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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122165
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】正極及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220815BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220815BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20220815BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20220815BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01G11/24
H01G11/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019317
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】田邊 森人
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AA05
5E078AA09
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA15
5E078BA30
5E078BA59
5E078BA71
5E078BA73
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA01
5H050EA08
5H050HA00
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】充放電サイクル後にも低温下で良好な性能が発揮される正極を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る正極は、正極活物質層を備え、上記正極活物質層が正極活物質と誘電体とカーボンナノチューブとを含有し、上記誘電体の比誘電率が30以上であり、上記カーボンナノチューブの平均管径が20nm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層を備え、
上記正極活物質層が正極活物質と誘電体とカーボンナノチューブとを含有し、
上記誘電体の比誘電率が30以上であり、
上記カーボンナノチューブの平均管径が20nm以下である蓄電素子用の正極。
【請求項2】
上記カーボンナノチューブに対する上記誘電体に含まれる金属元素のモル比率が10%以上20%以下である請求項1の正極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の正極を備える蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタ、非水電解質以外の電解質が用いられた蓄電素子等も広く普及している。
【0003】
このような蓄電素子の正極に含まれる活物質として、コバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物が各種開発され、広く用いられている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-182783号公報
【特許文献2】特開2017-45725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電素子は、使用環境や用途等に応じた様々な性能が求められ、例えば低温環境下での使用を考慮すると、充放電サイクル後にも低温下で良好な性能が発揮されることが望まれる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制できる正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、正極活物質層を備え、上記正極活物質層が正極活物質と誘電体とカーボンナノチューブとを含有し、上記誘電体の比誘電率が30以上であり、上記カーボンナノチューブの平均管径が20nm以下である蓄電素子用の正極である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面に係る正極によれば、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
図2図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
初めに、本明細書によって開示される正極及び蓄電素子の概要について説明する。
【0011】
本発明の一側面は、正極活物質層を備え、上記正極活物質層が正極活物質と誘電体とカーボンナノチューブとを含有し、上記誘電体の比誘電率が30以上であり、上記カーボンナノチューブの平均管径が20nm以下である蓄電素子用の正極である。
【0012】
当該正極は、上記正極活物質層が正極活物質と誘電体とカーボンナノチューブとを含有し、上記誘電体の比誘電率が30以上であり、上記カーボンナノチューブの平均管径が20nm以下であることで蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制できる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。正極にカーボンナノチューブ及び誘電体を含まない場合、充放電サイクルに伴って正極活物質層が膨張することにより、正極活物質粒子間の導電パスが切断され、活物質粒子が電子的に孤立することがある。正極活物質層にカーボンナノチューブのみを含有させることで、充放電サイクルに伴う正極活物質層の膨張が生じたとしても、繊維状のカーボンナノチューブによって正極活物質粒子間の導電パスが維持されるため、低温下での直流抵抗の増加は若干抑制されるが、正極活物質表面での界面抵抗の上昇等が生じるため、直流抵抗の増加抑制効果は十分ではない。正極活物質層に誘電体のみを含有させた場合、正極活物質表面での界面抵抗の上昇は抑制できるが、正極活物質粒子間の導電パスが維持できないため、やはり直流抵抗の増加抑制効果は十分ではない。一方、正極活物質層に平均管径が20nm以下であるカーボンナノチューブと誘電体とを共に含有させると、カーボンナノチューブと誘電体とが強固に相互作用することにより、誘電体周辺の電荷状態が変化し、分極が大きくなる。そのため、正極活物質表面でのリチウムイオン等のイオンの脱溶媒和反応が促進され、低温下での直流抵抗の増加の抑制効果が生じる。ここで、カーボンナノチューブの平均管径を20nm以下と十分細くすることにより、カーボンナノチューブと誘電体とが強固に相互作用するため、充放電サイクルに伴う正極活物質層の膨張が生じたとしても、正極活物質粒子が孤立することがなく充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加抑制効果が維持される。その結果、当該正極は、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加の抑制効果を発揮することができると考えられる。ここで、「平均管径」とは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察される任意の10個のカーボンナノチューブの管径の平均値である。
【0013】
上記カーボンナノチューブに対する上記誘電体に含まれる金属元素のモル比率が10%以上20%以下であることが好ましい。上記カーボンナノチューブに対する上記誘電体に含まれる金属元素のモル比率が上記範囲であることで、カーボンナノチューブと誘電体との混合比率が好適化されてカーボンナノチューブと誘電体との相互作用が向上する結果、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加に対する抑制効果を向上できる。なお、上記カーボンナノチューブに対する上記誘電体に含まれる金属元素のモル比率を算出するにあたっては、カーボンナノチューブの式量を12としてカーボンナノチューブのモル数を算出するものとする。
