IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社京都製作所の特許一覧

<>
  • 特開-培養装置および培養方法 図1
  • 特開-培養装置および培養方法 図2
  • 特開-培養装置および培養方法 図3
  • 特開-培養装置および培養方法 図4
  • 特開-培養装置および培養方法 図5
  • 特開-培養装置および培養方法 図6A
  • 特開-培養装置および培養方法 図6B
  • 特開-培養装置および培養方法 図7
  • 特開-培養装置および培養方法 図8A
  • 特開-培養装置および培養方法 図8B
  • 特開-培養装置および培養方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123160
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】培養装置および培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019125174
(22)【出願日】2019-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000141886
【氏名又は名称】株式会社京都製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】樋口 朗
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029AA11
4B029BB11
4B029CC01
4B029DB19
4B029DF09
4B029DF10
4B029GA01
(57)【要約】
【課題】細胞の拡大培養において、コンタミネーションの発生のリスクを低減しつつ、培養容器内の培養液を撹拌するための装置数を低減する。
【解決手段】培養装置は、培養液を収容する培養容器12と、培養容器12内の培養液CSが撹拌されるように培養容器12を駆動する培養容器駆動部と、培養液CS内の細胞の増加にともなって培養容器12に培養液CSを追加する培養液供給部とを有する。培養容器駆動部が、培養容器12内の培養液CSの量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液CSに接触される培養容器12の表面の部分が小さくなるように、培養容器12を駆動する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液内で細胞の拡大培養を行う培養装置であって、
培養液を収容する培養容器と、
前記培養容器内の培養液が撹拌されるように前記培養容器を駆動する培養容器駆動部と、
培養液内の細胞の増加にともなって前記培養容器に培養液を追加する培養液供給部と、を有し、
前記培養容器駆動部が、前記培養容器内の培養液の量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される前記培養容器の表面の部分が小さくなるように、前記培養容器を駆動する、培養装置。
【請求項2】
前記培養容器が、円形状の底面と前記底面の外周縁から立設する円筒状の内周面とを含み、
前記培養容器駆動部が、前記底面と前記内周面とに挟まれたコーナーに培養液が溜まるように前記培養容器を傾けつつ、前記コーナーに沿って培養液が往復動するように前記培養容器の傾き方向を変化させ、
培養液の量が少ないほど、培養液の往復範囲が小さくされる、請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記培養容器駆動部は、培養液の量が少ないほど、前記培養容器を大きく傾ける、請求項2に記載の培養装置。
【請求項4】
前記培養容器内の湿度を測定する湿度センサを有し、
前記培養容器駆動部が、前記湿度センサによって検出された湿度が低下すると、培養液の液面の面積が小さくなるように前記培養容器の傾き角度を大きくする、請求項2または3に記載の培養装置。
【請求項5】
前記培養容器内の培養液に溶存する酸素の量を測定する溶存酸素センサを有し、
前記培養容器駆動部が、前記溶存酸素センサによって検出された溶存酸素の量が低下すると、培養液の往復動の周期および往復範囲の少なくとも一方が増加するように前記培養容器を駆動する、請求項2から4のいずれか一項に記載の培養装置。
【請求項6】
