(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122629
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】OVD形成媒体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20220816BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/08 A
G02B5/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019983
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】岡村 一太朗
(72)【発明者】
【氏名】早田 義人
(72)【発明者】
【氏名】戸田 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】篠田 光一
【テーマコード(参考)】
2H042
2H249
【Fターム(参考)】
2H042DA01
2H042DA11
2H042DB07
2H042DC04
2H249AA03
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA31
2H249AA41
2H249AA60
2H249AA63
2H249AA64
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高価な設備を要さずに簡便なプロセスによって厳密に制御された厚さで形成可能な光学機能層を有するOVD形成媒体を提供する。
【解決手段】レリーフ構造を表面に有する基材11と、該レリーフ構造を被覆する光学機能層15とを含むOVD形成媒体20であって、該光学機能層15が、2次元材料の粒子10を含む、OVD形成媒体20。OVD形成媒体は、(a)レリーフ構造を表面に有する基材11を準備すること、(b)2次元材料の粒子10および液状媒体を含む液状物を該レリーフ構造上に適用して、該レリーフ構造を被覆し、かつ、該2次元材料の粒子10を含む光学機能層15を形成することを含む製造方法によって製造され得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レリーフ構造を表面に有する基材と、
該レリーフ構造を被覆する光学機能層と
を含むOVD形成媒体であって、該光学機能層が、2次元材料の粒子を含む、OVD形成媒体。
【請求項2】
前記2次元材料が、1つまたは複数の層を含む層状材料であり、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む、請求項1に記載のOVD形成媒体。
【請求項3】
前記光学機能層における前記2次元材料の粒子の含有量が、50体積%以上である、請求項1または2に記載のOVD形成媒体。
【請求項4】
前記光学機能層が、3μm以下の厚さを有する、請求項1~3のいずれかに記載のOVD形成媒体。
【請求項5】
前記光学機能層が、常時または視認条件に応じて、光反射層または光透過層として機能する、請求項1~4のいずれかに記載のOVD形成媒体。
【請求項6】
前記光学機能層が、第1部分および第2部分を含み、第1部分の厚さより第2部分の厚さが小さい、請求項1~5のいずれかに記載のOVD形成媒体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のOVD形成媒体を含む、物品。
【請求項8】
OVD形成媒体の製造方法であって、
(a)レリーフ構造を表面に有する基材を準備すること、
(b)2次元材料の粒子および液状媒体を含む液状物を該レリーフ構造上に適用して、該レリーフ構造を被覆し、かつ、該2次元材料の粒子を含む光学機能層を形成すること
を含む、製造方法。
【請求項9】
前記(b)が、
(b1)前記基材に対して前記液状物をスプレーすることによって、該液状物を前記レリーフ構造上に適用して、前記光学機能層の前駆体を形成すること、および
(b2)前記前駆体を乾燥させること
を含む、請求項8に記載のOVD形成媒体の製造方法。
【請求項10】
前記(b1)にて、前記基材に対して90度未満の角度の吐出方向で、前記液状物をスプレーする、請求項9に記載のOVD形成媒体の製造方法。
【請求項11】
前記角度が、45度以下である、請求項10に記載のOVD形成媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OVD形成媒体およびその製造方法に関する。また、本発明は、OVD形成媒体を含む物品にも関する。
【背景技術】
【0002】
OVD(Optical Variable Device:光学可変デバイス)は、目視および/または他の適切な手段により認識可能な光学的な変化を呈し得るデバイスである。OVDは、偽造/模倣防止等のセキュリティ技術として利用されるほか、高い意匠性/装飾性を有するため様々な用途に利用されている。
【0003】
OVDが形成された媒体(本明細書にて「OVD形成媒体」と言う)には様々なタイプのものがある。従来、表面レリーフ型のOVD形成媒体の一例として、レリーフ構造を表面に有する透明基材と、該レリーフ構造の一部を被覆する光反射層とを有するものが知られている(例えば特許文献1~2を参照のこと)。かかるOVD形成媒体は、レリーフ構造の一部を光反射層で被覆し、レリーフ構造の残りの部分は光を透過させられるので、視認条件に応じて、異なる視覚効果を呈することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-107483号公報
【特許文献2】国際公開第2010/049676号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のOVD形成媒体においては、光反射層として、真空蒸着またはスパッタリングにより形成された金属層が使用されている。かかる方法により金属層を形成する場合、真空蒸着またはスパッタリングは真空プロセスを要し、真空蒸着またはスパッタリングのための高価な設備を用いて複雑なプロセスを実施する必要があるという難点がある。特に、真空蒸着の場合は基材が熱により変形するおそれがあり得る。
【0006】
より詳細には、特許文献1には、レリーフ構造の一部を被覆する光反射層としての金属層を形成するための2つの方法が開示されている。第1の方法では、金属源に対して基材を傾斜させて配置した状態で、基材の対向領域に金属を真空蒸着することによって、金属層を形成している(特許文献1の
図18を参照のこと)。第2の方法では、開口スリットを有するマスク部材を用いて、該マスク部材を介して基材の該開口スリットに対応する領域に金属を真空蒸着することによって、金属層を形成している(特許文献1の
図19を参照のこと)。第1の方法は、通常、金属源が固定されているため、大面積の基材に金属層を形成する場合には、金属源から蒸着位置までの距離および角度が異なるために、金属層の品質バラつきが生じ得るという問題、更に、真空体積を大きくする必要があるため、装置の大型化を招くという問題がある。第2の方法は、該マスク部材に付着した金属は廃棄されるので、材料ロスを生じる(材料価格の増大や環境負荷が大きい)という問題、更に、所定の開口スリットを有するマスク部材を作製して、該マスク部材を基材と位置合わせして配置する必要があるため、設備価格の更なる増大を招くという問題がある。
【0007】
他方、特許文献2のOVD形成媒体においては、レリーフ構造の一部を被覆する光反射層としての金属層を、パターン形式で印刷することにより形成している。より詳細には、特許文献2では、フレーク状またはプレート状のような金属粒子とバインダとを含むインクをパターンの形態で透明高屈折率層上に印刷することによって、金属層を形成している。特許文献2には、フレーク状またはプレート状のような金属粒子の厚さ(プレート厚さ)は10nmから100nmの範囲であるが、ホログラフィックなまたは回折的な構造に適用するには、好ましい厚さは15nmから100nmの範囲であることが記載されており、具体的には、厚さ25nmのアルミニウム小片が記載されている。しかしながら、金属粒子を、例えば20nm以下、特に10nm未満の厚さで、シート状の形状に制御して得ることは、実際には極めて困難である。
【0008】
また、特許文献2には、金属インク層は、下側の情報が見えるか否かに応じて不透明または半透明であり得ることが記載されているが、このことを実現するための具体的構成は開示されていない。特許文献2には、金属層の下の透明高屈折率層の厚さを制御することが開示されているが、金属層の厚さを制御することは開示されていない。特許文献2に記載されるように、フレーク状またはプレート状のような金属粒子とバインダとを含むインクを印刷することによって金属層を形成する場合には、金属層の厚さを厳密に制御することは困難である。
