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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122316
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】散弾銃用弾丸
(51)【国際特許分類】
   F42B 7/00 20060101AFI20220816BHJP
【FI】
F42B7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019444
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】390036364
【氏名又は名称】清川メッキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】松原 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】清川 肇
(57)【要約】
【課題】弾丸からの鉛の溶出を防止することができ、散弾銃の銃身のシリンダーの内面が前記弾丸によって擦傷を受けがたく、弾丸自体を容易に回収することができる散弾銃に使用される弾丸を提供する。
【解決手段】散弾銃に用いられる弾丸であって、タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金からなる群より選ばれた剛性金属を含有する中心核2を中心部に有し、中心核2の表面上に銅層3が形成され、銅層3の表面上にニッケル層4が形成され、ニッケル層4の表面上に表面層としてスズ層5が形成されていることを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散弾銃に用いられる弾丸であって、タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金からなる群より選ばれた剛性金属を含有する中心核を中心部に有し、当該中心核の表面上に銅層が形成され、当該銅層の表面上にニッケル層が形成され、当該ニッケル層の表面上に表面層としてスズ層が形成されていることを特徴とする散弾銃用弾丸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散弾銃に使用される弾丸に関する。さらに詳しくは、本発明は、例えば、オリンピックなどにおける競技種目であるクレー射撃、狩猟、有害鳥獣駆除などに使用される散弾銃に用いられる散弾銃用弾丸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、散弾銃用弾丸には鉛製の弾丸が使用されているが、鉛製の弾丸を溜飲した鳥類が鉛中毒に罹患したり、土壌に落下した鉛製の弾丸により、土壌汚染を招来したりするおそれがある。また、オリンピックなどにおける競技種目であるクレー射撃でも散弾銃が使用されており、クレー射撃の競技終了後に土壌に残存している鉛製の弾丸が降雨によって徐々に土壌に溶出し、溶出した鉛によって土壌汚染および地下水汚染が生じることが懸念されている。
【0003】
近年、有害な鉛を用いることなく、弾着が乱れることが少なく、適度の硬さを有し、射出成形によって容易に製造することができる弾丸として、タングステン、炭化タングステン、フェロタングステンおよび炭化タングステン・コバルト合金を含有する群より選ばれた少なくとも1種の粉粒状の重金属粒子と樹脂との複合材からなり、当該複合材の比重が11.4~13.8であることを特徴とする弾丸が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、前記弾丸に使用されている重金属粒子の重金属の硬度が高いため、散弾銃の銃身のシリンダーの内面が前記弾丸によって擦傷を受けることが懸念され、また散弾銃から発射された弾丸が土壌に着地したとき、当該弾丸に使用されている樹脂が自然界に存在する微生物によって分解されるため(例えば、特許文献1の段落[0023]-[0024]参照)、当該弾丸に含まれている重金属を土壌から容易に回収することができず、土壌が当該重金属によって汚染されるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-257499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、弾丸からの鉛の溶出を防止することができ、散弾銃の銃身のシリンダーの内面が前記弾丸によって擦傷を受けがたく、弾丸自体を容易に回収することができる散弾銃に使用される弾丸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、散弾銃に用いられる弾丸であって、タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金からなる群より選ばれた剛性金属を含有する中心核を中心部に有し、当該中心核の表面上に銅層が形成され、当該銅層の表面上にニッケル層が形成され、当該ニッケル層の表面上に表面層としてスズ層が形成されていることを特徴とする散弾銃用弾丸に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、弾丸からの鉛の溶出を防止することができ、散弾銃の銃身のシリンダーの内面が前記弾丸によって擦傷を受けがたく、弾丸自体を容易に回収することができる散弾銃に使用される散弾銃用弾丸が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の散弾銃用弾丸の中心を通る縦断面における一実施態様を示す概略説明図である。
