(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122578
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】バルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 31/70 20060101AFI20220816BHJP
【FI】
F16K31/70 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019912
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】508215625
【氏名又は名称】株式会社青電舎
(71)【出願人】
【識別番号】391021684
【氏名又は名称】菱洋エレクトロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】権藤 雅彦
【テーマコード(参考)】
3H057
【Fターム(参考)】
3H057AA02
3H057BB41
3H057CC02
3H057DD13
3H057EE10
3H057FB05
3H057FC02
3H057FD05
(57)【要約】
【課題】消費電力の少ないバルブを提供すること。
【解決手段】バルブ10は、吸入口48と、吐出口49とを有するハウジング40と、前記ハウジング40に収容されており、前記吐出口49を閉塞可能な弁体29が取り付けられた移動子20と、通電された場合に、前記弁体29が前記吐出口49から離れる向きに前記移動子を動作させる第1形状記憶合金ワイヤ51と、通電された場合に、前記弁体29が前記吐出口49を閉塞する向きに前記移動子20を動作させる第2形状記憶合金ワイヤ52と、前記第1形状記憶合金ワイヤ51および前記第2形状記憶合金ワイヤ52のいずれにも通電されていない場合に、前記移動子20の位置を保持する保持体61、62とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入口と、吐出口とを有するハウジングと、
前記ハウジングに収容されており、前記吐出口を閉塞可能な弁体が取り付けられた移動子と、
通電された場合に、前記弁体が前記吐出口から離れる向きに前記移動子を動作させる第1形状記憶合金ワイヤと、
通電された場合に、前記弁体が前記吐出口を閉塞する向きに前記移動子を動作させる第2形状記憶合金ワイヤと、
前記第1形状記憶合金ワイヤおよび前記第2形状記憶合金ワイヤのいずれにも通電されていない場合に、前記移動子の位置を保持する保持体と
を備えるバルブ。
【請求項2】
前記移動子は、
第1広面と第2広面とを有する板状であり、
前記弁体が取り付けられた側面である弁体取付面と、
前記第1広面から立ち下がり、前記弁体取付面の側に凸である第1曲面部と、
前記第2広面から立ち下がり、前記弁体取付面から離れる側に凸である第2曲面部とを有し、
前記第1形状記憶合金ワイヤは、通電された場合に前記第1曲面部に密着し、
前記第2形状記憶合金ワイヤは、通電された場合に前記第2曲面部に密着する
請求項1に記載のバルブ。
【請求項3】
前記移動子は板状であり、
前記保持体は、
前記弁体が取り付けられた側面である弁体取付面と、
前記弁体取付面に隣接する第1側面から前記移動子を押圧する第1弾性体と、
前記第1側面とは反対側で前記弁体取付面に隣接する第2側面から前記移動子を押圧する第2弾性体とを有する
請求項1または請求項2に記載のバルブ。
【請求項4】
前記移動子は、絶縁性熱伝導体製である
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
弁の開閉に形状記憶合金ワイヤを使用するバルブが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のバルブでは、開状態にする場合には形状記憶合金ワイヤに電流を流し続け、閉状態にする場合には、形状記憶合金ワイヤに電流を流さない。したがって、開状態を長時間維持する場合には、消費電力が大きくなる。
【0005】
一つの側面では、消費電力の少ないバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
