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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123050
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】脱バインダ炉
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/10 20060101AFI20220816BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20220816BHJP
   F27B 5/14 20060101ALI20220816BHJP
   F27B 5/16 20060101ALI20220816BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B22F3/10 C
F27D15/00 Z
F27B5/14
F27B5/16
F27D7/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096904
(22)【出願日】2022-06-15
(62)【分割の表示】P 2020128658の分割
【原出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】稲本 浩也
(72)【発明者】
【氏名】岡島 上士
(72)【発明者】
【氏名】岩田 崇
(57)【要約】
【課題】加熱物から発生するバインダの炉本体内から抜けがよく、その炉本体での焼結において焼結品質が充分に得られる脱バインダ炉を提供する。
【解決手段】炉本体12に収容された被加熱物Wから出されるバインダを不活性ガス供給管18を介して炉本体12内に供給された不活性ガスで希釈しながら脱ガス穴20を通して炉本体12の外に導く一方向の通り道が設けられるとともに、炉本体12から脱ガス穴20を通して出されたバインダを含む不活性ガスGが、冷却ジャケットとして機能する外壁14の内壁面に接触しつつ排気管22を通して脱バインダ炉外へ排気される。被加熱物Wから揮発したバインダは炉本体12内に滞留することがなく、被加熱物Wから発生するバインダの炉本体12内から抜けがよい。また、冷却ジャケットとして機能する外壁14の内壁面に捕捉されて、バインダが効率よく回収される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上壁、底壁、および、前記上壁と前記底壁とを連結する4つの側壁を有して加熱空間を形成する炉壁、および前記加熱空間に収容された被加熱物を加熱するヒータを有する炉本体と、前記炉壁の前記上壁、前記底壁、及び前記上壁と前記底壁とを連結する4つの側壁に対して、所定の間隔を隔てて対向する、下外壁部、上外壁部、及び4つの横外壁部から構成されて前記炉本体を収容する外壁と、を有する脱バインダ炉であって、
前記炉本体内にガスを導入するガス供給管と、
前記炉壁を貫通して設けられ、前記ガスおよび前記炉本体内の被加熱物から揮発したバインダを、前記炉壁のうちの前記底壁と前記外壁の前記下外壁部との間の空間へ導く脱ガス穴と、
前記外壁の前記上外壁部を貫通して設けられた排気管と、
前記炉壁のうちの少なくとも一部に前記脱ガス穴から前記排気管までのガス流通経路を介して対向するように設けられた冷却ジャケットと、を含み、
前記冷却ジャケットは、前記4つの側壁に対して同じ間隔で、前記脱ガス穴から前記排気管までのガス流通経路を介して対向するように配設されている
ことを特徴とする脱バインダ炉。
【請求項2】
前記ヒータは、前記上壁、前記底壁、および、前記4つの側壁にそれぞれ設けられている
ことを特徴とする請求項1の脱バインダ炉。
【請求項3】
前記底壁に対向する下外壁部には、前記下外壁部に貯留したタールを排出する開閉弁付のタールドレン管が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1の脱バインダ炉。
【請求項4】
前記下外壁部には、前記タールドレン管に向うほど低くなる傾斜面が設けられている
ことを特徴とする請求項3の脱バインダ炉。
