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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123289
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】半導体装置の信頼性予測方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20220817BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALI20220817BHJP
【FI】
H01L21/60 321Y
G01N33/2045 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020510
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船矢 琢央
【テーマコード(参考)】
2G055
【Fターム(参考)】
2G055AA05
2G055AA08
2G055BA11
2G055CA02
2G055CA06
2G055FA01
(57)【要約】
【課題】半導体装置の寿命時間を予測する。
【解決手段】信頼性予測方法は、電極パッドとボンディングワイヤとの接合部分における複数の合金相の変化を算出する工程、接合部分の初期クラック構造に基づいて腐食反応に起因する金属酸化物相の生成を設定する工程、接合部分の各指定箇所における弾性歪みエネルギーを算出する工程、各指定箇所における弾性歪みエネルギーに基づいてクラックの進展を設定する工程、クラックの進展によるクラックの長さに基づいて半導体装置の寿命時間を予測する工程、を備える。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、半導体装置の信頼性予測方法:
(a)半導体チップに形成されているアルミニウムを主成分とする電極パッドと、銅を主成分とするボンディングワイヤとの接合部分における処理画像を入力する工程;
(b)前記処理画像に対して、フェーズフィールド法を適用することにより、前記接合部分における複数の合金相の変化を算出する工程;
(c)前記(b)工程で算出された前記複数の合金相の変化を反映した前記処理画像において、クラックが存在し、かつ、前記クラックに接する特定の合金相が存在する場合、前記特定の合金相のクラック接触領域に金属酸化物相を設定する工程;
(d)前記(b)工程での前記複数の合金相の変化の算出結果および前記(c)工程での前記金属酸化物相の設定結果に基づいて、前記接合部分の各指定箇所における弾性歪みエネルギーを算出する工程;
(e)前記(d)工程で算出した前記弾性歪みエネルギーに基づいて、前記接合部分における前記クラックの進展を設定する工程;
(f)前記(e)工程で設定された前記クラックの進展に基づいて、半導体装置の寿命時間を予測する工程。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記(f)工程では、前記クラックの進展による前記クラックの長さが、予め設定された設定長さに到達した時間を前記半導体装置の前記寿命時間と予測する。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記複数の合金相には、CuAl相、Cu9Al4相およびCuAl2相が含まれる。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記特定の合金相は、前記Cu9Al4相であり、
前記金属酸化物相は、酸化アルミニウム相である。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記(d)工程では、前記各指定箇所における前記弾性歪みエネルギーの中で予め設定されたしきい値を超えた前記弾性歪みエネルギーが存在する場合、前記しきい値を超えた前記弾性歪みエネルギーを有する箇所において前記クラックの進展を設定する。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記酸化アルミニウム相における前記しきい値は、前記複数の合金相における前記しきい値よりも低く設定される。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記(b)工程は、第1設定回数繰り返される第1サブルーチン工程であり、
前記(c)工程は、第2設定回数繰り返される第2サブルーチン工程であり、
前記(d)工程は、第3設定回数繰り返される第3サブルーチン工程であり、
前記(e)工程は、前記第3サブルーチン工程に含まれ、
前記(b)工程と前記(c)工程と前記(d)工程と前記(e)工程とが繰り返される。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記処理画像は、前記接合部分の一部領域を画像領域とする。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記処理画像は、前記接合部分の一端部領域から中心領域までを画像領域とする。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
前記(f)工程で使用される前記設定長さは、電気的オープンに相当する長さである。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体装置の信頼性予測方法において、
(g)前記(f)工程による予測結果と実験計画法またはタグチメソッドによる実験結果とを比較することにより、前記半導体装置の信頼性予測方法で使用される複数のパラメータの中から長寿命時間への寄与があるパラメータを抽出する工程、
(h)抽出した前記パラメータを最適化する工程、
(i)最適化された前記パラメータに基づいて、前記電極パッドと前記ボンディングワイヤとの接合構造を設計する工程、
