(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123166
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】フィラグリン増量剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/12 20060101AFI20220817BHJP
A61K 36/062 20060101ALI20220817BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20220817BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220817BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220817BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220817BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20220817BHJP
【FI】
A61K38/12
A61K36/062
A61K8/64
A61Q19/08
A61P43/00 105
A61P17/00
A61K8/99
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020301
(22)【出願日】2021-02-11
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000165251
【氏名又は名称】月桂冠株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】戸所 健彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 博樹
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AD411
4C083BB51
4C083CC03
4C083EE12
4C083EE13
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA17
4C084BA24
4C084CA05
4C084CA59
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC11
4C087CA16
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB21
(57)【要約】
【課題】デフェリフェリクリシンの新たな用途を提供する。
【解決手段】デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンが表皮細胞の分化ないしは成熟化を促進するタンパク質の生産量を増大させることが示された。従って、デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンは、化粧料などの保湿剤の有効成分として好適に使用できる。保湿剤中のデフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンの含有量は、0.001~100重量%とすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンを含むフィラグリン増量剤。
【請求項2】
デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンが、麹菌の培養物、麹菌の培養物から精製したもの、化学合成品、又は酵素合成品の形態で含まれる、請求項1に記載のフィラグリン増量剤。
【請求項3】
デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンを含むフィラグリン増量用外用組成物。
【請求項4】
デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンが、麹菌の培養物、麹菌の培養物から精製したもの、化学合成品、又は酵素合成品の形態で含まれる、請求項3に記載のフィラグリン増量用外用組成物。
【請求項5】
デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンの含有量が、外用組成物の全量に対して、1×10-8~100重量%である、請求項3又は4に記載のフィラグリン増量用外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清酒成分を含有する安全なフィラグリン増量剤、及びフィラグリン増量用外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
