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特開2022-123057ADAMTS13酵素活性を決定するための方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123057
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】ADAMTS13酵素活性を決定するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20220816BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220816BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220816BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20220816BHJP
   C07K 1/26 20060101ALN20220816BHJP
   C07K 1/34 20060101ALN20220816BHJP
   C07K 1/22 20060101ALN20220816BHJP
   C12N 9/64 20060101ALN20220816BHJP
   C12N 9/76 20060101ALN20220816BHJP
【FI】
C12Q1/37 ZNA
C12M1/34 E
G01N27/62 V
G01N27/447 315K
G01N27/447 331E
C07K1/26
C07K1/34
C07K1/22
C12N9/64 Z
C12N9/76
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022097187
(22)【出願日】2022-06-16
(62)【分割の表示】P 2019519274の分割
【原出願日】2017-10-11
(31)【優先権主張番号】62/406,693
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511172461
【氏名又は名称】ラボラトリー コーポレイション オブ アメリカ ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル フィリップ グラント
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー マイケル シュフォード
(72)【発明者】
【氏名】メーガン ノリス ブラッドリー
(57)【要約】
【課題】試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有する酵素ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の活性の分析のための方法およびシステムを提供すること。
【解決手段】本明細書において開示される方法およびシステムは、患者における血栓性血小板減少性紫斑病の診断のために有用であり得る。ある特定の実施形態では、本発明は、質量分析および/または液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)によってADAMTS13を測定する方法を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2016年10月11日に出願された米国仮出願番号第62/406,693号の利益を主張しており、この仮出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、患者における血栓性血小板減少性紫斑病の診断のために有用である可能性がある、ADAMTS13(a disintegrin and metalloproteinase with a thrombospondin type 1 motif,member 13:トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13)の活性を決定するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、微小血管において血栓が形成される原因となる血液障害である。これは、低血小板数(血小板減少症)を生じる一方で、血栓は腎臓、心臓および脳を含む多数の器官を損傷する場合がある。処置をしないとTTPについての致死率は、約90%である。典型的な処置は血漿交換であり、6カ月での致死率を約10%に低減する。
【0004】
TTPの大部分の症例は、血中糖タンパク質フォン・ウィルブランド因子(vWF)を特異的に切断するプロテアーゼであるADAMTS13の活性の低下によって生じる。ADAMTS13は、高せん断応力の循環条件下でvWFをチロシン1605とメチオニン1606との間で特異的に切断する。ADAMTS13は、フォン・ウィルブランド因子切断プロテアーゼとも称される。ADAMTS13活性の先天性および後天性(自己免疫性)の両方の欠損は、正常血漿において見出される小さな多量体よりもさらに血小板接着性である、著しく大きなvWF因子多量体の存在によって特徴付けられ、TTPを生じる。
【0005】
大部分のTTP症例は、特発性であり、循環からのADAMTS13のクリアランスの増加を通じて循環中の機能的酵素レベルを低減する、またはADAMTS13タンパク質分解活性の阻害を方向付ける、ADAMTS13に対する抗体に関連しているが、ADAMTS13に対する抗体は、先天性欠損を有する患者においては通常検出されない。研究は、ADAMTS13に対するIgG特異的自己抗体についての定量的イムノアッセイが、ADAMTS13に対する抗体を検出するための機能性(即ち、阻害)アッセイよりさらに感受性であることを示した。
【0006】
症候的に、TTPは、血栓性微小血管症(TMA)、全身にわたる微小血管中の血栓の形成によって特徴付けられ、微小血管症性溶血性貧血および血小板減少症を生じる場合がある。ADAMTS13活性の測定は、異なる潜在的原因を有する臨床的に類似している多数の状態からTTPを識別することに役割を果たすことができる。妊娠、臓器移植およびある特定の薬物療法に関連する場合があるこれらの症候群は、ADAMTS13活性レベルに顕著な低減を一般に示さない。溶血性尿毒症症候群(HUS)は、TTPに臨床的に類似しているが、急性腎不全に関連する。下痢関連HUSは、多くの症例の原因であり、通常、志賀毒素産生Escherichia coli(O157:H7)への感染によって生じる。下痢陰性または非定型的HUS(aHUS)は、小児および成人の両方において生じる管理されていない補体の活性化によって生じると考えられており、TTPと多くの臨床的特徴を共有している;しかし、aHUSはADAMTS13活性の重度の低減(即ち、<10%)を伴わない。確かに、アップショー・シュールマン症候群とも称される先天性ADAMTS13活性欠損は、正常ADAMTS13活性の10%未満のADAMTS13活性レベルを伴う常染色体劣性障害である。臨床的特徴だけに基づく疾患分類は信頼できない場合があり、不適切な処置または有効な処置の開始に遅れを生じる場合がある。したがって、血小板減少症および微小血管性溶血の実験室的証拠を呈している患者では、ADAMTS13活性の測定は、他の臨床的に類似している状態からTTPを識別するために重要である可能性がある。
【0007】
一般に、臨床症状に基づいてTTPが疑われる場合には、その症状の激しさおよび重症度のために救命全血漿交換(TPE)治療がADAMTS13活性検査の前に開始される。多くの症例においてTPEは、正常なADAMTS13活性検査結果が得られた場合に停止される。このため迅速なADAMTS13検査結果が得られるほど、より迅速にTPE治療を停止でき、それは1)(不必要な)TPE治療に関連する費用を低減し、2)臨床医が症状についての代替原因、およびそれにより適切な治療に注目できるようにする(Connell, N. T.ら、Transfusion 2016年、56巻(2号)、354~359頁)。
【0008】
したがって、TTPについてのリスクがあるまたはそれを有すると疑われる個体由来の試料中のADAMTS13活性を測定するための臨床検査の改善に対する必要性がある。費用効率がより高く、それにより、より高頻度での検査を可能にし、さらに迅速に検査結果を臨床医に提供もする臨床検査の改善に対する必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Connell, N. T.ら、Transfusion 2016年、56巻(2号)、354~359頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
要旨
本発明は、患者におけるTTPの診断のために有用であり得るADAMTS13の活性を決定するための方法およびシステムを提供する。ある特定の実施形態では、本発明は、質量分析および/または液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)によってADAMTS13を測定する方法を含む。
【0011】
例えば、一部の実施形態では、本発明は、試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有するADAMTS13の酵素活性を決定するための方法であって、(a)酵素的切断産物を生成するために、試料を、ADAMTS13に対する外来性ペプチド基質と共に、ADAMTS13による外来性ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ;(b)切断産物の多価気相イオンを作製するために、酵素的切断産物をイオン化するステップ;および(c)試料中の酵素的切断産物の存在または量を決定するために、多価気相イオンを質量分析によって分析するステップであって、試料中の酵素的切断産物の産物の存在または量が試料中のADAMTS13の活性の存在または量を示す、ステップを含む方法を含む。
【0012】
ある特定の実施形態では、本発明は、試料中のADAMTS13の活性の量を決定するための方法であって、(a)試料を、ADAMTS13に対する合成ペプチド基質および試料に対する産物ペプチドの同位体標識等価物と共に、ADAMTS13による合成ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ;(b)インキュベートされている試料中の酵素的切断を終結させるステップ;(c)液体クロマトグラフィーまたは他の精製技術を使用して酵素的切断産物および内部標準を試料の他の構成成分から部分的に精製するステップ;および(d)試料中の酵素的切断産物および内部標準の量を決定するために、部分的に精製された酵素的切断産物および標準を質量分析によって分析するステップであって、酵素的切断産物と内部標準との決定された量の比が試料中のADAMTS13の活性の量を示す、ステップを含む方法を含み得る。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、試料中のADAMTS13の活性を決定するためのシステムであって、(a)酵素的切断産物を生成するために、試料を、ADAMTS13に対する外来性ペプチド基質と共に、ADAMTS13による外来性ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするためのステーション;(b)切断産物の多価気相イオンを作製するために、酵素的切断産物をイオン化するためのステーション;および(c)試料中の酵素的切断産物の存在および/または量を決定するために、多価気相イオンを質量分析によって分析するためのステーションであって、酵素的切断産物の量が試料中のADAMTS13の活性を示す、ステーションを含むシステムを含み得る。一部の実施形態では、システムは、酵素的切断産物を部分的に精製するためのステーションをさらに含み得る。一部の実施形態では、システムは、液体クロマトグラフィーを使用して前記酵素的切断産物をクロマトグラフィーで分離するためのステーションを含み得る。
【0014】
