(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122927
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】CD3結合抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220816BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220816BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220816BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220816BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220816BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220816BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220816BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220816BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220816BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220816BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220816BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220816BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220816BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220816BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022085360
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2019519970の分割
【原出願日】2017-06-20
(31)【優先権主張番号】62/352,698
(32)【優先日】2016-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/394,360
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/491,908
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518452881
【氏名又は名称】テネオバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トリンクライン, ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ショーテン, ウィム
(72)【発明者】
【氏名】オルドレッド, シェリー フォース
(72)【発明者】
【氏名】ハリス, キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】ファム, デュイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規なヒトCD3抗原結合ポリペプチド、及びそれらの調製、ならびに種々の疾患の治療及び/または診断におけるそれらの使用を提供する。また、免疫エフェクター細胞を活性化することができる二重特異性抗体分子、ならびに種々の疾患の診断及び/または治療におけるそれらの使用を提供する。
【解決手段】ヒトVHフレームワークにおいてCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、可変軽鎖ドメインと、を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、前記CDR1配列、CDR2配列およびCDR31配列は、それぞれ特定のアミノ酸配列を有する、前記抗原結合タンパク質を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトVHフレームワークにおいてCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、
可変軽鎖ドメインと、
を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、
前記CDR1配列は、式
【化7】
を有し、
X
5、X
7、X
8、X
9及びX
10は、任意のアミノ酸であってもよく、
前記CDR2配列は、式
【化8】
を有し、
X
2’、X
3’、X
6’及びX
7’は、任意のアミノ酸であってもよく、
前記CDR3配列は、式
【化9】
を有し、
X
1’’、X
8’’、X
9’’及びX
10’’は、任意のアミノ酸であってもよい、前記抗原結合タンパク質。
【請求項2】
ヒトVHフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、
可変軽鎖ドメインと、
を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、
前記CDR1、CDR2またはCDR3は、任意の配列番号1~68に見出される、前記抗原結合タンパク質。
【請求項3】
ヒトVHフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、
可変軽鎖ドメインと、
を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、
前記CDR配列は、配列番号1~68の任意の1つにおいて、CDR配列またはCDR配列のセットに対して少なくとも85%の同一性を有する配列である、前記抗原結合タンパク質。
【請求項4】
ヒトVHフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、
可変軽鎖ドメインと、
を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、
前記CDR配列は、配列番号1~68の任意の1つにおいて、CDR配列またはCDR配列のセットに対して3個までのアミノ酸置換を有する配列である、前記抗原結合タンパ
ク質。
【請求項5】
前記可変軽鎖ドメインは、ヒトVLフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含み、
前記CDR配列は、配列番号69において、CDR配列またはCDR配列のセットに対して3個までのアミノ酸置換を有する配列であるか、または、
前記CDR配列は、配列番号69において、CDR配列またはCDR配列のセットに対して少なくとも85%の同一性を有する配列である、請求項1~4のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項6】
前記可変重鎖ドメインは、配列番号1~68のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項7】
前記可変軽鎖ドメインは、配列番号69のアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項8】
活性化アッセイにおいてT細胞と接触させた場合、前記抗原結合タンパク質は、参照抗CD3抗体と比較して、IL-2及びIL-10の一方または両方の低下したレベルの放出を誘導する、請求項1~7のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項9】
Fc領域をさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項10】
前記Fc領域は、エフェクター機能を低下させるように操作されている、請求項9に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項11】
ヒトCD3デルタイプシロンに対する前記タンパク質の親和性(KD)は、約10-6Mから約10-11Mである、請求項1~10のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項12】
前記タンパク質は、ヒト及びカニクイザルのCD3タンパク質と交差反応する、請求項1~10のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項13】
前記タンパク質が一本鎖である、請求項1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項14】
前記タンパク質が二本鎖またはその倍数である、請求項1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項15】
前記タンパク質が三本鎖である、請求項1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項16】
前記タンパク質が三本鎖であり、両方の抗原結合性アームが抗体の重鎖及び軽鎖を含む、請求項1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項17】
前記タンパク質は、CD3以外のタンパク質に特異的な可変重鎖ドメインをさらに含む、請求項1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項18】
前記タンパク質は、CD3以外のタンパク質に特異的な可変重鎖ドメインをさらに含み、
活性化アッセイにおいてT細胞と接触させた場合、前記抗原結合タンパク質は、参照抗CD3抗体と比較して、IL-2及びIL-10の一方または両方の低下したレベルの放
出を誘導し、
腫瘍細胞及びヒトT細胞を用いた標準インビトロアッセイにおいて、30%を超える腫瘍細胞傷害性を誘導する、請求項1~17のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項19】
CD3以外のタンパク質に特異的な前記可変重鎖ドメインは、重鎖のみのドメインである、請求項17に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項20】
CD3以外のタンパク質に特異的な可変重鎖ドメインは、軽鎖可変領域をさらに含む、請求項19に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項21】
前記軽鎖可変領域は、前記CD3結合領域の軽鎖可変領域と同一である、請求項19に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項22】
CD3以外の前記タンパク質は、腫瘍関連抗原である、請求項17~21のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項23】
CD3以外の前記タンパク質は、病原体抗原である、請求項17~21のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項24】
CD3以外の前記タンパク質は、免疫調節タンパク質である、請求項17~21のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
【請求項25】
請求項1~24のいずれかに記載の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物。
【請求項26】
単位用量の製剤化における、請求項25に記載の医薬製剤。
【請求項27】
請求項1~24のいずれかに記載の抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド
。
【請求項28】
請求項27に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項29】
請求項28に記載のベクターを含む細胞。
【請求項30】
前記タンパク質の発現を許容する条件下で、請求項29に記載の細胞を増殖させ、前記タンパク質を前記細胞から単離することを含む、請求項1~24のいずれかに記載の抗原
結合タンパク質の製造方法。
【請求項31】
有効量の請求項1~24のいずれかに記載の抗原結合タンパク質を個体に投与すること
を含む、治療方法。
【請求項32】
前記個体がヒトである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
CD3に対して特異的な抗原結合タンパク質を作製する方法であって、
OmniFlicまたはUniRat動物をCD3で免疫すること、及び
抗原特異的な重鎖配列を同定することを含む、前記方法。
【請求項34】
OmniFlicまたはUniRat動物をCD3以外の抗原で免疫すること、及び
請求項1~16のいずれかに記載の前記抗原結合タンパク質を含む分子において、組み合わせ得る抗原特異的な重鎖配列を同定すること、を含む請求項17に記載の抗原結合タンパク質を作製する方法。
【請求項35】
前記タンパク質は、CD3に対して特異的な結合ドメイン及びCD3以外の抗原に特異的な結合ドメインを含み、
活性化アッセイにおいてT細胞と接触させた場合、前記二重特異性抗原結合タンパク質は、参照抗CD3抗体と比較して、IL-2及びIL-10の一方または両方の低下したレベルの放出を誘導し、
腫瘍細胞及びヒトT細胞を用いた標準インビトロアッセイにおいて、30%を超える腫瘍細胞傷害性を誘導する、前記二重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項36】
(i)ヒトVHフレームワークにおいて、配列番号1のCDR1、CDR2及びCDR3配列を含むCD3結合可変領域と、
(ii)ヒトVLフレームワークにおいて、配列番号69のCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変軽鎖ドメインと、
(iii)単一またはタンデムな構成において、配列番号70の26~33位、51~58位、97~108位のそれぞれで、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む一本鎖抗BCMA可変領域含む二重特異性抗体。
【請求項37】
Fc領域をさらに含む、請求項36に記載の二重特異性抗体。
【請求項38】
前記CD3結合可変領域は、配列番号1を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号69を含み、また、前記BCMA結合可変領域は、配列番号70または配列番号71を含む、請求項37に記載の二重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
クロスリファレンス
本出願は、2016年6月21日に出願された米国仮特許出願第62/352,698号、2016年9月14日に出願された米国仮特許出願第62/394,360号、及び2017年4月28日に提出された米国仮特許出願第62/491,908号の利益を主張し、これらの出願は、その全体が本明細書に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
身体の免疫システムは、感染、傷害及びがんに対する防御の役割を果たす。2つの別々ではあるが、相互に関連したシステムである、体液性免疫システムと細胞性免疫システムは、身体を保護するために一緒に働く。体液性システムは、抗体と呼ばれる可溶性因子によって媒介され、体内で異物として認識される生成物を中和する。対照的に、細胞性システムは、外来の侵入物を除去し中和するT細胞及びマクロファージなどの細胞を含む。
【0003】
T細胞の活性化は、免疫反応の刺激にとって重要である。T細胞は、免疫学的特異性を示し、ほとんどの細胞性免疫反応を導く。T細胞は、抗体を分泌しないが、Bリンパ球による抗体の分泌に必要である。T細胞活性化は、T細胞受容体複合体及びCD4またはCD8分子のような多数の細胞表面分子の関与を必要とする。抗原特異的T細胞受容体(TcR)は、ジスルフィド結合ヘテロ二量体、鎖を有する膜糖タンパク質、アルファ及びベータ(α及びβ)、またはガンマ及びデルタ(γ及びδ)からなる。TcRは、CD3と呼ばれる不変タンパク質の複合体と非共有結合している。
【0004】
T細胞は、多数の実験設定において、強力な抗腫瘍効果を発揮することが知られている。腫瘍細胞に対してT細胞を効果的に動員できる抗体は、例えば、腫瘍関連抗原(TAA)、ならびにTCR/CD3複合体及びCD28のようなアゴニスト性T細胞膜タンパク質に指向する二重特異性抗体として利用可能であった。これらの二重特異性抗体は、そのTCR特異性にかかわらず、T細胞を活性化することができ、それぞれのTAAを有する細胞の特異的溶解をもたらす。
【0005】
しかしながら、抗CD3二重特異性抗体は、T細胞媒介性溶解を悪性細胞に向け得るが、CD3ベースのbSAbによる臨床試験は、患者に高い毒性を示している。bSAb由来の非特異的T細胞活性化は、Fc/Fc受容体(FcR)相互作用に起因して抗原非依存的に、または抗原が正常細胞及び腫瘍細胞の両方に発現される場合に抗原依存的に生じ得る。両方のメカニズムは、以前の臨床試験で観察された毒性の原因であった可能性がある。例えば、Link et al.(1998)Int.J.Cancer 77(2)
:251-6;Durben et al. Molecular Therapy(2
015);23 4, 648-655を参照されたい。結果として生じるサイトカイン
放出症候群のために、治療目的のためにこれらの抗体の開発に重要なブロックとなっていた。
【0006】
例えば、Mack et al.(1995)PNAS92:7021-7025は、
CD3特異性を有する二重特異性一本鎖(bssc)抗体を報告し、二重特異性T細胞係合子(BiTE)と称した。しかしながら、異なる抗CD3含有二重特異性抗体を用いた初期の研究のように、インビボ適用時に誘導される過剰なT細胞活性化及びサイトカインの放出は、安全で適用可能な用量を100μg/日未満に制限し、血清濃度を1ng/ml未満にする。
【0007】
CD3特異的抗体、及びそれに由来する二重特異性抗体は、本発明によって提供される。
【0008】
公開
CD3抗体は、例えば、米国特許第5,585,097号、5,929,212号、5,968,509号、6,706,265号、6,750,325号、7,381,803号、7,728,114号に開示されている。CD3結合特異性を有する二重特異性抗体は、例えば、米国特許第7,262,276号、7,635,472号、7,862,813号、及び8,236,308号に開示され、それぞれは本明細書に参照により具体的に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,585,097号明細書
【特許文献2】米国特許第5,929,212号明細書
【特許文献3】米国特許第5,968,509号明細書
【特許文献4】米国特許第6,706,265号明細書
【特許文献5】米国特許第6,750,325号明細書
【特許文献6】米国特許第7,381,803号明細書
【特許文献7】米国特許第7,728,114号明細書
【特許文献8】米国特許第7,262,276号明細書
【特許文献9】米国特許第7,635,472号明細書
【特許文献10】米国特許第7,862,813号明細書
【特許文献11】米国特許第8,236,308号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Link et al.(1998)Int.J.Cancer 77(2):251-6
【非特許文献2】Durben et al. Molecular Therapy(2015);23 4, 648-655
【非特許文献3】Mack et al.(1995)PNAS92:7021-7025
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
概要
その組成物及びその使用方法は、CD3に結合し、CD3を介してシグナル伝達を活性化(例えば、CD3+T細胞の活性化)する密接に関連した抗体のファミリーのために提供される。ファミリー内の抗体は、本明細書で定義されるCDR配列のセットを含む。抗体ファミリーは、臨床的治療剤(複数可)としての有用性に寄与する多くの利益を提供する。ファミリー内の抗体は、ある範囲の結合親和性を有するメンバーを含み、所望の親和性を有する特定の配列の選択を可能にする。親和性を微調整する能力は、治療される個体において、CD3活性化のレベルを管理し、それによって毒性を低減することが特に重要である。抗体ファミリーのメンバーは、約10-6~約10-11Mの範囲のCD3に対する親和性(KD)を有し得る。本発明の抗体ファミリーの特定のメンバーは、カニクイザル(Cynomolgus macaque)のCD3タンパク質と交差反応性であり、この交差反応性に必要とされる特異的モチーフが同定され、これに基づいて、前臨床または臨床試験のための抗体の選択が可能となる。
