(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123066
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】多孔質金属体
(51)【国際特許分類】
C22C 1/08 20060101AFI20220816BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20220816BHJP
C22C 14/00 20060101ALN20220816BHJP
【FI】
C22C1/08 F
B22F3/11 A
C22C14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097556
(22)【出願日】2022-06-16
(62)【分割の表示】P 2022500754の分割
【原出願日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2020168768
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】津曲 昭吾
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
(72)【発明者】
【氏名】川合 博之
(57)【要約】
【課題】うねりや割れの発生を抑制することができる多孔質金属体の製造方法及び、多孔質金属体を提供する。
【解決手段】この発明の多孔質金属体の製造方法は、成形型1の成形面2上でチタン含有粉末4を加熱して焼結させ、チタンを含有するシート状の多孔質金属体4aを製造する方法であって、成形型1の成形面2に、該成形面2の外縁側に位置して離型層3が存在せずに焼結時にチタン含有粉末4が接着する接着領域Aaと、離型層3が形成された易剥離領域Arとを設定する領域設定工程と、前記領域設定工程の後、前記成形面2上にチタン含有粉末4を乾式で堆積させる粉末堆積工程と、前記粉末堆積工程の後、前記成形面2上で前記チタン含有粉末4を950℃以上の温度に加熱し、前記接着領域Aa上に位置するチタン含有粉末4を当該接着領域Aaに接着させながら、前記成形面2上の前記チタン含有粉末4を焼結させる粉末焼結工程とを含むものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含有し、厚みが0.2mm~1.0mmであるシート状を有し、空隙率が20%~65%であり、曲げ強度が190MPa以上である多孔質金属体。
【請求項2】
チタン含有量が75質量%以上である請求項1に記載の多孔質金属体。
【請求項3】
当該多孔質金属体の試験片を平面上に配置し、厚み方向で前記平面の位置から前記試験片の表面の最も高い位置までの最大高さを測定したとき、
当該多孔質金属体の厚みが0.5mm以上である場合、前記最大高さが前記厚みの3倍以下であり、又は、当該多孔質金属体の厚みが0.5mm未満である場合、前記最大高さが1.5mm以下である請求項1又は2に記載の多孔質金属体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チタンを含有するシート状の多孔質金属体の製造方法及び、多孔質金属体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンやチタン合金は、その表面に不動態皮膜が形成されること等により、耐食性に優れた材料であることが知られている。このような高い耐食性を利用し、たとえば、腐食され得る環境下で使用されて所要の通気性もしくは通液性が求められる多孔質の導電材料等に、チタン又はチタン合金を用いることが期待される。
【0003】
チタンを含有する多孔質金属体に関し、特許文献1には、「固体高分子型水電解槽における給電体又は固体高分子型燃料電池における集電体として使用され、且つ、球状ガスアトマイズチタン粉末の焼結体からなることを特徴とする多孔質導電板」が記載されている。この「多孔質導電板」を製造する方法として、特許文献1には、「まず、
図1に示すように、所定粒径の球状ガスアトマイズチタン粉末1を高密度アルミナ製の焼結容器2に無加圧で充填する。焼結容器2の内形は、製造すべき多孔質導電板の形状に対応する薄板形状である。次いで、焼結容器2内に充填された球状ガスアトマイズチタン粉末1を無加圧で真空焼結する。」との記載がある。
【0004】
また特許文献2では、「厚みが5μm~60μmおよび空隙率が1%~80%であり、等方的に連通した多数の貫通孔を有し、かつ、円筒マンドレル試験でマンドレルの直径を徐々に小さいものに代えて折り曲げたときに、直径6mmまでは折り曲げ部の外側表面にクラックが入らない多孔質焼結金属薄膜からなる色素増感太陽電池用集電体」、「以下の(a)、(b)、(c)および(d)の工程を含むことを特徴とする色素増感太陽電池用集電体材料の製造方法。(a)基材上に、水素化金属粉末または脱水素金属粉末を含む金属原料、バインダー成分および溶剤成分を含むペースト状組成物を塗工して成膜した後、乾燥して溶剤成分を揮発させて乾燥成形体を得る成形体製造工程(b)乾燥成形体を基材から剥離する剥離工程(c)剥離した乾燥成形体を加熱し、バインダー成分を除去する脱バインダー工程(d)脱バインダー後の乾燥成形体を700℃~1100℃にて焼結する焼結工程」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-275676号公報
