(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122504
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】ワーク回収装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 15/00 20060101AFI20220816BHJP
B23B 5/14 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B23B15/00 G
B23B5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019777
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 貴裕
【テーマコード(参考)】
3C045
【Fターム(参考)】
3C045BA40
3C045CA08
3C045DA02
3C045FA05
(57)【要約】
【課題】加工済みワークを棒材から切り離して搬出する工程をより効率的に行うことが可能で、かつ汎用性の高い装置構成を提供する。
【解決手段】ワークを保持する主軸に対し軸線方向に対向配置されるワーク回収装置であって、主軸軸線と略同心の内周面と、軸線と直交する方向に対向する把持力付与部と、把持力付与部に生じる把持力を変化させるためのスリットと、を有するコレットチャックと、コレットチャックの内周面内側に軸線方向に相対位置を変更可能に組み付けられるワーク保持体であって、ワーク受容部と、ワーク把持部と、ワーク把持部に生じる把持力を変化させるためのスリットと、を有するワーク保持体と、を備え、ワーク保持体は、コレットチャックに対する相対位置の変化により、ワーク把持部が把持力付与部に挟まれるワーク把持形態と、ワーク受容部がコレットチャックに対して軸線方向主軸側に露出するワーク受容形態と、を取り得る。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持する主軸に対して前記主軸の軸線方向に対向して配置されるワーク回収装置であって、
前記主軸の軸線と略同心の内周面と、前記軸線と直交する方向に対向する把持力付与部と、対向する前記把持力付与部の間に生じる把持力を変化させるためのスリットと、を有するコレットチャックと、
前記コレットチャックの前記内周面の内側に前記コレットチャックに対して前記軸線方向に相対位置を変更可能に組み付けられるワーク保持体であって、前記主軸に保持されたワークから突っ切り加工によって切り離される加工済みワークを受け止めるためのワーク受容部と、前記ワーク受容部よりも前記軸線方向の前記主軸側に設けられ前記軸線と直交する方向に対向するワーク把持部と、対向する前記ワーク把持部の間に生じる把持力を変化させるためのスリットと、を有するワーク保持体と、
を備え、
前記コレットチャックと前記ワーク保持体とが、前記軸線方向の相対位置の変更により、前記把持力付与部の対向方向において前記ワーク把持部が前記把持力付与部に挟まれるワーク把持形態と、前記ワーク受容部が前記コレットチャックに対して前記軸線方向の前記主軸側に露出するワーク受容形態と、を取り得ることを特徴とするワーク回収装置。
【請求項2】
前記コレットチャックと前記ワーク保持体とを支持し、前記主軸に対して前記軸線方向に移動可能な移動体を備え、
前記移動体は、
前記主軸に保持されたワークにおいて前記主軸から露出した部分を、前記ワーク把持形態にある前記ワーク保持体の前記ワーク把持部によって把持するワーク把持位置と、
前記主軸に保持されたワークから突っ切り加工によって切り離される加工済みワークを、前記ワーク受容形態にある前記ワーク保持体の前記ワーク受容部によって受け止めるワーク受容位置と、
に移動することを特徴とする請求項1に記載のワーク回収装置。
【請求項3】
前記移動体は、前記ワーク把持位置から前記ワーク受容位置への移動において前記主軸から離間することを特徴とする請求項2に記載のワーク回収装置。
【請求項4】
前記コレットチャックと前記ワーク保持体との前記軸線方向の相対位置を変化させる変位手段を備え、
前記変位手段は、前記移動体の前記ワーク把持位置から前記ワーク受容位置への移動と同時に、前記コレットチャックと前記ワーク保持体との前記相対位置を変化させて前記ワーク把持形態から前記ワーク受容形態に変化させることを特徴とする請求項3に記載のワーク回収装置。
【請求項5】
前記ワーク保持体は、前記ワーク把持形態から前記ワーク受容形態への変化において、前記主軸に保持されたワークに対する前記軸線方向の相対位置が変化しないことを特徴とする請求項4に記載のワーク回収装置。
