(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122183
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】モールドコイル及びリアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20220815BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20220815BHJP
H01F 27/02 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
H01F37/00 M
H01F37/00 J
H01F37/00 G
H01F41/12 D
H01F27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019347
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍太
【テーマコード(参考)】
5E044
5E059
【Fターム(参考)】
5E044AD07
5E059CC10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】下型とも当接する上部カバーを備える場合であっても、バリの発生を抑制することができるモールドコイル及びリアクトルを提供する。
【解決手段】コイルがモールド樹脂でモールド成型されたモールドコイルは、コイル2の上面に設けられた上部カバー31を備える。上部カバー31は、コイル2の上面を被覆する上面被覆部311と、モールド成型の際に、下型と当接する下型当接部312と、上面被覆部311と下型当接部312とを繋ぐ弾性部材から成る撓み部313と、を有する。撓み部313は、モールド成型時に上型をコイル2の底面に向けて押し付けると撓む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルがモールド樹脂でモールド成型されたモールドコイルであって、
前記コイルの上面に設けられた上部カバーを備え、
前記上部カバーは、
前記コイルの上面を被覆する上面被覆部と、
前記モールド成型の際に、下型と当接する下型当接部と、
前記上面被覆部と前記下型当接部とを繋ぐ弾性部材から成る撓み部と、
を有すること、
を特徴とするモールドコイル。
【請求項2】
前記コイルの底面は、前記モールド樹脂から露出した開口部を有し、
前記開口部の縁となる部分を含む下部カバーを更に備え、
前記下型当接部は、前記下部カバーと篏合し、前記開口部の縁の一部として形成されていること、
を特徴とする請求項1に記載のモールドコイル。
【請求項3】
前記撓み部は、湾曲した形状を含むこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載のモールドコイル。
【請求項4】
前記撓み部は、概略S字型形状であること、
を特徴する請求項1乃至3の何れかに記載のモールドコイル。
【請求項5】
前記撓み部は、モールド成型時における樹脂の射出方向と直交する方向に拡がる樹脂流入口を有すること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のモールドコイル。
【請求項6】
前記撓み部は、PPS(Polyphenylene Sulfide)から成ること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のモールドコイル。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載のモールドコイルと、
前記モールドコイルが外周に装着されたコアと、
前記モールドコイルと前記コアの外周を被覆する二次モールド樹脂部と、
を備えること、
を特徴とするリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂でモールド成型されたモールドコイル及びそのモールドコイルを備えたリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コイルの外周を樹脂で被覆した樹脂モールドタイプのモールドコイルが各所において使用されている。モールドコイルは、コイルを金型の所定の位置に配置し、樹脂を金型内に注入することで形成される。もっとも、コイルは、導線を巻き回して形成されるため、寸法にばらつきが生じることがあり、コイルと金型の間に隙間が生じ、当該隙間から樹脂が流入し、バリが生じる虞がある。なお、バリとは、金型の分割面や溝、金型と成型品等の隙間に流入した樹脂が固化したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バリの発生を抑制するため、金型をコイルに強く押し付けて、コイルの寸法のばらつきを矯正させ、コイルと金型を隙間なく密着させる手法がとられている。しかし、コイルを直接金型で押し付けると、導線の絶縁被膜を破損させるなどコイルを損傷させるなどの問題が発生する。
【0005】
