(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123001
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】イノシトールリン酸含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/6615 20060101AFI20220816BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20220816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220816BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220816BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220816BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220816BHJP
【FI】
A61K31/6615
A61P19/06
A61P43/00 111
A61K47/12
A61K9/08
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093130
(22)【出願日】2022-06-08
(62)【分割の表示】P 2019549772の分割
【原出願日】2017-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【弁理士】
【氏名又は名称】釜平 双美
(72)【発明者】
【氏名】池永 武
(72)【発明者】
【氏名】野口 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】小梯 知英子
(72)【発明者】
【氏名】甲田 哲之
(72)【発明者】
【氏名】高石 絢子
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プリン体の腸管からの吸収を抑制するための組成物であって、優れた効果を有しつつ、安全性にも優れ、健康食品、サプリメントなどとして継続的に摂取できるものを提供する。さらに、本発明の目的は、血圧、血糖値、肝機能、血清鉄、またはカルシウム吸収を改善でき、かつ、日常的に継続的に摂取できる安全で効果的な組成物を提供する。また、組成物の味の改善方法も提供する。
【解決手段】イノシトールリン酸またはその塩を含有し、該イノシトールリン酸またはその塩の1回あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、ヒトにおけるプリン体吸収抑制のための経口組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノシトールリン酸またはその塩を含有し、該イノシトールリン酸またはその塩の1回あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、ヒトにおけるプリン体吸収抑制のための経口組成物。
【請求項2】
該プリン体吸収が腸管からの吸収である、請求項1に記載の経口組成物。
【請求項3】
イノシトールリン酸またはその塩を含有し、該イノシトールリン酸またはその塩の1回あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、ヒトにおける尿酸値上昇抑制のための経口組成物。
【請求項4】
該プリン体吸収抑制または該尿酸値上昇抑制がプリンヌクレオチド代謝阻害による、請求項1~3のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項5】
該プリン体吸収抑制または該尿酸値上昇抑制がフォスファターゼ阻害による、請求項1~3のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項6】
乳酸カルシウムをイノシトールリン酸:乳酸カルシウム=1:0.2~1:0.5の重量比でさらに含む、請求項1~5のいずれか1つに記載の経口組成物。
【請求項7】
該組成物が液剤である、請求項1~6のいずれか1つに記載の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イノシトールリン酸またはその塩を含有することを特徴とする、プリン体吸収抑制組成物、プリンヌクレオチド代謝阻害組成物、フォスファターゼ阻害組成物、尿酸値上昇抑制組成物、血圧改善組成物、血糖値改善組成物、肝機能改善組成物、血清鉄調整組成物、またはカルシウム吸収促進組成物に関する。さらに本発明は味が改善されたイノシトールリン酸またはその塩を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食事の高カロリー化、高蛋白化、高脂肪化といった食生活の変化に伴い、痛風患者や高尿酸血症者は増加しており、痛風およびその危険因子である高尿酸血症の予防と改善に対する関心が高まっている。
【0003】
通常、健康な状態であれば、血清尿酸値は尿酸の産生と排泄のバランスによって一定に保たれている。しかしながら、尿酸産生過剰、尿酸排泄低下、またはその両方によって尿酸の産生と排泄のバランスが崩れると血清尿酸値は上昇し、高尿酸血症(男女共に血清尿酸値が7.0mg/dLを超える)となる。高尿酸血症は痛風、動脈硬化、腎機能低下等の様々な疾患の原因となることが分かっている。高尿酸血症に対しては投薬に加え、食事療法や飲酒制限によって尿酸の元となるプリン体の摂取を低減することにより、血清尿酸値をコントロールして予防・治療されている。
【0004】
しかしながら、日常の生活においてプリン体摂取制限や飲酒制限を継続することは容易ではなく、食事性プリン体の体内吸収を手軽に低減できる効果的な医薬および/または食品の開発が求められている。また、健康志向の高まりにより、血圧、血糖値、肝機能、鉄分量、骨の健康等を維持/改善できる健康食品等へのニーズも高い。
【0005】
プリン体は、プリン骨格と呼ばれる共通の構造を有する化合物の総称であり、核酸の構成成分として遺伝情報の伝達を担う等、生体内で様々な機能を果たしている。プリン体には、プリン塩基(例えばアデニン、グアニン、ヒポキサンチン)、プリン塩基に糖が結合したプリンヌクレオシド(例えばアデノシン、グアノシン、イノシン)、およびプリンヌクレオシドにリン酸基が結合したプリンヌクレオチド(例えばアデニル酸(AMP)、グアニル酸(GMP)、イノシン酸(IMP))が含まれる。
【0006】
プリン体は、腸管吸収を介して食物から食事性プリン体として生体内に供給されるほか、de novo経路またはサルベージ経路によって生合成される。ヒトではプリン体は最終的に尿酸に代謝される。
【0007】
食品中に含まれるプリン体の多くは核酸の構成成分(ヌクレオチド残基)として存在する。
通常、核酸は腸内でヌクレアーゼまたはホスホジエステラーゼによってヌクレオチドに分解され、ヌクレオチドはアルカリフォスファターゼまたは5‘ヌクレオチダーゼによってヌクレオシドに分解され、ヌクレオシドは更に塩基と糖に分解される。
【0008】
プリン体のうち腸管で吸収されるのはプリンヌクレオシドとプリン塩基であり、対してプリンヌクレオチドおよび核酸は腸管を通過することができないことが示唆されている(非特許文献1、2、および3)。
【0009】
プリン体の尿酸への代謝に関し:
例えば、AMPは5’-ヌクレオチダーゼ活性によってアデノシンとなり、アデノシンはイノシンを経てヒポキサンチンに代謝される。ヒポキサンチンはキサンチンオキシダーゼ活性によってキサンチンとなり;
GMPは5’-ヌクレオチダーゼ活性によってグアノシンとなり、グアノシンはグアニンを経てキサンチンとなり;
IMPは5’-ヌクレオチダーゼ活性によってイノシンとなり、その後はAMPと同様にヒポキサンチンを経てキサンチンとなり;そして
キサンチンはキサンチンオキシダーゼ活性によって尿酸に変換され、腎臓や腸管から体外に排泄される。
【0010】
高尿酸血症の治療薬は主に尿酸産生抑制剤と尿酸排泄促進剤に分けられ、尿酸産生抑制剤として例えばキサンチンオキシダーゼ阻害剤(例えばアロプリノール)が使用されている。
【0011】
フィチン酸(イノシトール六リン酸)は、米糠、胚芽、とうもろこし、豆類などに多く含まれる成分で、その食経験は豊富である。フィチン酸はキレート作用および抗酸化作用を持ち、加えて、血液凝固防止作用、高カルシウム尿症予防作用、脂質改善作用を有することも知られている。
【0012】
非特許文献4には、フィチン酸がキサンチンオキシダーゼ活性を阻害してキサンチンから尿酸へ変換されることを阻害することが開示されるが、そのIC50は約30mM(19.8g/L)であって、その濃度は非常に高い。
【0013】
特許文献1には尿酸低下薬のキサンチンオキシダーゼ阻害剤の一例としてフィチン酸を記載するものの、フィチン酸の効果を確認する具体的な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Kolassa N, Stengg R, Turnheim K 1977 Adenosine uptake by the isolated epithelium and guinea pig jejunum. Can J Physiol Pharmacol 55:1033-1038
【非特許文献2】Salati LM, Gross CJ, Henderson LM, Savaiano DA 1984 Absorption and metabolism of adenine, adenosine-5'-mono-phosphate, adenosine and hypoxanthine by the isolated vascularly perfused rat small intestine. J Nutr 114:753-760
【非特許文献3】Harms V, Stirling CE: Transport of purine nucleotides and nucleosides by in vitro rabbit ileum. Am J Physiol 1977; 233:E47-E55
【非特許文献4】Muraoka, S., Miura, T., 2004. Inhibition of xanthine oxidase by phytic acid and its antioxidative action. Life Sciences 74, 1691-1700.
