(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122842
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】接着構造体及びその製造方法、被着体セット、被着体、並びに活性化アルキン基含有ポリマー
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20220816BHJP
C09J 5/04 20060101ALI20220816BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20220816BHJP
C08J 5/12 20060101ALI20220816BHJP
C08F 220/12 20060101ALI20220816BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J5/04
C09J133/04
C08J5/12 CER
C08J5/12 CEZ
C08F220/12
B32B7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017458
(22)【出願日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2021020276
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩也
(72)【発明者】
【氏名】丸山 達生
(72)【発明者】
【氏名】宮原 弘稀
(72)【発明者】
【氏名】西野 孝
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA33A
4F071AA33B
4F071AA33X
4F071AB28B
4F071AC16A
4F071AG12
4F071CA01
4F071CB02
4F071CD03
4F100AB01B
4F100AB01D
4F100AD00B
4F100AD00D
4F100AG00B
4F100AG00D
4F100AH04C
4F100AH06C
4F100AJ04B
4F100AJ04D
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK02A
4F100AK03A
4F100AP00B
4F100AP00D
4F100AT00B
4F100AT00D
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10B
4F100BA10D
4F100CB00A
4F100CB00C
4F100DE01B
4F100DE01D
4F100DG01B
4F100DG01D
4F100JA07A
4F100JK06
4F100YY00A
4J040DF061
4J040GA13
4J040JA02
4J040JA13
4J040JB11
4J040LA01
4J040MA02
4J040MA05
4J040MA10
4J040MB02
4J040MB03
4J040MB04
4J040MB05
4J040MB07
4J040MB09
4J040PA02
4J100AL03P
4J100AL08Q
4J100BA03Q
4J100CA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100GC07
4J100GC17
4J100GC25
4J100HA11
4J100HA61
4J100HC29
4J100HC59
4J100HC63
4J100HE08
4J100HE14
4J100JA03
(57)【要約】
【課題】被着体に接着剤を付着させてからの可使時間を長くし、かつ様々な環境下で接着させても接着強度に優れる接着構造体を提供する。
【解決手段】活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aと、アジド化合物を表面に有する被着体Bとにより形成される接着構造体であって、前記被着体A及び被着体Bの前記表面同士が、活性化アルキン化合物の活性化アルキン基と前記アジド化合物のアジド基の間に生じた化学結合により接着されることを特徴とする、接着構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aと、アジド化合物を表面に有する被着体Bとにより形成される接着構造体であって、
前記被着体A及び被着体Bの前記表面同士が、活性化アルキン化合物の活性化アルキン基と前記アジド化合物のアジド基の間に生じた化学結合により接着されることを特徴とする、接着構造体。
【請求項2】
前記活性化アルキン化合物が、6~12員環構造を有する環状アルキン基、及び電子吸引性基により活性化した電子欠乏性アルキン基からなる群から選択される少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の接着構造体。
【請求項3】
前記被着体Aの表面に存在する活性化アルキン基の有効反応点密度が、10pmol/cm2以上200pmol/cm2以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接着構造体。
【請求項4】
前記活性化アルキン化合物がポリマーであることを特徴とする請求項1~3の少なくともいずれか1項の接着構造体。
【請求項5】
前記ポリマーの重量平均分子量が5,000以上200,000以下であることを特徴とする請求項4に記載の接着構造体。
【請求項6】
前記ポリマーが、以下の式(5)に示す繰り返し単位を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の接着構造体。
【化1】
式(5)において、R
21は水素原子及びメチル基のいずれかであり、Xは活性化アルキン基を有する基である。
【請求項7】
上記式(5)に示す繰り返し単位の比率が、前記ポリマーにおける全繰り返し単位基準で、1モル%以上50モル%以下であることを特徴とする請求項6に記載の接着構造体。
【請求項8】
前記ポリマーがさらに以下の式(6)に示す繰り返し単位を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の接着構造体。
【化2】
式(6)において、R
31は水素原子及びメチル基のいずれかであり、R
32は炭素数1~18のアルキル基である。
【請求項9】
前記アジド化合物がカップリング部位を有することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の接着構造体。
【請求項10】
前記カップリング部位がシランカップリング部位であることを特徴とする請求項9に記載の接着構造体。
【請求項11】
前記被着体A及び被着体Bそれぞれの前記表面の材質が、金属、ガラス、樹脂、セラミック、木質材料、生体材料、及びセルロース類からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の接着構造体。
【請求項12】
前記被着体A及び被着体Bの前記表面には、いずれも銅が存在しないことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の接着構造体。
【請求項13】
前記被着体A及び被着体Bそれぞれの形状が、板状、フィルム状、粒子状、繊維状、及び粒状からなる群から選択されることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の接着構造体。
【請求項14】
被着体Aの表面に活性化アルキン化合物を付着させる工程と、
被着体Bの表面にアジド化合物を付着させる工程と、
前記被着体A及び被着体Bの前記表面同士を合わせて被着体Aと被着体Bを接着させる工程とを備えることを特徴とする、接着構造体の製造方法。
【請求項15】
前記表面同士を合わせて、0~80℃の環境下で被着体Aと被着体Bを接着させることを特徴とする請求項14に記載の接着構造体の製造方法。
【請求項16】
接着させて接着構造体を得るための被着体セットであって、
活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aと、アジド化合物を表面に有する被着体Bとを備えることを特徴とする被着体セット。
【請求項17】
アジド化合物を表面に有する被着体Bに接着させるための接着体Aであって、
活性化アルキン化合物を表面に有することを特徴とする被着体A。
【請求項18】
活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aに接着させるための被着体Bであって、
アジド化合物を表面に有することを特徴とする被着体B。
【請求項19】
以下の式(5)に示す繰り返し単位を有することを特徴とする活性化アルキン基含有ポリマー。
【化3】
式(5)において、R
21は水素原子及びメチル基のいずれかであり、Xは活性化アルキン基を有する基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体A,Bを接着させて得られる接着構造体及びその製造方法、その接着構造体に使用される被着体セット及び被着体、並びに活性化アルキン基含有ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応性接着剤は、2つの被着体間に塗布などされることで使用されるものであり、接着剤に含まれる少なくとも2種類の官能基が反応することで硬化して、2つの被着体を接着させることが広く知られている。
【0003】
従来、アジド化合物と、鎖状アルキンとを高温加熱下、銅触媒存在下で反応させることで、1,3-双極子付加環化によりトリアゾール骨格を有する生成物を得るクリック反応が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。このクリック反応は、被着体間を接着させるために利用されることもある。例えば、特許文献3に開示されるように、複数のアジド官能基を有するモノマーと、複数の末端アルキン官能基を有するモノマーとの両方を含む多価モノマー混合物を、2つ以上の被着体間に配置させ、銅触媒存在下において、これらモノマーを反応させることで、接着性ポリマー接合剤を形成して、被着体間を接合することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006-502099号公報
