(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123168
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】冷却構造体および冷却構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20220817BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20220817BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20220817BHJP
B22D 18/04 20060101ALI20220817BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B22D17/20 F
B23K1/00 330Z
B22D17/22 D
B22D18/04 Q
B22C9/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020304
(22)【出願日】2021-02-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005256
【氏名又は名称】株式会社アーレスティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】成田 匠吾
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093NB05
(57)【要約】
【課題】第2の流体の漏れを低減できると共に、冷却能力を向上できる冷却構造体および冷却構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】冷却構造体は、第1面と第1面の反対側の第2面と第1面から第2面まで貫通する孔とを有する第1部材と、孔の周に沿って孔の径方向外側に配置される湾曲部を備えるパイプと、第1部材とパイプのうち少なくとも湾曲部とを接合するろう材と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面から前記第2面まで貫通する孔と、を備える第1部材と、
前記孔の周に沿って前記孔の径方向外側に配置される湾曲部を備えるパイプと、
前記第1部材と前記パイプのうち少なくとも前記湾曲部とを接合するろう材と、を備える冷却構造体。
【請求項2】
前記第1部材との間で前記湾曲部を挟み込む挟持部を有する第2部材を備え、
前記ろう材は、さらに前記第2部材と前記パイプとのうち少なくとも前記挟持部と前記湾曲部とを接合する請求項1記載の冷却構造体。
【請求項3】
前記第1部材と前記第2部材との間において、前記第1部材と前記第2部材と前記ろう材とに接する合金を備え、
前記合金は前記ろう材の成分を含み、前記合金の融点は前記ろう材の融点よりも高い請求項2記載の冷却構造体。
【請求項4】
前記パイプは、前記湾曲部につながる延長部を備え、
前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方は、前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方の外面に開口し前記延長部が配置される貫通孔を備える請求項2又は3に記載の冷却構造体。
【請求項5】
第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面から前記第2面まで貫通する孔と、を備える第1部材と、
前記孔の周に沿って前記孔の径方向外側に配置される湾曲部を備えるパイプと、を備える冷却構造体の製造方法であって、
前記第1部材に前記パイプを配置した組立体を作る組立工程と、
前記組立体を加熱する加熱工程と、を備え、
前記組立体は、前記組立体の外表面から凹むと共に前記パイプの一部が内側に配置される凹部と、前記第1部材と前記パイプの外周面との間の間隙であって前記凹部につながる間隙と、前記凹部と前記一部の外周面との間の空間に配置されるろう材と、を備え、
前記空間の体積は前記間隙の体積よりも大きく、
