電極
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂等公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0022】
2.誘電体組成物
図2は本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体組成物の模式図である。図2に示すように、本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体組成物は、主相粒子14の間に偏析粒子16を含んでもよい。そして、偏析粒子16の少なくとも一部が後述する特定偏析粒子16aであってもよい。また、誘電体組成物は誘電体磁器組成物であってもよい。
【0023】
2.1 主相粒子
本実施形態の主相粒子14はABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する化合物を主成分として含む。なお、主相粒子14の主成分とは、主相粒子100質量部に対して、80~100質量部を占める成分であり、好ましくは、90~100質量部を占める成分である。なお、主相粒子14が上記の主成分以外の成分を含有してもよい。例えばバリウム(Ba)化合物などを含有してもよい。
【0024】
AはBa、ストロンチウム(Sr)およびカルシウム(Ca)から選択される1種以上である。BaおよびSrから選択される1種以上であってもよい。Aに対して80モル%以上、Baを含んでもよく、90モル%以上、Baを含んでもよい。AはBaのみであってもよい。
【0025】
Bはチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)から選択される1種以上である。TiおよびZrから選択される1種以上であってもよい。Bに対して70モル%以上、Tiを含んでもよく、80モル%以上、Tiを含んでもよい。BはTiのみであってもよい。
【0026】
AはBa、SrおよびCaから選択される1種以上、BはTiおよびZrから選択される1種以上であるとして、主成分の組成を具体的に記載すれば{Ba1-x-yCaSr}O}(Ti1-zZrである。
【0027】
xは好ましくは0≦x≦0.10、さらに好ましくは0≦x≦0.05である。yは好ましくは0≦y≦0.10、さらに好ましくは0≦y≦0.05である。zは好ましくは0≦z≦0.30、さらに好ましくは0≦z≦0.15である。u/vは好ましくは0.997≦u/v≦1.010、さらに好ましくは0.998≦u/v≦1.005である。u/vが高すぎると焼結が不足気味になりやすく、誘電体組成物の比誘電率および信頼性も低下する傾向にある。u/vが低すぎると焼成安定性が悪化しやすく、誘電体組成物の温度特性および信頼性が低下する傾向にある。
【0028】
さらに、主相粒子14の少なくとも一部がコアシェル構造を有する。主相粒子14に対するコアシェル構造を有する主相粒子(以下、コアシェル主相粒子と呼ぶことがある)の割合には特に制限はないが、個数ベースで50%以上であってもよい。また、コアシェル構造を有しない主相粒子は、全固溶した主相粒子(以下、全固溶主相粒子と呼ぶことがある)であってもよい。
【0029】
コアシェル主相粒子は、副成分(RA、RB、MおよびSiから選択される1種以上)が主相粒子14の一部(周辺部)のみに存在している主相粒子である。具体的には、コアシェル主相粒子は実質的に主成分のみからなるコア部と、コア部の周囲に存在し、少なくともRAおよび/またはRBが主成分のAおよび/またはBの一部を置換しているシェル部と、から構成される。
【0030】
なお、コア部は実質的に主成分のみからなっているが、主成分以外の成分(副成分等)を含んでいても良い。例えば、コア部は主成分以外の成分を0.0質量%~5.0質量%含んでいても良い。なお、コア部に含まれる主成分以外の成分の濃度は、シェル部に含まれる主成分以外の成分の濃度よりも低い。
【0031】
本実施形態では、誘電体組成物がMとしてマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)およびクロム(Cr)から選択される1種以上を含む。さらに、誘電体組成物がRAとしてユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)およびジスプロシウム(Dy)から選択される1種以上、RBとしてイットリウム(Y)、ホルミウム(Ho)、およびイッテルビウム(Yb)から選択される1種以上、およびケイ素(Si)を含む。Mは主にMの酸化物として誘電体組成物に含まれる。また、Mが主成分のうちBを置換する場合もある。
【0032】
RAは、希土類元素の中でAサイト原子とのイオン半径の差がRBよりも小さい元素が該当する。RAがDyおよびGdから選択される1種以上であることが好ましく、RAがDyであることがさらに好ましい。RBは、希土類元素の中でAサイト原子とのイオン半径の差がRAよりも大きい元素が該当する。RBがYおよびHoから選択される1種以上であることが好ましく、RBがYであることがさらに好ましい。RAおよびRBが上記の希土類元素であることにより、温度特性および高温負荷寿命が向上しやすくなる。
