(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123530
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】コイル部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/04 20060101AFI20220817BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20220817BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20220817BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
H01F41/04 B
H01F17/06 D
H01F1/22
H01F1/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020895
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】柏 智男
【テーマコード(参考)】
5E041
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BC01
5E041HB09
5E062FF02
5E070BA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】曲げ加工により形成され磁性基体に埋め込まれた導体部の酸化を抑制しつつ残留応力を除去することが可能な効率的なコイル部品の製造方法を提供する。
【解決手段】コイル部品の製造方法は、鉄よりも小さなイオン化傾向を有する金属を主成分とする基材に曲げ加工を行うことで形成された導体部と、鉄を主成分とする複数の金属磁性粒子を有しており導体部の少なくとも一部を取り囲む素体と、を含む中間体を準備する工程S1と、中間体を第1温度で加熱することで導体部の表面を覆うように金属の酸化物を含む酸化膜を形成する第1加熱工程S2と、第1温度での加熱後に中間体を第1温度よりも高温の第2温度で加熱することにより、複数の金属磁性粒子の各々の表面に酸化鉄を含む酸化被膜を生成して素体から磁性基体を形成し、酸化膜から酸化鉄及び金属を含む絶縁性の酸化物層を形成し、導体部をアニール処理する第2加熱工程S3と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄よりも小さなイオン化傾向を有する金属を主成分とする基材に曲げ加工を行うことで形成された導体部と、鉄を主成分とする複数の金属磁性粒子を有しており前記導体部の少なくとも一部を取り囲む素体と、を含む中間体を準備する工程と、
前記中間体を第1温度で加熱することで前記導体部の表面を覆うように前記金属の酸化物を含む酸化膜を形成する第1加熱工程と、
前記第1温度での加熱後に前記中間体を前記第1温度よりも高温の第2温度で加熱することにより、前記複数の金属磁性粒子の各々の表面に酸化鉄を含む酸化被膜を生成して前記素体から磁性基体を形成し、前記酸化膜から酸化鉄及び前記金属を含む絶縁性の酸化物層を形成し、前記導体部をアニール処理する第2加熱工程と、
を備えるコイル部品の製造方法。
【請求項2】
鉄よりも小さなイオン化傾向を有する金属を主成分とする基材と、鉄を主成分とする複数の金属磁性粒子を有しており前記素体の少なくとも一部を取り囲む素体と、を含む中間体を準備する工程と、
前記中間体を第1温度で加熱することで前記基材の表面を覆うように前記金属の酸化物を含む酸化膜を形成する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後に前記基材に曲げ加工を行うことで導体部を形成する工程と、
前記曲げ加工後に前記中間体を前記第1温度よりも高温の第2温度で加熱することにより、前記複数の金属磁性粒子の各々の表面に酸化鉄を含む酸化被膜を生成して前記素体から磁性基体を形成し、前記酸化膜から酸化鉄及び前記金属を含む絶縁性の酸化物層を形成し、前記導体部をアニール処理する第2加熱工程と、
を備えるコイル部品の製造方法。
【請求項3】
前記第2加熱工程においては、前記酸化膜に含まれる前記金属の酸化物の少なくとも一部が還元される、
請求項1又は2に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項4】
前記第2加熱工程において、前記複数の金属磁性粒子の各々が隣接する金属磁性粒子と前記酸化被膜により結合することで前記基体が形成される、
請求項1から3のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項5】
前記第2加熱工程においては、前記第1加熱工程よりも低い酸素濃度の雰囲気中で前記中間体が加熱される、
請求項1から4のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項6】
前記基材は、熱分解性の絶縁被膜により覆われており、
前記絶縁被膜は、前記第1加熱工程において分解される、
請求項1から5のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項7】
前記準備工程は、前記基材の表面に酸化亜鉛を含有する懸濁液を塗布する工程を有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項8】
前記第2加熱工程において、酸化亜鉛を含むように前記酸化物層が形成される、
請求項7に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項9】
前記第1温度は、100~350℃の範囲にある、
請求項1から8のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項10】
前記第2温度は、600~900℃の範囲にある、
請求項1から9のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項11】
前記第2加熱工程は、100~2000ppmの酸素濃度を有する雰囲気にて行われる、
請求項1から10のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-153650公報(特許文献1)には、磁性基体と、平板状の金属製の基材に曲げ加工を行うことで形成された導体部と、を含むコイル部品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
平板状の金属製の基材に曲げ加工を行うことで形成される導体部のうち曲げ加工により塑性変形した部位には残留応力が生じる。このため、曲げ加工により形成された導体部を有するコイル部品は、機械的強度が低下しやすい。
【0005】
コイル部品は、継続的に振動が加えられる環境で使用されることがある。例えば、自動車の電装品に使用されるコイル部品には、自動車の走行中に振動が繰り返し加えられる。コイル部品に振動が繰り返し加えられると、そのコイル部品に備えられた導体部のうち曲げ加工により塑性変形した部位に疲労によるき裂が発生しやすくなる。
【0006】
金属材料から成る素材を曲げ加工して得られた加工品にアニール処理を行うことで残留応力を除去できることが従来から知られている。コイル部品に用いられる導体部は、銅や銀といった金属を主成分としているため、導体部に生じる残留応力をアニール処理により除去するためには500℃以上の高温での加熱が必要となる。このような高温で加熱されると、導体部が酸化し、その結果、電気抵抗が高くなってしまうおそれがある。