前記加熱工程において、溶けた前記ろう材が前記空間から流下して前記間隙を満たす冷却構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却構造体および冷却構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1の流体が通過する孔を有し、第1の流体を冷却する第2の流体が流れる冷却通路を有する冷却構造体において、構造体の外表面から直線状にあけた複数の穴をつなぎ、穴の開口を止め栓およびシールで塞いだ冷却通路を孔の周囲に設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記技術では、シールの経年劣化や穴同士のつなぎ目に生じる応力腐食割れにより第2の流体が漏れるおそれがある。また、直線状の穴をつないだ冷却通路と第1の流体が通過する孔との間に、孔と冷却通路との間の距離が長い部分と距離が短い部分ができ、距離が長い部分は、距離が短い部分に比べて冷却能力が低くなるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、第2の流体の漏れを低減できると共に、冷却能力を向上できる冷却構造体および冷却構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の冷却構造体は、第1面と第1面の反対側の第2面と第1面から第2面まで貫通する孔とを有する第1部材と、孔の周に沿って孔の径方向外側に配置される湾曲部を備えるパイプと、第1部材とパイプのうち少なくとも湾曲部とを接合するろう材と、を備える。
【0007】
第1面と第1面の反対側の第2面と第1面から第2面まで貫通する孔とを備える第1部材と、孔の周に沿って孔の径方向外側に配置される湾曲部を備えるパイプと、を備える冷却構造体の製造方法は、第1部材にパイプを配置した組立体を作る組立工程と、組立体を加熱する加熱工程と、を備える。組立体は、組立体の外表面から凹むと共にパイプの一部が内側に配置される凹部と、第1部材とパイプの外周面との間の間隙であって凹部に繋がる間隙と、凹部とパイプの一部の外周面との間の空間に配置される固体のろう材と、を備える。空間の体積は間隙の体積よりも大きく、加熱工程において、溶けたろう材が空間から流下して間隙を満たす。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の冷却構造体によれば、パイプ内に第2の流体を通すことができるから、第2の流体の漏れを低減できる。第1部材の孔の周に沿ってパイプの湾曲部が配置されているから、孔と湾曲部との間の径方向の距離をほぼ等しくできる。少なくとも湾曲部と第1部材とがろう材によって接合されるから、ろう材によって湾曲部と第1部材との間の熱伝導性を確保し、冷却能力を向上できる。
【0009】
請求項2記載の冷却構造体によれば、第2部材とパイプとのうち少なくとも挟持部と湾曲部とがろう材によって接合されるから、請求項1の効果に加え、第2部材とパイプとの間の熱伝導性を確保できる。
【0010】
請求項3記載の冷却構造体によれば、ろう材の融点よりも融点が高く、ろう材の成分を含む合金が、第1部材、第2部材およびろう材に接している。ろう材を溶かして第1部材と第2部材とパイプとを接合するときに、合金の凝固の後にろう材が凝固するので、凝固した合金によって、溶けたろう材の流動が止まる。請求項2の効果に加え、第1部材と第2部材との間からの、溶けたろう材の漏れを低減できる。
【0011】
請求項4記載の冷却構造体によれば、第1部材および第2部材の少なくとも一方に貫通孔が設けられ、湾曲部につながるパイプの延長部が、貫通孔に配置されている。請求項2又は3の効果に加え、第1部材および第2部材にパイプが配置し易くなる。
【0012】
請求項5記載の冷却構造体の製造方法によれば、第1部材にパイプを配置した組立体が組立工程において作られる。組立体の凹部とパイプの一部との間の空間の体積が、第1部材とパイプとの間の間隙の体積よりも大きいから、空間に十分量のろう材が配置された組立体を加熱すると、溶けたろう材が流下して間隙が満たされ、ろう材がパイプを第1部材に接合した冷却構造体を安定に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施の形態における冷却構造体が配置された金型の模式的な断面図である。
【
図2】
図1のII-II線における冷却構造体の断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線における冷却構造体の断面図である。
【
図5】
図4のV-V線における組立体の断面図である。
【
図6】第2実施の形態における冷却構造体の断面図である。
【
図7】
図6のVII-VII線における冷却構造体の断面図である。
【
図8】第3実施の形態における冷却構造体の断面図である。
【
図9】
図8のIX-IX線における冷却構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は冷却構造体20が配置された金型1の模式的な断面図である。
図1では、冷却構造体20に第2の流体を供給および排出する通路の図示は省略されている。
【0015】
