(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122760
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】コンクリートの静弾性係数の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20220816BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
G01N3/00 M
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020214
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有希
(72)【発明者】
【氏名】木作 友亮
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AA08
2G061AB03
2G061BA06
2G061CA08
2G061CB02
2G061CC08
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB03
2G061EB07
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】小さいコアを用いることができる、コンクリートの静弾性係数の測定方法を提供すること。
【解決手段】コンクリートの静弾性係数の測定方法は、コンクリート構造物から、直径25mm以上50mm未満かつ高さ50mm以上100mm未満のコア供試体を得るステップと、コア供試体を圧縮しながら、コア供試体の高さ方向の両端面から少なくとも5mmの範囲を除く部分について、コア供試体の縦ひずみを測定するステップと、測定された縦ひずみに基づいて、静弾性係数を計算するステップと、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物から、直径25mm以上50mm未満かつ高さ50mm以上100mm未満のコア供試体を得るステップと、
前記コア供試体を圧縮しながら、前記コア供試体の高さ方向の両端面から少なくとも5mmの範囲を除く部分について、前記コア供試体の縦ひずみを測定するステップと、
測定された前記縦ひずみに基づいて、静弾性係数を計算するステップと、
を備える、コンクリートの静弾性係数の測定方法。
【請求項2】
前記縦ひずみを測定するステップでは、検長は、前記コア供試体の高さの1/2より長い、請求項1に記載のコンクリートの静弾性係数の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリートの静弾性係数の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの静弾性係数の測定方法は、例えば、非特許文献1で規定されている。非特許文献1の方法では、100mm以上の直径を有するコア供試体の使用が推奨されている。このような大きなコア供試体とは対照的に、特許文献1は、コンクリートの強度を推定することを目的に、15mm~30mmの直径を有する小径コアを用いる測定方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ISO 1920-10:2010, TESTING OF CONCRETE ? PART 10: DETERMINATION OF STATIC MODULUS OF ELASTICITY IN COMPRESSION
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1のコア供試体は大きく、コアの採取時に鉄筋を切断する可能性が高い。また、このような大きなコア供試体を圧縮することができる圧縮試験機を現場で準備することは困難であり得る。また、小径コアを用いる特許文献1の方法は圧縮強度を測定することはできるが、静弾性係数の測定に適用できるか否かは不明である。
【0006】
本開示は、上記のような課題を考慮して、小さいコア供試体を用いることができる、コンクリートの静弾性係数の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るコンクリートの静弾性係数の測定方法は、コンクリート構造物から、直径25mm以上50mm未満かつ高さ50mm以上100mm未満のコア供試体を得るステップと、コア供試体を圧縮しながら、コア供試体の高さ方向の両端面から少なくとも5mmの範囲を除く部分について、コア供試体の縦ひずみを測定するステップと、測定された縦ひずみに基づいて、静弾性係数を計算するステップと、を備える。
