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特開2022-123393茶葉の蒸熱処理装置及びその蒸熱処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123393
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】茶葉の蒸熱処理装置及びその蒸熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/06 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
A23F3/06 301E
A23F3/06 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020684
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000104375
【氏名又は名称】カワサキ機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昭一
(72)【発明者】
【氏名】難波 勇
(72)【発明者】
【氏名】折尾 正志
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB01
4B027FC01
4B027FP14
(57)【要約】
【課題】蒸気室内の茶葉を容易且つ精度よく所望の茶温温度とすることができ、低沸点の香味成分の消失の抑制及び十分な酸化酵素の失活を図ることができる茶葉の蒸熱処理装置を提供する。
【解決手段】生茶葉が投入されるとともに当該生茶葉を熱処理するための蒸気が供給される蒸気室S1を有した投入部2と、回転可能な円筒状の金網部材から成り、蒸気室S1で熱処理が行われた茶葉を収容しつつ搬送可能な回転胴3と、回転胴3内の茶葉を撹拌し得る撹拌手段4とを有した茶葉の蒸熱処理装置1において、所定温度の空気を発生し得る空気発生手段5と、空気発生手段5で発生した所定温度の空気を送風して蒸気と混合させ得る送風手段6と、蒸気室S1内の茶葉を所望の茶葉表面温度とし得る蒸気と所定温度の空気との混合比に基づいて、送風手段6による送風量を制御する制御手段7とを備えたものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生茶葉が投入されるとともに当該生茶葉を熱処理するための蒸気が供給される蒸気室を有した投入部と、
回転可能な円筒状の金網部材から成り、前記蒸気室で熱処理が行われた茶葉を収容しつつ搬送可能な回転胴と、
前記回転胴内の茶葉を撹拌し得る撹拌手段と、
を有した茶葉の蒸熱処理装置において、
所定温度の空気を発生し得る空気発生手段と、
前記空気発生手段で発生した所定温度の空気を送風して前記蒸気と混合させ得る送風手段と、
前記蒸気室内の茶葉を所望の茶葉温度とし得る前記蒸気と前記所定温度の空気との混合比に基づいて、前記送風手段による送風量を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項2】
前記蒸気を発生させるボイラと、当該ボイラと前記投入部とを接続して前記ボイラで発生させた前記蒸気を前記蒸気室に供給可能な蒸気用配管とを具備するともに、前記送風手段と前記蒸気用配管とを接続して前記送風手段により送風された前記所定温度の空気を前記蒸気用配管に導入して蒸気に混合可能な空気用配管を有することを特徴とする請求項1記載の茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項3】
前記空気発生手段で発生した所定温度の空気は、100℃以上に設定されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項4】
前記空気発生手段は、所定温度まで空気を加熱する加熱手段を有し、当該加熱された空気の温度及び湿度を検出し得る検出手段を具備するとともに、前記検出手段で検出された温度及び湿度に基づいて空気の乾燥空気量及び含有される水蒸気量を算出し、その算出された乾燥空気量及び含有される水蒸気量に基づいて前記混合比が求められることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項5】
前記混合比は、算出された前記水蒸気量を前記蒸気の供給量に加算して求められることを特徴とする請求項4記載の茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項6】
