(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123273
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】圧電デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/19 20060101AFI20220817BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
H03H9/19 E
H03H3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020484
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 徹也
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】大沢 和彦
(72)【発明者】
【氏名】廣田 和博
(72)【発明者】
【氏名】手島 芳朗
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA01
5J108BB02
5J108CC04
5J108CC12
5J108DD02
5J108EE03
5J108EE07
5J108EE18
5J108GG03
5J108GG16
5J108KK01
5J108MM08
5J108MM11
5J108MM15
(57)【要約】
【課題】平面形状が四角形状で、水晶のZ′軸に交差する側面が所定の第1~第3の3つの面20c,20d,20eで構成されたATカット水晶片20を具える圧電デバイスのクリスタルインピダンスを改善する。
【解決手段】水晶片20は、Z′軸に平行な2辺のうちの、水晶のX軸の-X側に当たる辺である第1の辺20a側で、導電性接着剤33によって容器30に接続固定してある。前記第1の辺と対向する第2の辺20bの前記Z′軸に沿う直線部分の寸法をW1と表し、前記ATカット水晶片の前記Z′軸に沿う寸法をW0と表したとき、W1/W0が0.91以上である。第2の辺の前記Z′軸に沿う直線部分の両側は、水晶片20の水晶のX軸に沿う辺とつながる略直角の角部20x、20yとなっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶の結晶軸で表わされるX-Z′面を主面とし、平面形状が四角形状で、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、第1~第3の3つの面であってこの順に交わっている第1~第3の3つの面で構成してあり、前記Z′軸に平行な2辺のうちの第1の辺の側で導電性接着剤によって容器に接続固定されているATカット水晶片と、当該導電性接着剤と、当該容器と、を具える圧電デバイスにおいて、
前記第1の辺と対向する第2の辺の前記Z′軸に沿う直線部分の寸法をW1と表し、前記ATカット水晶片の前記Z′軸に沿う寸法をW0と表したとき、W1/W0が0.91以上であり、該直線部分の両側は当該ATカット水晶片の水晶のX軸に沿う辺と略直角の角部を構成しており、
前記第1の辺の側は、水晶の結晶軸のX軸における-X側であり、前記第2の辺の側は、前記X軸における+X側であることを特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
前記第2の辺の前記Z′軸に沿う直線部分の両側は、前記第2の辺と前記ATカット水晶片の水晶のX軸に沿う辺との成す角度θa、θbが90~115°の略直角の角部となっていることを特徴とする請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記第2の辺の前記Z′軸に沿う直線部分の両側は、C面取りの表記で表して、前記Z′軸に沿う寸法がC1で、前記X軸に沿う寸法が前記C1より大きいC2で、かつ、C2/C1が2.7~4.3の略直角の角部となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記ATカット水晶片は、前記第2の辺の側が、前記X軸に沿ってかつ前記第2の辺側に向かって厚みが薄いテーパー部となっていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記テーパー部の前記X軸に沿う寸法をΔXと表し、前記ATカット水晶片の厚さをTと表したとき、ΔX/Tが3.05~3.09であることを特徴とする請求項4に記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記テーパー部は、4つの面で構成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の圧電デバイス。
【請求項7】
前記第1の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として4±3.5°回転させた面に相当する面であり、前記第2の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-57±5°回転させた面に相当する面であり、前記第3の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-42±5°回転させた面に相当する面であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の圧電デバイス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の圧電デバイスを、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術によって製造するに当たり、