【特許文献2】特開2014-239023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、チタンを含有するシート状の多孔質金属体を製造するには、たとえば、成形型の成形面上にチタン含有粉末を乾式にて敷き詰めて所定の厚みに堆積させ、当該チタン含有粉末を加熱して焼結させることがある。これにより、チタン含有粉末の焼結体として多孔質金属体を得ることができる。
【0007】
ここで、焼結温度を高温にすると焼結体である多孔質金属体の高強度化を図ることができるが、焼結体が成形型と強固に接着する。この場合、焼結体を成形型から剥離する際に焼結体に割れが生じやすいという問題がある。この割れの問題は、焼結体が薄くなるほど発生しやすい。焼結体が割れるという上記問題に対処するため、焼結後の成形型からの多孔質金属体の剥離を容易にする離型層を予め、成形型の成形面の全体にわたって形成しておくと、焼結後に得られるシート状の多孔質金属体に、うねりが発生しうることがわかった。このうねりの問題も、焼結体がある程度薄いほど顕在化しやすい。
【0008】
この発明の目的は、うねりや割れの発生を抑制することができる多孔質金属体の製造方法及び、多孔質金属体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は鋭意検討の結果、成形型の成形面の外縁側に位置する領域に離型層を形成せず、焼結時にそこにチタン含有粉末を接着させて固定することにより、ある程度高温でチタン含有粉末を焼結させても多孔質金属体へのうねりの発生を良好に抑制できることを見出した。また、成形面の外縁側に位置する領域以外に離型層を形成する領域を設けることにより、多孔質金属体を成形型から剥離する際に多孔質金属体に割れが生じることをも抑制できる。
【0010】
このようにうねりや割れを抑制できるのは、次のような理由によるものと考えられる。比較的高温でチタン含有粉末を焼結するとチタン含有粉末の収縮の程度が大きくなる。離型層に接しているチタン含有粉末は滑りやすくランダムな収縮を起こし、それにより焼結体にうねりが生じると考えられる。他方、チタン含有粉末の焼結時にチタン含有粉末が成形型の成形面と接着すると、上記のランダムな収縮を抑制できると考えられる。このことを利用し、焼結途中のチタン含有粉末が成形面の外縁側で固定されるように成形面の外縁側に位置する領域には離型層を形成しないことで、離型層と接しているチタン含有粉末のランダムな収縮が抑制され、その結果として焼結体はより平坦な形状に維持されると推測される。但し、この発明は、このような理論に限定されるものではない。
【0011】
この発明の多孔質金属体の製造方法は、成形型の成形面上でチタン含有粉末を加熱して焼結させ、チタンを含有するシート状の多孔質金属体を製造する方法であって、成形型の成形面に、該成形面の外縁側に位置して離型層が存在せずに焼結時にチタン含有粉末が接着する接着領域と、離型層が形成された易剥離領域とを設定する領域設定工程と、前記領域設定工程の後、前記成形面上にチタン含有粉末を乾式で堆積させる粉末堆積工程と、前記粉末堆積工程の後、前記成形面上で前記チタン含有粉末を950℃以上の温度に加熱し、前記接着領域上に位置するチタン含有粉末を当該接着領域に接着させながら、前記成形面上の前記チタン含有粉末を焼結させる粉末焼結工程とを含むものである。
【0012】
この発明の多孔質金属体の製造方法では、前記チタン含有粉末の平均円形度が0.93以下であることが好ましい。
【0013】
この発明の多孔質金属体の製造方法では、前記成形型が、カーボン、石英、グラファイト、マグネシア、カルシア、ジルコニア及びイットリアからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0014】
前記領域設定工程では、窒化ホウ素及び/又はホウ化チタンを含む離型剤により、前記離型層を形成することができる。
【0015】
この発明の多孔質金属体の製造方法では、前記チタン含有粉末の90%粒子径D90が15μm~50μmであることが好適である。
【0016】
この発明の多孔質金属体の製造方法では、前記粉末堆積工程にて成形型の成形面上でチタン含有粉末を堆積させる表面積の、前記易剥離領域の表面積に対する比が、1.05~1.50であることが好ましい。
【0017】
また、前記粉末堆積工程では、成形型の成形面上でチタン含有粉末を堆積させる表面積を64cm2以上とすることが好ましい。
【0018】
この発明の多孔質金属体の製造方法では、前記チタン含有粉末のチタン含有量が75質量%以上である場合がある。
【0019】