【0014】
本発明の一側面に係る蓄電素子は、当該正極を備える蓄電素子である。当該蓄電素子は当該正極を備えるので、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制できる。
【0015】
本発明の一実施形態に係る正極の構成、蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、正極の製造方法及び蓄電素子の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0016】
<正極>
本発明の一実施形態に係る正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0017】
[正極基材]
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0018】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。正極基材及び後述する負極基材の「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。
【0019】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0020】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質と誘電体とカーボンナノチューブとを含有する。正極活物質層は、必要に応じて、その他の導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0021】
(正極活物質)
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO,Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
正極活物質としては、上記の正極活物質の中でもα-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、上記リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルと、コバルトと、アルミニウム及びマンガンの少なくとも一方とを含むことが好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、エネルギー密度を高くすることなどができる。
【0023】
α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、具体的には下記式(1)で表される化合物が好ましい。
Li1+αMe1-α ・・・(1)
式(1)中、Meは、Ni、Co及びMnを含む金属(Liを除く)である。0≦α<1である。
【0024】
式(1)中のMeは、実質的にNi、Co及びMnの三元素から構成されていることが好ましく、Ni、Co及びMnの三元素から構成されていることがより好ましい。但し、Meは、その他の金属が含有されていてもよい。
【0025】
電気容量がより大きくなることなどの観点から、式(1)で表される化合物における各構成元素の好適な含有量(組成比)は以下の通りである。なお、モル比は、原子数比に等しい。
【0026】
式(1)中、Meに対するNiのモル比(Ni/Me)の下限としては、0.1が好ましく、0.2、0.3又は0.4がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Ni/Me)の上限としては、0.9が好ましく、0.8、0.7又は0.6がより好ましい場合もある。
【0027】
式(1)中、Meに対するCoのモル比(Co/Me)の下限としては、0.01が好ましく、0.1又は0.2がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Co/Me)の上限としては、0.7が好ましく、0.5、0.4又は0.3がより好ましい場合もある。
【0028】
式(1)中、Meに対するMnのモル比(Mn/Me)の下限としては、0であってよく、0.05が好ましく、0.1又は0.2がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Mn/Me)の上限としては、0.6が好ましく、0.4又は0.3がより好ましい場合もある。
【0029】
式(1)中、Meに対するLiのモル比(Li/Me)、即ち、(1+α)/(1-α)は、1であってよく、1.0超(α>0)又は1.1以上が好ましい場合もある。一方、このモル比(Li/Me)の上限としては、1.6が好ましく、1.4又は1.2がより好ましい場合もある。
【0030】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の組成比は、次の方法により完全放電状態としたときの組成比をいう。まず、蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の充電終止電圧となるまで定電流充電し、満充電状態とする。30分の休止後、0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした試験電池を組み立て、正極活物質1gあたり10mAの電流値で、正極電位が2.0V vs.Li/Liとなるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。試験電池を解体し、正極を取り出す。ジメチルカーボネートを用いて、取り出した正極に付着した非水電解質を十分に洗浄し、室温にて一昼夜乾燥後、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物を採取する。採取したリチウム遷移金属複合酸化物を測定に供する。蓄電素子の解体からリチウム遷移金属複合酸化物の採取までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合であり、当該蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該蓄電素子を使用する場合をいう。
【0031】
好適なリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばLiNi3/5Co1/5Mn1/5、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi1/2Co1/5Mn3/10、LiNi1/2Co3/10Mn1/5、LiNi8/10Co1/10Mn1/10等を挙げることができる。
【0032】
正極活物質の材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、正極活物質は、上記リチウム遷移金属複合酸化物を、使用する全正極活物質のうち50質量%以上(好ましくは70から100質量%、より好ましくは80から100質量%)の割合で含有することが好ましく、実質的に上記リチウム金属複合酸化物のみからなる正極活物質を用いることがより好ましい。
【0033】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0034】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0035】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0036】
(カーボンナノチューブ)
グラフェン系炭素であるカーボンナノチューブ(以下、CNTともいう。)は、正極活物質層において導電剤として機能する成分である。
【0037】