【非特許文献5】Grases F. et al. BioFactors 2001;15:53.61
【非特許文献6】Briviba K et al., Int J Food Sci Nutr. 2017; 30:1-6
【0016】
本明細書において引用する先行技術文献の開示は全て参照することにより、本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、毎日の食事に含まれるプリン体の腸管からの吸収を抑制するための組成物であって、優れた効果を有しつつ、安全性にも優れ、健康食品、サプリメントなどとして継続的に摂取できるものを提供することにある。さらに、本発明の目的は、血圧、血糖値、肝機能、血清鉄、またはカルシウム吸収を改善でき、かつ、日常的に継続的に摂取できる安全で効果的な組成物を提供することである。また、継続して摂取されるには苦みやえぐみが少ないものであることが好ましく、組成物の味の改善方法の提供も本願の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、イノシトールリン酸がプリンヌクレオチドからプリンヌクレオシドへの代謝を阻害することで食事由来のプリン体の腸管からの吸収を抑制すること、ならびに、血圧、血糖値、肝機能、血清鉄、およびカルシウム吸収に対し改善作用を有すること見出し、本願発明に至った。さらにイノシトールリン酸(特にフィチン酸)は特有の苦みおよびえぐみを有するものの、乳酸カルシウムを組み合わせることによってその味は改善されることを見出した。
【0019】
本願発明は、下記を提供する:
[1] イノシトールリン酸またはその塩を含有する、プリン体吸収抑制組成物。
[2] 該プリン体吸収が腸管からの吸収である、[1]に記載のプリン体吸収抑制組成物。
[3] イノシトールリン酸またはその塩を含有する、プリンヌクレオチド代謝阻害組成物。
[4] 該プリンヌクレオチド代謝がプリンヌクレオチドからプリンヌクレオシドへの代謝である、[3]に記載のプリンヌクレオチド代謝阻害組成物。
[5] イノシトールリン酸またはその塩を含有する、フォスファターゼ阻害組成物。
[6] 該フォスファターゼがアルカリフォスファターゼおよび/または5’ヌクレオチダーゼである、[5]に記載のフォスファターゼ阻害組成物。
[7] 該イノシトールリン酸またはその塩をイノシトールリン酸として0.1重量%~90重量%含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の組成物。
[8] 該イノシトールリン酸またはその塩の1回あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、[1]~[7]のいずれか1つに記載の組成物。
[9] 該イノシトールリン酸またはその塩の1日あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組成物。
[10] イノシトールリン酸またはその塩がフィチン酸またはその塩である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の組成物。
[11] 乳酸カルシウムをイノシトールリン酸:乳酸カルシウム=1:0.2~1:0.5の重量比でさらに含み、かつ、該組成物が液剤である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
【0020】
[12] イノシトールリン酸またはその塩を含み、該イノシトールリン酸またはその塩の1回あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、尿酸値上昇抑制組成物。
[13] 腸管からのプリン体吸収を抑制することを特徴とする、[12]に記載の尿酸値上昇抑制組成物。
[14] 該イノシトールリン酸またはその塩をイノシトールリン酸として0.1重量%~90重量%含む、[12]または[13]に記載の組成物。
[15] 該イノシトールリン酸またはその塩の1日あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、[12]~[14]のいずれか1つに記載の組成物。
[16] イノシトールリン酸またはその塩がフィチン酸またはその塩である、[12]~[15]のいずれか1つに記載の組成物。
[17] 乳酸カルシウムをイノシトールリン酸:乳酸カルシウム=1:0.2~1:0.5の重量比でさらに含み、かつ、該組成物が液剤である、[12]~[16]のいずれか1つに記載の組成物。
【0021】
[18] イノシトールリン酸またはその塩を含有する、血圧改善組成物。
[19] イノシトールリン酸またはその塩を含有する、血糖値改善組成物。
[20] イノシトールリン酸またはその塩を含有する、肝機能改善組成物。
[21] イノシトールリン酸またはその塩を含有する、血清鉄調整組成物。
[22] イノシトールリン酸またはその塩を含有する、カルシウム吸収促進組成物。
[23] 該イノシトールリン酸またはその塩をイノシトールリン酸として0.1重量~90重量%含む、[18]~[22]のいずれか1つに記載の組成物。
[24] 該イノシトールリン酸またはその塩の1回あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、[18]~[23]のいずれか1つに記載の組成物。
[25] 該イノシトールリン酸またはその塩の1日あたりの投与量がイノシトールリン酸として10mg~15gである、[18]~[24]のいずれか1つに記載の組成物。
[26] イノシトールリン酸またはその塩がフィチン酸またはその塩である、[18]~[25]のいずれか1つに記載の組成物。
[27] 乳酸カルシウムをイノシトールリン酸:乳酸カルシウム=1:0.2~1:0.5の重量比でさらに含み、かつ、該組成物が液剤である、[18]~[26]のいずれか1つに記載の組成物。
【0022】
[28] イノシトールリン酸またはその塩および乳酸カルシウムを、イノシトールリン酸:乳酸カルシウム=1:0.2~1:0.5の重量比で含有する液体組成物。
【0023】
さらに本願発明は、プリン体吸収抑制組成物、プリンヌクレオチド代謝阻害組成物、フォスファターゼ阻害組成物、尿酸値上昇抑制組成物、血圧改善組成物、血糖値改善組成物、肝機能改善組成物、血清鉄調整組成物、またはカルシウム吸収促進組成物の製造における、イノシトールリン酸またはその塩の使用を提供する。