【特許文献2】特開2018-184472号公報
【特許文献3】特表2008-507404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、被着体やその周辺部材によっては、耐熱性、耐圧、耐薬品性、耐湿性の観点から、温和な環境に加え、真空下、又は水若しくは有機溶剤の接触環境下などの様々な条件下での接着プロセスが求められることがある。また、様々な材質の被着体を接着することが求められることがある。
しかし、アジド化合物と鎖状アルキンのクリック反応は、高温下、銅触媒下などの特定の条件下で反応が進行することが一般的であり、特許文献3に開示される接着性ポリマー接合剤は、様々な条件下で被着体間の接着強度を高くすることが難しい。
【0006】
また、化学反応性接着剤は、被着体の貼り合わせのアライメントや、作業性の観点から、塗布してから硬化までの時間猶予が必要であり、接着剤を被着体に塗布してからある程度の可使時間が必要となる。しかし、温和な環境下で反応が進行する化学反応性接着剤は、その可使時間が短いことが一般的であり、塗布してから接着までの工程管理が困難になることが多い。
【0007】
そこで、本発明は、被着体に接着剤を付着させてからの可使時間を長くし、かつ様々な条件で使用しても接着強度に優れる接着構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、活性化アルキン化合物を表面に有する被着体と、アジド化合物を表面に有する被着体とを接着させることにより、可使時間を長くしつつも、被着体の材質や、被着体表面における銅触媒等の銅の存在有無によらず、様々な環境下で接着強度に優れる構造体を得ることができることを見出した。以上の知見に基づき、以下の本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、以下の[1]~[19]を提供する。
[1]活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aと、アジド化合物を表面に有する被着体Bとにより形成される接着構造体であって、
前記被着体A及び被着体Bの前記表面同士が、活性化アルキン化合物の活性化アルキン基と前記アジド化合物のアジド基の間に生じた化学結合により接着されることを特徴とする、接着構造体。
[2]前記活性化アルキン化合物が、6~12員環構造を有する環状アルキン基、及び電子吸引性基により活性化した電子欠乏性アルキン基からなる群から選択される少なくともいずれかであることを特徴とする上記[1]に記載の接着構造体。
[3]前記被着体Aの表面に存在する活性化アルキン基の有効反応点密度が、10pmol/cm
2以上200pmol/cm
2以下であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の接着構造体。
[4]前記活性化アルキン化合物がポリマーであることを特徴とする上記[1]~[3]の少なくともいずれか1項の接着構造体。
[5]前記ポリマーの重量平均分子量が5,000以上200,000以下であることを特徴とする上記[4]に記載の接着構造体。
[6]前記ポリマーが、以下の式(5)に示す繰り返し単位を有することを特徴とする上記[4]又は[5]に記載の接着構造体。
【化1】
式(5)において、R
21は水素原子及びメチル基のいずれかであり、Xは活性化アルキン基を有する基である。
[7]上記式(5)に示す繰り返し単位の比率が、前記ポリマーにおける全繰り返し単位基準で、1モル%以上50モル%以下であることを特徴とする上記[6]に記載の接着構造体。
[8]前記ポリマーがさらに以下の式(6)に示す繰り返し単位を有することを特徴とする上記[6]又は[7]に記載の接着構造体。
【化2】
式(6)において、R
31は水素原子及びメチル基のいずれかであり、R
32は炭素数1~18のアルキル基である。
[9]前記アジド化合物がカップリング部位を有することを特徴とする上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の接着構造体。
[10]前記カップリング部位がシランカップリング部位であることを特徴とする上記[9]に記載の接着構造体。
[11]前記被着体A及び被着体Bそれぞれの前記表面の材質が、金属、ガラス、樹脂、セラミック、木質材料、生体材料、及びセルロース類からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする上記[1]~[10]のいずれか1項に記載の接着構造体。
[12]前記被着体A及び被着体Bの前記表面には、いずれも銅が存在しないことを特徴とする上記[1]~[11]のいずれか1項に記載の接着構造体。
[13]前記被着体A及び被着体Bそれぞれの形状が、板状、フィルム状、粒子状、繊維状、及び粒状からなる群から選択されることを特徴とする上記[1]~[12]のいずれか1項に記載の接着構造体。
[14]被着体Aの表面に活性化アルキン化合物を付着させる工程と、
被着体Bの表面にアジド化合物を付着させる工程と、
前記被着体A及び被着体Bの前記表面同士を合わせて被着体Aと被着体Bを接着させる工程とを備えることを特徴とする、接着構造体の製造方法。
[15]前記表面同士を合わせて、0~80℃の環境下で被着体Aと被着体Bを接着させることを特徴とする上記[14]に記載の接着構造体の製造方法。
[16]接着させて接着構造体を得るための被着体セットであって、
活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aと、アジド化合物を表面に有する被着体Bとを備えることを特徴とする被着体セット。
[17]アジド化合物を表面に有する被着体Bに接着させるための接着体Aであって、
活性化アルキン化合物を表面に有することを特徴とする被着体A。
[18]活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aに接着させるための被着体Bであって、アジド化合物を表面に有することを特徴とする被着体B。
[19]以下の式(5)に示す繰り返し単位を有することを特徴とする活性化アルキン基含有ポリマー。
【化3】
式(5)において、R
21は水素原子及びメチル基のいずれかであり、Xは活性化アルキン基を有する基である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被着体に接着剤を付着させてからの可使時間を長くし、かつ様々な条件で接着させても接着強度に優れる接着構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】合成例1で合成したPMEの
1HNMRのチャートを示す。
【
図2】合成例1で合成したPMEDの
1HNMRのチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の接着構造体について、実施形態を参照しつつ説明する。
本発明の接着構造体は、活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aと、アジド化合物を表面に有する被着体Bにより形成されるものである。接着構造体は、これら活性化アルキン化合物、及びアジド化合物をそれぞれ有する、被着体A,Bの表面同士が、活性化アルキン化合物の活性化アルキン基とアジド化合物のアジド基の間に生じた化学結合により接着されるものである。ここで、生じる化学結合を以下の化学式に示す。
【化4】
【0013】
以上の構成を有する接着構造体は、被着体Aと被着体Bとを様々な環境下で接着させても接着強度に優れるものとなる。また、活性化アルキン化合物、及びアジド化合物それぞれを表面に有する被着体A,Bは、表面同士を合わせない限り、反応が進行しないため、これら化合物を表面に塗布などしてからの可使時間を長くすることも可能である。さらに、被着体A、Bに様々な材質を使用しても、高い接着強度を確保できる。
なお、以下の説明においては、被着体Aの活性化アルキン化合物を有する表面は、表面Aということがある。また、被着体Bのアジド化合物を有する表面は、表面Bということがある。
【0014】
[活性化アルキン化合物]
被着体Aに使用される活性化アルキン化合物は、アジド化合物と有効に反応しうる構造の活性化アルキン基を有する化合物である。上記活性化アルキン基を有することにより、被着体Aと被着体Bが化学結合により接合し、その結果、接着強度が向上する。
活性化アルキン基としては、例えば、環状アルキン基、電子欠乏性アルキン基等が挙げられる。ここで、電子欠乏性アルキン基は、電子吸引性基により活性化したアルキン基をいう。活性化アルキン基としては、上記したなかでも、炭素結合のひずみによるアルキンの復元力に由来する反応活性度が高く、接着性を向上させる効果に優れることから、環状アルキン基が好ましい。
【0015】
環状アルキン基は、6~12員環構造を有することが好ましく、8~9員環構造を有することがより好ましい。環状アルキン基の環構成原子は、炭素原子のみからなるものであってもよいが、炭素原子に加えて、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子らなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を有してもよい。ヘテロ原子は、硫黄原子又は窒素原子が好ましく、より好ましくは窒素原子である。環構成原子中のヘテロ原子の数は、通常は1つである。また、環状アルキン基は、環中にアルキン基を有する基であるが、通常は環中のアルキン基の数は1つないしは2つである。
【0016】
環状アルキン基の具体的な環構造としては、環中に1つのアルキン基を有し、環が8個の炭素原子よりなるシクロオクチン構造を有するもの、環中に1つのアルキン基を有し、環が7個の炭素原子と1個の窒素原子からなる構造を有するもの、環中に1つのアルキン基を有し、環が6個の炭素原子と1個の硫黄原子からなる構造を有するものなどが挙げられる。