【請求項6】
対向する前記把持力付与部の間に生じる把持力を変化させる力を前記コレットチャックに付与する力付与手段を備え、
前記ワーク保持体が前記ワーク把持形態にあるときに、前記コレットチャックが前記スリットの幅を狭める変形を生じる力を、前記力付与手段が前記コレットチャックに付与することで、前記ワーク把持部がワークを把持ことが可能になることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のワーク回収装置。
【請求項7】
前記ワーク保持体は、ワークにおいて前記突っ切り加工により切り離す部分が前記主軸から露出するように、前記ワーク把持部によりワークを把持することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のワーク回収装置。
【請求項8】
前記ワーク保持体は、
前記軸線方向に見たときに前記突っ切り加工において突っ切りバイトがワークに対して進退する領域と重ならない領域において、それぞれ前記主軸側に向かって前記軸線方向に延びるとともに、前記軸線周りにスリットを介して隣接する複数の延出部と、
前記複数の延出部のそれぞれの先端から、前記軸線と直交する方向に前記軸線に向かって内向きに屈曲して突出する複数の鉤爪部と、
を有し、
前記ワーク受容部は、前記複数の延出部において前記軸線に対向する延出部内側部分と、前記複数の鉤爪部において前記延出部内側部分と連なる鉤爪部内側部分と、を含み、
前記ワーク把持部は、前記複数の鉤爪部の先端部を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のワーク回収装置。
【請求項9】
ワークを把持する主軸を回転可能に支持する主軸機構と、
前記主軸の回転により回転するワークに対して進退可能な、突っ切りバイトを含む加工工具を備えた加工手段と、
請求項1~8のいずれか1項に記載のワーク回収装置と、
を備えることを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを加工する工作機械に備えられるワーク回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動旋盤装置に代表される工作機械、すなわち、ワークを把持した主軸を回転させ、回転するワークに対して加工工具を進退させて加工を施す工作機械では、棒材から、加工後の突っ切り加工を繰り返すことにより、製品としての加工済みワークを複数切り出す場合がある。ここで、棒材から加工済みワークを切り離すための突っ切り加工に際しては、棒材と加工済みワークとの間の切り離し部分を主軸機構部のブッシュから露出させ、さらに次に加工するワーク部分を送り出しておくことを含めてワークを主軸機構部から引き出す工程が必要となる場合がある。すなわち、別途ワークを把持して引き出す機構が必要となる。また、突っ切り加工によって切り離された加工済みワークは、主軸から落下することになるため、それを受け止める構成が必要となる場合もある。そのような作業工程に対応した装置構成として、これまで種々の構成が提案されている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-074627号公報
【特許文献2】特開2017-064901号公報
【特許文献3】特開2008-110447号公報
【特許文献4】特開昭52-016071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、加工済みワークを棒材から切り離して搬出する工程を、より効率的に行うことが可能で、かつ汎用性の高い装置構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のワーク回収装置は、ワークを把持する主軸に対して主軸の軸線方向に対向して配置されるワーク回収装置であって、主軸の軸線と略同心の内周面と、軸線と直交する方向に対向する把持力付与部と、対向する把持力付与部の間に生じる把持力を変化させるためのスリットと、を有するコレットチャックと、コレットチャックの内周面の内側にコレットチャックに対して軸線方向に相対位置を変更可能に組み付けられるワーク保持体であって、主軸に保持されたワークから突っ切り加工によって切り離される加工済みワークを受け止めるためのワーク受容部と、ワーク受容部よりも軸線方向の主軸側に設けられ軸線と直交する方向に対向するワーク把持部と、対向するワーク把持部の間に生じる把持力を変化させるためのスリットと、を有するワーク保持体と、を備え、ワーク保持体とコレットチャックとが、軸線方向の相対位置の変更により、把持力付与部の対向方向においてワーク把持部が把持力付与部に挟まれるワーク把持形態と、ワーク受容部がコレットチャックに対して軸線方向の主軸側に露出するワーク受容形態と、を取り得ることを特徴とする。