【0007】
また、導体部が埋め込まれる磁性基体の材料によっては、磁性基体に導体部を埋め込んだ後に高温によるアニール処理を行うことができない。例えば、引用文献1のコイル部品の磁性基体は、金属磁性粒子同士を結合させる樹脂製の結着材を含むため、この磁性基体が導体部の残留応力を除去可能なほどの高温で加熱されると結着材が熱分解されてしまい、金属磁性粒子間の結合が弱くなってしまう。このように、磁性基体を構成する材料によっては、導体部における残留応力を製造工程においてアニール処理により除去することが困難である。
【0008】
金属材料の基材に曲げ加工及びアニール処理を行うことで残留応力が除去された金属板を準備し、この残留応力が除去された金属板を磁性基体に埋め込むことでコイル部品を製造することが考えられる。しかしながら、金属板における残留応力を除去するための追加的で独立した加熱プロセスが必要となるため、製造プロセスが非効率になるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。本発明のより具体的な目的の一つは、曲げ加工により形成され磁性基体に埋め込まれた導体部の酸化を抑制しつつ残留応力を除去することが可能な効率的なコイル部品の製造方法を提供することである。
【0010】
本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。特許請求の範囲に記載される発明は、「発明を解決しようとする課題」から把握される課題以外の課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によるコイル部品の製造方法は、鉄よりも小さなイオン化傾向を有する金属を主成分とする基材に曲げ加工を行うことで形成された導体部と、鉄を主成分とする複数の金属磁性粒子を有しており前記導体部の少なくとも一部を取り囲む素体と、を含む中間体を準備する工程と、前記中間体を第1温度で加熱することで前記導体部の表面を覆うように前記金属の酸化物を含む酸化膜を形成する第1加熱工程と、前記第1温度での加熱後に前記中間体を前記第1温度よりも高温の第2温度で加熱することにより、前記複数の金属磁性粒子の各々の表面に酸化鉄を含む酸化被膜を生成して前記素体から磁性基体を形成し、前記酸化膜から酸化鉄及び前記金属を含む絶縁性の酸化物層を形成し、前記導体部をアニール処理する第2加熱工程と、を備える。
【0012】
本発明の一実施形態によるコイル部品の製造方法は、鉄よりも小さなイオン化傾向を有する金属を主成分とする基材と、鉄を主成分とする複数の金属磁性粒子を有しており前記素体の少なくとも一部を取り囲む素体と、を含む中間体を準備する工程と、前記中間体を第1温度で加熱することで前記基材の表面を覆うように前記金属の酸化物を含む酸化膜を形成する第1加熱工程と、前記第1加熱工程の後に前記基材に曲げ加工を行うことで導体部を形成する工程と、前記曲げ加工後に前記中間体を前記第1温度よりも高温の第2温度で加熱することにより、前記複数の金属磁性粒子の各々の表面に酸化鉄を含む酸化被膜を生成して前記素体から磁性基体を形成し、前記酸化膜から酸化鉄及び前記金属を含む絶縁性の酸化物層を形成し、前記導体部をアニール処理する第2加熱工程と、を備える。
【0013】
本発明の一実施形態における前記第2加熱工程においては、前記酸化膜に含まれる前記金属の酸化物の少なくとも一部が還元される。
【0014】
本発明の一実施形態における前記第2加熱工程においては、前記複数の金属磁性粒子の各々が隣接する金属磁性粒子と前記酸化被膜により結合することで前記基体が形成される。
【0015】
本発明の一実施形態における前記第2加熱工程においては、前記第1加熱工程よりも低い酸素濃度の雰囲気中で前記中間体が加熱される。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記基材は、熱分解性の絶縁被膜により覆われており、前記絶縁被膜は、前記第1加熱工程において分解される。
【0017】
本発明の一実施形態における前記準備工程は、前記基材の表面に酸化亜鉛を含有する懸濁液を塗布する工程を有する。
【0018】
本発明の一実施形態における前記第2加熱工程においては、酸化亜鉛を含むように前記酸化物層が形成される。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記第1温度は、100~350℃の範囲にある。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記第2温度は、600~900℃の範囲にある。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記第2加熱工程は、100~2000ppmの酸素濃度を有する雰囲気にて行われる。
【発明の効果】
【0022】
本明細書に開示されている発明によれば、曲げ加工により形成され磁性基体に埋め込まれた導体部の酸化を抑制しつつ残留応力を除去することが可能なコイル部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実装基板に実装された本発明の一実施形態によるコイル部品の斜視図である。
【
図3】
図2の断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
【
図5】本発明の一実施形態における中間体を準備する工程を示すフロー図である。
【
図6】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程において作製される中間体を模式的に示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程において作製される中間体を模式的に示す斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程において第1加熱工程における加熱がなされる前の中間体の断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程において第1加熱工程における加熱がなされた後で第2加熱工程における加熱がなされる前の中間体の断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態における中間体を準備する工程を示すフロー図である。
【
図11】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される本発明の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0025】
図1から
図3を参照して本発明の一実施形態によるコイル部品1について説明する。
図1は、実装基板2aに実装されたコイル部品1の斜視図、
図2は、コイル部品1をI-I切断線で切断した断面図、
図3は
図2に示されている断面の一部を拡大した拡大断面図である。
図1及び
図2の各々には、互いに直交するW軸、L軸及びZ軸が示されている。本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向及び「T軸」方向とする。本明細書においては、L軸方向、W軸方向及びZ軸方向を基準としてコイル部品1の構成部材の向きや配置を説明することがある。
