(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123341
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】周波数決定方法及び周波数決定装置
(51)【国際特許分類】
H04W 4/44 20180101AFI20220817BHJP
B61L 27/00 20220101ALI20220817BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20220817BHJP
H04B 17/336 20150101ALI20220817BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20220817BHJP
H04W 24/08 20090101ALI20220817BHJP
H04W 72/02 20090101ALI20220817BHJP
H04W 72/08 20090101ALI20220817BHJP
【FI】
H04W4/44
B61L27/00 Z
B60L15/40 Z
H04B17/336
H04B17/391
H04W24/08
H04W72/02
H04W72/08 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020588
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】シソクサイ トサポーン
(72)【発明者】
【氏名】勝間 伸雄
(72)【発明者】
【氏名】南部 修二
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
5K067
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CC04
5H125CC05
5H161AA01
5H161JJ01
5H161JJ40
5K067EE02
5K067EE10
5K067JJ03
5K067JJ39
(57)【要約】
【課題】無線列車制御システムにおける使用周波数を決定する技術として、空いている周波数を高精度に選択可能な技術を提供すること。
【解決手段】周波数決定装置30は、無線基地局10によるSNR(Signal to Noise Ratio)に基づく周波数別の通信状況を、所定の観察期間に亘って時系列に示した所与の周波数別時系列データと、観察期間に続く後続期間における通信状況を評価した評価値を周波数別に示す周波数別評価値データとを関連付けた過去データセットを取得し、過去データセットを用いて、周波数別時系列データを入力し、周波数別評価値データを出力する評価値推定用機械学習モデルを生成し、所与の従来期間を観察期間とした周波数別時系列データを評価値推定用機械学習モデルに入力することで、当該従来期間に続く将来期間を後続期間とした周波数別評価値データの出力を得て、得られた周波数別評価値データに基づいて無線通信に用いる使用周波数を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車上装置との間で無線通信を行う鉄道沿線に設置された無線基地局によるSNR(Signal to Noise Ratio)に基づく周波数別の通信状況を、所定の観察期間に亘って時系列に示した所与の周波数別時系列データと、前記観察期間に続く後続期間における前記通信状況を評価した評価値を周波数別に示す周波数別評価値データとを関連付けた過去データセットを取得することと、
前記過去データセットを用いて、前記周波数別時系列データを入力し、前記周波数別評価値データを出力する評価値推定用機械学習モデルを生成することと、
所与の従来期間を前記観察期間とした前記周波数別時系列データを前記評価値推定用機械学習モデルに入力することで、当該従来期間に続く将来期間を前記後続期間とした前記周波数別評価値データの出力を得て、得られた前記周波数別評価値データに基づいて前記無線通信に用いる使用周波数を決定することと、
を含む周波数決定方法。
【請求項2】
前記評価値推定用機械学習モデルは、リカレントニューラルネットワークであり、
前記過去データセットは、前記観察期間が一部重複しながら以後に順にずれた期間である複数の周波数別時系列データそれぞれと、当該周波数別時系列データに対応する前記周波数別評価値データとのデータセットを含む、
請求項1に記載の周波数決定方法。
【請求項3】
前記使用周波数を決定することは、
前記得られた前記周波数別評価値データに基づいて候補周波数を選定することと、
前回決定した前回の使用周波数と、前記候補周波数とを用いて、今回の使用周波数を決定することと、
を含む、
請求項1又は2に記載の周波数決定方法。
【請求項4】
前記過去データセットを取得することは、
前記無線基地局の電波環境を示すデータと、当該電波環境下での周波数別の前記通信状況とを関連付けた教師データに基づいて学習させた通信状況推定用機械学習モデルに、前記電波環境を示すデータを時系列に入力し、前記通信状況のデータを順次取得することと、
前記順次取得した前記通信状況のデータのうち、1)前記観察期間に相当するデータを前記周波数別時系列データとし、2)当該観察期間に続く前記後続期間に相当するデータについて周波数別に前記評価値を算出したデータを前記周波数別評価値データとすることで、前記過去データセットを取得することと、
を含む、
請求項1~3の何れか一項に記載の周波数決定方法。
【請求項5】
前記通信状況推定用機械学習モデルは、サブモデルと、メインモデルとを含み、
前記サブモデルは、前記電波環境を示すデータと、周波数別のノイズ有無情報とを関連付けた教師データに基づいて学習させたモデルであり、
前記メインモデルは、前記電波環境を示すデータ及び前記ノイズ有無情報と、周波数別の前記通信状況とを関連付けた教師データに基づいて学習されたモデルであり、
前記通信状況のデータを順次取得することは、
前記サブモデルに、前記電波環境を示すデータを入力し、周波数別の前記ノイズ有無情報を取得することと、
前記メインモデルに、前記電波環境を示すデータ及び前記取得した周波数別の前記ノイズ有無情報を入力し、前記通信状況のデータを取得することと、
を含む、
請求項4に記載の周波数決定方法。
【請求項6】
