(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123385
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/508 20060101AFI20220817BHJP
F16F 9/348 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
F16F9/508
F16F9/348
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020667
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】望月 隆久
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069CC13
3J069EE02
3J069EE29
3J069EE64
(57)【要約】
【課題】低速で伸縮する際の減衰力を大きくでき減衰力特性の設定も容易となる緩衝器の提供を目的としている。
【解決手段】本発明における緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2と、円盤状であってシリンダ1内に挿入されてシリンダ1内を二つの作動室としての伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン(区画部材)3とを備え、ピストン(区画部材)3は、環状であって伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側ポート(ポート)31bおよび圧側ポート(ポート)31cを有する第一部材31と、環状であって第一部材31の内周または外周に嵌合される第二部材32とを有し、第一部材31は第二部材32に面する対向周部である外周に周方向に沿って形成されるとともに伸側室R1と圧側室R2とを連通する溝31fを有し、第一部材31と第二部材32との嵌合により溝31fでチョーク通路T1が形成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に移動自在に挿入されるロッドと、
円盤状であって前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内に二つの作動室を区画する区画部材とを備え、
前記区画部材は、
環状であって、前記二つの作動室を連通するポートを有する第一部材と、
環状であって、前記第一部材の内周または外周に嵌合される第二部材とを有し、
前記第一部材と前記第二部材の一方は、前記第一部材と前記第二部材の他方に面する対向周部に周方向に沿って形成されるとともに前記作動室同士を連通する溝を有し、
前記第一部材と前記第二部材との嵌合により前記溝でチョーク通路が形成される
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記溝は、前記対向周部に周方向に沿って螺旋状に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記溝は、前記対向周部に対して前記区画部材の軸方向に蛇行して周方向に延びるように形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記ポートは、前記第一部材の内周或いは外周の一方に屈曲する屈曲部を有し、
前記溝は、前記第一部材の前記ポートの屈曲部の内周或いは外周であって前記屈曲部の屈曲側とは反対側に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記第一部材は、前記作動室の一方から他方へ向かう流体の流れを許容する複数の前記ポートと、前記第一部材の前記各ポートの内周側であって前記各ポートと径方向で並ばない位置に設けられるとともに前記作動室の他方から一方へ向かう流体の流れを許容する複数の第2ポートとを有し、
前記溝は、前記第一部材に形成されており、
前記チョーク通路の一端が前記各ポートのうち一つに接続され、前記チョーク通路の他端が前記各第2ポートのうち一つに接続される
ことを特徴とする請求項1または4に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、たとえば、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるピストンロッドと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッドに連結されるピストンと、ピストンでシリンダ内に区画されるとともに作動油が充填される伸側室と圧側室と、ピストンに設けられて伸側室と圧側室とを連通する伸側ポートと圧側ポートと、ピストンの圧側室側端に積層されるとともにピストンロッドに内周が固定されて外周の撓みが許容されて伸側ポートを開閉する環状の伸側リーフバルブと、ピストンの伸側室側端に積層されるとともにピストンロッドに内周が固定されて外周の撓みが許容されて圧側ポートを開閉する環状の圧側リーフバルブと、ピストンに設けられて伸側室と圧側室とを連通するチョーク通路とを備えるものがある。