そこで、コイルの外周にカバーを設けて、カバーを介してコイルを押し付ける手法が知られている。カバーは、コイルの上面に配置され、上型と当接する上部カバーと、コイルの底面に配置され、下型と当接する下部カバーとに分割されていることが多く、上部カバーを金型で底面に向かってコイルを押し付けることで、カバーとコイルやカバーと金型が隙間なく密着する。
【0006】
特に、近年では、カバーも種々の形状のものが誕生しており、上部カバーが上型のみならず下型とも当接している形状のものを見受けられる。このような形状の場合、上部カバーを押し付けても、下型と当接していることにより押圧力に対する反発する力が強く、カバーとコイルやカバーと金型を密着させて当接することができず、バリが生じる虞がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、下型とも当接する上部カバーを備える場合であっても、バリの発生を抑制することができるモールドコイル及びリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモールドコイルは、コイルがモールド樹脂でモールド成型されたモールドコイルであって、前記コイルの上面に設けられた上部カバーを備え、前記上部カバーは、前記コイルの上面を被覆する上面被覆部と、前記モールド成型の際に、下型と当接する下型当接部と、前記上面被覆部と前記下型当接部とを繋ぐ弾性部材から成る撓み部と、を有すること、を特徴とする。
【0009】
また、上記モールドコイルと、前記モールドコイルが外周に装着されたコアと、前記モールドコイルと前記コアの外周を被覆する二次モールド樹脂部と、を備えるリアクトルも本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、下型とも当接する上部カバーを備える場合であっても、バリの発生を抑制することができるモールドコイル及びリアクトルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態のおけるリアクトルの全体構成を示す斜視図である。
【
図2】実施形態におけるモールドコイルの全体構成を示す斜視図である。
【
図3】実施形態におけるモールドコイルを底面から見た斜視図である。
【
図4】コイルに上部カバー及び下部カバーを装着した状態を示す斜視図である。
【
図7】他の実施形態における上部カバーの撓み部の構成を示す斜視図である。
【
図8】他の実施形態における上部カバーの撓み部の構成を示す斜視図である。
【
図9】他の実施形態における上部カバーの撓み部の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(リアクトル)
本実施形態に係るリアクトルについて、図面を参照しつつ説明する。
図1は、リアクトルの全体構成を示す斜視図である。
図2は、モールドコイルの全体構成を示す斜視図である。
図3は、モールドコイルを底面から見た斜視図である。
図4は、コイルに上部カバー及び下部カバーを装着した状態を示す斜視図である。
【0013】
本実施形態のリアクトル100は、モールドコイル1及びコア5を備える。モールドコイル1は、モールド成型によってコイル2をモールド樹脂部4で被覆させることにより形成される。コア5は、モールドコイル1が装着されている。コア5は、コイル2が発生させた磁束を通す閉磁気回路となる。即ち、リアクトル100は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品であり、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等で使用される。
【0014】
リアクトル100は、二次モールド樹脂部6でモールド成型され、モールドコイル1とコア5を固定された、所謂、二重モールド構造のリアクトルである。二次モールド樹脂部6は、モールドコイル1及びコア5の外周を被覆し、モールドコイル1とコア5を固定する。
【0015】
(モールドコイル)
本実施形態では、モールドコイル1は、2つ設けられている。モールドコイル1は、コイルの巻軸方向と平行となるように、隙間を介して横並びに配置される。モールドコイル1はコア5の脚に装着される。
図2に示すように、モールドコイル1は、コイル2、カバー3及びモールド樹脂部4を有する。
【0016】
コイル2は、エナメルなどで絶縁被覆した1本の平角状の導電性部材により構成される。コイル2は、巻き位置を巻軸方向にずらしながら線材を巻回して成る。本実施形態では、銅線によって構成された平角線のエッジワイズコイルである。もっとも、コイル2の線材の種類や巻き方はこれに限らず、他の形態のものであってもよい。
【0017】
コイル2の底面は、モールド樹脂部4に被覆されず露出する開口部21を有する(
図3参照)。開口部21は、概略矩形状となっている。なお、コイル2は、導電性部材の端部である引出線が、コイル2の巻軸方向に沿って延びている。
【0018】
なお、上下方向は、モールド成型をする際に、コイル2を収容する上型と下型に倣ったものであり、リアクトル100が設置対象の実機に搭載された際の位置関係や方向を指すものではない。つまり、コイル2の底面とは、後述する下部カバー32が配置される端面を指し、コイル2の底面と対向する端面がコイル2の上面となる。また、コイル2の巻軸方向と直交する両端面をコア挿入面ともいい、コイル2の巻軸方向と平行で、コイル2の上面と底面を繋ぐ端面をコイル2の側面ともいう。
