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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123435
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】接合部評価方法及び接合部評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/24 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
G01N27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020761
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】神原 信幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】加茂 宗太
(72)【発明者】
【氏名】石川 直元
(72)【発明者】
【氏名】堀苑 英毅
(72)【発明者】
【氏名】高柳 俊幸
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA08
2G060AE01
2G060AF03
2G060AF10
2G060AG11
2G060EA04
2G060EA07
2G060EB06
2G060HA02
2G060HC15
2G060HE03
2G060KA14
(57)【要約】
【課題】接合部の形状に差異が生じる場合であっても、接合部の評価を好適に行う。
【解決手段】第1の被接合体と第2の被接合体との接合部における接合状態を計測して評価する接合部評価方法であって、計測条件の基準となる基準計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、基準値として取得するステップと、前記基準計測状態から計測状態を変化させ、状態変化後となる変化後計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、計測値として取得するステップと、前記計測値を前記基準値でリファレンスした値を計測評価値として導出するステップと、導出した前記計測評価値に基づく評価を実行するステップと、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被接合体と第2の被接合体との接合部における接合状態を計測して評価する接合部評価方法であって、
計測条件の基準となる基準計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、基準値として取得するステップと、
前記基準計測状態から計測状態を変化させ、状態変化後となる変化後計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、計測値として取得するステップと、
前記計測値を前記基準値でリファレンスした値を計測評価値として導出するステップと、
導出した前記計測評価値に基づく評価を実行するステップと、を備える接合部評価方法。
【請求項2】
前記接合部は、前記第1の被接合体と前記第2の被接合体とを接着剤を介して接着した接着部である請求項1に記載の接合部評価方法。
【請求項3】
前記接合部は、前記第1の被接合体と前記第2の被接合体とを融着した融着部である請求項1に記載の接合部評価方法。
【請求項4】
前記基準計測状態は、前記接合部において基準となる基準温度を含み、
前記計測値を取得するステップでは、前記接合部を基準温度から温度変化させ、温度変化後となる前記変化後計測状態としての変化後温度における前記接合部のキャパシタンス値を、前記計測値として取得する請求項1から3のいずれか1項に記載の接合部評価方法。
【請求項5】
前記基準温度は、室内温度である請求項4に記載の接合部評価方法。
【請求項6】
前記変化後温度は、前記基準温度に比して高い請求項4または5に記載の接合部評価方法。
【請求項7】
前記接合部のキャパシタンス値は、所定の測定周波数となる交流信号を印加することで取得しており、
前記測定周波数は、100Hz以上100MHz以下の帯域となっている請求項1から6のいずれか1項に記載の接合部評価方法。
【請求項8】
前記基準計測状態は、前記接合部のキャパシタンス値の取得時において印加する交流信号の基準となる基準測定周波数を含み、
前記計測値を取得するステップでは、前記基準測定周波数から周波数を変化させ、周波数変化後となる前記変化後計測状態としての変化後周波数における前記接合部のキャパシタンス値を、前記計測値として取得する請求項1から7のいずれか1項に記載の接合部評価方法。
【請求項9】
前記基準測定周波数は、1kHz以上100kHz以下であり、
前記変化後周波数は、10MHz以上100MHz以下である請求項8に記載の接合部評価方法。
【請求項10】