【0033】
主成分に対して、RAの含有量CRAがRA換算で0.60モル%以上2.40モル%以下であってもよい。RBの含有量CRBがRB換算で0.20モル%以上1.50モル%以下であってもよく、0.20モル%以上1.30モル%以下であってもよく、0.30モル%以上1.30モル%以下であってもよく、0.30モル%以上1.20モル%以下であってもよい。Mの含有量がMO換算で0.20モル%以上1.00モル%以下であってもよい。Siの含有量はSiO換算で0.60モル%以上1.90モル%以下であってもよく、0.60モル%以上1.80モル%以下であってもよい。RA、RB、MおよびSiを上記の範囲内で含有することにより、誘電体組成物の微細構造が後述する好適な微細構造となり、誘電体組成物の温度特性、比誘電率および高温負荷寿命が全て良好となる。なお、希土類元素としてRBを含まずRAのみ含む場合には誘電体組成物の温度特性および高温負荷寿命が低下する。
【0034】
RAの含有量が少ない場合には、RAの大部分が主成分中に固溶し主成分の粒成長を抑制できない。その結果、誘電体組成物の温度特性および高温負荷寿命が低下しやすい。RAの含有量が多い場合には、誘電体組成物中の主成分の存在比率が低下する。その結果、誘電体組成物の比誘電率が低下しやすい。RBの含有量が少ない場合には、主成分の粒成長を抑制する成分が不十分となり誘電体粒子の異常粒成長が生じる。その結果、誘電体組成物の温度特性が低下しやすい。RBの含有量が多い場合には、誘電体組成物中の主成分の存在比率が低下する。さらに、誘電体粒子の粒成長が必要以上に抑制される。その結果、誘電体組成物の比誘電率が低下しやすい。Mの含有量が少ない場合には、誘電体粒子の異常粒成長が生じる。それに伴い、RA、RBの偏析粒子への固溶割合が大きく変化しやすく、誘電体組成物の温度特性および高温負荷寿命が低下しやすい。Mの含有量が多い場合には、誘電体粒子の粒成長が必要以上に抑制される。その結果、RA、RBの偏析粒子への固溶割合が大きく変化しやすく、誘電体組成物の高温負荷寿命が低下しやすい。Siの含有量が少ない場合には、焼結助剤となる成分が不足する。その結果、誘電体粒子の焼結性が悪化し、誘電体組成物の比誘電率が低下しやすい。Siの含有量が多い場合には、特定偏析粒子以外の偏析粒子が多く形成される。その結果、誘電体組成物の温度特性および高温負荷寿命が低下しやすい。
【0035】
RAは比較的、イオン半径が大きい希土類元素である。RBは比較的、イオン半径が小さい希土類元素である。希土類元素のイオン半径が小さいほど、希土類元素が主相粒子に固溶しにくくなる。すなわち、主成分のAサイト原子のイオン半径と、希土類元素のイオン半径と、の差が大きくなるほど、希土類元素が主相粒子に固溶しにくくなる。なお、希土類元素がAサイト原子を置換する場合にはドナー成分として主相粒子14に固溶し、希土類元素およびMがBサイト原子を置換する場合にはアクセプタ成分として主相粒子14に固溶する。また、RA、RBが主相粒子に固溶する場合には、RAは主成分のうち主にAを置換し、RBは主成分のうち主にBを置換する傾向にある。したがって、RAが多く固溶するほど比抵抗は低下するが信頼性が向上し高温負荷寿命が向上する傾向にある。逆に、RBが多く固溶するほど比抵抗は上昇するが信頼性が低下し高温負荷寿命が低下する傾向にある。
【0036】
そして、シェル部におけるRAの平均含有量をSRA、シェル部におけるRBの平均含有量をSRBとしてSRA/SRB>CRA/CRBを満たす。すなわち、RAがRBと比較して優先的に主相粒子14に固溶している。この場合には、誘電体組成物の温度特性、比誘電率および高温負荷寿命が良好となる。なお、SRA/SRB-CRA/CRB≧0.01であってもよい。
【0037】
さらに、主相粒子14の粒径のバラツキが少ないことが好ましい。具体的には、粒径のSN比が高いことが好ましい。なお、粒径のSN比は、平均粒径をμ、標準偏差をσとして、10×log10(μ/σ)(単位dB)とする。7.0dB以上であることが好ましい。
【0038】
2.2 偏析粒子
偏析粒子16の組成には特に制限はない。誘電体組成物2は、偏析粒子16として、RA、RB、Si、BaおよびTiを主に含む特定偏析粒子16aを含んでもよい。なお、「RA、RB、Si、BaおよびTiを主に含む」とは、RAおよびRBの合計含有量が3.0モル%以上、Siの含有量が1.0モル%以上であり、Baの含有量がTiの含有量よりも多く、かつ、O以外の元素の合計含有量に対するRA、RB、Si、BaおよびTiの合計含有量が80モル%以上である偏析粒子である。なお、RAの含有量が2.0モル%以上であってもよく、RBの含有量が1.0モル%以上であってもよい。
【0039】
誘電体組成物2の断面において、偏析粒子16に占める特定偏析粒子16aの面積割合が80%以上であることが好ましい。特定偏析粒子以外の偏析粒子16bとしては、例えばRA(Dy等)およびTiを主に含む偏析粒子などが挙げられる。しかし、このような偏析粒子は誘電体組成物2の高温負荷寿命を低下させる場合がある。したがって、偏析粒子16に占める特定偏析粒子16aの面積割合が80%以上であることにより、高温負荷寿命を向上させることができる。
