(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123315
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】庇及びその設置方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/28 20060101AFI20220817BHJP
B23K 37/00 20060101ALI20220817BHJP
E04H 15/44 20060101ALI20220817BHJP
E04H 15/28 20060101ALI20220817BHJP
E04H 15/02 20060101ALI20220817BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20220817BHJP
E04H 15/58 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
E04G21/28 B
B23K37/00 A
E04H15/44
E04H15/28
E04H15/02
E04G21/32 A
E04H15/58 Z
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020543
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】598022956
【氏名又は名称】株式会社大同機械
(74)【代理人】
【識別番号】100169591
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】落合 康全
(72)【発明者】
【氏名】山田 和哉
【テーマコード(参考)】
2E141
【Fターム(参考)】
2E141AA01
2E141BB04
2E141CC04
2E141DD13
2E141EE26
2E141EE33
(57)【要約】
【課題】1人で柱に設置することができる庇及びその設置方法を提供する。
【解決手段】本発明の庇は、鉄製の柱に設置する庇であって、設置対象の柱に接する面に磁石を備え柱の外周面に設置可能な複数の支持部材と、それら複数の支持部材を柱の周囲から柱の外周面に向かって押しつける締付け具と、前記複数の支持部材に支持され柱の周囲に広がる複数の天板とを備える。また、本発明の庇は、設置対象の柱に接する面に磁石を備える複数の支持部材を柱の外周面に設置し、締付け具によりそれら複数の支持部材を柱の周囲から柱の外周面に向かって押しつけるように締め付け、複数の天板を柱の周囲に広がるように前記複数の支持部材に取付けることにより、1人で鉄製の柱に設置することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄製の柱に設置する庇であって、前記柱に接する面に磁石を備え前記柱の外周面に取付けられる複数の支持部材と、前記複数の支持部材を前記柱の周囲から前記柱の外周面に向かって押しつける締付け具と、前記複数の支持部材に支持され前記柱の周囲に広がる複数の天板とを備える庇。
【請求項2】
請求項1において、前記複数の天板は、前記複数の支持部材のそれぞれに取付けられ前記支持部材と同数の第1の天板と、複数の前記第1の天板が前記複数の支持部材のそれぞれに取付けられたときに隣りあう2枚の第1の天板の間に設置することができる第2の天板とを含んで構成される、庇。
【請求項3】
請求項2において、前記複数の支持部材のそれぞれは、2枚の平板を1辺で接続して構成され、前記2枚の平板のそれぞれに前記磁石を備え、前記柱が角形の場合に角部に前記角部を挟む2面に接して取付けることができるように構成される、庇。
【請求項4】
請求項3において、前記複数の支持部材のそれぞれは、前記2枚の平板の内側上端部に、止水部材を備え、前記止水部材は、前記2枚の平板に取り付けられる弾性部材であって、前記支持部材が前記柱の外周面に取り付けられることによって圧縮され、前記外周面に密着する、庇。
【請求項5】
請求項2から請求項4項のうちのいずれか1項において、前記第2の天板の上面に固定されまたは密着可能で、前記柱側に張り出し、前記第2の天板が設置されたときに前記柱の外周面に密着する、辺部止水材をさらに備える、庇。