前記ウエットエッチング用の耐エッチングマスクであって、前記ATカット水晶片のパタンをマトリクス状に形成する第1マスク部と、前記マトリクスの間で、前記Z′軸に相当する方向に沿って伸び、前記X方向に沿って順次に配列された桟形成用のパタンを形成する第2マスク部と、当該ウエットエッチング後にATカット水晶片を桟に保持するためのブリッジパタンを形成する第3マスク部と、当該ATカット水晶片の前記第2の辺側の角部と前記第3マスク部との間に設けられ第2エッチング工程完了時には当該箇所の水晶を消失させる所定幅Wを持つ第4マスク部と、を有した耐エッチングマスクを、前記第3マスク部が水晶のX軸の-X側となるように、水晶ウエハに形成する工程と、
前記耐エッチングマスクを形成した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する第1エッチング工程と、
前記第1エッチングが済んだ水晶ウエハから、前記第1マスク部及び第4マスク部を除去する工程と、
前記第1マスク部及び第4マスク部を除去した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する当該第2エッチング工程と、
前記第2エッチング工程が済んだ水晶ウエハに励振用電極を形成する工程と、
前記励振用電極の形成が済んだ水晶ウエハから当該ATカット水晶片を個片化する工程と、
個片化した当該ATカット水晶片を容器に接続固定する固定と、
を含むことを特徴とするATカット水晶片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子、水晶振動子を含む水晶発振器、サーミスタやPNダイオード等の温度センサを併用した水晶振動子等の圧電デバイスと、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電デバイスの1種である水晶振動子のさらなる小型化を図るため、水晶振動子の製法として、フォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術が用いられている。
【0003】
この出願の出願人に係る例えば特許文献1に、上記技術を用いて製造される水晶振動子が記載されている。具体的には、特許文献1の
図1に示されているように、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、第1~第3の3つの面で構成したATカット水晶片を用いた水晶振動子である。
この水晶振動子によれば、ATカット水晶振動子本来の振動以外の不要振動を、従来に比べ抑制できるため、水晶振動子のインピダンスすなわちクリスタルインピダンス(以下、CIともいう)を、従来に比べ改善できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された圧電デバイスは、CIの改善が図れるものであったが、この出願に係る発明者の継続的な研究において、下記に示したように、CIの更なる改善が図れる余地があることが判明した。
特許文献1に開示された圧電デバイスは、所定の第1~第3の面を有する水晶片を具えたものであるが、所定の第1~第3の面を得るために、水晶ウエハを長時間エッチングする処理を採用している。そのため、当該水晶片の先端側、すなわち水晶片の導電性接着剤によって支持する側とは反対側を平面的に見たとき、当該先端の中央から両角部に向かう領域が略三角形状に広くエッチングされた形状になっており、その分だけ水晶片の平面積が減少していた(後述する比較例1や
図6参照)。ATカット水晶片の場合、水晶片の平面的な面積が広い方が、CIは良化し易いことを考えると、特許文献1に開示された圧電デバイスは改善の余地がある。
【0006】
さらにまた、水晶片の先端側を、水晶の結晶軸であるX軸のプラス側とするかマイナス側とするかによって、先端形状のバラツキに差異が生じ、そのため圧電デバイスのCIに差が生じることが判明した。従って、この点においても、改善の余地がある。
この出願はこのような点に鑑みなされたものであり、従って、この出願の目的は上記問題点を軽減できる圧電デバイスと、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の達成を図るため、この発明の圧電デバイスによれば、水晶の結晶軸で表わされるX-Z′面を主面とし、平面形状が四角形状で、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、第1~第3の3つの面であってこの順に交わっている第1~第3の3つの面で構成してあり、前記Z′軸に平行な2辺のうちの第1の辺の側で導電性接着剤によって容器に接続固定されているATカット水晶片と、当該導電性接着剤と、当該容器と、を具える圧電デバイスにおいて、前記第1の辺と対向する第2の辺の前記Z′軸に沿う直線部分の寸法をW1、前記ATカット水晶片の前記Z′軸に沿う寸法をW0と表したとき、W1/W0が0.91以上であり、該直線部分の両側は当該ATカット水晶片の水晶のX軸に沿う辺と略直角の角部を構成しており、前記第1の辺の側は、水晶の結晶軸のX軸における-X側であり、前記第2の辺の側は、前記X軸における+X側であることを特徴とする。
【0008】