【0024】
さらに本願発明は、イノシトールリン酸またはその塩を投与することを含む、プリン体の吸収を抑制する方法、プリンヌクレオチド代謝を阻害する方法、フォスファターゼを阻害する方法、尿酸値上昇を抑制する方法、血圧を改善する方法、血糖値を改善する方法、肝機能を改善する方法、血清鉄を調整する方法、またはカルシウム吸収を促進する方法を提供する。
【0025】
加えて本願発明は、プリン体吸収抑制、プリンヌクレオチド代謝阻害、フォスファターゼ阻害、尿酸値上昇抑制、血圧改善、血糖値改善、肝機能改善、血清鉄調整、またはカルシウム吸収促進における使用のためのイノシトールリン酸またはその塩を提供する。
【発明の効果】
【0026】
イノシトールリン酸は食経験が豊富で安全性が高い物質であり容易に入手できるものであることから、本発明によれば、長期的かつ継続的に摂取可能なプリン体吸収抑制組成物、プリンヌクレオチド代謝阻害組成物、フォスファターゼ阻害組成物、尿酸値上昇抑制組成物、血圧改善組成物、血糖値改善組成物、肝機能改善組成物、血清鉄調整組成物、またはカルシウム吸収促進組成物が提供される。さらに本発明はえぐみ・苦みが改善されたイノシトールリン酸含有組成物を提供し、その長期的かつ継続的な摂取をさらに可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ラット小腸粉末を用いた場合の各濃度のフィチン酸によるイノシン一リン酸からイノシンへの代謝阻害率を示す。
【
図2】アルカリフォスファターゼを使用した場合のフィチン酸によるイノシン一リン酸からイノシンへの代謝阻害率を示す。
【
図3-1】高プリン体食摂取後のヒトにおける血清尿酸値IAUC(0~360分)を示す(FAS)。
【
図3-2】高プリン体食摂取後のヒトにおける血清尿酸値IAUC(0~360分)を示す(PPS)。
【
図3-3】高プリン体食摂取後のヒトにおける累積尿中尿酸排泄量(0~360分)を示す(FAS)。
【
図3-4】高プリン体食摂取後のヒトにおける累積尿中尿酸排泄量(0~360分)を示す(PPS)。
【
図4-1】多量摂取試験における収縮期血圧の平均値の推移を示す。
【
図4-2】多量摂取試験における拡張期血圧の平均値の推移を示す。
【
図5-1】少量摂取試験における血糖値の平均値の推移を示す。
【
図5-2】少量摂取試験におけるHbA1c値の平均値の推移を示す。
【
図6】多量摂取試験におけるAST値の平均値の推移を示す。
【
図7-1】多量摂取試験における血清鉄値の平均値の推移を示す。
【
図7-2】少量摂取試験における血清鉄値の平均値の推移を示す。
【
図8】多量摂取試験における1,25-(OH)
2-D値の平均値の推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、プリン体吸収抑制組成物、プリンヌクレオチド代謝阻害組成物、フォスファターゼ阻害組成物、尿酸値上昇抑制組成物、血圧改善組成物、血糖値改善組成物、肝機能改善組成物、血清鉄調整組成物、またはカルシウム吸収促進組成物に関し、これらの組成物はイノシトールリン酸またはその塩を含有することを特徴とするものである。
【0029】
本発明においてイノシトールリン酸は、イノシトールの6個のヒドロキシ基のうち、1~6個がリン酸化されたイノシトールリン酸エステルを意味する。
イノシトールには9種類の構造異性体が存在し、本発明におけるイノシトールリン酸はいずれの構造異性体のイノシトールを有するものであっても良いが、好ましい例はmyo-イノシトールリン酸である。
イノシトールリン酸の例としては、イノシトール一リン酸(Inositol monophosphate)、イノシトール1,4-二リン酸(Inositol 1,4-bisphosphate)、イノシトール1,4,5-三リン酸(Inositol 1,4,5-trisphosphate)、イノシトール1,4,5,6-四リン酸(Inositol 1,4,5,6-tetrakisphosphate)、イノシトール1,3,4,5,6-五リン酸(Inositol 1,3,4,5,6-pentakisphosphate)、イノシトール1,2,3,4,5,6-六リン酸(Inositol 1,2,3,4,5,6-hexakisphosphate)等が挙げられる。
本発明において、好ましいイノシトールリン酸の例として、myo-イノシトールの六リン酸エステルであるフィチン酸が挙げられる。
【0030】
イノシトールリン酸は、塩の形態で用いることもできる。塩としては、生理学的に許容される塩、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩およびバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルギニンやリジン等の塩基性アミノ酸塩;アンモニウム塩やトリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩およびトリイソプロパノールアミンなどの各種のアルカノールアミン塩を挙げることができる。
本発明の好ましいイノシトールリン酸の塩の例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびその混合が挙げられる。
【0031】
本発明において、好ましいイノシトールリン酸またはその塩の例として、フィチン酸、フィチン酸カルシウム、フィチン酸ナトリウム、およびフィチン酸カルシウム・マグネシウム混合塩(フィチン)が挙げられる。
【0032】
本発明の組成物において、イノシトールリン酸またはその塩は、イノシトールリン酸とイノシトールリン酸の塩が組み合わされて含まれていてもよい。
本発明の組成物において、イノシトールリン酸は単一のイノシトールリン酸であっても複数の種類のイノシトールリン酸が組み合わされていてもよい。
本発明の組成物において、イノシトールリン酸の塩は単一のイノシトールリン酸の塩であっても複数の種類のイノシトールリン酸の塩が組み合わされていてもよい。
【0033】
本発明におけるイノシトールリン酸またはその塩としては、有機化学的にまたは微生物を用いて合成した高純度品のほか、イノシトールリン酸を含有する植物、微生物、各種飲食品の抽出物や部分精製物、加工品を用いても良い。また、それらの抽出物や部分精製物、加工品から単離したイノシトールリン酸またはその塩を用いることもできる。