カーボンナノチューブの平均管径の上限としては、20nmであり、10nmが好ましい。一方、カーボンナノチューブの平均管径の下限としては、1nmが好ましく、3nmがより好ましく、5nmがさらに好ましい。カーボンナノチューブの平均管径が上記範囲内であることで、誘電体との相互作用がより強固になるので、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加の抑制効果をより高めることができる。なお、カーボンナノチューブの「平均管径」とは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察される任意の10個のカーボンナノチューブの管径の平均値とする。
【0038】
カーボンナノチューブの平均アスペクト比(平均管径に対する平均長さの比)としては、例えば10以上10,000以下が好ましく、100以上がより好ましく、1,000以上がさらに好ましい。上記範囲の平均アスペクト比のカーボンナノチューブを用いることでより良好な正極活物質層の導電性を発揮することができる。なお、カーボンナノチューブの「平均長さ」とは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察される任意の10個のカーボンナノチューブの長さの平均値とする。平均アスペクト比の算出の際、平均管径を求めるための10個のカーボンナノチューブと平均長さを求めるための10個のカーボンナノチューブとは同じ粒子とすることが好ましいが、異なる10個の粒子についてそれぞれ平均管径及び平均長さを求め、その比を平均アスペクト比としてもよい。すなわち、平均アスペクト比とは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観測される任意の10個のカーボンナノチューブの平均管径に対する、異なる任意の10個のカーボンナノチューブの平均長さの比であってもよい。
【0039】
カーボンナノチューブのエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)としては、0.340nm未満が好ましい。このようにカーボンナノチューブの平均格子面間隔(d002)が小さく、結晶化度が高い場合、正極活物質層の導電性がより高まる。なお、このカーボンナノチューブの平均格子面間隔(d002)の下限としては、例えば0.330nmとすることができる。また、カーボンナノチューブのエックス線回折法による(002)面に相当するピークの半値幅(002)は、例えば0.5°以上である。カーボンナノチューブの半値幅(002)は、0.7°未満であることが好ましい。
【0040】
正極活物質層におけるカーボンナノチューブの含有量の上限としては、5.0質量%が好ましく、3.0質量%がより好ましく、2.5質量%でもよい。正極活物質層におけるカーボンナノチューブの含有量の下限としては、0.05質量%が好ましく、0.2質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましく、1.0質量%がよりさらに好ましい場合もある。すなわち、正極活物質層におけるカーボンナノチューブの含有量としては、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.5質量%以下がより好ましい。カーボンナノチューブの含有量を上記下限以上とすることで、カーボンナノチューブと誘電体との相互作用をより高め、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加をより低減することができる。一方、カーボンナノチューブの含有量を上記上限以下とすることで、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を十分に低減しつつ、生産コストを抑え、正極合剤ペーストの製造工程におけるダマ発生を抑制できる。
【0041】
(誘電体)
当該正極の正極活物質層は誘電体を含有する。
【0042】
上記誘電体の比誘電率としては、30以上であり、100以上が好ましく、上記誘電体の比誘電率が30以上であることで、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加に対する抑制効果を向上できる。なお、上記「比誘電率」は20℃における値とし、JIS-C2138(2007年)に準拠して測定することができる。
【0043】
比誘電率が30以上の誘電体としては、例えばチタン酸バリウム(BaTiO)、二酸化チタン(TiO)、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、ビスマスフェライト(BiFeO)、ジルコニア(ZrO)、等が挙げられる。これらの中でも、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加に対する抑制効果を向上する観点から、上記誘電体としては、チタン酸バリウムが好ましい。
【0044】
正極活物質層における誘電体の含有形態としては、正極活物質の表面の少なくとも一部を被覆していてもよく、正極活物質の間に存在していてもよい。正極活物質層における誘電体の含有量としては、例えば0.5質量%以上4.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上3.5質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上3.0質量%以下がさらに好ましい。正極活物質層における誘電体の含有量が上記範囲であることで、正極活物質層の導電性を良好にするとともに、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加の抑制効果を向上できる。
【0045】
正極活物質層におけるカーボンナノチューブに対する上記誘電体に含まれる金属元素のモル比率の上限としては、30%が好ましく、25%がより好ましく、20%がさらに好ましい。上記モル比率の下限としては、6%が好ましく、7%がより好ましく、10%がさらに好ましい。すなわち、正極活物質層におけるカーボンナノチューブに対する上記誘電体に含まれる金属元素のモル比率としては、6%以上30%以下であることが好ましく、10%以上20%以下がより好ましい。上記カーボンナノチューブに対する上記誘電体に含まれる金属元素のモル比率が上記範囲であることで、カーボンナノチューブと誘電体との混合比率が好適化されてカーボンナノチューブと誘電体との相互作用が向上する結果、畜電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加の抑制効果を向上できる。
【0046】
上記カーボンナノチューブに対する上記誘電体の質量比率としては、30%以上300%以下であることが好ましく、50%以上250%以下がより好ましく、100%以上200%以下がさらに好ましい。上記カーボンナノチューブに対する上記誘電体の質量比率が上記範囲であることで、畜電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加の抑制効果を向上できる。
【0047】
(任意成分)
正極活物質層には、カーボンナノチューブ以外のその他の導電剤が含有されていてもよい。その他の導電剤としては、カーボンナノチューブ以外の炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、フラーレン等が挙げられる。これらの中でも、カーボンナノチューブ以外の炭素質材料が好ましく、カーボンブラックがより好ましい。
【0048】
正極活物質層における正極活物質層中の全ての導電剤(カーボンナノチューブ及びその他の導電剤)の含有量としては、例えば0.3質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上8質量%以下がより好ましい。正極活物質層におけるカーボンナノチューブ以外のその他の導電剤の含有量としては、例えば0.1質量%以上10質量%以下であってよいが、0.5質量%以上6質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましい。このような含有量でカーボンナノチューブとその他の導電剤とを併用すること等により、生産コストを抑制しつつ、十分に充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制することができる。