車上装置との間で無線通信を行う鉄道沿線に設置された無線基地局によるSNR(Signal to Noise Ratio)に基づく周波数別の通信状況を、所定の観察期間に亘って時系列に示した所与の周波数別時系列データと、前記観察期間に続く後続期間における前記通信状況を評価した評価値を周波数別に示す周波数別評価値データとを関連付けた過去データセットを取得する取得部と、
前記過去データセットを用いて、前記周波数別時系列データを入力し、前記周波数別評価値データを出力する評価値推定用機械学習モデルを生成する生成部と、
所与の従来期間を前記観察期間とした前記周波数別時系列データを前記評価値推定用機械学習モデルに入力することで、当該従来期間に続く将来期間を前記後続期間とした前記周波数別評価値データの出力を得て、得られた前記周波数別評価値データに基づいて前記無線通信に用いる使用周波数を決定する決定部と、
を備える周波数決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信に用いる使用周波数を決定する周波数決定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
列車制御に無線通信を利用したCBTC(Communication Based Train Control)と呼ばれる無線列車制御システムでは、地上車上間の無線通信に、免許が不要なISM(Industrial Scientific and Medical)バンドと呼ばれる周波数帯域の使用が検討されている。このISMバンドを利用する無線通信規格には、無線LAN(IEEE802.11)やBluetooth(登録商標)(IEEE802.15.1)など各種有り、様々な無線通信システムに利用されるため、干渉を受けることが避けられない。
【0003】
無線列車制御システムでは、列車の移動に伴って通信先の無線基地局を切り替えるハンドオーバーが必要であるが、新たな通信先の無線基地局との無線通信の周波数として干渉が少ない周波数を使用するようにすることから、ハンドオーバーの遅滞が生じ得る。そこで、遅滞の無いハンドオーバーを実現するための技術として、特許文献1には、無線基地局ごとに、他の無線基地局との間で干渉しない複数の通信周波数を定めておき、周期的にこの複数の通信周波数の電界強度のチェックを行い、電界強度に基づいて選択された最適無線周波数で、列車が当該無線基地局との無線通信を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ISMバンドを利用する無線通信においては、空いている無線通信のチャネルを探して使用する無線方式を切り替えるコグニティブ無線通信と呼ばれる技術がある。このコグニティブ無線通信では、空いている無線通信のチャネルを探すスペクトルセンシングが必要である。無線通信のチャネルとは周波数のことである。しかし、高い信頼性が求められる無線列車制御システムにコグニティブ無線通信を適用する際には、スペクトルセンシングに対してもより高い精度が求められる。勿論、コグニティブ無線通信以外の無線通信であっても、空いている周波数を高精度に選択することができれば、使用周波数の決定方法として有益である。特に、無線列車制御システムにおいては、列車の移動に伴って車上装置が移動してゆくために、移動する前に、移動先において空いている周波数を予測的に探索・選択して、使用周波数を決定する必要がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、無線列車制御システムにおける使用周波数を決定する技術として、空いている周波数を高精度に選択可能な新たな技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
車上装置との間で無線通信を行う鉄道沿線に設置された無線基地局によるSNR(Signal to Noise Ratio)に基づく周波数別の通信状況を、所定の観察期間に亘って時系列に示した所与の周波数別時系列データと、前記観察期間に続く後続期間における前記通信状況を評価した評価値を周波数別に示す周波数別評価値データとを関連付けた過去データセットを取得することと、
前記過去データセットを用いて、前記周波数別時系列データを入力し、前記周波数別評価値データを出力する評価値推定用機械学習モデルを生成することと、
所与の従来期間を前記観察期間とした前記周波数別時系列データを前記評価値推定用機械学習モデルに入力することで、当該従来期間に続く将来期間を前記後続期間とした前記周波数別評価値データの出力を得て、得られた前記周波数別評価値データに基づいて前記無線通信に用いる使用周波数を決定することと、
を含む周波数決定方法である。
【0008】
他の発明として、
車上装置との間で無線通信を行う鉄道沿線に設置された無線基地局によるSNRに基づく周波数別の通信状況を、所定の観察期間に亘って時系列に示した所与の周波数別時系列データと、前記観察期間に続く後続期間における前記通信状況を評価した評価値を周波数別に示す周波数別評価値データとを関連付けた過去データセットを取得する取得部(例えば、
図10の過去データセット取得部202)と、
前記過去データセットを用いて、前記周波数別時系列データを入力し、前記周波数別評価値データを出力する評価値推定用機械学習モデルを生成する生成部(例えば、
図10の評価値推定用モデル生成部206)と、
所与の従来期間を前記観察期間とした前記周波数別時系列データを前記評価値推定用機械学習モデルに入力することで、当該従来期間に続く将来期間を前記後続期間とした前記周波数別評価値データの出力を得て、得られた前記周波数別評価値データに基づいて前記無線通信に用いる使用周波数を決定する決定部(例えば、
図10の使用周波数決定部210)と、
を備える周波数決定装置を構成してもよい。
【0009】
