(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123145
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】認知保護を提供しつつ疾患の発症及び進行を遅らせるための遺伝子治療を用いた神経変性疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20220816BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20220816BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20220816BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20220816BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20220816BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220816BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20220816BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220816BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220816BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220816BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220816BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220816BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220816BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220816BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220816BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20220816BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20220816BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61K31/5377
A61K38/12
A61K38/13
A61K38/48
A61K45/00
A61K45/06
A61K48/00
A61P3/00
A61P25/00
A61P25/14
A61P25/28
A61P27/02
A61P43/00 111
A61P43/00 121
C12N7/01
C12N15/864 100Z
C12N15/55
C12N15/57
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022102692
(22)【出願日】2022-06-27
(62)【分割の表示】P 2018520439の分割
【原出願日】2016-10-24
(31)【優先権主張番号】62/245,824
(32)【優先日】2015-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】511293663
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ アイオワ リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】ビバリー エル. デイビッドソン
(72)【発明者】
【氏名】ルイス テセドル
(72)【発明者】
【氏名】ヨン ホン チェン
(57)【要約】
【課題】遺伝子治療を用いた神経変性疾患の治療方法を提供する。
【解決手段】本発明は、リソソーム蓄積症(LSD)を有する哺乳類の治療方法を提供する。1つの実施形態において、方法は、(a)哺乳類の脳または脊椎に、複数のAAV粒子を投与すること、ならびに(b)哺乳類に、第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与すること、を含み、AAV粒子は、(i)AAVカプシドタンパク質と、1対のAAV末端逆位配列(ITR)の間に挿入された、リソソームヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸とを含み、かつ(ii)哺乳類の細胞に形質導入すること及びポリペプチドを発現させることができる。
【選択図】
図10A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本特許出願は、2015年10月23日出願の米国特許出願番号第62/245,824号の利益を主張し、この出願は、そのまま全体が本明細書中参照として明白に援用される。
【背景技術】
【0002】
遺伝子導入は、今や、細胞及び分子レベルの両方で、生物学的事象及び疾患プロセスを分析するための強力な道具として広く認識されている。さらに最近では、遺伝性(例えば、ADA欠乏症)または後天性(例えば、癌または感染症)いずれにしろヒト疾患を治療するための遺伝子治療の応用が、相当の注目を集めるようになった。
【0003】
従来、遺伝子治療は、先天性遺伝子欠陥を修正する目的で治療遺伝子を哺乳類の細胞に導入する術式として定義されてきた。現在、4500を超えるヒト疾患が遺伝性と分類されているものの、これらの疾患に対して同定されたヒトゲノム中の特定変異は比較的少ない。最近になるまで、こうした稀な遺伝病だけが、遺伝子治療の努力が向けられる目標となっていた。したがって、NIH承認遺伝子治療プロトコルの大部分は、今まで、既知の先天性遺伝子欠陥を有する個体の体細胞に欠損遺伝子の機能性コピーを導入することに向けられていた。最近になってやっと、研究者及び臨床医は、大部分のヒト癌、ある特定型の循環器疾患、及び多くの変性疾患もまた、重要な遺伝要素を有し、新規遺伝子治療を設計する目的で、これらも「遺伝性障害」とみなすべきであると、認識し始めた。したがって、遺伝子治療は、最近では、新たな遺伝情報を罹患生体に導入することを通じた疾患表現型の修正として広く定義されるようになった。
【0004】
In vivo遺伝子治療では、導入される遺伝子は、レシピエント生体の細胞にin situで、すなわち、レシピエント内部に導入される。In vivo遺伝子治療は、複数の動物モデルで試験されてきた。複数の最近の刊行物が、in situで筋肉、造血幹細胞、動脈壁、神経系、及び肺など臓器及び組織に直接遺伝子導入することの実現可能性を報告している。骨格筋、心筋へのDNA直接注射、及び脈管構造へのDNA脂質複合体注射についても、挿入された遺伝子の産物(複数可)がin vivoで検出可能な発現レベルで得られたと報告されている。
【0005】
中枢神経系疾患、例えば、脳の遺伝性遺伝子病の治療は、依然として解決困難な難問である。そのような疾患の例として、リソソーム蓄積症及びアルツハイマー病がある。世界的に見ると、リソソーム蓄積症(LSD)の発生率は、出生数10,000人につき1人であり、症例の65%に、顕著な中枢神経系(CNS)合併症がある。これらの疾患で欠乏しているタンパク質を、静脈内送達した場合には、血液脳関門を通過せず、脳に直接送達した場合には、広範囲に分配されない。すなわち、CNS欠陥の治療法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リソソーム蓄積症(LSD)を有する哺乳類の治療方法を提供する。1つの実施形態において、方法は、以下:
(a)哺乳類の脳または脊椎に、複数のAAV粒子を投与すること、AAV粒子は、(i)AAVカプシドタンパク質と、及び1対のAAV末端逆位配列(ITR)の間に挿入された核酸とを含み、核酸は、リソソームヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードし、かつ(ii)哺乳類の細胞に形質導入すること及びポリペプチドを発現させることができ;ならびに
(b)哺乳類に、第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与すること、
を含む。特定の態様において、第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤は、AAV粒子の投与前に、哺乳類に投与される。
【0007】
特定の実施形態において、ポリペプチドは、トリペプチジルペプチダーゼ1(TPP1)活性を有する。特定の態様において、ポリペプチドは、TPP1、その酵素前駆体、またはその酵素活性を有する変異体を含む。
【0008】
さらなる特定の実施形態において、第一の免疫抑制剤は、AAV粒子の投与前に投与され、第二の免疫抑制剤は、AAV粒子の投与前、投与と同時に、または投与後に、投与される。
【0009】
特定の態様において、第一の免疫抑制剤は、AAV粒子の投与の少なくとも約2週間前に投与され、第二の免疫抑制剤は、AAV粒子の投与の約2週間前、または投与後40日以内に、投与される。
【0010】
特定の態様において、第一の免疫抑制剤は、シクロスポリンを含む。特定の態様において、第二の免疫抑制剤は、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体(例えば、ミコフェノール酸モフェチル(MMF))を含む。
【0011】
ある特定の実施形態において、第一の免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン)は、少なくとも3ヶ月の期間、約5~20mg/kgの投薬量で、1日2回、投与される。
【0012】
ある特定の実施形態において、第一の免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン)の用量は、AAV粒子の投与から1~2ヶ月後、減少させられる。
【0013】
ある特定の実施形態において、第二の免疫抑制剤(例えば、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体)は、1日に、約5~20mg/kgの投薬量で、投与される。
【0014】
さらなる特定の実施形態において、哺乳類の脳脊髄液中のトリペプチジルペプチダーゼ1(TPP1)活性は、350日より長い間、少なくとも5pmolのTPP1/mgタンパク質のレベルで検出可能である。
【0015】
さらなる実施形態において、哺乳類の脳脊髄液(CSF)を含む細胞(例えば、上衣細胞)は、AAV粒子により形質導入される。特定の態様において、AAV粒子で形質導入された細胞(例えば、上衣細胞)は、ポリペプチドを発現して哺乳類のCSFに分泌する。
【0016】
さらなる実施形態において、AAV粒子の投与は、哺乳類の大槽、脳室内腔、脳室、くも膜下腔、髄腔内腔及び/または脳室上皮への投与を含む。
【0017】
なおさらなる実施形態において、AAV粒子の投与は、哺乳類の脳脊髄液(CSF)への投与を含む。
【0018】
さらに追加の実施形態において、AAV粒子の投与は、哺乳類の上衣細胞をAAV粒子と接触させることを含む。
【0019】
ある特定の態様において、AAV粒子の投与は、哺乳類の軟膜細胞、内皮細胞、または髄膜細胞をAAV粒子と接触させることを含む。
【0020】
ある特定の実施形態において、AAV粒子の投与は、哺乳類の脳または脊椎の組織または液体にAAV粒子を注射することを含む。
【0021】
ある特定の実施形態において、AAV粒子の投与は、哺乳類の脳脊髄液にAAV粒子を注射することを含む。
【0022】
ある特定の実施形態において、哺乳類は、非齧歯類哺乳類である。特定の態様において、非齧歯類哺乳類は、霊長類、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、またはイヌである。特定の態様において、非齧歯類哺乳類は、ヒトである(例えば、小児、例えば、年齢が約1歳~約4歳)。
【0023】
ある特定の実施形態において、LSDは、乳児型または遅発乳児型セロイドリポフスチン症(LINCL)、神経型ゴーシェ病、若年型バッテン病、ファブリー病、MLD、サンフィリッポ症候群A型、ハンター症候群、クラッベ病、モルキオ症候群、ポンペ病、ニーマン・ピック病C型、テイ・サックス病、ハーラー症候群(MPS-I H)、サンフィリッポ症候群B型、マロトー・ラミー症候群、ニーマン・ピック病A型、シスチン症、ハーラー・シャイエ症候群(MPS-I H/S)、スライ症候群(MPS VII)、シャイエ症候群(MPS-I S)、乳児型バッテン病、GM1ガングリオシド蓄積症、ムコ脂質症II型/III型、またはサンドホフ病である。
【0024】
特定の実施形態において、LSDと関連した症候が、遅くなる、減少する、低下する、または寛解する。ある特定の態様において、症候は、固有感覚性反応、眼振、威嚇、瞳孔光反射、小脳失調、及び企図振戦のうち1種または複数である。
【0025】
特定の実施形態において、LSDと関連した症候の発症は、第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与した場合、第一の免疫抑制剤を先に投与することなく第二の免疫抑制剤を投与するのに比べて、例えば、5~10、10~25、25~50、または50~100日遅くなる。
【0026】
特定の実施形態において、LSDと関連した認知機能喪失の発症は、第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与した場合、第一の免疫抑制剤を先に投与することなく第二の免疫抑制剤を投与するのに比べて、5~10、10~25、25~50、または50~100日遅くなる。
【0027】
ある特定の実施形態において、LSDを有する哺乳類の寿命は、第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与した場合、第一の免疫抑制剤を先に投与することなく第二の免疫抑制剤を投与するのに比べて、例えば、5~10、10~25、25~50、または50~100日長くなる。
【0028】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、約1×108~約1×1015vg/kgの用量で投与される。
【0029】
ある特定の実施形態において、中和抗体(例えば、AAVベクター粒子またはリソソームヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドに対するもの)は、AAV粒子の投与後、少なくとも30、60、90、120日間、またはそれより長い間、哺乳類のCSF中に検出されない。特定の態様において、中和抗体(例えば、AAVベクター粒子またはリソソームヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドに対するもの)は、AAV粒子の投与後、少なくとも250日間、哺乳類のCSF中に検出されない。
【0030】
ある特定の実施形態において、ポリペプチドは、哺乳類の脾臓または心臓で発現する。
【0031】
ある特定の実施形態において、ポリペプチドは、哺乳類の小脳で発現する。
【0032】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-rh74、AAV-rh10、及びAAV-2i8粒子である。
【0033】
ある特定の実施形態において、1種または複数のAAVのITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-rh74、AAV-rh10、及びAAV-2i8のITRである。
【0034】
本発明は、AAVベクター及びAAVベクター粒子も提供する。1つの実施形態において、AAVベクターは、AAVのITR配列、リソソームヒドロラーゼ活性を有するポリペプチド(例えば、TPP1)をコードする核酸、及びリソソームヒドロラーゼ活性を有するポリペプチド(例えば、TPP1)をコードする核酸の発現を駆動する発現制御領域を含む。
【0035】
1つの実施形態において、AAV粒子は、本明細書中記載されるとおりのAAVベクターを含む。
【0036】
ある特定の実施形態において、AAVベクターまたはAAV粒子は、1つまたは複数のAAV2のITRなどのAAVのITR配列を含む。
【0037】
ある特定の実施形態において、AAVベクターまたはAAVは、哺乳類TPP1をコードする核酸を有する。ある特定の態様において、核酸は、ヒトTPP1をコードする。ある特定の態様において、核酸は、配列番号5として記載されるヒトTPP1と80%以上の同一性を有するタンパク質をコードする。ある特定の態様において、核酸は、配列番号5として記載されるヒトをコードする。
【0038】
ある特定の実施形態において、発現制御領域は、CMVエンハンサーを含む。
【0039】
ある特定の実施形態において、発現制御領域は、ベータアクチンプロモーターを含む。特定の態様において、発現制御領域は、トリベータアクチンプロモーターを含む。
【0040】
ある特定の実施形態において、発現制御領域は、CMVエンハンサー及びトリベータアクチンプロモーターを含む。
【0041】
ある特定の実施形態において、発現制御領域は、配列番号9と80%以上の同一性を有する配列を含む。特定の態様において、発現制御領域は、配列番号9を含む。
【0042】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh10、Rh74、またはAAV-2i8のVP1、VP2、及び/またはVP3配列と90%以上の同一性を有するVP1、VP2、及び/またはVP3カプシド配列を含むカプシド配列を有する。
【0043】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAV2のVP1カプシド配列と80%以上の同一性を有する、またはAAV2と80%以上の同一性を有するVP1カプシド配列を有し、カプシド配列は、444位、500位、及び/または730位のチロシンが、チロシンではないアミノ酸に置換されている。特定の態様において、カプシド配列は、AAV2のVP1カプシド配列と80%以上の同一性を有し、カプシド配列は、444位、500位、及び/または730位のチロシンが、フェニルアラニンに置換されている。さらに特定の態様において、カプシド配列は、AAV2のVP1カプシド配列を含み、配列中、444位、500位、及び/または730位のチロシンは、フェニルアラニンに置換されている。
【0044】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh10、Rh74、またはAAV-2i8のAAV血清型のうちいずれかから選択されるVP2またはVP3カプシド配列を有する。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
(a)哺乳類の脳または脊椎に、複数のAAV粒子を投与する工程であって、
前記AAV粒子は、(i)AAVカプシドタンパク質及び1対のAAV末端逆位配列(ITR)の間に挿入された核酸を含み、前記核酸は、リソソームヒドロラーゼ活性を有するポリペプチドをコードし、(ii)前記哺乳類の細胞に形質導入されて前記ポリペプチドの発現をもたらすことができる、前記工程と、
(b)前記哺乳類に、第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与する工程、
とを含み、
前記第一の免疫抑制剤及び前記第二の免疫抑制剤のうち少なくとも1つは、前記AAV粒子の投与前に、前記哺乳類に投与される、
リソソーム蓄積症(LSD)を有する哺乳類の治療方法。
(項目2)
前記ポリペプチドは、トリペプチジルペプチダーゼ1(TPP1)活性を有する、項目1に記載の哺乳類の治療方法。
(項目3)
前記ポリペプチドは、TPP1、その酵素前駆体、またはその酵素活性を有する変異体を含む、項目2に記載の哺乳類の治療方法。
(項目4)
前記第一の免疫抑制剤は、前記AAV粒子の投与前に投与され、かつ前記第二の免疫抑制剤は、前記AAV粒子の投与前、投与と同時に、または投与後に投与される、項目1から3のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目5)
前記第一の免疫抑制剤は、シクロスポリンを含む、項目1から4のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目6)
前記第二の免疫抑制剤は、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体を含む、項目1から5のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目7)
前記ミコフェノール酸誘導体は、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)である、項目6に記載の哺乳類の治療方法。
(項目8)
前記哺乳類の脳脊髄液中のトリペプチジルペプチダーゼ1(TPP1)活性は、350日より長い間、少なくとも5pmolのTPP1/mgタンパク質のレベルで検出可能である、項目1から7のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目9)
