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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123493
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】護岸およびその形成方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/12 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
E02B3/12
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020836
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】古川 恵太
(72)【発明者】
【氏名】田谷 全康
(72)【発明者】
【氏名】末岡 一男
(72)【発明者】
【氏名】玉上 和範
(72)【発明者】
【氏名】淺井 貴恵
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA25
2D118BA03
2D118CA03
2D118CA07
2D118CA08
2D118DA05
2D118FA06
2D118FB12
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造体を有して構築された護岸に、藻類を効率的に繁茂させることができる護岸およびその形成方法を提供する。
【解決手段】
藻類11または藻類11の胞子12を植え付けた紐状体10を、コンクリート構造体2が面する水域の水中に遊動可能な状態でコンクリート構造体2に取付ける。そして、紐状体10に植え付けられている藻類11から放出される胞子12、または、紐状体10に植え付けられている胞子12が発芽して成長した藻類11から放出される胞子12を、コンクリート構造体2の壁面4に付着させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体を有して構築された護岸において、
藻類または藻類の胞子が植え付けられている紐状体が、前記コンクリート構造体が面する水域の水中で遊動可能な状態で、前記コンクリート構造体に取付けられていて、前記紐状体に植え付けられている藻類から放出される胞子、または、前記紐状体に植え付けられている胞子が発芽して成長した藻類から放出される胞子を、前記コンクリート構造体の壁面に付着させる構成であることを特徴とする護岸。
【請求項2】
前記コンクリート構造体に、前記紐状体を連結可能な一対の連結部材が互いに横方向に離間して固定されていて、前記一対の連結部材の間に前記紐状体が架け渡されている請求項1に記載の護岸。
【請求項3】
前記壁面に、凸部またはスリットを有している請求項1または2に記載の護岸。
【請求項4】
前記紐状体の位置を水上において表示する位置表示手段が前記コンクリート構造体に付設されている請求項1~3のいずれかに記載の護岸。
【請求項5】
コンクリート構造体を有して構築された護岸の形成方法において、
藻類または藻類の胞子を植え付けた紐状体を、前記コンクリート構造体が面する水域の水中に遊動可能な状態で前記コンクリート構造体に取付け、前記紐状体に植え付けられている藻類から放出される胞子、または、前記紐状体に植え付けられている胞子が発芽して成長した藻類から放出される胞子を、前記コンクリート構造体の壁面に付着させることを特徴とする護岸の形成方法。
【請求項6】
前記コンクリート構造体の奥行方向に延在する上部フレームと、その上部フレームの前記水域側に連結されていて上下方向に延在する下部フレームと、その下部フレームから水域側に突出した突出フレームとを有するフレーム部材を用いて、前記下部フレームを前記壁面に沿わせて配置し、前記上部フレームを前記コンクリート構造体の上面に対して固定し、前記突出フレームの先端部に設けられた連結部材に前記紐状体を連結することにより、前記紐状体を前記コンクリート構造体に取付ける請求項5に記載の護岸の形成方法。
【請求項7】
