(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122481
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】オリゴヌクレオチドプローブ、検査液および検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20220816BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220816BHJP
C12Q 1/6816 20180101ALI20220816BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220816BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6816 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019738
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100143096
【弁理士】
【氏名又は名称】山岸 忠義
(72)【発明者】
【氏名】川上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
(72)【発明者】
【氏名】高岡 直子
(72)【発明者】
【氏名】二宮 健二
(72)【発明者】
【氏名】丸瀬 英明
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ61
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR41
4B063QR56
4B063QR79
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】チオール還元剤が添加された検体に対して、核酸を検出できるプローブ、検出キットおよび検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】チオール還元剤を含む検体を検査するためのオリゴヌクレオチドプローブであって、オリゴヌクレオチドプローブは、レポーター部およびクエンチャー部を有し、レポーター部の励起スペクトルのピーク波長が、540nm以上であり、クエンチャー部は、レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール還元剤を含む検体を検査するためのオリゴヌクレオチドプローブであって、
レポーター部およびクエンチャー部を有し、
前記レポーター部の励起スペクトルのピーク波長が、540nm以上であり、
前記クエンチャー部は、前記レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素である、オリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項2】
前記クエンチャー部は、ピーク波長が560nm以上である励起スペクトルを有する蛍光色素である、請求項1に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項3】
前記レポーター部の蛍光スペクトルのピーク波長が、560nm以上、700nm以下であり、
前記クエンチャー部の励起スペクトルのピーク波長が、600nm以上、800nm以下である、請求項1または2に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドプローブを含有する、検査液。
【請求項5】
検体およびチオール還元剤を含有する検体処理液を用意する工程と、
前記検体処理液に対して、オリゴヌクレオチドプローブを用いて加水分解プローブ法を実施する工程と
を備える核酸の検出方法であって、
前記オリゴヌクレオチドプローブは、レポーター部およびクエンチャー部を有し、
前記レポーター部の励起スペクトルのピーク波長が、540nm以上であり、
前記クエンチャー部は、前記レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素である、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチドプローブ、検査液および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染有無の検査として、主として遺伝子増幅法(PCR法)が採用されている。国立感染症研究所は、PCR法に基づく病原体検出マニュアル2019-nCoVを公表している(非特許文献1参照)。マニュアルでは、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻汁、鼻洗浄液、喀痰、唾液などを検体とし、この検体に対して、RNAの抽出、精製(単離)などの前処理を実施した後に、PCR法を実施することが記載されている。
【0003】