前記哺乳類の前記脳脊髄液(CSF)を含む細胞に、前記AAV粒子で形質導入する、項目1から8のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目10)
(i)前記第一の免疫抑制剤は、前記AAV粒子の投与の少なくとも約2週間前に投与され、かつ(ii)前記第二の免疫抑制剤は、前記AAV粒子の約2週間前または投与後40日以内に投与される、項目1から9のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目11)
前記AAV粒子の投与は、前記哺乳類の大槽、脳室内腔、脳室、くも膜下腔、髄腔内腔、または脳室上皮への投与を含む、項目1から10のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目12)
前記AAV粒子の投与は、前記哺乳類の前記脳脊髄液(CSF)への投与を含む、項目1から10のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目13)
前記AAV粒子の投与は、前記哺乳類の上衣細胞を、前記AAV粒子と接触させることを含む、項目1から10のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目14)
前記AAV粒子で形質導入された細胞は、前記ポリペプチドを発現して前記哺乳類の前記CSFに分泌する、項目1から13のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目15)
前記AAV粒子の投与は、前記哺乳類の軟膜細胞、内皮細胞、または髄膜細胞を、前記AAV粒子と接触させることを含む、項目1から10のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目16)
前記哺乳類は、非齧歯類哺乳類である、項目1から15のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目17)
前記非齧歯類哺乳類は、霊長類、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、またはイヌである、項目16に記載の哺乳類の治療方法。
(項目18)
前記非齧歯類哺乳類は、ヒトである、項目16に記載の哺乳類の治療方法。
(項目19)
前記ヒトは、小児である、項目18に記載の哺乳類の治療方法。
(項目20)
前記小児は、年齢が約1歳~約4歳である、項目19に記載の哺乳類の治療方法。
(項目21)
前記LSDは、乳児型もしくは遅発乳児型セロイドリポフスチン症(LINCL)、神経型ゴーシェ病、若年型バッテン病、ファブリー病、MLD、サンフィリッポ症候群A型、ハンター症候群、クラッベ病、モルキオ症候群、ポンペ病、ニーマン・ピック病C型、テイ・サックス病、ハーラー症候群(MPS-I H)、サンフィリッポ症候群B型、マロトー・ラミー症候群、ニーマン・ピック病A型、シスチン症、ハーラー・シャイエ症候群(MPS-I H/S)、スライ症候群(MPS VII)、シャイエ症候群(MPS-I S)、乳児型バッテン病、GM1ガングリオシド蓄積症、ムコ脂質症II型/III型、またはサンドホフ病である、項目1から20のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目22)
前記AAV粒子の投与は、前記哺乳類の脳または脊椎の組織または液体への前記AAV粒子の注射を含む、項目1から21のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目23)
前記AAV粒子の投与は、前記哺乳類の脳脊髄液への前記AAV粒子の注射を含む、項目1から21のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目24)
前記AAV粒子で、前記哺乳類の上衣細胞に形質導入する、項目1から23のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目25)
前記LSDと関連した症候の発症は、前記第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与した場合、前記第一の免疫抑制剤の前投与なしに前記第二の免疫抑制剤を投与するのに比べて、5~10、10~25、25~50、または50~100日遅くなる、項目1から24のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目26)
前記症候は、固有感覚性反応、眼振、威嚇、瞳孔光反射、小脳失調、及び企図振戦からなる群より選択される、項目25に記載の哺乳類の治療方法。
(項目27)
前記LSDと関連した認知機能喪失の発症は、前記第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与した場合、前記第一の免疫抑制剤の前投与なしに前記第二の免疫抑制剤を投与するのに比べて、5~10、10~25、25~50、または50~100日遅くなる、項目1から21のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目28)
前記LSDを有する哺乳類の寿命は、前記第一の免疫抑制剤及び第二の免疫抑制剤を投与した場合、前記第一の免疫抑制剤の前投与なしに前記第二の免疫抑制剤を投与するのに比べて、5~10、10~25、25~50、または50~100日延長される、項目1から27のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目29)
前記シクロスポリンは、少なくとも3ヶ月の期間、1日2回、約5~20mg/kgの投薬量で投与される、項目5から28のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目30)
投与される前記シクロスポリンの用量は、前記AAV粒子の投与後、1~2ヶ月後に減少される、項目5から28のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目31)
前記ミコフェノール酸化合物またはその誘導体は、1日約5~20mg/kgの投薬量で投与される、項目6から30のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目32)
前記AAV粒子は、約1×108~約1×1015vg/kgの用量で投与される、項目1から31のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目33)
中和抗体は、前記AAV粒子の投与後、少なくとも30、60、90、120日間、またはそれより長い間、前記哺乳類のCSFで検出されない、項目1から32のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目34)
中和抗体は、前記AAV粒子の投与後、少なくとも250日間、前記哺乳類のCSFで検出されない、項目1から32のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目35)
前記ポリペプチドは、前記哺乳類の脾臓または心臓で発現する、項目1から34のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目36)
前記ポリペプチドは、前記哺乳類の小脳で発現する、項目1から34のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目37)
前記AAV粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-rh74、AAV-rh10、及びAAV-2i8粒子からなる群より選択される、項目1から36のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目38)
1種または複数の前記ITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-rh74、AAV-rh10、及びAAV-2i8のITRからなる群より選択される、項目1から36のいずれか1項に記載の哺乳類の治療方法。
(項目39)
AAVのITR配列、TPP1をコードする核酸、及び前記TPP1をコードする核酸の発現を駆動する発現制御領域を含む、AAVベクター。
(項目40)
項目39に記載のAAVベクター、及びAAVカプシド配列を含む、AAV粒子。
(項目41)
前記AAVのITR配列は、1つまたは複数のAAV2のITRを含む、項目39または40に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目42)
前記核酸は、哺乳類TPP1をコードする、項目39から41のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目43)
前記核酸は、ヒトTPP1をコードする、項目39から41のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目44)
前記核酸は、TPP1活性を持ちかつ配列番号5に記載されるヒトTPP1と80%以上の同一性を有するタンパク質をコードする、項目39から41のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目45)
前記核酸は、配列番号5に記載されるヒトTPP1をコードする、項目39から41のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目46)
前記発現制御領域は、CMVエンハンサーを含む、項目39から45のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目47)
前記発現制御領域は、ベータアクチンプロモーターを含む、項目39から45のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目48)
前記発現制御領域は、トリベータアクチンプロモーターを含む、項目39から45のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目49)
前記発現制御領域は、CMVエンハンサー及びトリベータアクチンプロモーターを含む、項目39から45のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目50)
前記発現制御領域は、配列番号9と80%以上の同一性を有する配列を含む、項目39から45のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目51)
前記発現制御領域は、配列番号9を含む、項目39から45のいずれか1項に記載のAAVベクターまたはAAV粒子。
(項目52)
前記カプシド配列は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh10、Rh74、またはAAV-2i8の、VP1、VP2、及び/またはVP3配列と90%以上の同一性を有するVP1、VP2、及び/またはVP3カプシド配列を含む、項目40に記載のAAV粒子。
(項目53)
前記カプシド配列は、AAV2と80%以上の同一性を有するVP1カプシド配列を含み、前記カプシド配列は、444位、500位、及び/または730位のチロシンが、チロシンではないアミノ酸に置換されている、項目40から51のいずれか1項に記載のAAV粒子。
(項目54)
前記カプシド配列は、と80%以上の同一性を有するVP1カプシド配列を含む、項目40から51のいずれか1項に記載のAAV粒子。
(項目55)
前記カプシド配列は、AAV2と90%以上の同一性を有するVP1カプシド配列を含み、前記カプシド配列は、444位、500位、及び/または730位のチロシンが、フェニルアラニンに置換されている、項目40から51のいずれか1項に記載のAAV粒子。
(項目56)
前記カプシド配列は、444位、500位、及び/または730位のチロシンが、フェニルアラニンに置換されているAAV2のVP1カプシド配列を含む、項目40から51のいずれか1項に記載のAAV粒子。
(項目57)
前記ベクターの前記カプシド配列は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rh10、Rh74、またはAAV-2i8のAAV血清型のいずれかから選択される、VP1、VP2、またはVP3カプシド配列を含む、項目40から51のいずれか1項に記載のAAV粒子。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1A】AAV2のVP1(配列番号1;AVV2capPro)及びAAV4のVP1(配列番号2;AVV4capPro)の配列比較を示す。
【
図1B】AAV2のVP1(配列番号1;AVV2capPro)及びAAV4のVP1(配列番号2;AVV4capPro)の配列比較を示す。
【
図1C】AAV2のVP1(配列番号1;AVV2capPro)及びAAV4のVP1(配列番号2;AVV4capPro)の配列比較を示す。
【
図2A】AAV2由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001401)及びAAV4由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001829)に基づくAAV2(配列番号3;AVV2capNuc)及びAAV4(配列番号4;AVV4capNuc1)ヌクレオチド(すなわち、VP1、VP2、及びVP3をコードするORF)の配列比較を示す。
【
図2B】AAV2由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001401)及びAAV4由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001829)に基づくAAV2(配列番号3;AVV2capNuc)及びAAV4(配列番号4;AVV4capNuc1)ヌクレオチド(すなわち、VP1、VP2、及びVP3をコードするORF)の配列比較を示す。
【
図2C】AAV2由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001401)及びAAV4由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001829)に基づくAAV2(配列番号3;AVV2capNuc)及びAAV4(配列番号4;AVV4capNuc1)ヌクレオチド(すなわち、VP1、VP2、及びVP3をコードするORF)の配列比較を示す。
【
図2D】AAV2由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001401)及びAAV4由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001829)に基づくAAV2(配列番号3;AVV2capNuc)及びAAV4(配列番号4;AVV4capNuc1)ヌクレオチド(すなわち、VP1、VP2、及びVP3をコードするORF)の配列比較を示す。
【
図2E】AAV2由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001401)及びAAV4由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001829)に基づくAAV2(配列番号3;AVV2capNuc)及びAAV4(配列番号4;AVV4capNuc1)ヌクレオチド(すなわち、VP1、VP2、及びVP3をコードするORF)の配列比較を示す。
【
図2F】AAV2由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001401)及びAAV4由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001829)に基づくAAV2(配列番号3;AVV2capNuc)及びAAV4(配列番号4;AVV4capNuc1)ヌクレオチド(すなわち、VP1、VP2、及びVP3をコードするORF)の配列比較を示す。
【
図2G】AAV2由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001401)及びAAV4由来配列(NCBI受け入れ番号NC_001829)に基づくAAV2(配列番号3;AVV2capNuc)及びAAV4(配列番号4;AVV4capNuc1)ヌクレオチド(すなわち、VP1、VP2、及びVP3をコードするORF)の配列比較を示す。
【
図3】ヒトTPP1アミノ酸配列(配列番号5)を示す。
【
図4A】ヒトTPP1核酸配列(配列番号6)を示す。
【
図4B】ヒトTPP1核酸配列(配列番号6)を示す。
【
図4C】ヒトTPP1核酸配列(配列番号6)を示す。
【
図5】Macaca mulattaのTPP1アミノ酸配列(配列番号7)を示す。
【
図6】Macaca fascicularisのTPP1アミノ酸配列(配列番号8)を示す。
【
図7】
図7A~7Fは、CSF中のTPP1及びTPP1中和抗体(NAb)レベルを示す。TPP1レベルの上昇は、活性アッセイにより測定され(
図7A、
図7C、及び
図7E)、NAbレベルは、TPP1欠乏マウス胚線維芽細胞を精製TPP1+処置前後に収集したイヌCSFの混合物と接触させ、未処置のイヌCSFと比較することにより測定した(
図7B、
図7D、及び
図7F)。TPP1活性及びNAbレベルを、免疫抑制処置が施されたイヌで測定した:44日目のベクター点滴との比較(
図7A及び
図7B);33日目のベクター点滴との比較(
図7C及び
図7D)、及び-5日目のベクター点滴との比較(
図7E及び
図7F;DC019は、0.3pmol/mgタンパク質を示し、これは、正常な場合の100%である)。
【
図8】
図8A~8Gは、TPP1欠乏イヌでの臨床症候の発生に対するAAV2.caTPP1処置の効果を示す:(
図8A)骨盤肢での固有感覚性反応障害の発生は、未処置のイヌと比較して、処置したイヌで平均で4.5ヶ月遅くなった;(
図8B)病的眼振は、処置したイヌ5匹中3匹で出現しなかった;(
図8C)威嚇反応欠如の発生は、未処置のイヌと比較して、処置したイヌで遅くなった;(
図8D)瞳孔光反射異常は、未処置のイヌと比較して、処置したイヌで平均で3.1ヶ月遅く出現した;(
図8E)小脳失調は、未処置のイヌと比較して、処置したイヌで5.4ヶ月遅く検出された;(
図8F)前肢での固有感覚性反応障害の発生は、未処置のイヌと比較して、処置したイヌで遅くなった;(
図8G)処置したイヌは、未処置のイヌより4.1ヶ月遅く企図振戦を示し始めた。ノンパラメトリックマン・ホイットニー検定を用いて
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図9】失認の発症に対するAAV2.caTPP1処置の効果を示す。AAV.caTPP1処置したイヌは、4ヶ月後(注射から1ヶ月後)からすでに、未処置のイヌより優れていた。
【
図10A】実験終点での脳実質中のTPP1活性レベルを示す。脳室上皮中のTPP1活性レベル。
【
図10B】実験終点での脳実質中のTPP1活性レベルを示す。脳室周囲領域または髄膜領域中のTPP1活性レベル。TPP1レベルは正常なイヌで見られるものに対する相対値である。
【
図11A】AAV.caTPP1注入したイヌでのcaTPP1の体内分布を示す。処置(右側)及び未処置(中央)のTPP1欠乏イヌでのイヌTPP1の免疫組織化学染色。前脳の中隔野(Spt)及び尾状核(Caud)、第三脳室のレベルの視床下部(HT)、ならびに第四脳室近くの前庭野(VA)中のTPP1免疫陽性細胞を示す。スケールバー=100μm。I.側脳室(第一及び第二列のパネル)、III.脳室(第3列のパネル)、及びIV脳室(第四列のパネル)の断面を示す。
【
図11B】AAV.caTPP1注入したイヌでのcaTPP1の体内分布を示す。中心管及び脊椎に沿ったニューロン近くのTPP1免疫陽性細胞;頚部3(C3)、胸部5(T5)、及び腰部7(L7)。スケールバー=400μm。
【
図11C】AAV.caTPP1注入したイヌでのcaTPP1の体内分布を示す。処置(右側)及び未処置(中央)のTPP1欠乏イヌでのイヌTPP1の免疫組織化学染色。断面を、パネルの左側に示す。TPP1免疫陽性細胞、尾側から頭側領域に向かってTPP1免疫陽性細胞を示す。スケールバー=100μm。
【
図12】星状細胞活性化に対するAAV.caTPP1処置の効果を示す。グリア線維酸性タンパク質(GFAP)の免疫反応性により測定したグリア性星状細胞増多症は、未処置のTPP1欠乏イヌと比較して、処置したイヌで減少した。mCx=運動皮質;cgCx=帯状皮質。スケールバー=1mm。
【
図13A】未処置のTPP1欠乏イヌと比較して、AAV2.caTPP1処置したイヌでの自発蛍光貯蔵及びATPシンターゼサブユニットC蓄積の免疫標識のレベルの低下。スケールバー=それぞれ、25μm及び100μm。
【
図13B】ウエスタンブロットにより定量した場合の、視床(Th)、小脳(CB)、及び後頭葉皮質(occCx)中のp62及びSCMAS。正常なイヌ(黒塗縦棒)及びAAV.caTPP1処置したイヌ(白抜縦棒)の結果を未処置のイヌのp62及びSCMASレベルで正規化した。AAV.caTPP1は、ベクター点滴に対するMMF処置の日でグループ化した。
【
