(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123058
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】遅延性ゲル化組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20220816BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220816BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220816BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20220816BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20220816BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20220816BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K47/02
A61K9/08
A23L29/231
A23L29/256
A23L29/269
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097208
(22)【出願日】2022-06-16
(62)【分割の表示】P 2018198857の分割
【原出願日】2018-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】597087804
【氏名又は名称】大蔵製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(72)【発明者】
【氏名】垣野 由佳理
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 菜月
(72)【発明者】
【氏名】菱川 慶裕
(57)【要約】
【課題】ゲル化組成物に水を加えた溶液に対して、例えば分注操作や他の成分との混合操作を容易にすることができる新たなゲル化組成物を提供することを主な課題とする。
【解決手段】本発明として、例えば、所定の群から選択される1種以上のゲル化剤と甘味剤とを含み、かかるゲル化剤によるゲル化に金属イオンを必要とし、水を加え加温冷却操作を行うことなく常温でゾル状態からゲル状態に転移させて使用するゲル化組成物(但し、アビピン酸を含むものを除く。)であって、かかるゲル化組成物に水を加えたゾル溶液は、加水後、所定の群から選択される1種以上の金属イオンまたは金属塩の存在下において少なくとも90秒間ゾル状態を持続し、加水後1時間までに加水後1分の粘度に対して1.2~1.5倍の粘度に達し、加水後10分以降かつ加水後6時間までにゲル状態を呈することを特徴とする遅延性ゲル化組成物を挙げることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペクチン;アルギン酸、その塩、もしくはそのエステル;カラギーナン;およびジェランガムからなる群から選択される1種以上のゲル化剤と甘味剤とを含み、かかるゲル化剤によるゲル化に金属イオンを必要とし、水を加え加温冷却操作を行うことなく常温でゾル状態からゲル状態に転移させて使用するゲル化組成物(但し、アジピン酸を含むものを除く。)であって、
かかるゲル化組成物に水を加えたゾル溶液は、加水後、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、およびバリウムイオン、ならびにカルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、およびバリウム塩からなる群から選択される1種以上の金属イオンまたは金属塩の存在下において少なくとも90秒間ゾル状態を持続し、加水後1時間までに加水後1分の粘度に対して1.2~1.5倍の粘度に達し、加水後10分以降かつ加水後6時間までにゲル状態を呈することを特徴とする、遅延性ゲル化組成物。
【請求項2】
前記ゲル化剤および前記金属イオンもしくは前記金属塩が分離して存在するか、または前記ゲル化剤および前記金属塩の粉末を含む単純混合物、前記ゲル化剤および前記金属塩を含む造粒物、もしくは前記ゲル化剤および前記金属塩を含む打錠成形物である、請求項1に記載の遅延性ゲル化組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の遅延性ゲル化組成物を含む、遅延性ゲル化医薬品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の遅延性ゲル化組成物と食品素材とを含む、遅延性ゲル化食品。
