(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123272
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】RT-LAMP法によるサツマイモ病原ウイルスの診断方法の開発
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220817BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20220817BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6888 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020483
(22)【出願日】2021-02-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度,科学技術振興機構,研究成果展開事業「サツマイモの革新的ウイルス検定技術およびウイルス病害調査マニュアルの開発」委託研究,産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】竹下 稔
(72)【発明者】
【氏名】小倉 李来
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ10
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】サツマイモ病原ウイルスの重要病原ウイルスであるSPFMVならびにSPLCVを,簡易かつ迅速に検出できる手法の提供。
【解決手段】LAMP法を用いて,サツマイモ病原ウイルスを検出するためのプライマーセット,及び,このプライマーセットを用いて,LAMP法により,サツマイモ病原ウイルスの有無を検出し,診断を行うことを特徴とするサツマイモ病原ウイルス診断方法。本発明により,サツマイモ病原ウイルスとしてSPFMVやSPLCVの迅速かつ高感度の検出が可能となり,サツマイモの苗の段階で,ウイルス検査が簡便に行え,ウイルスフリー苗の使用の拡大が期待できる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LAMP法を用いて,サツマイモ病原ウイルスを検出するためのプライマーセットであって,
前記サツマイモ病原ウイルスが,SPFMVの場合,
(a) FIP 5’-(配列番号11の塩基配列)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号12の塩基配列)-3’
(b) BIP 5’-(配列番号13の塩基配列)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号14の塩基配列)-3’
(c) F3 配列番号5
(d) B3 配列番号6
前記サツマイモ病原ウイルスが,SPLCVの場合,
(g) FIP 5’-(配列番号21の塩基配列)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号22の塩基配列)-3’
(h) BIP 5’-(配列番号23の塩基配列)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号24の塩基配列)-3’
(i) F3 配列番号15
(j) B3 配列番号16
で示されるプライマーから構成されることを特徴とするプライマーセット。
【請求項2】
前記(a)が配列番号7,(b)が配列番号8で表されるプライマーである請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
前記(g)が配列番号17,(h)が配列番号18で表されるプライマーである請求項1又は2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
さらに,SPFMVの場合において,下記配列で示されるループプライマーを含む請求項1から3のいずれかに記載のプライマーセット。
(e) LF 配列番号9
(f) LB 配列番号10
【請求項5】
さらに,SPLCVの場合において,下記配列で示されるループプライマーを含む請求項1から3のいずれかに記載のプライマーセット。
(k) LF 配列番号19
(l) LB 配列番号20
【請求項6】
請求項1から5のいずれかのプライマーセットを用いて,LAMP法により,サツマイモ病原ウイルスの有無を検出し,診断を行うことを特徴とするサツマイモ病原ウイルス診断方法。
【請求項7】
サツマイモの葉,茎のいずれか又は複数から採取される汁液を検出試料として用いて診断を行う請求項6に記載のサツマイモ病原ウイルス診断方法。
【請求項8】
前記(a)から(l)の配列で示されるプライマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,RT-LAMP法を用いたサツマイモ病原ウイルスの診断方法,ならびにこれに用いられるプライマー等に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界には多種多様な植物ウイルスが存在している。植物ウイルスは,時に,農作物に被害をもたらすことがあり,わが国において主要農作物の一つであるサツマイモにも甚大な被害を引き起こしている。
【0003】
サツマイモに感染する植物ウイルス種は,判明しているだけで20数種にも及ぶ。これらの植物ウイルスを迅速に検出するためには,遺伝子を検出する手法が用いられる。
一般的にはPCR法が用いられており,サツマイモに感染するウイルスを検出するためのPCR法に関する種々の技術が開示されている(非特許文献1から4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大貫正俊・花田薫(1996).RT-PCR法を利用したサツマイモウイルス病の高感度簡易診断.植物防疫50: 102-105.
【非特許文献2】花田薫・酒井淳一・大貫正俊(1997).サツマイモ斑紋モザイクウイルスの系統共通プライマーを用いたRT-PCRによる検出.日植病報 63: 259(講要).
