(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123664
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】レール破断の検知装置及びレール破断の検知方法
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20220817BHJP
E01B 35/00 20060101ALI20220817BHJP
B61K 9/10 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
E01B35/00
B61K9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021113
(22)【出願日】2021-02-12
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】591041417
【氏名又は名称】ジャパンプローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 充
(72)【発明者】
【氏名】寺下 善弘
(72)【発明者】
【氏名】浅川 濯
(72)【発明者】
【氏名】野地 正明
【テーマコード(参考)】
2D057
5H161
【Fターム(参考)】
2D057BA24
5H161AA01
5H161BB20
5H161DD25
5H161FF05
5H161FF07
(57)【要約】
【課題】車両の取り付けやすい位置にセンサを設置しても、精度よくレール破断を車両側から検知させることが可能なレール破断の検知装置を提供する。
【解決手段】レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知装置である。
そして、車両側に取り付けられる送信プローブ31と、送信プローブからレール2の長手方向に所定の距離だけ離れた位置の車両側に取り付けられる受信プローブ32と、受信プローブによって測定された受信データを記録する記憶部と、そこに記録された受信データの中から、距離に基づいて設定されるレール経由で伝搬された時間範囲のデータを抽出するレール経路抽出部と、レール経路抽出部によって抽出されたデータに基づいてレール破断の有無を判定する破断判定部とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知装置であって、
車両側に取り付けられる超音波送信プローブと、
前記超音波送信プローブからレールの長手方向に所定の距離だけ離れた位置の車両側に取り付けられる超音波受信プローブと、
前記超音波受信プローブによって測定された受信データを記録する記憶部と、
前記記憶部に記録された前記受信データの中から、前記距離に基づいて設定されるレール経由で伝搬された時間範囲のデータを抽出するレール経路抽出部と、
前記レール経路抽出部によって抽出されたデータに基づいてレール破断の有無を判定する破断判定部とを備えたことを特徴とするレール破断の検知装置。
【請求項2】
前記時間範囲は、前記超音波送信プローブとそこから出射された超音波が入射される第1レール箇所との距離と、前記第1レール箇所とそこからレールに沿って離れた第2レール箇所との距離と、前記第2レール箇所と前記超音波受信プローブとの距離に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載のレール破断の検知装置。
【請求項3】
レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知方法であって、
超音波送信プローブ及びそこからレールの長手方向に所定の距離を離した位置に配置される超音波受信プローブとが車両側に取り付けられた状態で、検査区間のレールに沿って走行させて受信データを取得するステップと、
前記受信データの中から、前記距離に基づいて設定されるレール経由で伝搬された時間範囲のデータを抽出するステップと、
抽出されたデータに基づいてレール破断の有無を判定するステップとを備えたことを特徴とするレール破断の検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知装置及びレール破断の検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道におけるレール破断は、繰り返しの車両走行によってレールが損傷することで発生し、車両の走行安全性を著しく低下させる。そのため、特許文献1に開示されているように、鉄道事業者は軌道回路と呼ばれる車両の位置検知を目的としたレールに流している信号電流によって、レール破断を検知している。
【0003】
軌道回路を利用した検知方法は、レールが破断した際に、破断したレールが開口して電流が短絡することで検知する方法である。軌道回路は、レールに信号電流を流すことで実現しているシステムであるため、その信号電流をき電する装置や、電車線から車両へ電力を供給し、その下のレールを使って変電所に返す電流等の軌道回路の信号電流と異なる電流を回路で分ける役割があるインピーダンスボンド等の地上設備のメンテナンスに、多大なコストを要している。
【0004】