【請求項5】
薬理活性成分を含むゼリー状医薬品の製造方法であって、請求項1または2に記載の遅延性ゲル化組成物と水溶液状または水懸濁液状の経口医薬品とを混合し、加温冷却操作を行うことなくゲル化させる工程を含むことを特徴とする、ゼリー状医薬品の製造方法。
【請求項6】
食品素材を含むゼリー状食品の製造方法であって、請求項1または2に記載の遅延性ゲル化組成物と水溶液状または水懸濁液状の食品とを混合し、加温冷却操作を行うことなくゲル化させる工程を含むことを特徴とする、ゼリー状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化組成物の技術分野に属する。本発明は、具体的にはペクチン等のゲル化剤を含むゲル化組成物であって、水を加えて金属イオンの存在下においてゲル化を促しても直ちにはゲル化しない遅延性ゲル化組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペクチン等のゲル化剤を含む溶液は、カルシウムイオン等の金属イオンと接するとゲル化を起こし、当該溶液はゾル状態からゲル状態へと転移する。かかる溶液のゲルは通常ゼリー状であり、医薬品の製剤分野や食品分野などで利用されている。例えば、ゼリー状の医薬品(ゼリー剤)は、薬物の持つ苦味や強い甘味をゲル中のマトリックスに包埋し、舌の味蕾細胞との接触を抑えることで味をマスキングするために利用されている。また、ゼリーの持つ流動性から、高齢者や嚥下障害者、あるいは小児に飲み易いものを提供するために利用されている。
【0003】
ゼリー状の医薬品は他にも利点を有する。固形医薬品を服用する場合、通常、水と一緒に摂取するが、慢性腎不全により腎透析を受けている患者などは一日に摂取する水分量に制限がある。このことが服薬コンプライアンスの低下につながっている。しかし、ゼリー状の医薬品の場合、上記の通り、マスキング効果や流動性により、水を摂取することなく、あるいは少量の水で服用することができるため、腎透析を受けている患者など水分摂取量が制限されている患者には有用性が高い。さらに、個包装とすることで、液剤やシロップ剤のように1回服薬量を計量する必要がなく、携帯性にも優れている。
【0004】
一方、一般的なゼリー製剤では、水に弱い薬物には応用しがたいこと、また、加温冷却工程が必要であるため、熱に弱い薬物に対しては応用しがたいという欠点がある。そのような欠点により、ゼリー状の医薬品とすることのできる対象薬物は限られることになる。これらの問題に対しては、例えば、予めゼリーを調製し、凍結乾燥させ、用時加水し復元させるゼリー剤が知られているが、凍結乾燥はコストを要し、また後で薬物とゼリーとを混合することから、薬物の均一化の問題を惹起する。
上記に対し、味のマスキング効果や服用性、携帯性など、ゼリー状の医薬品としての特徴を生かしつつ、使用時に温湯や加熱などの溶解操作を加えず、冷却などの操作も必要とせず、またコストを要する凍結乾燥技術を用いることなく、常温における加水のみで短時間(20~90秒)にゼリー状となる粉末の発明が提案されている(特許文献1)。特許文献1の発明によれば、水に不安定な薬物や熱に不安定な薬物にも応用でき、また後で薬物とゼリーとを混合することもなく、単に粉末に加水するのみでゼリー状の医薬品を短時間に調製することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明は、従来言われていたゼリー剤の欠点を多く克服するものであり、また水を加えてから20~90秒といった短時間でゼリー状(ゲル状)となるため有用である。一方、水を加えてから短時間にゲル化してしまうと、却って不都合な場合がある。例えば、加水溶液を2以上に分ける操作を行うことが困難になるおそれがある。また、加水溶液と他の成分とを均一に混合することが困難になるおそれがある。
【0007】
本発明は、ゲル化組成物に水を加えた溶液に対して、例えば分注操作や他の成分との混合操作を容易にすることができる新たなゲル化組成物を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ゲル化組成物に水を加えて調製した溶液の粘度に着目し、ゲル化が進むに従い経時的に上昇する粘度をコントロールすることにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明として、例えば、以下のものを挙げることができる。
[1]ゲル化に金属イオンを必要とし、水を加え加温冷却操作を行うことなく常温でゾル状態からゲル状態に転移させて使用するゲル化組成物であって、