【請求項5】
前記排気管は、前記外壁のうちの前記炉本体の上方に位置する上外壁部を貫通して設けられ、
前記上外壁部には、前記排気管に向うほど高くなる傾斜面が設けられている ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1の脱バインダ炉。
【請求項6】
前記炉本体は、前記被加熱物の脱バインダ処理が終了すると、前記被加熱物を前記炉本体内に位置している状態で前記脱バインダ処理に続いて前記被加熱物の焼結処理を行なうものである
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1の脱バインダ炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末成形体等において金属粉末、無機粉末等の主材料を結合するバインダを加熱処理により除去する脱バインダ炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、プレス成形、射出成形、押出し成形等の粉末成形体の成形に際して、金属粉末、無機粉末等の主材料に、均質化、塑性、成形性、保形性などを高めるための成形助剤として機能する有機質たとえばパラフィン、ワックス、カンファ等のバインダが混入される。そして、その粉末成形体の焼結工程に先立って、大気中、不活性ガス中、真空中等において脱バインダ(脱脂)工程が実施される場合がある。上記脱バインダ工程では、焼結工程においてバインダが焼結品質維持の弊害となることを抑制するために、粉末成形体の成形に際して添加されたバインダを除去する熱処理が行われる。
【0003】
上記バインダの除去をも行なう脱バインダ炉として、特許文献1に記載された粉末冶金用焼結炉が提案されている。この粉末冶金用焼結炉は、炉体の外壁を成す冷却ジャケットの内側に、炉本体を備え、炉本体内に収容された被加熱物を加熱エレメントによってたとえば200℃以上に加熱することで、被加熱物に含まれたバインダたとえばパラフィンを液状にして被加熱物が載置されたテーブルから滴下させ、排出口から回収タンク内に回収するようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭58-9868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された粉末冶金用焼結炉では、被加熱物に含まれたバインダが液化することによって除去されるが、揮発したバインダは炉本体内に滞留するので、その炉本体内での焼結が行なわれると、その揮発したバインダによって焼結品質が充分に得られない場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、加熱物から発生するバインダの炉本体内から抜けがよく、その炉本体での焼結において焼結品質が充分に得られる脱バインダ炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために種々の検討を重ねた結果、加熱炉の外壁により形成された空間内に収容された炉本体内に大気中、不活性ガス等のガスを導入し、炉本体に収容された被加熱物から出されるバインダを前記ガスで希釈しながら炉本体の外に導く通り道を設けるとともに、炉本体から出されたバインダを含むガスを、冷却ジャケットに接触させつつ加熱炉外へ排気させるようにすると、被加熱物から揮発したバインダは、冷却ジャケットに捕捉されて効率よく回収されることを見いだした。本発明はその知見に基づいて為されたものである。
【0008】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、(a)上壁、前記底壁、および、前記上壁と前記底壁とを連結する4つの側壁を有して加熱空間を形成する炉壁および前記加熱空間に収容された被加熱物を加熱するヒータを有する炉本体と、前記炉壁の前記上壁、前記底壁、および、前記上壁と前記底壁とを連結する4つの側壁に対して、所定の間隔を隔てて対向する、下外壁部、上外壁部、及び4つの横外壁部から構成されて前記炉本体を収容する外壁とを有する脱バインダ炉であって、(b)前記炉本体内にガスを導入するガス供給管と、(c)前記炉壁