図14】末梢臓器中のTPP1レベルを示す。TPP1レベルは、未処置(-)、AAV.caTPP1処置(+)、及び正常なイヌ(+/+)と示された末梢組織をホモジナイズした試料中のTPP1活性アッセイにより測定した。TPP1活性の上昇が、未処置のTPP1欠乏イヌと比較して、AAV.caTPP1処置したイヌの脾臓及び心臓試料で検出された。ノンパラメトリッククラスカル・ウォリス検定を用いて
*p<0.05。
【
図15】正常なイヌのCSF中のTPP1レベルを示す。TPP1レベルは、正常イヌCSF中のTPP1活性レベルにより測定した。
【
図16】寿命に対するAAV.caTPP1処置の効果を示す。未処置TPP1-nullイヌ(黒線)及びAAV.caTPP1注射した動物を、注射後33日目(破線)または注射前5日目(点線)にMMF処置した場合の生存率プロット。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本明細書中提供されるのは、哺乳類のリソソーム蓄積症(LSD)の治療方法である。ある特定の実施形態において、本明細書中記載される治療を必要とする哺乳類とは、LSDを有する、または有することが疑われる哺乳類である。ある特定の実施形態において、本明細書中記載される方法または組成物は、LSDの1つまたは複数の症候の発症を治療する、予防する、または遅らせるために使用される。
【0047】
LSDの非限定的な例として、乳児型リポフスチン症または遅発乳児型神経セロイドリポフスチン症(LINCL)、ゴーシェ病、若年型バッテン病、ファブリー病、MLD、サンフィリッポ症候群A型、遅発乳児型バッテン病、ハンター症候群、クラッベ病、モルキオ症候群、ポンペ病、ニーマン・ピック病C型、テイ・サックス病、ハーラー症候群(MPS-IH)、サンフィリッポ症候群B型、マロトー・ラミー症候群、ニーマン・ピック病A型、シスチン症、ハーラー・シャイエ症候群(MPS-I H/S)、スライ症候群(MPS VII)、シャイエ症候群(MPS-I S)、乳児型バッテン病、GM1ガングリオシド蓄積症、ムコ脂質症II型/III型、またはサンドホフ病が挙げられる。
【0048】
LSDは、トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP1)酵素をコードする遺伝子の遺伝子異常(例えば、変異、欠失、挿入)によりもたらされるTPP1酵素活性の欠乏により引き起こされることが多い。ヒトでは、TPP1は、CLN2遺伝子によりコードされ、この遺伝子は、TPP1遺伝子と呼ぶこともある。例えば、遅発乳児型神経セロイドリポフスチン症(LINCL)は、CLN2での変異によるTPP1活性の欠乏により引き起こされるものがほとんどである小児神経変性疾患である。発育は、年齢2~4歳になるまで正常であるが、その後、運動及び精神機能低下、発作性疾患、及び失明として症状が出現する。寿命は、一般に、10歳までである。LINCLの症例のほとんどは、CLN2での変異によるものであり、この変異が、可溶性リソソーム酵素トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP1)の欠乏を誘導する。TPP1は、マンノース-6-リン酸酵素前駆体として合成され、そして他の可溶性リソソームヒドロラーゼと同様に、酵素前駆体は、主にリソソームを標的としてそこに向けられるが、分泌経路を介して、細胞から放出される場合もあり得る。そのため、同一細胞または近隣細胞による細胞取り込み、及びそれに続くリソソーム送達及び酵素前駆体から活性型への活性化が、起こり得る。
【0049】
本明細書中提供されるのは、ある特定の実施形態において、中枢神経系の組織または液体に、直接、TPP1活性を有するポリペプチドの発現を指示するAAV粒子(本明細書中、AAV-TPP1粒子と称する)を投与することによる、LSDを有するまたは有することが疑われる哺乳類の治療方法である。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、1種または複数の免疫抑制剤と併せて投与される。本明細書中開示されるのは、リソソーム蓄積症の動物モデルにおける脳及び/または脊椎への直接AAV送達の有効性を示すデータである。
【0050】
任意の適切な哺乳類を、本明細書中提供される方法または組成物により治療することができる。哺乳類の非限定的な例として、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、ヒト上科サル、テナガザル、チンパンジー、オランウータン、サル、マカクなど)、家庭内動物(例えば、イヌ及びネコ)、牧畜動物(例えば、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ)、及び実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット)が挙げられる。ある特定の実施形態において、哺乳類は、ヒトである。ある特定の実施形態において、哺乳類は、非齧歯類哺乳類(例えば、ヒト、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、イヌなど)である。ある特定の実施形態において、非齧歯類哺乳類は、ヒトである。哺乳類は、何歳でも、発育のどの段階にあってもよい(例えば、成人、十代、小児、乳児、または子宮内の哺乳類)。哺乳類は、オスでもメスでもよい。ある特定の実施形態において、哺乳類は、疾患の動物モデルが可能であり、例えば、LSDの研究に使用される動物モデルである。
【0051】
本明細書中記載される方法または組成物により治療される対象には、成人(18歳以上)及び小児(年齢18歳未満)が含まれる。小児は、乳児も含む。小児の範囲は、年齢が2歳未満から、または2~4、4~6、6~18、8~10、10~12、12~15、及び15~18歳である。乳児は、典型的には、1~12ヶ月齢の範囲である。
【0052】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科の小さな非病原性ウイルスである。AAVは、複製のためにヘルパーウイルスに依存することにより、この科の他のウイルスとは異なる。AAVゲノムは、宿主細胞ゲノムに安定して組み込まれること;広い宿主範囲を有すること;in vitro及びin vivoで分裂細胞及び非分裂細胞の両方に形質導入し、形質導入された遺伝子の発現を高レベルに維持すること、を示してきた。AAVウイルス粒子は、熱安定性であり、溶媒、洗浄剤、pH変化、温度に対して耐性があり、CsCl勾配または他の手段により濃縮することができる。AAVゲノムは、ポジティブセンスまたはネガティブセンスの一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)を含む。ヘルパーウイルスが存在しない場合、AAVは、遺伝子座特異的様式で、例えば、19番染色体の長腕に組み込まれる場合がある。AAVの約5kbゲノムは、正または負の極性いずれかを持つ一本鎖DNAの1つのセグメントからなる。ゲノムの末端は、短い末端逆位配列であり、これは折り畳まれてヘアピン構造になりウイルスDNA複製の起点となることができる。
【0053】
今まで、血清学的に異なるAAVが数多く同定されてきており、十数種が、ヒトまたは霊長類から単離されてきた。大部分の天然AAVのゲノムは、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含有する場合が多く、これらは、左ORF及び右ORFと称される場合もある。左ORFが、非構造Repタンパク質、Rep40、Rep52、Rep68、及びRep78をコードすることが多く、これらのタンパク質は、一本鎖後代ゲノムの産生に加えて、複製及び転写の調節に関与する。Repタンパク質のうち2種は、AAVゲノムがヒト19番染色体の長腕の領域に優先的に組み込まれることに関連するとされてきた。Rep68/78は、NTP結合活性、ならびにDNA及びRNAヘリカーゼ活性を持つことが示されてきた。Repタンパク質の中には、核移行シグナルならびに複数のリン酸化可能部位を持つものがある。ある特定の実施形態において、AAV(例えば、rAAV)のゲノムは、Repタンパク質のいくつかまたは全てをコードする。ある特定の実施形態において、AAV(例えば、rAAV)のゲノムは、Repタンパク質をコードしない。ある特定の実施形態において、1種または複数のRepタンパク質は、トランスで送達することが可能であり、したがって、ポリペプチドをコードする核酸を含むAAV粒子に含まれていなくてもよい。
【0054】
AAVゲノムの末端は、短い末端逆位配列(ITR)を含み、この配列は、ウイルスDNA複製の起点となるT型ヘアピン構造へと折り畳まれる可能性を有する。したがって、AAVのゲノムは、その一本鎖ウイルスDNAゲノムと隣接する1つまたは複数の(例えば、1対の)ITR配列を含む。ITR配列は、それぞれ約145塩基を含むことが多い。ITR領域内で、ITRの機能の中心であると思われる2つの配列要素、GAGC繰り返しモチーフ、及び末端分離部位(trs)が報告されている。繰り返しモチーフは、ITRが直鎖またはヘアピン配座いずれかにある場合にRepと結合することが示されている。この結合は、trsで切断するため、第Rep68/78位であると考えられ、切断は、部位特異的かつ鎖特異的様式で起こる。これら2つの配列要素は、複製におけるそれらの役割の他に、ウイルスの組み込みにも中心的存在であるらしい。19番染色体の組み込み遺伝子座内に含まれているのは、隣接trsを持つRep結合部位である。これらの配列要素は、遺伝子座特異的組み込みに機能しかつ必要であることが示されてきた。ある特定の実施形態において、AAV(例えば、rAAV)は、2つのITRを含む。ある特定の実施形態において、AAV(例えば、rAAV)は、1対のITRを含む。ある特定の実施形態において、AAV(例えば、rAAV)は、TPP1酵素活性を有するポリペプチドを少なくともコードするポリヌクレオチドを挟む(すなわち、5’末端及び3’末端のそれぞれで隣接する)1対のITRを含む。
【0055】
AAVビリオン(粒子)は、非エンベロープ型の正二十面体粒子であり、直径が約25nmである。AAV粒子は、3種の関連するカプシドタンパク質、VP1、VP2、及びVP3で構成される正二十面体対称のカプシドを含み、カプシドタンパク質は、相互作用して一緒になってカプシドを形成する。右ORFが、カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードすることが多い。これらのタンパク質は、1:1:10の比でそれぞれ見つかることが多いが、異なる比の場合もあり、すべて右手ORFに由来する。カプシドタンパク質は、選択的スプライシング及び独自開始コドンの使用により互いに異なる。欠失解析から、選択的スプライシングされたメッセージから翻訳されるVP1の除去または改変は、感染性粒子の産生量の低下をもたらすことが示されてきた。VP3翻訳領域内での変異は、結果的にどのような一本鎖後代DNAも感染性粒子も産生することができなくなる。AAV粒子は、AAVカプシドを含むウイルス粒子である。ある特定の実施形態において、AAV粒子のゲノムは、1種、2種、または全てのVP1、VP2、及びVP3ポリペプチドをコードする。
【0056】
「ベクター」という用語は、小さいキャリア核酸分子、プラスミド、ウイルス(例えば、AAVベクター)、あるいは核酸の挿入または組み込みにより操作することが可能な他のビヒクルを示す。そのようなベクターは、ポリヌクレオチドを細胞に導入/移動させるため、及び細胞に挿入されたポリヌクレオチドを転写または翻訳するため、遺伝子操作(すなわち、「クローニングベクター」)に使用することができる。
【0057】
「発現ベクター」は、遺伝子または核酸配列を、宿主細胞での発現に必要な必須調節領域とともに含有する専用ベクターである。ベクター核酸配列は、一般に、少なくとも細胞での増殖のための複製起点、及び任意選択で追加の配列要素、例えば異種ポリヌクレオチド配列、発現制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー)、イントロン、ITR(複数可)、ポリアデニル化信号を含有する。
【0058】
ウイルスベクターは、ウイルスゲノムを含む1つまたは複数の核酸配列要素に由来する、またはそれに基づく。特定のウイルスベクターとして、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが挙げられる。同じく提供されるのは、TPP1ポリペプチド、バリアント、またはサブ配列(例えば、TPP1酵素活性を有するポリペプチド断片)をコードする核酸配列を含むベクターである。
【0059】
「組換え」という用語は、例えば、レンチもしくはパルボウイルス(例えば、AAV)ベクターなどの組換えウイルスなどベクターの修飾語として、ならびに組換えポリヌクレオチド及びポリペプチドなど配列の修飾語として、その組成物が、一般に自然には起こらない様式で操作された(すなわち、改変された)ことを意味する。組換えベクターの特定例、例えばAAVベクターなどは、野生型ウイルス(例えば、AAV)ゲノムに通常存在しないポリヌクレオチドを、そのウイルスゲノムに挿入したものと言える。組換えポリヌクレオチドの例は、TPP1ポリペプチドをコードする核酸(例えば、遺伝子)を、その遺伝子がウイルス(例えば、AAV)ゲノム内で通常付随する5’、3’、及び/またはイントロン領域とともに、またはそれらを伴わずに、ベクターにクローン導入したものと言える。「組換え」という用語は、ウイルスベクター及びAAVベクターなどのベクター、ならびにポリヌクレオチドなどの配列に関して本明細書中常に使用されるわけではないが、ポリヌクレオチドをはじめとする組換え型は、そのような省略がどのようにあったとしても、明らかに包含される。
【0060】
組換えウイルス「ベクター」または「AAVベクター」は、ウイルス(例えば、AAV)から野生型ゲノムを除去し、非天然核酸、例えばTPP1をコードする核酸配列などで置き換える分子的方法を用いることにより、AAVなどのウイルスの野生型ゲノムから派生する。典型的には、AAVの場合、AAVゲノムの一方または両方の末端逆位配列(ITR)配列は、AAVベクターに保持される。「組換え」ウイルスベクター(例えば、AAV)は、ウイルス(例えば、AAV)ゲノムとは区別される。というのも、ウイルスゲノムの全部または一部が、ウイルス(例えば、AAV)ゲノム核酸に関して非天然の配列、例えばTPP1をコードする核酸配列で置き換えられているからである。したがって、非天然配列の組み込みは、ウイルスベクター(例えば、AAV)を「組換え」ベクターと定義し、AAVの場合、このベクターは、「rAAVベクター」と称することができる。
【0061】
AAVベクター(例えば、rAAVベクター)は、ex vivo、in vitro、またはin vivoで細胞に引き続き感染(形質導入)するために、パッケージ化することができ、本明細書中「AAV粒子」と称される。組換えAAVベクターが封入またはパッケージ化されてAAV粒子になった場合、粒子は、「rAAV粒子」とも称することができる。ある特定の実施形態において、AAV粒子は、rAAV粒子である。AAV粒子は、AAVベクターまたはその一部分を含むことが多い。AAV粒子は、1つまたは複数のAAV粒子(例えば、複数のAAV粒子)が可能である。AAV粒子は、典型的には、AAVベクターゲノムを封入またはパッケージ化するタンパク質(例えば、カプシドタンパク質)を含む。
【0062】
任意の適したAAV粒子(例えば、rAAV粒子)を、本明細書中の方法または組成物に使用することができる。AAV粒子、及び/またはその中に含まれるゲノムは、AAVの任意の適切な血清型または株に由来することができる。AAV粒子、及び/またはその中に含まれるゲノムは、AAVの2種以上の血清型または株に由来することができる。したがって、AAVは、AAVの任意の血清型または株のタンパク質及び/または核酸、またはその一部分を含むことができ、AAV粒子は、哺乳類細胞への感染及び/または形質導入に適している。AAV血清型の非限定的な例として、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-rh74、AAV-rh10、またはAAV-2i8が挙げられる。ある特定の実施形態において、複数のAAV粒子は、同一株または血清型(またはサブグループもしくは変異体)の粒子、またはそれに由来する粒子を含む。ある特定の実施形態において、複数のAAV粒子は、2種以上の異なるAAV粒子(例えば、異なる血清型及び/または株のもの)の混合物を含む。
【0063】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAV4粒子ではない。ある特定の実施形態において、AAV粒子は、抗原的にまたは免疫学的にAAV4と異なる。異なるものであることは、定法により決定することができる。例えば、ELISA及びウエスタンブロット法を用いて、ウイルス粒子が抗原的にまたは免疫学的にAAV4と異なるかどうかを決定することができる。そのうえさらに、ある特定の実施形態において、AAV2ウイルス粒子は、AAV4と異なる組織向性を保持する。
【0064】
ある特定の実施形態において、第一の血清型ゲノムに基づくrAAVベクターは、ベクターをパッケージ化する1種または複数のカプシドタンパク質の血清型と同一である。ある特定の実施形態において、組換えAAVベクターゲノムは、ベクターをパッケージ化する1種または複数のAAVカプシドタンパク質の血清型と異なるAAV(例えば、AAV2)血清型ゲノムに基づくものであり得る。例えば、AAVベクターゲノムは、AAV2由来の核酸(例えば、ITR)を含むことができ、一方で3種のカプシドタンパク質のうち少なくとも1種または複数は、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、Rh10、Rh74、またはAAV-2i8血清型、あるいはそれらの変異型に由来する。
【0065】
ポリペプチドの発現を指示するポリヌクレオチドを含む組換えAAVベクターは、当該分野で既知の適切な組換え技法を用いて作製することができる(例えば、Sambrook et al., 1989を参照)。組換えAAVベクターは、典型的には、形質導入可能なAAV粒子にパッケージ化されて、AAVウイルスパッケージングシステムを用いて増殖する。形質導入可能なAAV粒子は、哺乳類細胞に結合してこれに進入し、続いて核酸カーゴ(例えば、異種遺伝子)を細胞の核に送達することができる。すなわち、形質導入可能なインタクトAAV粒子は、哺乳類細胞に形質導入するように構成されている。哺乳類細胞に形質導入するように構成されたAAV粒子は、複製可能ではないことが多く、自己複製のために追加のタンパク質機構を必要とする。すなわち、哺乳類細胞に形質導入するように構成されたAAV粒子は、哺乳類細胞に結合してこれに進入し、そして細胞に核酸を送達するように改変されているが、送達される核酸は、AAVゲノム中の1対のAAV ITRの間に配置されていることが多い。
【0066】
ある特定の実施形態において、形質導入可能なAAV粒子を産生するのに適切な宿主細胞として、微生物、酵母菌細胞、昆虫細胞、及び異種AAVベクターのレシピエントとして使用可能な、または使用されてきた哺乳類細胞が挙げられる。適切なヒト細胞株由来の細胞、293(例えば、アメリカ培養細胞系統保存機関を通じて、受入番号ATCC CRL1573で容易に入手可能)を、本開示の実施に使用することができる。ある特定の実施形態において、アデノウイルス5型DNA断片で形質転換されており、アデノウイルスE1a及びE1b遺伝子を発現する改変ヒト胚腎臓細胞株(例えば、HEK293)を用いて、組換えAAV粒子を作製する。改変HEK293細胞株は、容易に形質移入されるので、rAAV粒子を産生するための特に都合の良いプラトフォームを提供する。哺乳類細胞に形質導入することができる高力価AAV粒子を作製する方法は、当該分野で既知である。例えば、AAV粒子は、Wright, 2008及びWright, 2009に記載のとおりに作ることができる。
【0067】
ある特定の実施形態において、AAVヘルパー機能は、AAV発現ベクターで形質移入する前、またはそれと同時のいずれかで、宿主細胞にAAVヘルパー構築物で形質移入することにより、宿主細胞に導入される。すなわち、AAVヘルパー構築物は、場合によっては使用されて、AAVのrep及び/またはcap遺伝子の少なくとも一過性の発現をもたらして、増殖性AAV形質導入に必要だが欠けているAAV機能を補う。AAVヘルパー構築物は、AAVのITRを欠いていることが多く、自分自身を複製することもパッケージ化することもできない。これらの構築物は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルス、またはビリオンの形状をしていることが可能である。複数のAAVヘルパー構築物が記載されてきており、例えば、一般的に使用されるプラスミドであるpAAV/Ad及びpIM29+45などがあるが、これはRep及びCap発現産物の両方をコードする。Rep及び/またはCap発現産物をコードする他のベクターも複数知られている。
【0068】