【0009】
本発明者らは、金属層を使用することから離れて、光反射層のみに限定されない光学機能層を有する全く新規なOVD形成媒体を実現することを模索した。
【0010】
本発明は、高価な設備を要さずに簡便なプロセスによって厳密に制御された厚さで形成可能な光学機能層を有するOVD形成媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、2次元材料の粒子を含む層が光学機能を発現し得ることを独自に見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の1つの要旨によれば、
レリーフ構造を表面に有する基材と、
該レリーフ構造を被覆する光学機能層と
を含むOVD形成媒体であって、該光学機能層が、2次元材料の粒子を含む、OVD形成媒体が提供される。
【0013】
本発明の1つの態様において、前記2次元材料が、1つまたは複数の層を含む層状材料であり、前記1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み得る。
【0014】
本発明の1つの態様において、前記光学機能層における前記2次元材料の粒子の含有量が、50体積%以上であり得る。
【0015】
本発明の1つの態様において、前記光学機能層が、3μm以下の厚さを有し得る。
【0016】
本発明の1つの態様において、前記光学機能層が、常時または視認条件に応じて、光反射層または光透過層として機能し得る。
【0017】
本発明の1つの態様において、前記光学機能層が、第1部分および第2部分を含み、第1部分の厚さより第2部分の厚さが小さくてよい。
【0018】
本発明のもう1つの要旨によれば、本発明の前記OVD形成媒体を含む、物品が提供される。
【0019】
本発明の更にもう1つの要旨によれば、
OVD形成媒体の製造方法であって、
(a)レリーフ構造を表面に有する基材を準備すること、
(b)2次元材料の粒子および液状媒体を含む液状物を該レリーフ構造上に適用して、該レリーフ構造を被覆し、かつ、該2次元材料の粒子を含む光学機能層を形成すること
を含む、製造方法が提供される。
【0020】
本発明の1つの態様において、前記(b)が、
(b1)前記基材に対して前記液状物をスプレーすることによって、該液状物を前記レリーフ構造上に適用して、前記光学機能層の前駆体を形成すること、および
(b2)前記前駆体を乾燥させること
を含み得る。
【0021】
本発明の1つの態様において、前記(b1)にて、前記基材に対して90度未満の角度の吐出方向で、前記液状物をスプレーし得る。
【0022】
本発明の1つの態様において、前記角度が、45度以下であり得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明のOVD形成媒体は、レリーフ構造を表面に有する基材と、該レリーフ構造を被覆する光学機能層とを含み、該光学機能層が、2次元材料の粒子を含む。本発明を限定するものではないが、かかる光学機能層は、2次元材料の粒子および液状媒体を含む液状物をレリーフ構造上に適用することにより形成可能であり、更に、適用条件によって、光学機能層の厚さを厳密に制御可能である。よって、本発明によれば、高価な設備を要さずに簡便なプロセスによって厳密に制御された厚さで形成可能な光学機能層を有するOVD形成媒体、かかるOVD形成媒体を含む物品、およびかかるOVD形成媒体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の1つの実施形態におけるOVD形成媒体を説明する図であって、(a)はOVD形成媒体の概略模式断面図を示し、(b)は基材上の光学機能層の概略模式断面図を示し、(c)は光学機能層における2次元材料の概略模式斜視図を示す。
【
図2】本発明の1つの実施形態において利用可能な2次元材料であるMXeneを示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXeneを示し、(b)は多層(例示的に二層)MXeneを示す。
【
図3】本発明の1つの実施形態におけるOVD形成媒体の製造方法を説明する概略模式図である。
【
図4】本発明の1つの実施形態の改変例におけるOVD形成媒体を説明する図であって、(a)はOVD形成媒体の概略模式断面図を示し、(b)はOVD形成媒体の概略模式上面図を示す。
【
図5】本発明の1つの実施形態の改変例におけるOVD形成媒体の製造方法を説明する概略模式図である。
【
図6】本発明の1つの実施形態における物品の概略模式上面図である。
【
図7】実施例7~10の部分透過性の評価にて使用した下地層(格子状の模様が描かれた紙)の概略模式上面図である。
【
図8】実施例10の部分透過性の評価にて、下地層上に配置したOVD形成媒体を
図4(a)のC方向に沿って視認した場合における、OVD形成媒体の外観(概略模式上面図)を示す。
【
図9】実施例10の部分透過性の評価にて、下地層上に配置したOVD形成媒体を
図4(a)のC’方向に沿って視認した場合における、OVD形成媒体の外観(概略模式上面図)を示す。
【
図10】実施例9~10の改変例として、光学機能層の材料および/または厚さt
2を異ならせたときに、下地層上に配置したOVD形成媒体を
図4(a)のC’方向に沿って視認した場合における、OVD形成媒体の外観(概略模式上面図)を示す。
【
図11】(a)および(b)は、実施例9~10の改変例として、光学機能層の材料および/または厚さt
1を異ならせたときに、下地層上に配置したOVD形成媒体を、それぞれ
図4(a)のC方向およびC’方向に沿って視認した場合における、OVD形成媒体の外観(概略模式上面図)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の1つの実施形態におけるOVD形成媒体およびその製造方法、ならびにOVD形成媒体を含む物品について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0026】
図1(a)~(c)を参照して、本実施形態のOVD形成媒体20は、
レリーフ構造を表面11a(「レリーフ面」とも言う)に有する基材11と、
該レリーフ構造を被覆する光学機能層15と
を含み、光学機能層15が、2次元材料の粒子10を含む。
【0027】
OVD形成媒体20において、光学機能層15は、光学機能(光の反射、透過、屈折、拡散、吸収、遮断等)を発現し、かつ、基材11の表面11aのレリーフ構造(および場合により、後述する印刷層等)と共にOVD機能を発現するものである。OVD機能とは、目視および/または他の適切な手段により認識可能な光学的な変化を呈し得る能力を意味する。OVD機能は、代表的には、視認条件によって異なる外観を呈し得る能力であり、より詳細には、光の回折、干渉および/または反射等の現象を利用して、立体像を表示したり、視認条件(例えば観察する方向/角度)に応じて、色および/または画像を変化させたりできる能力である。
【0028】
レリーフ構造は、(微細)凹凸構造とも称され、その形状、寸法、パターン、デザイン等は、OVD形成媒体20に所望されるOVD機能に応じて様々であり得る。OVD機能として視覚効果が所望される場合、凹凸の構造周期pは、例えば500nm以上50μm以下の範囲にあり得、深さ(凹凸間の高低差)dは、例えば0.1μm以上20μm以下の範囲にあり得、所望により0.5μm以上であり得る。なお、図示する形態では、断面において鋸歯状で、A方向側(上面側)から見た場合にY軸に平行な縞状に延在するレリーフ構造(プリズム構造型とも称される)を示すが、これに限定されず、例えば、断面において正弦波状または櫛歯状などの他のレリーフ構造であってもよい。
【0029】
基材11は、レリーフ構造を表面11aに有する限り、OVD形成媒体20の用途等に応じて任意の適切な材料から構成され得る。基材11は、レリーフ構造形成層のみから成る単体から構成されていても、キャリアフィルム(および場合によりその上に配置された剥離層)と、その上に配置されたレリーフ構造形成層(表面11aを構成する)とを含む積層体から構成されていてもよい。また、本実施形態に必須でないが、OVD形成媒体20は、光学機能層15を被覆するオーバーコート層17を更に含んでいてよい。存在する場合、オーバーコート層17は、OVD形成媒体20の用途等に応じて任意の適切な材料から構成され得る。
【0030】
OVD形成媒体20は、