【0019】
カバー3は、コイル2の外周に設けられている。カバー3は、コイル2の上面に配置される上部カバー31と、コイル2の底面に配置される下部カバー32を有する。
図5は、上部カバー31の構成を示す斜視図である。
図5に示すように、上部カバー31は、上面被覆部311、下型当接部312及び撓み部313を有する。なお、上面被覆部311、下型当接部312及び撓み部313は一体に成形されている。
【0020】
上面被覆部311は、コイル2の上面を被覆する。本実施形態では、上面被覆部311は、コイル2の上面全てを被覆している。この上面被覆部311は、モールド成型時に上型と当接する。また、上面被覆部311は、コイル2のコア挿入面の一方の一部及びコイル2の両側面の一部も被覆している。
【0021】
下型当接部312は、端面被覆部312aと縁形成部312bを有する。端面被覆部312aは、巻軸方向と直交するコイル2の端面の一部を被覆する。縁形成部312bは、端面被覆部312aの下部に配置され、コイル2の矩形状の開口部21の縁を形成する。縁形成部312bが、モールド成型時に下型と当接する。端面被覆部312a及び縁形成部312bは、下部カバー32と嵌合する。もっとも、ここでいう嵌合とは、完全に固定されているわけではなく、コイル2の軸方向に移動可能に篏合されていることをいう。
【0022】
撓み部313は、上面被覆部311と下型当接部312とを繋ぐ棒状の部材である。撓み部313は、コイル2の側面に設けられている。撓み部313は、モールド成型時に上型からの押圧によって撓む。そのため、撓み部313は、金型の押圧によって変形可能な弾性を有する部材から成ることが好ましい。例えば、ポリエステル系、スチレン系、オルフィン/アルケン系、塩ビ系、ウレタン系、アミド系のエラストマー、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)等が挙げられる。本実施形態では、撓み部313は、PPS(Polyphenylene Sulfide)から成る。
【0023】
図6は、撓み部313の拡大図である。
図6に示すように、撓み部313は、ストレート部314及び湾曲部315a、315bを有する。ストレート部314は、コイル2の巻軸方向に沿って延びている。後述するように、モールド成型の際に、樹脂は巻軸方向に沿って注入されるので、ストレート部314は、樹脂の射出方向に沿って延びている。
【0024】
湾曲部315a、315bは、ストレート部314と接続し、略90度湾曲している。湾曲部315aは、ストレート部314と接続し、90度湾曲して、上面被覆部311と接続している。湾曲部315bは、ストレート部314と接続し、90度湾曲して、下型当接部312と接続している。このように、本実施形態の撓み部313は、湾曲部を含む概略S字形状となっており、上型からの押圧によって撓みやすい形状となっている。
【0025】
また、撓み部313は、樹脂流入口316を有する。樹脂流入口316は、モールド成型時にモールド樹脂部4を構成する樹脂が流入する開口である。樹脂流入口316は、樹脂の射出方向と直交する方向に拡がっている。
【0026】
本実施径形態では、2つの樹脂流入口316が設けられている。樹脂流入口316aは、ストレート部314、湾曲部315a及び上面被覆部311によって画成された空間に樹脂を流入させる。樹脂流入口316bは、ストレート部314、湾曲部315b及び下部カバー32によって画成された空間に樹脂を流入させる(
図4参照)。
【0027】
下部カバー32は、モールド成型時に下型と当接する。即ち、下部カバー32は、コイル2の底面に設けられている。もっとも、下部カバー32は、コイル2の底面を全て被覆していない。下部カバー32は、矩形の1辺を欠いた概略コの字形状となっており、コイル2の開口部21の縁を形成する。矩形の1辺を欠いたところに、下型当接部312の縁形成部312bが嵌まることで、枠体が形成し、下部カバー32と縁形成部312bによって開口部21の縁が形成される。
【0028】
モールド樹脂部4は、コイル2、上部カバー31及び下部カバー32を被覆する。コイル2、上部カバー31及び下部カバーは、モールド成型によってモールド樹脂部4によって一体となって固定される。もっとも、モールド樹脂部4は、コイル2の底面を被覆せず、コイル2の底面は露出している。
【0029】
モールド樹脂部4には、ゲート(不図示)が設けられている。ゲートは、モールド成型時に金型内に樹脂を注入した位置を示す。ゲートは、コイル2の巻軸方向と直交するモールド樹脂部4の端面に設けられている。即ち、モールド樹脂部4を構成する樹脂は、コイル2の巻軸方向に沿って注入される。また、ゲートは、コイル2の巻軸方向と直交する上部カバー31の端面の巻軸方向の延長線上に設けられている。つまり、モールド成型時に注入される樹脂は、当該端面に向けて射出される。
【0030】
モールド樹脂部4を構成する樹脂の種類としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)等が挙げられる。特に、熱伝導性の高い樹脂を用いることが望ましい。熱伝導性の高い樹脂を用いることで、コイル2の熱を外部に伝達することができる。