そのPCR法の一つとして、加水分解プローブとしてTaqManプローブ(登録商標)を用いたリアルタイムPCR法(加水分解プローブ法)が記載されている。加水分解プローブ法は、PCR法によって増幅される核酸量を、増幅時に加水分解されるプローブから発する蛍光強度から検出する。増幅される核酸量をリアルタイムで検出するため、短時間で核酸の有無の検査結果を判明することができる。
【0004】
検体の中でも喀痰および唾液は、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻汁、鼻洗浄液などに比べて、粘性が非常に高いため、ピペット操作でそのまま採取して検査を実施することが困難である。検体を緩衝液で希釈した場合であっても、検体は希釈液中で均一分散しないためウイルスを含む検体を均一に採取することが困難である。そのため、マニュアルは、タンパク質を分解して粘性を下げて均一化させるための試薬として、ジチオトレイトール(DTT:dithiothreitol)を緩衝液に添加することを推奨している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】国立感染症研究所、病原体検出マニュアル2019-nCoV Ver2.9.1、[online]、令和2年3月19日、[令和2年10月9日検索]、インターネットhttps://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV20200319.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、PCR法の前処理の一つであるRNAの精製作業は手間がかかるため、RNAの精製をせずに、PCR法を実施することがある。
【0007】
しかしながら、マニュアルの推奨に従い、DTTを検体に添加した場合、RNAを精製せずにPCR法を実施すると、検体中にDTTを含んだ状態でPCR法を実施することになる。そうすると、核酸増幅前であるPCR開始時点から、強い蛍光が観測されてしまい、核酸増幅による蛍光増幅を正確に検知できない不具合が生じる。その結果、目的の核酸、ひいては、目的のウイルスの有無を検出できなくなる。
【0008】
本発明は、チオール還元剤を含有する検体に対して、核酸を検出できるオリゴヌクレオチドプローブ、検査液および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、チオール還元剤を含む検体を検査するためのオリゴヌクレオチドプローブであって、レポーター部およびクエンチャー部を有する。レポーター部の励起スペクトルのピーク波長が、540nm以上である。クエンチャー部は、レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素である。
【0010】
本発明の第2の態様は、検体およびチオール還元剤を含有する検体処理液を用意する工程と、前記検体処理液に対して、オリゴヌクレオチドプローブを用いて加水分解プローブ法を実施する工程とを備える核酸の検出方法である。レポーター部の励起スペクトルのピーク波長が、540nm以上である。クエンチャー部は、レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の態様および第2の態様によれば、チオール還元剤が添加された検体に対してPCR法を実施した場合であっても、検体中の核酸を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、DTTを添加していない検体に対して、比較例1のプローブを用いて、加水分解プローブ法を実施した際の蛍光増幅曲線グラフ(縦軸が相対蛍光単位、横軸がPCRサイクル数)を示す。
【
図2】
図2は、DTTを添加していない検体に対して、実施例1のプローブを用いて、加水分解プローブ法を実施した際の蛍光増幅曲線グラフを示す。
【
図3】
図3は、DTTを添加した検体処理液に対して、比較例1のプローブを用いて、加水分解プローブ法を実施した際の蛍光増幅曲線グラフを示す。
【
図4】
図4は、DTTを添加した検体処理液に対して、実施例1のプローブを用いて、加水分解プローブ法を実施した際の蛍光増幅曲線グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.オリゴヌクレオチドプローブ
本発明の第1の態様のオリゴヌクレオチドプローブ(以下、「本発明のプローブ」とも略する。)は、オリゴヌクレオチド部と、レポーター部と、クエンチャー部とを有する。
【0014】
オリゴヌクレオチド部は、検出対象である核酸にハイブリタイズするための部分であって、複数のヌクレオチドが直鎖状に重合したポリヌクレオチドである。ヌクレオチドの数は、例えば、5以上、好ましくは、10以上であり、また、例えば、30以下、好ましくは、20以下である。
【0015】
オリゴヌクレオチド部の塩基配列は、ハイブリタイズさせる核酸領域に応じて適宜決定され、公知の塩基配列を採用することができる。
【0016】
例えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を検出するためのプローブである場合、CDC(Centers for Disease control and Prevention)、国立感染症研究所などが公表している塩基配列を用いればよい。具体的には、下記表のような塩基配列が挙げられる。