【0003】
このように構成された緩衝器が低速で伸縮作動する場合、伸側リーフバルブ或いは圧側リーフバルブが開弁しないので、作動油がチョーク通路を通って伸側室と圧側室とを行き来する。よって、従来の緩衝器は、低速で伸縮作動する際には、チョーク通路のみを作動油が通過する際の圧力損失に依存した減衰力を発揮する(特許文献1参照)。チョーク通路のみを作動油が通過する際に緩衝器が発生する減衰力の伸縮速度に対する特性(減衰力特性)は、所謂チョーク特性と称される伸縮速度に概ね比例して減衰力が大きくなる特性となっている。よって、このようにチョーク通路をピストンに設ける場合、緩衝器の減衰力が伸長速度の二乗に比例する特性となるオリフィスに比べると減衰力の設定が比較的容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、チョーク通路の通路長さが長くなれば長くなるほど、作動油の流れに対して与える抵抗が大きくなり、緩衝器の減衰力を大きくできる。以上から、従来の緩衝器において、オリフィスに代えてチョーク通路をピストンに設ける場合、要求される減衰力特性に応じてチョーク通路の長さを設定すればよい。
【0006】
しかしながら、従来の緩衝器では、ピストンにチョーク通路を設ける場合、ピストンの伸側室端から圧側室端へ軸方向に貫通するように設けられており、チョーク通路の長さをピストンの軸方向の長さ以上に設定できない。また、ピストンの軸方向長さを長くすると緩衝器のストローク長が犠牲になるので、ピストンの軸方向長さを長くするにも限界がある。
【0007】
以上より、オリフィスを用いると減衰力特性の設定が難しくなるのでチョーク通路を利用したいものの、従来の緩衝器では、チョーク通路を長くとることができないために、低速で伸縮する際の減衰力を高く設定できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、低速で伸縮する際の減衰力を大きくでき減衰力特性の設定も容易となる緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために、本発明の緩衝器は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるロッドと、円盤状であってシリンダ内に挿入されてシリンダ内を二つの作動室に区画する区画部材とを備え、区画部材は、環状であって伸側室と圧側室とを連通するポートを有する第一部材と、環状であって第一部材の内周または外周に嵌合される第二部材とを有し、第一部材は第二部材に面する対向周部である外周に周方向に沿って形成されるとともに作動室同士を連通する溝を有し、第一部材と第二部材との嵌合により溝でチョーク通路が形成されている。
【0010】
このように構成された緩衝器では、チョーク通路が円盤状の区画部材のポートより内周側或いは外周側のデッドスペースに周方向に沿って設けられるので、区画部材の軸方向長さを長くせずに、チョーク通路の通路長を長くできる。チョーク通路の通路長を長くできるから、チョーク通路の通路長の設計自由度が向上し、区画部材に十分な長さのチョーク通路を形成できる。
【0011】
また、緩衝器におけるチョーク通路は、第一部材或いは第二部材の対向周部に設けられる螺旋状の溝で形成されてもよい。このように構成された緩衝器によれば、区画部材のデッドスペースを有効に利用して区画部材内を周方向に周回させる回数の設定でチョーク通路の長さを設定でき、チョーク通路の通路長の設計自由度を大きく向上できる。
【0012】
さらに、緩衝器におけるチョーク通路は、第一部材或いは第二部材の対向周部に設けられる区画部材の軸方向に蛇行して周方向に延びるように形成された溝で形成されてもよい。このように構成された緩衝器にあっても、区画部材のデッドスペースを有効に利用して区画部材内を周方向に周回させる回数の設定でチョーク通路の長さを設定でき、チョーク通路の通路長の設計自由度を大きく向上できる。
【0013】
また、緩衝器における第一部材におけるポートは、第一部材の内周側に屈曲する屈曲部を備え、チョーク通路を形成する溝が第一部材のポートの屈曲部の外周であって屈曲部の屈曲側とは反対側に配置されてもよい。このように構成された緩衝器によれば、第一部材の屈曲部より外周にチョーク通路を設けるスペースが形成され、区画部材に無理なくチョーク通路を形成できる。
