(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123147
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】最上階の接合構造及び最上階の仕口部の接合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20220816BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
E04B1/58 508P
E04B1/30 K
E04B1/58 507P
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102776
(22)【出願日】2022-06-27
(62)【分割の表示】P 2018009632の分割
【原出願日】2018-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】増田 安彦
(72)【発明者】
【氏名】穴吹 拓也
(72)【発明者】
【氏名】水越 一晃
(57)【要約】
【課題】施工性を向上させることができる最上階の接合構造及び最上階の仕口部の接合方法を提供する。
【解決手段】最上階の接合構造10は、鉄筋をコンクリート25に内蔵した鉄筋コンクリート造の柱20と、鉄骨梁30とを備える。鉄骨梁30は、2つのH形鋼31,35を直角に交差して構成される。H形鋼31,35は、ウェブ32,37と、上側フランジ33,38と、下側フランジ34,39とを有する。H形鋼31,35には、仕口部における柱20を囲むふさぎ板17が溶接されている。柱20の鉄筋は、主筋21と、主筋21の上端部に取り付けられた定着金物22と、鉄骨梁30より下方に配置されたフープ筋23から構成される。鉄筋の上端面である定着金物22の上面部を、上側フランジ33,38と、下側フランジ34,39との間に位置するように、鉄筋を配置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の柱と、上側フランジ及び下側フランジを有した鉄骨梁とを備えた最上階の接合構造であって、
前記上側フランジ及び前記下側フランジに接触させた前記柱を囲むふさぎ板を設け、
前記柱の主筋の上端部には定着金物が取り付けられており、
前記主筋の上端面又は前記定着金物の上端面の高さ方向の位置を、前記上側フランジと前記下側フランジとの間に設け、
前記柱の上端部において、前記主筋は、柱のせん断力が低下することなく前記主筋が降伏する長さである力学的に必要な定着長さを有し、
前記柱の上端部を、前記鉄骨梁の上側フランジの上端より低い位置に配置し、
前記柱の上方と前記上側フランジの上方とに、同じスラブコンクリートを打設したことを特徴とする最上階の接合構造。
【請求項2】
鉄筋コンクリート造の柱と、上側フランジ及び下側フランジを有した鉄骨梁とを備え、前記柱の主筋の上端部には定着金物が取り付けられた最上階の仕口部の接合方法であって、
前記柱の上端部において、前記主筋は、柱のせん断力が低下することなく前記主筋が降伏する長さである力学的に必要な定着長さを有し、
前記主筋の上端面又は前記定着金物の上端面の高さ方向の位置を、前記上側フランジと前記下側フランジとの間に設けた状態で、前記上側フランジ及び前記下側フランジに接触するふさぎ板を配置し、前記ふさぎ板内に前記柱のコンクリートを打設することにより、前記柱の上端部が、前記鉄骨梁の上側フランジ以下となるように前記柱を配置し、
前記上側フランジ及び前記柱の上に、同じスラブコンクリートを打設することを特徴とする最上階の仕口部の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造の柱と鉄骨造の梁とを備えた最上階の接合構造及び最上階の仕口部の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の柱(RC柱)と、鉄骨の梁(S梁)とを用いた混合構造を用いることがある。この構造では、圧縮に強い鉄筋コンクリートを柱に使用し、曲げとせん断に強く軽量な鉄骨を梁に使用する。この構造は、倉庫やショッピングセンター等、ロングスパン構造物に適する。
【0003】