図2】本発明の散弾銃用弾丸の回収方法の一実施態様を示す概略説明図である。
図3】本発明の散弾銃用弾丸の回収方法の他の一実施態様を示す概略説明図である。
図4】本発明の実施例1で得られた散弾銃用弾丸の金属棒が衝突した箇所における断面の図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の散弾銃用弾丸は、散弾銃に用いられる弾丸であり、前記したようにタングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金からなる群より選ばれた剛性金属を含有する中心核を中心部に有し、当該中心核の表面上に銅層が形成され、当該銅層の表面上にニッケル層が形成され、当該ニッケル層の表面上に表面層としてスズ層が形成されていることを特徴とする。本発明の散弾銃用弾丸は、前記構成要件を有することから、弾丸からの鉛の溶出を防止することができ、散弾銃の銃身のシリンダーの内面が前記弾丸によって擦傷を受けがたく、弾丸自体を容易に回収することができるという優れた効果を奏する。
【0011】
以下に本発明の散弾銃用弾丸を図面に基づいて説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施態様のみに限定されるものではなく、本発明の範囲内で他の実施態様を有するものであってもよい。
【0012】
図1は、本発明の散弾銃用弾丸の中心を通る縦断面における一実施態様を示す概略説明図である。本発明の散弾銃用弾丸1は、図1に示されるように、タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金からなる群より選ばれた剛性金属を含有する中心核2を有し、中心核2の表面上に銅層3が形成され、銅層3の表面上にニッケル層4が形成され、ニッケル層4の表面上に表面層としてスズ層5が形成されている。
【0013】
(1)中心核
中心核2として、タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金からなる群より選ばれた剛性金属を含有する中心核が用いられる。タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記剛性金属は、主として本発明の散弾銃用弾丸1に剛性を付与し、散弾銃用弾丸1の質量を増大させて実際の使用に適した質量および大きさを有する散弾銃用弾丸1を得るために用いられる。
【0014】
タングステン合金としては、例えば、タングステンと、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、ニッケル、ニオブ、銅、銀などの他の金属との合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。タングステン合金における他の金属の含有率は、本発明の散弾銃用弾丸1が適切な質量を有するように調整することが好ましい。タングステンおよびその合金には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、炭素などの非金属が含まれていてもよい。
【0015】
モリブデン合金としては、例えば、モリブデンと、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ニオブ、銅、銀などの他の金属との合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。モリブデン合金における他の金属の含有率は、本発明の散弾銃用弾丸1が適切な質量を有するように調整することが好ましい。モリブデンおよびその合金には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、炭素などの非金属が含まれていてもよい。
【0016】
中心核2は、前記剛性金属で構成されていてもよく、剛性金属粉末を樹脂に分散させた剛性金属粉末の分散体であってもよい。剛性金属粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、当該剛性金属粉末の分散安定性を向上させる観点から、1~50μm程度であることが好ましい。前記樹脂としては、例えば、ポリスチレンに代表されるスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどに代表されるポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などに代表されるポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどに代表されるポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどに代表される(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。剛性金属粉末の分散体における剛性金属粉末の含有率は、本発明の散弾銃用弾丸1が適切な質量を有するように調整することが好ましい。