【0014】
さらに、緩衝器における第一部材は、作動室の一方から他方へ向かう流体の流れを許容する複数のポートと、第一部材の各ポートの内周側であって各ポートと径方向で並ばない位置に設けられるとともに作動室の他方から一方へ向かう流体の流れを許容する複数の第2ポートとを有し、溝は第一部材に形成されており、チョーク通路の一端が各ポートのうち一つに接続され、チョーク通路の他端が各第2ポートのうち一つに接続されてもよい。このように構成された緩衝器によれば、リーフバルブの開弁応答性を向上して、緩衝器の減衰力特性の製品毎のばらつきを少なくできる。
【発明の効果】
【0015】
以上より、本発明の緩衝器によれば、低速で伸縮する際の減衰力を大きくでき減衰力特性の設定も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【
図2】一実施の形態における緩衝器のピストンの平面図である。
【
図3】一実施の形態における緩衝器のピストンのAA断面図である。
【
図4】一実施の形態における緩衝器のピストンの底面図である。
【
図5】一実施の形態における緩衝器のピストンの第1変形例における断面図である。
【
図6】一実施の形態における緩衝器のピストンの第2変形例における第一部材の断面図である。
【
図7】一実施の形態における緩衝器のピストンの第3変形例における断面図である。
【
図8】第4変形例のピストンを備えた一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【
図9】一実施の形態における緩衝器のピストンの第4変形例における平面図である。
【
図10】一実施の形態における緩衝器のピストンの第4変形例におけるBB断面図である。
【
図11】一実施の形態における緩衝器のピストンの第4変形例における底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2と、シリンダ1内に挿入されてシリンダ1内に二つの作動室としての伸側室R1と圧側室R2とを区画する区画部材としてのピストン3とを備えている。そして、この緩衝器Dの場合、たとえば、図示しない車両における車体と車軸との間に介装されて使用され、車体および車輪の振動を抑制する。
【0018】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。
図1に示すように、シリンダ1の上端には、環状のロッドガイド10が装着されており、シリンダ1の下端はキャップ11で閉塞されている。そして、シリンダ1内には、先端にピストン3が装着されたロッド2が移動自在に挿入されている。
【0019】
ロッド2は、ロッドガイド内に摺動自在に挿通されてシリンダ1内に挿入されており、ロッドガイド10によって軸方向への移動が案内される。また、シリンダ1内は、ピストン3によって、作動油等の流体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画されている。なお、流体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体の使用もできる。また、流体を液体に代えて気体としてもよい。
【0020】
なお、シリンダ1内であって圧側室R2よりも下方には、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるフリーピストン6によって気室Gが区画されている。そして、気室Gは、シリンダ1に対してロッド2が軸方向に変位すると、ロッド2のシリンダ1内に出入りする体積に応じてフリーピストン6がシリンダ1に対して軸方向へ変位することで拡縮され、この気室Gの容積変化によりシリンダ1内に出入りするロッド2の体積補償がなされる。このように緩衝器Dは、所謂単筒型の緩衝器とされているが、シリンダ1外にリザーバを備える復筒型の緩衝器として構成されてもよい。
【0021】
戻って、ロッド2は、その
図1中下端となる先端部2aの外周に設けた螺子部2bと、先端部2aより上方の外周に装着されるCリング2cとを備えている。ロッド2の先端部2aの外周に、環状に形成された伸側のリーフバルブ7および圧側のリーフバルブ8が環状のピストン3とともに装着される。これらリーフバルブ7,8およびピストン3は、螺子部2bに螺着されるピストンナット9とCリング2cとで挟持されてロッド2の先端部2aの外周に固定されている。
【0022】
ピストン3は、
図2から
図4に示すように、環状の第一部材31と、第一部材31の外周に嵌合する環状の第二部材32とで形成されている。第一部材31は、円盤状であって、中央にロッド2の先端部2aが挿通される挿通孔31aと、同一円周上に設けられた軸方向視で円弧状の伸側ポート31bおよび圧側ポート31cとを備えている。また、伸側ポート31bと圧側ポート31cは、第一部材31に3つずつ同一円周上に交互に並べて設けられており、区画部材としてのピストン3におけるポートとされている。
