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特開2022-122170サイレージの製造方法、これにより得られるサイレージ、およびこれに使用される添加剤組成物
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  • 特開-サイレージの製造方法、これにより得られるサイレージ、およびこれに使用される添加剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122170
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】サイレージの製造方法、これにより得られるサイレージ、およびこれに使用される添加剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A23K 30/15 20160101AFI20220815BHJP
【FI】
A23K30/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019329
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】510144591
【氏名又は名称】BASFジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(72)【発明者】
【氏名】清野 大樹
【テーマコード(参考)】
2B150
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AB01
2B150AB04
2B150AE12
2B150AE17
2B150AE26
2B150EA03
2B150EB06
2B150EB08
2B150EB10
2B150EB11
2B150EC02
2B150ED07
2B150EE01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】腐敗のない良好な品質のサイレージを製造可能であり、機器や貯蔵庫の金属腐食および作業員の皮膚等身体への影響が抑制されたサイレージの製造方法を提供する。
【解決手段】(a)粗飼料に添加剤組成物を施与して調製粗飼料を製造する工程、(b)調製粗飼料を貯蔵庫に装填する工程を含むサイレージの製造方法であって、前記添加剤組成物は、ギ酸、ナトリウムおよび水、またはギ酸、プロピオン酸、ナトリウム、および水を、を含み、大気中20℃における粘度が5mPa・s~20mPa・sの範囲にあり、かつ大気中20℃における蒸気圧が8hPa以上、18hPa以下であり、(c)調製粗飼料を、前記貯蔵庫内における環境条件を、-20℃以上35℃以下の温度、50%RH以上90%RH以下の湿度とし、3か月以上にわたり貯蔵する工程を含サイレージの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)粗飼料に添加剤組成物を施与して調製粗飼料を製造する工程(a)、および (b)前記調製粗飼料を貯蔵庫に装填する工程(b)、
を含むサイレージの製造方法であって、
前記添加剤組成物は、ギ酸、ナトリウムおよび水、またはギ酸、プロピオン酸、ナトリウム、および水を、を含み、大気中20℃における粘度が5mPa・s~20mPa・sの範囲にあり、かつ大気中20℃における蒸気圧が8hPa~18hPaの範囲にあり、
さらに、(c)前記調製粗飼料を、前記貯蔵庫内における環境条件を、-20℃以上35℃以下の温度、50%RH以上90%RH以下の湿度として、3か月以上にわたり貯蔵する工程(c)を含むことを特徴とするサイレージの製造方法。
【請求項2】
前記の粗飼料は、マメ科牧草、イネ科牧草もしくはトウモロコシ飼料作物、またはこれらの任意の混合物であることを特徴とする請求項1記載のサイレージの製造方法。
【請求項3】
前記添加剤組成物中の、ギ酸、プロピオン酸、及びナトリウムがイオンの形態で存在する請求項2項に記載のサイレージの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項の製造方法より得られることを特徴とするサイレージ。
【請求項5】