【0006】
また、上記目的を達成するため、本発明の工作機械は、ワークを保持する主軸を回転可能に支持する主軸機構と、主軸の回転により回転するワークに対して進退可能な、突っ切りバイトを含む加工工具を備えた加工手段と、本発明のワーク回収装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加工済みワークを棒材から切り離して搬出する工程を、より効率的に行うことが可能となり、かつ汎用性の高い装置構成を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例に係るワーク回収装置を備えた工作機械の模式図である。
【
図6】ワーク保持体としてのカゴの構成説明図である。
【
図7】コレットチャックにカゴの組込状態の構成説明図である。
【
図9】ワーク保持ユニットと第2の主軸の組付状態を示す斜視外観図である。
【
図10】ワーク保持ユニットと第2の主軸の組付状態を示す断面図である。
【
図11】ワーク保持ユニットと第2の主軸の組付状態を示す斜視外観図である。
【
図12】ワーク保持ユニットと第2の主軸の組付状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施例を説明する。ただし、以下で説明する実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定するものではない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、製造条件、構成部品の機能、材質、形状、その相対配置などは、特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、繰り返しの説明を省略する。
【0010】
(実施例)
図1は、本発明の実施例に係るワーク回収装置を備えた工作機械1の構成を概略的に示す模式図である。
図1に示す工作機械1は、いわゆる自動旋盤装置であり、被加工物として例えば長尺棒材であるワークWを回転させ、これに切削工具(加工工具)をあてがうことで、切削加工(旋削加工)を施す装置である。
【0011】
工作機械1は、概略、基台2上に互いに対向配置された第1の主軸機構(正面主軸機構)100及び第2の主軸機構(背面主軸機構)200と、刃物台300と、を備える。第1の主軸機構100は、第1の主軸(正面主軸)101を有し、第2の主軸機構200は、第2の主軸(背面主軸)201を有し、これら二つの主軸は、それぞれの軸線が互いに略同心や平行となるように配置される。その軸線方向をZ軸方向とし、軸線方向と直交する方向のうち、鉛直方向と平行な方向をX軸方向、水平方向と平行な方向をY軸方向とする。
図1は、Y軸方向に工作機械1の構成を見た概略図である。
【0012】
第1の主軸機構100は、第1の主軸101を回転可能に支持する第1の主軸台102と、第1の主軸台102を基台2上でZ軸方向に移動させるための第1の駆動機構103と、を備える。同様に、第2の主軸機構200は、第2の主軸201を回転可能に支持する第2の主軸台202と、第2の主軸台202を基台2上でZ軸方向に移動させるための第2の駆動機構203と、を備える。駆動機構としては、例えば、駆動源としてのモータ、ボールねじ、ガイドレール等により構成されたボールねじ駆動機構を採用してよい。また、第1の主軸台102、第2の主軸台202を、Z軸方向だけでなく、Y軸方向やX軸方向に移動させる駆動機構を備えてもよい。
【0013】
第1の主軸台102は、例えば、不図示のビルトインモータを備えており、その回転駆
動力により、第1の主軸101を回転駆動することができるように構成されている。同様に、第2の主軸台202も、不図示の駆動源から提供される回転駆動力により、第2の主軸201を回転駆動することができるように構成されている。なお、動力源構成としては、ビルトインモータに限定されるものではなく、外部の動力源から回転駆動力を伝達して回転させるような構成であってもよい。
【0014】
第1の主軸101は、ワークWを保持又は把持するためのワーク保持穴を備えた中空構造を有しており、ワークWを把持状態(第1の主軸101におけるワークWの軸心が定まり、かつ軸方向の移動が規制された状態)とするための不図示のチャックやチャックスリーブを備える。ワーク保持穴は、軸線方向に第2の主軸側に向かって開口しており、ワークWのうち開口から露出した部分が、刃物台300に支持された切削工具301により旋削加工が施される部分となる。第1の主軸の前にワークWの支持構造であるガイドブッシュを配置してもよい。
【0015】