【0017】
中心核2は、通常、球状を有するが、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、楕円球状を有していてもよい。また、中心核2の表面には、その表面上に形成される銅層3との密着性を向上させる観点から、微細な凹凸が形成されていてもよい。
【0018】
本発明の散弾銃用弾丸1における中心核2の含有率は、本発明の散弾銃用弾丸1に対して好適な質量を付与する観点から、40~85質量%であることが好ましく、55~70質量%であることがより好ましい。
【0019】
また、中心核2の直径は、本発明の散弾銃用弾丸1の用途などによって異なるので一概には決定することができないが、一般に使用されている散弾銃用弾丸1の直径を考慮して、1~3mm程度であることが好ましく、1.2~2.5mmであることがより好ましく、1.5~2.2mmであることがさらに好ましい。
【0020】
(2)銅層
銅層3は、中心核2の表面上に形成される。銅層3は、主として本発明の散弾銃用弾丸1に緩衝性を付与するとともに、本発明の散弾銃用弾丸1が適度な直径および質量を有するようにする観点から形成される。
【0021】
銅層3は、例えば、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法、物理蒸着(PVD)法、電気めっき法、無電解めっき法などの方法によって中心核2の表面上に形成させることができる。
【0022】
銅層3には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、ニッケル、ニオブ、銀、タングステンなどの他の金属、炭素などの非金属が含まれていてもよい。
【0023】
本発明の散弾銃用弾丸1における銅層3の含有率は、本発明の散弾銃用弾丸1に緩衝性を付与するとともに、本発明の散弾銃用弾丸1が適度な直径および質量を有するようにする観点から、10~45質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。
【0024】
また、銅層3の厚さは、本発明の散弾銃用弾丸1に緩衝性を付与するとともに、本発明の散弾銃用弾丸1が適度な直径および質量を有するようにする観点から、30~600μmであることが好ましく、50~400μmであることがより好ましく、50~250μmであることがさらに好ましい。
【0025】
なお、中心核2と銅層3との間には、本発明の目的を阻害しない範囲内で中心核2および銅層3とは異なる種類の金属層または樹脂層、好ましくは金属層が形成されていてもよい。また、銅層3の表面には、その表面上に形成されるニッケル層4との密着性を向上させる観点から、微細な凹凸が形成されていてもよい。
【0026】
(3)ニッケル層
ニッケル層4は、銅層3の表面上に形成される。ニッケル層4は、主として本発明の散弾銃用弾丸1を磁石の磁力によって容易に回収することができるようにするとともに、銅層3を保護し、本発明の散弾銃用弾丸1が適度な直径および質量を有するようにする観点から形成される。
【0027】
ニッケル層4は、例えば、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法、物理蒸着(PVD)法、電気めっき法、無電解めっき法などの方法によって形成させることができる。
【0028】
ニッケル層4には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、ニオブ、銅、銀、タングステンなどの他の金属、炭素などの非金属が含まれていてもよい。
【0029】
本発明の散弾銃用弾丸1におけるニッケル層4の含有率は、本発明の散弾銃用弾丸1を磁石の磁力によって容易に回収することができるようにするとともに、銅層3を保護し、本発明の1が適度な直径および質量を有するようにする観点から1~10質量%であることが好ましく、2~8質量%であることがより好ましい。
【0030】
また、ニッケル層4の厚さは、本発明の散弾銃用弾丸1を磁石の磁力によって容易に回収することができるようにするとともに、銅層3を保護し、本発明の散弾銃用弾丸1が適度な直径および質量を有するようにする観点から、1~100μmであることが好ましく、2~80μmであることがより好ましく、2~50μmであることがさらに好ましく、3~30μmであることがさらに一層好ましい。
【0031】
なお、銅層3とニッケル層4との間には、本発明の目的を阻害しない範囲内で銅層3およびニッケル層4とは異なる種類の金属層または樹脂層、好ましくは金属層が形成されていてもよい。また、ニッケル層4の表面には、その表面上に形成されるスズ層5との密着性を向上させる観点から、微細な凹凸が形成されていてもよい。
【0032】
(4)スズ層
スズ層5は、ニッケル層4の表面上に本発明の散弾銃用弾丸1の表面層として形成される。スズ層5は、主として本発明の散弾銃用弾丸1が散弾銃の銃身のシリンダーの内面と摺擦したときに当該シリンダーの内面に擦傷が発生しないようにするとともに、ニッケル層4を保護する観点から形成される。
【0033】