一方、車両の位置検知を無線で行う技術の開発が進んでおり、軌道回路を維持する必要性が低下している。そして、特許文献2,3に開示されているように、軌道回路を利用しないレール破断の検知方法が開発されつつある。
【0005】
例えば特許文献2には、地上側にレールを伝搬する超音波を受信する超音波トランスデューサを設け、レール破断が発生した際に生じる衝撃振動を超音波トランスデューサが受信した場合に警報信号を出力する鉄道レール破断検出装置が開示されている。また、特許文献3にも、地上側に設けるレール破断検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/175439号公報
【特許文献2】特開2014-80133号公報
【特許文献3】特開2012-91671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、延長が長大となるレールに対して、地上側にレール破断の検知装置を設けるとなれば、特許文献2,3に開示されているような様々な工夫がなされたとしても、大幅なコスト削減は難しいという現実がある。
【0008】
一方、レールを走行する車両や、複数の車両が連結された列車は、車体や台車などの様々な部品によって複雑に構成されているので、車両にレール破断を検知させるためのセンサを取り付ける場合でも、設置位置の制約は少ない方がよい。
【0009】
そこで、本発明は、車両の取り付けやすい位置にセンサを設置しても、精度よくレール破断を車両側から検知させることが可能なレール破断の検知装置及びレール破断の検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のレール破断の検知装置は、レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知装置であって、車両側に取り付けられる超音波送信プローブと、前記超音波送信プローブからレールの長手方向に所定の距離だけ離れた位置の車両側に取り付けられる超音波受信プローブと、前記超音波受信プローブによって測定された受信データを記録する記憶部と、前記記憶部に記録された前記受信データの中から、前記距離に基づいて設定されるレール経由で伝搬された時間範囲のデータを抽出するレール経路抽出部と、前記レール経路抽出部によって抽出されたデータに基づいてレール破断の有無を判定する破断判定部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記時間範囲は、前記超音波送信プローブとそこから出射された超音波が入射される第1レール箇所との距離と、前記第1レール箇所とそこからレールに沿って離れた第2レール箇所との距離と、前記第2レール箇所と前記超音波受信プローブとの距離に基づいて設定される構成とすることができる。
【0012】
また、レール破断の検知方法の発明は、レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知方法であって、超音波送信プローブ及びそこからレールの長手方向に所定の距離を離した位置に配置される超音波受信プローブとが車両側に取り付けられた状態で、検査区間のレールに沿って走行させて受信データを取得するステップと、前記受信データの中から、前記距離に基づいて設定されるレール経由で伝搬された時間範囲のデータを抽出するステップと、抽出されたデータに基づいてレール破断の有無を判定するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明のレール破断の検知装置は、レール破断を検知させるためのセンサとなる超音波送信プローブ及び超音波受信プローブを、車両側の任意の位置に取り付けることができる。
【0014】
要するに、車両側に取り付けられた超音波送信プローブと超音波受信プローブの距離に基づいて超音波がレール経由で伝搬される時間範囲を設定し、その時間範囲の受信データによって、破断判定部においてレール破断の有無を判定する。
【0015】
このような構成であれば、地上側に何の設備を設けなくても、車両の取り付けやすい位置に超音波送信プローブ及び超音波受信プローブを設置することで、精度よくレール破断を車両側から検知させることができる。
【0016】
そして、レール破断の検知方法の発明は、超音波送信プローブ及び超音波受信プローブを備えた車両をレールに沿って走行させることで受信データを取得し、レール経由で伝搬された時間範囲の超音波のデータからレール破断箇所の有無を判定する。すなわち、地上側に何の設備を設けなくても、任意の位置に取り付けられた超音波送信プローブ及び超音波受信プローブによる受信データからレール破断を簡単に検知させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態のレール破断の検知装置の構成を模式的に説明する図で、(a)はレールに不連続箇所がないときの超音波の伝搬状況を示した説明図、(b)はレール破断箇所があるときの超音波の伝搬状況を示した説明図である。
【
図2】本実施の形態のレール破断の検知装置の構成を説明するブロック図である。
【
図3】レールの状態によって異なる超音波の受信波形を説明する図で、(a)はレールに不連続箇所がないときの超音波の受信波形を例示した説明図、(b)はレール破断箇所があるときの超音波の受信波形を例示した説明図である。
【
図4】超音波がレール経由で伝搬される状況を示した説明図である。
【