図1(a)のA方向側(上面側)またはB方向側(下面側)のいずれが視認側であってもよい。A方向側が視認側であり、オーバーコート層17が存在する場合、オーバーコート層17は透明である。B方向側が視認側である場合、基材11(より詳細には、レリーフ構造形成層)は透明である。OVD形成媒体20において、光学機能層15が光透過層として機能し得る場合、OVD形成媒体20は、光学機能層15に対して視認側と反対側に印刷層(図示せず)を更に含んでいてよい。また場合により、OVD形成媒体20は、視認側と反対側に粘着層(または接着層、図示せず)等を更に含んでいてよい。
【0031】
OVD形成媒体20は、光学機能層15が2次元材料の粒子10を含むことを特徴とする。
【0032】
本発明において、2次元材料とは、2次元的な広がりを有する層状材料であって、1つの層の厚さが10nm未満のものを言い、以下、各層の2次元的な広がりを有する表面を2次元シート面と称することがある。2次元材料は、原子構造に2次元的結合構造を有する層状材料(場合により層状化合物)として理解され得る。2次元材料の1層の厚さは、代表的には0.3nm以上3nm以下であり得る。2次元材料は、1つの層からなる単層構造、または複数の層が重ね合わさった多層構造を有し得る。いずれの場合でも、光学機能層15の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて3視野以上で観察し、それら観察面でランダムに選択した複数(例えば40個以上)の層の厚さを測定し、それらの数平均を得ることで、2次元材料の1つの層の厚さが求められる。
【0033】
2次元材料の例としては、MXene(詳細は後述する)、グラフェン、遷移金属ジカルコゲニド(TMD、例えば二硫化モリブデン、二セレン化ニオブ等)、金属酸化物、金属水酸化物、層状複水酸化物(LDH)、酸化グラフェン、窒化ホウ素(六方晶窒化ホウ素:h-BN)、シリコーン、ゲルマネン、およびこれらのいずれかに類似した平面構造を有する他の材料が挙げられる。
【0034】
2次元材料の粒子10は、1つの層の厚さが10nm未満である単層構造を有する粒子、1つの層の厚さが10nm未満である多層構造を有する粒子、またはこれらの混合物であり、いずれの場合であっても、互いに対向する露出面を有する薄いシート状の形状であり得る。2次元材料の粒子10の厚さは、例えば20nm以下、好ましくは10nm未満であり、下限は特に必須でないが、例えば0.3nm以上であり得る。2次元材料の粒子10の上記露出面に沿った方向(または厚さ方向に垂直な方向)における寸法(以下、本明細書において「面内寸法」と言う)は、例えば0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、例えば100μm以下、好ましくは20μm以下であり得る。2次元材料の粒子10の面内寸法は、レリーフ構造における凹凸の構造周期pの1/4以下であることが好ましい。
【0035】
2次元材料の粒子10のうち大部分の(通常は、ほとんどの)粒子において、2次元材料の粒子の厚さ方向は、2次元材料の層の厚さ方向に一致し、2次元材料の粒子の互いに対向する露出面は、2次元材料の2次元シート面であり、高い表面平滑性を有する。かかる2次元材料の粒子10は、厚さが例えば20nm以下、好ましくは10nm未満という極めて薄い粒子であっても、例えば金属粒子(特許文献2に記載されるような「フレーク状またはプレート状のような金属粒子」)に比べて、より厳密にシート状の形状に制御可能である。
【0036】
2次元材料は、好ましくはMXeneである。MXeneは、本明細書において次のように規定される:
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、該1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「MmXnTs」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0037】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0038】
かかるMXeneは、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
MmAXn
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、MmXnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「MmXn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したMmXn層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子および酸素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。エッチングは、F-を含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。その後、適宜、任意の適切な後処理(例えば超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなど)により、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneを単層MXeneに分離すること)を促進してもよい。なお、超音波処理は、せん断力が大きすぎてMXeneが破壊され得るので、アスペクト比がより大きい2次元形状のMXene(好ましくは単層MXene)を得ることが望まれる場合には、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより適切なせん断力を付与することが好ましい。
【0039】
MXeneは、上記の式:MmXnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.3Y0.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti3C2、Ti3N2、Ti3(CN)、Zr3C2、(Ti,V)3C2、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf3C2、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2、
Ti4N3、V4C3、Nb4C3、Ta4C3、(Ti,Nb)4C3、(Nb,Zr)4C3、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr2V2)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo2V2)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3
【0040】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti3C2Tsである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。すなわち、上記の式:MmXnが、Ti3C2である。
【0041】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、OVD形成媒体の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0042】
このようにして合成されるMXene(粒子)は、
図2に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料(MXene(粒子)の例として、
図2(a)中に1つの層のMXene10aを、
図2(b)中に2つの層のMXene10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、M
mX
nで表される層本体(M
mX
n層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M
mX
nT
s」とも表され、sは任意の数である。MXeneの粒子は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在するもの(
図2(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXene10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体(
