(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122825
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】切削インサートおよびこれを備えた切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20220816BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/10 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197916
(22)【出願日】2021-12-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021019426
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 孝洋
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK03
3C022KK12
3C022KK25
3C022LL02
(57)【要約】
【課題】切りくず排出性をさらに向上させる。
【解決手段】切削インサート10は、上面17と、下面19と、上面17から下面19まで貫通する軸線AX1を有するねじ穴と、周側面15と、上面17と周側面15との交差領域に形成される主切れ刃21、さらい刃24、および内刃23と、を備える。内刃23が形成された周側面を軸線AX1に垂直な方向から視た側面視にて、内刃23は、下面のほうに凹む凹部23cを含み、当該側面視にて凹部23cの一方側の内刃23Lの長さD
Lが当該凹部23cの他方側の内刃23Rの長さD
Rよりも長く、内刃23の最下点は上面17の平坦部17Aよりも低い位置にあり、一方側の内刃さD
Lの少なくとも一部が上面17の平坦部17Aよりも高い位置にある。凹部23cの一方側の内刃23Lの切れ刃角φ
23Lは、凹部23cの他方側の内刃23Rの切れ刃角φ
23Rの半分より大きい。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦部を有する、第1端面たる上面と、
前記上面と反対側の面であって切削工具のボデーへの取付面を有する第2端面たる下面と、
前記上面から前記下面まで貫通する軸線を有するねじ穴と、
前記上面と前記下面とを連ねるように形成された周側面と、
前記上面と前記周側面との交差領域に形成される主切れ刃、さらい刃、および内刃と、
を備え、
前記内刃が形成された周側面を前記軸線に垂直な方向から視た側面視にて、前記内刃は、前記下面のほうに凹む凹部を含み、
当該側面視にて前記凹部の一方側であって尚かつ前記さらい刃から遠い側に位置する内刃の長さDLが当該凹部の他方側の内刃の長さDRよりも長く、
前記内刃の最下点は前記上面の平坦部よりも低い位置にあり、前記一方側の内刃の少なくとも一部が前記上面の平坦部よりも高い位置にあり、
前記凹部の一方側の内刃の切れ刃角φ23Lは、前記凹部の他方側の内刃の切れ刃角φ23Rの半分より大きい、切削インサート。
【請求項2】
前記凹部の他方側の内刃の切れ刃角φ23Rは、前記側面視における当該他方側の内刃の傾斜角を表すインクリネーションθ23Rよりも小さい、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記凹部の一方側の内刃の切れ刃角φ23Lは、前記側面視における当該一方側の内刃の傾斜角を表すインクリネーションθ23Lよりも大きい、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記側面視にて、前記凹部の他方側の内刃の長さDRは、当該凹部の一方側の内刃の長さDLの半分未満である、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記側面視にて、前記凹部の一方側の内刃のインクリネーションθ23Lよりも、当該凹部の他方側の内刃のインクリネーションθ23Rのほうが大きい、請求項4に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記側面視にて、前記さらい刃の傾斜角を表すインクリネーションθ24に対し、前記凹部の一方側の内刃のインクリネーションθ23Lは小さく、当該凹部の他方側の内刃のインクリネーションθ23Rは大きい、請求項5に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記軸線に沿って視た上面視にて、前記凹部の一方側の内刃の傾斜を表す切れ刃角と、当該凹部の他方側の内刃の傾斜を表す切れ刃角は、前記さらい刃の傾斜角よりも大きい、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項8】
回転軸線を中心に回転し、切削インサートを保持するためのインサート取付座を有する工具ボデーと、
前記インサート取付座に前記取付面が当接するように前記工具ボデーに取り付けられる請求項1から7のいずれか一項に記載の切削インサートと、
を備える、刃先交換式回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートおよびこれを備えた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肩削り工具における切削性能向上のための様々な技術が提案されている。その中には、クランプ性能を向上させるために切刃の底面形状をV字状としたもの(たとえば特
許文献1参照)、切刃の切削抵抗を低減するとともにクラックが入り難くなるようにしたもの(たとえば特許文献2参照)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5999586号公報