デフェリフェリクリシン(以下、「Dfcy」と略称することがある)は、3価鉄イオン(Fe
3+)をキレートする化合物であるシデロフォアの1種であり、下記構造を有する。
【化1】
Dfcyは様々な生物が生産するが、麹菌であるアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)が生産するDfcyは、清酒の着色物質として見出され、それが米麹由来であることが知られている。また、ごく微量の鉄イオンが存在すると麹菌はDfcyを全く生産しなくなることも知られており、一般的な米麹、清酒、麹菌液体培養物などにはほとんど含まれない。従って、このDfcyについては、それほど多くの研究はなされてはいない。
【0003】
例えば、特許文献1は、Dfcyが、皮膚のメラノーマからのメラニン生産を抑制する活性を有することから、美白用の化粧料の成分として有用であることを開示している。
また、特許文献2は、Dfcyを経口投与すると、筋肉中の鉄イオン量が増大し、筋肉の持久力が向上するため、Dfcyは、筋肉疲労を改善させるための健康食品の成分として有用であることを開示している。
また、特許文献3は、Dfcyを経口投与すると、小腸及び大腸の粘膜の炎症を改善することから、Dfcyは、炎症性腸疾患の治療薬の有効成分として有用であることを開示している。
また、特許文献4は、Dfcyを経口投与すると、血中尿酸濃度が低減することから、Dfcyは、高尿酸血症や通風の治療薬の有効成分として有用であることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-126684号
【特許文献2】特開2007-91711号
【特許文献3】特開2012-162566号
【特許文献4】特開2016-155773号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、Dfcyの新たな用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために研究を重ね、Dfcyをヒト正常表皮細胞に作用させると、この細胞におけるフィラグリンの生成量が増大することを見出した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記〔1〕~〔5〕を提供する。
〔1〕 デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンを含むフィラグリン増量剤。
〔2〕 デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンが、麹菌の培養物、麹菌の培養物から精製したもの、化学合成品、又は酵素合成品の形態で含まれる、〔1〕に記載のフィラグリン増量剤。
〔3〕 デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンを含むフィラグリン増量用外用組成物。
〔4〕 デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンが、麹菌の培養物、麹菌の培養物から精製したもの、化学合成品、又は酵素合成品の形態で含まれる、〔3〕に記載のフィラグリン増量用外用組成物。
〔5〕 デフェリフェリクリシン及び/又はフェリクリシンの含有量が、外用組成物の全量に対して、1×10-8~100重量%である、〔3〕又は〔4〕に記載のフィラグリン増量用外用組成物。
【発明の効果】
【0008】
表皮は、体外環境に対するバリア機能を有し、体外環境からの異物の侵入を防ぐと共に、体内からの水分の蒸散を防いでいる。
バリア機能は、細胞間に存在する脂質多重層構造とこれを支える表皮細胞が担っている。また、表皮細胞内で生成される天然保湿成分(NMF)は、皮膚に水分を保持するのに必須の成分である。
【0009】
ヒトの表皮は、表皮角化細胞の多数層が積層した細胞層により形成されている。この細胞層は、内側の真皮側から、さかんに増殖する小型細胞からなる基底細胞層、有棘細胞層、顆粒細胞層、角質化した扁平な細胞からなる角質細胞層(角層細胞層ともいう)からなる。基底細胞層で分裂した細胞は、体表側に向かって移動すると共に、分化(角化)していく。角質細胞層に達して表皮細胞として最終分化を完了した細胞は、体表面の被覆・保護という表皮の重要な役割を果たし、やがて体表面から剥離する。正常な表皮では、これらの増殖と分化の過程が厳密に制御され、滞りなく進行することによって恒常性が維持されている(組織培養研究 第7巻第2号 1989年, 49-58頁)。
【0010】
