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特開2022-122705熱可塑性樹脂組成物、タイヤおよびホース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122705
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、タイヤおよびホース
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220816BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20220816BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220816BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220816BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L101/12
C08L29/04 S
C08L23/26
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020113
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB21X
4J002BB22W
4J002BC11Y
4J002BE03W
4J002BP01X
4J002BP02Y
4J002GN01
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性および柔軟性に優れ、かつ成形加工性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物であって、温度250℃およびせん断速度243/sにおける溶融粘度が1500Pa・s以下であり、温度25℃および引張速度500mm/minにおける10%モジュラスM10が12MPa以下であり、温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.003mm・cc/(m・day・mmHg)以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物であって、温度250℃およびせん断速度243/sにおける溶融粘度が1500Pa・s以下であり、温度25℃および引張速度500mm/minにおける10%モジュラスが12MPa以下であり、温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.003mm・cc/(m・day・mmHg)以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の合計量に対して、エラストマーを50質量%以上含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂のうち60質量%以上が、エチレン含量が50mol%以下でありかつ250℃における溶融粘度が200Pa・s以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
エラストマーが酸変性オレフィン系エラストマーおよび酸変性スチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むタイヤ。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、タイヤおよびホースに関する。より詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物、前記熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むタイヤ、および前記熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むホースに関する。
【背景技術】
【0002】
特開平8-217942号公報(特許文献1)には、EVOH樹脂自体の酸素ガスバリア性、透明性を維持しつつ、引張り弾性率、低温耐衝撃性を改善した酸素ガスバリア性組成物として、EVOH樹脂および酸変性スチレン系共重合体エラストマーを体積比68/32~50/50の割合で含む酸素ガスバリア性組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-217942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開平8-217942号公報(特許文献1)に記載の酸素ガスバリア性組成物は、エラストマーの含有量が50体積%以下なので、柔軟性に欠ける。そこで、柔軟性を上げるために、エラストマーを高充填すると、粘度が高くなり、押出性を維持できず、成形加工性が悪化するという問題がある。
本発明は、ガスバリア性および柔軟性に優れ、かつ成形加工性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、低粘度のエチレン-ビニルアルコール共重合体を用いることにより、ガスバリア性および柔軟性に優れ、かつ成形加工性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができることを見いだし、本発明を完成した。
本発明(I)は、熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物であって、温度250℃およびせん断速度243/sにおける溶融粘度が1500Pa・s以下であり、温度25℃および引張速度500mm/minにおける10%モジュラスM10が12MPa以下であり、温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.003mm・cc/(m・day・mmHg)以下であることを特徴とする。
本発明(II)は、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むタイヤである。
本発明(III)は、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むホースである。
【0006】
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物であって、温度250℃およびせん断速度243/sにおける溶融粘度が1500Pa・s以下であり、温度25℃および引張速度500mm/minにおける10%モジュラスが12MPa以下であり、温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.003mm・cc/(m・day・mmHg)以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2]熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなることを特徴とする[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の合計量に対して、エラストマーを50質量%以上含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]熱可塑性樹脂のうち60質量%以上が、エチレン含量が50mol%以下でありかつ250℃における溶融粘度が200Pa・s以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]エラストマーが酸変性オレフィン系エラストマーおよび酸変性スチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むタイヤ。
[7][1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むホース。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ガスバリヤー性、柔軟性および成形加工性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明(I)は、熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物に関する。熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる。換言すれば、熱可塑性樹脂がマトリックスを形成し、エラストマーがドメインを形成している。すなわち、熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、海島構造を有する。熱可塑性樹脂組成物が海島構造を有することにより、熱可塑性樹脂のガスバリア性と溶融成形性を保持しつつ、柔軟性を得られやすい。
