(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123649
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】磁場発生器の制御装置、試験装置、及び磁場制御方法
(51)【国際特許分類】
G05B 11/36 20060101AFI20220817BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20220817BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
G05B11/36 503C
G05B13/02 D
G01R33/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021090
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大室 俊之
(72)【発明者】
【氏名】木村 卓史
【テーマコード(参考)】
2G017
5H004
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AB07
2G017BA05
5H004GA01
5H004HA14
5H004HB14
5H004KA43
5H004KB31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】制御系の応答特性を最適化させた、磁場発生器の制御装置、試験装置、及び磁場制御方法を提供する。
【解決手段】制御装置は、磁場センサ40の検出値に基づき、磁場発生器30を制御する磁場制御回路60を備え、磁場制御回路60は、磁場発生器30で発生させる磁場の指令値が入力され、磁場センサ40の検出値がフィードバックして入力され、指令値と検出値との誤差に応じて誤差信号を生成し、誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を磁場発生器30に出力する。そして、制御ゲインは、誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだゲインと、誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだゲインとを含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場発生器により発生される磁場を制御する磁場発生器の制御装置において、
前記磁場を検出する磁場センサの検出値に基づき、前記磁場発生器を制御する磁場制御回路を備え、
前記磁場制御回路は、
前記磁場発生器で発生させる磁場の指令値が入力され、
前記磁場センサの前記検出値がフィードバックして入力され、
前記指令値と前記検出値との誤差に応じて誤差信号を生成し、
前記誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を前記磁場発生器に出力し、
前記制御ゲインは、
前記誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだ第1ゲインと、
前記誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだ第2ゲインとを含む磁場発生器の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁場発生器の制御装置において、
前記第2ゲインは、前記指令値の変動に対して要求される指令値応答性、前記磁場発生器の出力変動に対して要求される出力値応答性、及び前記磁場センサの前記検出値の変動に対して要求される検出値応答性に応じて設定されている磁場発生器の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁場発生器の制御装置において、
前記第2ゲインは、前記振幅の増加に対してゲインが連続的に増加する特性を含む磁場発生器の制御装置。
【請求項4】
被試験電子部品を試験する試験装置において、
コイル及びコアを有し、前記被試験電子部品に対して磁場を出力する磁場発生器と、
前記磁場を検出する磁場センサと、
前記磁場センサの検出値に基づき、前記コイルに流れる電流を制御する磁場制御回路を備え、
前記磁場制御回路は、
前記磁場発生器で発生させる磁場の指令値が入力され、
前記磁場センサの前記検出値がフィードバックして入力され、
前記指令値と前記検出値との誤差に応じて誤差信号を生成し、
