IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両用制御装置 図1
  • 特開-車両用制御装置 図2
  • 特開-車両用制御装置 図3
  • 特開-車両用制御装置 図4
  • 特開-車両用制御装置 図5
  • 特開-車両用制御装置 図6
  • 特開-車両用制御装置 図7
  • 特開-車両用制御装置 図8
  • 特開-車両用制御装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122177
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20220815BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/66
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019337
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山本 真之
(72)【発明者】
【氏名】畑内 慎也
(72)【発明者】
【氏名】芥川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】岸 大輔
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA35
3J552RA28
3J552RB22
3J552SA34
3J552SB02
3J552TB02
3J552TB11
3J552VA17W
3J552VA32Z
3J552VA68W
3J552VA74W
3J552VB09Z
3J552VD01Z
3J552VE04W
3J552VE04Z
(57)【要約】
【課題】有段変速制御中に車両が登坂路に差し掛かった場合における車速の低下を抑制できる、車両用制御装置を提供する。
【解決手段】車両1が2速段の変速比および車速Vで走行中に、車両1が登坂路に差し掛かり、アクセル操作により2速段から1速段へのダウンシフトの条件が満たされた場合、1速段の変速比を目標変速比として、現在の目標入力回転数R1および目標変速比から、目標変速比への変更後の目標入力回転数の予測値R2が求められる。予測値R2が最大エンジン回転数を超過するので、現在の目標入力回転数R1がリニア制御目標入力回転数に設定される。目標入力回転数設定処理では、リニア制御目標入力回転数R1が基本目標入力回転数に設定される。このとき、通常制御目標入力回転数R3が下限ガードに設定されており、目標入力回転数が下限ガードによる制限を受けて通常制御目標入力回転数R3に設定される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速比を無段階で変更可能な無段変速機を搭載した車両に用いられる制御装置であって、
前記無段変速機の変速比を無段階で変更する無段変速制御と、前記無段変速機の変速比を段階的に変更する有段変速制御とを選択的に行い、
前記無段変速制御では、前記無段変速機に入力される入力回転数の目標である目標入力回転数を設定して、前記入力回転数が前記目標入力回転数に一致するように変速比を無段階で変更し、
前記車両が登坂中であり、かつ、前記有段変速制御を行っているときには、前記無段変速制御を行っていれば設定される前記目標入力回転数を前記有段変速制御における前記目標入力回転数の下限ガードとして設定し、
前記有段変速制御では、変速比の変更の条件が満たされているか否かを判断し、当該条件が満たされている場合には、変速比を現在の変速比から当該条件に応じた変速比に変更し、当該条件が満たされていない場合には、現在の変速比および前記車両の車速から設定される基本目標回転数が前記下限ガード未満であるか否かを判断し、前記基本目標回転数が前記下限ガード未満である場合には、前記下限ガードを前記目標入力回転数に設定して、前記基本目標回転数が前記下限ガード以上である場合には、前記基本目標回転数を前記目標入力回転数に設定して、前記入力回転数が前記目標入力回転数に一致するように変速比を変更する、車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される変速機として、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)が知られている。
【0003】
ベルト式の無段変速機は、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有している。プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各プーリの溝幅を連続的に変化させることにより、各プーリに対するベルトの巻き掛け径を変更することができ、変速比(プーリ比)を無段階で連続的に変更することができる。また、各プーリの溝幅を段階的に変化させることにより、変速比を段階的に変更することも可能である。そのため、無段変速機では、変速比を自動で連続的に変更する通常変速制御に加えて、通常変速制御とは制御則が異なる変速制御、たとえば、変速比を自動で段階的に変更する有段変速制御(リニア変速制御)を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/074009号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有段変速制御では、複数の変速比が変速段として離散的に設定され、変速段間の変速比は使用されない。