【特許文献2】特許第6624306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、切刃の形状について説明しているものの、切削時の切りくず排出性の改良についてまでは言及しているわけではない。また、特許文献2では、当該内切れ刃のある側面に向かって見て右肩下がりの内切れ刃がボス面より低いといったことに起因して、切りくず排出性が劣る。上記のごとく切削性能を向上させながらも尚且つ切りくずの排出性を向上させることは、切削インサートやそれを備えた切削工具の性能をさらに向上させるうえで重要である。
【0005】
そこで、本発明は、切りくず排出性をさらに向上させることを可能にした切削インサートおよびこれを備えた切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である切削インサートは、
平坦部を有する、第1端面たる上面と、
上面と反対側の面であって切削工具のボデーへの取付面を有する第2端面たる下面と、
上面から下面まで貫通する軸線を有するねじ穴と、
上面と下面とを連ねるように形成された周側面と、
上面と周側面との交差領域に形成される主切れ刃、さらい刃、および内刃と、
を備え、
内刃が形成された周側面を軸線に垂直な方向から視た側面視にて、内刃は、下面のほうに凹む凹部を含み、
当該側面視にて凹部の一方側であって尚かつさらい刃から遠い側に位置する内刃の長さDLが当該凹部の他方側の内刃の長さDRよりも長く、
内刃の最下点は上面の平坦部よりも低い位置にあり、一方側の内刃の少なくとも一部が上面の平坦部よりも高い位置にあり、
凹部の一方側の内刃の切れ刃角φ23Lは、凹部の他方側の内刃の切れ刃角φ23Rの半分より大きい、切削インサートである。
【0007】
上記のごとく、凹部を含み、当該凹部の一方側の内刃の長さが他方側の内刃の長さよりも長い内刃を備えた切削インサートによれば、当該内刃より排出される切りくずが、工具外周側へ向かうことによって、切りくず排出性の向上、さらには切りくず噛み込みの抑制が図られる。また、最下点が当該切削インサートの上面の平坦部よりも低い位置にあり、かつ、一方側の内刃の少なくとも一部が当該上面の平坦部よりも高い位置にあるという構造の内刃とすることで、最下点部より排出される切りくずが上面に接触するようになり、この結果、切りくず離れが向上することによって、切りくず排出性のさらなる向上、切りくず噛み込みのさらなる抑制が図られる。また、凹部の一方側の内刃の切れ刃角φ23Lが小さすぎると、切削の際、切削対象(ワーク)に掘り込みできる量が減ることになるが、この点、上記のごとく切れ刃角φ23Lの大きさを所定値よりも大きくすることによって、切削の際の掘り込み量がある程度大きくなるようにすることができる。
【0008】
上記のごとき切削インサートにおいて、凹部の他方側の内刃の切れ刃角φ23Rは、側面視における当該他方側の内刃の傾斜角を表すインクリネーションθ23Rより小さくてもよい。
【0009】
上記のごとき切削インサートにおいて、凹部の一方側の内刃の切れ刃角φ23Lは、側面視における当該一方側の内刃の傾斜角を表すインクリネーションθ23Lより大きくてもよい。
【0010】
上記のごとき切削インサートにおいては、側面視にて、凹部の他方側の内刃の長さDRは、当該凹部の一方側の内刃の長さDLの半分未満であってもよい。
【0011】
上記のごとき切削インサートにおいて、側面視にて、凹部の一方側の内刃のインクリネーションθ23Lよりも、当該凹部の他方側の内刃のインクリネーションθ23Rのほうが大きくてもよい。
【0012】
上記のごとき切削インサートにおいて、側面視にて、さらい刃の傾斜角を表すインクリネーションθ24に対し、凹部の一方側の内刃のインクリネーションθ23Lは小さく、当該凹部の他方側の内刃のインクリネーションθ23Rは大きくてもよい。
【0013】
上記のごとき切削インサートにおいて、軸線に沿って視た上面視にて、凹部の一方側の内刃の傾斜を表す切れ刃角と、当該凹部の他方側の内刃の傾斜を表す切れ刃角は、さらい刃の傾斜角よりも大きくてもよい。
【0014】
また、本発明の一態様である切削工具は、回転軸線を中心に回転し、切削インサートを保持するためのインサート取付座を有する工具ボデーと、インサート取付座に取付面が当接するように工具ボデーに取り付けられる上記のごとき切削インサートと、を備える、刃先交換式回転切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】切削インサートを第2周側面部に対向する方向D2から見た側面図である。
【
図3】切削インサートを上面に対向する方向から見た図(上面図)である。
【
図4A】第1方向D1に沿って第1周側面部に対向する方向から見た切削インサートの側面図である。
【
図4B】第1方向D1に沿って第1周側面部に対向する方向から見た切削インサートの側面図であって、内刃の長さなどを示したものである。
【
図5】切削インサートを下面に対向する方向から見た図(下面図)である。
【
図6】刃先交換式回転切削工具を先端部側から見た斜視図である。
【
図7】刃先交換式回転切削工具を回転軸線に垂直な方向から見た図(側面図)である。
【
図8】刃先交換式回転切削工具を先端側から回転軸線に沿って見た図である。
【
図9】切削時における切削インサートからの被削物の切りくずの排出方向を示す、
図8の部分拡大図である。
【
図10】刃先交換式回転切削工具に取り付けられた切削インサートを、当該切削インサートからの切りくずの排出方向とともに示す、回転軸線に垂直な方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る切削インサートおよびこれを備えた切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する(
図1等参照)。
【0017】
<切削インサートの概要>