前記誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を前記磁場発生器に出力し、
前記制御ゲインは、
前記誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだ第1ゲインと、
前記誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだ第2ゲインとを含む試験装置。
【請求項5】
磁場発生器により発生される磁場を制御する磁場制御方法において、
前記磁場を検出する磁場センサの検出値をフィードバック制御にて取得するステップと、
前記磁場発生器で発生させる磁場の指令値を取得するステップと、
前記指令値と前記検出値との誤差に応じて誤差信号を生成するステップと、
前記誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を前記磁場発生器に出力するステップとを有し、
前記制御ゲインは、
前記誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだ第1ゲインと、
前記誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだ第2ゲインとを含む磁場発生器の磁場制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生器の制御装置、試験装置、及び磁場制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PIDパラメータを自動で設定するPID制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このPID制御装置において、PID制御部をP制御状態とし、目標値入力を一定とした状態で、オートチューニング部はPID制御部の比例ゲインKpを徐々に増大させる。Kpの増大に伴い、偏差に振動が発生する。FFT解析部は偏差を周波数解析しピーク周波数から偏差に含まれている固有振動周波数を検出する。フィルタは、固有振動周波数よりも高い周波数のノイズ成分を除去しRMS処理部に出力する。RMS処理部は偏差の振動の1周期ごとに実効値を算出し、複数周期連続して増加していることを検出したときに、オートチューニング部にトリガー信号を送出し、PID制御部のKpの値を下げる。オートチューニング部はトリガー信号を受信すると、そのときの比例ゲインKpc及び固有振動の周期TcからPIDパラメータを決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のPID制御装置において、フィードバック制御の速度要求の範囲が広い場合には、制御系の応答特性を動的に最適化できないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、制御系の応答特性を最適化させた、磁場発生器の制御装置、試験装置、及び磁場制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係る磁気センサ試験装置は、前記磁場を検出する磁場センサの検出値に基づき、前記磁場発生器を制御する磁場制御回路を備え、前記磁場制御回路は、前記磁場発生器で発生させる磁場の指令値が入力され、前記磁場センサの前記検出値がフィードバックして入力され、前記指令値と前記検出値との誤差に応じて誤差信号を生成し、前記誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を前記磁場発生器に出力し、前記制御ゲインは、前記誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだ第1ゲインと、前記誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだ第2ゲインとを含む。
[2]上記発明において、第2ゲインは、前記指令値の変動に対して要求される指令値応答性、前記磁場発生器の出力変動に対して要求される出力値応答性、及び前記磁場センサの前記検出値の変動に対して要求される検出値応答性に応じて設定されてもよい。
[3]上記発明において、第2ゲインは、前記振幅の増加に対してゲインが連続的に増加する特性を含んでもよい。