前記計測値を取得するステップにおいて、前記接合部の基準となる基準温度に基づく前記計測評価値と、前記基準測定周波数に基づく前記計測評価値とを取得する場合、
評価を実行するステップでは、前記基準温度に基づく前記計測評価値と、前記基準測定周波数に基づく前記計測評価値との相関関係を取得し、前記相関関係に基づく評価を実行する請求項8または9に記載の接合部評価方法。
【請求項11】
健全な前記接合部の前記基準値である健全基準値を取得するステップと、
健全な前記接合部の前記計測値である健全計測値を取得するステップと、
前記健全計測値を前記健全基準値でリファレンスした値を健全評価値として導出するステップと、をさらに備え、
評価を実行するステップでは、前記健全評価値と前記計測評価値との差分に基づく評価を実行する請求項1から10のいずれか1項に記載の接合部評価方法。
【請求項12】
評価を実行するステップでは、前記健全評価値と前記計測評価値との差分が、予め規定された健全となる範囲内である場合、前記接合部が健全であると評価する請求項11に記載の接合部評価方法。
【請求項13】
第1の被接合体と第2の被接合体との接合部における接合状態を計測して評価する接合部評価装置であって、
前記接合部にキャパシタを形成するために配置される一対の電極と、
前記接合部のキャパシタンス値を計測すると共に、計測した前記キャパシタンス値に基づいて前記接合部の評価を実行する制御部と、を備え、
前記制御部は、
計測条件の基準となる基準計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、基準値として取得するステップと、
前記基準計測状態から計測状態を変化させ、状態変化後となる変化後計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、計測値として取得するステップと、
前記計測値を前記基準値でリファレンスした値を計測評価値として導出するステップと、
導出した前記計測評価値に基づく評価を実行するステップと、を実行する接合部評価装置。
【請求項14】
前記第1の被接合体と前記第2の被接合体とは、炭素繊維と樹脂とを含む複合材層を積層した積層体であり、
前記一対の電極は、前記接合部の一方側となる前記第1の被接合体の所定の複合材層と、前記接合部の他方側となる前記第2の被接合体の所定の複合材層とからなる請求項13に記載の接合部評価装置。
【請求項15】
前記一対の電極に交流信号を印加する交流電源部を、さらに備え、
前記交流電源部は、前記交流信号に直流信号を重畳して、前記接合部のキャパシタンス値を取得する請求項13または14に記載の接合部評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合部を評価する接合部評価方法及び接合部評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、接合部を評価する接合部評価方法として、ウィークボンド(WeakBond)接着を非破壊的な手法で検査して接合部の接合状態を評価する接合部評価方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この接合部評価方法では、接合部に交流信号を印加し、交流信号の周波数を変化させて測定することにより得られた電流値及び電圧値から、所定の電気特性に関する評価値を導出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-83300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の接合部評価方法では、印加する交流信号の周波数が高周波であるため、接合部の形状の差異からくる誤差因子が大きく、例えば、形状誤差として、接合部の厚さが数十μm異なったり、形状寸法がmm単位で変化したりするだけで、信号対雑音比(S/N)の悪影響により適切な評価値を検出することが困難となる。
【0005】
そこで、本開示は、接合部の形状に差異が生じる場合であっても、接合部の評価を好適に行うことができる接合部評価方法及び接合部評価装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の接合部評価方法は、第1の被接合体と第2の被接合体との接合部における接合状態を計測して評価する接合部評価方法であって、計測条件の基準となる基準計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、基準値として取得するステップと、前記基準計測状態から計測状態を変化させ、状態変化後となる変化後計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、計測値として取得するステップと、前記計測値を前記基準値でリファレンスした値を計測評価値として導出するステップと、導出した前記計測評価値に基づく評価を実行するステップと、を備える。
【0007】