【0026】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトル、及びこれら以外の様々なコイル部品に適用され得る。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル、及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品にも適用することができる。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものに限定されない。
【0027】
図1及び
図3に示されているように、コイル部品1は、磁性材料から形成された磁性基体10と、この磁性基体10に設けられた導体部25と、導体部25と磁性基体10との間に設けられた酸化物層60と、を備えている。
【0028】
コイル部品1は、実装基板2aに実装されている。実装基板2aには、ランド部3a,3bが設けられている。コイル部品1は、導体部25の露出部25bとランド部3aとを接合し、導体部25の露出部25cとランド部3bとを接合することで実装基板2aに実装されている。このように、回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、コイル部品1及びコイル部品1以外の様々な電子部品を備えることができる。
【0029】
回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。コイル部品1が搭載される電子機器は、本明細書で明示されるものには限定されない。コイル部品1は、回路基板2の内部に埋め込まれる内蔵部品であってもよい。
【0030】
図示の実施形態において、磁性基体10は、おおむね直方体形状を有する。磁性基体10は、第1主面10a、第2主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有しており、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1主面10aと第2主面10bとは互いに対向し、第1端面10cと第2端面10dとは互いに対向し、第1側面10eと第2側面10fとは互いに対向している。
図1において第1主面10aは本体10の上側にあるため、第1主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2主面10bを「下面」と呼ぶことがある。磁気結合型コイル部品1は、第2主面10bが実装基板2aと対向するように配置されるので、第2主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。コイル部品1の上下方向に言及する際には、
図1の上下方向を基準とする。本明細書においては、文脈上別に理解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向、及び「T軸」方向とする。L軸、W軸、及びT軸は互いに直交している。
【0031】
本発明の一又は複数の実施形態において、コイル部品1は、磁性基体10の長さ寸法(L軸方向の寸法)が1.0~12.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が1.0~12.0mm、高さ寸法(T軸方向の寸法)が1.0~6.0mmとなるように形成される。コイル部品1は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.2~6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.1~4.5mm、高さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1~4.0mmとなるように形成されていても良い。これらの寸法はあくまで例示であり、本発明を適用可能なコイル部品1は、本発明の趣旨に反しない限り、任意の寸法を取ることができる。
【0032】
磁性基体10は、磁性材料から構成される。本発明の一又は複数の実施形態において、磁性基体10は、複数の金属磁性粒子を含む。金属磁性粒子は、軟磁性金属材料から成る粒子又は粉末である。金属磁性粒子は、銅よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素を含む。金属磁性粒子は、例えば、Fe-Cr-Si系合金の粉末である。Fe及びCrは、銅(Cu)よりも大きなイオン化傾向を有する。金属磁性粒子用の軟磁性金属材料は、Fe-Cr-Si系合金には限られない。金属磁性粒子用の軟磁性金属材料は、例えば、(1)合金系のFe-Si-AlもしくはFe-Ni、(2)非晶質のFe―Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、又は(3)これらの混合材料の粒子である。金属磁性粒子が合金系の材料から構成される場合には、金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、80wt%以上97wt%未満とされてもよい。金属磁性粒子が非晶質の材料から構成される場合には、金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、72wt%以上85wt%未満とされてもよい。金属磁性粒子におけるSi及び銅より酸化しやすい金属元素の合計の含有比率は、3wt%以上とされても良く、8wt%以上とされても良く、10wt%以上とされてもよい。
【0033】
本発明の一又は複数の実施形態において、磁性基体10に含まれる金属磁性粒子の粒径は、所定の粒度分布に従って分布している。金属磁性粒子は、例えば、1μm以上10μm以下の平均粒径を有する。磁性基体10に含まれる金属磁性粒子の平均粒径は、磁性基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍~5000倍の倍率で撮影したSEM写真に基づいて当該断面に含まれる金属磁性粒の粒度分布を求め、この粒度分布に基づいて定められる。例えば、SEM写真に基づいて求められた粒度分布の50%値を金属磁性粒子の平均粒径とすることができる。磁性基体10は、一種類の金属磁性粒子から構成されてもよく、材料及び/又は平均粒径の点で互いに異なる二種類以上の金属磁性粒子から構成されてもよい。磁性基体10が二種類以上の金属磁性粒子から構成される場合、その二種類以上の金属磁性粒子は、互いに異なる軟磁性金属材料から構成されてもよい。例えば、磁性基体10は、Fe-Cr-Si系合金からなる金属磁性粒子と、Fe-Ni系合金からなる金属磁性粒子とを混合した混合粒子であってもよい。磁性基体10が二種類以上の金属磁性粒子から構成される場合、その二種類以上の金属磁性粒子は、互いに異なる平均粒径を有していてもよい。磁性基体10が互いに平均粒径の異なる2種類以上の金属磁性粒子を混合した混合粒子を含むことは、SEM写真に基づいて粒度分布を作成した際に、粒度分布に現れる2つ以上のピークにより確認することができる。
【0034】
導体部25は、磁性基体10の内部に配置された埋設部25aと、埋設部25aの一端に接続されており磁性基体10の第1端面10cに沿って延びている露出部25bと、埋設部25aの他端に接続されており磁性基体10の第2端面10dに沿って延びている露出部25cと、露出部25bに接続されており磁性基体10の下面10bに沿って延びる接続部25dと、露出部25cに接続されており磁性基体10の下面10bに沿って延びる接続部25eと、を備える。接続部25d、25eは磁性基体10の下面10bに沿って延びており、コイル部品1を実装基板2aへ実装する際に、それぞれランド3a、3bに接続される。
【0035】