かかるゲル化組成物に水を加えたゾル溶液は、加水後、金属イオンの存在下において少なくとも90秒間ゾル状態を持続し、加水後1時間までに加水後1分の粘度に対して1.2~1.5倍の粘度に達し、加水後6時間までにゲル状態を呈することを特徴とする、遅延性ゲル化組成物。
[2]前記ゲル化剤が、ペクチン;アルギン酸、その塩、もしくはそのエステル;カラギーナン;またはジェランガムのいずれか1種以上である、上記[1]に記載の遅延性ゲル化組成物。
[3]前記金属イオンを生成する金属塩を含む、上記[1]または[2]に記載の遅延性ゲル化組成物。
[4]前記金属イオンが二価の金属イオンである、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の遅延性ゲル化組成物。
[5]さらに甘味剤を含む、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の遅延性ゲル化組成物。
[6]前記ゲル化剤および前記金属イオンもしくは前記金属塩が分離して存在するか、または前記ゲル化剤および前記金属塩の粉末を含む単純混合物、前記ゲル化剤および前記金属塩を含む造粒物、もしくは前記ゲル化剤および前記金属塩を含む打錠成形物である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の遅延性ゲル化組成物。
【0010】
[7]上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の遅延性ゲル化組成物と薬理活性成分とを含む、遅延性ゲル化医薬品。
[8]上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の遅延性ゲル化組成物と食品素材とを含む、遅延性ゲル化食品。
【0011】
[9]薬理活性成分を含むゼリー状医薬品の製造方法であって、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の遅延性ゲル化組成物と水溶液状または水懸濁液状の経口医薬品とを混合し、加温冷却操作を行うことなくゲル化させる工程を含むことを特徴とする、ゼリー状医薬品の製造方法。
[10]食品素材を含むゼリー状食品の製造方法であって、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の遅延性ゲル化組成物と水溶液状または水懸濁液状の食品とを混合し、加温冷却操作を行うことなくゲル化させる工程を含むことを特徴とする、ゼリー状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る遅延性ゲル化組成物は、加水してからゲル状態を呈するまでの時間が比較的長くコントロールされているから、ゾル状態を比較的長く保つことができ、その結果、加水してからの分注(小分け)操作が容易であり、また加水溶液と他の成分との混合操作が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
1 本発明に係る遅延性ゲル化組成物
本発明に係る遅延性ゲル化組成物(以下、「本発明組成物」という。)は、ゲル化に金属イオンを必要とし、水を加え加温冷却操作を行うことなく常温でゾル状態からゲル状態に転移させて使用するゲル化組成物であって、かかるゲル化組成物に水を加えたゾル溶液は、加水後、金属イオンの存在下において少なくとも90秒間ゾル状態を持続し、加水後1時間までに加水後1分の粘度に対して1.2~1.5倍の粘度に達し、加水後6時間までにゲル状態を呈することを特徴とする。
【0014】
本発明で用いられるゲル化剤としては、常温の水に可溶であり、金属イオンの存在下において常温でゲル化を起こすものであれば特に制限されないが、例えば、ペクチン;アルギン酸やアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カルシウムなどのアルギン酸塩やアルギン酸エステル;カラギーナン;ジェランガムを挙げることができる。この中、ペクチンやアルギン酸塩が好ましい。また、ペクチンについては、通常、エステル化度(DE)が50%以下のLMペクチンが用いられる。好ましくはDE値が20~30のLMペクチンである。当該ゲル化剤は、ゼリー状の医薬品や食品に用いられている。
上記ゲル化剤は、一種であっても二種以上の併用であってもよい。
【0015】
本発明で用いられる金属イオンとしては、医薬品や食品の分野においてゲル化に用いられるものであれば特に制限されず、また用いるゲル化剤の種類により異なるが、例えば、カリウム、ナトリウムなどの一価のカチオン;バリウムイオン、ストロンチウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、マグネシウムイオンなどの二価のカチオン;鉄イオンなどの三価のカチオンを挙げることができる。この中、カルシウムイオン、マグネシウムイオンといった二価のカチオンが好ましく、カルシウムイオンがより好ましい。