本開示の接合部評価装置は、第1の被接合体と第2の被接合体との接合部における接合状態を計測して評価する接合部評価装置であって、前記接合部にキャパシタを形成するために配置される一対の電極と、前記接合部のキャパシタンス値を計測すると共に、計測した前記キャパシタンス値に基づいて前記接合部の評価を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、計測条件の基準となる基準計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、基準値として取得するステップと、前記基準計測状態から計測状態を変化させ、状態変化後となる変化後計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、計測値として取得するステップと、前記計測値を前記基準値でリファレンスした値を計測評価値として導出するステップと、導出した前記計測評価値に基づく評価を実行するステップと、を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、接合部の形状に差異が生じる場合であっても、接合部の評価を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態1に係る接合部評価装置に示す概略構成図である。
図2図2は、実施形態1に係る接合部評価方法の一例のフローチャートである。
図3図3は、実施形態1に係る接合部評価方法の一例のフローチャートである。
図4図4は、健全評価値と計測評価値とに関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0011】
[実施形態1]
実施形態1に係る接合部評価方法及び接合部評価装置1は、接合部5の接合状態を計測して評価する手法及び装置となっている。接合部評価方法では、接合直後における接合部5の接合状態を評価したり、経年変化後における接合部5の接合状態を評価したりする。図1は、実施形態1に係る接合部評価装置に示す概略構成図である。図2は、実施形態1に係る接合部評価方法の一例のフローチャートである。図3は、実施形態1に係る接合部評価方法の一例のフローチャートである。図4は、健全評価値と計測評価値とに関するグラフである。先ず、接合部評価方法及び接合部評価装置1の説明に先立ち、接合部5について説明する。
【0012】
(接合部)
接合部5は、第1の被接合体7と第2の被接合体8とを接合した接合体4に形成される部位であり、第1の被接合体7と第2の被接合体8との接合部分における部位となっている。接合部5は、例えば、接着剤9を介して接着した接着部、または溶融させて接合した融着部等がある。実施形態1では、接合部5として、接着部に適用して説明するが、融着部であってもよい。
【0013】
第1の被接合体7及び第2の被接合体8のそれぞれは、複合材となっており、炭素繊維と樹脂とを含む複合材層を積層した積層体となっている。積層体の積層方向は、第1の被接合体7と第2の被接合体8とが対向する対向方向となっている。なお、第1の被接合体7及び第2の被接合体8は、炭素繊維を用いた複合材としたが、特に限定されず、何れの強化繊維を用いてもよい。また、実施形態1では、第1の被接合体7及び第2の被接合体8を複合材同士としたが、金属材同士としてもよいし、複合材と金属材との組み合わせであってもよい。
【0014】
実施形態1において、接合部5が接着部である場合、接合面の汚染等を原因として接着力が低下するウィークボンド(WeakBond)接着が生じる可能性がある。このため、接合部評価装置1を用いた接合部評価方法では、接合部5の接合状態がウィークボンド接着であるか否かを評価している。なお、接合部5が融着部である場合においても、接合部評価装置1を用いた接合部評価方法では、接合部5の接合力が低下する接合状態を評価することが可能となっている。
【0015】
(接合部評価装置)
接合部評価装置1は、図1に示すように、加熱炉10と、一対の電極11と、交流電源部12と、制御部15と、を備えている。
【0016】
加熱炉10は、接合体4を内部に収容可能となっており、炉内を所定の温度に加熱することで、接合体4を所定の温度に加熱する。加熱炉10は、制御部15に接続されており、制御部15は、炉内の温度が所定の温度となるように制御している。
【0017】
一対の電極11は、接合体4の接合部5を、積層方向(対向方向)の両側から挟み込んで配置されることで、キャパシタを形成している。このため、一対の電極11の間には、接合部5が誘電体として配置される。
【0018】
交流電源部12は、一対の電極11間に交流信号を印加する。交流信号は、交流電流または交流電圧である。交流電源部12は、例えば、LCRメータである。交流電源部12は、交流信号の周波数を変化させて、一対の電極11間へ印加することが可能となっている。交流電源部12は、制御部15に接続されており、制御部15は、所定の周波数となるように、印加する交流信号を制御している。なお、交流電源部12は、交流信号に直流信号を重畳して、一対の電極11間に印加してもよい。交流電源部12は、直流信号を重畳することにより、信号対雑音比(S/N)の悪影響を軽減することができるため、一対の電極11により形成されるキャパシタのキャパシタンス値の計測を精度良く行うことができる。