陸上において、板状部に前記紐状体を連結可能な連結部材と凸部とを設けたパネル部材を形成しておき、そのパネル部材を前記壁面に対して固定して、前記連結部材に前記紐状体を連結することにより、前記紐状体を前記コンクリート構造体に取付ける請求項5に記載の護岸の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸およびその形成方法に関し、さらに詳しくは、コンクリート構造体を有して構築された護岸に、藻類を簡便に効率的に繁茂させることができる護岸およびその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境に配慮した護岸構造として、護岸を構成するコンクリート構造体の水域に面する壁面に魚介類などの水生生物の生育場となる凸部を有する護岸が採用されている(例えば、特許文献1参照)。水生生物が生育し易い環境を作るには、コンクリート構造体の壁面に水生生物の住処や隠れ場所、飼料の供給機能等となるワカメやコンブ類などの藻類を繁茂させることが好ましい。しかしながら、護岸が構築される水域近傍に藻類の胞子の供給源となる藻類の自生地がないか藻類の自生地が生育活性の高い胞子の到達を期待できる距離内にないことが多く、コンクリート構造体の壁面に自然に藻類を繁茂させることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-207429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、コンクリート構造体を有して構築された護岸に、藻類を簡便に効率的に繁茂させることができる護岸およびその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明の護岸は、コンクリート構造体を有して構築された護岸において、藻類または藻類の胞子が植え付けられている紐状体が、前記コンクリート構造体が面する水域の水中で遊動可能な状態で、前記コンクリート構造体に取付けられていて、前記紐状体に植え付けられている藻類から放出される胞子、または、前記紐状体に植え付けられている胞子が発芽して成長した藻類から放出される胞子を、前記コンクリート構造体の壁面に付着させる構成であることを特徴とする。
【0006】
本発明の護岸の形成方法は、コンクリート構造体を有して構築された護岸の形成方法において、藻類または藻類の胞子を植え付けた紐状体を、前記コンクリート構造体が面する水域の水中に遊動可能な状態で前記コンクリート構造体に取付け、前記紐状体に植え付けられている藻類から放出される胞子、または、前記紐状体に植え付けられている胞子が発芽して成長した藻類から放出される胞子を、前記コンクリート構造体の壁面に付着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、意図的に藻類または藻類の胞子を植え付けた紐状体をコンクリート構造体に取付けて、その紐状体に植え付けられている藻類から放出された胞子、または、紐状体に植え付けられている胞子が発芽して成長した藻類から放出された胞子を、コンクリート構造体の壁面に付着させる。これにより、コンクリート構造体の壁面に藻類が繁茂した状態を簡便に効率的に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る実施形態の護岸を斜視で例示する説明図である。
図2図1の護岸を側面視で例示する説明図である。
図3】本発明に係る別の実施形態の護岸を斜視で例示する説明図である。
図4】本発明に係るさらに別の実施形態の護岸を斜視で例示する説明図である。
図5図4の護岸を側面視で例示する説明図である。
図6図4の護岸を正面視で例示する説明図である。
図7】本発明に係るさらに別の実施形態の護岸を斜視で例示する説明図である。
図8図7の護岸を側面視で例示する説明図である。
図9図7の護岸を正面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の護岸およびその形成方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1および図2に例示するように、本発明の護岸1は、海や湖、河川などの水域に形成される。本願図中のX方向は護岸1の奥行方向、Y方向は護岸1の幅方向、Z方向は上下方向を示している。
【0011】
護岸1は、水底Bに据付けられたコンクリート構造体2を有して構築されている。コンクリート構造体2は例えば、ケーソンや既設護岸などで構成される。コンクリート構造体2の形状や構造は特に限定されない。この実施形態では、コンクリート構造体2の水域に面する壁面4が垂直面である場合を例示しているが、壁面4は傾斜面であってもよいし凹凸を有する形状であってもよい。