図2(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXene10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene(粒子)は、単層MXene10aおよび/または多層MXene10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXeneである場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。
【0043】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)、層に平行な平面(二次元シート面)内における最大寸法(粒子の「面内寸法」に対応し得る)は、例えば0.1μm以上、特に1μm以上、例えば200μm以下、特に40μm以下である。
【0044】
MXeneが積層体(多層MXene)である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、
図2(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm未満、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、積層方向に垂直な平面(二次元シート面)内における最大寸法(粒子の「面内寸法」に対応し得る)は、例えば0.1μm以上、特に1μm以上、例えば100μm以下、特に20μm以下である。
【0045】
MXeneの層の総数は、1または2以上であればよいが、例えば1以上20以下であり、積層方向の厚さ(粒子の「厚さ」に対応し得る)は、例えば0.8nm以上20nm以下である。
【0046】
MXeneが積層体(多層MXene)である場合、層数の少ないMXeneであることが好ましい。用語「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が6層以下であることを言う。また、層数の少ない多層MXeneの積層方向の厚さは、10nm未満であることが好ましい。本明細書において、この「層数の少ない多層MXene」を「少層MXene」とも称する。
【0047】
本実施形態において、MXeneは、その大部分が単層MXeneおよび/または少層MXeneから構成される粒子(ナノシートとも称され得る)であることが好ましい。本明細書において、単層MXeneと少層MXeneを併せて「単層・少層MXene」と称することがある。
【0048】
換言すれば、MXeneの粒子の厚さの平均値は、好ましくは10nm未満である。この厚さの平均値は、より好ましくは7nm以下であり、更により好ましくは5nm以下である。一方、単層MXeneの厚みを考慮すると、MXeneの粒子の厚さの下限は0.8nmとなり得る。よって、MXeneの粒子の厚さの平均値は、約1nm以上であり得る。
【0049】
別の観点から見れば、MXeneの粒子全体における、積層方向の厚さが10nm未満の粒子(単層MXeneおよび/または少層MXene)の割合は、好ましくは90体積%以上であり、より好ましくは95体積%以上である。
【0050】
なお、上述したこれら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求めてもよい。
【0051】
再び
図1(a)~(c)を参照して、光学機能層15において、2次元材料の粒子10は緻密に存在することができる。光学機能層15において、2次元材料の粒子10は、基材11の表面11a(レリーフ面)に対して配向した状態で存在し得(
図1(b))、2次元材料の粒子10同士も配向した(望ましくは平行な)状態で存在し得る(
図1(b)、(c))。なお、
図1(b)は、便宜的に、基材11の表面11aが、紙面の横方向(幅方向)に平行になるように全体を回転させて表示している点に留意されたい。
【0052】
よって、2次元材料の粒子10同士、および2次元材料の粒子10と表面11a(レリーフ面)とは、比較的大きい面積で接触すると考えられる。更に、2次元材料の粒子10は、互いに対向する露出面において高い表面平滑性を有するので、2次元材料の粒子10同士の間、および2次元材料の粒子10と表面11aとの間の接触面において高い密着性が得られる。これらの結果、大きい密着力(または付着力もしくは結合力)が得られ、膜強度が高い(剥がれ難い)光学機能層15が得られる。かかる密着力は、2次元材料の粒子10の表面状態によって、ファンデルワールス力に加えて、該当する場合には水素結合によって増強され得る。
【0053】
上記大きい密着力によって、光学機能層15におけるバインダの含有量を低減でき、望ましくはバインダレスで、例えば2次元材料の粒子10のみから光学機能層15を構成できる。光学機能層15におけるバインダの含有量は、例えば50体積%以下、好ましくは25体積%以下であり得、より好ましくは実質的に0体積%である。光学機能層15における2次元材料の粒子10の含有量は、例えば50体積%以上、好ましくは75体積%以上であり得、より好ましくは実質的に100体積%である。光学機能層15の光学機能を2次元材料の粒子10により担保できる場合、光学機能層15におけるバインダの含有量は少ないほうが、光学機能層15の光学機能がバインダによって損なわれることを低減/防止できるので好ましい。存在する場合、バインダは、例えば任意の適切な有機材料、より詳細には、ポリウレタン、ニトロセルロースなどの樹脂材料であり得る。
【0054】
2次元材料の粒子10を含む光学機能層15は、厚さが厳密に制御された層として形成することができる。光学機能層15の厚さは、例えば3μm以下(厳密さが要求される場合には3.0μm以下)、特に1.5μm以下、より特に1μm以下(厳密さが要求される場合には1.0μm以下)であり得る。光学機能層15の厚さ、レリーフ構造における凹凸の深さdより小さいことが好ましい。光学機能層15の厚さの下限は特に必須でないが、例えば0.05μm以上であり得る。
【0055】
光学機能層15は、その厚さを厳密に制御して形成することによって、光学機能を調節できて、好ましくは透明~半透明~不透明まで実現可能である。光学機能層15は、常時または視認条件(例えば観察する方向/角度)に応じて、光反射層または光透過層として機能できる。例えば、光学機能層15の厚さを大きくすることにより光の反射率を常時(視認条件によらずに)高くすることができ、光学機能層15の厚さを小さくすることにより光の透過率を常時高くすることができる。また、光学機能層15は、2次元材料の粒子10が配向した状態で存在しているので、光学機能層15の厚さが極めて薄くても、光学機能(例えば光の反射または透過)を効率的に発現することが可能である。光学機能層15の厚さは、光学機能層15の全面に亘って実質的に均一であっても、光学機能層15を構成する複数の部分で異なっていてもよい。光学機能層15の厚さ(または部分によって異なる厚さ分布)を基材11のレリーフ構造の形状、寸法、パターン、デザイン等と組み合わせて設計し、これらを厳密に形成することにより、視認条件(例えば観察する方向/角度)に応じて、多様な(例えば偽造/模倣が困難で目視で簡単に真贋判定ができ、または意匠性/装飾性の高い)OVD機能を発現させることができる。
【0056】
2次元材料のなかでもMXeneは、金属のような光沢を有するので、高い反射率を得ることができる。また、MXeneは、修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)を有し、かかる修飾または終端Tは高い活性を有し得、水酸基/酸素原子は、水素結合を形成し得るので、少量のバインダで/好ましくはバインダレスでも、膜強度が十分に高い(剥がれ難い)光学機能層15が得られる。
【0057】
以上のような光学機能層15は、真空蒸着やスパッタリングといった高価な設備を要することなく、簡便なプロセスによって、厳密に制御された厚さで形成することができる。
【0058】
本実施形態のOVD形成媒体20の製造方法の一例について、以下に詳述する。
【0059】
OVD形成媒体20の製造方法は、
(a)レリーフ構造を表面11aに有する基材11を準備すること、
(b)2次元材料の粒子10および液状媒体を含む液状物を該レリーフ構造上に適用して、該レリーフ構造を被覆し、かつ、該2次元材料の粒子10を含む光学機能層15を形成すること
を含む。より詳細には、下記の通りである。
【0060】
・工程(a)
まず、レリーフ構造を表面11aに有する基材11を準備する。レリーフ構造は、基材11の表面11aを構成する材料に応じて任意の適切な方法で形成され得、例えば以下のようにして形成され得る。
【0061】