角質細胞は、主に、ケラチン繊維束とそれを埋めるフィラグリンからなっている。ケラチンは、等電点と分子量により分類された複数種が存在する。角質細胞には、K1、K2、K5、K10、K11、K14が発現している(組織培養研究 第7巻第2号 1989年, 49-58頁)。
フィラグリンは、フィラグリンが10~12個つながった前駆物質であって顆粒細胞層に蓄えられたプロフィラグリンが、角化と共に分解して生成し、ケラチンと重合して、ケラチンパターンと呼ばれる角質細胞の内部骨格を形成している。
フィラグリンが表皮の最上層に近づくと、フィラグリン分子中のアルギニンが、ペプチジルアルギニンデイミナーゼにより脱イミノ化されることにより、ケラチンと遊離し、タンパク質分解酵素の作用を受け易くなる。最終的にこれがアミノ酸レベルまで分解されて天然保湿成分(NMF)が生成する。フィラグリンは、カスパーゼ-14、カルパインIにより順次分解され、最終的に、ブレオマイシン水解酵素によりアミノ酸レベルに分解される(J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn. 47(3)216-220 (2013))。
また、角質細胞の細胞膜に相当するユーニファイド・セルエンベロープは、トランスグルタミナーゼの作用で、インボルクリン、ロリクリン、エラフィン、スモールプロリンリッチプロテインなどが結合した不溶化タンパク質膜と、その外側のセラミド層からなる(Drug Delivery system 22-4, 2007, 424-432)。また、ユーニファイド・セルエンベロープには、CSTA、SPRR1Bなどのタンパク質も存在する。
【0011】
また、前述した、角質細胞間に存在する脂質多重層構造として、セラミドからなるラメラ構造があり、この構造が角質層を保持し、保湿やバリア機能を担っていることが知られている。
顆粒細胞層においては、隣り合う角質細胞を結合させる役割をタイトジャンクションというタンパク質が担っており、このタンパク質が減少すると、角質のフィラグリンやセラミドが減り、結果的に保湿やバリア機能が低下することが知られている。
【0012】
角質細胞の生成及び維持に関与するこれらのタンパク質の生成量が低下すると、角質細胞に異常が生じたり、角質細胞数が少なくなったりして、表皮のバリア機能が損なわれる。そこで、一般に、保湿性や表皮のバリア機能向上作用を有する化粧品には、上記タンパク質を網羅的に生産向上させるような有効成分が配合されている。
他方、Dfcyは、ヒト表皮細胞に作用して、角質細胞の内部骨格を形成するフィラグリンの生成量を優先的に増大させる。従って、Dfcyは、表皮のバリア機能改善に寄与し、また、他の有効成分と併用することで、より効果的に表皮のバリア機能を維持し、また損なわれたバリア機能を正常化することができる。
【0013】
また、Dfcyは、清酒やもろみの成分として人類が古くから摂取してきたものであり、誤って口に入ったり、経皮吸収されたりしても問題はなく、高い安全性を有する。
【0014】
近年のウイルス感染症の増加に伴い、手指をアルコールなどの消毒剤で消毒したり、界面活性剤を含む洗浄剤で洗浄したりする機会が増えており、これが表皮細胞にダメージを与える。本発明のフィラグリン増量剤を使用すれば、このような消毒ないしは洗浄による表皮のダメージを防止し、改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)フィラグリン増量剤
本発明のフィラグリン増量剤は、デフェリフェリクリシン(Dfcy)及び/又はフェリクリシン(Fcy)を含み、特に、これらを有効成分として含むことができる。
Fcyは、Dfcyが鉄イオンをキレートしたものである。水を含む環境中にはほとんどの場合鉄が存在する。Dfcyは、製剤に配合する場合にその中に混在する鉄イオンや、皮膚上に存在する鉄イオンによってFcyになるが、Fcyになってもその活性は阻害されない。
【0016】
Dfcy及び/又はFcyは、水溶液などの液体として、或いは乾燥した粉末のような固体としてフィラグリン増量剤中に含まれることができる。
また、Dfcy及び/又はFcyは、それには限定されないが、麹菌の培養物自体、その培養物から精製したもの(完全又は不完全な精製物)、あるいは化学合成品や非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)などの酵素合成品などとしてフィラグリン増量剤中に含まれることができる。
麹菌の培養によりDfcyを得る場合、培地中の鉄イオン濃度を10μM未満にすることで、Dfcyを効率よく生成させることができる。麹菌を培養したものとして、米麹や清酒(酒税法で言う日本酒も含む)を挙げることができる。なお、麹菌培養物は多種多様な成分の混合物であり、存在が知られていない成分もある。DfcyやFcyはこれら無数の成分の一つである。