本発明の方法およびシステムの両方は、様々な実施形態を含み得る。例えば、ある特定の実施形態では、本方法は、インキュベーションのステップの後でイオン化のステップの前に、イオン化のステップが部分的に精製された酵素的切断産物に対して行われるように酵素的切断産物を部分的に精製するステップを含み得る。ある特定の実施形態では、システムは、そのようなステップを行うためのステーションを含んでもよい。
【0015】
ある実施形態では、酵素的切断産物を部分的に精製するステップが遠心分離を含み、イオン化のステップが酵素的切断産物を含む上清に対して行われる。追加的かつ/または代替的に、酵素的切断産物を部分的に精製するステップは、酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、液体クロマトグラフィーを含むことができ、イオン化のステップは溶出物に対して行われる。追加的かつ/または代替的に、酵素的切断産物を部分的に精製するステップは、酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、キャピラリー電気泳動を含むことができ、イオン化のステップは溶出物に対して行われる。追加的かつ/または代替的に、酵素的切断産物を部分的に精製するステップは、酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、固相抽出を含み、イオン化のステップは溶出物に対して行われる。追加的かつ/または代替的に、酵素的切断産物を部分的に精製するステップは、酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、ろ過を含み、イオン化のステップは溶出物に対して行われる。追加的かつ/または代替的に、酵素的切断産物を部分的に精製するステップは、酵素的切断産物を含む保持画分を生成するろ過を含み、イオン化のステップは保持画分に対して行われる。追加的かつ/または代替的に、酵素的切断産物を部分的に精製するステップは、酵素的切断産物のアフィニティー濃縮の使用を含み、イオン化のステップはアフィニティー濃縮された酵素的切断産物に対して行われる。ある特定の実施形態では、アフィニティー濃縮技術は、固定化金属アフィニティーレジンを使用する。例えば様々な実施形態では、アフィニティー濃縮技術は、抗体またはFab断片など抗体の断片を利用することもできる。またはアフィニティー濃縮技術は、ストレプトアビジンを利用することもできる。またはアフィニティー濃縮技術は、プロテインGもしくはプロテインAを利用することもできる。またはアフィニティー濃縮技術は、アプタマーを利用することもできる。
【0016】
ある特定の実施形態では、方法およびシステムは、分析および/または部分的な精製の前にインキュベーションを終結させるためのステップを含む。例えばある特定の実施形態では、方法および/またはシステムは、インキュベートされている試料中の酵素的切断を終結させるステップ(またはそのようなステップを実施するためのステーション)を含んでもよい。ある特定の実施形態では、終結させるステップは、インキュベートされている試料に沈殿試薬を添加することを含んでもよい。様々な沈殿試薬を使用することもできる。これにより代替的実施形態では、沈殿試薬は、メタノール、および/またはアセトニトリル、および/またはアセトン、および/または2-プロパノール、および/または硫酸、および/またはトリクロロ酢酸、および/または過塩素酸を含んでもよい。ある特定の実施形態では、反応の終結は、酵素が機能的であるための好適な範囲を外れた範囲にpHを変化させることによって行われる。例えば、終結させるステップは、インキュベートされている試料のpHをpH5未満にまたは代替的にpH9を超えるように調整することを含み得る。ある特定の実施形態では、終結させるステップは、酵素が機能的であるために好適な範囲の外の範囲に温度を調整することを含み得る。例えば、終結させるステップは、インキュベートされている試料を摂氏50度を超える温度に加熱すること、または代替的にインキュベートされている試料を摂氏15度未満の温度に冷却することを含み得る。ある特定の実施形態では、終結させるステップは、インキュベートされている試料にADAMTS13の阻害剤を添加することを含み得る。例えば、一実施形態では、阻害剤はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)であり得る。
【0017】
反応において使用される基質は、ADAMTS13の活性の測定を可能にするように設計されている。ある特定の実施形態では基質は、フォン・ウィルブランド因子A2ドメイン(vWF A2ドメイン)またはその一部を含む。一実施形態では、外来性ペプチド基質は、vWFアミノ酸配列またはその一部に少なくとも70%配列同一性を有する。ある特定の実施形態では基質は、機能的ADAMTS13切断部位を含む。一実施形態では基質は、機能的ADAMTS13エキソサイトを含む。一実施形態では基質は、外来性ペプチドを含む。外来性ペプチドは、合成ペプチドであってもよい。例えば、一実施形態では外来性基質は、vWF73(配列番号3)のアミノ酸配列に対して少なくとも70%配列類似性を有する合成ペプチドである。一実施形態ではペプチドは、配列番号3である。
【0018】
一部の実施形態では、合成ペプチド基質が1つまたは複数のアフィニティータグを含む。一部の実施形態では、1つまたは複数のアフィニティータグが、MYC-タグ、FLAG-タグ、ポリHis-タグまたはGST-タグからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、1つまたは複数のアフィニティータグは抗体に対するエピトープを含有する。追加的かつ/または代替的に、外来性ペプチド基質が1つまたは複数の非天然アミノ酸を含んでもよい。ある特定の実施形態では、1つまたは複数の非天然アミノ酸はビオチン化されている。ある特定の実施形態では、1つまたは複数の非天然アミノ酸は安定同位体標識されたアミノ酸である。
【0019】
基質は、ADAMTS13とのインキュベーションにおいて、2つの小さなペプチドに切断される。生じる産物は、外来性基質として使用されるペプチドに依存する。例えば、配列番号3の外来性基質(またはN末端に追加的なまたはより少ないアミノ酸を有する基質)を使用すると、酵素的切断産物は、DREQAPNLVY(配列番号4)の配列を有するペプチドを含み得る。基質ペプチドのC末端に追加的アミノ酸がある場合に他の産物が形成される可能性があることが企図される。
【0020】
イオン化ステップは、多価(multiply charged)イオンの形成を生じる。ある特定の実施形態では、イオン化のステップは、エレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化または大気圧光イオン化などのイオン化技術を使用して酵素的切断産物をイオン化することを含む。イオン化技術は、エレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化および大気圧光イオン化からなる群から選択され得る。
【0021】
分析するステップは、イオン化ステップにおいて形成される多価イオンの特徴付けおよび定量を可能にする。ある特定の実施形態では、分析するステップは、ADAMTS13の比活性を決定することを含む。一部の実施形態では、分析するステップは、タンデム質量分析を使用する。配列番号4の産物を生成するために配列番号3の基質を使用して、分析するステップは、ある特定の実施形態では、602.8±2、182.1±2、281.1±2、462.7±2、512.3±2、600.3±2、605.3±2、811.4±2、924.5±2および1023.5±2からなる群から選択されるm/zを有するイオンを使用してもよい。
【0022】
上に記載のとおり、本発明の方法およびシステムは、内部標準を使用してもよい。一部の実施形態では、内部標準は、イオン化ステップの前に添加される。代替的に内部標準は、基質と同時に添加されてもよい。さらに他の実施形態では、内部標準は、インキュベーションステップの前に試料に添加されてもよい。または内部標準は、インキュベートされている試料に添加されてもよい。ある特定の実施形態では、内部標準の存在または量は、酵素的切断産物の存在または量と共に決定される。ある特定の実施形態では、内部標準の決定された量と酵素的切断産物の決定された量との間の比は、形成された酵素的切断産物の量を示す。一部の実施形態では、内部標準の決定された量と酵素的切断産物の決定された量との間の比は試料中のADAMTS13の活性量(例えば、比活性)を示す。
【0023】
様々な内部標準が使用されてもよい。一部の実施形態では、内部標準は切断産物とは異なるペプチドである。しかし一部の他の実施形態では、内部標準は、酵素的切断産物の同位体標識等価物である。
【0024】
様々な生物学的試料が使用されてもよい。ある特定の実施形態では、試料は、患者から得られた生体液である。例えば生体液は、血漿または血清であってもよい。または他の種類の生体液(例えば、唾液、痰、汗、脳脊髄液)は、使用されてもよい。
【0025】
一部の実施形態では、方法およびシステムは、任意選択の部分的な精製ステップの前または後のいずれかで、終結させるステップ後に、インキュベートされている試料中の酵素的切断の分子構造を改変するステップ(および/またはそのようなステップを行うためのステーション)を使用する場合がある。例えば、ある特定の実施形態では、改変ステップは、酵素的切断産物を加水分解することをさらに含んでもよい。例えば、加水分解は、酵素を使用して行われてもよい。ある特定の実施形態では、酵素は、トリプシン、ペプシンまたはLysCの内の1つであってもよい。または他の酵素が使用されてもよい。他の実施形態では、加水分解は、化学試薬を使用して行われてもよい。例えば化学試薬は、ギ酸または臭化シアンの内の1つであってもよい。または他の化学的試薬が使用されてもよい。一部の実施形態では、酵素的切断産物は、誘導体化されてもよい。例えば、一部の実施形態では、誘導体化は、酵素により触媒される。または誘導体化は、化学的付加を含んでもよい。
【0026】
これらおよび他の実施形態は、本明細書に記載される。
【0027】
本発明は、続く非限定的な図面を参照することによってより良好に理解され得る。図面は、本発明のある特定の実施形態および/または特徴を例示するものであり、本発明の任意の記述(単数または複数)を補うものである。図面は、書かれた記述がその通りであることを明らかに示さない限り、本発明の範囲を限定しない。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の酵素活性を決定するための方法であって、
(a)酵素的切断産物を生成するために、前記試料を、ADAMTS13に対する外来性ペプチド基質と共に、ADAMTS13による前記外来性ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ;
(b)前記切断産物の多価気相イオンを作製するために、前記酵素的切断産物をイオン化するステップ;および
(c)前記試料中の酵素的切断産物の存在または量を決定するために、前記多価気相イオンを質量分析によって分析するステップであって、前記試料中の前記酵素的切断産物の産物の存在または量が前記試料中のADAMTS13の活性の存在または量を示す、ステップ
を含む方法。
(項目2)
ステップ(a)の後でステップ(b)の前に、前記酵素的切断産物を部分的に精製するステップをさらに含み、ステップ(b)が部分的に精製された前記酵素的切断産物に対して行われる、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記酵素的切断産物を部分的に精製する前記ステップが遠心分離を含み、ステップ(b)が前記酵素的切断産物を含む上清に対して行われる、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記酵素的切断産物を部分的に精製する前記ステップが、前記酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動および固相抽出またはろ過のうちの1つまたは複数を含み、ステップ(b)が前記溶出物に対して行われる、項目2に記載の方法。
(項目5)