このような混合構造は、最上階においても行なわれる。柱主筋の定着方法として、機械式定着金物を用いた定着工法を採用した場合、通常、最上階においては、柱に埋設される鉄筋の上端部を、鉄骨梁の上面よりも上に突出させた外定着形式が採用される(例えば、非特許文献1参照。)。この非特許文献1には、RC柱とS梁とを用いた混合構造において、柱の主筋の定着長さ(設計的に必要な定着長さ)が記載されている。この非特許文献1では、設計的に必要な定着長さとして、鉄筋の直径dbの21倍以上、かつ、下記の(1)式の必要定着長さlab以上とされている。
lab=α・S・σt・db/(10fb) (mm) …(1)
【0004】
ここで、αは、柱梁接合部コアの拘束度合いの影響係数であり、ふさぎ板形式の場合「1.0」である。Sは修正係数で「0.7」である。σtは、仕口面での柱主筋の引張応力で、原則として、短期引張許容応力度(N/mm2)である。dbは、柱主筋直径(mm)である。fbは、付着割裂の基準となる強度(付着割裂基準強度)で、fb=(Fc/40)+0.9(N/mm2)である。この式において、Fcは、コンクリートの設計基準強度(N/mm2)である。
【0005】
図6は、従来の外定着形式の接合構造50を示している。この接合構造50では、鉄筋コンクリート造の柱60と、鉄骨梁70とを備える。鉄骨梁70は、2つのH形鋼71,75を交差して構成される。柱60は、垂直方向に延在する主筋61と、フープ筋63と、これらを埋設するコンクリート65とを備える。主筋61の上端部は、鉄骨梁70の上面よりも上に突出する。そして、この上端部には、定着金物62が設けられている。更に、定着金物62と鉄骨梁70との間には、定着部拘束筋64が配置されており、仕口部の柱60を囲むようにふさぎ板57が配置されている。この構成によって、定着金物62の位置において、主筋61に生じる引張力、コンクリート圧縮ストラットの圧縮力、定着部拘束筋64に生じる引張力の釣り合いにより、抵抗機構を形成する。
【0006】
例えば、柱60の主筋61の直径dbを22(mm)、柱主筋の引張応力σtを516(N/mm2)とする。そして、コンクリート強度及び付着割裂基準強度を表1に示す値にした3つの接合構造50(Tc1、Tc2,Tc3)について、非特許文献1における必要定着長さlabを算出すると、表1に示す値になる。
【0007】
【0008】
また、外定着形式の接合構造50において、定着部拘束筋64に異形鉄筋D13を用いて、定着部拘束筋64が2段設けられている場合、鉄骨梁70から定着金物62の内面までの定着拘束筋高さは、最小で28(mm)になる。ここで、各接合構造50(Tc1、Tc2,Tc3)の梁せいD0が、「450」、「400」、「350」(mm)の場合、外定着形式から算出される鉄筋の長さは、梁せいD0と定着拘束筋高さとの和であるため、「478」、「428」、「378」(mm)になる。
【0009】
従来では、設計的に必要な定着長さ(鉄筋の直径dbの21倍以上、かつ、(1)式の必要定着長さlab以上)と、外定着形式から算出される定着長さとのうち、長いほうを定
着長さL0として用いる。各接合構造50(Tc1、Tc2,Tc3)においては、必要定着長さlabが外定着形式から算出される長さより長いため、必要定着長さlabを定着長さL0として用いる。
【0010】
更に、上述した外定着形式の接合構造50の場合、定着部拘束筋64を配置するために、鉄骨梁70よりも上に突出する定着金物62を配置する。この定着金物62は、柱60を構成する部材のため、コンクリートに埋設させる必要がある。このコンクリートも柱60を構成するため、このコンクリートには、柱60のコンクリート強度のコンクリートが用いられる。従って、柱60に用いるコンクリート65の強度と、床等のスラブ55に用いるコンクリートの強度とが異なる場合には、低強度のコンクリートが高強度コンクリートの打設領域に流入しないようにして、仕口部の上のコンクリート65aと、その他の領域のスラブ55とを打ち分ける。
【0011】
このコンクリートを打ち分けるための構造も検討されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1においては、RC柱とS梁との仕口部に、鉄骨梁の梁せいと同じ高さ寸法に形成されるふさぎ板を設ける。鉄骨梁及びふさぎ板の上端部には、断面形状がL字型の鋼材を接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】一般社団法人建築構造技術支援機構 著、「SABTEC機械式定着工法 RCS混合構造設計指針(2017年)」、第1版、2017年10月11日、p29、p39、p40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