本発明のフィラグリン増量剤は、Dfcy及び/又はFcyのみからなるフィラグリン増量剤とすることもできる。
【0017】
(2)フィラグリン増量用外用組成物
本発明のフィラグリン増量用外用組成物は、デフェリフェリクリシン(Dfcy)及び/又はフェリクリシン(Fcy)を含み、特に、これらを有効成分として含むことができる。即ち、本発明のフィラグリン増量用外用組成物は、本発明のフィラグリン増量剤を含む。
【0018】
外用組成物中のDfcy及び/又はFcyの含有量は、外用組成物の全量に対して、総量で、例えば0.00000001(1×10-8)重量%(w/w%)以上、0.0000001重量%以上、0.000001重量%以上、0.00001重量%以上、0.0001重量%以上、0.001重量%以上、0.01重量%以上、0.1重量%以上、又は1重量%以上とすることができ、また、例えば99重量%以下、70重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下、0.1重量%以下、0.01重量%以下、又は0.001重量%以下とすることができる。Dfcy及び/又はFcyは、基剤や添加剤を配合しなくても単独で表皮に浸透してフィラグリン増量効果を発揮できるため、Dfcy及び/又はFcyのみからなる外用組成物、即ち、Dfcy及び/又はFcyの含有量が100重量%の外用組成物とすることもできる。
【0019】
固形物の米麹(水分を含む湿重量とする)を外用組成物に配合する場合は、この米麹の配合量は、外用組成物の全量に対して、例えば0.000001重量%以上、 0.00001重量%以上、0.0001重量%以上、0.001重量%以上、0.01重量%以上、0.1重量%以上、又は1重量%以上であればよい。
液体の清酒あるいは液体培養物を配合する場合は、清酒又は液体培養物の配合量は、外用組成物の全量に対して、例えば0.000001w/v%以上、 0.00001w/v%以上、0.0001w/v%以上、0.001w/v%以上、0.01w/v%以上、0.1w/v%以上、1w/v%以上、10重量%以上、30重量%以上、又は50重量%以上であればよい。
固体又は液体の麹菌培養物の濃縮物又は精製物を配合する場合は、この濃縮物又は精製物の配合量は、外用組成物の全量に対して、例えば0.00000001(1×10-8)重量%以上、0.0000001重量%以上、0.000001重量%以上、0.00001重量%以上、0.0001重量%以上、0.001重量%以上、0.01重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上であればよい。
また、固体又は液体の麹菌培養物の濃縮物又は精製物を他の液体に添加した希釈組成物を外用組成物に配合することもでき、その場合、希釈組成物の配合量は、希釈率によって異なるが、外用組成物の全量に対して、例えば0.001w/v%以上、0.01w/v%以上、0.1w/v%以上、1w/v%以上、3w/v%以上、10w/v%以上であればよい。
何れの場合も、外用組成物の全量に対して、例えば100重量%以下、99重量%以下、70%以下、30%以下、10%以下、3%以下、1%以下、0.1%以下、0.01%以下、0.001%以下とすることができる(「%」は、液体を配合する場合は「w/v%」を表し、固体を配合する場合は「重量%(w/w%)」を表す)。
【0020】
本発明のフィラグリン増量用外用組成物は、特に皮膚外用組成物とすることができる。
また、各種の性状の外用組成物とすることができる。外用組成物の性状としては、水溶液などの溶液;乳液、クリームなどの乳剤(O/W型、W/O型、W/O/W型、O/W/O型);ゲル;フォーム又はエアゾール;塊状、粉末状などの固形物などが挙げられる。Dfcy及びFcyは水溶性物質であるため、乳剤中では水相に存在し得る。また、溶液、乳液などの液剤を不織布などの支持体に含浸させたり、クリーム、ゲル、固形物などを支持体上に塗布したものも挙げられる。
【0021】
また、外用組成物の形態は、特に限定されず、化粧料であれば、例えば、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤のようなスキンケア用品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、アイシャドー、アイライナーのようなメイクアップ用品;洗顔剤、ボディソープ、ハンドクリーム、石鹸、クレンジング剤、シャンプー、リンスのような洗浄用品;整髪料などが挙げられる。これらは医薬部外品の薬用化粧料であってもよい。また、入浴剤や薬用入浴剤とすることもできる。
【0022】
外用組成物は、皮膚外用組成物に用いられる基剤にDfcy及び/又はFcyを配合し、さらに必要に応じて、添加剤や他の生理活性成分を配合することにより調製できる。基剤、添加剤、他の生理活性成分は、それぞれ1種又は2種以上を使用できる。