本実施形態の切削インサート10は略四角形(より詳細には平行四辺形に近似した形状)の板状である。切削インサート10は、略四角形形状を有する上面(第1端面)17と、上面17に対向するように配置された下面(第2端面)19と、上面17と下面19とを接続する周側面15と、から基本的に構成されている。上面17の略中央部と下面19の略中央部とを貫通するように、中心軸線AX1が定められる貫通穴Hが設けられている。この中心軸線AX1は、本来的には切削インサート10の中心軸であり、本実施形態では切削インサート10の中心軸線と貫通穴Hの中心軸線とが一致しているが、これに限定されることはない。すなわち、貫通穴Hが存在しない形態においても、中心軸線AX1を定めることができる。切削インサート10は、中心軸線AX1の周りに180°回転対称に構成されている。なお、以下の説明から明らかなように、切削インサート10は上面17側にのみ切れ刃を備えるので、本明細書では第1端面を上面と称し、第2端面を下面と称している。
【0018】
なお、切削インサート10の形状・構造をわかりやすく説明するにあたり、第1方向D1、第2方向D2、第3方向D3、第4方向D4を規定する(
図3等参照)。第1方向D1は、中心軸線AX1に垂直であって
図3における紙面左方向に相当する方向である。第2方向D2は、中心軸線AX1に垂直であって同図の紙面下方向に相当する方向である。第3方向D3は、中心軸線AX1に垂直であって同図の紙面右方向に相当する方向である。第4方向D4は、中心軸線AX1に垂直であって同図の紙面上方向に相当する方向である。さらに、中心軸線AX1に垂直な軸線B、および中心軸線AX1と軸線Bの両方に垂直な軸線Cを規定する。軸線Bは、中心軸線AX1の中心点(上面17および下面19から等距離の点)を垂直に交差し、第2方向D2および第4方向D2に向かって延びる軸である。軸線Cは、中心軸線AX1の中心点(上面17および下面19から等距離の点)を中心軸線AX1および軸線Bと垂直に交差し、第1方向D1および第3方向D3に向かって延びる軸である(
図1等参照)。
【0019】
上面17は、上面17に対向する方向から見て(つまり上面視において)、4つの湾曲したコーナ部36と、それらコーナ部36の間に形成された4つの辺部37と、から構成された略四角形形状をなしている。4つの辺部37は、2つの長辺部37aと2つの短辺部37bとから構成されている。一対の長辺部37aは互いに対向しており、一対の短辺部37bも互いに対向するように配置されている。また、4つのコーナ部36は、切削に関与する2つのコーナ部(切削コーナ)36aと、切削に関与しない2つのコーナ部36bと、から構成されている。切削に関与するコーナ部36aと切削に関与しないコーナ部36bは、長辺部37aまたは短辺部37bを間に介して交互に配置されている。したがって、本実施形態の切削インサート10の上面17は、
図3において、中心軸線AX1に関して180°回転対称の略四角形状をなしているのであるが、本発明はこれに限定されることはなく、他の形状(極端には、三角形状や五角形状など)であっても構わない。また、周側面15は、短辺部37bに隣接し第1方向D1・第3方向D3を向く第1周側面部11と、長辺部37aに隣接し第2方向D2・第4方向D4を向く第2周側面部12と、コーナ部36aに隣接しているコーナ周側面部13と、コーナ部36bに隣接しているコーナ周側面部14と、から構成されていて、ここではそれらは互いに周方向に連続する。これらの面の形状や大きさに関しては適宜変更することができる。なお、切削インサート10は、中心軸線AX1の周りに、180°回転対称に構成されているので、2つの第1周側面部11は互いに対向し、2つの第2周側面部12は互いに対向する(
図3等参照)。
【0020】
上面17と周側面15との交差稜線部には、複数の切れ刃20が形成されている。上で述べたように切削インサート10は中心軸線AX1に関して180°回転対称であるので、より正確には上面17と周側面15との交差稜線部に2つの切れ刃20を有する。各切れ刃20は、主切れ刃21と、コーナ切れ刃25と、副切れ刃22と、から構成されている。主切れ刃21は、(長辺部37aに相当する)上面17と第2周側面部12との交差稜線部の全体に沿って形成されている。すなわち、主切れ刃21は、互いに対して隣り合う2つのコーナ部36aおよび36bの間にわたって延在している。コーナ切れ刃25は、(コーナ部36に相当する)上面17と周側面15との交差稜線部に沿って形成されている。コーナ切れ刃25の一方の端部は、主切れ刃21の一方の端部に接続している。副切れ刃22は、(短辺部37bに相当する)上面17と第1周側面部11との交差稜線部の一部に沿って形成されている。すなわち、副切れ刃22は、互いに対して隣り合う2つのコーナ部36aおよび36bの間において、コーナ部36aから始まってコーナ部36b方向に一定距離進んだ位置まで延在している。副切れ刃22の一方の端部は、コーナ切れ刃25の主切れ刃21と接続している方とは異なる端部に接続している。したがって、本実施形態においては、主切れ刃21と、コーナ切れ刃25と、副切れ刃22と、がこの順番で連続して接続している。また、上面17と第1周側面部11との交差稜線部において、副切れ刃22のコーナ部36b側の部分を内刃として形成してもよい。内刃は、ランピング加工等の掘り込み加工において使用される切れ刃である。
【0021】
ここで、第1周側面部11に対向する方向D1(またはD3)からみた側面図(
図4A)と、副切れ刃22につらなる第2周側面部12に対向する方向D2(またはD4)からみた側面図(
図2)と、を参照しつつ説明する。
図2および
図4Aに示されているように、上面17と下面19との間において周側面15を貫通すると共に中心軸線AX1に対して直角に交差する面を定め、その面を中間面Mと定義する。主切れ刃21は、2つのコーナ部36a、36b間において、中間面Mとの距離が変化するように形成されている。具体的には、主切れ刃21は、コーナ部36aからコーナ部36b方向に進むにつれ、上面17側から下面19側に漸次近接するように(すなわち、中間面Mに漸次近接するように)およそ直線状に延伸している。