【0023】
また、第一部材31は、
図4に示すように、圧側室R2側に面する端部に伸側ポート31bをそれぞれ取り囲む花弁型の弁座31dを備えるとともに、
図2に示すように、伸側室R1側に面する端部に圧側ポート31cをそれぞれ取り囲む花弁型の弁座31eを備えている。このように、本実施の形態の緩衝器Dのピストン3に設けられた伸側ポート31bは、それぞれが連通されない独立開口のポートとされ、圧側ポート31cもまた、それぞれが連通されない独立開口のポートとされている。
【0024】
そして、第一部材31は、
図2から
図4に示すように、第二部材32に対向する対向周部となる外周に周方向に沿う螺旋状の溝31fを備えている。この溝31fは、第一部材31の
図3中の上端となる伸側室R1側端から開口して、第一部材31の外周を螺旋状に周回して第一部材31の
図3中の下端となる圧側室R2側端へ開口する。溝31fは、伸側ポート31bと圧側ポート31cと接しないように、第一部材31の伸側ポート31bと圧側ポート31cの外周の肉部に全体が外部へ開放された状態で形成されている。
【0025】
他方、第二部材32は、
図3に示すように、環状であって外周にピストンリング32aを備えている。そして、第二部材32は、第一部材31の外周に嵌合されると、内周面を溝31fの伸側室R1側の出口端と圧側室R2側の出口端を残して溝31fに対向させる。よって、溝31fは、第一部材31の外周に第二部材32を嵌合すると、両端のみが開放される螺旋状のチョーク通路T1が形成される。
【0026】
つまり、第一部材31を第二部材32の内周に嵌合して区画部材としてのピストン3を組み立てると、溝31fによってチョーク通路T1が形成される。チョーク通路T1は、螺旋状であって、ピストン3の伸側室R1側端の弁座31eの外周側から開口してピストン3の圧側室R2側端の弁座31dの外周側へ通じて、伸側室R1と圧側室R2とを連通する。
【0027】
なお、
図5に示す第1変形例におけるピストン3のように、第一部材31の外周に溝31fを設けるのではなく、第二部材32の第一部材31に面する対向周部となる内周に溝32bを形成してもよい。このようにしても、第一部材31に第二部材32を嵌合すると、溝32bによってチョーク通路T1aが形成される。
【0028】
また、チョーク通路T1は、図示はしないが、途中に螺旋状の部分を持つ形状とされてもよい。つまり、螺旋状の部分と、ピストン3の伸側室R1側端の弁座31eの外周側から軸方向に開口して螺旋状の前記部分に接続される部分と、ピストン3の圧側室R2側端の弁座31dの外周側から軸方向に開口して螺旋状の前記部分に接続される部分とでチョーク通路T1を形成してもよい。このように、チョーク通路T1の延長方向および断面の形状は、溝31fの延長方向および断面の形状によって任意に設定できる。したがって、溝31fを
図6に示す第2変形例におけるピストン3のように、第一部材31の軸方向に蛇行して周方向に沿って延びる形状としてもよい。
【0029】
また、
図7に示す第3変形例におけるピストン3のように、第一部材33の内周に第二部材34が嵌合される構造として、伸側ポート33aと圧側ポート33bを有する第一部材33の内周を対向周部として第一部材33の内周に溝33cを形成してもよい。この場合、第二部材34は、ロッド2の先端部2aに装着され、第一部材33は、シリンダ1に摺接する。溝33cは、一端が伸側ポート33aの一つに接続され、他端が圧側ポート33bの一つに接続されていて、伸側ポート33aと圧側ポート33bを介して伸側室R1と圧側室R2とを連通している。このように溝33cを第一部材33の内周に形成しても第二部材34を第一部材33に嵌合すると、溝33cによってチョーク通路T1bが形成される。なお、このようにピストン3の伸側ポート33aと圧側ポート33bより内周側にチョーク通路T1bを配置する場合、第一部材33の内周に溝33cを形成することに代えて、第二部材34の外周を対向周部としてチョーク通路を形成する溝を設けてもよい。
【0030】
なお、前述のように構成されたピストン3は、第一部材31,33と第二部材32,34の二部品で構成され、溝31f,32b,33cが第一部材31,33或いは第二部材32,34の相手方に対向する周面となる対向周部に形成されるので、周方向に沿う形状となる溝31f,32b,33cを外方から加工できる。また、第一部材31,33或いは第二部材32,34の外周を対向周部として溝を設ける場合には、溝の形状にもよるが金型を利用した焼結によって第一部材31,33或いは第二部材32,34を製造できる。よって、本実施の形態の緩衝器Dでは、ピストン3の内部にチョーク通路T1,T1a,T1bを簡単に設けることができる。また、ピストン3の製造にあたり、3Dプリンタを利用してもよい。3Dプリンタを利用すれば、複数の工程を経て加工しなくてはならない溝31f,32b,33cを有する第一部材31,33或いは第二部材32,34を一度の加工で製造することができる。