【0023】
基剤としては、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、カラギーナン、マンナン、アガロース、デキストリン、カルボキシメチルデンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、メトキシエチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルランのようなポリマー類;白色ワセリン、黄色ワセリン、パラフィン、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックスのような炭化水素類;ゲル化炭化水素(例えば、商品名プラスチベース、ブリストルマイヤーズスクイブ社製);ステアリン酸のような高級脂肪酸;セタノール、オクチルドデカノール、ステアリルアルコールのような高級アルコール;ポリエチレングリコール;プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、濃グリセリンのような多価アルコール;モノオレイン酸エステル、ステアリン酸グリセリドのような脂肪酸エステル類などが挙げられる。
【0024】
添加物は、特に制限されず、界面活性剤、増粘剤、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、溶解補助剤、無機充填剤、pH調節剤、Dfcy以外のキレート剤、清涼化剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、着色剤、香料などが挙げられる。
【0025】
Dfcy、Fcy以外の生理活性成分としては、セラミド増量剤又はセラミドそのもの、細胞間接着向上剤(タイトジャンクション(タンパク質)増量剤)、Dfcy、Fcy以外の保湿成分、抗菌剤、抗ウイルス剤、血流促進剤、収斂剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、脂肪代謝促進剤、ムコ多糖類、ムコ多糖類の分解阻害又は合成促進剤、メイラード反応阻害剤、育毛剤、抗脂漏剤などが挙げられる。
【0026】
セラミド含量増加剤としては、例えば、ヒト型セラミド1、2、3の混合物を挙げることができ、これはセラミドそのものを直接増量させるだけでなく、間接的に皮膚においてセラミド産生を促進する(小林製薬社ニュースリリース、2016年8月19日付け)。また、皮膚においてセラミド産生を促進する成分として、センキュウ抽出物(特開2010-150237号)、ユーカリ、ホップ、ショウガ、ガンビールノキ、ノイバラ、セイヨウトチノキ、ユリ、ハトムギ、ガマ、ビワ、クチナシ、オタネニンジン、サボンソウ、シラカバ、アマチャ、チョウジ、ベニバナ、ワレモコウ、イリス、及びクララから選ばれる植物又はその抽出物(特許第3813515号)、黄色バラ花発酵エキス(特許第5621330号)、椿の種子と大豆に納豆菌を添加して発酵させた液に米糠油を添加して凍結したもの(特開2012-056902号)も挙げられる。また、セラミドは、スフィンゴミエリンの加水分解により生成するため、スフィンゴミエリン又はそれを構成成分とするリポソームも皮膚においてセラミドを増量させる成分として挙げられる(特開2012-025720号)。
【0027】
角層では、角層細胞同士がコルネオデスモゾームという構造体で接着され、効果的に乾燥を防ぐことが知られているが、この構造体形成には顆粒細胞層における正常なタイトジャンクションタンパク質形成が必要であることも知られている。タイトジャンクションタンパク質は、物質透過を制御するバリア機能を有しており、クローディン-1遺伝子(CLDN1)などの発現により増加することが知られている。このタイトジャンクション増量剤として、アスチルビン、それを含む植物である黄杞(学名:Engelhardtia chrysolepis Hance)、オトギリソウ(学名:Hypericum erectum,Hypericum perforatum)が挙げられる(特開2017-075117)。
【0028】
本発明の外用組成物が化粧料である場合、1回あたりのヒト成人の皮膚面積に対する塗布量は、Dfcy及び/又はFcyの塗布量が例えば0.00001~0.5mg/cm2、好ましくは0.00012~0.45mg/cm2、より好ましくは0.005~0.25mg/cm2となる量にすればよい。また、1日の塗布回数は、例えば1~8回、好ましくは1~3回とすればよい。
【0029】
実施例の項目で示す通り、Dfcyは、表皮細胞のフィラグリンを増量させる。また、ケラチンを増量させることも示唆されている。前述した通り、フィラグリンはケラチンと共に、表皮の最外層である角質細胞を構成しており、体外環境からの異物の侵入を防ぐと共に、体内からの水分の蒸散を防ぐ役割をしている。また、フィラグリンは天然保湿成分(NMF)の原料となる。