これらの中では、炭素結合のひずみによるアルキンの復元力に由来する反応活性度が高く、接着性を向上させる効果に優れることから、環中に1つのアルキン基を有し、環が8個の炭素原子よりなるシクロオクチン構造を有するもの、環中に1つのアルキン基を有し、環が7個の炭素原子と1個の窒素原子からなる構造を有するものが好ましい。
また、環状アルキン基は、ベンゼン環、シクロアルカン環などともに多環構造を構成してもよい。
【0017】
また、活性化アルキン化合物において、反応性に優れることから、環状アルキン基は、以下の式(1-1)~(1-7)で示す環構造を構成することが好ましい。
【化5】
上記の中では、上記の中では、式(1-3)、式(1-4)、式(1-5)、式(1-6)で示す環構造を有することが好ましく、式(1-6)で示す環構造を有することがより好ましい。
【0018】
また、環状アルキン基は、以下の基を構成することがより好ましい。
【化6】
上記各化学式において*は、他の基との結合位置を示す。
【0019】
なかでも、アジド基に対し反応性が優れ、接着性を向上させる効果に特に優れることから式(2-4)、式(2-5)、式(2-6)、式(2-7)、式(2-8)で示す基を有することが好ましく、中でも式(2-7)で示す基を有することが好ましい。上記官能基は、1種単独で使用してもよいし、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0020】
また、電子欠乏性アルキン基において、アルキン基を活性化させる電子吸引性基としては、カルボキシル基、ハロゲン、p-トルエンスルホニル基、エステル基(*-COOR、*がアセチレン基との結合位置)などが挙げられる。電子欠乏性アルキン基としては、カルボキシル基が直接結合されたアセチレン基、エステル基が直接結合されたアセチレン基、p-トルエンスルホニル基が直接結合されたアセチレン基などが挙げられる。これらの中では、生産性に優れることから、カルボキシル基又はエステル基に直接結合されたアセチレン基が好ましい。そのような基の具体例としては、プロピオル酸、2-ブチン酸(テトロン酸)、2-ペンチン酸由来の基が挙げられる。なお、アセチレン基とは、一般式*-C≡C-*に相当する基である(*は他の基との結合位置を示す)。
【0021】
活性化アルキン化合物は、モノマーであってもよいし、ポリマーであってもよい。モノマーとしては、具体的には、以下の式(3-1)~(3-9)に示す化合物が挙げられる。
【化7】
上記各式において、R
1~R
8はそれぞれ炭素数1~30の有機基である。具体的には、カップリング部位を有する有機基、アルキル基、芳香族環に置換基を有してもよいアリール基、芳香族環に置換基を有してもよいアラルキル基、-C(=O)R
9COOHで表される基、-C(=O)R
9COOR
10で表される基(ただし、R
9は炭素数1~4の二価の飽和炭化水素基、R
10は炭素数1~18のアルキル基である)などが挙げられる。また、上記置換基としては、アルキル基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。上記の中では、式(3-4)、式(3-5)、式(3-6)、式(3-7)、式(3-8)で示す基を有することが好ましく、中でも式(3-7)で示す基を有することが好ましい。
【0022】
活性化アルキン化合物は、分子内にカップリング部位を有する態様も好ましい。カップリング部位を有することで、ガラス、セラミックなどの無機材料の被着体Aに対して反応して、これら被着体Aに対する高い密着性を確保できる。
したがって、上記の式(3-1)~(3-8)に示す化合物において、R1~R8は、カップリング部位を有する有機基であることが好ましい。ここで、カップリング部位は、例えば、二価の炭化水素基などの連結基を介して、式(3-1)~(3-8)に示す酸素原子や窒素原子に連結してもよい。なお、二価の炭化水素基は、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基、アミド結合、アミノ基などが導入されものであってもよいし、ハロゲン原子、アルコキシ基などによって一部の水素原子が置換された基であってもよい。
カップリング部位としては、シランカップリング部位、チタネートカップリング部位、ジルコネートカップリング部位、ホスホン酸カップリング部位などが挙げられる。これらの中では、反応性や生産性に優れることから、シランカップリング部位が好ましい。活性化アルキン化化合物は、1分子中にシランカップリング部位を1つ有していてもよいが、2つ以上有していてもよい。なお、シランカップリング部位は、例えば、以下の式(4)で表される基である。
【0023】
【化8】
式(4)において、R
12は互いに独立に炭素数1~4のアルキル基であり、R
13は互いに独立に炭素数1~6のアルキル基である。*は他の官能基との結合位置を示す。
R
12はメチル基、エチル基が好ましく、メチル基であることが更に好ましい。R
13はメチル基、エチル基が好ましく、メチル基であることが更に好ましい。aは1~3の整数であるが、好ましくは2又は3、より好ましくは3である。
【0024】
具体的な活性化アルキン化合物として、環状アルキン基を有する化合物(活性化環状アルキン化合物)として、好ましくはジベンゾシクロオクチン酸(DBCO acid)が挙げられる。また、これ以外にも、ジベンゾシクロオクチンアミン(DBCOアミン)などが挙げられる。
また、電子欠乏性アルキン基を有する化合物として、プロピオル酸、プロピオル酸メチル、2-ブチン酸、2-ペンチン酸、p-トルエンスルホニルアセチレンなどのp-トルエンスルホニルアルキンが挙げられる。
また、これらの化合物の何れかと、カップリング部位を有する化合物との反応生成物も好ましくは挙げられる。
【0025】
[活性化アルキン基含有ポリマー]
本発明の一実施形態において、活性化アルキン化合物は、上記の通り、ポリマー(「活性化アルキン基含有ポリマー」ともいう)であることが好ましい。活性化アルキン基含有ポリマーとしては、例えば、活性化アルキン基を有するモノマー(「活性化アルキンモノマー」ともいう)の重合物、所定の官能基を有するポリマー(「骨格ポリマー」ともいう)を、活性化アルキン基を有する化合物により変性して得た、変性ポリマー等が挙げられる。これらの中では、ポリマーの製造容易性、被着体Aの表面Aへの均一塗布性や接着性調整する等の観点を考慮すると、変性ポリマーが好ましい。
【0026】
活性化アルキンモノマーの重合物は、溶媒等への溶解性、被着体への塗布性を調整する等の観点から、活性化アルキンモノマーのみを重合した重合物でもよいが、活性化アルキンモノマーとその他のモノマーとの共重合体であることが好ましい。活性化アルキンモノマーとしては、活性化アルキン基と、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などの重合性官能基とを有するモノマーが挙げられる。
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基を包含する概念を示す用語であり、他の類似用語も同様の意味とする。
【0027】
変性ポリマーにおいて使用される骨格ポリマーは、ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリアミドなどが挙げられる。また、骨格ポリマーが有する官能基としては、特に限定されないが、水酸基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、アルデヒド基、ハロゲン基などが挙げられる。
一方で、変性ポリマーを得るために使用される活性化アルキン基を有する化合物は、上記官能基と反応できる反応性官能基を有するとよく、具体的な反応性官能基としては、カルボキシル基、水酸基、チオール基、アミノ基、イソシアネート基などが挙げられる。例えば、変性ポリマーが水酸基を有する場合には、反応性官能基としてはカルボキシル基を使用するとよい。なお、カルボキシル基は、ハロゲン化アシル基、酸無水物基、各種エステル基などにされてもよい。この際、エステルはNHSエステルなどであってもよい。
【0028】
活性化アルキン基含有ポリマーの好ましい一実施形態としては、以下の式(5)に示す繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【化9】
式(5)において、R
21は水素原子及びメチル基のいずれかであり、Xは活性化アルキン基を有する基である。
【0029】
なお、式(5)において、活性化アルキン基は上記の通りであり、環状アルキン基であってもよいし、電子欠乏性アルキン基であってもよいが、環状アルキン基であることが好ましい。電子欠乏性アルキン基及び環状アルキン基の詳細な説明は、上記の通りであり、その説明は省略する。
【0030】
活性化アルキン基は、エステル結合、チオエステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、エポキシ基とカルボキシル基の反応により得られる結合、チオール基とイソシアネート基との反応により得られる結合などを介して、活性化アルキン基含有ポリマーの主鎖に結合するとよい。
これら結合を介することで、活性化アルキン基を容易にポリマーに導入することができる。
Xの炭素数は、例えば、3~80程度であるが、好ましくは15~45、より好ましくは20~32である。
【0031】
活性化アルキン基は、エステル結合を介して活性化アルキン基含有ポリマーの主鎖に結合することが好ましい。その場合、式(5)に示される繰り返し単位は、好ましくは以下の式(5-1)で示す繰り返し単位である。
【0032】
【0033】
式(5-1)において、R21は上記と同様である。R22は、炭素数1~18の二価の炭化水素基、又は*-COOR24-(ただし、R24が炭素数1~18の二価の炭化水素基、*が主鎖の炭素原子との結合位置である)で表され、R23が活性化アルキン基を有する基である。R22は*-COOR24-であることが好ましい。