第1の発明等によれば、無線列車制御システムにおける使用周波数を決定する技術として、空いている周波数を高精度に選択可能な技術を実現することができる。つまり、無線基地局と車上装置とが無線通信を行う際の無線基地局によるSNRに基づく周波数別の通信状況を所定の観察期間に亘って示した時系列データを入力し、当該観察期間に続く後続期間における通信状況の評価値データを出力する評価値推定用機械学習モデルを生成することができる。そして、この評価値推定用機械学習モデルに従来期間の周波数別の通信状況の時系列データを入力して得られた後続期間の周波数別評価値データに基づいて、無線基地局が無線通信に用いる使用周波数を決定することができる。これにより、従来期間の周波数別の通信状況から、当該従来期間に続く将来期間の通信状況を評価値として推定することができるので、無線列車制御システムにおける使用周波数を決定する技術として、空いている周波数を高精度に選択可能な技術を実現することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記評価値推定用機械学習モデルは、リカレントニューラルネットワークであり、
前記過去データセットは、前記観察期間が一部重複しながら以後に順にずれた期間である複数の周波数別時系列データそれぞれと、当該周波数別時系列データに対応する前記周波数別評価値データとのデータセットを含む(例えば、
図8参照)、
周波数決定方法である。
【0011】
第2の発明によれば、過去データセットは、一部重複しながら以後に順にずれた複数の観察期間それぞれにおける周波数別時系列データと、観察期間それぞれに後続する後続期間における周波数別評価値データとのデータセットを含む。そのため、リカレントニューラルネットワークである評価値推定用機械学習モデルの生成に適切なデータとなる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記使用周波数を決定することは、
前記得られた前記周波数別評価値データに基づいて候補周波数を選定することと、
前回決定した前回の使用周波数と、前記候補周波数とを用いて、今回の使用周波数を決定することと、
を含む、
周波数決定方法である。
【0013】
第3の発明によれば、評価値推定用機械学習モデルを用いることで得られた後続期間の周波数別評価値データに基づいて候補周波数を選定し、この選定した候補周波数と前回の使用周波数とを用いて、今回の使用周波数を決定することができる。前回の使用周波数を優先して今回の使用周波数として決定することが可能となるため、車上装置にとってみれば、無線通信の使用周波数を頻繁に変更することによる処理の煩雑化を回避し得る。
【0014】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記過去データセットを取得することは、
前記無線基地局の電波環境を示すデータと、当該電波環境下での周波数別の前記通信状況とを関連付けた教師データに基づいて学習させた通信状況推定用機械学習モデルに、前記電波環境を示すデータを時系列に入力し、前記通信状況のデータを順次取得することと、
前記順次取得した前記通信状況のデータのうち、1)前記観察期間に相当するデータを前記周波数別時系列データとし、2)当該観察期間に続く前記後続期間に相当するデータについて周波数別に前記評価値を算出したデータを前記周波数別評価値データとすることで、前記過去データセットを取得することと、
を含む、
周波数決定方法である。
【0015】
第4の発明によれば、実際の無線基地局の電波環境を示すデータに基づく過去データセットを取得することができる。評価値推定用機械学習モデルはこの過去データセットを用いて生成されることから、評価値推定用機械学習モデルの推定精度が高くなり、より精度の高いスペクトルセンシングを実現することができる。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、
前記通信状況推定用機械学習モデルは、サブモデルと、メインモデルとを含み、
前記サブモデルは、前記電波環境を示すデータと、周波数別のノイズ有無情報とを関連付けた教師データに基づいて学習させたモデルであり、
前記メインモデルは、前記電波環境を示すデータ及び前記ノイズ有無情報と、周波数別の前記通信状況とを関連付けた教師データに基づいて学習されたモデルであり、
前記通信状況のデータを順次取得することは、
前記サブモデルに、前記電波環境を示すデータを入力し、周波数別の前記ノイズ有無情報を取得することと、
前記メインモデルに、前記電波環境を示すデータ及び前記取得した周波数別の前記ノイズ有無情報を入力し、前記通信状況のデータを取得することと、
を含む、
周波数決定方法である。
【0017】
第5の発明によれば、通信状況推定用機械学習モデルは、サブモデルと、メインモデルとを含む。サブモデルは、無線基地局の電波環境を示すデータを入力し、周波数別のノイズ有無情報を出力するモデルである。メインモデルは、電波環境を示すデータ及びサブモデルが出力した周波数別のノイズ有無情報を入力し、周波数別の通信状況を出力するモデルである。これにより、通信状況推定用機械学習モデルを用いて得られる周波数別の通信状況の時系列データは、ノイズ有無を考慮したより精度の高いデータとなる。その結果、通信状況推定用機械学習モデルを用いて取得した過去データセットの精度が高くなり、この過去データセットを用いて生成した評価値推定用機械学習モデルの推定精度が高くなることから、より精度の高いスペクトルセンシングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図5】通信状況推定用機械学習モデルの学習の説明図。
【
図8】評価値推定用機械学習モデルの学習の説明図。
【
図9】使用周波数を決定する処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態の一例について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0020】
[システム構成]
図1は、本実施形態の無線列車制御システム1の構成例である。
図1に示すように、本実施形態の無線列車制御システム1は、無線基地局10と、モニタ用受信装置20と、周波数決定装置30とを備える。無線基地局10及びモニタ用受信装置20は鉄道沿線に設置される。周波数決定装置30は中央指令所等に設置されている。また、各装置は地上伝送回線Nを介して通信接続されている。
【0021】
無線基地局10と、線路を走行する列車80に搭載される車上装置82との間の無線通信は、2.4GHz帯や5.7GHz帯、920MHz帯などのISM(Industrial Scientific and Medical)バンドを利用した無線通信であり、他の通信システムによって使用されていない周波数を探し、無線通信規格や無線チャネルを切り替えて無線通信を行うコグニティブ無線通信が行われる。