ある特定の実施形態において、本明細書中の方法は、AAV2粒子の使用を含む。特定の態様において、AAV2粒子は、組換えAAV2粒子である。ある特定の実施形態において、AAV2粒子は、AAV2カプシドを含む。ある特定の実施形態において、AAV2粒子は、天然または野生型AAV2粒子の相当するカプシドタンパク質と少なくとも60%、65%、70%、75%以上同一、例えば、80%、85%、85%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%など、最高100%同一である1種または複数のカプシドタンパク質(例えば、VP1、VP2、及び/またはVP3)を含む。ある特定の実施形態において、AAV2粒子は、天然または野生型AAV2粒子の相当するカプシドタンパク質と少なくとも75%以上同一、例えば、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%など最高100%同一であるVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質を含む。ある特定の実施形態において、AAV2粒子は、天然または野生型AAV2粒子の変異体である。態様によっては、AAV2変異体の1種または複数のカプシドタンパク質は、天然または野生型AAV2粒子のカプシドタンパク質(複数可)と比較して、1、2、3、4、5、5~10、10~15、15~20、またはそれより多くのアミノ酸置換を有する。
【0069】
ある特定の実施形態において、AAV2粒子(例えば、AAV2粒子のカプシド)は、配列番号1に記載されるタンパク質と少なくとも60%、少なくとも70%同一性、少なくとも75%同一性、少なくとも80%同一性、少なくとも85%同一性、少なくとも少なくとも90%同一性、少なくとも95%同一性、少なくとも98%同一性、少なくとも99%同一性、さらには100%同一性を有するVP1ポリペプチドを含む。ある特定の実施形態において、AAV2粒子は、
図1及び
図2にあるとおりのAAV2のVP1カプシドタンパク質のアミノ酸配列を有するポリペプチドと、約63%以上同一(例えば、63%同一性)であるVP1ポリペプチドを含む。AAV2カプシド配列とAAV4カプシド配列は、約60%の相同性がある。ある特定の実施形態において、AAV2のVP1カプシドタンパク質は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列と少なくとも65%相同性がある配列を有する。ある特定の実施形態において、AAV2のVP1カプシドタンパク質は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含む。
【0070】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、ITRが1つまたは複数の所望のITR機能(例えば、DNA複製を可能にするヘアピンの形成能力;AAVのDNAの宿主細胞ゲノムへの組み込み;及び/または所望であれば、パッケージ化すること)を保持する限りにおいて、天然または野生型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-rh74、AAV-rh10、またはAAV-2i8の相当するITRと少なくとも75%以上同一、例えば、80%、85%、85%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%など、最高100%同一である1つまたは2つのITR(例えば、1対のITR)を含む。他の実施形態において、AAV2粒子は、ITRが1つまたは複数の所望のITR機能(例えば、DNA複製を可能にするヘアピンの形成能力;AAVのDNAの宿主細胞ゲノムへの組み込み;及び/または所望であれば、パッケージ化すること)を保持する限りにおいて、天然または野生型AAV2粒子の相当するITRと少なくとも75%以上同一、例えば、80%、85%、85%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%など、最高100%同一である1つまたは2つのITR(例えば、1対のITR)を含む。
【0071】
AAV2粒子は、任意の適切な数の「GAGC」繰り返しを有するITRを含むことができる。ある特定の実施形態において、AAV2粒子のITRは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上の「GAGC」繰り返しを含む。ある特定の実施形態において、AAV2粒子は、3つの「GAGC」繰り返しを含むITRを含む。ある特定の実施形態において、AAV2粒子は、4未満の「GAGC」繰り返しを有するITRを含む。ある特定の実施形態において、AAV2粒子は、4超の「GAGC」繰り返しを有するITRを含む。ある特定の実施形態において、AAV2粒子のITRは、Rep結合部位を含み、その中で、最初の2つの「GAGC」繰り返し中の第4ヌクレオチドは、TではなくてCである。
【0072】
任意の適切な長さのDNAを、AAV2粒子に組み込むことができる。AAVベクターに使用するのに適切なDNA分子は、約5キロベース(kb)、約5kb未満、約4.5kb未満、約4kb未満、約3.5kb未満、約3kb未満、または約2.5kb未満が可能である。
【0073】
TPP1は、CLN2遺伝子(TPP1遺伝子)がコードするリポソームセリンプロテアーゼである。ヒトTPP1のアミノ酸配列を、配列番号5として記載する。ヒトTPP1の核酸配列を、配列番号6として記載する。ヒトTPP1は、トリペプチジルペプチダーゼI活性(TPP1酵素活性)を有する。TPP1活性は、非特異的リポソームペプチダーゼ活性を含み、この活性は、リポソームプロテイナーゼが産生した分解産物からトリペプチドを生成させる。基質特異性研究は、TPP1が主に、ペプチド及びタンパク質の無置換アミノ末端からトリペプチドを切断することを示す。内因的に発現するTPP1は、触媒として不活性な酵素として合成される。リソソームを標的として進入した後、酸性環境が原因となって、TPP1は自己触媒的にプロセシングされて、成熟活性酵素になる。TPP1の活性は、in vitroで、既知の方法を使用して測定及び/または定量することができる。例えば、Junaid et al., 1999を参照。
【0074】
TPP1活性を有するポリペプチドとは、適切なペプチド基質を用いてアッセイした場合に、例えば、Junaid et al., 1999の方法または別の匹敵する方法によりアッセイした場合に、配列番号5のヒトTPP1のペプチダーゼ活性の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または約100%を示す、哺乳類のTPP1タンパク質、またはその一部分を示す。ある特定の実施形態において、TPP1活性を有するポリペプチドは、配列番号5のヒトTPP1のペプチダーゼ活性の少なくとも少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または約100%を示す、哺乳類のTPP1タンパク質、またはそのサブ配列もしくは変異体を示す。
【0075】
TPP1活性を有するポリペプチドは、少なくとも部分的TPP1活性を保持する、TPP1ポリペプチドの切断型、変異型、キメラ型、または修飾型を含むことができる。TPP1活性を有するポリペプチドは、任意の適切な生体から(例えば、哺乳類から、ヒトから、非ヒト哺乳類から、例えば、イヌ、ブタ、ウシなどから)得られる、TPP1タンパク質またはその一部分を含むことができる。ある特定の実施形態において、TPP1活性を有するポリペプチドは、配列番号5に記載のTPP1タンパク質と少なくとも60%同一性、少なくとも70%同一性、少なくとも75%同一性、少なくとも80%同一性、少なくとも85%同一性、少なくとも90%同一性、少なくとも95%同一性、少なくとも98%同一性、または100%同一性を有する。
【0076】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAVカプシドタンパク質、及びTPP1活性を有するポリペプチドをコードする核酸を含む。ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAVカプシドタンパク質、及びTPP1活性を有するポリペプチドの発現及び/または分泌を指示する核酸を含む。
【0077】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAVカプシドタンパク質、及びTPP1ポリペプチドまたはその酵素活性を有する部分をコードする核酸を含む。ある特定の実施形態において、AAV粒子は、AAVカプシドタンパク質、及びTPP1ポリペプチドまたはその酵素活性を有する部分の発現及び/または分泌を指示する核酸を含む。ある特定の実施形態において、投与される核酸は、TPP1、野生型TPP1と実質的に同一であるTPP1、及び/またはTPP1の変異体(variant)、変異体(mutant)、または断片をコードする。ある特定の実施形態において、TPP1ポリペプチドは、配列番号5に記載されるタンパク質と少なくとも60%同一性、少なくとも70%同一性、少なくとも75%同一性、少なくとも80%同一性、少なくとも85%同一性、少なくとも90%同一性、少なくとも95%同一性、少なくとも98%同一性、または100%同一性を有する。他の実施形態において、TPP1ポリペプチドは、配列番号7または8に記載されるタンパク質と少なくとも60%同一性、少なくとも70%同一性、少なくとも75%同一性、少なくとも80%同一性、少なくとも85%同一性、少なくとも90%同一性、少なくとも95%同一性、少なくとも98%同一性、または100%同一性を有する。
【0078】
ある特定の実施形態において、AAV粒子は、配列番号6に記載される核酸と少なくとも50%同一性、少なくとも60%同一性、少なくとも70%同一性、少なくとも75%同一性、少なくとも80%同一性、少なくとも85%同一性、少なくとも90%同一性、少なくとも95%同一性、少なくとも98%同一性、または100%同一性を有する核酸を含む。ある特定の実施形態において、TPP1活性をコードする、またはTPP1ポリペプチドの発現をコードもしくは指示する核酸は、配列番号6に記載される核酸と少なくとも50%同一性、少なくとも60%同一性、少なくとも70%同一性、少なくとも75%同一性、少なくとも80%同一性、少なくとも85%同一性、少なくとも90%同一性、少なくとも95%同一性、少なくとも98%同一性、または100%同一性を有する核酸である。
【0079】
ヒトTPP1アミノ酸配列を、
図3(配列番号5)に提示し、ヒトTPP1核酸配列を
図4A~6C(配列番号6)に提示する。
図5は、Macaca mulattaのTPP1アミノ酸配列(配列番号7)を提示し、
図6は、Macaca fascicularisのTPP1アミノ酸配列(配列番号8)を提示する。
【0080】
ある特定の実施形態において、方法は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与または送達すること、及び1種または複数の免疫抑制剤を哺乳類に投与することを含む。ある特定の実施形態において、方法は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与または送達すること、及び2種、3種、4種、またはそれより多くの免疫抑制剤を哺乳類に投与することを含む。ある特定の実施形態において、方法は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与または送達すること、及び2種の免疫抑制剤を哺乳類に投与することを含む。1つの代表的実施形態において、哺乳類の治療方法は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与または送達すること、ならびに第一及び第二の免疫抑制剤を哺乳類に投与することを含む。
【0081】
2種以上の免疫抑制剤が投与される場合、各免疫抑制剤は、別個のもの及び/または異なるものである(例えば、各作用剤は、構造及び/または作用機序が異なる)。「作用剤」は、活性医薬成分を示す。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、抗炎症剤である。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体である。そのようなミコフェノール酸化合物誘導体の例として、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)がある。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、シクロスポリンまたはその誘導体である。ある特定の実施形態において、第一の免疫抑制剤はシクロスポリンを含み、第二の免疫抑制剤は、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体(例えば、MMF)を含む。ある特定の実施形態において、第一の免疫抑制剤はシクロスポリンを含み、第二の免疫抑制剤はMMFを含む。
【0082】
ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する前、最中、及び/または後に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与するのと同時に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与した後に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与してから、約1~約60分後、約1~約24時間後、約1~約100日後、約1~約12ヶ月後、または約1~約5年後に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する前に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する、約1~約60分前、約1~約24時間前、約1~約100日前、または約1~約3ヶ月前に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10日前に投与される。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する前、最中、及び/または後に、予め定められた間隔で投与される(例えば、1日1回、1日2回、1日3回、1日おき、毎週、隔週、隔月、またはそれらの組み合わせなど)。
【0083】
ある特定の実施形態において、第一の免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する、少なくとも約1~約7日前、または約1、約2、約3、約4、もしくは約5週間前に哺乳類に投与され、第二の免疫抑制剤は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する、約1~約7日前、約1、約2、約3、約4、または約5週間前、投与の最中、及び/または投与後、約10、約20、約30、約40、約50、約100、約200、約300、約350、約400、または約500日以内に投与される。ある特定の実施形態において、シクロスポリンは、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する、少なくとも約1~約7日前、または約1、約2、約3、約4もしくは約5週間前に哺乳類に投与され、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体(例えば、MMF)は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する、約1~約7日前、約1、約2、約3、約4、または約5週間前、投与の最中、及び/または投与後、約10、約20、約30、約40、約50、約100、約200、約300、約350、約400、または約500日以内に投与される。ある特定の実施形態において、シクロスポリンは、AAV-TPP1粒子を投与する、約1~約7日前、または約1、約2、約3、約4、もしくは約5週間前及び治療後定期的に哺乳類に投与され、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体(例えば、MMF)は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与する、約1~約7日前、約1、約2、約3、約4、または約5週間前、投与の最中、及び/または投与後約10~約40日後以内に1回投与される。
【0084】
免疫抑制剤は、任意の適切な用量で投与することができる。ある特定の実施形態において、シクロスポリンは、約1~約50mg/kg、約1~約20mg/kg、または約5~約10mg/kgの投薬量で、1日1回、2回、3回から1日おきに1回の頻度で、投与される。ある特定の実施形態において、シクロスポリンは、約10mg/kgで1日2回投与される。ある特定の実施形態において、シクロスポリンは、少なくとも約1、約2、約3、約4、または約5ヶ月の期間、約10mg/kgで1日2回投与される。ある特定の実施形態において、シクロスポリンの投薬量は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与した後、約1~約2ヶ月で、約5mg/kg未満、または約2mg/kg未満の用量へと漸減する。
【0085】
ある特定の実施形態において、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体(例えば、MMF)は、約1~約100mg/kg、約1~約50mg/kg、約1~約25mg/kg、または約5~約20mg/kgの投薬量で、1日1回、2回、3回から1日おきに1回の頻度で、投与される。ある特定の実施形態において、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体(例えば、MMF)は、約10~約20mg/kgで1日1回投与される。ある特定の実施形態において、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体(例えば、MMF)の投薬量は、AAV-TPP1粒子を哺乳類に投与した後、約1~約2ヶ月で、約5mg/kg未満、または約2mg/kg未満の用量へと減少する。
【0086】
免疫抑制剤は、特定の投与経路に適した任意の適切な配合物に配合することができる。免疫抑制剤の薬学上許容される配合物として様々なものが市販されており、医者はそれらを容易に入手できる。
【0087】
免疫抑制剤は、任意の適切な経路で投与することができる。ある特定の実施形態において、免疫抑制剤は、経口投与される。ある特定の実施形態において、ミコフェノール酸化合物またはその誘導体、例えばミコフェノール酸モフェチリ(MMF)などは、経口投与される。ある特定の実施形態において、シクロスポリンは、経口投与される。免疫抑制剤は、非経口投与することもでき(例えば、筋肉内、静脈内、皮下)、脳、脊椎、またはその一部分に注射で投与することもできる(例えば、CSFに注射する)。
【0088】
ある特定の実施形態において、方法は、1つまたは複数の(例えば、複数の(a plurality of))AAV-TPP1粒子を、哺乳類(例えば、LSDを有する哺乳類)の中枢神経系に投与することを含む。ある特定の実施形態において、中枢神経系は、脳、脊椎、及び脳脊髄液(CSF)を含む。ある特定の実施形態において、方法は、1つまたは複数のAAV-TPP1粒子を、哺乳類の脳または脊椎またはCSFに投与することを含む。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、脳または脊椎の一部分に投与される。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子及び免疫抑制剤を含む組成物は、哺乳類の大槽、及び/または哺乳類の脳室、くも膜下腔、及び/または髄腔内、及び/または脳室上皮に投与される。例えば、AAV-TPP1粒子は、大槽、脳室内腔、脳室、くも膜下腔、髄腔内、または脳室上皮に直接送達することができる。ある特定の実施形態において、方法は、1つまたは複数のAAV-TPP1粒子を、哺乳類の脳室上皮に投与することを含む。
【0089】
ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、哺乳類中でCSFと接触する1つまたは複数の細胞に、例えば細胞をAAV-TPP1粒子と接触させることにより、投与される。CSFと接触する細胞の非限定的な例として、上衣細胞、軟膜細胞、内皮細胞及び/または髄膜細胞が挙げられる。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、上衣細胞に投与される。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、上衣細胞に、例えば、上衣細胞をAAV-TPP1粒子と接触させることにより、投与される。
【0090】
ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、局所的に送達される。「局所的送達」は、活性作用剤を、哺乳類内の標的部位に直接(例えば、組織または液体に直接)送達することを示す。例えば、作用剤は、臓器、組織、または指定された解剖学的部位に直接注射することにより、局所的に送達することができる。ある特定の実施形態において、1つまたは複数のAAV-TPP1粒子は、脳、脊椎、またはその組織もしくは液体(例えば、CSF、例えば、上衣細胞、軟膜細胞、内皮細胞、及び/または髄膜細胞など)に直接注射することにより、送達または投与される。例えば、AAV-TPP1粒子は、直接注射により、CSF、大槽、脳室内腔、脳室、くも膜下腔及び/または髄腔内、及び/または脳室上皮に直接送達することができる。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、脳または脊椎の組織もしくは液体に直接注射することにより、脳または脊椎の組織、液体、もしくは細胞と接触させられる。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、例えば、静脈内、皮下、または筋肉内注射によって、あるいは静脈内点滴によって、全身送達はされない。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、定位注射により、脳または脊椎の組織もしくは液体に送達される。