R22又はR24の二価の炭化水素基は、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族環を有していてもよいが、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基である。飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖であってもよいし、分岐構造又は環状構造を有してもよいが、好ましくは直鎖である。したがって、R22は二価の直鎖の飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。同様に、R24は二価の直鎖の飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。二価の直鎖の飽和脂肪族炭化水素基の他の基との結合位置は、両末端であることが好ましい。
R24の炭素数は、好ましくは1~12であるが、接着力を向上させる観点などから、より好ましくは2~12、さらに好ましくは2~10、よりさらに好ましくは4~8である。R22の炭素数の好適な範囲も同様である。
【0034】
R23における活性化アルキン基は、上記の通りであり、したがって、R23は、好ましくは式(2-1)~(2~9)のいずれかを有するが、これらの中では、式(2-7)を有することがより好ましい。R23は、-COOR22に直接結合されるアセチレン基を有する基であることも好ましく、その場合、より好ましくは*-C≡CHで表される基である(*はCOOR22との結合位置を示す)。
また、式(2-1)~(2~9)で示される基は、式(5-1)で示される-COOR22-に直接に結合されてもよいが、*-R25-**又は*-COR26-**を介して、結合されてもよい。なお、R25及びR26は二価の炭化水素基を示し、*は式(2-1)~(2~9)で示される基との結合位置を示し、**が式(5-1)で示される-COOR22-との結合位置を示す。R25及びR26それぞれにおける二価の炭化水素基は、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族環を有していてもよいが、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基である。飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖であってもよいし、分岐構造又は環状構造を有してもよいが、好ましくは直鎖である。したがって、R25及びR26それぞれは二価の直鎖の飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。二価の直鎖の飽和脂肪族炭化水素基の他の基との結合位置は、両末端であることが好ましい。R26の炭素数は、例えば1~10、好ましくは1~6、より好ましくは2~4である。R25の炭素数もR26と同様である。
式(2-1)~(2~9)で示される基としては、上記のとおり、式(2-7)で示される基が好ましく、その場合、式(2-7)で示される基は、*-COR26-**を介して、式(5-1)で示される-COOR22-に結合することが好ましい。
【0035】
式(5)に示される繰り返し単位は、上記した中でも以下の式(5-2)で示す繰り返し単位であることが特に好ましい。
【化11】
式(5-2)において、R
21、R
24及びR
26は上記と同様である。
【0036】
好ましい一実施形態における活性化アルキン基含有ポリマーは、上記式(5)に示す繰り返し単位に加えて、上記式(5)に示す繰り返し単位以外の繰り返し単位を有するとよい。
上記式(5)に示す繰り返し単位の比率は、活性化アルキン基含有ポリマーにおける全繰り返し単位基準で、1モル%以上50モル以下であることが好ましく、3モル%以上30モル%以下がより好ましく、5モル%以上20モル%以下がさらに好ましい。
上記式(5)に示す繰り返し単位を1モル%以上とすることで、被着体Aの表面Aに高い密度で活性化アルキン基を存在しさせやくなり、被着体間の接着性を高めることができる。また、50モル%以下とすることで、上記式(5)に示す繰り返し単位以外の繰り返し単位を十分な量含有させることができる。そのため、柔軟性、被着体Aに対する密着性などの各種物性を良好にでき、例えば活性化アルキン基含有ポリマーによって被着体A上に適切な塗膜を形成することができる。
【0037】
活性化アルキン基含有ポリマーが有する、上記式(5)に示す繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、好ましくは以下の式(6)に示す繰り返し単位が挙げられる。活性化アルキン基含有ポリマーは、上記式(5)に示す繰り返し単位と、上記式(5)に示す繰り返し単位以外の繰り返し単位を有する場合、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいが、ランダム共重合体が好ましい。
【化12】
式(6)において、R
31は水素原子及びメチル基のいずれかであり、R
32は炭素数1~18のアルキル基である。
【0038】
活性化アルキン基含有ポリマーは、上記式(6)に示す繰り返し単位を有することで、柔軟性などの各種物性を良好にでき、また、被着体Aに対する密着性なども向上し、特に、被着体の材質が樹脂である場合に、密着性を向上させやすくなる。
上記式(6)に示す繰り返し単位の比率は、活性化アルキン基含有ポリマーにおける全繰り返し単位基準で、50モル%以上99モル以下であることが好ましく、70モル%以上97モル%以下がより好ましく、80モル%以上95モル%以下がさらに好ましい。上記式(6)に示す繰り返し単位を上記上限以上及び上記下限以下とすることで、密着性をより向上させることができる。
【0039】
R32のアルキル基は、直鎖であってもよいし、分岐構造を有してもよいし、環状構造を有してもよいが、直鎖のアルキル基であることが好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソミリスチル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基等が挙げられる。
R32のアルキル基の炭素数は、好ましくは1~12、より好ましくは1~4である。
また、上記式(6)に示す繰り返し単位は、R32がメチル基である繰り返し単位を含有することが好ましい。式(6)に示す繰り返し単位全量に対して、R32がメチル基である繰り返し単位は、50モル%以上100モル%以下であることが好ましく、70モル%以上100モル%以下であることが好ましく、85モル%以上100モル%以下であることが好ましい。R32がメチル基である繰り返し単位を上記上限以上及び上記下限以下とすることで、密着性をより向上させることができる。
【0040】
好ましい一実施形態における活性化アルキン基含有ポリマーは、上記(5)及び(6)に示す繰り返し単位以外をさらに含有してもよい。そのような繰り返し単位としては、ビニル系モノマーやアクリル系モノマーと共重合することが可能な各種の重合性モノマー成分由来の構成単位が挙げられる。
重合性モノマー成分としては、特に限定されないが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基などの官能基を有する重合性モノマー成分(以下、「官能基含有モノマー」ともいう)であってもよい。活性化アルキン基含有ポリマーを変性ポリマーとする場合、これら官能基含有モノマー由来の構成単位は、骨格ポリマーにおいて活性化アルキン基を有する化合物が反応される反応点となるが、活性化アルキン基を有する化合物は、全ての官能基に反応しないことがある。その場合、官能基含有モノマー由来の構成単位は、変性ポリマー(活性化アルキン基含有ポリマー)においても残存することになる。
【0041】
官能基含有モノマーとしては、官能基として水酸基を有するものが好ましく、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにおけるヒドロキシアルキル基の炭素数は、例えば炭素数1~18であればよく、好ましくは1~12、より好ましくは2~10、よりさらに好ましくは2~8である。また、ヒドロキシアルキル基は、直鎖状でもよいし、分岐構造を有してもよく、環状構造を有してもよいが、直鎖状であることが好ましく、また、直鎖状のヒドロキシアルキル基において、水酸基は、末端の炭素原子に結合することが好ましく、他方の末端の炭素原子に(メタ)アクリロイルオキシ基の酸素原子が結合するとよい。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの好ましい具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、7-ヒドロキシヘプチル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0042】
上記(5)に示す繰り返し単位以外を有する活性化アルキン基含有ポリマーは、上記のとおり、活性化アルキン基を有するモノマーを重合、又は該モノマーと該モノマー以外のモノマーを共重合することにより得てもよいが、所定の官能基を有するポリマー(骨格ポリマー)を、活性化アルキン基を有する化合物により変性するとで得ることが好ましい。
具体的には、まず、上記の官能基含有モノマーを重合、若しくは官能基含有モノマーと、アルキル(メタ)アクリレートなどの官能基含有モノマー以外のモノマーとを共重合して、骨格ポリマーを得る。その後、その骨格ポリマーに、活性化アルキン基を有する化合物を反応させることで得ることができる。
【0043】
ここで、活性化アルキン基含有ポリマーを合成するために使用される、活性化アルキン基を有する化合物は、活性化アルキン基に加えて、上記の通りの反応性官能基を有するとよい。活性化アルキン基を有する化合物は、好ましくは反応性官能基としてカルボキシル基を有するが、より好ましくはR23COOH(ただし、R23は、上記と同様である)であり、さらに好ましくは以下の式(7)で示す化合物である。ただし、活性化アルキン基を有する化合物におけるカルボキシル基は、ハロゲン化アシル基、酸無水物基、各種のエステル基などにされてもよい。
【0044】
【化13】
なお、式(7)において、R
26は、上記と同様である。
【0045】