【0012】
50nM以上、100nM以上、500nM以上、または1μmM以上の親和性(KD)を有する抗CD3抗体は、TCR/MHC相互作用をより厳密に模倣し、有効な腫瘍細胞溶解を維持しながら、毒性のあるサイトカインの放出を最小にするために、望ましい可能性がある。いくつかの実施形態において、抗CD3抗体は、例えば、IL-2及びIFNγの放出のために、コンピテントT細胞に結合すると、サイトカインの放出を誘導する傾向が減少することを特徴とするか、または選択される。抗体は、例えば、本明細書に記載の抗体配列のファミリー内で、比較アッセイにおいてファミリーメンバーについて観察される最大の約半分未満のサイトカイン放出を誘導する抗体で、腫瘍細胞の殺傷及びサイトカインの放出の減少を最適化する治療的使用のために選択されてもよいし、また、例えば、比較アッセイにおいてファミリーメンバーについて観察される最大で約25%以下より少なくてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体ファミリー由来の少なくとも重鎖可変領域を含み、本明細書で提供される重鎖及び軽鎖可変領域を含み得る二重特異性または多重特異性抗体が提供される。二重特異性抗体は、少なくともCD3以外のタンパク質に特異的な抗体の重鎖可変領域を含み、重鎖及び軽鎖可変領域を含み得る。いくつかのこのような実施形態において、第2の抗体特異性は、腫瘍関連抗原、例えば、インテグリンなどの標的抗原、病原体抗原、チェックポイントタンパク質などに結合する。限定されるものではないが、一本鎖ポリペプチド、二本鎖ポリペプチド、三本鎖ポリペプチド、四本鎖ポリペプチド、及びそれらの倍数を含む、種々の二重特異性抗体の形態が本発明の範囲内である。
【0014】
本発明のCD3特異的抗体のファミリーは、ヒトVHフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含むVHドメインを含む。CDR配列は、一例として、配列番号1~68に記載の提供される例示的な可変領域配列のCDR1、CDR2及びCDR3について、それぞれ、およそアミノ酸残基26~35、53~59及び98~117の領域に位置し得る。異なるフレームワーク配列が選択される場合、CDR配列は異なる位置にあり得るが、一般に配列の順序は同じままであると当業者によって理解される。
【0015】
本発明の抗体のCDR配列は、以下の配列式を有し得る。Xは、可変アミノ酸を示し、以下に示すように特定のアミノ酸であってもよい。
【化1】
ここで、
X
5は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
5は、SまたはRであり、
X
7及びX
8は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
7及びX
8は、独立して、SまたはGである。いくつかの実施形態において、X
7X
8は、SSまたはGGであり、
X
9は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
9は、HまたはYであり、いくつかの実施形態において、X
9はHであり、X
10は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態においてX
10は、YまたはFであり、いくつかの実施形態において、X
10は、Yである。
【0016】
いくつかの実施形態において、CDR1配列は、式:GGSIX
5SHHGY(式中、
X
5は、上記で定義した通りである)を有する。いくつかの実施形態において、本発明の抗CD3抗体のCDR1配列は、配列番号1~68、残基26~35のいずれかに記載の配列を含む。
【化2】
ここで、
X
2’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
2’は、S、YまたはHであり、
X
3’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
3’は、Y、HまたはRであり、
X
6’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
6’は、S、NまたはIまたはRであり、
X
7’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
7’は、TまたはPである。
【0017】
いくつかの実施形態において、CDR2配列は、式:IX
2’X
3’SGST、またはIX
2’X
3’SGNP(式中、X
2’及びX
3’は、上記で定義した通りである。)を有する。いくつかの実施形態において、本発明の抗CD3抗体のCDR2配列は、配列番号1~68、残基53~59のいずれかに記載の配列を含む。
【化3】
ここで、
X
1’’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
1’’は、AまたはGである。
X
8’’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
8’’は、LまたはFである。
X
9’’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
9’’は、TまたはAである。
X
10’’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
10’’は、G、AまたはRである。
【0018】
いくつかの実施形態において、X8’’X9’’X10’’は、FAAであり、このモチーフは、カニクイザルのCD3タンパク質と交差反応する抗体に対応する。他の実施形態において、X8’’、X9’’、X10’’は、LTAである。いくつかの実施形態において、本発明の抗CD3抗体のCDR3配列は、配列番号1~68、残基98~117のいずれかに記載の配列を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、CD3結合VHドメインは、軽鎖可変領域ドメインと対になる。このようないくつかの実施形態において、軽鎖は、固定された軽鎖である。いくつかの実施形態において、軽鎖は、ヒトVLフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を有するVLドメインを含む。CDR配列は、配列番号69に含まれるものであってもよい。いくつかの実施形態において、CDR配列は、CDR1、CDR
2、CDR3について、それぞれ、アミノ酸残基27~32、50~52、89~97を含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体のCDR配列は、配列番号1~69のいずれか1つに記載のCDR配列またはCDR配列のセットに対して、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも99%の同一性を有する配列である。いくつかの実施形態において、本発明のCDR配列は、配列番号1~69のいずれか1つのCDR配列またはCDR配列のセットに対して、1つ、2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換(複数可)は、上記の式に対して、CDR1の5位または10位、CDR2の2位、6位または7位、CDR3の1位、8位、9位または10位の1つ以上である。
【0021】
いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、軽鎖と対になって、本明細書に記載のCD3結合可変領域を含む。いくつかの実施形態において、軽鎖は、配列番号69に記載の可変領域配列、または配列番号69のCDR配列のセット及びフレームワーク配列を含む可変領域を含む。ヒトIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4などを含むがこれらに限定されない様々なFc配列が使用される。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体の第2のアームは、腫瘍関連抗原に特異的に結合する可変領域を含む。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体の第2のアームは、BCMAに特異的に結合する可変領域を含む。いくつかの実施形態において、抗BCMAアームは、例えば、
図2Bに示すような一本鎖可変領域である。いくつかの実施形態において、抗BCMAアームは、配列番号70に記載の可変領域配列、または配列番号71に記載のタンデムな可変領域配列を含む。抗BCMAアームのFc配列は、限定するものではないが、ヒトIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4などであってもよい。CDR配列は、配列番号70に含まれるCDR配列であってもよい。いくつかの実施形態において、CDR配列は、CDR1、CDR2、CDR3について、それぞれ、アミノ酸残基26~33、51~58、97~108を含む。
【0022】
他の実施形態において、本発明の少なくともCD3結合VHドメイン、本発明の少なくともCD3結合性VHドメインを含む単一特異性、二重特異性などの抗体または抗体様タンパク質、及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が提供される。組成物は、凍結乾燥されてもよく、溶液などに懸濁されてもよく、単位用量製剤で提供されてもよい。
【0023】
いくつかの実施形態において、がんの治療のための方法が提供され、方法は、それを必要とする個体に、有効量の単一特異性、二重特異性などの本発明の抗体を投与することを含む。抗体が二重特異性である場合、第2の抗原結合部位は、腫瘍抗原、チェックポイントタンパク質などに特異的に結合し得る。様々な実施形態において、がんは、卵巣癌、乳癌、胃腸管、脳腫瘍、頭頸部癌、前立腺癌、結腸癌、肺癌、白血病、リンパ腫、肉腫、癌腫、神経細胞腫瘍、扁平上皮細胞癌、胚細胞腫瘍、転移、未分化腫瘍、精上皮腫、黒色腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、混合細胞腫瘍、及び感染性病原体による新生物形成からなる群から選択される。
【0024】
いくつかの実施形態において、感染症の治療のための方法が提供され、方法は、それを必要とする個体に、有効量の単一特異性、二重特異性などの本発明の抗体を投与することを含む。抗体が二重特異性である場合、第2の抗原結合部位は、病原体抗原、例えば、細菌、ウイルスまたは寄生虫に特異的に結合し得る。
【0025】
他の実施形態において、抗体配列、例えば、1つ以上の軽鎖コード配列、1つ以上の重鎖コード配列を単一の宿主細胞に発現することを含む本発明の二重特異性抗体の製造方法が提供される。様々な実施形態において、宿主細胞は、原核細胞または哺乳動物細胞などの真核細胞であってもよい。
本発明は、例えば、以下の項目を定要する。
(項目1)
ヒトVHフレームワークにおいてCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、
可変軽鎖ドメインと、
を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、
前記CDR1配列は、式
【化7】
を有し、
X
5
、X
7
、X
8
、X
9
及びX
10
は、任意のアミノ酸であってもよく、
前記CDR2配列は、式
【化8】
を有し、
X
2’
、X
3’
、X
6’
及びX
7
’は、任意のアミノ酸であってもよく、
前記CDR3配列は、式
【化9】
を有し、
X
1’’
、X
8’’
、X
9’’
及びX
10’’
は、任意のアミノ酸であってもよい、前記抗原結合タンパク質。
(項目2)
ヒトVHフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、
可変軽鎖ドメインと、
を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、
前記CDR1、CDR2またはCDR3は、任意の配列番号1~68に見出される、前記抗原結合タンパク質。
(項目3)
ヒトVHフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、
可変軽鎖ドメインと、
を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、
前記CDR配列は、配列番号1~68の任意の1つにおいて、CDR配列またはCDR配列のセットに対して少なくとも85%の同一性を有する配列である、前記抗原結合タンパク質。
(項目4)
ヒトVHフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変重鎖ドメインと、
可変軽鎖ドメインと、
を含むCD3に対して特異的な抗原結合タンパク質であって、
前記CDR配列は、配列番号1~68の任意の1つにおいて、CDR配列またはCDR配列のセットに対して3個までのアミノ酸置換を有する配列である、前記抗原結合タンパク質。
(項目5)
前記可変軽鎖ドメインは、ヒトVLフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含み、
前記CDR配列は、配列番号69において、CDR配列またはCDR配列のセットに対して3個までのアミノ酸置換を有する配列であるか、または、
前記CDR配列は、配列番号69において、CDR配列またはCDR配列のセットに対して少なくとも85%の同一性を有する配列である、項目1~4のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目6)
前記可変重鎖ドメインは、配列番号1~68のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、項目1~5のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目7)
前記可変軽鎖ドメインは、配列番号69のアミノ酸配列を含む、項目1~6のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目8)
活性化アッセイにおいてT細胞と接触させた場合、前記抗原結合タンパク質は、参照抗
CD3抗体と比較して、IL-2及びIL-10の一方または両方の低下したレベルの放出を誘導する、項目1~7のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目9)
Fc領域をさらに含む、項目1~8のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目10)
前記Fc領域は、エフェクター機能を低下させるように操作されている、項目9に記載の抗原結合タンパク質。
(項目11)
ヒトCD3デルタイプシロンに対する前記タンパク質の親和性(KD)は、約10
-6
Mから約10
-11
Mである、項目1~10のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目12)
前記タンパク質は、ヒト及びカニクイザルのCD3タンパク質と交差反応する、項目1~10のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目13)
前記タンパク質が一本鎖である、項目1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目14)
前記タンパク質が二本鎖またはその倍数である、項目1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目15)
前記タンパク質が三本鎖である、項目1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目16)
前記タンパク質が三本鎖であり、両方の抗原結合性アームが抗体の重鎖及び軽鎖を含む、項目1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目17)
前記タンパク質は、CD3以外のタンパク質に特異的な可変重鎖ドメインをさらに含む、項目1~12のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目18)
前記タンパク質は、CD3以外のタンパク質に特異的な可変重鎖ドメインをさらに含み、
活性化アッセイにおいてT細胞と接触させた場合、前記抗原結合タンパク質は、参照抗CD3抗体と比較して、IL-2及びIL-10の一方または両方の低下したレベルの放出を誘導し、
腫瘍細胞及びヒトT細胞を用いた標準インビトロアッセイにおいて、30%を超える腫瘍細胞傷害性を誘導する、項目1~17のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目19)
CD3以外のタンパク質に特異的な前記可変重鎖ドメインは、重鎖のみのドメインである、項目17に記載の抗原結合タンパク質。
(項目20)
CD3以外のタンパク質に特異的な可変重鎖ドメインは、軽鎖可変領域をさらに含む、項目19に記載の抗原結合タンパク質。
(項目21)
前記軽鎖可変領域は、前記CD3結合領域の軽鎖可変領域と同一である、項目19に記載の抗原結合タンパク質。
(項目22)
CD3以外の前記タンパク質は、腫瘍関連抗原である、項目17~21のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目23)
CD3以外の前記タンパク質は、病原体抗原である、項目17~21のいずれかに記載
の抗原結合タンパク質。
(項目24)
CD3以外の前記タンパク質は、免疫調節タンパク質である、項目17~21のいずれかに記載の抗原結合タンパク質。
(項目25)
項目1~24のいずれかに記載の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物。
(項目26)
単位用量の製剤化における、項目25に記載の医薬製剤。
(項目27)
項目1~24のいずれかに記載の抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド
。
(項目28)
項目27に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
(項目29)
項目28に記載のベクターを含む細胞。
(項目30)
前記タンパク質の発現を許容する条件下で、項目29に記載の細胞を増殖させ、前記タンパク質を前記細胞から単離することを含む、項目1~24のいずれかに記載の抗原
結合タンパク質の製造方法。
(項目31)
有効量の項目1~24のいずれかに記載の抗原結合タンパク質を個体に投与すること
を含む、治療方法。
(項目32)
前記個体がヒトである、項目31に記載の方法。
(項目33)
CD3に対して特異的な抗原結合タンパク質を作製する方法であって、
OmniFlicまたはUniRat動物をCD3で免疫すること、及び
抗原特異的な重鎖配列を同定することを含む、前記方法。
(項目34)
OmniFlicまたはUniRat動物をCD3以外の抗原で免疫すること、及び
項目1~16のいずれかに記載の前記抗原結合タンパク質を含む分子において、組み合わせ得る抗原特異的な重鎖配列を同定すること、を含む項目17に記載の抗原結合タンパク質を作製する方法。
(項目35)
前記タンパク質は、CD3に対して特異的な結合ドメイン及びCD3以外の抗原に特異的な結合ドメインを含み、
活性化アッセイにおいてT細胞と接触させた場合、前記二重特異性抗原結合タンパク質は、参照抗CD3抗体と比較して、IL-2及びIL-10の一方または両方の低下したレベルの放出を誘導し、
腫瘍細胞及びヒトT細胞を用いた標準インビトロアッセイにおいて、30%を超える腫瘍細胞傷害性を誘導する、前記二重特異性抗原結合タンパク質。
(項目36)
(i)ヒトVHフレームワークにおいて、配列番号1のCDR1、CDR2及びCDR3配列を含むCD3結合可変領域と、
(ii)ヒトVLフレームワークにおいて、配列番号69のCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む可変軽鎖ドメインと、
(iii)単一またはタンデムな構成において、配列番号70の26~33位、51~58位、97~108位のそれぞれで、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む一本鎖抗BCMA可変領域含む二重特異性抗体。
(項目37)
Fc領域をさらに含む、項目36に記載の二重特異性抗体。
(項目38)