また、上述した不図示のチャックやチャックスリーブは、軸線方向の移動が規制されたチャックに対して、後方からチャックスリーブがテーパ面を介して軸線方向に接合する構成となっている。チャックスリーブは、不図示の油圧やエア等で駆動する流体シリンダから付与される力を受けて軸線方向に移動しようとすることで、チャックに対し、軸心に向かう方向の分力を含む力を作用させ、チャックに設けられたスリットが閉じるような締め付け力をチャックに発生させる。これにより、ワークWを把持する状態が形成される。
【0016】
刃物台300は、目的とする加工の種類に応じて選択可能に用意された複数の切削工具301を備えており、その中には、後述する突っ切り加工に用いられる突っ切りバイト302も含まれる。刃物台300は、不図示の駆動機構により、ワークWに対してX軸方向に進退移動可能に構成されており、選択された一の切削工具を回転するワークWにあてがうことで所望の切削加工(旋削加工)をワークWに対して施す。
【0017】
第2の主軸201側の構成は、第1の主軸101側の構成と同様、ワークWを把持して回転させることが可能な構成となっている。すなわち、基本的な構成は、従来既知の背面主軸構成と同様である。しかしながら、本実施例特有の構成として、従来既知の背面主軸機構に元々備わっているチャック機構に代えて、本発明の実施例に係るワーク保持ユニット400を装着した構成となっている。このワーク保持ユニット400の装着(付け替え)により、従来の背面主軸機構を、本発明のワーク回収装置に様変わりさせることができる。詳細については後述する。
【0018】
工作機械1は、例えばCPU(中央演算処理装置)等のプロセッサとメモリとを有するコンピュータで構成された制御部(不図示)を備える。制御部は、各主軸機構100、200や刃物台300、不図示のワーク供給部などの工作機械1を構成する各部の各種動作を制御する。
【0019】
図2は、本実施例に係る工作機械1によるワークWの加工の様子を示す模式図であり、(a)、(b)の順で、加工の様子を段階的に示している。なお、
図2では、
図1に示した第1の駆動機構103や第2の駆動機構203、刃物台300などの構成について図示を省略している。ワークWに対して切削工具301の切り込み量を変化させたり、切削工具301の種類を変更したり、第1の主軸台102を軸線方向に段階的に送ることにより、例えば、図に示すような、径寸法を段階的に変化させた外形形状の加工済みワークW2が製作される。
【0020】
図3は、加工済みワークW2を、ワーク(棒材)における未加工部分である未加工ワークW1から切り離す突っ切り加工の様子を示す模式図である。
図3(a)~(e)は、突
っ切り加工の工程の時系列に沿って、本実施例に係る工作機械1の様子の変化を示している。なお、
図3では、
図2と同様、
図1に示した第1の駆動機構103や第2の駆動機構203、刃物台300などの構成について図示を省略している。
【0021】
図3(a)は、
図2に示したワークWの加工工程が終了し、加工に使用される加工工具が突っ切りバイト302に変更された状態を示す。
【0022】
図3(b)、(c)は、突っ切り加工の準備工程(第1の準備工程)として、未加工ワークW1と加工済みワークW2との間の切り離し部分が、第1の主軸101から加工領域側に露出するように、第1の主軸101からワークWを所定の量だけ引き出す工程を示す。すなわち、
図3(b)に示すように、第2の主軸台202を第1の主軸台102に向かって前進させる。そして、第2の主軸201によるワーク把持位置に到達すると、第1の主軸101に把持されたワークWを第2の主軸201に備えられたワーク保持ユニット400にも把持させる。このときワーク保持ユニット400は、ワーク把持形態となっている(詳細は後述する)。よって、ワークWの把持を第1の主軸101から第2の主軸201に受け渡すことが可能となるため、第1の主軸101のチャック機構による把持状態を解除し、
図3(c)に示すように、第1の主軸台102を第2の主軸台202から離間するように後退させる。これにより、第1の主軸101がワークWを把持する位置が、加工済みワークW2から離れるようにずれ、未加工ワークW1と加工済みワークW2との間の切り離し部分が、第1の主軸101から露出する。すなわち、第1の主軸101によるワークWの持ち直し(把持位置の変更)が可能となる。
【0023】