ここで、本願発明でいう略直角の角部は、理想的には、真の直角である。しかし、ATカット水晶片の製法として、フォトリソグラフィ技術及びウエットエッチングを用いる場合、水晶のエッチャントに対する水晶の結晶軸異方性に起因するエッチング速度の異方性等が原因で、略直角の角部は必ずしも真に直角とはならず、例えば、以下の(1)の構造、又は(2)構造、又は(1)及び(2)の両者を含む構造になる。従って、この発明を実施するに当たり、略直角の角部は、具体的には以下(1)及び又は(2)の構造であることが好ましい。
(1)前記第2の辺の前記Z′軸に沿う直線部分の両側は、前記第2の辺と前記ATカット水晶片の水晶のX軸に沿う辺との成す角度θa、θbが90~115°の略直角の角部となっている構造。
(2)前記第2の辺の前記Z′軸に沿う直線部分の両側は、C面取りの表記で表して、前記Z′軸に沿う寸法がC1で、前記X軸に沿う寸法が前記C1より大きいC2で、かつ、C2/C1が2.7~4.3の略直角の角部となっている構造。
上記(1)及び又は(2)の構造であると、後述する実施例から分かるように、CIの特性改善が図れる共に、製造も容易である。
【0009】
この発明を実施するに当たり、前記ATカット水晶片は、前記第2の辺の側が、前記X軸に沿ってかつ前記第2の辺側に向かって厚みが薄くなっているテーパー部となっていることが好ましい。この構成によれば、水晶のX方向に沿う不要モードを低減できる。
【0010】
この発明を実施するに当たり、前記第1の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として4±3.5°回転させた面に相当する面であり、前記第2の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-57±5°回転させた面に相当する面であり、前記第3の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-42±5°回転させた面に相当する面であることが好ましい。この構成によれば、特許文献1に記載の通り、水晶のZ′方向に沿う不要モードを低減できる。
【0011】
また、この出願の圧電デバイスの製造方法の発明によれば、上記したこの出願に係る圧電デバイスを、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術によって製造するに当たり、
前記ウエットエッチング用の耐エッチングマスクであって、前記ATカット水晶片のパタンをマトリクス状に形成する第1マスク部と、前記マトリクスの間で、前記Z′軸に相当する方向に沿って伸び、前記X軸方向に沿って順次に配列された桟形成用のパタンを形成する第2マスク部と、当該ウエットエッチング後にATカット水晶片を桟に保持するためのブリッジパタンを形成する第3マスク部と、前記ATカット水晶片のパタンの前記第2の辺側の角部と前記第3マスク部との間に設けられ第2エッチング完了時には当該箇所の水晶を消失させる所定幅Wを持つ第4マスク部と、を有した耐エッチングマスクを、前記第4マスク部が水晶のX軸の+X側となるように、水晶ウエハに形成する工程と、
前記耐エッチングマスクを形成した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する第1エッチング工程と、
前記第1エッチングが済んだ水晶ウエハから、前記第1マスク部及び第4マスク部を除去する工程と、
前記第1マスク部と第4マスク部とを除去した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する当該第2エッチング工程と、
前記第2エッチング工程が済んだ水晶ウエハに励振用電極を形成する工程と、
前記励振用電極の形成が済んだ水晶ウエハから当該ATカット水晶片を個片化する工程と、
前記個片化した当該ATカット水晶片を容器に接続固定する固定と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この出願の圧電デバイスの発明によれば、水晶のZ′軸と交差する側面が所定の第1~第3の面で構成されたATカット水晶片を用いた圧電デバイスにおいて、当該水晶片の先端側の辺は所定量の直線部分を有し、かつ、角部がを略直角であるため、当該水晶片の平面積が広がるので、従来に比べCIが改善された圧電デバイスを提供できる。しかも、水晶片の先端側を水晶のX軸の+X側としているので、水晶片の先端側を水晶のX軸の-X側とする場合に比べ、水晶片の先端の形状バラツキが低減された圧電デバイスを実現できる(詳細は後の実施形態参照)。従って、CIの改善がさらに図れる。
また、この出願に係る圧電デバイスの製造方法の発明によれば、所定の第1~第4マスク部を具える耐エッチングマスクによって水晶ウエハに当該マスクを形成した後、この水晶ウエハを第1エッチングし、その後、第1マスク部及び第4マスク部除去した状態で、第2エッチングをするので、第2エッチングの際は、水晶片の第4マスク部を除去した部分は徐々に消失するものの水晶片の先端の角部は消失するまでは至らない。しかも、ブリッジパタン側すなわち水晶片の先端側となる部分が、水晶のX軸の+側となるので、水晶片の先端側が+X側となる水晶片を容易に製造できる。このため、水晶片の先端側の平面積が減少することを防止しつつ、第1~第3の面を持つ所望の側面を有し、かつ、先端が+X側である水晶片を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(A)、(B)は、実施形態の圧電デバイス10の説明図である。
【
図2】(A)、(B)、(C)、(D)は、実施形態の圧電デバイス10に具わるATカット水晶片20の説明図である。
【
図3】(A)、(B)は、ATカット水晶片20の水晶のZ′軸に沿った(