前記工程(c)の貯蔵期間後の発酵のサイレージ全容量にわたるpHの平均値が2~5の範囲にある請求項4に記載のサイレージ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のサイレージの製造方法に用いられる前記添加剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイレージの製造方法、特にグラスサイレージおよびコーンサイレージの製造方法、当該方法により得られるサイレージ、及びその方法に用いられる添加剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サイレージは、牧草などから作られる発酵飼料の1種であり、酪農などの目的で毎年多量の生産が行われている。高品質なサイレージを製造することにより、乳牛を初めとする家畜の健康な成育がもたらされ、生産される乳製品の品質も向上する。
【0003】
サイレージは、原料となる牧草などを刈り入れ、乾燥等の前処理を施し、その後、例えば、約1年にわたるサイロ等における密閉貯蔵を経て発酵飼料とされるものである。このような長期間の貯蔵・発酵期間における品質管理は重要である。すなわち、原料の腐敗が生ずれば、サイレージの全体にこの影響が加わり、家畜に与えることなく廃棄処分を余儀なくされるため、このような事態を未然に防ぐことが必要である。
【0004】
サイレージ発酵過程の貯蔵安定性の維持及び向上の手段としては、一般的には、乳酸菌製剤をサイレージに添加して乳酸発酵を促進させ、これによりサイレージのpHを低下させることが行われてきた。ところが、原料となる牧草には多数の微生物が存在しており、天候等の条件によっては、酪酸菌などの望ましくない微生物が多く繁殖することもある。特に、昨今の高温多湿な気候下においては、乳酸菌よりも酪酸菌が多く繁殖し、その結果、サイレージの乳酸発酵が進まずに、腐敗してしまうケースも見られる。
【0005】
そこで、乳酸菌製剤の添加に代えて、ギ酸を用いることによりpHを低下させること、またはギ酸アンモニウムや、ギ酸とプロピオン酸のアンモニウム錯体等の水性添加剤を用いることにより、pHを低下させてサイレージの腐敗を防ぐ方法も採用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ギ酸・プロピオン酸の複合剤添加によるロールベールサイレージの品質改善」(畜産草地研究所 1999年の成果情報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のようにギ酸を含む添加剤を用いた場合には、サイレージを扱う作業者の皮膚、およびサイレージの製造に用いられる金属製の機械や貯蔵容器が、腐食等の影響を受けてしまうとの報告がある。また、上記のアンモニウム塩、アンモニウム錯体を使用すると、ホルムアルデヒドが発生するため、作業員の体調への影響が懸念される。
【0008】
このような従来技術に鑑み、本発明は、腐敗のない良好な品質のサイレージを製造可能であり、機器や貯蔵庫の金属腐食および作業員の皮膚等身体への影響が抑制されたサイレージの製造方法、これにより得られるサイレージ、およびこれに使用される添加剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の鋭意研究により、本発明の上記目的は、
(a)粗飼料に添加剤組成物を施与して調製粗飼料を製造する工程(a)、および (b)調製粗飼料を貯蔵庫に装填する工程(b)、
を含むサイレージの製造方法であって、
添加剤組成物は、ギ酸、ナトリウムおよび水、またはギ酸、プロピオン酸、ナトリウム、および水を含み、大気中20℃における粘度が5mPa・s~20mPa・sの範囲にあり、かつ大気中20℃における蒸気圧が8hPa以上~18hPa以下の範囲にあり、
さらに、(c)調製粗飼料を、貯蔵庫内における環境条件を、-20℃以上35℃以下の温度、50%RH以上90%RH以下の湿度とし、3か月以上にわたり貯蔵する工程(c)を含むことを特徴とするサイレージの製造方法により達成されることが見出された。
【0010】
上記サイレージの製造方法では、粗飼料が、マメ科牧草、イネ科牧草もしくはトウモロコシ飼料作物、またはこれらの任意の混合物であることが好ましい。
【0011】
さらに、添加剤組成物中の、ギ酸、プロピオン酸、及びナトリウムがイオンの形態で存在することが好ましい。
【0012】
また、工程(c)の貯蔵期間後の発酵のサイレージ全容量にわたるpHの平均値が2~5の範囲にあることが好ましい。