【0031】
伸側のリーフバルブ7は、複数枚の環状板を積み重ねた積層リーフバルブとされており、ピストン3の
図1中圧側室R2を向く下面に積層されている。伸側のリーフバルブ7は、内周がピストンナット9とCリング2cとで挟持されて固定されており、自由端である外周側の撓みが許容され、弁座31dに対して離着座して伸側ポート31bの出口端を開閉する。このように、伸側のリーフバルブ7は、ピストン3に重ねてピストンナット9とロッド2のCリング2cとで挟持されてロッド2に固定されると、弁座31dに当接してピストン3に積層される。そして、伸側のリーフバルブ7は、外周が弁座31dに着座した状態では、伸側ポート31bを閉塞して伸側ポート31bを介しての伸側室R1と圧側室R2との連通を断つ。また、伸側のリーフバルブ7は、伸側ポート31bを介して伸側室R1の圧力を受けて撓んで弁座31dから離座すると、伸側ポート31bを開放し、伸側室R1と圧側室R2とを連通し、伸側室R1から圧側室R2へ向かう作動油の流れに抵抗を与える。
【0032】
また、圧側のリーフバルブ8は、複数枚の環状板を積み重ねた積層リーフバルブとされており、ピストン3の
図1中伸側室R1を向く上面に積層されている。圧側のリーフバルブ8は、内周がピストンナット9とCリング2cとで挟持されて固定されており、自由端である外周側の撓みが許容され、弁座31eに対して離着座して圧側ポート31cの出口端を開閉する。このように、圧側のリーフバルブ8は、ピストン3に重ねてピストンナット9とロッド2のCリング2cとで挟持されてロッド2に固定されると、弁座31eに当接してピストン3に積層される。そして、圧側のリーフバルブ8は、外周が弁座3eに着座した状態では、圧側ポート31cを閉塞して圧側ポート31cを介しての圧側室R2と伸側室R1との連通を断つ。また、圧側のリーフバルブ8は、圧側ポート31cを介して圧側室R2の圧力を受けて撓んで弁座31eから離座すると、圧側ポート31cを開放し、圧側室R2と伸側室R1とを連通し、圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油の流れに抵抗を与える。
【0033】
緩衝器Dは、以上のように構成され、以下に、緩衝器Dの作動について説明する。まず、シリンダ1に対してロッド2が
図1中上方へ移動して緩衝器Dが伸長作動する場合の作動について説明する。緩衝器Dが伸長作動すると、ピストン3がシリンダ1に対して
図1中上方へ移動するので、伸側室R1が圧縮され圧側室R2が拡大される。
【0034】
すると、伸側室R1内の圧力が上昇する。この圧力がピストン3の
図1中上端に積層されているリーフバルブ8によって閉塞されていない伸側ポート31bを通じて伸側のリーフバルブ7に作用する。緩衝器Dの伸長速度が低速であって、伸側室R1内の圧力がリーフバルブ7の開弁圧に達しない場合、作動油はチョーク通路T1のみを介して伸側室R1から圧側室R2へ移動する。よって、緩衝器Dは、伸長速度が低速である場合、チョーク通路T1がこれを通過する作動油に抵抗を与えて減衰力を発生する。また、緩衝器Dの伸長速度が低速を超えて高速域に達するとリーフバルブ7が撓んで弁座31dから離座して、伸側ポート31bを開放するので、伸側室R1内の作動油は、伸側ポート31bおよびチョーク通路T1を通過して圧側室R2へ移動するようになる。チョーク通路T1は、流量が多くなるとリーフバルブ7よりも作動油の流れに対して大きな抵抗を与えるようになる。よって、緩衝器Dの伸長速度が高速となると、作動油はチョーク通路T1を通過し難くなるため、伸側ポート31bを優先的に通過するようになる。よって、緩衝器Dは、伸長速度が低速を超えて高速域に達する場合、ほぼリーフバルブ7が作動油の流れに与える抵抗によって減衰力を発生する。なお、緩衝器Dの伸長時には、シリンダ1内からロッド2が退出するため、フリーピストン6がシリンダ1に対して
図1中上方へ移動し、ロッド2がシリンダ1内から退出する体積分だけ気室Gの容積が拡大し、シリンダ1内から退出するロッド2の体積補償がなされる。
【0035】
つづいて、シリンダ1に対してロッド2が
図1中下方へ移動して緩衝器Dが収縮作動する場合の作動について説明する。緩衝器Dが収縮作動すると、ピストン3がシリンダ1に対して
図1中下方へ移動するので、圧側室R2が圧縮され伸側室R1が拡大される。
【0036】
すると、圧側室R2内の圧力が上昇する。この圧力がピストン3の