を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の信頼性予測技術に関し、例えば、電極パッドとボンディングワイヤとの接合部の信頼性を予測する技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-57664号公報(特許文献1)には、電極パッドとボンディングワイヤとの接合部の信頼性を向上する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-57664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体装置の開発では、半導体装置の信頼性を確保するために加速信頼性試験(HTSL:High Temperature Storage Life)が行われている。特に、車載用の半導体装置や産業用の半導体装置では、他の用途の半導体装置と比較して高い信頼性が要求されることから、高温で長時間の加速信頼性試験に合格することが要求されている。
【0005】
この点に関し、例えば、現状の技術では、厳しい判断基準(クライテリア)を満たす寿命時間を実現するために、クライテリアまでの加速信頼性試験を実施した後の電気検査によって寿命時間を推定することが行われている。
【0006】
しかしながら、この技術では、寿命時間を推定するために、クライテリアまでの長時間の加速信頼性試験を実施しなければならず、これによって、半導体装置の開発期間の短縮が阻害されている。特に、半導体装置の製品開発では、市場の要求に迅速に応えることが重要であり、半導体装置の開発期間の短縮が望まれている。つまり、クライテリアまでの長時間の加速信頼性試験を実施しなくても、半導体装置の寿命時間を予測する技術を確立することができれば、半導体装置の開発期間の大幅な短縮を図ることができると考えられる。したがって、クライテリアまでの長時間の加速信頼性試験に頼ることなく、半導体装置の寿命時間を予測することができる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態における半導体装置の信頼性予測方法は、電極パッドとボンディングワイヤとの接合部分における複数の合金相の変化を算出する工程、接合部分の初期クラック構造に基づいて腐食反応に起因する金属酸化物相の生成を設定する工程、接合部分の各指定箇所における弾性歪みエネルギーを算出する工程、各指定箇所における弾性歪みエネルギーに基づいてクラックの進展を設定する工程、クラックの進展によるクラックの長さに基づいて半導体装置の寿命時間を予測する工程、を備える。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、半導体装置の寿命時間を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】半導体装置の構成を示す断面図である。
図2図1に示す一部領域の拡大図である。
図3】パッドとボンディングワイヤとの接合部を拡大して示す図である。
図4】信頼性予測装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5】信頼性予測装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図6】(a)は、パッドとワイヤとの接合部におけるSEM、STEMなどによる解析像とEDXなどによる元素分析を行うことにより取得された「初期解析像」を示す図であり、(b)は、「初期解析像」の一部領域を拡大して示す図である。
図7図6(b)に示す「初期解析像」に対して色付けを施すことにより取得された「処理画像」を示す図である。
図8】信頼性予測装置の動作を説明するフローチャートである。
図9】信頼性予測装置の動作を説明するフローチャートである。
図10】(a)は、初期の「処理画像」を示す図であり、(b)は、1200時間経過後の「処理画像」を示す図であり、(c)は、1600時間経過後の「処理画像」を示す図である。
図11】接合部の構造設計を行う流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0011】
<半導体装置の構成>
図1は、半導体装置の構成を示す断面図である。
【0012】
図1において、半導体装置10は、チップ搭載部DPを有しており、このチップ搭載部DP上には、例えば、接着材を介して半導体チップCHPが搭載されている。
【0013】
半導体チップCHPには、集積回路が形成されている。具体的に、半導体チップCHPは、半導体基板と、半導体基板の主面に形成された複数の電界効果トランジスタと、半導体基板上に形成された配線層とを有し、この配線層には、電界効果トランジスタと電気的に接続される複数の配線が形成されている。このように構成されている半導体チップCHPでは、複数の電界効果トランジスタと複数の配線とを接続することにより構成される複数の集積回路が形成されている。これらの複数の集積回路によって、CPU、RAM、アナログ回路あるいは不揮発性メモリなどが実現されている。
【0014】
次に、図1に示すように、半導体チップCHPには、集積回路と電気的に接続されるパッドPDが形成されており、このパッドPDは、ボンディングワイヤWを介してリードLDと電気的に接続されている。そして、チップ搭載部DP、半導体チップCHP、ボンディングワイヤWおよびリードLDの一部分は、例えば、エポキシ樹脂から構成される封止体MRで封止されている。このようにして、半導体装置10が構成されている。
【0015】
<接合部の構成>
続いて、半導体チップCHPに形成されているパッドPDとボンディングワイヤWとの接合部の構成について説明する。
【0016】
図2は、図1に示す領域Aの拡大図である。
【0017】
図2において、絶縁層IL上にパッドPDが形成されており、このパッドPDを覆うように表面保護膜であるパッシベーション膜PASが形成されている。そして、パッドPDの表面の一部は、パッシベーション膜PASから露出しており、露出しているパッドPDの表面にボンディングワイヤWの一部であるボール部BLが接続されている。このようにして、ボンディングワイヤWの一部であるボール部BLとパッドPDとの間に接合部が形成される。例えば、ボール部BLの直径は39μmであり、接合部の断面における直径は、実際の接合部の観察により30μmである。
【0018】
ここで、絶縁層ILは、例えば、酸化シリコン膜から形成されており、パッシベーション膜PASは、例えば、窒化シリコン膜から形成されている。
【0019】