【0091】
ある特定の実施形態において、1つまたは複数のAAV-TPP1粒子は、脳、脊椎、またはその組織もしくは液体(例えば、脳室上皮などのCSF)にAAV-TPP1粒子を直接注射することにより、送達または投与される。特定の態様において、AAV-TPP1粒子は、上衣細胞、軟膜細胞、内皮細胞、及び/または髄膜細胞に形質導入する。
【0092】
本明細書中の教示を考慮して当業者には明らかなとおり、本明細書中提供される用量範囲など、AAV-TPP1粒子の有効量は、経験的に決定することができる。投与は、治療過程全体を通じて1回の用量で、連続的に、または断続的に、達成することができる。投与の有効用量は、当業者が決定することができ、AAV血清型、ウイルス力価、ならびに治療される哺乳類の体重、状態、及び種に従って変わる可能性がある。単回及び複数回投与を行うことができ、その用量レベル、標的、及びタイミングは、治療に当たる医師により選択される。
【0093】
ある特定の実施形態において、複数のAAV-TPP1粒子が投与される。本明細書中使用される場合、複数のAAV粒子は、約1×105~約1×1018の粒子を示す。
【0094】
ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、約1~約5ml中約1×105~約1×1016vg/mlの用量で;1×107~約1×1014vg/mlを約1~約3mlの用量で;1×108~約1×1013vg/mlを約1~約2mlの用量で、投与される。ある特定の実施形態において、AAV-TPP1粒子は、治療される哺乳類の体重に対して約1×108~約1×1015vg/kg体重の用量で投与される。例えば、AAV-TPP1粒子は、治療される哺乳類の体重に対して約1×108vg/kg、約5×108vg/kg、約1×109vg/kg、約5×109vg/kg、約1×1010vg/kg、約5×1010vg/kg、約1×1011vg/kg、約5×1011vg/kg、約1×1012vg/kg、約5×1012vg/kg、約1×1013vg/kg、約5×1013vg/kg、約1×1014vg/kg、約5×1014vg/kg、または約1×1015vg/kg体重の用量で投与することができる。
【0095】
AAV-TPP1粒子の投与は、1回の用量でも複数回の用量でも可能である。複数回用量は、例えば、適切な酵素活性を維持するために必要とされるとおりに投与される場合がある。
【0096】
AAV-TPP1粒子の注射または点滴に適した医薬形状として、滅菌の注射用または点滴用の液剤または分散剤の即時調製に適合した滅菌水溶液剤または分散剤を挙げることができ、これらは任意選択で、リポソームに封入されている。全ての場合において、最終形状は、滅菌流体でなければならず、かつ製造、使用、及び貯蔵の条件下で安定でなければならない。液体キャリアまたはビヒクルとして、溶媒または液状分散媒体が可能であり、そのような媒体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)、植物油、無毒グリセリルエステル、及びそれらの適切な混合物を含む。適切な流動性は、例えば、リポソームの形成により、分散剤の場合は必要とされる粒子径を維持することにより、または界面活性剤の使用により、維持することができる。等張作用剤、例えば、糖類、緩衝剤、または塩類(例えば、塩化ナトリウム)を含ませることができる。注射組成物の長期吸収は、組成物に、吸収を遅らせる作用剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどを使用することにより、もたらすことができる。
【0097】
AAV-TPP1粒子の液剤または懸濁剤は、任意選択で、以下の成分を含むことができる:滅菌希釈剤、例えば注射用水、生理食塩水、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)、人造CSF、不揮発性油、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液状ポリエチレングリコールなど)、グリセリン、または他の合成溶媒;抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸など;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなど;キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸など;緩衝剤、例えば、酢酸化合物、クエン酸化合物、またはリン酸化合物、及び浸透圧の調節用作用剤、例えば、塩化ナトリウムまたはブドウ糖など。
【0098】
AAV-TPP1粒子及び組成物は、投与を簡便にするため及び投薬量を均一にするため、単位剤形に配合することができる。単位剤形は、本明細書中使用される場合、治療される個体に単位投薬するのに適した物理的に分離した単位を示し;各単位は、所望の治療効果をもたらすように計算された予め定められた量の活性化合物を、必要とされる薬学的キャリアとともに含有する。単位剤形は、所望の効果(複数可)をもたらすのに必要なAAV-TPP1粒子の量に依存する。必要量を、単回用量に配合することも可能であるし、複数の投与単位に配合することも可能である。用量は、適切なAAV-TPP1粒子濃度に調節される場合があり、任意選択で抗炎症剤と組み合わせられて、使用のためにパッケージ化される。
【0099】
1つの実施形態において、医薬組成物は、治療上有効量、すなわち、問題の疾患状態の症候を低減もしくは寛解させるのに十分な量または所望の利益をもたらすのに十分な量を提供するのに十分な遺伝子材料を含むことになる。医薬組成物は、典型的には、薬学上許容される賦形剤を含有する。そのような賦形剤として、それ自身は、組成物を投与される個体に有害な抗体の産生を誘導せず、かつ過度の毒性なしに投与することができる任意の薬学的作用剤が挙げられる。薬学上許容される賦形剤として、ソルビトール、Tween80、ならびに液体、例えば水、生理食塩水、グリセロール、及びエタノールが挙げられるが、これらに限定されない。薬学上許容される塩も、その中に含ませることができ、そのような塩として、例えば、鉱酸塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など;及び有機酸塩、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などがある。さらに、補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などが、そのようなビヒクル中に存在する場合がある。薬学上許容される賦形剤の詳しい説明は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 1991で得ることができる。
【0100】
AAV-TPP1粒子を含有する配合物は、ビヒクル中に有効量のrAAV粒子を含有することになり、有効量は、当業者が容易に決めることができる。AAV-TPP1粒子は、典型的には、組成物の約1%~約95%(w/w)の範囲にあることが可能であり、適切であれば、それより高い場合さえもある。投与される量は、治療の対象となる哺乳類またはヒト対象の年齢、体重、及び健康状態などの要因に依存する。有効投与量は、用量反応曲線を確立する常用試験を通じて当業者が確立することができる。
【0101】
ある特定の実施形態において、方法は、本明細書中記載されるとおり、哺乳類(例えば、LSDを有する哺乳類)に、複数のAAV-TPP1粒子を、任意選択で第一及び第二の免疫抑制剤とともに投与することを含み、この場合、LSDの1種または複数の症候の発症時点が遅くなる。「発症時点」という用語は、AAV-TPP1粒子の最初の投与の後、LSDの症候が最初に観測または検出される時点を示す。発症が遅くなるLSDの症候として、固有感覚性反応、眼振、威嚇、瞳孔光反射、小脳失調、及び企図振戦が挙げられるが、これらに限定されない。症候(例えば、神経機能障害の兆候)の発症時点は、標準臨床神経学的検査(例えば、Lorenz et al., 2011を参照)により、主観的に決定することができる。
【0102】
LSDと関連した症候の発症時点が遅くなるかどうかは、AAV-TPP1粒子、第一の免疫抑制剤、及び第二の免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン及びMMF)で治療した哺乳類の症候の発症時点を、AAV-TPP1粒子及びミコフェノール酸化合物で(例えば、シクロスポリンなど第一の免疫抑制剤の不在下で)治療した1匹または複数の哺乳類と比較することにより、決定することができる。ある特定の実施形態において、方法は、哺乳類(例えば、LSDを有する哺乳類)の中枢神経系またはその一部分に、複数のAAV-TPP1粒子を、第一及び第二の免疫抑制剤とともに投与することを含み、その場合、LSDの1種または複数の症候の発症時点が、AAV-TPP1粒子及びミコフェノール酸化合物で(例えば、シクロスポリンなど第一の免疫抑制剤の不在下で)治療した1匹または複数の哺乳類と比較して、少なくとも約5~約10、約10~約25、約25~約50、または約50~約100日遅くなる。
【0103】
ある特定の実施形態において、方法は、哺乳類(例えば、LSDを有する哺乳類)の中枢神経系またはその一部分に、複数のAAV-TPP1粒子を、第一及び第二の免疫抑制剤とともに投与することを含み、その場合、認知機能喪失の発症時点が、AAV-TPP1粒子及びミコフェノール酸化合物で(例えば、シクロスポリンなど第一の免疫抑制剤の不在下で)治療した1匹または複数の哺乳類と比較して、少なくとも約5~約10、約10~約25、約25~約50、または約50~約100日遅くなる。認知機能喪失の発症時点は、T迷路(Sanders et al., 2011)により決定することができる。ある特定の実施形態において、本明細書中の方法は、哺乳類(例えば、LSDを有する哺乳類)の中枢神経系またはその一部分に、複数のAAV-TPP1粒子を、第一及び第二の免疫抑制剤とともに投与することを含み、その場合、哺乳類の寿命が、AAV-TPP1粒子及びミコフェノール酸化合物で(例えば、シクロスポリンなど第一の免疫抑制剤の不在下で)治療した1匹または複数の哺乳類と比較して、少なくとも約5~約10、約10~約25、約25~約50、または約50~約100日延長される。
【0104】
ある特定の実施形態において、方法は、哺乳類(例えば、LSDを有する哺乳類)の中枢神経系またはその一部分に、複数のAAV-TPP1粒子を、第一及び第二の免疫抑制剤とともに投与することを含み、その場合、中和抗体の存在が、AAV-TPP1粒子の投与後少なくとも約10~少なくとも約300日間、哺乳類のCSF中に検出されない。ある特定の実施形態において、方法は、哺乳類(例えば、LSDを有する哺乳類)の中枢神経系またはその一部分に、複数のAAV-TPP1粒子を、第一及び第二の免疫抑制剤とともに投与することを含み、その場合、中和抗体が、AAV-TPP1粒子の投与後、少なくとも約20日間、少なくとも約30日間、少なくとも約40日間、少なくとも約50日間、少なくとも約60日間、少なくとも約70日間、少なくとも約80日間、少なくとも約90日間、少なくとも約100日間、少なくとも約150日間、少なくとも約200日間、少なくとも約250日間、または少なくとも、少なくとも約300日間、哺乳類のCSF中に検出されない。
【0105】
ある特定の実施形態において、方法は、哺乳類の脳または脊椎、またはその一部分に、複数のAAV-TPP1粒子を投与することを含み、AAV粒子は、哺乳類の細胞に形質導入して、哺乳類中でTPP1活性を有するポリペプチドの発現を指示するように構成されており、ポリペプチドは、1つまたは複数の末梢臓器中(例えば、脾臓及び/または心臓中)で発現し及び/または検出される。
【0106】
ある特定の実施形態において、方法は、哺乳類の脳または脊椎、またはその一部分に、複数のAAV-TPP1粒子を投与することを含み、AAV粒子は、哺乳類の細胞に形質導入して、哺乳類中でTPP1活性を有するポリペプチドの発現を指示するように構成されており、ポリペプチドは、中枢神経組織(例えば、脳、例えば、小脳)で発現し及び/または検出される。
【0107】
「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、本明細書中、同義で使用され、全ての形態の核酸、オリゴヌクレオチドを示し、これらの用語は、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)ならびにそれらの重合体を含む。ポリヌクレオチドとして、ゲノムDNA、cDNA及びアンチセンスDNA、ならびにスプライシングされたまたはされていないmRNA、rRNA、tRNA、ならびに抑制DNAまたはRNA(RNAi、例えば、小もしくは低分子ヘアピン(sh)RNA、マイクロRNA(miRNA)、小もしくは低分子干渉(si)RNA、トランススプライシングRNA、またはアンチセンスRNA)が挙げられる。ポリヌクレオチドには、自然発生の、合成の、及び意図的に修飾または改変したポリヌクレオチド(例えば、バリアント核酸)を含めることができる。ポリヌクレオチドは、一本鎖、二本鎖、または三本鎖、直鎖、または環状が可能であり、任意の適切な長さのものが可能である。ポリヌクレオチドの説明において、特定のポリヌクレオチドの配列または構造は、本明細書中、5’から3’に向かって配列を提示する習慣に従って、記載される場合がある。
【0108】
ポリペプチドをコードする核酸は、ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含むことが多い。特に記載がない限り、特定の核酸配列は、縮重コドン置換も含む。
【0109】
核酸は、オープンリーディングフレームと機能的に連結した1つまたは複数の調節領域を含むことができ、1つまたは複数の調節領域は、哺乳類細胞中で、オープンリーディングフレームがコードするポリペプチドの転写及び翻訳を指示するように構成される。調節領域の非限定的な例として、転写開始配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、TATAボックスなど)、翻訳開始配列、mRNA安定化配列、ポリA配列、分泌配列などが挙げられる。調節領域は、任意の適切な生体のゲノムから得ることができる。有用な調節領域の非限定的な例として、SV40初期プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV最初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、pol IIプロモーター、pol IIIプロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどが挙げられる。また、非ウイルス遺伝子由来の配列、例えば、マウスメタロチオネイン遺伝子なども、本明細書中利用できる。恒常的プロモーターの例として、ある特定の恒常的または「ハウスキーピング」機能をコードする以下の遺伝子用のプロモーターが挙げられる:ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、アデノシンデアミナーゼ、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、ピルビン酸キナーゼ、ホスホグリセロールムターゼ、アクチンプロモーター、及び当業者に既知の他の恒常的プロモーター。また、多くのウイルスプロモーターが、真核生物細胞で恒常的に機能する。そのようなプロモーターとして、とりわけ、以下が挙げられる:SV40の初期及び後期プロモーター;モロニー白血病ウイルス及び他のレトロウイルスの末端反復配列(LTR);ならびに単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター。したがって、上記の恒常的プロモーターのどれでも、異種遺伝子挿入物の転写を制御するのに使用できる。
【0110】
誘導性プロモーターの制御下にある遺伝子は、誘導剤の存在下で、初めて、または大幅に増加して、発現する(例えば、メタロチオネインプロモーターの制御下での転写は、ある特定の金属イオンの存在下で大幅に増加する)。誘導性プロモーターとして、誘導因子が結合した場合に転写を刺激する応答配列(RE)が挙げられる。例えば、血清因子、ステロイドホルモン、レチノイン酸、及び環状AMPに対するREが存在する。誘導性応答を得る目的で特定REを含有するプロモーターを選択することができ、場合によっては、RE自身を、異なるプロモーターに結合させて、それにより誘導能を組換え遺伝子に付与することができる。すなわち、適切なプロモーター(恒常性対誘導性;強い対弱い)を選択することにより、遺伝子修飾された細胞中のポリペプチド発現の存在及びレベルの両方を制御することが可能である。ポリペプチドをコードする遺伝子が誘導性プロモーターの制御下にある場合、in situでのポリペプチドの送達は、遺伝子修飾された細胞を、in situで、ポリペプチドの転写を許容する条件に曝すことにより、例えば、作用剤の転写を制御する誘導性プロモーターの特定インデューサーの腹腔内注射により、引き起こされる。例えば、遺伝子修飾された細胞による、メタロチオネインプロモーターの制御下にある遺伝子によりコードされるポリペプチドのin situ発現は、遺伝子修飾された細胞を、in situで、適切な(すなわち、誘導性)金属イオンを含有する溶液と接触させることにより増強される。
【0111】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれている場合に、「機能的に連結され」ている。ポリペプチドをコードする核酸、またはTPP1ポリペプチド(例えば、TPP1活性を有するポリペプチド)の発現を指示する核酸は、コードされたポリペプチドの転写を制御するための、誘導性プロモーター、または組織特異的プロモーターを含む場合がある。
【0112】
ある特定の実施形態において、CNS特異的または誘導性プロモーター、エンハンサーなどが、本明細書中記載される方法に採用される。CNS特異的プロモーターの非限定的な例として、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)、及び神経特異的エノラーゼ(NSE)の遺伝子から単離されたものが挙げられる。誘導性プロモーターの非限定的な例として、エクジソン、テトラサイクリン、ハイポキシア、及びIFNのDNA応答配列が挙げられる。
【0113】
ポリペプチドは、送達のため、細胞外、細胞内、または膜の部位を標的として指向化することができる。細胞から分泌された遺伝子産物は、典型的には、細胞から細胞外環境へと分泌するための分泌「シグナル」を有する。発現ベクターは、分泌「シグナル」を含むように構成することもできる。遺伝子産物は、細胞内に保持される場合もある。同様にして、遺伝子産物は、ポリペプチドを細胞形質膜内に係留するための「保持」シグナル配列を含む場合もあり、または発現ベクターを、そのような「保持」シグナル配列を含むように構成することができる。例えば、膜タンパク質は、疎水性膜貫通領域を有し、この領域は、タンパク質を膜中に維持する。
【0114】
本明細書中使用される場合、「修飾する」または「変異体」という用語、及びそれらの文法上の変形は、核酸、ポリペプチド、またはそのサブ配列が、参照配列から外れることを意味する。したがって、修飾配列及び変異配列は、参照配列に比べて実質的に同じ、より高い、またはより低い活性または機能を有する場合があるが、少なくとも参照配列の部分活性または機能を保持する。変異体の特定型は、変異タンパク質であり、これは、変異を有する遺伝子、例えば、TPP1にミスセンスまたはナンセンス変異を有する遺伝子によりコードされるタンパク質を示す。
【0115】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」変異体は、野生型と比べて遺伝子が改変された修飾配列を示す。配列は、コードされるタンパク質配列を改変することなく遺伝子修飾される場合がある。あるいは、配列は、変異タンパク質、例えば、変異TPP1タンパク質をコードするように遺伝子修飾される場合がある。核酸またはポリヌクレオチド変異体は、野生型タンパク質配列などの参照配列と少なくとも部分的配列同一性を依然として保持するタンパク質をコードするようにコドン修飾されており、また変異タンパク質をコードするようにもコドン修飾されている組み合わせ配列も示すことができる。例えば、そのような核酸変異体のあるコドンは、その核酸によりコードされるTPP1タンパク質のアミノ酸を改変することなく変更されることになり、また核酸変異体のあるコドンは、変更されることで、その核酸によりコードされるTPP1タンパク質のアミノ酸も変更される。
【0116】
「ポリペプチド」という用語は、本明細書中使用される場合、アミノ酸の重合体を示し、全長タンパク質及びその断片を含む。すなわち、「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、本明細書中同義で使用されることが多い。本明細書中開示される「核酸」または「ポリヌクレオチド」配列によりコードされる「ポリペプチド」として、部分的または全長天然TPP1配列、それと同様に、ポリペプチドがTPP1酵素活性をある程度保持するかぎり、自然発生する野生型及び機能的多形タンパク質、それらの機能的サブ配列(断片)、ならびにそれらの修飾型または配列変異体が挙げられる。したがって、本発明の方法において、核酸配列によりコードされるそのようなポリペプチドは、治療される哺乳類で欠損している、またはその発現が不十分もしくは欠乏している内因性タンパク質であるTPP1タンパク質と同一であることが可能であるが、必ずしもそうである必要はない。