【0019】
制御部15は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の集積回路を含んでいる。制御部15は、接合部5の接合状態を評価する接合部評価処理を実行する。制御部15は、接合部評価処理において、加熱炉10及び交流電源部12を制御することで、加熱炉10の炉内の温度を変化させたり、交流信号の周波数を変化させたりする。
【0020】
(接合部評価方法)
次に、図2から図4を参照して、接合部評価装置1において実行される接合部評価方法の一例について説明する。
【0021】
接合部評価方法では、健全な接合部5を有する供試体の評価値である健全評価値を事前に取得した後、評価対象となる接合体4の接合部5の評価値である計測評価値を取得し、健全評価値と計測評価値とに基づいて接合部5の接合状態の評価を行っている。このとき、供試体の健全な接合部5の形状と、計測対象となる接合体4の接合部5の形状とは、同一形状となっている。
【0022】
図2を参照して、健全評価値の取得に関する処理フローについて説明する。図2に示すように、接合部評価方法では、先ず、制御部15が、健全な接合部5の基準値である健全基準値を取得するステップS11を実行する。ここで、基準値とは、計測条件の基準となる基準計測状態における接合部5のキャパシタンス値である。基準計測状態は、接合部5における基準となる基準温度であり、基準温度は、室内温度となっている。室内温度は、1℃から35℃となっており、基準温度としては、例えば、30℃である。また、キャパシタンス値の計測時において印加される交流信号の測定周波数は、100Hz以上100MHz以下の帯域であればよく、実施形態1では、100Hz以上100kHz以下の帯域となっており、所定の周波数に固定した状態でキャパシタンス値が計測される。つまり、ステップS11では、加熱炉10の炉内温度が室内温度となっており、この温度を基準温度として、制御部15は、所定の周波数となる交流信号を一対の電極11に印加して、接合部5のキャパシタンス値を、基準値として取得する。
【0023】
続いて、接合部評価方法では、制御部15が、健全な接合部5の計測値である健全計測値を取得するステップS12を実行する。ここで、計測値とは、基準計測状態から計測状態を変化させ、状態変化後となる変化後計測状態における接合部5のキャパシタンス値である。変化後計測状態は、接合部5の変化後温度であり、変化後温度は、基準温度に比して高い温度となっている。変化後温度としては、例えば、80℃以上としている。ステップS12では、健全計測値を所定の温度間隔で取得している。また、キャパシタンス値の計測時において印加される交流信号の測定周波数は、ステップS11と同じ周波数となっている。つまり、ステップS12では、加熱炉10の炉内温度が変化後温度となっており、制御部15は、所定の周波数となる交流信号を一対の電極11に印加して、接合部5のキャパシタンス値を、計測値として取得する。
【0024】
続いて、接合部評価方法では、制御部15が、健全計測値を健全基準値でリファレンスした値を健全評価値として導出するステップS13を実行する。リファレンスとは、健全計測値を健全基準値で無次元化することである。ここで、キャパシタンス値Cは、誘電率εと形状因子f(r)との積となる、「C=ε×f(r)」の式として与えられる。形状因子f(r)は、例えば、一対の電極11が平行板コンデンサとなる場合、平行板面積Sを平行板間の距離dで除した、「f(r)=S/d」の式として与えられる。健全基準値をCとし、健全基準値における誘電率をεとし、健全計測値(健全なキャパシタンス値)をCとし、健全計測値における誘電率をεとする。健全計測値Cを健全基準値Cでリファレンス(C/C)した値である健全評価値は、形状因子f(r)がキャンセルされることで、「C/C=ε/ε」となる。つまり、ステップS13では、健全評価値として、「ε/ε(誘電率比)」が導出される。
【0025】
図4は、温度に応じて変化する誘電率比のグラフとなっており、横軸が温度となっており、縦軸が誘電率比となっている。図4に示す黒三角のマークは、温度に応じて変化する健全評価値である。健全評価値は、図2に示す健全評価値の取得に関する処理フローが実行されることで、温度が30℃から150℃まで変化したときの誘電率比が、1から1.4程度まで漸次増加する値として、制御部15により取得される。
【0026】
次に、図3を参照して、計測評価値を取得して、計測対象となる接合部5の接合状態を評価する処理フローについて説明する。図3に示すように、接合部評価方法では、先ず、制御部15が、計測対象となる接合部5の基準値を取得するステップS21を実行する。ステップS21における基準計測状態は、ステップS11と同様である。つまり、ステップS21では、加熱炉10の炉内温度が室内温度となっており、この温度を基準温度として、制御部15は、所定の周波数となる交流信号を一対の電極11に印加して、接合部5のキャパシタンス値を、基準値として取得する。
