(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123432
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】切削加工用クーラントの供給方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20220817BHJP
B05B 9/03 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
B05B9/03
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020756
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】毛利 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山本 祥貴
(72)【発明者】
【氏名】牛島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛
(72)【発明者】
【氏名】高田 亮
【テーマコード(参考)】
3C011
4F033
【Fターム(参考)】
3C011EE01
3C011EE09
4F033RA14
4F033RD09
4F033RD10
4F033RE01
4F033RE11
4F033RE17
4F033RE19
(57)【要約】
【課題】切削加工において、ウルトラファインバブル8とマイクロバブル7の両方を含有するクーラントから、マイクロバブル7を除去することで、切削工具10の摩耗を大幅に低減する、クーラントの供給方法を提供する。
【解決手段】クーラントの濡れ性を向上し、付着エネルギーを低下させるウルトラファインバブル8と、はじける際に構成刃先の剥離を促す作用のあるマイクロバブル7の両方を含有したクーラントを、ミストノズル4を通してミスト化することでマイクロバブル7のみを除去しながら、切削加工部に供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルトラファインバブルとマイクロバブルの両方含むクーラントを、ミストノズルから噴霧することでマイクロバブルのみを除去し、切削加工部に供給する、切削加工用クーラントの供給方法。
【請求項2】
前記クーラント中のウルトラファインバブルの個数が、2千万個/mL以上である、請求項1に記載の切削加工用クーラントの供給方法。
【請求項3】
前記クーラントは水溶性クーラントである、請求項1または請求項2に記載の切削加工用クーラントの供給方法。
【請求項4】
前記水溶性クーラントの油分が、体積比で0を超え20%以下である、請求項3に記載の切削加工用クーラントの供給方法。
【請求項5】
前記ミストノズルから噴霧されるミストの粒径が平均90μm~420μmである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の切削加工用クーラントの供給方法。
【請求項6】
前記ミストノズルから噴霧される前記クーラントの流量が30~1100mL/minである、請求項1から請求項5のいずれかに記載の切削加工用クーラントの供給方法。
【請求項7】
ウルトラファインバブル発生装置と、クーラントを保持するクーラントタンクと、前記クーラントを前記クーラントタンクから加工部まで供給する流路と、前記流路の終点に備えたミストノズル、とを備える切削加工用クーラント供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機による切削加工における、工具摩耗低減のためのクーラント供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機のクーラント中に微細気泡を含有させることで、切削抵抗を低減したり、工作物のソリを半減したりするなど、生産性の向上に寄与することが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、金属材の切削加工方法、並びに、ミスト加工用ミストオイル噴霧装置が開示されている。微細気泡を発生する装置は、切削油タンク内に浸漬され、この切削油がポンプによって吸引され、ノズル部へ到達したのち霧状となって加工部位に噴霧される。この噴霧される多数のオイル粒子の中に微細な気泡を含むことで、切削抵抗を低減している。
【0004】