【0009】
熱可塑性樹脂組成物の温度250℃およびせん断速度243/sにおける溶融粘度は、1500Pa・s以下であり、好ましくは20~1450Pa・sであり、より好ましくは50~1400Pa・sである。溶融粘度が高すぎると射出成形性に劣り、溶融粘度が低すぎると押出成形性に劣る。溶融粘度が上記数値範囲に入るようにする方法は、熱可塑性樹脂およびエラストマーの粘度、熱可塑性樹脂とエラストマーの比率、相互作用の強さの調整や可塑剤や金属石鹸などの加工助剤の添加などが挙げられる。
【0010】
熱可塑性樹脂組成物の温度25℃および引張速度500mm/minにおける10%モジュラス(M10)は、12MPa以下であり、好ましくは0.1~11MPaであり、より好ましくは0.2~10MPaである。10%モジュラスが高すぎると柔軟性に劣り、10%モジュラスが低すぎると取り扱い性に劣る。10%モジュラスが上記数値範囲に入るようにする方法は、熱可塑性樹脂およびエラストマーの種類、熱可塑性樹脂とエラストマーの比率、可塑剤や軟化剤の添加などが挙げられる。
【0011】
熱可塑性樹脂組成物の温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数は、0.003mm・cc/(m・day・mmHg)以下であり、好ましくは0.0025mm・cc/(m・day・mmHg)以下であり、より好ましくは0.0020mm・cc/(m・day・mmHg)以下である。酸素透過係数が高すぎるとガスバリア性に劣る。酸素透過係数が上記数値範囲に入るようにする方法は、熱可塑性樹脂およびエラストマーの種類、熱可塑性樹脂とエラストマーの比率、アスペクト比の高いフィラーの添加などが挙げられる。
【0012】
熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、好ましくは、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む。より好ましくは、熱可塑性樹脂は、エチレン含量が50mol%以下でありかつ250℃における溶融粘度が200Pa・s以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む。さらに好ましくは、熱可塑性樹脂のうち60質量%以上が、エチレン含量が50mol%以下でありかつ250℃における溶融粘度が200Pa・s以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体である。エチレン含量が50mol%以下でありかつ250℃における溶融粘度が200Pa・s以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体を、以下、「低粘度EVOH」と略す。熱可塑性樹脂のうち60質量%以上が低粘度EVOHであることにより、高いガスバリア性を発現しつつ、熱可塑性樹脂組成物の粘度を低くできる。
【0013】
エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位(-CH2CH2-)とビニルアルコール単位(-CH2-CH(OH)-)とからなる共重合体であるが、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構成単位を含有していてもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合体を構成する全構成単位に対するエチレン単位の割合(mol%)を、以下、エチレン-ビニルアルコール共重合体の「エチレン含量」という。エチレン-ビニルアルコール共重合体はエチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物であるが、そのケン化度は、好ましくは90%以上、より好ましくは98%以上である。エチレン-ビニルアルコール共重合体のケン化度が小さすぎるとガスバリア性が低下し、また熱安定性も低下する。
【0014】
エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン含量は、好ましくは50mol%以下であり、より好ましくは25~49mol%であり、さらに好ましくは27~48mol%である。エチレン含量が多すぎるとガスバリア性が低下する。逆に、エチレン含量が少なすぎると、エチレン-ビニルアルコール共重合体の柔軟性が減り、耐久性が落ちる。
【0015】
エチレン-ビニルアルコール共重合体の250℃における溶融粘度は、好ましくは200Pa・s以下であり、より好ましくは20~180Pa・sであり、さらに好ましくは30~160Pa・sである。溶融粘度が高すぎると射出成形性に劣り、溶融粘度が低すぎると押出加工性に劣る。
【0016】
低粘度EVOHは、市販されており、本発明に市販品を使用することができる。低粘度EVOHの市販品の例としては、三菱ケミカル株式会社の「ソアノール」(登録商標)K3850B(エチレン含量:38mol%、250℃における溶融粘度:110Pa・s)が挙げられる。
【0017】
熱可塑性樹脂中の低粘度EVOHの含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは64~99質量%であり、さらに好ましくは68~98質量%である。低粘度EVOHの含有量が少なすぎると、十分なガスバリア性が得られにくい。低粘度EVOHの含有量が多すぎると、柔軟性が得られにくく、疲労耐久性が不足しやすい。
【0018】
熱可塑性樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、低粘度EVOH以外のエチレン-ビニルアルコール共重合体や、エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の熱可塑性樹脂を含んでもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。
【0019】
熱可塑性樹脂組成物に含まれるエラストマーは、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくはオレフィン系エラストマーまたはスチレン系エラストマーであり、より好ましくは、酸変性オレフィン系エラストマーおよび酸変性スチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体などが挙げられる。エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ペンテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体などが挙げられる。エチレン-不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0021】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体(Br-IPMS)などが挙げられるが、なかでもスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が好ましい。
【0022】
エラストマーは酸変性されたものであることが好ましい。酸変性されていることにより、エラストマーがエチレン-ビニルアルコール共重合体のヒドロキシル基と相互作用することができ、界面が補強されることで、高い疲労耐久性を得られやすい。酸変性とは、フタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、無水コハク酸、マロン酸、フマル酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、安息香酸などで変性されていることをいう。酸変性は、好ましくは、無水マレイン酸変性である。
【0023】
熱可塑性樹脂組成物中のエラストマーの含有量は、熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の合計量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは52~85質量%であり、さらに好ましくは54~80質量%である。エラストマーの含有量が少なすぎると、柔軟性や疲労耐久性が得られにくい。エラストマーの含有量が多すぎると、十分なガスバリア性が得られにくい。
【0024】
熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の合計量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは20~48質量%であり、さらに好ましくは25~45質量%である。熱可塑性樹脂の含有量が多すぎると、柔軟性や疲労耐久性が得られにくい。熱可塑性樹脂の含有量が少なすぎると、十分なガスバリア性が得られにくく、溶融時の流動性も不足しやすい。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物中のマトリックスとドメインの質量比率は、好ましくは50:50~20:80であり、より好ましくは45:55~25:75であり、さらに好ましくは42:58~28:72である。マトリックスとドメインの質量比率が上記の数値範囲にあることにより、柔軟性、ガスバリア性、耐熱性をバランスしやすい。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、熱可塑性樹脂組成物およびエラストマー以外の成分を含んでもよい。