【0013】
更に、本発明の課題は、上記のサイレージの製造方法に用いられる添加剤組成物により解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のサイレージの製造方法によれば、腐敗のない良好な品質のサイレージが製造されるとともに、サイレージ製造に使用された機器や貯蔵庫の金属部位の腐食や、作業員の皮膚の荒れ等身体への影響なども抑制される。また、このような製造方法により得られたサイレージは優良な発酵粗飼料とされる。さら上述の製造方法において使用される添加組成物は、優良なサイレージの発酵に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の組成物の蒸気圧の測定法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のサイレージの製造方法は、
(a)粗飼料に添加剤組成物を施与して調製粗飼料を製造する工程(a)、および
(b)前記調製粗飼料を貯蔵庫に装填する工程(b)、
を含む。
【0017】
サイレージ(発酵粗飼料)の製造の原料は、一般に粗飼料と呼ばれるが、粗飼料としては、牧草類、およびトウモロコシ飼料作物を使用することができる。
【0018】
牧草類の具体例としては、アカクローバ、シロクローバ、アルサイククローバ、アルファルファ、ガレガ等のマメ科牧草、およびチモシー、オーチャード、トールフェスク、メドウフェスク、ペレニアルライグラス、イタリアンライグラス、ケンタッキーブルーグラス、スムーズブロムグラス、フェストロリウム等のイネ科牧草を含む牧草類、およびトウモロコシが用いられる。本発明の方法は牧草類、トウモロコシのいずれに対しても優れた効果を発揮する。
【0019】
粗飼料のうち、牧草類は、通常、一番草を6月中旬から7月中旬にかけて、二番草を8月中旬から9月中旬にかけてモアコンディショナー等の刈り取り機により刈り取ることによりウインドローとされる。また、トウモロコシは、一般に8月下旬から10月上旬にかけ年一回の刈込により、粗飼料とされる。
【0020】
細断サイレージ(きざみサイレージ)の場合には、ウインドローの牧草、またはトウモロコシをそのまま半日から1日程度乾燥させた後、フォレージハーベスタ等により収穫・細切し、これを例えばティッピングワゴンないしはダンプトラックに積み込み、運搬して、バンカーサイロ等の貯蔵庫に詰め込む。一方、ラップサイレージ(ロールベールサイレージ)の場合には、ウインドローをレーキ等により拡散させ、1日程度、環境温度に放置して乾燥させた後、再度レーキでウインドローをつくる。その後、ウインドローをロールベーラーにより集草し、サイロ用フィルムで包む。
【0021】
上記のとおり、サイロへの詰め込みまたはサイロ用フィルムでの包み込みの前に、一般には粗飼料の乾燥(予乾)処理を行い乾燥飼料とするが、場合によりこれを省略することも可能である。粗飼料総質量における含水率は、乾燥処理を行わない場合には、80質量%程度であり、乾燥処理を行う場合には60~70質量%とすることが好ましい。含水率が60質量%を下回る場合にはカビ発生の可能性が高まり、70質量%を上回る場合には酪酸発酵が進みやすいと考えられている。しかしながら、本発明の方法では、乾燥処理を行わず、粗飼料の含水量が例えば80質量%程度と比較的高い場合でも、後述の添加剤組成物を用いることにより、その後に腐敗することなく所望の発酵が進みやすい。
【0022】
また、細断サイレージを調整する場合には、一般には乾燥した粗飼料を、粗飼料の種類に応じ、5~40mm程度の長さに切断する。切断長が短ければ(5~10mm程度)後述の貯蔵庫における装填において貯蔵庫内の密度が高まり、発酵品質が良好とされる。
【0023】
上記のように任意に乾燥、切断した後、粗飼料をフォレージハーベスタのシューターからティッピングワゴンないしはダンプトラックに積載する際、これと同時にシューターより粗飼料1tあたり1~10リットル、好ましくは2~7リットル、特に好ましくは3~6リットルの添加剤組成物を噴霧し、粗飼料の全体に添加剤を分散させ、調製粗飼料を製造する。
【0024】
ここで使用される添加剤組成物は、主成分をギ酸、ナトリウムおよび水の混合物(組成物(i))、またはギ酸、プロピオン酸、ナトリウム、および水の混合物(組成物(ii))のいずれかとして調製される。これらの組成物(i)、(ii)は、いずれもpHの範囲が2~4.5、好ましくは2.2~4とされ、緩衝作用を有する混合物として製造される。