金型1はダイカスト鋳造用の金型である。可動型2は、おも型4、及び、おも型4の内側に配置された入れ子6を備え、金型1を開閉するときに固定型3に対して動作する。固定型3は、おも型5、及び、おも型5の内側に配置された入れ子7を備える。入れ子6,7は、アルミニウム合金などの溶湯が流し込まれて成形品を得るキャビティ8を形成する。固定型3に配置されたスリーブ9の内側をプランジャ10が摺動してキャビティ8に溶湯を押し込む。スリーブ9のキャビティ8側の先端に冷却構造体20が配置されている。
【0016】
冷却構造体20には、第1部材30(後述する)の第1面30aから第2面30bまで突き抜けた、断面が円形の孔34が設けられている。プランジャ10に押し込まれた溶湯(第1の流体)は、孔34を通って、可動型2に配置された分流子11に当たりキャビティ8に導かれる。冷却構造体20は、本実施形態では、鋳込み口ブッシュやスプルーブッシュと呼ばれる部品である。
【0017】
図2及び
図3を参照して第1実施の形態における冷却構造体20について説明する。
図2は
図1のII-II線における冷却構造体20の断面図である。
図2では、図を簡略化するため、パイプ50の断面の図示が省略されている(
図4におけるパイプ50、
図6から
図9におけるパイプ90,130においても同じ)。冷却構造体20は、第1部材30、第2部材40及びパイプ50がろう材21によって接合された一体物である。
【0018】
第1部材30は、第1面30a(
図3参照)から第1面30aの反対側の第2面30bまで貫通する孔34を備える円筒状の部材である。第1面30a及び第2面30bは第1部材30の外周面39につながる。第1部材30の外周面39には、互いに対向する第3分割面33,33がつながっている。第3分割面33,33をつなぐ第1分割面31は、孔34の周の半分に沿って延びる曲面である。第2分割面32,32(
図2参照)は、第3分割面33の周方向の端と外周面39とをつなぐ平面である。第3分割面33、第1面30a及び第2面30bは互いに平行である。
【0019】
第1分割面31には、第1分割面31の周方向の両端まで延びる、断面が半円の溝35が設けられている。第1部材30には、溝35の周方向の端にそれぞれつながり、第2分割面32から外周面39まで突き抜ける貫通孔36,36が設けられている。貫通孔36の半径は溝35の半径に等しい。第1部材30の外周面39に開口する凹部37は、貫通孔36につながっている。凹部37は、第1部材30の外周面39に開口部38を設ける。凹部37の半径は貫通孔36の半径よりも大きい。
【0020】
第2部材40は、断面が略矩形の湾曲した棒状の部材である。第2部材40は、円弧状に延びる第1分割面41と、第1分割面41の反対側の円弧状の外面44と、を有する。第1分割面41には、第1分割面41の両端まで延びる、断面が半円の溝45が設けられている。第2部材40の第1分割面41と第1部材30の第1分割面31とが対面して第1部材30に第2部材40が配置され、溝35,45がつながる。第2部材40の第1分割面41と外面44とをつなぐ第2分割面42及び第3分割面43は、第1部材30の第2分割面32及び第3分割面33にそれぞれ対面する。
【0021】
第1部材30や第2部材40の材料は、例えば耐熱性の高いSKD6及びSKD61などの熱間工具鋼やセラミック等から選択される。第1部材30は、孔34の表面に酸化被膜を形成したり窒化などの表面処理を施したりして疲労強度を向上させても良い。第1部材30の材料が鋼であれば、加熱、冷却を行うことで主にマルテンサイトが生成され硬さが上昇する。さらに焼き戻しを行って硬さと靭性とのバランスを調整することで高温強度を向上することができる。
【0022】
第2部材40の第2分割面42及び第3分割面43には、ろう材21の材料と異なる材料の金属膜46が設けられている。金属膜46の融点は、ろう材21の融点よりも高いものが好ましい。金属膜46の厚さは、例えば20±10μmに設定される。本実施形態では金属膜46の材料は銅である。金属膜46は、めっき、溶射、蒸着などの手段によって設けられる。本実施の形態では第2分割面42及び第3分割面43に金属膜46が設けられているが、第2部材40の他の面に設けても良い。
【0023】
パイプ50は、水などの第2の流体(冷却剤)が通る部材である。パイプ50の半径Rは、第1部材30の溝35及び貫通孔36、第2部材40の溝45の半径よりもわずかに小さい。パイプ50は、曲線状の湾曲部51と、湾曲部51の両端につながる直線状の延長部52,52と、を備える。湾曲部51は、第1部材30及び第2部材40の溝35,45の中に配置される。延長部52は、貫通孔36の中に配置され開口部38から端が突出する。溝45は、第1部材30の溝35との間で湾曲部51を挟む挟持部である。
【0024】