【0008】
縦ひずみを測定するステップでは、検長は、コア供試体の高さの1/2より長くてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、小さいコア供試体を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係るコンクリートの静弾性係数の測定方法に使用されるコア供試体を示す画像である。
【
図2】
図2は、φ25.7mm×高さ51.4mmのコア供試体を用いた圧縮試験の結果を示す。
【
図3】
図3は、φ25.7mm×高さ80.0mmのコア供試体を用いた圧縮試験の結果を示す。
【
図4】
図4は、φ33.7mm×高さ67.4mmのコア供試体を用いた圧縮試験の結果を示す。
【
図5】
図5は、φ33.7mm×高さ90.0mmのコア供試体を用いた圧縮試験の結果を示す。
【
図6】
図6は、φ33.7mm×高さ67.4mmのコア供試体を用いたFEM解析の結果を示す。
【
図7】
図7は、実施形態に係るコンクリートの静弾性係数の測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料および数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係るコンクリートの静弾性係数の測定方法に使用されるコア供試体1を示す画像である。コア供試体1は、円柱形状を有している(コア供試体1のサイズについて詳しくは後述)。コア供試体1は、例えば、コンクリート構造物からコンクリート用ドリルを用いてコアを採取し、コアを規定の高さに切断することによって得ることができる。コア供試体1の両端面(上端面および下端面)11は、例えばキャッピングまたは研磨等によって仕上げられる。本開示において、「キャッピング」とは、供試体に均等な荷重がかかるよう、例えばセメントペースト等の適切な材料を用いて、載荷面(端面)を平滑に仕上げることを意味し得る。
【0013】
コア供試体1は、圧縮試験機10によって高さ方向Dに圧縮される。圧縮は、例えばJIS A1149:2017「コンクリートの静弾性係数試験方法」で規定される載荷方法にしたがって実施されてもよい。圧縮の際に、コア供試体1の縦ひずみを、コンプレッソメータ、ひずみゲージまたは差動トランス式変位計等のひずみ測定器によって測定する。代替的に、ひずみ測定は、DIC(Digital Image Correlation)等の画像解析によって実施されてもよい。また、コア供試体1を圧縮する際に、コア供試体1に負荷される荷重を例えばロードセル等の荷重計によって測定する。これによって、応力-ひずみ曲線を得ることができる。
【0014】
静弾性係数の計算には、測定されたひずみが用いられる。本開示において、「静弾性係数」とは、例えばJIS A1149:2017「コンクリートの静弾性係数試験方法」で規定される静弾性係数であることができ、供試体の応力-ひずみ曲線において、最大荷重の1/3に相当する応力点と供試体の縦ひずみ50×10-6のときの応力点とを結ぶ線分の勾配として与えられる割線静弾性係数を意味し得る。最大荷重は、コア供試体1が破壊するまでに圧縮試験機(荷重計)が示すものを意味し得る。
【0015】
続いて、静弾性係数の計算に用いるコア供試体1の高さ方向の範囲について説明する。
【0016】
一般的に、コア供試体1のひずみを測定する際に、端面11付近ではひずみが正確に測定できないことが知られている。したがって、例えば非特許文献1では、100mm以上の直径および直径の2倍の高さを有するコア供試体に対して、直径の2/3以上かつ直径以下の検長が推奨されている。本開示において、「検長」とは、供試体のひずみを検出する長さを意味し得る。本発明者は、鋭意研究の結果、非特許文献1で推奨されるような大きなコア供試体を使用しなくとも、静弾性係数を正確に測定可能であることを見出した。
【0017】
図2~
図5は、それぞれ、φ25.7mm×高さ51.4mm、φ25.7mm×高さ80.0mm、φ33.7mm×高さ67.4mm、φ33.7mm×高さ90.0mmのコア供試体1を用いた圧縮試験の結果を示す。各コア供試体1の両端面11は、キャッピングによって仕上げられた。縦軸は縦ひずみ(με)を示し、横軸は上端面11からの距離(mm)を示す。縦ひずみは、最大荷重の1/3に相当する荷重が各コア供試体1に対して負荷されたときの値を示す。ひずみ測定は、DICによって実施された。
図1を参照して、ひずみは、「left」、「mid」および「right」によって示される高さ方向の3直線の全長に沿って測定された。
【0018】