【0040】
さらに、特定偏析粒子16aにおけるRAの平均含有量をαモル%、RBの平均含有量をβモル%として、α/β<CRA/CRBであることが好ましい。すなわち、特定偏析粒子16aは、誘電体組成物2全体と比較して、RBの含有量に対するRAの含有量が小さいことが好ましい。言いかえれば、特定偏析粒子16aは、誘電体組成物2全体と比較して、RAの含有量に対するRBの含有量が大きいことが好ましい。なお、CRA/CRB-α/β≧0.01であってもよい。
【0041】
焼成時に主相粒子14が粒成長するにつれて、ドナー成分(主にRA)およびアクセプタ成分(主にRB、M)が主相粒子14に固溶する。この際に粒成長が進みすぎると温度特性が低下する。さらに、上記の粒径のSN比が低下する。粒径のSN比が低下すると誘電体組成物2の信頼性が低下し、高温負荷寿命が低下する。
【0042】
ここで、特定偏析粒子16a、すなわち粒界にRBが比較的多く含まれることで主相粒子14の粒径のバラツキを抑制することができ、粒径のSN比を上昇させることができる。その結果、信頼性が向上し、高温負荷寿命が高くなる。さらに、主相粒子14の粒径の制御が容易になることにより、高温負荷寿命を高く維持しながら温度特性も良好とすることが可能となる。
【0043】
以下、誘電体組成物2における偏析粒子16の観察方法について説明する。
【0044】
まず、誘電体組成物の断面の測定箇所について、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を取り付けた走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いてマッピング分析を行う。以下、EDSを取り付けたSTEMのことをSTEM-EDSと呼ぶ。測定範囲の大きさには特に制限はないが、例えば、誘電体組成物の面積が50μm以上となるように測定範囲を設定する。得られたマッピング画像を0.02μm/pixel以上0.05μm/pixel以下のドットに分割し、個々のドットでの各元素のコントラスト強度を数値化する。具体的にはコントラスト強度が最も小さいもの(検出なし)を0とし、最も大きいものを90として、コントラスト強度を0~90までの91段階に分類する。希土類元素のコントラスト強度が75以上のドットは希土類元素が偏析しているドットとする。そして、希土類元素が偏析しているドットが集まっている部分を偏析粒子16とする。なお、個々の偏析粒子16の面積は最低0.005μmとする。0.005μmよりも小さい部分は偏析粒子とはみなさない。
【0045】
偏析粒子16について、RA、RB、Si、BaおよびTiを主に含むか否かで特定偏析粒子16aであるか、特定偏析粒子以外の偏析粒子16bであるかを決定する。そして、偏析粒子16の合計面積に対する特定偏析粒子16aの合計面積割合を算出できる。さらに、特定偏析粒子16aに含まれる全てのドットについて、RAの含有量を測定し、平均することでαを測定できる。RBの含有量を測定し、平均することでβを測定できる。そして、(α/β)/(CRA/CRB)を算出できる。
【0046】
以下、個々の主相粒子14がコアシェル主相粒子であるか否かを判断する方法について記載する。個々の主相粒子14がコアシェル主相粒子であるか否かを判断する方法については特に限定されない。たとえば下記の方法が挙げられる。
【0047】
まず、上記のマッピング画像は視野内に30個以上の主相粒子14が存在する状態で作成する。偏析粒子16を除く部分の中で希土類元素のコントラスト強度が最大となる部分を特定する。そして、希土類元素のコントラスト強度が最大となる部分におけるコントラスト強度の30%以上のコントラスト強度を有する領域を主相粒子14のシェル部とする。さらに、シェル部の面積が95%以下である主相粒子14をコアシェル主相粒子とする。なお、シェル部の面積が95%を超える主相粒子14を全固溶主相粒子とする。全固溶主相粒子では、副成分が主成分粒子の全体に拡散して固溶して存在している。
【0048】
そして、シェル部に含まれる全てのドットについて、RAの含有量を測定し、平均することでSRAを測定できる。RBの含有量を測定し、平均することでSRBを測定できる。
【0049】
3.積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、図1Aに示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について以下に説明する。
【0050】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0051】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0052】