【0022】
無線基地局10は、線路を走行する列車80の車上装置82が周波数決定装置30との間で連続した無線通信ができるよう、その通信可能範囲が互いに一部重複するように鉄道沿線に沿って複数設置されている。また、無線基地局10は、複数の所定数の列車80との間で無線チャネルを確立可能であり、周波数決定装置30の指示に基づいて決定された無線チャネルで各列車80の車上装置82との間で無線通信を行う。
【0023】
モニタ用受信装置20は、対応する無線基地局10の電波環境を示すデータを取得するために設置される装置であり、対応する無線基地局10の近傍に設置されて当該無線基地局10の周辺の無線信号を受信し、電波環境を示すデータとして周波数決定装置30に出力する。
図1では無線基地局10及びモニタ用受信装置20は2台を示しているが、実際には鉄道沿線に沿って複数設置される。
【0024】
周波数決定装置30は、無線基地局10それぞれについて、対応するモニタ用受信装置20から入力される電波環境を示すデータに基づいて、当該無線基地局10の周辺の通信状況を推定する。そして、推定した通信状況に基づいて、無線基地局10と列車80の車上装置82との間のコグニティブ無線通信に係る無線チャネルの動的な割当を行う。例えば、無線基地局10のハンドオーバーの際に、リアルタイムに推定される次の無線基地局10の周辺の将来の通信状況に基づいて、空いている周波数を割り当てる無線チャネルとして決定する。そして、決定した無線チャネルを、列車80の車上装置82及び無線基地局10へ通知する。無線チャネルは、通信の技術分野における用語であり、周波数の意味であり、より正確には周波数帯に相当する。従って、使用する無線チャネルを決定することは、使用する周波数を決定することに相当する。以下では、周波数のことを適宜、チャネルと呼称する。
【0025】
[周波数決定装置]
図2は、本実施形態の使用する無線チャネルの決定に係る周波数決定装置30の主要構成を示す図である。
図2に示すように、周波数決定装置30は、使用する無線チャネルの決定に係る主要構成として、通信状況推定用機械学習モデル40と、評価値推定用機械学習モデル50と、使用周波数決定部210とを有する。通信状況推定用機械学習モデル40及び評価値推定用機械学習モデル50は、無線基地局10別に生成される。以下では、説明の簡明のため、1つの無線基地局10を対象として説明するが、他の各無線基地局10についても同様である。
【0026】
(A)通信状況推定用機械学習モデル
通信状況推定用機械学習モデル40は、モニタ用受信装置20から入力される電波環境を示すデータに基づき、当該モニタ用受信装置20に対応する無線基地局10の周辺の周波数別の通信状況を推定する、いわゆるスペクトルセンシングを行うための機械学習モデルである。
【0027】
通信状況推定用機械学習モデル40は、本実施形態では畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)により実現されるが、これ以外のニューラルネットワークであってもよい。また、通信状況推定用機械学習モデル40は、後述のように教師データを用いて学習させた機械学習モデルであり、重み係数が決定されている。モニタ用受信装置20は無線基地局10の近傍に設置されているから、モニタ用受信装置20により受信される無線信号は、無線基地局10により受信される無線信号とみなせる。これにより、通信状況の推定に要する処理時間を大幅に短縮することができるため、リアルタイムに近い或いはリアルタイムといえる通信状況の推定を実現できる。
【0028】
そして、通信状況推定用機械学習モデル40は、電波環境を示すデータとして入力された無線信号がモニタ用受信装置20で受信されたときの当該モニタ用受信装置20の周辺の周波数別の通信状況を出力する。この周波数別通信状況が、対応する無線基地局10の周辺の通信状況となる。周波数別通信状況は、例えば無線チャネルを単位とした周波数別の通信状況である。通信状況は、当該無線環境下で無線基地局10が無線通信を行ったときのSNR(Signal to Noise Ratio)に基づいて、複数段階に分類されて示される。本実施形態では、通信状況は、干渉レベル「0」~「3」の4段階に分類されるが、3段階以下でもよいし、5段階以上でもよい。干渉レベルが高い(大きい)ほど、当該周波数での無線通信が行われている可能性が高いこと(=使用されていること)を示す。無線列車制御システム1にとっては、無線通信が行われていることは、他の無線通信システムで使用されていることを意味し、ノイズとなる。そのため、干渉レベルが高い(大きい)ほど、ノイズが多い、という意味となる。
【0029】
図3は、通信状況推定用機械学習モデル40の出力例である。
図3では、横軸を時刻t、縦軸を通信状況である干渉レベルとして、3つの周波数(無線チャネル)f
1,f
2,f
3それぞれの通信状況の出力例を示している。
図3に示すように、通信状況推定用機械学習モデル40は、モニタ用受信装置20から電波環境を示すデータを時系列に入力し、周波数別の通信状況を時系列に出力する。なお、
図3では、通信状況推定用機械学習モデル40が出力する通信状況を時間的に連続するグラフとして示しているが、実際には、周波数決定装置30が行う処理はデジタル処理であり、所定の時間間隔での離散的な時系列データ(周波数別時系列データ)となる。
【0030】
図4は、通信状況推定用機械学習モデル40の構成を示す図である。
図4に示すように、通信状況推定用機械学習モデル40は、サブモデル42と、ノイズパワー推定部44と、メインモデル46とを含む。サブモデル42及びメインモデル46は、それぞれが畳み込みニューラルネットワークで実現されるが、これ以外のニューラルネットワークであってもよい。
【0031】
サブモデル42は、モニタ用受信装置20から入力される電波環境を示すデータに基づき、周波数別のノイズ有無を推定するための機械学習モデルである。ノイズ有無は、例えば、通信状況である干渉レベルに基づき、干渉レベルが「1~3」の通信状況を「ノイズ有り」、干渉レベルが「0」の通信状況を「ノイズ無し」と分類することができる。サブモデル42には、電波環境を示すデータとして、モニタ用受信装置20で受信された無線信号の周波数別のパワースペクトルを入力する。本実施形態では、周波数別のパワースペクトルとして、モニタ用受信装置20で受信された無線信号の振幅及び位相を正規化して離散フーリエ変換処理したN個のデータを入力する。また、サブモデル42による推定は所定の時間間隔で繰り返し行われるから、サブモデル42が出力する周波数別のノイズ有無は、離散的な時系列データとなる。