前記酵素的切断産物を部分的に精製する前記ステップが、前記酵素的切断産物を含む保持画分を生成するろ過を含み、ステップ(b)が前記保持画分に対して行われる、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記酵素的切断産物を部分的に精製する前記ステップが、前記酵素的切断産物のアフィニティー濃縮の使用を含み、ステップ(b)がアフィニティー濃縮された前記酵素的切断産物に対して行われる、項目2に記載の方法。
(項目7)
前記アフィニティー濃縮技術が、固定化金属アフィニティーレジン、抗体、抗体断片、ストレプトアビジン、プロテインG、プロテインAまたはアプタマーのうちの1つまたは複数を使用する、項目6に記載の方法。
(項目8)
ステップ(a)と(b)の間で、任意選択の部分的精製ステップの前に、インキュベートされている前記試料中の前記酵素的切断を終結させるステップをさらに含む、項目2に記載の方法。
(項目9)
前記終結させるステップが、インキュベートされている前記試料に沈殿試薬を添加すること;インキュベートされている前記試料のpHをpH5未満またはpH9を超えるように調整すること;インキュベートされている前記試料を摂氏50度を超える温度に加熱すること;インキュベートされている前記試料を摂氏15度未満の温度に冷却すること;またはインキュベートされている前記試料にADAMTS13の阻害剤を添加することのうちの1つまたは複数を含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記外来性ペプチド基質が、配列番号3に対して少なくとも70%配列類似性を有する、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記酵素的切断産物が配列番号4を含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
ステップ(b)が、エレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化および大気圧光イオン化のうちの少なくとも1つを含むイオン化技術を使用して前記酵素的切断産物をイオン化することを含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記分析するステップ(c)がタンデム質量分析を使用する、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記分析するステップ(c)が、602.8±2、182.1±2、281.1±2、462.7±2、512.3±2、600.3±2、605.3±2、811.4±2、924.5±2および1023.5±2のうちの少なくとも1つを含む質量/電荷比(m/z)を有するイオンを使用する、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記分析するステップ(c)が、前記ADAMTS13の比活性を決定することを含む、項目1に記載の方法。
(項目16)
内部標準が、次の時点:(i)ステップ(a)の前;(ii)ステップ(a)の際;または(iii)ステップ(a)の後でステップ(b)の前のうちのいずれか1つで前記試料に添加され、前記内部標準の存在または量が、ステップ(c)における前記酵素的切断産物の存在または量と共に決定される、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記内部標準の存在または量が、ステップ(c)における前記酵素的切断産物の存在または量と共に決定され、前記内部標準が前記酵素的切断産物の同位体標識等価物である、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記内部標準の決定された量と前記酵素的切断産物の決定された量との間の比が、ステップ(a)において形成された前記酵素的切断産物の量および/または前記試料中のADAMTS13の活性の量を示す、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記試料が、患者から得られた生体液の試料である、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記生体液が血漿または血清である、項目19に記載の方法。
(項目21)
ステップ(a)と(b)との間で、前記任意選択の部分的精製ステップの前または後のいずれかで前記終結ステップの後に、前記酵素的切断産物の分子構造を改変するステップを含む、項目8に記載の方法。
(項目22)
前記改変するステップが、前記酵素的切断産物を加水分解するステップをさらに含む、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記加水分解が酵素または化学試薬を使用して行われる、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記加水分解が、トリプシン、ペプシン、LysC、ギ酸または臭化シアンのうちの少なくとも1つを使用して行われる、項目22に記載の方法。
(項目25)
前記酵素的切断産物が前記改変するステップの際に誘導体化される、項目21に記載の方法。
(項目26)
前記誘導体化が、酵素により触媒される誘導体化または化学的付加である、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記試料中のADAMTS13の前記活性の量を述べる報告を作成するステップをさらに含み、前記試料が患者から得られ、前記報告が、前記患者におけるトロンボスポンジン1型モチーフを有する酵素ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の活性の低下に関連する疾患または状態の診断に有用である、項目1に記載の方法。
(項目28)
前記疾患または前記状態が血栓性血小板減少性紫斑病である、項目27に記載の方法。(項目29)
試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有する酵素ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の活性の量を決定するための方法であって、
(a)未標識切断産物ペプチドを形成するために、前記試料を、ADAMTS13に対する合成ペプチド基質および切断産物ペプチドの同位体標識等価物と共に、ADAMTS13による前記合成ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ;
(b)インキュベートされている前記試料中の前記酵素的切断を終結させるステップ;
(c)酵素的切断産物および内部標準を前記試料の他の構成成分から部分的に精製するステップ;および
(d)前記試料中の酵素的切断産物および前記内部標準の量を決定するために、部分的に精製された前記酵素的切断産物および前記標準を質量分析によって分析するステップであって、前記酵素的切断産物と前記内部標準との決定された量の比が前記試料中のADAMTS13の活性の量を示す、ステップ
を含む方法。
(項目30)
対象における血栓性血小板減少性紫斑病を診断するための方法であって、
(a)酵素的切断産物を生成するために、前記対象から取得された試料を、ADAMTS13に対する外来性ペプチド基質と共に、ADAMTS13による前記外来性ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ;
(b)前記切断産物の多価気相イオンを作製するために、前記酵素的切断産物をイオン化するステップ;および
(c)前記試料中の酵素的切断産物の存在または量を決定するために、前記多価気相イオンを質量分析によって分析するステップであって、前記試料中の前記酵素的切断産物の産物の存在または量が前記試料中のADAMTS13の活性の存在または量を示す、ステップ
を含み、
正常値の10%未満のADAMTS13活性レベルが、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を高度に示す、
方法。
(項目31)
試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有する酵素ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の活性を決定するためのシステムであって、
(a)酵素的切断産物を生成するために、前記試料を、ADAMTS13に対する外来性ペプチド基質と共に、ADAMTS13による前記外来性ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするためのステーション;
(b)前記切断産物の多価気相イオンを作製するために、前記酵素的切断産物をイオン化するためのステーション;および
(c)前記試料中の前記酵素的切断産物の存在および/または量を決定するために、前記多価気相イオンを質量分析によって分析するためのステーションであって、前記酵素的切断産物の量が前記試料中のADAMTS13の前記活性を示す、ステーション
を含むシステム。
(項目32)
液体クロマトグラフィーを使用して前記酵素的切断産物をクロマトグラフィーで分離するためのステーションをさらに含む、項目31に記載のシステム。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、vWF(配列番号1)の部分的アミノ酸配列ならびに下線を付けたADAMTS13のための切断部位および斜字体で示されたエキソサイトを含むvWFのA2ドメイン(配列番号2)を示す。
【0029】
図2図2は、下線を付けたADAMTS13のための切断部位および斜字体で示されたエキソサイトを含むvWFのA2ドメイン(配列番号2)についてのアミノ酸配列を示す。
【0030】
図3図3は、下線を付けたADAMTS13切断部位および斜字体で示されたエキソサイトを含むvWFアミノ酸配列に基づくADAMTS13のための合成ポリペプチド基質のアミノ酸配列(配列番号3)、ならびに生じる切断産物のアミノ酸配列(「DREペプチド」;配列番号4)を示す。
【0031】
図4図4は、本発明の実施形態によるLC-MS/MSによるDREペプチド(配列番号4)の検出による、ADAMTS13活性のアッセイのためのワークフローの概要を示す。内部標準(配列番号5)も示されている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(詳細な説明)
以下の記載は、本発明の様々な態様および実施形態を述べたものである。本発明の範囲を限定しようとする特定の実施形態はない。むしろ実施形態は、本発明の範囲内に少なくとも含まれる様々な方法およびシステムの非限定的な例を単に提供するものである。この記載は、当業者の観点から読み取られ、したがって当業者に周知の情報は必ずしも含まれない。
【0033】
(略称)
本出願では様々な略称が使用され得る。全てではないとしてもほとんどの場合、そのような略称の意味は当業者に公知である。これらの略称は、下記の略称を含み、その意味を提示する。他の略称は本明細書において定義される。
【0034】
ADAMTS13=トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13酵素
DRE=10アミノ酸ポリペプチド、vWF73の酵素的切断産物として形成され得、配列DREQAPNLVY(配列番号4)を有する;図3に例示されている。
LC=液体クロマトグラフィー
LC-MS/MS=液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析
MS=質量分析
MS/MS=タンデム質量分析
TTP=血栓性血小板減少性紫斑病
vWF=フォン・ウィルブランド因子タンパク質(糖タンパク質)
vWF73=vWF残基Asp1596からArg1668の天然アミノ酸配列由来の73アミノ酸残基ポリペプチド(図3に例示される)
【0035】
(定義)
下記の用語は、他に指示しない限り、以下の意味を有すると理解すべきである。
【0036】
本明細書で使用される「a」、「an」、および「the」という用語は、他に特に記載しない限り、1つまたは複数を指すことができる。
【0037】
本出願の全体を通して、「約」という用語は、値が、デバイスに関する誤差の固有のばらつき、値を決定するのに用いられる方法、または研究対象の中に存在するばらつきを含むことを示すのに使用される。
【0038】
本明細書において使用される「酵素活性」または「酵素的活性」という用語は、参照標準値または正常プール血漿の較正曲線のいずれかと比べたADAMTS13比活性の測定値を指す。用語は、「量」または「レベル」という用語と併せて使用されてもよい。