誘電体原料として、主成分であるABOの原料と、その他の各種酸化物の原料と、を準備する。これらの原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0053】
本実施形態では、上記した成分の酸化物等を主成分に対して均一に分散させた混合物を用いることが好ましいが、主成分が上記した成分で被覆された誘電体原料を用いてもよい。さらに、主成分の原料以外には、例えば、RAの酸化物、RBの酸化物、Mの酸化物およびSiの化合物を用いてもよい。
【0054】
なお、主成分であるABOの原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0055】
さらに、誘電体層に、上記した成分以外の成分が含有される場合には、該成分の原料として、それらの成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0056】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上述した誘電体組成物の組成となるように決定すればよい。
【0057】
上記のその他の各種酸化物の原料のうち任意の2種類以上を主成分と混合する前に混合させ、仮焼してもよい。例えば、RA酸化物の原料、Si酸化物の原料および主成分とは別に含まれるAの酸化物の原料(例えばBa酸化物の原料)を事前に混合させ、仮焼してもよい。仮焼温度は1100℃未満とする。そして仮焼して得られた化合物粉末と主成分と仮焼しなかった各種酸化物の原料とを混合させてもよい。このようにすることで、各種希土類元素の主相粒子への固溶しやすさが変化し、SRA/SRB>CRA/CRBが実現しやすくなる。
【0058】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0059】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。
【0060】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0061】
内部電極層用ペーストは、上記したNiやNi合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記したNiやNi合金となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製すればよい。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、主成分と同様の組成を有していてもよい。
【0062】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0063】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1~15質量%程度、溶剤は10~60質量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10質量%以下としてもよい。
【0064】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0065】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0066】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、脱バインダ温度を好ましくは180~900℃、保持時間を好ましくは0.5~48時間とする。また、脱バインダ処理における雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気(例えば加湿したN+H混合ガス雰囲気)とする。
【0067】
脱バインダ後、グリーンチップを焼成する。例えば、昇温速度を200~20000℃/h、焼成温度を1150~1350℃、保持時間を0.1~10時間としてもよい。
【0068】
焼成時の雰囲気も特に限定されない。空気もしくは還元性雰囲気としてもよい。還元性雰囲気とする場合の雰囲気ガスとしては、たとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。また、酸素分圧を1.0×10-14~1.0×10-9MPaとしてもよい。
【0069】
焼成時の酸素分圧が低いほど、希土類元素の主相粒子への固溶が進行しやすくなる。RAとRBとを比較した場合には、特にRAの主相粒子への固溶が進行しやすくなる。その結果、シェル部におけるRAの含有量がRBの含有量よりも多くなり、SRA/SRB>CRA/CRBとなりやすくなる。逆に、焼成時の酸素分圧が高いほど、SRA/SRB>CRA/CRBとなりにくくなる。
【0070】
焼成時の酸素分圧が低いときに、希土類元素の主相粒子への固溶が進行しやすくなる。RAとRBとを比較した場合には、特にRAの主相粒子への固溶が進行しやすくなる傾向にある。すなわち、焼成時の酸素分圧が低いときに、粒界には、RAと比較して相対的により多くのRBが残る傾向にある。そのため、特定偏析粒子におけるRBの含有量が多くなりα/β<CRA/CRBとなりやすくなる。しかし、焼成時の酸素分圧が低すぎる場合には、RAの多くが主相粒子へと固溶し、RBの多くが主相粒子へと固溶する。すなわち、特定偏析粒子におけるRBの含有量が少なくなり、α/β<CRA/CRBとなりにくくなる。