そのため、車両が登坂路に差し掛かり、加速のためのアクセル操作がなされても、変速段(変速比)をダウンシフトした後のエンジン回転数がレブリミットを超過(オーバレブ)する場合、ダウンシフトは行われず、駆動力の不足により車速が低下するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、有段変速制御中に車両が登坂路に差し掛かった場合における車速の低下を抑制できる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、変速比を無段階で変更可能な無段変速機を搭載した車両に用いられる制御装置であって、無段変速機の変速比を無段階で変更する無段変速制御と、無段変速機の変速比を段階的に変更する有段変速制御とを選択的に行い、無段変速制御では、無段変速機に入力される入力回転数の目標である目標入力回転数を設定して、入力回転数が目標入力回転数に一致するように変速比を無段階で変更し、車両が登坂中であり、かつ、有段変速制御を行っているときには、無段変速制御を行っていれば設定される目標入力回転数を有段変速制御における目標入力回転数の下限ガードとして設定し、有段変速制御では、変速比の変更の条件が満たされているか否かを判断し、当該条件が満たされている場合には、変速比を現在の変速比から当該条件に応じた変速比に変更し、当該条件が満たされていない場合には、現在の変速比および車両の車速から設定される基本目標回転数が下限ガード未満であるか否かを判断し、基本目標入力回転数が下限ガード未満である場合には、下限ガードを目標入力回転数に設定して、基本目標入力回転数が下限ガード以上である場合には、基本目標入力回転数を目標入力回転数に設定して、入力回転数が目標入力回転数に一致するように変速比を変更する。
【0008】
この構成によれば、無段変速機の変速比を無段階で変更する無段変速制御と、無段変速機の変速比を段階的に変更する有段変速制御とが選択的に行われる。
【0009】
無段変速制御では、無段変速機に入力される入力回転数の目標である目標入力回転数が設定されて、入力回転数が目標入力回転数に一致するように変速比が無段階で変更される。
【0010】
一方、有段変速制御では、変速比の変更の条件が満たされているか否かが判断されて、当該条件が満たされている場合には、変速比が現在の変速比から当該条件に応じた変速比に変更される。変速比の変更の条件が満たされていない場合には、現在の変速比および車両の車速から基本目標回転数が設定されて、基本目標回転数が下限ガード未満であるか否かが判断される。車両が登坂している場合、下限ガードは、無段変速制御であれば設定される目標入力回転数が下限ガードとされる。基本目標入力回転数が下限ガード未満である場合には、下限ガードが目標入力回転数に設定され、基本目標入力回転数が下限ガード以上である場合には、基本目標入力回転数が目標入力回転数に設定されて、入力回転数が目標入力回転数に一致するように変速比が変更される。
【0011】
無段変速制御では、通常、車両を加速させる加速要求に応じたパラメータ、たとえば、アクセル開度(アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合)が大きいほど、目標入力回転数が大きい値に設定される。したがって、車両が登坂しているときに、アクセルペダルが踏み込まれると、目標入力回転数が大きい値に設定されて、変速比がシフトダウンするので、大きい駆動力を確保でき、車速の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有段変速制御中に車両が登坂路に差し掛かった場合における車速の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が搭載された車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
図2】車両の前進時および後進時におけるクラッチおよびブレーキの状態を示す図である。
図3】遊星歯車機構のサンギヤ、キャリヤおよびリングギヤの回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
図4】ベルト変速機構によるベルト変速比と変速機の全体でのユニット変速比との関係を示す図である。
図5】車両の制御系の構成を示すブロック図である。
図6】車速と目標入力回転数との関係を示す図である。
図7】目標入力回転数設定処理の流れを示すフローチャートである。
図8】下限ガード設定処理の流れを示すフローチャートである。
図9】目標入力回転数の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0016】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0017】
エンジン2の動力は、トルクコンバータ3およびCVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0018】
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
【0019】
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23およびロックアップクラッチ24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0020】
ロックアップクラッチ24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップクラッチ24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
【0021】
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11のトルクよりも大きなトルクが発生する。
【0022】
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22およびタービンランナ23が一体となって回転する。
【0023】
