(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122288
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】ゼオライト複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/46 20060101AFI20220815BHJP
C01B 39/20 20060101ALI20220815BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220815BHJP
B01J 29/70 20060101ALI20220815BHJP
B01J 29/08 20060101ALI20220815BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20220815BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
C01B39/46
C01B39/20
B01J35/02 J
B01J29/70 M
B01J29/08 M
B01J37/10
B01J35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018336
(22)【出願日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021018750
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年7月12日に鹿児島県工業技術センターのウェブサイトに掲載の令和3年度研究成果発表会予稿集にて公開、及び令和3年7月15日に同発表会にて公開 (2)令和3年7月13日に神奈川県立産業技術総合研究所が発行のKISTEC ANNUAL REPORT 2021にて公開 (3)令和3年7月16日に鹿児島建設新聞の朝刊にて公開 (4)令和3年10月6日に産業技術総合研究所九州センターのウェブサイトに掲載の令和3年度九州・沖縄産業技術オープンイノベーションデー予稿集にて公開、及び令和3年10月7日に同発表会にて公開 (5)令和3年10月16日にElsevier社のウェブサイトに掲載の論文誌Microporous and Mesoporous Materials,vol.328(2021),111500にて公開、及び令和3年11月3日に発行の同論文誌にて公開 (6)令和3年10月26日に神奈川県立産業技術総合研究所のウェブサイトに掲載のプレスリリースにて公開 (7)令和3年11月4日に南日本新聞の朝刊にて公開、及び令和3年11月8日に南日本新聞のウェブサイト373news.comにて公開 (8)令和3年11月4日に日本放送協会鹿児島放送局のウェブサイト鹿児島 NEWS WEBにて公開、令和3年11月4日に同放送局が放送した番組情報WAVEかごしまにて公開、及び令和3年11月8日に日本放送協会が放送した番組ニュースウォッチ9にて公開 (9)令和3年11月8日に鹿児島県工業技術センターのウェブサイトにてウェブ配信により公開 (10)令和3年11月8日に鹿児島テレビ放送株式会社が放送した番組KTSライブニュースにて公開、及び令和3年11月9日に株式会社フジテレビジョンが放送した番組Live news イット!にて公開 (11)令和3年11月10日に株式会社テレビ東京が放送した番組ワールドビジネスサテライトにて公開 (12)令和3年11月17日に東京都等が主催の産業交流展2021のウェブサイトにて公開、及び令和3年11月24日に同発表会にて公開 (13)令和3年11月20日に毎日新聞の朝刊にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (14)令和3年11月24日に日本放送協会が放送した番組首都圏ネットワークにて公開、及び令和3年11月24日に同協会が放送した番組ニュース7にて公開 (15)令和3年11月24日に日本放送協会のウェブサイトNHK NEWS WEBにて公開 (16)令和3年11月25日に科学技術振興機構が主催の新技術説明会のウェブサイトにてウェブ配信により公開 (17)令和3年11月26日に神奈川県立産業技術総合研究所のKISTEC Innovation Hub 2021のウェブサイトからライブ配信により公開 (18)令和3年11月28日にテレビ朝日が放送した番組サンデーLive!にて公開 (19)令和3年12月4日に読売新聞の朝刊にて公開 (20)令和3年12月13日に時事通信社のウェブサイトJIJI.COMにて公開 (21)令和3年12月15日に日本テレビ放送網株式会社が放送した番組Zip!にて公開 (22)令和3年12月18日に南日本新聞の朝刊にて公開 (23)令和4年1月5日に神奈川県立産業技術総合研究所のウェブサイトにてウェブ配信により公開 (24)令和4年1月11日に毎日新聞のウェブサイトにて公開、及び令和4年1月12日に毎日新聞九州版の朝刊にて公開 (25)令和4年2月2日に神奈川産業振興センター等が主催のテクニカルショウヨコハマ2022のウェブサイトにてウェブ配信により公開
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】591155242
【氏名又は名称】鹿児島県
(74)【代理人】
【識別番号】100152250
【弁理士】
【氏名又は名称】峰松 勝也
(72)【発明者】
【氏名】小野 洋介
(72)【発明者】
【氏名】袖山 研一
(72)【発明者】
【氏名】増永 卓朗
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA20
4G073BA63
4G073BA75
4G073BD15
4G073BD21
4G073CE10
4G073CZ02
4G073CZ03
4G073CZ15
4G073CZ17
4G073CZ50
4G073FA17
4G073FB32
4G073FC04
4G073FC13
4G073FC25
4G073FD12
4G073GA03
4G073GA12
4G073GA16
4G073GB02
4G073UA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA16C
4G169DA05
4G169FB29
4G169FC07
4G169HB01
4G169HD03
4G169HE05
4G169ZA02A
4G169ZA03A
4G169ZA03B
4G169ZA13A
4G169ZA14A
4G169ZA14B
4G169ZA32A
4G169ZA32B
(57)【要約】
【課題】機械的強度、耐薬品性、耐熱性、耐久性及び吸脱着速度等と、ゼオライトとしての化学吸着能及び触媒能に優れ、これに水等の液面に浮く回収性及び取扱性に優れる性質を付加したゼオライト複合体を提供する。また、原料、設備及び製法が低コストで、天然鉱物を有効利用するその製造方法を提供する。
【解決手段】結晶を含む無機固体物質からなる支持体の表面にゼオライトを化学反応により析出させて化学的に結合した一体構造を形成し、マクロ孔を有する三次元多孔体の表面がゼオライト化されたゼオライト複合体とする。また、天然鉱物等を原料として、その表面に150℃以下の液相反応によりゼオライトを析出させる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶を含む無機固体物質からなる支持体の表面にゼオライトが化学的に結合したゼオライト複合体において、マクロ孔を有する三次元多孔体であり、その外表面及び内表面の全部又は一部に前記ゼオライトが析出していることを特徴とする、ゼオライト複合体。
【請求項2】
ゼオライトの結晶相が、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト、LTA型ゼオライト、GIS型ゼオライト、FER型ゼオライト、ANA型ゼオライト及びSOD型ゼオライトからなる群より選択される1種又は2種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト複合体。