【非特許文献3】F.Li (2012) Simultaneous detection and differentiation of four closely related sweetpotato potyviruses by a multiplex one-step RT-PCR (Journal of Virological Methods 186 (2012) 161 -166)
【非特許文献4】Kwak,H.R.(2014) The current incidence of viral disease in Korean sweet potatoes and development of multiplex rt-PCR assays for simultaneous detection of eight sweet potato viruses. (Plant Pathol. J. 30(4) : 416-424 (2014))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは,サツマイモ病原ウイルス検出の現状は十分でないと考えていた。
すなわち,発明者らによる様々な分析から,サツマイモ病原ウイルスで主要な病原ウイルスは,SPFMV(sweet potato feathery mottle virus,サツマイモ斑紋モザイクウイルス)ならびにSPLCV(sweet potato leaf curl virus,サツマイモ葉巻ウイルス)の2種であると発明者らは考えた。しかるに,現状において,これらSPFMVならびにSPLCVを,迅速かつ高感度で検出する手法が存在しない。
これより発明者らは,サツマイモ病原ウイルスを検出するためのPCRプライマーに関する技術を開発し,特許出願している(特願2019-227418)。
【0006】
さらに発明者らは,PCR法より簡易かつ迅速な検査手法が必要と考えた。
すなわち,サツマイモ病原ウイルスが問題となるのは,農業分野においてである。しかるに農業の現場では,高度な検査技術を有する者は,必ずしも多いわけではない。
加えて,現状において,サツマイモ病原ウイルスの検出は,感染が疑われる事象が発生してから対処するのが通常であり,対策が後手になりやすい。よって,サツマイモが苗の段階で,ルーチン的な検査が行えれば,先手を打った対策が可能であり,ウイルスフリーなサツマイモ苗の使用を広げることで,ウイルスの感染や拡大を未然に防ぐことが可能となる。
これらの点から,サツマイモ病原ウイルスを,より簡易かつ迅速に検査できる手法が必要だと発明者らは考えた。
【0007】
上記事情を背景として,本発明では,サツマイモ病原ウイルスの重要病原ウイルスであるSPFMVならびにSPLCVを,簡易かつ迅速に検出できる手法の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは,鋭意研究の結果,SPFMVならびにSPLCVの亜種などを含めた網羅的な配列情報の解析を行うとともに,LAMP法を用いて,簡易かつ迅速に検出できるプライマーを開発し,発明を完成させたものである。
【0009】
本発明は,以下の構成からなる。
[1]LAMP法を用いて,サツマイモ病原ウイルスを検出するためのプライマーセットであって,
前記サツマイモ病原ウイルスが,SPFMVの場合,
(a) FIP 5’-(配列番号11の塩基配列)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号12の塩基配列)-3’
(b) BIP 5’-(配列番号13の塩基配列)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号14の塩基配列)-3’
(c) F3 配列番号5
(d) B3 配列番号6
前記サツマイモ病原ウイルスが,SPLCVの場合,
(g) FIP 5’-(配列番号21の塩基配列)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号22の塩基配列)-3’
(h) BIP 5’-(配列番号23の塩基配列)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号24の塩基配列)-3’
(i) F3 配列番号15
(j) B3 配列番号16
で示されるプライマーから構成されることを特徴とするプライマーセット。
【0010】
[2]前記(a)が配列番号7,(b)が配列番号8で表されるプライマーである[1]に記載のプライマーセット。
[3]前記(g)が配列番号17,(h)が配列番号18で表されるプライマーである[1]又は[2]に記載のプライマーセット。
[4]さらに,SPFMVの場合において,下記配列で示されるループプライマーを含む[1]から[3]のいずれかに記載のプライマーセット。
(e) LF 配列番号9