【0027】
続いて、接合部評価方法では、制御部15が、計測対象となる接合部5の計測値を取得するステップS22を実行する。ステップS22における変化後計測状態は、ステップS12と同様である。つまり、ステップS22では、加熱炉10の炉内温度が変化後温度となっており、制御部15は、所定の周波数となる交流信号を一対の電極11に印加して、接合部5のキャパシタンス値を、計測値として取得する。
【0028】
続いて、接合部評価方法では、制御部15が、計測値を基準値でリファレンスした値を計測評価値として導出するステップS23を実行する。つまり、ステップS23では、計測評価値として、「ε/ε(誘電率比)」が導出される。図4に示す黒丸のマークは、温度に応じて変化する計測評価値である。図4に示す計測評価値は、接合部5の接合状態が不良(WeakBond接着)となっている場合の値となっている。計測評価値は、図3に示す計測評価値の取得に関する処理フローが実行されることで、温度が30°から150°まで変化したときの誘電率比が、1から2.3程度まで増加する値として、制御部15により取得される。
【0029】
この後、接合部評価方法において、制御部15は、取得した健全評価値と計測評価値との差分を取得するステップS24を実行する。制御部15は、取得した差分が健全な範囲であるか否かを判定するステップS25を実行する。差分は、大きければ大きいほど、健全性が損なわれるものとなっている。制御部15は、ステップS25において、差分が健全な範囲であると判定する(ステップS25:Yes)と、接合部5が健全であると評価して(ステップS26)、接合部5の接合状態を評価する処理フローを終了する。一方で、制御部15は、ステップS25において、差分が健全な範囲でないと判定する(ステップS25:No)と、接合部5が不良(WeakBond接着)であると評価して(ステップS27)、接合部5の接合状態を評価する処理フローを終了する。
【0030】
なお、実施形態1の接合部評価方法では、図3に示す処理フローのように、健全評価値と計測評価値とを用いて、差分に基づく接合部5の接合状態の健全性に関する評価を行ったが、この構成に特に限定されない。接合部評価方法では、計測評価値のみを用いた接合部5の評価を行ってもよい。
【0031】
また、計測評価値を用いた接合部5の評価として、計測評価値の傾きを考慮した評価を行ってもよい。例えば、健全評価値の傾きと計測評価値の傾きとを比較して、接合部5の接合状態の健全性を評価してもよいし、計測評価値のみの傾きから、接合部5の接合状態の健全性を評価してもよい。
【0032】
また、実施形態1では、接合部5の両側に一対の電極11を設けたが、この構成に特に限定されない。第1の被接合体7及び第2の被接合体8として、炭素繊維と樹脂とを含む複合材層を積層した積層体を適用し、第1の被接合体7の所定の複合材層を、一対の電極11の一方側として用い、第2の被接合体8の所定の複合材層を、一対の電極11の他方側として用いてもよい。
【0033】
[実施形態2]
次に、実施形態2について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
【0034】
実施形態1の接合部評価方法では、基準計測状態として基準温度を用い、変化後計測状態として変化後温度を用いた。実施形態2の接合部評価方法では、実施形態1の基準温度に代えて、基準計測状態として基準測定周波数を用い、実施形態1の変化後温度に代えて、変化後計測状態として変化後周波数を用いている。なお、実施形態2では、加熱炉10の炉内温度は、所定の温度に固定されている。
【0035】
具体的に、実施形態2の接合部評価方法では、ステップS11及びステップS21において、健全基準値及び基準値を取得する場合、交流電源部12により一対の電極11間に印加される交流信号の周波数が基準測定周波数となっている。そして、制御部15は、基準測定周波数となる交流信号を一対の電極11に印加して、接合部5のキャパシタンス値を、健全基準値及び基準値としてそれぞれ取得する。
【0036】
また、接合部評価方法では、ステップS12及びステップS22において、健全計測値及び計測値を取得する場合、交流電源部12により一対の電極11間に印加される交流信号の周波数が、基準測定周波数よりも高い変化後周波数となっている。そして、制御部15は、変化後周波数となる交流信号を一対の電極11に印加して、接合部5のキャパシタンス値を、健全計測値及び計測値としてそれぞれ取得する。ここで、基準測定周波数は、1kHz以上100kHz以下の周波数であり、変化後周波数は、10MHz以上100MHz以下の周波数となっている。
【0037】
そして、接合部評価方法では、ステップS13及びステップS23では、健全計測値及び計測値を、健全基準値及び基準値でそれぞれリファレンスした値を、健全評価値及び計測評価値としてそれぞれ導出する。
【0038】