バルブは、吸入口と、吐出口とを有するハウジングと、前記ハウジングに収容されており、前記吐出口を閉塞可能な弁体が取り付けられた移動子と、通電された場合に、前記弁体が前記吐出口から離れる向きに前記移動子を動作させる第1形状記憶合金ワイヤと、通電された場合に、前記弁体が前記吐出口を閉塞する向きに前記移動子を動作させる第2形状記憶合金ワイヤと、前記第1形状記憶合金ワイヤおよび前記第2形状記憶合金ワイヤのいずれにも通電されていない場合に、前記移動子の位置を保持する保持体とを備える。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面では、消費電力の少ないバルブを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】
図2のIII-III線による断面図である。
【
図8】
図1のVIII-VIII線による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態1]
図1は、バルブ10の部分断面図である。
図2は、
図1のII矢視図である。
図3は、
図2のIII-III線による断面図である。バルブ10は、ハウジング40と、吸入口48と、吐出口49を備える。本実施の形態のハウジング40は中空の長方形板状である。ハウジング40の側面の中央部に吸入口48が、反対側の側面の中央部に吐出口49が、それぞれ固定されている。
【0010】
ハウジング40の一面に、第1端子41および第2端子42がそれぞれ二個ずつ配置されている。第1端子41および第2端子42は、ハウジング40の内部に固定された4本のワイヤ支持柱43とそれぞれ導通している。第1端子41および第2端子42は、ケーブルまたはコネクタ等を実装可能な導通パターンである。
【0011】
第1端子41および第2端子42は、ケーブルの端部にあらかじめ取り付けられた圧着端子を固定できる固定用端子であってもよい。第1端子41および第2端子42は、ケーブルの端部を巻き付けたネジを締め付けることにより、ケーブルを固定できるネジ穴を有してもよい。
【0012】
吸入口48および吐出口49は、チューブ取付用の口金である。吸入口48および吐出口49は、ハウジング40内部の空間に連通している。ハウジング40は、吸入口48および吐出口49を除き気密に構成されている。
【0013】
ハウジング40の内部に移動子20が収容されている。移動子20には、弁体29が取り付けられている。後述する機構により移動子20は
図1における上下方向に移動可能である。
図1および
図3においては、移動子20は可動範囲の上端に位置している。移動子20が下向きに移動した場合、弁体29が吐出口49を閉塞する。
【0014】
ハウジング40の内部には、4本のワイヤ支持柱43および2本の弾性体支持柱63がそれぞれ固定されている。ワイヤ支持柱43は、
図3におけるハウジング40の右上部、左上部、上下方向の中央部下寄りの右端と左端とに、それぞれ配置されている。
【0015】
右上部のワイヤ支持柱43と、左上部のワイヤ支持柱43とに、第1形状記憶合金ワイヤ51の両端が接続されている。中央部の右端のワイヤ支持柱43と左端のワイヤ支持柱43とに、第2形状記憶合金ワイヤ52の両端が接続されている。第1形状記憶合金ワイヤ51と第2形状記憶合金ワイヤ52との間に、略T字板形状の移動子20が挟まれている。移動子20の形状の詳細については、後述する。
【0016】
以下の説明では、移動子20の縦棒部分の側面を、第1側面32および第2側面33と記載する。第1側面32と弾性体支持柱63との間に、第1弾性体61が配置されている。第2側面33と弾性体支持柱63との間に、第2弾性体62が配置されている。第1弾性体61および第2弾性体62は、たとえば圧縮コイルバネ、板バネまたはゴム製の棒である。第1弾性体61および第2弾性体62は、移動子20の位置を保持する保持体の例示である。
【0017】
以下の説明では、第1弾性体61および第2弾性体62が圧縮コイルばねである場合を例にして説明する。移動子20は、第1弾性体61および第2弾性体62により左右両側から押圧されている。
【0018】