設定された目標茶葉温度に応じて前記所定温度の空気の送風量を求めて前記送風手段を制御することを特徴とする請求項1~5の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記茶葉温度と前記混合比との関係を示す近似式に基づいて前記送風手段の送風量を制御することを特徴とする請求項1~6の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記空気発生手段による空気の温度を制御することを特徴とする請求項1~7の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項9】
前記所望の茶葉温度は、80~100℃とされることを特徴とする請求項1~8の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置。
【請求項10】
生茶葉が投入されるとともに当該生茶葉を熱処理するための蒸気が供給される蒸気室を有した投入部と、
回転可能な円筒状の金網部材から成り、前記蒸気室で熱処理が行われた茶葉を収容しつつ搬送可能な回転胴と、
前記回転胴内の茶葉を撹拌し得る撹拌手段と、
所定温度の空気を発生し得る空気発生手段と、
前記空気発生手段で発生した所定温度の空気を送風して前記蒸気と混合させ得る送風手段と、
を有した茶葉の蒸熱処理装置による蒸熱処理方法であって、
前記蒸気室内の茶葉を所望の茶葉温度とし得る前記蒸気と前記所定温度の空気との混合比に基づいて、前記送風手段による送風量を制御することを特徴とする茶葉の蒸熱処理装置による蒸熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気を供給して生茶葉を熱処理し得る茶葉の蒸熱処理装置及びその蒸熱処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
緑茶は、蒸熱工程、粗揉工程、揉捻工程、中揉工程、仕上工程などの各加工工程を経て製造されるが、このうち蒸熱工程は、例えば特許文献1にて開示されているように、ボイラで発生した蒸気を供給可能な蒸気室を有し、その供給された蒸気の蒸気潜熱により生茶葉を蒸すことによって蒸葉を得る工程である。かかる蒸熱工程は、生茶葉にある酸化酵素の活性を速やかに失わせ、青臭みを除いて緑茶固有の香味を発揚させるとともに、茶葉を軟らかくし、後工程である粗揉工程が円滑に処理できる素地をつくる機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-206317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、専ら100℃の蒸気によって生茶葉を蒸しているため、低沸点の青葉アルコール類やテルペンアルコールなどの香気成分が失われて品質が低下してしまう虞がある。一方、80℃以下の蒸気を用いて生茶葉を蒸す場合、茶葉の酸化酵素の失活が不十分となる可能性があるため、80℃以上であって香気成分が失われない温度に蒸気温度を制御する必要があるが、このような微妙な蒸気温度の制御は極めて困難とされている。
【0005】
しかるに、本出願人は、蒸気室に投入される生茶葉は水分が多く、蒸気室内の茶葉の表面温度(以下、茶葉温度と称する)を湿球温度で近似できることに着目し、供給する蒸気に空気を所定の混合比で混合させることにより、湿球温度に見立てた茶葉温度を精度よく推定することを見出した。すなわち、供給する蒸気の温度を一定に保ち、その蒸気に混入させる空気の量(乾燥空気量)を制御することにより、所望の茶葉温度(香味成分を失わせず、且つ、十分な酸化酵素の失活が可能な温度)に調整することができるのである。なお、湿球温度は、例えば計測部を湿ったガーゼで包んで得られた湿球温度計で得られる温度である。かかる湿球温度は、計測部においてガーゼから水が蒸発して熱が奪われるため、乾球温度よりも計測される温度が低くなるものである。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、蒸気室内の茶葉を容易且つ精度よく所望の茶温温度とすることができ、低沸点の香味成分の消失の抑制及び十分な酸化酵素の失活を図ることができる茶葉の蒸熱処理装置及びその蒸熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、生茶葉が投入されるとともに当該生茶葉を熱処理するための蒸気が供給される蒸気室を有した投入部と、回転可能な円筒状の金網部材から成り、前記蒸気室で熱処理が行われた茶葉を収容しつつ搬送可能な回転胴と、前記回転胴内の茶葉を撹拌し得る撹拌手段とを有した茶葉の蒸熱処理装置において、所定温度の空気を発生し得る空気発生手段と、前記空気発生手段で発生した所定温度の空気を送風して前記蒸気と混合させ得る送風手段と、前記蒸気室内の茶葉を所望の茶葉温度とし得る前記蒸気と前記所定温度の空気との混合比に基づいて、前記送風手段による送風量を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の茶葉の蒸熱処理装置において、前記蒸気を発生させるボイラと、当該ボイラと前記投入部とを接続して前記ボイラで発生