前記CD3結合可変領域は、配列番号1を含み、前記軽鎖可変領域は、配列番号69を含み、また、前記BCMA結合可変領域は、配列番号70または配列番号71を含む、項目37に記載の二重特異性抗体。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明は、添付の図面と併せて読むと以下の詳細な説明から最もよく理解される。特許または出願のファイルは、カラーで成される少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(複数可)付きのこの特許または特許出願公開の写しは、請求及び必要な手数料の支払いがあった場合に、官庁によって提供される。一般的な慣行によれば、図面の様々な特徴は、同じ縮尺ではないことが強調される。逆に、様々な特徴の寸法は、明確にするために、任意に拡大または縮小される。図面には、以下の図が含まれる。
【0027】
【
図1-1】1A~1B(FAM1_aCD3_CDR_seqalign)。1Aは、ヒトCD3を認識する抗体ファミリーの全メンバーのCDR1、2及び3領域のアラインメントを示す。CDR配列は、配列番号1~68に記載の可変領域配列のCDR1、CDR2及びCDR3について、それぞれアミノ酸残基26~35、53~59及び98~117に相当する。1Bは、固定された軽鎖(配列番号69)のCDR1、2及び3領域、及び例示的な抗BCMA配列(配列番号70及び配列番号71)を示す。
【
図1-2】1A~1B(FAM1_aCD3_CDR_seqalign)。1Aは、ヒトCD3を認識する抗体ファミリーの全メンバーのCDR1、2及び3領域のアラインメントを示す。CDR配列は、配列番号1~68に記載の可変領域配列のCDR1、CDR2及びCDR3について、それぞれアミノ酸残基26~35、53~59及び98~117に相当する。1Bは、固定された軽鎖(配列番号69)のCDR1、2及び3領域、及び例示的な抗BCMA配列(配列番号70及び配列番号71)を示す。
【
図2】2A~2E。二重特異性ヒト抗体の模式図。2Aは、抗CD3:共通の軽鎖を有する抗腫瘍抗原二重特異性抗体(全3つの固有の鎖)である。2Bは、抗CD3:2つの固有の軽鎖を有する抗腫瘍抗原二重特異性抗体(全4つの固有の鎖)である。2Cは、抗CD3:重鎖のみの腫瘍抗原結合ドメイン鎖を有する抗腫瘍抗原二重特異性抗体(3つの固有の鎖)である。2Dは、抗CD3:ScFv腫瘍抗原結合ドメインを有する抗腫瘍抗原二重特異性抗体(全3つの固有の鎖)である。2Eは、抗CD3:ScFv抗CD3結合ドメインを有する抗腫瘍抗原二重特異性抗体(全3つの固有の鎖)である。
【
図3】αCD3/αPD-L1二重特異性FlicAbによるヒトCD8+T細胞の活性化。精製されたヒトCD8+T細胞は、示された濃度での二重特異性物質及び腫瘍細胞との共培養物であった。Ramos(B細胞リンパ腫)は、PD-L1陰性の細胞株であり、HDLM2(多発性骨髄腫)は、PD-L1陽性の細胞株である。CD69は、活性化されたT細胞上でアップレギュレ-トされる膜分子である。蛍光標識された抗CD69モノクローナル抗体で染色されたヒトCD8+T細胞の平均蛍光強度(MFI)は、活性化の程度と相関する。活性化は、PD-L1及び二重特異性を発現する腫瘍細胞の両方の存在に依存した。
【
図4】αCD3/αPD-L1二重特異性FlicAbによる腫瘍細胞の細胞溶解。腫瘍細胞(HDLM2)を、精製したヒトCD8+T細胞及び二重特異性抗体と共にインキュベ-トした。HDLM2細胞は、CD20を発現せず、αCD3/αCD20二重特異性FlicAbとの共培養は、HDLM2細胞を殺傷させなかった。αCD3/αPD-L1二重特異性FlicAbと、ヒトCD8+T細胞及びHDLM2との共培養のみが著しい殺傷につながる。HDLM2は、その表面にPD-L1を発現する。
【
図5】表は、単一特異性及び二重特異性の形態における抗CD3抗体の挙動を要約する。列1は、抗CD3VH配列の配列番号を示す。列2は、親単一特異性抗CD3のJurkat細胞結合についてのMFI値を示す。列3は、親単一特異性抗CD3のカニクイザルT細胞結合についてのMFI値を示す。列4は、aCD3:aBCMA二重特異性抗体の名称を示す。列5は、指示された用量でプラスチックに被覆された、BCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたIL-2のピコグラムを示す。列6は、指示された用量でプラスチックに被覆された、BCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたIL-6のピコグラムを示す。列7は、指示された用量でプラスチックに被覆された、BCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたIL-10のピコグラムを示す。列8は、指示された用量でプラスチックに被覆された、BCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたIFN-γのピコグラムを示す。列9は、指示された用量でプラスチックに被覆された、BCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたTNFαのピコグラムを示す。列10は、ヒト汎T細胞の存在下における二重特異性抗体媒介性U266腫瘍細胞溶解のEC50を示す。列11は、二重特異性抗体及びヒト汎T細胞の存在下における二重特異性抗体333ng/mLの用量でのU266腫瘍細胞の溶解パ-セントを示す。列12は、オクテットによって測定された二重特異性抗体の抗CD3アームのタンパク質結合親和性を示す。列13は、二重特異性抗体のJurkat細胞結合についてのMFI値を示す。
【
図6】二重特異性抗体媒介腫瘍細胞溶解。固有の抗CD3アーム及び共通の抗BCMAアームをそれぞれ有する4つのαCD3_fam1:aBCMA二重特異性抗体を、活性化された初代T細胞のリダイレクションによって、U266BCMA+腫瘍細胞を殺傷させる能力について試験した。この実験では、BCMAを発現するU266細胞を、二重特異性抗体の添加と共に、10:1 E:T比で活性化汎T細胞と混合した。X軸は、使用した抗体の濃度を示し、Y軸は、抗体を添加して6時間後の腫瘍細胞の%溶解を示す。
【
図7】二重特異性U266の殺傷活性は、IL-2の放出と相関した。二重特異性抗体媒介性腫瘍細胞溶解活性とIL-2サイトカイン放出との比較を散布図に示す。IL-2産生とU266腫瘍細胞溶解との間の相関は、R
2=0.37である。
【
図8】二重特異性U266の殺傷活性は、IFN-γの放出と相関した。二重特異性抗体媒介性腫瘍細胞溶解活性とIFN-gサイトカイン放出との比較を散布図に示す。IFN-γ産生とU266腫瘍細胞溶解との間の相関は、R
2=0.53である。
【
図9】二重特異性U266の殺傷活性は、抗CD3結合親和性と相関した。二重特異性抗体媒介性U266腫瘍細胞溶解活性と抗CD3結合親和性との比較を散布図に示す。U266の殺傷EC50とタンパク質結合親和性との間の相関は、R
2=0.93である。
【
図10】10A~10D。二重特異性抗体媒介腫瘍細胞溶解。αCD3_F1F:αBCMA二重特異性抗体を、活性化された初代T細胞のリダイレクションによって、3つの異なるBCMA+腫瘍細胞及び1つのBCMA陰性細胞株を殺傷させる能力についてアッセイした。抗体は、αCD3アーム(配列番号1及び配列番号69)及びαBCMAアーム(配列番号70または配列番号71)からなっていた。この実験において、二重特異性抗体の添加と共に、10:1のE:T比で腫瘍細胞を活性化汎T細胞と混合した。10Aは、RPMI-8226細胞の殺傷を示し、10Bは、NCI-H929細胞の殺傷を示し、10Cは、U266細胞の殺傷を示し、10Dは、陰性対照であるK562細胞の殺傷を示す。X軸は、使用した抗体の濃度を示し、Y軸は、抗体を添加して6時間後の腫瘍細胞の%溶解を示す。
【
図11】11A~11D。二重特異性抗体媒介性IL-2放出。IL-2サイトカインの放出のレベルは、(
図10のように)休止したヒトT細胞を種々の腫瘍細胞株及びaCD3_F1F:aBCMA二重特異性抗体を漸増量で培養した後に測定した。11Aは、RPMI-8226細胞によって刺激されたIL-2の放出を示し、11Bは、NCI-H929細胞によって刺激されたIL-2の放出を示し、11Cは、U266細胞によって刺激されたIL-2の放出を示し、11Dは、陰性対照であるK562細胞によって刺激されたIL-2の放出を示す。
【
図12】12A~12D。二重特異性抗体媒介性IFNγ放出。IFN-γサイトカインの放出のレベルは、(
図10のように)休止したヒトT細胞を様々な腫瘍細胞株及びaCD3_F1F:aBCMA二重特異性抗体を漸増量で培養した後に測定した。12Aは、RPMI-8226細胞によって刺激されたIFNγの放出を示し、12Bは、NCI-H929細胞によって刺激されたIFNγの放出を示し、12Cは、U266細胞によって刺激されたIFN-gの放出を示し、12Dは、陰性対照であるK562細胞によって刺激されたIFNγの放出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下に定義する。
【0029】
本活性剤及び方法が記載される前に、本発明は、記載される特定の方法論、製品、装置及び因子に限定されず、そのような方法、装置及び製剤は、当然変化し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用する用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定するものではないことも理解されたい。
【0030】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「薬物候補」への言及は、そのような候補の1つまたは混合物を指し、「該方法」への言及は、当業者に公知の等価な工程及び方法への言及を含む。
【0031】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているすべての刊行物は、本明細書に記載され、本明細書に記載の発明と関連して使用され得るデバイス、製剤、及び方法論を説明及び開示する目的で、参照により本明細書に援用される。
【0032】
ある範囲の値が提供される場合、介在する各値は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、本発明の範囲内に包含されるその記載された範囲において、その範囲の上限及び下限と他の任意の記載された値または介在する値との間で、下限の単位の10分の1であると理解される。これらのより小さな範囲の上限及び下限は、独立してより小さな範囲に含まれてもよく、記載された範囲において、任意の具体的に除外された制限を条件として、本発明内に包含される。記載された範囲が限度の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限度のいずれかを除外した範囲もまた本発明に含まれる。
【0033】
以下の説明において、本発明のより完全な理解を提供するために、多数の特定の詳細が示されている。しかしながら、本発明がこれらの特定の詳細が1つ以上ない場合に実施され得ることは当業者には明らかであろう。他の例において、当業者において周知の特徴及び周知の手順は、本発明をあいまいにすることを避けるために記載されていない。
【0034】
一般に、当業者の技術範囲内のタンパク質合成、組換え細胞培養及びタンパク質単離、ならびに組換えDNA技術の従来の方法が、本発明に採用される。このような技術は、文献に十分に説明されており、例えば、Maniatis, Fritsch&Sambr
ook, Molecular Cloning:A Laboratory Manu
al(1982);Sambrook, Russell and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2001);Harlow, Lane and Harlow, Using Antibod
ies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.I, Cold Spring Harbor Laboratory(1998);and Harlow and Lane, Antibodies:A Labo
ratory Manual, Cold Spring Harbor Labora
tory;(1988)を参照されたい。
【0035】
定義
「含む」とは、列挙された要素が組成物/方法/キットにおいて必要とされることを意味するが、他の要素は、請求項の範囲内において組成物/方法/キットなどを形成するために含まれ得る。
【0036】
「本質的に~からなる」とは、本発明の基本的かつ新規な特徴(複数可)に実質的に影響を与えない、特定の材料または工程に記載された組成物または方法の範囲の限定を意味する。
【0037】
「からなる」とは、請求項に特定されていない任意の要素、工程または成分の組成物、方法またはキットからの排除を意味する。
【0038】
用語「治療」、「治療する」などは、本明細書では、一般に、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを意味するために使用される。効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に予防するという点で予防的であり得、及び/または疾患の部分的または完全な治癒及び/または疾患に起因する有害作用の点で治療的であり得る。本明細書で使用される「治療」は、哺乳動物における疾患の任意の治療を包含し、以下、(a)疾患の素因となり得るが、まだそれを有すると診断されていない対象において、疾患が発生するのを防止すること、(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発症を阻止すること、または(c)疾患を緩和すること、疾患を退行させること、を含む。治療剤は、疾患または傷害の発症前、発症中または発症後に投与され得る。治療が患者の望ましくない臨床症状を安定化または減少させる、進行中の疾患の治療は、特に注目されるものである。このような治療は、罹患した組織における機能の完全な消失に先立って行われることが望ましい。主題の療法は、疾患の症状の段階の間に、場合によっては、疾患の症状の段階の後に投与してもよい。
【0039】
「治療有効量」は、対象に治療的利益を与えるために、必要な量の活性剤を意図する。例えば、「治療有効量」とは、疾患に関連する病理学的症状、疾患の進行もしくは生理学的状態の改善を誘導、改善、またはそうでなければ引き起こす、または障害に対する耐性を改善する量である。
【0040】
用語「対象」、「個体」及び「患者」は、本明細書中では交換可能に使用されて、処置のために評価される及び/または治療される哺乳動物のことをいう。1つの実施形態において、哺乳動物は、ヒトである。「対象」、「個体」及び「患者」という用語は、限定するものではないが、がんを有する個体、自己免疫疾患を有する個体、病原体感染を有する個体などを含む。対象は、ヒトであってもよいが、他の哺乳動物、特に、ヒト疾患の実験モデルとして有用な哺乳動物、例えば、マウス、ラットなども含む。
【0041】
用語「がん」、「新生物」、及び「腫瘍」は、本明細書では互換的に使用され、細胞増殖に対する制御の著しい喪失を特徴とする異常な増殖表現型を示すといった、自律性の調節されない増殖を示す細胞のことをいう。本願における検出、解析または治療の対象となる細胞には、前がん性(例えば、良性)、悪性、前転移性、転移性及び非転移性細胞が含まれる。事実上あらゆる組織のがんが知られている。「がん負荷」という語句は、対象のがん細胞またはがん体積の量子のことをいう。したがって、がん負荷を軽減することは、対象のがん細胞数またはがん体積を減少させることをいう。本明細書で使用する用語「がん細胞」は、がん細胞であるか、またはがん細胞に由来する任意の細胞、例えば、がん細胞のクロ-ンのことをいう。がん腫、肉腫、神経膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、骨髄腫など
の固形腫瘍、及び特に、B細胞白血病、T細胞白血病などを含む白血病などの循環癌を含む多くのタイプのがんが当業者に知られている。がんの例には、限定するものではないが、卵巣癌、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、頭頸部癌、及び脳腫瘍を含む。
【0042】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性」及び「ADCC」は、ナチュラルキラー細胞、好中球及びマクロファージなどのFc受容体を発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞上の結合抗体を認識し、標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介反応のことをいう。ADCC活性は、米国特許第5,821,337号に記載されているものなどの方法を用いて評価され得る。ADCPは、抗体依存性細胞媒介性食作用のことをいう。
【0043】
「エフェクター細胞」は、1つ以上の定常領域受容体を発現し、エフェクター機能を果たす白血球である。
【0044】
「サイトカイン」は、1つの細胞によって放出され、細胞間メディエーターとして別の細胞に作用するタンパク質である。
【0045】
「非免疫原性」は、免疫反応が適応免疫反応及び/または自然免疫反応を含む免疫反応を開始、誘発または増強しない物質のことをいう。
【0046】
用語「単離された」は、物質がその元の環境(例えば、天然に存在する場合には自然環境)から除去されることを意味する。例えば、生存動物に存在する天然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されないが、天然の系において共存する物質のいくつかまたはすべてから分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドが単離される。そのようなポリヌクレオチドは、ベクターの一部であり得、及び/またはそのようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、組成物の一部であり得、また、そのようなベクターまたは組成物はその自然環境の一部ではないという点で依然として単離され得る。
【0047】
「薬学的に許容される賦形剤」は、一般に、安全で、毒性がなく、望ましい医薬組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、獣医学的使用ならびにヒト医薬用途に許容される賦形剤を含む。このような賦形剤は、固体、液体、半固体、またはエアロゾル組成物の場合にはガス状であり得る。
【0048】
「薬学的に許容される塩及びエステル」は、薬学的に許容され、所望の薬理学的特性を有する塩及びエステルを意味する。このような塩には、化合物に存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応することができる場合に形成され得る塩が含まれる。適切な無機塩には、アルカリ金属、例えば、ナトリウム及びカリウム、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムと一緒に形成されたものが含まれる。適切な有機塩には、アミン塩基、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、Nメチルグルカミンなどの有機塩基で形成されたものが含まれる。このような塩はまた、無機酸(例えば、塩酸及び臭化水素酸)ならびに有機酸(例えば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、及びメタンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸のようなアルカン及びアレーンスルホン酸)と形成された酸付加塩も含まれる。薬学的に許容されるエステルには、化合物に存在するカルボキシ、スルホニルオキシ、及びホスホノキシ基、例えば、C1-6アルキルエステルから形成されるエステルが含まれる。2つの酸性基が存在する場合、薬学的に許容される塩またはエステルは、モノ酸モノ塩またはエステルまたは二塩またはエステルであり得、同様に2つを超える酸性基が存在する場合、そのような基の一部または全部を塩化またはエステル化され得る。本発明において命名された化合物は、非塩化形態または非エステル化形態で、または塩化形態及び/またはエステル化形態で存在され得、そのような化合物の命名は、元の(非塩化及び非エステル化)化合物ならびにその薬学
的に許容される塩及びエステルの両方を含むことを意図している。また、本発明において命名された特定の化合物は、2つ以上の立体異性体形態で存在してもよく、そのような化合物の命名は、そのような立体異性体のすべての単一立体異性体及びすべての混合物(ラセミ体かどうか)を含むことを意図する。