図3(d)は、突っ切り加工のさらなる準備工程(第2の準備工程)として、第2の主軸201に備えられたワーク保持ユニット400を、ワーク把持形態からワーク受容形態に変化させる工程を示す。すなわち、ワークWの把持位置が変更された第1の主軸101が、不図示のチャック機構の動作によってチャックを閉じてワークWを把持する状態となり、ワークWの把持を再び、第2の主軸201から第1の主軸101へ切り替える。第2の主軸201に備えられたワーク保持ユニット400は、ワークWの把持を解除し、ワーク支持形態からワーク受容形態に変化する。具体的には、第2の主軸台202を第1の主軸台102から退避させつつ、これと同時に(連動して)、ワーク保持ユニット400を構成するコレットチャック410とカゴ420の軸線方向の相対位置を変化させる。これにより、カゴ(ワーク保持体)420のワーク受容部がコレットチャック410よりも第1の主軸101側に露出する。第2の主軸台202の後退は、ワーク保持ユニット400において、カゴ420が加工済みワークW2の下方に位置する状態で維持されつつ、コレットチャック410が加工済みワークW2から離間するワーク受容位置で停止する。これにより、突っ切りバイト302による突っ切り加工の加工領域から、第2の主軸201及びコレットチャック410が退避した状態となり、突っ切り加工を実施することが可能となる。
【0024】
図3(e)は、突っ切り加工によって加工済みワークW2が未加工ワークW1から切り離され、ワーク保持ユニット400のカゴ420によって受け止められたときの様子を示す。すなわち、突っ切り加工によって未加工ワークW1から切り離された加工済みワークW2は、加工済みワークW2の下方側を取り囲むように配置されたカゴ420によって、落下後直ぐ受け止められる。したがって、落下による破損が抑制されるとともに、分離後の加工済みワークW2の回収位置がカゴ420の中に定まることになるので、回収作業の効率化が図られる。
【0025】
図4~
図12を参照して、本実施例におけるワーク保持ユニット400の詳細について説明する。
【0026】
図4は、ワーク保持ユニット400の構成説明図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。なお、
図4(b)の断面は、コレットチャック410のスリット413の位置で切断した断面である。ワーク保持ユニット400は、概略、コレットチャック410と、カゴ(ワーク保持体)420、チャックスリーブ430、固定スリーブ440、可動スリーブ450、ばね460、キャップナット470により構成される。これら各構成部材は、ユニットとして一体化されており、従来構成の背面主軸に元々備えられているチャック機構と取り換えて背面主軸に組み付けることが可能に構成されている。
【0027】
図5は、コレットチャック410の構成説明図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。なお、
図5(b)の断面は、コレットチャック410のスリット413の位置で切断した断面である。
図5に示すように、コレットチャック410は、概略、筒状の構造体であり、中空部である内周面411の内側にカゴ420が組み付けられる。コレットチャック410は、第1の主軸101側(ワークW側)の開口縁に、それぞれ軸線方向に沿って突出するとともに軸線と直交する方向に互いに対向する一対の爪部(把持力付与部)412と、該爪部412の対向方向と直交する方向に対向配置される一対のスリット413と、を有する。スリット413は、上記開口縁から第1の主軸101側とは反対の方向に軸線方向に沿って延びるように形成されている。また、コレットチャック410の外周面415における第1の主軸101側には、第1の主軸101側に向かうにつれて外周面415の外径を徐々に拡径するように形成されたテーパ面414が設けられている。テーパ面414は、コレットチャック410の開閉操作力を受ける被作用面として、後述するチャックスリーブ430に設けられた作用面としてのテーパ面432と当接するように構成されている。
【0028】
図6は、ワーク保持体としてのカゴ420の構成説明図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。なお、
図6(b)の断面は、
図4(b)、
図5(b)等に対応した断面である。カゴ420は、概略、上方が開放された凹状の構造体である。カゴ420は、コレットチャック410の内周面11に対応した外周面を有する基部428と、基部428における第1の主軸101と対向する側から軸線方向(-Z軸方向)に延びる複数の延出部(腕部)424を備える。複数の延出部424は、基部428において第1の主軸101と対向する領域(端面427)における、第1の主軸101に保持されたワークWと対向する領域よりも外側の領域のうち、鉛直方向上方の領域を除いた領域から軸線方向に延びるように配置される。また、複数の延出部424は、軸線周りに所定幅のスリット423を介して互いに隣接するように等間隔に配置される。それぞれの延出部424の先端には、軸線と直交する方向であって軸線(軸心)に向かって内向きに屈曲して突出する鉤爪部425が設けられている。