従って、本発明のフィラグリン増量剤は、保湿剤(特に、皮膚の保湿剤)、表皮のバリア機能の維持、正常化、又は改善剤、水分蒸散抑制剤、角質層(角質細胞)の維持、正常化、又は改善剤、皮膚の保護剤(例えば消毒剤又は洗浄剤のような異物の侵入を防ぐ、皮膚の保護剤)などと捉えることもできる。即ち、本発明は、Dfcy及び/又はFcyを含む保湿剤(特に、皮膚の保湿剤)、表皮のバリア機能の維持、正常化、又は改善剤、水分蒸散抑制剤、角質層(角質細胞)の維持、正常化、又は改善、皮膚の保護剤も提供する。
また、本発明のフィラグリン増量剤は、中でもフィラグリンの生産促進剤とすることができる。また、表皮のフィラグリン増量剤、中でも表皮のフィラグリンの生産促進剤とすることができる。
また、このフィラグリン増量剤は、他の皮膚タンパク質増量効果を有しても良く、例えばケラチン増量剤の機能を有しても良い。ケラチンをコードする遺伝子は幾つか存在を知られているが、ケラチン14遺伝子(KRT14)、ケラチン1遺伝子(KRT1)の発現量を増加させるものが好ましい。
【0030】
同様に、本発明は、Dfcy及び/又はFcyを含む保湿用外用組成物(特に、皮膚の保湿用外用組成物)、表皮のバリア機能の維持、正常化、又は改善用外用組成物、水分蒸散抑制用外用組成物、表皮のターンオーバーの維持、正常化、又は改善用外用組成物も提供する。
また、本発明のフィラグリン増量用外用組成物は、中でもフィラグリンの生産促進用外用組成物とすることができる。また、表皮のフィラグリン増量用外用組成物、中でも表皮のフィラグリンの生産促進用外用組成物とすることができる。
また、このフィラグリン増量用外用組成物は、他の皮膚タンパク質増量効果を有しても良く、例えばケラチン増量用外用組成物の機能を有しても良い。中でも、ケラチン14遺伝子(KRT14)、ケラチン1遺伝子(KRT1)の発現量を増加させるものが好ましい。
【実施例0031】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1(Dfcyの調製)
アスペルギルス オリゼを、Czapek-Dox最少培地を用いて、30℃で7日間振とう培養した。この培地の組成は、2重量% グルコース、0.3重量% NaNO3、0.2重量% KCl、0.1重量% K2HPO4、0.05重量% MgSO4、pH6.0とした。培養終了後、ろ過により菌体と培養上清を分離した。培養上清から、限外ろ過膜を用いて分子量5000以上のタンパク質等の高分子を除去した後、ろ液を疎水性カラムクロマトグラフィー(カラム:アンバーライト(登録商標)XAD、オルガノ社)に供した。そして、100%エタノールで溶出された溶出液を、Dfcy含有画分として回収した。
【0032】
この溶出液にDfcyが含まれていることは、以下の方法により確認した。Fcyは、波長430nmに極大吸収を示す(Agr.Biol.Chem., Vol.31, No.12, 1482頁)。そこで、この溶出液と、この溶出液に塩化第二鉄溶液を添加したものとを、それぞれ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して分析した。この結果、塩化第二鉄溶液を添加した場合にのみ、波長430nmに極大吸収を示したことから、前記操作により、Dfcyを高含有する画分が得られたことが分かった。Dfcyの純度は77.3%であった。
この溶出液を凍結乾燥して、Dfcyの粉末を得た。
【0033】
実施例2(フィラグリン生産に対するDfcyの作用)
実施例1で調製したDfcyを用いて、角質細胞の構造維持に関与する代表的なタンパク質であるフィラグリンの生産量に及ぼすDfcyの作用を、ウェスタンブロッティング法で評価した。
正常ヒト表皮細胞を、HuMedia-KG2培地を入れた24ウェルプレートに、6.0×104cells/ウェルの細胞密度で播種した。37℃、5%CO2存在下で、2日間培養後、ウシ脳下垂体抽出物末含有HuMedia-KG2培地の600μlと交換した。さらに同条件で2日間培養後、被験試料(Dfcy)をウシ脳下垂体抽出物末含有HuMedia-KG2培地に溶解させフィルター(孔径0.45μm)滅菌した溶液500μlと交換した。同条件で72時間培養した後、細胞をPBS(-)で洗浄し、0.5%Triiton X-100(2mmol/L PMSF含有)を300μL加え、ULTRA SONIC HOMOGNIZER UH-50を用いて細胞を破砕した。細胞溶解液について、BCA(商標)Protein Assayを用いてタンパク質量を測定した。