【0049】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0050】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0051】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0052】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0053】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、誘電体、カーボンナノチューブ、その他の導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0054】
正極の作製は、例えば正極基材に直接又は中間層を介して、正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。正極合剤ペーストには、正極活物質及び誘電体、カーボンナノチューブ、並びに任意成分であるその他の導電剤、バインダ等、正極活物質層を構成する各成分が含まれる。正極合剤ペーストには、通常さらに分散媒が含まれる。分散媒として、有機溶剤が好適に用いられる。正極合剤ペーストの調製に用いられる分散媒である有機溶剤としては、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエン等が挙げられる。
【0055】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、電解質と、上記電極体及び電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。電解質は、正極、負極及びセパレータに含浸された状態で存在する。蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0056】
[正極]
当該蓄電素子に備わる正極は、上述したとおりである。当該蓄電素子は当該正極を備えるので、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制できる。このため当該蓄電素子は、高出力用途にも好適に適用することができる。
【0057】
[負極]
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0058】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0059】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0060】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0061】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba、等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0062】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0064】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0065】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0066】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0067】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0068】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0069】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0070】
[セパレータ]
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0071】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0072】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0073】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0074】
[非水電解質]
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0075】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0076】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0077】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0078】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0079】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0080】
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0081】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm以上2.5mol/dm以下であると好ましく、0.3mol/dm以上2.0mol/dm以下であるとより好ましく、0.5mol/dm以上1.7mol/dm以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm以上1.5mol/dm以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0082】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0083】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0084】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0085】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0086】
硫化物固体電解質としては、例えばLiS-P、LiI-LiS-P、Li10Ge-P12等が挙げられる。
【0087】
[蓄電装置の構成]
本実施形態の蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電装置として搭載することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0088】
[蓄電素子の製造方法]
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、電解質を準備することと、電極体及び電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、上述の当該正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0089】
電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0090】
当該蓄電素子によれば、当該正極を備えることで、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制できる。
【0091】
<その他の実施形態>