基材11の表面11aを構成する材料(レリーフ構造形成層の材料)としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線(紫外線、電子線等)硬化性樹脂等の樹脂材料を使用してよい。熱可塑性樹脂の例として、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂の例として、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋剤として添加して架橋させたウレタン樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。放射線(紫外線、電子線等)硬化性樹脂の例として、(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
【0062】
かかる樹脂材料を、グラビア印刷法やマイクログラビア法等、公知の方法によってキャリアフィルム(図示せず)に塗布してよい。
【0063】
そして、塗布された樹脂材料に対して、原版(またはその複製版)を用いて、レリーフ構造(エンボス構造)を形成する。樹脂材料が熱可塑性樹脂である場合、これに原版を押し当て、加熱により樹脂材料を可塑化させ、そのまま冷却することにより、レリーフ構造を形成することができる。あるいは、樹脂材料が熱硬化性樹脂または放射線硬化性樹脂である場合、未硬化(または半硬化)の樹脂材料に原版を押し当て、この状態で樹脂材料を硬化させることにより、レリーフ構造を形成することができる。なお、ロール状の原版を用いると連続成形が容易となる。
【0064】
原版は、例えば、電子線描画装置を用いて作製する。なお、通常は、原版の凹凸部を転写して反転版を作製し、この反転版の凹凸構造を転写して複製版を作製する。そして、必要に応じて、複製版を原版として用い、反転版を作製し、この反転版の凹凸構造を転写して複製版をさらに作製する。実際の凹凸構造の成形には、通常、このようにして得られる複製版を使用する。
【0065】
・工程(b)
次に、2次元材料の粒子10および液状媒体を含む液状物を、レリーフ構造上に適用して、該レリーフ構造を被覆し、かつ、2次元材料の粒子10を含む光学機能層15を形成する。
【0066】
かかる工程は、ウェットプロセスとして理解され、真空蒸着またはスパッタリングのような高価な設備を要さない、簡便なプロセスである。かかるプロセスは、真空蒸着などとは異なり、高温に曝すことなく光学機能層を形成できるので、基材11の材料として、熱により変形し得る材料であっても選択でき、更に、レリーフ構造の熱変形を防止できて、極めて微細な設計のレリーフ構造であっても、所望されるOVD機能を高精度で発現させることができる。
【0067】
液状媒体は、水性媒体および有機系媒体のいずれであってもよい。水性媒体は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(水性媒体全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。有機系媒体は、特に限定されないが、例えばアルコールに代表されるプロトン性溶媒、または非プロトン性溶媒などであってよく、あるいは、それらの2種以上の混合溶媒であってもよいが、光学機能層15に残存し難いものが好ましい。
【0068】
2次元材料の粒子10および液状媒体を含む液状物は、2次元材料の粒子10が液状媒体中に分散した分散液であることが好ましい。液状物は、場合により、分散剤を含んでいてよい。
【0069】
2次元材料の粒子10が、MXene(粒子)である場合、液状媒体は、水性媒体であることが好ましい。MXeneは、修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)を有し、修飾または終端Tの効果により、水性媒体に対して分散し易く、比較的高い粒子濃度の分散液を、粒子の凝集を防止しつつ調製することができる。特に、単層・少層MXeneの場合、水性媒体に対して、より高い分散性が得られるので好ましい。例えば、MXene(粒子)-水分散液の固形分濃度(粒子濃度)は、分散剤なしでも、MXeneの凝集を防止しつつ、100mg/mL(約10質量%)にまで達することができる。このため、2次元材料の粒子10が、MXene(粒子)である場合、光学機能層15に残存してその光学機能を損い得る他の成分を排除することができ、低い原料コストで、高い光学機能を発現し得る光学機能層15を形成できる。
【0070】
2次元材料の粒子10および液状媒体を含む液状物をレリーフ構造上に適用する方法は特に限定されず、例えば、スプレー、印刷、インクジェット、ディスペンサなどの方法を利用してよい。これらの方法において、適用条件を調整することによって、光学機能層15を厳密に制御された厚さで、低コストで形成することができる。
【0071】
スプレーによる場合、より詳細には、
(b1)基材11に対して上記液状物をスプレーすることによって、該液状物をレリーフ構造上に適用して、光学機能層15の前駆体を形成すること、および
(b2)上記前駆体を乾燥させる(液状媒体を少なくとも部分的に除去する)こと
によって、光学機能層15を形成することができる。
【0072】
光学機能層15において所望の厚さが得られるまで、上記(b1)および(b2)を繰り返し実施することができる。これにより、光学機能層15を厳密に制御された厚さで、低コストで形成することができる。
【0073】
2次元材料の粒子10が、MXene(粒子)であり、液状媒体が、水性媒体である場合、液状媒体が少なくとも部分的に除去されると、MXeneの修飾または終端Tの効果により、2次元材料の粒子10間および2次元材料の粒子10と基材11の表面11との間で高い密着力が得られる。これにより、膜強度の高い光学機能層15を形成することができる。
【0074】
その後、必要に応じて、オーバーコート層17が任意の適切な方法で形成され得る。
【0075】
以上のようにして、本実施形態のOVD形成媒体20が製造される。
図1(a)のA方向側(上面側)が視認側である場合、光学機能層15は、レリーフ構造と同様の構造周期pおよび深さdを有する。
図1(a)のB方向側(下面側)が視認側である場合、光学機能層15は、構造周期p’および深さd’を有する。構造周期p’および深さd’は、光学機能層15の厚さに応じて異なり得る。
【0076】
本実施形態のOVD形成媒体20において、光学機能層15は、光学機能層15の全面に亘って実質的に均一な厚さを有していても、レリーフ構造に応じて異なる厚さを有していてもよい。より詳細には、光学機能層15は、レリーフ構造に応じて、第1部分および第2部分を含み得、第1部分の厚さt1および第2部分の厚さt2は同じであっても、第1部分の厚さt1より第2部分の厚さt2が小さくてもよい。図示する態様において、レリーフ構造の傾斜上面を被覆する部分を第1部分(厚さt1)とし、レリーフ構造の壁面を被覆する部分を第2部分(厚さt2)とした場合、t1≧t2であり得る。
【0077】
本実施形態のOVD形成媒体20は、
図1(a)に模式的に示すように、光学機能に有意な差を生じない程度に均一な厚さを有し得、第1部分の厚さに対する第2部分の厚さの比(t
2/t
1×100(%)で規定され、以下単に「厚さ比」とも言う)が比較的大きく、例えば80%以上、特に85%以上で、100%以下であり得る。厚さ比が比較的大きく、100%により近いほど、より均質な光学機能層15が得られる。
【0078】
かかる厚さ比の比較的大きい光学機能層15は、
図3に示すように、上記工程(b1)にて、基材11に対して90度(好ましくは鉛直)の角度の吐出方向Eで(好ましくは鉛直に)、ノズル21から上記液状物をスプレーすることによって形成可能である。なお、
図3において、基材11は、表面11a(レリーフ面)に存在するレリーフ構造を省略して図示している。
【0079】
吐出方向Eは、ノズル21の吐出部の形状等に基づいて決定され得、液状物のミストMが最も勢いよくおよび/または最も多く吐出される方向を意味する。吐出方向Eの角度は、レリーフ構造を有する表面11aの仮想的な(例えば平均的な)主面に対する角度θaであり得るが、基材11の裏面11bが平坦である場合には、裏面11bに対する角度θbとしても差し支えない。ノズル21から吐出される液状物のミストMの表面11aにおける吐出領域(噴霧領域)に対してレリーフ構造が大きい場合、または、液状物のミストMのレリーフ構造上への付着量にバラつきが生じ得る場合には、ノズル21および基材11のいずれか一方または双方をXY平面に対して平行に、互いに対して相対的に移動(スライド)させることにより、光学機能層15を均一な品質で形成することができる。(これらの説明は、
図5に示す改変例の場合も同様に当て嵌まる。)
【0080】
あるいは、厚さ比を意図的に小さくして、光学機能層における厚さが比較的大きい第1部分と比較的小さい第2部分とで、光学機能に差を生じさせることも可能である。
【0081】