【0032】
ノイズパワー推定部44は、サブモデル42から出力された周波数別のノイズ有無情報に基づき、モニタ用受信装置20で受信された無線信号に含まれるノイズパワーPnの推定値を算出する。サブモデル42は、モニタ用受信装置20から電波環境を示すデータを入力し、周波数別のノイズ有無を時系列に出力することから、ノイズパワー推定部44は、周波数別に、サブモデル42が出力するノイズ有無により「ノイズ無し」と分類されたときにモニタ用受信装置20から電波環境を示すデータとして入力された無線信号の信号電力のうち、小さい順に選択した所定数の平均値を、ノイズパワーPnの推定値として算出する。なお、ノイズパワー推定部44による算出は、サブモデル42やメインモデル46が推定を行う時間間隔と同様の時間間隔で行う必要はなく、当該時間間隔よりも長い時間間隔で行えばよい。
【0033】
メインモデル46は、モニタ用受信装置20から入力される電波環境を示すデータ、及び、サブモデル42から入力される周波数別のノイズ有無情報に基づき、周波数別の通信状況を推定するための機械学習モデルである。メインモデル46には、電波環境を示すデータとして、モニタ用受信装置20で受信された無線信号の信号電力(振幅の二乗の時間平均)を入力する。また、周波数別のノイズ有無情報として、ノイズパワー推定部44から出力される周波数別のノイズパワーPnを入力する。そして、メインモデル46は、周波数別に、無線信号の信号電力をノイズパワーPnで正規化した信号電力に基づき、周波数別の通信状況として4段階に分類した干渉レベル「0~3」を推定して出力する。また、メインモデル46による推定は、サブモデル42と同様に所定の時間間隔で繰り返し行われるから、メインモデル46が出力する周波数別の通信状況は、離散的な時系列データとなる。そして、メインモデル46が出力する周波数別の通信状況の時系列データが、通信状況推定用機械学習モデル40の出力となる。
【0034】
通信状況推定用機械学習モデル40を用いた通信状況の推定では、先ず、モニタ用受信装置20により受信された無線信号に基づく電波環境を示すデータがサブモデル42に入力され、サブモデル42から、入力した電波環境を示すデータに含まれる周波数別のノイズ有無情報が出力される。次いで、このノイズ有無情報がノイズパワー推定部44に入力され、ノイズパワー推定部44から、ノイズパワーPnが出力される。そして、このノイズパワーPnと、先のモニタ用受信装置20により受信された無線信号に基づく電波環境を示すデータとがメインモデル46に入力され、メインモデル46から、入力した電波環境を示すデータに適合する周波数別通信状況が出力される。
【0035】
図5は、通信状況推定用機械学習モデル40の学習(機械学習)を説明する図である。
図5に示すように、通信状況推定用機械学習モデル40は、予め用意された複数の教師データ312を用いて学習される。具体的には、通信状況推定用機械学習モデル40は、サブモデル42及びメインモデル46を含み、サブモデル42は、サブモデル用の教師データ312aを用いて学習され、メインモデル46は、メインモデル用の教師データ312bを用いて学習される。サブモデル用の教師データ312aは、無線基地局10の電波環境を示すデータである無線信号のパワースペクトル(詳細には、無線信号の振幅及び位相を正規化して離散フーリエ変換処理したN個のデータ)と、当該電波環境下で無線基地局10が無線通信を行ったときのSNRに基づく周波数別のノイズ有無情報と、を関連付けたデータである。サブモデル42は、電波環境を示すデータ(パワースペクトル)を入力とし、周波数別のノイズ有無情報を出力とした学習がなされることで生成される。
【0036】
メインモデル用の教師データ312bは、無線基地局10の電波環境を示すデータである無線信号の信号電力(詳細には、ノイズパワーで正規化した信号電力)と、当該電波環境下で無線基地局10が無線通信を行ったときのSNRに基づく周波数別の通信状況情報と、を関連付けたデータである。メインモデル46は、電波環境を示すデータ(信号電力)を入力とし、周波数別の通信状況情報を出力とした学習がなされることで生成される。また、学習の種類は、本実施形態では深層学習(ディープラーニング)とするが、これ以外の何れの種類の機械学習としてもよい。
【0037】
教師データ312は、実際の無線信号のデータを利用する他に、例えば、コンピュータを用いたシミュレーション演算により生成することができる。具体的には、無線通信規格や無線伝搬特性等のパラメータを設定し、任意の送信データを設定した無線通信規格で送信するときの送信信号を生成して、この送信信号を設定した無線伝搬特性の無線チャネルで送信したときに無線基地局10により受信されると想定される無線信号を求める。そして、求めた無線信号のパワースペクトル(無線信号の振幅及び位相を正規化して離散フーリエ変換処理したN個のデータ)及び無線信号の信号電力(ノイズパワーで正規化した信号電力)を、電波環境を示すデータとして算出する。また、無線信号のパワースペクトル及び送信信号から、周波数別に送信信号のSNRを求めることで周波数別のノイズ有無情報及び周波数別の通信状況情報を算出する。そして、電波環境を示すデータ(パワースペクトル)と周波数別のノイズ有無情報とを1つのサブモデル用の教師データ312とし、電波環境を示すデータ(ノイズパワーで正規化した無線信号の信号電力)と周波数別の通信状況情報とを1つのメインモデル用の教師データ312とする。無線通信規格や無線伝搬特性等のパラメータを様々に設定することで、多数の教師データ312を生成することができる。
【0038】
(B)評価値推定用機械学習モデル
評価値推定用機械学習モデル50は、通信状況推定用機械学習モデル40で推定された周波数別の通信状況の時系列データに基づき、対応する無線基地局10の周辺の将来期間の周波数別の通信状況の評価値を推定するための機械学習モデルである。評価値推定用機械学習モデル50は、リカレントニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)によって実現されるが、これ以外のニューラルネットワークであってもよい。また、評価値推定用機械学習モデル50は、後述のように過去データセットを用いて学習させた機械学習モデルであり、重み係数が決定されている。