【0034】
本発明の組成物中(飲食品、医薬組成物等)に含まれるイノシトールリン酸またはその塩の量、1回の投与あたりに投与されるイノシトールリン酸またはその塩の量、および1日あたりに投与されるイノシトールリン酸またはその塩の量は、目的の効果が発揮される範囲であれば特に制限されず、組成物の形態や投与回数、対象の健康状態等に応じて適宜選択されうる。本発明の組成物の投与期間は目的の効果が発揮される範囲であれば特に制限されず、単回であっても、継続的に投与されても良い。プリン体吸収抑制、プリンヌクレオチド代謝阻害、フォスファターゼ阻害、尿酸値上昇抑制、血圧改善、血糖値改善、肝機能改善、血清鉄調整、またはカルシウム吸収促進の効果を継続的に得るために、本発明の組成物は長期間にわたり継続して摂取されることが望ましく、例えば2日間、3日間、1週間、10日間、1箇月、または3箇月以上されうる。
【0035】
本発明の組成物に配合されるイノシトールリン酸またはその塩の量としては、イノシトールリン酸またはその塩の種類、および該組成物の形態等によっても異なるが、例えば、該組成物の総重量に対して、通常イノシトールリン酸として0.1重量%~90重量%の範囲から適宜選択することができる。
例えば0.5重量%~90重量%、0.5重量%~85重量%、0.5重量%~80重量%、1重量%~70重量%、および1重量%~50重量%が例示される。
本願の組成物に含まれるイノシトールリン酸またはその塩の含量の上限値の更なる例として、該組成物の総重量に対してイノシトールリン酸として、90重量%、85重量%、80重量%、70重量%、50重量%、30重量%、10重量%、および5重量%が挙げられ;本願の組成物に含まれるイノシトールリン酸またはその塩の含量の下限値の更なる例として、該組成物の総重量に対してイノシトールリン酸として、0.1重量%、0.5重量%、0.7重量%、および1重量%が挙げられ;本発明の組成物に配合されるイノシトールリン酸またはその塩の量の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。
【0036】
本発明の組成物が飲料等の液剤として製剤化される場合、本発明の組成物に配合されるイノシトールリン酸またはその塩の量としては、該組成物の総重量に対してイノシトールリン酸として、例えば、0.1~10重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.5重量%~10重量%、さらに好ましくは0.5重量%~5重量%、より好ましくは1重量%~5重量%、最も好ましくは1重量%~3重量%が例示される。
本発明の組成物が飲料等の液剤として製剤化される場合の本願の組成物に含まれるイノシトールリン酸またはその塩の含量の上限値の更なる例として、該組成物の総重量に対してイノシトールリン酸として、好ましくは10重量%、7重量%、5重量%、および3重量%が挙げられ;本願の組成物に含まれるイノシトールリン酸またはその塩の含量の下限値の更なる例として、該組成物の総重量に対してイノシトールリン酸として、好ましくは0.1重量%、0.5重量%、0.7重量%、および1重量%が挙げられ;本発明の組成物に配合されるイノシトールリン酸またはその塩の量の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。
【0037】
本発明の組成物の1回の投与の量は比較的限られた時間(例えば、食事中に、または食前または食後の30分以内)に飲める範囲の量であることが望ましい。本発明の組成物が飲料等の液剤として製剤化される場合、例えば、1回の投与の量の例として30~500mLが挙げられる。本発明にかかる飲料等の液剤は1回の投与の量がビン、ペットボトル等の容器に充填されていてもよい。あるいは、複数回の投与の量が容器に充填されていて、摂取者が投与時に1回の投与の量を摂取するものであってもよい。
【0038】
本発明の組成物が錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、チュアブル錠等の固形製剤として製剤化される場合、本発明の組成物に配合されるイノシトールリン酸またはその塩の量としては、該組成物の総重量に対してイノシトールリン酸として、例えば、1~90重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましい例として1重量%~90重量%、5重量%~80重量%、10重量%~70重量%、50重量%~70重量%が例示される。
本発明の組成物が錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、チュアブル錠等の固形製剤として製剤化される場合の本願の組成物に含まれるイノシトールリン酸またはその塩の含量の上限値の更なる例として、該組成物の総重量に対してイノシトールリン酸として、好ましくは、90重量%、85重量%、80重量%、70重量%、および50重量%が挙げられ;本願の組成物に含まれるイノシトールリン酸またはその塩の含量の下限値の更なる例として、該組成物の総重量に対してイノシトールリン酸として、好ましくは1重量%、5重量%、10重量%、および20重量%が挙げられ;本発明の組成物に配合されるイノシトールリン酸またはその塩の量の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。
【0039】
本発明の組成物は、イノシトールリン酸またはその塩の種類によっても異なるが、イノシトールリン酸またはその塩は1回の投与あたりイノシトールリン酸として、例えば10mg~15g、好ましくは100mg~8g、さらに好ましくは300mg~5g投与され得る。イノシトールリン酸またはその塩の1回あたりの摂取量の下限値の例として、イノシトールリン酸として10mg、100mg、300mg、500mg、および600mgが挙げられ、上限値の例として、イノシトールリン酸として15g、10g、8g、5g、3g、2g、1g、600mgが挙げられ、イノシトールリン酸またはその塩の1回あたりの摂取量の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。
【0040】