(f) LB 配列番号10
[5]さらに,SPLCVの場合において,下記配列で示されるループプライマーを含む[1]から[3]のいずれかに記載のプライマーセット。
(k) LF 配列番号19
(l) LB 配列番号20
【0011】
[6][1]から[5]のいずれかのプライマーセットを用いて,LAMP法により,サツマイモ病原ウイルスの有無を検出し,診断を行うことを特徴とするサツマイモ病原ウイルス診断方法。
[7]サツマイモの葉,茎のいずれか又は複数から採取される汁液を検出試料として用いて診断を行う[6]に記載のサツマイモ病原ウイルス診断方法。
[8]前記(a)から(l)の配列で示されるプライマー。
【発明の効果】
【0012】
本発明により,サツマイモ病原ウイルスの重要病原ウイルスであるSPFMVならびにSPLCVを,簡易かつ迅速に検出できる手法の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】プライマーセット1と,SPFMVにおけるCP遺伝子との位置関係を示した図。
【
図2】プライマーセット2と,SPFMVにおけるCP遺伝子との位置関係を示した図。
【
図3】プライマーセット3と,SPLCVにおけるMP遺伝子との位置関係を示した図。
【
図4】プライマーセット1を用いて,LAMP法により,SPFMVの検出を行った結果を示した図。
【
図5】プライマーセット2ないしプライマーセット3を用いて,LAMP法により,SPFMV等の検出を行った結果を,PCR法による検出結果と比較して示した図。
【
図6】プライマーセット2ないしプライマーセット3の検出感度を,PCR法とLAMP法で比較して示した図。
【
図7】プライマーセット2ないしプライマーセット3を用いて,各ウイルスの検出をリアルタイムで測定した結果を示した図。
【
図8】検出サンプルとして汁液を使って,プライマーセット2を用いたLAMP法により,リアルタイム検出を行った結果を,PCR法の結果と比較して示した図。
【
図9】検出サンプルとして汁液を使って,プライマーセット3を用いたLAMP法により,リアルタイム検出を行った結果を,PCR法の結果と比較して示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のプライマーセット等は,発明者らにより得られた下記の知見ないし実験事実に基づいて,完成されたものである。
(1) サツマイモ病原ウイルスの重要病原ウイルスとして,SPFMVとSPLCVを選択した。
(2) SPFMVにおいて外被タンパク質(CP)遺伝子に着目し,AB465608,AB509453,D86371,AB439206,MH763678,KY296450,MG656415,KY296451など,複数種類のCP遺伝子の網羅的な解析を行い,プライマーの設計を行った。
(3) SPLCVにおいて,細胞間の移行タンパク質(MP)遺伝子に着目し,AB433786,AB433787,AB433788,KT992057,KT992055,KT992054,KT992052,KT992051,KT992048など,合計38種類のMP遺伝子の解析を行い,プライマーの設計を行った。
(4) 設計されたプライマーセットを用いたLAMP法によるウイルスの検出では,特異性に問題がなく,PCRと比較して100から1000倍の検出感度を示した。
(5) PCR法によるサツマイモ病原ウイルスの検出は1.5から2.0時間ほどかかっていたのに対して,LAMP法では,50分程度であり,迅速な検出が可能であった。
(6) LAMP法においてループプライマーを合わせて用いることにより,検出時間を10から15分程度,さらに迅速化することが可能であった。
(7) サツマイモ茎ないし葉から得られた汁液を用いて検出対象とすることでウイルスの検出が可能であった。この点において,サンプルの精製が必要なPCR法と比較しても,より簡易かつ迅速な検出を達成できた。
【0015】
本発明のプライマーセットは,サツマイモ病原ウイルスがSPFMVの場合,下記のプライマーセットとして示される。以下では,下記(a)から(d)に相当する一連のプライマーを含むセットを,プライマーセット2と略称する。
(a) FIP 5’-(配列番号11の塩基配列。F1c領域)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号12の塩基配列。F2領域)-3’
(b) BIP 5’-(配列番号13の塩基配列。B1c領域)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号14の塩基配列。B2領域)-3’
(c) F3 配列番号5
(d) B3 配列番号6
なお,FIPとはインナープライマーF,BIPはインナープライマーB,F3はアウタープライマーF,B3はアウタープライマーBとして示される。