以下の説明では、第1形状記憶合金ワイヤ51と第2形状記憶合金ワイヤ52とを区別する必要がない場合には、形状記憶合金ワイヤ50と記載する場合がある。形状記憶合金ワイヤ50の端部は、それぞれのワイヤ支持柱43に溶接または機械的な締め付け等により固定されている。ワイヤ支持柱43と形状記憶合金ワイヤ50とは、導通している。
【0019】
バルブ10の使用方法の概要を説明する。吸入口48および吐出口49には、それぞれ図示を省略するチューブが取り付けられる。吸入口48側のチューブは、コンプレッサー等の給気源に接続される。吐出口49側のチューブは、エアクッション等の空気消費場所に接続される。
【0020】
図3においては、バルブ10は開状態である。吸気源から吸入口48に供給された空気は、吐出口49を通って空気消費場所に供給される。
【0021】
2個の第2端子42の間にパルス電圧を印加した場合、移動子20が
図1の下向きに移動して、弁体29が吐出口49を閉塞する。したがってバルブ10は、吸入口48と吐出口49との間に空気が流れない閉状態になる。閉状態になった後は、吸入口48から供給される空気の圧力により移動子20および弁体29が吐出口49に押し付けられた状態になるため、バルブ10は閉状態維持される。
【0022】
2個の第1端子41の間にパルス電圧を印加した場合、移動子20が
図1の上向きに移動する。バルブ10は、開状態に戻る。
【0023】
すなわち、第1端子41および第2端子42にパルス電圧を印加することにより、バルブ10を閉状態と開状態との間で切り替え可能である。閉状態に切り替えた後は、吸入口48からの空気圧により開状態が維持される。したがって、バルブ10は開状態と閉状態を切り替える時のみ電力を消費し、開状態または閉状態を維持する間は電力を消費しない。
【0024】
パルス電圧により移動子20が移動する機構について説明する。形状記憶合金ワイヤ50は、温度が変態点を超えた場合に、瞬時に約4パーセントから5パーセント程度短くなり、冷えると元の長さに戻る。本実施の形態で使用する形状記憶合金ワイヤ50の変態点は、70℃から100℃程度である。本実施の形態で使用する形状記憶合金ワイヤ50の太さは、直径0.1ミリメートル程度である。
【0025】
第1形状記憶合金ワイヤ51の両端にそれぞれ接続された2本のワイヤ支持柱43は、第1端子41に導通している。第2形状記憶合金ワイヤ52の両端にそれぞれ接続された2本のワイヤ支持柱43は、第2端子42に導通している。ワイヤ支持柱43の詳細については後述する。
【0026】
たとえば、ハウジング40に設けた貫通孔を介してハウジング40の外側から導電性のネジによりワイヤ支持柱43を固定した後に、貫通孔を気密に接着することにより、ワイヤ支持柱43と第1端子41または第2端子42との導通を実現できる。ハウジング40の一面に、スルーホール付きの配線基板を用いて、ハウジング40の内部のワイヤ支持柱43と、ハウジング40の表面の第1端子41または第2端子42とを導通させてもよい。
【0027】
図4および
図5は、移動子20の斜視図である。
図6は、
図4のVI矢視図である。前述のとおり、移動子20は略T字板形状である。
図4は移動子20の第1広面215がみえる側の斜視図であり、
図5は移動子20の第2広面225がみえる側の斜視図である。T字の横棒の中央部上端に、通気溝24が設けられている。
【0028】
第1広面215には第1溝219が設けられている。
図4に示すように、第1溝219は、T字の縦棒側に凸形状の曲面である第1曲面部21を側面に有する。すなわち、第1曲面部21は移動子20の第1広面215から立ち下がる曲面である。
【0029】
第2広面225には、第2溝229が設けられている。
図5に示すように、第2溝229は、縦棒と反対側に凸形状の曲面である第2曲面部22を側面に有する。すなわち、第2曲面部22は第2広面225から立ち下がる曲面である。
【0030】
第1曲面部21および第2曲面部22は、
図4および
図5に例示する円筒面に限定しない。第1曲面部21および第2曲面部22は、たとえば両端が平面状であり、中央部で滑らかに接続していてもよい。
【0031】
移動子20の縦棒の部分の側面は、前述のとおり第1側面32と第2側面33であり、縦棒の先端の端面は弁体取付面31である。すなわち、第1側面32および第2側面33は、弁体取付面31と隣接する面である。なお、弁体取付面31と第1側面32との境界、および、弁体取付面31と第2側面33との境界に、面取り加工等が施されていてもよい。