【0029】
カゴ420は、基部428の端面427と、各延出部424の軸心対向面424a(延出部内側部分)と、軸心対向面424aに連なり端面427と対向する鉤爪部425の内側側面425a(鉤爪部内側部分)と、により、上方に開放された(下方に凹んだ)凹状のワーク受容部421を形成する。ワーク受容部421は、突っ切り加工の間、加工済みワークW2と未加工ワークW1との切り離し部の下方で待機することになるが、複数設けられたスリット423により、切削紛がワーク受容部421に堆積することが抑制される。
【0030】
複数ある鉤爪部425の先端部のうち軸心を挟んで対向配置される先端部は、ワーク保持ユニット400がワーク保持形態にあるときにワークWと直接当接して把持する部分(ワーク把持部422)となる。カゴ420は、コレットチャック410の締め付け力の変化、特に、爪部412間の把持力の変化に応じて、延出部424間のスリット423の間隔変化を伴いながら、対向するワーク把持部422の間に生じる把持力を変化させる。
【0031】
基部428の延出部424が延びる側とは反対側には、後述する可動スリーブ450の先端に設けられた雄ネジ部を含む連結部453が連結される、雌ネジ部を含む被連結部426を備える。本実施例のワーク保持ユニット400は、形態変化のための力を、可動スリーブ450を介してカゴ420で受ける構成となっている。
【0032】
図7は、コレットチャック410にカゴ420を組み込んだ状態の構成説明図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は正面図である。なお、
図7(b)の断面は、コレットチャック410のスリット413の位置で切断した断面である。コレットチャック410とカゴ420は、主に、コレットチャック410の内周面411と、カゴ420の基部428外周面と、が摺動して、軸線方向に相対位置を変更可能に構成されている。
【0033】
図7は、ワーク保持形態にあるときのコレットチャック410とカゴ420の相対位置を示している。コレットチャック410の爪部412の対向方向において、カゴ420の延出部424の複数の鉤爪部425のうち軸心を挟んで対向する対が爪部412に挟まれた(鉤爪部425の背面に爪部412が当接した)配置となる。これらの軸心を挟んで対向する爪部412、鉤爪部425の対は、チャックスリーブ430の作用によってスリット413、スリット423の間隔が狭まるコレットチャック410とカゴ420の変形を伴いながら、把持力が高められることになる。
【0034】
図8は、可動スリーブ450の構成説明図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。なお、
図8(b)の断面は、
図4(b)、
図5(b)等に対応した断面である。可動スリーブ450は、ワーク保持ユニット400に形態変化をもたらす変位手段の一部を構成する部材であり、ワーク保持ユニット400において軸線方向に移動可能に組み付けられる。
【0035】
可動スリーブ450は、概略、有底筒状の構造体である。可動スリーブ450は、開放された端部側に、後述するばね46の付勢力を受けるばね受け部としてのフランジ部451を有する。また、可動スリーブ450は、中空部である案内穴452の底に、後述するノックアウトパイプ204の押圧部204aの押圧力を受けるための被押圧部454を有する。また、可動スリーブ450は、閉じた端部側に、カゴ420の被連結部426と連結される連結部453を有する。これにより、可動スリーブ450は、被押圧部454で押圧力を受けた際に、カゴ420と一体となってコレットチャック410に対して軸線方向に相対位置を変化させる。すなわち、可動スリーブ450は、ワーク保持体としてのカゴ420の一部を構成する部材と言える。
【0036】
図9、
図10は、ワーク保持ユニット400が第2の主軸201に組み付けられた状態を説明する図であり、
図9は斜視外観図、
図10は断面図である。
図9、
図10は、ワーク保持ユニット400がワーク把持形態をとっているときの様子を示している。ワーク保持ユニット400は、キャップナット470の螺合部(雌ねじ部)471を、第2の主軸201の螺合部(雄ねじ部)201aに螺合することで、コレットチャック410、カゴ420、チャックスリーブ430、固定スリーブ440、可動スリーブ450、ばね460等の各構成部材が一体的に第2の主軸201のワーク保持穴内に組み付けられる。
【0037】