スズ層5は、例えば、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法、物理蒸着(PVD)法、電気めっき法、無電解めっき法などの方法によって形成させることができる。
【0034】
スズ層5には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、ニオブ、銅、銀、銅、タングステンなどの他の金属、炭素などの非金属が含まれていてもよい。
【0035】
本発明の散弾銃用弾丸1におけるスズ層5の含有率は、本発明の散弾銃用弾丸1が散弾銃の銃身のシリンダーの内面と摺擦したときに当該シリンダーの内面に擦傷が発生しないようにするとともに、ニッケル層4を保護する観点から1~10質量%であることが好ましく、2~8質量%であることがより好ましい。
【0036】
また、スズ層5の厚さは、本発明の散弾銃用弾丸1が散弾銃の銃身のシリンダーの内面と摺擦したときに当該シリンダーの内面に擦傷が発生しないようにするとともに、ニッケル層4を保護する観点から、5~80μmであることが好ましく、10~60μmであることがより好ましく、15~40μmであることがさらに好ましい。
【0037】
なお、ニッケル層4とスズ層5との間には、本発明の目的を阻害しない範囲内でニッケル層4およびスズ層5とは異なる種類の金属層または樹脂層、好ましくは金属層が形成されていてもよい。
【0038】
以上のようにして本発明の散弾銃用弾丸1が構成されるが、スズ層5の表面には本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、金、銀などの他の金属層、樹脂層などが形成されていてもよい。
【0039】
本発明の散弾銃用弾丸1の直径は、本発明の散弾銃用弾丸1の用途などによって異なるので一概には決定することができないが、好ましくは1.1~3.5mm、より好ましくは1.5~3.0mm、さらに好ましくは1.5~2.6mmである。また、本発明の散弾銃用弾丸1の20℃における比重は、本発明の散弾銃用弾丸1の用途などによって異なるので一概には決定することができないが、好ましくは11.0~13.5、より好ましくは11.5~13.0である。
【0040】
本発明の散弾銃用弾丸1は、表面層としてスズ層5を有するので、本発明の散弾銃用弾丸1が散弾銃の銃身のシリンダーの内面と摺擦したときに当該シリンダーの内面に擦傷が発生することを防止することができる。また、スズ層5は、その下層に形成されているニッケル層4との密着性に優れているので、本発明の散弾銃用弾丸1が散弾銃の銃身のシリンダーの内面と摺擦したとき、および本発明の散弾銃用弾丸1が散弾銃から発射され、標的に着弾したときにスズ層5が剥離することを防止することができる。
【0041】
また、本発明の散弾銃用弾丸1は、ニッケル層4を有することから、例えば、土壌などに着弾または落下した場合であっても、ニッケル層4が有する磁性によって磁石に吸引されるので、土壌と分離して容易に回収することができる。
【0042】
さらに、本発明の散弾銃用弾丸1の銅層3は、その上に形成されているニッケル層4およびスズ層5によって保護されているので、例えば、本発明の散弾銃用弾丸1が土壌に埋入したとしても銅層3が直接水分などと接触することが阻止されるので、銅層の腐食を防止することができるから、銅による土壌汚染および水質汚染を防止することができる。また、銅層3の下部に前記剛性金属を含有する中心核2が形成されているので、適度な硬度および質量が本発明の散弾銃用弾丸1に付与される。
【0043】
したがって、本発明の散弾銃用弾丸1は、散弾銃用弾丸1からの鉛の溶出を防止することができ、散弾銃の銃身のシリンダーの内面が散弾銃用弾丸1によって擦傷を受けることを防止することができ、散弾銃用弾丸1が土壌などに落下または被弾したときには、散弾銃用弾丸1自体を容易に回収することができるので、例えば、オリンピックなどにおける競技種目であるクレー射撃、狩猟、有害鳥獣駆除などに用いられる散弾銃に好適に使用することができる。
【0044】
(5)散弾銃用弾丸の回収方法
以下に本発明の散弾銃用弾丸の回収方法の一実施態様を図面に基づいて説明するが、本発明は、かかる実施態様のみに限定されるものではない。
【0045】
本発明の散弾銃用弾丸1を散弾銃に充填し、当該散弾銃をクレー射撃などの競技などに使用した場合、標的から外れた弾丸は、土壌に拡散する。弾丸が拡散している土壌は、競技の終了後に回収される。
【0046】
回収された散弾銃用弾丸1および土壌6は、例えば、図2に示されるように、ベルトコンベア7上に搬送することができる。なお、図2は、本発明の散弾銃用弾丸1の回収方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【0047】
図2に示される概略説明図では散弾銃用弾丸1および土壌6は、説明の便宜上、それぞれ同等の大きさを有するように描かれているが、散弾銃用弾丸1および土壌6の大きさは、それぞれ同等でなくてもよく、相違していてもよい。
【0048】
ベルトコンベア7上に搬送された散弾銃用弾丸1および土壌6は、ベルトコンベア7によって矢印A方向に搬送される。
【0049】