活性化アルキン基含有ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは5000以上200,000以下である。上記活性化アルキン基含有ポリマーの重量平均分子量を5000以上とすることで、柔軟性が良好となる。また、200,000以下とすることで、被着体Aに塗布する際の塗布性が良好となる。これら観点から、活性化アルキン基含有ポリマーの重量平均分子量は、10,000以上がより好ましく、15,000以上がさらに好ましく、また、150,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。
なお、本明細書において上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリスチレン換算により求められる値である。GPCによってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、7.5mm×300mmカラム Asahipak GF-510HQ(昭和電工社製)等が挙げられる。GPCの条件としては、例えば、40℃、1.0mLmin-1、溶媒としてテトラヒドロフラン(HPLC grade)を用いて測定することができる。
【0046】
被着体Bに接着される被着体Aの表面Aに存在する活性化アルキン基の有効反応点密度は、例えば5pmol/cm2以上250pmol/cm2以下である。このような範囲内とすることで、活性化アルキン基とアジド基との間に生じる化学結合により被着体Bと被着体Aを接着しやすくなる。
上記有効反応点密度は、10pmol/cm2以上200pmol/cm2以下であることが好ましい。上記活性化アルキン基の有効反応点密度を200pmol/cm2以下とすると、活性化アルキン化合物が塗布された被着体Aの表面が過度に酸化されることを防止して、保存安定性が低下することを防止できる。活性化アルキン基の有効反応点密度は、より好ましくは100pmol/cm2以下である。
また、上記活性化アルキン基の有効反応点密度を10pmol/cm2以上とすると、接着性を十分に向上させることができる。上記活性化アルキン基の有効反応点密度は、より好ましくは20pmol/cm2以上である。
【0047】
有効反応点密度の測定は、被着体Aの表面Aの活性化アルキン基に対してクリック反応可能な蛍光物質(N
3-EG
2-fluorescein)を反応させて固定化させる。その後、固定化された蛍光物質を再び溶液中に遊離させて、溶液の蛍光強度を測定することで測定できる。有効反応点密度の測定方法の詳細は、実施例に記載の通りである。なお、N
3-EG
2-fluoresceinは、以下の式(8)で表される化合物である。
【化14】
【0048】
活性化アルキン化合物は、被着体Aに対する塗布性や密着性を考慮して選択させるとよい。樹脂などの被着体に対しては活性化アルキン基含有ポリマーが好適であり、ガラス、セラミックなどの無機材料の被着体Aに対してはその反応性の面から分子中にカップリング部位を有する活性化アルキン化合物が好適である。
【0049】
[アジド化合物]
被着体Bに使用されるアジド化合物は、分子中にアジド基を有する化合物であれば特に限定されない。
アジド化合物としては、例えば、4-アジドシンナムアルデヒド、2-アジド-1,3-ビス[(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)オキシ]プロパン、N-(3-アジドプロピル)ビオチンアミド、6-アジドヘキサン-1-オール、アジド酢酸エチル、3-アジドプロピルアミン、メチル-PEG12-アジド(O-(2-アジドエチル)-O’-メチルウンデカエチレングリコール)等が挙げられる。
【0050】
また、アジド化合物は、ウレタン結合又はウレア結合を有する化合物であってもよい。そのような化合物は、ポリイソシアネート又はイソシアネート末端ポリウレタンプレポリマーと、イソシアネートに対して反応性の官能基を有するエポキシ化合物との反応によって、反応生成物を得る。次に、その反応生成物を、さらに、求核性アジド、好ましくはアジ化ナトリウム等の無機アジドと反応させ、エポキシキを開環させてアジド基を付加することで得ることができる。
なお、上記エポキシ化合物の好ましい反応性の官能基は水酸基である。ポリウレタンプレポリマーは、ウレア結合又はウレタン結合を有する化合物であり、ポリエーテルポリウレタン、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレア、ポリエステルポリウレアなどである。
【0051】
また、アジド化合物としては、ポリマータイプのアジド化合物や、分子内にカップリング部位を有するアジド化合物も使用できる。
上記ポリマータイプのアジド化合物としては、ポリエチレングリコールメチルエーテルアジド、メトキシポリエチレングリコールアジド、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)アジド末端、上記したイソシアネート末端ポリウレタンプレポリマーから得られるアジド化合物が挙げられる。また、例えば、グリシジルアジドポリマー、アジド系モノマーをラジカル重合したポリマー等が挙げられる。アジド系モノマーは、アジド基と、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などの重合性官能基とを有するモノマーが挙げられる。グリシジルアジドポリマーとしては、日油株式会社製の「GAP4006」などが使用できる。
ポリマータイプのアジド化合物としては、所定の官能基を有するポリマー(骨格ポリマー)を、アジド基を有する化合物により変性して得た、変性ポリマーも挙げられる。アジド基を有する化合物は、反応性官能基とアジド基を有するとよい。なお、骨格ポリマー、骨格ポリマーが有する官能基、及び反応性官能基は、上記の活性化アルキン基含有ポリマーで説明したとおりであるので、その詳細な説明は省略する。
【0052】
アジド化合物で使用されるカップリング部位は、活性化アルキン化合物で説明したとおりであり、好ましくはシランカップリング部位である。シランカップリング部位の詳細な説明は、活性化アルキン化合物で説明したとおりであり、例えば、式(4)に示す通りである。
アジド化合物において、1分子中にシランカップリング部位を1つ有していてもよいが、2つ以上有していてもよいが、1つ有することが好ましい。
【0053】
シランカップリング部位を有するアジド化合物としては、好ましくは以下の式(9)で示される化合物が挙げられる。
【化15】
式(9)において、Zは上記式(4)で示されるシランカップリング部位であり、R
31は二価の有機基である。二価の有機基は、例えば炭素数1~30程度であり、好ましくは4~18、さらに好ましくは6~14である。
二価の有機基としては、二価の炭化水素基が好ましいが、二価の炭化水素基にエーテル結合、エステル結合、カルボニル基、アミノ基、アミド基などが導入された基であってもよいし、ハロゲン原子、アルコキシ基などによって一部の水素原子が置換された基であってもよい。二価の炭化水素基は、芳香族環を有していてもよいが、二価の飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。二価の飽和脂肪族炭化水素基は、分岐構造、環状構造を有してもよいが、直鎖状であることが好ましく、直鎖の両末端それぞれにシランカップリング部位と、アジド基とを有することがさらに好ましい。
シランカップリング部位を有するアジド化合物の具体例としては、例えば、(11-アジドウンデシル)トリメトキシシラン(窒素含有量:13.2質量%)が挙げられる。
【0054】
アジド化合物は、被着体Bに対する塗布性や密着性を考慮して選択させるとよい。樹脂などの被着体に対してはポリマータイプのアジド化合物が好適であり、ガラス、セラミックなどの無機材料の被着体に対してはその反応性の面から分子中にカップリング部位を有するアジド化合物が好適である。
【0055】
また、アジド化合物は、その分子の質量に対するアジドの質量から算出できる窒素含有量が、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは16質量%以下、最も好ましくは15質量%以下である。かかるアジド化合物中の上記窒素含有量を上記上限値以下とすることで、アジド化合物が分解爆発に対して十分安定となり、アジド化合物の取り扱い性が向上する。一方、上記アジド化合物中の上記窒素含有量は、例えば1質量%以上、好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、最も好ましくは8質量%以上である。アジド含有量を上記下限値以上とすることで、活性化アルキン化合物と適切に結合して、高い接着性を確保できる。また、アジド化合物の粘度が十分に低くなり、取り扱い性が向上する。
【0056】
(その他の成分)
本発明の活性化アルキン化合物は、被着体Aの表面Aに活性化アルキン化合物のみで存在してもよいが、他の成分と共に被着体Aの表面に存在してもよい。そのような成分としては硬化剤が挙げられる。また、硬化剤以外にも、更に、必要に応じて、着色剤、イオン液体、溶剤、金属含有粒子、反応性希釈剤等の添加剤を含有させてもよい。また、活性化アルキル化合物を被着体に適切に付着させるためのバインダー樹脂成分などを含んでもよい。バインダー樹脂成分は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂であってもよい。上記硬化剤は、バインダー樹脂成分を硬化させるための硬化剤であってもよい。
すなわち、被着体Aの表面Aには、活性化アルキン化合物と、活性化アルキン化合物以外の成分を含む組成物が付着させられてもよい。なお、この組成物は、銅原子を含有しないことが好ましく、後述するように、被着体Aの表面Aそのものの材質も、銅以外が使用されるとよい。このように、被着体Aの表面A上には銅原子が存在しないようにすることが好ましい。
【0057】
本発明のアジド化合物は、被着体Aの表面に単独で存在してもよいが、他の成分と共に被着体Aの表面に存在してもよい。そのような成分としては硬化剤が挙げられる。また、硬化剤以外にも、更に、必要に応じて、着色剤、イオン液体、溶剤、金属含有粒子、反応性希釈剤等の添加剤を含有させてもよい。また、アジド化合物を被着体に適切に付着させるためのバインダー樹脂成分などを含んでもよい。バインダー樹脂成分は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂であってもよい。さらに、上記硬化剤は、バインダー樹脂成分を硬化させるための硬化剤であってもよい。