CVT4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、CVT4は、ベルト変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
【0024】
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0025】
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
【0026】
ベルト変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
【0027】
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油室54が形成されている。
【0028】
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
【0029】
ベルト変速機構33では、プライマリプーリ43の油室54およびセカンダリプーリ44の油室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比(プーリ比)が連続的に無段階で変更される。
【0030】
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
【0031】
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0032】
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
【0033】
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
【0034】
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
【0035】
また、アウトプット軸32には、パーキングギヤ83が相対回転不能に支持されている。パーキングギヤ83の周囲には、パーキングポール(図示せず)が設けられている。パーキングポールがパーキングギヤ83の歯溝に係合することにより、パーキングギヤ83の回転が規制(パーキングロック)され、パーキングポールがパーキングギヤ83の歯溝から離脱することにより、パーキングギヤ83の回転が許容(パーキングロック解除)される。
【0036】
また、CVT4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
【0037】
クラッチC1は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0038】
クラッチC2は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0039】
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
【0040】
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。図4は、ベルト変速機構33によるベルト変速比とCVT4の全体でのユニット変速比との関係を示す図である。
【0041】
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
【0042】
車両1の車室内には、ドライバ(運転者)が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジションおよびD(ドライブ)ポジションの各レンジ位置がこの順に一列に並べて設けられている。
【0043】
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放され、パーキングギヤ83が固定されることにより、CVT4の変速レンジの1つであるPレンジ(駐車レンジ)が構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、CVT4の変速レンジの1つであるNレンジ(中立レンジ)が構成される。クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放された状態では、エンジン2の動力がセカンダリ軸42まで伝達されて、セカンダリ軸42が回転するが、遊星歯車機構35のサンギヤ71およびピニオンギヤ74が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
【0044】
シフトレバーがDポジションに位置する状態では、CVT4の変速レンジの1つであるDレンジ(前進レンジ)が構成される。このDレンジでの動力伝達モードには、ベルトモードおよびスプリットモードが含まれる。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
【0045】
ベルトモードでは、図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
【0046】
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、図3および図4に示されるように、CVT4全体でのユニット変速比(トータル変速比)がベルト変速機構33のベルト変速比に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
【0047】
スプリットモードでは、図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
【0048】