【請求項6】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項において、前記複数の天板と前記柱とにともに接し、前記柱の周囲に巻き付けることができる、止水ベルトをさらに備える、庇。
【請求項7】
請求項6において、前記天板が鉄製であり、前記止水ベルトは、磁性をもつ弾性体で構成される、庇。
【請求項8】
鉄製の柱への庇の設置方法であって、前記柱に接する面に磁石を備える複数の支持部材を前記柱の外周面に取付け、締付け具により前記複数の支持部材を前記柱の周囲から前記柱の外周面に向かって押しつける用に締め付け、複数の天板を前記複数の支持部材に前記柱の周囲に広がるように取付ける、庇の設置方法。
【請求項9】
請求項8において、前記複数の天板は、前記支持部材と同数の第1の天板と、複数の前記第1の天板が前記複数の支持部材のそれぞれに取付けられたときに隣りあう2枚の第1の天板の間に設置することができる第2の天板とを含んで構成され、前記第1の天板を前記複数の支持部材のそれぞれに取付け、隣りあう2枚の第1の天板の間に前記第2の天板を設置する、庇の設置方法。
【請求項10】
請求項9において、前記複数の支持部材のそれぞれは、2枚の平板を1辺で接続して構成され、前記2枚の平板のそれぞれに前記磁石を備え、前記柱が角形の場合に角部に前記角部を挟む2面に接して取付けることができるように構成される、庇の設置方法。
【請求項11】
請求項10において、前記複数の支持部材のそれぞれは、前記2枚の平板の内側上端部に、止水部材を備え、前記止水部材は、前記2枚の平板に取り付けられる弾性部材であって、前記支持部材が前記柱の外周面に取り付けられることによって圧縮され、前記外周面に密着する、庇の設置方法。
【請求項12】
請求項9から請求項11のうちのいずれか1項において、前記第2の天板の上面に固定されまたは密着可能で、前記柱側に張り出し、前記第2の天板が設置されたときに前記柱の外周面に密着する、辺部止水材をさらに備える、庇の設置方法。
【請求項13】
請求項8から請求項10のうちのいずれか1項において、止水ベルトを、前記複数の天板の上に前記柱に接するように前記柱の周囲に巻き付ける、庇の設置方法。
【請求項14】
請求項13において、前記天板が鉄製であり、前記止水ベルトは、磁性をもつ弾性体で構成される、庇の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、庇及びその設置方法に関し、特に、上下の鉄骨柱を溶接して継ぐときに、溶接部を風雨から守り鉄骨柱を養生するために、当該鉄骨柱に仮設する庇及びその設置方法に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨鉄筋コンクリートなどの建造物を建築する工程では、ある程度の長さの鉄骨柱を下から上方向に積み上げて所定の高さの鉄骨柱を建てる。このとき上下の鉄骨柱は溶接して継ぐが、溶接箇所の母材を、雨などで濡れないようにまた風に曝されないように養生する必要がある。特許文献1には、設置が容易で丈夫な鉄骨柱溶接用仮設防雨防風装置が開示されている。上側の鉄骨柱に骨組み支持部を取付け、その支持部から骨組みを外側方向に突出させ、その骨組みに防風・防雨シートを被せ吊り下げて構成する。
【0003】
土木工事における杭についても同様で、既に埋設した鋼管杭の上に別の鋼管杭を溶接して継ぐ現場工事があり、このときにも溶接箇所を風雨から養生する必要がある。特許文献2には、杭継手溶接部養生具が開示されている。杭継手溶接部養生具は、杭の外周に巻き付く円筒体とその外周に設けられた笠及び笠の周囲に固定されたシートで構成されており、円筒体を杭に巻き付けて締め付けることにより、杭に固定する。
【0004】
一方、建築や土木だけではなく工事一般に防水防雨に使われる仮設テントや、工事とは関係のない一般のイベントなどで日除けや雨除けに使われるテントやパラソルは、支柱と天井とで構成され、一般に持ち運びに容易な軽さと設置の容易さが重視されている。支柱と天井とで構成されると風に弱く、風のある環境では、何らかの方法で地面や建造物に固定する必要がある。例えば現場に柱があれば、上記特許文献1と2などの技術を応用して、天井部分を柱から張り出すように構成することができる。特許文献3には、作業用の簡易テントが開示されている。簡易テントは、既設の支柱の周囲にレールを取付け、レールに沿って動く移動片から骨部材を周方向に張り出させ、シートを張って構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-109176号公報