[4]本発明に係る試験装置において、コイル及びコアを有し、被試験電子部品に対して磁場を出力する磁場発生器と、前記磁場を検出する磁場センサと、前記磁場センサの検出値に基づき、前記コイルに流れる電流を制御する磁場制御回路を備え、前記磁場制御回路は、前記磁場発生器で発生させる磁場の指令値が入力され、前記磁場センサの前記検出値がフィードバックして入力され、前記指令値と前記検出値との誤差に応じて誤差信号を生成し、前記誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を前記磁場発生器に出力し、前記制御ゲインは、前記誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだ第1ゲインと、前記誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだ第2ゲインとを含む。
[5]本発明に係る磁場制御方法において、磁場を検出する磁場センサの検出値をフィードバック制御にて取得するステップと、磁場発生器で発生させる磁場の指令値を取得するステップと、前記指令値と前記検出値との誤差に応じて誤差信号を生成するステップと、前記誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を前記磁場発生器に出力するステップとを有し、前記制御ゲインは、前記誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだ第1ゲインと、前記誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだ第2ゲインとを含む。
【0007】
本発明によれば、制御誤差の振幅成分と周波数成分の双方に感応して、フィードバック制御の速度要求に対して広い速度範囲で最適な制御ゲインを設定するので、制御系の応答特性を最適化できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る試験装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、誤差信号の振幅に対するゲインの特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、磁場制御回路で設定され制御ゲインのゲイン特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図1の試験装置における入力変動と出力変動の関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る試験装置のブロック図である。
【0010】
図1に示す試験装置は、被試験電子部品(DUT)10に対して磁場を加えて、この状態でDUTが適切に動作するか否かを試験(検査)する。DUT10は、本実施形態に係る試験装置により試験される対象物であって、例えば電流センサや磁気センサ等のセンサである。
【0011】
図1に示すように、試験装置100は、ソケット20、磁場発生器30、磁場センサ40、コントローラ50、及び磁場制御回路60を備えている。ソケット20は、DUT10と接触して電気的に接続しつつ、DUT10を保持する。ソケット20の天面には、DUT10と接触するためのピンが設けられている。ソケット20は、ピンと電気的に接続された信号線を有している。ソケット20は、図示しないケーブルを介して、コントローラ50に接続されている。DUT10がソケット20に接続された状態で、コントローラ50からの電気信号がソケット20を介してDUT10に与えられ、DUT10から出力される信号に基づいて、DUT10が試験される。
【0012】
磁場発生器30は、電磁石であり、コア31、主コイル32、補正コイル33を有している。コア31は、主コイル32及び補正コイル33で発生する磁束を強くし、磁束により形成される閉ループ(磁気回路)をDUT10に通すための部材である。
【0013】
コア31は、主コイル32及び補正コイル33が巻かれる本体部311と、本体部311からDUT10に向かって延在する延在部312とを有している。本体部311及び延在部312は一体になっている。本体部311は柱状に形成されている。延在部312は、本体部311の両端から、DUT10の側面に接近するように延在している。一方の延在部312の端部から、他方の延在部312の端部に向かって磁場が発生し、DUT10は磁気回路内に配置される。
【0014】
主コイル32は本体部311に巻かれている。コントローラ50の制御により、電流が主コイル32に流れると、磁束が発生し、磁束は、コア31及びDUT10を含んだ閉ループ状に通る。
【0015】