導体部25は、例えば、金属製の平板形状又は線状の基材を曲げ加工することにより形成される。導体部25は、埋設部25aと露出部25bとの境界、埋設部25aと露出部25cとの境界、露出部25bと接続部25dとの境界、及び露出部25cと接続部25eとの境界に、湾曲した形状の湾曲部25fをそれぞれ有する。湾曲部25fは、基材に曲げ加工を行うことにより形成されてもよい。
【0036】
本発明に適用可能な導体部25は、図示されている態様に限られない。露出部25b、25cは、磁性基体10から露出している限り、任意の形状をとることができ、磁性基体10に対して任意の位置に配置され得る。導体部25は、接続部25d、25eを備えなくともよい。露出部25b、25cが実装面10bまで延伸していない場合や導体部25が接続部25d、25eを備えない場合には、コイル部品1は、露出部25b、25cとそれぞれ接続される2つの外部電極を備えてもよい。この外部電極として、公知の外部電極が適用され得る。外部電極は、例えば、磁性基体10の表面に導電性ペーストを塗布して下地電極を形成し、この下地電極の表面に一又は複数のめっき層を形成することにより得られる。導体部25が接続部25d、25eを備えない場合には、露出部25b及び露出部25cが実装基板2aのランド3a、3bとそれぞれ直接又は間接に接続されてもよい。
【0037】
導体部25は、鉄よりも小さなイオン化傾向を有する金属を主成分とする導電性の構造体である。本明細書における主成分とは、質量基準の含有割合が最も多い成分をいう。本明細書においては、導体部25を構成する金属材料の主成分となる金属を「導体部25の主成分金属」又は単に「主成分金属」という。導体部25の主成分金属の例は、銅又は銀である。よって、導体部25の主成分が銅の場合には、質量基準で銅の含有割合が最も高い。電気抵抗を小さくするために、導体部25における銅又は銀の含有比率は、90wt%以上であっても良く、95wt%以上であっても良く、99wt%以上であっても良く、それ以上の高い含有比率であってもよい。導体部25は、主成分の金属以外にもNi、Sn、Zn及び/又はこれら以外の元素を含むことができる。
【0038】
本発明に適用可能な導体部25の形状は、図示されている形状には限定されない。導体部25の埋設部25aは、螺旋形状を有していてもよい。螺旋形状を有する埋設部25aは、平面視で長方形形状を有する第1主面10aの対角線の交点を通り第1主面10aに垂直な方向(T軸方向)に延びる軸線の周りに螺旋状に延伸してもよい。露出部25b、25c及び/又は接続部25d、25eの形状も図示されている形状から変形可能である。図示の導体部25は、埋設部25aと露出部25b、25cとが互いに等しい断面形状を有している。導体部25は、埋設部25aが円形又は楕円形の断面を有していていてもよい。導体部25は、線径1.5mmの直線状の線材であってもよい。露出部25b、25cは、かかる線材をプレスすることで形成されてもよい。露出部25b、25cは、例えば、0.1mm~0.5mmの範囲の厚さを有するように形成されてもよい。
【0039】
埋設部25aが螺旋形状を有する場合には、埋設部25aは、コイル軸の周りに延伸する。螺旋形状を有する埋設部25aは、コイル軸の周りに複数ターン巻かれてもよい。コイル軸は、T軸、L軸、又はW軸のいずれかに沿って延びる仮想的な軸線であってもよい。コイル軸の周りに複数ターン巻かれた埋設部25aの隣接するターン間には、磁性基体10の一部が介在していてもよい。コイル軸の周りに複数ターン巻かれた埋設部25aの隣接するターン間には、導体部25の主成分となる金属の酸化物を主成分とする絶縁材が介在していてもよい。
【0040】
次に、
図3を参照して、磁性基体10と導体部25の埋設部25aとの境界付近の微視的な構造について説明する。
図3は、
図2に示されているコイル部品1の断面のうち領域Aを拡大して示す拡大断面図である。領域Aは、導体部25の埋設部25aと磁性基体10とに跨がる領域である。
図3に示されている例では、磁性基体10は、平均粒径が互いに異なる2種類の金属磁性粒子を含んでおり、具体的には、複数の第1金属磁性粒子31と、第1金属磁性粒子31よりも平均粒径が小さい複数の第2金属磁性粒子32と、を含んでいる。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32は、鉄を主成分とする軟磁性金属材料から形成されている。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32は、例えば、(1)合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-AlもしくはFe-Niの粒子、(2)非晶質のFe―Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Crの粒子、又は(3)これらの混合材料の粒子であってもよい。
【0041】
磁性基体10に含まれる金属磁性粒子の表面には、その金属磁性粒子に含まれる金属元素の酸化物を含む絶縁性の酸化被膜が設けられる。
図3に示されているように、第1金属磁性粒子31の表面には酸化被膜41が設けられ、第2金属磁性粒子32の表面には酸化被膜42が設けられている。酸化被膜41、42は、Feの酸化物を含む。酸化被膜41、42は、Fe以外の金属磁性粒子の構成元素の酸化物を含んでもよい。例えば、金属磁性粒子がFe-Cr-Si系合金から成る場合、その表面の酸化被膜には、Fe、Cr、及びSiの酸化物が含まれる。第1金属磁性粒子31は、隣接する第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32と、酸化被膜41及び/又は酸化被膜42を介して結合している。
【0042】
導体部25の埋設部25aと第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間には、埋設部25aの表面を覆う酸化物層60が配置されている。酸化物層60は、埋設部25aに接していてもよい。酸化物層60は、埋設部25aと第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間の空間を閉塞するように、埋設部25aと第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間に設けられる。酸化物層60は、酸化被膜41を介して第1金属磁性粒子31と接しており、酸化被膜42を介して第2金属磁性粒子32と接している。酸化物層60と第1金属磁性粒子31及び/又は第2金属磁性粒子32との間には空隙が存在していてもよい。
【0043】
図示されているように、酸化物層60は、埋設部25aの表面の全ての領域を覆っていてもよい。例えば、磁性基体10をT軸に沿って切断して断面を露出させ、L軸方向において均等な間隔で配置された3点(5点又はそれ以上の点であってもよい)の各々において視野に埋設部25aの表面の一部及び磁性基体10を含むように5000倍の倍率で当該断面のSEM写真を撮影し、この撮影したSEM写真の各々において埋設部25aの表面全体が酸化物層60によって覆われている場合に、酸化物層60が埋設部25aの表面の全てを覆っていると判断することができる。このように導体部25の埋設部25aの表面が酸化物層60によって覆われており、この酸化物層60によって埋設部25aと第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間の空間を閉塞しているから、コイル部品1の使用時に使用環境における大気や大気中の水分が磁性基体10を通って埋設部25aに到達することを防止又は抑制できる。