本発明の組成物において、イノシトールリン酸またはその塩の種類によっても異なるが、イノシトールリン酸またはその塩は1日あたりイノシトールリン酸として、例えば10mg~15g、好ましくは100mg~8g、さらに好ましくは300mg~5g投与され得る。イノシトールリン酸またはその塩の1日あたりの摂取量の下限値の例として、イノシトールリン酸として10mg、100mg、300mg、500mg、および600mgが挙げられ、上限値の例として、イノシトールリン酸として15g、10g、8g、5g、3g、2g、1g、600mgが挙げられ、イノシトールリン酸またはその塩の1日あたりの摂取量の好ましい範囲は該上限値と該下限値の組合せにより示されうる。1日あたりに投与されうるイノシトールリン酸またはその塩が1回の投与で投与されても、複数回(例えば2回、3回、4回、および5回)に分けて投与されてもよい。
【0041】
本発明の組成物に含まれるイノシトールリン酸またはその塩の含量は当業者に知られる一般的な分析方法で分析することができる。これらに限定されるものではないが、例えばイオンクロマト法およびバナドモリブデン酸吸光度法が挙げられる。
【0042】
本発明の組成物の摂取のタイミングは特に限定されないが、食事と共に、または食前または食後の30分以内に摂取されることが好ましい。
【0043】
本発明の組成物は経口摂取製剤として製剤化されることが好ましく、その製剤型は特に限定されないが、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、チュアブル錠、菓子類(クッキー、ビスケット、チョコレート菓子、チップス、ケーキ、ガム、キャンディー、グミ、饅頭、羊羹、プリン、ゼリー、ヨーグルト、アイスクリーム、シャーベットなど)、パン、麺類、ご飯類、シリアル食品、飲料(液剤、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、粉末飲料、果実飲料、乳飲料、ゼリー飲料など)、スープ(粉末、フリーズドライ)、味噌汁(粉末、フリーズドライ)、通常の食品形態であり得る。
【0044】
本発明の組成物はイノシトールリン酸またはその塩の他に、薬学的に許容される基剤や担体、食品に使用可能な添加物等を添加して、経口摂取製剤に製剤化されうる。本発明の組成物に使用されるイノシトールリン酸またはその塩以外の材料はイノシトールリン酸の安定性を害さないものが望ましく、更に本発明の組成物の目的とする効果を害するものでないことが望ましい。
【0045】
本発明の組成物は飲食品または医薬組成物であり得、機能性表示食品、特定保健用食品、健康食品、栄養補助食品(サプリメント)、医療用食品などの飲食品として利用されうる。
【0046】
本発明において「プリン体吸収」とは、プリン体(プリン塩基、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチド、またはプリンヌクレオチド残基を含む核酸(例えばオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド))が、プリン体の形態によっては体内での代謝を経由して、体内に吸収されることを意味する。
【0047】
本発明において「プリン体吸収抑制」とは、体内に吸収される(例えば腸管から吸収される)プリン体(例えば食事性プリン体)が相対的に減少することを意味する。該「プリン体吸収抑制」には、例えば、アルカリフォスファターゼおよび/または5’ヌクレオチダーゼが阻害され、プリンヌクレオチドからプリンヌクレオシドへの変換が阻止されること(これにより結果として体内に吸収されるプリン体は減少する)を含む。
【0048】
本発明において「食事性プリン体」とは、食物や飲料を摂取した場合に、これらに由来するプリン体を意味する。
【0049】
本発明において「腸管から吸収可能なプリン体」には、プリン塩基およびプリンヌクレオシドが含まれる。
【0050】
本発明において「プリンヌクレオチド代謝阻害」とは、プリンヌクレオチドからプリンヌクレオシドへの変換を阻害することを意味する。
【0051】
本発明において「フォスファターゼ阻害」とは、プリン体の代謝に関与するフォスファターゼ活性を阻害することを意味し、例えば、アルカリフォスファターゼおよび/または5’ヌクレオチダーゼを阻害すことを意味する。
【0052】
本発明において「尿酸値上昇抑制」とは、尿酸値が過度に上昇することが抑制されることを意味し、例えば、血清尿酸値が高い者(正常であるものの高めの者も含む)であれば血清尿酸値を低下する、または上昇を緩和する、血清尿酸値が正常な者または低めな者であればその血清尿酸値を維持する、血清尿酸値が上昇するのを防ぐ、または上昇を緩和することが含まれる。
【0053】
本発明において「血圧改善」とは、血圧が過度に上昇することが抑制されることを意味し、例えば、血圧が高い者(正常であるものの高めの者も含む)であれば血圧を低下する、または上昇を緩和する、血圧が正常な者および低めな者であればその血圧を維持する、血圧が上昇するのを防ぐ、または上昇を緩和することが含まれる。
【0054】
本発明において「血糖値改善」とは、血糖値が過度に上昇することが抑制されることを意味し、例えば、血糖値が高い者(正常であるものの高めの者も含む)であれば血糖値を低下する、または上昇を緩和する、血糖値が正常な者および低めな者であればその血糖値を維持する、血糖値が上昇するのを防ぐ、または上昇を緩和することが含まれる。
【0055】
本発明において「肝機能改善」は肝臓の機能が改善されることを意味し、例えばその機能は指標(例えばAST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)によって示されうる。例えば「肝機能改善」には血中AST値が高い者(正常であるものの高めの者も含む)においてはその値を低下する、または上昇を緩和する、血中AST値が正常な者および低めな者であればその血中AST値を維持する、血中AST値が上昇するのを防ぐ、または上昇を緩和することが含まれる。
【0056】
本発明において「血清鉄調整」とは、血清鉄値が過度に上昇または低下することが抑制されることを意味し、例えば、血清鉄値が高い者(正常であるものの高めの者も含む)であれば血清鉄値を低下する、または上昇を緩和する、血清鉄値が低い者(正常であるものの低めの者も含む)であれば血清鉄値を上昇する、または低下を緩和する、血清鉄値が正常な者であればその血清鉄値を維持する、血清鉄値が上昇または低下するのを防ぐ、または上昇または低下を緩和することが含まれる。
【0057】
本発明において「カルシウム吸収促進」とは、腸管からのカルシウムの吸収が促進されることを意味する。