させた前記蒸気を前記蒸気室に供給可能な蒸気用配管とを具備するともに、前記送風手段と前記蒸気用配管とを接続して前記送風手段により送風された前記所定温度の空気を前記蒸気用配管に導入して蒸気に混合可能な空気用配管を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の茶葉の蒸熱処理装置において、前記空気発生手段で発生した所定温度の空気は、100℃以上に設定されたことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1~3の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置において、前記空気発生手段は、所定温度まで空気を加熱する加熱手段を有し、当該加熱された空気の温度及び湿度を検出し得る検出手段を具備するとともに、前記検出手段で検出された温度及び湿度に基づいて空気の乾燥空気量及び含有される水蒸気量を算出し、その算出された乾燥空気量及び含有される水蒸気量に基づいて前記混合比が求められることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の茶葉の蒸熱処理装置において、前記混合比は、算出された前記水蒸気量を前記蒸気の供給量に加算して求められることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1~5の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置において、設定された目標茶葉温度に応じて所定温度の空気の送風量を求めて送風手段を制御することを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1~6の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置において、前記制御手段は、前記茶葉温度と前記混合比との関係を示す近似式に基づいて前記送風手段の送風量を制御することを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項1~7の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置において、前記制御手段は、前記空気発生手段による空気の温度を制御することを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項1~8の何れか1つに記載の茶葉の蒸熱処理装置において、前記所望の茶葉温度は、80~100℃とされることを特徴とする。
【0016】
請求項10記載の発明は、生茶葉が投入されるとともに当該生茶葉を熱処理するための蒸気が供給される蒸気室を有した投入部と、回転可能な円筒状の金網部材から成り、前記蒸気室で熱処理が行われた茶葉を収容しつつ搬送可能な回転胴と、前記回転胴内の茶葉を撹拌し得る撹拌手段と、所定温度の空気を発生し得る空気発生手段と、前記空気発生手段で発生した所定温度の空気を送風して前記蒸気と混合させ得る送風手段とを有した茶葉の蒸熱処理装置による蒸熱処理方法であって、前記蒸気室内の茶葉を所望の茶葉温度とし得る前記蒸気と前記所定温度の空気との混合比に基づいて、前記送風手段による送風量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、10の発明によれば、蒸気室内の茶葉を所望の茶葉温度とし得る蒸気と所定温度の空気との混合比に基づいて、送風手段による送風量を制御するので、蒸気室内の茶葉を容易且つ精度よく所望の茶葉温度とすることができ、低沸点の香味成分の消失の抑制及び十分な酸化酵素の失活を図ることができる。また、所望の茶葉温度を従来より低い温度で処理することで、熱による葉緑素の破壊が少ないため茶葉の色沢の向上も図ることができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、送風手段と蒸気用配管とを接続して送風手段により送風された所定温度の空気を蒸気用配管に導入して蒸気に混合可能な空気用配管を有するので、蒸気室に供給される前の蒸気に所定温度の空気を混入させることができ、蒸熱工程におけるより均一な蒸し処理を行わせることができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、空気発生手段で発生した所定温度の空気は、100℃以上に設定されたので、蒸気の液化を回避することができ、蒸熱工程において蒸し露等が発生してしまうのを抑制することができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、空気発生手段は、所定温度まで空気を加熱する加熱手段を有し、当該加熱された空気の温度及び湿度を検出し得る検出手段を具備するとともに、検出手段で検出された温度及び湿度に基づいて