【0025】
組成物(i)は、例えば、99%ギ酸に対して50%水酸化ナトリウム水溶液を、(1:2.5)~(1:6.5)、好ましくは(1:3.5)~(1:6)のモル比(NaOH:HCOOH)で添加し、ギ酸を上記pHのレベルまで中和することにより得られる。この中和反応は反応槽内で進行するが、この際、発熱を伴うため、水冷式熱交換器を通すことで組成物から熱を取り除くことで反応中組成物の温度を15℃~60℃の間で一定に保つ。このような温度管理をすることで、これにより得られる組成物の粘度や蒸気圧が本願所望のものとなり、組成物の粗飼料上への分散や、サイレージ内の発酵状態に好ましい影響を与える。また、反応中組成物の温度を15℃以上に維持することで反応組成物の結晶化を抑制し、さらに60℃以下に維持することで反応装置の腐食を抑制することが可能である。
【0026】
組成物(ii)は、例えば、99%ギ酸および99%プロピオン酸に対して50%水酸化ナトリウム水溶液を、(1:1:0.3)~(1:5:2.5)、好ましくは(1:1.5:0.5)~(1:4:2)のモル比(NaOH:HCOOH:CHCHCOOH)で添加し、ギ酸およびプロピオン酸を上記pHのレベルまで中和することにより得られる。この中和反応は反応槽内で進行するが、この際、発熱を伴うため、水冷式熱交換器を通すことで組成物から熱を取り除くことで反応中組成物の温度を15℃~60℃の間で一定に保つ。このような温度管理をすることで、これにより得られる組成物の粘度や蒸気圧が本願所望のものとなり、組成物の粗飼料上への分散や、サイレージ内の発酵状態に好ましい影響を与える。また、反応中組成物の温度を15℃以上に維持することで反応組成物の結晶化を抑制し、さらに60℃以下に維持することで反応装置の腐食を抑制することが可能である。
【0027】
いずれの混合物も水溶液であることから、基本的にはその成分となるギ酸、プロピオン酸、およびナトリウムは、すべて解離した状態、すなわちイオンとして存在する。
【0028】
また、組成物の主成分がギ酸、プロピオン酸、ナトリウムおよび水から構成される場合、すなわち組成物(ii)は、その合計質量に対するギ酸:プロピオン酸:ナトリウム:水の質量比が、30~60:15~45:5~12:15~25(合計100質量%)となるように選択される。
【0029】
添加剤組成物は、大気中20℃における粘度が5mPa・s~20mPa・sの範囲、好ましくは7mPa・s~16mPa・sの範囲、さらに好ましくは8.5mPa・s~15mPa・sの範囲にあり、かつ大気中20℃における蒸気圧が8hPa以上、好ましくは10hPa以上であり、18hPa以下、好ましくは16hPa以下となるように調整される。
【0030】
本発明では、粘度はドイツ工業規格DIN51550に準じた測定値を用いる。
【0031】
また、蒸気圧は OECD(経済協力開発機構)テストガイドライン104(OECD Test Guideline 104)(Vapour Pressure Curve)に準じ、圧力ゲージとしてU字管マノメータ法を用いて得た測定値を示す。
【0032】
なお、U字管マノメータ法では、例えば図1に概略図を示すように、ガラス製等のU字管1に水銀3を装填し、U字管1の湾曲部1aの中心を鉛直方向下方に配置する。この状態のU字管1を、湾曲部1aより鉛直方向上方に延在する相互に平行な2つの直線部1b、1b’における液柱(水銀柱)の高さh1及びh2が同一となる状態を維持する。この状態のU字管を、清浄な状態の空の2口フラスコ2の一方の口2aに、必要な結合部材3等を介して結合する。この状態で、環境温度を20℃とし、液柱の高さh1,h2を同一に保たれていること確認しながら(すなわち双方の圧力を同一として)フラスコ2の他方の口2bを密閉する。
【0033】
次いで、添加剤組成物をシリンジ(図示せず)に装填し、上記の密閉された口2bにシリンジの先端を貫通させて、所定量の添加剤組成物をゆっくりとフラスコ2に導入し、再び口2bを密閉する。フラスコ2からの添加剤組成物が蒸発することにより、液柱の高さがh2>h1となる。この時の高さの差をhとし、下式(1)により差圧ΔPを算出するとで、添加剤組成物の蒸気圧を求めることができる。
【0034】
ΔP=(ρ1-ρ2)gh (1)
ρ1: 装填した水銀の密度