図2のQ-Q線に沿った)断面の説明図、(C)、(D)は、ATカット水晶片20の水晶のX軸に沿った(
図2のP-P線に沿った)断面の説明図である。
【
図4】(A)、(B)、(C)は、実施形態の圧電デバイス10の製造方法の要部を説明する図である。
【
図5】(A)、(B)は、実施形態の圧電デバイス10の製造方法の
図4に続く説明図である。
【
図6】比較例1の説明図であり、水晶片の先端側の角部形状に留意しない場合のATカット水晶片50を説明する平面図である。
【
図7】(A),(B)は、水晶片の先端側の角部に留意した場合(実施例1)と、しない場合(比較例1)の、CI分布の違いを説明する図である。
【
図8】実施例2及び比較例2の説明図であり、水晶片の先端を水晶のX軸の+X側とした場合(図(A))と、X軸の-X側とした場合(図(B))の、各水晶片の金属顕微鏡写真である。
【
図9】実施例2及び比較例2の説明図であり、水晶片の先端を水晶のX軸の+X側とした場合(図(A))と、X軸の-X側とした場合(図(B))の、各水晶片の先端テーパー部の寸法の分布を比較する図である。
【
図10】実施例2及び比較例2の説明図であり、水晶片の先端を水晶のX軸の+X側とした場合(図(A))と、X軸の-X側とした場合(図(B))の、各圧電デバイスのCI分布を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照してこの発明の圧電デバイス及びその製造方法の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
1. 圧電デバイスの説明
先ず、
図1~
図3を参照して、実施形態の圧電デバイス10について説明する。ここで、
図1(A)は圧電デバイス10の上面図、
図1(B)は
図1(A)のP-P線に沿った圧電デバイス10の断面図である。なお、
図1(A)では、
図1(B)に具わる蓋部材35の図示を省略してある。また、
図2(A)は実施形態の圧電デバイス10に具わるATカット水晶片20の上面図、
図2(B)は
図2(A)中のP-P線に沿った水晶片20の断面図、
図2(C)は
図2(A)中のQ-Q線に沿った水晶片20の断面図、
図2(D)は
図2(A)中の水晶片20の先端部分を拡大した図である。また、
図3(A)は、ATカット水晶片20の、水晶のZ′軸と交差する側面を説明する図、
図3(B)は
図3(A)中のN部分を拡大して示した図である。また、
図3(C)は、
図2(B)に示した断面図中の+X側の部分を拡大した図、
図3(D)は、
図2(B)に示した断面図中の-X側の部分を拡大した図である。なお、
図2や
図3中に示した座標軸X,Y′、Z′は、それぞれATカット水晶片20(以下、水晶片20と略称することもある)での水晶の結晶軸を示す。
【0016】
この実施形態の水晶片20は、平面形状が長方形状で、かつ、その長辺が水晶のX軸に平行で、その短辺が水晶のZ′軸に平行なATカットの水晶片である。
この水晶片20は、その両主面に、励振用電極21と引出電極23とを具えている。引出電極23は、励振用電極21から、水晶片20の1つの辺である第1の辺20aの両端付近に、引き出してある。第1の辺20aは、水晶片20の、水晶のX軸の-X側の辺であり、第1の辺20aと対向する第2の辺20bは、水晶片20の、水晶のX軸の+X側の辺である。
この水晶片20は、
図1(A)に示したように、容器30の凹部30a内に実装してある。具体的には、この水晶片20は、その第1の辺20a側のかつ第1の辺20aに沿う両端付近で、容器30の支持パッド30bに、導電性接着剤33によって固定してある。従って、水晶片20は、第1の辺20a側、すなわち水晶片20の水晶のX軸の-X側で、容器30に片持ち保持され、かつ、水晶片20の水晶のX軸の+X側は自由端となっているものである。
容器30としては、例えばセラミック製パッケージを用いることができる。この容器30の外部側の底面には、この圧電デバイス10を他の電子装置に接続するための、外部実装端子30cを設けてある。支持パッド30bと外部実装端子30cとは、図示しないビア配線等によって接続してある。
また、容器30の凹部30aを囲む土手部に、好適な蓋部材35を接合して、水晶片20は容器30内に封止されている。
【0017】
また、水晶片20は、第1の辺20aと対向する第2の辺20bの前記Z′軸に沿う直線部分の寸法をW1と表し、水晶片20の前記Z′軸に沿う寸法をW0と表したとき、W1/W0が0.91以上であり、該直線部分の両側は当該ATカット水晶片の水晶のX軸に沿う辺と略直角の角部20x、20yとなっている。
ここで、略直角の角部20x、20yは、真の直角が理想であるが、既に説明したエッチング異方性等の影響で真の直角からやや異なる略直角になる。具体的には、
図1(A)、
図2(D)に示したように、寸法W1である直線部分の両側は、第2の辺と前記ATカット水晶片の水晶のX軸に沿う辺との成す角度θa、θbを持つ略直角の角部となっている。この角度θa、θbは、後述する実施例、特に実施例2の結果から90~115°が良い。
【0018】
又は、寸法W1である直線部分の両側は、C面取りの表記で表して、前記Z′軸に沿う寸法がC1で、前記X軸に沿う寸法が前記C1より大きいC2で、かつ、C2/C1が所定の範囲である略直角の角部となっている。この所定のC2/C1は、後述する実施例、特に実施例2の結果から、2.7~4.3が良い。
なお、上記したθaとθbは、同じ角度でも異なる角度でも良い。また、左右の略直角の角部でのC2/C2は、左右で同じでも、異なっても良い。
【0019】