を貫通して設けられ、前記ガスおよび前記炉本体内の被加熱物から揮発したバインダを、前記炉壁のうちの前記底壁と前記外壁の前記下外壁部との間の空間へ導く脱ガス穴と、(d)前記外壁の前記上外壁部を貫通して設けられた排気管と、(e)前記炉壁のうちの少なくとも一部に前記脱ガス穴から前記排気管までのガス流通経路を介して対向するように設けられた冷却ジャケットと、を含み、(f)前記冷却ジャケットは、前記4つの側壁に対して同じ間隔で、前記脱ガス穴から前記排気管までのガス流通経路を介して対向するように配設されていることにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脱バインダ炉によれば、前記炉本体内にガスを導入するガス供給管と、前記炉壁を貫通して設けられ、前記ガスおよび前記炉本体内の被加熱物から揮発したバインダを、前記炉壁のうちの前記底壁と前記外壁の前記下外壁部との間の空間へ導く脱ガス穴と、前記外壁の前記上外壁部を貫通して設けられた排気管と、前記炉壁のうちの少なくとも一部に前記脱ガス穴から前記排気管までのガス流通経路を介して対向するように設けられた冷却ジャケットと、を含み、前記冷却ジャケットは、前記4つの側壁に対して同じ間隔で、前記脱ガス穴から前記排気管までのガス流通経路を介して対向するように配設されている。このため、炉本体に収容された被加熱物から出されるバインダをガス供給管を介して炉本体内に供給されたガスで希釈しながら炉本体の外に導く一方向の通り道が設けられるとともに、炉本体から脱ガス穴を通して出されたバインダを含むガスが、冷却ジャケットに沿って冷却ジャケットに接触しつつ排気管を通して脱バインダ炉外へ排気される。これにより、被加熱物から揮発したバインダが炉本体内に滞留することが抑制され、冷却ジャケットに捕捉されて効率よく回収されるので、被加熱物から発生するバインダの炉本体内から抜けがよく、その炉本体での焼結において焼結品質が充分に得られる。
【0010】
ここで、好適には、前記ヒータは、前記上壁、前記底壁、および、前記4つの側壁にそれぞれ設けられている。これにより、被加熱物は、前記炉壁の底壁、上壁、および前記4つの側壁にそれぞれ設けられたヒータにより均一に加熱されるので、脱バインダが短時間で効率よく行なわれる。
【0011】
また、好適には、前記底壁に対向する下外壁部には、前記下外壁部に貯留したタールを排出する開閉弁付のタールドレン管が設けられている。これにより、開閉弁を開くことで、前記下外壁部上に貯留したタールがタール受け容器に回収される。
【0012】
また、好適には、前記下外壁部には、前記タールドレン管に向うほど低くなる傾斜面が設けられている。これにより、前記下外壁部上に貯留したタールが効率よくタール受け容器に回収される。
【0013】
また、好適には、前記排気管は、前記外壁のうちの前記炉本体の上方に位置する上外壁部を貫通して設けられ、前記上外壁部には、前記排気管に向うほど高くなる傾斜面が設けられている。これにより、前記上外壁部からのタールの滴下が抑制され、炉本体の汚染が軽減される。
【0014】
また、好適には、前記炉本体は、前記被加熱物の脱バインダ処理が終了すると、前記被加熱物を前記炉本体内に位置している状態で前記脱バインダ処理に続いて前記被加熱物の焼結処理を行なうものである。これにより、脱バインダ工程および焼結工程が、炉本体内において連続的に行なわれる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例の脱バインダ炉の水平断面を示す模式図である。
図2図1の脱バインダ炉を示す縦断面を示す模式図である。
図3図1の脱バインダ炉のガス流通経路を模式的に示す斜視図である。
図4】本発明の他の実施例の脱バインダ炉の縦断面を示す模式図であって、図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は発明に関連する要部を説明するものであり、寸法及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0017】
図1は、本発明の一実施例の脱バインダ炉10の水平断面を示す模式図、図2は脱バインダ炉10の縦断面を示す模式図、図3は、脱バインダ炉10内のガス流通経路Fを破線で説明する模式的な斜視図である。