前記培養容器駆動部が、前記培養容器内の培養液の量が所定のしきい量を超えると、前記コーナーに沿って培養液が周回するように前記培養容器の傾き方向を変化させる、請求項2から5のいずれか一項に記載の培養装置。
【請求項7】
前記培養液供給部が、前記培養容器内の1リットル未満の培養液が50リットルになるまで、細胞密度が上限値に近づくタイミングに前記培養容器に培養液を追加する、請求項1から6のいずれか一項に記載の培養装置。
【請求項8】
培養容器に収容された培養液内で細胞の拡大培養を行う細胞の培養方法であって、
前記培養容器内の培養液が撹拌されるように前記培養容器を駆動し、
培養液内の細胞の増加にともなって前記培養容器に培養液を追加し、
培養液の量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される前記培養容器の表面の部分が小さくなるように、前記培養容器を駆動する、細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液を用いて細胞の培養を行う培養装置および培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、細胞の大量培養では、例えば、1ミリリットルあたり10から10個の細胞密度の培養液を数ミリリットルの少量の細胞から培養を開始し、10から1010個の多量の細胞となるまで増殖することが行われている。まず、例えばシャーレ内で数ミリリットルの培養液を用いて細胞の培養を行う。シャーレ内の細胞密度が所定密度に達すると、シャーレ内の細胞を、複数のシャーレに分割播種して培養し、これを繰り返し、トータル数十ミリリットルの培養液量とすることで、シャーレに比べて大容量の培養容器、例えばフラスコに移し替えることが可能になる。このように容量が大きい培養容器への移し替えが何回か行われた後、細胞は、最終的には、例えば、特許文献1に記載するような、大容量の培養液を収容可能な培養バッグに移し替えられる。その培養バッグ内で、例えば50リットルの培養液を用いて、細胞が必要数に達するまで培養が行われる。このような培養は、拡大培養と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014-507959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような拡大培養においては、容量の大きい培養容器への細胞の移し替えが複数回行われるため、移し替え中にコンタミネーションが発生するリスクがある。また、複数の培養容器それぞれについて、その培養容器内の培養液を撹拌するための装置が必要となる。
【0005】
そこで、本発明は、細胞の拡大培養において、コンタミネーションの発生のリスクを低減しつつ、培養容器内の培養液を撹拌するための装置数を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的課題を解決するために、本発明の一態様によれば、
培養液内で細胞の拡大培養を行う培養装置であって、
培養液を収容する培養容器と、
前記培養容器内の培養液が撹拌されるように前記培養容器を駆動する培養容器駆動部と、
培養液内の細胞の増加にともなって前記培養容器に培養液を追加する培養液供給部と、を有し、
前記培養容器駆動部が、前記培養容器内の培養液の量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される前記培養容器の表面の部分が小さくなるように、前記培養容器を駆動する、培養装置が提供される。
【0007】
また、本発明の別態様によれば、
培養容器に収容された培養液内で細胞の拡大培養を行う細胞の培養方法であって、
前記培養容器内の培養液が撹拌されるように前記培養容器を駆動し、
培養液内の細胞の増加にともなって前記培養容器に培養液を追加し、
培養液の量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される前記培養容器の表面の部分が小さくなるように、前記培養容器を駆動する、培養方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、細胞の拡大培養において、コンタミネーションの発生のリスクを低減しつつ、培養容器内の培養液を撹拌するための装置数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る培養装置の構成を示すブロック図
図2】培養容器の一例の概略的斜視図