[実施形態3]
次に、実施形態3について説明する。なお、実施形態3では、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び2と異なる部分について説明し、実施形態1及び2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
【0039】
実施形態1の接合部評価方法では、基準計測状態として基準温度を用い、変化後計測状態として変化後温度を用いた。実施形態3の接合部評価方法では、基準計測状態として基準温度及び基準測定周波数を用い、変化後計測状態として変化後温度及び変化後周波数を用いている。また、実施形態3では、基準温度に基づく計測評価値と、基準測定周波数に基づく計測評価値とを用いて、接合部5の評価を行っている。
【0040】
つまり、実施形態3の接合部評価方法では、ステップS21において、基準温度に基づく基準値を取得すると共に、基準測定周波数に基づく基準値を取得する。続いて、接合部評価方法では、ステップS22において、基準温度に基づく計測値を取得すると共に、基準測定周波数に基づく計測値を取得する。そして、接合部評価方法では、ステップS23において、基準温度に基づく基準値及び計測値から、基準温度に基づく計測評価値を取得し、基準測定周波数に基づく基準値及び計測値から、基準測定周波数に基づく計測評価値を取得する。
【0041】
この後、実施形態3の接合部評価方法では、基準温度に基づく計測評価値と、基準測定周波数に基づく計測評価値との相関関係を取得し、相関関係に基づく評価を実行する。相関関係に基づく評価としては、例えば、健全な接合部5を有する供試体の相関関係を予め取得し、健全な接合部5の相関関係と、計測対象となる接合部5の相関関係とを比較することで、計測対象となる接合部5の接合状態を評価することが可能となる。
【0042】
なお、実施形態3において、接合部5を評価する場合、実施形態1及び実施形態2と同様に、基準温度に基づく健全評価値と、基準測定周波数に基づく健全評価値と、を取得して、それぞれの差分をとり、差分に基づく接合部5の接合状態を評価してもよい。
【0043】
以上のように、実施形態に記載の接合部評価方法及び接合部評価装置1は、例えば、以下のように把握される。
【0044】
第1の態様に係る接合部評価方法は、第1の被接合体7と第2の被接合体8との接合部5における接合状態を計測して評価する接合部評価方法であって、計測条件の基準となる基準計測状態における前記接合部5のキャパシタンス値を、基準値として取得するステップS21と、前記基準計測状態から計測状態を変化させ、状態変化後となる変化後計測状態における前記接合部のキャパシタンス値を、計測値として取得するステップS22と、前記計測値を前記基準値でリファレンスした値を計測評価値として導出するステップS23と、導出した前記計測評価値に基づく評価を実行するステップS24~S27と、を備える。
【0045】
この構成によれば、計測値を基準値でリファレンスすることで、接合部5の形状による影響をキャンセルした計測評価値を得ることができる。このため、接合部5の形状に差異が生じる場合であっても、計測評価値を用いることで、接合部5の評価を好適に行うことができる。
【0046】
第2の態様として、前記接合部5は、前記第1の被接合体7と前記第2の被接合体8とを接着剤を介して接着した接着部である。
【0047】
この構成によれば、計測評価値を用いて、接着部の評価を好適に行うことができる。
【0048】
第3の態様として、前記接合部5は、前記第1の被接合体7と前記第2の被接合体8とを融着した融着部である。
【0049】
この構成によれば、計測評価値を用いて、融着部の評価を好適に行うことができる。
【0050】
第4の態様として、前記基準計測状態は、前記接合部5において基準となる基準温度を含み、前記計測値を取得するステップS22では、前記接合部5を基準温度から温度変化させ、温度変化後となる前記変化後計測状態としての変化後温度における前記接合部5のキャパシタンス値を、前記計測値として取得する。
【0051】
この構成によれば、温度に応じて変化する計測評価値を取得し、この計測評価値を用いることで、温度依存性を考慮した接合部5の接合状態の評価を行うことができる。
【0052】
第5の態様として、前記基準温度は、室内温度である。
【0053】
この構成によれば、基準温度を室内温度とすることで、キャパシタンス値の計測に係る作業を容易なものとすることができる。
【0054】
第6の態様として、前記変化後温度は、前記基準温度に比して高い。
【0055】
この構成によれば、温度変化に伴う計測評価値の変化を、好適に取得することができる。
【0056】
第7の態様として、前記接合部のキャパシタンス値は、所定の測定周波数となる交流信号を印加することで取得しており、前記測定周波数は、100Hz以上100MHz以下の帯域となっている。
【0057】