ベルトコンベア7の上部には、回転ドラム8が設けられている。回転ドラム8の内部には、図2に示されるように、磁石9が回転しないように固定して設けられているとともに、非磁気部10が回転ドラム8に追随して回転しないように設けられている。非磁気部10は、例えば、磁石9が設けられていない空間であってもよい。磁石9が有する磁力は、散弾銃用弾丸1が回転ドラム8に容易に吸着される程度であればよく、特に限定されない。磁石としては、例えば、フェライト磁石、ネオジム磁石、アルニコ磁石、電磁石などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0050】
ベルトコンベア7上の散弾銃用弾丸1および土壌6が回転ドラム8の下方に到達したとき、散弾銃用弾丸1は、回転ドラム8に内蔵されている磁石9の磁力により、回転ドラム8に吸着される。回転ドラム8は、矢印B方向に回転し、磁力によって回転ドラム8に吸着された散弾銃用弾丸1は、回転ドラム8の非磁気部10に到達したとき、回転ドラム8から離脱して落下する。回転ドラム8から離脱して落下した散弾銃用弾丸1は、回転ドラム8の下方に設けられている弾丸回収器11によって回収される。
【0051】
一方、土壌6は、回転ドラム8によって吸引されないことから、ベルトコンベア7の移動に伴って回転ドラム8の下方を通過し、ベルトコンベア7の前方に設けられている土壌回収器12で回収される。
【0052】
また、回収された散弾銃用弾丸1および土壌6は、例えば、図3に示される散弾銃用弾丸1の回収方法によって回収することができる。なお、図3は、本発明の散弾銃用弾丸1の回収方法の他の一実施態様を示す概略説明図である。
【0053】
図3に示される散弾銃用弾丸1の回収方法では、弾丸回収器11の上部に散弾銃用弾丸1を回転ドラム8から剥離させるためのブレード13が設けられている。回転ドラム8に吸着されている散弾銃用弾丸1は、ブレード13によって回転ドラム8から剥離され、土壌回収器12で回収される。
【0054】
図3に示される散弾銃用弾丸1の回収方法に使用される回転ドラム8の内部には、磁石9が内蔵されているが、図2に示される回転ドラム8と同様に非磁気部10が設けられていてもよく、図3に示されるように非磁気部10が設けられていていなくてもよい。回転ドラム8の内部に非磁気部10が設けられていていない場合、散弾銃用弾丸1が回転ドラム8からブレード13によって容易に剥離する程度にブレード13の近傍にある磁石9の磁力が弱められていることが好ましい。
【0055】
以上説明したように、本発明の散弾銃用弾丸1を用いた場合には、土壌などに散乱した散弾銃用弾丸1は、前記散弾銃用弾丸の回収方法により、容易に回収することができる。
【0056】
なお、回収された散弾銃用弾丸1は、廃棄するのではなく、その表面層を形成しているスズ層5は、エッチングなどによって容易に剥離することができるので、必要により、スズ層5を剥離した後、散弾銃用弾丸1の表面層として新たなスズ層5を形成させることにより、散弾銃用弾丸1を再生利用することができる。
【0057】
したがって、本発明の散弾銃用弾丸1は、容易に回収することができるのみならず、再利用することができるのでリサイクル性に優れていることから、地球環境に優しいという利点を有する。
【0058】
(6)まとめ
以上説明したように、本発明の散弾銃用弾丸1は、散弾銃用弾丸1からの鉛の溶出を防止することができ、散弾銃の銃身のシリンダーの内面が散弾銃用弾丸1によって擦傷を受けることを防止することができ、散弾銃用弾丸1自体を容易に回収することができることから、例えば、オリンピックなどにおける競技種目であるクレー射撃、狩猟、有害鳥獣駆除などに用いられる散弾銃に好適に使用することができる。
【実施例0059】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
実施例1
タングステンからなり、直径が1.88mmである鋼球(質量:0.067g)を中心核として用いた。当該鋼球を25℃の硫酸銅めっき浴〔硫酸150g/mLおよび硫酸銅150g/Lを含む塩素濃度が0.2mL/Lである塩酸〕に浸漬し、当該鋼球との間隔が25mmとなるように陽極(銅板)を対向させ、電流密度2A/dm2にて銅めっきを行なうことにより、鋼球の表面に厚さが100μmの銅層(質量:0.011g)を形成させた。
【0061】
次に、前記で得られた銅層が形成されている鋼球を25℃の60質量%スルファミン酸ニッケル水溶液に浸漬し、当該鋼球との間隔が25mmとなるように陽極(ニッケル板)を対向させ、電流密度1A/dm2にてニッケルめっきを行なうことにより、鋼球の銅層の表面に厚さが10μmのニッケル層(質量:0.0012g)を形成させた。
【0062】
前記で得られたニッケル層が形成されている鋼球を25℃の硫酸スズめっき浴〔硫酸スズ40g/L、硫酸100g/L、クレゾールスルホン酸50g/Lおよび37質量%ホルムアルデヒド水溶液5mL/Lを含有する水溶液〕に浸漬し、当該鋼球との間隔が25mmとなるように陽極(銅板)を対向させ、電流密度2A/dm2にて銅めっきを行なうことにより、鋼球の表面に厚さが25μmのスズ層(質量:0.0025g)を形成させて散弾銃用散弾を得た。
【0063】