補正コイル33は、本体部311に巻かれている。補正コイル33の巻数は、主コイル32の巻数より少ない。補正コイル33は、磁場発生器30で発生する磁場を補正するためのコイルである。主コイル32に電流が流れて磁場が発生している状態で、補正コイル33に電流が流れると、補正コイル33で発生する磁場が、主コイル32で発生する磁場に加わる。補正コイル33の発生磁場は、主コイル32の発生磁場よりも小さい。主コイル32に流れる電流を制御することで、磁場発生器30の発生磁場を大きく調整し、補正コイル33に流れる電流を制御することで、磁場発生器30の発生磁場を小さく調整する。
【0016】
磁場センサ40は、磁場発生器30で発生する磁場(磁束)を検出する。磁場センサ40は磁気回路内に配置されている。磁場センサ40の検出値は磁場制御回路60に出力される。
【0017】
コントローラ50は、主コイル32及び補正コイル33に流れる電流を制御する。コントローラ50は、CPUやMPU等の演算装置、及び、ROMやRAM等のメモリ等を有している。コントローラ50は、外部からの指令又はユーザによる操作に基づき、DUTに加える磁場を設定し、設定された磁場を発生させるための磁場指令値(Bа)を主コイル32及び磁場制御回路60に出力する。磁場指令値(Bа)を発生させるための電流が主コイル32に流れる。コントローラ50は、磁場制御回路60を介して、磁場センサ40の検出値(Bd)を取得する。コントローラ50は、設定磁場を変化させる場合には、検出値が変化後の設定磁場になるよう磁場指令値(Bа)を演算する。
【0018】
磁場制御回路60は、磁場センサ40の検出値に基づき磁場発生器30を制御する制御回路である。なお、磁場制御回路60を含む装置が本発明の制御装置に相当する。磁場制御回路60には、磁場センサ40の検出値(Bd)がフィードバックして入力される。磁場制御回路60には、コントローラ50から磁場指令値(Ba)が入力される。磁場制御回路60は、磁場指令値(Ba)と検出値(Bd)との差分を演算することで、磁場指令値(Ba)と検出値(Bd)との誤差を検出する。磁場制御回路60は、検出された誤差に応じた信号を生成する。具体的には、磁場制御回路60は、検出値(Bd)が磁場指令値と一致するように、補正コイル33で発生させる磁場指令値(Bb)を含む信号を生成する。例えば、検出値が設定磁場(設定磁束)より低い場合には、磁場発生器30の磁場が大きくなるよう、補正コイル33で発生させる磁場の指令値(Bb)を演算し、演算された磁場指令値(Bb)を補正コイル33に出力する。なお、コントローラ50及び磁場制御回路60は、主コイル32及び補正コイル33を電流制御又は電圧制御で制御する。
【0019】
次に、
図2を参照して、試験装置100におけるシステム制御を説明する。試験装置100におけるシステム制御は、フィードフォワード要素とフィードバック要素を含んでいる。システム制御は、演算器61、制御要素62~65、及び制御対象66を有している。コントローラ50から磁場制御回路60に入力される磁場指令値(B
a)を含む信号が、システム制御の基準入力信号(B
ref)に相当する。以下に詳述される、演算器61による演算処理、制御要素63~65による制御処理は磁場制御回路60で実行される。また磁場センサの検出値を磁場制御回路60に戻すことで、制御要素62を含む制御処理が実行される。
【0020】
演算器61は、基準入力信号に含まれる磁場指令値(Ba)と、検出値との差分(ΔV)を演算する。検出値は、制御要素62で変換された値である。差分(ΔV)は、指令値と検出値との誤差に相当する。そして、演算器61は、差分(ΔV)を含む誤差信号を制御要素63、65に出力する。これにより、演算器61は、指令値と検出値との誤差に応じて誤差信号を生成し、誤差信号を制御要素63、65に出力する。
【0021】
制御要素62は、被制御量を基準入力信号と比較できる信号に変換する要素であり、磁場センサ40に相当する。被制御量は、磁場発生器30で発生した磁場である。制御要素62は、フィードバック要素であり、伝達関数(H(s))で表される。
【0022】
制御要素63は、誤差信号の振幅成分を検知する(振幅検知)。誤差信号の振幅成分は、過渡的な制御誤差であり、所定時間あたりの誤差信号の尖頭値、積分値、平均値、又は実効値等で表される。制御要素64は、過渡的な制御誤差に対して、制御系の応答特性を変化させるためのゲイン(G
M)を決める(ゲイン制御)。制御要素64は、予め設定されたゲイン特性をマップで格納している。制御要素64で設定されるゲインの特性は、
図3に示すグラフで表される。
図3において、横軸は誤差信号の振幅(D)を示し、縦軸はゲイン(G
M)の大きさを示す。制御要素64のゲイン(G
M)は、誤差信号の振幅(D)が大きいほどゲイン(G