【0016】
上記金属イオンを生成する化合物、即ち金属塩としては、例えば、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、等のカルシウム塩;第一リン酸マグネシウム、第二リン酸マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、等のマグネシウム塩;塩化バリウム、塩化ストロンチウムを挙げることができる。この中、第二リン酸カルシウム、クエン酸カルシウムが好ましい。
上記金属塩は、一種であっても二種以上の併用であってもよい。
【0017】
本発明組成物には、必要に応じて、例えば増粘剤、pH調整剤、懸濁・分散剤、甘味剤、香料といった添加剤を任意に適量含むことができる。また、目的に応じて、賦形剤、着色料、安定化剤、可溶化剤、保存剤などを含むこともできる。
【0018】
増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアガム、タラガム、タマリンドシードガム、でんぷん類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、カルメロースまたはその塩、グルコマンナン、寒天、スクシノグリカンを挙げることができる。
pH調整剤としては、例えば、グルコノδラクトン、クエン酸またはその塩、アジピン酸、フマル酸、フタル酸、コハク酸、リン酸またはその塩、酒石酸またはその塩、乳酸またはその塩を挙げることができる。
【0019】
緩衝剤としては、例えば、リン酸またはその塩、炭酸塩など、分散剤としては、デンプン類、乳糖など、甘味剤としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース、サッカリンナトリウム、アドバンテーム、グリチルリチン酸二カリウム、ステビア、糖アルコール類、ショ糖、粉末還元麦芽糖水あめ、デキストリンなど、香料としては、各種粉末状の香料をそれぞれ挙げることができる。
上記各種添加剤は、それぞれ一種であっても二種以上の併用であってもよい。
【0020】
本発明組成物は、水を加えるとゾル状態の溶液となり、かかるゾル状態は加水後、金属イオンの存在下において少なくとも90秒間持続するが、加水後3~5分あるいは10分程度はゾル状態を持続することが適当である。そして、本発明組成物の当該ゾル溶液は、加水後1時間までに加水後1分の粘度に対して1.2~1.5倍の粘度に達し、加温冷却操作を行うとこなく加水後6時間までにゲル状態を呈する。当該ゾル溶液は、加水後1時間までに加水後1分の粘度に対して1.2~1.5倍の粘度に達すればよく、例えば、加水後45分までに当該粘度に達してもよく、加水後30分ないし20分ないしは10分までに当該粘度に達することが好ましい。また、当該ゾル溶液は、加温冷却操作を行うとこなく加水後6時間までにゲル状態を呈すればよいが、上記粘度に達する時間に応じて、例えば、加水後3時間までにゲル状態を呈してもよく、加水後1時間ないし30分ないし20分ないしは15分までにゲル状態を呈することが好ましい。
【0021】
本発明組成物は、ゲル化剤と金属イオンないし金属塩とを含むが、それらが分離して存在していてもよい。このように分離して存在する場合、金属イオンないし金属塩は、粉末等の固形状態であっても、水に溶解ないし懸濁した状態であってもよい。
また、本発明組成物は、例えば、ゲル化剤および金属塩の粉末を含む単純混合物や、ゲル化剤および金属塩を含む造粒物、もしくはゲル化剤および金属塩を含む打錠成形物であってもよい。ゲル化剤と金属塩とが分離して存在する場合、それぞれ別々に造粒物や打錠成形物の形態の中にあってもよい。
【0022】
本発明組成物中のゲル化剤の含有量は、例えば、0.1~99.9重量%の範囲内で所望により適宜選択することができる。本発明組成物中におけるゲル化剤と金属イオンないし金属塩との含有割合は、それらの種類や所望する遅延性やゲルの硬さなどによって異なるが、ゲル化剤1重量部に対して、通常、金属イオンないし金属塩が0.005~2重量部の範囲内であり、0.01~1.8重量部の範囲内が好ましく、0.1~1.5重量部の範囲内がより好ましい。金属イオンないし金属塩が0.005重量部より少ないと、ゲル化しなかったり、ゲル状態を呈するまで非常に長時間を要するおそれがある。金属イオンないし金属塩が2重量部より多いと、ゲル化しなかったり、ゲル状態を維持できなくなるおそれがある。
【0023】
2 本発明組成物の使用方法、用途
本発明組成物は、水を加え加温冷却操作を行うことなく常温でゾル状態からゲル状態に転移させることにより使用される。本発明組成物に水を加えた溶液は、ゾル状態から徐々にゲル状態になり、加水後6時間以内にはゲル状態を呈する。ここで常温とは、例えば20℃を挙げることができる。