また、パッドPDは、アルミニウムを主成分とする材料から構成されている。「アルミニウムを主成分とする材料」とは、パッドPDを構成する材料の中で最も多く含まれている材料がアルミニウムであることを意味しており、パッドPDを構成する材料がアルミニウム以外の成分を含んでもよいことを意図している。すなわち、「アルミニウムを主成分とする材料」という表現は、基本的に、パッドPDはアルミニウムから構成されるが、その他の元素成分を含んでいても構わないことを表現する意図で使用されている。
【0020】
さらに、ボール部BLを含むボンディングワイヤWは、銅を主成分とする材料から構成されている。「銅を主成分とする材料」とは、ボンディングワイヤWを構成する材料の中で最も多く含まれている材料が銅であることを意味しており、ボンディングワイヤWを構成する材料が銅以外の成分を含んでもよいことを意図している。すなわち、「銅を主成分とする材料」という表現は、基本的に、ボンディングワイヤWは銅から構成されるが、その他の元素成分を含んでいても構わないことを表現する意図で使用されている。
【0021】
<接合部の信頼性を低下させる要因>
パッドPDとボンディングワイヤWとの接合部の信頼性は、パッドPDとボンディングワイヤWとの間の電気的な接続を確保するために重要である。なぜなら、接合部の信頼性が低下すると、パッドPDとボンディングワイヤWとの間の電気的な接続を確保することができなくなるからである。例えば、時間が経過するにつれて、パッドPDとボンディングワイヤWとの接合部に生じたクラックが成長することが知られている。そして、接合部に生じたクラックが成長すると、このクラックに起因して、パッドPDとボンディングワイヤWとの間の電気的な接続が阻害されることになり、これによって、半導体装置が正常な動作をしなくなる。つまり、接合部におけるクラックの成長は、半導体装置の寿命を決定する重要な要因であり、半導体装置の寿命を推定するためには、接合部におけるクラックの成長のメカニズムを把握することが必要不可欠である。
【0022】
<クラックの成長メカニズム>
この点に関し、本発明者は、鋭意検討した結果、以下に示すクラックの成長メカニズムを推定したので、このメカニズムについて説明する。
【0023】
図3は、パッドとボンディングワイヤとの接合部を拡大して示す図である。
【0024】
図3において、パッドPDとボンディングワイヤWとの接合部には、外部応力と、内部歪みによる応力とが加わる。ここで、外部応力は、例えば、図1における半導体チップCHPと封止体MRとの熱膨張係数の相違に起因する応力や、パッドPDとボンディングワイヤWとの熱膨張係数の相違に起因する応力などが含まれる。すなわち、半導体チップCHPは、シリコンから構成される一方、封止体MRは、エポキシ樹脂から構成されることから、半導体チップCHPを構成する材料と封止体MRを構成する材料とが相違する。このことは、半導体チップCHPの熱膨張係数と封止体MRの熱膨張係数とが相違することを意味し、これによって、パッドPDとボンディングワイヤWとの接合部には、外部応力が加わる。また、接合部には、内部歪みによる応力が加わる。この内部歪みによる応力は、以下に示すメカニズムで発生すると考えられる。つまり、パッドPDは、アルミニウムを主成分とする材料から構成される一方、ボンディングワイヤWは、銅を主成分とする材料から構成される。この結果、パッドPDとボンディングワイヤWとの接合部には、アルミニウムと銅の合金相が形成される。具体的に、接合部には、アルミニウムと銅の合金相として、「CuAl相」、「Cu9Al4相」および「CuAl2相」が形成される。そして、これらの合金相の結晶構造は異なることから、「CuAl相」、「Cu9Al4相」および「CuAl2相」が混在する接合部では、結晶格子のミスマッチや弾性係数の相違に起因して歪みが発生する。この結果、接合部では、歪みに起因する応力が発生する。この応力が、本明細書でいう内部歪みによる応力である。
【0025】
このようにして、図3に示すように、接合部には、外部応力と内部歪みによる応力が加わるため、これらの応力に起因して、接合部にクラックCLKが発生する。
【0026】
そして、本発明者は、複数の合金相のうち、「Cu9Al4相」がクラックの成長に関与していることを新規な知見として見出している。すなわち、本発明者は、例えば、接合部に初期クラックが存在し、この初期クラックと「Cu9Al4相」とが接触している領域では、「Cu9Al4相」のクラック露出領域に酸化反応による酸化アルミニウム相(Al23相)が形成される。すなわち、酸化アルミニウム相は、封止体MRを構成する樹脂に含まれる硫黄成分が水和物となり、この水和物が初期クラックに浸入する状況において、この初期クラックと「Cu9Al4相」とが接触している領域では、「Cu9Al4相」のクラック露出領域に酸化反応による酸化アルミニウム相(Al23相)が形成される。そして、酸化アルミニウム相は、合金相よりも脆い性質があることから、形成された酸化アルミニウム相を介してクラックCLKが成長する。以上のようなメカニズムによって、本発明者は、接合部におけるクラックCLKが成長すると推測している。
【0027】
以下では、上述したクラックCLKの成長メカニズムに基づくシミュレーションによって、半導体装置の信頼性を予測する技術的思想を説明する。
【0028】
<信頼性予測装置の構成>
<<ハードウェア構成>>
まず、本実施の形態における信頼性予測装置のハードウェア構成について説明する。
【0029】
図4は、本実施の形態における信頼性予測装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、図4に示す構成は、あくまでも信頼性予測装置100のハードウェア構成の一例を示すものであり、信頼性予測装置100のハードウェア構成は、図4に記載されている構成に限らず、他の構成であってもよい。
【0030】
図4において、信頼性予測装置100は、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)101を備えている。このCPU101は、バス113を介して、例えば、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、および、ハードディスク装置112と電気的に接続されており、これらのハードウェアデバイスを制御するように構成されている。
【0031】