ここで、上記θa,θb、C1,C2、W1は、後述する製造方法において説明する第4のパタンの所定幅W(
図4(C)参照)の値や、水晶ウエハをフッ酸系のエッチャントによってエッチングする時間等によって変化する。W1/W0は1若しくは1に近い方が好ましいので、第4のパタンの所定幅Wの値や、水晶ウエハをフッ酸系のエッチャントによってエッチングする時間は、W1/W0が1に近くなるように設定するのが良い。W1/W0が1に近いほど、θa,θbは直角に近づき、C1,C2はゼロに近づく。
【0020】
また、水晶片20の、水晶のZ′軸と交差する側面(Z′面)各々は、
図3(A)、(B)に示したように、第1の面20c,第2の面20dおよび第3の面20eの、3つの面で構成された側面としてある。しかも、第1の面20cは、この水晶片20の主面20fと交わっている面であり、かつ、主面20fを水晶のX軸を回転軸としてθ1回転させた面に相当する面である。
【0021】
然も、第1の面20c、第2の面20dおよび第3の面20eがこの順で交わっている。第2の面20dは、主面20fを水晶のX軸を回転軸としてθ2回転させた面に相当する面であり、第3の面20eは、主面20fを水晶のX軸を回転軸としてθ3回転させた面に相当する面である。然も2つの側面は水晶片の中心点Oに対し点対称の関係となっている。
そして、上記の角度θ1、θ2、θ3は、この出願人に係る実験から、下記が好ましいことが分かっている。θ1=4±3.5°、θ2=-57±5°、θ3=-42±5°、より好ましくは、θ1=4±3°、θ2=-57±3°、θ3=-42±3°である。
この
図3を用いて説明した側面を持つ水晶片の場合、側面が独特な嘴状になっているため、Z′方向に伝搬する不要な振動を減衰でき、圧電デバイスの特性の改善に寄与できる。なお、この構造に関しては、この出願人に係る、特開2016-197778号公報に記載されているので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0022】
また、水晶片20は、特に
図2(B)、
図3(C)に示したように、第2の辺20b(
図2(A)参照)の側が、水晶のX軸に沿ってかつ第2の辺20b側に向かって厚みが薄いテーパー部20t(先端テーパー部20tともいう)となっている。より具体的には、テーパー部20tは、
図3(C)に示したように、第4の面20g、第5の面20h、第6の面20i及び第7の面20jの4つの面で構成されたテーパー部である。第4の面20gと第7の面20jとは、X軸に対し対称であり、第5の面20hと第6の面20iとは、X軸に対し対称である。そして、第4の面20gや第7の面20jと、水晶片20の主面20fとのす角度θ4は、θ4=4±5°、好ましくはθ4=4±3°となっており、第5の面20hや第6の面20iと、水晶片20の主面20fとの成す角度θ5は、θ5=27±5°好ましくはθ5=27±3°となっている。
一方、水晶片20の-X側の端部は、
図3(D)に示したように、水晶のX軸に沿ってかつ第1の辺20a(
図2(A)参照)側に向かって厚みが薄いテーパー部20u(後部テーパー部20uともいう)となっている。後部テーパー部20uは、第8の面20k及び第9の面20mの2つの面で構成されている。第8の面20kと第9の面20mとは、X軸に対し対称である。そして、第8の面20kや第9の面20mと、水晶片20の主面20fとのす角度θ6は、θ6=17±5°好ましくはθ6=17±3°となっている。
【0023】
2. 圧電デバイスの製造方法の説明
次に、
図4(A)~(C)、
図5(A)、(B)を参照して、実施形態の圧電デバイス10を製造する好ましい方法について説明する。なお、
図4(A)~(C)は圧電デバイス10に用いる水晶片20を製造する工程の要部を説明する図である。特に
図4(A)は中間状態の水晶ウエハ30Wを説明する平面図である。
図4(B)は、この水晶ウエハに耐エッチングマスク40を形成した状態を示す図であって、
図4(A)中のM部分を拡大して示した平面図である。
図4(C)は、水晶片20の先端側の角部20x、20yを略直角にする手段を説明するための図であって、
図4(B)中のR部分を拡大して示した平面図である。また、
図5(A)、(B)は、
図4(B)の状態から工程が進んだ状態を説明する図である。
【0024】
この出願の製造方法の発明では、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術によって、水晶片20を製造する。
具体的には、ウエットエッチング用の耐エッチングマスク40(
図4(B)参照)であって、ATカット水晶片20のパタンをマトリクス状に形成する第1マスク部40aと、前記マトリクスの間で、前記Z′軸に相当する方向に沿って伸び、前記X方向に沿って順次に配列された桟形成用のパタンを形成する第2マスク部40bと、当該ウエットエッチング後にATカット水晶片を桟に保持するためのブリッジパタンを形成する第3マスク部40cと、当該ATカット水晶片の前記第2の辺側(先端側)の角部と前記第3マスク部との間に設けられ当該ウエットエッチング完了時には当該箇所の水晶を消失させる所定幅Wを持つ第4マスク部40dと、を有した耐エッチングマスク40を用いて水晶片20を製造する。なお、第4マスク部40dは、第1マスク部40aの水晶片の先端側、すなわち水晶片20の水晶のX軸の+X側の2つの角部に相当する部分と、第2マスク部40bとの間に設ける。
この耐エッチングマスク40は、具体的には、水晶ウエハ20Wの表裏前面に耐エッチング性を持つ金属膜を形成し、その表面にフォトレジストを塗布し、このフォトレジストに対し、上記第1~第4マスク部形成用のホトマスクを用いて露光等をして、その後、金属膜を選択的に除去して、形成することができる。ただし、耐エッチングマスク40は、第4マスク部40dが水晶のX軸の+X側となるように、水晶ウエハ20Wに形成する。