前記で得られた散弾銃用弾丸の直径は2.15mmであり、質量は0.0817gであった。また、前記で得られた散弾銃用弾丸の20℃における比重が13.2であった。前記で得られた散弾銃用弾丸の表面層には、スズ層を形成しているスズのモース硬さが1.8であり、従来の鉛製の散弾銃用弾丸(モース硬さ:1.5)と同程度の硬度を有することから、従来の鉛製の散弾銃用弾丸と同様に散弾銃の銃身のシリンダーの内面に擦傷を生じさせがたいことがわかる。
【0064】
次に、前記で得られた散弾銃用弾丸の耐衝撃性、擦傷防止性および回収性を以下の方法に基づいて調べた。その結果を表1に示す。
【0065】
〔耐衝撃性A〕
散弾銃用弾丸を表面が平滑な木板上に置き、内径が3.0mmであり、長さが2mであるステンレス鋼製のパイプを鉛直方向で当該散弾銃用弾丸に被せて当該パイプの一端を木板と密着させた。
【0066】
次に、前記パイプ内に直径が2.5mmであり、質量が2.78kgである金属棒(銅製)を前記パイプの他端の開口部から前記散弾銃用弾丸に向けて自由落下させ、前記散弾銃用弾丸に前記金属棒を衝突させた。
【0067】
前記パイプおよび金属棒を除去し、散弾銃用弾丸の表面状態および金属棒が衝突した箇所における散弾銃用弾丸の中心を通る縦断面を光学顕微鏡で観察し、以下の評価基準に基づいて散弾銃用弾丸の耐衝撃性Aを評価した。
【0068】
(評価基準)
◎:散弾銃用弾丸のスズ層のみに変形が認められる。
○:散弾銃用弾丸のスズ層およびニッケル層に変形が認められ、銅層が露出していない。
×:散弾銃用弾丸の銅層が露出している。
【0069】
参考までに、実施例1で得られた散弾銃用弾丸の金属棒が衝突した箇所における散弾銃用弾丸の中心を通る縦断面を図4に示す。図4は、実施例1で得られた散弾銃用弾丸の金属棒が衝突した箇所における縦断面の図面代用写真である。
【0070】
図4に示された結果から、前記散弾銃用弾丸の表面層であるスズ層5に変形が認められるが、当該スズ層5よりも下部に形成されているニッケル層4、銅層3および中心核2には変形が認められず、またスズ層5に割れなどの発生が認められないことがわかる。
【0071】
〔耐衝撃性B〕
耐衝撃性Aを調べた後、散弾銃用弾丸の表面状態および金属棒が衝突した箇所における散弾銃用弾丸の中心を通る縦断面を光学顕微鏡で観察し、以下の評価基準に基づいて耐衝撃性Bを評価した。
【0072】
(評価基準)
◎:散弾銃用弾丸の表面に割れが認められない。
〇:散弾銃用弾丸の表面に割れが認められるが、銅層に到達していない。
×:散弾銃用弾丸の表面に銅層に到達する割れが認められる。
【0073】
〔擦傷防止性〕
散弾銃用弾丸が散弾銃の銃身のシリンダーの内面に擦傷を生じさせるおそれがあるかどうかを以下の評価基準に基づいて評価した。
【0074】
(評価基準)
◎:散弾銃用弾丸の表面層を形成している金属のモース硬さが、鉛のモース硬さ(1.5)と同等であるかまたは当該モース硬さよりも低い(モース硬さ:2.0以下)。
〇:散弾銃用弾丸の表面層を形成している金属のモース硬さが、鉛のモース硬さよりもやや高い(モース硬さ:2.0を超え、2.5以下)。
×:散弾銃用弾丸の表面層を形成している金属のモース硬さが、鉛のモース硬さよりもかなり高い(モース硬さ:2.5を超過)。
【0075】
〔回収性〕
散弾銃用弾丸100粒を川砂100gと均一な組成となるように混合し、得られた混合物を表面が平滑な樹脂板上に広げて試料を作製した。
【0076】
ネオジム丸型皿穴付き磁石(直径:12mm、厚さ:5mm)10個連結させて作製した永久磁石ローラーを用意し、当該永久磁石ローラーを前記試料の表面上で転がし、当該永久磁石ローラーに付着した散弾銃用弾丸の数を数え、以下の評価基準に基づいて散弾銃用弾丸の回収性を評価した。
【0077】
(評価基準)
◎:回収された散弾銃用弾丸の数が100個
○:回収された散弾銃用弾丸の数が95~99個
×:回収された散弾銃用弾丸の数が94個以下
【0078】
実施例2
実施例1において、銅層の厚さを30μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.13mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0079】
実施例3
実施例1において、銅層の厚さを50μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.17mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0080】
実施例4
実施例1において、銅層の厚さを250μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.57mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0081】
実施例5
実施例1において、銅層の厚さを300μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.67mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0082】
実施例6
実施例1において、ニッケル層の厚さを1μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.07mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0083】