【特許文献2】特開2001-303555号公報
【特許文献3】特開2008-240406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2及び3について本発明者が検討した結果、以下のような新たな課題があることがわかった。
特許文献1、2及び3には、それぞれ「容易に設置することができる」等と記載されてはいるが、大型の柱に対しては設置する設備自体が大きくかつ重くなるため、1人または2人以上が支え、もう1人が締め付けなどの固定作業を行うなどのように、複数人で作業する必要があることがわかった。
本発明の目的は、1人で柱に設置することができる庇及びその設置方法を提供することである。
【0007】
このような課題を解決するための手段を以下に説明するが、その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の庇は、鉄製の柱に設置する庇であって、設置対象の柱に接する面に磁石を備え柱の外周面に取り付けることができる複数の支持部材と、それら複数の支持部材を柱の周囲から柱の外周面に向かって押しつける締付け具と、前記複数の支持部材に支持され柱の周囲に広がる複数の天板とを備える。
【0009】
また、本発明の庇の設置方法は、鉄製の柱への庇の設置方法であって、設置対象の柱に接する面に磁石を備える複数の支持部材を柱の外周面に取付け、締付け具によりそれら複数の支持部材を柱の周囲から柱の外周面に向かって押しつけるように締め付け、複数の天板を柱の周囲に広がるように前記複数の支持部材に取付ける、庇の設置方法である。
【0010】
なお、本明細書において「庇」とは、狭義には柱から突き出す天板を指すが、広義にはそれを支える支持具をはじめとして一体的に防風防雨の機能を発揮する設備全体を指す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
すなわち、鉄製の柱に1人で設置することができる庇及びその設置方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の庇の構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の庇が設置された様子を示す鳥瞰図である。
【
図3】
図3は、支持部材2の構成例を俯瞰で示す模式図である。
【
図4】
図4は、第1の天板4の構成例を俯瞰で示す模式図である。
【
図5】
図5は、支持部材2に第1の天板4を取付けた様子を俯瞰で示す模式図である。
【
図6】
図6は、角部止水材50を取り付けた支持部材2を、俯瞰で示す模式図である。
【
図7】
図7は、角部止水材50を有する支持部材2の、柱の角部に設置された状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は、角部止水材50を有する支持部材2と辺部止水材51が取り付けられた天板5とが、柱に設置された状態を俯瞰で示す模式図である。
【
図9】
図9は、止水ベルト60が追加された庇10の構成例を示す模式図である。
【
図10】
図10は、止水ベルト60が追加された庇10が設置された様子を示す鳥瞰図である。
【
図11】
図11は、止水ベルト60を含む庇10の設置状態を断面から示す模式図である。
【
図12】
図12は、止水ベルト60の変形例を示す模式図である。
【
図13】
図13は、本発明の庇10を設置する途中経過を上方から示す模式図である。
【
図14】
図14は、第1及び第2の天板4,5の構造及び取付け方を示す模式図である。
【
図15】
図15は、400mm角の柱に適応する庇10を上方から示す模式図である。
【
図16】
図16は、800mm角の柱に適応する庇10を上方から示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0014】
〔1〕鉄製の柱に1人で設置可能な庇