【0017】
【0018】
レポーター部は、プローブの加水分解によりクエンチャー部から遊離した際に、蛍光を発することによって、目的の核酸の増幅を検知させるための官能基である。レポーター部は、オリゴヌクレオチド部分の5´末端(または3´末端)に結合されている。
【0019】
レポーター部は、ピーク波長が540nm以上である励起スペクトルを有する蛍光色素である。このような蛍光色素としては、公知の色素が挙げられ、例えば、フナコシ社、モレキュラープローブ社などで市販されている蛍光色素を使用することができる。具体的には、Alexa Fluor 555(555nm,565nm), HiLyte Plus 555(552nm,567nm), DyLight 549(550nm,568nm), HiLyte Fluor 555(553nm,568nm), Cy3(550nm,570nm), DyLight 547(557nm,570nm), Rhodamine(550nm,570nm), TRITC(550nm,570nm), DY-548(558nm,572nm), DY-554(551nm,572nm), DY-555(547nm,572nm), Alexa Fluor 546(556nm,573nm), DY-556(548nm,573nm), NorthernLights 557(557nm,574nm), Oyster 550(555nm,574nm),5-TAMRA(547nm,574nm), DY-547(557nm,574nm), Oyster 556(562nm,575nm), DY-549(560nm,575nm), ATTO 550(554nm,576nm), B-PE(545 nm,578nm), R-PE(566nm,578nm), DY-560(559nm,578nm), TAMRA(555nm,580nm), MFP555(560nm,585nm), Spectrum Orange(559nm,588nm), ATTO 565(563nm,592nm), Cy3.5(581nm,596nm), ROX(X-Rhodamine,Rhodamine Red X)(587nm,599nm), DY-590(580nm,599nm), 5-ROX(573nm,602nm), Spectrum Red(587nm,612nm), Texas Red(596nm,615nm), DyLight 594(593nm,618nm), Alexa Fluor 594(590nm,619nm), HiLyte Fluor TR(591nm,622nm), ATTO 590(594nm,624nm), MFP590(597nm,624nm), DY-610(610nm,630nm), ATTO 610(615nm,634nm), DY-615(621nm,641nm), C-PC(C-Phycocyanin)(616nm,647nm), ATTO 620(619nm,643nm), Phycocyanin(620nm,650nm), ATTO 633(629nm,657nm), DY-630(636nm,657nm), DY-632(637nm,657nm), DY-633(637nm,657nm), MFP631(633nm,658nm), DyLight 633(638nm,658nm), NorthernLights 637(637nm,658nm), DY-631(637nm,658nm), DY-634(635nm,658nm), APC(Allophycocyanin)(650nm,660nm), APC-XL(650nm,662nm), Alexa Fluor 647(650nm,665nm), Cy5(643nm,667nm), Oyster 645(650nm,669nm), DY-635(647nm,671nm), DY-636(645nm,671nm), DY-647(653nm,672nm), DyLight 647(652nm,673nm), HiLyte Fluor 647(653nm,673nm), DyLight 649(646nm,674nm), HiLyte Plus 647(649nm,674nm), Oyster 650(655nm,674nm), DY-648(653nm,674nm), DY-650(653nm,674nm), DY-652(654nm,675nm), DY-649(655nm,676nm), DY-651(656nm,678nm), Oyster 656(662nm,679nm), ATTO 655(663nm,684nm), Cy5.5(675nm,694nm), DY-677(673nm,694nm), DY-678 (674nm,698nm), HiLyte Fluor 680(678nm,699nm), DY-675(674nm,699nm), DY-676(674nm,699nm), IRDye700DX(689nm,700nm), DY-681(691nm,708nm), DY-680(690nm,709nm), DY-682(690nm,709nm), DyLight 