図3】培養装置における培養容器駆動部の概略的部分断面図
図4図3に示す培養容器駆動部一部を異なる方向から見た概略的部分断面図
図5】培養容器が傾いた状態の図3に示す培養容器駆動部の概略的部分断面図
図6A】培養液が相対的に少量であるときの培養容器の傾き状態を示す断面図
図6B】培養液が相対的に少量であるときの培養容器の傾き状態を示す上面図
図7】培養液が相対的に少量であるときの培養液の撹拌を示す図
図8A】培養液が相対的に多量であるときの培養容器の傾きの状態を示す断面図
図8B】培養液が相対的に多量であるときの培養容器の傾きの状態を示す上面図
図9】培養液が相対的に多量であるときの培養液の撹拌を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様の培養装置は、培養液内で細胞の拡大培養を行う培養装置であって、培養液を収容する培養容器と、前記培養容器内の培養液が撹拌されるように前記培養容器を駆動する培養容器駆動部と、培養液内の細胞の増加にともなって前記培養容器に培養液を追加する培養液供給部と、を有し、前記培養容器駆動部が、前記培養容器内の培養液の量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される前記培養容器の表面の部分が小さくなるように、前記培養容器を駆動する。
【0011】
この態様によれば、細胞の拡大培養において、コンタミネーションの発生のリスクを低減しつつ、培養容器内の培養液を撹拌するための装置数を低減することができる。
【0012】
例えば、前記培養容器が、円形状の底面と前記底面の外周縁から立設する円筒状の内周面とを含んでいる。この場合、前記培養容器駆動部が、前記底面と前記内周面とに挟まれたコーナーに培養液が溜まるように前記培養容器を傾けつつ、前記コーナーに沿って培養液が往復動するように前記培養容器の傾き方向を変化させ、培養液の量が少ないほど、培養液の往復範囲が小さくされる。これにより、培養液を、その蒸発を抑制しつつ撹拌することができる。
【0013】
例えば、前記培養容器駆動部は、培養液の量が少ないほど、前記培養容器を大きく傾ける。これにより、培養液の表面積が小さくなるため、培養液のその液面からの蒸発を抑制することができる。
【0014】
例えば、前記培養装置は、前記培養容器内の湿度を測定する湿度センサを有する。この場合、前記培養容器駆動部が、前記湿度センサによって検出された湿度が低下すると、培養液の液面の面積が小さくなるように前記培養容器の傾き角度を大きくする。これにより、培養液のその液面からの蒸発を抑制することができる。
【0015】
例えば、前記培養装置は、前記培養容器内の培養液に溶存する酸素の量を測定する溶存酸素センサを有する。この場合、前記培養容器駆動部が、前記溶存酸素センサによって検出された溶存酸素の量が低下すると、培養液の往復動の周期および往復範囲の少なくとも一方が増加するように前記培養容器を駆動する。これにより、培養液がより撹拌され、培養液に十分な酸素供給と均質化が行われ、細胞のダメージを抑制することができる。
【0016】
例えば、前記培養容器駆動部が、前記培養容器内の培養液の量が所定のしきい量を超えると、前記コーナーに沿って培養液が周回するように前記培養容器の傾き方向を変化させる。これにより、多量の培養液を十分に撹拌することができる。
【0017】
例えば、前記培養液供給部が、前記培養容器内の1リットル未満の培養液が50リットルになるまで、細胞密度が上限値に近づくタイミングに前記培養容器に培養液を追加してもよい。
【0018】
本発明の別態様の培養方法は、培養容器に収容された培養液内で細胞の拡大培養を行う細胞の培養方法であって、前記培養容器内の培養液が撹拌されるように前記培養容器を駆動し、培養液内の細胞の増加にともなって前記培養容器に培養液を追加し、培養液の量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される前記培養容器の表面の部分が小さくなるように、前記培養容器を駆動する。
【0019】
この態様によれば、細胞の拡大培養において、コンタミネーションの発生のリスクを低減しつつ、培養容器内の培養液を撹拌するための装置数を低減することができる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係る培養装置の構成を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、培養装置10は、細胞を含んだ培養液CSを収容する培養容器12と、培養容器12内の培養液CSを撹拌するために培養容器12を駆動する培養容器駆動部14と、培養容器12に培養液CSを供給する培養液供給部16とを有する。