【0039】
図6は、評価値推定用機械学習モデル50の概要図である。
図6に示すように、評価値推定用機械学習モデル50には、通信状況推定用機械学習モデル40が出力する周波数別の通信状況の時系列データのうち、所定時刻(例えば、現在時刻)t
1から過去に遡った所定の従来期間t
0~t
1の周波数別の通信状況の時系列データを入力する。通信状況の時系列データは離散的な時系列データであるから、従来期間t
0~t
1における通信状況の時系列データとして、周波数別にn個のデータ(x
1,x
2・・,x
n-1,x
n)が入力される。そして、評価値推定用機械学習モデル50は、従来期間t
0~t
1に続く将来期間t
1~t
2の周波数別の通信状況の評価値Bを出力する。評価値Bは、将来期間t
1~t
2の期間全体における通信状況を示す値である。本実施形態では、評価値Bは「0~5」の6段階に分類されて示されるが、5段階以下でもよいし、7段階以上でもよい。評価値Bが大きいほど、当該周波数での無線通信が行われている可能性が高いこと(=使用されていること)を示す。無線列車制御システム1にとっては、無線通信が行われていることは、他の無線通信システムで使用されていることを意味し、ノイズとなる。そのため、評価値Bが大きいほど、ノイズが多い、という意味となる。
【0040】
図7は、評価値推定用機械学習モデル50の入出力例である。
図7では、横軸を時刻tとして、k個の周波数(f
1,f
2,・・・,f
k:無線チャネル)別に、入力データと、出力データとを示している。入力データは従来期間t
0~t
1の通信状況の時系列データである。出力データは従来期間t
0~t
1に続く将来期間t
1~t
2の通信状況の評価値Bである。入力については、縦軸を通信状況である干渉レベルとしている。
図7に示すように、評価値推定用機械学習モデル50は、通信状況推定用機械学習モデル40から従来期間t
0~t
1における周波数別の通信状況(干渉レベル)を時系列に入力し、将来期間t
1~t
2における周波数別の将来の通信状況の評価値Bを出力する。なお、
図7では、評価値推定用機械学習モデル50に入力される通信状況を時間的に連続するグラフとして示しているが、実際には、所定の時間間隔での離散的な時系列データ(周波数別時系列データ)となる。
【0041】
図8は、評価値推定用機械学習モデル50の学習を説明する図である。
図8に示すように、評価値推定用機械学習モデル50の学習は、取得された過去データセット314を用いて行われる。過去データセット314は、1)無線基地局10によるSNRに基づく周波数別の通信状況を、所定の観察期間に亘って時系列に示した周波数別時系列データと、2)観察期間に続く後続期間における通信状況を評価した評価値を周波数別に示す周波数別評価値データと、を関連付けたデータである。過去データセット314における観察期間は、評価値推定用機械学習モデル50に入力されるデータの従来期間t0~t
1と同じ長さの期間である。また、後続期間は、評価値推定用機械学習モデル50から出力されるデータの将来期間t
1~t
2と同じ長さの期間である。
【0042】
図8に示すように、過去データセット314は、実際の無線信号のデータから得られる周波数別の通信状況の時系列データに基づいて取得することができる。
図8では、1つの周波数(無線チャネル)についての通信状況の時系列データとして、通信状況を干渉レベル「0~3」とした離散的な時系列データを例示している。この通信状況の時系列データに対して、データ1つ分ずつずらすことで一部が重複する複数の観察期間を定め、各観察期間について当該観察期間に続く後続期間を定める。そして、観察期間における通信状況の時系列データと、当該観察期間に続く後続期間における時系列データに基づく評価値Bとを関連付けて1つのデータセットとする。これにより、観察期間が一部重複しながら以後に順にずれた期間である複数の周波数別時系列データそれぞれと、当該観察期間に続く後続期間における周波数別評価値データとのデータセットを含む過去データセット314を取得することができる。
【0043】
評価値Bは、後続期間全体における通信状況である干渉レベルが所定レベル以上(例えば、「3」以上)である割合として算出される。具体的には、
図8の算出テーブルに示すように、後続期間全体でのデータの個数に対する、干渉レベルが所定レベル以上(例えば、「3」以上)のデータの個数の割合として算出される。そして、評価値推定用機械学習モデル50は、過去データセット314における、観察期間の周波数別時系列データを入力とし、後続期間における通信状況の評価値Bを出力とした学習がなされることで生成される。
【0044】
(C)使用周波数決定部
使用周波数決定部210は、通信状況推定用機械学習モデル40から入力される従来期間t0~t1の周波数別の通信状況の時系列データと、評価値推定用機械学習モデル50から入力される将来期間t1~t2の周波数別評価値データとに基づいて、無線基地局10が無線通信に使用する周波数(無線チャネル)を決定する。
【0045】
図9は、使用周波数決定部210による使用周波数の決定を説明するフローチャートである。
図9に示すように、使用周波数決定部210は、先ず、評価値推定用機械学習モデル50から出力される将来期間t
1~t
2の周波数別の通信状況の評価値Bに基づき、評価値Bの段階が小さい(低い)ほうから所定数(例えば、2つ)の段階である周波数を、候補周波数として選定する(ステップS1)。本実施形態では、評価値Bは「0~5」の6段階に分類されるため、小さいほうから「2つ」の段階とは、評価値Bが「0」又は「1」である周波数を、候補周波数として選定することになる。
【0046】
次いで、選定した候補周波数の中に、前回(直前)の使用周波数があるかを判断し、あるならば(ステップS3:YES)、その前回(直前)の使用周波数を、引き続いて今回の使用周波数として決定する(ステップS5)。候補周波数の中に前回の使用周波数が無いならば(ステップS3:NO)、通信状況推定用機械学習モデル40から入力される周波数別の通信状況の時系列データに基づき、今回の使用周波数を決定する(ステップS7)。具体的には、周波数別に、後続期間全体における、通信状況である干渉レベルが所定レベル以上(例えば、「2」以上)である割合、つまり、後続期間全体でのデータの個数に対する干渉レベルが所定レベル以上(例えば、「2」以上)のデータの個数の割合を算出する。そして、算出した割合が最小の周波数を、今回の使用周波数として決定する。