【0012】
この護岸1は、藻類11または藻類11の胞子(遊走子)12が植え付けられている紐状体10が、コンクリート構造体2が面する水域の水中で遊動可能な状態で、コンクリート構造体2に取付けられている。図2に例示するように、この護岸1は、コンクリート構造体2に取付けた紐状体10に植え付けられている藻類11から放出される胞子12、または、紐状体10に植え付けられている胞子12が発芽して成長した藻類11から放出される胞子12を、コンクリート構造体2の壁面4に付着させる構成であることが大きな特徴である。
【0013】
紐状体10として、例えば、藻類11の養殖に使用するロープなどを使用する。藻類11としては、ワカメや昆布などの海藻類や淡水藻類などが例示できる。この実施形態では、藻類11として紐状体10に発芽して成長した状態のワカメを植え付けている場合を例示している。
【0014】
発芽して成長した状態の藻類11を紐状体10に植え付ける場合には、例えば、紐状体10の撚りの間に藻類11の根元部分を挟み込む方法や、糸などを使用して紐状体10に藻類11を括り付ける方法で、藻類11を植え付けた紐状体10を形成できる。胞子12を紐状体10に植え付ける場合には、例えば、胞子12の付いた種苗糸を紐状体10の撚りの間に挟み込む方法や、胞子12の付いた種苗糸を紐状体10に巻き付ける方法で、胞子12を植え付けた紐状体10を形成できる。紐状体10の長手方向に一定の間隔をあけて藻類11または胞子12を植え付けるとよい。
【0015】
この実施形態では、コンクリート構造体2の水域に面する壁面4に、紐状体10を連結可能な一対の連結部材13が互いに横方向Yに離間して固定されていて、その一対の連結部材13の間に紐状体10が架け渡されている。連結部材13は例えば、アンカーボルトの先端部にフックが設けられた金具などで構成できる。壁面4に連結部材13を構成するアンカーボルトの根元部分が打ち込まれていて、水域側に配置された連結部材13のフックに紐状体10の端部が着脱可能に連結されている。
【0016】
連結部材13は紐状体10が連結可能な構成であれば形状や壁面4に対する固定方法はこの実施形態に限定されず他にも様々な構成にすることができる。例えば、コンクリート構造体2を製造する時点で壁面4に連結部材13を予め埋め込んでおくこともできるし、壁面4に対して連結部材13を接着剤などで固定することもできる。連結部材13は、壁面4の水中に位置する領域に限らず、壁面4の水上に位置する領域に配置することもできる。また、連結部材13は、例えば、コンクリート構造体2の上面3などの壁面4以外の位置に配置することもできる。
【0017】
紐状体10は、植え付けられている藻類11から放出される胞子12、または、植え付けられている胞子12が発芽して成長した藻類11から放出される胞子12が、コンクリート構造体2の壁面4に届く範囲に架け渡す。紐状体10は、ある程度の弛みを設けた状態で架け渡すことが好ましい。紐状体10に弛みを設けることで、紐状体10が水中で遊動し易くなり、紐状体10に植え付けられている藻類11(以下、胞子12が発芽して成長した藻類11も含む)から放出される胞子12が、壁面4の広範囲に付着し易くなる。また、紐状体10に弛みを設けて水中で遊動し易い状態にすることで、水中懸濁物質が藻類11の葉上に堆積することや水中懸濁物質が葉上に堆積することによる光合成阻害を防ぐことができる。それ故、紐状体10に植え付けられている胞子12の発芽や藻類11の成長、藻類11による胞子12の放出などを促進するには有利になる。
【0018】
また、紐状体10は、水中で遊動した場合にも、藻類11または胞子12が植え付けられている部分(以下、植え付け部分という)が、壁面4に接触しない範囲に配置することが好ましい。具体的には、壁面4からの奥行方向Xの距離Lが例えば、0.5m以上2.0m以下となる範囲に、紐状体10の植え付け部分を配置するとよい。
【0019】