また、CPU101は、バス113を介して入力装置や出力装置とも接続されている。入力装置の一例としては、キーボード105、マウス106、通信ボード107、および、スキャナ111などを挙げることができる。一方、出力装置の一例としては、ディスプレイ104、通信ボード107、および、プリンタ110などを挙げることができる。さらに、CPU101は、例えば、リムーバルディスク装置108やCD/DVD-ROM装置109と接続されていてもよい。
【0032】
信頼性予測装置100は、例えば、ネットワークと接続されていてもよい。例えば、信頼性予測装置100がネットワークを介して他の外部機器と接続されている場合、信頼性予測装置100の一部を構成する通信ボード107は、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)やインターネットに接続されている。
【0033】
RAM103は、揮発性メモリの一例であり、ROM102、リムーバルディスク装置108、CD/DVD-ROM装置109、ハードディスク装置112の記録媒体は、不揮発性メモリの一例である。これらの揮発性メモリや不揮発性メモリによって、信頼性予測装置100の記憶装置が構成される。
【0034】
ハードディスク装置112には、例えば、オペレーティングシステム(OS)201、プログラム群202、および、ファイル群203が記憶されている。プログラム群202に含まれるプログラムは、CPU101がオペレーティングシステム201を利用しながら実行する。また、RAM103には、CPU101に実行させるオペレーティングシステム201のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一次的に格納されるとともに、CPU101による処理に必要な各種データが格納される。
【0035】
ROM102には、BIOS(Basic Input Output System)プログラムが記憶され、ハードディスク装置112には、ブートプログラムが記憶されている。信頼性予測装置100の起動時には、ROM102に記憶されているBIOSプログラムおよびハードディスク装置112に記憶されているブートプログラムが実行され、BIOSプログラムおよびブートプログラムにより、オペレーティングシステム201が起動される。
【0036】
プログラム群202には、信頼性予測装置100の機能を実現するプログラムが記憶されており、このプログラムは、CPU101により読み出されて実行される。また、ファイル群203には、CPU101による処理の結果を示す情報、データ、信号値、変数値やパラメータがファイルの各項目として記憶されている。
【0037】
ファイルは、ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記録される。ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記録された情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、CPU101によりメインメモリやキャッシュメモリに読み出され、抽出・検索・参照・比較・演算・処理・編集・出力・印刷・表示に代表されるCPU101の動作に使用される。例えば、上述したCPU101の動作の間、情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、メインメモリ、レジスタ、キャッシュメモリ、バッファメモリなどに一次的に記憶される。
【0038】
信頼性予測装置100の機能は、ROM102に記憶されたファームウェアで実現されていてもよいし、あるいは、ソフトウェアのみ、素子・デバイス・基板・配線に代表されるハードウェアのみ、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実現されていてもよい。ファームウェアとソフトウェアは、プログラムとして、ハードディスク装置112、リムーバルディスク、CD-ROM、DVD-ROMなどに代表される記録媒体に記録される。プログラムは、CPU101により読み出されて実行される。すなわち、プログラムは、コンピュータを信頼性予測装置100として機能させるものである。
【0039】
このように、信頼性予測装置100は、処理装置であるCPU101、記憶装置であるハードディスク装置112やメモリ、入力装置であるキーボード105、マウス106、通信ボード107、出力装置であるディスプレイ104、プリンタ110、通信ボード107を備えるコンピュータである。そして、信頼性予測装置100の機能は、処理装置、記憶装置、入力装置、および、出力装置を利用して実現される。
【0040】
<<機能ブロック構成>>
次に、信頼性予測装置100の機能ブロック構成について説明する。
【0041】
図5は、半導体装置の信頼性予測装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0042】
図5において、本実施の形態における信頼性予測装置100は、入力部301と、合金相変化算出部302と、金属酸化物相設定部303と、弾性歪みエネルギー算出部304と、クラック進展設定部305と、寿命時間予測部306と、出力部307と、データ記憶部308を有している。
【0043】
入力部301は、半導体チップに形成されているアルミニウムを主成分とする電極パッドと、銅を主成分とするボンディングワイヤとの接合部における処理画像を入力するように構成されている。入力部301に入力される処理画像は、信頼性予測装置100において作成されてもよいし、信頼性予測装置100とは異なる別の処理画像作成装置で作成された処理画像を入力部301から入力するように構成することもできる。
【0044】
例えば、入力部301に入力される処理画像は、以下のようにして作成される。すなわち、まず、半導体装置のサンプルを抜き取り、抜き取ったサンプルをFIB(Focused ion beam)で断面加工を施した後、SEM、STEMおよびEDXなどによって接合部の構造解析と元素分析を実施する。そして、接合部の構造解析および元素分析に基づいて、接合部を構成する複数の合金相に対して色分けすることにより処理画像を作成する。
【0045】
なお、シミュレーションでの想定温度や保管時間は毎回の入力情報としてもよいが、プログラム中に直接書き込んでおくことも可能である。
【0046】