この発明の多孔質金属体は、チタンを含有し、厚みが0.2mm~1.0mmであるシート状を有し、空隙率が20%~65%であり、曲げ強度が190MPa以上であるものである。
【0020】
この発明の多孔質金属体は、チタン含有量が75質量%以上である場合がある。
この発明の多孔質金属体は、当該多孔質金属体の試験片を平面上に配置し、厚み方向で前記平面の位置から前記試験片の表面の最も高い位置までの最大高さを測定したとき、当該多孔質金属体の厚みが0.5mm以上である場合、前記最大高さが前記厚みの3倍以下であり、又は、当該多孔質金属体の厚みが0.5mm未満である場合、前記最大高さが1.5mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、多孔質金属体へのうねりや割れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1(a)は、この発明の一の実施形態に係る多孔質金属体の製造方法に用いることができる成形型の一例を示す平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のb-b線に沿う断面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1の成形型を、その成形面の易剥離領域上に離型層を形成した状態で示す平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のb-b線に沿う断面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2の成形型及び離型層を、成形面上に堆積させたチタン含有粉末とともに示す平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のb-b線に沿う断面図である。
【
図4】
図4(a)は、
図1~3により製造される多孔質金属体を示す断面図であり、
図4(b)は、
図4(a)のb-b線に沿う断面図である。
【
図5】多孔質金属体のうねりの評価方法を示す、平面上に配置した多孔質金属体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る多孔質金属体の製造方法は、
図1~3に例示するようなセッター等の成形型1の成形面2上でチタン含有粉末4を加熱して焼結させ、
図4に示すようなチタンを含有するシート状の多孔質金属体4aを製造するものである。この実施形態の製造方法には、成形型1の成形面2に、該成形面2の外縁側に位置して離型層3が存在せずに焼結時にチタン含有粉末4が接着する接着領域Aaと、離型層3が形成された易剥離領域Arとを設定する領域設定工程と、領域設定工程の後、成形面2上にチタン含有粉末4を乾式で堆積させる粉末堆積工程と、粉末堆積工程の後、成形面2上でチタン含有粉末4を950℃以上の温度に加熱し、接着領域Aa上に位置するチタン含有粉末4を当該接着領域Aaに接着させながら、成形面2上のチタン含有粉末4を焼結させる粉末焼結工程とが含まれる。なお以下の説明では、符号は重要ではないときは省略することがある。
【0024】
(チタン含有粉末)
チタン含有粉末は、チタンを含有するものであれば様々な粉末とすることができる。たとえば、純チタン粉末及び/又はチタン合金粉末をチタン含有粉末として用いることができる。すなわち、チタン含有粉末としては、純チタン粉末のみを使用することができる他、一種または二種以上のチタン合金粉末を使用することができ、あるいは、これらの純チタン粉末とチタン合金粉末とをあわせて使用してもよい。さらに、アルミニウム、バナジウム、鉄といった合金元素粉の使用も可能である。
【0025】
純チタン粉末とは、チタンの含有量が95質量%以上である。すなわち、純チタン粉末は実質的にチタンのみからなる粉末を意味する。純チタン粉末の具体的な例として、スポンジチタン等を水素化して粉砕した後に脱水素して得られる水素化脱水素チタン粉末(いわゆるHDHチタン粉末)や、上記の粉砕後に脱水素を行わなかった水素化チタン粉末等が挙げられる。純チタン粉末である上記水素化チタン粉末では水素含有量が5質量%まで許容される。
【0026】
上述したチタン合金粉末は、チタン及び合金元素を含む粉末である。チタン合金粉末のチタン合金は、たとえば、チタンとFe、Sn、Cr、Al、V、Mn、Zr、Mo等の金属(合金元素)との合金等であり、具体例としては、Ti-6-4(Ti-6Al-4V)、Ti-5Al-1Fe、Ti-5Al-2.5Sn、Ti-8-1-1(Ti-8Al-1Mo-1V)、Ti-6-2-4-2(Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si)、Ti-6-6-2(Ti-6Al-6V-2Sn-0.7Fe-0.7Cu)、Ti-6-2-4-6(Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo)、SP700(Ti-4.5Al-3V-2Fe-2Mo)、Ti-17(Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Mo-4Cr)、β-CEZ(Ti-5Al-2Sn-4Zr-4Mo-2Cr-1Fe)、TIMETAL555、Ti-5553(Ti-5Al-5Mo-5V-3Cr-0.5Fe)、TIMETAL21S(Ti-15Mo-2.7Nb-3Al-0.2Si)、TIMETAL