図4は、本実施形態の改変例におけるOVD形成媒体20’を示す。OVD形成媒体20’において、光学機能層15’は、レリーフ構造に応じて、第1部分および第2部分を含み、第1部分の厚さt
1より第2部分の厚さt
2が小さい。図示する態様において、レリーフ構造の傾斜上面を被覆する部分を第1部分(厚さt
1)とし、レリーフ構造の壁面を被覆する部分を第2部分(厚さt
2)とした場合、t
1>t
2であり得る。また、所望される場合には、t
2はゼロであってもよく、即ち、光学機能層15’が、レリーフ構造の傾斜上面を被覆する部分(第1部分)のみから構成され、レリーフ構造の壁面を被覆する部分(第2部分)が存在しなくてよい。
【0082】
本実施形態の改変例のOVD形成媒体20’は、第1部分の厚さに対する第2部分の厚さの比(厚さ比=t2/t1×100(%))が比較的小さく、例えば80%未満、特に50%以下、より特に20%以下で、0%以上であり得る。厚さ比が比較的小さく、0%により近いほど、光学機能層15の光学機能に差(例えば異方性)を生じさせることができる。
【0083】
かかる厚さ比の比較的小さい光学機能層15’は、
図5に示すように、上記工程(b1)にて、基材11に対して90度未満、好ましくは50度以下、更に好ましくは45度以下の角度の吐出方向Eで、ノズル21から上記液状物をスプレーすることによって形成可能である。吐出方向Eの角度は、レリーフ構造の傾斜上面に合わせて選択され得る。例えば、
図4(a)~(b)に示すように、断面において鋸歯状で、A方向側(上面側)から見た場合にY軸に平行な縞状に延在するレリーフ構造(プリズム構造型とも称される)の場合、
図5に示すように、好ましくは、ノズル21は、Y軸の周りに回転して角度付けられ得る。なお、
図5において、基材11は、表面11a(レリーフ面)に存在するレリーフ構造を省略して図示している。
【0084】
基材11に対する吐出方向Eの角度を90度未満、好ましくは50度以下、更に好ましくは45度以下にした場合、角度がより小さいほど、光学機能層15は、レリーフ構造に応じて、より大きく異なる厚さを有する。
図4に示すOVD形成媒体20’の場合において、光学機能層15’において、角度が小さくなるにつれて、厚さ比(=t
2/t
1×100(%))が比較的小さくなる。所望される場合には、基材11に対する吐出方向Eの角度を極めて小さくして、t
2をゼロ(実質的にゼロ)にしてよい。しかし、2次元材料の粒子10の回り込みが起こって、t
2を完全にゼロにできなくても特段問題はない。
【0085】
例えば、角度50度以下、好ましくは45度以下にすることによって、光学機能層15’における傾斜上面を被覆する第1部分(厚さt
1)と、レリーフ構造の壁面を被覆する第2部分(厚さt
2)とで、光学機能に差を生じさせることができる。この結果、視認条件に応じて、異なる視覚効果を呈することができる。例えば、
図4(a)~(b)に示すように、断面において鋸歯状で、A方向側(上面側)から見た場合にY軸に平行な縞状に延在するレリーフ構造(プリズム構造型とも称される)の場合において、OVD形成媒体20’の下に、所定の図柄が描かれた下地層(図示せず)を配置して、
図4(a)のA方向側(上面側)から観察する。
図4(a)を参照して、視認方向が、A方向からY軸の周りにX軸の正方向に回転し、基材11に対して傾斜した角度θを成すC方向である場合、光学機能層15’により下地層(図示せず)の図柄を視認できない(光学機能層15’がC方向において透過性でない)。この場合、視認方向が、比較的大きい厚さt
1を有する第1部分を横切ることになり、下地層の図柄を視認できない。しかし、
図4(a)を参照して、視認方向が、A方向からY軸の周りにX軸の負方向に回転し、基材11に対して傾斜した角度θ’を成すC’方向である場合、光学機能層15’を通じて下地層(図示せず)の図柄を視認できる(光学機能層15’がC’方向において透過性である)。この場合、視認方向が、比較的小さい厚さt
2を有する第2部分を横切ることができて、下地層の図柄を視認できる。なお、図柄としては、特に限定されず、模様もしくは色彩、またはこれらの組み合わせであってよく、例えば、絵柄、文字、数字、文様/パターン(例えば幾何学パターン)などを単独または2種以上組み合わせて用いることができる。本実施形態を限定するものではないが、かかる図柄を確認(識別)することにより、本実施形態のOVD形成媒体と、それ以外の偽造/模倣品や類似品などとの区別を確実に行うことができる。
【0086】
かかる改変例によれば、簡便なプロセスで、品質バラつきなく、かつ、材料ロスを生じずに、視認条件に応じて、異なる視覚効果を呈することができる光学機能層15’を形成できる。
【0087】
本実施形態のOVD形成媒体およびその製造方法は、本発明の範囲を逸脱することなく改変され得る。例えば、使用する2次元材料によっては、光学機能層は、光の反射に代えて/加えて、光を吸収または遮断するものであり得る。
【0088】
本実施形態のOVD形成媒体20は、それ自体単独で存在していても、他の部材と共に何らかの物品を構成していてもよい。
【0089】
本実施形態の物品30について、以下に詳述する。
【0090】
図6を参照して、本実施形態の物品30は、
対象物25と、
対象物25に取り付けられたOVD形成媒体20と
を含み得る。
【0091】
対象物25は、OVD形成媒体20の用途および/または目的に応じて様々であり得る。例えば、OVD形成媒体は、偽造/模倣防止等のセキュリティの目的や、意匠性/装飾性を付与する目的などで利用され得る。対象物25は、特に限定されないが、例えば、クレジットカード、IDカード、紙幣、コンピュータソフトウェアのパッケージ、音楽ソフトウェアのパッケージ、映像ソフトウェアのパッケージ、電子部品パッケージ(例えば複数の電子部品を内蔵するテープがリール状に巻かれた電子部品パッケージ)などであり得る。(
図6は、対象物25がクレジットカードである場合を例示的に示す。)
【0092】
OVD形成媒体20を対象物25に取り付ける方法は特に限定されず、任意の適切な方法が利用され得る。例えば、OVD形成媒体20において、視認側と反対側に粘着層(または接着層、図示せず)を設け、この粘着層を対象物25に接触させることにより、OVD形成媒体20が粘着層を介して対象物に取り付けられ得る。
【0093】
代表的には、OVD形成媒体20は、対象物25に転写により取り付けられ得る。この場合、
図1(a)のB方向側が視認側である。より詳細には、まず、基材11として、キャリアフィルム上に、剥離層(キャリアフィルムの剥離を促す層)、および透明なレリーフ構造形成層をこの順で形成する。そして、これにより得られた基材11に対して、レリーフ構造形成層のレリーフ構造(表面11a)を被覆する光学機能層15、オーバーコート層17、粘着剤層(図示せず)をこの順で形成する。これにより得られた積層体を、粘着剤層が対象物25に接触するようにして取り付け、その後、キャリアフィルムを剥離する。これにより、視認側の最表面に剥離層が位置するようにOVD(より詳細には、キャリアフィルムを除くOVD形成媒体20)が対象物25に転写される。
【0094】
しかしながら、本実施形態の物品30は、OVD形成媒体20を含む限り、任意の適切な他の態様であり得る。また、本実施形態のOVD形成媒体20は、物品30を構成する場合に限定されず、それ自体単独で(対象物25に取り付けられる前の状態、例えば上記キャリアフィルムを有した状態で)市場に流通し得る。
【実施例0095】
(実施例1~6)
実施例1~6は、
図3に示すように基材に対して90度の角度の吐出方向Eでスプレーすることによって光学機能層を形成する態様に関する。
【0096】
〔MXene-水分散液Aの調製〕
以下に詳述するように、(1)前駆体(MAX)の準備、(2)前駆体のエッチング、(3)洗浄、(4)デラミネーション、(5)超音波洗浄および(6)濃度調整を順に実施して、MXene-水分散液Aを調製した。
【0097】
(1)前駆体(MAX)の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(MAX)としてTi3AlC2粒子を得た。
【0098】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:LiF3gおよび塩酸(9モル/L)30mLの混合物
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
【0099】
(3)洗浄
上記スラリーを3分割して、50mL遠沈管3本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて相対遠心力(RCF)3500Gの条件で遠心分離を行った後(これによりクレイが沈降する)、上澄み液を分離除去(廃棄)した。各遠沈管(上澄み液が分離除去された残部が存在する)に純水40mLを追加し、再度3500Gで遠心分離を行って、上澄み液を分離除去するという操作を11回繰り返した。そして最終的に、上澄み液が分離除去された残部(沈殿物)として、MXene(Ti3C2Ts)-水分媒体クレイを得た。