ρ2: 大気の密度
g : 重力加速度
h : 液柱高さの差(h2-h1)
【0035】
添加剤組成物の粘度を上記の5mPa・s~20mPa・sの範囲に調整することにより、調製粗飼料への組成物の施与が均一に行われるため、部分的なサイレージの腐敗が回避される。さらにフォレージハーベスタからの添加材組成物の噴霧は屋外で実施されるため、強風時の作業効率性、噴霧の確実性にも優れる。また、添加剤組成物の蒸気圧を上記のように抑制したことにより、添加剤組成物の揮発が回避されるのみならず、サイレージ中に安定的に留まる。このため、添加剤組成物の経時的な偏在傾向も阻止することができ、結果として全保存期間に亘り、サイレージ全体のpHが安定し、さらにバンカー開封後の好気性細菌等によるサイレージの劣化を防ぐことが可能となる。
【0036】
次いで、調製粗飼料を、バックホーやホイールローダ等を用いて踏圧などの過圧処理に付すとよい。この際、タイヤの圧力は2.0~3.5bar(2.0~3.6kgf/cm)に調整されていることが望ましい。踏圧処理は、サイロ内の詰め込み密度を650kg/m以上にし、脱気を目的とした工程であることから、行うことが望ましく、これにより良好な発酵が行われる。
【0037】
このように調製された調製粗飼料は貯蔵庫に装填される(工程(b))。貯蔵庫としては、バンカーサイロ、塔型サイロ、トレンチサイロ(小型、大型)、スタックサイロ、チューブバッグサイロおよびロールベールラップサイロなどが通常使用されるが、貯蔵庫はこれらに限定されるものではない。
【0038】
調製粗飼料のサイロ上での鎮圧(あるいは踏圧)は500~1000kg/m、好ましくは700~800kg/mの密度とするように行われると、原料中の脱気が確実になり、保存期間全体を通じて良好かつ安定した発酵が期待できる。
【0039】
また、サイレージ発酵は嫌気性細菌によって行われるため、工程(b)の装填後、ビニールシート等を用いて、可能な限り速やかにサイロを密閉することも一般に行われる。
【0040】
貯蔵工程(c)経過後は、貯蔵庫が開封された時点で、例えば40~60℃に及ぶような過熱が観察される場合には、過熱の程度に応じて、添加組成物を水で2~5倍に希釈したものを発酵飼料1kgあたり10~20リットル程度別途添加し、カビ・酵母等による変敗・発熱を抑制することも有効である。この場合、サイレージの全体に対し添加剤組成物が可能な限り均一に分散されるようにする。ここで、サイレージの変色や臭いが変敗の指標となることから、これらを観察しながら、添加剤組成物の添加の必要性を判断する。
【0041】
また、本発明で得られたサイレージを、さらに別の、粗飼料、濃厚飼料、ビタミン、ミネラル等などの他の成分と混合して完全混合飼料(Total Mixed Rations(TMR))とすることもできる。サイレージと、上記の他の成分を混合した後、特に貯蔵せずにフレッシュTMRとして使用することも、あるいは再度貯蔵庫に戻し、2~3週間発酵させて発酵TMRとして使用することもできる。特に前者のフレッシュTMRでは、調整時に急激な発熱を生じることがあり、この場合には、例えばミキサーで、添加剤組成物ないしは添加組成物を水で希釈したものを混合して、フレッシュTMRに添加することでさらなる好気的変敗の発生を抑制することができる。
【0042】
また、前記工程(c)の発酵後、バンカーを開封した際のサイレージ全容量にわたるpHの平均値(単にサイレージのpHともいう)が2~5の範囲とされる。サイレージのpHは、使用する粗飼料の種類、環境温度、湿度の他、添加剤組成物の組成、および粗飼料に対する添加剤組成物の施与割合等により上記の範囲に調節される。特に、貯蔵庫内における環境条件を、-20℃~35℃、好ましくは-15℃~30℃の温度、~90%RH、好ましくは~80%RHの湿度として、2か月以上、好ましくは3か月以上、例えば1年以下の期間にわたり貯蔵を行うことで、腐敗がなく栄養価に優れたサイレージが得られる。
【0043】
上記の本発明の製造方法によると、粗飼料からの栄養の損失を生ずることなく、良好な品質の発酵粗飼料としてのサイレージが製造される。また、本発明の製造方法に使用される添加剤組成物は、優良なサイレージの発酵に貢献するのみならず、金属または人体に対する作用が穏やかであることからサイレージ製造に使用する機器や貯蔵庫の金属部位の腐食が発生せず、作業員の皮膚の荒れ、腐食なども抑制される。