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71およびリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43およびプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
【0049】
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、図4に示されるように、ベルト変速機構33のベルト変速比が大きいほど、CVT4のユニット変速比が小さくなり、ベルト変速比に対するユニット変速比の感度(ベルト変速比の変化量に対するユニット変速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
【0050】
アウトプット軸32を回転させるエンジン駆動力は、出力ギヤ37を介してデファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介して駆動輪7L,7Rに伝達される。これにより、駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
【0051】
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、CVT4の変速レンジの1つであるRレンジ(後進レンジ)が構成される。Rレンジでは、図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
【0052】
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介してデファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介して駆動輪7L,7Rに伝達される。これにより、駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
【0053】
車両1の前進時には、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73との直結により、サンギヤ71の回転速度とリングギヤ73の回転速度とが一致するのに対し、車両1の後進時には、遊星歯車機構35の構成上、リングギヤ73の回転速度がサンギヤ71の回転速度よりも必ず低くなる。そのため、Rレンジでは、変速比が最大プーリ比よりも大きくなり、DレンジおよびRレンジで最大プーリ比が構成されている場合、車両1の後進時に、前進時と比較して、変速比が大きくなり、アウトプット軸32から出力される動力が大きくなる。
【0054】
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0055】
車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。図5には、複数のECUのうちの1つのECU91が示されている。
【0056】
トルクコンバータ3およびCVT4を含むユニットには、各部に油圧を供給するための油圧回路92が備えられている。ECU91は、CVT4の変速制御などのため、油圧回路92に含まれる各種のバルブなどを制御する。
【0057】
ECU91には、制御に必要な各種センサが接続されており、その接続されている各種センサの検出信号が入力される。ECU91に接続されているセンサには、たとえば、アクセルペダルの操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサ93と、車両1の走行に伴って回転する回転体の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する車速センサ94とが含まれる。ECU91では、アクセルセンサ93の検出信号から、アクセルペダルの最大操作量に対する現在の操作量の割合であるアクセル開度が求められる。また、ECU91では、車速センサ94の検出信号から、その検出信号(パルス信号)の周波数が求められて、その周波数が車速に換算される。
【0058】
<変速制御>
図6は、車速と目標入力回転数との関係を示す図である。
【0059】
シフトレバーがDポジションに位置し、CVT4の変速レンジがDレンジに設定されている状態では、ECU91により、CVT4の変速比を自動的に変更する変速制御が実行される。変速制御では、無段変速制御(通常制御)と有段変速制御(リニア変速制御)とが選択的に実行される。無段変速制御と有段変速制御との切り替えは、ドライバがスイッチ操作を行うことにより手動で設定されてもよいが、ドライバによるアクセル操作の態様に応じて自動で設定される。たとえば、通常は無段変速制御が行われ、アクセル操作の態様からドライバの加速要求が判定されて、その加速要求が判定された場合、無段変速制御から有段変速制御に自動で切り替えられ、加速要求が判定されない状態が所定時間続いた場合、有段変速制御から無段変速制御に自動で切り替えられる。
【0060】
無段変速制御では、CVT4の変速比が無段階で変更される。ECU91の不揮発性メモリには、無段変速制御用の変速線図が記憶されている。この変速線図は、図6に太線で一例(アクセル開度100%)が示されるように、アクセル開度および車速と無段変速制御用の目標入力回転数である通常制御目標入力回転数との関係を定めたものである。目標入力回転数は、CVT4のインプット軸31に入力される回転数の目標値である。無段変速制御では、変速線図からアクセル開度および車速に応じた通常制御目標入力回転数が設定され、後述する目標入力回転数設定処理により、通常制御目標入力回転数に基づいて、目標入力回転数が設定される。さらに、インプット軸31に入力される回転数を目標入力回転数に一致させるユニット変速比の目標である目標変速比が求められて、目標変速比に応じたベルト変速比の目標が設定される。そして、ベルト変速比が目標に向けて変更される。
【0061】