【0022】
また、副切れ刃22も、2つのコーナ部36a、36b間において、中間面Mとの距離が変化するように形成されている。具体的には、副切れ刃22は、内刃23とさらい刃24とで構成されていて(
図4A参照)、そのうち、さらい刃24は、コーナ部36aからコーナ部36b方向に進むにつれ、上面17側から下面19側に漸次近接するように(すなわち、中間面Mに漸次近接するように)直線状に延伸している。内刃23は、さらい刃24に連なる右上がりの右側内刃23Rと、コーナ部36b寄りに形成された左上がりの左側内刃23Lと、これら右側内刃23Rおよび左側内刃23Lの間に形成された凹部23cと、を有する(
図4A等参照)。
【0023】
なお、副切れ刃22は、短辺部37bの全体に形成されているのではなく、その一部分にのみ形成されていてもよい。コーナ切れ刃25は、隣接する主切れ刃21と、隣接する副切れ刃22とを互いに滑らかにつなぐように延在する。したがって、切れ刃20のうち、コーナ切れ刃25が、中心軸線AX1に平行な方向であるインサート厚さ方向にて、最も中間面Mから離れた切れ刃部分となる(
図4A等参照)。
【0024】
後述する刃先交換式回転切削工具(たとえばエンドミル)100において、主切れ刃21は、被削材の加工側面を切削する機能を有する切れ刃である。副切れ刃22は、被削材の加工底面を切削する機能を有する切れ刃である。コーナ切れ刃25は、被削材の加工側面と加工底面との間にある隅部を切削する機能を有する切れ刃である。
【0025】
上面17の一部は、関連する切れ刃(一組の切れ刃部分)20に関してすくい面17Bとして機能する。すくい面17Bは、上面17のうち各々の切れ刃部分(主切れ刃21、副切れ刃22、コーナ切れ刃25)に隣接した部分であり、切れ刃部分(主切れ刃21、副切れ刃22、コーナ切れ刃25)から離間するにつれて中間面Mに漸次近接する傾斜面となっている。具体的には、すくい面17Bにはすくい角(とくに図示はしていないが、たとえば「すくい角α」)として正の角度が付与されている。ここで、すくい角αは、中心軸線AX1に対して直角で且つ主切れ刃21上のいずれか一点を通過するように定められる仮想面L1(
図2、
図4A参照)と、すくい面17Bとの交差角のことを意味している。例えば、すくい角αは40°から50°の範囲にあるとよく、本実施形態では約45°に設定されている。ただし、いうまでもなくすくい角αはこの角度に限定されることはなく、状況に応じて適宜変更することが可能である。なお、切削インサート10では、切れ刃全体に亘って、すくい角は概ね一定としているが、可変としてもよい。また、上面17の貫通穴H周りには、(中心軸線AX1に直交するように延在する)平坦な面(本明細書ではこの面を「ボス面」とも呼ぶ)17Aで構成される平坦部が形成されている。つまり、すくい面17Bは、切れ刃20とボス面17Aとの間に延在する。
【0026】
周側面15の一部は、関連する切れ刃20(一組の切れ刃部分である主切れ刃21、副切れ刃22、コーナ切れ刃25)に関して逃げ面として機能する。具体的には、主切れ刃21に隣接する第2周側面部12は、その全体が逃げ面として機能する。副切れ刃22に隣接する第1周側面部11は、その全体ではなく、副切れ刃22が直接的に接続している部分(図中、符号11rで示す)のみが実質的に逃げ面として機能する。コーナ切れ刃25に隣接するコーナ周側面部14は、その全体が逃げ面として機能する。
【0027】
主切れ刃21の逃げ面として機能する第2周側面部12は、第1周側面部11に対向する第1方向D1(または第3方向D3)から見たとき(つまり
図4Aにおいて)、上面17側から下面19側に向かうにつれ、中心軸線AX1から比較的急な傾斜で漸次離間し、その途中からは比較的緩やかな傾斜で漸次離間するように傾斜している。すなわち、第2周側面部12は、逃げ角β(
図4A参照)が負となるように形成されている。ここで、主切れ刃21に関する逃げ角βは、中心軸線AX1に対して平行で且つ主切れ刃21に沿うように定められる仮想面L2と第1周側面部11との交差角のことを意味している。特にこの逃げ角は、
図2において切れ刃に直交するように定められる線に沿った断面において定められるとよい。本実施形態の場合、逃げ角βは負の角度である。したがって、第2周側面部12は、上面17側から下面19側に向かうにつれ、仮想面L2側から切削インサート外方側へ漸次離間するように形成されていると表現することができる。例えば、主切れ刃21に関する逃げ角βは-5°から-20°の範囲にあるとよく、さらに好ましくは-10°から-20°の範囲(-20°以上-10°以下の範囲)にあるとよく、一例として、本実施形態では約-15°に設定されている。いうまでもないが、主切れ刃21に関する逃げ角βは上記に限定されることはなく、状況に応じて適宜変更することが可能である。
【0028】
一方、副切れ刃22の逃げ面として機能する部分11rを有する第1周側面部11は、上面17側から下面19側に向かうにつれ、中心軸線AX1に漸次近接するように傾斜している(第3方向D3側について示す
図2参照)。すなわち、第1周側面部11のうち、逃げ面として機能する部分11rは、逃げ角(
図2において符号γで示す)が正となるように形成されている。ここで、副切れ刃22に関する逃げ角γは、中心軸線AX1に対して平行で且つ副切れ刃22に沿うように定められる仮想面L4と第1周側面部11の逃げ面として機能する部分11rとの交差角のことを意味していて、切れ刃に直交するように定められる線に沿った断面において定められるとよい(
図2参照)。なお、逃げ面として機能する部分11rが仮想面L4より内側に位置するときの角度を正としている。例えば、副切れ刃22に関する逃げ角γは0°から10°の範囲の正の角度であるとよく、本実施形態の場合、約5°である。したがって、第1周側面部11のうち逃げ面として機能する部分11rは、上面17側から下面19側に向かうにつれ、仮想面L4側から切削インサート内方側へ漸次離間するように形成されていると言える。しかし、いうまでもないが副切れ刃22に関する逃げ角γは上記に限定されることはなく、状況に応じて適宜変更することが可能である。ただし、逃げ角γは正の角度であることが好ましい。