なお、第4マスク部40dの水晶のZ′軸に沿う方向の幅W(
図4(C)参照)は、第4マスク部40d下の水晶部分が、後述の第2エッチング工程終了後に、消失するような所定の幅(実施例等参照)としてある。
【0025】
次に、耐エッチングマスク40を形成した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する、第1エッチング工程を実施する。この第1エッチング工程は、水晶片20の外形を形成するためのものである。
次に、第1エッチングが済んだ水晶ウエハから、前記第1マスク部40aと、第4マスク部40dとを除去する。なお、この実施形態の場合は、第3マスク部40cも除去する。このようなマスク部の加工は、周知のフォトリソグラフィ技術で行える。ただし、第3マスク部40cはその大きさが小さい場合は、除去せずに残存させても良い。
上記の耐エッチングマスクの加工が済むと、第1、第2及び第3マスク部で覆われていた水晶部分が露出する(
図5(A)参照)。
【0026】
次に、第1、第2及び第3マスク部を除去した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する、第2エッチング工程を実施する。この第2エッチング工程は、水晶片20の、周波数調整のため、および、水晶軸のZ′軸と交差する側面に、所定の第1~第3の面を形成するためのものである。上記の第4マスク部40dの除去で露出された水晶部分は、その幅Wを所定幅としてあったので、この第2エッチングにおいて、消失する。このため、水晶片20の、容器に固定しない側の辺である第2の辺20bの両角部20x、20yは、第2エッチング終了ごろに初めて角部として出現するので、ウエットエッチング後でも角部20x、20yは略直角になり、かつ、第2の辺20bの、これら角部20x、20yの間の部分は直線状になる。
【0027】
第2エッチング工程が済んだ水晶ウエハに励振用電極及び引出電極を形成し、この励振用電極等の形成が済んだ水晶ウエハから当該ATカット水晶片を個片化し、個片化した水晶片を、-X側の端部で容器30(
図1参照)に、導電性接着剤によって固定し、その後、容器内を所定雰囲気にした状態で容器を蓋部材で封止することにより、この発明に係る圧電デバイス10を製造できる。
【0028】
3. 実施例および比較例
本発明の理解を深めるために、以下にいくつかの実施例及び比較例を示す。
3-1.実施例1、比較例1:水晶片の先端側の平面形状についての実験
先ず、水晶片の先端の側の平面形状の、圧電デバイスの特性への影響を調べるため、以下の実施例1及び比較例1を実施した。
実施例1の圧電デバイスとして、発振周波数が27.12MHz、X寸法が約870μm、Z′寸法が約640μmのATカットの水晶片を、上記した製造方法によって複数個製造し、それらを容器に実装し、さらに容器を蓋部材によって封止して実施例1の圧電デバイスを複数個製造した。
また、比較例1の圧電デバイスとして、周波数、X寸法、Z′寸法は上記実施例1と同じであるが、水晶片を製造する際、第4マスク部40d(
図4(B)参照)を有していない耐エッチングマスクを用いて、比較例1の水晶片を複数個製造し、それらを容器に実装し、さらに容器を蓋部材によって封止して、比較例1の圧電デバイスを複数個製造した。
ただし、実施例1及び比較例1の水晶片を製造する際は、上記した製造方法において以下を変更している。すなわち、水晶のX軸の-X側が水晶片の先端の側となるように、水晶ウエハに対し耐エッチングマスクを配置した。また、水晶片を容器に固定する際は、水晶片の、水晶のX軸の+側の端部を、導電性接着剤によって容器に固定した。このような結晶軸の配置および固定位置にした方が、後述する水晶片の先端の角部形状の影響度を除外でき、角部形状の影響度のみを判断し易いと考えたためである。
【0029】
図6は、比較例1として製造した水晶片50を模写した平面図である。比較例1の水晶片50は、その先端側、すなわち水晶片の導電性接着剤によって支持する側とは反対側を平面的に見たとき、先端の中央P1から両角部に向かう領域R1、R2各々が略三角形状にエッチングされてしまい、その分だけ水晶片の面積が減少している。
一方、実施例1で用いた水晶片は、第2の辺20bの直線部分の寸法が大きく、かつ、この直線部分の両側が略直角になっている(
図8(B)参照)。すなわち、実施例1の水晶片は平面的に見て比較的長方形状のものになっている。
【0030】
実施例1で用いた複数個の水晶片について、先端側の略直角の角部(
図1、
図2の角部20x、20yに相当する角部)の角度θx、θy(
図1、
図2参照)を、測定顕微鏡によって測定したところ、角度θx、θyは85から90度の範囲になっていることが分かり、又、W1は605~632μmの範囲になっていることが分かった。また、水晶片の中央付近のZ′寸法、すなわち寸法W0は、640μmが狙い目に対し、実測したところ、638~650μの範囲になっていることが分かった。従って、上記W1、W0各々の実測値から、W1/W0を算出すると、下限は、605/650≒0.93であり、上限は632/638≒0.99であるので、実施例1の試料ではW1/W0は、0.93~0.99であると言える。多くは、0.96~0.99であった。
【0031】
また、実施例1で用いた複数個の水晶片および比較例1で用いた複数個の水晶片50の各々の先端部の2つの角部について、C面取りの観点によるC寸法(