また,この場合における好ましい態様として,下記のループプライマーを含むことができる。これにより,本発明のプライマーセットを用いてLAMP法を行った際の検出時間を迅速化することができ,本発明の有用性を向上させる効果を有する。
(e) LF 配列番号9
(f) LB 配列番号10
なお,LFとはループプライマーF,LBとはループプライマーBとして示される。
【0016】
本発明のLAMP法を用いて,サツマイモ病原ウイルスを検出するためのプライマーセットにおいて,サツマイモ病原ウイルスが,SPLCVの場合,下記のプライマーセットとして示される。以下では,下記(g)から(j)に相当する一連のプライマーを含むセットを,プライマーセット3と略称する。
(g) FIP 5’-(配列番号21の塩基配列。F1c領域)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号22の塩基配列。F2領域)-3’
(h) BIP 5’-(配列番号23の塩基配列。B1c領域)-(塩基数0~50の任意の塩基配列)-(配列番号24の塩基配列。B2領域)-3’
(i) F3 配列番号15
(j) B3 配列番号16
また,この場合における好ましい態様として,下記のループプライマーを含むことができる。これにより,本発明のプライマーセットを用いてLAMP法を行った際の検出時間を迅速化することができ,本発明の有用性を向上させる効果を有する。
(k) LF 配列番号19
(l) LB 配列番号20
【0017】
それぞれのプライマーセットのインナープライマーにおいて,F2領域とF1c領域の間,もしくはB2領域とB1c領域との間には,増幅に関与しない非特異的塩基配列領域(リンカー)を有していてもよいことが技術常識として知られている。非特異的領域の配列の長さについては,増幅に影響を及ぼさない配列長とすればよく,典型的には0から50配列,より好ましくは0から40配列,特に好ましくは0から30配列とすればよい。
このようなインナープライマーとして,プライマーセット2では,(a)を配列番号7,(b)を配列番号8で示されるプライマーとすることができ,プライマーセット3では,(g)を配列番号17,(h)を配列番号18で示されるプライマーとすることができる。
【0018】
本発明の別の態様として,サツマイモ病原ウイルス診断方法として構成することができる。
すなわち本発明のサツマイモ病原ウイルス診断方法は,前記プライマーセットを用いて,LAMP法により,サツマイモ病原ウイルスの有無を検出し,診断を行うことを特徴とする。
【0019】
LAMP法によるサツマイモ病原ウイルス検出のためには,検体試料が必要である。この検体試料としては,通常用いられるあらゆる検体試料を用いることが可能である。
典型的には,サツマイモの葉,茎,塊根,これらのいずれか又は複数の部位から検体試料を調製することができる。
【0020】
サツマイモ試料が塊根の場合,表皮を切り取ったものを用いて核酸抽出のための試料とすればよい。
サツマイモ試料が葉の場合,複数にカットしたもの,又はくり抜いたもの,これらを用いて核酸抽出のための試料とすればよい。また,葉脈部分から針を刺すなどして作製した汁液を用いてもよい。
サツマイモ試料が茎の場合,複数にカットしたものを用いて核酸抽出のための試料とすればよい。また,茎に針を刺すなどして作製した汁液を用いてもよい。
これらのうち,サツマイモの葉,茎のいずれか又は複数から採取される汁液を用いることが好ましい。これにより,サツマイモが苗の段階において,非侵襲的で,簡易かつ迅速なウイルス検査が可能となり,ウイルスフリーなサツマイモ苗の使用を拡大することが期待できる。
なお,本発明において汁液は,通常知られている種々の手法で作製することができる。一例として,サツマイモの葉や茎などに針を刺すなどして,その先端部分を滅菌水に懸濁することで作製される。
【0021】
サツマイモ病原ウイルス検出のための検体試料については,通常用いられる核酸抽出作業のための前処理を行い,LAMP法に用いる際の試料とすることができる。
例えば,植物組織を破砕後,フェノール及びクロロホルムを用いて核酸抽出・精製したり,市販されている抽出キット(例えば,ニッポンジーン社のISOSPIN Plant RNA)を用いて得られた核酸を抽出し検体として用いるなどである。
【0022】
検体試料の準備ができたら,前述のプライマーセットを用いて,核酸増幅のための操作を行う。この核酸増幅の際の操作として,例えば,反応液中,少なくとも4種類のプライマー(インナープライマーFおよびB,アウタープライマーFおよびB),鋳型依存性核酸合成酵素,デオキシヌクレオチド3リン酸などが含まれた市販キット(例えば,LoopampTMを用いて,60から65℃で15分から1時間程度インキュベートすればよい。また,上述の通り,ループプライマーをさらに用いることもできる。
【0023】