図1中下端に積層されているリーフバルブ7によって閉塞されていない圧側ポート31cを通じて圧側のリーフバルブ8に作用する。緩衝器Dの収縮速度が低速であって、圧側室R2内の圧力がリーフバルブ8の開弁圧に達しない場合、作動油はチョーク通路T1のみを介して圧側室R2から伸側室R1へ移動する。よって、緩衝器Dは、収縮速度が低速である場合、チョーク通路T1がこれを通過する作動油に抵抗を与えて減衰力を発生する。また、緩衝器Dの収縮速度が低速を超えて高速域に達するとリーフバルブ8が撓んで弁座31eから離座して、圧側ポート31cを開放するので、圧側室R2内の作動油は、圧側ポート31cおよびチョーク通路T1を通過して伸側室R1へ移動するようになる。チョーク通路T1は、流量が多くなるとリーフバルブ8よりも作動油の流れに対して大きな抵抗を与えるようになる。よって、緩衝器Dの収縮速度が高速となると、作動油はチョーク通路T1を通過し難くなるため、圧側ポート31cを優先的に通過するようになる。よって、緩衝器Dは、収縮速度が低速を超えて高速域に達する場合、ほぼリーフバルブ8が作動油の流れに与える抵抗によって減衰力を発生する。なお、緩衝器Dの収縮時には、シリンダ1内へロッド2が侵入するため、フリーピストン6がシリンダ1に対して
図1中下方へ移動し、ロッド2がシリンダ1内へ侵入する体積分だけ気室Gの容積が縮小し、シリンダ1内へ侵入するロッド2の体積補償がなされる。
【0037】
このように、緩衝器Dの伸縮速度が低速である場合、緩衝器Dは、チョーク通路T1によって減衰力を発生し、緩衝器Dの伸縮速度が高速である場合、緩衝器Dは、リーフバルブ7,8によって減衰力を発生する。よって、本実施の形態の緩衝器Dの減衰力特性は、緩衝器Dの伸縮速度が低速時には前記伸縮速度にほぼ比例するチョーク特性となり、緩衝器Dの伸縮速度が高速となるとリーフバルブ7,8のバルブ特性に変化する特性となる。
【0038】
本実施の形態の緩衝器Dは、前述したように、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2と、円盤状であってシリンダ1内に挿入されてシリンダ1内を二つの作動室としての伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン(区画部材)3とを備え、ピストン(区画部材)3は、環状であって伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側ポート(ポート)31bおよび圧側ポート(ポート)31cを有する第一部材31と、環状であって第一部材31の内周または外周に嵌合される第二部材32とを有し、第一部材31は第二部材32に面する対向周部である外周に周方向に沿って形成されるとともに伸側室R1と圧側室R2とを連通する溝31fを有し、第一部材31と第二部材32との嵌合により溝31fでチョーク通路T1が形成されている。
【0039】
このように構成された緩衝器Dでは、チョーク通路T1が円盤状のピストン(区画部材)3の伸側ポート(ポート)31bおよび圧側ポート(ポート)31cより外周側のデッドスペースに周方向に沿って設けられるので、ピストン(区画部材)3の軸方向長さを長くせずに、チョーク通路T1の通路長を長くできる。チョーク通路T1の通路長を長くできるから、チョーク通路T1の通路長の設計自由度が向上し、ピストン(区画部材)3に十分な長さのチョーク通路T1を形成できる。このように、本実施の形態の緩衝器Dによれば、チョーク通路T1の通路長を長くでき、減衰力不足の対策として減衰力特性の設定が難しいオリフィスを利用しなくてもよいので、低速で伸縮する際の減衰力を大きくできるとともに、減衰力特性の設定も容易となる。
【0040】
また、第一部材31の外周に設けられる溝31fによってチョーク通路T1が形成されるので、簡単な加工によって複雑な形状のチョーク通路T1を持つピストン(区画部材)3を製造できる。
【0041】
なお、チョーク通路T1を形成する溝は、前述した通り、第一部材31と第二部材32のうちいずれか一方の対向周部に設けられればよいので、第二部材32の内周に設けられてもよいし、第二部材34が第一部材33の内周に嵌合する構造の場合、第一部材の内周或いは第二部材34の外周に設けられてもよい。
【0042】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、チョーク通路T1が第一部材31の外周、第一部材33の内周、第二部材32の内周或いは第二部材34の外周に設けられる螺旋状の溝31f,33c,34bで形成されるので、ピストン(区画部材)3のデッドスペースを有効に利用してピストン(区画部材)3内を周方向に周回させる回数の設定でチョーク通路T1の長さを設定でき、チョーク通路T1の通路長の設計自由度を大きく向上できる。