【0117】
ポリペプチドのアミノ酸変更は、該当する核酸配列のコドンを変更することにより、達成できる。そのようなポリペプチドは、生物活性を修飾または改善する目的で、ポリペプチド構造中のある特定のアミノ酸を他のアミノ酸に置き換えることに基づいて得ることができる。例えば、代替アミノ酸の置換を通じて、活性の上昇をもたらす小さな立体配座変化がポリペプチド上にもたらされる場合がある。あるいは、ある特定のポリペプチド中のアミノ酸置換は、他の分子と結合してペプチド-分子結合体を提供することができる残基を提供するのに使用することができ、ペプチド-分子結合体は、出発ポリペプチドの特性を他の目的に利用するのに十分なほどに保持する。
【0118】
ポリペプチドに双方向性生物学的機能を与える上で、アミノ酸の疎水性親水性指標を利用することができ、ある特定のアミノ酸は、同様な疎水性親水性指標を持つ他のアミノ酸に置き換えることができ、それでもなお同様な生物活性が維持されることがわかっている。あるいは、類似アミノ酸の置換は、特に、生成されるポリペプチドに望まれる生物学的機能が免疫学的実施形態での使用を意図している場合に、親水性に基づいてなされる場合がある。「タンパク質」の最大親水性の局所的平均は、その隣接アミノ酸の親水性により統制されるとおり、その免疫原性と相関する。したがって、置換は、各アミノ酸に割り当てられた親水性に基づいて行うことができることを注記しておく。
【0119】
各アミノ酸に数値を割り当てる親水性指標または疎水性親水性指標いずれかを使用する上で、アミノ酸の置換は、それらの値が±2であるように行われ、典型的には±1であり、±0.5であるものが、最も典型的な置換である。
【0120】
修飾の限定ではなく例として、1つまたは複数のヌクレオチドまたはアミノ酸置換(例えば、約1~約3、約3~約5、約5~約10、約10~約15、約15~約20、約20~約25、約25~約30、約30~約40、約40~約50、約50~約100、約100~約150、約150~約200、約200~約250、約250~約500、約500~約750、約750~約1000、またはそれより多くのヌクレオチドまたは残基)が挙げられる。核酸修飾の1つの例は、コドン最適化であるが、これに限定されない。
【0121】
アミノ酸修飾の例は、保存的アミノ酸置換または削除である。特定の実施形態において、修飾または変異配列(例えば、TPP1)は、未修飾配列(例えば、野生型TPP1)の機能または活性の少なくとも一部を保持する。
【0122】
「核酸断片」は、所定の核酸分子の一部分である。大部分の生体中のデオキシリボ核酸(DNA)は、遺伝材料であるが、一方リボ核酸(RNA)は、DNAに含まれる情報をタンパク質に移すのに関与する。開示されるヌクレオチド配列の断片及び変異体、ならびにそれらによりコードされるタンパク質または部分長のタンパク質もまた、本発明により包含される。「断片」または「一部分」は、全長あるいは全長未満の、ポリペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列、あるいはポリペプチドまたはタンパク質のアミノ酸配列を意味する。ある特定の実施形態において、断片または一部分は、生物学的に機能する(すなわち、野生型TPP1の酵素活性を5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、または100%保持する)。
【0123】
分子の「変異体」とは、天然分子の配列と実質的に同様な配列である。ヌクレオチド配列の場合、変異体は、遺伝暗号の縮重のため、天然タンパク質のアミノ酸配列と同一のものをコードする配列を含む。このようなものなど自然発生する対立遺伝子変異体は、分子生物学技法を使用することで、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)及びハイブリダイゼーション技法を用いて同定することができる。変異ヌクレオチド配列には、合成に由来するヌクレオチド配列も含まれ、例えば、部位特異的変異誘発を用いて生成させたものなどであって天然タンパク質をコードするもの、ならびにアミノ酸置換を有するポリペプチドをコードするものが含まれる。一般に、本発明のヌクレオチド配列変異体は、天然(内因性)ヌクレオチド配列と少なくとも40%、50%、60%、から70%、例えば、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、から79%、一般に少なくとも80%、例えば、81%~84%、少なくとも85%、例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、から98%の、配列同一性を有することになる。ある特定の実施形態において、変異体は、生物学的に機能する(すなわち、野生型TPP1の酵素活性を5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、または100%保持する)。
【0124】
特定核酸配列の「保存的に修飾された変異」は、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸配列を示す。遺伝暗号の縮重のため、数多くの機能的に同一な核酸が、任意の所定のポリペプチドをコードする。例えば、CGT、CGC、CGA、CGG、AGA、及びAGGというコドンは全て、アミノ酸アルギニンをコードする。すなわち、コドンによりアルギニンが指定されるあらゆる場所において、コドンは、コードされるタンパク質を改変することなく、記載される該当コドンのいずれかに変更することができる。そのような核酸変異は、「サイレント変異」であり、「保存的に修飾された変異」の中の1種である。ポリペプチドをコードする本明細書中記載される核酸配列は全て、特に記載がある場合を除いて、あらゆる可能なサイレント変異も記載に含める。当業者なら分かるだろうが、核酸の各コドン(通常、メチオニンの唯一のコドンである、ATGを除く)は、標準技法により、機能的に同一の分子を与えるように修飾することができる。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各「サイレント変異」は、各記載される配列に暗に含まれている。
【0125】
ポリヌクレオチド配列の「実質的同一性」という用語は、ポリヌクレオチドが、記載される配列比較プログラムの1種に標準パラメーターを用いて参照配列と比較して、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、または79%、あるいは少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、あるいは少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、あるいはさらに少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%配列同一性を有する配列を含むことを意味する。当業者なら分かるだろうが、これらの値は、コドン縮重度、アミノ酸類似性、リーディングフレームの位置などを考慮に入れることにより、2つのヌクレオチド配列でコードされるタンパク質の相当する同一性を求めるのに適切なように調整することができる。こうした目的でのアミノ酸配列の実質的同一性は、通常、少なくとも70%、少なくとも80%、90%、またはさらには少なくとも95%の配列同一性を意味する。
【0126】
「実質的同一性」という用語は、ペプチドの文脈において、ペプチドが、指定された比較窓にわたり、参照配列と、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、または79%、あるいは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、あるいは少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、あるいはさらに95%、96%、97%、98%、または99%、配列同一性を持つ配列を含むことを示す。2つのペプチド配列が実質的に同一であると示すことは、一方のペプチドが、他方のペプチドに対して産生された抗体と免疫学的に反応性であることである。すなわち、例えば、2つのペプチドが、保存的置換によってのみ異なる場合に、あるペプチドは、第二のペプチドと実質的に同一である。
【0127】
AAV「ゲノム」は、最終的にパッケージ化または封入されてAAV粒子を形成する組換え核酸配列を示す。AAV粒子は、AAVゲノムを含むことが多い。組換えプラスミドを使用して組換えベクターを構築または製造する場合、ベクターゲノムは、組換えプラスミドのベクターゲノム配列に該当しない「プラスミド」の部分を含まない。組換えプラスミドのこの非ベクターゲノム部分を、「プラスミド骨格」と称し、この部分は、増殖及び組換えウイルス産生に必要なプロセスであるプラスミドのクローニング及び増幅に重要であるが、それ自身は、ウイルス(例えば、AAV)粒子内にパッケージ化または封入されることはない。すなわち、ベクター「ゲノム」は、ウイルス(例えば、AAV)によりにパッケージ化または封入される核酸を示す。
【0128】
「導入遺伝子」は、本明細書中、細胞または生体中に導入することが意図されるまたは導入されたものである核酸を便利に称するために使用される。導入遺伝子として、任意の核酸、例えば、ポリペプチドまたはタンパク質(例えば、TPP1)をコードする遺伝子などが挙げられる。
【0129】
導入遺伝子を有する細胞において、導入遺伝子は、AAV粒子などのベクターにより導入/移植された場合が多い。AAV粒子による導入遺伝子の細胞への導入は、細胞の「形質導入」と称することが多い。「形質導入する」という用語は、核酸などの分子をベクター(例えば、AAV粒子)により細胞または宿主生体に導入することを示す。導入遺伝子は、形質導入された細胞のゲノム核酸に組み込まれる場合もそうでない場合もある。導入された核酸が、レシピエント細胞または生体の核酸(ゲノムDNA)に組み込まれる場合、組み込まれた核酸は、その細胞または生体中で安定して保持され、さらにはレシピエント細胞または生体の後代細胞または生体に伝える、またはそれらにより受け継がれることが可能である。最後に、導入された核酸は、染色体上余分として、またはただ一過性として、レシピエント細胞または生体中に存在する場合がある。「形質導入された細胞」は、形質導入により導入遺伝子が導入された細胞である。すなわち「形質導入された」細胞は、その細胞またはその細胞の後代中に、核酸が導入されている細胞である。形質導入された細胞は、増殖させることが可能であり、導入されたタンパク質の発現または核酸転写が可能である。遺伝子治療用途及び方法に関して、形質導入された細胞は、哺乳類中にあることが可能である。
【0130】
本明細書中使用される場合、「血清型」という用語は、他のAAV血清型と血清学的に異なるカプシドを有するAAVを示すために使用される特徴である。血清学的独自性は、別のAAVと比較した場合に1つのAAVに対して抗体間に交差反応性がないことに基づいて決定される。そのような交差反応性の違いは、通常、カプシドタンパク質配列/抗原決定基での違いによるものである(例えば、AAV血清型のVP1、VP2、及び/またはVP3配列の違いによる)。カプシド変異体を含むAAV変異体は、参照AAVまたは他のAAV血清型と血清学的には異ならない可能性があるものの、それらは、参照AAVまたは他のAAV血清型と比較して、少なくとも1つのヌクレオチドまたはアミノ酸残基が異なる。
【0131】
様々な例示実施形態において、参照血清型と関連するAAV粒子またはそのベクターゲノムは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、Rh10、Rh74、またはAAV-2i8粒子のポリヌクレオチド、ポリペプチド、またはサブ配列と少なくとも60%以上(例えば、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%など)同一の配列を含む、またはそのような配列からなるポリヌクレオチド、ポリペプチド、またはそのサブ配列を有する。特定の実施形態において、参照血清型と関連するAAV粒子またはそのベクターゲノムは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、Rh10、Rh74、またはAAV-2i8血清型のカプシドまたはITR配列と少なくとも60%以上(例えば、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%など)同一の配列を含む、またはそのような配列からなるカプシドまたはITR配列を有する。
【0132】
「約」という用語は、本明細書中使用される場合、基準値の10%(上下)以内にある値を示す。
【0133】
「治療する」及び「治療」という用語は、治療的処置及び予防的(prophylactic)または予防的(preventative)手段の両方を示し、その目的は、望ましくない生理的変化または障害、例えば癌の発症または転移(spread)などを予防または減少させることである。本発明の目的に関して、有益なまたは望ましい臨床成績として、検出可能か否かを問わず、症候の軽減、疾患の範囲の縮小、疾患の状態安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾患進行が遅れるまたは遅くなること、疾患の状態の寛解または緩和、及び軽快(部分的か全体的かに関わらず)が挙げられるが、これらに限定されない。「治療」は、治療を受けない場合に予想される生存率と比較した場合の生存率の延長も意味することができる。治療を必要とするものとして、そのような状態または障害をすでに有しているもの、ならびにそのような状態または障害を有しやすいもの、あるいはそのような状態または障害になることを防ごうとするものが挙げられる。
【0134】
「a」及び「an」及び「the」という用語、ならびに類似の記述は、本発明を説明する文脈において、本明細書中特に記載がない限り、または文脈により明白に矛盾するのでない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されるものとする。すなわち、例えば、「a(1つの)ベクター」という記述は、そのようなベクターが複数存在する場合も含み、「a(1つの)ウイルス」または「粒子」は、そのようなビリオン/粒子が複数存在する場合も含む。
【0135】
「comprising(含む)」、「having(有する)」、「including(含む)」、及び「containing(含有する)」という用語は、特に記載がない限り、非限定用語(すなわち、「を含むが、それらに限定されない」を意味する)と解釈されるものとする。本明細書中、値の範囲の記述は、本明細書中特に記載がない限り、その範囲内に含まれる各個別の値を個々に示すことの代わりになる簡単な方法であることを意図するにすぎず、各個別の値は、それが本明細書中個別に記載されたかのごとく本明細書に組み込まれる。
【0136】
本明細書中引用される全ての出願、刊行物、特許、及び他の参照、GenBank引用、及びATCC引用は、そのまま全体が参照として援用される。矛盾する場合、本明細書が、定義も含めて、優先される。
【0137】
本明細書中記載される全ての方法は、本明細書中特に記載がない限り、または文脈により明白に矛盾するのでない限り、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書中提供される、あらゆる例示、または例示的言葉(例えば、「such as(など)」)の使用は、本発明をより明白にすることを意図するにすぎず、特許請求の範囲で記載されない限り、本発明の範囲に制限をかけることはない。本明細書中のどの言葉も、特許請求の範囲に記載のない要素を本発明の実施に必須であると示すと解釈すべきではない。
【0138】
特に定義されない限り、本明細書中使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中記載されるものと同様または等価な方法及び材料が、本発明の実施または試験に使用できるものの、適切な方法及び材料が本明細書中記載されている。
【0139】
本明細書中開示される特長は全て、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書中開示される各特長は、同じ、等価な、または同様な目的を果たす代替特長で置き換えることができる。すなわち、特に明白に記載されない限り、開示される特長は、等価または同様な特長の属の一例である。
【0140】
全ての数値または数字範囲は、文脈により明白に示されない限り、そのような範囲内の整数、及び値または範囲内の整数の分数を含む。すなわち、例示として、80%以上の同一性という記述は、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%など、ならびに81.1%、81.2%、81.3%、81.4%、81.5%など、82.1%、82.2%、82.3%、82.4%、82.5%などを含む。
【0141】
整数に超(より大きい)または未満を付けて記述する場合、その記述は、それぞれ、基準数より大きいまたはそれ未満の任意の数を含む。すなわち、例えば、100未満という記述は、99、98、97などから数字の1に至るまで全てを含み;10未満は、9、8、7などから数字の1に至るまで全てを含む。
【0142】
本明細書中使用される場合、全ての数値または範囲は、文脈により明白に示されない限り、そのような範囲内の数値の分数及び整数、ならびにそのような範囲内の整数の分数を含む。すなわち、例示として、数値範囲の記述は、例えば1~10なら、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、ならびに1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、などを含む、などである。したがって、1~50という範囲の記述は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20などを、50も含めて最高50まで、ならびに1.1、1.2、1.3、1.4、1.5など、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、などを含む、などである。
【0143】
一連の範囲の記述は、その一連の中で、異なる範囲の境界値を結合した範囲を含む。すなわち、例示として、一連の範囲の記述、例えば、1~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、60~75、75~100、100~150、150~200、200~250、250~300、300~400、400~500、500~750、750~1,000、1,000~1,500、1,500~2,000、2,000~2,500、2,500~3,000、3,000~3,500、3,500~4,000、4,000~4,500、4,500~5,000、5,500~6,000、6,000~7,000、7,000~8,000、または8,000~9,000という記述なら、10~50、50~100、100~1,000、1,000~3,000、2,000~4,000などの範囲も含む。
【0144】
本発明は、本明細書中、概して、複数の実施形態及び態様を記載するために肯定的言葉を使用して開示されている。本発明は、特定の対象物、例えば、物質もしくは材料、方法工程及び条件、プロトコル、または手順が、完全にまたは部分的に排除される実施形態も、具体的に含む。例えば、本発明のある特定の実施形態または態様において、材料及び/または方法工程が排除される。すなわち、本発明は、本発明が何を含まないかに関しては、本明細書中概して説明されないものの、本発明から明白に排除されはしない態様を、本明細書中開示する。
【0145】
本発明の実施形態は、本明細書中記載される。それら実施形態の改変形態は、上記の説明を読むことで当業者に明らかとなる場合がある。本発明者らは、当業者がそのような改変形態を適宜採用することを期待し、また本発明者らは、本発明が、本明細書中具体的に記載された以外の形態で実施できることを意図する。したがって、本発明は、適用法で認められるとおりに、本明細書に付属の特許請求の範囲に記載される対象物の全ての修飾及び等価物を含む。その上、要素のどのような組み合わせも、本明細書中特に記載がない限り、または文脈により明白に矛盾するのでない限り、それらの全ての可能な組み合わせ方で本明細書に包含される。したがって、以下の実施例は、例示を意図するのであって、請求される本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例0146】
ここから、本発明を以下の制限ではない実施例により例示する。
【0147】
実施例1:遅発乳児型バッテン病のイヌモデルにおいて脳室壁細胞へのAAV介在型形質導入は、神経変性疾患発症及び進行を遅らせる。
【0148】