【0029】
また、コーナ切れ刃25の逃げ面として機能するコーナ周側面部13は、主切れ刃21側に位置する部分では逃げ角が負となり、副切れ刃22側に位置する部分では逃げ角が正となるように形成されている。すなわち、コーナ周側面部13は、両隣の周側面部11、12をコーナ周側面部13が滑らかにつなぐように、周方向においてその逃げ角が徐々に変化する部分を有する。
【0030】
また、第1周側面部11のうち、逃げ面として機能する部分11rを除いた箇所の一部分は、工具ボデー110に設けられたインサート取付座120の側壁面と当接する拘束面として機能する。
【0031】
本実施形態の切削インサート10においては、周側面15のうち、主切れ刃21に隣接して配置されている部分が第2周側面部12のみから構成されているが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、上面17と第2周側面部12との間、または第2周側面部12と下面19との間に別の周側面部が設けられていてもよい。すなわち、周側面15のうち、主切れ刃21につながる周側面部分が、上面17側から下面19側に向かって、複数の面部分が接続するように形成されていてもよい。
【0032】
下面19は、第2周側面部12側から中心軸線AX1側に向かうにつれ、仮想面L1(又は中間面M)から漸次離間するような2つの傾斜部(または傾斜面)19Bを有している(
図2、
図4A参照)。2つの傾斜部19Bは、2つある第2周側面部12にそれぞれ接続している。各傾斜部19Bは関連する主切れ刃21の裏側に位置するように、その主切れ刃21に沿って延在する。2つの傾斜部19B間には、それぞれの傾斜部19Bを接続するように平坦部19Cが形成されている。すなわち、下面19は、2つの傾斜部19Bの間に平坦部19Cが挟まれた構成を有しており、第1周側面部11に対向する方向(たとえば第1方向D1)から見て略V字形状に見える部分を有している。下面19は、工具ボデー110に設けられたインサート取付座120の底壁面と当接する着座面として機能する。
【0033】
切削インサート10は、超硬合金、サーメット、セラミック、又はダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素を含有する超高圧焼結体といった硬質材料、又はそれらをコーティングしたものから作製されることができる。
【0034】
<切削インサートの内刃などについて>
続いて、本実施形態の切削インサート10の特徴的な部分について説明する。上記のとおり、
図1等に示す切削インサート10は主として転削工具用であり、とくにエンドミルによる直角肩削りやランピング加工に適したインサートとして設計されている。本実施形態の切削インサート10はとくに内刃23の形状を改良することで、ランピング加工時等における切りくず排出性をさらに向上させることとしている。
【0035】
ここで、切削インサート10の形状・構造についての説明の便宜を図り、中心軸線AX1に垂直な軸線B、および中心軸線AX1と軸線Bの両方に垂直な軸線Cを規定する。軸線Bは、中心軸線AX1の中心点(上面17および下面19から等距離の点)を垂直に交差し、第2方向D2および第4方向D2に向かって延びる軸である。軸線Cは、中心軸線AX1の中心点(上面17および下面19から等距離の点)を中心軸線AX1および軸線Bと垂直に交差し、第1方向D1および第3方向D3に向かって延びる軸である(
図3等参照)。なお、本実施形態において、軸線Bと軸線Cは中間面Mの面上にある。
【0036】
上記のとおり、本実施形態の切削インサート10の副切れ刃22は、第1方向D1(または第3方向D3)に沿って第1周側面部11に対向する方向から見た側面視においてV字状に形成された内刃23とさらい刃24とで構成されている。そのうち、内刃23は、右上がりの右側内刃23Rと、左上がりの左側内刃23Lと、下面19のほうへ凹む形状の凹部23cと、を有している(
図4A等参照)。ここで、本実施形態では、第1方向D1に沿って第1周側面部11に対向する方向から見た側面視において、凹部23cの左右に配置されている内刃23の一方側(本実施形態の場合、左側内刃23L)の長さD
Lが、他方側(本実施形態の場合、右側内刃23R)の長さD
Rよりも長くなるよう当該内刃23が形成されている(
図4B参照)。また、本実施形態の内刃23は、中心軸線AX1に沿った方向の最下点(本実施形態の場合、凹部23cの位置)が上面17のボス面17Aよりも低い位置(すなわち、ボス面17Aよりも下面19寄りの位置)にあり、一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の少なくとも一部が上面17のボス面17Aよりも高い位置(別言すれば、下面19から、より離間した位置)にあるように形成されている(
図4B等参照)。上記のごとく左側内刃23Lの長さD
Lを右側内刃23Rの長さD
Rよりも長くした内刃23を採用した切削インサート10によれば、左側内刃23Lに連なるすくい面の部分は、より大きく外周側を向いており、内刃23より排出される切りくずがこのすくい面部分を流れ、工具外周側に向かうことととなり(
図9参照)、これによって切りくず排出性の向上と切りくず噛み込みの抑制とが実現されうる。また、上記のごとく、最下点が上面17のボス面17Aよりも低くなるように形成された内刃23を採用した切削インサート10によれば、当該最下点(本実施形態の場合、凹部23c)の部分から排出される切りくずをボス面17Aに接触させることで、切りくず離れを向上させ、さらなる切りくず排出性の向上と切りくず噛み込みの抑制とが実現されうる。
【0037】