【0018】
一般に、プレス成形、射出成形、押出し成形等の粉末成形体の成形に際して、金属粉末、無機粉末等の主材料に、均質化、塑性、成形性、保形性などを高めるための成形助剤として機能する有機質たとえばパラフィン、ワックス、カンファ等のバインダが混入される。そして、粉末成形体の焼結に際してバインダが焼結品質維持の弊害となることを抑制するために、その粉末成形体の焼結に先立って、大気中、不活性ガス中、真空中等において脱バインダ(脱脂)が実施される。脱バインダ炉10では、そのような粉末成形体である被加熱物Wに添加されたバインダをその焼結に先立って除去する熱処理が行われるようになっている。
【0019】
図1及び図2に示すように、脱バインダ炉10は、被加熱物Wを加熱するための複数のヒータHが設けられた直方体形状の加熱空間E1を有する炉本体12と、炉本体12を気密に覆い、炉本体12に対して所定の間隙Ea、Eb、Ec、Ed、Ee、Efを隔てて炉本体12を気密に収容する直方体形状の外壁14とを備えている。本実施例の脱バインダ炉10はバッチ式であり、炉本体12及び外壁14には、被加熱物Wを出し入れするために、たとえば後述の側壁16c及び横外壁部14cを開閉する図示しない開閉機構が備えられている。
【0020】
炉本体12は、たとえばセラミックファイバー製等の断熱性の高い材料から一定の厚みに構成された炉壁16を備えており、炉壁16は、底壁16a、上壁16b、及び、それら底壁16a及び上壁16bを連結する4つの側壁16c、16d、16e、16fから構成されている。ヒータHは、被加熱物Wを取り囲むように、炉壁16の底壁16a、上壁16b、及び4つの側壁16c、16d、16e、16fにそれぞれ設けられている。
【0021】
外壁14は、ガス流通経路Fを形成するように所定の間隙Ea、Eb、Ec、Ed、Ee、Efを挟んで底壁16a、上壁16b、及び4つの側壁16c、16d、16e、16fに対してそれぞれ対向する、下外壁部14a、上外壁部14b、及び4つの横外壁部14c、14d、14e、14fから構成されている。下外壁部14a及び上外壁部14bは、4つの横外壁部14c、14d、14e、14fにより連結されることで、炉本体12を収容する気密な空間を形成している。
【0022】
それら下外壁部14a、上外壁部14b、及び4つの横外壁部14c、14d、14e、14fは、水、クーラント等の冷媒を冷媒配管15を介して循環させる空間を隔てた二重構造の板材から構成されることで、外壁14に設けられた冷却ジャケットとして機能している。
【0023】
炉本体12の炉壁16において、4つの側壁16c、16d、16e、16fのうちの相対向する一対の側壁16d、16fの上部には、横外壁部14d、14fを貫通した不活性ガス供給管18の先端部が貫通した状態で2本ずつ設けられている。不活性ガス供給管18は本願発明のガス供給管として機能している。不活性ガス供給管18のうちの側壁16dに設けられた不活性ガス供給管18と側壁16fに設けられた不活性ガス供給管18とは、不活性ガスGを相対向して噴射する状態とされて、炉本体12内に窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスGが導入されるようになっている。
【0024】
炉本体12の底壁16aには、複数個たとえば不活性ガス供給管18の本数よりも多い個数たとえば16個の脱ガス穴20が厚み方向に貫通して形成されることで、脱ガス穴20の合計の流通断面積が不活性ガス供給管18のそれよりも大きくされている。このため、脱ガス穴20における不活性ガスGの流速が、不活性ガス供給管18での流入速度よりも大幅に低くされている。脱ガス穴20は、炉本体12内の被加熱物Wから揮発したバインダ及び不活性ガスGを、底壁16aと底壁16aの下側において底壁16aに対向する下外壁部14aとの間の空間へ導く。
【0025】
炉本体12の上方に位置する上外壁部14bの中央部には、脱ガス穴20から流出した不活性ガスGを自然排気或いは強制排気により排出する排気管22が上外壁部14bに中央部において上外壁部14bを貫通して設けられている。また、炉本体12の下方に位置する下外壁部14aには、下外壁部14a上に貯留したタールをタール受容器24へ排出するための開閉弁26付のタールドレン管28が複数個設けられている。