【0039】
本明細書において使用される、「エキソサイト」という用語は、切断を開始するために酵素が認識する、ADAMTS13基質の一部を指す。エキソサイトを含まない基質は、一般に酵素によって効率的に認識されない(Kokameら、Blood、2004年、103巻:607~612頁)。
【0040】
本明細書で使用される「対象」、「個体」、および「患者」という用語は、交換可能に使用される。これらの用語の使用は、医師などの医療専門家に対するいかなる種類の関係も示唆しない。
【0041】
本明細書で使用される「液体クロマトグラフィー」または「LC」という語句は、試料中の1種または複数の分子または分析物を、試料中のその他の分析物から分離するためのプロセスを指すのに使用される。LCでは、流体の均一性が、微細化された物質のカラム内を移動するにつれて、流体溶液の1種または複数の分析物が遅速化する。遅速化は、1つまたは複数の固定相と移動相との間に混合物の成分が分布することによって起こる。LCには、例えば、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)および高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)が含まれる。一部の場合では、LCは、疎水性固定相を、水および/またはメタノールもしくはアセトニトリルなどの水混和性有機溶媒からなる移動相との組合せで含む逆相LCを指す。一部の場合では、LCは、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、順相液体クロマトグラフィーまたは親水性相互作用クロマトグラフィーを指す場合がある。
【0042】
本明細書において使用される、「キャピラリー電気泳動」(CE)という用語は、電場に曝露した際の電解質溶液中のそれらのイオン移動度に基づく、試料中の他の分析物からの試料中の1つまたは複数の分子または分析物の分離のためのプロセスを指す。CEは、例えば、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)を含む。
【0043】
本明細書で使用される「分離する」または「精製する」などの用語は、試料マトリックスからの目的の分析物以外の、全ての材料の除去を指すのに必ずしも使用されない。代わりに、一部の実施形態では、この用語は、試料マトリックス中に存在する1種または複数のその他の成分に比べて目的の1種または複数の分析物の量を豊富にする手順を指すのに使用される。一部の実施形態では、「分離」または「精製」は、例えば質量分析法による分析物の検出を妨げる可能性のある、試料からの1種または複数の成分の量を、除去するまたは減少させるのに使用されてもよい。
【0044】
本明細書で使用される「質量分析法」または「MS」という用語は、試料中の分子の同定および/または定量のための技法を指す。MSは、試料中の分子をイオン化して、気相中に荷電分子(イオン)を形成し;それらの質量対電荷比に従って荷電分子を分離し;荷電分子を検出することを含む。MSは、試料中の分子の定性的および定量的検出の両方を可能にする。分子は、当業者に公知の任意の適切な手段によって、イオン化され検出されてもよい。「タンデム質量分析法」または「MS/MS」という語句は、本明細書では、試料中の分子の同定および/または定量のための技法であって、1つ超の質量分析法が、複数の質量分析装置を使用して同時にまたは単一の質量分析装置を使用して逐次行われる技法を指すのに使用される。本明細書で使用される「質量分析計」は、分子をイオン化しかつ荷電分子を検出する手段を含む装置である。
【0045】
本明細書で使用される「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」は、分子の断片化を回避しながら試料中の分子をイオン化するのに、質量分析法で使用される技法を指す。試料は、エレクトロスプレーによって微細なエアロゾル中に分散される。試料は、溶媒、通常は水と混合された揮発性有機化合物(例えば、メタノールまたはアセトニトリル)と、典型的には混合されることになる。次いでエアロゾルを、毛管を通して質量分析計に移し、これを加熱して、荷電液滴からのさらなる溶媒蒸発を助けることができる。次に、エアロゾルを、オリフィス(荷電液滴からの溶媒蒸発をさらに助け、最終的に、試料中の分子の気相イオンを形成すために加熱してもよい)を通して質量分析計に移す。
【0046】
本明細書において使用される、「安定同位体標識」という用語は、所与の原子の非放射性同位体を含む分子を濃縮し、分子内の前記原子の平均質量を変更し、それにより前記分子の平均質量を変更するプロセスを包含する。一般にこれは、天然においておよび天然の分子において高い頻度で見出される軽い同位体(例えば、炭素12または窒素14)を、稀な重い同位体(例えば、炭素13または窒素15)を用いて置き換えることによって達成される。
【0047】
本明細書で使用される「四重極分析装置」は、MSで使用されるあるタイプの質量分析装置である。この分析装置は、互いに高度に平行に設定された4個の円形ロッド(2対)からなる。四重極は、当該技術分野で公知のように三連四重極の形式であってもよい。四重極分析装置は、試料の荷電粒子をそれらの質量対電荷比に基づいて組織する機器の構成要素である。当業者なら、四重極分析装置の使用は、結果の高い特異性をもたらすことができることを理解されよう。1対のロッドは正電位に設定され、他方の対のロッドは負電位にある。検出するには、イオンが、位置合わせされたロッドと境を接しかつ平行な軌道経路の中心を通過しなければならない。四重極が、直流および無線周波電圧の所与の振幅で動作するとき、所与の質量対電荷比のイオンのみが、共鳴することになり、四重極を通過しかつ検出される安定な軌道を有することになる。本明細書で使用される「正のイオンモード」は、正に荷電したイオンが質量分析装置によって検出されるモードを指し、「負のイオンモード」は、負に荷電したイオンが質量分析装置によって検出されるモードを指す。「選択イオンモニタリング」または「SIM」の場合、直流および無線周波電圧の振幅は、特定の質量のみを観察するように設定される。
【0048】
「遠心分離」という用語は、遠心機を用いて不均一な混合物の遠心沈降のための向心力の適用を含むプロセスを指す。例えばチューブに含有されている、試料への有効重力の増加は、沈殿(ペレット)をさらに迅速かつ完全にチューブの底に集める。残りの溶液は「上清」と呼ばれる。
TTPは、公知の、本文書の他所、例えば「背景技術」のセクションにおいてさらに詳細に考察される比較的稀な血液障害である。
【0049】
「基質」または「酵素基質」という用語は、本明細書では、酵素が作用する物質を指すのに使用される。
【0050】
「外来性」基質という用語は、試料以外に由来する基質である。ある特定の実施形態では「外来性」基質は「合成」基質である。
【0051】
「合成」という用語は、本明細書において、例えば実験室または他の同様の施設において生成された人工分子を指すのに使用される。これは、化学合成および組換え分子技術(即ち、組換え核酸構築物からの発現)の両方を包含する。
【0052】
「配列」という用語は、「一次構造」としても記載される場合があり、ポリペプチド中のアミノ酸の順序、またはアミノ酸の特定の順序を有するポリペプチドなどのポリペプチド分子を指すのに使用されてもよい。
【0053】
2つまたはそれより多くのアミノ酸配列の文脈において「配列同一性」または「配列類似性」は、比較ウインドウまたは指定された領域にわたって最大一致について比較およびアラインされた場合に、同じであるまたは同じであるアミノ酸の特定のパーセンテージ(例えば、特定の領域にわたって60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはさらに高い同一性、を有する2つまたはそれより多くの配列またはサブ配列を指す。National Center for Biotechnology Information、U.S.National Library of Medicine、Bethesda、Maryland、USAから入手可能であるprotein BLASTなどの配列類似性を測定するための様々なツールが利用可能である。配列比較のために、典型的には1つの配列が、検査配列が比較される参照配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを使用する場合、検査および参照配列はコンピューターに入力され、サブ配列座標が指定され、必要に応じて配列アルゴリズムプログラムパラメーターが指定される。初期設定プログラムパラメーターが使用されてもよく、または代替的パラメーターが指定されてもよい。次いで配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメーターに基づいて参照配列に対する検査配列についての配列同一性パーセントを算出する。
【0054】
「切断」「酵素切断」または「酵素的切断」という用語は、本明細書では、酵素プロテアーゼ(ペプチダーゼまたはプロテイナーゼ)によってもたらされるポリペプチドの酵素的加水分解のプロセスまたは結果を指すのに使用される。
【0055】
「切断部位」という用語は、本明細書では、ポリペプチド中のプロテアーゼによる切断の位置を指すのに使用される。「切断部位」という用語は、プロテアーゼが特異的であるポリペプチド中の切断部位を意味する「特異的切断部位」を包含し、示すのに使用されてもよい。
【0056】
「切断産物」という用語は、本明細書では、プロテアーゼによる酵素的切断から生じるポリペプチドを指すのに使用される。
【0057】
フォン・ウィルブランド因子(vWf)は、血漿中に存在する大きな多量体糖タンパク質であり、内皮(バイベル・パラーデ小体において)、巨核球(血小板のα顆粒)および内皮下結合組織において超大型vWFとして構成的に生成される。基本のvWFモノマーは、特定の機能を有する多数の特異的ドメインを含有する2050アミノ酸タンパク質である。vWFモノマーは、翻訳後にN-グリコシル化され、小胞体中で二量体に、およびジスルフィド結合を介するシステイン残基の架橋結合によってゴルジ装置中で多量体に配置される。vWF多量体は、80を超えるvWFモノマーを含有する場合がある。vWFの主な公知の機能は、他のタンパク質、具体的には第VIII因子に結合することであり、創傷部位への血小板粘着において重要であることが公知である。
【0058】
ADAMTS13は、フォン・ウィルブランド因子切断プロテアーゼ(vWFCP)としても公知であるメタロプロテイナーゼである。それは、vWFを切断する亜鉛含有メタロプロテアーゼ酵素である。それは、血中に分泌され、大きなvWf多量体を分解し、それらの活性を減少させる。
【0059】
(ADAMTS13活性の存在または量を決定するための方法)
本発明は、様々な方法で具体化されてもよい。ある特定の実施形態では、本発明は、質量分析によってADAMTS13活性を測定するための方法を含む。一部の実施形態ではタンデムMS/MSが使用される。一部の実施形態では、ADAMTS13活性は、LC-MS/MSによって測定される。同様にADAMTS13活性を測定するためのシステムも含まれる。
【0060】
図1および2は、下線を付けたADAMTS13のための切断部位を含むvWFの部分的なアミノ酸配列(図1の配列番号1;図1および2の配列番号2)を示している。本明細書に記載の方法は、vWF A2ドメイン(残基D1459~L1664)の一部を基質(図2に示す配列番号2および図1中の太字)として使用する場合がある。ADAMTS13切断部位(下線付き)(残基1605~1606)およびエキソサイト(斜字体)(残基1660~1668)も示されている(図1および2を参照されたい)。図3は、ADAMTS13切断部位(下線を付けたフォント)を有する基質ペプチドおよび、図3に示す基質ポリペプチドのADAMTS13切断の産物である生じたN末端ペプチド産物DREQAPNLVY(配列番号4)(即ち「DREペプチド」)を示している。
【0061】