また、本実施形態の切削インサート10では、第1方向D1(または第3方向D3)に沿った側面視にて、内刃23の一方側の傾斜角(本実施形態の場合、左側内刃23Lの右下がりの傾斜角(このような側面視における内刃やさらい刃の傾斜角を本明細書では「インクリネーション」という)θ
23L)よりも、他方側の傾斜角(本実施形態の場合、右側内刃23Rの右上がりのインクリネーションθ
23R)のほうが大きく、急傾斜となっている(
図4B等参照)。また、第1方向D1(または第3方向D3)に沿った側面視にて、右上がりのさらい刃24のインクリネーションθ
24の大きさを比較対象の基準とした場合、内刃23の一方側の傾斜角(本実施形態の場合、左側内刃23Lの右下がりのインクリネーションθ
23L)は当該基準(θ
24)よりも小さく、他方側の傾斜角(本実施形態の場合、右側内刃23Rの右上がりのインクリネーションθ
23R)のほうは当該基準(θ
24)よりも大きい(
図4B参照)。これを数式で表すならば以下の数式(5)のようになる。上記のような形状の内刃23は、さらなる切りくず排出性の向上と切りくず噛み込みの抑制とを実現しうる。すなわち、内刃23の形状を上記のようにしてすくい面をより外周側に向け、かつ、左側内刃23Lのすくい面を広くし、右側内刃23Rのすくい面を狭くして外向きのすくい面を相対的に増やした構造とすることで、切りくずが工具外周側に向かうようになり(
図9参照)、これが、切りくず排出性の向上と切りくず噛み込みの抑制につながる。
θ
23L < θ
24 < θ
23R ……(5)
【0038】
また、本実施形態の切削インサート10を中心軸線AX1に沿って視た上面視において、軸線B(またはこれに平行な線)に対する内刃23、さらい刃24のそれぞれの傾斜を表す切れ刃角φについては以下のことがいえる。すなわち、内刃23のうち凹部23cの一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の傾斜を表す切れ刃角φ
23Lと、他方側の内刃(本実施形態の場合、右側内刃23R)の傾斜を表す切れ刃角φ
23Rはいずれも、さらい刃24の傾斜角(
図3中に符号(φ
24)を特に示すことはしていないが、左側内刃23Lの切れ刃角φ
23L、右側内刃23Rの切れ刃角φ
23Rの内容からして符号がなくとも明らかである)よりも大きい(
図3参照)。また、内刃23のうち凹部23cの一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の切れ刃角φ
23Lと、他方側の内刃(本実施形態の場合、右側内刃23R)の切れ刃角φ
23Rとを比較すると、他方側の内刃(右側内刃23R)の切れ刃角φ
23Rのほうが大きい(
図3参照)。上記のような形状の内刃23を備えた切削インサート10によれば、当該内刃23より排出される切りくずが工具外周側へ向かうようになり、これによって、さらなる切りくず排出性の向上、切りくず噛み込みの抑制が図られる(
図10参照)。
【0039】
さらに、本実施形態の切削インサート10において、凹部23cの一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の切れ刃角φ
23Lは、凹部23cの他方側の内刃(本実施形態の場合、右側内刃23R)の切れ刃角φ
23Rの半分より大きい(
図3参照)。これを数式で表すならば以下の数式(1)のようになる。切れ刃角φ
23Lが小さすぎると、切削の際、切削対象(ワーク)に掘り込みできる量が減ることになるが、本実施形態ではこのように切れ刃角φ
23Lの大きさを所定値よりも大きくすることによって、切削の際の掘り込み量がある程度大きくなるようにしている。
切れ刃角φ
23L > 切れ刃角φ
23R/2 ……(1)
【0040】
さらに、本実施形態の切削インサート10において、凹部23cの他方側の内刃(本実施形態の場合、右側内刃23R)の切れ刃角φ
23Rは、側面視における当該右側内刃23Rの傾斜角を表すインクリネーションθ
23Rよりも小さい(
図3、
図4B参照)。これを数式で表すならば以下の数式(2)のようになる。このように、右側内刃23Rを、切れ刃角φ
23Rよりインクリネーションθ
23Rのほうが大きい形状とすることで、切りくずが
図10に示すような排出方向に向きやすくなる(
図10参照)。
切れ刃角φ
23R < インクリネーションθ
23R ……(2)
【0041】
さらに、本実施形態の切削インサート10において、凹部23cの一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の切れ刃角φ
23Lは、側面視における当該左側内刃23Lの傾斜角を表すインクリネーションθ
23Lよりも大きい(
図3、
図4B参照)。これを数式で表すならば以下の数式(3)のようになる。このように、左側内刃23Lを、インクリネーションθ
23Lほうが切れ刃角φ
23Lよりも小さい形状とすることで、切りくずが
図9に示すような排出方向に向きやすくなる(
図9参照)。
切れ刃角φ
23L > インクリネーションθ
23L ……(3)
【0042】
さらに、本実施形態の切削インサート10においては、側面視にて、凹部23cの他方側の内刃(本実施形態の場合、右側内刃23R)の長さD
Rは、凹部23cの一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の長さD
Lの半分未満である(
図4B参照)。これを数式で表すならば以下の数式(4)のようになる。
長さD
R < 長さD
L/2 ……(4)
【0043】
<刃先交換工具について>
上記実施形態の切削インサート10を着脱自在に装着した刃先交換式回転切削工具100について説明する(
図6~
図10等参照)。
【0044】
本実施形態の刃先交換式回転切削工具100は、工具ボデー110を備える。工具ボデー110は長手方向に延び、工具ボデー110では、その先端側から後端側に(長手方向に沿って)延びる回転軸線AX3が定められる(