紐状体10は、植え付け部分が常に水中に位置する高さに配置する。即ち、紐状体10の植え付け部分は、水域の干潮時の水面位置WLよりも低い位置に配置する。さらには、紐状体10は、植え付けられている藻類11の光合成を可能とする、日光が十分に届く水深に植え付け部分を配置することが好ましい。ただし、藻類11は干出すると生育不良や枯死を起こす可能性があるので、紐状体10に植え付けられている藻類11が干出しない程度の水深に紐状体10の植え付け部分を配置するとよい。具体的には、水域の干潮時の水面位置WLからの深さDが例えば、30cm以上250cm以下となる範囲に紐状体10の植え付け部分を配置するとよい。紐状体10や連結部材13の配置、紐状体10の長さや設置本数などは、コンクリート構造体2の形状や壁面4の広さなどに応じて適宜決定できる。例えば、横方向Yに延在させて架け渡した紐状体10を、上下方向Zに間隔をあけて複数本配設することもできる。
【0020】
次に、護岸1を形成する作業手順の一例を説明する。
【0021】
水底Bに据付けられた状態のコンクリート構造体2に、藻類11または胞子12を植え付けた紐状体10を取付ける。紐状体10はある程度弛みを設けた状態で架け渡し、植え付け部分が水域の水中で遊動可能な状態にする。この実施形態では、コンクリート構造体2の壁面4に、一対の連結部材13を横方向Yに離間させて固定し、その一対の連結部材13の間に紐状体10を架け渡す。
【0022】
壁面4に連結部材13を固定する作業や、連結部材13に紐状体10を連結する作業は、潜水士が行う。或いは、前述した作業は、コンクリート構造体2に水中に延在する足場を設置して、足場上で行うこともできる。例えば、コンクリート構造体2を水底Bに据付ける以前に予め陸上で壁面4に連結部材13を固定しておくこともできる。
【0023】
完成した護岸1によって壁面4に藻類11が繁茂した状態となるプロセスは以下のとおりである。
【0024】
藻類11が胞子12を放出する時期に、紐状体10に植え付けられている藻類11(胞子12が発芽して成長した藻類11も含む)から水中に多量の胞子12が放出される。紐状体10はコンクリート構造体2に水中で遊動可能な状態で取付けられているので、紐状体10とともに水中で遊動する藻類11から壁面4に向かう方向やその他の様々な方向に向かって胞子12が広範囲に放出される。そして、紐状体10に植え付けられた藻類11から放出された胞子12が、コンクリート構造体2の壁面4や水底Bに付着する。壁面4に付着した胞子12が発芽して成長すると、壁面4の広範囲に藻類11が繁茂した状態になる。
【0025】
このように、本発明によれば、意図的に藻類11または胞子12を植え付けた紐状体10をコンクリート構造体2に取付けることで、コンクリート構造体2の壁面4に藻類11の胞子12を効率的に付着させることができる。これにより、コンクリート構造体2の壁面4に藻類11が繁茂した状態を簡便に効率的に形成できる。壁面4に水生生物の住処や隠れ場所、保育場所、産卵場所となる藻類11が繁茂した状態になることで、水生生物が集まり易く、水生生物が生育し易い護岸1となる。
【0026】
さらに、紐状体10に植え付けられている藻類11も水生生物の隠れ場所や微生物や小型の葉上生物(ヨコエビ類やワレカラ類等)が集まる餌場として機能するので、護岸1に水生生物が集まり易くなる。また、紐状体10に植え付けられている藻類11は、壁面4に差し込む日差しを遮る庇としても機能し、壁面4付近に水温が比較的低い日陰となる領域も形成される。さらに、紐状体10に植え付けられている藻類11やコンクリート構造体2の壁面4に繁茂した藻類11によって3次元構造の生育場所が形成されるので、水生生物が非常に生育し易い護岸1となる。
【0027】
また、コンクリート構造体2の壁面4に藻類11が繁茂した状態になるとその壁面4で成長した藻類11が胞子12を放出して、その胞子12が壁面4に付着する。前述したサイクルが繰り返されることで、手間をかけずともコンクリート構造体2の壁面4に藻類11が繁茂した状態が長年継続する。
【0028】
例えば、壁面4に藻類11を繁茂させる方法としては、潜水士が藻類11を壁面4に直接植え付ける方法が考えられるが、広範囲に藻類11を植え付けるには、非常に手間がかかり、工期も長くなる。それに対して、本発明では、紐状体10に藻類11や胞子12を植え付ける作業は陸上で行うことができ、現場の水域では紐状体10をコンクリート構造体2に取付ける作業を行うだけでよい。紐状体10に植え付けられている藻類11から放出された胞子12は水中で広範囲に拡散するため、壁面4の広範囲に効率的に胞子12を付着させることができる。
【0029】