【0026】
以上のように構成された脱バインダ炉10において、対を成す不活性ガス供給管18を通して炉本体12内に対向状態で不活性ガスGが導入されると、炉本体12内の上部に滞留した不活性ガスGがその上部から脱ガス穴20に向う不活性ガスGの流れが形成される。この状態で、炉本体12内の被加熱物WがヒータHによりたとえば200℃程度に加熱されて被加熱物Wからバインダが発生すると、バインダは上記脱ガス穴20に向う不活性ガスGに希釈されつつその不活性ガスGの一方向の流れと共に脱ガス穴20を通り抜けるので、被加熱物Wから発生するバインダの炉本体12内から抜けがよく、被加熱物Wに残留することが抑制される。これにより、被加熱物Wの焼結時において焼結品質が充分に得られる。
【0027】
脱ガス穴20を通り抜けることで炉本体12の外へ導出された、バインダを含む不活性ガスGは、図2及び図3の破線の矢印に示すように、底壁16aと下外壁部14aとの間の空間、側壁16c、16d、16e、16fと横外壁部14c、14d、14e、14fとの間の空間、上壁16bと上外壁部14bとの間の空間を経て、上外壁部14bの中央部に設けられた排気管22から外部へ排出される。このバインダを含む不活性ガスGの脱ガス穴20から排気管22へのガス流通経路Fは、冷却ジャケットとして機能する下外壁部14aの内壁面、横外壁部14c、14d、14e、14fの内壁面、及び上外壁部14bの内壁面に沿って移動する過程で、バインダがそれらの内壁面に結露することで捕捉され、図2の実線の矢印Dに示すように流れ落ちて下外壁部14a上に滞留する。
【0028】
上記バインダを含む不活性ガスGの脱ガス穴20から排気管22へのガス流通経路Fのうち、側壁16c、16d、16e、16fと横外壁部14c、14d、14e、14fとの間の空間は4箇所であるため、底壁16aと下外壁部14aとの間の空間や上壁16bと上外壁部14bとの間の空間よりも流路断面積が大きく低流速となるので、バインダが結露し易く、高い捕捉効率となる。
【0029】
そして、バインダの除去のための被加熱物Wの脱バインダ処理期間が終了すると、炉本体12内がヒータHによって被加熱物Wが脱バインダ処理温度よりも高い温度たとえば1200℃以上に設定された焼結温度まで昇温させられ、所定期間保持される。これにより、炉本体12内に位置している状態で被加熱物Wの焼結処理が行なわれる。
【0030】
上述のように、本実施例の脱バインダ炉10によれば、加熱空間E1を形成する炉壁16および加熱空間E1に収容された被加熱物Wを加熱するヒータHを有する炉本体12と、炉本体12に対して所定の間隙Ea、Eb、Ec、Ed、Ee、Efを隔てて炉本体12を収容する外壁14とを有する脱バインダ炉10であって、炉本体12内に不活性ガスGを導入する不活性ガス供給管18と、炉本体12の炉壁16を貫通して設けられ、不活性ガスGおよび被加熱物Wから揮発したバインダを、底壁16aに対向する下外壁部14aと底壁16aとの間の空間へ導く脱ガス穴20と、外壁14を貫通して設けられた排気管22と、脱ガス穴20から排気管22までのガス流通経路Fを挟んで炉壁16のうちの少なくとも一部に対向するように設けられた冷却ジャケット14と、を含む。
【0031】
このため、炉本体12に収容された被加熱物Wから出されるバインダを複数本の不活性ガス供給管18を介して炉本体12内に供給された不活性ガスで希釈しながら脱ガス穴20を通して炉本体12の外に導く一方向の通り道が設けられるとともに、炉本体12から脱ガス穴20を通して出されたバインダを含む不活性ガスGが、冷却ジャケットとして機能する外壁14の内壁面に接触しつつ排気管22を通して脱バインダ炉10外へ排気される。これにより、被加熱物Wから揮発したバインダは炉本体12内に滞留することがなく、冷却ジャケットとして機能する外壁14の内壁面に捕捉されて効率よく回収されるので、被加熱物Wから発生するバインダの炉本体12内から抜けがよく、その炉本体12での焼結において被加熱物Wの高い焼結品質が得られる。
【0032】