特許文献2では、研削加工および切削加工時に、サイズの異なるマイクロバブル(直径1μmを超え100μm以下の微細気泡)、ウルトラファインバブル(直径1μm以下の微細気泡)それぞれが与える作用について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-6479号公報
【特許文献2】特開2020-146786号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】マイクロバブルクーラントのバブル条件と加工性能の関係第2報:クーラント中のバブル状態(砥粒加工学会、2019年度砥粒加工学会学術講演会論文集p366-367)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、オイルミスト中に微細気泡を含有させることによって、切削抵抗の低減を図っている。しかしながら特許文献1の発明は、切削抵抗の低減には効果的であったと記載があるものの、工具摩耗については十分な検討がなされていない。発明者らの実験においては、単にクーラント中に微細気泡を混入させても、工具摩耗の低減という効果を確認することはできなかった。
【0008】
発明者らは、特許文献2のようにサイズの異なるマイクロバブル(直径1μmを超え100μm以下の微細気泡)、ウルトラファインバブル(直径1μm以下の微細気泡)、それぞれが切削抵抗に与える影響を調査した。今回は同じく、工具摩耗に与える影響に着目して研究を行ったところ、ウルトラファインバブル存在下では切削工具の摩耗量が減少し、一方でマイクロバブルの存在下では逆に摩耗量が増加することを発見した。
【0009】
ウルトラファインバブルを含むクーラントは、濡れ性が向上したり、付着エネルギーが低下したりといった現象があることを発明者は明らかにしている。そして、これらの性質を持つことで、ウルトラファインバブルを含むクーラントは、加工中の工具とワークの隙間に、より入り込みやすくなったり、この隙間の熱をより冷却したりすることが期待される。
【0010】
マイクロバブルは、はじける際に衝撃波が発生することが知られている。前記マイクロバブルの衝撃波は工具表面の構成刃先の剥離を促すという、ウルトラファインバブルには無い作用がある。衝撃波によって工具表面の構成刃先が剥離すると、工具表面に新たに金属部が露出し、その状態で工作物である金属と接触するため、工具摩耗が進行しやすいという懸念がある。
【0011】
そこで本願では、ウルトラファインバブルを十分に含み、かつマイクロバブルを意図的に除去したクーラントを切削加工部へ供給することで、工具摩耗を低減させることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するためには、ウルトラファインバブルとマイクロバブルの両方を含有するクーラントから、工具摩耗の低減に効果的なウルトラファインバブルを残したまま、工具摩耗が悪化する原因となるマイクロバブルのみを意図的に除去する必要がある。
【0013】
しかしながら、マイクロバブルは流路途中の配管の中でも自然に発生し、クーラント中にウルトラファインバブルを供給する際にも同時に発生し、ノズルからの噴出時にも発生するため、通常のクーラント供給方法では常にマイクロバブルが混入してしまう。さらに、マイクロバブルを除去するための、真空や超音波、遠心分離などを用いた電力供給の必要となる大掛かりな脱泡装置は、工作機の内部に後付けができない。
【0014】
本発明者らは、マイクロバブルが、液滴のサイズを小さくにすることによって除去できることを利用して、クーラントをミスト状にすることで、ウルトラファインバブルを含有したまま、クーラント中のマイクロバブルを十分に除去できるという知見を得た。ウルトラファインバブルよりもサイズの大きなマイクロバブルは、小さな液滴中において、すぐに浮上し液滴表面で破裂、消滅する。ミストの大きさが、除去しようとするマイクロバブルと同程度から10倍程度となる場合に、マイクロバブルがより除去されやすくなることを確認した。
【0015】
本発明では、ウルトラファインバブルとマイクロバブルの両方を含有するクーラントを、ミストノズルによって噴霧することで、ウルトラファインバブルのみを含んだクーラントを切削加工部分に供給し、前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0016】
切削加工において、ウルトラファインバブルとマイクロバブルの両方を含有するクーラントから、ミストノズルを通してマイクロバブルのみを除去することで、切削工具の摩耗を大幅に低減することが可能となった。
【0017】