図10参照)。ここで、先端側とは、工具ボデー110のうち、切削インサート10が装着される方の端部側のことを指し、後端側とは、その反対側に位置する端部側のことを指す。刃先交換式回転切削工具100は、回転軸線AX3周りに、回転方向K側に回転可能に構成されている(
図9参照)。
【0045】
工具ボデー110は、回転軸線AX3に沿って延びる略円筒状をした全体形状を有している。工具ボデー110の先端側には、複数のインサート取付座120が形成されている。本実施形態の工具ボデー110では、8つのインサート取付座120が形成されているが(
図8等参照)、インサート取付座120の数はこれよりすくなくても、1つであってもよい。各インサート取付座120は、回転軸線AX3周りの回転方向Kの前方に開くと共に、先端側および外周側に開くように形成されている(
図6等参照)。インサート取付座120は、切削インサート10の下面19の2つの傾斜部19Bのそれぞれと当接可能な底壁面(図示省略)と、切削インサート10の第1周側面部11のうちコーナ周側面部14以外の箇所と当接可能な側壁面(図示省略)と、を備える。さらに、各々のインサート取付座120の工具回転方向Kの前方側には、切削によって生じた切りくずを排出するための切りくずポケット170が設けられている(
図6、
図7等参照)。このインサート取付座120に、固定ねじ150が貫通穴Hを通してねじ穴(図示省略)にねじ込まれることで、切削インサート10は着脱自在に取り付けられる。
【0046】
刃先交換式回転切削工具100では、インサート取付座120に、切削インサート10が、主切れ刃21が工具長手方向つまり回転軸線AX3の方向に実質的に延びるように配置される。このとき、副切れ刃22は回転軸線AX3に略直交する方向に延び、コーナ切れ刃25は工具先端側かつ工具外周側に位置する。
【0047】
上記のごとく、凹部23cを含み、当該凹部23cの一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の長さが他方側の内刃(本実施形態の場合、右側内刃23R)の長さよりも長い内刃23を備えた切削インサート10によれば、当該内刃23より排出される切りくずが工具外周側へ向かうようになり(
図9参照)、切りくず排出性の向上、さらには切りくず噛み込みの抑制を図ることが可能となる。また、最下点(凹部23c)が当該切削インサート10の上面17(のボス面17A)よりも低い位置にあり、かつ、一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の少なくとも一部がボス面17Aよりも高い位置にあるという構造の内刃23とすることで、最下点部より排出される切りくずが上面17の特にボス面17Aに接触するようになり、この結果、切りくず離れが向上することによって、切りくず排出性のさらなる向上、切りくず噛み込みのさらなる抑制を図ることができる。
【0048】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0049】
たとえば、上述の実施形態において、内刃23のうち凹部23cの一方側が左側内刃23L、他方側が右側内刃23Rである切削インサート10について説明したが(
図4A等参照)、これは代表的な例にすぎない。仮に、回転方向Kが真逆の刃先交換式回転切削工具100を想定するならば、切削インサート10の構造も真逆となり左右が逆になるはずであるが、そのような場合であっても本発明が適用されうることはいうまでもない。
【0050】
また、上述の実施形態では、左側内刃23Lの長さDL、右側内刃23Rの長さDRとして、それぞれ、中間面Mに平行な長さ(第2方向D2および/または第4方向D4に沿った長さ)を示したが、これは両者の長さの比較をわかりやすく示すための便宜的な一例にすぎず、この他、たとえば左側内刃23L、右側内刃23Rのそれぞれの刃に沿った長さ(いわば刃渡り)を各刃の長さとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、刃先交換式回転切削工具とくにエンドミルによる直角肩削りやランピング加工を行う転削工具やいわゆるインデキサブル工具、およびこれら工具にて用いられる切削インサートに適用して好適である。
【符号の説明】
【0052】
10…切削インサート
11…第1周側面部
11r…逃げ面として機能する部分
12…第2周側面部
13…コーナ周側面部
14…コーナ周側面部
15…周側面
17…上面
17A…ボス面(平坦部)
17B…すくい面
19…下面
19B…傾斜面
19C…平坦部
20…切れ刃
21…主切れ刃
22…副切れ刃
23…内刃
23c…内刃の凹部
23L…左側内刃(凹部の一方側の内刃)
23R…右側内刃(凹部の他方側の内刃)
24…さらい刃
25…コーナ切れ刃
36(36a,36b)…コーナ部
37…辺部
37a…長辺部
37b…短辺部
100…刃先交換式回転切削工具
110…工具ボデー
120…インサート取付座
150…固定ねじ
170…切りくずポケット
AX1…中心軸線
AX3…刃先交換式回転切削工具の回転軸線
B…軸線
C…軸線(主切れ刃および内切れ刃が形成される辺の中心を通る軸線)
D1…第1方向
D2…第2方向
D3…第3方向
D4…第4方向、
DL…左側内刃23Lの長さ
DR…右側内刃23Rの長さ
H…貫通穴(ねじ穴)
K…回転方向
L1…仮想面
L2…仮想面
M…中間面
θ23L…側面視における左側内刃23Lのインクリネーション(傾斜角)
θ23R…側面視における右側内刃23Rのインクリネーション(傾斜角)
θ24…側面視におけるすくい刃24の傾斜角
φ23L…上面視における、軸線Bに対する右側内刃23Lの傾斜を表す切れ刃角
φ23R…上面視における、軸線Bに対する右側内刃23Rの傾斜を表す切れ刃角
【手続補正書】
【提出日】2022-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦部を有する、第1端面たる上面と、