本実施例の脱バインダ炉10によれば、脱ガス穴20は、炉本体12の炉壁16のうちの底壁16aを貫通して設けられ、不活性ガスおよび被加熱物Wから揮発したバインダを、底壁16aの下方に位置して底壁16aに対向する下外壁部14aと底壁16aとの間の空間へ導くものである。これにより、炉本体12内において、不活性ガス供給管18から底壁16aに形成された脱ガス穴20へ向う不活性ガスの流れが一方向に形成されるので、被加熱物Wから揮発したバインダは炉本体12内に滞留することがなく、不活性ガスとともに炉本体12外へ流されるので、炉本体12内からバインダの抜けがよい。
【0033】
本実施例の脱バインダ炉10によれば、炉壁16は、底壁16a、上壁16b、及び、それら底壁16a及び上壁16bを連結する4つの側壁16c、16d、16e、16fを有するものであり、冷却ジャケットとして機能する外壁14は、少なくとも4つの側壁16c、16d、16e、16f面に脱ガス穴20から排気管22までのガス流通経路Fを介して対向するように配設されている。これにより、脱ガス穴20から排気管22までのガス流通経路Fにおいて、冷却ジャケットとして機能する外壁14の4つの横外壁部14c、14d、14e、14fと4つの側壁16c、16d、16e、16fとの間の流速が最も低くされるので、不活性ガスG中のバインダが効率よく冷却ジャケットとして機能する横外壁部14c、14d、14e、14fの内壁面に捕捉される。
【0034】
本実施例の脱バインダ炉10によれば、炉壁16は、底壁16a、上壁16b、および底壁16aと上壁16bとを連結する4つの側壁16c、16d、16e、16fとを有するものであり、ヒータHは、炉壁16の底壁16a、上壁16b、及び4つの側壁16c、16d、16e、16fにそれぞれ設けられている。これにより、被加熱物Wは、炉壁16の底壁16a、上壁16b、及び4つの側壁16c、16d、16e、16fにそれぞれ設けられたヒータHにより均一に加熱されるので、脱バインダが短時間で効率よく行なわれる。
【0035】
本実施例の脱バインダ炉10によれば、不活性ガス供給管18は不活性ガスGを相対向して噴射する少なくとも一対の不活性ガス供給管18であり、一対の不活性ガス供給管18の一方は、4つの側壁16c、16d、16e、16fのうちの相対向する一対の側壁16d、16fの一方の上部を貫通した状態で設けられ、一対の不活性ガス供給管18の他方は、4つの側壁16c、16d、16e、16fのうちの相対向する一対の側壁16d、16fの他方の上部を貫通した状態で設けられている。これにより、炉本体12内において、上方から下方へ向かい且つ脱ガス穴20を抜ける不活性ガスの一方向の通り道が形成されるので、被加熱物Wから発生するバインダの炉本体12内から抜けがよく、その炉本体12内での焼結において焼結品質が充分に得られる。
【0036】
本実施例の脱バインダ炉10によれば、底壁16aを貫通して設けられた複数個の脱ガス穴20は、不活性ガス供給管18の本数よりも多い数であり、脱ガス穴20の導入速度よりも低流速で不活性ガスGを底壁16aに対向する下外壁部14aと底壁16aとの間の空間へ導くものである。これにより、脱ガス穴20を抜けて排気管22へ向う不活性ガスの流れが緩やかとされて乱流が抑制されるので、不活性ガスGに含まれるバインダが冷却ジャケットとして機能する外壁14の内壁面に効率よく捕捉されて回収される。
【0037】
本実施例の脱バインダ炉10によれば、底壁16aに対向する下外壁部14aには、下外壁部14a上に貯留したタールを排出する開閉弁26付のタールドレン管28が設けられている。これにより、開閉弁26を開くことで、下外壁部14a上に貯留したタールがタール受容器24に回収される。
【0038】
本実施例の脱バインダ炉10によれば、炉本体12は、被加熱物Wの脱バインダ処理が終了すると、被加熱物Wをそのまま炉本体12内に位置している状態で脱バインダ処理に続いて被加熱物Wの焼結処理を行なうものである。これにより、脱バインダ工程及び焼結工程が、炉本体12内において連続的に行なわれる利点がある。
【実施例0039】
次に、本発明の他の実施例の脱バインダ炉110を図4を用いて説明する。なお、前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