【0032】
弁体取付面31に、弁体29が固定されている。弁体29は、吐出口49のハウジング40内部側の端部を覆う寸法の円板状である。弁体29の材質は、たとえばシリコーンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴムまたはウレタンゴム等の柔軟で気密性の高い材料である。
【0033】
移動子20と弁体29とは、接着固定されている。弁体29は、インサート成形により移動子20と一体に成形されていてもよい。弁体29に一体成型した突起と、移動子20に設けた穴とが嵌め合わされることにより、弁体29が移動子20に固定されていてもよい。
【0034】
第1側面32および第2側面33から、円柱状の保持突起25が突出している。保持突起25は、圧縮コイルばねである第1弾性体61および第2弾性体62の端部に挿入可能な寸法である。
【0035】
移動子20は、絶縁性熱伝導体製である。具体的には、たとえば移動子20は非導電性の酸化被膜、すなわちアルマイト被膜により覆われたアルミニウム製である。移動子20は、窒化アルミニウムまたは窒化ケイ素等の、熱伝導性の高い絶縁性セラミックス製であってもよい。移動子20は、高熱伝導性グレードの樹脂製であってもよい。
【0036】
図7は、可動部分を除いたバルブ10の説明図である。
図7は、
図3の断面図から可動部分である移動子20、第1形状記憶合金ワイヤ51、第2形状記憶合金ワイヤ52、第1弾性体61および第2弾性体62を取り除いた状態を示す。
【0037】
前述のとおり、4本のワイヤ支持柱43は、
図7におけるハウジング40の右上部、左上部、上下方向の中央部下寄りの右端と左端とに配置されている。2本の弾性体支持柱63は、ハウジング40の右下部および左下部に配置されている。
【0038】
ワイヤ支持柱43および弾性体支持柱63は、いずれも
図7の紙面に対して垂直な状態でハウジング40の内面に固定されている。ワイヤ支持柱43および弾性体支持柱63は、それぞれ両持ちで固定されていても、片持ちで固定されていてもよい。弾性体支持柱63は、ハウジング40と一体成型されていてもよい。
【0039】
2本の弾性体支持柱63の互いに対向する面は平面になっており、円柱状の保持突起65が突出している。保持突起65は、前述の保持突起25と略同一寸法であり、圧縮コイルばねである第1弾性体61および第2弾性体62の端部に挿入可能である。
【0040】
ワイヤ支持柱43は、たとえば銅合金等の導電性材料製である。ワイヤ支持柱43は、たとえば雄ネジ部と雌ネジ部により長手方向に接続された2本の円柱により構成されている。2本の円柱の接続部に形状記憶合金ワイヤ50を挟んで締め込むことにより、形状記憶合金ワイヤ50が固定されるとともに、形状記憶合金ワイヤ50とワイヤ支持柱43とが導通する。
【0041】
2本の円柱の接続部に、形状記憶合金ワイヤ50両端にそれぞれ取り付けられた圧着端子が挟まれており、共締めにより固定されても良い。形状記憶合金ワイヤ50は、端部をワイヤ支持柱43に巻き付けた状態で、スポット溶接等により固定されていてもよい。形状記憶合金ワイヤ50は、端部をワイヤ支持柱43に設けた小孔に挿通した状態で、スポット溶接等により固定されていてもよい。
【0042】
バルブ10は、第1端子41および第2端子42と、図示を省略するケーブルとを介して図示を省略する制御回路に接続されている。第1端子41およびワイヤ支持柱43を介して、第1形状記憶合金ワイヤ51に後述する駆動電圧が印加される。第2端子42およびワイヤ支持柱43を介して、第2形状記憶合金ワイヤ52に後述する駆動電圧が印加される。駆動電圧は、たとえば20ボルト、継続時間2ミリ秒のパルス電圧である。第1形状記憶合金ワイヤ51と第2形状記憶合金ワイヤ52とは、絶縁されている。
【0043】
図8は、
図1のVIII-VIII線による断面図である。
図9は、
図8のA部拡大図である。第1曲面部21を側面に有する第1溝219の奥に、第1形状記憶合金ワイヤ51が配置されている。第1溝219の手前側に、略円弧状のワイヤ保持具54が嵌め込まれている。ワイヤ保持具54は、ゴム製または柔軟な樹脂材料製であり、第1溝219に押し込むことで固定される。