680(682nm,715nm), Alexa Fluor 700(702nm,723nm), DY-700(707nm,730nm), DY-701(706nm,731nm), PREX710(710nm,740nm), DY-730(732nm,758nm), DY-732(736nm,759nm), DY-734(736nm,759nm), DY-731(736nm,760nm), DY-752(748nm,772nm), DY-750(747nm,776nm), DyLight 750(752nm,778nm), HiLyte Fluor 750(754nm,778nm), DY-749(752nm,778nm), HiLyte Plus 750(751nm,779nm), DY-751(751nm,779nm), DyLight 800(770nm,794nm), IRDye800CW(774nm,800nm), DY-780(782nm,800nm), DY-781(783nm,800nm), DY-782(784nm,800nm), DY-776(771nm,801nm), DY-777(771nm,801nm), IRDye800(778nm,806nm) 、これらの誘導体などが挙げられる。なお、上記色素名には登録商標が含まれる。また、上記蛍光色素の括弧書き内において、1つ目が励起スペクトルのピーク波長を示し、2つ目が蛍光スペクトルのピーク波長を示す。本発明における各蛍光色素の各ピーク波長は、その提供会社が表示する数値(カタログ値)とする。
【0020】
好ましくは、汎用性、蛍光強度に優れる観点から、ROX(下記化合物(1))、Cy5(下記化合物(2))、これらの誘導体などが挙げられ、より好ましくは、ROXおよびその誘導体が挙げられる。
【0021】
【0022】
レポーター部の励起スペクトル(吸収スペクトル)のピーク波長は、540nm以上、好ましくは、560nm以上、より好ましくは、580nm以上であり、また、例えば、800nm以下、好ましくは、700nm以下、より好ましくは、625nm以下である。励起スペクトルのピーク波長が上記下限以上であることにより、中波長域ないし高波長域の励起光を用いて蛍光強度を検知することができる。
【0023】
レポーター部の蛍光スペクトル(発光スペクトル)のピーク波長は、励起スペクトルのピーク波長よりも長波長側に位置し、例えば、560nm以上、好ましくは、580nm以上、より好ましくは、590nm以上であり、また、例えば、820nm以下、好ましくは、720nm以下、より好ましくは、630nm以下である。蛍光スペクトルのピーク波長が上記範囲にあることにより、レポーター部の蛍光スペクトルとクエンチャー部の蛍光スペクトルとの重複を回避して、両スペクトルを確実に区別できるため、レポーター部のみの蛍光強度を精度よく検知することができる。
【0024】
クエンチャー部は、プローブの加水分解によりレポーター部が遊離するまで、レポーター部からの蛍光を消光するための官能基である。クエンチャー部は、オリゴヌクレオチド部の3´末端(または5´末端)に結合されている。
【0025】
クエンチャー部は、レポーター部からの蛍光を吸収する。具体的には、クエンチャー部の励起スペクトルは、レポーター部の蛍光スペクトルよりも長波長側に位置するととともに、レポーター部の蛍光スペクトルと重複する。好ましくは、クエンチャー部の励起スペクトルのスペクトル半値全幅における波長領域は、レポーター部の蛍光スペクトルのスペクトル半値全幅における波長領域と少なくとも一部は重複する。これにより、クエンチャー部は、レポーター部およびクエンチャー部がともにオリゴヌクレオチド部分に結合している際に、レポーター部からの蛍光を消光する現象(FRET現象:蛍光共鳴エネルギー移動現象)をより確実に生じることができる。
【0026】
クエンチャー部は、非アゾ系色素である。すなわち、クエンチャー部は、アゾ基(-N=N-)を有しない。これにより、チオール還元剤によるクエンチャー部のアゾ基の還元を回避して、クエンチャー部の分解を抑制することができる。よって、PCR開始前のレポーター部の発光およびその検知を抑制することができる。
【0027】
クエンチャー部は、好ましくは、ピーク波長が560nm以上である励起スペクトルを有する蛍光色素である。
【0028】
クエンチャー部としては、公知の色素が挙げられ、例えば、フナコシ社、モレキュラープローブ社などで市販されている蛍光色素を使用することができる。具体的には、上記レポーター部で挙げられた蛍光色素のうち、励起スペクトルが560nm以上の非アゾ系蛍光色素が挙げられる。好ましくは、Cy5.5(下記化合物3)およびその誘導体などが挙げられる。
【0029】
【0030】
クエンチャー部の励起スペクトルのピーク波長は、例えば、560nm以上、好ましくは、600nm以上、より好ましくは、640nm以上であり、また、例えば、850nm以下、好ましくは、800nm以下、より好ましくは、750nm以下である。励起スペクトルのピーク波長が上記範囲にあることにより、クエンチャー部の励起スペクトルのピークとレポーター部の蛍光スペクトルのピークとが重複しやすくなるため、FRET現象をより確実に生じさせることができる。