M)が大きくなる特性を含んでいる。ゲイン(G
M)は、誤差信号の振幅(D)の増加に対してゲインが連続的に増加する特性を含んでいる。そして、制御要素64は、誤差信号の振幅が小さい場合には小さなゲイン(G
M)を設定し、誤差信号の振幅が大きい場合には大きなゲイン(G
M)を設定する。なお、
図3に示すゲイン特性は一例にすぎず、ゲイン(G
M)の特性は、誤差信号の振幅(D)に対して比例して増加する特性でもよい。また、ゲイン(G
M)は、振幅の一部の範囲で、誤差信号の振幅(D)が大きいほどゲイン(G
M)が大きくなるような特性を含んでもよい。例えば、誤差信号の振幅(D)が所定の低振幅側の閾値以下である場合にはゲイン(G
M)の大きさは第1所定値となり、誤差信号の振幅(D)が低振幅側の閾値より大きく、所定の高振幅側の閾値より小さい場合には、誤差信号の振幅(D)が大きいほどゲイン(G
M)が大きくなり、誤差信号の振幅(D)が高振幅側の閾値より大きい場合にはゲイン(G
M)の大きさは第2所定値(>第1所定値)となるような特性でもよい。またゲイン(G
M)は、振幅の一部の範囲で、ゲインの大きさが一定値で推移するような特性を含んでいてもよい。制御要素64は設定したゲイン(G
M)を制御要素65に出力する。制御要素63及び制御要素64がフィードフォワード要素に相当する。
【0023】
制御要素65は、誤差に対して制御ゲイン(G(s))で増加させて制御信号を生成し、生成された制御信号を制御対象66に出力する。制御要素65は、以下の要領で、制御信号を生成する。また制御要素65は、誤差信号に対してフィルタリング処理を行い、固有の周波数応答特性を有した、誤差信号に含まれる周波数成分を特定する。制御要素65は、特定された周波成分に対するゲイン(G
F)を決める。ゲイン(G
F)は、定常的な制御誤差に対して、制御系の応答特性を変化させるためのゲインである。制御要素65は、予め設定されたゲイン特性をマップで格納している。制御要素65で設定されるゲイン(G
F)の特性は、
図4に示すグラフで表される。
図4において、横軸は誤差信号の周波数(f)を表している。縦軸はゲインの大きさ表している。
図4の点線のグラフが、ゲイン(G
F)の特性を示している。ゲイン(G
F)は、誤差信号の周波数が高いほどゲインの大きさが小さくなる特性を含んでいる。
図4の例では、誤差信号の周波数が低周波数側の周波数閾値(f
L)以下である場合にはゲイン(G
F)の大きさは最大ゲイン(G
F_P)になり、誤差信号の周波数が低周波数側の周波数閾値(f
L)より高く、高周波数側の周波数閾値(f
H)より低い場合には、周波数の増加に比例してゲイン(G
F)の大きさは小さくなる。
【0024】
なお、ゲイン(G
F)は、周波数の一部の範囲で周波数が高いほどゲイン(G
F)の大きさが小さくなる特性を含んでいればよく、必ずしも
図4に示すような1次関数の特性でなくてもよい。ゲイン(G
F)は、周波数の一部の範囲で、ゲインの大きさが一定値で推移するような特性を含んでいてもよい。
【0025】
制御要素65は、マップを参照して決定したゲイン(G
F)に対して、制御要素64で決定されたゲイン(G
M)を加えて制御ゲイン(G
M×G
F)を決定する。つまり、制御ゲイン(G
M×G
F)は、ゲイン(G
M)とゲイン(G
F)を含んでいる。
図4の実線のグラフが、制御ゲイン(G
M×G
F)の特性を示している。例えば、誤差信号の振幅がD
aであった場合に、制御要素64は、ゲイン(G
M)の大きさをG
M1に決定する。制御要素65は、誤差信号の周波数成分に対するゲイン(G
F)に対して、振動成分に対するゲイン(G
M1)を加える。
図4において、縦軸を対数表示とすると、ゲイン(G
F)に対して、ゲインが大きくなるよう、ゲイン(G
M1)分、シフトさせたゲイン特性が制御ゲインとなる。これにより、ゲイン(G
M1)がシフトした分、制御ゲインは大きくなる。なお、例えば
図3及び
図4の例で、誤差信号の振幅がD
aより大きい場合には、ゲイン(G
M)はG
M1より大きくなるため、制御ゲインのシフト量も大きくなる。
【0026】
制御要素65は、誤差信号を制御ゲイン(GM×GF)で増幅する。制御要素65は、増幅された誤差信号に含まれる指令値(制御ゲインで増幅後の指令値)を、制御対象66で制御可能な制御信号に変換し、制御対象66に出力する。磁場発生器30に対応する制御対象66は、制御信号に基づき磁場を発生する。
【0027】
次に、システム制御に影響を及ぼす変動要因(ノイズ要因)と、各種変動に対して要求される応答性について、
図2を参照して説明する。
図2において、V