【0044】
本発明の一又は複数の実施形態において、酸化物層60は、酸化鉄及び第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる鉄以外の金属元素の酸化物を含むことができる。例えば、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32がFe-Cr-Si系合金から成る場合、酸化物層60は、Fe及びCrの酸化物を含むことができる。酸化物層60には第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物が含まれているため、酸化物層60の比透磁率は、従来の樹脂製(例えば、ポリイミド製)の絶縁被膜の比透磁率よりも高くなる。
【0045】
本発明の一又は複数の実施形態において、酸化物層60は、酸化鉄及び第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれるFe以外の金属元素の酸化物に加えて導体部25の主成分金属の元素、例えば銅元素や銀元素を含んでもよい。銅元素は酸化物層60において酸化銅として存在してもよく、銀元素は酸化物層60において酸化銀として存在してもよい。
【0046】
磁性基体10の断面を5000倍から20000倍の倍率で撮影したSEM写真においては、酸化物層60と導体部25の埋設部25aとの境界、並びに、酸化物層60と第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との境界は明暗差により識別可能である。酸化物層60に第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物が含まれていることは、磁性基体10の断面においてエネルギー分散型X線分析(EDS)を行うことにより確認できる。具体的には、磁性基体10の断面のEDS分析により、酸化物層60に第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素及び酸素元素が存在することが確認できれば、酸化物層60が第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物を含むことを確認できる。酸化物層60を横断するライン(例えば、T軸方向に沿って延びるライン)に沿って磁性基体10の断面のEDS分析により得られる各元素のマッピングデータを再構築した場合、この走査ラインにおける第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素のカウント数は、埋設部25aから離れるほど(第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32に近づくほど)大きくなってもよい。つまり、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の検出強度は、埋設部25aから離れるほど強くなってもよい。他方、同じ走査ラインにおける導体部25の主成分金属の検出強度は、埋設部25aに近づくほど強くなってもよい。
【0047】
酸化物層60は、優れた絶縁性を有する。酸化物層60は、ヘマタイト、二酸化ケイ素、及び/又はこれら以外の絶縁性の酸化物を含有しているため、優れた絶縁性を呈する。酸化物層60は、例えば108Ω・cm以上の高い比抵抗を有する。このように、導体部25の埋設部25aの表面が絶縁性の酸化物層60によって覆われているため、導体部25と第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32との間でのショートの発生を抑制することができる。つまり、コイル部品1は、優れた絶縁耐圧を有する。
【0048】
上述したように、埋設部25aが螺旋形状を有する場合、埋設部25aの隣接するターン間には磁性基体10の一部が介在していてもよい。この場合、埋設部25aの隣接するターン間に介在する磁性基体10の領域と埋設部25aの表面との間には、酸化物層60が設けられる。このように、隣接するターン間が絶縁性の酸化物層60によって隔てられているため、導体部25の異なるターンを構成する部位の間でのショートの発生を抑制でできる。このため、コイル部品1は、優れた絶縁耐圧を有する。
【0049】
埋設部25aが螺旋形状を有する場合、埋設部25aの隣接するターン間には磁性基体10ではなく、導体部25の主成分金属を主成分とする絶縁材が介在していてもよい。この導体部25の主成分金属を主成分とする絶縁材により、導体部25の異なるターンを構成する部位の間でのショートの発生を抑制することができる。
【0050】
本発明の一又は複数の実施形態において、酸化物層60は、亜鉛元素を含有する。亜鉛元素は、酸化物層60に酸化亜鉛として含有されてもよい。酸化物層60は、例えば1.0at%以上25at%の割合で亜鉛元素を含有する。亜鉛元素は、第1金属磁性粒子31の酸化被膜41及び第2金属磁性粒子32の酸化被膜42の少なくとも一方にも含まれ得る。一又は複数の実施形態において、酸化物層60における亜鉛元素の含有比率(原子割合)は、酸化被膜41における亜鉛元素の含有比率(原子割合)及び酸化被膜42における亜鉛元素の含有比率(原子割合)よりも高い。酸化物層60に酸化亜鉛を含有させることにより、酸化物層60を緻密化することができる。これにより、コイル部品1の使用時に大気中の酸素や水分が埋設部25aに到達することをさらに抑制できる。
【0051】
続いて、
図4から
図9を参照して、本発明の一実施形態によるコイル部品1の例示的な製造方法について説明する。
図4は、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造工程の示すフロー図である。以下の説明では、コイル部品1が圧縮成形法により製造されることを想定する。コイル部品1は、圧縮成形法以外の方法で作製されてもよい。
【0052】
まず、ステップS1において、中間体100を準備する。中間体100を準備する処理のフローを
図5に示し、中間体100の模式図を
図6に示す。
図6に示されているように、中間体100は、磁性材料から構成された素体110と、この素体110に一部が埋め込まれた金属製の基材125と、を有する。基材125は、鉄よりも小さなイオン化傾向を有する金属を主成分とする金属材料から構成される。本明細書においては、基材125を構成する金属材料の主成分となる金属を「基材125の主成分金属」という。後述するように、基材125を折り曲げることにより導体部25が形成されるから、基材125の主成分金属は、導体部25の主成分金属と同じであってもよい。図示の実施形態では、基材125は、金属製の平板である。基材125の表面には、樹脂製の絶縁被膜が設けられてもよいし、設けられていなくともよい。基材125の表面のうち素体110内に埋め込まれる領域には、酸化亜鉛(ZnO)の粉末をアルコールに分散させた懸濁液を塗布してもよい。基材125の形状は平板状には限られない。基材125は、線状に構成されていてもよい。
【0053】
図5に示されているように、中間体100を作製するために、まずステップS11において金属製の基材125を準備する。次に、ステップS12において、基材125を素体110内に埋め込む。例えば、成形金型内に基材125を配置し、この基材125が設置された成形金型内に金属磁性粒子を含む金属磁性体ペーストを入れ、この成形金型内の金属磁性体ペーストに所定の成形圧力(例えば、500kN~5000kN)を加えることにより、金属磁性体ペーストが成形されて素体110となり、この素体110内に基材125の一部が埋め込まれる。一実施形態においては、素体110の見かけ密度が6.0g/cm