最上階において仕口部の上のコンクリート65aと、その他の領域のスラブ55とを打ち分ける場合、柱60の上部を囲むようにラス型枠54を設け、仕口部の上のコンクリート65aとスラブ55とを別々に打設するので、施工に手間が掛かる。また、完成後、コンクリートを打ち分けた部分で色が異なる場合もあった。更に、スラブ55のスラブ高さ
に柱60の主筋61、定着金物62、定着部拘束筋64が突出するため、これらを避けてスラブ55の配筋を行なう必要があり、手間が掛かっていた。ここで、スラブ55のスラブ筋をラス型枠54に貫通させる場合には、更に手間が掛かっていた。
【0015】
また、建物によっては、柱60に埋設される鉄筋の定着長さが、鉄骨梁70の梁せいD0より小さいこともある。この場合においても、外定着形式の構造では、鉄骨梁70の上に鉄筋を突出させる必要があり、鉄筋を長くする必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための最上階の接合構造は、鉄筋コンクリート造の柱と、上側フランジ及び下側フランジを有した鉄骨梁とを備えた最上階の接合構造であって、前記上側フランジ及び前記下側フランジに接触させた前記柱を囲むふさぎ板を設け、前記柱の主筋の上端部には定着金物が取り付けられており、前記主筋の上端面又は前記定着金物の上端面の高さ方向の位置を、前記上側フランジと前記下側フランジとの間に設け、前記柱の上端部において、前記主筋は、柱のせん断力が低下することなく前記主筋が降伏する長さである力学的に必要な定着長さを有し、前記柱の上端部を、前記鉄骨梁の上側フランジの上端より低い位置に配置し、前記柱の上方と前記上側フランジの上方とに、同じスラブコンクリートを打設した。
【0017】
更に、上記課題を解決するための最上階の仕口部の接合方法は、鉄筋コンクリート造の柱と、上側フランジ及び下側フランジを有した鉄骨梁とを備え、前記柱の主筋の上端部には定着金物が取り付けられた最上階の仕口部の接合方法であって、前記柱の上端部において、前記主筋は、柱のせん断力が低下することなく前記主筋が降伏する長さである力学的に必要な定着長さを有し、前記主筋の上端面又は前記定着金物の上端面の高さ方向の位置を、前記上側フランジと前記下側フランジとの間に設けた状態で、前記上側フランジ及び前記下側フランジに接触するふさぎ板を配置し、前記ふさぎ板内に前記柱のコンクリートを打設することにより、前記柱の上端部が、前記鉄骨梁の上側フランジ以下となるように前記柱を配置し、前記上側フランジ及び前記柱の上に、同じスラブコンクリートを打設する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、最上階の接合構造の施工性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態における最上階の接合構造を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面断面図。
【
図2】実施形態における最上階の接合構造の斜視図。
【
図3】実施形態における実験を説明する説明図であって、(a)は実験に用いた接合構造の全体を説明する図、(b)は各試験体の諸元値を説明する図。
【
図4】実施形態における実験結果における柱せん断力の変化の説明図であり、(a)は試験体T1、(b)は試験体T2、(c)は試験体T3の場合を示す。
【
図5】変更例における最上階の接合構造を示す図であり、(a)は第1変更例の正面図、(b)は(a)の要部斜視図、(c)は第2変更例の正面図、(d)は(c)の要部斜視図。
【
図6】従来技術における最上階の接合構造を示す正面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1~
図4を用いて、最上階の接合構造及び最上階の仕口部の接合方法を具体化した一実施形態を説明する。
図1(a)は、本実施形態の最上階の接合構造10の上面図、
図1(b)は、接合構造
10の正面断面図、