ニトロセルロース膜に細胞溶解液をブロッティングし、乾燥後、ニトロセルロース膜を1%BSA含有PBS(―)にてブロッキングした。1%Tween含有PBS(-)にて洗浄し、一次抗体としてFilaggrin(AE21):sc-80609 antibodyをニトロセルロース膜上に添加した。4℃で1晩反応させた後、1%Tween含有PBS(-)にて洗浄し、その後、2次抗体としてHRP標識Anti-Mouse IgG(ヒストファインシンプルステインMAX-PO(M))をニトロセルロース膜上に添加し、抗原抗体反応を室温で3時間行った。1%Tween含有PBS(-)にて洗浄し、Limi-Light Western Blotting Substrateによる発光をライトキャプチャーにて検出した。得られたドットの輝度は、CS Analyzer Version 2.0を数値化した。
フィラグリン量は、被験試料未処理コントロールの輝度平均を100としたIndex(%)にて表した。各測定値は、Student t検定を用いて有意差検定を行い、コントロールとの差異を評価した。
各試料の評価は、それぞれ独立した4ウェルで行った(n=4に相当)。
【0034】
フィラグリン及び細胞由来の総タンパク質の生産量の結果を、表1に示す。
【表1】
【0035】
フィラグリン生産量は、Dfcyの終濃度0.0001重量%で増加傾向を示し、Dfcyの終濃度0.0004重量%で有意に増大した。また、総タンパク質量は、Dfcyの終濃度0.0001重量%及び0.0004重量%で有意に増大した。Dfcyの終濃度0.0004重量%は、総タンパク質量が増えていることから、細胞傷害を示さない濃度である。
なお、各ウェルは底面積1.9cm2、液量600μLであり、フィラグリン生産量を有意に増大させたDfcy濃度が0.0004重量%であることから、Dfcyの約0.00012mgを皮膚の1cm2に塗布すればフィラグリン増量効果があると言える。
【0036】
実施例3(各種遺伝子発現に対する作用)
実施例1で調製したDfcyの各種遺伝子発現に対する作用を、正常ヒト表皮細胞を用いたDNAマイクロアレイ法で評価した。
正常ヒト表皮細胞を、HuMedia-KG2培地を入れた12ウェルプレートに、2.5×105 cells/ウェルの細胞密度(8割コンフルエント)で播種した。37℃、5%CO2存在下で、24時間培養後、被験試料(終濃度0.1重量%又は0.01重量%となるDfcy)を含有するHuMedia-KG2培地の1mLと交換した。同条件で24時間培養後、細胞をQIAzol (商品名)reagentに浸漬し、溶解した。溶解液からmiRNAeasy(商品名)Mini kit(QIAGEN)を用いて、生成したRNAを回収した。回収したRNAを三菱ケミカル社に送付し、mRNA発現解析チップ(DNAチップジェノパール(商品名)NDRカスタムチップ)を用いて、DNAマイクロアレイを実施した。
また、被験試料を含有するHuMedia-KG2培地に代えて、Dfcyを含有しないHuMedia-KG2培地を添加したコントロールについても同様の操作を行った。
RNA回収及びDNAマイクロアレイ解析からなる一連の操作を、それぞれ2回行い(n=2)、平均値を算出した。
本解析では、フィラグリン遺伝子(FLG)、ケラチン遺伝子(KRT1、5、10、14)、セラミド合成酵素遺伝子(CERS6)、タイトジャンクション遺伝子(CLDN1)を含む、表皮細胞の機能や構造維持に関与する遺伝子の発現を測定した。
【0037】
コントロールより発現量が増えた遺伝子の発現量の結果を表2に示す。表2中の数値は、コントロールを1としたときの相対値である。
【表2】
【0038】
Dfcy終濃度0.1重量%において、フィラグリン遺伝子(FLG)の発現量は大きく増加した。皮膚細胞においてフィラグリンはケラチン繊維と共に存在することが知られているが、ケラチン14遺伝子(KRT14)とケラチン1遺伝子(KRT1)が、フィラグリン遺伝子と同様に、顕著に増加した。Dfcy及びDfcyがこれらケラチン(タンパク質)を増量させる可能性が示された。また、皮膚バリアに関与する主要なセラミド合成系遺伝子であるセラミド合成酵素遺伝子(CERS6)と、細胞と細胞の間をシールするタイトジャンクション遺伝子(CLDN1)は増加しなかった。
この結果から、本発明であるフィラグリン増量剤は、セラミド合成やタイトジャンクション強化とは別経路で、皮膚の保湿やバリア機能を向上させる可能性が示された。なお、Dfcy終濃度0.01重量%についても試験を行ったが、上記各遺伝子の発現量の増減はDfcy終濃度0.1重量%ほど顕著には観察されなかった。Dfcyが、用量依存的にフィラグリン遺伝子(FLG)、ケラチン14遺伝子(KRT14)、及びケラチン1遺伝子(KRT1)の発現を増大させたことが分かる。
Dfcy及び/Fcyは、ヒト表皮細胞に作用して皮膚の保湿に関与するフィラグリンの生産を増大させるため、化粧料などの外用組成物の有効成分として好適に使用できる。