3となるように成形圧力が調整される。金属磁性体ペーストは、Fe-Cr-Si系合金の粉末等の金属磁性粒子をバインダー樹脂及び溶剤と混練することで得られる。金属磁性粒子は、互いに粒径の異なる複数種類の金属磁性粒子を含有してもよい。バインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂又はそれ以外の公知の樹脂である。
【0054】
次に、ステップS13において、基材125のうち素体110から露出している部位を磁性基体10の表面に沿って折り曲げることで、
図7に示されているように湾曲部25fを有する導体部25が形成される。導体部25は、湾曲部25fにおいて折り曲げられている。基材125として平板形状の板材ではなく線状の線材が用いられる場合には、線材のうち素体110から露出している部位をプレスして板状に加工し、この板状に加工された部位に曲げ加工を施すことで導体部25が形成されてもよい。以上のようにして、中間体100が作製される。
【0055】
図8に、ステップS1で作製された中間体100をT軸に沿って切断した断面の一部の領域を拡大して示す。
図8に示されている領域は、
図2の領域Aに相当する領域である。
図8に示されているように、素体110は、複数の第1金属磁性粒子31と、第1金属磁性粒子31よりも小さな平均粒径を有する第2金属磁性粒子32とを含む。隣接する金属磁性粒子の間の隙間、及び、導体部25と金属磁性粒子との間にはバインダー樹脂45が充填されている。図示の実施形態では、導体部25は、樹脂製の絶縁被膜を有していないため、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32と直接に又はバインダー樹脂45を介して接している。上述したように、導体部25の表面は、熱分解性の樹脂から成る絶縁被膜で覆われていてもよい。この場合、導体部25は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32と樹脂製の絶縁被膜を介して、又は、樹脂製の絶縁被膜及びバインダー樹脂45を介して接する。
【0056】
次に、ステップS2において、ステップS1において作製された中間体100に対して第1加熱処理を行う。具体的には、中間体100を加熱炉に投入し、この加熱炉において例えば100~350℃の大気雰囲気又は酸素雰囲気で30分~120分間加熱する。この第1加熱処理により、バインダー樹脂45は分解され、また、導体部25のうち素体110に埋まっている部位の表面には、導体部25の主成分金属の酸化物(例えば、酸化銅又は酸化銀)を含む金属酸化膜50が形成される。導体部25の表面が熱分解性の樹脂からなる絶縁被膜で覆われている場合には、第1加熱処理において、中間体100は、導体部25の表面の絶縁被膜を構成する樹脂の熱分解温度以上の温度まで加熱される。このため、導体部25の表面の絶縁被膜は、第1加熱処理において熱分解され、導体部25のうち素体110に埋まっている部位の表面に導体部25の主成分金属を含む金属酸化膜50が形成される。このように、導体部25が樹脂製の絶縁被膜により覆われている場合、導体部25の周囲の第1加熱処理前に樹脂製の絶縁被膜が存在していた領域も空隙とはならず金属酸化膜50により閉塞される。第1加熱処理は酸素雰囲気下で行われるため、第1加熱処理においては導体部25に含まれる主成分金属の酸化が促進され、樹脂製の絶縁被膜およびバインダー樹脂45が分解されてできた空隙を閉塞するように導体部25の表面に金属酸化膜50が形成される。
【0057】
既述のとおり、導体部25の素体110内に埋め込まれる部位は螺旋形状を有していてもよい。表面に絶縁被膜を有する導体部25の素体110内に埋め込まれる部位が螺旋形状を有する場合には、第1加熱処理によって絶縁被膜が熱分解され、熱分解前に絶縁被膜が占めていた空間は導体部25の主成分金属の酸化物が酸化して生成された酸化物(例えば、酸化銅又は酸化銀)により充填される。言い換えると、絶縁被膜を有する導体部25が素体110内に埋め込まれる場合、金属酸化膜50は、螺旋形状を有する導体部25の隣接するターン間にも設けられる。この隣接するターン間に介在する金属酸化膜50により、導体部25の隣接するターン間でのショートの発生が抑制される。
【0058】
このように、第1加熱処理により、素体110は脱脂(脱バインダ)され、導体部25の表面は酸化される。第1加熱処理における加熱条件は、金属酸化膜50の厚さが0.1μm以上となるように適宜調節されてもよい。第1加熱処理における加熱条件は、素体110に含まれる金属磁性粒子が酸化してその表面に酸化被膜が形成されないように設定される。第1加熱処理における加熱温度が100~350℃とされる場合には、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32は、この100~350℃の加熱温度で表面に酸化被膜が形成されない材料から構成される。
【0059】
ステップS1において導体部25の表面に酸化亜鉛(ZnO)の懸濁液が塗布された場合には、導体部25の表面に金属酸化膜50が形成される際に、導体部25の表面に存在していた酸化亜鉛が金属酸化膜50内に取り込まれる。
【0060】
図9は、ステップS2の第1加熱処理後の中間体100をT軸に沿って切断した断面の一部の領域を拡大して示す。図示されているように、第1加熱処理においてバインダー樹脂が分解されたことにより、第1加熱処理前にバインダー樹脂45が充填されていた領域のうち隣接する金属磁性粒子の間の隙間は空隙55となっている。他方、導体部25と金属磁性粒子との間に充填されていたバインダー樹脂45も分解されているが、導体部25と金属磁性粒子との隙間は空隙とはならず金属酸化膜50により閉塞されている。第1加熱処理は大気中又は酸素雰囲気下で行われるため、第1加熱処理においては導体部25に含まれる主成分金属の酸化が促進され、バインダー樹脂45が分解されてできた空隙を閉塞するように導体部25の表面に金属酸化膜50が形成される。金属酸化膜50は、導体部25の表面のうち素体110と接している領域の全体を覆うように形成されてもよい。
【0061】
次に、ステップS3において、第1加熱処理が施された中間体100に対して第2加熱処理が行われる。第2加熱処理は、第1加熱処理よりも低い酸素濃度の低酸素濃度雰囲気中で第1加熱処理よりも高い温度で行われる。第2加熱処理により、素体110に含まれる第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の各々は酸化され、第1金属磁性粒子31の表面には酸化被膜41が形成されるとともに第2金属磁性粒子32の表面には酸化被膜42が形成される。
【0062】