【請求項3】
ゼオライトの主となる結晶相が、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト又はGIS型ゼオライトであることを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト複合体。
【請求項4】
支持体が、結晶を含み三次元多孔構造を有する天然鉱物に由来することを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載のゼオライト複合体。
【請求項5】
比表面積が50m2/g以上であることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載のゼオライト複合体。
【請求項6】
嵩密度が1g/cm3未満であることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載のゼオライト複合体。
【請求項7】
体積が1mm3以上であることを特徴とする、請求項1から6の何れかに記載のゼオライト複合体。
【請求項8】
光触媒を担持していることを特徴とする、請求項1から7の何れかに記載のゼオライト複合体。
【請求項9】
結晶を含み三次元多孔構造を有する無機固体物を原料とし、150℃以下の液相反応により前記結晶及び前記三次元多孔構造を部分的に維持したまま、前記無機固体物の外表面及び内表面にゼオライトを析出させることを特徴とする、請求項1から8の何れかに記載のゼオライト複合体の製造方法。
【請求項10】
液相反応の温度が、100℃以下であることを特徴とする、請求項9に記載のゼオライト複合体の製造方法。
【請求項11】
原料の組成及び液相反応の反応条件を制御することにより、析出させるゼオライトの結晶相に、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト、LTA型ゼオライト、GIS型ゼオライト、FER型ゼオライト、ANA型ゼオライト及びSOD型ゼオライトからなる群より選択される1種又は2種以上を含ませることを特徴とする、請求項9に記載のゼオライト複合体の製造方法。
【請求項12】
原料の組成及び液相反応の反応条件を制御することにより、析出させるゼオライトの主たる結晶相を、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト及びGIS型ゼオライトから選択できることを特徴とする、請求項9に記載のゼオライト複合体の製造方法。
【請求項13】
無機固体物が天然鉱物であることを特徴とする、請求項9から12の何れかに記載のゼオライト複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト複合体とその製造方法に関する。より詳しくは、結晶を含む無機固体物質を支持体として、マクロ孔を有する三次元多孔体の表面全体にゼオライトが析出した、機械的強度、耐熱性、耐久性、触媒能、回収性等に優れるゼオライト複合体に関する。また、天然鉱物等を無機固体原料として、150℃以下の液相反応によりゼオライト複合体を得ることができる、原料や製造のコストが低いその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは粘土鉱物の一種であり、人工的に合成することも可能である。一般的なゼオライトは、ケイ素、アルミニウム、酸素の原子配列が数Åの細孔を作るように骨格構造を形成し、骨格構造の負電荷を補償するために陽イオンが細孔内に存在する。ゼオライトの骨格構造は、原子の比率や生成環境(合成条件)に依存して異なり、多様である。国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)により、それぞれのゼオライトの骨格構造にコード番号が付与されており、2020年12月時点で253種のコード番号が割り当てられている。
【0003】
原子の配列が細孔を形成するため、ゼオライトの孔径は1nm(10Å)以下と非常に小さく、孔径が均一に揃い、孔が三次元的に連なるという特徴がある。孔径が分子サイズと同じオーダーであるため、分子サイズによって特定の分子を分級する「分子ふるい」としての機能を有する。また、骨格内の陽イオンはイオン半径や価数に応じた優先順位に基づく選択性があり、特定のイオンを選択的に化学吸着するイオン交換の作用も知られている。さらに、このイオン交換能を利用しゼオライトに固体酸性・固体塩基性としての性質を持たせることも可能である。分子ふるい能、イオン交換能、固体酸・固体塩基の性質を利用し、様々な種類のゼオライトが、吸着材、触媒、肥料等として広く利用されている。
【0004】
例えば、ゼオライトの上記性質や耐熱性等の特長を利用し、石油精製や石油化学を始めとする様々な製造プロセスにおいて工業触媒として使われている。また、身近なところでは、家庭用水槽の水の浄化や水質維持、洗剤、制汗剤、歯磨き粉にも使われている。さらに、Cs+やSr2+などの放射性物質を選択的に化学吸着する種類のゼオライトも知られており、福島第一原子力発電所において除染に利用されている。
【0005】
250種超の多種のゼオライトのうち、大多数は天然に存在せず人工的な合成反応によってしか得ることができない。一般的なゼオライトの骨格構造は、ケイ素、アルミニウム、酸素という地表に豊富に存在する元素から構成され、天然鉱物や産業廃棄物を原料に用いたゼオライト合成の研究開発が盛んに行われている。ゼオライトを得るためには、原料を溶解してゼオライト特有の骨格構造を形成するように原子を再配列して析出させる必要がある。特に原料のケイ素成分は、通常、酸化ケイ素やアルミノケイ酸塩として存在しているため、溶解度が低く反応に利用しにくい。例えば、実験用ビーカーが酸化ケイ素を主成分とするガラスでできていることからも、その化学的安定性の高さや溶解度の低さが想像できる。そのため、ゼオライト合成では溶解しやすい粉末状の原料が用いられている。
【0006】
粉末状の原料から得られるゼオライトは、当然、粉末状である。しかし、ゼオライトが吸着材や触媒として利用されている実例においては、粉末状の形態が最適とは限らないケースが見受けられる。例えば、バルク体(塊状)のゼオライトであれば、ゼオライトを直接掴むことができるなどの取扱性に優れ、軽石のように水や油に浮くバルク体であれば液面から浮かんでいるゼオライトを網等で掬って回収することもできるため交換作業が劇的に容易になる。また、汚泥等の多くの固体物質は密度が1よりも大きく、すなわち水に沈むため、浮くバルク体であれば水中でこれらと容易に分離することができる。さらに、粉末は空気中に舞ったり水中に分散したりするため、これを避けるべき状況においては、粉末を固めるか基材等に固定するかしてバルク体として用いる必要がある。
【0007】
このようなバルク体のゼオライトやゼオライト複合体を得る方法として、大きく3種類の方法が知られている。バルク体にゼオライトを担持する方法、ゼオライト粒子からバルク体を成形する方法、バルク体の表面にゼオライトを析出させる方法である。
【0008】
一つ目に挙げた、バルク体にゼオライトを担持する方法として、例えば、シラスバルーンからなる球心材の表面にゼオライト膜をコーティングして形成される殺菌・浄化・消臭ボール体が知られている(特許文献1)。この方法では、コーティングが可能である限り、任意の種類のゼオライトを用いることができる点にメリットがある。しかし、ゼオライトを外側からコーティングするためコーティング面積や厚さが限られることや、支持体とゼオライトの界面の密着性が低く、耐擦過性や耐久性に劣るなどのデメリットがある。
【0009】
二つ目に挙げた、ゼオライト粒子からバルク体を成形する方法として、例えば、ゼオライト、酸性原料及び粘土原料を混合し、成形、焼成を行うことにより得られる成形体が知られている(特許文献2)。この方法では、任意の形状に成形できる点にメリットがある。しかし、ゼオライトは結晶水を含有する水酸化物であるため、融点付近の温度までその結晶構造を維持することができず、融点より数百度低い温度で熱分解したり酸化物相に変化したりする。すなわち、焼結体を得ることができず、得られる物はあくまで成形体である。
【0010】