AAVベクターを介した脳室系(例えば、脳室上皮)の上衣細胞壁へのCLN2遺伝子の送達の治療効果を、LINCLイヌモデルで評価した。LINCLイヌは、CLN2遺伝子が欠損するように操作されており、その結果、TPP1酵素欠乏症であった。LINCLイヌは、誕生時は正常であるが、7ヶ月前後で神経学的兆候を生じ、約5~6ヶ月で検証可能な失認を生じ、10~11ヶ月で痙攣を起こし、進行性失明を発症する。LINCLイヌでのCLN2遺伝子変異は、TPP1タンパク質を、非機能性にし、TPP1タンパク質が検出不能になる。疾患の進行とともに、脳組織は縮小し、脳に巨大な脳室腔をもたらす。神経症候として、平衡及び運動機能の低下、失明、振戦が挙げられる。本発明の以前には、大型動物モデルにおける、リソソームヒドロラーゼを発現するrAAVを用いた上衣細胞への形質導入で表現型を逆転することの有効性は知られていなかった。
【0149】
上衣細胞は、CSFへの直接アクセスを有するが、この細胞への形質導入が、LINCLイヌモデルにおいて、イヌ型TPP1(caTPP1)を発現するrAAVの単回一側性点滴後に、長期及び広範囲のTPP1体内分布をもたらすかどうかを調べた。脳室上皮は、脳室系及び脊椎中心管の壁となる単層上皮から成る。上衣細胞は、多発繊毛性の分裂終了細胞であり、それらは、パラ分泌シグナル、代謝産物、及び毒素の脳を通じた及び脳外への方向性CSF流及び運動に必須である。より詳細には、上衣細胞を、イヌTPP1(rAAV.caTPP1)を発現するrAAV2で形質導入し、脳及びCNS外にわたり、TPP1酵素活性を臨床効果に沿って評価した。
【0150】
TPP1を発現する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の単回投与は、上衣細胞への遺伝子導入を介して、CSFでの組換えTPP1の恒常的な高レベル発現をもたらし、顕著な臨床効果をもたらした。詳細には、rAAVca.TPP1処置した罹患イヌは、(1)臨床兆候の発生の遅れ;(2)疾患進行の遅れ;(3)認知機能低下からの保護;及び(4)寿命の延長、を表した。免疫染色及び酵素アッセイにより、組換えタンパク質は、脳全体で確認された。また、疾患の神経病理学的特徴の補正が見られた。自然発生するイヌ疾患モデルにおけるこれらの試験は、幅広いCNS分布及び治療効果のため組換えタンパク質の安定分泌を達成するための標的指向性脳室壁細胞の生存能を示す。
【0151】
材料及び方法
AAVベクター製造:CMV初期エンハンサー/トリβ-アクチン(CAG)プロモーターの制御下でイヌTPP1を発現する組換えAAV2ベクターを、標準トリプルトランスフェクション法を用いて作製し、CsCl勾配遠心により精製した(Wright, 2008;Wright, 2009)。ゲル電気泳動(SDS-PAGE)及びPCR(Wright, 2008;Wright, 2009)の後に銀染色で力価を定量した。
CAGプロモーター(配列番号9):
【表A】
![](/Kouhou/img?c=P_A1&n=2022123145&FileName=2022123145000002.jpg&ImageFormatCategory=jpg)
ATAGCCCATATATGGAGTTCCGCGTTACATAACTTACGGTAAATGGCCCGCCTGGCTGACCGCCCAACGACCCCCGCCCATTGACGTCAATAATGACGTATGTTCCCATAGTAACGCCAATAGGGACTTTCCATTGACGTCAATGGGTGGAGTATTTACGGTAAACTGCCCACTTGGCAGTACATCAAGTGTATCATATGCCAAGTACGCCCCCTATTGACGTCAATGACGGTAAATGGCCCGCCTGGCATTATGCCCAGTACATGACCTTATGGGACTTTCCTACTTGGCAGTACATCTACGTATTAGTCATCGCTATTACCATGGTCGAGGTGAGCCCCACGTTCTGCTTCACTCTCCCCATCTCCCCCCCCTCCCCACCCCCAATTTTGTATTTATTTATTTTTTAATTATTTTGTGCAGCGATGGGGGCGGGGGGGGGGGGGGGGCGCGCGCCAGGCGGGGCGGGGCGGGGCGAGGGGCGGGGCGGGGCGAGGCGGAGAGGTGCGGCGGCAGCCAATCAGAGCGGCGCGCTCCGAAAGTTTCCTTTTATGGCGAGGCGGCGGCGGCGGCGGCCCTATAAAAAGCGAAGCGCGCGGCGGGCGGGGAGTCGCTGCGACGCTGCCTTCGCCCCGTGCCCCGCTCCGCCGCCGCCTCGCGCCGCCCGCCCCGGCTCTGACTGACCGCGTTACTCCCACAGGTGAGCGGGCGGGACGGCCCTTCTCCTCCGGGCTGTAATTAGCGCTTGGTTTAATGACGGCTTGTTTCTTTTCTGTGGCTGCGTGAAAGCCTTGAGGGGCTCCGGGAGGGCCCTTTGTGCGGGGGGAGCGGCTCGGGGGGTGCGTGCGTGTGTGTGTGCGTGGGGAGCGCCGCGTGCGGCTCCGCGCTGCCCGGCGGCTGTGAGCGCTGCGGGCGCGGCGCGGGGCTTTGTGCGCTCCGCAGTGTGCGCGAGGGGAGCGCGGCCGGGGGCGGTGCCCCGCGGTGCGGGGGGGGCTGCGAGGGGAACAAAGGCTGCGTGCGGGGTGTGTGCGTGGGGGGGTGAGCAGGGGGTGTGGGCGCGTCGGTCGGGCTGCAACCCCCCCTGCACCCCCCTCCCCGAGTTGCTGAGCACGGCCCGGCTTCGGGTGCGGGGCTCCGTACGGGGCGTGGCGCGGGGCTCGCCGTGCCGGGCGGGGGGTGGCGGCAGGTGGGGGTGCCGGGCGGGGCGGGGCCGCCTCGGGCCGGGGAGGGCTCGGGGGAGGGGCGCGGCGGCCCCCGGAGCGCCGGCGGCTGTCGAGGCGCGGCGAGCCGCAGCCATTGCCTTTTATGGTAATCGTGCGAGAGGGCGCAGGGACTTCCTTTGTCCCAAATCTGTGCGGAGCCGAAATCTGGGAGGCGCCGCCGCACCCCCTCTAGCGGGCGCGGGGCGAAGCGGTGCGGCGCCGGCAGGAAGGAAATGGGCGGGGAGGGCCTTCGTGCGTCGCCGCGCCGCCGTCCCCTTCTCCCTCTCCAGCCTCGGGGCTGTCCGCGGGGGGACGGCTGCCTTCGGGGGGGACGGGGCAGGGCGGGGTTCGGCTTCTGGCGTGTGACCGGCGGCTCTAGAGCCTCTGCTAACCATGTTCATGCCTTCTTCTTTTTCCTACAGCTCCTGGGCAACGTGCTGGTTATTGTGCTGTCTCATCATTTTGGCAAA
【0152】
動物:長毛のミニチュアダックスフンドが、ミズーリ大学の施設で、動物資源室(OAR)の監督下、繁殖及び飼育されていた。TPP1-null動物をヘテロ接合性繁殖で産生した(Awano, 2006)。子犬は全て、PCRにより遺伝子型を同定した。OARにより規定された標準的な世話に加えて、これらのイヌを、試験全体にわたり、日常的に社会に適合させた。イヌが関与する手順は全て、ミズーリ大学動物管理及び使用委員会による審査及び承認を受けており、実験動物の管理及び使用に関する国立衛生研究所の指針に準拠していた。26ゲージの12cm針を備えたBrainsight(商標)ニューロナビゲーションシステムを用いて、脳室内点滴を25分かけて行った。この試験では、遺伝子治療ベクター投与の1~2週間前から、全てのイヌに、シクロスポリン10mg/kgを1日2回、経口で投与し始めた。用量は、2ヶ月後には1日1回と徐々に量を減らしたが、投与は試験期間中続けた。結果に示すとおり、経口による一日量としてミコフェノール酸モフェチリ(MMF)10~20mg/kgで開始し、忍容性に応じて、2~数ヶ月後に減少させた。
【0153】
組織試料のTPP1酵素活性アッセイ:以前に報告された方法(Chang et al., 2008;Tian et al., 2006)を改変して、TPP1活性をアッセイした。試料を、300μlの氷冷したホモジナイゼーション緩衝液(0.1%TritonX-100含有正常生理食塩水に、完全プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加、Roche、Mannheim、Germany)に入れてホモジナイズした。不溶性物質を、21×103rcfで4℃で15分間遠心して除去し、タンパク質を、DCタンパク質アッセイ(Biorad、Hercules、CA)により定量した。上清(10μl)を96ウェル黒色ウェルプレートのウェルに入れた。ウェルには、90μlの100mMクエン酸ナトリウム緩衝液、150mMのNaCl、及び0.1%TritonX-100(pH4.0)、ならびに酵素基質(250μmol/lのAla-Ala-Phe7-アミド-4-メチルクマリン含有クエン酸ナトリウム緩衝液、pH4.0)が入っていた。プレートを、Safire2マイクロプレートリーダー(Tecan.、Mannedorf、Switzerland)にて、37℃で460nm発光フィルターを使用して読んだ。精製組換えTPP1を、標準として使用した(P.Lobel、State University of NewJersey)。
【0154】
脳脊髄液のTPP1酵素活性アッセイ:試料を、Amicon Ultra-0.5遠心フィルター(Ultracel-10K. Millipore Corporation)を用いて、21×103rcfで、4℃で5分間かけて3.5倍に濃縮した。組織試料と同じように、活性化TPP1を定量した。
【0155】
caTPP1中和抗体アッセイ:CSF中の中和Ab(Nab)を評価するため、Cln2-/-マウス胚線維芽細胞を使用した。アッセイの16時間前、前日に1.0×105細胞/ウェルを、24ウェルプレートに播種し、イヌCSFを、56℃で30分間加熱して不活化し、1:10に希釈し、次いで、1.75nMのTPP1とともに37℃で1時間、プレインキュベートした。混合物を37℃で3時間細胞に添加しておき、その後、細胞を37℃のHBSS(Ca2+及びMg2+)で洗い、次いで、100μlの氷冷ホモジナイゼーション緩衝液-0.1%TritonX-100含有正常生理食塩水に完全プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加(Roche、Mannheim、Germany)-中でホモジナイズした。不溶性物質を、21×103rcfで4℃で10分間遠心して除去し、TPP1活性を上記の通り検出した。結果は、ベクター投与前に収集したCSFで得られた活性のパーセンテージとして計算した。
【0156】
脳組織の処理及び組織診断:安楽死のすぐ後に得た脳切片を、4%パラホルムアルデヒドに入れて4℃で24時間固定した。切片(40μm)を、凍結ミクロトーム上で切断し、-20℃で貯蔵するため、抗凍結剤溶液(30%エチレングリコール、15%スクロース、0.05%アジ化ナトリウムを含むトリス緩衝化生理食塩水)に浮かべた。以下を用いて免疫組織化学検査を行った:マウス抗TPP1(Abcam;1:500)マウス抗GFAP(Sigma-Aldrich、1:500)、ウサギ抗SCMAS(E.F. Neufeld.氏のご厚意による提供、University of California、Los Angeles、CA.;1:500)。全ての抗体を、2%ウシ血清アルブミン、0.1%NaN3、及び0.05%Tween20を含むトリス緩衝化生理食塩水に希釈した。使用した二次抗体は、ビオチン化ヤギ抗マウス(Jackson、Immuno Research、West Grove、PA;1:200)であった。スライドを、Vectstainアビジン及びビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼ巨大分子複合体(ABC)溶液(Vector Laboratories)とともにインキュベートし、次いで、3,3’-ジアミノベンジジンペルオキシダーゼ基質(Sigma-Aldrich)で発色させた。切片を視覚化して、DFC450 Leicaカラーカメラを備えたDM6000B Leica顕微鏡で撮影した。
【0157】
ウエスタンブロット分析:タンパク質濃度は、BCAアッセイ(Pierce、Rockford)及び50μgの試料を12%SDS-PAGEに添加し、次いで0.2μmのImmobilon PVDF膜(Millipore、Billerica)に移すことにより求めた。一次抗体は、以下のものであった:ウサギ抗p62(Cell Signaling;1:1000)、ウサギ抗SCMAS(E.F. Neufeld氏のご厚意による提供;1:3000)。二次抗体は、HRPヤギ抗ウサギIgG(Jackson Laboratories;1:40000)であった。ブロットを、ECL Plusウエスタンブロット検出システム(GE Healthcare、Pittsburg)を用いて現像した。タンパク質定量は、VersaDoc(商標)撮像システム(Biorad)を用いて行った。バンド密度は、Ponceau S染色により評価した全タンパク質ロードに対して正規化した。
【0158】
脳自発蛍光:40μmの自由浮遊切片をスライドガラスに乗せVectashieldとともにカバーガラスを被せて、自発蛍光貯蔵物質を評価した。スライドを、アポクロマート40倍拡大レンズ(N.A. 0.85)、励起帯域470(+20):発光帯域525(+25)nmフィルター、及びOrcaFlash4.0白黒カメラ(Hamamatsu)を備えたDM6000B Leica顕微鏡を用いて、落射蛍光顕微鏡観察下で目視及び撮影した。処置した脳及び未処置の脳の同等な領域で適正露出のデジタル画像を撮影した。画像を、フィルター発光波長として緑色に擬似カラー化した。
【0159】
統計解析:統計解析のため、GraphPad Prism 6ソフトウェア(GraphPad Software、La Jolla California、USA)を使用した。データは、ノンパラメトリック検定により解析した。2つの群のみが比較される場合にはマン・ホイットニー検定を行ったが、3つ以上の群の場合にはクラスカル・ウォリス検定を行った。
【0160】
認知機能試験:認知機能試験は、以前に記載された(Sanders et al., 2011)とおりに逆転学習課題におけるイヌの成績を評価することにより行った。各イヌは、試験プロトコルの前訓練期を開始し、その後4ヶ月齢から、逆転学習課題におけるそれらの成績を1ヶ月間隔で調べた。試験は、イヌが疾患関連の能力障害により試験を完了できなくなるまで続けられた。データは、各イヌが、試験セッション中に、予定された成績基準に到達するまでに行ったエラー数で記録された。
【0161】
神経学的検査のまとめ:イヌには、週単位で、身体検査及び神経学的検査を包含する臨床診断を行った。全てのイヌで、最初の用量前に身体検査と併せて体重を記録してベースライン値を確立し、その後も毎週記録した。神経学的検査は、試験課程全体を通じて毎週行った。神経機能障害の兆候は、標準化臨床神経学的検査(Lorenz et al., 2011)により主観的にモニタリングした。神経学的検査の項目には、精神状態、姿勢、及び歩調の観察;脳神経の試験;姿勢反応の評価(固有感覚による踏み直り反応、跳び直り、手押し車反応、触覚性の踏み直り反応、及び姿勢性伸筋突伸反応);脊髄反射(筋伸展性及び屈側性);ならびに感覚試験が含まれていた。歩行評価は、正常または異常として、運動失調(全体的な固有感覚性、小脳性、前庭性)ならびに不全対麻痺及び四肢不全麻痺の存在とともに評価した。姿勢反応、脊髄反射、脳神経検査、及び感覚機能を、障害なし、機能低下、または消失として評価した。イヌは、異常運動及び発作動作についても評価した。発症年齢を、以下の神経学的欠陥について記録した:威嚇反応欠如(一側性及び両側性)、動物体追跡、企図振戦、頭部振戦、ミオクローヌス性発作、運動失調、ならびに骨盤部肢及び胸部肢の固有感覚による踏み直り。
【0162】
人道的理由から、終末期疾患を定義する統一基準を用いて、安楽死を行った。終末期疾患基準は、認知機能の喪失、重篤な精神状態異常、動物体追跡の喪失、薬剤不応性ミオクローヌス性発作及び発作活動、ならびに相当な補助なしでは摂食不能であることからなった。生存期間を、安楽死の決定に至った臨床兆候が何であるかに関わらず、誕生から屠殺までの時間と定義した。
【0163】
結果
イヌCSFでのTPP1発現:TPP1-nullダッチハウンド疾患モデルは、CLN2にフレームシフト変異を有し(Awano et al., 2006)、血液中に検出可能なTPP1活性がなく、また進行性神経変性総体症状があり、このモデルは、ヒトTPP欠乏症を再現している(Sanders et al., 2011;Katz et al. 2008)。
【0164】
脳室上皮形質導入が、脳での組換えTPP1発現の広範囲の送達に十分であるかどうかを判定するためには、送達されると脳室上皮に特異的にかつ合理的な効率で感染するベクターが必要であった。マウスでは、AAV4は、線条体内または脳室内注射が強固な脳室上皮形質導入をもたらす(Davidson et al., 2000)という点で類い稀なものであった。対照的に、イヌ脳では、AAV4送達後の脳室上皮形質導入は観察されなかった。レポーター遺伝子を発現するAAV1、2、6、8、及び9血清型を、追加でスクリーニングしたところ、AAV2が最適であることがわかった;2E12ベクターゲノムの脳室内注射は、側脳室の壁となる脳室上皮へのほぼ完全な形質導入、ならびに第三及び第四脳室の脳室上皮へのさらなる形質導入をもたらした。
2匹のCLN2-/-イヌでrAAV.caTPP1(DC013、DC014)をCSFに一側性注射した後、早期にTPP1酵素活性レベルを定量した(表1;全てのイヌは、処置前からシクロスポリンを開始した)。
【表1】
【0165】
早ければ注射後5日目にして、CSF中のTTP1酵素活性に顕著な上昇が存在した;ヘテロ接合性対照イヌCSFで測定されたレベルより最高20倍高かった(
図7A;
図15)。しかしながら、組換えTPP1活性は、2ヶ月後には、バックグラウンドレベルまで沈静化した(
図7A)。これらのイヌはTPP1 nullであるので、この低下が中和抗体(NAb)の上昇と同期していたのかどうかを試験した。精製TTP1酵素前駆体を、rAAV.caTPP1処置したCLN2-/-イヌから採取したCSFまたは血清の系列希釈物とともにインキュベートし、次いで、混合物をCln2-/-マウス胚線維芽細胞に添加した。Cln2-/-細胞溶解液中のTPP1活性は、組換えタンパク質を、注射の1ヶ月後に採取されたrAAV.caTPP1処置したイヌのCSFとともにインキュベートした場合に、低下することがわかった(
図7B)。これらの動物から採取した血清も、同様な結果を示した。
【0166】
免疫応答の中和を抑制する試みで、シクロスポリン処置を行っている際に追加でMMF処置を開始した。2匹のイヌ(DC013及びDC014)に、44日目からMMF投与を開始し、別の2匹には33日目から開始した(DC015及びDC016)。ベクター投与から44日後のMMF導入は、TPP1活性の回復をもたらさなかった(
図7A)。しかしながら、MMF処置をベクター投与から33日後に開始すると、CSFのTPP1活性の上昇及び抗TPP1Ab力価の低下をもたらした(
図7C及び
図7D)。次に、CLN2-/-イヌを、rAAV.caTPP1送達の5日前にMMFで処置した(DC018)。この動物では、TPP1活性は強固かつ継続し、抗TPP1抗体は出現しなかった(
図7E及び
図7F)。導入遺伝子発現の安定性及び神経症候の全体的な改善を考慮して、追加で2匹のイヌ(DC019及びDC020)を、MMF治療の開始後5日目にrAAV.caTPP1で処置した。
【0167】
TPP1のCSF中レベルの上昇は、臨床症候及び失認の改善と関連する。
未処置のCLN2-/-イヌは、早ければ5ヶ月齢にして臨床兆候の発生を示し、一般に、38~45週で人道的屠殺を必要とする(Katz et al., 2014)。未処置のCLN2-/-イヌで最も早く出る臨床兆候の1つは、後肢の固有感覚性反応障害(平均発生年齢=6ヶ月;範囲4.6~8ヶ月;n=8;
図8A)及び後肢脱力である。これらの臨床表現型は、rAAV.caTPP1遺伝子治療ありでは、平均で4.5ヶ月遅くなった(
図8A)。3匹のイヌで、異常眼振が出現せず(平均発生年齢=未処置のイヌで7.7ヶ月、範囲4.6~10.9、n=7;処置したイヌ、13.4ヶ月、範囲12.6~14.3、n=2)(
図8B)、威嚇反応欠如も出現しなかった(未処置のイヌでの平均発生年齢=6.5ヶ月、範囲4.8~8.3、n=6;処置したイヌ、10ヶ月、範囲9.9~10.2、n=2)(
図8C)。瞳孔光反射(PLR)の異常は、処置したイヌのうち3匹で遅くなり、2匹では全く検出されなかった(未処置のイヌでの発生は、平均年齢8.5ヶ月、範囲6.7~9.6ヶ月、n=8;処置したイヌ、11.6ヶ月、範囲10.6~13.7;n=3)(
図8D)。小脳失調は、典型的には後肢の固有感覚性欠如後早期に発症するが、これは、未処置のイヌの平均6.4ヶ月齢(範囲5.9~9.4ヶ月、n=8)から処置したイヌの12.7ヶ月齢(範囲12~13.8ヶ月、n=4)へと遅くなり、処置した動物のうち1匹では出現しなかった(
図8E)。胸部肢の機能不全も、5ヶ月から5.5ヶ月へと遅くなり、処置した動物のうち1匹では出現しなかった(
図8F)。
【0168】
神経解剖学的局所的異常の発生は、未処置のイヌと処置したイヌとの間で異なった。未処置のイヌで最初にでてくる異常は、全体的な固有感覚性運動失調であるが、処置したイヌでは、失明であった。これは、CSFに分泌された組換えタンパク質が網膜に浸透しないことを反映しているようである。それでもなお、PLRに関与する中枢経路の目立った温存が存在し、これは、網膜により開始される(