核酸合成で使用する酵素は,鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定する必要はない。このような酵素としては,Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント),Bca(exo-)DNAポリメラーゼ,Csa DNAポリメラーゼ,Gsp DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント),GspSSD DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント),Tin DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント),大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられる。
【0024】
核酸増幅反応操作が終了したら,核酸増幅産物の検出を行う。核酸増幅産物の検出には,通常用いられるあらゆる検出方法を用いることができる。例えば,増幅された塩基配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドを用いた検出や蛍光性インターカレーター法,アガロースゲル電気泳動法による検出などである。アガロースゲル電気泳動法においてLAMP増幅産物は,塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状に検出される。
加えて,LAMP法では目視による検出ができる場合があり,迅速なサツマイモ病原ウイルス検出が必要な場合に好ましい。すなわち,LAMP法では,核酸の合成により基質が大量に消費され,副産物であるピロリン酸が,共存するマグネシウムと反応してピロリン酸マグネシウムとなり,反応液が肉眼で確認できる程度に白濁することからサツマイモ病原ウイルスの検出が可能である。この場合,反応中の濁度上昇経過や反応終了後の濁度を光学的に観察できる分光光度計等の測定機器を用いて,サツマイモ病原ウイルスの検出を確認することも可能である。
【0025】
本発明のプライマーを用いて核酸増幅の検出を行う際に必要な各種の試薬類は,あらかじめパッケージングしてキット化することができる。具体的には,本発明のプライマーあるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド,核酸合成の基質となる4種類のdNTP,鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素,酵素反応に好適な条件を与える緩衝液や塩類,酵素や鋳型を安定化する保護剤,さらに必要に応じて反応生成物の検出に必要な試薬類がキットとして提供される。
【実施例0026】
本発明について,実験例を踏まえて詳述する。
【0027】
<<I.プライマーの設計>>
SPFMV,ならびにSPLCVの遺伝子情報の解析を行い,最適と考えられるプライマーの設計を行った。
【0028】
1.SPFMVのゲノムマップにおいて,外被タンパク質(CP)遺伝子領域に着目し,設計を行った。
(1) CPとして知られている遺伝子として,AB465608,AB509453,D86371,AB439206,MH763678,KY296450,MG656415,KY296451など,複数の種類の網羅的な解析を行った。その結果,表1のとおり,プライマーの設計を行った。以下では,表1に示されるプライマーをプライマーセット1とする。
(2) プライマーセット1におけるそれぞれのプライマーと,D86371,AB509453,AB465608の核酸配列との位置関係を
図1に示す。
(3) さらに,プライマーセット1を改良したプライマーの設計を行った(表2。以下,「プライマーセット2」)。プライマーセット2におけるそれぞれのプライマーと各種遺伝子の核酸配列との位置関係を
図2に示す。
【0029】
【0030】
2.SPLCVのゲノムマップにおいて,細胞間移行タンパク質(MP)遺伝子領域に着目し,設計を行った。
(1) MPとして知られている遺伝子として,AB433786,AB433787,AB433788,KT992057,KT992055,KT992054,KT992052,KT992051,KT992048など,複数の種類をカバーできるよう,合計38種類の遺伝子情報の解析を行った。その結果,表3のとおり,プライマーの設計を行った(以下,「プライマーセット3」)。
(2) プライマーセット3におけるそれぞれのプライマーと,AB433787,AB433786,AB433788の核酸配列との位置関係を
図3に示す。
【0031】
【0032】
<<II.プライマーの評価>>
各プライマーセットを用いてLAMP法による検出を行い,その性能を評価することを目的に実験を行った。