【0043】
さらに、第2変形例におけるピストン3のように、チョーク通路T1が第一部材31の対向周部である外周に対してピストン(区画部材)3の軸方向に蛇行して周方向に延びるように形成された溝31fで形成されてもよい。このように構成された緩衝器Dにあっても、ピストン(区画部材)3のデッドスペースを有効に利用してピストン(区画部材)3内を軸方向に蛇行させる回数の設定でチョーク通路T1の長さを設定でき、チョーク通路T1の通路長の設計自由度を大きく向上できる。なお、このような蛇行する溝でチョーク通路T1を形成する場合であっても、溝は、第一部材31の外周の他にも、第一部材33の内周、第二部材32の内周或いは第二部材34の外周に設けられればよい。
【0044】
なお、本実施の形態の緩衝器Dでは、区画部材をピストン3としているが、シリンダ1に固定される態様で使用される隔壁等を区画部材としてもよい。たとえば、シリンダの外方にリザーバを備える複筒型の緩衝器においてシリンダの端部に固定されるバルブケースを区画部材として、バルブケースで区画されるリザーバと圧側室とを作動室として、バルブケースにチョーク通路を形成してもよい。
【0045】
また、
図8に示すように、区画部材の第4変形例としてピストン40は以下のように構成されてもよい。ピストン40は、
図8から
図11に示すように、第一部材41と、第一部材41の外周に嵌合される第二部材44とを備えて構成されている。
【0046】
第一部材41は、円盤状であって中央にロッド2の挿通を許容する挿通孔42aを備える本体部42と、本体部42の
図10中下端外周から垂下される筒状の延長部43とを備えている。また、本体部42は、伸側室R1と圧側室R2とを連通する軸方向視で円弧状の3つのポートとしての圧側ポート42cと、伸側室R1と圧側室R2とを連通する軸方向視で円形の3つの第2ポートとしての伸側ポート42bとを備えている。伸側ポート42bは、本体部42に同一円周上に等間隔に設けられており、圧側ポート42cは、本体部42の伸側ポート21bよりも外周側であって同一円周上に等間隔に設けられている。そして、本体部42の圧側室R2側端には、伸側ポート42bの外周側を取り囲む伸側環状弁座42dが設けられており、本体部42の伸側室R1側端には、伸側ポート42bと圧側ポート42cとの間に設けられて伸側ポート42bを取り囲む内側環状弁座42eと、圧側ポート42cの外周を取り囲む圧側環状弁座42fとが設けられている。
【0047】
伸側ポート42bと圧側ポート42cとは、本体部42に対して互いに周方向にずれた位置、つまり、本体部42に対して径方向で並ばない位置に設けられている。さらに、本体部42に対して外周側に設けられている圧側ポート42cは、
図10に示すように、中央に第一部材41の内周側に屈曲している屈曲部42c1を備えている。また、延長部43は、筒状であって本体部42の下端外周から垂下されており、下端に外周側へ突出するフランジ部43aを備えている。延長部43の外径は、フランジ部43a以外では、本体部42と同径に設定されており、延長部43の外周と本体部42の外周とが面一になっている。このように構成された第一部材41の本体部42の
図10中上端からと延長部43のフランジ部43aの上方にかけて環状の第二部材44が嵌合される。
【0048】
そして、また、第一部材41の本体部42の第二部材44に対向する対向周部である外周には、溝42gが設けられている。溝42gは、第一部材41の本体部42の外周に周方向に沿って設けられている。溝42gの一端は、本体部42の肉を貫いて径方向へ延びる孔42hを通じて伸側ポート42bに接続されており、溝42gの他端は、第一部材41の肉を貫いて径方向へ延びる孔42iを通じて圧側ポート42cに接続されている。よって、溝42gは、伸側ポート42bと圧側ポート42cを介して伸側室R1と圧側室R2とを連通している。また、溝42gは、圧側ポート42cの屈曲部42c1の外側を通っており、
図9に示すように、ピストン40を軸方向から見て圧側ポート42cの開口端の近傍を通る位置に配置されている。
【0049】
他方、第二部材44は、
図10に示すように、環状であって外周にピストンリング44aを備えている。そして、第二部材44は、第一部材41の外周に嵌合されると、内周面を溝42gに対向させる。よって、溝42gは、第一部材41の外周に第二部材44を嵌合すると、第二部材44によって閉塞されて、伸側ポート42bと圧側ポート42cを通じて伸側いつR1と圧側室R2を連通するチョーク通路T2が形成される。
【0050】
このように形成されたチョーク通路T2は、圧側ポート42cの屈曲部42c1の外周であって屈曲部42c1の屈曲側とは反対側に配置されるとともに、ピストン40の軸方向で圧側ポート42cの伸側室R1側の開口と圧側室R2側の開口との間に配置されている。圧側ポート42cから見れば、圧側ポート42cは、中央にチョーク通路T2を形成する溝42gを避ける屈曲部42c1を備えている。