そのため、実用に十分な機械的強度を発現するには相応の量のバインダー成分の添加を必要とする。接合性を重視し有機バインダーを用いた場合には、耐光性、耐候性、耐薬品性、耐熱性が低い。また、支持体や添加物とゼオライトとの界面の密着性が低い点にもデメリットがある。成形体の機械的強度を一定レベルの水準としながら理想的な気孔率、細孔分布とすることは非常に困難であり、例えばゼオライトが密に成形されたバルク体では、細孔分布が超微細孔に偏るために、吸脱着速度や流量、すなわち浄化材や触媒としての処理能力に劣ってしまう。
【0011】
そこで、本発明者らは、三つ目に挙げたバルク体の表面にゼオライトを析出させる方法に着目した。関連する公知技術を調べた結果、表面がゼオライト化された発泡ガラスを用いた土壌処理方法やこれを用いた装置(特許文献3)、多孔質支持体の上にゼオライト層が堆積された膜(特許文献4)、及び単結晶基板上に形成され特定の結晶方位に優先して配向したゼオライト膜(特許文献5)が確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-330100
【特許文献2】特開2010-168239
【特許文献3】特開2006-110466
【特許文献4】特開2000-225327
【特許文献5】特開H7-330326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これらの公知技術においては、支持体となるバルク体に原料成分を含む前駆体液を塗布した状態で、化学反応によりゼオライトを析出させる。そのため、表面張力、濡れ性、粘性等の理由で前駆体液が浸透しきれない領域では、ゼオライトが析出せず不均一で被覆面積が十分でないこと、つまり、ゼオライトとしての化学吸着能や触媒能に劣る点に課題があった。また、前駆体液はゼオライトの骨格構造を構成するSi成分又はAl成分を補うために添加されているため、支持体側と溶液側とでSi成分及びAl成分の濃度が極端に偏り、析出反応が厚さ方向で不均一になる点に課題があった。
【0014】
上記に加えて、特許文献3では結晶性酸化物ではなくガラスを用いているために、機械的強度、耐薬品性や耐熱性に劣る点にも課題があった。また、特許文献3では発泡の工程に、特許文献4ではキレート剤除去の工程に400℃以上の高温焼成が必要である点にも課題があった。さらに、特許文献5では特殊なゾル状の原料が必要であるという製造方法の観点にも課題があった。
【0015】
本発明は、以上の背景技術とその課題を鑑みてなされたものであり、機械的強度、耐薬品性、耐光性、耐候性、耐熱性、耐擦過性、耐久性、吸脱着速度及び流量、並びにゼオライトとしての化学吸着能及び触媒能に優れるゼオライト複合体を得ることを目的とする。また、これに水等の液面に浮く回収性、分離性及び取扱性に優れる性質を付加したゼオライト複合体を得ることを目的とする。さらに、原料、設備及び製法が低コストで、かつ天然鉱物を有効利用する方法により、これらゼオライト複合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、結晶を含む無機固体物質からなる支持体の表面に、ゼオライトを化学反応により析出させて化学的に結合した一体構造を形成し、マクロ孔を有する三次元多孔構造体の表面がゼオライト化されたゼオライト複合体を形成することにより、機械的強度、耐薬品性、耐光性、耐候性、耐熱性、耐擦過性、耐久性、吸脱着速度及び流量に優れるゼオライト複合体が得られることを究明した。また、結晶を含み三次元多孔構造を有する天然鉱物等を無機固体原料として、その表面に150℃以下の液相反応によりゼオライト析出させることにより、天然鉱物を有効利用でき低コストでゼオライト複合体が得られることを究明した。そして、その構造や製法についてさらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、結晶を含む無機固体物質からなる支持体の表面にゼオライトが化学的に結合したゼオライト複合体において、マクロ孔を有する三次元多孔体であり、その外表面及び内表面の全部又は一部に前記ゼオライトが析出していることを特徴とする、ゼオライト複合体である。
【0018】
結晶を含む無機固体物質を支持体として三次元多孔構造を形成することにより、機械的強度、耐薬品性、耐光性、耐候性、耐熱性、耐擦過性、耐久性に優れたものとなる。また、この支持体に含まれる成分と溶液のみの反応から支持体表面にゼオライトを析出させることにより、一様に支持体とゼオライトが化学的に結合した、支持体とゼオライトが一体となる構造が形成され、密着性、すなわち、耐擦過性、耐久性に優れたものとなる。さらに、支持体内部までゼオライトが析出した三次元多孔構造を形成することにより、吸着能や触媒能に優れるだけでなく、径の大きなマクロ孔を有することにより吸脱着速度や流量等に優れるバルク体を得ることができる。
【0019】
また、本発明は、ゼオライトの結晶相が、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト、LTA型ゼオライト、GIS型ゼオライト、FER型ゼオライト、ANA型ゼオライト及びSOD型ゼオライトからなる群より選択される1種又は2種以上を含むことを特徴とする、前記ゼオライト複合体である。
【0020】
ゼオライトの液相合成においては、骨格構造を形成するSiやAlの濃度、その構造内に取り込まれるNa+、Ca2+、K+などカチオンの濃度、温度、圧力、反応時間等の条件により、準安定的に析出するゼオライトの相が変化する。よって、原料となる無機固体物質の組成や液相反応の反応条件を選択することにより、意図する複数種のゼオライトを支持体上に析出させることも可能である。複数種のゼオライトが析出したゼオライト複合体は、例えば、Cs+、Sr2+、NH4
+などの複数種のイオンを同時に吸着除去できる化学吸着材の用途で有効である。
【0021】
さらに、本発明は、ゼオライトの主となる結晶相が、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト又はGIS型ゼオライトであることを特徴とする、前記ゼオライト複合体である。
【0022】
CHA型ゼオライトは、ゼオライトの中でも比較的小さな径に分類される0.38nmの細孔を有するゼオライトであり、高い吸着能や触媒能を示すことが知られている。CHA型ゼオライトを主の結晶相とすることにより、化学吸着材としての用途、例えば、Cs+を選択的に吸着する放射性物質除染材として有効であり、原子力発電所等において高機能な水処理材として用いることができる。また、NH4
+などを除去対象とし、養殖業者や家庭用の水槽の水質維持に用いることもできる。さらに、触媒としての用途、例えば、NOx浄化用触媒として有効であり、自動車や工場において排ガス触媒として用いることができる。
【0023】
また、FAU型ゼオライトは、ゼオライトの中でも比較的大きな径に分類される0.74nmの細孔を有するゼオライトであり、高い吸着能や触媒能を示すことが知られている。FAU型ゼオライトを主の結晶相とすることにより、二酸化炭素ガスを選択的に吸着する性質を利用し、空気分離における予備精製に用いることができる。また、触媒としての用途、例えば、重油からガソリンや軽油といった炭化水素を得る触媒として有効であり、石油化学コンビナートなどにおいて石油精製触媒として用いることができる。
【0024】
また、本発明は、支持体が結晶を含み三次元多孔構造を有する天然鉱物に由来することを特徴とする、前記ゼオライト複合体である。
【0025】
例えば、後述する実施例で用いたシラスは、結晶とガラスの両方を含み、結晶は支持体としての機械的強度や硬さなどに寄与し、ガラスは反応しやすくゼオライトの原料となる。また、三次元多孔構造でマクロ孔の他にメソ孔も有し、マイクロ孔と比べて優れた吸脱着速度や流量の他、ナノメートルオーダー、数十ナノメートルオーダーの分子やウイルスを吸着し捕捉する機能を期待できる。さらに、鹿児島県本土面積の5~6割を覆う無尽蔵とも言える天然資源である。これを原料として利用することにより、支持体としての優れた性能を有する原料を低コストで安定的に調達できるという機能面や経済面でのメリットに加えて、環境資源の有効利用という社会面でも重要な役割を果たすことができる。