単純に護岸1に藻類11を供給するだけではなく、藻類11または胞子12が植え付けられている紐状体10を設置して、胞子12の供給までの生育・繁茂を護岸1の前面で行わせることによって、紐状体10に植え付けられている藻類11の生育過程において、それ自体が護岸1の近傍における水生生物の住処や隠れ場所、飼料の供給機能を提供する機能を果たし、胞子12の供給後に形成される護岸1での藻類11の繁茂による効果の発揮もより確かなものとなる。
【0030】
また、ワカメの場合には1年周期、昆布の場合には2年周期で枯死し、藻類11が放出する胞子12の量や胞子12の発芽率などは気候の影響を受ける。そのため、壁面4で繁茂していた藻類11が一時的に減少してしまう年が発生することも考えらえるが、本発明では、そのような場合にも、紐状体10を交換するだけで、壁面4に新たな胞子12を付着させることができる。それ故、壁面4に藻類11を繁茂させた状態を長年維持するのに要する手間やコストを低減するには非常に有利である。
【0031】
この実施形態のように、コンクリート構造体2に紐状体10を連結可能な一対の連結部材13を横方向Yに離間させて固定し、一対の連結部材13の間に紐状体10を架け渡すと、胞子12を壁面4の広範囲に効率的に付着させるには有利になる。また、紐状体10に植え付けていた藻類11が枯死した場合にも、その紐状体10を連結部材13から取外して、新たな紐状体10を連結部材13に取付けるだけで、壁面4に新たな胞子12を付着させることが可能になる。
【0032】
図3に、本発明の護岸1の別の実施形態を例示する。
【0033】
この実施形態では、コンクリート構造体2として、上面3から壁面4に連通するスリット5(空洞部)を有するケーソン(所謂、スリットケーソン)を採用した場合を例示している。図3に例示するように、紐状体10の植え付け部分をスリット5の内部に架け渡すと、紐状体10に植え付けられている藻類11から放出される胞子12を、スリット5の内側の壁面4やスリット5の底面に付着させることができる。これにより、スリット5の内側の壁面4や底面に藻類11が繁茂した状態を効率的に形成でき、スリット5の内側の空間を水生生物が生育し易い環境にできる。
【0034】
図3に例示するように、紐状体10を延在させる方向は横方向Yに限らず、上下方向Zや斜め方向など様々な方向に延在させて設置することができる。紐状体10を上下方向Zや斜め方向に延設する場合にも、壁面4に一対の連結部材13を、紐状体10を延在させる方向に離間させて固定し、一対の連結部材13の間に紐状体10を架け渡すことで、コンクリート構造体2に紐状体10を簡易に取付けることができる。例えば、紐状体10の下端部に取付けた錘(例えば、錨など)をコンクリート構造体2の水底Bに載置した状態にして、紐状体10を上下方向Zや斜め方向に延設することもできる。このように、紐状体10を横方向Y以外の方向に延設した場合にも、先に例示した実施形態と概ね同じ効果を得ることができる。
【0035】
この実施形態のように、コンクリート構造体2の壁面4にスリット5を有している構成にすると、胞子12が付着して藻類11が繁茂した状態となったスリット5の内側の空間が、水生生物の住処や隠れ場所となるので、水生生物がより集まり易く、水生生物がより生育し易い護岸1となる。
【0036】
図4図6に、本発明の護岸1のさらに別の実施形態を例示する。
【0037】
この実施形態のコンクリート構造体2は、壁面4に上下方向Zに並んで配置されて、水域側に突出する複数の凸部6とスリット5を有している。凸部6は例えば、鉄筋コンクリートや金属部材等で形成される。凸部6は固定具(ボルト等)によってコンクリート構造体2に対して固定されている。この実施形態では、コンクリート構造体2の横方向Yに間隔をあけて形成されているスリット5どうしの間の領域に複数の凸部6が配設されている。凸部6は、例えば、スリット5の上方や下方に位置する領域に設けることもできる。
【0038】
この実施形態のように、壁面4に凸部6を設ける場合には、紐状体10は、遊動した場合にも、植え付け部分が、凸部6に接触しない範囲に配置することが好ましい。凸部6の上方または水域側に植え付け部分が位置するように紐状体10を架け渡すと、凸部6の広範囲に効率よく胞子12を付着させることができる。
【0039】