【0023】
また、本実施の形態の場合、培養装置10は、培養容器12内の湿度を測定する湿度センサ18と、培養容器12内の培養液CSに溶存する酸素量を測定する溶存酸素センサ20とを有する。
【0024】
なお、培養装置10は、加湿された酸素、二酸化炭素、窒素の混合ガスを培養容器12に供給するガス供給部17を有する。
【0025】
さらに、培養装置10は、予め決められた培養プログラムに基づいて培養容器駆動部14および培養液供給部16を制御するとともに、湿度センサ18および溶存酸素センサ20それぞれの検出結果に基づいて培養容器駆動部14を制御する制御部22を有する。
【0026】
培養容器12は、培養液CSを収容する容器であって、この内部で培養液CSを用いた細胞の培養が行われる。この培養容器12では、細胞の増加にともなって、少量(1リットル未満、例えば50ミリリットル)から段階的に培養液CSを追加しながら、その培養液を用いた細胞の培養、すなわち拡大培養が行われる。そのため、培養容器12は、培養に使用される最大量(例えば50リットル)の培養液を収容して撹拌可能な容量を備える。
【0027】
図2は、培養容器の一例の形状を示す斜視図である。なお、図面においてX-Y-Z直交座標系が示されているが、これは発明の実施の形態の理解を容易にするためのものであって発明を限定するものではない。また、X軸方向およびY軸方向は水平方向であって、Z軸方向は鉛直方向である。
【0028】
図2に示すように、本実施の形態の場合、培養容器12は、円盤状の底板部12aと、底板部12aの外周縁から立設する円筒状の側壁部12bと、側壁部12bに支持される天板部12cとを備える。すなわち、培養容器12は、いわゆるたらい状である。側壁部12bの高さは、底板部12aの半径に比べて小さくされている。また、天板部12cは、着脱可能であって蓋として機能する。
【0029】
図3は、培養装置における培養容器駆動部の概略的部分断面図である。また、図4は、図3に示す培養容器駆動部の一部を異なる方向から見た概略的部分断面図である。
【0030】
図3および図4に示すように、培養装置10における培養容器駆動部(培養容器駆動装置)14は、培養容器12を保持するステージ30と、鉛直方向(Z軸方向)に延在する回転中心軸C0を中心にして回転する回転テーブル32を備えるロータリーアクチュエータ34とを備える。
【0031】
ステージ30とロータリーアクチュエータ34は、揺動ヘッド36と傾動機構38とを介して駆動連結されている。
【0032】
揺動ヘッド36は、ステージ30を支持し、水平方向(X軸方向)に延在する揺動軸C1と水平方向(Y軸方向)に延在して該揺動軸C1に直交する揺動軸C2を中心にして揺動可能に、培養容器駆動装置14に設けられている。また、揺動ヘッド36は、その下部に、傾動機構38を介してロータリーアクチュエータ34と駆動連結するための連結シャフト40を備えている。ステージ30が水平姿勢をとるとき、揺動ヘッド36の連結シャフト40は鉛直方向(Z軸方向)に延在している。
【0033】
傾動機構38は、揺動ヘッド36を介してステージ30を傾ける、すなわちステージ30上の培養容器12を水平方向に対して傾けるためのリンク機構である。そのために、傾動機構38は、ベース部42と、揺動ヘッド36に連結する揺動ヘッド連結部44と、ベース部42と揺動ヘッド連結部44とを連結するリンクアーム46とを含んでいる。
【0034】
傾動機構38のベース部42は、ロータリーアクチュエータ34の回転テーブル32に取り付けられている。そのため、ロータリーアクチュエータ34が駆動すると、ベース部42は、回転テーブル32とともに、回転中心軸C0を中心にして回転する。
【0035】
傾動機構38の揺動ヘッド連結部44は、揺動ヘッド36の連結シャフト40に、例えば軸受を介することなどにより、摺動可能に外挿されている。
【0036】
傾動機構38のリンクアーム46は、ベース部42と揺動ヘッド連結部44とを連結するように構成されている。具体的には、リンクアーム46は、揺動ヘッド連結部44に回動可能に固定された一端と、ベース部42に回動可能に固定された他端とを備える。リンクアーム46の一端の回動軸C3と他端の回転軸C4それぞれは、水平方向に延在し、互いに平行である。