すなわち、被着体Bの表面Bには、アジド化合物と、アジド化合物以外の成分を含む組成物が付着させられてもよい。なお、この組成物は、銅原子を含有しないことが好ましく、後述するように、被着体Bの表面Bそのものの材質も、銅以外が使用されるとよい。このように、被着体Bの表面B上には銅原子が存在しないようにすることが好ましい。
活性化アルキン化合物と、アジド化合物は、銅フリーでも反応が適切に進行するものであり、したがって、被着体A,Bの表面A,B上における銅原子の存在有無にかかわらず、高い接着力が確保できる。
また、上記被着体A、Bそれぞれで使用される硬化剤としては、アミン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、カルボン酸系硬化剤、酸無水物系硬化剤などを使用できる。
【0058】
[被着体A,B]
被着体Aは、被着体Bに接着させるための被着体であり、活性化アルキン化合物を表面に有する。被着体Bは、被着体Aに接着させるための被着体であって、アジド化合物を表面に有する。なお、活性化アルキン化合物は、被着体Aの表面上に存在していればよい。したがって、活性アルキン化合物は、被着体Aの表面にカップリング部位などにより化学的に結合していてもよいが、結合しなくてもよい。また、アジド化合物は、被着体Bの表面上に存在していればよい。したがって、アジド化合物は、被着体Bの表面にカップリング部位などにより化学的に結合していてもよいが、結合しなくてもよい。
【0059】
被着体A、Bに使用する被着体の材質はそれぞれ、その表面に活性化アルキン化合物及びアジド化合物が付着できるものであれば特に限定されず、金属、ガラス、セラミック、樹脂、木質材料、生体材料、セルロース類などであるとよい。
被着体A、Bは、少なくとも表面A、Bが、金属、ガラス、セラミック、樹脂、木質材料、生体材料、セルロース類などで構成されていればよい。また、表面A,Bの材質は、これらから選択される1種からなるものでもよいし、2種以上を組み合わせたものでもよい。
【0060】
被着体A、Bの上記表面A、Bは、銅を含有していてもよく、銅を含有していなくてもよいが、プロセス上の簡便さや被着体自身の性能を最大限かする観点からは、上記のとおり銅が存在しないことが好ましい。
【0061】
具体的な金属としては、特に限定されないが、アルミニウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ガリウム、白金、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、マンガン、鉛、錫、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、水銀など挙げられる。また、金属はこれらを含む合金からなるものでもよい。
セラミックとしては、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属炭化物などの上記金属以外の各種金属化合物、ケイ素酸化物などの酸化物、窒化ホウ素などの窒化物、炭化ケイ素、炭化ホウ素などの炭化物、カーボンブラック、ダイヤモンドなどの炭素化合物などの金属化合物以外の無機化合物が挙げられる。
【0062】
樹脂としては、公知の樹脂であれば、特に限定されず、熱可塑性樹脂であってもよいし、硬化性樹脂(例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂など)であってもよい。樹脂としては、特に制限されないが、代表的には、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂などのポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、ポリイミド樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂などが挙げられる。また、樹脂は、ゴムや熱可塑性エラストマーであってもよく、公知のゴム材料や熱可塑性エラストマーも特に制限なく使用できる。
【0063】
生体材料としては、生体を構成する材料であって、細胞、組織、臓器などであってもよいし、タンパク質、DNA、ウイルス、細菌などであってもよい。また、天然繊維などであってもよい。
木質材料としては、天然の木材からなる材料、合板、集成材、パーティクルボードなどの各種の加工材が挙げられる。セルロール類としては、セルロールそのもの以外に、セルロースを含む各種材料が挙げられ、紙類、セルロースナノファイバー、セルロースファイバー、ファイバーボード、パルプ等など挙げられる。
【0064】
被着体A,Bの表面A,Bそれぞれの材質としては、実用性の観点から、上記の中でも、金属(ただし、銅を除く)、ガラス、セラミック、樹脂、又はこれらの2種以上の組み合わせが好ましく、ガラス、樹脂、又はこれらの組み合わせがより好ましい。
また、被着体A,Bの上記表面A,Bの材質は、互いに同じであってもよいが、異なってもよく、例えば、表面A,Bの一方が樹脂で、他方がガラスであってもよい。
【0065】
被着体A、Bは固体状のものであればよく、その形状は、特に限定れず、板状、フィルム状、繊維状、粒子状、及び粒状などのいずれでもよい。フィルムとは、概ね厚み1mm未満のものであり、一般的にシートと呼ばれるものも含む概念である。フィルム状の被着体としては、金属箔、紙類なども含まれる。
板状の被着体としては、概ね厚み1mm以上のものであるが、硬質であれば1mm未満のものでも板状ということがある。板状の被着体としては、例えば樹脂板、ガラス板、金属板、セラミック板、木板などが挙げられる。
【0066】
粒子は、直径が2~3cm以下程度のものをいい、1mm以上10mm未満程度のミリレベルの粒子であってもよいし、1μm以上1000μm未満のマイクロレベルの粒子であってもよいし、1μm未満の粒子であってもよい。粒子の形状は、特に限定されず、球状、球状以外の丸みを有する形状、多面体形状、鱗片状などの板状、針状などのいずれであってもよいし、不定形のものであってもよい。
粒子状の被着体は、特に限定されないが、金属粒子、樹脂粒子、セラミック粒子、ガラス粒子、木質材料の粒子などであってもよいし、金属樹脂複合材料などの2種以上の材質を組み合わせた複合材料の粒子などであってもよい。
また、繊維状のものは、特に限定されないが、樹脂繊維、天然繊維、無機繊維などのいずれであってもよい。また、カーボンナノチューブなどの直径がナノサイズのものであってもよい。
粉状とは、粒子と明確に区別されものではないが、直径が概ね0.1mm未満の微細な物質をいい、一般的には固体物質が粉砕などにより微細化されたものをいう。粉状の被着体としては、金属粉、樹脂粉、セラミック粉、ガラス粉、木質粉などであってもよいし、金属と樹脂などの2種以上の材質を組み合わせた複合材料の粉体などであってもよい。
【0067】
被着体A、Bそれぞれの形状は、実用性の観点から、上記の中では、板状、フィルム状のものが好ましい。フィルム状の被着体の好ましい具体例としては、樹脂フィルムが挙げられる。また、板状の被着体としては、ガラス板、樹脂板が好ましい具体例として挙げられる。
また、被着体A、Bの形状は、互いに同様の形状を有していてもよいし、異なる形状を有してもよい。例えば、被着体A、Bの両方が、板状の被着体でもよいし、フィルム状の被着体でもよい。また、被着体A、Bの一方が、フィルム状で、他方が板状でもよい。
好ましい被着体の組み合わせの具体例としては、被着体A,Bの両方が樹脂フィルムである組み合わせ、被着体A,Bの一方が樹脂フィルム、他方がガラス板である組み合わせ、被着体A,Bの一方が樹脂フィルム、他方が樹脂板である組み合わせ、被着体A,Bの一方がガラス板、他方が樹脂板である組み合わせ、被着体A,Bの両方がガラス板である組み合わせ、被着体A,Bの両方が樹脂板である組み合わせなどが挙げられる。
【0068】
<接着構造体の製造方法>
本発明の一実施形態に係る接着構造体は、例えば、以下の工程1~工程3を備える製造方法で製造される。
工程1:被着体Aの表面Aに活性化アルキン化合物を付着させる工程
工程2:被着体Bの表面Bにアジド化合物を付着させる工程
工程3:被着体A及び被着体Bの表面A,B同士を合わせて被着体Aと被着体Bを接着させる工程
【0069】
(工程1、2)
工程1としては、被着体Aの表面Aに活性化アルキン化合物を付着できる限り特に限定されず、活性化アルキン化合物を含む処理剤を被着体Aの表面Aに塗布する方法が挙げられる。なお、以下の説明においては、活性化アルキン化合物を含む処理剤を「処理剤A」として説明する。
処理剤Aとしては、活性化アルキン化合物単体からなるものでもよいし、活性化アルキン化合物に加えて、上記した硬化剤などのその他の成分を含むものでもよい。また、処理剤Aは、有機溶剤、水などの希釈溶媒により溶解又は分散されたものを使用することが好ましい。
処理剤Aは、希釈溶媒で希釈されることで、被着体A上に均一に塗布しやすくなり、また、活性化アルキン化合物を被着体Aの表面に密着させやすくなる。さらに、被着体Aの表面における有効反応点密度を調整しやすくなる。
処理剤Aにおける活性化アルキン化合物の濃度は、特に限定されないが、有効反応点密度を所望の範囲内にしやすい観点から、例えば、0.01~30質量%程度であるが、好ましくは0.1~10質量%、より好ましく0.2~5質量%である。
【0070】
工程2としては、被着体Bの表面にアジド化合物を付着できる限り、特に限定されず、アジド化合物を含む処理剤を被着体の表面Bに塗布するする方法が挙げられる。なお、以下の説明においては、アジド化合物を含む処理剤を「処理剤B」として説明する。
処理剤Bとしては、アジド化合物単体からなるものでもよいし、アジド化合物に加えて、上記した硬化剤などのその他の成分を含むものでもよい。また、処理剤Bは、有機溶剤、水などの希釈溶媒により溶解又は分散されたものを使用することが好ましい。
処理剤Bは、希釈溶媒で希釈されることで、被着体B上に均一に塗布しやくなり、また、アジド化合物を被着体Bの表面に密着させやすくなる。さらに、被着体Bの表面に存在するアジド基の密度を調整しやすくなる。