第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32は、導体部25の主成分金属よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素を含むため、金属酸化膜50の近傍に配置されている第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32においてFeの酸化物や導体部25の主成分金属よりも大きなイオン化傾向を有するFe以外の金属元素の酸化物が生成される際に、金属酸化膜50に含まれる導体部25の主成分金属の酸化物の一部又は全部が還元される。第2加熱処理は、低酸素濃度雰囲気下で行われるため、素体110の内部にある金属酸化膜50の近傍にある第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32に含まれる金属元素は、導体部25の主成分金属の酸化物から酸素を奪って酸化物となる。言い換えると、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32のうち導体部25の近傍にあるものに対しては、酸化のために必要な酸素の少なくとも一部が雰囲気からではなく金属酸化膜50から供給される。このように、第2加熱処理においては、金属酸化膜50に含まれる導体部25の主成分金属の酸化物が還元されることにより、金属酸化膜50から酸化物層60が形成される。酸化物層60は、金属酸化膜50に含まれる酸化物が還元されることで形成されるから、導体部25の主成分金属の酸化物を主成分としていなくともよい。第2加熱処理により金属酸化膜50に含まれる導体部25の主成分金属の酸化物の一部だけが還元される場合には、酸化物層60は、金属酸化膜50に含まれていた導体部25の主成分金属の酸化物を含む。酸化物層60は、酸化物層60は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれるFe及びFe以外の金属元素の酸化物を含んでもよい。酸化物層60は、第2加熱処理の前に酸化物として存在していた導体部25の主成分金属の元素を含んでもよい。
【0063】
上述したように、表面に絶縁被膜を有する導体部25の素体110内に埋め込まれる部位が螺旋形状に形成されることがある。この場合には、第2加熱処理を行う前の中間体100において、この螺旋形状を有する導体部25の隣接するターン間に金属酸化膜50が介在する。この螺旋形状を有する導体部25の隣接するターン間に介在する金属酸化膜50に含まれる導体部25の主成分金属は、第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32との距離が大きいため、第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32に含まれるFeやFe以外の金属元素により還元されにくい。このため、金属酸化膜50のうち螺旋形状を有する導体部25の隣接するターン間に介在する領域においては、第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32に隣接している他の領域と比べて、導体部25の主成分金属の酸化物が比較的多く残存する。第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32に含まれる導体部25の主成分金属よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素(例えば、FeやCr)が熱拡散により螺旋形状を有する導体部25の隣接するターン間にまで移動する場合には、その導体部25の主成分金属よりも大きなイオン化傾向を有する金属元素によって螺旋形状を有する導体部25の隣接するターン間に存在する導体部25の主成分金属も還元され得る。このため、螺旋形状を有する導体部25の隣接するターン間に介在する金属酸化膜50は、第2加熱処理により部分的に酸化物層60となっていてもよい。
【0064】
ステップS1において導体部25の表面に酸化亜鉛(ZnO)の懸濁液が塗布された場合には、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の少なくとも一方に含まれる金属元素の酸化物に加えて酸化亜鉛を含むように酸化物層60が形成される。この酸化亜鉛により第2加熱処理において生成される酸化物層60を緻密化することができる。
【0065】
第2加熱処理は、例えば、約600~900℃の窒素と酸素との混合雰囲気下で30分~120分間行われる。混合雰囲気の酸素濃度は、100~2000ppmとされる。本出願人の特願2020-216302(2020年12月25日出願)の明細書に記載されているように、中間体100において金属酸化膜50と素体110の表面との間隔が2mm以上あれば、酸素濃度が2000ppmの窒素と酸素との混合雰囲気下で約800℃の温度で60分間当該中間体100を加熱することにより、0.5μmの金属酸化膜50に含まれる導体部25の主成分金属は全て還元されることが分かった。
【0066】
第2加熱処理における加熱温度を600~900℃の範囲とすることで、導体部25にアニール処理を行うことができる。第2加熱処理を行う前の導体部25の湾曲部25fには、基材125から導体部25を形成する際の曲げ加工により残留応力が生じている。第2加熱処理により導体部25にアニール処理が行われるから、曲げ加工により生じた残留応力が除去される。このように、第2加熱処理では、金属磁性粒子31、32の表面に酸化被膜41、42が形成されて素体110から磁性基体10が形成され、金属酸化膜50から酸化物層60が形成されるだけでなく、導体部25から残留応力が除去される。つまり、素体110に含まれる金属磁性粒子を酸化させて磁性基体10を形成するための加熱処理により導体部25から残留応力を除去することができる。
【0067】
金属酸化膜50に酸化亜鉛が含有されている場合、第2加熱処理においては、この酸化亜鉛の少なくとも一部が還元される。亜鉛の融点は、第2加熱処理における加熱温度よりも低いため、第2加熱処理においては、還元された亜鉛が溶融する。金属酸化膜50と金属磁性粒子31及び/又は金属磁性粒子32との間に空隙が存在する場合には、この溶融した亜鉛がその空隙に移動し、その空隙の少なくとも一部を充填することができる。これにより、第2加熱処理後に、酸化物層60と第1金属磁性粒子31及び/又は第2金属磁性粒子32との間の空隙を減少させることができるので、コイル部品1の使用時に大気や大気中の水分が埋設部25aに到達することをさらに抑制できる。
【0068】
以上のようにしてコイル部品1が作製される。コイル部品1の製造方法は、ステップS1~S3以外の工程を追加的に備えてもよい。例えば、熱処理工程により作製された磁性基体10には、必要に応じてバレル研磨等の研磨処理が行われる。
【0069】
図4及び
図5を用いて説明したコイル部品1の製造方法には、様々な変更を行うことができる。例えば、コイル部品1の製造方法においては、ステップS1における中間体100の準備のための処理を適宜変更することができる。
図10にステップS1における中間体100を準備する処理の変形例を示す。
図10に記載されているように、中間体100は、ステップS11aで準備された基材125にステップS12aで曲げ加工を施して導体部25を形成し、次に、ステップS13aにおいて導体部25を素体110へ埋め込むことで作製されてもよい。このように、基材125に対する曲げ加工は、基材125の基材110への埋め込みよりも前に行われてもよい。
【0070】
また、基材125に対する曲げ加工とそれ以外の処理の順序を適宜変更することができる。基材125に対する曲げ加工は、第2加熱処理の前のいずれの時点において行われてもよい。
図11に、曲げ加工のタイミングを変更した本発明の別の実施形態による製造方法の流れを示す。
図11に示されている製造方法においては、中間体100に対して第1加熱処理を行った後に基材125に対する曲げ加工が行われる。
図11は、本発明の別の実施形態におけるコイル部品1の製造方法を示す。