【0024】
本発明組成物に加えることができる水は、特に制限されないが、例えば、精製水や蒸留水、水道水などを挙げることができる。また、当該水は、場合により、前記金属イオンが存在する、または前記金属塩や添加剤などが溶解または懸濁した状態であってもよい。また、本発明組成物がゲル化剤と金属イオンないし金属塩とが分離した状態であれば、当該金属イオンないし金属塩は溶解または懸濁した状態であってもよいが、この場合、当該溶液等を水としてゲル化剤を含む固形物に加え、ゲル状態を形成することもできる。
【0025】
本発明組成物に加える水の温度は、室温ないし常温で十分である。
本発明組成物に加える水の量は、所望により適宜選択されるが、ゲル化剤の濃度が0.3~10重量%の範囲内になる量、好ましくは0.5~5重量%の範囲内になる量、より好ましくは1~3重量%の範囲内になる量である。
【0026】
本発明組成物は、加水してから比較的長く(加水してから90秒以上)ゾル状態を保つことができるので、その間に例えば分注(小分け)することができ、他の成分と十分に混合することができる。
【0027】
本発明組成物は、薬理活性成分を含んでいてもよいが、含まずに用時調製(Ready-to-use)用のゼリーの素として用いることができる。薬理活性成分を含まない本発明組成物の場合、例えば調剤現場などにて、薬理活性成分またはそれを含む医薬品と本発明組成物(ゼリーの素)とを混合し、分包して提供することができる。その分包を受け取った患者は、それに水を加えてゲル化しゼリー状として服用することができる。また、患者側にて、処方された薬理活性成分ないし医薬品と本発明組成物(ゼリーの素)とを混合し、水を加えてゲル化しゼリー状として服用することもできる。
本発明組成物は、上記のような医薬品用に限らず、食品用のゼリーの素としても用いることができる。
【0028】
3 遅延性ゲル化医薬品・ゲル化食品
本発明として、また、本発明組成物と薬理活性成分とを含む遅延性ゲル化医薬品や、本発明組成物と食品素材とを含む遅延性ゲル化食品を挙げることができる。本発明組成物と当該薬理活性成分ないし当該食品素材とは、例えば分離して存在していてもよく、これらを含む単純混合物や造粒物、打錠成形物であってもよい。分離して存在する場合、当該薬理活性成分ないし当該食品素材は、粉末等の固形状態であっても、水に溶解ないし懸濁した状態であってもよい。
【0029】
本発明に係る遅延性ゲル化医薬品ないし遅延性ゲル化食品中における本発明組成物と当該薬理活性成分ないし当該食品素材との含有比率は、目的などに応じて所望により適宜選択される。
本発明に係る遅延性ゲル化医薬品ないし遅延性ゲル化食品は、水を加え加温冷却操作を行うことなく常温でゾル状態からゲル状態に転移させて用いられる。これら医薬品ないし食品に水を加えたものはゾル状態から徐々にゲル状態となり、一定時間経過後にゲル化医薬品ないしゲル化食品となる。
【0030】
本発明に係る遅延性ゲル化医薬品ないし遅延性ゲル化食品に加えることができる水は、特に制限されないが、例えば、精製水、蒸留水、水道水などを挙げることができる。また、本発明組成物と当該薬理活性成分ないし当該食品素材とが分離した状態であれば、上記の通り、当該薬理活性成分ないし当該食品素材は溶解または懸濁した状態であってもよいが、この場合、当該溶液等を水として本発明に係る遅延性ゲル化医薬品ないし遅延性ゲル化食品に加え、ゲル状態を形成することもできる。
【0031】
4 ゼリー状医薬品・食品
本発明として、また、薬理活性成分を含むゼリー状医薬品の製造方法であって、本発明組成物と水溶液状または水懸濁液状の経口医薬品とを混合し、加温冷却操作を行うことなくゲル化させる工程を含むことを特徴とするゼリー状医薬品の製造方法や、食品素材を含むゼリー状食品の製造方法であって、本発明組成物と水溶液状または水懸濁液状の食品とを混合し、加温冷却操作を行うことなくゲル化させる工程を含むことを特徴とするゼリー状食品の製造方法を挙げることができる。
【0032】
本発明組成物と液状の経口医薬品ないし液状の食品との混合は、常法により行うことができる。本発明組成物と液状の経口医薬品ないし液状の食品とを混合することにより、加温冷却操作を行うことなく常温でゾル状態から徐々にゲル状態に転移し、ゼリー状医薬品ないしゼリー状食品を製造することができる。
【0033】
上記液状の経口医薬品としては、例えば、シロップ剤、シロップ用剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤、エキス剤、龍エキス剤、浸剤、煎剤などの液状の製剤を挙げることができる。当該経口医薬品に前記金属イオンないし前記金属塩が含まれている場合であって、所望のゼリー状医薬品を製造できるのであれば、本発明組成物には必ずしも前記金属イオンないし前記金属塩が含まれていなくてもよい。