【0031】
クエンチャー部の励起スペクトルのピーク波長とレポーター部の励起スペクトルのピーク波長との差は、例えば、20nm以上、好ましくは、30nm以上であり、また、例えば、100nm以下、好ましくは、90nm以下である。蛍光スペクトルのピーク波長が上記範囲にあることにより、FRET現象をより確実に生じさせることができる。
【0032】
クエンチャー部の蛍光スペクトルのピーク波長は、例えば、600nm以上、好ましくは、630nm以上、より好ましくは、650nm以上であり、また、例えば、900nm以下、好ましくは、820nm以下、より好ましくは、740nm以下である。蛍光スペクトルのピーク波長が上記範囲にあることにより、レポーター部の蛍光スペクトルとクエンチャー部の蛍光スペクトルとの重複を回避して、両スペクトルを確実に区別できるため、レポーター部のみの蛍光強度を精度よく検知することができる。
【0033】
クエンチャー部の蛍光スペクトルのピーク波長とレポーター部の蛍光スペクトルのピーク波長との差は、例えば、20nm以上、好ましくは、50nm以上であり、また、例えば、150nm以下、好ましくは、100nm以下である。蛍光スペクトルのピーク波長が上記範囲にあることにより、レポーター部の蛍光スペクトルとクエンチャー部の発光スペクトルとの重複を抑制して、これらを区別して判別できるため、レポーター部による蛍光強度の増幅をより精度よく検知することができる。
【0034】
レポーター部と、クエンチャー部との好ましい組み合わせは、例えば、ROXとCy5.5との組み合わせ、Cy5とCy5.5との組み合わせなどが挙げられる。
【0035】
本発明のプローブは、公知の方法によって、オリゴヌクレオチド部の5´末端または3´末端に、レポーター部を構成する上記蛍光色素をエステル化などによって化学修飾し、かつ、その3´末端または5´末端に、クエンチャー部を構成する上記非アゾ系色素をエステル化などによって化学修飾することにより、調製される。
【0036】
本発明のプローブは、上記の各部位以外にも、MGB(Minor Groove Binder)などを有してもよく、また、レポーター部を複数有してもよい。
【0037】
本発明のプローブは、チオール還元剤を含む検体、すなわち、検体にチオール還元剤を添加した処理液から、目的の核酸を検出するための検査に用いられる。具体的には、本発明のプローブは、後述する検査液に含まれており、後述する検出方法で使用される。
【0038】
2.検査液
検査液は、PCR用検査反応液であり、例えば、本発明のプローブ、PCRプライマー、DNAポリメラーゼ、および、生理食塩水を含む。逆転写PCR法を実施する場合は、反応液は、本発明のプローブ、逆転写酵素、逆転写反応プライマー、PCRプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTPミックス、および、生理食塩水を含む。
【0039】
逆転写酵素は、ウイルスのRNAを鋳型として、1本鎖の相補的DNA(cDNA)を生成する酵素であり、具体的には、トリ骨髄芽球症ウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなどのRNAウイルス由来のRNA依存性DNAポリメラーゼ、これらの変異体などが挙げられる。
【0040】
逆転写反応プライマーとしては、例えば、標的RNAの配列に特異的なプライマー、オリゴ(dT)プライマー、ランダムプライマーなどが挙げられる。
【0041】
PCRプライマーは、逆転写反応により生成したcDNAの配列に特異的なプライマー対(フォワードプライマーおよびリバースプライマー)が挙げられる。PCRプライマーは、逆転写反応プライマーと同一であってもよい。
【0042】
DNAポリメラーゼは、例えば、好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼであり、具体的には、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、これらの変異体などが挙げられる。
【0043】
dNTPミックスは、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)、dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)、dCTP(デオキシシチジン三リン酸)およびdTTP(チミジン三リン酸)からなる混合物である。
【0044】
生理食塩水には、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液(HEPESなど)などの緩衝液も含まれる。
【0045】
これら本発明のプローブ、逆転写酵素、逆転写反応プライマー、PCRプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTPミックスおよび生理食塩水は、常法に従い、適宜の割合で配合することができる。
【0046】
検査液は、好ましくは、阻害抑制剤をさらに含有する。これにより、検体に対して、核酸(RNAまたはDNA)の精製をせずとも、核酸を増幅させることができる。すなわち、夾雑物を含有する検体に対し、PCR法を確実に実施させることができる。