LCB(Ti-4.5Fe-6.8Mo-1.5Al)、10-2-3(Ti-10V-2Fe-3Al)、Beta C(Ti-3Al-8V-6Cr-4Mo-4Cr)、Ti-8823(Ti-8Mo-8V-2Fe-3Al)、15-3(Ti-15V-3Cr-3Al-3Sn)、BetaIII(Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Sn)、Ti-13V-11Cr-3Al等が挙げられる。上記チタン合金の合金元素として、Pd、Pt、Au、Ta、Nb、Ni、Ru等を含むこととしてもよい。なお、上記の合金の具体例において、各金属元素の前に付記した数字は、当該金属元素の含有量(質量%)を表している。例えば、「Ti-6Al-4V」は、合金元素として6質量%のAlと4質量%のVとを含有するチタン合金を意味する。
【0027】
チタン含有粉末の平均円形度は特段限定されないが、0.93以下であることが好ましい。平均円形度が0.93以下のチタン含有粉末は、比較的低価格で入手可能であるから、製造コストの低減の観点から有利である。チタン含有粉末の平均円形度は、好ましくは0.91以下であり、より好ましくは0.89以下である。チタン含有粉末の平均円形度は、たとえば0.50以上、さらに0.60以上である場合がある。なお、上述したHDHチタン粉末や水素化チタン粉末は、粉砕して得られたものであるから、平均円形度が比較的小さくなる傾向がある。一方、ガスアトマイズ等によるアトマイズ粉末は、HDHチタン粉末等に比して平均円形度が1.00に近いことが多い。
【0028】
チタン含有粉末の平均円形度は次のようにして求める。電子顕微鏡を使用し、チタン含有粉末の粒子の投影面積の周囲長(A)を測定し、前記投影面積と等しい面積の円の周囲長(B)との比を円形度(B/A)とする。平均円形度は、セル内にキャリア液とともに粒子を流し、CCDカメラで多量の粒子の画像を撮り込み、1000~1500個の個々の粒子画像から、各粒子について上記の円形度(B/A)を算出し、各粒子の円形度の平均値として求める。上記の円形度の値は粒子の形状が真球に近くなるほど大きくなり、完全な真球の形状を有する粒子の円形度は1.00となる。逆に、粒子の形状が真球から離れるにつれて円形度の値は小さくなる。
【0029】
チタン含有粉末は、純チタン粉末のみとすることができる。あるいは、チタン含有粉末は、チタンと合金元素を含むチタン合金粉末とすることも可能である。製造しようとする多孔質金属体の組成等に応じて、それらの粉末の1種以上を適宜選択する。チタン含有粉末における金属の質量比は、たとえば、チタン:合金元素=100:0~75:25とすることができる。
【0030】
チタン含有粉末のチタン含有量は、75質量%以上であることが好ましい。チタン含有量は95質量%以上とすることもできる。
【0031】
チタン含有粉末の90%粒子径D90は、たとえば15μm~90μmであり、好ましくは15μm~50μmである。このような粒径のチタン含有粉末を用いることにより、強度と空隙率を高い次元で両立されたチタン含有多孔質金属体が得られる。90%粒子径D90は、レーザー回折散乱法によって得られた粒度分布(体積基準)の粒子径D90を意味する。
【0032】
(領域設定工程)
領域設定工程では、後述する粉末堆積工程で成形型1の成形面2上にチタン含有粉末4を堆積させるに先立って、成形型1の成形面2の所定の領域に離型層3を形成する。離型層3を形成することにより、焼結時のチタン含有粉末4と成形型1との接着が良好に抑制され、薄く堆積させたチタン含有粉末4を比較的高温で焼結させても、焼結後に多孔質金属体4aを成形型1の成形面2から容易に取り出すことができる。
【0033】
ここで仮に、成形面の全体に離型層を形成したときは、チタン含有粉末を焼結させる際に加熱によりチタン含有粉末が離型層上で滑りながら不規則に収縮すること等に起因して、チタン含有粉末の焼結体であるシート状の多孔質金属体が、起伏のある形状ないし波打つような形状等になって、うねりを有するものになると考えられる。
【0034】
このような多孔質金属体へのうねりの発生を抑制するため、この実施形態では、
図1及び2に例示するように、成形面2を、その成形面2の外縁側に位置する表面領域であって焼結時にチタン含有粉末4が接着するように離型層3を形成しない接着領域Aaと、接着領域Aa以外の表面領域であって離型層3が形成された易剥離領域Arとに区分けし、それぞれの領域を設定する。すなわち、ここでは、成形面2の外縁側の接着領域Aaには離型層が存在せず、その内側の易剥離領域Arには離型層が存在することになるように、成形面2の接着領域Aa及び易剥離領域Arのうち、易剥離領域Arとする領域だけに離型層3を形成する。