【0047】
[機械学習モデルの生成]
上述のように、通信状況推定用機械学習モデル40に含まれるサブモデル42及びメインモデル46、評価値推定用機械学習モデル50の各機械学習モデルの生成は、教師データ(サブモデル42については教師データ312a、メインモデル46については教師データ312b、評価値推定用機械学習モデル50については過去データセット314)を用いてニューラルネットワークの重み付け係数を決定することで行う。この重み付け係数の決定方法として、より精度の高い機械学習モデルを生成するために、本実施形態では、確率的勾配降下法を用いる。
【0048】
具体的には、機械学習モデルの生成に用いる教師データとして、データの内容が異なる2セットを用意する。そして、先ず、一方の教師データを用いて、適当な初期点IPn(重み付け係数の初期値)から、確率的勾配降下法により機械学習モデルの重み付け係数Wnを求める。次いで、求めた重み付け係数Wnを適用した機械学習モデルに対して、他方の教師データを用いて推定正確度を求める。推定正確度は、例えば、他方の教師データの入力データを機械学習モデルに入力したときの出力である推定値と、当該入力データに関連付けられている出力データとの差分の二乗平均値とする。この推定正確度が所定の閾値以上ならば、求めた重み付け係数Wnを採用し、閾値未満ならば、初期点IPnを変更して、再度、同様の処理を繰り返し行う。
【0049】
[機能構成]
図10は、周波数決定装置30の機能構成図である。
図10によれば、周波数決定装置30は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータシステムとして構成することができる。
【0050】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音声出力装置で実現され、処理部200からの音声信号に応じた各種音出力を行う。通信部108は、無線或いは有線の通信装置で実現され、地上伝送回線Nに接続して、無線基地局10やモニタ用受信装置20といった各種の外部装置との通信を行う。
【0051】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102からの入力データ等に基づいて、周波数決定装置30の全体制御を行う。また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、過去データセット取得部202と、通信状況推定用モデル生成部204と、評価値推定用モデル生成部206と、電波環境データ取得部208と、使用周波数決定部210とを有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0052】
過去データセット取得部202は、車上装置82との間で無線通信を行う鉄道沿線に設置された無線基地局10によるSNRに基づく周波数別の通信状況を、所定の観察期間に亘って時系列に示した所与の周波数別時系列データと、観察期間に続く後続期間における通信状況を評価した評価値を周波数別に示す周波数別評価値データとを関連付けた過去データセット314を取得する。過去データセット314は、観察期間が一部重複しながら以後に順にずれた期間である複数の周波数別時系列データそれぞれと、当該周波数別時系列データに対応する周波数別評価値データとのデータセットを含む(
図8参照)。
【0053】
また、過去データセット取得部202は、通信状況推定用機械学習モデル40に電波環境を示すデータを時系列に入力して通信状況のデータを順次取得する。通信状況推定用機械学習モデル40は、無線基地局10の電波環境を示すデータと、当該電波環境下での周波数別の通信状況とを関連付けた教師データ312に基づいて学習させた機械学習モデルである。そして、過去データセット取得部202は、順次取得した通信状況のデータのうち、1)観察期間に相当するデータを周波数別時系列データとし、2)当該観察期間に続く後続期間に相当するデータについて周波数別に評価値を算出したデータを周波数別評価値データとすることで、過去データセット314を取得する。
【0054】
また、過去データセット取得部202は、通信状況推定用機械学習モデル40に含まれるサブモデル42に電波環境を示すデータを入力して周波数別のノイズ有無情報を取得する。そして、通信状況推定用機械学習モデル40に含まれるメインモデル46に電波環境を示すデータ及び取得した周波数別のノイズ有無情報を入力して通信状況のデータを取得することで、通信状況のデータを順次取得する。
【0055】
通信状況推定用モデル生成部204は、教師データ312を用いて、電波環境を示すデータを入力し、当該電波環境下での周波数別の通信状況を出力する通信状況推定用機械学習モデル40を生成する。通信状況推定用機械学習モデル40は、サブモデル42と、メインモデル46とを含む。サブモデル42は、電波環境を示すデータと、周波数別のノイズ有無情報とを関連付けた教師データ312aに基づいて学習させた機械学習モデルである。メインモデル46は、電波環境を示すデータ及びノイズ有無情報と、周波数別の通信状況とを関連付けた教師データ312bに基づいて学習された機械学習モデルである。
【0056】
評価値推定用モデル生成部206は、過去データセット取得部202により取得された過去データセット314を用いて、周波数別時系列データを入力し、周波数別評価値データを出力する評価値推定用機械学習モデル50を生成する(
図8参照)。評価値推定用機械学習モデル50は、例えば、リカレントニューラルネットワークである。
【0057】
電波環境データ取得部208は、無線基地局10の電波環境を示すデータを取得する。具体的には、無線基地局10の近傍に設置されたモニタ用受信装置20により受信された無線信号のパワースペクトルとして、振幅及び位相を正規化して離散フーリエ変換処理したN個のデータを、当該無線基地局10の電波環境を示すデータとして取得する。また、受信された無線信号の信号電力を、電波環境を示すデータとして取得する。
【0058】