【実施例0044】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において特に断りのない限り、「部」は質量部を意味するものとする。
【0045】
[実施例1~4、比較例1]
1.添加剤組成物の調製
組成物1の調整方法:
主成分であるギ酸、ナトリウムおよび水を、その合計質量に対するギ酸:ナトリウム:水の質量比が、75:10:15(合計100質量%)となるように混合し、組成物1を調整した。すなわち、容量1000kgの反応槽にギ酸(99%)750gを装填し、冷却装置により温度を20~25℃の範囲に保ちながら、30分にわたり水酸化ナトリウム100gおよび水150gを添加して、混合物のpHを3.0とした。
【0046】
組成物1の粘度は9.3mPa・S、蒸気圧は12.3hPa(いずれも大気中20℃)であった。
【0047】
組成物2の調整方法:
主成分であるギ酸、プロピオン酸、ナトリウムおよび水を、その合計質量に対するギ酸:プロピオン酸、ナトリウム:水の質量比が、55:15:10:20(合計100質量%)となるように混合し、調整した。すなわち、容量1000kgの反応槽にギ酸(99%)550gおよびプロピオン酸150gを装填し、冷却装置により温度を20~25℃の範囲に保ちながら、30分にわたり水酸化ナトリウムを100gおよび水200gを添加して、混合物のpHを3.6とした。
【0048】
組成物2の粘度は13.3mPa・s、蒸気圧は14・6hPa(いずれも大気中20℃)であった。
【0049】
比較添加剤1として、ギ酸(85%水溶液)を用いた。
【0050】
比較添加剤1の粘度は1.44mPa・s、蒸気圧28hPaである(いずれも大気中20℃)。
【0051】
2.調整粗飼料の調製
一番草チモシーおよびオーチャード(十勝管内ならびにオホーツク管内のTMRセンターより入手)を粗飼料とし、それぞれ10~20mm程度に細断した。チモシーについては予乾を行わず、オーチャードは大気温度13℃~23℃の環境下に24時間放置することにより予乾した。予乾後の粗飼料をハーベスターにて収穫し、排出シュートから並走するダンプトラックに積載した。また、予め容量200Lのプラスチックドラム(コダマ樹脂工業株式会社製)に装填した本発明の添加剤組成物1、添加剤組成物2および比較組成物1(これらをまとめて組成物ともいう)をハーベスターに積載し、これを排出シュート先端部に取り付けたスプレーノズルから粗飼料全体に均一に添加されるよう分散性をバックモニターで確認しながら噴霧した。組成物の種類別にダンプトラックに積載した各粗飼料、約1000tをコンクリート製のバンカーサイロ(容積720m、寸法7.2m×40m×2.5m)に詰込み、バックホーおよびホイールローダにて踏圧処理に付した。
【0052】
いずれの場合も粗飼料に対する組成物の噴霧量は3L/t程度であり、このように調製された調製粗飼料各1000tをバンカーサイロに詰め込み、踏圧した後の踏圧係数は1.8程度(平均)であった。さらに、サイロを密閉するために、調製粗飼料全体を9mx40mx0.15mmのポリエチレンシート(北越化成株式会社製)をサイロの上部および側面に張り巡らせ、飼料を外気から遮断した。
【0053】
この状態を3か月~10か月維持し、サイレージの発酵を行った。この間、食品用デジタル温湿度計によりサイロ内の状態を監視した結果、温度は20℃~30℃、湿度は62%RH~76%RHの範囲であった。
【0054】
以上の手順により、後述の表1に記載した5種類のサイレージ(サイレージ1~4、および比較サイレージ1)を製造した。なお、サイレージ3および4についての値は、それぞれ同じ手順で得た3種類以上のサンプルに対する、同一基準の測定の平均値である。
【0055】
3.サイレージ分析試験
各サイレージを表1に記載した発酵期間後の品質を、バンカーを開封した直後のpH、得られたサイレージのVスコア、アンモニア態窒素および酪酸の発生程度を評価した。
【0056】
[サイレージ開封後のpHの評価]
発酵期間後のバンカー開封後のサイレージについて、pHメーターによりpHを測定した。
【0057】
[V-スコアの評価]
得られたサイレージの品質を、Vスコアにより算出した。すなわち、以下の計算式よる値が大きいほど品質が良好と判断できる。一般にスコア80点以上で良好なサイレージとされる。
【0058】
V-スコア=YN+YA+YBで表され、
式中、