図11においては、基材125への曲げ加工が第1加熱処理の後に行われる。具体的には、まずステップS101において、磁性材料から構成された素体110と、この素体110に一部が埋め込まれた金属製の基材125と、を有する中間体100を準備する。ステップS101の処理は、ステップS1の処理と同様に、成形金型内に基材125を配置し、この基材125が設置された成形金型内に金属磁性粒子を含む金属磁性体ペーストを入れ、この成形金型内の金属磁性体ペーストに所定の成形圧力を加えることで行われる。ステップS101により、
図6に示されているように、素体110と、素体110に一部が埋め込まれた金属製の基材125と、を有する中間体100が作製される。
【0071】
次に、ステップS102において、ステップS101において作製された中間体100に対して第1加熱処理を行う。ステップS102における第1加熱処理は、ステップS2における第1加熱処理と同様の条件で行われ得る。具体的には、ステップS101で作製された中間体100を加熱炉に投入し、この加熱炉において例えば100~350℃の大気雰囲気又は酸素雰囲気で30分~120分間加熱する。このステップS102における第1加熱処理により、バインダー樹脂45は分解され、また、基材125のうち素体110に埋まっている部位の表面には、基材125を構成する金属材料の主成分の金属の酸化物(酸化銅又は酸化銀)を含む金属酸化膜50が形成される。
【0072】
次に、ステップS103において、第1加熱処理が施された中間体100に含まれる基材125に対して曲げ加工を施して導体部25を作製する。この曲げ加工により、基材125は、
図7に示すように、湾曲部25fを有する導体部25となる。
【0073】
次に、ステップS103において、曲げ加工により形成された導体部25を有する中間体100に対して第2加熱処理が行われる。ステップS103における第2加熱処理は、ステップS3における第2加熱処理と同様の条件で行われ得る。具体的には、ステップS102で基材125に曲げ加工が行われた中間体100に対して、第1加熱処理よりも低い酸素濃度(例えば、100~2000ppmの酸素濃度)の低酸素濃度雰囲気中で第1加熱処理よりも高い温度(例えば、約600~900℃)で加熱処理が行われる。第2加熱処理により、素体110に含まれる第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の各々は酸化され、第1金属磁性粒子31の表面には酸化被膜41が形成されるとともに第2金属磁性粒子32の表面には酸化被膜42が形成され、磁性基体10が生成される。第2加熱処理においては、金属酸化膜50に含まれる導体部25の主成分金属の酸化物が還元されることにより、金属酸化膜50から酸化物層60が形成される。
【0074】
ステップS104では、磁性基体10及び酸化物層60の生成と並行して、導体部25をアニール処理することができる。第2加熱処理を行う前の導体部25の湾曲部25fには、基材125から導体部25を形成する際の曲げ加工により残留応力が生じている。ステップS104における第2加熱処理により、導体部25をアニール処理することができるので、導体部25から残留応力を除去することができる。
【0075】
次に、上記の実施形態による作用効果について説明する。本発明の実施形態によれば、第2温度での第2加熱工程により曲げ加工により形成された導体部25をアニール処理することができ、これにより導体部25から残留応力を除去することができる。このため、コイル部品1の機械的強度を高めることができる。
【0076】
本発明の実施形態によれば、第2加熱工程においては、導体部25へのアニール処理と並行して、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32を酸化して素体110から磁性基体10を形成する処理も進行する。導体部25のアニール処理を素体110から磁性基体10を形成する加熱工程と別に行うと、アニール処理のための独立した加熱工程が追加されることになるから、コイル部品1の製造工程が複雑化するとともにコイル部品1の製造のためにより多くのエネルギーが必要となる。また、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32を酸化させる加熱処理に加えて導体部25をアニール処理するための加熱を行うと、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の酸化が進行しすぎてしまい、磁性基体10の磁気特性が劣化するおそれがある。本発明の実施形態によれば、導体部25へのアニール処理と素体110から磁性基体10を形成する処理とが第2加熱工程において並行して進むため、上記の問題を解決又は緩和することができる。
【0077】
また、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32が導体部25の主成分金属よりも大きなイオン化傾向を有する金属(例えば、FeやCr)を含むため、第2加熱工程では、導体部25を取り囲む第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32が導体部25の表面に形成されている金属酸化膜50から酸素を奪って酸化され、また、雰囲気から供給される酸素の多くは素体110に埋め込まれている導体部25に到達する前に第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32によって消費されるため、導体部25の酸化が抑制される。また、第2加熱工程は、100~2000ppmの酸素濃度を有する低酸素濃度雰囲気で行われるため、導体部25への酸素の供給を制限することができる。このように、本発明の実施形態によれば、導体部25の酸化による電気抵抗の増加を抑制することができる。
【0078】
本発明の実施形態によれば、導体部25の埋設部25aの表面が絶縁性の酸化物層60によって覆われているため、導体部25と磁性基体10に含まれる金属磁性粒子(例えば、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32)との間でのショートを抑制することができる。
【0079】
本発明の実施形態によれば、酸化物層60によって導体部25の埋設部25aの表面が覆われており、この酸化物層60によって導体部25と磁性基体10を構成する金属磁性粒子との間の隙間が埋められているから、大気や大気中の水分が磁性基体10を通過して導体部25に到達することを抑制できる。さらに、この酸化物層60には、金属磁性粒子に含まれる金属元素の酸化物が含まれているため、酸化物層60の比透磁率は、従来の樹脂製の絶縁被膜よりも高い。したがって、コイル部品1においては、酸化物層60により優れた絶縁耐圧及び耐酸化性が提供されるとともに、磁気特性の劣化も抑制されている。
【0080】
本発明の一又は複数の実施形態によれば、酸化物層60に酸化亜鉛を含有させることにより、酸化物層60を緻密化することができる。これにより、大気や大気中の水分が導体部25に到達することをさらに抑制できる。
【0081】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0082】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【符号の説明】
【0083】
1 コイル部品
10 磁性基体
25 導体部
25a 埋設部
25b、25c 露出部
25d、25e 接続部
25f 湾曲部
31 第1金属磁性粒子
32 第2金属磁性粒子
41、42 酸化被膜
45 バインダー樹脂
50 金属酸化膜
55 空隙
60 酸化物層
121 基材