図8C及び
図8D)。全体的に、運動異常の発生に大幅な遅れが存在し、最も顕著な例は、企図振戦(
図8G)、異常眼振、及び小脳失調の発生の遅れまたは不在であり、このことは、小脳前庭系の温存を示す。
【0169】
CLN2-/-イヌは、神経学的兆候の他に、認知機能低下を有し、これはT迷路(Sanders et al., 2011)により定量することができる。4匹の動物を登録し、2匹を処置、2匹を未処置とし、このアッセイは、4ヶ月齢で開始した。先行研究(Sanders et al., 2011)と同様に、未処置のCLN2-/-動物は、T迷路でより多くの間違いを犯し、6ヶ月齢で課題を完了できなくなった(
図9)。しかしながら、rAAV.caTPP1を投与されたイヌは、それらの運動能力が許す限り、正常なイヌと同様に迷路をしっかり進み続けた(
図9)。処置した動物の1匹は、19ヶ月齢になってもほとんど間違いをせずに正常なイヌと同様に課題をこなし、コロニーの中で、その動物の環境、介護者、及び他のイヌに対して非常に関心を高く保ち続けている。寿命の長さ(
図16;人道的屠殺までの平均は、未処置のイヌで10.4ヶ月齢、これに対しrAAV2.caTPP1処置したイヌでは16.4ヶ月齢(変化中;1匹のイヌは、22ヶ月後も生存し続けている;表1)、臨床症候の遅れ(
図8)、及び認知能力の保持(
図9)は、同一コロニーのイヌに、くも膜下腔内または脳室腔へ組換えTPP1を隔週で点滴することにより記録された改善から大幅に延長される(Katz et al., 2014)。
【0170】
組換えTPP1は、脳実質に広く分配される。
これまでのところ、データは、脳室上皮へのrAAV.caTPP1遺伝子導入が、臨床効果として十分なTPP1活性を脳にもたらすという仮説を支持する。CSF中の組換えTPP1は、脳室から外側口を介してくも膜下腔に流入し、最終的に血管周囲腔に沿って下層の実質に拡散するとことが予想される。齧歯類では、これが、疾患関連読み出しの改善をもたらす(Chang et al., 2008;Liu et al., 2005)。しかしながら、この先行研究は、齧歯類で行われたものであり、もし、より大きな脳であったら、広範囲に送達されるのかどうか、TPP1浸透の領域的変動になるのかどうか、あるいは取り込みがある特定の細胞型によるものになるのかどうかは不明であった。
【0171】
注射から60日後(2ヶ月;DC013及びDC014)、300日後(10ヶ月;DC015及びDC016)、444日後(約16ヶ月;DC018)、及び545日後(約19ヶ月;DC017)に収穫した組織で、脳領域の吻側から尾側に向かって、TPP1活性の顕著な上昇が見られた。DC019は、認知面で無障害のままであった(約22ヶ月;631日)。TPP1活性は、側脳室近位の範囲で正常より2及び4.5倍上昇した(
図10A)。正常より8倍超が、尾状核、視床、及び髄から収穫された試料で観察された(
図10B)。TPP1活性は、後頭葉皮質でも検出され、くも膜下腔に到達して大脳皮質を透過することが可能であることを実証する(
図10B)。
【0172】
脳中のTPP1分布をさらに検査するため、イヌTPP1について免疫組織化学検査を行った。null動物とは対照的に、脳全体にわたって強固な酵素染色が見られた(
図11)。TPP1は、脳室系全体の壁である上衣細胞で、ならびに側脳室(例えば、中隔野及び尾状核;
図11A)、第三脳室(例えば、視床下部;
図11A)、第四脳室(例えば、吻側髄;
図11A)、及び脊椎の中心管(
図11B)を取り囲む領域で、明白であった。TPP1陽性細胞は、rAAV.caTPP1注入した動物の大脳皮質及び小脳皮質に沿っても見つかった(
図11C)。免疫陽性細胞の吻側尾側勾配が見られた。TPP1陽性細胞は、形態学的に錐体ニューロンと等価であり、細胞体及び主な樹状突起内で、点状免疫反応性を持っていた。前頭前皮質では、大部分のTPP1陽性細胞が、第V層中にあった(
図11C)。さらに尾側では、TPP1免疫陽性細胞は、全て皮層中に見られた(
図11C)。梨状葉皮質では、細胞内免疫反応性が、細胞体及び複数の細胞プロセスに存在した(
図11C)。小脳皮質では、分子層内のプルキンエニューロン及び他の細胞が、最も強固なTPP1染色を示した(
図11C)。これらの結果をまとめると、脳室上皮から分泌された酵素は、くも膜下腔に到達することができ、血管周囲腔を通じて複数の脳領域全体に渡り内部移行することができる。
【0173】
rAAV2.caTPP1形質導入後の星状細胞活性化及び貯蔵負荷の減少。
進行性星状細胞活性化は、TPP-1欠乏症の齧歯類モデルで、及び患者脳で記載されている。この活性化は、星状細胞プロセスにおけるGFAP免疫染色の強度の上昇を特徴とする。強いGFAP染色が、未処置のTPP1-nullイヌで見られた(
図12)。rAAV.caTPP1を用いた上衣細胞形質導入は、終末期疾患でさえも、GFAP免疫反応性の顕著な低下をもたらした(
図12)。AAV.caTPP1注入した動物の中隔野、尾状核、運動皮質(mCx)、及び帯状皮質(cgCx)は、IHCにより弱いGFAP染色を示し、未処置のTPP1欠乏イヌのそれらの領域と比べて免疫反応性プロセスが少なかった(
図12)。これらのデータをまとめると、これらの動物にTPP1が存在することで進行性星状細胞増多症が減少したことが示される。
【0174】
自発蛍光蓄積は、NCLの特徴であり、疾患脳全体にわたり明白である。AAV2.caTPP1は、X、Y、及びZ領域で自発蛍光の貯蔵を顕著に減少させた(
図13A)。この減少は、免疫組織化学検査(
図13A)及びウエスタンブロット(
図13B)により評価したATPシンターゼサブユニットC蓄積(SCMAS)の測定可能な減少を伴っていた。p62レベルも評価したが、このレベルは、TPP1 nullマウスで上昇することが最近報告されたものである(Micsenyi et al., 2013)。AAV2.caTPP1は、p62貯蔵負荷を未処置の動物で見られるものと比べて顕著に減少させた(
図13B)。
【0175】
末梢臓器中の組換えTPP1。
CLN2変異を持つ小児で最も関連性のある症候は神経学的原因によるものであるものの、TPP1は、遍在的に発現する酵素である(Kida et al., 2001)。脳室上皮形質導入後にCSFで発現したTPP1は、CSF中のタンパク質がくも膜絨毛を通過して末梢脈管構造に到達することができるとおり、CNS外の酵素源を提供する可能性がある。処置したイヌ中のCNS外の分布を求めるため、組換えTPP1を、未処置及びAAV.caTPP1処置したイヌの、肝臓、脾臓、腎臓、及び心臓で酵素活性アッセイにより定量した。対照と比較して、AAV.caTPP1処置したイヌの脾臓及び心臓で、有意に上昇したTPP1活性が見られた(
図14)。全体的な活性レベルは上昇しているものの、入手可能な心臓試料の免疫組織化学検査は、複数の筋芽細胞のまだら状の強固な染色を示し、脾臓ではより均一な染色が見られた。腎臓での目立った上昇はなく、肝臓でのTPP1活性も、nullの未処置イヌでは高いバックグラウンド酵素活性のため目立った上昇ではなかったが、これは、このアッセイで使用した基質を切断することができる肝臓中の別のヒドロラーゼによるものらしい(
図15)。心臓中のTPP1活性の正常化は、心筋症が報告されているとおり小児の臨床症状と関連しており、NCLの別のもので疾患進行に寄与する可能性がある(Ostergaard et al., 2011)。AAV.caTPP1処置したイヌでの酵素活性は、未処置のnull動物の心臓におけるものより1桁高く、脾臓では2倍高かった(
図14)。これらの結果は、CSF常在性酵素が、脳室上皮形質導入後の末梢臓器用TPP1源を提供する可能性を支持する。
【0176】
考察
TPP1欠乏症によるLINCLのための遺伝子治療に関する患者での安全性試験が報告されており、その試験では脳実質への組換えAAV2の注射が12回行われている(Worgall et al., 2008)。同様な送達方法を用いた第二の臨床試験が、AAV血清型rh10の実質内注射を介した送達で開始されている(ClinicalTrials.gov識別番号:NCT01161576)。どちらの試験も、ウイルスは、大脳実質に限定される。
【0177】
組換えタンパク質の脳への送達及び可能性としてより広範囲の分布が、CSFを介して達成されるかどうかを調査するため、単回脳室内注射後、または脳室内及び大槽の複合注射後の脳室上皮形質導入を評価した。その上、実質とは対照的に、これらの方法は、神経変性疾患のある小児については重要な考慮事項である、長期鎮静を必要とする主要な神経系外科手術を必要としない。イヌでは、このアプローチは、組換えTPP1の広範囲の分布をもたらし、疾患発症及び疾患進行の顕著な遅れ、及び認知機能低下からの保護をもたらした。この治療法は、神経学的改善及び寿命の延長、ならびに生活の質の向上ももたらした。
【0178】
観察で目立ったことは、臨床兆候の現われる順序で何が最初だったかの違いであった。未処置のTPP1欠乏イヌは、最初に、固有感覚による踏み直り反応の欠如及び後肢の脱力を伴う運動失調を示した。これらのイヌは、非常に早くから、T迷路での成績不良に反映される認知機能障害も示した。TPP1欠乏症の小児における最初期症候も同様である。罹患小児は、一般に、初期言語障害を示すとともに、発達の診査事項における遅れまたはすでに獲得した診査事項の喪失のいずれか、ならびに運動失調及び固有感覚欠如を示す。AAV2.caTPP1処置した動物では、運動失調、固有感覚欠如、及び認知機能という特徴は、発生に関して劇的に遅くなり、処置した動物の中には、運動失調、固有感覚欠如、及び認知機能の喪失が出現しなかったものもいた。そうではなくて、AAV2.caTPP1処置した動物での最初期臨床兆候は、視覚異常であった。それにもかかわらず、処置したイヌは、網膜のインプットを受け取る中枢経路の欠損により引き起こされると思われる臨床兆候の遅れを示し、組織学的及び酵素アッセイ結果は、これらの領域及び正常な視覚に必要な他の領域に存在するTPP1が高レベルであることを示す。すなわち、眼内注射を介した網膜の定方向補正は、これらの対象で視力を保存する可能性があると思われる。
【0179】
組織学的には、多くの領域で貯蔵負荷及びグリア活性化の減少が検出されたが、その減少度合いに関して結果は様々であった。最も著名な臨床効果を得たTPP1欠乏イヌは、残存貯蔵レベルが他より低かった。未処置のイヌは、9~11ヶ月齢で屠殺されたが、これらはTPP1 nullマウスと同様に、脳の全域にわたり、大量の貯蔵及びグリア活性化を有していた(Sleat et al., 2004)。処置した動物から13~17ヶ月齢(遺伝子導入から10~14ヶ月後)で収穫した組織は、SCMAS、自発発光封入体、p62レベル、及びグリア活性化で大幅な低下を示した。動物のなかには組換えタンパク質に対して明らかに抗TPP1反応があったものもいたという事実に照らすと、これらのデータは興味深いものである。
【0180】
本明細書中の試験では、初期抗TPP1反応は、MMFで前処理されなかったイヌで最も強固であった。AAV送達時または送達の前に薬物を導入すると、抗TPP1免疫応答を、減少、阻害、または劇的に遅らせた。この同じイヌ疾患モデルにおいて、腰部、くも膜下腔、または側脳室に点滴された組換えヒトTPP1に対する免疫応答も、強固な抗TPP1反応を誘導した(Vuillemenot et al., 2015)。アナフィラキシー反応が、ボーラス点滴で記録されたが、これはより緩徐な連続点滴プロトコルを用いることでより良好に管理されるかまたは発生しなかった。今までのところ、抗TPP1反応が、組換えタンパク質を用いて隔週で治療されている小児に影響を及ぼすという報告はされていない。これが、TPP1欠乏の小児とイヌの間でのCSF中の組換えタンパク質に対する免疫応答の差を反映しているのかどうかは、不明である。命に関わるリソソーム蓄積症のため酵素治療を受けている小児でのネオ抗原に対する免疫応答は、ポンペ病の患者の治療で報告されたとおり、管理することが可能である(Messenger et al., 2012)。本明細書中開発されたアプローチは、NAbが、TPP1欠乏小児においてAAV.TPP1送達後の有効性を制限したならば、適用可能である。最後に、本明細書で採用した用量は、臨床的有効性をもたらしたものの、これは、最小有効量ではない可能性があり、したがって、用量を減らすことで、強固な免疫応答が弱くなる可能性があると思われる。キャリアイヌが症候を示さないことから、生涯に渡り継続的に正常TPP1レベルの50%を示すことで十分であるように思われる。
【0181】
遺伝子治療によく反応したイヌは、治療されたけれども、最終的に疾患に屈した。データは、酵素がCSFから末梢に到達したことを示したが(心臓及び脾臓でのレベル上昇)、そのレベルは、神経学的機能の改善の結果としてイヌの生存が長くなるほど出現する可能性がでてくる全身性症状から救うには不十分だった可能性がある。それにもかかわらず、本明細書中開示されるアプローチには、複数の観点から、TPP1欠乏症及びERTの小児のための現在の遺伝子治療の治験に勝る見込みがある。1つの利点は、このアプローチが、ベクター点滴のため長時間鎮静(装置移植)下にある必要がない、または複数の遺伝子治療点滴のための集中治療の必要がないと思われることである。最後に、このアプローチは、脳への接触を慢性的に繰り返すと思われる生涯に渡る酵素点滴の必要性を取り除くと思われることから、患者のリスクを低下させる可能性がある。
【0182】
全ての刊行物、特許、及び特許出願は、本明細書中参照として援用される。上記の明細書中、本発明はその特定の実施形態に関連して記載され、例示の目的で多くの詳細が記載されてきたものの、当業者には明らかなとおり、本発明はさらなる実施形態を含み、本明細書中記載される詳細のあるものは、本発明の基本原則から逸脱することなく明らかに変更することが可能である。
【0183】
参照
1. Awano,T.et al.,“A frame shift mutation in canine TPP1(the ortholog of human CLN2)in a juvenile Dachshund with neuronal ceroid lipofuscinosis.”Mol.Genet.Metab.(2006)89(3):254-60.
2. Chang,M.et al.,“Intraventricular enzyme replacement improves disease phenotypes in a mouse model of late infantile neuronal ceroid lipofuscinosis.”Mol.Ther.(2008)16(4):649-56.
3. Davidson,B.L.et al.,“Recombinant adeno-associated virus type 2, 4, and 5 vectors: transduction of variant cell types and regions in the mammalian central nervous system.”Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97(7):3428-32.
4. Junaid,M.A.et al.,“A novel assay for lysosomal pepstatin-insensitive proteinase and its application for the diagnosis of late-infantile neuronal ceroid lipofuscinosis.”Clin.Chim.Acta.(1999)281(1-2):169-76.
5. Katz,M.L.et al.,“Retinal pathology in a canine model of late infantile neuronal ceroid lipofuscinosis.”Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.(2008)49(6):2686-95.
6. Katz,M.L.et al.,“Enzyme replacement therapy attenuates disease progression in a canine model of late-infantile neuronal ceroid lipofuscinosis(CLN2 disease).”J.Neurosci.Res.(2014)92(11):1591-8.
7. Kida,E.et al.,“Distribution of tripeptidyl peptidase I in human tissues under normal and pathological conditions.”J.Neuropthol.Exp.Neurol.(2001)60(3):280-92.
8. Liu,G.et al.,“Functional correction of CNS phenotypes in a lysosomal storage disease model using adeno-associated virus type 4 vectors.”J.Neurosci.(2005)25(41):9321-7.
9. Lorenz et al.,2011
10. Messenger,Y.H.et al.,“Successful immune tolerance induction to enzyme replacement therapy in CRIM-negative infantile Pompe disease.”Genet.Med.(2012)14(1):135-42.
11. Micsenyi,M.C.et al.,“Lysosomal membrane permeability stimulates protein aggregate formation in neurons of a lysosomal disease.”J.Neurosci.(2013)33(26):10815-27.
12. Ostergaard,J.R.et al.,“Cardiac involvement in juvenile neuronal ceroid lipofuscinosis(Batten disease).”Neurology(2011)76(14):1245-51.
13. Remington's Pharmaceutical Sciences, 15th Ed., Mack Publishing Co., New Jersey(1991).
14. Sambrook,et al.(1989)Molecular Cloning, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York).
15. Sanders,D.N.et al.,“A reversal learning task detects cognitive deficits in a Dachshund model of late-infantile neuronal ceroid lipofuscinosis”Genes Brain Behav.(2011)10(7):798-804.
16. Sleat,D.E.et al.,“A mouse model of classical late-infantile neuronal ceroid lipofuscinosis based on targeted disruption of the CLN2 gene results in a loss of tripeptidyl-peptidase I activity and progressive neurodegeneration.”J.Neurosci.(2004)24(41):9117-26.
17. Tian,Y.et al.,“Determination of the substrate specificity of tripeptidyl-peptidase I using combinatorial peptide libraries and development of improved fluorogenic substrates.”J.Biol.Chem.(2006)281(10):6559-72.
18. Vuillemenot, B.R.et al.,“Nonclinical evaluation of CNS-administered TPP1 enzyme replacement in canine CLN2 neuronal ceroid lipofuscinosis.”Mol.Genet.Metab.(2015)114(2):281-93.
19. Worgall,S.et al.,“Treatment of late infantile neuronal ceroid lipofuscinosis by CNS administration of a serotype 2 adeno-associated virus expressing CLN2 cDNA.”Hum.Gene Ther.(2008)19(5):463-74.
20. Wright,J.F.,“Manufacturing and characterizing AAV-based vectors for use in clinical studies.”Gene therapy(2008)15(11):840-8.
21. Wright,J.F.,“Transient transfection methods for clinical adeno-associated viral vector production.”Human gene therapy(2009)20(7):698-706.