YNは、揮発性塩基態窒素(VBN)/全窒素(T-N)比率を点数化した値、
YAは、酢酸+プロピオン酸含量(%)を点数化した値、
YBは、酪酸以上の揮発性脂肪酸(VFA)含量(%)を点数化した値、
を意味する。
【0059】
[アンモニア態窒素発生量(NH-N)の測定]
FOSS社製、近赤外(NIR)分析装置を用いアンモニア態窒素発生量を測定した。
【0060】
[酪酸発生量の測定]
FOSS社製、近赤外(NIR)分析装置を用いアンモニア態窒素発生量を測定した。
【0061】
なお、上記pH、Vスコア、アンモニア態窒素発生量(NH-N)、酪酸発生量は、上記「2.調整粗飼料の調製」と同様に、測定したサンプル数による平均値として示す。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
4.金属腐食性確認試験
それぞれ組成物1、組成物2、および比較組成物1を含むガラス容器(容量200cc)に金属片(長さ4mm×幅4mm×厚さ1.5mmの鋼板)を浸漬し、全体が溶液中に沈んでいることを確認し、ここにマグネチックスターラーを入れ、ガラス性の蓋をした。これらのガラス容器を室温(18~21℃)の水平な台の上に静置し、7日間同じ状態を維持した。保存期間中、マグネチックスターラーは500回転/分とし、常にガラス容器中の各組成物が撹拌される状態とした。
【0065】
7日後にガラス容器から各金属片を取り出し、デジタルスケールにより金属片の質量を計測した。
【0066】
組成物ごとに、それぞれ上記の金属片による試験を3回ずつ行った。
【0067】
浸漬前および浸漬後の金属片の質量平均値は以下のとおりであった。
【0068】
【表2】
【0069】
5.ポリカーボネート腐食性確認試験
ポリカーボネート板(市光工業株式会社製ブレーキレンズ)に対し、組成物1および比較組成物1をそれぞれ、1ml滴下し、サンプル1および比較サンプル1を準備した。滴下直後、双方のサンプル表面に組成物1、比較組成物1の液滴がポリカーボネート板上に広がり、20分程度で乾燥した。この時点でポリカーボネート板上には変質の兆候は見られなかった(基準時)。これらを、平均温度21℃、平均湿度85%RHの野外環境下に保持した。上述の基準時から後2時間経過後、2週間経過後、および1か月経過後の時点で、各サンプルの状態を目視観察により評価した。評価結果および基準は以下のとおりである。
【0070】
【表3】
【0071】
評価基準:
〇・・・・・ポリカーボネート板に変化は観察されない。
△・・・・・ポリカーボネート板の白化が観察された。
×・・・・・ポリカーボネート板の白濁と溶解が観察された。
【0072】
6.皮膚腐食性確認試験
1~2mlの組成物1および比較組成物1を、紙片(アスクル株式会社製、縦5mm×横5mm)の全体に浸み込ませ、同一の被験者の左手のひらの二か所に貼布(親指の付け根の高さの、右側に組成物1を浸み込ませた紙片、左側に比較組成物1を浸み込ませた紙片を貼布)し、これらを10分後に除去し、水道水(流水)で5秒程度水洗いした。10分、9時間、1日(24時間)、2日(48時間)、3日(72時間)、4日(96時間)、5日(120時間)、6日(144時間)経過後の皮膚の状態を目視観察した。9時間経過後の観察で、比較組成物1を浸み込ませた紙片に接触した手のひら左側で(左箇所)の皮膚の剥離と炎症が観察され、1日後には剥離と炎症の改善がみられたものの、3日後までは炎症が観察された。4日後の左箇所の炎症は若干の赤身を帯びる程度まで改善したが、完全に回復するには6日を要した。一方、組成物1を貼布した右箇所では、すべての観察時点で、何らの剥離、炎症も観察されることはなかった。
【0073】
上記の実施例および比較例から、本願発明の方法によれば、ギ酸を添加剤として用いた場合に比較して遜色のないサイレージを製造することができたことがわかる。また、アンモニア態窒素や酪酸の検出結果からもサイレージの品質が高いことがわかる。
【0074】
一方、本願発明で使用される添加剤組成物によれば、サイロや農業用具の金属製部分への影響、ポリカーボネート等のプラスチック保存溶液や農業用具への影響も改善されている。さらに、皮膚への影響が緩和されていることから作業の安全性が高い。
【0075】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0076】
1 U字管
2 フラスコ
3 結合部材
図1