【0026】
さらに、本発明は、比表面積が50m2/g以上であることを特徴とする、前記ゼオライト複合体である。本発明においては、前駆体液を用いることなくゼオライト複合体を製造するため、ゼオライトは支持体となる原料と溶液の界面において、原料に含まれる成分と溶液に含まれる成分のみの液相反応によって析出する。溶液は原料の三次元多孔体の内部まで浸透するため、ゼオライトは三次元多孔体の外表面と内表面に均一に析出し、すなわち、得られるゼオライト複合体は高い比表面積を示す。これにより、ゼオライトの吸着能や触媒能を十分に発揮することができる。
【0027】
また、本発明は、嵩密度が1g/cm3未満であること、さらに、体積が1mm3以上であることを特徴とする、前記ゼオライト複合体である。嵩密度が1g/cm3未満であることにより、水等の液体に投下した場合には、ゼオライト複合体は液面に浮くことができる。また、体積が1mm3以上でありことにより、網等で掬ったり、摘まんだり、掴んだりすることができる。これにより、汚染土や汚泥等との比重差を利用してこれらを浄化処理した後に液中において分離することも可能であり、さらに、静電気等で粉が舞ったり容器壁面に付着したりすることもない。このように、本発明のゼオライト複合体は、回収性、分離性及び取扱性に優れている。
【0028】
また、本発明は、光触媒を担持していることを特徴とする、前記ゼオライト複合体である。本発明のゼオライト複合体の優れた機械的強度、耐薬品性、耐光性、耐候性、耐熱性、耐擦過性、耐久性、吸脱着速度、流量、吸着能、触媒能、回収性、分離性、取扱性と、光触媒の有機物分解作用や光誘起超親水性作用を組み合わせて、例えば、水に浮かべておくだけで水処理が可能な材料としての活用が期待できる。また、植物プランクトンは光合成しやすい水面近傍で繁殖しやすいため、太陽光が当たる水面において太陽光エネルギーを利用して光触媒としての有機物分解作用を効果的に発揮し、プランクトンを水と二酸化炭素まで分解することができる。具体的には、赤潮やアオコ対策に用いることができる。
【0029】
さらに、本発明は、結晶を含み三次元多孔構造を有する無機固体物を原料とし、150℃以下の液相反応により前記結晶及び前記三次元多孔構造を部分的に維持したまま、前記無機固体物の外表面及び内表面にゼオライトを析出させることを特徴とする、前記ゼオライト複合体の製造方法である。150℃以下の液相反応とする穏やかな合成条件で製造することにより、製造設備やランニングコストが低いだけでなく、製造安全性の面でもメリットがある。液相反応の温度が100℃以下であると、これらのメリットがさらに高まる。
【0030】
また、本発明は、無機固体物の組成及び液相反応の反応条件を制御することにより、析出させるゼオライトの結晶相に、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト、LTA型ゼオライト、GIS型ゼオライト、FER型ゼオライト、ANA型ゼオライト及びSOD型ゼオライトからなる群より選択される1種又は2種以上を含ませること、さらに、析出させるゼオライトの主たる結晶相を、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト及びGIS型ゼオライトから選択できることを特徴とする、前記ゼオライト複合体の製造方法である。原料の種類や液相反応のアルカリ濃度等を制御する簡単な方法により、ゼオライト複合体の用途に応じて、析出するゼオライトの結晶相を複数種のゼオライトで構成することや、析出するゼオライトの主たる結晶相をCHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト又はGIS型ゼオライトに作り分けることが可能である。
【0031】
さらに、本発明は、無機固体物が天然鉱物であることを特徴とする、前記ゼオライト複合体の製造方法である。上記と同様に、良質な原料が低コストで安定供給されるなど機能面や経済面でのメリットに加えて、国内の環境資源の有効利用という社会面でのメリットももたらすものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明のゼオライト複合体は、結晶を含む無機固体物質を支持体として、マクロ孔を有する三次元多孔体の表面全体にゼオライトが析出したゼオライト複合体であり、機械的強度、耐薬品性、耐熱性、耐久性、吸脱着速度、吸着能、触媒能等の性能に優れている。特に、複数種のゼオライトを結晶相とするものや、ゼオライトの中でも高機能種として知られるCHA型ゼオライト又はFAU型ゼオライトを主たる結晶相とするものは、水質維持や水浄化、放射性物質除去、排ガス触媒、工業触媒、空気精製、石油精製等に効果的に用いることができる。
【0033】
また、本発明のゼオライト複合体の製造方法は、150℃以下の低温プロセスで合成することができ、製造コストが低く安全性も高い。その反応条件を制御することにより、ゼオライトの結晶相を複数種のゼオライトで構成することや、CHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト又はGIS型ゼオライトが主であるものに作り分けることができる。また、天然鉱物のみを原料とすることにより、優れた性能が期待でき原料コストが低いなど機能面や経済面でのメリットに加えて、環境資源の有効利用の社会面でもメリットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施例1~3において原料として用いたシラス軽石の外観写真である。
【
図2】実施例1~3において原料として用いたシラス軽石を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像(倍率300倍)である。
【
図3】実施例1~3において原料として用いたシラス軽石を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像(倍率2000倍)である。
【
図4】実施例1において作製した試料のX線回折パターンである。
【
図5】実施例1において水熱処理条件を4M100℃20hとして作製した試料を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像(倍率100倍)である。
【
図6】実施例1において水熱処理条件を4M100℃20hとして作製した試料を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像(倍率2000倍)である。
【0035】
【
図7】実施例1において水熱処理条件を3M100℃20hとして作製した試料を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像である。
【
図8】実施例1において水熱処理条件を4M80℃20hとして作製した試料(軽石状)及びこれを粉砕して得られた試料(粉末状)のアンモニウムイオン吸着速度を示すグラフである。
【
図9】実施例3において作製した試料のX線回折パターンである。
【
図10】実施例3において常圧処理条件を1M100℃20hとして作製した試料を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像である。
【
図11】実施例4において作製した試料のX線回折パターンである。
【
図12】実施例4において水熱処理条件を2M90℃20hとして作製した試料を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像である。
【0036】
【
図13】実施例4において水熱処理条件を2M120℃20hとして作製した試料を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像である。
【
図14】実施例5において作製した試料のX線回折パターンである。
【
図15】実施例6において原料として用いた真珠岩パーライトの外観写真である。
【
図16】実施例6において原料として用いた真珠岩パーライトを走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像である。