【0047】
阻害抑制剤は、核酸の増幅を阻害する物質の役割を抑制する物質である。これらは、例えば、特許第4735645号公報、特開2000-93176号公報に開示されている。
【0048】
阻害抑制剤とともに、検査液は、Tris-HCl、カリウム塩イオン、マグネシウムイオンなどのPCR緩衝剤を含有していてもよい。
【0049】
検査液は、本発明のプローブ以外に、本発明のプローブがハイブリタイズする核酸領域とは異なる他の核酸領域にハイブリダイズする他のオリゴヌクレオチドプローブ、内部標準用のオリゴヌクレオチドプローブなどを含有していてもよい。この場合、他のオリゴヌクレオチドプローブおよび内部標準用のオリゴヌクレオチドプローブのそれぞれに対応するPCRプライマー(フォワードプライマーおよびリバースプライマーなど)をさらに含有していてもよい。
【0050】
検査液は、上記成分を一つの液にまとめて含有してもよく、または、別々の液(例えば、3つの液)に適宜分離保存し、検査時にこれらの液を混合して一つの液にして、検体と混合しても良い。
【0051】
3.検出方法
第2の態様の検出方法は、検体に対して目的の核酸の有無を検出(検査)する方法であって、用意工程およびPCR工程を備える。
【0052】
(1)用意工程では、検体とチオール還元剤とを含有する検体処理液を用意する。
具体的には、検体に、チオール還元剤を添加する。これにより、検体を希釈するともに、検体のタンパク質を分解して、粘性を下げることができるため、ピペットで採取しやすく、処理しやすい。また、検体中の核酸の偏在を低減し、均一に存在させることができため、目的の核酸を確実に採取できる。
【0053】
検体としては、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻汁、鼻洗浄液、喀痰、唾液などのいずれであってもよい。特に、この検出方法では、粘性が高い喀痰、唾液などを検体として好適に使用することができる。
【0054】
チオール還元剤は、チオール基を有していればよく、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール、β-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、1,2-エタンチオール、チオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、システイン、グルタチオンなどが挙げられ、好ましくは、ジチオトレイトールが挙げられる。チオール還元剤を検体に接触させることにより、検体内に含まれるたんぱく質のS-S結合を切断して、検体の粘性を低下させるとともに、ウイルス内部の核酸を検体処理液中に均一に存在させることができる。
【0055】
チオール還元剤は、そのまま検体に添加してもよく、緩衝液と混合させた希釈液として、検体に添加してもよい。具体的には、国立感染症研究所が提示するPCR法に基づく病原体検出マニュアル2019-nCoVに従えばよい。
【0056】
なお、検体にチオール還元剤希釈を添加した検体処理液を、遠心分離機にて上澄み液を採取して、この上澄み液を検体処理液としてPCR工程を実施してもよい。また、必要に応じて、攪拌、氷冷などを適宜実施してもよい。
【0057】
本発明の検査方法では、好ましくは、用意工程とPCR工程との間に、抽出工程を実施する。
【0058】
抽出工程は、核酸を核酸包含体外部へと取り出す前処理工程である。一般的に、検体に含まれる核酸は、核酸包含体(ウィルス、真菌、細菌、細胞など)として膜(エンベロープ、細胞膜など)や細胞壁に内包されているため、核酸をその膜の外部へと取り出して、PCR検査液に接触させる必要がある。
【0059】
抽出工程は、例えば、検体処理液に、市販または公知のRNA抽出試薬などを添加すればよい。RNA抽出試薬としては、例えば、フェノールおよびチオシアン酸グアニジンを含有する溶液が挙げられ、具体的には、ISOGEN、TRI regent、TRIZOLなどが挙げられる。また、還元剤と2価の金属イオンをキレートするキレート剤とを含有するアルカリ性処理薬も挙げられ、具体的には、特許第4735645号公報に開示されている。
【0060】
抽出工程では、好ましくは、加熱する。加熱条件としては、例えば、40℃以上、好ましくは、60℃以上であり、また、例えば、100℃未満、好ましくは、96℃以下である。加熱時間としては、例えば、30秒以上、好ましくは、1分以上であり、また、例えば、10分以下、好ましくは、5分以下である。これにより、抽出試薬を活性化でき、核酸をより確実に抽出することができる。
【0061】
なお、本検出方法では、好ましくは、検体処理液の精製(すなわち、検体処理液から核酸のみを単離する作業)を実施せずに、抽出工程後、PCR工程を実施する。このため、後述するPCR工程に供する検体処理液は、目的の核酸以外に、チオール還元剤、検体由来の夾雑物などを含有する。
【0062】
(2)PCR工程
PCR工程では、用意工程で得られた検体処理液に対して、加水分解プローブ法を実施する。加水分解プローブ法は、特定のプローブを用いて、リアルタイムPCR法を実施する方法である。この工程では、プローブとして本発明のプローブを用いる。