パイプ50の材料は、例えば銅、銅合金やステンレスが挙げられる。銅および銅合金は耐食性が高いので、第2の流体による腐食を低減できる。ステンレスは表面に不働態被膜を形成するので、第2の流体による腐食を低減できる。セラミック製のパイプ50を採用することは可能である。
【0025】
冷却構造体20は、第1部材30の第1分割面31と第2部材40の第1分割面41がろう材21によって接合される。第2分割面32,42及び第3分割面33,43は合金27(後述する)によって接合される。パイプ50の湾曲部51は、ろう材21によって溝35,45と接合される。パイプ50の延長部52は、貫通孔36の中に配置されている部分が、ろう材21によって貫通孔36と接合される。
【0026】
ろう材21の材料は、ニッケルろうに分類される種類である。ろう材21は銀ろうなどの他のろう材を用いることができる。ろう材21(
図3参照)と金属膜46との間の境界に合金27が設けられている。合金27の融点は、ろう材21の融点よりも高く、金属膜46の融点より低い。銅製の金属膜46及びニッケルろう製のろう材21は耐食性が高いので、金属膜46やろう材21が介在する部分の耐食性を確保できる。
【0027】
冷却構造体20は、第2の流体をパイプ50内に通すことができるから、第2の流体の漏れを低減できる。第1部材30の孔34の周に沿ってパイプ50の湾曲部51が配置されているから、孔34と湾曲部51との間の径方向の距離をほぼ等しくできる。少なくとも湾曲部51と第1部材30とがろう材21によって接合されるから、ろう材21によって湾曲部51と第1部材30との間の熱伝導性を確保し、冷却能力を向上できる。
【0028】
冷却構造体20は、第2分割面32,42及び第3分割面33,43が合金27によって金属膜46を介して接合される。金属膜46の材料は熱伝導性に優れる銅なので、第1部材30から第2部材40の間の熱伝導性を損ない難くできる。従って第1の流体の熱を第1部材30から第2部材40に移動させ易くできる。
【0029】
図4及び
図5を参照して冷却構造体20の製造方法について説明する。
図4は組立体140の断面図である。
図5は
図4のV-V線における組立体140の断面図である。冷却構造体20は、組立体140を作る組立工程を経て、組立体140を加熱して製造される。
【0030】
組立工程において、パイプ50は、第1部材30の貫通孔36及び凹部37の中に延長部52が入り、第1部材30の第1分割面31の溝35の中に湾曲部51の半分が入り、第2分割面42及び第3分割面43に金属膜46が設けられた第2部材40の第1分割面41の溝45の中に湾曲部51の残りの半分が入る。第2分割面42の金属膜46は、第1部材30の第2分割面31に接する。第1部材30と第2部材40との間にパイプ50を挟んだ後、ねじやクランプを利用した固定具によって、第1部材30と第2部材40とが離れないように固定する。
【0031】
固定された第1部材30と第2部材40との間には、第1部材30の第1分割面31と第2部材40の第1分割面41との間の第1間隙22、第1部材30の第3分割面33と第2部材40の第3分割面43との間の第2間隙23、及び、第1部材30の第1分割面31と第3分割面33とを連絡する隅と、第2部材40の第1分割面41と第3分割面43とを連絡する面取りされた角と、の間の第5間隙26を有する。固定された第1部材30及び第2部材40とパイプ50との間には、溝35,45とパイプ50との間の第3間隙24、及び、貫通孔36とパイプ50との間の第4間隙25を有する。第1間隙22、第2間隙23、第3間隙24、第4間隙25及び第5間隙26はつながっている。
【0032】
第2間隙23の大きさは、第3間隙24の大きさよりも十分に小さく設定することが望ましい。第3間隙24は、パイプ50の外周の半分以上の範囲において0.4mm以下に設定することが望ましい。なお、第1分割面31と第1分割面41とが接するように固定したり、溝35,45と湾曲部51の一部とが接するように固定したりしても良い。
【0033】
次に、開口部38からろう材141を入れて、凹部37と延長部52の外周面との間の空間28にろう材141を配置する。ろう材141は、線状、粉体もしくは粉体を固めた固形物、ペースト状のものが用いられる。空間28の体積は、少なくとも第1間隙22、第3間隙24、第4間隙25及び第5間隙26の体積の総和よりも大きい。以上のようにして、第1部材30、パイプ50及び第2部材40を固定し、空間28にろう材141を配置した組立体140が作られる。
【0034】
次いで、加熱工程において、組立体140は、空間28に配置されたろう材141が空間28から落下しない向きのまま真空熱処理炉において加熱される。加熱工程における加熱温度は、少なくともろう材141が融解する温度よりも高く、金属膜46が融解する温度よりも低く設定する。
【0035】