【0051】
このように圧側ポート42cが途中に屈曲部42c1を備えていることで、屈曲部42c1の外周に溝42gを設けるスペースが形成され、ピストン40に無理なくチョーク通路T2を形成できる。なお、各伸側ポート42bは、ピストン40の各圧側ポート42cよりも内周側に設けられているので、溝42gを設けるスペースを確保するために屈曲部を備える必要はない。なお、圧側ポート42cと伸側ポート42bとが同一円周上に設けられていて屈曲部を備えていないと、チョーク通路T2を形成する溝42gを設けるスペースをピストン3に確保できない場合、伸側ポート42bと圧側ポート42cとに屈曲部を設けてもよい。
【0052】
なお、図示はしないが、第二部材44が第一部材41の内周に嵌合される場合、チョーク通路T2を形成する溝は第一部材41の外周ではなく内周に形成されてもよい。その場合、内周側の伸側ポート42bをポートとして第一部材41の外周側へ屈曲する屈曲部を設けて第一部材41の内周に溝を形成するスペースを確保すればよく、外周側の圧側ポート42cを第2ポートとすればよい。
【0053】
前述のようにピストン40にチョーク通路T2を形成しても、チョーク通路T2が第一部材41の内周或いは外周に設けられた溝42gで形成されるので、ピストン(区画部材)40の伸側ポート(ポート)42bおよび圧側ポート(ポート)42cより外周側或いは内周側のデッドスペースに周方向に沿って設けられる。よって、ピストン(区画部材)40の軸方向長さを長くせずに、チョーク通路T2の通路長を長くできる。
【0054】
チョーク通路T2の通路長を長くできるから、チョーク通路T2の通路長の設計自由度が向上し、ピストン(区画部材)40に十分な長さのチョーク通路T2を形成できる。よって、前述のようにピストン40にチョーク通路T2を形成した本実施の形態の緩衝器Dによれば、チョーク通路T2の通路長を長くでき、減衰力不足の対策として減衰力特性の設定が難しいオリフィスを利用しなくてもよいので、低速で伸縮する際の減衰力を大きくできるとともに、減衰力特性の設定も容易となる。
【0055】
また、前述した第4変形例のピストン(区画部材)40では、圧側ポート(ポート)42cは、第一部材41の内周側に屈曲する屈曲部42c1を備え、チョーク通路T2を形成する溝42gが第一部材41の圧側ポート(ポート)42cの屈曲部42c1の外周であって屈曲部42c1の屈曲側とは反対側に配置されている。このように構成された緩衝器Dによれば、第一部材41の屈曲部42c1より外周にチョーク通路T2を設けるスペースが形成され、ピストン(区画部材)40に無理なくチョーク通路T2を形成できる。
【0056】
さらに、前述した第4変形例のピストン(区画部材)40における第一部材41は、圧側室R2から伸側室R1へ向かう流体の流れを許容する複数の圧側ポート(ポート)42cと、ピストン(区画部材)40の圧側ポート(ポート)42cより内周側であって圧側ポート(ポート)42cと径方向で対向しない位置に設けられるとともに伸側室R1から圧側室R2へ向かう流体の流れを許容するの複数の伸側ポート(第2ポート)42bとを備え、溝42gが第一部材41に形成されており、チョーク通路T2の一端が圧側ポート(ポート)42cのうち一つに接続され、チョーク通路T2の他端が伸側ポート(第2ポート)42bのうち一つに接続されている。このように構成されたピストン(区画部材)40では、チョーク通路T2の両端の出口端がピストン(区画部材)40の伸側室側端と圧側室側端に形成されないので、圧側ポート(ポート)42cを囲む圧側環状弁座42fの直径と、伸側ポート42bを取り囲む伸側環状弁座42dの直径を大きくできる。よって、このように構成された緩衝器Dによれば、リーフバルブ7,8の開弁応答性を向上して、緩衝器Dの減衰力特性の製品毎のばらつきを少なくできる。なお、本実施の形態では、圧側ポート42cをポートとし、伸側ポート42bを第2ポートとしているが、圧側ポート42cを第2ポートとし、伸側ポート42bをポートとしてもよい。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・シリンダ、2・・・ロッド、3,40・・・ピストン(区画部材)、31,33,41・・・第一部材、32,34,44・・・第二部材、31b・・・伸側ポート(ポート)、31c,42c・・・圧側ポート(ポート)、31f,32b,33c,42g・・・溝、42b・・・伸側ポート(第2ポート)、42b1,42c1・・・屈曲部、D・・・緩衝器、R1・・・伸側室(作動室)、R2・・・圧側室(作動室)、T1,T2・・・チョーク通路