空気の乾燥空気量及び含有される水蒸気量を算出し、その算出された乾燥空気量及び含有される水蒸気量に基づいて混合比が求められるので、蒸気に混合する空気の湿潤状態を考慮して精度よく茶葉温度を調整することができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、混合比は、算出された水蒸気量を蒸気の供給量に加算して求められるので、より精度よく茶葉温度を調整することができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、蒸し時間の経過に伴って目標茶葉温度を設定し、当該目標茶葉温度に応じて所定温度の空気の送風量を求めて送風手段を制御するので、円滑に所望の茶葉温度とすることができ、蒸熱工程の仕上がりのばらつきを低減させることができる。
【0023】
請求項7の発明によれば、制御手段は、茶葉温度と混合比との関係を示す近似式に基づいて送風手段の送風量を制御するので、近似式による演算にて迅速に送風手段による送風量を求めて制御することができる。
【0024】
請求項8の発明によれば、制御手段は、空気発生手段による空気の温度を制御するので、蒸熱工程における蒸し温度を任意に調整することができる。
【0025】
請求項9の発明によれば、所望の茶葉温度は、80~100℃とされるので、低沸点の香味成分の消失の抑制に加えて、熱による葉緑素の破壊が少ないため茶葉の色沢の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る茶葉の蒸熱処理装置を示す平面図
図2】同蒸熱処理装置の内部構成を示す縦断面図
図3】同蒸熱処理装置の内部構成を示す横断面図
図4】蒸気と所定温度の空気の混合気体が100℃の場合の茶葉温度の推移を示すグラフ
図5】蒸気と所定温度の空気の混合気体が150℃の場合の茶葉温度の推移を示すグラフ
図6】蒸気と空気の混合比と茶葉温度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る茶葉の蒸熱処理装置1は、生茶葉に蒸気を当てて蒸発潜熱にて蒸熱処理工程を行うものであり、図1~3に示すように、投入部2と、回転胴3と、攪拌手段4と、ボイラBと、空気発生手段5と、送風手段6と、制御手段7と、検出手段8とを有して構成されている。
【0028】
投入部2は、生茶葉が投入されるとともに当該生茶葉を熱処理するための蒸気が供給される蒸気室S1を有したもので、所定部位に生茶葉を投入可能な投入口2aが形成されている。かかる投入部2は、床面に固設されたフレームFに固定されるとともに、配管Ha及び配管Hbを具備しており、その内部の蒸気室S1に蒸気及び所定温度の空気を混合させた混合気体が供給可能とされている。
【0029】
また、投入部2の一端には、回転胴3が接続されている。かかる回転胴3は、フレームFに対して回転可能な円筒状の金網部材から成り、蒸気室S1と連通した収容空間S2を有している。そして、蒸気室S1で熱処理が行われた茶葉は、回転胴3内の収容空間S2に至り、当該回転胴3が回転することにより、図1中右側の搬出口に向かって茶葉を搬送可能とされている。
【0030】
さらに、投入部2の蒸気室S1及び回転胴3の収容空間S2には、図2、3に示すように、回転胴3の長手方向に延設された軸部材Lが取り付けられている。かかる軸部材Lは、図示しない駆動源により回転駆動可能とされるとともに、複数の攪拌手段4が形成されている。そして、軸部材Lの回転に伴って複数の攪拌手段4が回転することにより、蒸気室S1及び収容空間S2を移動する茶葉が攪拌、打圧され得るようになっている。
【0031】
なお、本実施形態に係る回転胴3の外周面には、リングギアGaが円周方向に亘って形成されており、当該リングギアGaに噛み合った状態で駆動ギアGbが配設されている。かかる駆動ギアGaは、図示しない駆動源により回転駆動可能とされており、その回転力がリングギアGaを介して回転胴3に伝達され、中心軸線を中心として回転可能とされている。
【0032】
またさらに、本実施形態においては、蒸気を発生させるボイラBと、当該ボイラBと投入部2とを接続してボイラBで発生させた蒸気を蒸気室S1に供給可能な蒸気用配管D1とを具備している。蒸気用配管D1は、配管Haと接続されており、ボイラBで発生した蒸気が蒸気用配管D1、配管Ha及び配管Hbを介して投入部2内の蒸気室S1に供給可能とされている。
【0033】
ここで、本実施形態に係る茶葉の蒸熱処理装置1は、所定温度の空気を発生し得る空気発生手段5と、空気発生手段5で発生した所定温度の空気を蒸気室S1に送風する送風手段6と、送風手段6の送風量を制御し得る制御手段7とを具備している。これにより、ボイラBで発生した蒸気と空気発生手段5で発生した空気とを所定の比率で混合させた混合気体を作製し、その混合気体を投入部2に供給可能とされている。
【0034】