本発明の庇は、鉄製の柱(9)に設置する庇(10)であって、前記柱に接する面に磁石(1)を備え前記柱の外周面に取付けられる複数の支持部材(2)と、前記複数の支持部材を前記柱の周囲から前記柱の外周面に向かって押し付ける締付け具(3)と、前記複数の支持部材に支持され前記柱の周囲に広がる複数の天板(4,5)とを備える。
【0015】
これにより、本発明の庇は鉄製の柱に1人で設置することができる。
【0016】
〔2〕複数の天板で構成
〔1〕項において、前記複数の天板は、前記複数の支持部材のそれぞれに取付けられ前記支持部材と同数の第1の天板(4)と、複数の前記第1の天板が前記複数の支持部材のそれぞれに取付けられたときに隣りあう2枚の第1の天板の間に設置することができる第2の天板(5)とを含んで構成される。
【0017】
これにより、設置対象の柱が大型の場合でも、天板それぞれの重さが抑えられ、1人で設置することができる。また、設置する対象の柱のサイズに容易に適応することができる。
【0018】
〔3〕支持部材を柱の角部に配置
〔2〕項において、前記複数の支持部材(2)のそれぞれは、2枚の平板を1辺で接続して構成され、前記2枚の平板のそれぞれに前記磁石を備え、前記柱が角形の場合に角部に前記角部を挟む2面に接して取付けることができるように構成される。
【0019】
これにより、支持部材はより強固かつ安定に柱に固定される。
【0020】
〔4〕角部止水材
〔3〕項の庇において、前記複数の支持部材(2)のそれぞれは、前記2枚の平板の内側上端部に、止水部材(50)を備え、前記止水部材は、前記2枚の平板に取り付けられる弾性部材であって、前記支持部材が前記柱の外周面に取り付けられることによって圧縮され、前記外周面に密着する。
【0021】
これにより、柱の角部が丸みを帯びている場合にも、支持部材との間に隙間を作ることがなく、柱の角部からの雨水の流れ込みや風の吹き込みを抑えることができる。
【0022】
〔5〕辺部止水材
〔2〕から〔4〕項のうちのいずれか1項に記載される庇は、辺部止水材(51)をさらに備える。前記辺部止水材(51)は、前記第2の天板(5)の上面に固定されまたは密着可能で、前記柱側に張り出し、前記第2の天板が設置されたときに前記柱の外周面に密着する。
【0023】
これにより、雨水が柱と天板の間から柱を伝って庇の内側に流れ込むことを抑えることができる。
【0024】
〔6〕止水ベルト
〔1〕から〔3〕項のうちのいずれか1項に記載される庇は、前記複数の天板と前記柱とにともに接し、前記柱の周囲に巻き付けることができる、止水ベルト(60)をさらに備える。
【0025】
これにより、雨水が柱と天板の間から柱を伝って庇の内側に流れ込むことを抑えることができる。
【0026】
〔7〕止水ベルトの磁性による貼り付け
〔6〕項において、前記天板が鉄製であり、前記止水ベルトは、磁性をもつ弾性体で構成される。
【0027】
これにより、止水ベルトは、鉄製の柱と鉄製の天板の両方に密着し、より高い止水効果を得ることができる。
【0028】
〔8〕鉄製の柱への庇の1人での設置方法
本発明の庇の設置方法は、鉄製の柱(9)への庇(10)の設置方法であって、前記柱に接する面に磁石(1)を備える複数の支持部材(2)を前記柱の外周面に取付け、締付け具(3)により前記複数の支持部材を前記柱の周囲から前記柱の外周面に向かって押しつけるように締め付け、複数の天板(4,5)を前記複数の支持部材に前記柱の周囲に広がるように取付ける。
【0029】
これにより、本発明の庇の設置方法では、1人での設置作業が可能となる。
【0030】
〔9〕一つ一つが軽い複数の天板で構成
〔8〕項に記載される庇の設置方法において、前記複数の天板は、前記支持部材と同数の第1の天板(4)と、複数の前記第1の天板が前記複数の支持部材のそれぞれに取付けられたときに隣りあう2枚の第1の天板の間に設置することができる第2の天板(5)とを含んで構成され、前記第1の天板を前記複数の支持部材のそれぞれに取付け、隣りあう2枚の第1の天板の間に前記第2の天板を設置する。
【0031】
これにより、設置対象の柱が大型の場合でも、天板それぞれの重さが抑えられ、1人での設置作業が可能となる。
【0032】
〔10〕支持部材を柱の角部に配置