加熱工程において、ろう材141は融点を超えた温度で溶け始める。ろう材141は溶けてろう材141よりも流動性の高いろう材21となる。貫通孔36は分割面が存在しないから、ろう材21が貫通孔36の外に漏れ出さないようにできる。貫通孔36は溝35,45と連続しているから、ろう材21が貫通孔36から溝35,45に流下する。流下したろう材21は、第1間隙22、第3間隙24、第4間隙25及び第5間隙26を満たす。空間28の体積は、少なくとも第1間隙22、第3間隙24、第4間隙25及び第5間隙26の体積の総和よりも大きいので、第1間隙22、第3間隙24、第4間隙25及び第5間隙26を満たすのに十分な量のろう材141を空間28に配置できる。
【0036】
第1間隙22、第3間隙24、第4間隙25及び第5間隙26に満たされたろう材21と溶けずに残っている金属膜46とが、第2間隙23と、第2分割面42の溝45及び第1分割面41と接する縁と、第5間隙26の一部とで接して、ろう材21の成分を含む合金27が作られる。合金27は第2間隙23、第2分割面42の溝45及び第1分割面41と接する縁、及び、第5間隙26において第1部材30、第2部材40及びろう材21と接している。第2間隙23と第5間隙26とに形成される合金27はつながっている。
【0037】
合金27の融点は、ろう材21の融点よりも高く、加熱工程における加熱温度よりも低いから、加熱に合金27は凝固する。凝固した合金27によって第2間隙23及び第2分割面32と第2分割面42との間のわずかな隙間は閉塞状態となる。その結果、加熱工程においてろう材21の流動を止めるから、第1部材30と第2部材40との間からのろう材21の漏れを低減できる。金属膜46とろう材21とが合金化する組み合わせは銅とニッケルろうに限定されない。合金27の融点がろう材21の融点よりも高い組み合わせであれば用いることができる。
【0038】
第1部材30及び第2部材40が鋼であれば、ろう材141を溶かすために組立体140を加熱するときに、第1部材30及び第2部材40の焼入れを行うのが望ましい。この場合、第1部材30及び第2部材40の焼入れと別に、ろう付けのための工程を設けなくても済む。
【0039】
パイプ50が銅製であって、ろう材21がニッケルろうであるから、パイプ50とろう材21とが接する部分では、加熱されてパイプ50のろう材21に対する濡れ性が向上する。ろう材21がパイプ50の表面に付着しやすくなるので、ろう材21をパイプ50の表面に行き渡らせやすくできる。
【0040】
組立体140は、窒素やアルゴンガスなどの不活性ガスなどによって冷却される。このとき第1間隙22、第3間隙24、第4間隙25及び第5間隙26に満たされたろう材21は凝固して、第1部材30、第2部材40及びパイプ50を接合する。
【0041】
図6及び
図7を参照して第2実施の形態における冷却構造体60について説明する。第1実施の形態では、第1部材30及び第2部材40が径方向に分割される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、第1部材70及び第2部材80が軸方向に分割される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0042】
図6は第2実施の形態における冷却構造体60の断面図である。
図7は
図6のVII-VII線における冷却構造体60の断面図である。冷却構造体60は、第1部材70、第2部材80及びパイプ90がろう材21によって接合される一体物である。
【0043】
第1部材70は、第1面30aにつながり互いに対向する第2分割面72,72が設けられている。第2分割面72,72は、直径が異なり中心が同じ円筒面である。第2分割面72,72をつなぐ第1分割面71は、孔34の全周に沿って延びる環状の平面である。
【0044】
第1分割面71には、第1分割面71の周の半分以上まで延びる、断面が半円の溝73が設けられている。第1部材70には、溝73の周方向の端にそれぞれつながり、第1分割面71から第2面30bまで突き抜ける貫通孔74,74が設けられている。貫通孔74の半径は溝73の半径に等しい。第1部材70の第2面30bに開口する凹部75は、貫通孔74につながっている。凹部75は、第2面30bに開口部76を設ける。凹部75の半径は貫通孔74の半径よりも大きい。第1部材70は第1面30aと第2面30bに外周面77がつながる。
【0045】
第2部材80は、第1分割面81を底面とし、第1分割面81の反対側の外面83を有し、第1分割面81と外面83とをつなぐ第2分割面82,82を側面とする円筒状の部材である。第1分割面81には、第1分割面81の周の半分以上まで延びる、断面が半円の溝84が設けられている。
【0046】