処理剤Bにおけるアジド化合物の濃度は、特に限定されないが、被着体Bの表面に存在するアジド基の密度を所望の範囲内にしやすい観点から、例えば、0.01~30質量%程度であるが、好ましくは0.2~10質量%、より好ましく0.05~5質量%である。
【0071】
各処理剤A、Bを塗布する方法は、特に限定されず、被着体を、処理剤に浸漬して被着体の表面に処理剤を塗布するディップコートでもよいし、スピンコートなどでもよい。また、スプレーコート、フローコート、メイヤーバーコート、グラビアコート、ナイフコート、キスコート、ダイコートなどのいかなる公知の塗布方法で塗布してもよい。
【0072】
また、処理剤A、Bが溶剤、水などにより希釈される場合には、工程1、2においては、塗布後に適宜加熱などされて乾燥されてもよい。また、活性化アルキン化合物や、アジド化合物がカップリング部位を含む場合には、加熱などされて、活性化アルキン化合物や、アジド化合物がカップリング部位により被着体A,Bの表面に結合などされてもよい。
また、処理剤が硬化剤を含む場合も、光照射や加熱などにより硬化剤を硬化させてもよい。
なお、工程2は、工程1の後に行ってもよいし、工程1の前に行ってもよいし、同時並行で行ってもよい。
【0073】
(工程3)
工程3では、被着体Aの活性アルキン化合物が付着された表面Aと、被着体Bの活性アルキン化合物が付着された表面Bとを合わせて、被着体Aと被着体Bを接着させる。工程3では、上記表面同士が合わせられることで、活性アルキン化合物のアルキン基と、アジド化合物のアジド基が反応して、これらの間に生じた化学結合により、被着体A、Bが接着させられる。
活性アルキン化合物のアルキン基と、アジド化合物のアジド基は、温和な条件で反応が進行する。したがって、被着体A、Bの上記表面A,B同士は、好ましくは0~80℃、より好ましくは20~80℃、さらに好ましくは25~70℃、よりさらに好ましくは30~60℃の環境下で合わせられて接着されるとよい。また、表面Aと表面Bは,上記温度で例えば1時間~24時間、好ましくは3時間~12時間合わせられた状態で維持されるとよい。
【0074】
表面A,Bは、特に限定されないが、例えば、被着体A、B両方が板状及びフィルム状のいずれかである場合には、被着体A,B同士が重ねわされることで合わせられるよい。
また、被着体A、Bの一方がフィルム状又は板状であり、他方が、繊維状、粒子状、粉状のいずれかである場合には、処理剤A,Bの一方が塗布されたフィルム状又は板状の被着体の表面A又は表面B上に、処理剤A,Bの他方が表面A,Bに付着された繊維状、粒子状、及び粉状のいずれかの被着体が配置されるとよい。
【0075】
工程3において、被着体A,Bは、いかなる環境下において、接着させられてもよく、大気下であってもよいし、真空下、高湿環境下のいずれで接着させられてもよく、また、表面A,Bが水接触下、有機溶剤接触下などで接着させられてもよい。本発明では、活性化アルキン化合物の活性化アルキン基とアジド化合物のアジド基の反応は、これらいずれの環境下でも適切に進行して、被着体A、Bを高い接着力で接着させることが可能になる。
したがって、被着体A、Bの接着は、水中や、有機溶剤中で行ってもよいし、宇宙空間などで行ってもよい。
【0076】
<被着体セット>
本発明は、接着させて構造体を得るための被着体セットも提供する。被着体セットは、活性化アルキン化合物を表面Aに有する被着体Aと、アジド化合物を表面Bに有する被着体Bとを備える。
本発明では、以上の被着体セットを使用することで、被着体Aの活性化アルキン化合物を有する表面Aと、被着体Bのアジド化合物を有する表面Bを合わせることで、被着体A,Bを接着させることができる。
被着体A,Bの構成、及び被着体A,Bの接着方法の詳細は、上記のとおりであるので、その説明は省略する。
以上の構成を有する被着体セットでは、2つの被着体A、Bに様々な材質を使用することができ、また、様々な環境下で接着強度に優れる構造体を得ることができる。また、活性化アルキン化合物を表面に有する被着体A、及びアジド化合物を表面に有する被着体Bの可使時間も長くなる。
【実施例0077】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0078】
なお、本実施例における測定方法及び評価方法は以下の通りであった。
[被着体Aの表面における有効反応点密度の定量]
活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aを、2mLのサンプリングチューブに入れ、0.1mMのN3-EG2-fluorescein(蛍光物質)の溶液(リン酸緩衝液(0.1M,pH=8.0)により希釈)を2.0mL加え、40℃で18時間振とうした。反応後の被着体Aを、常温(23℃)下、5mMのNaOH水溶液(40mL)で3回、エタノール(40mL)で1回洗浄した。
続いて、2mLのサンプリングチューブにおいて、2.0mLのエタノールに浸漬させ、40℃で30分間振とうした。30分間の振とうは2回行った。次に、被着体Aを2mLのサンプリングチューブにおいて、2.0mLのリン酸緩衝液(0.1M,pH8.0)に浸漬させ、40℃で30分間振とうすることで、クリック反応で固定化されなかった余分な蛍光物質を取り除いた。その後、2mLのサンプリングチューブにおいて、洗浄後の被着体Aを塩基性水溶液(1.8mLのリン酸緩衝液(0.1M,pH8.0)と0.2mLのNaOH水溶液(1M)の混合液)に浸漬させ、60℃で24時間振とうすることにより、蛍光物質を再び溶液中に遊離させた。溶液を常温まで冷ました後、1Mの塩酸0.2mLを加えpHを8付近まで戻して、溶液の蛍光強度を測定した。蛍光強度は、日本分光株式会社製の「FP―8200」により測定した(λex=495nm、λem=515nm)。
【0079】
[1H NMR]
1H NMRの測定条件は、以下の通りであった。
合成物を重クロロホルムに溶かし、1H NMR(「Avance 500」、Bruker社製(Billerica, MA))を用いて同定した。
[重量平均分子量]
明細書記載の方法により、得られた活性化アルキン基含有ポリマーの重量平均分子量を測定した。
【0080】
[接着力測定]
得られた接着構造体のせん断接着力を以下の条件で測定し、以下の評価基準で評価した。なお、接着力は、小数点下1桁で評価した。
卓上精密万能試験機オートグラフ「AGS―100NG」(株式会社島津製作所製)でせん断試験を行い、接着力を評価した(v=1mm/min)。
A:1.1MPa以上 B:0.7~1.0MPa
C:0.2~0.6MPa D:0.1MPa E:0.1MPa未満
【0081】
<合成例1>
[骨格ポリマー(poly(MMA-r-HEMA):PME)の合成]
容量110mLのスクリュー瓶にメチルメタクリレート(MMA)10.0mL(94.3mmol)と、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)1.27mL(10.5mmol)を入れて、十分に窒素バブリングを施した。その後、スクリュー瓶に酢酸エチルを48mL加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)54.2mg(0.330mmol)を加えて、70℃で24時間反応させた。反応式を以下に示す。反応後の溶液を過剰量(500mL)のメタノールに滴下して合成されたポリマーを沈殿させた。沈殿物をメタノール200mLで2回、水200mLで2回洗浄し真空オーブン(50℃)で一晩乾燥させて、骨格ポリマー(PME)を得た。得られた骨格ポリマー(PME)を
1HNMRで測定したところ、以下の式におけるmとnのモル比(m/n)は、9/1であった。PMEの
1HNMRのチャートを
図1に示す。
【0082】
【0083】
[活性化アルキン基含有ポリマー(PMED)の合成]
容量30mLのスクリュー瓶に上記で合成した骨格ポリマー(PME)0.515g、式(7)に示す化合物(R
26=-CH
2CH
2-:DBCO acid)0.230g(0.755mmol)、水溶性カルボジイミド(EDC)0.471g(2.46mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.152g(1.25mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)10mLを量り取り、室温にて18時間撹拌した。反応式を以下に示す。反応後の溶液を水200mLに滴下してポリマーを析出させ、遠心分離機で7000rpmの条件で5分間分離した後、上澄みを除去した。次に、水で洗浄しかつ上記と同様の条件で遠心分離をする操作を2回繰り返して、上澄みを除いた後、ジクロロメタンを良溶媒、酢酸エチル/ヘキサン(混合比3/7(vol/vol))の混合溶媒を貧溶媒として3回沈殿精製した。次に、ジクロロメタン10mLで再度溶解し、ヘキサン100mLに滴下した。その後、60℃で加熱して上澄みを除去した後、60℃の真空オーブンで一晩乾燥させて、目的物(活性化アルキン基含有ポリマー(PMED))を得た。得られた目的物(PMED)を
1HNMRで測定したところ、PMEDにおける骨格ポリマーの全水酸基に対する、DBCO acidの導入率は、83%であり、したがって、式(5)に示す繰り返し単位の比率は、8.3モル%であった。PMEDの
1HNMRのチャートを
図2に示す。
【0084】
【0085】
<合成例2>
[骨格ポリマー(Poly(MMA-r-HBMA):PMBの合成)]
容量30mLのスクリュー瓶にMMA2.35g(23.5mmol)、4-ヒドロキシブチルメタクリレート(HBMA)558.8mg(3.53mmol)を入れ、十分に窒素バブリングを施した酢酸エチルを12mL加えた。次に、AIBN14.7mg(0.0898mmol)を入れて、70℃で20時間反応させた。反応式を以下に示す。反応後の溶液を過剰量(300mL)のn-ヘキサンに滴下しポリマーを沈殿させた。その後、上澄みを2回交換しながら洗浄し、得られた固体を真空オーブン(60℃)で一晩乾燥させて、骨格ポリマー(PMB)を得た。
【0086】
【0087】
[活性化アルキン基含有ポリマー(PMBD)の作製]