本発明において「カルシウム吸収促進」には、腸管からのカルシウムの吸収を促進する活性型ビタミンD(1,25-(OH)2-D)の血中濃度が上昇することを含む。
【0058】
本発明のプリン体吸収抑制組成物、プリンヌクレオチド代謝阻害組成物、フォスファターゼ阻害組成物、尿酸値上昇抑制組成物、血圧改善組成物、血糖値改善組成物、肝機能改善組成物、血清鉄調整組成物、またはカルシウム吸収促進組成物低減組成物は、これらの所定の用途(プリンヌクレオチド代謝阻害、フォスファターゼ阻害、尿酸値上昇抑制、血圧改善、血糖値改善、肝機能改善、血清鉄調整、またはカルシウム吸収促進)に使用される製剤として製剤化され得る。当該製剤には当該所定の用途が製剤の本体、包装、説明書、パンフレット、容器、宣伝物、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等や電磁気的方法等(インターネット等)に表示されていても良く、例えば、当該所定の用途または当該所定の用途を想起/類推させる表現が記載された:医薬品(医薬部外品を含む);特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の所定機関より効能の表示が認められた機能性食品など;および通常の飲食品等も本願発明の範囲に含まれる。
【0059】
例えば、本発明のプリン体吸収抑制組成物または尿酸値上昇抑制組成物に関しては、「食事中のプリン体の気になる方に」、「プリン体と戦う」、「プリン体の多い食事を取りがちな方へ」、「食後の尿酸値が気になる方へ」等のプリン体吸収抑制または尿酸値上昇抑制を想起/類推させる表現を記載した飲食品等も本願発明の範囲に含まれる。
【0060】
本発明の血圧改善組成物に関しては、「血圧高めの方に適した」、「健康な血圧をサポート」、「高めの血圧を下げる作用がある」、「血圧の気になるかたへ」、「正常な血圧を維持します」、「血圧を改善」等の血圧改善を想起/類推させる表現を記載した飲食品等も本願発明の範囲に含まれる。
【0061】
本発明の血糖値改善組成物に関しては、「血糖値の気になる方に適した」、「血糖値の上昇をおだやかにする」、「高めの血糖値を正常に維持する」、「血糖値の高めの方へ」等の血糖値改善を想起/類推させる表現を記載した飲食品等も本願発明の範囲に含まれる。
【0062】
本発明の肝機能改善組成物に関しては、「健康な肝臓を維持」「肝機能の数値が高めの方に」等の肝機能改善を想起/類推させる表現を記載した飲食品等も本願発明の範囲に含まれる。
【0063】
本発明の血清鉄調整組成物に関しては、「鉄分の不足が気になるかたに」、「貧血対策に」等の血清鉄調整を想起/類推させる表現を記載した飲食品等も本願発明の範囲に含まれる。
【0064】
本発明のカルシウム吸収促進組成物に関しては、「骨の健康に役立つ」、「骨の成分維持」、「骨代謝の働きを助ける」、「丈夫な骨を維持する」、「骨そしょう症にならないために」等のカルシウム吸収促進を想起/類推させる表現を記載した飲食品等も本願発明の範囲に含まれる。
【0065】
イノシトールリン酸またはその塩を含有する組成物(例えば液剤)において、乳酸カルシウムを添加することによって、イノシトールリン酸またはその塩(特にフィチン酸またはその塩)の苦みやえぐみが改善される。乳酸カルシウムは、イノシトールリン酸(イノシトールリン酸の塩はイノシトールリン酸として換算する):乳酸カルシウム=1:0.2~1:0.5(さらに好ましくは1:0.26~1:0.4)の重量比で添加されることが好ましい。
【0066】
本発明の組成物の投与対象は特に限定されないが、好ましくはヒトである。本発明の組成物は尿酸値、血圧、血糖値、肝機能、貧血、または骨の健康が気になる者に加え、日々の健康増進のために健康な者によっても摂取されうる。
【実施例0067】
以下、処方例および試験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。処方例および試験例においてフィチン酸は「既存添加物自主規格」の液体品または粉末品に適合する市販品を購入して使用した。
【0068】
[処方例1]飲料(pH3.0)
フィチン酸 600mg
デキストリン 1000mg
エリスリトール 800mg
酸味料 適量
乳酸Ca 適量
香料 適量
甘味料 適量
水 適量
合計 50mL
常法にしたがって、上記処方の飲料を調製する。
【0069】
<試験例1:フィチン酸のプリンヌクレオチド代謝阻害活性>
ラット小腸粉末には主な消化酵素としてアルカリフォスファターゼおよび5’ヌクレオチダーゼが含まれる。フィチン酸によるプリンヌクレオチドからプリンヌクレオシドへの代謝阻害を調べた。
【0070】
(試験方法)
ラット小腸粉末(日本クレア(株))をアッセイバッファー(Trizma(登録商標) maleate(Sigma-Aldrich)の2.37%水溶液)で100mg/mLに調製したものを酵素液とした。
イノシン一リン酸(IMP)(Sigma-Aldrich)をアッセイバッファーで9mMに調製したものを基質液とした。
フィチン酸とアッセイバッファーを混合し、水酸化ナトリウムでpHを6.2~6.4に調整して、各濃度の検体液を得た。アッセイバッファーを水酸化ナトリウムでpHを6.2~6.4に調整した液をコントロール液とした。
96穴プレート(Thermo Fisher Scientific)を用いて以下の方法で酵素反応を行った。
検体液またはコントロール液(100μL/well)、基質液(100μL/well)、および酵素液(100μL/well)を添加し、37℃、30分間の酵素反応を行った。反応液を20μL分取し、マルチスクリーンHTS HV(Merck Millipore)に移し、停止液(0.33M HClO4、180μL/well)を添加して、反応を停止させた。遠心分離(1080×g、10分間、室温)し、ろ液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して、イノシン一リン酸およびイノシンの量を測定した。
HPLCの分析条件を下記に示す。
検出器:Nanospace 3002((株)資生堂)
カラム:COSMOSIL PAQ(4.6mm I.D.×150mm、ナカライテスク(株))
移動相:50mM KH2PO4(pH7.5)
流速:1.0mL/min、検出波長:254nm、カラム温度:35℃
試料注入量:10μL
【0071】
(結果)