ある特定の実施形態では、本発明は、図4に模式的に例示されるとおり行われる。本発明の例示的な実施形態は、試料中のADAMTS13の活性を決定するための方法であって、試料をADAMTS13に対する合成ペプチド基質(配列番号3)と共に、ADAMTS13による合成ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートしてDREペプチド(配列番号4)を生成するステップ、任意選択で、インキュベートされている試料中の酵素的切断を終結させるステップ、任意選択で、液体クロマトグラフィーを使用して酵素的切断産物をクロマトグラフィーで分離するステップ、ならびに質量分析によって酵素的切断産物を分析して、試料中の酵素的切断産物の存在または量を決定するステップを含み得る方法である。試料中の酵素的切断産物の産物の存在または量は、試料中のADAMTS13の活性の存在または量を示している。図4に示されるとおり、方法は、例えば、[13C,15N]-ロイシンを用いて安定同位体標識されたDREペプチド(配列番号5)などの内部標準を使用してもよい。公知のとおり、他の種類の内部標準が使用されてもよい。例えば内部標準は、未標識であるが異なるアミノ酸配列を有してもよい、またはペプチド中の別のアミノ酸が標識されてもよい。内部標準および基質ペプチド(複数可)は、化学合成または組換え法によって作製されてもよい。
【0062】
したがってある特定の実施形態では、ADAMTS13活性は、患者から得た血漿試料を図1に示されている配列(配列番号1)に基づいた合成ポリペプチド基質とインキュベートすることによって決定されてもよい。合成基質は、図1に示されている配列よりも小さくてもよい。一実施形態では、vWF73と呼ばれる合成基質は、vWFの部分的アミノ酸、残基Asp1596からArg1668(配列番号3)に基づく、図3に示されている73アミノ酸残基ポリペプチドである。vWF73は、切断部位Tyr1605/Met1606を有する。合成基質は、図3におよび、図1に太字で示される配列と同じ配列を必ずしも有さず;配列の変種および改変が可能である。一部の実施形態では、基質は、図1(配列番号1)に示されていないアミノ酸残基配列を有してもよく、および/またはアフィニティータグまたは非天然アミノ酸の含有など、追加的配列を含んでもよい。この例として、MYCタグ(EQKLISEEDL-配列番号6)、FLAGタグ(DYKDDDDK-配列番号7)、ポリHISタグ(HHHHHH-配列番号8)、グルタチオンS-トランスフェラーゼタグまたはビオチン化アミノ酸が挙げられる。しかし、ADAMTS13のための切断部位は、合成基質に存在する。代替的実施形態では、合成基質は、vWF73配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%または95%配列類似性を有する。
【0063】
ADAMTS13による合成基質の切断は、検出可能な産物を生じる。例えば、vWF73のin vitroでの切断では、10アミノ酸残基ペプチドが「DRE産物」と呼ばれる、配列DREQAPNLVYを有して、基質のN末端から形成される。一実施形態では、ADAMTS13活性は、インキュベーション期間の際に創出されるDRE産物の量に比例している。次いでDRE産物は、質量分析によって測定されてもよい。ある特定の実施形態では、インキュベーションは、酵素のメタノール沈殿によって終結され、DRE産物を含有する上清は質量分析を使用して直接分析されてもよい。ある特定の実施形態ではDRE産物は、DRE産物を測定するために、タンデム質量分析(MS/MS)と結合された液体クロマトグラフィー(LC)または別の精製技術(例えば、キャピラリー電気泳動)によって分析される。
【0064】
試料中のADAMTS13活性の量は、内部標準を使用して決定されてもよい。例えば、同位体希釈質量分析を使用して、切断産物の(例えば、DRE産物の)安定同位体標識類似体が、変動について標準化するために内部標準として試料に添加され、MSまたはLC-MS/MSによって酵素的切断産物と同時に測定される。一実施形態では、内部標準は、合成基質ペプチドと同時に添加されてもよい。他の実施形態では、内部標準は、ADAMTS13による合成基質の切断後に添加されてもよい。一実施形態では、測定された分析物:内部標準の比は、形成されたDRE産物の量に比例し、それにより、ADAMTS13活性に直接比例する。したがって、測定された分析物:内部標準の比は、試料中に存在するADAMTS13酵素的切断の量を示している。ADAMTS13活性は、例えば正常ADAMTS13活性レベルを有する患者に由来するプールされた血漿によって規定された100%正常活性を用いて「パーセント正常活性」の単位で表され得る。
【0065】
本発明の実施形態による方法は、試料を提供することを含む。この文脈において、「提供する」という用語は広く解釈される。この用語は、生体試料を提供する対象を排他的に指すものではない。例えば、現場から離れた臨床実験室の技術者は、例えば、試料が抽出および/またはクロマトグラフィーによる精製のために調製されるとき、試料を「提供する」と言える。
【0066】
試料は、任意の特定の試料タイプに限定されない。試料は、ADAMTS13を含有するが、一般にその他の成分も含有する。一部の実施形態では、試料は、抽出および/またはクロマトグラフィーによる精製のために加工され調製された試料である。そのような加工は、後続の精製ステップの有効性を最適化するのに役立ててもよい。そのような加工方法は、当業者に周知である。
【0067】
本発明は、試料の取扱いの、任意の特定の手段に限定されない。一部の実施形態では、抽出および/またはクロマトグラフィーにより部分的に精製する前に、試料を2つまたはそれ超の画分に分離するのに役立ててもよい。一部のそのような実施形態では、特定のカラム化学に関する分離の感度または選択性を改善するのを助けるため、そのような画分の2つまたはそれ超を異ならせて調製してもよい。一部の実施形態では、本方法は、多数の液体クロマトグラフィーシステム全体にわたって繰り返し注入するための、単一の試料を調製することを含む。
【0068】
本発明は、任意の特定の試料サイズにも組成にも限定されない。一部の実施形態では、試料は、生体試料を含む。そのような実施形態では、試料は、溶媒、緩衝液、および抗凝固剤などの、その他の成分を含んでいてもよい。試料が生体試料を含む実施形態では、生体試料は、全血、血漿、血清、尿、脳脊髄液、組織ホモジネート、唾液、羊水、胆汁、粘液、腹水、またはリンパ液の1種または複数とすることができる。本発明は、生体試料の任意の特定の体積に限定されない。一部の実施形態では、生体試料は、体積が少なくとも約0.5~250μL、少なくとも約1~100μL、または少なくとも約2~50μLである。ある特定の実施形態では、生体試料は、体積が少なくとも約2~50μLである。
【0069】
インキュベートされている試料における酵素的切断の終結は、いかなる特定の方法にも限定されない。一部の実施形態では、試料中のADAMTS13による酵素的切断の終結は、適切なインキュベーション期間後の試料への、ADAMTS13酵素的反応を終結させるために十分な量での沈殿試薬の添加によって達成される。沈殿試薬は、メタノール、アセトニトリル、アセトン、2-プロパノール、硫酸アンモニウム、トリクロロ酢酸または過塩素酸であってもよい。一部の実施形態では、温度は、反応を効果的に終結させるために使用され得る。試料は、ADAMTS13を不活性化させるために加熱されてもよく、または試料は、効果的に停止するために反応を遅くするように冷却、凍結される可能性があってもよい。一部の実施形態では反応は、ADAMTS13活性を促さない試料pH、例えば約pH3未満または約pH9を超えるように調整することによって停止されてもよい。他の実施形態では反応はADAMTS13の阻害剤、EDTAまたは他のプロテアーゼ阻害剤などを添加することによって停止されてもよい。一部の実施形態では、酵素的反応を終結させる必要がない場合もある。例えば、ADAMTS13酵素的反応は、一時点での測定よりむしろ一定期間にわたる反復的サンプリングによって、インキュベーションステップの際に継続的にモニターされてもよい。
【0070】
試料の部分的な精製は、部分的に精製された試料を提供する。部分的な精製は、方法の様々な段階で実施されてもよい。例えば、一部の実施形態では、部分的な精製は、試料のインキュベーションおよびADAMTS13活性の終結後に実施されてもよく、ADAMTS13酵素的切断産物を含む試料を生じる。一部の他の実施形態では、部分的な精製は、インキュベーションステップの前に実施されてもよい。1つより多い部分的な精製ステップが、本発明の実施形態による方法において使用されてもよい。部分的な精製は、部分的な精製の方法または結果によって限定されない。一部の実施形態では、目的の構成成分以外の試料中の1つまたは複数の様々な構成成分の濃度は、低減されている。例えば、他の構成成分の濃度は、酵素的切断産物の濃度と比較して部分的に精製された試料において低減されてもよい。別の例では、他の構成成分の濃度は、ADAMTS13の濃度と比較して部分的に精製された試料において低減されてもよい。
【0071】
したがって「除去する」または「除去」という用語は、構成成分の完全な除去を必ずしも意味しない。除去された構成成分の一部の量が部分的に精製された試料中にまだ存在する場合があるが、目的の構成成分のものと比較してその濃度は、抽出前試料においてよりも低い。一部の実施形態では、部分的に精製された試料中の酵素的切断産物に対する、除去された構成成分の相対濃度は、部分的な精製ステップ前の試料中の酵素的切断産物に対するその相対濃度の90%以下、または75%以下、または50%以下、または33%以下、または25%以下、または、10%以下、または5%以下、または1%以下である。本発明は、除去された構成成分のいかなる具体的な種類にも限定されない。一部の実施形態では、1つまたは複数の除去された構成成分は、質量分析による分析または液体クロマトグラフィーに干渉する可能性がある化合物である。部分的な精製方法の一例は、有機溶媒の添加による反応の終結後の遠心分離である。遠心分離の際に、このように処置された試料の沈殿構成成分は除去され、一方、上清はさらに精製および/または分析される。
【0072】
本発明の一部の実施形態では、部分的に精製された試料には、クロマトグラフ分離の前に1つまたは複数の加工ステップを行うことができる。例えば、一部の実施形態では、部分的に精製された試料を蒸発させる。次いで得られた残留物を、溶媒系に入れて元に戻す。任意の適切な溶媒系を、残留物を元に戻すために使用することができる。一部の実施形態では、溶媒系は、クロマトグラフ分離に適合性のある溶媒系である。一部の実施形態では、元に戻すための溶媒系は、水、メタノール、またはこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。一部の他の実施形態では、部分的に精製された試料は、酵素的切断産物を改変するような化学的または酵素的処置を受けてもよい。例えば切断産物は、化学的に誘導体化またはさらに加水分解されてもよい。一部の実施形態では、切断産物は、他の酵素を用いてさらに加水分解されてもよい。
【0073】
一部の実施形態では、本方法は、液体クロマトグラフィーを使用して、ポリペプチドの酵素的切断産物、例えば、DRE産物をクロマトグラフィーで分離することを含む。本発明は、液体クロマトグラフィーを行う任意の特定の手法に限定されない。一般に、クロマトグラフ分離ステップは、少なくとも1つの液体クロマトグラフィー(LC)カラムを使用することを含んでいてもよい。一部の実施形態では、2つもしくはそれ超、または3つもしくはそれ超、または4つもしくはそれ超のLCカラムなど、多数のLCカラムを使用する。一部のそのような実施形態では、2、3、4、5、6、8、または10個のLCカラムが使用される。一部のそのような実施形態では、これらのLCカラムの2つまたはそれ超が互いに平行に配置構成され、同じ質量分析計にインライン接続される。
【0074】
本発明は、カラムの任意の特定のタイプに限定されない。酵素的切断産物の分離に適切な任意のカラムを使用することができる。一部の実施形態では、カラムは、C18カラムであるが、C12、C8、C4、フェニル-ヘキシル、アミド、アミンまたはPFPから構成することもできる。
【0075】