【0031】
(コア)
コア5は、圧粉磁心、フェライトコア、積層鋼板又はメタルコンポジット等の磁性体である。メタルコンポジットコアは、磁性粉末と樹脂とが混練され成型されて成るコアである。コア5は、一対のU型コアブロックで構成されている。コア5は、この一対のU型コアブロック21が脚同士で突き合わせて、接着剤等で接合することで、環状形状となる。
【0032】
(二次モールド樹脂)
図1に示すように、二次モールド樹脂部6は、モールド成型によって、モールドコイル1とコア5の外周を被覆し、モールドコイル1及びコア5を固定している。なお、本実施形態のリアクトル100は、センサ7を備えており、二次モールド樹脂部6によって固定されている。なお、二次モールド樹脂部6を構成する樹脂の種類としては、モールド樹脂部4と同様のものを用いることができる。
【0033】
(作用)
本実施形態のモールドコイル1を製造する場合、まず、上部カバー31と下部カバー32を装着したコイル2を下型にセットする。その後、上型を上部カバー31の上面被覆部311に覆い被せる。
【0034】
ここで、コイル2は、線材を一方向に巻いて形成されるため、コイル2の寸法にばらつきが生じ、コイル2とカバー3の間などに隙間が発生することがある。そして、当該隙間から樹脂が侵入し、バリが生じる虞がある。
【0035】
そこで、コイル2とカバー3を密着させるために、上型をコイル2の上面から底面に向けて強く押し付け、コイル2の寸法を矯正する。この時、棒状の弾性部材から成る撓み部313が撓むため、上面被覆部311はコイル2の上面と密着する。さらに、上面被覆部311はコイル2の上面と密着した状態で、上型を更に押し付けるとその押圧力は、上面被覆部311及びコイル2を介して下部カバー32に伝わり、コイル2の底面と下部カバー32、下部カバー32と下型が密着して当接する。
【0036】
撓み部313は、上面被覆部311と下型当接部312を繋いでいる。そのため、上型からの押圧力は、上面被覆部311及び撓み部313を介して下型当接部312にも伝わる。そのため、下型当接部312の縁形成部312bは、下型と密着して当接する。このように、上部カバー31とコイル2、下型と下部カバー32及び縁形成部312bが密着した状態で樹脂が注入される。そのため、縁形成部312b及び下部カバー32と下型によって樹脂の流入を防ぎ、コイル2の底面に開口部21が形成される。
【0037】
また、撓み部313は、湾曲部315a、315bを有する概略S字型形状である。そのため、直角に折れ曲がっている場合に比べて撓みやすいため、上部カバー31とコイル2、下型と下部カバー32及び縁形成部312bをより密着させることができる。さらに、直角に折れ曲がっている場合、角部が生じるが、角部には樹脂が充填されにくい。一方、本実施形態の撓み部313は、湾曲した形状であり、角部が形成されていない。そのため、樹脂は撓み部313の隅々まで充填される。
【0038】
特に、撓み部313は、樹脂の射出方向と直交する方向に拡がる樹脂流入口316a、316bを有する。そのため、樹脂は、樹脂流入口316a、316bから撓み部313の内部、即ち、ストレート部314と、湾曲部315a又は315bと、上面被覆部311又は下部カバー32とによって画成された空間に流入しやすい。そのため、樹脂は撓み部313の隅々まで充填される。
【0039】
端面被覆部312a及び縁形成部312bは、コイル2の軸方向に移動可能に下部カバー32と勘合している。そして、樹脂は、コイル2の巻軸方向と直交する上部カバー31の端面に向けて射出される。上部カバー31は、一体成形されているため、撓み部313と同様、変形可能な弾性を有する部材がから成るため、樹脂の射出圧で変形する。そのため、端面被覆部312a及び縁形成部312bは、巻軸方向にコイル2を押し付ける。よって、コイル2の巻軸方向の寸法のばらつきも矯正できる。
【0040】
(効果)
以上のとおり、本実施形態のモールドコイル1は、コイル2の上面に設けられた上部カバー31を備える。上部カバー31は、コイル2の上面を被覆する上面被覆部311と、モールド成型の際に、下型と当接する下型当接部312と、上面被覆部311と下型当接部312とを繋ぐ弾性部材から成る撓み部313と、を有する。
【0041】
これにより、モールド成型時に上型でコイル2の底面に向けて押圧すると、撓み部313がしなり、上面被覆部311とコイル2の上面が密着して当接する。また、上型によって押圧した力は、撓み部313を介して下型当接部312に伝わる。そのため、下型当接部312も下型に向かって押圧されるので、下型当接部312と下型は密着して当接する。よって、コイル2の高さ方向の寸法にばらつきがあったとしても、当該ばらつきを矯正でき、バリが生じることを抑制することができる。
【0042】
コイル2の底面は、モールド樹脂部4から露出した開口部21を有し、モールドコイル1は、開口部21の縁となる部分を含む下部カバー21を更に備える。そして、下型当接部312は、下部カバー32と篏合し、開口部21の縁の一部として形成されている。
【0043】