【
図17】実施例6において作製した試料のX線回折パターンである。
【
図18】実施例6において水熱処理条件を6M100℃2hとして作製した試料を走査型電子顕微鏡により観察した拡大観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明のゼオライト複合体及びその製造方法について詳細に説明する。なお、説明が省略されている構造、特性、組成、製法等については、当該技術分野の当業者に知られているものと同一又は実質的に同一のものとすることができる。
【0038】
本発明は、結晶を含む無機固体物質からなる支持体の表面にゼオライトが化学的に結合したゼオライト複合体において、マクロ孔を有する三次元多孔体であり、その外表面及び内表面の全部又は一部に前記ゼオライトが析出していることを特徴とする、ゼオライト複合体である。
【0039】
本発明において「結晶」とは、原子が長周期にわたり規則的に配列した物質である。具体的には、X線回折パターンにおいてハローパターンではなく、ピークが検出される物質を結晶と呼ぶ。結晶面が配向している場合や、例えば、クリストバライト相のように最強線以外のピーク強度が極端に弱い結晶相が存在することもあるため、検出されるピークが最強線1つのみであっても、結晶とみなす。また、支持体となる物質がガラスなどの非晶質物質を含んでいる場合であっても、この物質から試料をランダムに抽出し、X線回折パターンにおいてピークが検出される場合は、本発明の結晶を含む無機固体物質に該当する。粉末X線回折試験における測定条件は、当業者がそのX線回折試験装置を使用しようとする際に設定する標準的な試験条件とし、具体的には実施例1に例示する。
【0040】
支持体を構成する結晶を含む無機固体物質としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化銅、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化パラジウム、酸化銀、これらの複合酸化物及びこれらの塩等が挙げられる。
【0041】
また、これらを含有し三次元多孔構造を有する天然鉱物として、アルカリ長石や斜長石等の長石、カオリナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、アロフェン、ゼオライト、層状複水酸化物等の粘土、岩石、砕屑物、石、土、砂、シルト、灰、これらが混在したもの他、アパタイトなどのリン酸カルシウム化合物、炭酸カルシウム化合物、カーボンなどが挙げられる。さらに、産業廃棄物であるフライアッシュ、高炉スラグ、製紙スラッジ焼却灰等が挙げられる。これらの物質は、洗浄や精製、分級、仮焼、混合、成形、焼結等したものを用いてもよい。これらの中でも天然資源として得られる天然鉱物を原料に用いることが、支持体としての優れた性能を期待でき、コストが低く環境資源を有効に利用できる観点から好ましい。
【0042】
本発明における天然鉱物は、結晶性が不均一で結晶とガラス(非晶質)の両方を含む無機固体物を用いることが好ましい。結晶は支持体としての機械的強度や硬さなどに寄与し、ガラスは反応しやすくゼオライトの原料となる。また、三次元多孔構造を有する天然鉱物は孔径の分布が広く、マクロ孔(50nm以上)の他にメソ孔(2~50nm)も有している。これにより、マクロ孔にはないナノメートルオーダー、数十ナノメートルオーダーの分子やウイルスを捕捉する機能や、マイクロ孔(2nm以下)と比較して優れた吸脱着速度や流量を期待できる。さらに、天然鉱物はSi、Al、Naの他にCa、Fe、Kなど多種多様な元素を含んでおり、複数種のゼオライトを支持体上に析出させることも可能である。
【0043】
天然資源は採取地によって化学組成や粒度等が異なりやすく、これを原料として得られるゼオライト複合体の性能のバラつきにつながるため、1カ所で大量に採取できる天然鉱物又は採取地による化学組成や粒度のバラつきが小さい天然鉱物が好ましい。支持体としての優れた性能が期待でき、均質なものが大量に採取できることから、アルカリ長石や斜長石等の長石、カオリナイト、天然のゼオライト、火山砕屑物の軽石が好ましく例示される。
【0044】
ゼオライトは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)により、その骨格構造にコード番号が付与されたものであれば、いずれであってもよく、1種又はこれらが2種以上混在してもよい。数多くあるゼオライトの中でも、吸着能や触媒能に優れるCHA型ゼオライトとFAU型ゼオライト、洗剤の助剤として広く使われているLTA型ゼオライト、Cs+に対する選択吸着能を有するGIS型ゼオライトが好ましい。高機能種として知られ産業利用上の発展性が期待できるCHA型ゼオライトとFAU型ゼオライトが特に好ましく、汚染水処理に用いる場合はGIS型ゼオライトも特に好ましい。
【0045】
CHA型ゼオライトは、ゼオライトの中でも比較的細孔径が小さい0.38nmの細孔を有するゼオライトであり、メタン分子と同程度のサイズである。小さい分子のみがこの細孔内を通って拡散することができ、芳香族化合物等の大きい分子はゼオライトのケージ内にトラップされる。近年、脚光を浴びているゼオライトの一つである。Cs+などの放射性物質を選択的に吸着することが知られているため、この機能を利用し原子力発電所等において高機能な水処理材として用いることができる。また、NH4
+、Ca2+、Mg2+などを除去対象とし、水槽や自然環境の水質維持に用いることもできる。
【0046】
さらに、触媒としての用途、例えば、NOx浄化用触媒やメタノールからエチレンやプロピレンを製造するプロセス用の工業触媒として、優れた性能を示すことも知られている。後者の例では、固体酸性を持たせたCHA型ゼオライトを用いることで、反応の変換率は85~90%に到達し得る。これにより、例えば、工場やディーゼル車の排ガス規制強化への対応として自動車用の排ガス触媒や、製造プロセス用の工業触媒として用いることができる。他種のゼオライトと混在していてもよいが、これらの用途においては主となるゼオライト結晶相がCHA型ゼオライトであることが好ましく、CHA型ゼオライト単相であるとより好ましい。
【0047】
一方、FAU型ゼオライトは、ゼオライトの中でも比較的細孔径の大きな0.74nmの細孔を有するゼオライトである。そのSi/Al比に応じてX型ゼオライト(Si/Al<2)、Y型ゼオライト(Si/Al>2)とも呼ばれており、現在、幅広く使用されているゼオライトの一つである。二酸化炭素ガスを選択的に吸着する性質を示すことが知られており、例えば、空気分離における予備精製に用いることができる。また、重油からガソリンや軽油といった炭化水素を得る触媒としても有用であることが知られている。これにより、石油化学コンビナートなどにおいて石油精製触媒として用いることができる。他種のゼオライトと混在していてもよいが、これらの用途においては主となるゼオライト結晶相がFAU型ゼオライトであることが好ましく、FAU型ゼオライト単相であるとより好ましい。
【0048】
支持体とゼオライトが化学的に結合した状態とは、イオン結合や共有結合等、化学に関する書籍や文献等において化学結合と定義又は表記される結合を指し、ゼオライトが支持体の上に単に物理的に堆積した状態を除くものである。
【0049】
本発明において「マクロ孔」とは、IUPACの定義と同じく直径50nm(0.050μm)以上の孔と定義する。本発明のゼオライト複合体は、マクロ孔と、ゼオライト結晶の原子配列からなる骨格構造が作るマイクロ孔の両者からなる階層的な孔構造を有する。マクロ孔の直径が大きいと吸脱着速度や流量に優れ、小さいとゼオライト複合体の機械的強度が増大し耐久性や取扱性に優れるため、直径0.1~100μmの範囲が好ましく、直径1~10μmの範囲がより好ましい。
【0050】
マクロ孔は、機械加工や、溶解、発泡、抽出、除去等の化学プロセスにより、原料となる支持体に人為的に形成したものであってもよいが、マクロ孔が連なるように複数形成している必要がある。マクロ孔を有することによって、吸脱着速度や流量に優れるメリットがあり、例えば水処理や触媒の工業プロセスにおいて高速反応を実現することができる。