さらに、本発明は、任意の特定の移動相に限定されない。任意の適切な移動相を、移動相が特定のLCカラムと共に使用するのに適切である限り、およびLCカラム内で酵素的切断産物をクロマトグラフィーで分離するのに適切である限り、使用することができる。一部の実施形態では、移動相は、アセトニトリル(0~100%)で構成されている。あるいは、移動相は、メタノール(0~100%)で構成されていてもよい。一部のそのような実施形態では、移動相は、2種またはそれ超の溶媒の相対比が経時的に変化するように、勾配を用いる。一部の実施形態では移動相は、トリフルオロ酢酸、ギ酸、アンモニウム、ヘプタフルオロ酪酸および/または酢酸などのイオン対試薬からなる。
【0076】
ある特定の実施形態では、2つまたはそれ超のLCカラムを、平行にかつ同じ質量分析計にインライン接続して、例えばスループットを改善するために使用することができる。一部のそのような実施形態では、試料(部分的に精製された試料であり得る)を、2つまたはそれ超のLCカラムに異なる時間で導入する。一部の実施形態では、2つまたはそれ超のLCカラムへの試験試料の導入は互い違いになされ、これは2つまたはそれ超のLCカラムへの試料の導入を切り離す、事前に決定された時間間隔があることを意味する。適切な時間間隔は、溶出時間、カラム化学、およびその他のLCカラムの1つまたは複数から溶出された酵素的切断産物の分析の妨害を回避する潜在的な必要性を含む、様々な要因に基づいて選択することができる。
【0077】
本発明の一部の実施形態では、LCカラムを、別のカラムと直列に配置することができる。例えば、一部の実施形態では、適切なガードカラムを用いることができる。当業者なら、本発明の方法で使用するのに適切なガードカラムを選択することが可能である。一部の実施形態では、ガードカラムを別のLCカラムと平行に配置する。そのような直列の2つまたはそれ超のカラムを平行に配置構成して、各直列のカラムが2つまたはそれ超のカラムを含有する、平行に動作する2つまたはそれ超の直列のカラムが存在するようにすることもできる。他の実施形態では、オンライン抽出カラムが、使用されてもよい。例えば、方法の一部の実施形態ではオンライン固相抽出カラムは使用されてもよい。
【0078】
本発明の一部の実施形態では、酵素的切断産物は、電気泳動によって精製されてもよい。例えば一部の実施形態では、酵素的切断産物は、干渉する可能性がある物質からキャピラリー電気泳動を使用して分離される。
【0079】
一部の実施形態では、本方法は、質量分析法によって、クロマトグラフィーで精製または分離された酵素的切断産物を分析することにより、酵素的切断産物の存在または量を決定することを含む。一部の実施形態では、LCカラムの2つまたはそれ超が、同じ質量分析計に流れ込む。一部のさらなる実施形態では、LCカラムの3つまたはそれ超が同じ質量分析計に流れ込む。一部の実施形態では、質量分析計が、合わせたLC-MSシステムの部分である。
【0080】
本発明は、質量分析計の任意の特定のタイプに限定されない。任意の適切な質量分析計を使用することができる。一部の実施形態では、本方法は、タンデム質量分析計を用いる。一部のそのような実施形態では、酵素的切断産物を分析することは、酵素的切断産物をイオン化すること、イオン化した酵素的切断産物を分析すること、酵素的切断産物を2つまたはそれ超の断片イオンに断片化すること、および断片イオンを分析することを含む。
【0081】
本発明は、任意の特定のイオン化方法を使用する質量分析計に限定されない。本方法は、酵素的切断産物からの多価イオンの生成に好適なイオン化技術を使用することができる。適切なイオン化方法には、光イオン化、エレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化、および電子捕獲イオン化が含まれるが、これらに限定されない。そして、断片化を用いる実施形態では、任意の適切な断片化技法を使用することができる。適切な技法には、衝突誘起解離、電子捕獲解離、電子移動解離、赤外多光子解離、放射解離、電子脱離解離、および表面誘起解離が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
一部の実施形態では、タンデム質量分析計が、MDS-Sciex API5500三連四重極質量分析計である。一部の実施形態では、タンデム質量分析計は大気圧イオン化源を有し、分析するステップは、光イオン化、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、電子捕獲イオン化、電子イオン化、高速原子衝撃/液体二次イオン化(FAB/LSI)、電場イオン化、電場脱離、サーモスプレー/プラズマスプレーイオン化、粒子線イオン化、およびいわゆる「ハイブリッドイオン化」技術、例えば、レーザーアブレーションエレクトロスプレーイオン化(LAESI)、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)、またはマトリックス支援レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALDESI)からなる群から選択されるイオン化方法を含む。イオン化方法は、陽イオンモードであっても陰イオンモードであってもよい。分析するステップは、多数の反応のモニタリング(MRM、選択反応モニタリングまたはSRMとも呼ばれる)または選択イオンモニタリング(SIM)を含んでいてもよく、2つまたはそれ超の生体分子が同時にまたは順次分析される。一部の実施形態では、分析するステップは、四重極分析計を使用する。一部の実施形態では、質量分析計は、三連四重極質量分析計である。一部の実施形態では、分析するステップは、並行反応モニタリング(PRM)においてなどの四重極飛行時間型(Q-TOF)または四重極オービトラップ(orbitrap)装置での産物イオンスキャンを用いて行われてもよい。
【0083】
本方法は、一部の実施形態において、内部標準を使用することを含む。そのような実施形態では、内部標準は、イオン化ステップの前の任意の適切な点で導入することができる。任意の適切な内部標準を使用することができる。一部の実施形態では、内部標準は、酵素的切断産物の安定な同位体で標識された等価物である。一部のそのような実施形態では、内部標準は、1つまたは複数のアミノ酸の安定同位体濃縮によって標識される。例えば、一部の実施形態では内部標準は、[13C,15N]-ロイシンを有するDREペプチドである。または他の同位体が使用される、および/もしくはアミノ酸が標識されてもよい。
【0084】
一部の実施形態では、試料中のADAMTS13酵素的切断の量は、定量される必要はない。一部の実施形態では、方法は、試料中のADAMTS13酵素的活性の存在または非存在を決定するために使用されてもよい。他の実施形態では、方法は、試料中のADAMTS13酵素的活性の量を決定するために使用される。例えば、一部の実施形態および/または態様では、本発明は、試料中のADAMTS13活性の量を決定するための方法であって、試料をADAMTS13に対する合成ペプチド基質(および内部標準)と共に、ADAMTS13による合成ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ、任意選択で、インキュベートされている試料中の酵素的切断を終結させるステップ、任意選択で、液体クロマトグラフィーを使用して酵素的切断産物および内部標準を試料の他の構成成分からクロマトグラフィーで分離するステップ、ならびに酵素的切断産物および内部標準をイオン化して、試料中の酵素的切断産物および内部標準の量を決定するために質量分析によって分析される多価イオンを作製するステップであって、酵素的切断産物と内部標準との決定された量の比が試料中のADAMTS13の活性の量を示す、ステップを含む方法を提供する。
【0085】
一部の実施形態では、方法は、定量下限(LLOQ)および/または定量上限(ULOQ)によって限定されない。一部の実施形態では、LLOQは2%であり、ULOQは100%である。
【0086】
試料中の活性の量は、外部標準曲線との比較によって決定されてもよい。例えば、DREペプチドの量は、系列希釈される(例えば、2%ADAMTS13活性まで)およそ100%ADAMTS13を含むプールされた正常血漿を使用して作成された較正標準の外部標準曲線と比較されてもよい。方法は、特定の数の較正レベルに限定されない。一部の実施形態では、較正曲線を作成するために1点だけが必要である。一部の実施形態では較正物質が、試料に添加されてもよい。
【0087】
(報告作成方法)
少なくとも1つの態様では本発明は、対象におけるADAMTS13の活性の低減に関連する疾患または状態を診断するための報告を作成するための方法を提供する。そのような疾患または状態の一例はTTPである。そのような方法は、試料をADAMTS13に対する合成ペプチド基質および内部標準生成ペプチドと共に、ADAMTS13による合成ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ、任意選択で、インキュベートされている試料中の酵素的切断を終結させるステップ、任意選択で、液体クロマトグラフィーを使用して酵素的切断産物および内部標準を試料の他の構成成分からクロマトグラフィーで分離するステップ、酵素的切断産物および内部標準をイオン化して、試料中の酵素的切断産物および内部標準の量を決定するために質量分析によって分析される多価イオンを作製するステップであって、酵素的切断産物と内部標準との決定された量の比が試料中のADAMTS13の活性の量を示す、ステップ、ならびに試料におけるADAMTS13の活性の量を記載する報告を作成するステップを含み得る。
【0088】
試料中のADAMTS13の活性の量についての情報に基づいて、対象が異常に低い量のそのような活性を有するかどうかを評価できる。そのような情報は、対象においてADAMTS13活性の異常なレベルに関連する1つまたは複数の疾患または障害を診断するために有用である可能性がある。報告作成のステップ以外の全てのステップの特徴および実施形態は、直前に記述されている。上述のように、本方法は、同じ質量分析計に平行にインライン接続された1つ超のカラム、例えば2つまたはそれ超のカラムを用いることができる。
【0089】
一実施形態では、10%未満のADAMTS13活性レベルは、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を高度に示しているが、ある特定の実施形態では、別の医学的に確立された診断用産物または手順による診断の検証を行うことなく単独の診断手段として使用されるべきでない。反対に、10%を超えるADAMTS13活性レベルは、TTPの臨床診断を完全には除外できない。臨床的に診断されたTTPを有する患者の40%程度もが、10%を超えるADAMTS13レベルを有する。正常または軽度から中等度欠損したADAMTS13活性を有する場合がある他の状態として、溶血性尿毒症症候群(HUS)、非定型的溶血性尿毒症症候群(aHUS)および造血幹細胞および臓器移植に関連する他の血栓性微小血管症、肝疾患、DIC、敗血症、妊娠またはある特定の薬物療法(例えば、チクロピジン、クロピドグレル、シクロスポリン、マイトマイシンC、キニーネ)の影響が挙げられる。
【0090】
一部の実施形態では、ADAMTS13活性測定は、試料中のADAMTS13阻害物質の存在および/または在量を決定するために使用されてもよい。既知の低い活性を有する試料を既知の正常な活性を有する試料と既知の割合で混合することによって、得られた混合試料の活性を測定できる。混合物の既知の比および個々の試料の既知の活性に基づいて、混合物において測定された活性を混合物において予測された活性と比較でき、それにより、予測した活性より低く測定された活性は、低活性試料中の阻害物質の存在および量を示している。一部の場合では、低活性試料は熱不活性化されている場合がある。
【0091】
(システム)
別の態様では、本発明は、試料中のADAMTS13活性の存在または量を決定するためのシステムを提供する。例えば、システムは、試料をADAMTS13に対する合成ペプチド基質と共に、ADAMTS13による合成ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするためのステーションと、酵素的切断産物を多価に荷電させ(即ち、イオン化し)、質量分析によって分析して試料中の酵素的切断産物の量を決定するためのステーションであって、酵素的切断産物の量が試料中のADAMTS13の量を示す、ステーションとを含む。システムは、液体クロマトグラフィーまたは他の分離方法(例えば、キャピラリー電気泳動)を使用して酵素的切断産物をクロマトグラフィーで分離するためのステーションを含んでもよい。