この構成によれば、接合部を温度変化させる場合、例えば、測定周波数を、100Hz以上100kHz以下の帯域とすることで、測定周波数の帯域に応じて構成される装置構成を、簡易な構成とすることができるため、装置コストの軽減を図ることができる。
【0058】
第8の態様として、前記基準計測状態は、前記接合部5のキャパシタンス値の取得時において印加する交流信号の基準となる基準測定周波数を含み、前記計測値を取得するステップS22では、前記基準測定周波数から周波数を変化させ、周波数変化後となる前記変化後計測状態としての変化後周波数における前記接合部5のキャパシタンス値を、前記計測値として取得する。
【0059】
この構成によれば、周波数に応じて変化する計測評価値を取得し、この計測評価値を用いることで、周波数依存性を考慮した接合部5の接合状態の評価を行うことができる。
【0060】
第9の態様として、前記基準測定周波数は、1kHz以上100kHz以下であり、前記変化後周波数は、10MHz以上100MHz以下である。
【0061】
この構成によれば、周波数変化に伴う計測評価値の変化を、好適に取得することができる。
【0062】
第10の態様として、前記計測値を取得するステップS22において、前記基準温度に基づく前記計測評価値と、前記基準測定周波数に基づく前記計測評価値とを取得する場合、評価を実行するステップでは、前記基準温度に基づく前記計測評価値と、前記基準測定周波数に基づく前記計測評価値との相関関係を取得し、前記相関関係に基づく評価を実行する。
【0063】
この構成によれば、基準温度に基づく計測評価値と、基準測定周波数に基づく計測評価値との相関関係から、接合部5の接合状態を評価することができる。
【0064】
第11の態様として、健全な前記接合部5の前記基準値である健全基準値を取得するステップS11と、健全な前記接合部5の前記計測値である健全計測値を取得するステップS12と、前記健全計測値を前記健全基準値でリファレンスした値を健全評価値として導出するステップS13と、をさらに備え、評価を実行するステップS24~S27では、前記健全評価値と前記計測評価値との差分に基づく評価を実行する。
【0065】
この構成によれば、健全評価値と計測評価値との差分から、接合部5の健全性に関する評価を行うことができるため、精度の良い接合部5の評価を行うことが可能となる。
【0066】
第12の態様として、評価を実行するステップS24~S27では、前記健全評価値と前記計測評価値との差分が、予め規定された健全となる範囲内である場合、前記接合部5が健全であると評価する。
【0067】
この構成によれば、接合部5の健全性に関する評価を容易に判定することができる。
【0068】
第13の態様に係る接合部評価装置1は、第1の被接合体7と第2の被接合体8との接合部5における接合状態を計測して評価する接合部評価装置1であって、前記接合部5にキャパシタを形成するために配置される一対の電極11と、前記接合部5のキャパシタンス値を計測すると共に、計測した前記キャパシタンス値に基づいて前記接合部5の評価を実行する制御部15と、を備え、前記制御部15は、計測条件の基準となる基準計測状態における前記接合部5のキャパシタンス値を、基準値として取得するステップS21と、前記基準計測状態から計測状態を変化させ、状態変化後となる変化後計測状態における前記接合部5のキャパシタンス値を、計測値として取得するステップS22と、前記計測値を前記基準値でリファレンスした値を計測評価値として導出するステップS23と、導出した前記計測評価値に基づく評価を実行するステップS24~S27と、を実行する。
【0069】
この構成によれば、計測値を基準値でリファレンスすることで、接合部5の形状による影響をキャンセルした計測評価値を得ることができる。このため、接合部5の形状に差異が生じる場合であっても、計測評価値を用いることで、接合部5の評価を好適に行うことができる。
【0070】
第14の態様として、前記第1の被接合体7と前記第2の被接合体8とは、炭素繊維と樹脂とを含む複合材層を積層した積層体であり、前記一対の電極11は、前記接合部5の一方側となる前記第1の被接合体7の所定の複合材層と、前記接合部5の他方側となる前記第2の被接合体8の所定の複合材層とからなる。
【0071】
この構成によれば、接合部5の所定の複合材層を、一対の電極11として用いることができるため、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0072】
第15の態様として、前記一対の電極11に交流信号を印加する交流電源部12を、さらに備え、前記交流電源部12は、前記交流信号に直流信号を重畳して、前記接合部5のキャパシタンス値を取得する。
【0073】
この構成によれば、直流信号を重畳することにより、信号対雑音比(S/N)の悪影響を軽減することができるため、キャパシタンス値の計測を精度良く行うことができる。
【符号の説明】
【0074】
1 接合部評価装置
4 接合体
5 接合部
7 第1の被接合体
8 第2の被接合体
9 接着剤
10 加熱炉
11 一対の電極
12 交流電源部
15 制御部
図1
図2
図3
図4