図2は、接合構造10の斜視図である。図面を見やすくするために、
図1(a)及び
図2では、上部のスラブ15を省略し、
図1(b)では、柱20のコンクリート25及びスラブ15の断面ハッチングを省略している。
【0021】
図1及び
図2に示すように、接合構造10は、鉄筋コンクリート造の柱20に、鉄骨梁30が取り付けられた仕口部の構造である。具体的には、この接合構造10では、柱20の柱頭部(上端部)に、鉄骨梁30の一部が埋め込まれることにより、鉄骨梁30が取り付けられて構成される。
【0022】
図1(b)に示すように、柱20及び鉄骨梁30の上には、スラブ15が形成される。このスラブ15は、鉄筋コンクリートで構成される。
図1及び
図2に示すように、鉄骨梁30は、2本のH形鋼31,35を、十字形状に、直角に交差して構成される。H形鋼31,35は、ウェブ32,37と、上側フランジ33,38と、下側フランジ34,39とを備える。上側フランジ33,38及び下側フランジ34,39は、それぞれウェブ32,37で接続される。
更に、H形鋼31,35には、ふさぎ板17が溶接されている。このふさぎ板17は、仕口部における柱20を囲むように配置される。
【0023】
柱20のコンクリート25には、垂直方向に延在された複数の主筋21が埋設されている。鉄骨梁30よりも下方の主筋21には、主筋21を囲むようにフープ筋23が取り付けられている。
【0024】
各主筋21の上端部には、定着金物22が取り付けられる。この定着金物22は、鉄筋を挿し込むための略円筒形状の下部と、これに一体化された円板形状の上部とを有する。ここで、定着金物22の上端面が、柱20に埋設される鉄筋の上端面となる。
【0025】
定着金物22の上端面の高さ方向の位置は、鉄骨梁30の上側フランジ33,38と下側フランジ34,39との間に設けられる。具体的には、定着金物22の上端面は、上側フランジ33,38の下面よりも下に位置し、下側フランジ34,39の上面よりも上に位置する。ここで、鉄骨梁30の下側フランジ34,39の底面から鉄筋の上端面までの定着長さL1は、力学的に必要な定着長さとする。
【0026】
<力学的に必要な定着長さ>
力学的に必要な定着長さとは、柱20の主筋21が降伏する前に、柱20のせん断力が低下することを防ぐために必要な長さである。この必要な定着長さは、主筋21の直径、コンクリート25の強度、定着金物22の円板部の大きさ等によって特定される。
【0027】
従来では、力学的に必要な定着長さは、非特許文献1の(1)式に記載の設計的に必要な定着長さと同じとして、設計的に必要な定着長さを用いて算出していた。しかしながら、(1)式で算出した長さよりも短くても、柱20のせん断力が低下することなく、柱20の主筋21が降伏する長さであれば、必要な定着長さとして用いることができる。
【0028】
そこで、具体的な必要な定着長さについて、柱20にせん断力を与えて実験を行なった。ここでは、鉄筋の定着長さL1や柱20のコンクリート25の強度を変更した試験体を用いた。
【0029】
図3(a)には、実験に用いた接合構造10を示している。この接合構造10の鉄骨梁30は、全長Lb1が3450(mm)である。鉄骨梁30の両端は回転端で支持する。柱せん断力は、柱20の下端部に加える。この柱20の下端部から、鉄骨梁30のウェブの中央の水平面までの高さH1は、1200(mm)とした。
【0030】
図3(b)には、各試験体T1,T2,T3の諸元値を示している。試験体T1,T2,T3において、定着長さL1以外の諸元値は、従来技術の各接合構造50(Tc1、Tc2,Tc3)に対応している。試験体T1,T2,T3の梁せいD1は、それぞれ「450」、「400」、「350」(mm)である。試験体T1,T2,T3のコンクリート(目標)強度は、それぞれ「27」、「36」、「45」(N/mm
2)である。各試験体T1,T2,T3に用いた主筋21の直径d
bは、いずれも同じく22(mm)である。ここで、各試験体T1,T2,T3の定着長さL1を、それぞれ「396」、「352」、「308」(mm)と、主筋21の直径d
bの18倍、16倍、14倍とした。
【0031】
図4(a)~(c)には、実験による各試験体T1,T2,T3の層間変形角(%)と柱せん断力(kN)との関係グラフを示している。