〔9〕項に記載される庇の設置方法において、前記複数の支持部材のそれぞれは、2枚の平板を1辺で接続して構成され、前記2枚の平板のそれぞれに前記磁石を備え、前記柱が角形の場合に角部に前記角部を挟む2面に接して取付けることができるように構成される。
【0033】
これにより、支持部材はより強固かつ安定に柱に固定される。
【0034】
〔11〕角部止水材
〔10〕項に記載される庇の設置方法において、前記複数の支持部材のそれぞれは、前記2枚の平板の内側上端部に、止水部材(50)を備え、前記止水部材は、前記2枚の平板に取り付けられる弾性部材であって、前記支持部材が前記柱の外周面に取り付けられることによって圧縮され、前記外周面に密着する。
【0035】
これにより、柱の角部が丸みを帯びている場合にも、支持部材との間に隙間を作ることがなく、柱の角部からの雨水の流れ込みや風の吹き込みを抑えることができる。
【0036】
〔12〕辺部止水材
〔9〕項から〔11〕項のうちのいずれか1項に記載される庇の設置方法において、前記第2の天板の上面に固定されまたは密着可能で、前記柱側に張り出し、前記第2の天板が設置されたときに前記柱の外周面に密着する、辺部止水材(51)をさらに備える。
【0037】
これにより、雨水が柱と天板の間から柱を伝って庇の内側に流れ込むことを抑えることができる。
【0038】
〔13〕止水ベルト
〔8〕項から〔10〕項のうちのいずれか1項に記載される庇の設置方法において、止水ベルトを、前記複数の天板の上に前記柱に接するように前記柱の周囲に巻き付ける。
【0039】
これにより、雨水が柱と天板の間から柱を伝って庇の内側に流れ込むことを抑えることができる。
【0040】
〔14〕止水ベルトの磁性による貼り付け
〔13〕項に記載される庇の設置方法において、前記天板が鉄製であり、前記止水ベルトは、磁性をもつ弾性体で構成される。
【0041】
これにより、止水ベルトは、鉄製の柱と鉄製の天板の両方に密着し、より高い止水効果を得ることができる。
【0042】
2.実施の形態の詳細
実施の形態について更に詳述する。
【0043】
〔実施形態1〕
図1は本実施形態1の庇の構成例を示す模式図であり、
図2はその庇が設置された様子を示す鳥瞰図である。
図1では柱9は4角柱として破線で例示されている。また
図1では、庇10を構成する各要素の具体的構成例をより見やすくするために、各要素を意図的に上下に離して図示したが、実際には
図2に例示するように積み重ねるように互い接して設置される。
図1には示されていないが、天板4,5の先端部には、防風のためにシート7を垂らすことができるように構成することもできる。
【0044】
本実施形態1の庇10は、鉄製の柱9に設置する庇である。庇10は、複数の支持部材2と締付け具3と複数の天板4,5とを備える。支持部材2は、柱9に接する面に磁石1を備え、柱9の外周面の同じ高さに設置される。ここで「同じ高さ」とは、目視で同じ高さに見える程度の正確さで十分であるが、水準器等を使って正確に同じ高さに取り付ければ、雨水の浸入の原因となり得る全体のゆがみや歪みが抑えられ、より好適である。柱9の外周に取付けられた支持部材2は、例えばラチェットベルトなどの締付け具3を使って、柱9の周囲から壁面に向かった締め付けによって固定される。複数の天板4,5は、固定された複数の支持部材2に取付けられ、柱9の周囲に向かって庇を形成する。これにより、本発明の庇は鉄製の柱に1人で設置することができる。
【0045】
柱9は、例えばコラム型、角型の鉄骨柱である。ここで角型鋼管はコラム型と区別して使われる場合もあるが、いずれも正方形の断面を持つ四角柱で、角部は鋼板の厚さによって変わる曲率で丸みがある。本発明は、柱9の型に依存するものではないため、本明細書では厳密に区別した用語としては用いない。さらに柱9は全体が鉄製である必要はなく、壁面、特に後述する支持部材2を取付ける部分に鉄材が使われていればよい。また鉄材は柱9の表面に露出している必要はなく、壁紙や化粧板に覆われていてもよい。支持部材2が備える磁石1の個数と磁力は、支持部材2を柱9に取付けたときに、自重を支えるのに十分な程度に設計される。壁面が壁紙や化粧板で覆われているような柱9に取付けることが想定される場合には、被覆によって磁力が弱められることを勘案して、磁石1の個数を増やし及び/または磁力の強い磁石1を備えるようにすればよい。