図6に示したC寸法参照)を工具顕微鏡によって測定した。その結果、実施例1の水晶片の場合は、C寸法は10~18μmであり、いずれも20μm以下であった。一方、比較施例1の水晶片50の場合は、C寸法は70~95μmであり、いずれも実施例1に比べて7倍~9倍も大きくなっていた。
また、比較例1の水晶片50の先端部の直線部分の寸法を測定したところ、その寸法は130~160μm程度と狭いことが分かった。然も、直線状の部分の端から水晶片の角部に向かってなで肩の形状になっていた。
【0032】
また、実施例1及び比較例1の圧電デバイス各々の電気的特性として、CIを測定した。
図7(A)は、実施例1の圧電デバイスのCIの分布を示した図、
図7(B)は、比較例1の圧電デバイスのCIの分布を示した図である。いずれの図も、横軸にCI(Ω)をとり、縦軸に頻度をとって示してある。いずれもサンプル数は12固である。
実施例1の圧電デバイスのCIの分布では、平均値が83.5Ω、標準偏差が6.6Ωであり、比較例1の圧電デバイスのCIの分布では、平均値が123.6Ω、標準偏差が13.0Ωであった。実施例1方が、CIの平均値で40.1Ω優れており、標準偏差で6.4 Ω優れていた。
【0033】
上記実施例1及び比較例1のCI測定の結果から、水晶片の先端側の辺の直線部分の寸法が大きく両角部が略直角であるほうが、そうで無い場合に比べて、CI改善が図れることが分かる。
【0034】
3-2.実施例2、比較例2:水晶片の先端を+X側とする実験
次に、水晶片の先端を水晶のX軸の+X側とする場合と-X側とする場合の、圧電デバイスの特性への影響度を調べるため、以下の実施例2及び比較例2を実施した。
実施例2の圧電デバイスとして、発振周波数が40MHz、X寸法が約750μm、Z′寸法が約520μmの水晶片20を、上記した製造方法によって複数個製造した。そして、それら水晶片を、水晶の-X側の端部で、導電性接着剤によって容器に固定して、実施例2の圧電デバイス10を複数個製造した。
また、比較例2の圧電デバイスとして、周波数、X寸法、Z′寸法は上記実施例2と同じであるが、上記の製造方法で水晶片を製造する際、実施例2とは逆に、水晶のX軸の-X側が水晶片の先端の側となるように、水晶ウエハに対し耐エッチングマスクを配置して、比較例2の水晶片を複数個製造した。そして、それら水晶片を、水晶の+X側の端部で、導電性接着剤によって容器に固定して、比較例2の圧電デバイスを複数個製造した。
図8(A)は、実施例2の水晶片20を金属顕微鏡によって撮影した写真であり、
図8(B)は、比較例2の水晶片60を金属顕微鏡によって撮影した写真である。2つの写真を比較すると、特に水晶片の先端部の違いが理解できる。
【0035】
そこで、先ず、実施例2の水晶片20の中央部のZ′軸に沿った寸法W0及び第2の辺20bの直線部分の寸法W1と、この直線部分両側の両角部20x、20yの、
図2(D)に示した角度θa、角度θbと、角部20xでの第1のC面取り部の寸法C1及び第2のC面取り部の寸法C2とを、それぞれ測定した。測定した試料数は22個である。それらの測定結果として、表1に、平均値avg、標準偏差σ、最大値Max,最小値Min,avg+3σ、avg-3σを示した。
この表1から、実施例1の試料では、W1のavg-3σ=480.6であり、W0のavg+3σ=524.6であるから、(W1のavg-3σ)/(W0のavg+3σ)=480.6/524.6=0.916である。また、W1のavg+3σ=498.9であり、W0のavg-3σ=520.1であるから、(W1のavg+3σ)/(W0のavg-3σ=498.9/520.1=0.959である。従って、実施例2では、略直角の角部20x、20yの直角度の1つの指標である、W1/W0は、0.916~0.959なので、W1/W0は、悪くとも0.916、すなわち0.91と言える。
また、表1から、実施例2の試料では、略直角の角部20x、20yでの角度θa、θbについては、直角から一番離れた一番大きな角度はavg+3σの欄にある114.7°である。すなわち、約115°である。
【0036】
また、この表1から、実施例2の試料では、寸法C1のavg+3σ=15.4であり、寸法C2のavg-3σ=42.7であるから、(寸法C2のavg-3σ)/(寸法C1のavg+3σ)=42.7/15.4=2.77である。また、寸法C1のavg-3σ=12.2であり、寸法C2のavg+3σ=52.5であるから、(寸法C2のavg+3σ)/(寸法C1のavg-3σ)=52.5/12.2=4.30である。従って、実施例2では、略直角の角部20x、20yの直角度の1つの指標である、C2/C1は、2.77~4.30と言える。なお、この場合の実際のC1は、±3σでみれば、12.2~15.4であり、約16μm以下である。また、実際のC2は、±3σでみれば、42.7~52.5であり、約53μm以下である。
【0037】
【0038】
次に、実施例2の水晶片20及び比較例2の水晶片60(
図8(B)参照)各々の、先端テーパー部の寸法Δxを、測定した。測定した試料数は実施例2及び比較例2各々120個である。それらの測定結果として、表2に、平均値avg、標準偏差σ、最大値Max,最小値Min,avg+3σ、avg-3σを示した。また、
図9に測定結果のヒストグラムを示した。
図9(A)は、実施例2の先端テーパー部の寸法のヒストグラム、
図9(B)は、比較例2の先端テーパー部の寸法のヒストグラムである。いずれの図も、横軸に先端テーパー部の寸法(μm)をとり、縦軸に頻度をとって示してある。
【0039】