空気発生手段5は、所定温度の空気を発生し得るもので、空気を所定温度まで加熱する加熱手段5aを有して構成されている。実施例で使用される空気量は、5m/分程度であるため、加熱手段5aとして電気式ヒータを使用している。しかし、それに限らず、所謂ガスバーナや他の加熱手段を用いてもよい。
【0035】
さらに、本実施形態においては、空気発生手段5で発生した所定温度の空気が100℃以上に調整することができるように設定されており、ボイラBで発生する蒸気の温度以上になるよう構成されている。また、本実施形態に係る空気発生手段5は、加熱された空気の温度及び湿度、並びに大気圧を検出し得る検出手段8を具備するとともに、検出手段8で検出された温度及び湿度に基づいて空気の乾燥空気量(体積)及び含有される水蒸気量を算出可能とされている。
【0036】
送風手段6は、空気発生手段5で発生した所定温度の空気を送風して蒸気と混合させ得るブロワやファン等から成り、例えばファンの回転速度が制御手段7により制御可能とされており、送風量を任意に調整可能とされている。かかる送風手段6は、空気用配管D2を介して蒸気用配管D1の所定部位に接続されている。これにより、送風手段6により送風された所定温度の空気を空気用配管D2を介して蒸気用配管D1に導入して蒸気と混合させ得るようになっている。なお、空気用配管D2の途中には、逆止弁9が取り付けられており、蒸気用配管D1を流れる蒸気が空気発生手段5に流入してしまうのを回避している。
【0037】
制御手段7は、コントロールボックス等から成り、蒸気室S1内の茶葉を所望の茶葉温度とし得る蒸気(ボイラBから供給される蒸気)と所定温度の空気(空気発生手段5で発生させる空気)との混合比に基づいて、送風手段6による送風量を制御するものである。すなわち、蒸気室S1に投入される生茶葉は含水率80%(WB)程度と水分が多く、蒸気室S1内の茶葉の表面温度を湿球温度で近似できるので、ボイラBから供給する蒸気に空気発生手段5で発生した所定温度の空気を所定の混合比で混合して茶葉に当てることにより、湿球温度に見立てた茶葉温度を精度よく推定することができるのである。なお、所望の茶葉温度とは、前述の香味成分を失わせず、且つ、十分な酸化酵素の失活が可能な温度のことであり、具体的には80℃以上100℃以下とする。
【0038】
ここで前記茶葉温度に相当する湿球温度とは、一般的には気体と蒸気(通常は空気と水蒸気の混合した系)の物理的な特徴を示す温度のことであり、簡単な相関式としては、大気圧(P)、乾球温度(t)、湿球温度(t')、水蒸気圧(e)とすると以下のような式が成立することが知られている。
e = E(t') - 定数(0.0008)*P*(t-t') ・・・・(1)
(但し、E(t') は、その湿球温度における飽和水蒸気圧)
【0039】
また、空気中の水蒸気質量、空気の質量、水蒸気圧、混合比には以下のような相関があることも知られている。ここで、混合比とは、大気中に含まれる水蒸気量の表現の1つで、湿潤空気を含む空気塊における、乾燥空気に対する水蒸気の質量の比のことである。空気の圧力をp 、水蒸気圧をeとするとき、混合比mは以下の式で表される。
m=定数(0.622)*e/(p-e) ・・・・(2)
【0040】
上記(1)式の湿球温度における飽和水蒸気圧の算出に関し、例えばSonntagの式(日本工業規格JIS Z 8806 下記(3)参照)を使用すれば、この式は乾球温度のみの関数であるから、上記(1)式は水蒸気圧(e)、大気圧、乾球温度、湿球温度の相関式によって表すことができる。
【0041】
かかるSonntagの式(E(hPa))は、飽和水蒸気分圧を求めるための演算式であり、具体的には以下の式から成る。但し、T=273.15+T3、T3=乾球温度とする。
E(hPa)=(exp(-6096.9385T-1+21.240942-2.711193*10-2T+1.673852*10-5T2+2.433502In(T)))/100 ・・・・(3)
【0042】
また、(2)式においては、混合比、水蒸気圧(e)、気圧の相関式で表されていることから(1)(2)式より水蒸気圧(e)のパラメータを消去すれば、混合比、大気圧、乾球温度、湿球温度の相関式が得られる。大気圧、乾球温度については、検出手段8で測定された混合気体の測定値で求められるので、結果的に湿球温度は混合気体(蒸気と空気)の混合比の関数であるということができる(図4~6参照)。
【0043】
さらに、ボイラBから供給される蒸気の量及び温度を一定に制御すれば、上記混合比の蒸気部分が定数となり、混合すべき空気部分のみが変数となるため、結果的に茶葉温度に相当する湿球温度は混合すべき空気量のみの関数となる。したがって、混合すべき空気量を送風手段6による送風量を制御手段7にて制御することにより、茶葉温度に見立てた湿球温度の調整が可能なのである。
【0044】