【0049】
用語「薬学的に許容される」、「生理学的に忍容される」及びそれらの文法的な変形は、それらが組成物、担体、希釈剤及び試薬のことをいうとき、互換的に使用され、物質は、組成物の投与を妨げる程度に、望ましくない生理学的効果を生じることなく、ヒトにまたはヒト上に投与することができることを表す。
【0050】
2つの配列間の「相同性」は、配列同一性によって決定される。互いに比較される2つの配列の長さが異なる場合、配列同一性は、好ましくは、より長い配列のヌクレオチド残基と同一である短い配列のヌクレオチド残基のパーセンテージに関連する。配列同一性は、Bestfitプログラム(ウィスコンシンシーケンス解析パッケージ、Unix(登録商標)用バージョン8、Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive
Madison, Wis. 53711)のようなコンピュータプログラムを使用して、従来通りに決定され得る。Bestfitは、2つの配列間で最も高い配列同一性を有するセグメントを見出すために、Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics 2(1981), 482-489の局所相同性アルゴリズムを利用する。特定の配列が、例えば、本発明の参照配列と95%の同一性を有するかどうかを決定するために、Bestfitまたは他の配列アラインメントプログラムを使用する場合、パラメータは、好ましくは、同一性のパーセンテージが参照配列の全長にわたって計算されるように、また参照配列におけるヌクレオチドの総数の5%までの相同性ギャップが許容されるように調節される。Bestfitを使用する場合、いわゆるオプションパラメータは、好ましくは、それらのプリセット(「デフォルト」)値のままである。所与の配列と本発明の上記の配列との比較において現れる偏差は、例えば、付加、欠失、置換、挿入または組換えによって引き起こされ得る。このような配列比較は、好ましくは、プログラム「fasta20u66」(バ-ジョン2.0u66,1998年9月,William R. Pearson and th
e University of Virginia;W.R.Pearson(1990), Methods in Enzymology 183, 63-98、添付の例、及びhttp://workbench.sdsc.edu/も参照されたい。)を用いても実施され得る。この目的のために、「デフォルト」パラメータ設定を使用してもよい。
【0051】
「変異体」とは、天然配列のポリペプチドとはある程度異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドのことをいう。通常、アミノ酸配列変異体は、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも約90%の配列相同性を有するであろう。アミノ酸配列変異体は、参照アミノ酸配列内の特定の位置に置換、欠失、及び/または挿入を有していてもよい。
【0052】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、それが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子のことをいうことを意図している。ベクターの1つのタイプは、「プラスミド」であり、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループのことをいう。別のタイプのベクターは、ウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントは、ウイルスゲノムにライゲートされ得る。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自律複製することができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター、及びエピソーム性哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ得、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、特定のベクターは、それらが作動可能に連結さ
れている遺伝子の発現を指向することができる。そのようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または、単に「組換えベクター」)という。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、しばしば、プラスミドの形態である。本明細書において、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドが最も一般的に使用されるベクターの形態であるため、互換的に使用され得る。
【0053】
本明細書中で使用される場合、用語「宿主細胞」(または「組換え宿主細胞」)は、遺伝子改変されたか、または組換えプラスミドもしくはベクターなどの外因性ポリヌクレオチドの導入によって遺伝的に改変され得る細胞のことをいうことを意図する。そのような用語は、特定の対象細胞だけではなく、そのような細胞の子孫をもいうことを意図することを理解されたい。突然変異または環境の影響のために、ある世代ではある種の改変が起こり得るので、そのような子孫は、実際には親細胞と同一ではない可能性があるが、それでも本明細書で使用される「宿主細胞」という用語の範囲に含まれる。
【0054】
「結合親和性」は、一般に、分子の単一の結合部位(例えば、抗体または他の結合分子)とその結合相手(例えば、抗原または受容体)との間の非共有結合の相互作用の総和の強さのことをいう。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(Kd)によって表され得る。親和性は、本明細書に記載するものを含む当技術分野で公知の一般的な方法によって測定され得る。低親和性抗体は、抗原(または受容体)に弱く結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は、抗原(または受容体)をより強固に結合し、より長く結合したままである。
【0055】
特に断らない限り、本明細書に記載され特許請求される「コンジュゲート」という用語は、1つ以上の抗体断片(複数可)の1つ以上のポリマー分子(複数可)への共有結合によって形成される異種分子として定義され、異種分子は、水溶性であり、すなわち、血液などの生理学的流体に可溶性であり、異種分子は、いかなる構造化凝集体も含まない。目的のコンジュゲートは、PEGである。前述の定義の文脈において、用語「構造化凝集体」は、(1)異種分子がミセルまたは他のエマルジョン構造ではなく、脂質二重膜、小胞またはリポソームに固定されていないような、スフェロイドまたはスフェロイドシェル構造を有する水溶液中の分子の任意の凝集体、及び(2)クロマトグラフィービーズマトリックスなど、水相と接触しても異種分子を溶液に放出しない、固体または不溶化形態の分子の凝集体のことをいう。したがって、本明細書で定義される用語「コンジュゲート」は、沈殿物、堆積物、生分解性マトリックスまたは固体の水和の際に異種分子を水溶液に放出することができる他の固体において、上記異種分子を包含する。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「標識」は、抗体に直接的または間接的にコンジュゲートした検出可能な化合物または組成物のことをいう。標識は、それ自体で検出可能であり得(例えば、放射性同位体標識もしくは蛍光標識)、または酵素標識の場合には、検出可能な基質化合物または組成物の化学的変化を触媒し得る。
【0057】
「固相」は、本発明の抗体が付着し得る非水性マトリックスを意味する。本明細書に包含される固相の例には、ガラス(例えば、制御された細孔ガラス)、多糖類(例えば、アガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、及びシリコーンの一部または全部が形成されるものが含まれる。ある特定の実施形態において、状況に応じて、固相は、アッセイプレートのウェルを構成し得、他のものでは、それは精製カラム(例えば、アフィニティークロマトグラフィーカラム)である。この用語にはまた、米国特許第4,275,149号に記載されているもののような個別の粒子の不連続固相も含まれる。
【0058】
免疫グロブリンともいう抗体は、通常、少なくとも1つの重鎖及び1つの軽鎖を含み、
重鎖及び軽鎖のアミノ末端ドメインは配列が可変であり、したがって、一般に可変領域ドメイン、または可変重鎖(VH)ドメインまたは可変軽鎖(VH)ドメインのことをいう。2つのドメインは、慣習的に会合して特異的結合領域を形成するが、本明細書で考察するように、特異的結合は重鎖のみの可変配列でも得ることができ、抗体の様々な非天然立体配置が知られており、当技術分野で使用されている。
【0059】
「機能的」または「生物学的に活性な」抗体または抗原結合分子(本明細書において重鎖のみの抗体及び二重特異性三本鎖抗体様分子(TCA)を含む。)は、構造的、規制的、生化学的または生物物理学的な事象において、その天然の活性の1つ以上を発揮することができるものである。例えば、機能的抗体または他の結合分子、例えば、TCAは、抗原に特異的に結合する能力を有し得、また、結合は、シグナル伝達または酵素活性などの細胞または分子事象を誘発または改変し得る。機能性抗体または他の結合分子、例えば、TCAはまた、受容体のリガンド活性化をブロックするか、アゴニストまたはアンタゴニストとして作用し得る。その天然の活性の1つ以上を発揮するために、抗体または他の結合分子、例えば、TCAの能力は、ポリペプチド鎖の適切な折り畳み及び組み立てを含むいくつかの因子に依存する。
【0060】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で用いられ、具体的には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単量体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、重鎖のみの抗体、三本鎖抗体、一本鎖Fv、ナノボディなどを含み、また、それらが所望の生物学的活性を示す限り、抗体断片を含む(Miller et al(2003)Jour.of Immunology 170:4854-4861)。抗体は、マウス、ヒト、ヒト化、キメラ、または他の種の由来であってもよい。
【0061】
抗体という用語は、全長重鎖、全長軽鎖、インタクトな免疫グロブリン分子、または目的の標的の抗原またはその一部に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含むポリペプチドを参照し得、そのような標的としては、限定するものではないが、がん細胞、または自己免疫疾患に関連する自己免疫抗体を産生する細胞を含む。ヒトまたは他の哺乳動物を含む任意の適切なFc領域を含み得る、本明細書に開示される免疫グロブリンは、限定するものではないが、ヒトまたは他の哺乳動物、例えば、カニクイザル、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2、あるいは減少または増強されたエフェクター細胞活性を提供する改変Fc部分を有する操作サブクラスを含む免疫グロブリン分子のサブクラスを含む、任意の適切なFc領域を含んでいてもよい。免疫グロブリンは、任意の種に由来し得る。1つの態様において、免疫グロブリンは、大部分がヒト由来である。
【0062】
用語「可変」は、可変ドメインの特定の部分が抗体間の配列において大きく異なり、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合及び特異性において使用されるという事実のことをいう。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布していない。これは、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方の超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、ベータシート構造を連結するループを形成する、場合によってはベータシート構造の一部を形成する3つの超可変領域によって連結された、ベータシート構造を主に採用する4つのFRを含む。各鎖における超可変領域は、FRによって近接して一緒に保持され、他の鎖由来の超可変領域により、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al(1991)Sequences of Proteins of Immunological
Interest, 5th Ed. Public Health Service,
National Institutes of Health, Bethesda,
Md.を参照されたい)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に直接関与しない
が、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)への抗体の関与のような様々なエフェクター機能を示す。
【0063】
用語「超可変領域」は、本明細書で使用される場合、抗原結合の関与する抗体のアミノ酸残基のことをいう。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基、及び/または「超可変ループ」由来のこれらの残基を含んでいてもよい。「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書に定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0064】
目的の可変領域は、本明細書で提供される可変領域由来の少なくとも1つのCDR配列、通常は、少なくとも2つのCDR配列、より通常は、3つのCDR配列を含む。例示的なCDR指定が本明細書に示されているが、当業者は、Kabatの定義を含むCDRの多くの定義が一般に使用されていることを理解し(“Zhao et al. A ge
rmline knowledge based computational approach for determining antibody complementarity determining regions.” Mol Immunol.
2010;47:694-700を参照されたい)、これは配列の可変性に基づいており、最も一般的に用いられている。Chothiaの定義は、構造ループ領域の位置に基づいている(Chothia et al. “Conformations of i
mmunoglobulin hypervariable regions.” Na
ture. 1989;342:877-883)。別の目的のCDRの定義は、限定す
るものではないが、Honegger, “Yet another numbering scheme for immunoglobulin variable domains:an automatic modeling and analysis tool.” J Mol Biol. 2001;309:657-670;Ofran
et al. “Automated identification of complementarity determining regions(CDRs)reveals peculiar characteristics of CDRs and B cell epitopes.” J Immunol. 2008;181:6230-6235;Almagro “Identification of differences in the specificity-determining residues of antibodies that recognize antigens of different size:implications fo
r the rational design of antibody repertoires.” J Mol Recognit. 2004;17:132-143;及びPadlanet al. “Identification of specificity-determining residues in antibodies.
” Faseb J. 1995;9:133-139.によって開示されたものを含み、これらのそれぞれは、参照により本明細書に具体的に援用される。
【0065】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体のことをいい、すなわち、集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得る可能性のある天然の突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して指向される。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の抗体によって汚染されずに合成され得るという点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均質な集団から得られる抗体の特性を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。
【0066】
本明細書の抗体は、具体的には、重鎖及び/または軽鎖の一部が、特定の種に由来する抗体、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体を含み、鎖(複数可)の残りは、所望の生物学的活性を示す限り、別の種に由来する抗体、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体、及びそのような抗体の断片に対応する配列と同一または相同である(米国特許第4,816,567号、及びMorrison et al(1984)Proc. Natl.
Acad. Sci. USA, 81:6851-6855)。本明細書中の目的のキ
メラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列、及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体を含む。
【0067】
本明細書で使用される「インタクトな抗体鎖」は、完全長可変領域及び完全長定常領域を含むものである。インタクトな「従来の」抗体は、インタクトな軽鎖及びインタクトな重鎖、ならびに分泌IgGについての軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、ヒンジ、CH2及びCH3を含む。IgMまたはIgAなどの他のアイソタイプは、異なるCHドメインを有していてもよい。定常ドメインは、天然配列の定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列の定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列変異体であってもよい。インタクトな抗体は、抗体のFc定常領域(天然配列Fc領域またはアミノ酸配列変異型Fc領域)に起因する生物学的活性を意味する1つ以上の「エフェクター機能」を有してもよい。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害性、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、食作用、及び細胞表面受容体のダウンレギュレーションが含まれる。定常領域の変異体は、エフェクタープロファイルを変化させるもの、Fc受容体への結合などを含む。
【0068】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、インタクトな抗体は、異なる「クラス」に割り当てられ得る。IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つの主要なクラスのインタクトな免疫グロブリン抗体が存在し、これらのうちのいくつかはさらに、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2に分けられ得る。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメ
インは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配置は周知である。Ig形態は、ヒンジ修飾またはヒンジレス形態を含む(Roux et al(1998)J. Immunol. 161:4083-4090;Lund et al(2000)Eur. J. Biochem.