【実施例0034】
以下、実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はそれら実施例等に限定されるものではない。
【0035】
<粘度測定方法>
各溶液の粘度は、粘度測定装置RE80U E型(東機産業株式会社製)を用いて、室温にて行った。測定時間は30秒間、回転数は各溶液に応じて適宜調整した。
【0036】
[実施例1]
ペクチン1.2g、第二リン酸カルシウム1.6g、および粉末還元麦芽糖水あめ17.2gを秤取し250mLの容器に入れ、1分間振り混ぜ、本発明組成物を調製した。これに常温で水を90g加え十分に振り混ぜた溶液を、速やかにプラスチックカップに約15gずつデカンテーションにより充填し、粘度測定用サンプルとした。
加水後の一定時間経過後の各サンプルの粘度等は、表1に示す通りである。
【0037】
【0038】
表1から明らかな通り、加水後5分で加水後1分の粘度の1.2倍に達し、加水後30分以内には加水後1分の粘度の1.5倍に達した。
【0039】
[実施例2]
ペクチン0.781g、第二リン酸カルシウム0.103g、および粉末還元麦芽糖水あめ22.224gを秤取し250mLの容器に入れ、1分間振り混ぜ、本発明組成物を調製した。これに常温で水を120.005g加え十分に振り混ぜた溶液を、速やかにプラスチックカップに約15gずつデカンテーションにより充填し、粘度測定用サンプルとした。
加水後の一定時間経過後の各サンプルの粘度等は、表2に示す通りである。
【0040】
【0041】
表2から明らかな通り、加水後30分以内には加水後1分の粘度の1.2倍に達し、加水後1時間以内には加水後1分の粘度の1.5倍に達した。
【0042】
[実施例3]
ペクチン2.4g、クエン酸カルシウム水和物1.761g、および粉末還元麦芽糖水あめ35.864gを秤取し500mLの容器に入れ、1分間振り混ぜ、本発明組成物を調製した。これに常温で水を180g加え十分に振り混ぜた溶液を、速やかにプラスチックカップに約15gずつデカンテーションにより充填し、粘度測定用サンプルとした。
加水後の一定時間経過後の各サンプルの粘度等は、表3に示す通りである。
【0043】
【0044】
表3から明らかな通り、加水後10分以内には加水後1分の粘度の1.5倍に達した。
【0045】
[実施例4]
アルギン酸ナトリウム3.125g、乳酸カルシウム0.417g、および精製白糖44.792gを秤取し500mLの容器に入れ、1分間振り混ぜ、本発明組成物を調製した。これに常温で水を160g加え十分に振り混ぜた溶液を、速やかにプラスチックカップに約15gずつデカンテーションにより充填し、粘度測定用サンプルとした。
加水後の一定時間経過後の各サンプルの粘度等は、表4に示す通りである。
【0046】
【0047】
表4から明らかな通り、加水後3時間以内には加水後1分の粘度の1.5倍に達した。
【0048】
[実施例5]
ペクチン2.548g、水酸化マグネシウム0.051g、グルコノ-δ-ラクトン12.742g、および粉末還元麦芽糖水あめ39.501gを秤取し500mLの容器に入れ、1分間振り混ぜ、本発明組成物を調製した。これに常温で水を200g加え十分に振り混ぜた溶液を、速やかにプラスチックカップに約15gずつデカンテーションにより充填し、粘度測定用サンプルとした。
加水後の一定時間経過後の各サンプルの粘度等は、表5に示す通りである。
【0049】
【0050】
表5から明らかな通り、加水後40分以内には加水後1分の粘度の1.5倍に達した。
【0051】
[実施例6]
ペクチン2.471g、塩化ストロンチウム0.133g、および粉末還元麦芽糖水あめ44.474gを秤取し500mLの容器に入れ、1分間振り混ぜ、本発明組成物を調製した。これに常温で水を200g加え十分に振り混ぜた溶液を、速やかにプラスチックカップに約15gずつデカンテーションにより充填し、粘度測定用サンプルとした。
加水後の一定時間経過後の各サンプルの粘度等は、表6に示す通りである。
【0052】
【0053】
表6から明らかな通り、加水後40分以内には加水後1分の粘度の1.2倍に達した。
【0054】
[実施例7]
ペクチン2.473g、塩化バリウム二水和物0.308g、および粉末還元麦芽糖水あめ44.513gを秤取し500mLの容器に入れ、1分間振り混ぜ、本発明組成物を調製した。これに常温で水を200g加え十分に振り混ぜた溶液を、速やかにプラスチックカップに約15gずつデカンテーションにより充填し、粘度測定用サンプルとした。
加水後の一定時間経過後の各サンプルの粘度等は、表7に示す通りである。
【0055】
【0056】
表7から明らかな通り、加水後15分以内には加水後1分の粘度の1.5倍に達した。