【0071】
また、誘電体組成物の組成、特に上記の各種酸化物の含有割合によってもSRA/SRBおよびα/βは変化する。
【0072】
RBに対するRAの含有量が多いほどSRA/SRBは大きくなる。しかし、主相粒子に固溶しているRAが多くなるにつれてRAが固溶しにくくなるため、RAを過剰に添加してもSRA/SRBはほぼ増加しなくなる。すなわち、SRA/SRB>CRA/CRBとなりにくくなる。RAに対するRBの含有量が多いほど主相粒子への固溶反応が抑制される。そのため、RAに対するRBの含有量が多いほどRAが主相粒子へと固溶する量およびRBが主相粒子へと固溶する量が減少し、SRA/SRBは小さくなる。すなわち、SRA/SRB>CRA/CRBとなりにくくなる。Mの含有量が多すぎても少なすぎても、Mの含有量が主相粒子へと固溶するRAとRBの量に大きく影響を与える。そして、Mの含有量が多すぎても少なすぎてもSRA/SRBは小さくなる。すなわち、SRA/SRB>CRA/CRBとなりにくくなる。
【0073】
RBに対するRAの含有量が多いほど主相粒子に固溶しないRAが増加し、α/βが大きくなる傾向にある。RAに対するRBの含有量が多いほど主相粒子に固溶しないRBが増加し、α/βは小さくなる傾向にある。Mの含有量が多すぎても少なすぎても、Mの含有量が主相粒子へと固溶するRAとRBの量に大きく影響を与える。そして、Mの含有量が多すぎても少なすぎてもα/βが大きくなる傾向にある。
【0074】
本実施形態では、焼成後の素子本体に対し、アニール処理(誘電体層の酸化処理)を行うことが好ましい。具体的には、アニール温度は、950~1100℃としてもよい。保持時間は、0.1~20時間としてもよい。酸化処理時の雰囲気は、加湿したNガス(酸素分圧:1.0×10-9~1.0×10-6MPa)としてもよい。
【0075】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニール処理において、Nガスや混合ガス等を加湿する場合には、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5~75℃程度が好ましい。
【0076】
脱バインダ処理、焼成およびアニール処理は、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0077】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0078】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0079】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0080】
上述した実施形態では、特に組成および焼成条件を制御することで微細構造を制御しているが、本発明は、この方法に限定されない。
【0081】
変形例
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本発明に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体組成物を有する電子部品であればよい。
【0082】
たとえば、上述した誘電体組成物に一対の電極が形成された単板型のセラミックコンデンサであってもよい。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【0084】
本発明に係る誘電体組成物を含む電子部品および積層電子部品は、温度特性、比誘電率および高温負荷寿命が高いため、特に車載用として好適に用いられる。
【実施例0085】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
(誘電体ペーストの作製)
まず、原料粉末として、BaTiO粉末(Ba/Ti=1.000)、RA粉末、RB粉末、SiO粉末、MgO粉末、MnCO粉末、およびBaCO粉末を準備した。そして、表1~表5に示す各実施例および比較例の組成である誘電体組成物が得られるように秤量した。表1~表5に示す組成は主成分であるBaTiOの含有量を100モル%とした場合の組成である。表2に記載した各実施例はRAの種類およびRBの種類以外は実施例3と同一の組成である。BaCO粉末は全ての実験例で主成分に対してBaO換算で1.1モル%となるようにした。なお、Mとして含まれるMgおよびMnについては、原子数比でMg:Mn=4:3となるようにした。
【0087】
次に誘電体原料を作製した。誘電体原料の作製方法は、表1の実施例1および比較例1~4と、その他の試料とで異なる。
【0088】
(表1の実施例1および比較例1~4:方法1)
上記の各原料粉末をボールミルで20時間湿式混合し、粉砕し、乾燥して誘電体原料を得た。なお、MnCOは焼成後にMnOとして含有される。BaCOは焼成後にBaOとして含有される。