【0027】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、たとえば、熱可塑性樹脂と、エラストマーと、所望によりその他の成分とを、溶融混錬することにより製造することができる。
【0028】
本発明(II)は、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むタイヤである。タイヤは、好ましくは、空気入りタイヤである。タイヤは、限定するものではないが、たとえば、内側から順に、インナーライナー、カーカス層、ベルト層およびトレッド層を含む。本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物からなる層は、好ましくはインナーライナーとして用いられる。すなわち、本発明(II)のタイヤは、好ましくは、インナーライナーとして、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含む。
【0029】
本発明(II)のタイヤは、常法により製造することができる。たとえば、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物をTダイ押出成形法、インフレーション成形法などの成形法によりシート状に成形して、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物のシートを作製する。タイヤ成形用ドラム上に、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物のシートを置き、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層などの通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、タイヤを製造することができる。
【0030】
本発明(III)は、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含むホースである。ホースとしては、限定するものではないが、エアコンホースなどの冷媒輸送ホース、水素ホースなどが挙げられる。ホースは、限定するものではないが、たとえば、内層、補強層および外層からなる。本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物からなる層は、好ましくは内層として用いられる。すなわち、本発明(III)のホースは、好ましくは、内層として、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物からなる層を含む。
【0031】
本発明(III)のホースは、常法により製造することができる。たとえば、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物を押出成形によりチューブ状に押出し、内層(内管)を作製する。次いで、内層(内管)上に補強層となる繊維を編組し、さらにその繊維上に外層(外管)を押出成形により被覆することで製造することができる。
【実施例0032】
(1)原材料
以下の実施例および比較例において使用した原材料は次のとおりである。
【0033】
(熱可塑性樹脂)
EVOH-1: 三菱ケミカル株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)H4815B(エチレン含量:48mol%、250℃における溶融粘度:270Pa・s)
EVOH-2: 三菱ケミカル株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)E3808(エチレン含量:38mol%、250℃における溶融粘度:270Pa・s)
EVOH-3: 三菱ケミカル株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)K3850B(エチレン含量:38mol%、250℃における溶融粘度:110Pa・s)
PA6: 宇部興産株式会社製ポリアミド6「UBEナイロン」(登録商標)1011FB(250℃における溶融粘度:75Pa・s)
【0034】
(エラストマー)
酸変性EBR: 三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体「タフマー」(登録商標)MH7010
酸変性SEBS: 旭化成株式会社製無水マレイン酸変性スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体「タフテック」(登録商標)M1943
SIBS: 株式会社カネカ製スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体「SIBSTAR」(登録商標)102T-UC
Br-IPMS: エクソンモービル・ケミカル社製臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体「EXXPRO」(登録商標)3745
【0035】
(2)熱可塑性樹脂組成物の調製
シリンダー温度を200℃に設定した二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に、表1および表2に示す配合で、熱可塑性樹脂およびエラストマーを導入し、滞留時間約5分で溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイスからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0036】
(3)熱可塑性樹脂組成物の評価
上記(2)で調製した熱可塑性樹脂組成物について、酸素透過係数、10%モジュラス、溶融粘度および押出加工性を評価した。評価結果を表1および表2に示す。
なお、各評価項目の評価方法は、以下のとおりである。
【0037】
(4)評価用の熱可塑性組成物のシートの作製
上記(2)で調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を押出温度Cl/C2/C3/C4/ダイ=190/200/210/220/220℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/minの条件で平均厚み0.1mmのシートに成形した。
【0038】
(5)溶融粘度の測定
上記(2)で調製した熱可塑性樹脂組成物を90℃で6時間乾燥させた後、キャピラリー・レオメーターにて、温度250℃、ならびにピストンスピード205mm/min、キャピラリー長さ10mmおよびキャピラリー内径1mmの条件(すなわちせん断速度243/s)で荷重を検出することにより、溶融粘度(Pa・s)の測定を行った。
【0039】
(6)10%モジュラスの測定
上記(4)で作製した熱可塑性組成物のシートをJIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」に準じて、温度25℃および引張速度500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から10%伸張時における応力(10%モジュラス)を求めた。
【0040】
(7)酸素透過係数の測定
上記(4)で作製した熱可塑性組成物のシートを切り出し、MOCON社製OXTRAN1/50を用いて、温度21℃および相対湿度50%において測定した。
【0041】
(8)押出加工性の評価
上記(4)でシートを溶融押出する際に、押出開始から30分時点におけるシートを、押出方向の長さ100cm切り取り、押出方向および幅方向の厚みバラつきを測定し、比較例1を100とした指数で表示した。
指数が97未満の場合、比較例1に比べ、厚みバラつきが小さく、押出加工性が良く、「良」とし、指数が93未満の場合は、さらに加工性が優れ、「優」と判定した。指数が103以上の場合、比較例1に比べ、厚みバラつきが大きく、押出加工性が悪く、「不可」とした。指数が97以上103未満は、比較例1と同等の押出加工性で、「可」と判定した。「良」、「優」の場合、品質上問題ない水準である。高粘度で流動性が乏しい組成物の場合、シートの厚みバラつきが大きく、押出加工性が悪い傾向が見られた。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、タイヤのインナーライナーやホースの内層を作製するための材料として好適に利用することができる。