パイプ90は、溝73、84に配置される湾曲部91と、湾曲部91の両端につながる延長部92と、を備える。延長部92は、貫通孔74の中に配置され開口部76から外側に突出する。パイプ90の半径は、第1部材70の溝73及び貫通孔74、第2部材80の溝84の半径よりもわずかに小さい。溝84は、第1部材70の溝73との間で、湾曲部91を挟む挟持部である。
【0047】
冷却構造体60は、第1部材70の第1分割面71と第2部材80の第1分割面81とが、ろう材21によって接合される。第2分割面72,82の間は合金27によって金属膜46を介して接合される。湾曲部91は、ろう材21によって溝73,84の間に接合される。延長部92は、貫通孔74の中に配置されている部分が、ろう材21によって貫通孔74と接合される。合金27は第1部材70、第2部材80及びろう材21に接する。
【0048】
第1部材70、第2部材80及びパイプ90の材料、表面処理などの方法は、第1実施の形態における第1部材30、第2部材40及びパイプ50の材料、表面処理などの方法と同様である。第2実施の形態によれば、第1実施の形態と同様に第1部材70、パイプ90及び第2部材80がろう材21、金属膜46及び合金27によってそれぞれ接合されているから、第1実施の形態と同様の効果を実現できる。
【0049】
さらに第2実施の形態によれば、パイプ50の延長部92は、第2面30bから突出しているから、第2の流体を供給、排出するための経路を孔34に対して平行に設けることができる。
【0050】
図8及び
図9を参照して第3実施の形態における冷却構造体100について説明する。第2実施の形態では、パイプ90の延長部92が、第1部材70の第2面30bから突き出す場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、パイプ130の延長部132が、第1部材110の外周面119から突き出す場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図8は第3実施の形態における冷却構造体100の断面図である。
図8は、軸線Oに直交する平面であってパイプ130の中心を通る平面で切断した断面図である。
図9は
図8のIX-IX線における冷却構造体100の断面図である。冷却構造体100は、第1部材110、第2部材120及びパイプ130がろう材21によって接合される一体物である。
【0051】
第1部材110は、小径部117と、小径部117の軸方向に隣接する大径部118とを有する円筒状の部材である。第1部材110は、第2面30bにつながる円筒面である第2分割面112、及び、第2分割面112につながる第1分割面111が設けられている。第1分割面111は、大径部118の外周面119につながり孔34の周に沿って延びる環状の平面である。
【0052】
第1分割面111には、第1分割面111の周の半分以上まで延びる、断面が半円の第1溝113が設けられている。第1分割面111には、第1溝113の周方向の端にそれぞれつながり、外周面119まで延びる第2溝114が設けられている。第2溝114の半径は第1溝113の半径に等しい。第1部材110の外周面119に開口する凹部115は、第2溝114につながっている。凹部115は、外周面119に開口部116を設ける。凹部115の半径は第2溝114の半径よりも大きい。
【0053】
第2部材120は、第1分割面121と第1分割面121の反対側の外面123とをつなぐ第2分割面122を有する円筒状の部材である。第2分割面122は円筒面であり、第1分割面121には、第1分割面121の周の半分以上まで延びる、断面が半円の第1溝124が設けられている。第1分割面121には、第1溝124の周方向の端にそれぞれつながる第2溝125が設けられている。第2溝125の半径は第1溝124の半径に等しい。第2溝125には凹部126がつながっている。凹部126の半径は第2溝125の半径よりも大きい。
【0054】
パイプ130は、第1溝113,124に配置される湾曲部131と、湾曲部131につながる延長部132と、を備える。延長部132は第2溝114,125に配置され、開口部116の外に突出する。第1溝124は、第1部材110の第1溝113との間で湾曲部131を挟み込む挟持部である。
【0055】
冷却構造体100は、第1部材110の第1分割面111と第2部材120の第1分割面121との間のうち第1溝113より孔34に近い部分がろう材21によって接合され、第1溝113より外周面119に近い部分が合金27によって金属膜46を介して接合される。第2分割面112,122の間は合金27によって金属膜46を介して接合される。湾曲部131は、ろう材21によって溝113,124と接合される。延長部132は、第2溝114,125の中に配置されている部分が、ろう材21によって第2溝114,125と接合される。
【0056】