【0037】
傾動機構38のベース部42が取り付けられているロータリーアクチュエータ34は、ボールねじ機構48によって鉛直方向(Z軸方向)に昇降される。
【0038】
ボールねじ機構48は、鉛直方向(Z軸方向)に延在するねじシャフト50と、ねじシャフト50に係合するナット52と、ねじシャフト50を回転させるモータ(図示せず)とを含んでいる。ナット52は、昇降ブラケット54に取り付けられている。その昇降ブラケット54にロータリーアクチュエータ34が取り付けられている。
【0039】
ボールねじ機構48が駆動すると、ナット52を介して、昇降ブラケット54とともにロータリーアクチュエータ34が昇降する。例えば、図5に示すように、ボールねじ機構48によってロータリーアクチュエータ34が上昇すると、傾動機構38を介してステージ30が傾く。具体的には、ロータリーアクチュエータ34に取り付けられた傾動機構38のベース部42が上昇し、それによりリンクアーム46が揺動ヘッド連結部44を押す。それにより、揺動ヘッド連結部44とともに揺動ヘッド36が、揺動軸C1、C2の少なくとも一方(図13では揺動軸C2)を中心として回転する。それにより、ステージ30が傾き、そのステージ30上の培養容器12も傾く。
【0040】
図5に示すように、ステージ30が傾いた状態でロータリーアクチュエータ34が駆動して回転テーブル32が回転すると、傾動機構38が回転中心軸C0を中心にして回転し、それによりステージ30の傾き方向が変化する。その結果、培養容器12内の培養液CSが撹拌され、培養液CS内の細胞が培養される。
【0041】
なお、このような培養容器駆動装置14においては、ロータリーアクチュエータ34が傾動機構38を例えば一回転させても、ステージ30自体は回転せず、その代わりにステージ30の傾き方向が一回転するだけである。すなわち、ステージ30上の培養容器12における最も低い部分が、順次、別の部分に変更されていくだけである。
【0042】
図1に戻って、本実施の形態の場合、培養容器12に培養液CSを供給する培養液供給部16は、培養液CSを収容する培養液タンク60と、培養液タンク60内の培養液CSを培養容器12内に送出する供給ポンプ62とから構成されている。供給ポンプ62は、制御部22によって制御される。
【0043】
また、培養液CSに加えて、ガス供給部17によって混合ガスが培養容器12に供給される。例えば、ガス供給部17は、酸素、二酸化炭素、窒素を混合し、その混合ガスを加湿ユニット(図示せず)によって加湿するように構成されている。その加湿された混合ガスは、雑菌の混入を防ぐフィルター(図示せず)と、培養容器12に設けられたガス導入ポート(図示せず)とを通過して培養容器12内に導入される。なお、培養容器12には、その内部のガスを排気するためのガス排気ポートが設けられ、そのガス排気ポートを通過したガスがフィルターを介して大気に排出される。また、ガス供給部17は、そのガスの供給タイミングや供給量が制御部22によって制御される。
【0044】
湿度センサ18は、培養容器12内、具体的には培養液CSに浸からないように例えば内周面12dに取り付けられ、培養容器12内の湿度を測定する。また、湿度センサ18は、測定した湿度に対応する信号を制御部22に出力する。
【0045】
溶存酸素センサ20は、培養容器12内の培養液CSに溶存する酸素の量を測定する。例えば、溶存酸素センサ20として、蛍光式の溶存酸素センサが使用される。例えば、蛍光式の溶存酸素センサは、培養容器12の底面12eに配置されて蛍光物質が塗布されたチップと、チップに対して培養容器12の外部から紫外線等を照射する光源と、チップから放射された蛍光を受光する受光素子とを備える。
【0046】
蛍光物質が光源からの紫外線等の光エネルギーを吸収すると、基底状態から励起状態に遷移する。励起した蛍光物質の分子は、通常、蛍光を放射して基底状態に戻る。しかし、このとき、励起状態の分子の周りに酸素分子が存在すると、励起エネルギーが酸素分子に奪われ、蛍光の放射強度が低下する、いわゆる酸素消光が生じる。この酸素消光を利用して、すなわち蛍光の放射強度が酸素分子濃度に反比例することを利用して、蛍光式の溶存酸素センサは、培養容器内の培養液の溶存酸素量を測定する。
【0047】
また、溶存酸素センサ20は、測定した溶存酸素量に対応する信号を制御部22に出力する。
【0048】
制御部22は、例えば、メモリやCPUが搭載された制御基板から構成される。メモリに記憶されたプログラムにしたがって動作することにより、CPUは、後述する細胞の培養に関連する動作を実行する。