【0046】
このように柱9が四角柱であるとき、支持部材2は、2枚の平板を1辺で接続してL字型に構成され、前記2枚の平板のそれぞれに磁石1を備え、柱9の角部にその角部を挟む2面に接して取り付けることができるように構成されるとよい。これにより、支持部材はより強固かつ安定に柱に固定される。
【0047】
またこのとき、複数の天板は、複数の支持部材2のそれぞれに取付けられる第1の天板4と、複数の第1の天板が複数の支持部材2のそれぞれに取付けられたときに隣りあう2枚の第1の天板4の間に取り付けられる第2の天板5に分けられるとよい。これにより、設置対象の柱が大型の場合でも、天板それぞれの重さが抑えられ、1人で設置することができる。
【0048】
図3は、支持部材2の構成例を俯瞰で示す模式図である。支持部材2は2枚の平板を1辺で接続して構成されており、
図3では背面のために図示されていないが、適当な数の磁石1が埋め込まれ、柱9の角を挟む2面に密着できるように構成されている。ここで平板は無垢の塊である必要はなく、薄い平板を箱形に折り曲げて加工し、背面の凹部に磁石1を貼り付けて構成するとよい。支持部材2を構成する2枚の平板の表面には、例えば鉄板をJ字型に曲げて加工した天板支持骨受け21が、それぞれに2個ずつ、取付けられている。上側の天板支持骨受け21にはネジ22が設けられており、第1の天板4の骨組みを構成する骨41(後述)が嵌め込まれたときにネジ22によって押さえつけて固定することができる。また、左右の端部には、締付け具3のベルトを支える、ベルト受け23が取付けられている。ベルト受け23は必ずしも必要ではないが、締付け具3であるラチェットベルトを大きな柱9の周りに巻き付ける過程で、締める前にずれて支持部材2の適切な位置から外れるのを防ぐために、特に1人作業を実現するためには極めて有用である。
【0049】
図4は、第1の天板4の構成例を俯瞰で示す模式図である。また、
図5は、支持部材2に第1の天板4を取付けた様子を俯瞰で示す模式図である。天板4には、支持部材2に固定される骨41、天板を支える骨42、及び頬杖の骨43などの骨組みが取付けられている。骨41は、支持部材2の天板支持骨受け21(上述)に嵌め込んで、固定される。上述したように、上側の天板支持骨受け21に設けられたネジ22によって押しつけて固定される。支持部材に固定される骨41は、天板4の下面に取付けられており、天板4を支える。頬杖の骨43は、一端を天板4の先端部に近い下面に、他端を支持部材に固定される骨41に固定されており、天板4の角度を斜めに支持する。天板4は薄い鉄板、複数の骨による骨組みは鉄骨で構成し、溶接することにより、安定した形状と強度を実現することができる。また、骨組みと薄板で構成することにより、重量を抑えることができる。
【0050】
〔実施形態2〕
本発明の庇10において、支持部材2と柱9、天板4,5と柱9との間には、隙間ができる場合がある。特に、上述したように柱9の角部に丸みがある場合には、柱9と支持部材2との間に大きな隙間ができる。その様な場合には、隙間から雨が侵入し、また風が吹き込む問題があることがわかった。
【0051】
柱9の角部と辺の両方または一方に接する部分に、止水部材を配置するのが好適である。例えば、支持部材2に角部止水材50を取付ける。
図6は、角部止水材50を取り付けた支持部材2を俯瞰で示す模式図である。支持部材2を構成する2枚の平板の内側上端部に、角部止水材50を備える。角部止水材50は、例えばウレタンフォーム、ゴムなどの弾性部材で、支持部材2を構成する2枚の平板に接着されるとよい。支持部材2が柱9の外周面に取り付けられることによって圧縮され、その柱9の外周面に密着するように、厚みと弾力を調整する。
図7は、角部止水材50を有する支持部材2の、柱9の角部に設置された状態を示す模式図である。柱9の水平面での断面図であり、1つの角部のみが示されている。角部止水材50は設置前には十分な厚みを持つが、支持部材2が柱9の外周面に取り付けられ、さらに締付け具3であるラチェットベルトで締め付けられたときには、圧縮されて柱9の外周面に密着する。
【0052】
これにより、柱9の角部が丸みを帯びている場合にも、支持部材2との間に隙間を作ることがなく、柱の角部からの雨水の流れ込みや風の吹き込みを抑えることができる。