【0089】
(その他の試料:方法2)
上記の各原料粉末を第1グループ(RA粉末、RB粉末、SiO粉末、BaCO粉末)と第2グループ(第1グループ以外の各原料粉末)とに分類した。
【0090】
第1グループの各粉末をボールミルで10時間湿式混合し、粉砕し、乾燥後に600℃で1時間、仮焼し、化合物粉末を合成した。
【0091】
次に、化合物粉末に第2グループの粉末を添加し、ボールミルで20時間湿式混合し、粉砕し、乾燥して誘電体原料を得た。なお、MnCOは焼成後にMnOとして含有される。BaCOは焼成後にBaOとして含有される。
【0092】
以下の工程は特に記載が無い限り、全ての実施例および比較例で共通している。
【0093】
次に、誘電体原料100質量部に対してポリビニルブチラール樹脂10質量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP)5質量部と、溶媒としてのアルコール100質量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0094】
(内部電極層用ペーストの作製)
Ni粉末、テルピネオール、エチルセルロースおよびベンゾトリアゾールを、質量比が44.6:52.0:3.0:0.4となるように準備した。そして、これらを3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0095】
(グリーンチップの作製)
上記の誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上にグリーンシートを形成した。グリーンシートの厚みは、乾燥後の厚みが4.0~5.0μmとなるようにした。次に、グリーンシートの上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した。その後、PETフィルムからグリーンシートを剥離することで、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体を得た。このグリーン積層体を所定のサイズに切断することにより、グリーンチップを作製した。
【0096】
(素子本体の作製)
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成および酸化処理を行い、焼結体である素子本体を得た。
【0097】
脱バインダ処理条件は、昇温速度を25℃/h、脱バインダ温度を235℃、保持時間を8時間、雰囲気を空気中とした。
【0098】
焼成条件は昇温速度を200℃/h、焼成温度を表1~表5に記載した温度、保持時間を2時間、降温速度を200℃/hとした。雰囲気は加湿したN+H混合ガス雰囲気とした。酸素分圧は実施例1では5.0×10-11MPa程度とした。実施例7では、1.0×10-12MPa程度とした。その他の実施例および比較例では、1.0×10-11MPa程度とした。
【0099】
酸化処理条件は、昇温速度および降温速度を200℃/h、酸化処理温度を1050℃、保持時間を3時間、雰囲気を加湿したNガス雰囲気とし、酸素分圧は1.0×10-7MPaとした。
【0100】
焼成および酸化処理時の雰囲気の加湿にはウェッターを用いた。
【0101】
(積層セラミックコンデンサ試料の作製)
次いで、得られた素子本体の端面をバレル研磨した後、外部電極としてCuペーストを塗布し、還元雰囲気にて焼付け処理を行い、図1Aに示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.7mmであり、誘電体層の厚みが3.2~4.2μm、内部電極層の厚みが0.8~1.2μmであった。また、誘電体層の数は10層とした。
【0102】
(偏析粒子の確認)
得られた積層セラミックコンデンサ試料を、誘電体層に垂直な方向の断面(積層方向の断面)で切断した。得られた断面のうち、偏析相の有無を判定する箇所について、STEM-EDSマッピング分析を行った。5層以上の内部電極層が観察される大きさの視野において、得られたマッピング画像を0.027μm/pixelのドットに分割し、個々のドットでの各元素のコントラスト強度を数値化した。具体的にはコントラスト強度が最も小さいもの(検出なし)を0とし、最も大きいものを90として、コントラスト強度を0~90までの91段階に分類した。希土類元素のコントラスト強度が75以上のドットは希土類元素が偏析しているドットとした。希土類元素が偏析しているドットが集まっている部分が偏析粒子であるとした。
【0103】
得られたマッピング画像に含まれる偏析粒子の組成を点分析し、各偏析粒子が特定偏析粒子であるか否かを特定した。そして、観察範囲内において、偏析粒子の合計面積に対する特定偏析粒子の合計面積の割合を算出した。
【0104】