使用周波数決定部210は、所与の従来期間を観察期間とした周波数別時系列データを評価値推定用機械学習モデル50に入力することで、当該従来期間に続く将来期間を後続期間とした周波数別評価値データの出力を得る。そして、得られた周波数別評価値データに基づいて無線通信に用いる使用周波数を決定する。具体的には、得られた周波数別評価値データに基づいて候補周波数を選定し、前回決定した前回の使用周波数と、候補周波数とを用いて、今回の使用周波数を決定する(
図9参照)。また、評価値推定用機械学習モデル50に入力する観察期間における周波数別時系列データ(周波数別の通信状況の時系列データ)は、通信状況推定用機械学習モデル40に、電波環境データ取得部208により取得された電波環境を示すデータを時系列に入力し、時系列に出力される周波数別の通信状況のデータである。
【0059】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が周波数決定装置30を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、周波数決定プログラム302と、無線基地局情報310とが記憶される。
【0060】
無線基地局情報310は、無線基地局10別に生成され、該当する無線基地局10の識別情報(基地局ID)と対応付けて、通信状況推定用機械学習モデルデータ311と、通信状況推定用機械学習モデル40の生成に用いられる教師データ312と、評価値推定用機械学習モデルデータ313と、過去データセット取得部202によって取得され、評価値推定用機械学習モデル50の生成に用いられる過去データセット314と、電波環境データ315と、周波数別通信状況蓄積データ316と、周波数別評価値蓄積データ317とを格納している。
【0061】
通信状況推定用機械学習モデルデータ311は、該当する無線基地局10についての通信状況推定用機械学習モデル40を定義するデータであり、具体的には、重み付け係数のデータである。このデータは、通信状況推定用モデル生成部204によって生成される。教師データ312は、通信状況推定用モデル生成部204による通信状況推定用機械学習モデル40の生成に用いられるデータである。評価値推定用機械学習モデルデータ313は、該当する無線基地局10についての評価値推定用機械学習モデル50を定義するデータであり、具体的には、重み付け係数のデータである。このデータは、評価値推定用モデル生成部206によって生成される。過去データセット314は、過去データセット取得部202によって取得され、評価値推定用モデル生成部206による評価値推定用機械学習モデル50の生成に用いられるデータである。電波環境データ315は、電波環境データ取得部208により取得された該当する無線基地局10の電波環境を示すデータである。周波数別通信状況蓄積データ316は、通信状況推定用機械学習モデル40を用いて得られた該当する無線基地局10の周波数別の通信状況の時系列蓄積データである。周波数別評価値蓄積データ317は、評価値推定用機械学習モデル50を用いて得られた該当する無線基地局10の周波数別の評価値Bの時系列蓄積データである。
【0062】
[作用効果]
本実施形態によれば、無線列車制御システムにおける使用周波数を決定する技術として、空いている周波数を高精度に選択可能な技術を実現することができる。つまり、無線基地局10と車上装置82とが無線通信を行う際の無線基地局10によるSNRに基づく周波数別の通信状況を所定の観察期間に亘って示した時系列データを入力し、当該観察期間に続く後続期間における通信状況の評価値データを出力する評価値推定用機械学習モデル50を生成することができる。そして、この評価値推定用機械学習モデル50に従来期間の周波数別の通信状況の時系列データを入力して得られた後続期間の周波数別評価値データに基づいて、無線基地局10が無線通信に用いる使用周波数を決定することができる。これにより、従来期間の周波数別の通信状況から、当該従来期間に続く将来期間の通信状況を評価値として推定することができるので、無線列車制御システムにおける使用周波数を決定する技術として、空いている周波数を高精度に選択可能な技術を実現することができる。
【0063】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0064】
(A)使用周波数の数
例えば、周波数決定装置30は、使用周波数として複数の周波数を決定するようにしてもよい。この場合、使用周波数決定部210は、候補周波数の中に前回の使用周波数があるならば前回の使用周波数を今回の使用周波数とし、更に、通信状況推定用機械学習モデル40から出力される周波数別の通信状況の時系列データに基づいて、周波数別に干渉レベルが所定レベル以上の割合を求め、求めた割合が小さい周波数から順に選択して使用周波数とすることで、複数の使用周波数を決定する(
図9参照)。
【0065】
(B)モニタ用受信装置20
上述の実施形態では、モニタ用受信装置20を無線基地局10と1対1で対応付けて対応する無線基地局10の近傍に設置することにしたが、任意の位置に設置するようにしてもよい。この場合、例えば、無線基地局10の設置位置に最も近い位置に設置されているモニタ用受信装置20により受信された無線信号に基づいて、当該無線基地局10の周辺の通信状況を推定する。
【0066】
或いは、無線基地局10がモニタ用受信装置20を兼用することにしてもよい。この場合、周波数決定装置30は、無線基地局10により受信された無線信号に基づいて、当該無線基地局10の周辺の通信状況を推定する。
【符号の説明】
【0067】
1…無線列車制御システム
10…無線基地局
20…モニタ用受信装置
30…周波数決定装置
40…通信状況推定用機械学習モデル
42…サブモデル
44…ノイズパワー推定部
46…メインモデル
50…評価値推定用機械学習モデル
200…処理部
202…過去データセット取得部
204…通信状況推定用モデル生成部
206…評価値推定用モデル生成部
208…電波環境データ取得部
210…使用周波数決定部
300…記憶部
302…周波数決定プログラム
310…無線基地局情報
311…通信状況推定用機械学習モデルデータ
312(312a,312b)…教師データ
313…評価値推定用機械学習モデルデータ
314…過去データセット
315…電波環境データ
316…周波数別通信状況蓄積データ
317…周波数別評価値蓄積データ
80…列車
82…車上装置