具体的に、図6(a)は、パッドとワイヤとの接合部におけるSEM、STEMなどによる解析像とEDXなどによる元素分析を行うことにより取得された「初期解析像」を示す図である。ここで、図6(a)において、「領域B」は、接合部全体を包含する領域であり、例えば、接合部の全体長さが30μmの領域である。一方、「領域A」は、接合部の一部領域を示しており、詳細には、接合部の一端部領域から中心領域まで領域を示している。例えば、「領域B」においては、接合幅が1.875μmであり、接合長さが15μmの領域である。本実施の形態では、「初期解析像」として、「領域B」の解析像を使用することもできるし、「領域A」の解析像を使用することもできる。ただし、シミュレーションを実施するための計算時間を短くする観点から、対称性を考慮して「領域A」の解析像を「初期解析像」として使用することが望ましい。
【0047】
図6(b)は、「領域A」の解析像を拡大して示す図である。図6(b)には、複数の合金相として、「CuAl相」、「Cu9Al4相」および「CuAl2相」が含まれているとともに、クラック(ボイド)も含まれており、これらの合金相およびクラックが異なる濃淡領域(グレースケール領域)で示されている。
【0048】
このようにして取得された図6(b)に示す「初期解析像」は、例えば、画像ソフトを使用することにより、複数の合金相およびクラックを明確に識別可能なように色分けされる。具体的に、図7は、図6(b)に示す「初期解析像」に対して色付けを施すことにより取得された「処理画像」を示す図である。ただし、図7においては、色付けを示すことはできないため、複数の合金相およびクラックが濃淡領域で示されているが、実際に使用される「処理画像」では、図7を色付けした「処理画像」が作成される。
【0049】
以上のようにして作成された「処理画像」は、信頼性予測装置100の入力部301に入力された後、データ記憶部308に記憶される。
【0050】
合金相変化算出部302は、データ記憶部308に記憶されている「処理画像」に対して、フェーズフィールド法を適用することにより、接合部における複数の合金相の変化を算出するように構成されている。具体的に、合金相変化算出部302では、銅やアルミニウムと共に複数の合金相に含まれる「CuAl相」、「Cu9Al4相」および「CuAl2相」の拡大あるいは縮小を算出するように構成されている。ここで、フェーズフィールド法とは、定義された相の自由エネルギーを算出して、自由エネルギーが小さい相は安定相として成長させる一方、自由エネルギーが大きい相は不安定相として縮小させるとともに、相を構成する原子の拡散に基づく元素濃度も考慮して、複数の合金相の成長あるい縮小と元素濃度の変化を算出する手法である。本実施の形態における合金相変化算出部302では、このフェーズフィールド法を使用することにより、接合部における「CuAl相」、「Cu9Al4相」および「CuAl2相」の相変化を反映した「処理画像」を生成するように構成されている。
【0051】
金属酸化物相設定部303は、合金相変化算出部302で算出された複数の合金相の変化を反映した「処理画像」において、クラックが存在し、かつ、クラックに接する特定の合金相が存在する場合、特定の合金相のクラック接触領域に金属酸化物相を設定するように構成されている。例えば、金属酸化物相設定部303は、クラックが存在し、かつ、クラックに接する「Cu9Al4相」が存在する場合、「Cu9Al4相」のクラック接触領域に酸化アルミニウム相を設定するように構成されている。つまり、金属酸化物相設定部303では、「<クラックの成長メカニズム>」で説明したように、接合部に初期クラックが存在し、この初期クラックと「Cu9Al4相」とが接触している領域では、「Cu9Al4相」のクラック露出領域に酸化反応による酸化アルミニウム相(Al23相)が形成されるという知見に基づき、「処理画像」において、初期クラックと「Cu9Al4相」とが接触している領域を認識すると、この領域に酸化アルミニウム相が設定される。
【0052】
弾性歪みエネルギー算出部304は、合金相変化算出部302での複数の合金相の変化の算出結果および金属酸化物相設定部303での金属酸化物相の設定結果に基づいて、接合部の各指定箇所における弾性歪みエネルギーを算出するように構成されている。
【0053】
弾性歪みエネルギー算出部304は、例えば、有限要素法による半導体チップと封止体との熱膨張係数の相違などに基づく外部応力と、フェーズフィールド法により算出された結晶構造の異なる複数の合金相が混在する接合部での結晶格子のミスマッチや弾性係数の相違に起因して発生する内部歪みによる応力を考慮しながら、接合部の各指定箇所のそれぞれにおける弾性歪みエネルギーを算出するように構成されている。ここで、「各指定箇所」とは、例えば、シミュレーションでのメッシュ座標(要素点)である。
【0054】
クラック進展設定部305は、弾性歪みエネルギー算出部304で算出された弾性歪みエネルギーに基づいて、接合部におけるクラックの進展を設定するように構成されている。具体的に、クラック進展設定部305は、各指定箇所における弾性歪みエネルギーの中で予め設定されたしきい値を超えた弾性歪みエネルギーが存在する場合、しきい値を超えた弾性歪みエネルギーを有する箇所においてクラックの進展を設定するように構成されている。このとき、例えば、酸化アルミニウム相は、合金相と比較して脆く、弾性率が大きいため、弾性歪みエネルギーの上昇を招きやすく、他の合金組織と比較して、弾性歪みエネルギーのしきい値を超えやすい性質がある。例えば、しきい値は、信頼性初期1000時間程度での実態観察とシミュレーションとを比較することで最適化した値に設定されて、1000時間以上の長時間の信頼性予測に使用される。
【0055】
寿命時間予測部306は、クラック進展設定部305で設定されたクラックの進展に基づいて半導体装置の寿命時間と予測するように構成されている。例えば、寿命時間予測部306は、クラックの進展によるクラックの長さが、予め設定された設定長さに到達した時間を半導体装置の寿命時間と予測するように構成されている。このとき、寿命時間予測部306で使用される設定長さは、電気的オープンに相当する長さである。つまり、寿命時間予測部306は、クラックの長さが電気的オープンに相当する長さに達すると、半導体装置が正常に動作しなくなることを考慮して、半導体装置が寿命に達したと判断する。また、半導体装置の寿命時間を予測することは、クラックの長さ(クラック長さ)の成長を予測することでもある。
【0056】