容量10mLのスクリュー瓶にPMB201.9mg,DBCO acid115.3mg(0.378mmol)、EDC92.5mg (0.482mmol),DMAP47.1mg(0.386mmol),ジクロロメタン(DCM)5mLを量り取り、室温にて18時間撹拌した。反応式を以下に示す。反応後の溶液を酢酸エチル/ヘキサン(混合比3/7(vol/vol))混合溶媒に滴下してポリマーを析出させ上澄みを取り除き、沈殿物を再沈殿により精製した。得られたポリマーをn-ヘキサン及びMilli-Q水(メルク社製の「Milli-Q水製造装置」で製造された水)で洗浄し、60℃の真空オーブンで一晩乾燥させて、目的物(活性化アルキン基含有ポリマー(PMBD))を得た。得られた目的物(PMBD)における式(5)に示す繰り返し単位の比率は、8.3モル%であった。
【0088】
【0089】
<合成例3>
[骨格ポリマーPoly(MMA-r-HOMA:PMO)の合成]
容量20mLのスクリュー瓶にMMA1.11g(11.1mmol), 8-ヒドロキシオクチルメタクリレート(HOMA)350.1mg(1.63mmol)を入れて、十分に窒素バブリングを施した酢酸エチル6mL加えた。さらに、AIBN7.45mg(0.0454 mmol)を入れた後、70℃で20時間反応させた。反応式を以下に示す。反応後の溶液を過剰量(300mL)のn-ヘキサンに滴下しポリマーを沈殿させた。上澄みを2回交換しながら洗浄し、得られた固体を真空オーブン(60℃)で一晩乾燥させて、骨格ポリマー(PMO)を得た。
【0090】
【0091】
[活性化アルキン基含有ポリマー(PMOD)の作製]
容量10mLのスクリュー瓶に上記のとおりに合成したPMO201.3mg、DBCO acid109.67mg(0.359mmol)、EDC86.5mg(0.451mmol),DMAP43.4mg(0.355mmol)、及びDCM4mLを量り取り、室温にて18時間撹拌して反応させた。反応式を以下に示す。反応後の溶液を酢酸エチル/ヘキサン(混合比3/7(vol/vol))混合溶媒に滴下してポリマーを析出させ上澄みを取り除き、沈殿物を再沈殿により精製した。得られたポリマーをn-ヘキサン及びMilli-Q水で洗浄し、60℃の真空オーブンで一晩乾燥させて、目的物(活性化アルキン基含有ポリマー(PMOD))を得た。得られた目的物(PMOD)における式(5)に示す繰り返し単位の比率は、8.3モル%であった。
【0092】
【0093】
<合成例4>
[活性化アルキン基含有シランカップリング剤(アルキンSiCp)の合成]
容量30mLのスクリュー瓶にアミノプロピルトリエトキシシラン0.166g(0.755mmol)、式(7)に示す化合物(R26=-CH2CH2-:DBCO acid)0.230g(0.755mmol)、水溶性カルボジイミド(EDC)0.471g(2.46mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.152g(1.25mmol)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)10mLを量り取り、室温にて18時間撹拌して、活性化アルキン基含有シランカップリング剤を得た。
【0094】
<合成例5>
[アジドポリマー(アジドA)の合成]
容量10mLのスクリュー瓶に上記で合成したPMB201.9mg、アジド安息香酸61mg(0.378mmol)、水溶性カルボジイミド(EDC)0.471g(2.46mmol)、DMAP43.4g(0.355mmol)、及びDCM4mLを量り取り、室温にて18時間撹拌して反応させた。反応式を以下に示す。反応後の溶液を酢酸エチル/ヘキサン(混合比3/7(vol/vol))混合溶媒に滴下してポリマーを析出させ上澄みを取り除き、沈殿物を再沈殿により精製した。得られたポリマーをn-ヘキサン及びMilli-Q水で洗浄し、60℃の真空オーブンで一晩乾燥させて、目的物であるアジドポリマー(アジドA)を得た。
【0095】
【0096】
<合成例6>
[活性化鎖状アルキンポリマー(PMBA)]
容量10mLのスクリュー瓶に、上記の通り合成したPMB201.9mg、プロピオル酸26.5mg(0.378mmol)、EDC0.471mg(2.46mmol),DMAP43.4mg(0.355mmol)、DCM4mLを量り取り、室温にて18時間撹拌して反応させた。反応式を以下に示す。反応後の溶液を酢酸エチル/ヘキサン(混合比3/7(vol/vol))混合溶媒に滴下してポリマーを析出させ上澄みを取り除き、沈殿物を再沈殿により精製した。得られたポリマーをn-ヘキサン及びMilli-Q水で洗浄し、60℃の真空オーブンで一晩乾燥させて、目的物(活性化鎖状アルキンポリマー(PMBA))を得た。得られた目的物(PMBA)における式(5)に示す繰り返し単位の比率は、8.3モル%であった。
【0097】
【0098】
<合成例7>
[鎖状アルキンポリマー(PMBP)の合成]
容量10mLのスクリュー瓶に上記の通り合成したPMB201.9mg、プロパルギルNHSエステル85mg(0.378mmol),DMAP43.4g(0.355mmol)、及びDCM4mLを量り取り、室温にて18時間撹拌して反応させた。反応式を以下に示す。反応後の溶液を酢酸エチル/ヘキサン(混合比3/7(vol/vol))混合溶媒に滴下してポリマーを析出させ上澄みを取り除き、沈殿物を再沈殿により精製した。得られたポリマーをn-ヘキサン及びMilli-Q水で洗浄し、60℃の真空オーブンで一晩乾燥させて、目的物(鎖状アルキンポリマー(PMBP))を得た。
【0099】
【0100】
[活性化アルキン化合物を表面に含有する被着体Aの作製]
(PMMAフィルム)
PMMAフィルム(1cm×2.5cm、厚み250μm、日東樹脂工業株式会社社製)に、表1に記載された材料及び濃度のポリマー溶液を20μL垂らして、2000rpm、15秒間の条件でスピンコートした。なお、ポリマー溶液は、表1に記載の材料をジクロロメタンで希釈して得たものである。
(PETフィルム)
PMMAフィルムの代わりに、PETフィルム(1cm×2.5cm、厚み250μm、日立マクセル株式会社製)を使用した点を除いてPMMAフィルムを使用したときと同様に実施した。
(ポリアミドフィルム)
PMMAフィルムの代わりに、ポリアミドフィルム(1cm×2.5cm、厚み250μm)を使用した点を除いてPMMAフィルムを使用したときと同様に実施した。
(樹脂板)
PMMAフィルムの代わりに、樹脂板 (1cm×2.5cm、厚み250μm、材質:ポリスチレン)を使用した点を除いてPMMAフィルムを使用したときと同様に実施した。
【0101】
(ガラス板)
スライドガラスを1cm×2.5cmにカットし、エタノールで洗浄した。5MのNaOH水溶液(50℃)に2時間浸漬させ、水で2回、トルエンで1回洗浄し乾燥させた。このガラス板を表1に記載された濃度の活性化アルキン基含有シランカップリング剤のトルエン溶液に常温で3時間浸漬させてシランカップリングを行った。その後、トルエンで2回、エタノール,アセトンで各1回洗浄させた後、80℃のオーブンに3分間入れて乾燥させた。
【0102】
[アジド化合物を表面に含有する被着体Bの作製]
(ガラス板:アジド基含有シランカップリング剤(アジドSiCp)含有)
スライドガラスを1cm×2.5cmにカットし、エタノールで洗浄した。5MのNaOH水溶液(50℃)に2時間浸漬させ、水で2回、トルエンで1回洗浄し乾燥させた。このガラス板を表1に記載された濃度のアジド基含有シランカップリング剤((11-アジドウンデシル)トリメトキシシラン)のトルエン溶液に常温で3時間浸漬させてシランカップリングを行った。その後、トルエンで2回、エタノール,アセトンで各1回洗浄させた後、110℃のオーブンに3分間入れて乾燥させた。
【0103】
(ガラス板:アジドA含有)
スライドガラスを1cm×2.5cmにカットし、エタノールで洗浄した。スライドガラスに、表1に記載された濃度のアジド化合物(アジドA)溶液を20μL垂らして、2000rpm、15秒間の条件でスピンコートした。なお、本溶液は、表1に記載の材料(アジドA)をTHFで希釈して得たものである。
【0104】
(PMMAフィルム)
PMMAフィルム(1cm×2.5cm、厚み250μm、日東樹脂工業株式会社製)に、表1に記載された濃度のアジド化合物(アジドA)溶液を20μL垂らして、2000rpm、15秒間の条件でスピンコートした。なお、本溶液は、表1に記載の材料アジドAをジクロロメタンで希釈して得たものである。
【0105】
(実施例1)
表1に記載された活性化アルキン化合物を表面に含有する被着体Aと、アジド化合物を表面に含有する被着体Bとを、40℃の環境下で、活性化アルキン化合物及びアジド化合物それぞれを有する表面に水を滴下したうえで、これら表面が合わされるようにして重ねて、表面同士を接着させて接着構造体を得た。得られた接着構造体について、せん断接着力を測定した。その結果を表1に示す。
【0106】
(実施例2~11、14~17、比較例1~3)
被着体の組み合わせを表1に記載されたとおりに変更して、接着構造体を得た以外は実施例1と同様に実施した。
なお、比較例1、2それぞれでは、被着体Aにおいて、上記合成例7で合成したPMBPを使用し、上記合成例1で合成したPME(骨格ポリマー)使用した。比較例3では、以下のPMMAを使用した。
PMMA:メチルメタクリレートの単独フリーラジカル重合によって得られた分子量45,000のポリマー
【0107】
(実施例12)
被着体A及び被着体Bの表面に水の代わりにn-ヘキサン中を滴下したうえで、接着構造体を得た以外は実施例1と同様に実施した。
【0108】
(実施例13)
被着体A及び被着体Bを、40℃の真空(圧力:0.1Pa)中で重ねて、接着構造体を得た以外は実施例1と同様に実施した。
【0109】
【0110】
以上のように、各実施例では、活性化アルキン化合物を表面に有する被着体Aと、アジド化合物を表面に有する被着体Bとを使用することで、水存在下、有機溶剤存在下、真空下のいずれでも、銅触媒を使用することなく、温和な条件で、2つの被着体を接着することができた。また、活性化アジド化合物、アジド化合物それぞれを表面に有する被着体A,Bは、これら表面同士重ね合わせないと、反応が進行しないので、処理剤を付着させた状態での可使時間を長くできる。
それに対して、比較例では、被着体Aが表面に活性化アルキン化合物を有しないので、銅触媒を使用することなく、温和な条件で、2つの被着体を接着することができなかった。