さらに本発明では大掛かりな脱泡装置を必要としないため、工作機の内部に後付けが容易である。またミストノズルは安価であるため、様々な切削加工に適用しやすい。具体的には、切削加工における穴明け加工、旋削加工、側面加工、ポケット加工、外周加工、溝加工、ざぐり、その他自由形状の加工に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】本発明の切削工具の逃げ面摩耗の比較のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の切削加工用クーラントの供給方法は、以下の内容にて実施できる。
【0020】
はじめに、ウルトラファインバブルを十分に含んだクーラントを用意する。あらかじめウルトラファインバブルを十分量含んだクーラントを入手し使用してもよいし、クーラントタンク中で装置を用いてウルトラファインバブルを発生させてもよいし、クーラントを供給する流路の途中にウルトラファインバブル発生装置を設置して供給してもよい。ウルトラファインバブルの濃度が2千万個/mL以上存在である場合には、濡れ性の向上や、付着エネルギーの低減効果が得られ、切削加工時の工具摩耗低減に効果的に作用する。
【0021】
ウルトラファインバブルは切削加工に供給した後も効果が持続するため、一度切削加工部に供給したクーラントを循環し再利用してもよい。
【0022】
ウルトラファインバブルには、空気・窒素・オゾン・二酸化炭素などのガスを適宜使用することができる。小型のウルトラファインバブル発生装置にて発生させる場合には、1パスのクーラント循環では所望のバブル濃度に到達しない場合があり、その場合には複数回循環させてウルトラファインバブルを供給すればよい。例えば、好ましくは30パス以上、より好ましくは100パス以上循環し、2千万個/mL以上のウルトラファインバブルを発生させればよい。
【0023】
クーラントの油分割合は、体積比で0を超え20%以下であることが好ましい。クーラント中に油分が0である場合には、ウルトラファインバブルが生成しにくいため、微量でも油分または界面活性剤、アルコール類を含むことで、それがウルトラファインバブルを発生させる核となり、発生効率や寿命を向上させることができる。
【0024】
使用するクーラントは水溶性クーラントであるとより好ましい。エマルジョン、ソリュブル、ソリューションなど、いずれのタイプでもよく、強アルカリクーラントであってもよい。
【0025】
ウルトラファインバブルを含んだクーラントは、クーラントを保持するタンクを始点として、加工熱の冷却に供するために必要な箇所を終点として接続された流路により、供給される。流路は、例えば断面が円形の配管部品であり、内径が1/8インチから2インチ程度までの間で、クーラントの必要流量に合わせて適宜選択する。流路には、流量調整バルブや電磁弁を備え、工作機からの電気信号を受けて、クーラントの供給量を調整するとよい。
【0026】
マイクロバブルを除去するミストノズルはクーラント流路の終点に設置する。ミストノズルは、クーラントが供給される入口と、ミストとなってクーラントが切削工具に供される出口を備える。ミストノズルには、クーラントのみを供給しミスト化する1流体ノズルと、クーラントと圧縮エアの両方を供給する2流体ノズルがあり、いずれのノズルを用いてマイクロバブルを除去してもよい。ミストノズルが、1流体ノズルである場合には切削加工部からのクーラントが飛散しにくいため、より効果が得られやすい。
【0027】
ノズルの入口の断面は円形であり、断面積は出口より広いとより好ましい。出口は入口よりも小さな穴があいており、ミストの噴霧パターンや流量はこの穴の大きさや形状によって変化させることができる。流量は、30~1100mL/minで、工具軸方向の切込み量に合わせて流量を調整するとよい。
【0028】
除去しようとするマイクロバブルの気泡に対してミストの直径が、同程度から10倍程度の場合に、ミストと空気の界面から、マイクロバブルが効率よく除去される。クーラント中の1~20μm以下のマイクロバブルは自然に潰れ消滅してしまい、55μm超のマイクロバブルの多くはクーラントタンク中で瞬時に浮上し消滅するため、実際にクーラント供給時に含まれるマイクロバブルのサイズは20~55μm程である。そのため、ミスト粒径は平均90μm~420μmになるように選択することが好ましい。ウルトラファインバブルは浮上速度が遅いのでミスト内に留まりやすく、マイクロバブルは、ミストと空気の界面から早く脱泡する。
【0029】
以上の手段で、ウルトラファインバブルおよびマイクロバブルを含んだクーラントの中からウルトラファインバブルのみを残存させて、切削加工部に供給することができるので、工具摩耗が低減する効果を得られる。