【0049】
まず、制御部22は、予め決められた培養プログラムにしたがって培養液供給部16の供給ポンプ62を制御する。
【0050】
制御部22によって制御されることにより、供給ポンプ62は、培養容器12の培養液CS内の細胞の増加にともなって培養容器12に培養液CSを追加する。例えば、培養容器12内の1リットル未満(例えば200ミリリットル)の培養液CSが50リットルになるまで、供給ポンプ62は培養液CSを培養容器12に段階的に追加する。具体的には、培養容器12内の培養液CSの細胞密度が所定の上限値に近づくタイミングに培養液CSを追加するように、制御部22は供給ポンプ62を制御する。なお、所定の上限値は、細胞がダメージを受けうる細胞密度である。また、培養液の供給タイミングは、細胞や使用する培養液に基づいて、培養プログラムの情報として、予め決定されている。
【0051】
また、制御部22は、培養容器12内の培養液CSの量に基づいて、培養容器駆動装置14(そのロータリーアクチュエータ34およびボールねじ機構48)を制御する。
【0052】
制御部22によって制御されることにより、培養容器駆動装置14は、培養容器12内での培養液CSの蒸発が抑制されつつ、その培養液CSが撹拌されるように培養容器12を駆動する。具体的には、培養容器駆動装置14は、培養容器12内の培養液CSの量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される培養容器12の表面の部分が小さくなるように、培養容器12を駆動する。その培養容器12の駆動、すなわち培養液CSの撹拌について説明する。
【0053】
図6Aは、培養液が相対的に少量であるときの培養容器の傾き状態を示す断面図である。また、図6Bは、培養液が相対的に少量であるときの培養容器の傾き状態を示す上面図である。
【0054】
図6Aおよび図6Bに示すように、培養液の撹拌は、培養容器12が傾いた状態で行われる。その培養容器12の傾き角度θ(水平状態の培養容器12に対する角度)は、培養容器12内の培養液CSの量が少ないほど大きくされている。
【0055】
このように培養液CSの量が少ないほど、培養容器12を大きく傾けることにより、培養液CSの液面LSの面積の大きさが小さくなる。液面LSの面積の大きさが小さくなることにより、その液面LSからの培養液CSの蒸発を抑制することができる。
【0056】
ここで、「培養液の蒸発」について説明する。培養液CSが蒸発すると、培養液CS内の細胞密度が上昇する。培養液CSが多量(例えば1リットル以上)である場合には、培養液CSの蒸発による細胞密度の上昇量は比較的小さく、密度上昇による細胞への影響は小さい。一方、培養液CSが少量(例えば1リットル未満)である場合には、培養液CSの蒸発による細胞密度の上昇量は比較的大きく、密度上昇による細胞への影響は大きい。培養液CSが少量であるほど、その蒸発による細胞への影響は大きくなり、場合によっては細胞の一部が死滅するまたはダメージを受ける。
【0057】
したがって、培養液CSの量が少ないほど、培養容器12を大きく傾けることにより(傾き角度θを大きくすることにより)、培養液CSの蒸発による細胞への影響を低減している。
【0058】
なお、培養容器12内の培養液CSの量がその培養液CSの蒸発による細胞への影響が十分に小さい量以上である場合には、培養容器12の傾き角度θは一定であってもよい。
【0059】
培養容器12が傾くことにより、図6Bに示すように、培養液CSが、培養容器12の円形状の底面12eとその底面12eの外周縁から立設する円筒状の内周面12dとに挟まれたコーナー12fに溜まる。この状態で培養容器12の傾き方向が変化される。
【0060】
図7は、培養液が相対的に少量であるときの培養液の撹拌を示す図である。図7は、撹拌中の培養容器12を上方から見た(Z軸方向視)状態を示している。
【0061】
図7に示すように、相対的に少量な(例えば1リットル未満の)培養液CSは、培養容器12の底面12eと内周面12dとに挟まれたコーナー12fに沿って往復動される。例えば、ロータリーアクチュエータ34が90度の角度範囲で傾動機構38の正転および逆転を繰り返すことにより、培養容器12の傾き方向が90度の角度範囲で変化する。それにより、培養液CSが90度の角度範囲で往復動される。その結果、培養液CSは撹拌される。なお、図7に示すように、Z軸を基準としてY軸プラス方向を0度方向と設定した場合、例えば、0度の位置を中心として-45度(315度)の位置から+45度の位置の間で、培養液CSが往復動される。