図4における白抜き四角形が、柱20の主筋21が降伏した点を表す。柱20における鉄筋の定着力が十分でない場合、主筋21が降伏する前に抜け出してしまい、柱20のせん断力の低下を生じると考えられる。しかし、
図4(a)~(c)に示すように、いずれの試験体T1,T2,T3においても、主筋21が降伏するまでせん断力は低下しなかった。従って、実験で用いた各試験体T1,T2,T3の定着長さL1は、力学的に必要な定着長さとして用いることができる。よって、柱20に埋設した鉄筋の上端面を、鉄骨梁30の上側フランジ33,38よりも下にしても、従来と同等の性能を得ることは可能と考えられる。
【0032】
<接合方法>
次に、
図1及び
図2を用いて、上述した接合構造10の接合方法について説明する。この場合においても、最上階の下層までは、従来と同様に構成する。
【0033】
そして、下層階から立ち上げた複数の主筋21にフープ筋23を取り付け、主筋21上端に定着金物22を取り付けて、先組み鉄筋を準備する。そして、この先組み鉄筋を、柱20を構築する空間内に設置する。
【0034】
そして、柱20を構築する予定の空間であって鉄骨梁30より下方の部分を囲むように、コンクリート用の型枠を配置する。そして、仕口部の部分には、ふさぎ板17を取り付けた鉄骨梁30を配置する。そして、ふさぎ板17を仕口部のコンクリートの型枠として用いて、鉄骨梁30の下方の柱20のコンクリートと、ふさぎ板17の内部のコンクリートとを、一緒に打設する。この場合、先組み鉄筋の上端面は、コンクリート内に埋設される。なお、鉄骨梁30の下方の柱20のコンクリートを打設した後、ふさぎ板17の内部のコンクリートを打設してもよい。
【0035】
その後、スラブ15を構築する。具体的には、柱20及び鉄骨梁30の上に、デッキプレートを配置する。そして、このデッキプレートの上に、スラブ筋を配筋して、コンクリートを打設する。
【0036】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の接合構造10では、鉄筋コンクリート造の柱20を構成する定着金物22(鉄筋)の上端面を、鉄骨梁30の上側フランジ33,38より下方で、下側フランジ34,39より上となるように、鉄筋(主筋21及び定着金物22)を配置する。これにより、柱20の上方のコンクリートを、この周囲の他の領域のスラブのコンクリートと同時期に打設することができる。従って、スラブの配筋の納まりを簡略化でき、施工性及び美観を向上させることができる。また、コンクリートを打ち分けないため、従来、鉄骨梁70の上に配置していたラス型枠54をなくすことができ、施工性を更に向上させることができる。
【0037】
(2)本実施形態の接合構造10では、柱20に埋設する鉄筋の定着長さL1を、力学的に必要な定着長さ(柱20のせん断力が低下することなく、柱20の主筋21が降伏する長さ)に設定する。柱20に埋設する鉄筋の定着力が十分でない場合には、柱20の主筋21が降伏する前に主筋21がコンクリート25より抜け出す。このため、主筋21が降伏する前に、柱20のせん断力の低下が生じる。しかしながら、非特許文献1に記載の設計的に必要な定着長さよりも短くても、十分な定着力を得ることができ、主筋21が降伏するまで、せん断力の低下を抑制できる。
【0038】
(3)本実施形態の接合構造10では、鉄骨梁30のH形鋼31,35には、ふさぎ板17が溶接されている。このため、ふさぎ板17が、従来の外定着形式における定着部拘束筋64の役割を代替し、抵抗機構を形成することができる。
【0039】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態の接合構造10においては、主筋21の上端部に定着金物22を設けた。これに加えて、柱20のコンクリート25において主筋21の付着を向上させるダボ部材を更に設けてもよい。このダボ部材とは、仕口部のコンクリート25が、仕口部の鉄骨梁30から抜け出さないように、コンクリート25と鉄骨梁30との連結を補強する部材である。
【0040】
具体的には、ダボ部材として、柱20のコンクリート25内において割裂面Lw1よりウェブ37側に一部を配置させた部材を用いてもよい。ここで、割裂面Lw1とは、上側フランジ38の外端部と下側フランジ39の外端部とを結ぶ垂直面である。
【0041】