【0100】
(4)デラミネーション
上記MXene(Ti3C2Ts)-水分媒体クレイに純水40mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3500Gで遠心分離し、上澄み液を、単層・少層MXene(Ti3C2Ts)含有液として回収した。
【0101】
(5)超音波洗浄
上記単層・少層MXene(Ti3C2Ts)含有液を超音波洗浄機にて10分間の超音波洗浄処理に付した。
【0102】
(6)濃度調整
その後、上記単層・少層MXene(Ti3C2Ts)含有液を純水で希釈して、固形分である粒子の濃度が10mg/mL(約1質量%)となるように調整して、MXene-水分散液Aを得た。
【0103】
〔MXene-水分散液Bの調製〕
上記(5)超音波洗浄を実施しなかったこと以外は、MXene-水分散液Aの調製方法と同様にして、MXene-水分散液Bを調整した。
【0104】
〔MXene-水分散液AおよびBに含まれるMXene(粒子)〕
MXene-水分散液AおよびBに含まれるMXene(粒子)を調べた。なお、MXeneとして使用したTi3C2Tsは、一層の厚さが約1.0nmである。
【0105】
MXene-水分散液AおよびBに含まれるMXene(粒子)の厚さを下記のようにして測定した。MXene-水分散液を、シリコン基板上に塗布し、乾燥させて水(溶媒)を除去し、その後、基板上に残存したMXene(粒子)を、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察し、複数の粒子の厚さを測定し、それらの数平均を2次元粒子の「厚さ」とした。AFMには、Dimension-FastScan(ブルカージャパン株式会社製)を使用した。測定条件は、視野角30μm×30μm、走査速度18μm/s-0.3Hzとした。測定は、粒子が少なくとも1個以上存在する視野にて5視野以上で行い、1視野内に存在する粒子の全てにおいて(但し、粉砕されて測定が困難な粒子は除く)、粒子の厚さを測定するものとした(よって、少なくとも5個の粒子サンプルにつき粒子の厚さが測定される)。
【0106】
MXene-水分散液AおよびBに含まれるMXene(粒子)の面内寸法を下記のようにして測定した。MXene-水分散液を、シリコン基板上に塗布し、乾燥させて水(溶媒)を除去し、その後、基板上に残存したMXene(粒子)を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて約30μm~約100μmの視野角で観察し、ランダムに選択した複数の粒子の最大寸法を測定し、それらの数平均を2次元粒子の「面内寸法」とした。SEMには、JSM-6390LV(日本電子株式会社(JEOL Ltd.)製)を使用した。測定条件は、2000倍、加速電圧5kVとし、3視野以上で、測定粒子数は合計で40個以上とした。
【0107】
結果を表1に示す。
【0108】
【0109】
MXeneとして使用したTi3C2Tsは、金属としてTiを使用しており、2次元材料のなかでも、例えばグラフェンや酸化グラフェンなどに比べて、光の反射率が高くなることが期待できる。
【0110】
また、MXene-水分散液AおよびBは、スプレー噴霧の作業性や厚さの制御性を考慮して、固形分濃度を10mg/mL(約1質量%)とした。この程度の濃度であれば、MXene-水分散液の粘度は非常に小さく(1mPas程度)、スプレー噴霧の作業性が高い。しかしながら、MXene-水分散液は、分散剤を添加することなく、固形分濃度100mg/mL(約10質量%)程度であっても、MXeneの凝集を防止しつつ分散の固形分濃度で分散する。
【0111】
〔OVD形成媒体の製造〕
以下に詳述するように、実施例1~6のOVD形成媒体を製造した。
【0112】
(a)レリーフ構造を表面に有する基材の準備
キャリアフィルムとしてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用した。このキャリアフィルムの片面上に熱可塑性樹脂を塗布し、塗布フィルムを作製した。次いで、別途準備した凹凸パターンを有する金型原版を、上記の塗布フィルムの熱可塑性樹脂に押し当て、熱処理(加熱および冷却)を施して、熱可塑性樹脂に凹凸パターンを転写成形した。
【0113】
これにより、レリーフ構造として凹凸パターンを表面に有する基材が得られた。なお、レリーフ構造は、
図1を参照して上述したように、断面において鋸歯状で、A方向側(上面側)から見た場合に縞状に延在するものとした。レリーフ構造の構造周期pは10μm、深さdは5μmであった。
【0114】
(b)MXene-水分散液のレリーフ構造上への適用
上記で作製した基材のレリーフ構造を有する表面に対して紫外線(UV)処理を15分間実施した(親水化処理)。
【0115】
その後、上記で調製したMXene-水分散液AまたはB(固形分濃度10mg/mL)を、市販のエアーブラシ(株式会社タミヤ製、エアーブラシシステム No.23、スプレーワークHGエアーブラシワイド(トリガータイプ) 74523)を用いて、上記基材のレリーフ構造上にスプレーした。スプレーは、基材に対して90度の角度の吐出方向Eで(鉛直に)実施した。スプレー後、ハンドドライヤー(パナソニック株式会社製、EH5206P-A)で温風を吹き付けて乾燥させた。スプレーによる前駆体1層あたりの厚さは数十nmであった。前駆体一層をスプレーした後、温風の吹き付けにより十分に乾燥させた(乾燥中の基材温度は40℃以上であると考えられ、乾燥を効果的に促進させた)。かかるスプレーおよび乾燥の操作を合計10~100回の範囲で繰り返した。その後、真空オーブンにて、80℃で16時間乾燥させた。
【0116】
これにより、レリーフ構造を被覆し、かつ、MXene(粒子)を含む光学機能層を形成し、OVD形成媒体を製造した。なお、実施例1~5は、MXene-水分散液Aを使用し、上記のスプレーおよび乾燥の繰り返し回数を異ならせることで、厚さが異なる光学機能層を形成した。実施例6は、MXene-水分散液Bを使用して、光学機能層を形成した。MXene-水分散液AおよびBにはいずれもバインダを添加しなかったことから、実施例1~6のOVD形成媒体の全てにおいて、光学機能層はバインダを含まなかった。
【0117】
〔OVD形成媒体の評価等〕
以上により製造した実施例1~6のOVD形成媒体について、以下のようにして、光学機能層の厚さを測定し、更に、剥がれ、色調変化性および透過性を評価した。
【0118】
(光学機能層の厚さ)
光学機能層が形成された基材に対して、レリーフ構造の傾斜上面を被覆する第1部分にて、3箇所でFIB(集束イオンビーム)加工を行って、光学機能層およびその下方の基材のレリーフ構造部分を露出させ、各箇所の断面につきSEM(走査電子顕微鏡)で観察して合計3視野のSEM観察像を得、1視野につき5箇所以上で光学機能層の厚さを測定し、それらの平均値を光学機能層の厚さt1とした。
【0119】
(剥がれ)
光学機能層を形成した後、ハンドリングや簡易な接触等で、光学機能層に剥がれが無いかどうかを目視観察で調べた。この評価において剥がれが無いことは、光学機能層を形成した後、オーバーコート層を形成するまで間のプロセス負荷に耐えられることを意味する。
【0120】
(色調変化性)
OVD形成媒体の表面側(A方向側)から光を照射して、OVD形成媒体の表面側からの視認条件として、観察する方向および/または角度を変えた場合に、OVD形成媒体の外観が変化するかどうかを目視観察で調べた。より詳細には、OVD形成媒体の表面全面で一様な色調の変化が見られ、部分的に色調変化が見られない箇所の面積割合が10%以下の場合を「〇」、色調の変化は確認されるが、部分的に色調変化が見られない、もしくはムラがあるように認識される箇所がある面積の割合が10~50%の場合を「△」、表面の50%以上の面積で色調変化が見られない場合を「×」とした。この評価において色調変化性が有ることは、目視観察時に、観察する方向および/または角度を変えることによって、レリーフ構造の周期および深さに依存した、透過光および/または反射光の強度変化が認識できることを意味する。
【0121】
(透過性)
基材の裏面側(B方向側)から光を照射して、OVD形成基材の表面側(A方向側)から、透過光を確認できる(即ち、透過性が有る)かどうかを目視観察で調べた。
【0122】
結果を表2に示す。
【0123】
【0124】
実施例1~6の全てのOVD形成媒体において、光学機能層がバインダレスで、かつ、実質的にMXene粒子のみから構成されている(MXene粒子含有量100%)にも関わらず、剥がれが無かった。