実施例7
実施例1において、ニッケル層の厚さを2μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.25mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0084】
実施例8
実施例1において、ニッケル層の厚さを30μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.31mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0085】
実施例9
実施例1において、ニッケル層の厚さを50μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.35mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0086】
実施例10
実施例1において、スズ層の厚さを5μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.23mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0087】
実施例11
実施例1において、スズ層の厚さを10μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.24mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0088】
実施例12
実施例1において、スズ層の厚さを40μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.30mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0089】
実施例13
実施例1において、スズ層の厚さを50μmに変更したことを除き、実施例1と同様にして直径が2.32mmの散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
市販されている鉛製の散弾銃用弾丸(直径:2.25mm)の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0091】
比較例2
直径が2mmのタングステンからなる鋼球を中心核として用いた。当該鋼球の表面に実施例1と同様にして厚さが100μmの銅層を形成させることにより、散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0092】
比較例3
直径が2mmのタングステンからなる鋼球を中心核として用いた。当該鋼球の表面に実施例1と同様にして厚さが10μmのニッケル層を形成させることにより、散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0093】
比較例4
タングステンからなり、直径が2mmである鋼球を中心核として用いた。当該鋼球の表面に実施例1と同様にして厚さが25μmのスズ層を形成させることにより、散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0094】
比較例5
タングステンからなり、直径が2mmである鋼球を中心核として用いた。当該鋼球の表面に実施例1と同様にして厚さが10μmのニッケル層を形成させ、当該ニッケル層の表面上に厚さが25μmのスズ層を形成させることにより、散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0095】
比較例6
タングステンからなり、直径が2mmである鋼球を中心核として用いた。当該鋼球の表面に実施例1と同様にして厚さが100μmの銅層を形成させ、当該銅層の表面上に厚さが25μmのスズ層を形成させることにより、散弾銃用弾丸を作製した。前記で得られた散弾銃用弾丸の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示された結果から、各実施例で得られた散弾銃用弾丸は、各比較例で得られた散弾銃用弾丸と対比して、耐衝撃性および回収性に優れ、散弾銃の銃身のシリンダーの内面に傷をつけにくいことがわかる。また、各実施例で得られた散弾銃用弾丸は、耐衝撃試験を行なっても、その表面に亀裂が生じず、また内部の銅層が外部に露出しないことから、銅の溶出を防止することができるので自然環境に対して安全であることがわかる。
【0098】
したがって、各実施例で得られた散弾銃用弾丸は、弾丸からの鉛の溶出を防止することができ、散弾銃の銃身のシリンダーの内面が前記弾丸によって擦傷を受けがたく、弾丸自体を容易に回収することができるので、例えば、オリンピックなどにおける競技種目であるクレー射撃、狩猟、有害鳥獣駆除などに使用される散弾銃に用いられる散弾銃用弾丸として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 散弾銃用弾丸
2 中心核
3 銅層
4 ニッケル層
5 スズ層
6 土壌
7 ベルトコンベア
8 回転ドラム
9 磁石
10 非磁気部
11 弾丸回収器
12 土壌回収器
13 ブレード

図1
図2
図3
図4