267:7246-7256;US2005/0048572;US2004/0229310)。任意の脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ及びλと呼ばれる2つの明確に異なる型のうちの1つに割り当てられ得る。
【0069】
「機能的Fc領域」は、天然配列のFc領域の「エフェクター機能」を有する。例示的なエフェクター機能は、C1q結合、CDC、Fc受容体結合、ADCC、ADCP、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーションなどを含む。このようなエフェクター機能は、一般に、Fc領域が受容体、例えば、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB1、FcγRIIB2、FcγRIIIA、FcγRIIIB受容体、及び低親和性FcRn受容体と相互作用することを必要とし、例えば、本明細書の定義に開示されているような種々のアッセイを用いて評価され得る。「死滅した」Fcは、例えば、血清半減期の延長に関して、活性を保持するように変異誘発されているが、高親和性Fc受容体を活性化しないものである。
【0070】
「天然配列のFc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。天然配列のヒトFc領域には、天然配列のヒトIgG1 Fc領域(非A及びAアロタイプ)、天然配列のヒトIgG2 Fc領域、天然配列のヒトIgG3 F
c領域、及び天然配列のヒトIgG4 Fc領域、ならびに天然に存在するそれらの変異
体が含まれる。
【0071】
「変異型Fc領域」は、少なくとも1個のアミノ酸改変、好ましくは、1個以上のアミノ酸置換(複数可)によって、天然配列のFc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、変異型Fc領域は、天然配列のFc領域、または親ポリペプチドのFc領域と比較して少なくとも1個のアミノ酸置換、例えば、天然配列のFc領域または親ポリペプチドのFc領域において、約1個から約10個のアミノ酸置換、好ましくは、約1個から約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書の変異型Fc領域は、好ましくは、天然配列のFc領域、及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、最も好ましくは、それと少なくとも約90%の相同性、より好ましくは、それと少なくとも約95%の相同性を有する。
【0072】
変異型Fc配列は、EUインデックスの234位、235位、及び237位(Duncan et al.,(1988)Nature 332:563を参照されたい)におけるFcγRI結合を減少させるために、CH2領域に3個のアミノ酸置換を含み得る。EUインデックス330位及び331位における補体C1q結合部位における2個のアミノ酸置換は、補体結合を低下させる(Tao et al., J. Exp. Med. 1
78:661(1993)、及びCanfield and Morrison, J. Exp. Med. 173:1483(1991)を参照されたい)。233~236位のIgG2残基及び327位、330位及び331位のIgG4残基のヒトIgG1への
置換は、ADCC及びCDCを大幅に低下させる(例えば、Armour KL. et
al., 1999 Eur J Immunol. 29(8):2613-24;及
びShields RL. et al., 2001. J Biol Chem. 27
6(9):6591-604を参照されたい)。他のFc変異体も可能であり、限定するものではないが、ジスルフィド結合を形成することができる領域が欠失しているもの、あるいは、特定のアミノ酸残基が天然のFc形態のN末端で除去されているか、またはメチオニン残基がそれに付加されているものを含む。したがって、本発明の1つの実施形態において、ScFc分子の1つ以上のFc部分は、ジスルフィド結合を排除するために、ヒンジ領域に1つ以上の突然変異を含み得る。さらに別の実施形態において、Fcのヒンジ領域は、完全に除去され得る。さらに別の実施形態において、分子は、Fc変異体を含み得る。
【0073】
さらに、Fc変異体は、補体結合またはFc受容体結合を行うために、アミノ酸残基を置換、欠失または付加することによって、エフェクター機能を除去または実質的に減少させるために構築され得る。例えば、限定するものではないが、C1q結合部位などの補体結合部位に欠失が生じ得る。免疫グロブリンFc断片のそのような配列誘導体を調製する技術は、国際特許公報WO97/34631及びWO96/32478に開示されている。さらに、Fcドメインは、リン酸化、硫酸化、アシル化、グリコシル化、メチル化、ファルネシル化、アセチル化、アミド化などによって修飾され得る。
【0074】
Fcは、天然型糖鎖、天然型と比較して増加した糖鎖、または天然型と比較して減少した糖鎖を有する形態であってもよく、または非グリコシル化形態もしくは脱グリコシル化形態であってもよい。糖鎖の増加、減少、除去または他の修飾は、化学的方法、酵素的方法などの当技術分野で一般的な方法によって、または遺伝子操作された産生細胞株においてそれを発現させることによって達成され得る。そのような細胞株は、グリコシル化酵素を天然に発現する、微生物(例えば、Pichia Pastoris)、及び哺乳動物細胞株(例えば、CHO細胞)を含み得る。さらに、微生物または細胞は、グリコシル化酵素を発現するように操作され得るか、またはグリコシル化酵素を発現できないようにし得る(例えば、Hamilton,et al., Science, 313:1441(
2006);Kanda, et al, J. Biotechnology, 130:300(2007);Kitagawa, et al., J. Biol. Chem.,
269(27):17872(1994);Ujita-Lee et al., J.
Biol. Chem., 264 (23):13848(1989);Imai-N
ishiya, et al, BMC Biotechnology 7:84(2007);及びWO07/055916を参照されたい)。シアリル化活性が変化するように操作された細胞の一例として、アルファ-2,6-シアリルトランスフェラーゼ1遺伝子
は、チャイニーズハムスター卵巣細胞及びsf9細胞に操作されている。したがって、これらの操作された細胞によって発現される抗体は、外因性遺伝子産物によってシアリル化される。複数の天然分子と比較して、修飾された量の糖残基を有するFc分子を得るためのさらなる方法は、例えば、レクチンアフィニティークロマトグラフィーを用いて、上記複数の分子をグリコシル化及び非グリコシル化画分に分離することを含む(例えば、WO07/117505を参照されたい)。特定のグリコシル化部分の存在は、免疫グロブリンの機能を変化させることが示されている。例えば、Fc分子からの糖鎖の除去は、第1の補体成分C1のC1q部分に対する結合親和性の急激な低下、及び抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)または補体依存性細胞傷害性(CDC)の減少または喪失をもたらし、それによってインビボで不必要な免疫反応を誘導しない。さらなる重要な修飾としては、シアリル化及びフコシル化が挙げられ、IgGにおけるシアル酸の存在は、抗炎症活性(例えば、Kaneko,et al, Science 313:760(2006)を参照されたい)と相関しているが、IgGからのフコースの除去は、ADCC活性の増強を導く(例えば、Shoj-Hosaka, et al, J.Biochem.,
140:777(2006)を参照されたい)。
【0075】
代替的な実施形態において、本発明の抗体は、例えば、FcγRIIIAに対する結合能を高め、ADCC活性を高めることによって、エフェクター機能が強化されたFc配列を有し得る。例えば、FcのAsn-297でN-結合グリカンに結合したフコースは、FcとFcγRIIIAとの相互作用を立体的に妨げ、そして糖操作によるフコースの除去は、FcγRIIIAへの結合を増加させることができ、それは、野生型IgG1対照と比較して、>50倍高いADCC活性と橋渡しされる。タンパク質工学は、IgG1のFc部分におけるアミノ酸変異を介して、FcγRIIIAへのFc結合の親和性を増加させる複数の変異体を生成した。特に、トリプルアラニン変異体S298A/E333A/K334Aは、FcγRIIIA及びADCC機能に対して、2倍の増加した結合を示す。S239D/I332E(2×)及びS239D/I332E/A330L(3×)変異体は、FcγRIIIAに対する結合親和性の著しい増加、及びインビトロ及びインビボでのADCC能力の増大を有する。酵母ディスプレイによって同定された他のFc変異体もまた、FcγRIIIAに対する改善された結合、及びマウス異種移植モデルにおける腫瘍細胞殺傷の増強を示した。例えば、Liu et al.(2014)JBC
289(6):3571-90を参照されたく、本明細書に具体的に参考として援用される。
【0076】
用語「Fc領域を含む抗体」は、Fc領域を含む抗体のことをいう。Fc領域のC末端リシン(EUナンバリングシステムによる残基447)は、例えば、抗体の精製の間に、または抗体をコードする核酸の組換え操作によって除去され得る。したがって、本発明によるFc領域を有する抗体は、K447を有するかまたは有さない抗体を含み得る。
【0077】
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含む、最小限の抗体断片である。本発明のCD3結合抗体は、緊密で非共有結合的に1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体を含むが、追加の抗体、例えば、多重特異的構成での使用のために、VL配列の非存在下でVHを含み得る。親和性は、2つのドメイン結合部位の親和性よりも低いかもしれないが、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つの超可変領域の
みを含むFvの半分)でも抗原を認識して結合する能力を有する。
【0078】
Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)も含む。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に、少数の残基を付加する点について、Fab断片と異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が少なくとも1つの遊離チオ-ル基を有するFab’のための本明細書の名称である。F(ab’)2抗体断片は、もともとそれらの間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として産生された。抗体断片の他の化学的カップリングも知られている。
【0079】
一本鎖抗体を含む非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むキメラ抗体(一本鎖抗体を含む)である。例えば、Jones et al,(1986)Nature 321:522-525;Chothi
a et al(1989)Nature 342:877;Riechmann et
al(1992)J. Mol. Biol. 224, 487-499;Foote and Winter,(1992)J. Mol. Biol. 224:487-499;Presta et al(1993)J. Immunol. 151, 2623-
2632;Werther et al(1996)J. Immunol. Methods 157:4986-4995;及びPresta et al(2001)Thromb. Haemost. 85:379-389を参照されたい。さらなる詳細については、米国特許第5,225,539号、第6,548,640号、第6,982,321号、第5,585,089号、第5,693,761号、第6,407,213号、Jones et al(1986)Nature, 321:522-525;及びRi
echmann et al(1988)Nature 332:323-329を参照されたい。
【0080】
本明細書で使用される用語「一本鎖抗体」は、抗原のエピトープに結合する1つ以上の抗原結合ドメインを含む単一のポリペプチド鎖を意味し、そのようなドメインは、抗体重鎖または軽鎖の可変領域に由来するか、またはそれと配列同一性を有する。そのような可変領域の一部は、VHまたはVL遺伝子セグメント、D及びJH遺伝子セグメント、またはJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再編成VHDJH、VLDJH、VHJL、又はVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。V-、D-、及びJ-遺伝子セグメントは、ヒト、及び鳥類、魚類、サメ、哺乳動物、げっ歯類、非ヒト霊長類、ラクダ、ラマ、ウサギなどを含む様々な動物に由来し得る。
【0081】
本発明のCD3結合抗体は、限定するものではないが、二重特異性抗体、三機能性抗体などを含む、多特異的構成において特に有用であることがわかる。多種多様な方法及びタンパク質構成が知られており、二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体などにおいて使用されている。
【0082】
第1世代のBsMAbは、2つの重鎖及び2つの軽鎖からなり、1つはそれぞれ2つの異なる抗体由来であった。2つのFab領域は、2つの抗原に対して指向される。Fc領域は、2つの重鎖から構成され、免疫細胞上のFc受容体を有する第3の結合部位を形成する(例えば、Lindhofer et al., The Journal of Immunology, Vol 155, p219-225, 1995を参照されたい
)。抗体は、同じ種または異なる種に由来するものであってもよい。例えば、ラット及びマウス抗体を発現する細胞株は、優先的に種制限された重鎖及び軽鎖の対形成のために、機能的な二重特異性Abを分泌する。他の実施形態において、Fc領域は、特定の方法で一緒に適合するようにのみ設計される。
【0083】
他のタイプの二重特異性抗体は、Fab領域のみからなる化学的に連結したFabを含む。2つの化学的に連結したFabまたはFab2断片は、2つの異なる抗原に結合する人工抗体を形成し、これを二重特異性抗体の一種にする。2つの異なるモノクローナル抗体の抗原結合断片(FabまたはFab2)が産生され、チオエ-テルのような化学的手段によって連結される(Glennie, M J et al., Journal o
f immunology 139, p 2367-75, 1987;Peter Borchmann et al., Blood, Vol.100, No.9, p3101
-3107, 2002を参照されたい)。
【0084】
多価人工抗体の製造のための種々の他の方法が、2つの抗体の可変ドメインを組換え融合することによって開発されている。一本鎖可変断片(scFv)は、免疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質であり、10~約25個のアミノ酸の短いリンカーペプチドに連結されている。リンカーは、通常、柔軟性のためにグリシンに富み、また、溶解性のためにセリンまたはトレオニンに富み、VHのN末端をVLのC末端に結合することができ、またはその逆も可能である。二重特異性一本鎖可変断片(di-scFv、bi-scFv)は、異なる特異性を有する2つのscFvを連結することによって操作され得る。2つのVH及び2つのVL領域を有する単一ペプチド鎖が産生され、二価のscFvが得られる。
【0085】
二重特異性のタンデムなscFvは、二重特異性T細胞係合子(BiTE)としても知られている。二重特異性scFvは、2つの可変領域が一緒に折り畳むには短すぎる(約5個のアミノ酸)、scFvを強制的に二量化させるリンカーペプチドを用いて作製され得る。このタイプは、ダイアボディ-として知られている(Adams et al., British journal of cancer 77, p1405-12, 1998)。Dual-Affinity Re-Targeting(DART)プラットフォ-ム技術(Macrogenics, Rockville, Md)。この融合タンパク質技術は、約55キロダルトンの単一ペプチド鎖上の異なる抗体の2つの一本鎖可変断片(scFv)を使用する。SCORPION Therapeutics(Emergent Biosolutions,Inc., Seattle, Wash.)は、一本鎖タンパク質において、2つの抗原結合ドメインを組み合わせている。免疫グロブリンFc領域に基づいて、1つの結合ドメインは、C末端にあり、第2の結合ドメインはエフェクタードメインのN末端にある。
【0086】
四価及び二重特異性抗体様タンパク質には、2つのモノクローナル抗体から操作されるDVD-Igも含まれる(Wu,C.et al., Nature Biotechnology, 25, p1290-1297, 2007)。DVD-Ig分子を構築するた
めに、2つのmAbのVドメインを、N末端の第1抗体軽(VL)鎖の可変ドメインと、短いリンカー(TVAAP)によってタンデムに融合させ、続いて、他の抗体VL及びCkが続き、DVD-Igタンパク質軽鎖を形成する。同様に、2つのmAbの重(VH)鎖の可変領域を、短いリンカー(ASTKGP)によって、N末端の第1の抗体とタンデムに融合させ、続いて、他の抗体及び重鎖定常ドメインを融合させて、DVD-Igタンパク質重鎖(VH1/VL1)を形成する。ジスルフィド結合完全IgG様分子の形成に重要であるため、DVD-Ig設計では、すべての軽鎖及び重鎖定常ドメインが保存されている。DVD-Ig軽鎖及び重鎖をコードする発現ベクターによる哺乳動物細胞の同時トランスフェクションは、約200kDaの分子量を有するIgG様分子の単一種の分泌をもたらす。この分子は、各mAbから2つの4つの結合部位を有する。
【0087】
用語「二重特異性三本鎖抗体様分子」または「TCA」は、本明細書では、3つのポリペプチドサブユニットを含む、本質的になる、またはそれらからなる抗体様分子のことをいうために使用され、そのうちの2つは、抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメイ
ンを含む、モノクローナル抗体の1つの重鎖及び1つの軽鎖、あるいはそのような抗体鎖の機能的抗原結合断片を含む、本質的になる、またはそれらからなる。この重鎖/軽鎖の対は、第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインの非存在下で、CH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインを含むFc部分を含む重鎖のみの抗体と、第2の抗原のエピトープまたは第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインとを含む、本質的になる、またはそれからなり、そのような結合ドメインは、抗体重鎖または軽鎖の可変領域に由来するか、またはそれと配列同一性を有する。そのような可変領域の一部は、VH及び/またはVL遺伝子セグメント、D及びJH遺伝子セグメント、またはJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再編成VHDJH、VLDJH、VHJL、又はVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。
【0088】
本明細書で使用される場合、「TCAタンパク質は重鎖のみの抗体を利用する」または「重鎖抗体」または「重鎖ポリペプチド」は、重鎖CH2ドメイン及び/またはCH3ドメイン及び/またはCH4ドメインを含むがCH1ドメインを含まない一本鎖抗体を意味する。1つの実施形態において、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、少なくともヒンジ領域の一部及びCH2ドメイン及びCH3ドメインからなる。別の実施形態において、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、少なくともヒンジ領域の一部及びCH2ドメインからなる。さらなる実施形態において、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、少なくともヒンジ領域の一部及びCH3ドメインからなる。CH2及び/またはCH3ドメインが切断されている重鎖抗体も本明細書に含まれる。さらなる実施形態において、重鎖は、抗原結合ドメイン、及び少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3またはCH4)ドメインからなるが、ヒンジ領域を含まない。重鎖のみの抗体は、2つの重鎖がジスルフィド結合されていてもよく、そうでなければ、互いに共有結合または非共有結合された二量体の形態であってもよい。重鎖抗体は、IgGサブクラスに属し得るが、IgM、IgA、IgD及びIgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書に含まれる。特定の実施形態において、重鎖抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、特に
、IgG1サブタイプである。
【0089】
重鎖抗体は、ラクダ科動物、例えば、ラクダ及びラマによって産生されるIgG抗体の約4分の1を構成する(Hamers-Casterman C., et al. Na
ture. 363, 446-448(1993))。これらの抗体は、2つの重鎖によって形成されるが、軽鎖が欠如している。結果として、可変抗原結合部分はVHHドメインといい、それは長さが約120個のアミノ酸のみである最小の天然に存在するインタクトな抗原結合部位を表す(Desmyter, A., et al. J. Biol. Chem. 276, 26285-26290(2001))。高い特異性及び親和性を有する重鎖抗体は、免疫化により種々の抗原に対して生成され得(van der Linden, R.H., et al. Biochim. Biophys. Acta. 1431, 37-46(1999))、VHH部分は、容易にクロ-ン化され、酵母で発現
され得る(Frenken, L.G.J., et al. J.Biotechnol. 78, 11-21(2000))。それらの発現レベル、溶解性及び安定性は、古典的な
F(ab)またはFv断片のレベルよりも著しく高い(Ghahroudi, M.A.