図4において、脱バインダ炉110は、底壁16aに対向する下外壁部14aの形状と上壁16bに対向する上外壁部14bの形状に関しては、脱バインダ炉10と相違するが、他は同様である。
【0041】
底壁16aに対向する下外壁部14aの内壁面には、タールドレン管28の開口に向うほど低くなる傾斜面S1が設けられている。また、上壁16bに対向する上外壁部14bの内壁面には、排気管22に向うほど高くなる傾斜面S2が設けられている。
【0042】
本実施例によれば、前述の実施例の効果と同様の効果が得られるのに加えて、傾斜面S1により、下外壁部14a上に貯留したタールが効率よくタール受容器24に回収される。また、傾斜面S2により、上外壁部14bからの炉本体12へのタールの滴下が抑制され、炉本体12の汚染が軽減される。
【0043】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0044】
たとえば、前述の本実施例では、外壁14の全部が冷却ジャケットとして構成されていた。しかし、外壁14のうちの一部たとえば横外壁部14c、14d、14e、14fが、二重構造の板材から構成された冷却ジャケットとして構成されていても、好適な脱バインダ機能が得られる。また、冷却ジャケットは外壁14のうち側に設けられていてもよい。
【0045】
前述の実施例の脱バインダ炉10、110は、バッチ式であったが、被加熱物Wの脱バインダを目的とするたとえば図2又は図4と同様の断面構造を有する脱バインダ領域と、それに続いて被加熱物Wの焼結を目的とする焼結領域とが設けられた連続式の加熱炉であってもよい。
【0046】
また、前述の実施例の脱バインダ炉10、110では、不活性ガス供給管18が2対すなわち4本設けられていたが、炉本体12内の上部に不活性ガスGを導入するものであれば1本以上の数であってもよい。
【0047】
また、前述の実施例の脱バインダ炉10、110では、脱ガス穴20が複数個設けられていたが、不活性ガス供給管18の流通断面積よりも大きい断面積を備えていれば、1個であってもよい。
【0048】
また、前述の実施例の脱バインダ炉10において、間隙Ec、Ed、Ee、Efは、同様の間隔であってもよいし、同様の間隔で無くてもよい。
【0049】
また、前述の実施例の脱バインダ炉10、110では、排気管22が上外壁部14bを貫通して設けられていたが、横外壁部14c、14d、14e、14fのいずれかを貫通して設けられていてもよい。
【0050】
また、前述の実施例の脱バインダ炉10、110では、脱ガス穴20が炉壁16のうちの底壁16aを貫通して設けられていたが、側壁16c、16d、16e、16fのいずれかを貫通して設けられていてもよい。
【0051】
また、前述の実施例の脱バインダ炉10、110では、炉本体12が直方体状であったが、円筒状や球形であってもよい。同様に、炉本体12を収容する外壁14は直方体状であったが、炉本体12を収容可能な立方体形状、円筒状や球形であってもよい。
【0052】
また、前述の実施例の脱バインダ炉10、110では、上壁16b、底壁16a、側壁16c、16d、16e、16fに、すなわち炉本体12内の6面にそれぞれヒータHが設けられていたが、それら6面の一部にヒータHが設けられていてもよい。この場合、6面のうちの対向する2面にヒータHが設けられるのが好ましい。
【0053】
また、前述の実施例の不活性ガス供給管18は、バインダの希釈ガスとして不活性ガスGを炉本体12内に導入するものであったが、大気を希釈ガスとして炉本体12内に導入するものであってもよい。この場合には、不活性ガス供給管18は大気を導入するガス供給管として機能する。
【0054】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0055】
10、110:脱バインダ炉
12:炉本体
14:外壁(冷却ジャケット)
14a:下外壁部
14b:上外壁部
14c~14f:横外壁部
16:炉壁
16a:底壁
16b:上壁
16c~16f:側壁
18:不活性ガス供給管(ガス供給管)
20:脱ガス穴
22:排気管
26:開閉弁
28:タールドレン管
F:ガス流通経路
H:ヒータ
Ea~Ef:間隙
S1,S2:傾斜面
図1
図2
図3
図4