nG、V
nH、V
nRはシステム制御に加わる変動(ノイズ)を表している。V
nGは、制御系の変動を表しており、例えば試験装置100に加わる振動やコアの磁性変化等、試験装置100の外部的な要因による変動を表している。なお以下の説明では、変動抑制のために高い応答速度が求められる変動要因をV
nG(高速)とし、変動抑制のために低い応答速度が求められる変動要因をV
nR(低速)としている。また、変動抑制のために、変動要因(V
nG)より低く変動要因(V
nR)より高い応答速度が求められる変動要因をV
nHとしている。ただし、V
nG、V
nH、V
nRを抑制するために必要な応答速度の大小関係は、システム制御の設定条件、動作条件、あるいは環境等により適宜変わるものである。すなわち、変動要因(V
nG、V
nH、V
nR)を抑制するための応答速度の大小関係は、以下の例のような「高速、中速、低速」の順に限らず、「高速、低速、中速」、「中速、高速、低速」、又は「低速、中速、高速」等の順であってもよい。本実施形態に係るシステム制御では、制御ゲインを高くしてループ制御の帰還速度を速めるために、フィードフォワードのゲイン(G
M)を大きくして、変動を抑えている。一方、制御ゲインが小さいと、V
nGを要因とした変動が発生し、制御対象66の出力値が変動した場合に、制御対象66の出力値を基準入力信号の指令値に戻すまで時間がかかってしまう。本実施形態におけるシステム制御において、V
nGを要因とした変動は誤差信号の振幅成分から検知しており、制御要素64のゲイン制御でゲインを高めている。さらに、試験時には、外部からの指令で磁場の設定を変えた場合に、磁場発生器30の発生磁場が、磁場の設定変更に高速で追従させることができ、磁場の設定速度も向上できる。
【0028】
VnRは、基準入力信号に含まれるノイズを表しており、指令値(基準値)を演算する演算器等の内部ノイズを要因とした変動を表している。VnRは、他の変動要因(VnH、VnG)と比較して、低い応答速度が求められる(低速)。指令値が、演算器の内部ノイズ等、内部要因で変動する場合に、指令値は高速で変動する。そのため、フィードフォワードのゲイン(GM)を下げて、制御ゲインを低くして、ループ制御の帰還速度を遅くすれば、指令値の変動は吸収される。一方、ループ制御の帰還速度が速い場合には、ゲイン設定が指令値の変動に合わせて変わってしまい、制御信号の指令が安定しない。すなわち、本実施形態では、誤差信号の指令値が内部要因で変動する場合には、その変動が吸収されるように、制御ゲインが設定される。
【0029】
VnHは、磁場センサ40の検出値に含まれるノイズを表しており、例えばセンサ内部のノイズを要因とした変動を表している。VnHは、他の変動要因(VnG)と比較して、低い応答速度が求められる(中速)。そのため、低速の時と同様に、本実施形態のシステム制御は、フィードフォワードのゲイン(GM)を下げて、制御ゲインを低くして、ループ制御の帰還速度を遅くすることで、磁場センサ40の検出値の変動を吸収する。
【0030】
このように、本実施形態のシステム制御で設定されるゲイン(GM)は、基準値信号の指令値に対して要求される指令値応答性(低速)、磁場発生器30の出力変動に対して要求される出力値応答性(高速)、及び磁場センサ40の検出値の変動に対して要求される検出値応答性(中速)に応じて設定されている。これにより、磁場の設定変更に対して高速で追従させる高速制御と、内部ノイズによる指令値/検出値の変動を吸収させる内部ノイズ抑制を両立させることができる。
【0031】
図5は、試験装置100におけるシステム制御への入力変動と出力変動を説明するための図である。
図5(а)は入力変動を表している。
図5(а)に示す入力変動は、外部要因のノイズと内部要因のノイズを含んでいる。外部要因は矢印Pで表されており、外部要因のノイズの影響により、基準信号に含まれる指令値がパルス状に変化する。矢印P以外の入力変動は、内部要因のノイズである。
図5(b)に示すグラフは、高速制御及び低速制御のうち、低速制御のみ行った場合の出力変動を表している。高速制御は、制御ゲインを高くして、高い応答速度のループ制御を表している。試験装置100におけるシステム制御において、フィードフォワードのゲイン(G
M)を高める制御が高速制御に相当する。低速制御は、制御ゲインを低くして、低い応答速度のループ制御を表している。試験装置100におけるシステム制御において、フィードフォワードのゲイン(G
M)を低くする制御、及び/又は、フィードバックのゲイン(G
F)のループ特性下の制御が、低速制御に相当する。