図2~
図5に示されるように、各コア供試体1において、端面11付近において縦ひずみが不安定であり、端面11付近を除く部分において縦ひずみが安定している。本発明者は、
図2~
図5を詳細に検討することによって、コア供試体1のサイズによらずに、端面11から5mmの範囲において、縦ひずみが不安定であることを見出した。このことから、コア供試体1のサイズによらずに、端面11から5mmの範囲を除く部分では、縦ひずみを高精度に測定可能であることがわかる。これは、コア供試体1のサイズよりも、例えば端面11の性状(例えば、粗さ等の表面性状)等の要因が、端面11付近における縦ひずみの不安定性に大きく寄与しているためと推測される。例えば、圧縮の際、端面11の表面のうち、実際には粗さの山付近のみが圧縮試験機に接触するため、端面11付近では、他の部分と比べて変形が大きいと推測される。端面11の性状は、コア供試体1のサイズには依存しないため、縦ひずみが不安定である領域も、コア供試体1のサイズには大きく依存しないと推測される。
【0019】
また、
図6は、φ33.7mm×高さ67.4mmのコア供試体1を用いたFEM解析の結果を示す。実線は静摩擦係数μ=0.1の結果を示し、破線は静摩擦係数μ=0.5の結果を示す。縦軸は上端面11からの距離(mm)を示し、横軸は縦ひずみ(με)を示す。縦ひずみは、コア供試体1の側面に沿って高さ方向の全長について示されている。
【0020】
図6に示されるように、各静摩擦係数において、端面11付近においてひずみが不安定であり、端面11付近を除く部分においてひずみが安定している。また、
図6を参照すると、摩擦力によるひずみ分布の乱れは、全体のひずみ量に比べて小さく、さらに、静摩擦係数μによらずに、ひずみが不安定である端面11付近の範囲は、変わらないことがわかる。このことからも、端面11から5mmの範囲を除く部分では、ひずみを高精度に測定可能であることが推測される。
【0021】
以上のことから、本発明者は、
図2~
図5で使用されたような小さなコア供試体1を使用しても、コア供試体1のサイズによらずに、端面11から少なくとも5mmの範囲を除くことによって、縦ひずみを高精度に測定することが可能であり、静弾性係数を高精度に計算可能であることを見出した。また、例えば、端面11の仕上げが悪い場合には、ひずみが不安定である端面11付近の範囲が広くなるかもしれない。したがって、端面11から少なくとも10mmの範囲を除くことがより好ましい。
【0022】
したがって、例えば、コンプレッソメータ、ひずみゲージまたは差動トランス式変位計等のひずみ測定器によってコア供試体1の縦ひずみを測定する場合、静弾性係数の計算において両端面11から少なくとも5mmの範囲を除くために、両端面11から少なくとも5mmの範囲を除く部分について縦ひずみを測定する。
【0023】
また、例えば、DICによってコア供試体1の縦ひずみを測定する場合、計測面に塗料を塗布し、変形前後の画像を解析することによって縦ひずみを測定する。この場合、コア供試体1の高さ方向の複数の位置について、縦ひずみを独立に測定することが可能である。したがって、DICによってコア供試体1の縦ひずみを測定する場合、両端面11から少なくとも5mmの範囲を除く部分について縦ひずみを測定してもよいし、または、
図2~
図5に示されるように、コア供試体1の高さの全長に亘って縦ひずみを測定してもよい。しかしながら、コア供試体1の高さの全長に亘って縦ひずみを測定する場合でも、静弾性係数の計算には、両端面11から少なくとも5mmの範囲を除く部分を用いる。
【0024】
続いて、コア供試体1のサイズについて説明する。
【0025】
上記のように、本開示の測定方法によれば、小さいコア供試体1を使用して、コンクリートの静弾性係数を測定することができる。しかしながら、一般的に、コンクリートは、最大で20mm~25mm程度の直径を有する粗骨材を含み得る。したがって、コア供試体1の直径は、少なくともこのような粗骨材よりは大きいことが好ましい。よって、コア供試体1の直径は、25mm以上であることが好ましい。また、コア供試体1の直径が50mm以上になると、現場でのコアの採取およびコアの持ち運びが容易ではなくなる。したがって、コア供試体1の直径は、50mm未満であることが好ましい。また、コア供試体1の高さは、通常、直径の概ね2倍(例えば、1.90~2.10倍)であることから、50mm以上100mm未満であることが好ましい。
【0026】