無段変速制御により、アクセル開度および車速の変化に応じて、エンジン2の回転数が高効率な回転域に含まれるように、変速比を連続的に変化させることができ、低燃費走行を実現することができる。
【0062】
有段変速制御では、複数の変速比が離散的に設定され、その複数の変速比間でCVT4の変速比が変更される。複数の変速比として、たとえば、AT(Automatic Transmission:自動変速機)における1~7速段の各変速段に相当する変速比が設定されている。ECU91の不揮発性メモリには、有段変速制御用の変速線図が記憶されている。この変速線図は、変速比の変更の条件となるアクセル開度および車速を定めている。有段変速制御用の変速線図には、N速段(N:1~6)からN+1速段へのアップシフトの条件を定めたアップシフト線図と、N+1速段からN速段へのダウンシフトの条件を定めたダウンシフト線図とが含まれている。有段変速制御では、変速線図からアクセル開度および車速に応じた目標変速比が設定される。
【0063】
現在の変速比と目標変速比とが異なる場合には、目標変速比への変更後の目標入力回転数の予測値が求められる。予測値がエンジン2の回転数の最大値である最大エンジン回転数(レブリミット)を超過しない場合、目標変速比への変更後の目標入力回転数がリニア制御目標入力回転数に設定される。そして、後述する目標入力回転数設定処理により、リニア制御目標入力回転数に基づいて、目標入力回転数が設定される。この場合、通常では、リニア制御目標入力回転数がそのまま目標入力回転数に設定され、ベルト変速比の変更により、現在の変速比から目標変速比に変更される。現在の変速比から目標変速比に変更されることにより、インプット軸31に入力される回転数が目標入力回転数に一致する。
【0064】
一方、目標変速比への変更後の目標入力回転数の予測値が最大エンジン回転数を超過する場合、現在の目標入力回転数がリニア制御目標入力回転数に設定される。そして、目標入力回転数設定処理により、リニア制御目標入力回転数に基づいて、目標入力回転数が設定される。この場合の変速比の変更については、目標入力回転数設定処理とともに後述する。
【0065】
有段変速制御では、変速比がアップシフトまたはダウンシフトの条件が満たされるまで固定されるので、アクセル操作に応じたリニアな加速応答性ないしは加速感を得ることができる。
【0066】
ベルトモードでは、ベルト変速比がスプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比であるスプリットギヤ比に等しい切替値を下限とする範囲内の値をとり、スプリットモードでは、ベルト変速比が切替値を上限とする範囲内の値をとる。目標変速比が切替値を跨いだ値に設定された場合、すなわち、ベルトモードで切替値以下の目標変速比が設定された場合、または、スプリットモードで切替値以上の目標変速比が設定された場合、変速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えが伴う。ベルトモードとスプリットモードとの切り替えを伴う場合、ECU91により、ベルト変速比の変更とともに、クラッチC1,C2を係合/解放する制御が行われる。
【0067】
<目標入力回転数設定処理>
図7は、目標入力回転数設定処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
目標入力回転数設定処理では、まず、有段変速制御中であるか否かが判定される(ステップS1)。有段変速制御中である場合(ステップS1のYES)、リニア制御目標入力回転数が設定されて、そのリニア制御目標入力回転数が基本目標入力回転数に設定される(ステップS2)。有段変速制御中ではなく、無段変速制御中である場合には(ステップS1のNO)、通常制御目標入力回転数が設定され、その通常制御目標入力回転数が基本目標入力回転数に設定される(ステップS3)。
【0069】
基本目標入力回転数が設定されると、次に、基本目標入力回転数が下限ガード未満であるか否かが判断される(ステップS4)。下限ガードは、下限ガード設定処理により設定される。下限ガード設定処理については、後述する。
【0070】
基本目標入力回転数が下限ガード未満である場合(ステップS4のYES)、下限ガードの値が目標入力回転数に設定されて(ステップS5)、目標入力回転数設定処理が終了される。
【0071】
基本目標入力回転数が下限ガード未満ではなく、つまり基本目標入力回転数が下限ガード以上である場合(ステップS4のNO)、基本目標入力回転数が上限ガードを超えているか(大きいか)否かが判断される(ステップS6)。上限ガードは、通常では、最大エンジン回転数に設定されている。たとえば、CVT4の油温が所定温度を超えた場合、車輪のロックを防ぐためのABS(Antilock Brake System)制御が行われている場合、エンジン2が失火(エンジンストール)した場合など、何らかの異常などが発生した場合には、車両1の各部を保護するため、上限ガードが最大エンジン回転数よりも低い値に設定される。
【0072】
基本目標入力回転数が上限ガードを超えている場合(ステップS6のYES)、上限ガードの値が目標入力回転数に設定されて(ステップS7)、目標入力回転数設定処理が終了される。
【0073】
基本目標入力回転数が上限ガードを超えておらず、つまり基本目標入力回転数が上限ガード以下である場合(ステップS6のNO)、基本目標入力回転数が目標入力回転数に設定されて(ステップS8)、目標入力回転数設定処理が終了される。
【0074】
<下限ガード設定処理>
図8は、下限ガード設定処理の流れを示すフローチャートである。
【0075】
下限ガード設定処理は、ECU91により行われる。
【0076】