図1に示す。また、イノシトール一リン酸(Inositol monophosphate)、イノシトール1,4-二リン酸(Inositol 1,4-bisphosphate)、イノシトール1,4,5-三リン酸(Inositol 1,4,5-trisphosphate)、イノシトール1,4,5,6-四リン酸(Inositol 1,4,5,6-tetrakisphosphate)、イノシトール1,3,4,5,6-五リン酸(Inositol 1,3,4,5,6-pentakisphosphate)、イノシトール1,2,3,4,5,6-六リン酸(Inositol 1,2,3,4,5,6-hexakisphosphate)においても同様の活性が示唆された。
【0072】
<試験例2:フィチン酸のアルカリフォスファターゼ阻害作用>
(試験方法)
Phosphatase, Alkaline, Calf Intestine(Merck)をアッセイバッファー(Trizma(登録商標) maleate(Sigma-Aldrich)の2.37%水溶液)で5.0U/mLに調製したものを酵素液とした。
イノシン一リン酸(IMP)(Sigma-Aldrich)をアッセイバッファーで9mMに調製したものを基質液とした。
フィチン酸とアッセイバッファーを混合し、水酸化ナトリウムでpHを6.2~6.4に調整して、検体液(10mg/mL)を得た。アッセイバッファーを水酸化ナトリウムでpHを6.2~6.4に調整した液をコントロール液とした。
96穴プレート(Thermo Fisher Scientific)を用いて以下の方法で酵素反応を行った。
検体液またはコントロール液(100μL/well)、基質液(100μL/well)、および酵素液(100μL/well)を添加し、37℃、30分間の酵素反応を行った。反応液を20μL分取し、マルチスクリーンHTS HV(Merck Millipore)に移し、停止液(0.33M HClO4、180μl/well)を添加し、反応を停止させた。遠心分離し(1080×g、10分間、室温)、ろ液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して、イノシン一リン酸およびイノシンの量を測定した。
HPLCの分析条件を下記に示す。
検出器:SPD-M30A((株)島津製作所)
カラム:COSMOSIL PAQ(4.6mm I.D.×150mm、ナカライテスク(株))
移動相:50mM KH2PO4(pH7.5)
流速:1.0mL/min、検出波長:254nm、カラム温度:35℃
試料注入量:10μL
【0073】
【0074】
<試験例3:ヒトにおけるフィチン酸のプリン体吸収抑制作用>
(試験方法)
健常成人男女のうち、事前検診において空腹時血清尿酸値が7mg/dL未満の20歳以上65歳未満の男性および閉経後の女性(男性24名、女性24名、合計48名)を対象とした。試験デザインは無作為化単盲検クロスオーバー比較試験とした。
被験者は、一夜絶食後、9:00に試験飲料(フィチン酸飲料(フィチン酸600mgを含む)または対照飲料(ミネラルウォーター))50mL、プリン体負荷食(米飯200g、マグロ赤身約200g(プリンヌクレオチド相当量として800mg)、濃口醤油5g)、およびプリン体飲料(5’-イノシン酸ナトリウムと5’-グアニル酸ナトリウムを等量含む市販調味料0.5gをミネラルウォーター150mLに溶解させたもの)を同時(原則として20分以内)に摂取した。10:00、11:00、13:00にミネラルウォーター100mLを摂取し、試験飲料摂取前ならびに摂取30、60、120、240、および360分後に採血および採尿を行った。血清尿酸値(mg/dL)および尿中尿酸値(mg/dL)について、分析委託会社において測定した。
主要評価項目を血清尿酸値IAUC(0~360分)、副次評価項目を累積尿中尿酸排泄量(0~360分)とした。試験飲料摂取前の空腹時血清尿酸値を共変量としたクロスオーバーデザインを考慮した分散分析(要因として、試験飲料、時期、群および被験者)を行い、その誤差分散を用いて、対照飲料とフィチン酸飲料間の差についてt検定を行った。両側検定を行い、有意水準は5%とした。解析は、試験食品を一度でも摂取した被験者を対象とするFAS(full analysis set)とプロトコールに適合しない被験者を除外したPPS(per protocol set)の双方を行ったが、有効性に関する主要評価解析をPPS解析とした。
【0075】
(結果)
結果を
図3に示す。
主要評価項目である血清尿酸値IAUCは,FAS解析およびPPS解析において対照飲料と比較してフィチン酸飲料で有意に低値を示しており、食後の血清尿酸値の上昇が有意に抑制された。また、副次的評価項目である累積尿中尿酸排泄量は、FAS解析において対照飲料と比較してフィチン酸飲料で有意に低値を示しており、尿中尿酸排泄量が有意に低下した。
フィチン酸の作用機序の可能性として、
(1)食事からのプリン体吸収;
(2)プリン体からの尿酸生成;および
(3)尿酸の尿中排泄
に影響することが考えられる。
経口摂取されたフィチン酸は、ほとんどが腸管から吸収されずに排泄されることが知られており(非特許文献5および6および)、非特許文献5によれば、フィチン酸ナトリウム1,400mg(フィチン酸として1,000mg)摂取に伴う血中フィチン酸濃度は、最高値でも0.12mg/L(0.181μM)である。本試験におけるフィチン酸600mgの摂取では血中フィチン酸濃度はさらに低いと考えられ、本試験における極めて低濃度の血中フィチン酸では、プリン体からの尿酸生成(上記(2))や生成された尿酸の尿中排泄(上記(3))などの代謝系に影響し得ないと考えられる。
上述したようにフィチン酸がキサンチンオキシダーゼ活性を阻害してキサンチンから尿酸への代謝を阻害する場合のIC
50は約30mM(19.8g/L)と高濃度であるため(非特許文献4)、本試験における極めて低濃度の血中フィチン酸ではキサンチンオキシダーゼ活性を阻害し得ない。
加えて、試験例1および2の結果より、フィチン酸が消化管内でプリンヌクレオチドから腸管からの吸収可能なプリンヌクレオシドへの変換を阻害し、食事由来のプリン体の吸収を抑制することが示唆されている。
したがって、本試験結果における血清尿酸値の上昇抑制および尿中尿酸排泄量の低下は、フィチン酸が食事由来のプリン体の吸収を抑制したためと考えられる。
【0076】