この実施形態では、フレーム部材14を用いてコンクリート構造体2に紐状体10を取付けている。フレーム部材14は、コンクリート構造体2の奥行方向Xに延在する上部フレーム14aと、その上部フレーム14aの水域側に連結されていて上下方向Zに延在する下部フレーム14bと、下部フレーム14bから水域側に突出する突出フレーム14cとを有している。突出フレーム14cの水域側の先端部には連結部材13が設けられている。この実施形態のフレーム部材14は、上部フレーム14aおよび下部フレーム14bがL字形のフレームで構成されていて、突出フレーム14cがそのL字形のフレームに固定されたブラケットで構成されている。上部フレーム14aと下部フレーム14bには、それぞれ固定具が挿通可能な貫通孔が形成されている。
【0040】
この実施形態では、さらに、紐状体10の位置を水上において表示する位置表示手段15を設けている。位置表示手段15は、フレーム部材14の突出フレーム14cに下端部が固定された上下方向Zに延在する支柱と、その支柱の上部に設けられた点灯部とを有して構成されている。点灯部は水上において点灯または点滅する構成になっている。位置表示手段15は、紐状体10の位置を水上において表示できる構成であれば、特に限定されず、例えば、点灯部に代えて反射板や警告標識などを設けた構成にすることもできる。
【0041】
この実施形態では、陸上(例えば、コンクリート構造体2の上など)において、フレーム部材14に連結部材13および位置表示手段15を固定する。そして、コンクリート構造体2の上で作業者が、フレーム部材14の下部フレーム14bを壁面4に沿わせて配置し、上部フレーム14aをコンクリート構造体2の上面3に対して固定する。これにより、コンクリート構造体2に対するフレーム部材14の位置合わせが完了し、コンクリート構造体2に対してフレーム部材14とともに連結部材13および位置表示手段15が固定された状態となる。その後、必要に応じて固定具等を用いて下部フレーム14bを壁面4に固定すると、コンクリート構造体2に対してフレーム部材14をより強固に固定できる。位置表示手段15の点灯部は水上に配置した状態にする。
【0042】
次いで、潜水士などが連結部材13に藻類11または胞子12が植え付けられている紐状体10を連結することにより、紐状体10をコンクリート構造体2に取付ける。この実施形態では、紐状体10に藻類11と胞子12を両方植え付けた場合を例示している。
【0043】
この実施形態のように、フレーム部材14を用いると、コンクリート構造体2の上で上部フレーム14aをコンクリート構造体2の上面3に対して固定する作業を行うだけで、連結部材13をコンクリート構造体2に対して簡易に固定できる。それ故、護岸1を少ない工数で効率的に形成するには益々有利になる。
【0044】
コンクリート構造体2に位置表示手段15を付設すると、護岸1が面する水域を航行する船舶の船員に対して、コンクリート構造体2の壁面4よりも水域側に付帯物(紐状体10)が設けられていて接岸できないことを明確に認識させることができるので、船舶が護岸1に誤って接岸して紐状体10に干渉することをより確実に防ぐことができる。
【0045】
フレーム部材14に位置表示手段15を固定して、フレーム部材14とともに位置表示手段15を設置すると、コンクリート構造体2に位置表示手段15を少ない工数で簡易に付設できる。例えば、フレーム部材14をコンクリート構造体2に固定した後に、位置表示手段15をフレーム部材14に設置することもできる。また、例えば、位置表示手段15を、フレーム部材14とは別にコンクリート構造体2に固定することもできる。
【0046】
紐状体10に藻類11と胞子12を両方植え付けると、既に成長している藻類11と胞子12から発芽して成長する藻類11とで、2回の異なる時期で胞子12を放出させることが可能になる。それ故、より確実に壁面4に胞子12を付着させることができる。
【0047】
壁面4に凸部6を有している構成にすると、胞子12が付着して藻類11が繁茂した状態となった凸部6が、水生生物の住処や隠れ場所となり、水生生物がより集まり易く、水生生物がより生育し易い護岸1となる。凸部6の形状は特に限定されないが、図5に例示するように、凸部6を、上面部7と、上面部7の水域側に突出した先端部から上面部7の後端部側に向かって下方向に延在する前面部8とを有する構成にすると、凸部6において藻類11が非常に生育し易くなる。側面視で上面部7の延在方向と前面部8の延在方向とのなす角度θが、20°以上70°以下の範囲内であると、凸部6の水域側の先端部において藻類11(特にワカメ)がより生育し易くなる。
【0048】