【0125】
実施例1~4のOVD形成媒体では、OVD形成媒体の表面側(A方向側)から観察したときに、レリーフ構造によって濃淡がついた状態となった。このことは、予め用意した画像に基づいて、レリーフ構造の傾斜を設計することにより、濃淡画像を表示できることを意味している。より詳細には、実施例1~4のOVD形成媒体では、OVD形成媒体の表面側(A方向側)から観察したときに、OVD形成媒体を観察する角度を変える(あるいは、観察角度を維持したままでOVD形成媒体を傾斜させる)ことにより、濃淡を(色調変化性の判断基準である〇~△の範囲で)変化させることができた。
【0126】
実施例1~6の全てのOVD形成媒体において、レリーフ構造の構造周期pを10μm、深さdを5μmとした。光学機能層の厚さが、レリーフ構造の深さ5μmを超えた実施例4~5では、良好な色調変化性が得られなかった。この理由は、光学機能層の表面側に凹凸が適切に維持されなかったことによると考えられる。また、MXene-水分散液Bを用いて製造した実施例6のOVD形成媒体は、良好な色調変化性が得られなかった。この理由は、実施例6のOVD形成媒体では、2次元材料の粒子であるMXene(粒子)の面内寸法が約3μmであり、レリーフ構造の構造周期10μmに比較的近かったことによると考えられる。他方、MXene-水分散液Aを用いて、光学機能層の厚さを、レリーフ構造の深さ5μm未満として製造した実施例1~3のOVD形成媒体では、優れた色調変化性を示した。この理由は、実施例1~3のOVD形成媒体では、2次元材料の粒子であるMXene(粒子)の面内寸法が約0.5μmであり、レリーフ構造の構造周期10μmの1/4以下であったため、周期構造の凹部に沿って光学機能層をレリーフ構造の深さ未満の厚さで形成できて、光学機能層の表面側に凹凸が適切に維持できたことによると考えられる。
【0127】
光学機能層の厚さを極めて薄くした実施例1のOVD形成媒体は、透過性を有することが確認された。他方、光学機能層の厚さを比較的厚くした実施例2~6のOVD形成媒体は、透過性を有しなかったが、OVD形成媒体の表面側(A方向側)から光を照射した場合に、光を反射することが確認された。
【0128】
(実施例7~10)
実施例7~10は、
図3に示すように基材に対して90度の角度の吐出方向Eで、および
図5に示すように基材に対して90度未満の角度の吐出方向Eで、スプレーすることによって光学機能層を形成する態様に関する。
【0129】
〔MXene-水分散液Aの調製〕
上記したMXene-水分散液Aを使用した。
【0130】
〔OVD形成媒体の製造〕
光学機能層の厚さが1μm程度となるようにして、実施例2と同様にして、実施例7のOVD形成媒体を製造した。すなわち、実施例7では、実施例2と同様に、スプレーを、基材に対して90度の角度の吐出方向Eで(鉛直に)実施した。
【0131】
スプレーを、基材に対してそれぞれ60度、45度、30度の角度の吐出方向Eで実施したこと以外は、実施例7と同様にして、実施例8~10のOVD形成媒体を製造した。
【0132】
〔OVD形成媒体の評価等〕
以上により製造した実施例7~10のOVD形成媒体について、以下のようにして、光学機能層の厚さを測定し、更に、部分透過性を評価した。
【0133】
(光学機能層の厚さ)
光学機能層が形成された基材に対して、レリーフ構造の傾斜上面を被覆する第1部分にて、3箇所でFIB加工を行って、光学機能層およびその下方の基材のレリーフ構造部分を露出させ、各箇所の断面につきSEMで観察して合計3視野のSEM観察像を得、1視野につき5箇所以上で光学機能層の厚さを測定し、それらの平均値を光学機能層の厚さt1とした。
【0134】
また、光学機能層が形成された基材に対して、レリーフ構造の壁面を被覆する第2部分にて、3箇所でFIB加工を行って、光学機能層およびその下方の基材のレリーフ構造部分を露出させ、各箇所の断面につきSEMで観察して合計3視野のSEM観察像を得、1視野につき5箇所以上で光学機能層の厚さを測定し、それらの平均値を光学機能層の厚さt2とした。
【0135】
更に、厚さ比を、t2/t1×100(%)として算出した。
【0136】
(部分透過性)
図7に示すように、格子状の模様が描かれた紙を下地層23とし、その上にOVD形成媒体(特に、
図4を参照して上述したOVD形成媒体20’を参照のこと)を、その裏面側が、格子状の模様が描かれた紙面に接するようにして配置し、OVD形成媒体の表面側(A方向側)から光を照射して、OVD形成媒体の表面側からの視認条件として、観察する方向および/または角度を変えた場合に、OVD形成媒体の下の格子模様の見え方が変化するかどうかを目視観察で調べた。格子模様が見えない場合を部分透過性「無」、観察する方向および/または角度によって、格子模様が見えたり見えなかったりする場合を部分透過性「有」とした。この評価において部分透過性が有ることは、目視観察時に、観察する方向および/または角度を変えることによって、光学機能層が光反射層または光透過層として機能することを意味する。
【0137】
結果を表3に示す。
【0138】
【0139】
表3から理解されるように、スプレーの吐出角度を小さくするにつれて、厚さ比が小さくなり、光学機能層のうち、レリーフ構造の壁面を被覆する第2部分の厚さt2を薄くすることができた。この理由は、スプレーの吐出角度がより小さいほど、レリーフ構造の壁面上に回り込むミスト(ひいては粒子)が少なくなることによると考えられる。実施例9および10のOVD形成媒体では、光学機能層の厚さt2がそれぞれ250nmおよび150nmであり、極めて薄いため、部分透過性が得られたものと考えられる。MXeneの層は非常に薄く、100層程度堆積したとしても、その厚さは、数百nm程度となり、光を透過させることができる。
【0140】
特に、実施例10のOVD形成媒体(
図4を参照して上述したOVD形成媒体20’に該当する)では、視認条件(観察する方向および/または角度)に応じて、異なる視覚効果を呈することができた。具体的には、
図4(a)のA方向側(上面側)から観察して、視認方向が
図4(a)に示すC方向(角度θ=0度より大きく90度以下)である場合、
図8に示すように、OVD形成媒体の下に存在する紙(下地層)の格子模様が確認されず、光学機能層による光の反射により金属のような光沢が全面的に認められた。他方、視認方向が
図4(a)に示すC’方向(角度θ’=0度より大きく約45度以下、好ましくは約20度以下)である場合、
図9に示すように、OVD形成媒体の下に存在する紙(下地層)の格子模様が全面的に確認された。即ち、OVD形成媒体の光学機能層が、C方向において透過性を示さず、C’方向において透過性を示した。なお、
図8~9には、理解を容易にするために、
図4(b)と同様に、構造周期p’に対応するレリーフ構造の傾斜上面のエッジを実線にて示しているが、実際には、構造周期p’は極めて小さいため、かかるエッジは肉眼では観測困難であることに留意されたい。
【0141】
実施例10について、
図9では、C’方向に沿って視認した場合に、光学機能層が無色透明を呈する例を示している。しかし、本発明の実施例はかかる例に限定されず、例えば実施例9~10の改変例として、光学機能層の材料および/または厚さt
2に応じて、
図10に示すように、C’方向に沿って視認した場合に、光学機能層が有色透明を呈してもよい。
【0142】
また、実施例10について、C方向に沿って視認した場合、光学機能層の厚さt
1が比較的厚いため下地層の模様(格子模様)が確認されず(
図8)、C’方向に沿って視認した場合にのみ、光学機能層が透過性を示すことが確認できた(
図9)。しかし、本発明の実施例はかかる例に限定されず、例えば実施例9~10の改変例として、光学機能層の材料および/または厚さt
1を、C方向に沿って視認した場合に光学機能層が透過性を示し得るように選択すること(代表的には、光学機能層の厚さt
1を、C方向に沿って視認した場合に光学機能層が透過性を示し得る大きさ以下、例えば約0.5μm以下に抑えること)によって、
図11(a)(b)に示すように、視認方向および/または視認角度によって、下地層の模様(図示する例では格子模様)の透過性(透明性)が異なる光学機能層を作製してもよい。
図11(a)は、C方向に沿って視認した場合、光学機能層が透過性を示すが、透明性が低い場合を示し、
図11(b)は、C’方向に沿って視認した場合、光学機能層が透過性を示し、かつ透明性がより高い場合を示す。
【0143】
よって、レリーフ構造の形状、寸法、パターン、デザイン等と、光学機能層の厚さ分布とを適切に設計して、これらを厳密に形成することにより、視認条件(例えば観察する方向/角度)に応じて、多様なOVD機能を発現させることができる。