et al. FEBS Lett. 414, 521-526(1997))。サメは
、VNARという抗体において、単一のVH様ドメインを有することも示されている(Nuttall et al. Eur. J. Biochem. 270, 3543-3
554(2003);Nuttall et al. Function and Bi
oinformatics 55, 187-197(2004);Dooley et
al., Molecular Immunology 40, 25-33(2003
))。
【0090】
本明細書における重鎖のみの抗体及び二重特異性三本鎖抗体様分子(TCA)を含む抗体または抗原結合分子は、目的の抗原に「結合する」が、十分な親和性で抗原に結合するものであり、そのような抗体または結合分子は、抗原を標的とする際の診断薬及び/または治療薬として有用であり、他のタンパク質と著しく交差反応しない。このような実施形態において、抗体または他の結合分子の非標的抗原への結合の程度は、蛍光活性化細胞選別(FACS)解析または放射免疫沈降(RIA)によって決定されるように10%以下である。
【0091】
本発明のタンパク質
本発明は、CD3に結合し、CD3を介してシグナル伝達を活性化(例えば、CD3+T細胞の活性化)する密接に関連する抗体のファミリーを提供する。ファミリー内の抗体は、本明細書で定義されるCDR配列のセットを含み、配列番号1~68の提供されるVH配列、及び配列番号69の例示されるVL配列によって例示される。抗体のファミリーは、臨床的治療剤(複数可)としての有用性に寄与する多くの利益を提供する。ファミリー内の抗体は、ある範囲の結合親和性を有するメンバーを含み、所望の親和性を有する特定の配列の選択を可能にする。親和性を微調整する能力は、治療される個体におけるCD3活性化のレベルを管理し、それによって、毒性を低減することが特に重要である。例えば、小さく豊富な腫瘍抗原(細胞当たり10,000分子未満)が標的化される場合、高い親和性のCD3結合剤(<30nM)が存在することが予測される。大きく豊富な腫瘍抗原(細胞あたり50,000分子以上)が標的化される場合、低い親和性(>50nM)を有するCD3結合体が好ましい。
【0092】
適切な抗体は、限定するものではないが、二重特異性抗体としての使用を含み、開発及び使用のためのライブラリーから選択され得る。候補タンパク質に対する親和性の決定は、当該分野で公知の方法、例えば、ビアコア測定などを用いて実施され得る。抗体ファミリーのメンバーは、約10-6~約10-11のKdでCD3に対する親和性を有し得、限定するものではないが、約10-6~約10-10、約10-6~約10-9、約10-6~約10-8、約10-8~約10-11、約10-8~約10-10、約10-8~約10-9、約10-9~約10-11、約10-9~約10-10、またはこれらの範囲内の任意の値を含む。親和性の選択は、例えば、インビトロまたは前臨床モデルにおけるT細胞の活性化、及び潜在的な毒性の評価に対する生物学的評価を用いて確認され得る。
【0093】
本発明の抗体ファミリーの特定のメンバーは、カニクイザルのCD3タンパク質と交差反応性であり、この交差反応性に必要な特異的モチーフが同定され、これに基づいて前臨床試験または臨床試験のための抗体の選択が可能になる。重鎖のCDR3にFAAアミノ酸モチーフを有する抗体は、非ヒト霊長類のCD3タンパク質との交差反応において特に有効であることが見出されている。
【0094】
MHペプチド複合体または抗TCR/CD3抗体を結合させることによるT細胞受容体(TCR)の係合は、T細胞の活性化を開始する。T細胞を活性化する抗TCR/CD3抗体の例は、OKT3及びUCHT1である。これらの抗CD3抗体は、T細胞上のCD3への結合について交差競合し、T細胞の活性化アッセイにおいて日常的に使用される。本発明の抗CD3抗体は、ヒトCD3への結合に対して、OKT3と交差競合する。CD3及びCD3上のエピトープに対する結合親和性に依存して、抗CD3抗体は、異なる機能的な結果を伴ってT細胞を活性化した。低い親和性の抗CD3抗体を用いたヒトT細胞のインビトロのインキュベ-ションは、T細胞の不完全な活性化、低いIL-2及びIL-10の産生をもたらした。対照的に、高い親和性のCD3結合剤は、著しく多くのIL-2及び他のサイトカインを産生するように、T細胞を活性化した。低い親和性の抗CD3抗体は、いくつかのエフェクター機能、強力な腫瘍の殺傷及びCD69のアップレギュ
レーションを選択的に誘導する一方で、IL-2及びIL-10の産生のような他のものを誘導しない部分アゴニストと考えられる。本発明の高い親和性の結合剤は、T細胞の多くの免疫エフェクター機能を活性化する完全アゴニストである。CD3と、認識されたエピトープとの相互作用の強さは、T細胞の質的に異なる活性化をもたらした。低い親和性の抗CD3抗体によって活性化されたT細胞の最大サイトカインの産生は、高い親和性の抗CD3抗体による最大活性化よりも低かった。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、同じアッセイにおいて参照抗CD3抗体と比較した場合、活性化アッセイにおいてT細胞と組み合わせた場合に、IL-2及びIL-10の一方または両方のより低い放出をもたらし、参照抗体は、ID304703(または同等の親和性の抗体)であり得る。IL-2及び/またはIL-10の最大放出は、参照抗体による放出の約75%未満であり得、参照抗体による放出の約50%未満であり得、参照抗体による放出の約25%未満であり得て、参照抗体による放出の約10%未満であってもよい。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体または多重特異性抗体が提供され、これは、本明細書中で議論される任意の構成を有し得、限定するものではないが、三本鎖二重特異性を含む。二重特異性抗体は、少なくともCD3以外のタンパク質に特異的な抗体の重鎖可変領域を含み、重鎖及び軽鎖の可変領域を含んでいてもよい。いくつかのこのような実施形態において、第2の抗体特異性は、腫瘍関連抗原、例えば、インテグリンなどの標的抗原、病原体抗原、チェックポイントのタンパク質などと結合する。限定するものではないが、一本鎖ポリペプチド、二本鎖ポリペプチド、三本鎖ポリペプチド、四本鎖ポリペプチド、及びそれらの倍数を含む、二重特異性抗体の種々の形態は、本発明の範囲内である。
【0096】
本発明のCD3特異的抗体のファミリーは、ヒトVHフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含むVHドメインを含む。CDR配列は、一例として、配列番号1~68に記載の提供される例示的な可変領域配列のCDR1、CDR2及びCDR3について、それぞれ、およそアミノ酸残基26~35、53~59及び98~117の領域に位置し得る。異なるフレームワーク配列が選択される場合、CDR配列は異なる位置にあり得るが、一般に配列の順序は同じままであると当業者によって理解される。
【0097】
本発明の抗体のCDR配列は、以下の配列式を有し得る。Xは、可変アミノ酸を示し、以下に示すように特定のアミノ酸であってもよい。
【化4】
ここで、X
5は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
5は、SまたはRであり、
X
7及びX
8は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
7及びX
8は、独立して、SまたはGである。いくつかの実施形態において、X
7X
8は、SSまたはGGであり、X
9は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
9は、HまたはYであり、いくつかの実施形態において、X
9はHであり、
X
10は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態においてX
10は、YまたはFであり、いくつかの実施形態において、X
10は、Yである。
【0098】
いくつかの実施形態において、CDR1配列は、式:GGSIX
5SHHGY(式中、X
5は、上記で定義した通りである)を有する。いくつかの実施形態において、本発明の抗CD3抗体のCDR1配列は、配列番号1~68、残基26~35のいずれかに記載の
配列を含む。
【化5】
ここで、
X
2’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
2’は、S、YまたはHであり、
X
3’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
3’は、Y、HまたはRであり、
X6’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
6’は、S、NまたはIまたはRであり、
X
7’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
7’は、TまたはPである。
【0099】
いくつかの実施形態において、CDR2配列は、式:IX
2’X
3’SGST、またはIX
2’X
3’SGNP(式中、X
2’及びX
3’は、上記で定義した通りである)を有する。いくつかの実施形態において、本発明の抗CD3抗体のCDR2配列は、配列番号1~68、残基53~59のいずれかに記載の配列を含む。
【化6】
ここで、
X
1’’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
1’’は、AまたはGである。
X
8’’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
8’’は、LまたはFである。
X
9’’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
9’’は、TまたはAである。
X
10’’は、任意のアミノ酸であってもよく、いくつかの実施形態において、X
10’’は、G、AまたはRである。
【0100】
いくつかの実施形態において、X8’’X9’’X10’’は、FAAであり、このモチーフは、カニクイザルのCD3タンパク質と交差反応する抗体に対応する。他の実施形態において、X8’’、X9’’、X10’’は、LTAである。いくつかの実施形態において、本発明の抗CD3抗体のCDR3配列は、配列番号1~68、残基98~117のいずれかに記載の配列を含む。
【0101】
いくつかの実施形態において、CD3結合VHドメインは、軽鎖可変領域ドメインと対になる。このようないくつかの実施形態において、軽鎖は、固定された軽鎖である。いくつかの実施形態において、軽鎖は、ヒトVLフレームワークにおいて、CDR1、CDR2及びCDR3配列を有するVLドメインを含む。CDR配列は、配列番号69に含まれるものであってもよい。いくつかの実施形態において、CDR1配列は、CDR1、CDR2、CDR3について、それぞれ、アミノ酸残基27~32、50~52、89~97
を含む。
【0102】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体のCDR配列は、配列番号1~68のいずれか1つに記載のCDR配列またはCDR配列のセットに対して、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも99%の同一性を有する配列である。いくつかの実施形態において、本発明のCDR配列は、配列番号1~68のいずれか1つのCDR配列またはCDR配列のセットに対して、1つ、2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換(複数可)は、上記の式に対して、CDR1の5位または10位、CDR2の2位、6位または7位、CDR3の1位、8位、9位または10位の1つ以上である。
【0103】
本発明のタンパク質が二重特異性抗体である場合、一方の結合部分、すなわち、VH/VLの組合せまたはVHのみがヒトCD3に特異的であるが、他方のアームは、卵巣癌、乳癌、胃腸管、脳腫瘍、頭頸部癌、前立腺癌、結腸癌、及び肺癌などの細胞のようながん細胞を含む標的細胞、ならびに、白血病、リンパ腫、肉腫、癌腫、神経細胞腫瘍、扁平上皮細胞癌、胚細胞腫瘍、転移、未分化腫瘍、精上皮腫、黒色腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、混合細胞腫瘍、及び感染性因子による新生物形成、及び他の悪性腫瘍を含むB細胞腫瘍のような血液腫瘍、病原体に感染した細胞、炎症及び/または自己免疫を引き起こす自己反応性細胞に対して特異的であり得る。非CD3部分はまた、本明細書に記載されるように、免疫調節タンパク質に特異的であり得る。
【0104】
腫瘍関連抗原(TAA)は、腫瘍細胞に比較的限定されているが、腫瘍特異抗原(TSA)は、腫瘍細胞に対して独特である。TSA及びTAAは、典型的には、主要組織適合複合体の一部として、細胞表面上に発現される細胞内分子の部分である。
【0105】
組織特異的な分化抗原は、腫瘍細胞及びその正常細胞の対応物上に存在する分子である。治療用のmAbによって認識されることが知られている腫瘍関連抗原は、いくつかの異なるカテゴリ-に分類される。造血分化抗原は、通常、分化(CD)分類群に関連する糖タンパク質であり、CD20、CD30、CD33及びCD52を含む。細胞表面の分化抗原は、正常及び腫瘍細胞の両方の表面に見出される、糖タンパク質及び炭水化物の多様な群である。増殖及び分化シグナル伝達に関与する抗原は、しばしば増殖因子及び成長因子受容体である。がん患者における抗体の標的である成長因子には、CEA、上皮増殖因子受容体(EGFR、ERBB1としても知られている)、ERBB2(HER2としても知られている。)、ERBB3、MET(HGFRとしても知られている。)、インスリン様成長因子1受容体(IGF1R)、エフリン受容体A3(EPHA3)、腫瘍壊死因子(TNF)関連アポトーシス誘導リガンド受容体1(TRAILR1、TNFRSF10Aとしても知られている。)、TRAILR2(TNFRSF10Bとしても知られている)及び核因子κBリガンドの受容体活性化因子(RANKL、TNFSF11としても知られている。)が含まれる。血管新生に関与する抗原は、通常、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF受容体(VEGFR)、インテグリンαVβ3及びインテグリンα5β1を含む、新しい微小血管系の形成を支持するタンパク質または成長因子である。腫瘍間質及び細胞外マトリックスは、腫瘍にとって不可欠な支持構造である。治療標的である間質及び細胞外マトリックス抗原には、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)及びテネイシンが含まれる。
【0106】
二重特異性立体配置で有用な治療用抗体の例としては、限定するものではないが、リツキシマブ、イブリツモマブ、チウキセタン、トシツモマブ、ブレンツキシマブ、ベドチン、ゲムツズマブ、オゾガマイシン、アレムツズマブ、IGN101、アデカツムマブ、ラベツズマブ、huA33、ペムツモマブ、オレゴボマブ、CC49(ミンレツモマブ)、cG250、J591、MOv18、MORAb-003(ファレツズマブ)、3F8、
ch14.18、KW-2871、hu3S193、IgN311、ベバシズマブ、IM-2C6、CDP791、エタラシズマブ、ボロシキシマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、806、トラスツズマブ、ペルツズマブ、MM-121、AMG102、METMAB、SCH900105、AVE1642、IMC-A12、MK-0646、R1507、CP 751871、KB004、IIIA4、マパツムマブ(HGS-ETR1)、HGS-ETR2、CS-1008、デノスマブ、シブロツズマブ、F19、及び81C6が挙げられる。
【0107】