出力部307は、予め設定された経過時間毎、もしくは、後述する「Time1」、「Time2」の設定間隔毎に、合金相変化算出部302の処理結果と、金属酸化物相設定部303の処理結果と、弾性歪みエネルギー算出部304の処理結果と、クラック進展設定部305の処理結果のいずれか、または、全てを出力する。また、寿命時間予測部306で予測された寿命時間を出力する。
【0057】
以上のようにして、本実施の形態における信頼性予測装置100が構成されている。
【0058】
<信頼性予測装置の動作(信頼性予測方法)>
続いて、信頼性予測装置100の動作について説明する。
【0059】
図8および図9は、信頼性予測装置の動作を説明するフローチャートである。
【0060】
図8において、まず、入力部301は、半導体チップに形成されているアルミニウムを主成分とする電極パッドと、銅を主成分とするボンディングワイヤとの接合部における「処理画像」を入力する(S101)。さらに、入力部301は、シミュレーションを実行するための設定条件を入力する(S102)。例えば、設定条件として、合金相の変化の算出演算を第1サブルーチンで実行する場合のループ数、金属酸化物相の設定(腐食反応計算)を第2サブルーチンで実行する場合の間隔、弾性歪みエネルギーの算出演算を第3サブルーチンで実行する場合のループ数などを挙げることができる。
【0061】
また、シミュレーションを実行するための設定条件として、制御因子としての外部応力、物質パラメータとしての粒界の易動度、腐食反応速度に影響を与えるCuSO4の分圧、SO2の濃度、弾性歪みエネルギーのしきい値などのパラメータも設定する。なお、シミュレーションでの想定温度や保管時間は毎回シミュレーション前に入力してもよいが、プログラム中に直接書き込んでおくことも可能である。
【0062】
また、「処理画像」や「設定条件」は、データ記憶部308に記憶される。
【0063】
次に、「Time1=0」とする(S103)。そして、合金相変化算出部302は、データ記憶部308に記憶されている「処理画像」に対して、フェーズフィールド法を適用することにより、接合部における複数の合金相の変化を算出する(S104)。具体的に、合金相変化算出部302では、フェーズフィールド法を使用して算出される各合金相の自由エネルギーに基づいて、複数の合金相に含まれる「CuAl相」、「Cu9Al4相」および「CuAl2相」の拡大あるいは縮小という経時変化が算出される。
【0064】
続いて、「Time1=Time1+1」とした後(S105)、設定した時間間隔に達したか否かを判断する(S106)。設定した時間間隔に達した場合は、接合部に初期クラックが存在し、この初期クラックと「Cu9Al4相」とが接触している領域において、「Cu9Al4相」のクラック露出領域に酸化反応による酸化アルミニウム相(Al23相)が形成されるという腐食反応を反映するために、金属酸化物相設定部303は、「処理画像」において、初期クラックと「Cu9Al4相」とが接触している領域を認識すると、この領域に酸化アルミニウム相を設定する(S107)。一方、設定した時間間隔に達していない場合には、金属酸化物相設定部303による酸化アルミニウム相の設定は行われない。
【0065】
その後、「Time1」が設定数に達したか否かが判断される(S108)。「Time1」が設定数に達していない場合は、合金相変化算出部302による演算が繰り返される。すなわち、合金相変化算出部302による演算処理は、「Time1」の設定回数だけ繰り返されるサブルーチン処理となっている。一方、金属酸化物相設定部303による演算処理は、「設定した時間間隔」で繰り返されるサブルーチン処理となっている。
【0066】
この構成は、合金相が変化するタイムスケールと、腐食反応によって酸化アルミニウム相が形成されるタイムスケールとが相違することを考慮したものである。例えば、「Time1」の設定回数が「100」であり、かつ、「設定した時間間隔」が「Time1が10の倍数になった場合だけ処理を実行する時間間隔」であるとする。この場合、合金相変化算出部302によるサブルーチン処理が100回繰り返される間に、金属酸化物相設定部303によるサブルーチン処理は10回繰り返されることになる。これにより、合金相が変化するタイムスケールと、腐食反応によって酸化アルミニウム相が形成されるタイムスケールとを相違させることできる。このようにして、本実施の形態では、互いにタイムスケールの異なるサブルーチン処理をシミュレーションに組み込むことができる。
【0067】
なお、初期クラックと「Cu9Al4相」とが接触している領域で、「Time1=0」の時点で、既に酸化アルミニウム相(Al23相)が形成されていると考える場合に、図8のフローチャートにおいて、(S101)と(S102)の後で、かつ、(S103)より前または(S103)と(S104)の間において、(S107)の金属酸化物相を設定するステップを設けてもよい。
【0068】
次に、「Time1」が設定数に達している場合、「Time2=0」に設定した後(S109)、弾性歪みエネルギー算出部304は、合金相変化算出部302での複数の合金相の変化の算出結果および金属酸化物相設定部303での金属酸化物相の設定結果に基づいて、接合部の各指定箇所における弾性歪みエネルギーを算出する(S110)。例えば、弾性歪みエネルギー算出部304は、設定した外部応力と、結晶構造の異なる複数の合金相が混在する接合部での結晶格子のミスマッチや弾性係数の相違に起因して発生する内部歪みによる応力を考慮しながら、接合部の各指定箇所のそれぞれにおける弾性歪みエネルギーを算出する。
【0069】
続いて、クラック進展設定部305は、弾性歪みエネルギー算出部304で算出された弾性歪みエネルギーに基づいて、接合部におけるクラックの進展を設定する(S111)。具体的に、クラック進展設定部305は、各指定箇所における弾性歪みエネルギーの中で予め設定されたしきい値を超えた弾性歪みエネルギーが存在する場合、しきい値を超えた弾性歪みエネルギーを有する箇所においてクラックの進展を設定する。
【0070】