【0035】
このことによれば、後述する粉末堆積工程を経た後の粉末焼結工程では、加熱に伴い、離型層3が存在しない接着領域Aaと、その上に堆積したチタン含有粉末4とが反応して接着する。このようにして、焼結しつつあるチタン含有粉末4が外縁側の接着領域Aaで固定されていることにより、離型層3上のチタン含有粉末4のランダムな熱収縮が抑えられると考えられる。その結果、多孔質金属体4aに、うねりや割れが発生することを良好に抑制することができると考えられる。
【0036】
なおここで、易剥離領域Arは、その表面上の離型層3の存在により、離型層3が存在しない接着領域Aaに比して、焼結後に多孔質金属体4aを剥離しやすい領域を意味する。
【0037】
うねりや割れの発生をより確実に抑制するとの観点からは、図示の例のように、成形面2の外縁をその全周にわたって、離型層3が存在しない接着領域Aaとすることが好ましい。但し、成形面2の外縁のうち、必ずしもその全周を接着領域Aaとすることは要しない。成形面2の外縁の周方向の少なくとも一部、たとえば複数箇所を接着領域Aaとすれば、上述したような接着領域Aaとの接着によるチタン含有粉末4の固定、ひいては、多孔質金属体4aへのうねりや割れの発生の抑制を達成することができる。図示のような正方形等の矩形状の成形面2では、たとえば、その成形面2の四隅を離型層3が存在しない接着領域Aaとすることも考えられ、これにより多孔質金属体4aのうねりや割れの抑制が可能である。
【0038】
領域設定工程では、成形面2の接着領域Aa及び易剥離領域Arのうちの易剥離領域Arとする領域だけに離型層3を形成するが、後述する粉末堆積工程では、
図3に示すように、成形面2上で易剥離領域Arのみならず接着領域Aaにもチタン含有粉末4を堆積させる。なお、この実施形態では、成形面2上で離型層3は、
図3(b)から解かるように、該離型層3の周囲の接着領域Aaに堆積したチタン含有粉末4及び、該離型層3上に堆積したチタン含有粉末4によって、全体が取り囲まれることになる。
【0039】
したがって、粉末堆積工程でチタン含有粉末4を堆積させる成形面2の表面積(図示の例では接着領域Aaの表面積と易剥離領域Arの表面積の合計)は、易剥離領域Arの表面積よりも大きくなる。粉末堆積工程にて成形面2上でチタン含有粉末4を堆積させる表面積Ssの、易剥離領域Arの表面積Srに対する比(Ss/Sr)は、好ましくは1.05~1.50、より好ましくは1.10~1.35とする。易剥離領域Arの表面積Srに対し、チタン含有粉末4を堆積させる表面積Ssをある程度大きくすることにより、先述したような多孔質金属体4aのうねりの発生を抑制する効果が十分に得られる。一方、易剥離領域Arの表面積Srに対し、チタン含有粉末4を堆積させる表面積Ssを大きくしすぎないことにより、焼結後の多孔質金属体4aの、成形面2からの取り出しが困難になることを抑制できる。典型的には、粉末堆積工程にて成形面2上でチタン含有粉末4を堆積させる表面積Ssは、64cm2以上、さらには100cm2以上、さらには180cm2以上とする場合がある。
【0040】
なお、離型層3は、成形面2の易剥離領域Arとする領域に、たとえば、窒化ホウ素(BN)及び/又はホウ化チタン(TiB2)を含む離型剤を塗布すること等により形成することができる。逆に、離型層3を形成した領域を易剥離領域Arとしてよい。つまり、成形面2上で予め易剥離領域Arとする領域を区画する等して決めた後に、その領域に離型層3を形成してもよいが、これに限らず、成形面2上の所定の領域に離型層3を形成し、その領域を事後的に易剥離領域Arとみなすこともできる。離型剤は、チタン含有粉末と焼結により結合しないものを適宜使用可能であり、例えば上記窒化ホウ素やホウ化チタン等を使用できる。このような離型剤を成形面2の易剥離領域Ar上に敷くことにより、離型層3を形成することができる。また、微粒子形状の窒化ホウ素及び/又はホウ化チタンを溶剤に分散させたスラリー等の液体を離型剤として成形面2に塗布することにより、離型層3を形成する場合もある。この場合は、チタン含有粉末を堆積させる前に離型層3を乾燥させることが好ましい。
【0041】
成形型1の材質は焼結によりチタン含有粉末と適度な強さで接着可能であればよく、成形型1は、例えば、カーボン、石英、グラファイト、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)、ジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)からなる群から選択される少なくとも一種を含むものとすることが好ましい。すなわち、成形面2はこのような材質であることが好ましい。成形型1は、たとえば、カーボン製、石英製、グラファイト製、マグネシア製、カルシア製、ジルコニア製又はイットリア製等である。このような材質の成形型1であれば、焼結時にチタン含有粉末4の接着領域Aaでの接着により、チタン含有粉末4が成形面2に固定されるので、多孔質金属体4aのうねりが良好に抑制される。