【0033】
<実験方法>
[LAMP法]
1.表1から表3に示すプライマーを用い,LAMP法による増幅反応を行った。また,LAMP法による増幅のためLoopamp(登録商標)を用いた。
2.陽性コントロールとして,SPFMV,SPLCVのいずれか又は両方を感染させたサツマイモの葉から核酸抽出を行い,精製したものを用いた。
3.専用チューブ内で63℃,10から60分間,増幅反応を行った。
4.反応終了後,反応液を2.0% アガロースゲル電気泳動を行い,Gelred染色を行った。
5.なお,リアルタイム検出を行う場合は,蛍光測定装置(Genelyzer FII)を用いて蛍光強度の測定を行った。
【0034】
[PCR法]
1.発明者らの開発した特許出願(特願2019-227418)記載のプライマーを用いて,PCR法を行った。各プライマーについて表4に示す。
2.PCR法による増幅のためタカラバイオ社製 PrimeScript High Fidelity One Step RT-PCR Kitを用い,最終反応溶液25μL中の各試薬濃度が下記になるよう反応試薬を調製した。
3.上記反応試薬20μLに,鋳型DNAないしRNAを含む各濃度の試料溶液5.0μLを加え,最終反応溶液25.0μLとして,各PCR反応を2回ずつ行った。
4.PCR反応の温度サイクル条件は,逆転写のため45℃10分,94℃2分で反応を行った後,熱変性94℃10秒,アニーリング56℃15秒,ポリメラーゼ伸長反応72℃10秒,これらの一連の反応を1サイクルとして合計40サイクル行った。
5.反応終了後,反応液を2.0% アガロースゲル電気泳動を行い,Gelred染色を行った。
【0035】
【0036】
<実験結果,プライマーセット1の性能評価>
1.プライマーセット1を用いたLAMP法による増幅実験の結果を,
図4に示す。
(1) ネガティブコントロール(Lane1)において,薄く染色がみられ,非特異的な増幅がわずかながらではあるが観察された。
(2) ポジティブコントロールを含んだサンプル(Lane2から4)では,いずれのサンプルにおいてもラダー状のバンドが検出されるとともに,反応時間が増加するほど濃くなっていた。しかしながら,反応後,40分においても,バンドは十分に濃いとはいえず,反応液における蛍光も確認できなかった。
2.これらの結果から,プライマーセット1は,LAMP法による核酸増幅は可能であったものの,その増幅速度は,十分でなく,改良の必要性があると考えられた。
3.なお,改良の方法として,ループプライマーの作製が考えられたが,配列の性質上,ループプライマーの設計には適していなかった。
【0037】
<実験結果,プライマーセット2ならびにプライマーセット3の特異性の確認>
1.各プライマーセットを用いてLAMP法による増殖実験の結果を
図5に示す。なお,本実験においては,ループプライマーは使用していない。
(1) 比較対象であるRT-PCRにおいて,Lane3でSPFMV,Lane4でSPLCV,Lane5でSPFMVならびにSPLCVのバンドの検出が確認された。この結果から,それぞれの陽性コントロールにおいて,検出対象となる核酸遺伝子が含まれていることが確認された。
【0038】
(2) Lane8においてラダー状のバンドが確認された。すなわち,プライマーセット2により,SPFMVの核酸遺伝子が検出可能であることが確認された。
(3) Lane11においてラダー状のバンドが確認された。すなわち,プライマーセット3により,SPLCVの核酸遺伝子が検出可能であることが確認された。
(4) 一方,Lane9において検出は確認できなかった。すなわち,プライマーセット2は,検出対象ではないSPLCVを検出しないことが確認された。同様に,プライマーセット3は,検出対象ではないSPFMVを検出しないことが確認された(Lane10)。
【0039】
(5) さらに,SPFMVとSPLCV,両方を感染させたサンプルでは,プライマーセット2ないしプライマーセット3,いずれにおいてもラダー状のバンドが確認された(Lane12,13)。このことから,プライマーセット2ないしプライマーセット3は,複合的な感染がおこっているサンプルでも,検出が可能なことが分かった。
【0040】
2.これらの結果から,下記のことが分かった。
(1) プライマーセット2は,SPFMVに対して,LAMP法による特異的な増幅が可能である。また,非特異的な増幅も見られなかった。
(2) プライマーセット3は,SPLCVに対して,LAMP法による特異的な増幅が可能である。また,非特異的な増幅も見られなかった。
【0041】
<実験結果,検出感度の確認>
1.プライマーセット2の結果を
図6上段に示す。
(1) 比較対象であるPCRでは,サンプルの核酸量の減少と共にバンドが薄くなっており,100fg/tubeで検出不可能なレベルとなっていた。