以上のことから、コア供試体1は、25mm以上50mm未満の直径、および、50mm以上100mm未満の高さを有することが好ましい。また、持ち運びを考慮すると、コア供試体1は、より細いことが好ましく、35mm以下であることがより好ましい。しかしながら、細いコアは採取の際に折れやすいため、30mm以上であることがより好ましい。したがって、コア供試体1は、30mm以上35mm以下の直径を有することがより好ましい。この場合、コア供試体1は、60mm以上70mm以下の高さを有する。
【0027】
続いて、実施形態に係るコンクリートの静弾性係数の測定方法について説明する。
【0028】
図7は、実施形態に係るコンクリートの静弾性係数の測定方法を示すフローチャートである。まず、コンクリート構造物から、直径25mm以上50mm未満のコアを採取する(ステップS100)。本実施形態では、例えば、φ33.7mmのコアを採取する。
【0029】
続いて、コアを切断機によって高さ50mm以上100mm未満のコア供試体1に切断する(ステップS102)。本実施形態では、例えば、コアを高さ67.4mmのコア供試体1に切断する。
【0030】
続いて、コア供試体1の両端面11を例えばキャッピングまたは研磨等によって仕上げる(ステップS104)。
【0031】
続いて、コア供試体1を圧縮しながら、両端面11から少なくとも5mmの範囲を除く部分について、縦ひずみを測定する(ステップS106)。本実施形態では、例えば、両端面11から8.7mmの範囲を除く部分について、縦ひずみを測定する。
【0032】
続いて、ステップS106の測定によって得られた応力-ひずみ曲線から、静弾性係数を計算し(ステップS108)、一連の作業を終了する。例えば、静弾性係数Ecは、以下の式(1)によって算出可能である。
Ec=(S1-S2)/(ε1-ε2)×10-3・・・(1)
ここで、
Ec:静弾性係数(kN/mm2)
S1:最大荷重の1/3に相当する応力(N/mm2)
S2:縦ひずみ50×10-6のときの応力(N/mm2)
ε1:S1の応力によって生じる縦ひずみ
ε2:50×10-6
【0033】
以上のような実施形態に係るコンクリートの静弾性係数の測定方法は、コンクリート構造物から、直径25mm以上50mm未満かつ高さ50mm以上100mm未満のコア供試体1を得るステップと、コア供試体1を圧縮しながら、コア供試体1の高さ方向の両端面11から少なくとも5mmの範囲を除く部分について、コア供試体1の縦ひずみを測定するステップと、測定された縦ひずみに基づいて、静弾性係数を計算するステップと、を備える。上記のように、本発明者は、小さなコア供試体1を使用しても、端面11から少なくとも5mmの範囲を除くことによって、静弾性係数を高精度に計算可能であることを見出した。このような知見に基づき、本開示の測定方法では、直径25mm以上50mm未満かつ高さ50mm以上100mm未満のコア供試体1が使用される。したがって、小さいコア供試体1を用いることができる。また、ひずみが不安定である範囲が除かれるので、高精度にコンクリートの静弾性係数を測定することができる。さらに、このような測定方法によれば、従来のものに比べて小型の圧縮試験機を使用することができるので、現場で高精度にコンクリートの静弾性係数を測定することが可能である。
【0034】
また、上記の実施形態では、縦ひずみを測定するステップS106では、検長は50mmであり、コア供試体1の高さ67.4mmの1/2(=33.7mm)より長い。例えば、JIS A1149:2017「コンクリートの静弾性係数試験方法」では、検長は、供試体高さの1/2以下と規定されている。しかしながら、この方法では、供試体の半分は静弾性係数の計算に使用されず、誤差の影響が増加し得る。対照的に、上記の実施形態では、検長は、コア供試体1の高さの1/2より長い。したがって、上記の実施形態によれば、より長い部分を用いて静弾性係数を計算することができるので、誤差の影響を低減することができる。したがって、より高精度にコンクリートの静弾性係数を測定することができる。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0036】
例えば、上記の実施形態では、検長は50mmであり、コア供試体の高さの1/2より長い。しかしながら、他の実施形態では、検長は、コア供試体1の高さの1/2以下であってもよい(例えば、30mm)。例えば、検長が30mmである場合、両端面11から18.7mmの範囲を除く部分について、縦ひずみが測定される。
【0037】
本開示は、より良いコンクリートの測定を促進することができるので、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」および目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 コア供試体
11 コア供試体の端面