固定スリーブ440は、第1の主軸101側先端の突き当て部443がコレットチャック410の後端に突き当たり、第2の主軸201に対して軸線方向の移動が規制されて組み付けられる。これに対し、可動スリーブ450は、固定スリーブ440の案内孔442内に挿通され、案内孔442内を軸線方向に移動可能に組み付けられる。固定スリーブ440と可動スリーブ450の間には、ばね460が組み付けられている。ばね460は、固定スリーブ440の段差部(ばね受け部)441と、可動スリーブ450のフランジ部451と、に対して軸線方向に挟まれるように組み付けられ、固定スリーブ440と可動
スリーブ450との間に軸線方向の付勢力を付与する。可動スリーブ450は、後述するノックアウトパイプ204からの押圧力等の外力が加わっていない場合には、ばね460の付勢力により、第2の主軸201のワーク保持穴の奥側(第1の主軸101側とは反対側)に向かって移動する。この可動スリーブ450の移動により、可動スリーブ450と一体連結されたカゴ420もワーク保持穴の奥側に移動する。これにより、軸線方向の移動が規制されているコレットチャック410に対するカゴ420の相対位置が、ワーク把持形態を形成する相対位置となる。ワーク保持ユニット400は、上述した外力等が加えられない限り、ばね460の付勢力により、ワーク保持形態が維持されることになる。
【0038】
チャックスリーブ430は、第1の主軸101側の端部内周に、コレットチャック410のテーパ面414に対応したテーパ形状のテーパ面432を有する。また、チャックスリーブ430は、テーパ面432が設けられた端部とは反対側の端部が、第2の主軸201に備え付けられているチャック開閉スリーブ205の先端と係合する。チャック開閉スリーブ205は、第2の主軸201に設けられた不図示の流体圧シリンダから軸線方向に力を受けることで、チャックスリーブ430に対して第1の主軸101側に向かう軸線方向に作用する力を付与する。チャックスリーブ430は、チャック開閉スリーブ205に押されることで、軸線方向の移動が規制されたコレットチャック410に対し、第1の主軸101側に相対移動しようとする。このとき、軸線方向に対して所定の角度を有して当接するテーパ面414、432の作用により、コレットチャック410に対して軸心に向かう方向の分力を含む力が作用する。これにより、コレットチャック410にはスリット413の間隔を狭める(閉じる)変形が生じ、コレットチャック410の内周面411及び爪部412による締め付け力、特に、互いに対向する一対の爪部412の間の把持力が高められる。対向する爪部412の内側には、カゴ420の鉤爪部425が対向配置されているので、爪部412から受ける把持力によって鉤爪部425先端であるワーク把持部422の間の把持力も高められることになる。この把持力の操作により、ワークWを把持することができる。
【0039】
図11、
図12は、ワーク保持ユニット400が第2の主軸201に組み付けられた状態を説明する図であり、
図11は斜視外観図、
図12は断面図である。
図11、
図12は、ワーク保持ユニット400がワーク受容形態をとっているときの様子を示している。ワーク保持ユニット400は、第2の主軸201に備え付けられているノックアウトパイプ204を利用して、形態を変化させることができるように構成されている。ノックアウトパイプ204は、第2の主軸201のワーク保持穴内を軸線方向に進退移動可能に備えられており、本来は、第2の主軸201のワーク保持穴に保持されたワークを排出する(ワーク保持穴から押し出す)ために設けられた構成である。
【0040】
ノックアウトパイプ204が、第2の主軸201のワーク保持穴内を第1の主軸101側に向かって移動すると、その先端の押圧部204aが、可動スリーブ450の案内穴452の底面である被押圧部454に突き当たり、可動スリーブ450を第1の主軸101側に押す。可動スリーブ450が、ノックアウトパイプ204に押されてばね460の付勢力に抗して第1の主軸101側に移動することで、可動スリーブ450と連結されたカゴ420も第1の主軸101側に移動する。軸線方向の移動が規制されたコレットチャック410に対してカゴ420が第1の主軸101側に移動することで、コレットチャック410の内周面411の内側に配置されていたワーク受容部421が、コレットチャック410の爪部412が設けられた開口部から外部に露出する状態となる。これにより、ワーク保持ユニット400の形態が、ワーク保持形態からワーク受容形態に変化する。
【0041】
ワーク受容部421は、加工領域を避けつつ、加工済みワークW2の周囲を近接した距離で囲むように配置される。突っ切り工程においてワークWの先端はフリーな状態であるため、切り離されたワークW2が突っ切りの衝撃で跳ね飛ぶことがある。本実施例のワー