臨床的がん免疫療法、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA4、CD152としても知られている)及びプログラムされた細胞死タンパク質1(PD1、CD279としても知られている)の状況において最も活発に研究されている免疫チェックポイント受容体は、両方とも阻害性受容体である。これらの受容体のいずれかを遮断する抗体の臨床活性は、抗腫瘍免疫が複数のレベルで増強され得、コンビナトリアルストラテジ-が機械論的考察及び前臨床モデルによって指導的に設計され得ることを意味する。
【0108】
PD1の2つのリガンドは、PD1リガンド1(PDL1、B7-H1及びCD274としても知られている)及びPDL2(B7-DC及びCD273としても知られている)である。PDL1は、がん細胞上で発現され、T細胞上のその受容体PD1に結合することにより、T細胞活性化/機能を阻害する。
【0109】
リンパ球活性化遺伝子3(LAG3、CD223としても知られている)、2B4(CD244としても知られている)、B及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA、CD272としても知られている)、T細胞膜タンパク質3(TIM3、HAVcr2としても知られている)、アデノシンA2a受容体(A2aR)、及びキラー阻害性受容体のファミリーは、それぞれ、リンパ球活性の阻害、及び場合によってはリンパ球アネルギーの誘導に関連している。これらの受容体の抗体の標的化は、本発明の方法において使用され得る。
【0110】
免疫共刺激分子を作動させる薬剤も、本発明の方法において有用である。そのような薬剤には、アゴニストまたはCD40及びOX40が含まれる。CD40は、抗原提示細胞(APC)上に見出される共刺激タンパク質であり、それらの活性化に必要とされる。これらのAPCには、食細胞(マクロファージ及び樹状細胞)ならびにB細胞が含まれる。CD40は、TNF受容体ファミリーの一部である。CD40に対する主要な活性化シグナル伝達分子は、IFNγ及びCD40リガンド(CD40L)である。CD40による刺激は、マクロファージを活性化する。
【0111】
目的の抗CCR4(CD194)抗体は、潜在的な抗炎症活性及び抗腫瘍活性を有するC-Cケモカイン受容体4(CCR4)に対するヒト化モノクローナル抗体を含む。CCR2は、炎症性マクロファージ上に発現され、これは様々な炎症状態、例えば、リウマチ性関節炎において見出され得、また、腫瘍促進マクロファージで発現していると同定されている。CCR2は、調節性T細胞でも発現され、CCR2リガンドであるCCL2は、調節性T細胞の腫瘍への動員を媒介する。調節性T細胞は、抗腫瘍T細胞の応答を抑制し、したがって、それらの阻害または欠乏が望まれる。
【0112】
本発明のタンパク質の産生
抗体は、化学合成によって調製され得るが、典型的には、例えば、単一の組み換え宿主細胞においてタンパク質を構成するすべての鎖の共発現、または重鎖ポリペプチド及び抗体(例えば、ヒト抗体)の共発現などの組換えDNA技術の方法によって産生される。さらに、抗体の重鎖及び軽鎖は、単一のポリシストロニック発現ベクターを用いて、発現させることもできる。個々のポリペプチドの精製は、親和性(プロテインA)クロマトグラ
フィー、サイズ排除クロマトグラフィー及び/または疎水性相互作用クロマトグラフィーなどの標準的なタンパク質精製技術を用いて達成される。二重特異性物質はサイズ及び疎水性において十分に異なり、精製は標準的な手順を用いて実施され得る。
【0113】
単一の宿主細胞において産生される抗体及び重鎖ポリペプチドの量は、例えば、自己相補的な相互作用を導入することによって、ホモ二量体化がヘテロ二量体化よりも有利であるように、抗体及び重鎖の定常領域の操作を通じて、最小限に抑えられ得る(例えば、「腔内への突出」戦略など(WO96/27011を参照されたい)の可能性については、WO98/50431を参照されたい)。したがって、本発明の別の態様は、組換え宿主細胞において、二重特異性物質を産生する方法を提供することであって、方法は、組換え宿主細胞において、少なくとも2つの重鎖ポリペプチドをコードする核酸配列を発現させるステップを含み、重鎖ポリペプチドは、ホモ二量体形成を減少または防止するが、二重特異性形成を増加させるのに十分にそれらの定常領域において異なる。
【0114】
タンパク質が3つの鎖(例えば、FlicAb)を含む場合、これらは、単一の組換え宿主細胞において分子を構成する3つの鎖(2つの重鎖及び1つの軽鎖)の共発現によって産生され得る。
【0115】
本明細書のタンパク質の組換え産生のために、すべての鎖をコードする1つ以上の核酸、例えば、2、3、4などが単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のために複製可能なベクターに挿入される。多くのベクターは、利用可能である。ベクター成分は、限定されるものではないが、一般的に、シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列のうちの1つ以上を含む。
【0116】
好ましい実施形態において、本発明の方法による宿主細胞は、上記宿主細胞において一本鎖をコードする核酸分子の増幅を必要としないで、高レベルのヒト免疫グロブリン、すなわち、少なくとも1pg/細胞/日、好ましくは、少なくとも10pg/細胞/日、より好ましくは、少なくとも20pg/細胞/日、またはそれ以上の発現が可能である。
【0117】
薬学的組成物
本発明の別の態様は、適切な薬学的に許容される担体と混合した本発明の1つ以上のタンパク質を含む医薬組成物を提供することである。本明細書で使用される薬学的に許容される担体は、限定されるものではないが、アジュバント、固体担体、水、緩衝液、もしくは治療成分を保持するために当該技術分野で使用される他の担体、またはそれらの組み合わせを例示する。
【0118】
本発明に従って使用されるタンパク質の治療用製剤は、所望の純度を有するタンパク質を、例えば、凍結乾燥製剤または水溶液の形態において、任意の薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤と混合することによって保存用に調製される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed.(1980)を参照されたい)。許容される担体、賦形剤または安定剤は、使用される用量及び濃度でレシピエントに無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤、アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤、防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール、メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール及びm-クレゾールなど)、低分子量(約10残基未満)のポリペプチド、例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミ
ン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸、単糖類、二糖類、及びグルコ-ス、マンノ-スまたはデキストリンを含む他の炭水化物、EDTAなどのキレ-ト剤、スクロ-ス、マンニト-ル、トレハロ-スまたはソルビト-ルのような糖類、ナトリウムのような塩形成対イオン、金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体)、及び/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0119】
抗CD3抗体製剤は、例えば、米国特許公開第20070065437号に開示されており、その全体の開示は、本明細書に具体的に参考として援用される。同様の製剤は、本発明のタンパク質に使用され得る。そのような製剤の主成分は、3.0~6.2の範囲で有効なPH緩衝剤、塩、界面活性剤、及び抗CD3特異性を有する有効量の二重特異性物質である。
【0120】
使用方法
特に、抗原結合性組成物が治療される状態に適した多重特異性抗体である場合、例えば、関連するがん細胞の治療のために、1つの結合部分(関連する感染症の治療のために、目的の病原体に対する特異的な結合部分など)が腫瘍関連抗原に特異的に結合する場合、標的細胞を本発明の抗原結合性組成物と接触させることを含むレジメンにおいて、限定されるものではないが、感染症、自己免疫疾患、原発性または転移性がんなどを含む疾患を治療または軽減するための方法が提供される。そのような方法は、治療有効量または本発明の有効量の薬剤を、治療を必要とする対象に投与することを含み、限定されるものではないが、試薬と化学療法剤、放射線療法、または手術との組合せを含む。
【0121】
疾患の治療のための本発明の組成物の有効量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトなのか動物なのかどうか、他の薬が投与されているのかどうか、また、治療が予防的なのか治療的なのかどうか、を含む多くの異なる要因によって異なる。通常、患者はヒトであるが、非ヒト哺乳動物(例えば、犬、猫、馬などのコンパニオン動物、ウサギ、マウス、ラットなどの実験哺乳動物など)にも治療され得る。治療用量は、安全性及び有効性を最適化するために漸増され得る。
【0122】
投与レベルは、通常の技能を有する臨床医によって容易に決定され得、必要に応じて、例えば、治療に対する対象の応答を修正するために必要に応じて変更され得る。単一剤形を製造するために、担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、治療される宿主、及び特定の投与方法に応じて変わる。投薬単位形態は、一般に、約1mg~約500mgの活性成分を含有する。
【0123】
いくつかの実施形態において、薬剤の治療用量は、宿主体重の約0.0001~100mg/kg、より一般的には0.01~5mg/kgの範囲であり得る。例えば、投薬量は、1mg/kg体重または10mg/kg体重、または1~10mg/kgの範囲内であり得る。例示的な治療レジメンは、2週間に1回または1ヶ月に1回または3~6ヶ月に1回の投与を伴う。本発明の治療物質は、通常、複数の機会に投与される。単回投与間の間隔は、毎週、毎月、または毎年であり得る。間隔は、患者の治療物質の血中濃度を測定することによって示されるように、不規則であってもよい。あるいは、本発明の治療物質は、徐放性処方物として投与され得、この場合、より少ない投与回数が必要とされる。投薬量及び頻度は、患者におけるポリペプチドの半減期に依存して変化する。
【0124】
予防的な用途において、比較的低用量が、比較的まれな間隔で長期間にわたって投与され得る。一部の患者は、残りの生活のために治療を受け続けている。他の治療的な用途において、疾患の進行が減少または終息するまで、また、好ましくは、患者が疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで、比較的短い間隔で比較的高用量が必要とされること
がある。その後、患者は、予防的な管理体制で投与され得る。
【0125】
さらに他の実施形態において、本発明の方法は、癌腫、白血病及びリンパ腫などの血液癌、黒色腫、肉腫、神経膠腫などのがんの腫瘍増殖、腫瘍転移または腫瘍浸潤の治療、軽減または予防を含む。予防的な用途のために、医薬組成物または医薬は、疾患(疾患の進行中に現れるその合併症及び中間の病理学的表現型)の生化学的症状、組織学的症状、及び/または行動症状を含む、疾患のリスクを排除または低減し、疾患の重症度を軽減し、または疾患の発症を遅らせるのに十分な量において、疾患のリスクを冒しやすいまたはそうでなければ疾患のリスクがある患者に投与される。
【0126】
病気の治療のための組成物は、非経口、局所、静脈内、腫瘍内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内、または筋肉内の手段によって投与され得る。典型的な投与経路は、静脈内または腫瘍内であるが、他の経路も同等に有効であり得る。
【0127】
典型的には、組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかとして、注射剤として調製され、注射前の液体ビヒクル中の溶液または懸濁液に適した固体形態もまた調製され得る。調製物は、上記のように、増強されたアジュバント効果のために、ポリラクチド、ポリグリコリド、またはコポリマーのようなリポソ-ムまたはミクロ粒子に乳化またはカプセル化され得る(Langer, Science 249:1527, 1990、及びHanes, Advanced Drug Delivery Reviews 28:9
7-119, 1997)。本発明の薬剤は、活性成分の持続放出またはパルス放出を可
能にするような様式で製剤化され得る、デポー注射またはインプラント調製の形態で投与され得る。医薬組成物は、一般に、無菌で、実質的に等張性で、米国食品医薬品局のすべての医薬品製造管理及び品質管理基準(GMP)規則に完全に適合して製剤化される。
【0128】
本明細書に記載のタンパク質の毒性は、例えば、LD50(集団の50%に致命的な用量)またはLD100(集団の100%に致命的な用量)を決定することによって、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定され得る。毒性と治療効果との間の用量比が治療指数である。これらの細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、ヒトにおいて使用するために、毒性でない用量範囲を製剤化する際に使用され得る。本明細書に記載のタンパク質の用量は、好ましくは、毒性がほとんどまたはまったくない有効用量を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、使用される投与形態及び利用される投与経路に依存して、この範囲内で変化し得る。正確な製剤、投与経路、及び投与量は、患者の状態を考慮して、個々の医師によって選択され得る。
【0129】
医薬組成物は、投与方法に依存して、種々の単位剤形で投与され得る。例えば、経口投与に適した単位剤形は、限定されるものではないが、粉末、錠剤、丸薬、カプセル、及びロゼンジを含む。本発明の組成物は、経口投与された場合、消化から保護されるべきであると認識される。これは、典型的には、分子を組成物と複合させて、それらを酸性及び酵素的加水分解に耐性にすることにより、または分子をリポソ-ムまたは保護バリアなどの適切に耐性のある担体にパッケージすることによって達成される。消化から薬剤を保護する手段は、当該技術分野において周知である。
【0130】
投与のための組成物は、通常、薬学的に許容される担体、好ましくは、水性担体に溶解された抗体または他のアブレーション剤を含む。種々の水性担体、例えば、緩衝食塩水などが使用され得る。これらの溶液は無菌であり、一般的に、望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌してもよい。組成物は、PH調節剤及び緩衝剤、毒性調整剤などの、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどのような生理学的条件に近似するのに必要な薬学的に許容される補助物質を含み得る。これらの製剤における活性剤の濃度は、広く
変動し得、また、選択された特定の投与様式、及び患者の必要性にしたがって、主に体液量、粘度、体重などに基づいて選択されるであろう(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(15th ed., 1980)、及びGoodman&Gillman, The Pharmacological Bas
is of Therapeutics(Hardman et al., eds., 1996))。
【0131】