【0030】
ミストノズルは工具の刃先から20~120mm程度の位置に設置し、複数のミストノズルから、様々な角度で噴霧してもよい。噴霧されるミストは、円錐状でミスト粒径が制御された指向性を持つミストであるとよい。切削地点での噴霧径はφ20~120であるとき、より効果的にクーラントを供給することができる。
【0031】
本発明に適用できる工具は、1枚刃以上のエンドミルでもよいし、ボールエンドミルでもよい。ドリルでもよいし刃先交換型チップでもよい。ドリルのアスペクト比は10または20を超えていてもよく、相対的に深い穴の加工においてはウルトラファインバブルクーラントの切削工具の摩耗量の低減効果が顕著に現れるのでよい。さらに、超音波重畳スピンドルヘッドを併用してもよい。
【0032】
適用する工作機は、旋盤でもよく、マシニングセンタでもよく、フライスでもよい。設置スペースを必要としないため、ほとんどの工作機に取り付け可能である。
【0033】
工作物の材質は、構造用鋼・炭素鋼・ダイス鋼・SUSのほか、アルミニウムのような軟質金属からチタンのような硬質金属、さらにはFRPのような複合材料に対しても効果を奏する。
【実施例0034】
以下の内容で比較実験を行った。以後、ミストノズルを使用したクーラント供給方法をミストクーラント、ミストノズルを使用しない通常のクーラント供給方法をウォータークーラントとして以下説明する。概要模式図を
図1に示す。
【0035】
実施例1…ウルトラファインバブル+ミストクーラント
比較例1…ウルトラファインバブル無+ミストクーラント
比較例2…ウルトラファインバブル+ウォータークーラント
比較例3…ウルトラファインバブル無+ウォータークーラント
全ての実施例、比較例において、工作機は縦型マシニングセンタを用いてBT40テーパ主軸にコレットチャックを装着して、外径φ10mmの4枚刃超硬ノンコートエンドミルを用いた。切削速度は200(m/min)送り速度764(m/min)で径方向の切込みは0.25mmで軸方向の切込みは3.8mmで加工1刃あたりの切込みは0.03mmであった。工作物はS45Cで、切削距離50mまで実験を行った。クーラントには水溶性エマルジョン(製品名:アプカF-808V)を使用した。
【0036】
ウルトラファインバブルを用いた実施例1および比較例2では、クーラント中に少なくとも2千万個/mL以上のウルトラファインバブルを発生させた。ウルトラファインバブル発生装置には0.1Mpaの水圧をかけるとともに、毎分5Lの空気を混合し続けてウルトラファインバブルを発生したのち、クーラントタンクの容積100Lあたり1時間の循環を行った。ウルトラファインバブル個数の測定には、ウルトラファインバブル測定機(製品名:Zeta View 測定レンジ0.02~1μm)を用いて、ナノ粒子トラッキング法によって計測した。また、マイクロバブルは100万個/mLで含まれていた。マイクロバブルの個数はマイクロバブル測定器(製品名:Particle Insight 測定レンジ1μm~200μm)で計測した。
【0037】
ミストクーラントである実施例1と比較例1では、ミストノズルはRC1/8インチの1流体ノズルのものを、クーラント供給ホース先端に取り付けて、超硬ノンコートエンドミル刃先から水平方向に110mm離れた位置に設置した。ミストノズルはRC1/8インチのめねじを備えるので、前記ホース先端のおねじに簡単に取り付けすることができた。
【0038】
ミストノズルから供給されたミストは切削加工部分に約φ90の噴霧径で供給され、ミストクーラント流量は360mL/minで行った。ミスト粒径を液浸法で確認したところ、切削加工部到達地点でのミスト粒径は平均270μm程であった。比較例2、3のウォータークーラントの流量は15L/minで実施した。
【0039】
図2に加工後の工具逃げ面の摩耗量結果を示す。ウォータークーラントを使用した比較例2、3ではウルトラファインバブルの有無に関わらず工具の摩耗は著しく、切削距離20メートル時点で摩耗量が80μmを超えたため実験を中断した。一方、ウルトラファインバブルを含まないミストクーラントを供給した比較例1では、
図2の通り、マイクロバブルの除去効果によって工具摩耗量がウォータークーラントと比較して半減した。さらに実施例1のようにウルトラファインバブルを十分に付与した場合には、工具の摩耗量はウルトラファインバブルを含まない比較例1に対して30%低減することができた。実施例1と比較例3を比較すると工具摩耗が約1/3となった。工具調達コストを削減でき、工具の廃棄コストと環境負荷も低減することができた。