第1部材110、第2部材120及びパイプ130の材料、表面処理などの方法は、第1実施の形態における第1部材30、第2部材40及びパイプ50の材料、表面処理などの方法と同様である。第3実施の形態によれば、第1実施の形態と同様に第1部材110、パイプ130及び第2部材120がろう材21、金属膜46及び合金27によってそれぞれ接合されるから、第1実施の形態と同様の効果を実現できる。
【0057】
実施の形態では、第1部材30,70,110と第2部材40,80,120の各分割面は、第1の流体が通過する孔34の表面に表れない。第1部材30,70,110は、第1の流体が通過する孔34の表面に各分割面が存在せず、ろう材21、金属膜46及び合金27が第1の流体に触れないから、第1の流体による各分割面に接合されるろう材21、金属膜46及び合金27の劣化を防止できる。よって各分割面のろう材21、金属膜46及び合金27の劣化による冷却構造体20,60,100の破損を防ぐことができる。
【0058】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0059】
実施形態では、冷却構造体20,60,100が配置された金型1はダイカスト鋳造用の金型であるが、重力鋳造、低圧鋳造またはそのほかの金型を用いる鋳造用の金型に冷却構造体20,60,100を配置することは当然可能である。
【0060】
実施形態では、鋳込み口ブッシュやスプルーブッシュと呼ばれる部品を例示して冷却構造体20,60,100を説明したが、これに限られるものではない。孔34の中を流体が通るものであって、パイプ50,90,130を流れる流体によって冷却するものに冷却構造体20,60,100を適用することは当然可能である。例えば、溶融炉の溶融出口部品などに冷却構造体20,60,100を適用できる。
【0061】
実施形態では、第2部材40,80,120が設けられる冷却構造体20,60,100を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2部材40,80,120を省略して、第1部材30,70,110とパイプ50,90,130とをろう材21で接合することは当然可能である。
【0062】
実施形態では、第2部材40,80,120は、第2分割面42,82,122、第3分割面43の面の全体に金属膜46が設けられているが、ろう材21と合金27を形成する最少量だけ金属膜46を設けることは当然可能である。ただし、合金27は、第1部材30,70,110、第2部材40,80,120及びろう材21と接している必要がある。
【0063】
実施形態では、パイプ50,90,130は、断面が円であるが、必ずしもこれに限定されない。パイプ50,90,130の断面を楕円や多角形にすることは当然可能である。この場合、第1部材30,70,110及び第2部材40,80,120に形成される溝は、パイプ50,90,130に対応した形状にすることが望ましい。第1部材30,70,110及び第2部材40,80,120は記載した実施内容に限らず、第1部材30,70,110又は第2部材40,80,120のどちらか一方に溝を形成することは当然可能である。
【0064】
実施形態では、第1部材3070,110に配置されるパイプ50,90,130は1つであるが、溝35等を複数設けることにより、パイプ50,90,130を複数配置することは当然可能である。
【0065】
第2実施の形態では、第2部材80をパイプ90の端が突出している方向と反対から第1部材70に取り付ける形状にしたが、第2部材80に貫通孔、凹部を設けてパイプ90の端が突出している方向から第1部材70に取り付けても良い。この場合、第1部材70と第2部材80とを接合している第2分割面72,82は、パイプ90よりも第1面30a側に存在しないので、凹部75からろう材21を流下させても冷却構造体60の外側へのろう材21の漏れを低減できる。
【0066】
第2実施の形態では、パイプ90をC字状にしたが、必ずしもこれに限定されない。螺旋状のパイプ90を設けることは当然可能である。この場合、螺旋状のパイプ90の軸線方向に重なる部分の間隙の体積(隙間)が大きくなるので、凹部75に配置するろう材141の量を増やし、延長部92を軸線O方向に重ならないように配置する。
【符号の説明】
【0067】
20,60,100 冷却構造体
21 ろう材
24 間隙(第3間隙)
25 間隙(第4間隙)
27 合金
28 空間
30,70,110 第1部材
30a 第1面
30b 第2面
34 孔
36,74 貫通孔
37,75、115 凹部(第1部材)
40,80,120 第2部材
45,84 挟持部(溝)
46 金属膜
50,90,130 パイプ
51,91,131 湾曲部
52,92,132 延長部
124 挟持部(第1溝)
126 凹部(第2部材)
140 組立体
141 ろう材