<試験例4:ヒトにおけるフィチン酸の血圧、血糖値、肝機能、カルシウム代謝、および血清鉄に対する影響>
(多量摂取試験)
被験者(健常成人 男女48名(20歳以上65歳未満、男性16名、閉経前女性16名、閉経後女性16名))は試験飲料(1本(50mL)あたりフィチン酸600mgを含むフィチン酸飲料)を1日あたりに5本(もしくは個人が摂取可能な量3~5本)摂取した。摂取期間は5週間であり、最初の1週間は各被験者の試験飲料の忍容量を定める期間とし、この期間、被験者は試験飲料を毎日1本ずつ増やして摂取した(最大5本/日)。味や摂取量等を理由に5本/日を摂取できない場合は各自で摂取量を調整し、7日目の摂取量を各被験者の忍容量とし、各被験者はこの忍容量(3~5本/日)を残る試験期間(4週間)摂取した。
摂取開始前ならびに摂取開始3週間後、5週間後、および7週間後(つまり摂取終了2週間後)の空腹時に、血圧の測定および採血を行った。採取した血液は分析委託会社において各試験項目について測定された。
血圧、血糖値、AST、および血清鉄における0週との比較の検定は対応のあるt検定を行い、1,25-(OH)2-Dにおける0週との比較の検定は一元配置分散分析を行った後、Dunnetの多重比較法により検定した。両側検定を行い、有意水準は5%とした。同意を撤回した被験者2名、試験飲料を3本以上摂取できなかった被験者2名を除外した44名を解析対象とした。
【0077】
(少量摂取試験)
被験者(健常成人 男女39名(20歳以上65歳未満、男性13名、閉経前女性13名、閉経後女性13名)は、試験飲料(フィチン酸600mgを含むフィチン酸飲料(50mL))を1日あたり1本、12週間摂取した。
摂取開始前ならびに摂取開始4週間後、8週間後、12週間後、および14週間後(つまり摂取終了2週間後)の空腹時に採血し、採取した血液は分析委託会社において各試験項目について測定された。
各評価項目における0週との比較の検定は対応のあるt検定を行った。両側検定を行い、有意水準は5%とした。
【0078】
(結果)
1.血圧
多量摂取試験において、摂取開始前(0週)の収縮期血圧および拡張期血圧のそれぞれに応じて被験者を三層に均等に分割し、各群の血圧の平均値の推移を調べた。結果を
図4に示す。
各群に含まれる被験者の摂取開始前(0週)における収縮期血圧および拡張期血圧の範囲を表1に示す。
[表1]
図4から明かなとおり:
収縮期血圧高値群および拡張期血圧高値群では血圧の有意な低下が認められ;
収縮期血圧中値群血圧に有意な低下はあったものの大きな変化は認められず、また拡張期血圧中値群では血圧に変化が認められず;
収縮期血圧低値群および拡張期血圧低値群では血圧に変化は認められなかった。
高血圧治療ガイドライン2014では、正常血圧高値の範囲を、収縮期血圧130~139および/または拡張期血圧85~89と定義していることからも、正常値の範囲ではあるが高値群、いわゆる「血圧の高め」な対象に対して、フィチン酸を摂取することにより、血圧が低下して改善することが示唆された。
【0079】
2.糖代謝(血糖値・HbA1c)
少量摂取試験において、摂取開始前(0週)の血糖値およびHbA1c値に応じて被験者をそれぞれ三層に均等に分割し、各群の血糖値およびHbA1cの平均値の推移をそれぞれ調べた。結果を
図5に示す。
各群に含まれる被験者の摂取開始前(0週)における血糖値およびHbA1cの範囲を表2に示す。
[表2]
【0080】
図5から明かなとおり:
血糖値高値群では血糖値の有意な低下が認められ;
HbA1c高値群ではHbA1cの有意な低下が認められた。
糖尿病診療ガイドラインでは、正常血糖値高値の範囲を、血糖値100~109が糖尿病と定義していることからも、正常値範囲ではあるが血糖値が高値群、いわゆる「血糖が高め」な対象に対して、フィチン酸飲料の摂取により、それぞれの値は低下し、糖代謝は改善することが示唆された。
【0081】
3.肝機能(AST)
多量摂取試験において、摂取開始前(0週)のAST値に応じて被験者を三層に均等に分割し、各群のAST値の平均値の推移を調べた。結果を
図6に示す。
各群に含まれる被験者の摂取開始前(0週)におけるAST値の範囲を表3に示す。
[表3]
【0082】
図6から明かなとおり、
高値群において摂取前と比較して摂取後(3週、5週、7週)に有意な低下が認められ;
低値群において摂取前と比較して摂取後(3週)に有意な上昇はあったものの大きな変化は認められなかった。
AST高値者において、フィチン酸を摂取することにより、ASTは低下し、肝機能は改善することが示唆された。
【0083】
4.血清鉄
多量摂取試験および少量摂取試験のそれぞれにおいて、摂取開始前(0週)の血清鉄値に応じて被験者を三層に均等に分割し、各群の血清鉄値の平均値の推移を調べた。結果を
図7に示す。
各群に含まれる被験者の摂取開始前(0週)における血清鉄値の範囲を[表4-1]および[表4-2]に示す。
[表4-1]
[表4-2]
【0084】
図7から明かなとおり、両試験ともに:
高値群では有意な低下が認められ;
中値群では大きな変化は認められず;
低値群では有意な上昇が認められた。
フィチン酸の摂取により、血清鉄高値者では血清鉄は低下し、血清鉄低値者では血清鉄は上昇し、血清鉄値は改善することが示唆された。
【0085】
5.カルシウム吸収
活性型ビタミンD(1,25-(OH)
2-D)はカルシウムの腸管吸収を促進することが知られている。
多量摂取試験において、1,25-(OH)
2-D値の平均値の推移をそれぞれ調べた。結果を
図8に示す。
図8に示されるとおり、
1,25-(OH)
2-D値は、摂取前と比較して摂取開始後(5週)で有意に高値を示した。フィチン酸の摂取により、1,25-(OH)
2-D値は上昇し、カルシウム代謝は改善されることが示唆された。
【0086】
<試験例5:フィチン酸の渋味およびえぐみに対する乳酸カルシウムの影響>
(試験方法)
被験者2人による官能試験を実施した。試験は下表の比較例および実施例のフィチン酸飲料を試飲し、下記の基準に従って評価した。表中の数字はフィチン酸100重量部に対して含まれるデキストリンおよび乳酸カルシウムの各重量部を示す。酸味料および甘味料は比較例および実施例の全てにおいて各々同量含まれている。
評価基準:
比較例1の渋味およびエグミを基準として
改善した :5
やや改善した :4
同程度 :3
やや悪くなった:2
悪くなった :1
検体を試飲する前にうがいを行ない、試飲時に前の検体が影響しないようにした。