例えば、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、鉄骨梁30のH形鋼35のウェブ37にスタッド41を溶接して設ける。
また、定着金物42の円板形状の上部の一部が、割裂面Lw1よりもウェブ37側に位置させるように、定着金物42の上部を大きくしてもよい。
【0042】
更に、
図5(c)及び
図5(d)に示すように、主筋21を貫通させた係止板43を設けてもよい。この係止板43は、割裂面Lw1よりウェブ37側に位置するような大きさにする。
【0043】
また、小型フープ筋44を、主筋21を囲むように配置する。この場合、小型フープ筋44の一部が割裂面Lw1よりもウェブ37側に延在するように、小型フープ筋44を配置する。この小型フープ筋44の代わりに、主筋21を囲むスパイラル形状のフープ筋を設けてもよい。
【0044】
また、H形鋼35のウェブ37に、L字形状部材45を溶接する。このL字形状部材45の一部が、割裂面Lw1より主筋21側に位置するように、L字形状部材45を配置する。
【0045】
更に、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、ダボ部材として、ふさぎ板17に、スタッド46を溶接して設けてもよい。
また、ふさぎ板17のコンクリート25側の面に、突条部47を設けてもよい。突条部47の代わりに、ふさぎ板自体を縞鋼板に変更したり、シアキーとなる丸鋼を溶接したりしてもよい。
更に、ダボ部材として、H形鋼35の下側フランジ39及びふさぎ板17に渡る板形状部材48を設けてもよい。
【0046】
また、
図5(c)及び
図5(d)に示すように、ダボ部材として、アンカー鉄筋又はスタッドを溶接した鋼板49を、上側フランジ38とふさぎ板17に渡すように取り付けてもよい。
以上のようなダボ部材を設けることにより、コンクリート25からの主筋21の抜け出しを抑制することができる。
【0047】
・上記実施形態の接合構造10は、鉄骨梁30を構成するH形鋼31,35が直角に交差する部分について用いた。接合構造10は、最上階における接合構造であれば、鉄骨梁30が十字形状に交差した部分に限られない。例えば、T字形状やL字形状に交差した部分(仕口部)の接合構造でもよい。
【0048】
・上記実施形態において、主筋21の上端部に取り付けた定着金物22は、鉄筋を差し込むための略円筒形状の下部と円板形状の上部とを有する。主筋21に取り付けられる定着金物22は、この形状に限定されない。例えば、定着金物22の形状のように段付き筒形状を有し、この筒形状に主筋21が貫通する定着金物を用いることも可能である。また、異形鉄筋の端部に摩擦圧接したねじに、ねじ込み締め付けにより取り付ける円形定着板を用いることも可能である。これらの定着金物を用いる場合、RC柱のコンクリートに埋設する必要のある鉄筋部分(主筋21、又は定着金物22)の上端面(定着金物の上端面、又は定着金物を貫通した主筋21の上端面)の高さ方向の位置を、上側フランジ33,38と、下側フランジ34,39との間に配置すればよい。
【0049】
・上記実施形態の接合構造10では、柱20に埋設する鉄筋の定着長さL1を、力学的に必要な定着長さ(柱20のせん断力が低下することなく、柱20の主筋21が降伏する長さ)に設定する。この力学的に必要な定着長さは、
図3(b)に示す試験体T1,T2,T3の具体例では、同図に示した定着長さL1以上でよい。ここで、定着長さL1を更に短くしたい場合は、各試験体T1,T2,T3で用いたコンクリート強度を高くしたり、定着金物22の定着板(上部)の支圧面積を大きくしたりする。これにより、定着金物の上端面、又は定着金物を貫通した主筋21の上端面の高さは、鉄骨梁30の下側フランジ34,39に近づく。
【符号の説明】
【0050】
H1…高さ、L0,L1…定着長さ、T1,T2,T3…試験体、Lb1…全長、Lw1…割裂面、10,50…接合構造、15,55…スラブ、17…ふさぎ板、20,60…柱、21,61…主筋、22,42,62…定着金物、23,63…フープ筋、25,65,65a…コンクリート、30,70…鉄骨梁、31,35,71,75…H形鋼、32,37…ウェブ、33,38…上側フランジ、34,39…下側フランジ、41,46…スタッド、突条部、43…係止板,44…小型フープ筋、45…L字形状部材、47…突条部、48…板形状部材、49…鋼板、54…ラス型枠、64…定着部拘束筋。