具体的には、制御手段7によりその送風量(乾燥空気の送風量)は、1分当りの体積(m/分)で設定される。そして、1分当りの体積(m/分)から1分当りの質量(Kg/分)を求めるとともに、ボイラBからの蒸気量(Kg/分)を把握することによって、混合比(乾燥空気の質量(Kg)/水蒸気の質量(Kg)、又は水蒸気の質量(Kg)/乾燥空気の質量(Kg))を算出することができる。
【0045】
さらに、検出手段8で検出された温度及び湿度に基づいて空気の乾燥空気量及び含有される水蒸気量を算出し、その算出された乾燥空気量及び含有される水蒸気量に基づいて混合比を求められるよう構成してもよい。具体的には、算出された水蒸気量を蒸気の供給量に加算して混合比が求められるようにしてもよい。すなわち、空気は温度により体積が異なるとともに、予め空気の温湿状態から乾燥空気の体積と含有される水蒸気量を求めて制御に反映させることにより、より正確な茶葉温度の調整を図ることができるのである。
【0046】
図4図5は、前述の湿球温度と混合気体の混合比の関連性を表したグラフである。横軸にはボイラからの蒸気量と混合すべき空気量との比(混合比)を示し、縦軸には茶葉温度に相当する湿球温度を示している。横軸を混合比、縦軸を茶葉温度とすることで、制御パラメータである蒸気に対し混合すべき空気量と茶葉温度(湿球温度)との関係が一目瞭然である。横軸については図6に示すように、水蒸気の質量(Kg)/乾燥空気の質量(Kg)なる混合比を用いても同様な関係式を得ることができる。これらグラフの具体的な作図方法としては、空気及び蒸気の混合比(空気(kg)/蒸気(kg))に対する湿球温度(茶葉温度)を一定間隔でプロットし、プロットした点の相関線を作成してグラフα、グラフβの近似式として求めた。茶葉温度をy、混合比をxとした場合グラフα、グラフβは近似式として下記3次式にて近似することが可能である。
グラフα y=-0.6379x3+4.2651x2-16.003x+99.312
グラフβ y=-0.6429x3+4.2584x2-15.586x+100.2
【0047】
本実施例では、グラフα、グラフβの近似式を用いて送風手段6の送風量の制御を行っている。このような近似式を制御値として用いることで、送風量の演算が迅速になるというメリットがある。
【0048】
さらに、図4及び図5は、蒸気と所定温度の空気との混合気体の温度(図4は100℃、図5は150℃)が異なっている。例えば、所望の茶葉温度を90℃とした場合、図4のグラフαから求められる混合比は0.77であるのに対し、図5のグラフβから求められる混合比は0.81である。更には図示はないが、混合気体の温度を200℃として同様に作図をした場合、グラフから求められる混合比は0.94となる。これは、混合気体の温度を上昇させることで、混合気体中の空気量も増加することを示し、蒸機の乾燥室S1内の茶葉の乾燥能力が増すことを意味している。
【0049】
例えば、雨茶葉などの高含水率の茶葉であれば、乾燥能力が高い方が蒸し露を効果的に除去することができるため都合が良い。そのため、制御装置7としては図4図5に示される混合気体の温度の異なる送風手段6の送風量制御用マップ(グラフα、グラフβなど)を複数有し、茶葉の品種や状態により制御マップを適宜選択して用いることも可能である。異なる温度の制御マップの例としては、100℃~300℃位の温度範囲で50℃毎に有していれば十分である。
【0050】
またさらに、制御手段7は、目標茶葉温度に応じて所定温度の空気の送風量を求めて送風手段6を制御するようになっている。設定値としては、従来の100℃より低い温度である80℃~100℃(好ましくは、より低い80℃~90℃)に設定することで、従来と比較して熱による葉緑素の破壊が少ないため茶葉の色沢の向上も図ることができる。
【0051】
このような目標茶葉温度の設定は、デフォルトで最適値として設定されていても良いが、図示しない操作パネル等にユーザが所望する温度を指示することで制御手段7に指令を与えることもできる。また、この操作パネルにて、前述の混合気体の温度についてもユーザが選択可能に指示してもよい。目標茶葉温度や、混合気体の温度をユーザが自由に設定することで、茶の品種、茶葉の状態に適合したユーザ所望の蒸熱処理が可能となる。その際、混合気体の温度については茶の品種又は茶葉の状態とリンクさせて、ユーザには茶の品種又は茶葉の状態を選択項目として選択させるのがよい。
【0052】
本実施形態に係る蒸熱処理装置又は方法によれば、蒸気室S1内の茶葉を所望の茶葉温度とし得る蒸気と所定温度の空気との混合比に基づいて、送風手段6による送風量を制御するので、蒸気室S1内の茶葉を容易且つ精度よく所望の茶葉温度とすることができ、低沸点の香味成分の消失の抑制及び十分な酸化酵素の失活を図ることができる。また、所望の茶葉温度を従来より低い温度で処理することにより、熱による葉緑素の破壊が少なくなるため、茶葉の色沢の向上も図ることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、送風手段6と蒸気用配管D1とを接続して送風手段6により送風された所定温度の空気を蒸気用配管D1に導入して蒸気に混合可能な空気用配管D2を有するので、蒸気室S1に供給される前の蒸気に所定温度の空気を混入させることができ、蒸熱工程におけるより均一な蒸し処理を行わせることができる。