前記上面と反対側の面であって切削工具のボデーへの取付面を有する第2端面たる下面と、
前記上面から前記下面まで貫通する軸線を有するねじ穴と、
前記上面と前記下面とを連ねるように形成された周側面と、
前記上面と前記周側面との交差領域に形成される主切れ刃、さらい刃、および内刃と、
を備え、
前記内刃が形成された周側面を前記軸線に垂直な方向から視た側面視にて、前記内刃は、前記下面のほうに凹む凹部を含み、
当該側面視にて前記凹部の一方側であって尚かつ前記さらい刃から遠い側に位置する内刃の長さDLが当該凹部の他方側の内刃の長さDRよりも長く、
前記内刃の最下点は前記上面の平坦部よりも低い位置にあり、前記一方側の内刃の少なくとも一部が前記上面の平坦部よりも高い位置にあり、
前記凹部の一方側の内刃の切れ刃角φ23Lは、前記凹部の他方側の内刃の切れ刃角φ23Rの半分より大きく、
前記凹部の他方側の内刃の切れ刃角φ
23R
は、前記側面視における当該他方側の内刃の傾斜角を表すインクリネーションθ
23R
よりも小さく、
前記凹部の一方側の内刃の切れ刃角φ
23L
は、前記側面視における当該一方側の内刃の傾斜角を表すインクリネーションθ
23L
よりも大きい、切削インサート。
【請求項2】
前記側面視にて、前記凹部の他方側の内刃の長さDRは、当該凹部の一方側の内刃の長さDLの半分未満である、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記側面視にて、前記凹部の一方側の内刃のインクリネーションθ23Lよりも、当該凹部の他方側の内刃のインクリネーションθ23Rのほうが大きい、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記側面視にて、前記さらい刃の傾斜角を表すインクリネーションθ24に対し、前記凹部の一方側の内刃のインクリネーションθ23Lは小さく、当該凹部の他方側の内刃のインクリネーションθ23Rは大きい、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記軸線に沿って視た上面視にて、前記凹部の一方側の内刃の傾斜を表す切れ刃角と、当該凹部の他方側の内刃の傾斜を表す切れ刃角は、前記さらい刃の傾斜角よりも大きい、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項6】
回転軸線を中心に回転し、切削インサートを保持するためのインサート取付座を有する工具ボデーと、
前記インサート取付座に前記取付面が当接するように前記工具ボデーに取り付けられる請求項1から5のいずれか一項に記載の切削インサートと、
を備える、刃先交換式回転切削工具。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
上面17に対向する方向から見て(つまり上面視において)、
切削インサート10は、4つの湾曲したコーナ部36と、それらコーナ部36の間に形成された4つの辺部37と、から構成された略四角形形状をなしている。4つの辺部37は、2つの長辺部37aと2つの短辺部37bとから構成されている。一対の長辺部37aは互いに対向しており、一対の短辺部37bも互いに対向するように配置されている。また、4つのコーナ部36は、切削に関与する2つのコーナ部(切削コーナ)36aと、切削に関与しない2つのコーナ部36bと、から構成されている。切削に関与するコーナ部36aと切削に関与しないコーナ部36bは、長辺部37aまたは短辺部37bを間に介して交互に配置されている。したがって、本実施形態の切削インサート10の上面17は、
図3において、中心軸線AX1に関して180°回転対称の略四角形状をなしているのであるが、本発明はこれに限定されることはなく、他の形状(極端には、三角形状や五角形状など)であっても構わない。また、周側面15は、短辺部37bに隣接し第1方向D1・第3方向D3を向く第1周側面部11と、長辺部37aに隣接し第2方向D2・第4方向D4を向く第2周側面部12と、コーナ部36aに隣接しているコーナ周側面部13と、コーナ部36bに隣接しているコーナ周側面部14と、から構成されていて、ここではそれらは互いに周方向に連続する。これらの面の形状や大きさに関しては適宜変更することができる。なお、切削インサート10は、中心軸線AX1の周りに、180°回転対称に構成されているので、2つの第1周側面部11は互いに対向し、2つの第2周側面部12は互いに対向する(
図3等参照)。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
また、本実施形態の切削インサート10を中心軸線AX1に沿って視た上面視において、
長辺部37aに直交する軸線B(またはこれに平行な線)に対する内刃23、さらい刃24のそれぞれの傾斜を表す切れ刃角φについては以下のことがいえる。すなわち、内刃23のうち凹部23cの一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の傾斜を表す切れ刃角φ
23Lと、他方側の内刃(本実施形態の場合、右側内刃23R)の傾斜を表す切れ刃角φ
23Rはいずれも、さらい刃24の傾斜角(
図3中に符号(φ
24)を特に示すことはしていないが、左側内刃23Lの切れ刃角φ
23L、右側内刃23Rの切れ刃角φ
23Rの内容からして符号がなくとも明らかである)よりも大きい(
図3参照)。また、内刃23のうち凹部23cの一方側の内刃(本実施形態の場合、左側内刃23L)の切れ刃角φ
23Lと、他方側の内刃(本実施形態の場合、右側内刃23R)の切れ刃角φ
23Rとを比較すると、他方側の内刃(右側内刃23R)の切れ刃角φ
23Rのほうが大きい(
図3参照)。上記のような形状の内刃23を備えた切削インサート10によれば、当該内刃23より排出される切りくずが工具外周側へ向かうようになり、これによって、さらなる切りくず排出性の向上、切りくず噛み込みの抑制が図られる(
図10参照)。