【0042】
図示の実施形態では、成形型1は、全体として平面視で正方形等の矩形状をなすものであって、成形面2を有する底壁5と、底壁5の外縁部分に立設されて成形面2を全周にわたって取り囲む側壁6とを備えるものとしている。側壁6の内側で成形面2上には、チタン含有粉末4を堆積させるスペースが区画される。但し、成形面2の形状ないし構成は、製造しようとする多孔質金属体4aの種々の条件等に応じて適宜変更されることがあり、図示のものに限らない。成形面2は、例えば、平面視で適宜の多角形状、楕円状、円状の形状としてもよい。また、成形型1は側壁6を備えない形状のものを使用してよい。
【0043】
(粉末堆積工程)
粉末堆積工程では、成形面2上、より詳細には、上記の領域設定工程で離型層3を形成した易剥離領域Ar上及び、離型層3を形成しなかった接着領域Aa上に、
図3に示すように、チタン含有粉末4を乾式で堆積させる。ここで「乾式」とは、溶媒やバインダー等の液体を使用しないことを意味する。粉末堆積工程では、液体中にチタン含有粉末を分散させたスラリー中でチタン含有粉末を沈降させるのではなく、たとえば空気などの気体中もしくは真空中でチタン含有粉末を落下させる等して堆積させる。
【0044】
このとき、離型層3が存在する易剥離領域Arでは、その離型層3上にチタン含有粉末4が堆積する。一方、離型層3が存在しない接着領域Aaでは、その接着領域Aaにチタン含有粉末4が接触して接着領域Aa上に直接的にチタン含有粉末4が堆積する。
【0045】
粉末堆積工程では、所定の通気性もしくは通液性を有する多孔質金属体4aを得るため、チタン含有粉末4を、少なくともその堆積方向に加圧せずに堆積させることが好ましい。堆積方向に意図的に加圧すると焼結後に緻密な多孔質金属体4aとなって、通気性もしくは通液性が低下するからである。
【0046】
より具体的には、成形型1の成形面2上で側壁6の内側に、その上方側からチタン含有粉末4を振り落として敷き詰める。成形面2上にチタン含有粉末4をある程度堆積させた後は、平板状のヘラ等を側壁6の上面に沿わせて移動させ、側壁6の上面よりも上方側に盛り上がったチタン含有粉末4の一部を、側壁6の外部に除去する。側壁を有しない成形型1を使用する場合は側壁に相当する部材を設置後、平板状のヘラ等を使用して上方側に盛り上がったチタン含有粉末4の一部を除去可能である。この際に、チタン含有粉末4はその堆積方向には意図的には加圧されない。これにより、チタン含有粉末4を、成形型1の側壁6の内側に、その側壁6の高さ分だけ堆積させることができる。後述する粉末焼結工程では、チタン含有粉末4を成形型1ごと炉内に入れて加熱することで、容器状の成形型1の成形面2上のスペースに対応するシート状等の形状の多孔質金属体4aが得られる。シート状の多孔質金属体4aの厚みは、成形型1の側壁6の高さの変更等により調整することができる。
【0047】
成形面2上に堆積させるチタン含有粉末4の厚みは、製造しようとする多孔質金属体4aの厚みに応じて適宜設定することができる。易剥離領域Ar上に堆積したチタン含有粉末4の堆積厚みTfは、後述する多孔質金属体4aの厚みTp等を考慮して適宜設定され得る。接着領域Aaでは堆積したチタン含有粉末4の厚みが前記堆積厚みTfよりも0.1mm以上厚くすることが好ましい。
【0048】
(粉末焼結工程)
粉末堆積工程で成形面2上にチタン含有粉末4を堆積させた後は、成形面2上でチタン含有粉末4を950℃以上の温度に加熱する粉末焼結工程を行う。
【0049】
ここでは、950℃以上の温度に加熱することにより、チタン含有粉末4が全体として焼結されるとともに、離型層3を介さずに接着領域Aaと接触しているチタン含有粉末4は当該接着領域Aaに張り付く。チタン含有粉末4は、成形面2の外縁側で接着領域Aaに張り付いて固定されることで、易剥離領域Arの離型層3上のチタン含有粉末4のランダムな収縮が抑制されると考えられる。その結果として、チタン含有粉末4が焼結して形成された多孔質金属体4aへのうねりや割れの発生が抑制されると考えられる。
【0050】
粉末焼結工程では、チタン含有粉末4の加熱焼結を、真空等の減圧雰囲気下もしくは不活性雰囲気で行うことができる。これにより、焼結時にチタン含有粉末4が過剰に酸窒化することを防ぐことができる。具体的には、チタン含有粉末4の焼結は、たとえば真空炉内で真空度を10-4Pa~10-2Paに到達させて減圧雰囲気下で行うことができる。あるいは、チタン含有粉末4の焼結は、雰囲気をアルゴンガスとした状態で不活性雰囲気にて行うことができる。なおここでは、窒素ガスは不活性ガスには該当しないものとする。
【0051】
粉末焼結工程では、焼結時の焼結温度を950℃以上とする。これを950℃未満とすると、製造する多孔質金属体が所望の強度を備えないおそれがある。焼結温度は1000℃以上とすることが好ましい。一方、焼結温度は、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1100℃以下とすることができる。このように温度を高くし過ぎないことにより、接着領域Aaでのチタン含有粉末4の固着による成形型1の比較的早期の消耗を抑制することができる。