【0092】
そのようなシステムは、本発明の実施形態に従う方法に関する上述の内容に類似した、様々な実施形態およびサブ実施形態を含むことができる。これらのシステムは、様々なステーションを含む。本明細書で使用される「ステーション」という用語は、広く定義され、列挙される方法を実施するために適切な、任意の適切な装置または装置の集合体を含む。ステーションは、任意の特定の方法で互いに一体的に接続されまたは据えられる必要はない。本発明は、互いに対してステーションの任意の適切な配置構成を含む。例えばステーションは、同じ室内にある必要もない。しかし、一部の実施形態では、ステーションは、一体型ユニット内で互いに接続される。
【0093】
本発明の実施形態による方法およびシステムは様々な利点を有する。例えば、本発明の方法およびシステムにおけるLC-MS/MSの使用は、特に有利である。ADAMTS13の以前のアッセイは、イムノアッセイ手順(Katoら、2006年、Transfusion 46巻:1444~1452頁)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)(Kokameら、Br. J. Hematol.、2005年、129巻:93~100頁、または(SELDI-TOF)-質量分析(Jinら、J. Thrombosis and Haemostasis、2006年、4巻:333~338頁)のいずれかを使用している。本明細書に記載の方法およびシステムは、イムノアッセイと比較して感受性(例えば、LLOQの2%)および特異性を向上させ、FRETと比較してスループットを増大させかつ費用を低減し、エレクトロスプレーイオン化による多価イオンの生成によって特異性を増大させ、これは、例えば(SELDI-TOF)-MSと比較してタンデム質量分析による分析を促進する。
【0094】
(非限定的な実施形態)
非限定的な実施形態は、下記を含む:
1.試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の酵素活性を決定するための方法であって、
(a)酵素的切断産物を生成するために、試料を、ADAMTS13に対する外来性ペプチド基質と共に、ADAMTS13による外来性ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ;
(b)切断産物の多価気相イオンを作製するために、酵素的切断産物をイオン化するステップ;および
(c)試料中の酵素的切断産物の存在または量を決定するために、多価気相イオンを質量分析によって分析するステップであって、試料中の酵素的切断産物の産物の存在または量が試料中のADAMTS13の活性の存在または量を示す、ステップ
を含む方法。
【0095】
2.ステップ(a)の後でステップ(b)の前に、酵素的切断産物を部分的に精製するステップをさらに含み、ステップ(b)が部分的に精製された酵素的切断産物に対して行われる、パラグラフ1の方法。
【0096】
3.酵素的切断産物を部分的に精製するステップが遠心分離を含み、ステップ(b)が酵素的切断産物を含む上清に対して行われる、パラグラフ2の方法。
【0097】
4.酵素的切断産物を部分的に精製するステップが、酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、液体クロマトグラフィーを含み、ステップ(b)が溶出物に対して行われる、パラグラフ2の方法。
【0098】
5.酵素的切断産物を部分的に精製するステップが、酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、キャピラリー電気泳動を含み、ステップ(b)が溶出物に対して行われる、パラグラフ2の方法。
【0099】
6.酵素的切断産物を部分的に精製するステップが、酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、固相抽出を含み、ステップ(b)が溶出物に対して行われる、パラグラフ2の方法。
【0100】
7.酵素的切断産物を部分的に精製するステップが、酵素的切断産物を含む溶出物を生成する、ろ過を含み、ステップ(b)が溶出物に対して行われる、パラグラフ2の方法。
【0101】
8.酵素的切断産物を部分的に精製するステップが、酵素的切断産物を含む保持画分を生成するろ過を含み、ステップ(b)が保持画分に対して行われる、パラグラフ2の方法。
【0102】
9.酵素的切断産物を部分的に精製するステップが、酵素的切断産物のアフィニティー濃縮の使用を含み、ステップ(b)がアフィニティー濃縮された酵素的切断産物に対して行われる、パラグラフ2の方法。
【0103】
10.アフィニティー濃縮技術が、固定化金属アフィニティーレジンを使用する、パラグラフ9の方法。
【0104】
11.アフィニティー濃縮技術が、抗体、を使用する、パラグラフ9の方法。
【0105】
12.アフィニティー濃縮技術が、抗体の断片、例えば、Fab断片を使用する、パラグラフ9の方法。
【0106】
13.アフィニティー濃縮技術が、ストレプトアビジンを使用する、パラグラフ9の方法。
【0107】
14.アフィニティー濃縮技術が、プロテインGを使用する、パラグラフ9の方法。
【0108】
15.アフィニティー濃縮技術が、プロテインAを使用する、パラグラフ9の方法。
【0109】
16.アフィニティー濃縮技術が、アプタマーを使用する、パラグラフ9の方法。
【0110】
17.ステップ(a)と(b)の間で、任意選択でパラグラフ2の部分的精製ステップの前に、インキュベートされている試料中の酵素的切断を終結させるステップをさらに含む、パラグラフ1の方法。
【0111】
18.終結させるステップが、インキュベートされている試料に沈殿試薬を添加することを含む、パラグラフ17の方法。
【0112】
19.沈殿試薬が、メタノールを含む、パラグラフ18の方法。
【0113】
20.沈殿試薬が、アセトニトリルを含む、パラグラフ18の方法。
【0114】
21.沈殿試薬が、アセトンを含む、パラグラフ18の方法。
【0115】
22.沈殿試薬が、2-プロパノールを含む、パラグラフ18の方法。
【0116】
23.沈殿試薬が、スルフェートを含む、パラグラフ18の方法。
【0117】
24.沈殿試薬が、トリクロロ酢酸を含む、パラグラフ18の方法。
【0118】
25.沈殿試薬が、過塩素酸を含む、パラグラフ18の方法。
【0119】
26.終結させるステップが、インキュベートされている試料のpHをpH5未満に調整することを含む、パラグラフ17の方法。
【0120】
27.終結させるステップが、インキュベートされている試料のpHをpH9を超えるように調整することを含む、パラグラフ17の方法。
【0121】
28.終結させるステップが、インキュベートされている試料を摂氏50度を超える温度に加熱することを含む、パラグラフ17の方法。
【0122】
29.終結させるステップが、インキュベートされている試料を摂氏15度未満の温度に冷却することを含む、パラグラフ17の方法。
【0123】
30.終結させるステップが、インキュベートされている試料にADAMTS13の阻害剤を添加することを含む、パラグラフ17の方法。
【0124】
31.阻害剤がエチレンジアミン四酢酸である、パラグラフ30の方法。
【0125】
32.外来性基質が、vWF73のアミノ酸配列に対して少なくとも70%配列類似性を有する合成ペプチドである、パラグラフ1の方法。
【0126】
33.外来性ペプチド基質が、フォン・ウィルブランド因子配列に対して少なくとも70%配列類似性を有する、パラグラフ1の方法。
【0127】
34.外来性ペプチド基質がADAMTS13の切断部位を含む、パラグラフ1の方法。
【0128】
35.合成ペプチド基質が1つまたは複数のアフィニティータグを含む、パラグラフ1の方法。
【0129】
36.1つまたは複数のアフィニティータグが、MYC-タグ、FLAG-タグ、ポリHis-タグおよびGST-タグからなる群から選択される、パラグラフ35の方法。
【0130】
37.1つまたは複数のアフィニティータグが抗体に対するエピトープを含有する、パラグラフ35の方法。
【0131】
38.外来性ペプチド基質が1つまたは複数の非天然アミノ酸を含む、パラグラフ1の方法。
【0132】
39.1つまたは複数の非天然アミノ酸がビオチン化されている、パラグラフ38の方法。
【0133】
40.1つまたは複数の非天然アミノ酸が安定同位体標識されたアミノ酸である、パラグラフ38の方法。
【0134】
41.酵素的切断産物が、DREQAPNLVYの配列を有するポリペプチドを含む、パラグラフ1の方法。
【0135】
42.ステップ(b)が、エレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化および大気圧光イオン化からなる群から選択されるイオン化技術を使用して酵素的切断産物をイオン化することを含む、パラグラフ1の方法。
【0136】
43.分析するステップ(c)がタンデム質量分析を使用する、パラグラフ1の方法。
【0137】
44.分析するステップ(c)が、602.8±2、182.1±2、281.1±2、462.7±2、512.3±2、600.3±2、605.3±2、811.4±2、924.5±2および1023.5±2からなる群から選択されるm/zを有するイオンを使用する、パラグラフ1の方法。
【0138】
45.分析するステップ(c)が、ADAMTS13の比活性を決定することを含む、パラグラフ1の方法。
【0139】
46.内部標準が、ステップ(b)の前に添加される、パラグラフ1の方法。
【0140】
47.内部標準が、基質と同時に添加される、パラグラフ46の方法。
【0141】
48.内部標準が、インキュベーションのステップ(a)の前に試料に添加される、パラグラフ46の方法。
【0142】
49.内部標準が、インキュベートされている試料に添加される、パラグラフ46の方法。
【0143】
50.内部標準が、酵素的切断産物の同位体標識等価物である、パラグラフ46の方法。
【0144】
51.内部標準の存在または量が、ステップ(c)における酵素的切断産物の存在または量と共に決定される、パラグラフ46の方法。
【0145】
52.内部標準の決定された量と酵素的切断産物の決定された量との間の比が、ステップ(a)において形成された酵素的切断産物の量を示す、パラグラフ51の方法。
【0146】
53.内部標準の決定された量と酵素的切断産物の決定された量との間の比が試料中のADAMTS13の活性量を示す、パラグラフ51の方法。
【0147】
54.試料が、患者から得られた生体液である、パラグラフ1の方法。
【0148】
55.生体液が血漿である、パラグラフ54の方法。
【0149】
56.生体液が血清である、パラグラフ54の方法。
【0150】
57.ステップ(a)と(b)との間で、任意選択で部分的精製ステップの前または後のいずれかで終結ステップの後に、インキュベートされている試料における酵素的切断の分子構造を改変するステップを含む、パラグラフ1、2および17のいずれか1つの方法。
【0151】
58.改変するステップが、酵素的切断産物を加水分解するステップをさらに含む、パラグラフ57の方法。
【0152】
59.加水分解が酵素を使用して行われる、パラグラフ58の方法。
【0153】
60.酵素が、トリプシンである、パラグラフ59の方法。
【0154】
61.酵素が、ペプシンである、パラグラフ59の方法。
【0155】
62.酵素が、LysCである、パラグラフ59の方法。
【0156】
63.加水分解が化学試薬を使用して行われる、パラグラフ59の方法。
【0157】
64.化学試薬が、ギ酸である、パラグラフ63の方法。
【0158】
65.化学試薬が、臭化シアンである、パラグラフ63の方法。
【0159】
66.酵素的切断産物が誘導体化される、パラグラフ57の方法。
【0160】
67.誘導体化が、酵素により触媒される誘導体化である、パラグラフ66の方法。
【0161】
68.誘導体化が、化学的付加である、パラグラフ66の方法。
【0162】
69.試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有する酵素ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の活性の量を決定するための方法であって、