【0054】
さらに、空気発生手段5で発生した所定温度の空気は、100℃以上に設定されたので、蒸気の液化を回避することができ、蒸熱工程において蒸し露等が発生してしまうのを抑制することができる。特に、空気発生手段5で発生させる空気の温度をより高く設定することにより、茶葉水分の蒸散を生じさせることができ、製茶作業の効率化と品質向上を図ることができる。
【0055】
例えば100℃において蒸気と空気との混合気体の混合比が1:1の場合、茶葉温度は約87℃となるが、空気を300℃に高めると、混合気体の温度は約170℃になり、茶葉温度が約89℃となる。これにより、空気中に含有することができる水蒸気量が増加し、茶葉から蒸散が生じることになるのである。また、空気の混合比を約1.2倍に高めると、茶葉温度は約87℃で維持され、乾燥能力が増加することとなる。これにより、高含水率の茶葉(高含水率の品種、一番茶葉、や雨茶葉など)においては、蒸し露を除去することができるため、製茶作業の効率化と品質向上を図ることができるのである。
【0056】
またさらに、本実施形態に係る空気発生手段5は、所定温度まで空気を加熱する加熱手段5aを有し、当該加熱された空気の温度及び湿度を検出し得る検出手段8を具備するとともに、検出手段8で検出された温度及び湿度に基づいて空気の乾燥空気量及び含有される水蒸気量を算出し、その算出された乾燥空気量及び含有される水蒸気量に基づいて混合比が求められるので、蒸気に混合する空気の湿潤状態を考慮して精度よく茶葉温度を調整することができる。特に、本実施形態によれば、混合比は、算出された水蒸気量を蒸気の供給量に加算して求められるので、より精度よく茶葉温度を調整することができる。
【0057】
加えて、蒸し時間の経過に伴って目標茶葉温度を設定し、当該目標茶葉温度に応じて所定温度の空気の送風量を求めて送風手段6を制御するので、円滑に所望の茶葉温度とすることができ、蒸熱工程の仕上がりのばらつきを低減させることができる。さらに、本実施形態に係る制御手段7は、茶葉温度と混合比との関係を示す近似式に基づいて送風手段6の送風量を制御するので、近似式による演算にて迅速に送風手段6による送風量を求めて制御することができる。
【0058】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば制御手段7は、送風手段6による送風量を制御するのに加え、空気発生手段5による空気の温度を制御するようにしてもよい。このように、制御手段7が空気発生手段5による空気の温度を制御するようにすれば、蒸熱工程における蒸し温度を任意に調整することができる。また、本実施形態においては、蒸気用配管D1の所定部位に空気用配管D2を接続し、蒸気と所定温度の空気とを混合させた後、その混合気体を蒸気室S1に供給するよう構成されているが、蒸気用配管D1及び空気用配管D2のそれぞれを蒸気室S1に接続し、蒸気と所定温度の空気を蒸気室S1内で混合させるようにしてもよい。
【0059】
また本発明は、茶葉だけでなく、ブランチング工程として蒸熱処理を行うものであれば、大根の葉などの軟弱野菜や大麦若葉等の高水分原料のブランチングの青臭さ除去や葉の変質防止などにも応用することができる。この場合、湿球温度に見立てる対象が上記実施例の茶葉温度でなく、軟弱野菜や大麦若葉等の葉の表面温度となるため、その緑葉の特性に合わせて蒸熱処理の処理条件を調整する必要がある。例えば、大根の葉に適用する場合は、大根の葉の葉柄、葉脈部分の形状が茶葉に比べ著しく体積が大きく塊状となっているため、内部への熱伝導時間を考慮し、加熱時間を調整する必要がある。このように蒸熱処理を行う緑葉の種類が変更されたとしても、緑葉の特性に合うように蒸熱処理の条件を変更することによって、緑葉特有の青臭みを除くなど香り面での効果に加えて、蒸熱処理時の熱による葉緑素の破壊が少なく葉の変質の防止などの葉の色沢向上の効果も得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
蒸気室内の茶葉を所望の茶葉温度とし得る蒸気と所定温度の空気との混合比に基づいて、送風手段による送風量を制御する茶葉の蒸熱処理装置及びその蒸熱処理方法であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 蒸熱処理装置
2 投入部
2a 投入口
3 回転胴
4 攪拌手段
5 空気発生手段
6 送風手段
7 制御手段
8 検出手段
9 逆止弁
L 軸部材
S1 蒸気室
S2 収容空間
F フレーム
B ボイラ
D1 蒸気用配管
D2 空気用配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6