【0044】
図3に戻って説明を続ける。前述のとおり、移動子20は
図3における上下方向に移動可能である。
図3においては、移動子20は可動範囲の上端に位置している。
図3においては、第1形状記憶合金ワイヤ51および第2形状記憶合金ワイヤ52のいずれにも電圧は印加されていない。
図3に示すように、第1形状記憶合金ワイヤ51は弛んだ状態になっている。
【0045】
ワイヤ保持具54により、弛んだ状態の第1形状記憶合金ワイヤ51が第1曲面部21を有する溝から外れないように保持されている。なお、
図3に示すワイヤ保持具54の形状は例示である。ワイヤ保持具54は、板状または球状等の、任意の形状であってもよい。
【0046】
図3に示す状態では、第1弾性体61および第2弾性体62は自然長よりも短い状態に圧縮されている。移動子20は、第1弾性体61および第2弾性体62に押圧されて、
図3に示す位置で安定的に保持されている。
【0047】
図10および
図11は、バルブ10の閉状態を説明する説明図である。
図10は、
図3と同一の断面による断面図である。
図11は、
図2のXI-XI線による断面図である。2つの第2端子42の間に駆動電圧を印加して第2形状記憶合金ワイヤ52に通電することにより、第2形状記憶合金ワイヤ52はジュール熱により瞬時に発熱する。第2形状記憶合金ワイヤ52は、温度が変態点を超えた場合に瞬時に短くなる。
【0048】
第2形状記憶合金ワイヤ52が第2曲面部22を
図11における下向きに牽引する。移動子20が下向きに移動する。弁体29が吐出口49を閉塞し、バルブ10が閉状態になる。
【0049】
図11に示すようにワイヤ支持柱43は、移動子20が吐出口49側に移動した場合であっても、第2曲面部22よりも吐出口49に近い位置で第2形状記憶合金ワイヤ52の両端を固定する位置に配置されている
【0050】
図10に示すように、第1形状記憶合金ワイヤ51は、移動子20が一番下側に移動した状態で、弛まずにちょうど第1曲面部21に触れる程度の長さに調整されている。
【0051】
第2曲面部22側の面においては、
図11に示すように、2個のワイヤ保持具54により、第2形状記憶合金ワイヤ52が保持されている。第1曲面部21側のワイヤ保持具54と、第2曲面部22側のワイヤ保持具54とは、同一形状であっても、異なる形状であってもよい。
【0052】
図10に示す状態においても、第1弾性体61および第2弾性体62は自然長よりも短い状態に圧縮されている。移動子20は、第1弾性体61および第2弾性体62に押圧されて、
図10に示す位置で安定的に保持されている。すなわち、移動子20は、
図3に示す位置と、
図10に示す位置とで安定し、その途中の位置では安定しない、いわゆるトグル動作を行なう。
【0053】
図3に示す状態と、
図10に示す状態との間で移動子20が移動する途中においては、第1弾性体61および第2弾性体62は追加的に圧縮されて、さらに短くなる。第1弾性体61および第2弾性体62の最小の長さは、許容荷重時長さよりも長いことが望ましい。
【0054】
ここで許容荷重は、塑性変形等の損傷を与えずに弾性体に加えることが可能な最大の荷重を意味する。許容荷重時長さは、許容荷重を加えた場合の弾性体の長さを意味する。
移動子20が移動する過程で、第1弾性体61および第2弾性体62が許容荷重時長さよりも長い状態を維持することにより、第1弾性体61および第2弾性体62に許容荷重を超える力が加わることを防止できる。このようにすることにより、バルブ10の開閉を多数回繰り返すことが可能な、寿命の長いバルブ10を提供できる。
【0055】
バルブ10が開状態および閉状態である場合に、第1弾性体61および第2弾性体62は、自然長と許容荷重時長さとの中間程度の長さであることが望ましい。すなわち、開状態および閉状態においては、第1弾性体61および第2弾性体62は、許容加重の半分程度の力で、移動子20を押圧する。
【0056】
たとえば、バルブ10の姿勢が変化した場合、または、バルブ10を搭載した機器に加速度が加わった場合等には、移動子20に外力が加わる可能性がある。第1弾性体61および第2弾性体62が十分な力で移動子20を押圧していれば、外力が加わった場合であっても開状態または閉状態で移動子20を確実に保持できる。したがって、漏れの発生しにくいバルブを提供できる。