(2) 一方,プライマーセット2を用いたLAMP法では,同様にサンプルの核酸量の減少と共にバンドが薄くなっていたものの,1fg/tubeでもラダー状のバンドが確認でき,十分に検出が可能なレベルであった。
(3) なお,PCRでは1.5から2時間程度の反応時間であり,LAMP法では,50分程度の反応時間であった。
【0042】
2.プライマーセット3の結果を
図6下段に示す。
(1) 比較対象であるPCRでは,サンプルの核酸量の減少と共にバンドが薄くなっており,100pg/tubeで検出不可能なレベルとなっていた。
(2) 一方,プライマーセット3を用いたLAMP法では,同様にサンプルの核酸量の減少と共にバンドが薄くなっていたものの,10pg/tubeでもラダー状のバンドが確認でき,十分に検出が可能なレベルであった。
(3) なお,PCRでは1.5から2時間程度の反応時間であり,LAMP法では,50分程度の反応時間であった。
【0043】
3.これらの結果から,下記のことが分かった。
(1) プライマーセット2によるLAMP法の検出は,PCR法による検出と比較して,1000倍の検出感度であった。
(2) プライマーセット3によるLAMP法の検出は,PCR法による検出と比較して,100倍の検出感度であった。
(3) いずれにおいても,LAMP法による検出の方が,時間も短かった。
【0044】
<実験結果,ループプライマーによる検出>
1.ループプライマーの有無を比較した結果を
図7に示す。なお,各線の表記については,用いたプライマーセット番号を示しており,かっこ書では,ループプライマーの有無,検出対象ウイルスの有無の順で示している。
(1) SPFMVないしSPLCVが陽性(+)のサンプルでは蛍光強度の増加がみられた一方,陰性(-)のサンプルの全てで蛍光は観察されなかった。
(2) SPFMVの検出において,ループプライマーがない場合は,反応開始から25分ほどから蛍光強度の上昇がみられ,35分ほどでプラトーに達していた。一方,ループプライマーがある場合は,13分ほどから蛍光強度の上昇がみられ,20分ほどでプラトーに達していた。
(3) SPLCVの検出において,ループプライマーがない場合は,反応開始から25分ほどから蛍光強度の上昇がみられ,35分ほどでプラトーに達していた。一方,ループプライマーがある場合は,13分ほどから蛍光強度の上昇がみられ,33分ほどでプラトーに達していた。
【0045】
2.これらの結果から,下記のことが分かった。
(1) ループプライマーの存在により,検出の特異性は阻害されない。
(2) いずれの反応においても,ループプライマーが存在することで,より迅速な検出が可能となる。
【0046】
<実験結果,サツマイモ感染サンプルを用いた検出>
1.SPFMV感染サンプルの検出を行った結果を
図8に示す。なお,AからHの各サンプルについて,LAMP法では,AとBが主茎より,その他が主茎と葉から汁液を採取し,増幅反応を行っている。一方,PCR法では,全ての,葉肉部から核酸を抽出しサンプルとしている。
(1) LAMP法では,C,E,G,Hの検出は可能であったが,その他においては検出されなかった。
(2) 一方,PCR法では,E,G,Hで濃いバンドが確認され,その他,A,B,Cでも薄いバンドが確認された。
【0047】
2.SPLCV感染サンプルの検出を行った結果を
図9に示す。
(1) LAMP法では,2,3,4の検出は可能であったが,1は検出されなかった。
(2) 一方,PCR法では,3,4で濃いバンドが確認され,2でも薄いバンドが確認された。
【0048】
3.SPFMV,SPLCVいずれにおいても,LAMP法とPCR法では完全には一致しない結果であったが,一概に比較することは妥当ではない。
(1) LAMP法では,採取した汁液をそのまま増幅反応に用いており,この点において,簡便かつ迅速に検査が可能である。
(2) 一方,PCR法では,採取した汁液を精製して増幅反応に用いており,この点において,LAMP法で用いた汁液サンプルと比較して,検出対象サンプルのウイルス濃度が上昇しており検出しやすい条件となっていると推察される。また,PCR法では,このように精製作業を必要とするため,迅速性に欠けるという欠点がある。
(3) また,一般的に,植物ウイルスは,生育段階によってウイルスの局在が異なる場合がある。このことから,汁液の採取する場所を複数にしたり,これから例数が増えることで,時期に応じた適切な汁液の採取部位が明らかになることにより,本発明によるLAMP法の診断方法の有用性がさらに高まることが期待できる。
SPFMVはRNAウイルスでSPLCVはDNAウイルスであるが,今回のLAMP法では汁液を直接の検定試料として用い,目視による判定も可能なため農業法人・農家での利用が可能である。これにより,一般農家に向けたウイルスフリー化苗の大規模安定供給システムにおける技術導入が期待できる。