【0052】
また粉末焼結工程では、上記の焼結温度を30分~480分、さらには60分~360分にわたって保持することが好適である。すなわち、上記のように950℃以上である時間を30分~480分、さらには60分~360分にわたって保持することが好ましい。焼結温度の保持時間を短くし過ぎないことにより、チタン含有粉末4どうしを十分強固に結合させ、多孔質金属体4aの強度をより一層高めることができる。また、保持時間を長くし過ぎないことにより、過度な焼結による多孔質金属体4aの緻密化が抑えられて、多孔質金属体4aが所要の通気性もしくは通液性を良好に発揮することができるようになる。
なお、チタン含有粉末4が水素化チタンを含む場合は、上記焼結の実施前に脱水素のための予備加熱処理を行うことが好ましい。当該予備加熱処理後一旦冷却した後に焼結を実施してもよいし、予備加熱処理後さらに昇温して焼結を実施してもよい。この予備加熱処理は例えば真空炉内で真空度を10-4Pa~10-2Paに到達させて減圧雰囲気下で行うことができる。予備加熱処理の温度と時間は水素化チタン粉の含有量に鑑み適宜決定可能である。あえて一例を挙げると、予備加熱処理の温度は450℃~700℃とすることができる。また、予備加熱処理の時間は例えば30分~360分とすることができる。
【0053】
チタン含有粉末4の焼結後は、チタン含有粉末4の焼結体として得られたシート状の多孔質金属体4aを、成形型1の成形面2から剥離させて成形型1から取り出す。ここで、成形面2の接着領域Aaは離型層3が存在しないので、多孔質金属体4aはその接着領域Aaで成形面2に張り付いていることがあるが、成形面2の所定の易剥離領域Arには離型層3が存在することから、多孔質金属体4aは全体として成形面2から比較的容易に剥離させることができる。少なくとも易剥離領域Ar上に位置していた多孔質金属体4aの部分は剥離に伴う損傷が生じないように、多孔質金属体4aを成形面2から取り出すことが可能である。なお、離型層3が離型剤の粉体で形成されている場合、多孔質金属体4aの離型層3と接していた面内に離型剤粉体が多少入り込むことがあり得るが、送風や水洗など適宜の手法により離型剤粉体を除去可能である。
【0054】
成形面2から取り出した多孔質金属体4aは、必要に応じて、
図4に示すように、接着領域Aa上に位置していた外縁部分を除去するため、たとえば、接着領域Aaと易剥離領域Arとの境界位置にほぼ対応する切断箇所Ctにて切断してもよい。これにより、成形型1内で易剥離領域Arの離型層3上に位置していて成形面2に実質的に接着していなかった性状の良好な内側部分を、多孔質金属体4aとして取り出すことができる。また、上記切断によって取り出した多孔質金属体4aはその厚さがより均一になる。
なお、焼結後に接着領域Aaにおいて成形面2と多孔質金属体4aとが強く接着していた場合、無理に引き剥がそうとすると多孔質金属体4aが割れることがある。そのような場合は、上記切断箇所Ctでの切断の後に多孔質金属体4aを成形型1から取り出してもよい。
【0055】
(多孔質金属体)
以上のようにして製造されたシート状の多孔質金属体4aは、うねりや割れの発生が抑制されたものになる。
【0056】
多孔質金属体のうねりは次の試験にて評価することができる。
はじめに、多孔質金属体4aを定盤等の平面上に配置し、多孔質金属体4aの側方から目視により、当該平面からの高さが最も高い箇所を含む50mm
2の正方形の平面形状の試験片を切り取って採取する。なお、多孔質金属体4aが、50mm
2の試験片を切り取ることができない大きさである場合は、この切り取りの作業は不要であり、その多孔質金属体4aをそのまま試験片とする。その後、
図5に示すように、その試験片4bを上記の平面FS上に配置し、厚み方向で平面FSの位置から試験片4bの表面の最も高い位置までの最大高さHmaxを測定する。
この最大高さHmaxの大小により、多孔質金属体4aに生じたうねりWaの最も大きい箇所における当該うねりWaの程度を評価することができる。多孔質金属体4aの厚みTpが0.5mm以上である場合は、最大高さHmaxが厚みTpの3倍以下であれば、うねりが発生していないとみなすことができる。多孔質金属体4aの厚みTpが0.5mm未満である場合は、最大高さHmaxが1.5mm以下であれば、うねりが生じていないと認められる。
【0057】
多孔質金属体4aは、チタンを含有するものであり、たとえば純チタン製又はチタン合金製である。チタン合金製の多孔質金属体4aのチタンの含有量は、75質量%以上である場合がある。また、純チタン製の多孔質金属体4aのチタンの含有量は、98質量%以上である場合がある。
【0058】