そして、特定偏析粒子におけるRAの平均含有量αおよびRBの平均含有量βは、特定偏析粒子内の任意の3点でのRAの含有量およびRBの含有量を測定し、平均することにより算出した。そして、α/β<CRA/CRBであるか否かについて確認した。なお、CRAおよびCRBについては、誘電体層を塩酸および過酸化水素水の混合液により溶かしてICP-AESを用いて確認した。具体的には、表1~表5に記載したRAの含有量およびRBの含有量と同一であることを確認した。表1~表5では、α/β<CRA/CRBである場合を可とし、α/β≧CRA/CRBである場合を不可とした。
【0105】
主相粒子の粒径および粒径のSN比の測定方法について説明する。まず、得られたコンデンサ試料を内部電極層に垂直な面で切断し、その切断面を研磨して研磨面を得た。次に、その研磨面にケミカルエッチングを施した。ケミカルエッチング後の研磨面についてSEMにより観察した。少なくとも1000個程度の主相粒子について面積を測定した。そして、測定した面積を円相当径に換算した値を主相粒子の粒径とした。そして、平均粒径をμ、標準偏差をσとして、粒径のSN比が10×log10(μ/σ)(単位dB)であるとして算出した。粒径のSN比が7.0dB以上である場合には主相粒子の粒径のバラツキが十分に小さいと判断した。
【0106】
(コアシェル主相粒子の確認)
上記のSTEM-EDSにより得られたマッピング画像と、STEMにより得られた反射電子像とを比較し、BaおよびTiの濃度が周囲に比べて高い粒子を主相粒子とした。また、主相粒子の境界部を粒界部とした。
【0107】
さらに、視野内に30個以上の主相粒子が存在する状態で希土類元素の合計含有量についてのマッピング画像を作成した。偏析粒子を除く部分の中で希土類元素のコントラスト強度が最大となる部分を特定した。そして、希土類元素のコントラスト強度が最大となる部分におけるコントラスト強度の30%以上の輝度を有する領域をシェル部とした。さらに、主相粒子に対するシェル部の面積が95%以下である主相粒子をコアシェル主相粒子とした。
【0108】
そして、コアシェル主相粒子のシェル部におけるRAの平均含有量をSRAモル%とし、RBの平均含有量をSRBモル%とした。具体的には、視野内に含まれる任意の10個のコアシェル粒子について、シェル部に含まれる任意の3点におけるRAの含有量およびRBの含有量を測定した。そして、RAの含有量およびRBの含有量をそれぞれ平均することにより、SRAおよびSRBを算出した。そして、SRAおよびSRBの値より、SRA/SRBを算出した。
【0109】
(磁器特性の測定)
比誘電率は、積層セラミックコンデンサ試料に対し、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)を用いて測定した。具体的には、150℃で1時間熱処理して24時間後の静電容量を測定した。測定条件は基準温度25℃、周波数1.0kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsとした。静電容量から比誘電率を算出した。比誘電率は2200以上を良好とした。
【0110】
高温負荷寿命は、積層セラミックコンデンサ試料について、190℃にて、40V/μmの直流電圧を印加した状態に保持して寿命時間を測定することにより、高温負荷寿命を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命時間とした。また、本実施例では、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、各コンデンサ試料の寿命時間から平均故障寿命(MTTF)を算出した。MTTFが30.0時間以上である場合に高温負荷寿命を良好とし、MTTFが40.0時間以上である場合に高温負荷寿命を特に良好とした。
【0111】
容量変化率の測定方法および評価方法を以下に示す。まず、積層セラミックコンデンサ試料について、周波数1.0kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vr msの条件下で、-55℃~125℃における静電容量を測定した。次に、25℃における静電容量を基準として静電容量の変化率を算出し、EIA規格の温度特性であるX7S特性を満足するか否かについて評価した。表1~表5では、125℃での静電容量の変化率を示した。125℃での静電容量の変化率が±22.0%以内である試料は-55℃での静電容量の変化率もX7S特性を満足することを確認した。
【0112】
表1~表5の判定欄では、比誘電率が2200以上、容量変化率が±22.0%の範囲内であり、かつ、MTTFが40.0時間以上である場合をAA、比誘電率が2200以上、容量変化率が±22.0%の範囲内であり、かつ、MTTFが30.0時間以上40.0時間未満である場合をAとした。比誘電率、容量変化率および高温負荷寿命の一つ以上が良好ではない場合をBとした。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
表1は主にRAをDy、RBをYとしてRA、RB、Mおよび/またはSiの含有量を変化させ、さらに原料粉末の混合方法および酸素分圧を変化させた実施例および比較例を記載している表である。
【0119】