(a)試料を、ADAMTS13に対する合成ペプチド基質および試料に対する産物ペプチドの同位体標識等価物と共に、ADAMTS13による合成ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするステップ;
(b)インキュベートされている試料中の酵素的切断を終結させるステップ;
(c)液体クロマトグラフィーまたは他の精製技術を使用して酵素的切断産物および内部標準を試料の他の構成成分から部分的に精製するステップ;および
(d)試料中の酵素的切断産物および内部標準の量を決定するために、部分的に精製された酵素的切断産物および標準を質量分析によって分析するステップであって、酵素的切断産物と内部標準との決定された量の比が試料中のADAMTS13の活性の量を示す、ステップ
を含む方法。
【0163】
70.患者から得られた試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有する酵素ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の活性の低減に関連する疾患または状態を診断するために有用な報告を作成する方法であって、上のパラグラフのいずれかの方法のいずれかを行うことおよび試料中のADAMTS13の活性の量を述べる報告を作成することを含む方法。
【0164】
71.疾患または状態が血栓性血小板減少性紫斑病である、パラグラフ70の方法。
【0165】
72.対象における血栓性血小板減少性紫斑病を診断するための方法であって、上記パラグラフの任意の方法のいずれかを実施することを含み、正常値の10%未満のADAMTS13活性レベルが、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を高度に示す、方法。
【0166】
73.試料中のトロンボスポンジン1型モチーフを有する酵素ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)の活性を決定するためのシステムであって、
(a)酵素的切断産物を生成するために、試料を、ADAMTS13に対する外来性ペプチド基質と共に、ADAMTS13による外来性ペプチド基質の酵素的切断を可能にする条件下でインキュベートするためのステーション;
(b)切断産物の多価気相イオンを作製するために、酵素的切断産物をイオン化するためのステーション;および
(c)試料中の酵素的切断産物の存在および/または量を決定するために、多価気相イオンを質量分析によって分析するためのステーションであって、酵素的切断産物の量が試料中のADAMTS13の前記活性を示す、ステーション
を含むシステム。
【0167】
74.液体クロマトグラフィーを使用して酵素的切断産物をクロマトグラフィーで分離するためのステーションをさらに含む、パラグラフ73に記載のシステム。
【0168】
下記の実施例は、現在開示されている主題の代表的な実施形態を実施するために、当業者に指針を提供するよう含めている。本開示および当業者の一般的レベルに照らし、当業者なら、下記の実施例は単なる例示であり、現在開示されている主題の範囲から逸脱することなく数多くの変更例、修正例、および代替例を用いることができることを、理解することができる。
【実施例0169】
患者血漿を合成基質と共に最適化(即ち、非生理学的)条件下でインキュベートすることによってADAMTS13活性を決定する。vWF73と称される合成基質は、vWF残基アスパラギン酸1596からアルギニン1668の天然アミノ酸配列に由来する73アミノ酸残基ペプチドであり、それはADAMTS13切断部位(チロシン1605/メチオニン1606)を有する。vWF73のin vitro切断で、10アミノ酸残基産物ペプチドが基質のN末端から形成され、産物ペプチドは配列DREQAPNLVY(配列番号4)を有する。ADAMTS13活性は、30分間のインキュベーションの際に創出された産物ペプチドの量に比例し、これは、タンデム質量分析(MS/MS)に結合させた液体クロマトグラフィー(LC)を使用してメタノール沈殿後の同位体希釈によって測定する。アッセイは、臨床的に正常な個体由来のプールされた血漿を使用して外部較正し、WHO 1st International Standard for ADAMTS13 in Plasma(12/252)に対して標準化した。「パーセント正常活性」の単位で表された標準化ADAMTS13活性を、合成マトリクスと共に使用した、プールされた正常血漿の希釈から2から100%正常活性のスパンで創出した外部較正曲線から内挿する。
【0170】
(検体)
推奨される試料は、クエン酸ナトリウム緩衝液中に分注した0.1~0.8mLの血清または血漿である。約10~20μLを各アッセイのために使用する。標準サンプリングチューブまたは分離ゲルを含有するチューブを使用して血清を収集する。血清/血漿は、収集の1時間以内に細胞から取り出し、プラスチック輸送チューブに移されなければならない。血清および血漿は、使用まで-20℃で凍結保存されるべきである。
【0171】
(試薬調製)
ADAMTS13アッセイ用、生成緩衝液(10mM Bis-Tris、10mM塩化カルシウム、pH6.0)を使用する。
【0172】
DREペプチド50μg/mLおよび内部標準(IS)、NH2-DREQAPNLVY-OH(配列番号5)L=[15N、13C6]-ロイシン)(SIL.vWF10)のストック溶液は、NAT.vWF10またはSIL.vWF10の単一の0.05mgバイアルに1mLの0.001%Zwittergent3-16を直接添加して50μg/mL濃度とすることによって作製される。溶液を混合し、使用前に少なくとも15分間室温に保つ。溶液は、2時間以内に使用するかまたは凍結し、-70℃未満で2年間まで安定である。
【0173】
アミノ酸分析によって決定された濃度(典型的には、100から1000μmol/L)を有する、30%アセトニトリル、0.1%ギ酸中の基質ペプチド(vWF73)のストック基質溶液は、製造元から直接購入する。ストック基質は、-70℃未満で2年間まで保存できる。
【0174】
vWF73の配列を下および図1~3に示す。
NH2-DREQAPNLVYMVTGNPASDEIKRLPGDIQVVPIGVGPNANVQELERIGWPNAPILIQDFETLPREAPDLVLQR-OH(配列番号3)
【0175】
ストック溶液を0.001%Zwittergent3 16中に適切に希釈することにより、使用基質-内部標準混合物(900nmol/L vWF73、50ng/mL)(SIL.vWF10)を作製する。それを-70℃未満で3カ月まで保存する。アリコートは、2回凍結/融解後に廃棄する。
【0176】
0.001%Zwittergent3-16中の使用システム適合性検査溶液(10ng/mL NAT.vWF10)を作製する。それを、-70℃未満で2年間まで保存する。
【0177】
ブランクマトリクス(60mg/mL BSA、PBS中)を作製する。
【0178】
プール正常血漿(PNP)を低および中等度品質カットオフ(quality cut-off)対照を生成するために使用する。PNPを作製するために、20名の表面上は正常な個体由来の5回反復検体を3.2%クエン酸ナトリウムチューブに収集する(合計100個の検体)。検体を通常の手順により処理し、溶血した検体は廃棄し、プールし、直ちに使用するまたは凍結する。それらを-70℃未満で2カ月まで保存する。熱不活化プール正常血漿(HIPNP)を調製するために、10から50mLアリコートのPNPを12から16時間、56℃、水浴中でインキュベートする。HIPNPは、1週間まで冷蔵保存(2~8℃)または1年間まで-10℃未満で保存できる。
【0179】
(較正および参照標準)
DREペプチドの量を、2%ADAMTS13活性まで系列希釈される100%ADAMTS13を有するPNPを使用して作成された較正標準の外部標準曲線と比較する。許容可能な較正曲線適合は、範囲全体を通じて85から115%の間であると規定する。追加的標準化は、参照標準として、希釈されていない場合に91.0%活性を示すWHO 1st International Standard for ADAMTS13 in plasmaを使用する。参照標準についての平均回収率は、90から110%の間でなければならない。したがって参照標準回収率は、較正物質値を補正するために使用される。例えば、参照標準回収率が112.3%である場合、20%較正物質に対して与えられる値は17.81%(20%/1.123)である。
【0180】
(マトリクス対照)
次のマトリクス対照(QC)をプール正常血漿(PNP)に調製する。QCの調製において使用するPNPのロットは、使用較正物質において使用するPNPのロットとは異なっていなければならない。
【0181】
正常(即ち、PNP)の5~15%の間の平均ADAMTS13活性を有するようにPNPをHI-PNPで希釈することにより、低QCを作製する。ADAMTS13抗体をPNPに添加して約1:50の抗体混合物を作製し、次いで(追加のPNPで)希釈して希釈物が20~40%の間のADAMTS13活性を有することを確認することにより、中等度QCを作製する。
【0182】
(ADAMTS13アッセイ手順)
水浴を45℃(±3℃)に予熱し、ブランク、標準、対照、試料および凍結試薬を環境条件下で融解させる。ブランク、標準、対照および試料のアリコート13μLを1.2mL、96ディープウェルプレート(プレートA)の別々のウェルにピペット分取する。次に、生成緩衝液のアリコート923μLをプレートAの各ウェルにピペット分取する。次にプレートを封止し(例えば、箔を用いて)、試薬と混合するために渦動させる。
【0183】
この時点で使用基質/内部標準混合物のアリコート(25μL)を新たな1.2mL、96ディープウェルプレート(即ち、プレートB)の合致するウェルに添加する。両方のプレートは、二重ブランク(0.001%Zwittergent3-16)のためのウェルを含む。この時点で、プレートAから25μLの希釈試料をプレートB中の使用基質/内部標準に移す。次いでプレートBを封止し(例えば、接着性シーラントを用いて)、遠心分離に供し、完全な移行および混合を確実にするために渦動させる。次いでプレートBを45℃(±3℃)水浴で30分間(±1分間)インキュベートする。次いでプレートBを遠心分離し、反応を終結させるために250μLのメタノールを各ウェルに添加する。
【0184】
この時点で、試料は、LC/MS-MS分析のための準備ができている。ウェルを封止後(例えば、箔を用いて)、試料(即ち、プレートB)を渦動させ(5分間)、遠心分離する(例えば、約3250rpmで10分間)。次いで、上清の各試料のアリコート(200μL)をプレートBから新たなプレート、プレートCに移す。封止後(例えば、箔を用いて)、試料を冷却し、LC-MS/MSに供する。LCは、アセトニトリル勾配を用いる逆相C18固定相を使用する。ローディングは、ローディングを改善するために追加的水性試薬を添加するための第2のポンプを含む。DMSOもアセトニトリル勾配に含まれてよい。表1に示されるとおり、MS/MSは、クオンティファイア(quantifier)シグナルが混入物(複数可)によって損なわれていないことを確実にするために、2つのクオリファイア(qualifier)(即ち、追加的断片)を使用する。
【表1】

(分析的測定可能範囲)
【0185】
検証において決定された定量下限(LLOQ)および定量上限(ULOQ)を下の表2に列挙する。
【表2】

(臨床的に報告可能な範囲)
【0186】
検証において決定された報告可能な下限(LRL0および上限(URL)を下の表3に列挙する。
【表3】

(参照間隔および解釈)
【0187】
アッセイの検証の際に確立された正常参照間隔は:>66%正常ADAMTS13活性である。66%未満のレベルは、潜在的状態を示している。
【0188】
本発明の好ましい実施形態が例示され記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更がそこになされ得ることは理解されよう。本出願において参照する全ての公表された特許および刊行物は、この参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2022123057000001.app
【外国語明細書】