本発明の範囲内には、本発明の活性剤及びその製剤を含むキット、ならびに使用説明書もある。キットは、少なくとも1つのさらなる試薬、例えば、化学療法薬などをさらに含み得る。キットには、典型的には、キットの内容物の意図された使用を示すラベルを含む。ラベルという用語は、キットの上またはキットと共に供給されるか、そうでなければキットに付随する任意の記述物または記録された資料を含む。
【0132】
組成物は、治療的処置のために投与され得る。組成物は、上記のように、標的細胞を実質的に切除するのに十分な量で患者に投与される。これを達成するのに十分な量は、全体的な生存率の改善をもたらし得る「治療上有効な用量」として定義される。組成物の単回投与または複数回投与は、患者によって必要とされ、かつ許容される投与量及び頻度に依存して投与され得る。治療に必要な特定の用量は、哺乳動物の病状及び病歴、ならびに年齢、体重、性別、投与経路、効率などの他の要因に依存する。
【0133】
本発明を十分に説明したが、本発明の精神または範囲を逸脱することなく、様々な変更及び修正を加えることができることは当業者には明らかであろう。
【実施例0134】
実施例1
重鎖のみの抗体を発現する遺伝子操作されたラット
ヒトIgH遺伝子座を、ヒトVH6-D-JH領域の下流に連結したラットC領域遺伝子の改変及び連結を含むいくつかの部分で構築し、組み立てた。次いで、ヒトVH遺伝子の別々のクラスターを有する2つのBACを、組み立てられた(ヒトVH6-D-JH-ラットC)断片をコードするBACと同時に注入した。
【0135】
人工重鎖免疫グロブリン遺伝子座を再配置されていない状態で保有するトランスジェニックラットを作製した。含まれる定常領域の遺伝子は、IgM、IgD、IgG2b、IgE、IgA及び3’エンハンサーをコードする。トランスジェニックラットのRT-PCR及び血清解析(ELISA)は、トランスジェニック免疫グロブリン遺伝子座の生産的再編成、及び血清における種々のアイソタイプの重鎖のみの抗体の発現を明らかにした。トランスジェニックラットを、米国特許公開第2009/0098134 A1号に以前に記載されている突然変異した内因性重鎖及び軽鎖の遺伝子座を有するラットと交配させた。そのような動物の解析は、ラット免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の発現の不活性化、ならびにヒトV、D及びJ遺伝子によってコードされる可変領域を有する重鎖抗体の高レベルの発現を示した。トランスジェニックラットの免疫化は、抗原特異的な重鎖抗体の高力価の血清反応の産生をもたらした。ヒトVDJ領域を有する重鎖抗体を発現するこれらのトランスジェニックラットは、UniRatsと呼ばれた。
【0136】
実施例2
固定された軽鎖抗体を発現する遺伝子操作されたラット
トランスジェニックヒト抗体レパートリーは、固有のL鎖と組み合わせて、多様な(VH-D-JH)n再編成を有するH鎖から生成された。このために、再編成したL鎖ヒトVk-Jk1-CkをDNAマイクロインジェクションによりラット生殖系列に組み込み、得られたトランスジェニック動物を、ヒトH鎖レパートリーを天然に発現する以前に記
載されたラット株で飼育した(Osborn et al., 2013)。この新しいラット株は、OmniFlicと命名された。
【0137】
多くの異なる抗原を用いたOmniFlicラットの免疫は、同じIgH遺伝子座を有する他のトランスジェニックラットと同様の、高レベルの抗原特異的IgGを産生した。RT-PCRによるレパートリー解析は、高い転写物及びタンパク質レベルで、非常に可変性の高いVH遺伝子再編成を同定した。さらに、高レベルでも発現しているL鎖生成物は1つだけ同定された。
【0138】
OmniFlic由来の抗原特異的結合剤は、NGS及びcDNAライブラリー(酵母、E.coli、ファージ)からの選択によって得られ、配列決定の際に、多様なH鎖の転写物が同定された。哺乳動物細胞における発現のために、超変異型H鎖構築物を元のトランスジェニックIgκ配列と組み合わせてトランスフェクトした。この再編成されたVk-Jk1-Ckでは、突然変異の変化は認められず、モノクローナルヒトIgGを生成するために、常に同じL鎖が種々のH鎖生成物と共に発現された。
【0139】
実施例3
トランスジェニックラットにおける抗原特異的抗体の生成
ラットにおける抗原特異的重鎖抗体の生成のために、遺伝子操作された発現ラットを2つの方法で免疫化した。
【0140】
PD-L1及びBCMAの組換え細胞外ドメインを用いた免疫化。PD-L1及びBCMAの組換え細胞外ドメインをR&D Systemsから購入し、滅菌生理食塩水で希釈し、アジュバントと組み合わせた。免疫原は、完全フロイントアジュバント(CFA)及び不完全フロイントアジュバント(IFA)、またはTitermax及びRibiアジュバントのいずれかと組み合わせたものであった。CFAまたはTitermaxにおける免疫原を用いた最初の免疫(プライミング)を左右の脚に投与した。CFAにおける免疫原を用いた最初の免疫の後、IFAで2回以上の免疫(追加免疫)、またはRibiで4回以上の免疫、及びTitermaxでもう1回の免疫を各脚に投与した。この一連の免疫は、高い親和性の抗体を産生するB細胞の発生をもたらす。免疫原の濃度は、1脚あたり10マイクログラムであった。血清力価を決定するために、最終採血時にラットから血清を採取した。
【0141】
抗ヒトCD3δε抗体の生成のために、遺伝子操作されたラットを、DNAベースの免疫化プロトコールを用いて免疫化した。
【0142】
OmniFlicラットを、GENOVAC抗体技術を用いて、Aldevron,Inc.(Fargo、ND)でヒト及びカニクイザルのCD3-イプシロン/デルタ構築物で免疫化した。最終的な追加免疫及びRNA単離後に、流入領域リンパ節を採取した。cDNAの合成後、IgH重鎖抗体のレパートリーは、次世代シークエンシング及び独自の社内ソフトウェアによって特徴付けられた。抗原特異的な陽性選択の証拠を示す候補抗原特異的なVH配列を選択した。FlicAbSをコードする数百のVH配列を遺伝子組換えのために選択し、発現ベクターにクローニングした。続いて、フロー及びELISAによる解析のために、完全ヒトヒトFlicAb IgG1抗体をHEK細胞において発現させた。フローにより、初代ヒトT細胞及びJurkat細胞への結合について、ヒトFlicAbを試験した。さらに、ELISAにおいて、組換えCD3δεタンパク質を用いて、ヒトFlicAbを試験した。ヒトT細胞に対する陽性結合を有するすべてのFlicAbを
図1に列挙する。T細胞活性化アッセイにおいて、選択された配列をさらに特徴化した。
【0143】
実施例4 抗CD3 OmniFlic抗体の特徴化
T細胞を活性化してサイトカインを産生し、その表面上のCD69をアップレギュレ-トするそれらの能力について、上記のようなキャンペーンから誘導された抗体をさらに特徴化した。Jurkat細胞または末梢血リンパ球によって産生されたIL-2の定量のために、BioLegendのELISA maxキットを使用した。ヒト末梢血T細胞及び異なる濃度のOmniFlic抗体を用いた実験の結果を
図3に示す。
【0144】
実施例5 二重特異性抗体の特徴化
二重特異性の更なる開発のために、抗CD3 FlicAb ID304703(配列番号39)を選択した。このFlicAbは、カニクイザルのCD3と交差反応し、ヒトT細胞を強力に刺激する。二種類の二重特異性が産生された(模式図については
図2を参照されたい)。二重特異性FlicAbを作製するために、Knobs-into-holes技術を用いた(Protein Engineering vol.9 no.7 pp.617-621, 1996,‘Knobs-into-holes’engine
ering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization. John B.B.Ridgwa
y, Leonard G. Presta and Paul Carter)。ノブを有する重鎖のC末端をCタグでタグ付けし、ヘテロ二量体抗体をCaptureSelectのCタグアフィニティーマトリックス(Thermo Fischer Scientific)を用いて精製した。一方のアームがCD3(ID 304703)と反応し、他方がヒトPD-L1と反応する二重特異性FlicAbが産生され、PD-L1陽性腫瘍細胞の存在下でのみヒトCD8+T細胞を活性化することが示された(
図3)。HDLM2は、多発性骨髄腫細胞株であり、表面上にPD-L1を発現する。Ramosは、バーキットリンパ腫の細胞株であり、これは、PD-L1に対して陰性である。CD69の発現を読み出シートとして使用した。指示された濃度で二重特異性抗体を使用した。
【0145】
図4に示すように、腫瘍細胞(細胞表面上にPD-L1を発現するHDLM2)を精製したヒトCD8+T細胞及び二重特異性抗体と共にインキュベ-トした。HDLM2細胞
は、CD20を発現せず、αCD3/αCD20二重特異性FlicAbとの共培養は、HDLM2細胞を殺傷させなかった。αCD3/αPD-L1二重特異性FlicAbを用いて、ヒトCD8+T細胞及びHDLM2の共培養のみが著しい殺傷をもたらした。
【0146】
図5は、単一特異性及び二重特異性の形態の抗体に関するデータをまとめたものである。列1は、抗CD3 VHの配列番号304703(配列番号39)、314171(配列番号13)、313306(配列番号1)、313329(配列番号6)及び313283(配列番号18)についての配列番号を示す。列2は、親単一特異性抗CD3のJurkat細胞結合についてのMFI値を示す。列3は、親単一特異性抗CD3のカニクイザルT細胞結合についてのMFI値を示す。列5は、指示された用量で、プラスチックに被覆されたBCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたIL-2のピコグラムを示す。列6は、指示された用量で、プラスチックに被覆されたBCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたIL-6のピコグラムを示す。列7は、指示された用量で、プラスチックに被覆されたBCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたIL-10のピコグラムを示す。列8は、指示された用量で、プラスチックに被覆されたBCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたIFNγのピコグラムを示す。列9は、指示された用量で、プラスチックに被覆されたBCMAタンパク質に結合する二重特異性抗体によって刺激された、汎T細胞によって放出されたTNFαのピコグラムを示す。列10は、ヒト汎T細胞の存在下において、二重特異性抗体媒介性U266腫瘍細胞溶解のEC50を示す。列11は、二重特異性抗体及びヒト汎T細胞の存在下において、二重特異性抗
体333ng/mLの用量でのU266腫瘍細胞の溶解パ-セントを示す。列12は、オクテットによって測定された、二重特異性抗体の抗CD3アームのタンパク質結合親和性を示す。列13は、二重特異性抗体のJurkat細胞結合のMFI値を示す。
【0147】
実施例6
二重特異性殺傷活性とサイトカイン放出との相関
図6に示すように、それぞれ固有の抗CD3アーム(示されているとおり)及び共通の抗BCMAアームを有する4つのαCD3_fam1:aBCMA二重特異性抗体を、活性化した初代T細胞のリダイレクションを通して、U266 BCMA+腫瘍細胞を殺傷させる能力について試験した。この実験において、BCMAを発現するU266細胞を、二重特異性抗体の添加と共に、10:1 E:T比で活性化汎T細胞と混合した。X軸は、使用した抗体の濃度を示し、Y軸は、抗体を添加して6時間後の腫瘍細胞の%溶解を示す。殺傷活性は、IL-2の放出(
図7)、IFNγの放出(
図8)、及びCD3結合親和性(
図9)と相関していた。IL-2の産生とU266腫瘍細胞の溶解との間の相関は、R
2=0.37である。IFNγ産生とU266腫瘍細胞の溶解との間の相関は、R
2=0.53である。U266殺傷EC50とタンパク質結合親和性との間の相関は、R
2=0.93である。
【0148】
αCD3_F1F:αBCMA二重特異性抗体を、活性化した初代T細胞のリダイレクションを介して、3つの異なるBCMA+腫瘍細胞及び1つのBCMA陰性細胞株を殺傷させる能力についてアッセイした。抗体は、αCD3アーム(配列番号1及び配列番号69)及びαBCMAアーム(配列番号70または配列番号71)からなっていた(
図10~12に示す)。この実験において、二重特異性抗体の添加と共に、10:1のE:T比で、腫瘍細胞を、活性化した汎T細胞と混合した。
図10Aは、RPMI-8226細胞の殺傷を示し、
図10Bは、NCI-H929細胞の殺傷を示し、パネルCは、U266細胞の殺傷を示し、
図10Dは、陰性対照であるK562細胞の殺傷を示す。X軸は、使用した抗体の濃度を示し、Y軸は、抗体を添加して6時間後の腫瘍細胞の%溶解を示す。
【0149】
図11は、休止ヒトT細胞を種々の腫瘍細胞株及びaCD3_F1F:aBCMA二重特異性抗体を漸増量で培養した後に測定した、IL-2サイトカインの放出のレベルを示す(
図10におけるように)。
図11Aは、RPMI-8226細胞によって刺激されたIL-2の放出を示し、
図11Bは、NCI-H929細胞によって刺激されたIL-2の放出を示し、
図11Cは、U266細胞によって刺激されたIL-2の放出を示し、
図11Dは、陰性対照であるK562細胞によって刺激されたIL-2の放出を示す。
【0150】
休止ヒトT細胞を種々の腫瘍細胞株及びaCD3_F1F:aBCMA二重特異性抗体を漸増量で培養した後に測定した、IFNγサイトカイン放出のレベルを示す(
図10におけるように)。
図12Aは、RPMI-8226細胞によって刺激されたIFNγの放出を示し、
図12Bは、NCI-H929細胞によって刺激されたIFNγの放出を示し、
図12Cは、U266細胞によって刺激されたIFNγの放出を示し、
図12Dは、陰性対照であるK562細胞によって刺激されたIFNγの放出を示す。
【0151】
実施例は、当業者に本発明の製造方法及び使用方法の完全な開示及び説明を提供するために提示され、また、本発明者らがそれらの発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではなく、また、以下の実験が全部または唯一実施される実験であることを表すことを意図するものでもない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関して正確さを確実にするための努力がなされてきたが、いくつかの実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。特記しない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、また、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0152】
本発明をその特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の真の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更を加えたり等価物を代替したりすることができることは当業者によって理解されるべきである。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、プロセスステップまたは複数のステップを本発明の目的、精神及び範囲に適合させるために、多くの修正を加えてもよい。そのような修正はすべて、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図されている。
他の実施形態において、抗体配列、例えば、1つ以上の軽鎖コード配列、1つ以上の重鎖コード配列を単一の宿主細胞に発現することを含む本発明の二重特異性抗体の製造方法が提供される。様々な実施形態において、宿主細胞は、原核細胞または哺乳動物細胞などの真核細胞であってもよい。