ク受容部421の構成によれば、突っ切り加工時において切り離されることになるワークW2に極近い位置で、その周囲を囲むように待機しているため、跳ね飛んだワークW2もキャッチし易くなる。したがって、ワークW2をより確実に回収することが可能となる。
【0042】
本実施例のワーク保持ユニット400によれば、ワークWの加工後、突っ切り加工までの工程の流れの中に、ワーク把持形態からワーク受容形態への形態変化の動作が組み込まれる。すなわち、第2の主軸201から第1の主軸101へのワークWの持ち直しが終わり、第2の主軸201が加工領域から外れる退避動作を行う際に、これと同時に、ワーク保持ユニット400においてコレットチャック410とカゴ420が相対位置を変化させてワーク受容形態へ変化する。したがって、ワークの受容態勢を整えるための工程時間を別途必要としないため、突っ切り加工からワーク回収までの工程を効率よく行うことができる。
【0043】
本実施例のワーク保持ユニット400は、ワークを把持するチャック部分を、コレットチャック410とカゴ420の2部材に分割した構成としている。これにより、例えば、ワーク把持部422の対向間隔が異なる複数種類のカゴ420を用意し、ワークWの寸法や種類に応じて、最適なカゴ420に付け替えて使用することが可能である。なお、コレットチャック410とカゴ420は、加工対象である棒材よりも高い硬度を有する、例えば、ステンレスや炭素鋼等などの材料で構成してよく、それぞれ同一の材料で構成してもよい。ただし、コレットチャック410とカゴ420に用いられる材料は特定のもの限定されるものではない。
【0044】
本実施例のワーク保持ユニット400は、移動体として、従来既知の背面主軸機構を利用してワーク回収装置を構成することが可能であり、設備コストの抑制を図ることができる。すなわち、背面主軸機構において一般的に備えられているノックアプトパイプを利用して、ワーク保持ユニット400の形態変化を操作することができる。無論、背面主軸機構とは独立したワーク回収装置を別途備えるようにしてもよい。
【0045】
以上、本実施例によれば、突っ切り加工からワーク回収までの工程を、従来構成よりも効率的に行うことが可能であり、かつ、従来の装置設備を利用可能で、ワークの種類に応じた装置構成の変更が容易な、汎用性の高いワーク回収装置を実現することができる。
【0046】
なお、本実施例で示したワーク保持ユニット400の構成は、あくまで一例であり、本実施例と同様の効果が得られる範囲において、本実施例とは異なる構成を採用してもよい。例えば、コレットチャック410のスリット分割数は、本実施例では2分割としたが、可能であれば3分割以上としてもよい。なお、ワークを受容する開口広さを最大限担保する観点からは、把持部が軸心を挟んで水平方向に対向する2分割が好ましい。また、ワークWの把持を、カゴ420の鉤爪部425を間に挟まずに、コレットチャック410の爪部412で直接行うように構成してもよい。また、カゴ420の延出部424の本数や配置、設けられる範囲等は、ワークの受容機能が担保される限りにおいて、加工工具の進退領域(加工領域)と重ならない領域内で種々の構成を採用してよい。
【0047】
また、本実施例では、工作機械の構成例として、第1の主軸と第2の主軸からなる構成について説明をしたが、工作機械の構成としては、例えば、第1の主軸の第2の主軸側の前にガイドブッシュが配置される場合もある。かかる構成においては、ガイドブッシュはZ軸方向に移動しないため、ワークの持ち直しは、第1の主軸の把持を解除したワークを第2の主軸が把持して後退することで引き出すことになる。
【0048】
具体的には、突っ切り加工前に第1の主軸が少し前進して次に加工するワークの先端部分を露出させ、第2の主軸が前進して先端部分に当たる部分を把持する。次に第1の主軸
のワーク把持を解除して次の加工ワークの長さ分を後退してから再度把持することで、次に加工するワークの準備をする。次に第2の主軸が先端部分のワークの把持を解除して後退した後に少し前進した第1の主軸をその分後退させて元の位置に戻してから突っ切り加工を行う。
【符号の説明】
【0049】
1…工作機械、100…主軸機構、101…主軸、102…主軸台、103…駆動機構、2…基台、200…主軸機構、201…主軸、202…主軸台、203…駆動機構、204…ノックアウトパイプ、205…チャック開閉スリーブ、300…刃物台、301…切削工具、302…突っ切りバイト、400…ワーク保持ユニット、410…コレットチャック、412…爪部、413…スリット、414…テーパ面、420…カゴ、421…ワーク受容部、422…ワーク把持部、423…スリット、424…延出部、425…鉤爪部、430…チャックスリーブ、432…テーパ面、440…固定スリーブ、450…可動スリーブ、470…キャップナット