【0062】
培養液CSの量が少ないほど、培養液CSの往復範囲(角度範囲)が小さくされる。その理由は、培養液CSの蒸発を抑制するためである。
【0063】
具体的に説明すると、撹拌によって培養液CSが培養容器12の表面上を移動すると、微少量の培養液CSが大部分(塊状)の培養液CSが通過した後の表面に残る。例えば、図7に示すように、45度の位置に培養液CSの大部分(塊)が移動した後、0度の位置に微少量の培養液CSが残る。この残された微少量の培養液CSは蒸発しやすい。したがって、この微少量の培養液CSが蒸発する前に、塊状の培養液CSが戻ってその微少量の培養液CSを吸収する。また、培養液CSの量が少ないほど、蒸発による細胞への影響が大きいため、培養液CSの往復範囲を小さくする。これにより、培養液CSが相対的に少量である場合、培養液CSの蒸発を抑制することができる。
【0064】
なお、細胞の増加にともなって培養液CSが培養容器12に追加され、培養容器12内の培養液CSの量が増加する。その増加にしたがって培養液CSの往復範囲が拡大される。これは、培養液CSの増加によってその蒸発による細胞への影響が低減される一方で、培養液CSをより撹拌する必要があるからである。
【0065】
培養液CSが相対的に少量(例えば1リットル未満)である場合、上述したように、培養液CSは、蒸発を抑制するために、培養容器12内を往復動される。これに対して、細胞の増加にともなって培養液CSが追加され、培養液CSが相対的に多量(例えば1リットル以上)である場合、培養液CSは培養容器12内を周回される。
【0066】
図8Aは、培養液が相対的に多量であるときの培養容器の傾き状態を示す断面図である。また、図8Bは、培養液が相対的に多量であるときの培養容器の傾き状態を示す上面図である。
【0067】
図8Aおよび図8Bに示すように、また図6Aおよび図6Bを参照すると、培養液CSが相対的に多量である場合、培養液CSが相対的に少量である場合に比べて、培養容器12の傾き角度θは小さい。これは、培養液CSの深さを小さくし、培養液CS全体に酸素などのガスを行き渡らせるためである。
【0068】
培養液の深さが大きくなるほど、撹拌によって培養液の液面を介して取り込まれた酸素などのガスは培養液全体に行き渡りにくい。具体的には、培養液の深部にガスは到達しにくい。その結果、培養液の深部の溶存酸素量が不足し、細胞がダメージを受けることになる可能性がある。
【0069】
培養容器12が傾くことにより、図8Bに示すように、培養液CSが、培養容器12の底面12eと内周面12dとに挟まれたコーナー12fに溜まる。この状態で培養容器12の傾き方向が変化される。
【0070】
図9は、培養液が相対的に多量であるときの培養液の撹拌を示す図である。図9は、撹拌中の培養容器12を上方から見た(Z軸方向視)状態を示している。
【0071】
相対的に多量な(例えば1リットル以上の)培養液CSは、培養容器12の底面12eと内周面12dとに挟まれたコーナー12fに沿って周回される。例えば、ロータリーアクチュエータ34が傾動機構38を一方向に回転し続けることにより、培養容器12の傾き方向が一方向に回転し続ける。それにより、培養液CSが周回される。その結果、培養液CSは撹拌される。
【0072】
このように、制御部22は、培養容器12内の培養液CSの量に基づいて、撹拌モードを変更する。例えば、培養容器12内の培養液CSの量が所定のしきい量(例えば1リットル)に比べて少量である場合には、図7に示すように、培養液CSを往復動させることによってその培養液CSを撹拌する。また、培養液CSの量が少ないほど、その培養液CSの往復範囲を小さくする。一方、培養容器12内の培養液CSの量が所定のしきい量を超えると、図9に示すように培養液CSを周回させることによってその培養液CSを撹拌する。なお、培養容器12内の培養液CSの量は、例えば、重量センサ(図示せず)によって測定された培養容器12内の培養液CSの重量から算出されてもよい。
【0073】
加えて、本実施の形態の場合、制御部22は、培養液CSの撹拌中、湿度センサ18および溶存酸素センサ20の測定結果に基づいて、培養容器駆動装置14を制御するように構成されている。
【0074】