表2から、実施例2の水晶片20の先端テーパー部20tのX軸に沿う寸法Δxの平均値は、113.2μm、標準偏差は0.19である。比較例2の水晶片60の先端テーパー部60tのX軸に沿う寸法Δxの平均値は、61μm、標準偏差は0.19である。実施例2の水晶片20の先端テーパー部20tの寸法Δxと、比較例2の水晶片60の先端テーパー部60tの寸法Δxとは、水晶の結晶軸のエッチャントに対する異方性に起因して、差が生じるが、ここで注目すべきことは、標準偏差の違いである。比較例2の水晶片60の先端テーパー部60tのX軸に沿う寸法の標準偏差は、実施例2の値に対し、0.97/0.19=5.1であり、5.1倍も悪い値になっている。水晶振動子の場合、予定の形状を確保でき、かつ、予定の形状でのバラツキが小さい方が、特性の絶対値やバラツキを良化できる。しかも、水晶振動子を設計する場合、水晶片に対する容器との固定部の影響を軽減するため、水晶片の先端側に振動部を偏在させることが多い。従って、水晶片の先端側の形状ばらつきは振動部に影響し易いから、水晶片の先端側の形状ばらつきは小さい方が好ましい。その点、本発明のように水晶片の先端側を水晶の-X側とすることは、好ましい。しかも、水晶片の先端側の角部を略直角とする構成と相俟って、圧電デバイスの特性向上に寄与できる。
また、実施例2の水晶片20の場合、表2中のavg+3σ=113.8μmであり、avg-3σ=112.7μmである。そして、実施例2の水晶片20の厚みTは、36.9μmであるから、avg±3σの値を水晶片20の厚みTで正規化すると、3.053~3.083である。すなわち、ΔX/Tは約3.05~3.09である。
【0040】
【0041】
また、水晶片の先端側を水晶の-X側とすることの利点を示すため、実施例2の圧電デバイス(
図1に示した構造のもの)と、比較例2の圧電デバイスそれぞれのCIを測定した。いずれもサンプル数は580固である。
図10(A)は、実施例2の圧電デバイスのCIの分布を示した図、
図10(B)は、比較例2の圧電デバイスのCIの分布を示した図である。いずれの図も、横軸にCI(Ω)をとり、縦軸に頻度をとって示してある。
実施例2の圧電デバイスのCIの分布では、平均値が32.4Ω、標準偏差が3.2Ωであり、比較例2の圧電デバイスのCIの分布では、平均値が38.4Ω、標準偏差が7.1Ωであった。実施例2の方が、比較例2に比べて、CIの平均値で6Ω優れており、標準偏差で3.9Ω優れていた。この結果から、水晶片の先端側を水晶の-X側とすることが良いことが理解できる。
また、水晶片の先端側を水晶の-X側とすることから、ウエハ状態(
図4(B)参照)では水晶片は、桟に、水晶の+X側の端部で接続された状態になる。水晶片が桟に、水晶の+X側の端部で接続されている方が、水晶片が桟に、水晶の-X側の端部で接続されている場合に比べて、ウエハから各水晶片を個片化する折り取りの際に、水晶片の折り取りした箇所にバリ等が生じにくいことも分かった。この点からも、水晶片の先端側を水晶の-X側とし、かつ、水晶片を水晶の+X側の端部で容器に固定することが、好ましいことが理解できる。
【0042】
上記の各実施例及び比較例から水晶片20の先端側の両角部20x、20yは略直角できれば真の直角であることが良いが、水晶片の先端を水晶軸の+X側にする場合は、実施例2の結果から、両角部20x、20yは、C面取りの表記のC寸法で表したとき、寸法がC1で水晶のZ′軸に沿う第1のC寸法部と、寸法がC2で水晶のX軸に沿い前記第1のC寸法部分より大きい第2のC寸法部と、を持ち、かつ、C2/C1が2.7~4.3の角部であれば、CI改善に好ましいことが確認できている。ただし、C1寸法、C2寸法は、それぞれゼロに近い方がもちろん良い。
また、両角部20x、20yの前記θa、θbが、直角から遠い115°であっても、CI改善が図れていることから、略直角の角部が、前記θa、θbでいって、少なくとも90~115°のものでCI改善ができる。また、W1/W0が、0.916以上、すなわちW1/W0が、0.91以上であれば、CI改善ができる。
【0043】
なお、ATカット水晶片の場合、周波数が違う場合や大きさが違う場合でも、特性改善に対しW1/W0やC2/C1等の比率は有効であることが多い。従って、実施例では2種類の周波数及び大きさの水晶片を用いて本発明の効果を確認したが、本発明は、他の周波数及び大きさの水晶片に対しても適用できると考えられる。本発明は、水晶片の小型化が進めば進むほど、貢献できるものである。
また、例えば、用いる容器は上記例に限られず、例えば、平板状のベースと、水晶片を収納する凹部を持つキャップ状の蓋部材とから成る容器を用いた圧電デバイス等、他の構造の圧電デバイスに対しても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0044】
10:実施形態の圧電デバイス 20:実施形態の水晶片
20a:第1の辺 20b:第2の辺
20c:第1の面 20d:第2の面
20e:第3の面 20f:主面
20g:第4の面 20h:第5の面
20i:第6の面 20j:第7の面
20k:第8の面 20m:第9の面
20t:テーパー部(先端テーパー部)20U:テーパー部(後部テーパー部)
20x、20y:略直角の角部 20W:3水晶ウエハ
30:容器
40:耐エッチングマスク、 40a:第1マスク部
40b:第2マスク部、 40c:第3マスク部
40d:第4マスク部、 50:比較例1の水晶片
60:比較例2の水晶片 60t:先端テーパー部
W1:水晶片の第2の辺の、水晶のZ′軸に沿う直線部分の寸法
W0:水晶片の、水晶のZ′軸に沿う寸法
C1、C2:略直角の角部のC面表記による寸法