そして、「Time2=Time2+1」とした後(S112)、「Time2」が設定数に達したか否かが判断される(S113)。「Time2」が設定数に達していない場合、弾性歪みエネルギー算出部304による演算が繰り返される。すなわち、弾性歪みエネルギー算出部304による演算処理は、「Time2」の設定回数だけ繰り返されるサブルーチン処理となっている。一方、「Time2」が設定数に達している場合、予め設定されている設定保持時間に到達しているか否かが判断される(S114)。予め設定されている設定保持時間に到達していない場合には、S104に戻り、合金相変化算出部302による演算処理(第1サブルーチン処理)と金属酸化物相設定部303による演算処理(第2サブルーチン処理)と弾性歪みエネルギー算出部304による演算処理(第3サブルーチン処理)とクラック進展設定部305による演算処理が繰り返される。
【0071】
一方、予め設定されている設定保持時間に到達している場合、寿命時間予測部306は、クラック進展設定部305で設定されたクラックの進展に基づいて半導体装置の寿命時間と予測する(S115)。例えば、寿命時間予測部306は、クラックの進展によるクラックの長さが、予め設定された設定長さに到達した時間を半導体装置の寿命時間と予測する。具体的に、寿命時間予測部306は、クラックの長さが電気的オープンに相当する長さに達すると、半導体装置が正常に動作しなくなることを考慮して、半導体装置が寿命に達したと判断する。その後、出力部307は、寿命時間予測部306で予測された寿命時間を出力する(S116)。以上のようにして、本実施の形態における信頼性予測装置100を動作させることにより、半導体装置の信頼性予測方法が実現される。
【0072】
本実施の形態によれば、例えば、環境温度200℃で、想定保持時間1200時間後および1600時間後における合金相の変化およびクラック長のシミュレーション結果が、実際の接合部の観察結果と比較して、相違がないことを確認することができた。さらに、本実施の形態におけるシミュレーションを継続して、例えば、約3000時間後に接合部の長さと同等の長さとなるまでクラックを進展させて接合部の破断と判断するまで、本実施の形態における信頼性予測装置100を動作させることができた。
【0073】
図10は、本実施の形態におけるシミュレーションを実施した際の「処理画像」の変化を示す図である。特に、図10(a)には、初期の「処理画像」が示されており、図10(b)には、1200時間経過後の「処理画像」が示されており、図10(c)には、1600時間経過後の「処理画像」が示されている。図10(a)~図10(c)に示すように、時間の経過とともにクラックの進展がシミュレーションされていることがわかる。
【0074】
<信頼性予測プログラム>
上述した信頼性予測装置100で実施される信頼性予測方法は、信頼性予測処理をコンピュータに実行させる信頼性予測プログラムにより実現することができる。
【0075】
例えば、図4に示すコンピュータからなる信頼性予測装置100において、ハードディスク装置112に記憶されているプログラム群202の1つとして、本実施の形態における信頼性予測プログラムを導入することができる。そして、この信頼性予測プログラムを信頼性予測装置100であるコンピュータに実行させることにより、本実施の形態における信頼性予測方法を実現することができる。
【0076】
信頼性予測処理に関するデータを作成するための各処理をコンピュータに実行させる信頼性予測プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して頒布することができる。記録媒体には、例えば、ハードディスクやフレキシブルディスクに代表される磁気記憶媒体、CD-ROMやDVD-ROMに代表される光学記憶媒体、ROMやEEPROMなどの不揮発性メモリに代表されるハードウェアデバイスなどが含まれる。
【0077】
<実施の形態における効果>
本実施の形態によれば、クラックの進展シミュレーションに基づいて、半導体装置の寿命時間を予測することができることから、クライテリアまでの長時間の加速信頼性試験に頼ることなく、短期間で半導体装置の寿命時間を予測することができる。この結果、本実施の形態によれば、製品の開発期間の短縮を図ることができる。
【0078】
そして、本実施の形態によれば、製品の開発期間の短縮を図ることができることから、工数および開発費の削減による半導体装置の低コスト化を図ることができる。
【0079】
特に、本実施の形態によれば、実際のサンプルから取得した接合部の初期画像に基づいて、接合部の信頼性(寿命時間)を予測することができるため、予測精度を向上できる。
【0080】
また、シミュレーションを通じて、初期の「処理画像」と所望の経過時間後の「処理画像」とを比較できる結果、合金相の変化やクラックの成長を可視化することができる。
【0081】
さらに、本実施の形態における技術的思想を活用することにより、以下に示す効果を得ることができる。例えば、200℃などの加速信頼性試験で保管されているサンプルにおいて保管期間が1200時間程度のタイミングで観察したクラック長と、本実施の形態におけるシミュレーション結果との相関関係を確認することにより、シミュレーションで使用されるパラメータ設定値(係数設定値)を最適化して、クラックの成長速度と寿命時間の予測精度を向上することができる。また、本実施の形態における技術的思想を活用することにより、3000時間、5000時間後などの長期保管期間後の合金相の変化やクラックの進展を可視化して予測することができる。
【0082】
さらに、本実施の形態における技術的思想(シミュレーション技術)を活用することにより、接合部の不良が発生した際に、シミュレーションによる対策の提案とこの対策による効果予測を早期に実施することができるとともに、部材やプロセスを変更した際にも、シミュレーションによって、部材やプロセスを変更した際の影響を予測できる。
【0083】
<構造設計への応用>
例えば、本実施の形態における技術的思想が実現される以前では、接合部の構造設計において長期間の信頼性試験が必要とされていたため、接合部の構造設計に長期間の開発時間が必要とされていた。そして、接合部の観察では、接合部の不良に至るメカニズムの検証が困難であった。つまり、接合部の構造設計の根拠は、長期間の信頼性試験でしか証明することができていなかった。
【0084】
この点に関し、本実施の形態における技術的思想を接合部の構造設計に適用することにより、接合部の構造設計に長期間の信頼性試験が不要となる。この結果、本実施の形態における技術的思想を使用して接合部の構造設計を行うことにより、開発時間の短縮を図ることができる。さらには、シミュレーションによって、接合部の不良に至るメカニズムの検証を行うことができることから、長期間の信頼性試験に頼らなくても、接合部の構造設計の根拠を証明することが可能となる点で、接合部の構造設計に与える影響は大きい。