多孔質金属体4aは、全体として外形がシート状である。シート状の多孔質金属体4aの厚みTpは、たとえば0.2mm~1.0mmであり、また0.3mm~0.8mm、また0.5mm~0.8mmとすることがある。また、シート状の多孔質金属体4aの厚みTpは、たとえば0.2mm~0.5mmとすることもできる。このような厚みTpが薄い多孔質金属体4aであっても、所要の通気性もしくは通液性が確保されつつ、比較的高い強度を有するものになる。多孔質金属体4aの厚みTpは、シックネスゲージにて測定し、例えば、ミツトヨ社製ABSデジマチックシックネスゲージ547-321などを使用して測定できる。なお、上述したように多孔質金属体4aを切断箇所Ct等で切断した場合、多孔質金属体の厚みTpは、当該切断後の厚みを意味する。
【0059】
多孔質金属体4aの空隙率は、好ましくは20%~65%、より好ましくは30%~50%であり、さらに好ましくは30%~45%である。空隙率を上述したような範囲とすることにより、用途に応じて通気性もしくは通液性を実現することができる。多孔質金属体4aの空隙率εは、多孔質金属体4aの幅、長さ、厚みから求めた体積および質量から算出した見かけ密度ρ´と、多孔質金属体4aを構成する金属の真密度ρ(例えば、純チタンの場合は4.51g/cm3、Ti-6Al-4Vの場合は4.43g/cm3)を用いて下記式により測定する。
ε=(1-ρ´/ρ)×100
【0060】
多孔質金属体4aの曲げ強度は、190MPa以上、典型的には210MPa以上であることが好ましい。多孔質金属体4aの曲げ強度の上限は特段限定されないが、500MPa以下としてよい。多孔質金属体4aの曲げ強度は、三点曲げ試験にて測定する。三点曲げ試験に供する多孔質金属体4aの供試体は幅15mm、長さ60mmとし、圧子径は5mm、支点径は5mm、支点間距離は25mmとする。三点曲げ試験には、たとえば島津製作所社製の万能試験機等を用いることができる。
【実施例0061】
次に、この発明の多孔質金属体の製造方法により多孔質金属体を試作したので説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0062】
表1に示す原料粉(チタン含有粉末)を用いて、表1に示す条件で多孔質金属体を製造した。なお表1中、原料粉の種別の「Ti」はチタン粉末を意味し、「TiH」は水素化チタン粉末を意味する。前記チタン粉末も水素化チタン粉末も純チタンの水素化および粉砕を経て製造した。チタン粉末については前記粉砕後さらに脱水素したいわゆるHDHチタン粉末である。水素化チタン粉末の水素含有量は1質量%~5質量%の範囲内であった。なお、実施例7は水素化チタン粉末を30質量%混合した。
【0063】
実施例1~13では、
図1~4のように、成形型の所定のサイズの成形面に予め、表1に示す面積比になるように成形面の外縁側を除いて離型剤を塗布して離型層を形成した。その後、原料粉を成形面上に乾式で堆積させ、これを加熱して焼結させた。ここでいう面積比とは、離型層を形成した易剥離領域の表面積と、成形面上で原料粉を堆積させる表面積との比を意味する。成形面上で原料粉を堆積させた表面積は、表1中に「成形型」の「サイズ」として示している。原料粉にTiHを含む実施例6及び7では、焼結の前に、原料粉に対して脱水素のための予備加熱(600℃、1時間)を行った。
【0064】
比較例1及び2では、成形面上に離型層を形成しなかった。比較例3及び5では、易剥離領域の表面積と原料粉を堆積させる表面積との比を1:1(面積同一)とした。その上で、比較例5は焼結時間を6時間と長くした。比較例4では、焼結させる際の加熱の温度(焼結温度)を900℃とし、その保持時間を1時間とした。なお、比較例2では窒化ホウ素製の成形型を用いた。比較例1~5では、その他の条件は実施例1と実質的に同じとした。
【0065】
上述した実施例及び比較例で製造された各多孔質金属体について、先述した測定方法に従い、厚み、空隙率、3点曲げ強度及び、うねり(最大高さHmax)を測定した。比較例1~3及び5は焼結によりうねりや割れが発生したため、空隙率および3点曲げ強度を測定しなかった。うねりの評価は、先に述べたとおり、多孔質金属体から採取した試験片について行い、多孔質金属体の厚みが0.5mm以上である場合は、最大高さHmaxが厚みの3倍以下であれば、うねりが発生していないとした。また、多孔質金属体の厚みが0.5mm未満である場合は、最大高さHmaxが1.5mm以下であれば、うねりが発生していないと評価した。また、割れについては、多孔質金属体の接着領域上にあった部分を除く表面の両面を目視で観察し、その表面に1つでも割れがあった場合は、割れが発生していると評価した。
これらの結果も表1に示す。
【0066】
なお、比較例1~3及び5の各多孔質金属体の写真を
図6~9にそれぞれ示す。
図6の比較例1の多孔質金属体及び、
図7の比較例2の多孔質金属体では、割れが生じたことが解かる。また
図8の比較例3の多孔質金属体及び、
図9の比較例5の多孔質金属体では、うねりが発生していた。
【0067】
【0068】
表1に示すように、実施例1~13では、焼結後に多孔質金属体に、うねり及び割れが発生しなかった。したがって、この発明によれば、多孔質金属体へのうねりや割れの発生を抑制できることが示唆された。