RA/SRB>CRA/CRBを満たす各実施例は良好な特性が得られ、判定がAまたはAAであった。また、主相粒子の粒径のSN比が高いほど信頼性が向上し高温負荷寿命が高くなる傾向にあった。
【0120】
これに対し、実施例1~3から酸素分圧または誘電体原料作製方法を変化させた比較例1~3はSRA/SRB>CRA/CRBを満たさない。比較例1~3はシェル部におけるRAの含有量が比較的少ない。すなわち、主相粒子に対して、主にドナー成分となるRAが優先的に固溶していない。その結果、高温負荷寿命が低下した。
【0121】
RBを含まない比較例4はRBが有する粒成長抑制効果が発揮されない。その結果、粒成長が過剰となり主相粒子の粒径のSN比が悪化したため良好な特性が得られなかった。
【0122】
表2は実施例3についてRA、RBの種類を変更した点以外は焼成温度以外、同条件で実施した実施例を記載している表である。RA、RBの種類を変更しても良好な特性を得ることができた。
【0123】
表3は実施例3から焼成条件(主に酸素分圧)を変化させた実施例7、および、実施例3から組成を変化させた比較例5について記載している表である。
【0124】
実施例7はSRA/SRB>CRA/CRBは満たしたがα/β<CRA/CRBは満たさなかった。その結果、実施例3と比較して、粒界(偏析粒子)におけるRBの含有量が少なくなり主相粒子の粒成長が十分に抑制できなかった。その結果、実施例7は実施例3よりも主相粒子の粒径のSN比が低くなった。そして、実施例7は実施例3と比較して温度特性が低下した。さらに、信頼性が低下し高温負荷寿命が低下した。
【0125】
比較例5はSRA/SRB>CRA/CRBもα/β<CRA/CRBも満たさなかった。その結果、比誘電率が低下し、さらに、信頼性が低下し高温負荷寿命が低下した。
【0126】
表4は実施例3、実施例7に加えて、表1の実施例2について記載している表である。
【0127】
表4より、特定偏析粒子の割合が少ない実施例7および実施例2は実施例3と比較して信頼性が低下していることが分かる。
【0128】
特定偏析粒子以外の偏析粒子としては、例えばRA、RBとともにTiを主に含みSiを含まない(RA,RB)-Ti偏析粒子が挙げられる。このような偏析粒子が多くなると主相粒子中に固溶するRA、RB(特にRA)の割合が低下する。その結果、信頼性が低下するものと考えられる。また、このような偏析粒子が多くなると主相粒子中にTiの欠陥が生成される。その結果、信頼性が低下するものと考えられる。
【0129】
表5はRA、RB、MおよびSiの各含有量を変化させた実施例および比較例について記載している表である。SRA/SRB>CRA/CRBを満たす全ての実施例はSRA/SRB>CRA/CRBを満たさない比較例と比較して特性が向上した。
【0130】
具体的には、RAの含有量を少なくした比較例6はSRA/SRB>CRA/CRBを満たさず容量変化率がX7S特性を満足しなかった。これは主成分以外の成分の合計添加量が不足したことにより、粒成長を十分に抑制できなくなり、粒成長が過剰になったためであると考えられる。さらに、信頼性が低下し高温負荷寿命が低下した。これは、ドナー成分の主相粒子への固溶量が不足したためと考えられる。RAの含有量を多くした比較例7はSRA/SRB>CRA/CRBを満たさず比誘電率が低下した。これは、主成分以外の成分の合計添加量が過剰であったためと考えられる。
【0131】
RBの含有量を少なくした実施例11は実施例9、12、13と比較して温度特性が低下した。さらに、信頼性が低下し高温負荷寿命が低下した。これは、RBの含有量が少ないために主相粒子の粒成長が実施例9、12、13と比較して十分に抑制できなくなったためと考えられる。RBの含有量を多くした比較例7aはSRA/SRB>CRA/CRBを満たさず比誘電率が低下した。
【0132】
Mの含有量が少ない比較例8はSRA/SRB>CRA/CRBを満たさず容量変化率がX7S特性を満足しなかった。さらに、信頼性が低下し高温負荷寿命が低下した。これは、Mの含有量が少ないために主相粒子の粒成長が十分に抑制できなくなったためと考えられる。Mの含有量が多い比較例9はSRA/SRB>CRA/CRBを満たさず信頼性が低下し高温負荷寿命が低下した。これは、粒成長を過剰に抑制してしまい、ドナー成分の主相粒子への固溶量が不足したためと考えられる。
【0133】
Siの含有量が少ない比較例10はSRA/SRB>CRA/CRBを満たさず比誘電率が低下した。これはSiが有する焼結促進効果が不足し主相粒子の粒成長が不足したためであると考えられる。Siの含有量が多い実施例19は実施例9、17、18と比較して温度特性が低下した。さらに、信頼性が低下し高温負荷寿命が低下した。これはSiが有する焼結促進効果が過剰となり主相粒子が実施例9、17、18と比較して粒成長しすぎたためと考えられる。
【符号の説明】
【0134】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
14… 主相粒子
16… 偏析粒子
16a… 特定偏析粒子
16b… (特定偏析粒子以外の)偏析粒子
3… 内部電極層
4… 外部電極
図1A
図1B
図2