図5(b)に示すように、低速制御のみ行った場合には、内部要因のノイズによる変動は小さくなるが、外部要因のノイズによる変動は十分に抑制できていない(矢印Qを参照)。
【0032】
図5(c)に示すグラフは、高速制御及び低速制御のうち、高速制御のみ行った場合の出力変動を表している。高速制御のみ行った場合には、外部要因のノイズによる変動は小さくなるが、内部要因のノイズによる変動は抑制できない。
【0033】
図5(d)に示すグラフは、高速制御及び低速制御を両方行った場合の出力変動を表しており、試験装置100におけるシステム制御の出力変動を表している。高速制御及び低速制御を両方行った場合には、内部要因のノイズによる変動及び外部要因のノイズによる変動を両方、抑制できる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る磁場発生器30の制御装置は、磁場センサ40の検出値に基づき、磁場発生器30を制御する磁場制御回路60を備え、磁場制御回路60は、磁場発生器30で発生させる磁場の指令値が入力され、磁場センサ40の検出値がフィードバックして入力され、指令値と検出値との誤差に応じて誤差信号を生成し、誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を磁場発生器30に出力する。そして、制御ゲインは、誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだゲイン(GF:本発明の「第1ゲイン」に相当)と、誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだゲイン(GM:本発明の「第2ゲイン」に相当)とを含んでいる。これにより、磁場の設定変更に対して高速で追従させる高速制御と、内部ノイズによる指令値/検出値の変動を吸収させる内部ノイズ抑制を両立させて、制御系の応答特性の最適化を実現できる。
【0035】
また本実施形態に係る磁場発生器30の制御装置において、ゲイン(GM)は、基準値信号の指令値に対して要求される指令値応答性、磁場発生器30の出力変動に対して要求される出力値応答性、及び磁場センサ40の検出値の変動に対して要求される検出値応答性に応じて設定されている。これにより、磁場の設定変更に対して高速で追従させる高速制御と、内部ノイズによる指令値/検出値の変動を吸収させる内部ノイズ抑制を両立させて、制御系の応答特性の最適化を実現できる。
【0036】
また本実施形態に係る磁場発生器30の制御装置において、ゲイン(GM)は、誤差信号の振幅の増加に対してゲインが連続的に増加する特性を含む。例えば、本実施形態とは異なるシステム制御では、スイッチでゲインを切り替えるような制御もあるが、このような制御におけるゲイン特性は、入力変動に対して出力の連続性を保つことができない。一方、本実施形態ではゲイン特性が滑らかに変化するため、入力変動に対して出力の連続性を保つことができる。
【0037】
また本実施形態に係る試験装置100は、コイル及びコアを有し被試験電子部品(DUT)に対して磁場を出力する磁場発生器30と、磁場を検出する磁場センサ40とを備えている。これにより、磁場の設定変更に対して高速で追従させる高速制御と、内部ノイズによる指令値/検出値の変動を吸収させる内部ノイズ抑制を両立させて、制御系の応答特性の最適化を実現できる。
【0038】
また本実施形態に係る磁場制御方法は、磁場センサ40の検出値をフィードバック制御にて取得するステップと、磁場発生器30で発生させる磁場の指令値を取得するステップと、指令値と検出値との誤差に応じて誤差信号を生成するステップと、誤差に対して制御ゲインで増幅させた制御信号を磁場発生器に出力するステップを有する。そして、制御ゲインは、誤差信号の周波数が高いほどゲインが小さくなる特性を含んだゲイン(GF)と、誤差信号の振幅が大きいほどゲインが大きくなる特性を含んだゲイン(GM)とを含んでいる。これにより、磁場の設定変更に対して高速で追従させる高速制御と、内部ノイズによる指令値/検出値の変動を吸収させる内部ノイズ抑制を両立させて、制御系の応答特性の最適化を実現できる。
【0039】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。従って、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0040】
10 被試験電子部品(DUT)
20 ソケット
30 磁場発生器
31 コア
32 主コイル
33 補正コイル
40 磁場センサ
50 コントローラ
60 磁場制御回路
100 試験装置