【0051】
また「三次元多孔体」とは、複数の上記マクロ孔やメソ孔を有する三次元構造が形成されたバルク体である。三次元構造とは、マクロ孔の直径下限である50nmのサイズを基準として、三次元的な細孔ネットワークから成る構造のことを指す。高い機械的強度を示すためには、三次元空間における座標軸のうち最も薄い方向の厚みの平均値が、この基準の1000倍に相当する50μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。
【0052】
その限りにおいて、ゼオライト複合体のバルク体としての外形が、薄い膜状の形態であってもよい。膜状の他に、立方体、長方体、多面体、柱、球、楕円球、柱、筒、不定形等の任意の形態でよい。予めこれら任意の形態に加工した支持体を原料として用いてもよく、ゼオライト複合体を得てから後加工してもよい。また、適切な大きさにゼオライト複合体を砕いたものを充填して用いてもよい。適度な大きさがありマクロ孔を有することによって、吸脱着速度や流量に優れ高速反応を可能とする。
【0053】
三次元多孔体の外表面とは、三次元多孔構造体のバルク体としての外側の表面を指す。三次元多孔体の内表面とは、三次元多孔体が有するマクロ孔やメソ孔の内壁の表面を指す。また、全部とは、一部に欠陥や脱落が認められても効果において同一視できる程度に表面の略全部にゼオライトが析出した形態を含むものとする。一部とは、全部以外の一部分や大部分にゼオライトが析出した形態を含むものとする。外表面及び内表面の10%以上の面積にゼオライトが析出していることが好ましく、25%以上の面積にゼオライトが析出していることがより好ましい。
【0054】
ゼオライトが析出した面積比率の測定方法としては、ゼオライト複合体の外表面とそれを割った試料の内表面とを拡大観察して、複数の観察像の一定面積におけるゼオライトの被覆面積を測定し、その平均値を算出して用いる方法が例示される。また、間接的な指標として下記比表面積を用いてもよい。この場合には、ゼオライト化処理後のゼオライト複合体の比表面積(SAa)と、支持体の原料である無機固体物の比表面積(SAb)との比(SAa/SAb)は、3以上が好ましく、15以上がより好ましい。
【0055】
本発明のゼオライト複合体の比表面積は、大きいほど反応面積が増加して触媒活性が向上するため好ましい。具体的には、ゼオライト複合体としての比表面積が50m2/g以上であることが好ましく、200m2/g以上であることがより好ましい。比表面積とは、N2-BET法と呼ばれる窒素ガスを用いた吸着モデルに基づくBETプロットにより求められる比表面積の値を指す。一般的な純ゼオライト粉末の比表面積は数百m2/gであり、高いものでは700~800m2/gの比表面積を示すゼオライトもある。
【0056】
従来のゼオライト複合体は、ゼオライトを担持させるものや前駆体液を用いてバルク体の表面のみにゼオライトを析出させるものであったため、ゼオライトは表面近傍にしか存在せず試料全体としての比表面積を高めることが難しかった。本発明においては、前駆体液を用いることなく、三次元多孔構造を有する原料の表面を溶解させてこれを原料成分としてゼオライトを析出させるため、まんべんなく三次元多孔体の外表面及び内表面に均一にゼオライトを析出させることができ、製造時の条件によってこれをコントロールすることができる。
【0057】
ゼオライト複合体の嵩密度が1g/cm3未満であると、室温で水等の液体の液面に浮く性質を示すので好ましい。嵩密度とは重量を見かけの体積で割った値である。多くの固体の密度は1g/cm3よりも高く、ゼオライト複合体が液面に浮くことによって、汚染土等の処理対象物質との比重差を利用して液中において容易に分離することが可能となる。また、光触媒と組み合わせることにより、太陽光エネルギーを液面で効率よく利用しながら光分解する使用法が可能となり、液体に浮く性質だけでなく、ゼオライトのマイクロ孔に由来する高比表面積及びマクロ孔に由来する吸着物質保持能を十分に活かすことができる。
【0058】
ゼオライト複合体の外形の体積が大きいと、網で掬ったり、摘まんだり、掴んだりする作業が容易であり、静電気等で粉が舞ったり容器壁面に付着することもなくなるため好ましい。網で掬う場合には、網の目よりも大きいサイズである必要があり、1mm3以上であると手で摘まむことができる。外形の大きさと液面に浮く性質とを組み合わせて活用することも想定され、液面からの回収性、汚泥等の処理対象物質との分離性及び水処理作業時の取扱性に優れる効果が得られる。
【0059】
ゼオライト複合体が光触媒を担持していると、光触媒の有機物分解作用や表面超親水性化作用を活かすことができる。担持する光触媒としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウムが挙げられ、中でも化学的に安定で安価で、光触媒活性が高い酸化チタンを担持することが好ましい。酸化チタンの結晶相は、有機物分解活性が高く広く実用化されている、準安定相であるアナターゼ相が好ましいが、アナターゼ相が主となる結晶相であれば、ブルッカイト相又はルチル相等のアナターゼ相以外の酸化チタンの結晶相を含んでいてもよい。酸化チタンに、プラチナ、銅、鉄、銀、金、コバルト、ニッケル、バナジウム、マンガン、セリウムなどの元素をドープして活性を高めたものを用いてもよい。
【0060】
光触媒を担持する方法として、ゼオライト複合体と光触媒粒子を乾式又は湿式で混合する方法、光触媒原料成分を含む液相にゼオライト複合体を投入し液相反応により光触媒粒子又は光触媒コーティング層を析出させる方法、CVD又はPVDにより気相中でゼオライト複合体表面に光触媒を堆積する方法が挙げられる。光触媒粒子を用いる場合は、光触媒作用を働く表面積を稼ぐために、その1次粒子の個数平均径が100nm以下のナノ粒子を用いることが好ましく、30nm以下であるとより好ましい。また、光触媒粒子や光触媒コーティング層の結晶性が低いと結晶欠陥において電子とホールが再結合し有機物分解作用を十分に発揮できないため、結晶子の大きさが10nm以上の高結晶性を示すことが好ましい。コーティングする場合の膜厚は任意であるが、結晶子の好ましい大きさである10nm以上であることが好ましい。
【0061】
また、本発明は、結晶を含み三次元多孔構造を有する無機固体物を原料とし、150℃以下の液相反応により前記結晶及び前記三次元多孔構造を部分的に維持したまま、前記無機固体物の外表面及び内表面にゼオライトを析出させることを特徴とする、ゼオライト複合体の製造方法である。
【0062】
ここでいう結晶及び三次元多孔構造の意味、無機固体物の種類は前述のゼオライト複合体と同様である。結晶を含みマクロ孔やメソ孔を有する三次元多孔構造を形成したものであれば、原料として人工物を用いても、軽石等の天然鉱物を用いてもよい。微粒子の状態であるものは成形するか、他の三次元多孔体と複合化するなどして三次元多孔構造を形成する必要がある。
【0063】
液相反応とは、原料の表面を溶解させてゼオライトを析出させる反応を指す。原料を塩基性又は酸性の液体の中に投入して原料表面を溶解し、温度、圧力、溶液濃度を制御することにより、表面にゼオライトを析出させ、ゼオライト複合体を得る。その際、原料の全てが溶解してしまうと本発明でいう支持体が形成されないため、溶解反応及び析出反応のコントロールが必要である。以下に具体的な製造方法を例示する。
【0064】
液相反応に用いる溶媒としては、ナトリウム化合物、カリウム化合物、アンモニア化合物、フッ素化合物、塩素化合物、硫黄化合物、窒素化合物、過酸化水素の溶液が挙げられる。溶液は水溶液でも有機溶媒でもこれらの混合液でもよい。多くの天然鉱物はケイ素を多量に含むため、これを溶解しやすい水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、フッ酸が好ましく、ゼオライトに取り込まれる陽イオンを含有する水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0065】