さらに、凸部6の先端部に上面部7の先端部と前面部8の先端部とで形成された稜角部9を有する構成にすると、鋭角に尖った形状の稜角部9は胞子12の付着や成長を阻害する堆積物が蓄積し難いため、凸部6が藻類11の生育に非常に適した基盤となる。凸部6は、表面が凹凸のない滑らかな形状にすることもできるが、表面に小さな多数の凹凸がある形状にすると胞子12がより定着し易くなり、藻類11がより繁茂し易くなる。
【0049】
凸部6の水域側への突出長さや、凸部6の幅寸法、壁面4に設ける凸部6の数や配置などは、コンクリート構造体2の構造や形状、壁面4の広さなどに応じて適宜決定できる。凸部6の水域側への突出長さは、好ましくは0.2m以上1.5m以下の範囲内で設定するとよい。凸部6の形状はこの実施形態に限定されず、例えば、水域側の先端部が曲面形状や面取りされた形状の凸部6や、直方体形状の凸部6を設けることもできる。コンクリート構造体2に対する凸部6の固定方法は特に限定されず、例えば、接着材や溶接等で固定することもできる。また、例えば、コンクリート構造体2と凸部6とが一体物である構成、即ち、コンクリート構造体2に凸部6が予め一体成形されている構成にすることもできる。
【0050】
このように、護岸1の壁面4に積極的に藻類11の胞子12の着生や生育を促す形状を導入することにより、藻類11の胞子12の供給と受け手側となる護岸1の壁面4での工夫との連携的な作用によって、護岸1により積極的に藻類11を繁茂させるとともに、その後の自律的な藻類11の生育に向けたサイクルの立ち上がりをより効果的に早めることができる。
【0051】
図7図9に、本発明の護岸1のさらに別の実施形態を例示する。
【0052】
この実施形態では、パネル部材16を用いてコンクリート構造体2に紐状体10と凸部6を取付けている。パネル部材16は、平板部材で構成された板状部16aに連結部材13と凸部6とを設けた構造になっている。板状部16aの上部に水域側に突出した一対の連結部材13を横方向Yに離間させて固定している。そして、板状部16aの連結部材13よりも低い位置に、凸部6を構成するブロック部材を上下方向Zに複数固定している。この実施形態の凸部6は、水域側の先端部が面取りされた形状になっている。連結部材13と凸部6とを設けたパネル部材16は、陸上で形成することができる。
【0053】
この実施形態では、パネル部材16の横方向Yの両端部にそれぞれフレーム部材14を固定し、一対のフレーム部材14とともにパネル部材16をコンクリート構造体2に付設している。この実施形態では、一対のフレーム部材14のそれぞれの下部フレーム14bの上部に突出フレーム14c(ブラケット)を固定し、その突出フレーム14cに位置表示手段15を固定している。パネル部材16は、それぞれの下部フレーム14bの下部に固定具によって固定している。
【0054】
この実施形態のように、陸上において、板状部16aに連結部材13と凸部6とを設けたパネル部材16を形成しておき、そのパネル部材16を壁面4に対して固定して、連結部材13に紐状体10を連結すると、現場の水域において非常に少ない作業工数でコンクリート構造体2に対して紐状体10と凸部6とを簡便に付設できる。
【0055】
さらに、陸上でパネル部材16をフレーム部材14に固定しておき、フレーム部材14とともにパネル部材16をコンクリート構造体2に付設すると、コンクリート構造体2に対して紐状体10と凸部6とをより簡易に付設できる。なお、パネル部材16は、例えば、フレーム部材14を用いずに、コンクリート構造体2の壁面4に直接固定具などで固定することもできる。
【0056】
上記に例示したそれぞれの実施形態では、コンクリート構造体2の正面側(沖側)に紐状体10を取付けた場合を例示したが、例えば、同様にコンクリート構造体2の水域に面する側面側に紐状体10を取付けることもできる。本発明は、新設の護岸1を形成する場合に限らず、例えば、既設護岸に対して紐状体10を取付けることで、本発明の護岸1を形成することもできる。
【符号の説明】
【0057】
1 護岸
2 コンクリート構造体
3 上面
4 壁面
5 スリット
6 凸部
7 上面部
8 前面部
9 稜角部
10 紐状体
11 藻類
12 胞子
13 連結部材
14 フレーム部材
14a 上部フレーム
14b 下部フレーム
14c 突出フレーム
15 位置表示手段
16 パネル部材
16a 板状部
B 水底
WL 干潮時の水面位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9