具体的には、湿度センサ18によって検出された培養液CS内の湿度が低下すると、例えば所定の適正範囲の下限値を越えて湿度が低下すると、制御部22によって制御された培養容器駆動装置14は、培養液CSの液面LSの面積が小さくなるように、培養容器12(すなわちステージ30)の傾き角度を大きくする。
【0075】
培養容器12内の湿度が低下すると、培養液CSがその液面LSから蒸発しやすくなる。したがって、培養液CSの液面LSの面積を小さくすることにより、その蒸発を抑制することができる。
【0076】
また、溶存酸素センサによって検出された溶存酸素の量が低下すると、例えば所定の適正範囲の下限値を越えて低下すると、制御部22によって制御された培養容器駆動装置14は、培養液CSの往復動の周期および往復範囲の少なくとも一方が増加するように、培養容器12を駆動する。なお、溶存酸素センサ20(そのチップ)は、培養容器12内の培養液CSの量にかかわらず、培養液CSに接触してその溶存酸素量を検出できる培養容器12上の位置に設けられる。本実施の形態の場合、溶存酸素センサ20は、培養容器12の底面12eの外周縁部に設けられている。また、溶存酸素センサ20が溶存酸素量を測定するとき、その溶存酸素センサ20に培養液CSが接触するように、培養容器12が培養容器駆動装置14によって駆動される。この場合、溶存酸素センサ20に培養液CSを接触させてその溶存酸素量を精度よく検出するために、培養容器12の駆動速度や駆動モードが一時的に変更されてもよい、または培養容器12の駆動が一時的に停止してもよい。
【0077】
培養容器12内の培養液CSの溶存酸素の量が低下すると、培養液CS内の細胞がダメージを受ける。したがって、培養液CSの往復動の周期および往復範囲の少なくとも一方を増加させることにより、培養液CSがより撹拌され、それにより培養液CS内に多くの酸素が取り込まれる。その結果、細胞のダメージを抑制することができる。
【0078】
なお、培養容器12内の培養液CSが相対的に多量であって周回されている場合、その周回速度を増加させることにより、培養液CSがより撹拌され、それにより培養液CS内に多くの酸素を取り込むことができる。
【0079】
以上、このような実施の形態によれば、細胞の拡大培養において、コンタミネーションの発生のリスクを低減しつつ、培養容器内の培養液を撹拌するための装置数を低減することができる。
【0080】
すなわち、1つの培養容器を用い、その培養容器内の培養液の量に基づいて撹拌モードを変更することにより、コンタミネーションの発生のリスクが低減された拡大培養を行うことができる。また、このような拡大培養を、1つの装置(培養容器駆動装置)によって実現することができる。
【0081】
以上、上述の実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明の実施の形態はこれらに限らない。
【0082】
例えば、上述の実施の形態の場合、培養容器は、図2に示すように、たらい状である。しかしながら、本発明の実施の形態はこれに限らない。培養容器は、例えば、大型の三角フラスコであってもよい。
【0083】
すなわち、本発明の実施の形態に係る培養装置は、広義には、培養液内で細胞の拡大培養を行う培養装置であって、培養液を収容する培養容器と、前記培養容器内の培養液が撹拌されるように前記培養容器を駆動する培養容器駆動部と、培養液内の細胞の増加にともなって前記培養容器に培養液を追加する培養液供給部と、を有し、前記培養容器駆動部が、前記培養容器内の培養液の量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される前記培養容器の表面の部分が小さくなるように、前記培養容器を駆動する。
【0084】
また、本発明の実施の形態に係る培養方法は、広義には、培養容器に収容された培養液内で細胞の拡大培養を行う細胞の培養方法であって、前記培養容器内の培養液が撹拌されるように前記培養容器を駆動し、培養液内の細胞の増加にともなって前記培養容器に培養液を追加し、培養液の量が少ないほど、撹拌によって移動する培養液に接触される前記培養容器の表面の部分が小さくなるように、前記培養容器を駆動する。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、培養液を撹拌しつつ行う細胞培養に適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
12 培養容器
CS 培養液
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9