液相反応では、前述の通り、溶解・析出反応をコントロールするために、温度、圧力、溶液濃度、反応時間を制御する。本発明では、原料である無機固体物の結晶と三次元多孔構造を壊さずに部分的に残して支持体として利用するため、一般的なゼオライトの液相合成よりも穏やかな反応条件が望ましい。用いる原料や溶媒の種類に依存して、最適な温度、圧力、溶液濃度、反応時間の範囲は異なるものとなる。
【0066】
例示として、より多様なゼオライト結晶相の合成の観点からは、温度範囲はやや高温域の60~150℃が好ましく、85~125℃がより好ましい。より穏やかな合成条件の観点からは、温度範囲はやや低温域の50~100℃が好ましく、75~100℃がより好ましい。圧力は常圧でも加圧してもよい。具体的には、容器を開放系として常圧で加熱する方法、溶液から揮発する蒸気を冷却管等で液体に戻し循環させて加熱する方法、密閉容器を用いて加熱することによりその蒸気圧で加圧する方法、いわゆるソルボサーマル法(水溶液を用いた場合には水熱法と呼ばれる)が挙げられる。溶液濃度は1~8M(mol/L)が好ましく、2~6M(mol/L)がより好ましい。反応時間は数時間~数日が好ましく、6~24時間がより好ましい。
【0067】
また、本発明のゼオライト複合体の製造方法では、原料の組成と液相反応の反応条件を制御することにより、析出させるゼオライトの結晶相を複数種のゼオライトで構成することや、析出させるゼオライトの主たる結晶相をCHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト又はGIS型ゼオライトにすることが可能である。制御する反応条件は、原料の組成、溶液の種類や濃度、温度、圧力、時間である。特に、原料の組成、溶液濃度、温度の制御が重要である。
【0068】
後述する実施例では、シラス軽石、漂着軽石(与論島及び沖永良部島採取)等を原料とし、水酸化ナトリウムの濃度と反応温度を変えることにより、析出させるゼオライトの結晶相をCHA型、FAU型、LTA型、GIS型、FER型、ANA型及びSOD型ゼオライトから選ばれる1種又は複数種のゼオライトで構成することができた。また、析出させるゼオライトの主たる結晶相をCHA型ゼオライト、FAU型ゼオライト又はGIS型ゼオライトであるものに明確に作り分けることができた。
【0069】
液中に溶解するSiやAlの濃度又はこれらの結晶構造内にインターカレートするカチオンの濃度と、温度及び圧力により、その条件下で準安定的に析出するゼオライトの相が決まる。これに反応時間すなわち原料の反応率、イオン濃度の変化とこれに伴うゼオライトの相転移の要素が加わり、各反応条件で得られるゼオライト複合体が決まると考えられる。
【実施例0070】
以下、本発明のゼオライト複合体及びその製造方法について、実施例を参照して具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0071】
[実施例1]
鹿児島県内で採取した火砕流堆積物であるシラス軽石の外観写真を
図1に、走査型電子顕微鏡による拡大観察像を
図2及び3に、それぞれ示す。シラス軽石の1辺の長さは約1~10mmであった。シラス軽石はマクロ孔からなる三次元多孔構造を形成していることが分かる。これは入戸シラスと呼ばれている種類のものであり、ガラスと結晶質の含有比がおよそ90:10と表され、その代表的な化学組成としてSiO
2:Al
2O
3:Fe
2O
3:Na
2O:K
2O:CaOの重量比が、およそ74:12:2:4:4:1と表されるシラス軽石である。
【0072】
このシラス軽石を、蒸留水を張ったビーカーに入れたところ、約83wt%が水面に浮き、残りはビーカーの底に沈んだ。水面に浮いたシラス軽石を回収し、以下に記す液相反応の原料として用いた。原料1gを、1~4M(mol/L)の4段階に調製した水酸化ナトリウム水溶液6mLに入れ、耐圧容器を用いて密閉した状態で70~100℃の4段階に設定した乾燥機に入れた。20時間加熱後に乾燥機から取り出し、ろ過により固液分離した。蒸留水を用いて固相を水洗した後、100℃のホットプレートで乾燥し試料を得た。
【0073】
試料の外観は、原料に用いたシラス軽石と同様であり、マクロ孔からなる三次元多孔構造を形成していることが分かった。また、ビーカーに蒸留水を張り試料を加えたところ、試料は水に浮いたことから、嵩密度が1g/cm3未満であることが分かった。
【0074】
試料の一部をメノウ乳鉢で粉砕し、以下の条件で粉末X線回折装置(XRD)により試料に含まれる結晶相を調査した。
・装置:株式会社リガク製 UltimaIV
・検出器:D/tex Ultra
・電圧、電流:40kV、40mA
・スキャン:連続
・X線:CuKα線
・スキャンスピード:10°/min.
・ステップ幅:0.02°
【0075】
粉末X線回折パターンの測定結果を
図4に示す。1~3Mの水酸化ナトリウム水溶液で水熱処理した場合にはCHA型ゼオライトに帰属されるピークが確認された。2M及び3M条件ともに80℃でCHA型ゼオライトに帰属されるピークが認められ、90℃においてより明確に認められた。3M100℃条件では、GIS型ゼオライトに帰属されるピークも見られた。一方、4M条件の場合は、FAU型ゼオライトに帰属されるピークがメインであり、90℃条件ではGIS型ゼオライトのピーク、100℃条件ではLTA型ゼオライトに帰属されるピークも確認された。これら全ての試料において、原料と同じアノーサイト(灰長石、CaAl
2Si
2O
8)、アルバイト(曹長石、NaAlSi
3O
8)やクオーツ(石英、SiO
2)に帰属されるピークも確認された。
【0076】
図4の結果から、原料の結晶を含む無機固体物質を部分的に残したまま、原料成分の一部が液相中に溶解して再析出しゼオライトを形成したことが分かった。また、アルカリ溶液の濃度や温度等の反応条件を制御することによってゼオライトの結晶相は、CHA型ゼオライトを主とするものとFAU型ゼオライトを主とするものとを作り分けられること、CHA型、FAU型ともゼオライト結晶相として単相のものが得られることが分かった。
【0077】
特に、CHA型ゼオライトについては天然で得られるチャバサイトと、合成して得られるSSZ-13が知られているが、合成ゼオライトであるSSZ-13は、通常、有機構造規定剤を用いて合成されるため、原料コストが高いという課題があった。本発明においては、天然鉱物のみからシンプルでコストの低い製造方法によって、CHA型ゼオライトを析出できたことが分かる。そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、シラス軽石に含まれるカリウムが、CHA型ゼオライトの骨格構造の形成に重要な役割を果たしている可能性が考えられる。
【0078】
上記結果より、シラス軽石を原料としてアルカリ水溶液を用いた液相反応において、ゼオライトの主となる結晶相をCHA型ゼオライトとするためには、温度を80~100℃、溶液濃度を1~3M、反応時間を12~24時間の範囲に設定することが考えられる。また、ゼオライトの主となる結晶相をFAU型ゼオライトとするためには、温度を70~100℃、溶液濃度を4~6M、反応時間を12~24時間の範囲に設定することが考えられる。
【0079】
走査型電子顕微鏡による観察像の代表例を
図5~7に示す。ミクロンオーダーの粒子状のゼオライトが支持体表面にびっしりと析出していることが分かった。また、ゼオライト粒子が試料表面に物理的に堆積している様子はうかがえず、シラス原料の三次元多孔構造を支持体とし、その表面にゼオライトが析出して一体となった微構造であることが分かった。
【0080】
試料の性能評価として、N2-BET法により比表面積を測定した結果を下記表1に示す。原料として用いたシラス軽石の比表面積が1.4m2/gであるのに対し、水熱処理後の試料はいずれも原料と比べて高い比表面積値を示した。粉末状の一般的なゼオライトと同等の数百m2/gに及ぶ高い比表面積値を示す試料も確認された。
【0081】
【0082】
また、室温にてアンモニア濃度10mMの水溶液25mLに各試料0.1gを投入して、24時間後のアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定して除去率を算出した。結果を下記表2に示す。原料として用いたシラス軽石ではアンモニウムイオン吸着能が認められなかったのに対し、水熱処理後の試料はいずれも粉末状ゼオライト市販品(Zeolyst CBV600)と比べて約2~3倍高い吸着能を示した。