コイル2の底面に開口部21を設ける場合、下型と下部カバー32及び下型当接部312が密着せず、隙間が生じていると、当該隙間から樹脂が流れ込み、バリが生じる虞がある。しかし、本実施形態では、撓み部313を有することで、上部カバー31とコイル2が密着する。そして、密着した状態で上型を更に押圧することで、この押圧力はコイル2を介して下部カバー32に伝わり、下部カバー32と下型は隙間なく密着する。また、上面被覆部311及び撓み部313を介して、上型からの押圧力は、下型当接部312に伝わるため、下型当接部312と下型も密着する。そのため、開口部21にバリが発生することを抑制できる。また、精度良く開口部21を形成させることができるので、モールドコイル1の放熱性も向上する。
【0044】
撓み部313は、湾曲部315a、315bを含み構成され、概略S字型形状である。このように、撓み部313を湾曲した形状を含み、角部が設けられていない。そのため、撓み部313は撓みやすく、コイル2の上面と上部カバー31、下型当接部312及び下部カバー32と下型をより効果的に密着させることができる。また、撓み部313には角部が形成されていないので、樹脂が隅々まで充填されやすく、樹脂モールドの成型性が向上する。
【0045】
撓み部313は、モールド成型時における樹脂の射出方向と直交する方向に拡がる樹脂流入口316を有する。このように、撓み部313が樹脂の射出方向に拡がる樹脂流入口316を有することで、撓み部313の内部に樹脂が充填されやすく、樹脂モールドの成型性が向上する。
【0046】
撓み部313は、PPS(Polyphenylene Sulfide)から成る。上述のとおり、撓み部313は、上型の押圧によって撓ませるため、弾性を有する必要がある。もっとも、モールド成型時は、100℃を超え、高温になる。そのため、撓み部313が耐熱性を有さなければ、モールド成型時に撓み部313が変形していまい、密着させた下型と下部カバー32及び下型当接部312が離れ、隙間が生じる虞がある。しかし、PPSは、弾性を備えるとともに、耐熱性を備える。そのため、モールド成型時の熱によって撓み部313が変形することはない。よって、コイル2の寸法のばらつきを矯正でき、バリが生じることを抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態のリアクトル100は、モールドコイル1と、モールドコイル1が外周に装着されたコア5と、モールドコイル1とコア5の外周を被覆する二次モールド樹脂部6とを備える、所謂、二重モールド構造のリアクトルである。
【0048】
上述のとおり、コイル2の寸法にばらつきがあったとしても、それを矯正したうえで、モールド成型しているので、成形性が向上し、モールドコイル1の寸法精度も向上している。例えば、モールドコイル1の寸法にばらつきがあれば、その寸法のばらつきについて、二次モールド時に考慮して金型に配置するなどの作業を行う必要がある。しかし、本実施形態のモールドコイル1は、寸法精度良く成形されるので、二次モールド時の作業性が向上する。
【0049】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0050】
本実施形態の撓み部313は、2つの湾曲部315a、315bを有する概略S字型形状であったが、撓み部313の形状はこれに限定されない。例えば、
図7に示すように、撓み部313は、上面被覆部311と下型当接部312(端面被覆部312a)を1つの湾曲で繋ぐ概略ノの字形状であってもよい。このような形状であっても、撓み部313は撓みやすい。また、撓み部313に角部が形成されないので、樹脂が隅々まで充填され、成形性が向上する。
【0051】
また、撓み部313は、概略S字形状や概略ノの字形状のように湾曲した形状に限定されない。例えば、
図8に示すように、湾曲した形状を有さず、直角に曲がった形状であってもよい。もっとも、直角した形状では、角部に応力が集中するため、概略S字形状や概略ノの字形状のように湾曲した形状の方が耐久性がより向上する。
【0052】
本実施形態の撓み部313は、コイル2の側面に設けられていたが、
図9に示すように、コイル2の巻軸方向の端面に設け、上面被覆部311と下型当接部312を繋いでいてもよい。
【0053】
また、
図9に示すように、撓み部313をコイル2の側面と端面それぞれに設けてもよい。このように、撓み部313の数を増加させると、撓み部313の強度が向上する。そのため、上型による押圧をより強くすることができ、カバー3と金型、カバー3とコイル2をより密着させることができるので、より効果的にバリの発生を抑制することができる。
【0054】
コイル2は、底面に開口部21を有していたが、上面にも開口を設けてもよい。この場合、上面被覆部311のコイル2の上面を被覆している部分を、下部カバー32と縁形成部312bのように、枠形状にしてコイル2の上面の縁部分のみを被覆させればよい。
【符号の説明】
【0055】
100 リアクトル
1 モールドコイル
2 コイル
21 開口部
3 カバー
31 上部カバー
311 上面被覆部
312 下型当接部
312a 端面被覆部
312b 縁形成部
313 撓み部
314 ストレート部
315 湾曲部
316 樹脂流入口
32 下部カバー
4 モールド樹脂
5 コア
6 二次モールド樹脂
7 センサ