【0053】
本発明の庇10では、柱9の辺の部分と接する天板5と柱9の外周面との間にも、若干の隙間ができる場合がある。そこで、庇10では、辺部止水材51をさらに備えるとより好適である。辺部止水材51は、庇10を構成する天板5の上面に固定されまたは密着させることが可能で、柱側に張り出しており、天板5が設置されたときに柱9の外周面に密着するように構成される。例えば、ゴム板など弾力性があり、折れ曲がったときに広い面が天板5と柱9の両方に密着するように構成するとよい。
【0054】
天板5に接着してもよいし、磁石を練り込んで、庇10を設置する工程で角部に貼り付けるようにしてもよい。また、天板5よりも幅を広くするとよい。角部止水材50とともに設置したときに、
図8は、角部止水材50を有する支持部材2と辺部止水材51が取り付けられた天板5とが、柱9に設置された状態を俯瞰で示す模式図である。支持部材2と天板5は、
図2に示したように同じ高さに設置されるが、理解を助けるために敢えて上下に離して図示してある。また、辺部止水材51は前側と右側の2辺についてのみ図示し、柱9の背面に位置する左側と奥側は図示を省略した。
【0055】
これにより、雨水が柱と天板の間から柱を伝って庇の内側に流れ込むことを抑えることができる。
【0056】
〔実施形態3〕
上記実施形態2で説明した、止水材50,51に代えて、柱9の周囲に巻き付け、複数の天板4,5と柱9の両方に密接する止水ベルト60を備えてもよい。これにより、雨水が柱9と天板4,5の間から柱を伝って庇10の内側に流れ込むことを抑えることができる。さらには、天板4,5を鉄製とし、止水ベルト60を、例えば磁石を練り込んだゴムなど、磁性をもつ弾性体とするとより好適である。これにより、止水ベルトは、鉄製の柱9と鉄製の天板4,5の両方に密着し、より高い止水効果を得ることができる。また、先に巻き付けた部分が磁力で固定されるので、1人作業に何ら支障がない。
【0057】
本発明の庇10は、鉄骨柱を縦に積み重ねて継ぐための溶接の際に、防風防雨して溶接箇所を養生する用途に極めて有用である。溶接作業は、雨天または90%以上の高湿度、10m/s以上の強風の環境下では中止することが推奨されている。溶接箇所に水分がありまたは風に曝されて溶接時に十分な高温に達しないと、強度の低下などの溶接品質の劣化を招く恐れがあるからである。
【0058】
図9は、止水ベルト60が追加された庇10の構成例を示す模式図であり、
図10は、止水ベルト60が追加された庇10が設置された様子を示す鳥瞰図である。
図1及び2を引用して説明した実施形態1の庇10に止水ベルト60が追加された実施形態である。
【0059】
図11は、止水ベルト60を含む庇10の設置状態を断面から示す模式図である。庇10は溶接箇所8の上方に設置される。厳密には、支持部材2と天板4,5が、溶接箇所8よりも作業に必要な余裕を含めて高い位置に設置される。支持部材2は磁石1により鉄骨柱9に貼り付けられ、締付け具3によって柱9の壁面に押しつけられ固定される。詳しくは後述するが、天板4は、支持する骨42、支持部材2に固定される骨41、頬杖の骨43など複数の骨組みが、例えば溶接によって接合されており、支持部材2に接合された受け部(天板支持骨受け)21に取付けられる。天板4の先端部には、シート7が吊り下げられている。無風であれば省略してもよい。溶接のための養生仮設とするときには、シート7は耐熱素材で、フックなどを使って着脱自在に構成すると好適である。またシート7は風に煽られないように、下端に錘をつけ、または下端をアンカー付きブロックからロープで牽引するなどの方法で固定すると良い。なお、作業空間を確保するために、シート7が溶接箇所から900mm程度離れるように、天板4,5の大きさを設計する。ロボットによる溶接の場合には、その溶接ロボットの使用にあって推奨される仕様に従う。
【0060】
止水ベルト60は、例えば、磁石を練り込んだゴムベルトで、鉄骨である柱9と鉄製の天板4の両方に密着するように設置する。
図9,10では端部は垂直に切り落とされているので、端部からの雨水の浸入を十分に防ぐことができない恐れがある。端部に先端に向かって徐々に薄くなるように傾きを持たせることもできる。また、養生テープなどを使って隙間を塞ぎ、端部を固定してもよい。
【0061】