【0083】
【0084】
上記試料のうち4M80℃20h条件で作製した試料については、メノウ乳鉢で粉砕して粉末状にし、軽石状の試料と吸着速度を比較した。結果を
図8に示す。軽石状試料の吸着速度は粉末状試料と比べて速いことが分かり、このことからマクロ孔を有する三次元多孔構造が吸着速度の向上に寄与することが示された。
【0085】
[実施例2]
上記実施例1で得られた各試料を、酸化チタンナノ粒子(Degussa P25)の水分散液に投下した後に、100℃のホットプレートで乾燥することにより、光触媒を担持させることができた。
【0086】
[実施例3]
耐圧容器を用いることなく開放系とし常圧下で加熱した以外は実施例1と同様にして試料を得た。これらのXRDパターンの測定結果を
図9に示す。実施例1の結果と同様に、濃度1~3Mの水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、3M90℃条件を除いてCHA型ゼオライトに帰属されるピークが確認され、3M90℃条件ではFER型ゼオライトに帰属されるピークが確認された。4Mと高濃度にすると70~90℃でFAU型ゼオライトに帰属されるピークが確認され、4M100℃条件ではSOD型ゼオライトに帰属されるピークが見られた。以上のことから、常圧下での液相反応においても、反応条件によって析出するゼオライト相が異なり、作り分けられることが分かった。
【0087】
走査型電子顕微鏡による観察像の代表例を
図10に示す。実施例1の結果と同様に、ミクロンオーダーの粒子状のゼオライトが試料表面にびっしりと析出しており、シラス原料の三次元多孔構造を支持体とし、その表面にゼオライトが析出して一体構造を形成していることが分かった。
【0088】
[実施例4]
鹿児島県与論島で採取した軽石を原料に用いて、水熱処理温度を90~150℃とした以外は実施例1と同様にして試料を得た。XRDによる結晶相の調査結果を
図11に示す。原料のXRDパターンは長石や輝石に帰属されるピークの他に塩化ナトリウムに帰属されるピークを含み、採取の時期や状況とあわせて考察すると、海底火山由来の漂着した軽石と推察される。2M100℃条件と2M120℃条件では、GIS型ゼオライトに帰属されるピークが確認された。原料を変更しアルカリ溶液の濃度や温度を制御することによって、析出させるゼオライトの主たる結晶相をGIS型ゼオライトに作り分けられることが分かった。
【0089】
より高温の2M150℃条件では、GIS型ゼオライトに加え、ANA型ゼオライトやSOD型ゼオライトに帰属されるピークも確認された。高濃度の4M条件の場合は、比較的低温の4M90℃条件でFAU型、GIS型、SOD型ゼオライトに帰属されるピークが確認された。4M100℃ではSOD型ゼオライトの強いピークとGIS型ゼオライトの弱いピークが確認され、4M120℃条件と4M150℃条件ではSOD型ゼオライトに帰属されるピークが確認された。
【0090】
これらの代表例として、2M90℃試料と2M120℃試料のSEM観察像を、それぞれ
図12及び13に示す。
図11の2M90℃試料のXRDパターンではゼオライトに帰属されるピークが確認されなかったが、SEM観察像ではゼオライト粒子の析出を確認した。ゼオライトの析出量が少ないことや結晶性が低いことが、XRDパターンにおいてピークが確認されなかった理由と考えられる。
図13においては、軽石原料の孔構造を残したままその表面にゼオライトが隙間なく析出し、軽石とゼオライトが一体構造を形成していることが確認された。
【0091】
[実施例5]
鹿児島県沖永良部島大島郡和泊町で採取された軽石を原料に用いて、水熱処理温度を90~150℃、水熱処理時間を20時間又は40時間とした以外は実施例1と同様にして試料を得た。XRDによる結晶相の調査結果を
図14に示す。この原料についても、実施例4と同じ理由により海底火山由来の漂着した軽石と推察される。2M120℃40h条件では、GIS型ゼオライトだけでなくCHA型ゼオライトに帰属されるピークも確認された。2M150℃20h条件では、GIS型ゼオライトに加え、ANA型ゼオライトやSOD型ゼオライトに帰属されるピークも確認された。4M90℃20h条件では、FAU型、GIS型、SOD型に加え、LTA型ゼオライトに帰属されるピークも確認された。
【0092】
[実施例6]
真珠岩パーライト(あかぎ園芸株式会社製)の外観写真を
図15に、走査型電子顕微鏡による拡大観察像を
図16に、それぞれ示す。
図15及び16から、真珠岩パーライトは三次元多孔構造を形成していることが分かる。この真珠岩パーライトを用いて、濃度4~6Mの水酸化ナトリウム水溶液、100℃、2時間の水熱処理条件とした以外は、実施例1と同様にして試料を得た。
【0093】
得られた試料は、水に浮いた。また、得られた試料のXRDパターンの測定結果を
図17に示す。4M条件ではFAU型ゼオライトとLTA型ゼオライトに帰属されるピークが確認された。また、5M、6M条件ではこれに加えてSOD型ゼオライトに帰属されるピークが確認された。高濃度条件である6Mの方が、FAU型とLTA型に帰属されるピークの強度が弱くSOD型に帰属されるピークが強いことが分かった。以上のことから、真珠岩パーライトを原料に用いた場合においても、溶液濃度の条件によって析出するゼオライト相が異なり、これを作り分けられることが分かった。
【0094】
走査型電子顕微鏡による観察像の代表例を
図18に示す。実施例1及び3と同様に、ミクロンオーダーの粒子状のゼオライトが試料表面にびっしりと析出しており、真珠岩パーライト原料の三次元多孔構造を支持体とし、その表面にゼオライトが析出して一体構造を形成していることが分かった。
また、本発明のゼオライト複合体は、回収性、分離性及び取扱性に優れ、例えば、水や石油に撒いて網等で回収することができる。遠隔操作ロボットのような細かい作業が困難な状況であっても、これらの特長を活かして水処理等に用いることができる。すなわち、第一次産業における労働者の高齢化や人員不足という社会問題、原発における放射性物質の除染という環境問題等、我が国が抱える喫緊の課題の解決に資することができる。
さらに、本発明のゼオライト複合体は取扱性に優れ、マクロ孔を有するため圧力損失を抑えて高い流量を稼ぐことができ、すなわち処理速度に優れる。触媒としての用途、例えば、NOx浄化用触媒として自動車や工場において排ガス触媒として用いることができる。重油からガソリンや軽油といった炭化水素を得る触媒として有効に使うことができ、石油化学コンビナートなどにおいて石油精製触媒として用いることができる。
また、光触媒を担持することによって、ゼオライト複合体の諸特性と有機物分解作用を組み合わせることができ、例えば、水面に浮かべておくだけで水浄化や水質維持が可能な水処理材として用いることができる。特に、アオコや赤潮の原因となる植物プランクトンは光合成を利用するため水面近傍で繁殖しやすいこと、水面で太陽光エネルギーを効率的に利用できることから、水面に浮く光触媒担持ゼオライト複合体の有用性は高い。この用途においては、ゼオライト複合体の高比表面積に由来する高い吸着能や、マクロ孔に由来する高い吸着速度及び除去対象物の保持能を、光触媒の有機物分解作用と組み合わせて発揮することができる。
本発明のゼオライト複合体の製造方法は、上記のような様々な産業分野において利用が期待できるゼオライト複合体を、天然鉱物のみを原料に用いた150℃以下の低温反応で製造することがきる。例えば、実施例で用いたシラスは、鹿児島県本土面積の5~6割を覆う無尽蔵とも言える天然資源である。海底火山の噴火により各地に漂着した大量の軽石は、漁業や観光業に多大な影響を及ぼし、回収後の廃棄処分に多額の費用がかかるため大きな社会問題となっている災害廃棄物に類するものである。パーライト真珠岩は園芸用品として1kgあたり数百円で販売され流通している商品である。本発明は多様な無機資源が利用可能であり、原料、設備及び製法が低コストという経済面だけでなく、環境資源の有効利用という社会面でもメリットがあり、大いに産業の発展に寄与することが期待される。