なお、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0092】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0093】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0094】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0095】
[実施例1から実施例3]
(正極の作製)
正極活物質として、NCM622(LiNi0.6Co0.2Mn0.2)の粒子を用い、誘電体としてチタン酸バリウム(BaTiO)を用いた。正極活物質、誘電体、平均管径が20nmのカーボンナノチューブ、カーボンブラック、及びバインダであるPVDFを含み、N-メチル-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを作製した。正極活物質、誘電体、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックの固形分換算の含有量は、表1に記載の通りとし、バインダの含有量を100質量%の残部とした。この正極合剤ペーストを、正極基材であるアルミニウム箔の表面に塗布し、乾燥することにより正極活物質層を作製した。その後、ロールプレスを行い、正極を得た。
【0096】
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛、バインダであるスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)を、質量比で98:1:1の割合(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを、負極基材である銅箔の表面に塗布し、乾燥することにより負極活物質層を作製した。その後、ロールプレスを行い、負極を得た。
【0097】
(蓄電素子の作製)
上記正極及び上記負極を用いた蓄電素子を組み立てた。なお、非水電解質として、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比6:7:7で混合した非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.0mol/dmの濃度で溶解させた溶液を用い、セパレータとしてポリオレフィン製微多孔膜を用いた。以上のようにして、実施例1から実施例3の蓄電素子を製造した。
【0098】
[実施例4]
正極の作製において、誘電体として二酸化チタン(TiO)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の蓄電素子を製造した。
【0099】
[比較例1]
正極の作製において、誘電体を用いなかったことと、正極活物質、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックの含有量を表1に記載の値としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の蓄電素子を製造した。
【0100】
[比較例2]
正極の作製において、誘電体及びカーボンナノチューブを用いなかったこと、正極活物質及びカーボンブラックの含有量を表1に記載の値としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の蓄電素子を製造した。
【0101】
[比較例3]
正極の作製において、チタン酸バリウムの代わりに酸化アルミニウム(Al)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の蓄電素子を製造した。
【0102】
[比較例4]
正極の作製において、平均管径が100nmのカーボンナノチューブを用いたこと以外は実施例2と同様にして、比較例4の蓄電素子を製造した。
【0103】
[比較例5]
正極の作製において、平均管径が100nmのカーボンナノチューブを用いたこと以外は比較例1と同様にして、比較例5の蓄電素子を製造した。
【0104】
[評価]
(初期の低温下での直流抵抗)
得られた各蓄電素子について、25℃にて所定の条件で初期充放電工程を行った後、電流1.0Cの定電流充電を行い、SOCを50%にした。-10℃の恒温槽に4時間以上保管した後、-10℃にて電流0.1C、0.2C、0.3Cの順で、30秒間ずつ放電した。各放電の終了後には、0.05Cの電流で定電流充電を行い、SOCを50%にした。各放電における電流と放電開始後10秒目の電圧との関係をプロットし、3点のプロットから得られた直線の傾きから直流抵抗を求め、初期の低温下での直流抵抗とした。
【0105】
(充放電サイクル試験)
次に、各蓄電素子について、以下の充放電サイクル試験を行った。60℃の恒温槽に各蓄電素子を4時間保管した後、1.0Cの電流で、4.20Vまで定電流充電した後、4.20Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、総充電時間が3時間となるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。1.0Cの電流で、2.50Vまで定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充電及び放電の工程を1サイクルとして、300サイクル実施した。
【0106】
(充放電サイクル試験後の低温下での直流抵抗)
上記充放電サイクル試験後の各蓄電素子について、上記初期の低温下での直流抵抗と同様の方法により、充放電サイクル試験後の低温下での直流抵抗を求めた。そして、下記式により、初期の低温下での直流抵抗に対する充放電サイクル試験後の低温下での直流抵抗の増加割合(-10℃DCR増加率[%])を算出した。
-10℃DCR増加率[%]=(充放電サイクル試験後の低温下での直流抵抗)/(初期の低温下での直流抵抗)×100-100
次に、誘電体添加による改善効果を示すため、誘電体を添加していない比較例1の-10℃DCR増加率を基準として、実施例1から実施例5及び比較例1から比較例5のそれぞれについて比較例1に対する-10℃DCR増加率の割合[%]を算出した。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、正極活物質層に比誘電率が30以上である誘電体及び平均管径が20nm以下であるカーボンナノチューブが含有されている実施例1から実施例4は、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制できることがわかる。特に、カーボンナノチューブに対する上記誘電体に含まれる金属元素のモル比率が10%以上20%以下である実施例2及び実施例4は、充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加の低減効果が優れていた。
【0109】
一方、正極活物質層に比誘電率が30以上である誘電体及び平均管径が20nm以下であるカーボンナノチューブのうちのいずれかまたは双方が含有されていない比較例1から比較例5は、充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加の抑制効果が低いことがわかる。特に、正極活物質層に比誘電率が30以上である誘電体及び平均管径が20nm以下であるカーボンナノチューブの双方が含有されていない比較例2は、充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加の抑制効果が劣っていた。
【0110】
以上の結果、当該正極は、蓄電素子の充放電サイクルに伴う低温下での直流抵抗の増加を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
当該正極は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0112】
1 蓄電素子
2 電極体
3 ケース
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2