【0085】
以下では、信頼性予測技術を接合部の構造設計に適用する例を説明する。
【0086】
図11は、接合部の構造設計を行う流れを示すフローチャートである。
【0087】
図11において、まず、本実施の形態における信頼性予測技術(シミュレーション技術)によって、任意の環境温度と保管時間での接合部の組織成長およびクラック長さを予測する(S201)。次に、組織成長とクラック長さについて、同じ環境温度と保管時間における予測結果と実験結果とを比較する(S202)。例えば、接合部の初期の「処理画像」から把握される合金相(「CuAl相」、「Cu9Al4相」および「CuAl2相」)ごとの相厚や面積やクラックとの位置関係に基づいて、要因効果を求めるためのパラメータを抽出する。そして、抽出したパラメータを「L18等直交表」に割り付けた後、実験計画法/タグチメソッドを使用して得られた実験結果と、本実施の形態におけるシミュレーション結果とを比較することにより、クラックの成長速度に対する要因効果を求める。
【0088】
ここで、パラメータの例としては、合金相の変化の算出演算を第1サブルーチンで実行する場合のループ数、金属酸化物相の設定(腐食反応計算)を第2サブルーチンで実行する場合の間隔、弾性歪みエネルギーの算出演算を第3サブルーチンで実行する場合のループ数などを挙げることができる。さらには、パラメータの他の例として、制御因子としての外部応力、物質パラメータとしての粒界の易動度、腐食反応速度に影響を与えるCuSO4の分圧、SO2の濃度、弾性歪みエネルギーのしきい値などが挙げられる。
【0089】
続いて、予測結果と実験結果とを比較することにより求められた要因効果に基づいて、クラック長さの成長速度を抑制して長寿命時間への寄与のあるパラメータを抽出する(S203)。そして、抽出したパラメータの最適化を行った後、予測寿命を確認して(S204)、最適化したパラメータを接合部の接合構造に反映する(S205)。このようにして、本実施の形態におけるシミュレーション技術を使用して接合部の構造設計を行うことができる。
【0090】
このような構造設計手法によれば、長期間の信頼性試験が不要となることから、開発時間の短縮を図ることができる。また、シミュレーション技術によって、接合部の不良に至るメカニズムの検証を行うことができる。
【0091】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0092】
前記実施の形態は、以下の形態を含む。
【0093】
(付記1)
以下を含む、半導体装置の信頼性予測装置:
半導体チップに形成されているアルミニウムを主成分とする電極パッドと、銅を主成分とするボンディングワイヤとの接合部分における処理画像を入力する入力部;
前記処理画像に対して、フェーズフィールド法を適用することにより、前記接合部分における複数の合金相の変化を算出する合金相変化算出部;
前記合金相変化算出部で算出された前記複数の合金相の変化を反映した前記処理画像において、クラックが存在し、かつ、前記クラックに接する特定の合金相が存在する場合、前記特定の合金相のクラック接触領域に金属酸化物相を設定する金属酸化物相設定部;
前記合金相変化算出部での前記複数の合金相の変化の算出結果および前記金属酸化物相設定部での前記金属酸化物相の設定結果に基づいて、前記接合部分の各指定箇所における弾性歪みエネルギーを算出する弾性歪みエネルギー算出部;
前記弾性歪みエネルギー算出部で算出された前記弾性歪みエネルギーに基づいて、前記接合部分における前記クラックの進展を設定するクラック進展設定部;
前記クラック進展設定部で設定された前記クラックの進展に基づいて半導体装置の寿命時間と予測する寿命時間予測部。
【0094】
(付記2)
以下の処理を含む、半導体装置の信頼性予測をコンピュータに実行させるプログラム:
半導体チップに形成されているアルミニウムを主成分とする電極パッドと、銅を主成分とするボンディングワイヤとの接合部分における処理画像を入力する入力処理;
前記処理画像に対して、フェーズフィールド法を適用することにより、前記接合部分における複数の合金相の変化を算出する合金相変化算出処理;
前記複数の合金相の変化を反映した前記処理画像において、クラックが存在し、かつ、前記クラックに接する特定の合金相が存在する場合、前記特定の合金相のクラック接触領域に金属酸化物相を設定する金属酸化物相設定処理;
前記合金相変化算出処理で算出された前記複数の合金相の変化の算出結果および前記金属酸化物相設定処理で設定された前記金属酸化物相の設定結果に基づいて、前記接合部分の各指定箇所における弾性歪みエネルギーを算出する弾性歪みエネルギー算出処理;
前記弾性歪みエネルギー算出処理で算出された前記弾性歪みエネルギーに基づいて、前記接合部分における前記クラックの進展を設定するクラック進展設定処理;
前記クラック進展設定処理で設定された前記クラックの進展に基づいて、半導体装置の寿命時間を予測する寿命時間予測処理。
【0095】
(付記3)
付記2に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【符号の説明】
【0096】
10 半導体装置
100 信頼性予測装置
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 ディスプレイ
105 キーボード
106 マウス
107 通信ボード
108 リムーバルディスク装置
109 CD/DVD-ROM装置
110 プリンタ
111 スキャナ
112 ハードディスク装置
113 バス
201 オペレーティングシステム
202 プログラム群
203 ファイル群
301 入力部
302 合金相変化算出部
303 金属酸化物相設定部
304 弾性歪みエネルギー算出部
305 クラック進展設定部
306 寿命時間予測部
307 出力部
308 データ記憶部
BL ボール部
CHP 半導体チップ
CLK クラック
DP チップ搭載部
IL 絶縁層
LD リード
MR 封止体
PAS パッシベーション膜
PD パッド
W ボンディングワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11