【0063】
リアルタイムPCR法は、DNA-PCR法、および、逆転写PCR法(RT-PCR法)のいずれであってもよく、検査対象の種類などに応じて適宜決定される。例えば、新型コロナウイルスなどのウイルスの感染を検査する場合は、ウイルスはRNAを有するため、逆転写PCR法を実施する。逆転写PCR法は、逆転写酵素を用いて、RNAからcDNAを合成し、このcDNAを増殖させることにより、PCR法を実施する。
【0064】
リアルタイムPCR法は、(i)2本鎖であるDNAを1本鎖にする熱変性工程、(ii)1本鎖のDNAにPCRプライマーおよび本発明のプローブをハイブリタイズさせるアニール工程、(iii)DNAポリメラーゼによりPCRプライマーからDNAを伸長させて、2本鎖にする伸長工程、を1サイクルとして、数十サイクル(例えば、20~60サイクル)を実施する。伸長工程時に、本発明のプローブが加水分解され、レポーター部とクエンチャー部とが遊離するため、FRET現象が消滅して、レポーター部からの蛍光を検出することができる。このPCRサイクルの回数が増加するたびに、遊離するレポーター部の総数、ひいては、レポーター部からの蛍光強度が増幅するため、その増幅を蛍光分析装置にて測定する。
【0065】
PCR法の各工程(逆転写、変性工程、アニール工程、伸長工程)における反応温度、時間などの条件は常法に従い、実施することができる。例えば、市販のリアルタイムPCR分析装置を用い、それに内蔵された設定に従い、実施することができる。
【0066】
上記PCRサイクルを数十回繰り返し、目的のレポーター部が発する蛍光領域の蛍光強度の増幅(増幅曲線)が検知された場合は、検体に、検査対象であるウイルスなどが存在しているため、陽性と判断する。一方、その蛍光強度の増幅が検知されなかった場合は、検体に、検査対象であるウイルスなどが存在していないため、陰性と判断する。
【0067】
本発明の第1の態様のオリゴヌクレオチドプローブは、レポーター部およびクエンチャー部を有し、レポーター部の励起スペクトルのピーク波長が、540nm以上であり、クエンチャー部は、レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素である。
【0068】
従来のオリゴヌクレオチドプローブは、クエンチャー部に下記で示される色素(BHQ1~3;下記構造を有する化合物)を有している。しかし、チオール還元剤(例えば、DTT)を検体に添加して、検体の粘性を下げた検体処理液を調製し、その検体処理液を精製せずに、従来のオリゴヌクレオチドプローブを含有する反応液を添加して加水分解プローブ法を実施すると、プローブの加水分解前に(すなわち、DNA増殖前に)、BHQのアゾ基が還元され、BHQが分解されてしまう。そのため、クエンチャー部によるFRET現象が生じず、DNA増殖前から、レポーター部による蛍光が強く検出されてしまい、PCRサイクルごとに生じるDNA増幅による蛍光強度の増加の測定が難しくなる。
【0069】
【0070】
これに対し、第1の態様のオリゴヌクレオチドプローブを用いた第2の態様の検出方法では、レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素であるクエンチャー部を備えるため、チオール還元剤による還元・分解を回避することができる。そのため、DNA増殖前におけるFRET現象を確実に生じさせることができ、その結果、精度よくDNA増幅による蛍光強度の増加を測定することができる。
【0071】
本発明の検出方法の検出対象としては、DNAまたはRNAを有していれば限定的でなく、例えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ノロウイルス、ロタウイルス、C型肝炎ウイルスなどのウイルス、その他、真菌、細菌、細胞などが挙げられる。
【0072】
4.態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0073】
(第1項)一態様に係るオリゴヌクレオチドプローブは、チオール還元剤を含む検体を検査するためのオリゴヌクレオチドプローブであって、レポーター部およびクエンチャー部を有し、前記レポーター部の励起スペクトルのピーク波長が、540nm以上であり、前記クエンチャー部は、前記レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素であってもよい。
【0074】
(第2項)第1項に記載のオリゴヌクレオチドプローブにおいて、前記クエンチャー部は、ピーク波長が560nm以上である励起スペクトルを有する蛍光色素であってもよい。
【0075】
(第3項)第1項または第2項に記載のオリゴヌクレオチドプローブにおいて、前記レポーター部の蛍光スペクトルのピーク波長が、560nm以上、700nm以下であり、前記クエンチャー部の励起スペクトルのピーク波長が、600nm以上、800nm以下であってもよい。
【0076】
(第4項)一態様に係る検査液において、第1項~3のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドプローブを含有してもよい。
【0077】