【0057】
第1弾性体61および第2弾性体62に加わる力が許容荷重の半分程度の力であれば、開状態または閉状態が長時間継続した場合であっても劣化が少なく、寿命の長いバルブ10を提供できる。
【0058】
姿勢の変化や、加速度の発生のない安定した環境でバルブ10を使用する場合には、第1弾性体61および第2弾性体62はトグル動作を実現できる最低限の力で移動子20を押圧すれば良い。したがって、バルブ10が開状態および閉状態である場合に、第1弾性体61および第2弾性体62は、自然長よりも若干圧縮した程度の長さであっても良い。
【0059】
図12は、バルブ10の閉状態を説明する説明図である。
図12は、第2形状記憶合金ワイヤ52に発生したジュール熱が移動子20内に拡散して、常温に戻った後の状態を示す。第2形状記憶合金ワイヤ52が自然長に戻り、弛んだ状態になっている。弛んだ第2形状記憶合金ワイヤ52は、ワイヤ保持具54により、第2曲面部22を有する溝から外れないように保持されている。
【0060】
移動子20は、前述のとおり第1弾性体61と第2弾性体62とが実現するトグル動作の効果により、
図12に示す位置で安定的に保持されている。さらに、吸入口48から供給される空気の圧力により、移動子20が吐出口49側に押し付けられる。吸入口48と通気溝24とが対向しているため、空気圧により移動子20が傾いて、吐出口49と弁体29との間に隙間が生じて空気が漏れることが防止される。以上により、電圧を供給しなくてもバルブ10は閉状態を維持できる。
【0061】
図13は、バルブ10の開状態を説明する説明図である。
図13は、
図3と同一の断面による断面図である。2つの第1端子41の間に駆動電圧を印加して第1形状記憶合金ワイヤ51に通電することにより、第1形状記憶合金ワイヤ51がジュール熱により瞬時に発熱する。第1形状記憶合金ワイヤ51は、温度が変態点を超えた場合に瞬時に短くなる。
【0062】
第1形状記憶合金ワイヤ51が第1曲面部21を
図13における上向き、すなわち吐出口49から離れる向きに牽引する。移動子20が上向きに移動する。弁体29が吐出口49から離れ、バルブ10が開状態になる。通気溝24が存在することにより、吸入口48から流入した空気の通路が十分に確保される。
【0063】
図13に示すようにワイヤ支持柱43は、移動子20が吸入口48に移動した場合であっても、第1曲面部21よりも吸入口48に近い位置で第1形状記憶合金ワイヤ51の両端を固定する位置に配置されている
【0064】
図示を省略するが、第2形状記憶合金ワイヤ52は移動子20が一番上側に移動した状態で、弛まずにちょうど第2曲面部22に触れる程度の長さに調整されている。
【0065】
図3に戻って説明を続ける。
図3は、第1形状記憶合金ワイヤ51に発生したジュール熱が移動子20内に拡散して、常温に戻った後の状態を示す。第1形状記憶合金ワイヤ51が自然長に戻り、弛んだ状態になっている。
【0066】
移動子20は、前述のとおり第1弾性体61と第2弾性体62とが実現するトグル動作の効果により、
図3に示す位置で安定的に保持されている。以上により、電圧を供給しなくてもバルブ10は開状態を維持できる。
【0067】
形状記憶合金ワイヤ50の熱容量は、移動子20の熱容量に比べて非常に小さいので、パルス電圧を繰り返し印加して開閉動作を行なった場合であっても、移動子20の温度は殆ど上昇しない。移動子20に移動した熱量は、第1端子41に接続されたケーブルまたはハウジング40の外表面を介して自然に放熱される。なお、バルブ10の開閉動作を頻繁に行なう場合には、ペルチェ素子または放熱板等の冷却機構をバルブ10に取り付けても良い。
【0068】
吸入口48は、
図1における右側または左側に寄っていてもよい。吸入口48は、ハウジング40の右側面、左側面、正面または裏面に固定されていてもよい。バルブ10を設置する場所に合わせて、任意の場所に吸入口48を設けることができる。
【0069】
吐出口49は、
図1における右側または左側に寄っていてもよい。弁体29は、吐出口49を閉塞可能な位置に配置される。
【0070】
ハウジング40は、長方形板状に限定しない。バルブ10を設置する場所に合わせて、任意の形状であってもよい。ハウジング40には、たとえばバルブ10の取り付け位置を定める突起、窪み、穴または溝等が、設けられていてもよい。