下限ガード設定処理では、車両1が登坂中であるか否かが判断される(ステップS11)。また、有段変速制御中であるか否かが判定される(ステップS11)。登坂判定の手法は、種々の手法を採用することができる。たとえば、アクセル開度および車速から、車両1の加速度の下限値を予測し、車速の時間微分値がその下限値未満である場合、車両1が登坂中であると判定し、車速の時間微分値が予測された下限値以上である場合、車両1が登坂中ではないと判定することができる。また、車両1に搭載されている加速度センサの検出信号から取得される加速度と車速の時間微分値との差を求めて、その差から路面勾配を推定し、路面勾配が一定値以上であれば、車両1が登坂中であると判定し、路面勾配が当該一定値未満であれば、車両1が登坂中でないと判定することができる。
【0077】
車両1が登坂中であり、かつ、有段変速制御中である場合(ステップS11のYES)、そのときのアクセル開度および車速から無段変速制御が行われていた場合に設定される通常制御目標入力回転数が求められる。そして、通常目標入力回転数が他の下限ガードの最大値よりも大きいか否かが判断される(ステップS12)。他の下限ガードは、この下限ガード設定処理で設定される下限ガード以外の下限ガードである。他の下限ガードは、エンジン2の失火が生じない最低回転数に設定され、エンジン2の水温が低い場合、車両1が登坂している場合、アクセル開度が0である場合など、種々の条件に応じて変更される。他の下限ガードの最大値とは、現在設定されている他の下限ガードの最大値をいう。したがって、通常は、通常目標入力回転数が他の下限ガードの最大値を上回る。
【0078】
通常目標入力回転数が他の下限ガードの最大値よりも大きい場合(ステップS12のYES)、通常制御目標入力回転数が下限ガードに設定されて(ステップS13)、下限ガード設定処理が終了される。
【0079】
通常制御目標入力回転数が他の下限ガードの最大値以下である場合(ステップS12のNO)、他の下限ガードの最大値が下限ガードに設定されて(ステップS14)、下限ガード設定処理が終了される。
【0080】
車両1が登坂路に差し掛かり、車両1を加速させるために、ドライバによりアクセルペダルが踏み込まれると、加速要求が判定されて、変速制御が無段変速制御から有段変速制御に切り替えられる。車両1が登坂中であり、かつ、有段変速制御中であるから、通常制御目標入力回転数が他の下限ガードの最大値以下でない限り、通常制御目標入力回転数が下限ガードに設定される。
【0081】
たとえば、図6に示されるように、車両1が2速段に相当する変速比および車速Vで走行中に、車両1が登坂路に差し掛かり、ドライバによりアクセルペダルが踏み込まれて、2速段から1速段へのダウンシフトの条件が満たされた場合、1速段に相当する変速比を目標変速比として、現在の目標入力回転数(=実際の目標入力回転数)R1および目標変速比から、目標変速比への変更後の目標入力回転数の予測値R2が求められる。この場合、予測値R2は、最大エンジン回転数を超過するので、現在の目標入力回転数R1がリニア制御目標入力回転数に設定される。目標入力回転数設定処理では、リニア制御目標入力回転数R1が基本目標入力回転数に設定され、その基本目標入力回転数R1が下限ガード未満であるか否かが判断される。このとき、通常制御目標入力回転数R3が下限ガードに設定されており、基本目標入力回転数R1が通常制御目標入力回転数R3未満であるので、目標入力回転数が下限ガードによる制限を受け、通常制御目標入力回転数R3が目標入力回転数に設定される。
【0082】
この場合、インプット軸31に入力される回転数を目標入力回転数R3に一致させるユニット変速比の目標である目標変速比が求められて、目標変速比に応じたベルト変速比の目標が設定される。そして、ベルト変速比が目標に向けて変更(ダウンシフト)され、必要に応じて、クラッチC1,C2を係合/解放する制御が行われる。
【0083】
<効果>
以上のように、従来の変速制御とは異なり、有段変速制御中であっても、駆動力が必要とされる登坂時には、目標入力回転数がR1からR3に引き上げられて、CVT4のユニット変速比がダウンシフトされる。これにより、大きい駆動力を確保でき、登坂時に車両1の車速が低下することを抑制できる。
【0084】
図9は、目標入力回転数の時間変化の一例を示す図である。
【0085】
車両1の登坂中かつ有段変速制御中に、目標入力回転数が下限ガードである通常制御目標入力回転数に設定された場合、その通常制御目標入力回転数を最終目標入力回転数として、二点鎖線で示されるように、目標入力回転数が最終目標入力回転数まで時間の経過とともに引き上げられてもよい。また、目標入力回転数が最終目標入力回転数に引き上げられるまでに、目標入力回転数の時間変化量が段階的に変更されてもよい。
【0086】
かかる目標入力回転数の過渡制御が行われることにより、目標入力回転数の急変を回避して、ドライバビリティを確保することができる。
【0087】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0088】
たとえば、前述の実施形態では、スプリット変速機構36を経由する第1動力伝達経路とベルト変速機構33を経由する第2動力伝達経路とに分岐して動力を伝達する構成を取り上げたが、スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を含む平行軸式歯車機構に限らず、ベルト機構などのギヤ機構以外の機構であってもよい。ベルト機構が採用される場合、そのベルト機構は、変速比が固定のものであってもよいし、変速比が可変のものであってもよい。
【0089】
また、自動変速機は、スプリット変速機構36を備えていない、つまり動力分割式ではない通常のCVTであってもよい。
【0090】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1:車両
4:CVT
91:ECU(制御装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9