なお、本発明の庇10を溶接用の養生仮設として実現する場合には、上で例として多用したように、天板4,5は鉄製であることが好ましいが、一般には木製、プラスチック製、金属や強化プラスチックの骨組みとビニール、布その他任意の材料で構成されてもよい。
【0062】
図12は、止水ベルト60の変形例を示す模式図である。止水ベルト60の太さよりも幅が広く例えば薄いゴム製の平板61を、止水ベルト60の側面に下面からはみ出すように貼り付ける。止水ベルト60を柱9と天板4,5の両方に密着するように設置すると、平板61は
図12に示されるように、天板4,5の上面に密着する方向に曲げられ押し付けられる。止水ベルト60と天板4,5の間の僅かな隙間も塞ぐことができ、止水効果をより高めることができる。平板61にも磁石を練り込んでもよい。
【0063】
なお、本発明の庇10を溶接用の養生仮設として実現する場合には、上で例として多用したように、天板4,5は鉄製であることが好ましい。鉄製とすることにより、作業空間を確保できる程度に大型化しても十分な強度を保つことができるからである。このとき、天板を4と5に分けたことによって、個々の重量を1人作業に耐えられる程度に軽くすることに成功している。しかし一般には、天板は、木製、プラスチック製、金属や強化プラスチックの骨組みとビニール、布その他任意の材料で構成されてもよい。
【0064】
〔実施形態4〕
種々のサイズの柱9に適応することができる庇10の構成例について説明する。
図13は、本発明の庇10を設置する途中経過を上方から示す模式図である。実施形態1及び2で説明したように、本発明の庇10は、まず柱9の角部に4個の支持部材2を磁石で貼り付け、締付け具3(
図13では図示を省略)で柱9に押し付けて固定した後、4枚の天板4を固定された4個の支持部材2にそれぞれ取付ける(必要に応じて
図3~5も合わせて参照のこと)。隣り合う2枚の天板4の間々には、別の天板5を取付ける。
【0065】
図14は、第1及び第2の天板4,5の構造及び取付け方を示す模式図である。
図14下側には、
図13に示すX-X’断面が、
図14上側にはX-X’断面に水平方向で直交するY-Y’方向の平面が、図示されている。第2の天板5は、柱9に接する側で第1の天板4との隙間に引っ掛かるように下側にL字に折り曲げ、反対側の先端部では第1の天板4を包むようにコの字型に折り曲げられている。そのため第2の天板5は、Y-Y’方向にはスライドすることができ、第1の天板4と第2の天板5の重なり幅w45を調整することによって、ある程度の範囲のサイズに適応することができる。即ち、柱9の1辺の長さWに対して、第1の天板の長方形部分の幅w4、第2の天板5の幅w5、及び重なり幅w45を使って、以下の関係式が成立する。
【0066】
W=2×w4+w5-2×w45
例えば、w4=200mm,w5=400mmとすると、適応可能な柱の一辺の長さは、400mm<W<800mmとなり、換言すれば600mm角の柱9には±200mmの範囲で適応可能であると言える。
【0067】
この例の場合、400mm角、800mm角の柱には、適応範囲ギリギリであるため余裕がない。400mm角、800mm角の柱を中心として適当な範囲で調整可能な適応範囲を提供することもできる。
図15及び
図16は、
図13を600mm角の柱9を想定した場合とした場合の、400mm角、800mm角の柱に適応することができる第2の天板5-400,5-800を別に提供することができるようにした場合の模式図である。
【0068】
このように、第2の天板5についてのみ、柱のサイズに応じて何通りかの幅を備えておけば、広範囲の柱サイズに対応することができる。なお、締付け具3、実施形態2の止水材51,52または実施形態3の止水ベルト60、及びシート9の長さも、柱のサイズに応じて何通りかを備えておけばより好適である。
【0069】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1 磁石
2 支持部材
3 締付け具
4 第1の天板
5 第2の天板
7 シート
8 溶接箇所
9 柱
10 庇
21 天板支持骨受け
22 ネジ
23 ベルト受け
41 支持部材に固定される骨
42 天板を支える骨
43 頬杖の骨
50 角部止水材
51 辺部止水材
60 止水ベルト
61 平板