【0071】
第1曲面部21は、第1広面215から立ち上がる曲面であってもよい。同様に第2曲面部22は、第2広面225から立ち上がる曲面であってもよい。たとえば、第1広面215および第2広面225にそれぞれ畝状の構造を設けることにより、第1曲面部21および第2曲面部22を形成できる。第1曲面部21と第2曲面部22との一方が広面から立ち上がる曲面であり、他方が広面から立ち下がる曲面であってもよい。
【0072】
第1曲面部21および第2曲面部22は、移動子20から突出するピンの列等により形成されていても良い。絶縁性の樹脂またはセラミックス等に、高熱伝導性材料である真鍮製のピン等を相互に接触しない状態で埋め込むことにより、絶縁性と熱伝導性とを両立できる。
【0073】
移動子20は、略T字板形状に限定しない。移動子20は、第1曲面部21および第2曲面部22を有し、弁体29を取り付けて、第1弾性体61と第2弾性体62とで押圧可能な任意の形状にすることができる。
【0074】
形状記憶合金ワイヤ50の表面が絶縁性被覆で覆われている場合には、移動子20は導電性であってもよい。
【0075】
ハウジング40の一面に制御回路が搭載された配線基板を用いて、制御回路とバルブ10とを一体にしてもよい。制御回路が搭載された配線基板をハウジング40に固定して、制御回路とバルブ10とを一体にしてもよい。
【0076】
本実施の形態によると、パルス電圧を印加することにより、開状態と閉状態とを切り替え可能なバルブ10を提供できる。
【0077】
本実施の形態によると、第1弾性体61および第2弾性体62により開状態および閉状態を維持できるため、消費電力量の少ないバルブ10を提供できる。なお、閉状態を長時間維持する場合には、所定の時間間隔で2つの第2端子42の間に電圧を印加して移動子20を吐出口49側に引っ張ることにより、漏れの発生を確実に防止できる。
【0078】
本実施の形態によると、開状態および閉状態を維持している間は、形状記憶合金ワイヤ50に張力が加わらないため、耐久性の高いバルブ10を提供できる。
【0079】
本実施の形態のバルブ10は、たとえば自動車のシートおよびマッサージチェア等のエアクッションの制御に使用できる。引用文献1に記載のバルブを使用する場合に比べて、消費電力の少ない自動車およびマッサージチェアを実現できる。
【0080】
既存のバルブにおいては、開閉に電磁弁が使用される場合がある。電磁弁は、磁性体を含むため重量が大きい傾向がある。本実施の形態によると、電磁弁を使用する場合に比べて軽量なバルブ10を実現できる。
【0081】
バルブ10は、空気以外のガス、または液体等、任意の流体の制御用であってもよい。バルブ10を構成する各部品には、制御対象の流体に対して十分な耐久性を備える材料を使用する。なお、導電性の流体を制御する場合には、形状記憶合金ワイヤ50、ワイヤ支持柱43および両者の接続部を絶縁性被覆で覆い、制御対象の流体から絶縁する。
【0082】
たとえば、農薬散布用ドローン用の、農薬散布のオンオフ切替バルブにバルブ10を使用できる。軽量で、かつ消費電力が少ないバルブ10を用いることにより、飛行可能時間の長い農薬散布用ドローンを提供できる。
【0083】
実施例で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組合せ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものでは無いと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
10 バルブ
20 移動子
21 第1曲面部
215 第1広面
219 第1溝
22 第2曲面部
225 第2広面
229 第2溝
24 通気溝
25 保持突起
29 弁体
31 弁体取付面
32 第1側面
33 第2側面
40 ハウジング
41 第1端子
42 第2端子
43 ワイヤ支持柱
48 吸入口
49 吐出口
50 形状記憶合金ワイヤ
51 第1形状記憶合金ワイヤ
52 第2形状記憶合金ワイヤ
54 ワイヤ保持具
61 第1弾性体(保持体)
62 第2弾性体(保持体)
63 弾性体支持柱
65 保持突起