(第5項)一態様に係る検出方法において、検体およびチオール還元剤を含有する検体処理液を用意する工程と、前記検体処理液に対して、オリゴヌクレオチドプローブを用いて加水分解プローブ法を実施する工程とを備える核酸の検出方法であって、前記オリゴヌクレオチドプローブは、レポーター部およびクエンチャー部を有し、前記レポーター部の励起スペクトルのピーク波長が、540nm以上であり、前記クエンチャー部は、前記レポーター部からの蛍光を吸収可能な非アゾ系色素であってもよい。
【実施例0078】
次に実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されない。
【0079】
<比較例1のプローブを備える検出試薬キット>
2019新型コロナウイルス検出試薬キット(島津製作所製、P/N:241-09560-91)を用いた。なお、このキットは、前処理液としてRNA抽出試薬と、検査液としてRT-PCR反応液とからなる。RNA抽出試薬は、還元剤と二価のキレート剤とを含有するアルカリ性処理薬である。検査液は、米国CDCの「2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-time RT-PCR Panel Primers and Probes」に準拠したPCR成分と、阻害調整剤(「Ampdirect Plus」登録商標、島津製作所製)とを含む。具体的には、検査液は、下記表の成分(比較例のプローブ、フォワードプライマーおよびリバースプライマー)、逆転写酵素、Taq DNAポリメラーゼ、dNTPミックス、リン酸緩衝食塩水、阻害調整剤、PCR緩衝剤(Tris-HCl、KCl、MgCl2)などを含む。
【0080】
【0081】
官能基の末端修飾に使用した化合物は、下記の構造(左:ROX、右:BHQ2)で示される。
【0082】
【0083】
<実施例1のプローブを備える検出試薬キット>
N1プローブについて、下記表のように設計したオリゴヌクレオチドプローブ(本発明のオリゴヌクレオチドプローブ)を製造した。すなわち、N1プローブの3’末端官能基をBHQ2からCy5.5に変更した。検査液に含まれる成分において、N1プローブを本発明のオリゴヌクレオチドプローブに変更した以外は比較例1と同様の成分にして、実施例1のプローブを含む検査液を備える検出試薬キットを用意した。
【0084】
【0085】
官能基の末端修飾に使用した化合物(Cy5.5)は、下記の構造で示される。
【0086】
【0087】
<評価>
(1)検体にDTTを添加しない場合の検出結果
検体として、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)1000コピーを用意した。この検体に対し、実施例1または比較例1のプローブを含む2019新型コロナウイルス検出試薬キットを用いて、マニュアルに従い、PCR法を実施した。
【0088】
具体的には、まず、新型コロナウイルスにRNA抽出試薬を添加し、この混合液に95℃5分間の条件で熱活性化処理を実施した(抽出工程)。次いで、PCR工程として、実施例1または比較例1のプローブを含む検査液を、上記混合液に添加し、リアルタイムPCR装置(BIO-RAD社製「CFX96 Touch Deep well」)を用いて、リアルタイムPCR法を実施した(PCR工程)。なお、リアルタイムPCR法の設定としては、装置に内蔵されている温度・時間設定で実施した。すなわち、42℃10分および95℃1分の条件で加熱した後に、95℃5秒および60℃15秒を1サイクルとして45サイクル実施した。このときの測定結果を
図1および
図2に示す。
【0089】
(2)検体にDTTを添加する場合の検出結果
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)1000コピーを用意し、このウイルスに、80mMのジチオトレイトール(DTT)溶液を添加し、検体処理液を得た(用意工程)。
【0090】
この検体処理液を用いた以外は、上記と同様にして、実施例1または比較例1のプローブを含む2019新型コロナウイルス検出試薬キットを用いて、抽出工程およびPCR工程を実施した。このときの測定結果を
図3および
図4に示す。
【0091】
(3)考察
図2および
図4から分かるように、実施例1のプローブを含む検査液では、DTTを添加した場合であっても、DTTを添加しなかった場合であっても、30サイクル後以降から、N1プローブの蛍光強度の増幅曲線が観察されているため、DTTの有無にかかわらず、目的の核酸、ひいては、ウイルスを検出できていた。
【0092】
一方、
図1から、比較例1のプローブを含む検査液では、DTTを添加しなかった場合は、蛍光強度の増幅曲線が観察されているため、ウイルスを検出できていることが分かった。しかし、
図3を見ると、DTTを添加した場合では、蛍光強度の増幅曲線が観察されておらず、正確な検出ができていなかった。これは、データ解析前(ベースラインを考慮する前)の蛍光強度の生データを観察したところ、ベースラインが非常に高く設定されていたため、すなわち、サイクル0回目時点で既に強い蛍光強度が検出されていたため、核酸増幅による蛍光強度の増加が正確に測定できていないことに起因している。