図5】超音波の受信データとレール経由で伝搬される時間範囲を例示した説明図である。
【
図6】プローブ間距離と超音波の横波の推定到達時間との関係を示した説明図である。
【
図7】プローブ間距離と受信される超音波強度との関係を説明する図で、(a)はプローブ間距離を500mmとしたときの受信波形の説明図、(b)は複数のプローブ間距離の受信波形を重ねて示した説明図である。
【
図8】本実施の形態のレール破断の検知方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図9】本実施の形態のレール破断の検知方法の適用例を説明する図であって、(a)は適用した継目がある軌道の状態を示した説明図、(b)はレール経由として抽出された受信データと閾値とを例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態のレール破断の検知装置の構成を模式的に説明するための図である。
軌道を構成するレール2は、レール2に沿って走行する車両1の車輪12との接触が繰り返されることで、レール破断などの開口が生じることがある。
【0019】
本実施の形態のレール破断の検知装置が設けられる車両1は、保守用車両であっても、列車などを構成する一般的な鉄道車両であってもよい。以下では、直方体状の箱型の車体に前後方向に間隔を置いて台車11が配置される車両1,1Aが、複数、連結された列車10を例に説明する。なお、車両1,1Aの構成は同じであるため、区別の必要のない説明では、符号1を使って説明する。
【0020】
台車11は、平面視長方形状の台車枠111を備え、一対のレール2のそれぞれを走行する車輪12が車軸によって連結されている。また、1台の台車11には、前後方向に2組の車輪12及び車軸の組み合わせ(輪軸)が設けられる。さらに、車軸の端部には、軸箱及び軸箱支持装置が設けられる。
【0021】
このように構成された車両1,1Aには、レールの不連続箇所を検知させるためのセンサとなる一対の非接触式の超音波プローブが取り付けられる。ここで、「レールの不連続箇所」とは、レール破断箇所21などの開口部、継目、欠線部、分岐器がある箇所などのレール2に隙間が生じて連続でなくなっている箇所をいう。
【0022】
一対の超音波プローブは、超音波送信プローブとなる送信プローブ31と、超音波受信プローブとなる受信プローブ32である。送信プローブ31と受信プローブ32は、レール2の長手方向に所定の距離だけ離れた位置となる車両1,1Aの台車11や車体などに取り付けられる。
【0023】
送信プローブ31が送信した超音波を受信プローブ32によって受信させる過程に存在する検査対象物の物性や状態は、受信プローブ32の受信状況によって評価することができる。ここで、超音波の振動数は、例えば20-400kHz程度に設定される。
【0024】
そして、
図1(a)は、レール2に不連続箇所がないときの超音波の伝搬状況を示した説明図で、
図1(b)はレール破断箇所21があるときの超音波の伝搬状況を示した説明図である。
【0025】
図1(a)に模式的に示したように、車両1の台車枠111に取り付けられた送信プローブ31から送信された超音波は、空中を伝搬してレール2に入り、レール2を伝搬した後に再び空中を伝搬して、隣接する車両1Aの台車枠111に取り付けられた受信プローブ32によって受信される。このため、レール2に不連続箇所がなければ、受信プローブ32で受信される超音波の強度は、
図3(a)に示すように、一定以上の大きさで得られることになる。
【0026】
これに対して
図1(b)に示したように、レール2にレール破断箇所21などの不連続箇所があると、送信プローブ31から送信された超音波は、空中を伝搬してレール2に入るが、レール2内での伝搬はレール破断箇所21で遮断されて、車両1Aの受信プローブ32ではレール2を伝搬した超音波を受信できなくなる。
【0027】
要するに、レール2にレール破断箇所21、継目、欠線部などの不連続箇所があると、受信プローブ32で受信される超音波の波形は、
図3(b)に示すように、非常に小さくなる。そこで、受信された超音波強度が閾値以下となるか否かを判定することで、レール2に不連続箇所があるか否かの検出を行うことができる。
【0028】
本実施の形態のレール破断の検知装置は、
図2に示すように、車両側に取り付けられる送信プローブ31と、送信プローブ31からレール2の長手方向に所定の距離だけ離れた位置の車両側に取り付けられる受信プローブ32と、受信プローブ32によって測定された受信データを記録する記憶部6と、計測や制御や演算処理を行うためのパルサ・レシーバ4、PC部5及びデータ処理装置42などとによって構成される。
【0029】
PC部5は、パーソナルコンピュータなどの演算処理装置である。このPC部5は、車両1に搭載されていてもよいし、車両1とは別の管理棟などに設置されていてもよい。また、記憶部6は、PC部5に組み込まれたり接続されたりするハードディスクなどであってもよいし、PC部5に挿し込まれるフラッシュメモリ等の記憶媒体などであってもよい。
【0030】
PC部5によって制御されるパルサ・レシーバ4は、矩形パルス、矩形バースト、矩形チャープなどの各種タイプのパルスを任意に設定された周波数で生成して、送信プローブ31から出力させることができる。また、パルサ・レシーバ4では、受信プローブ32で受信されて外部プリアンプ41で増幅された電気信号(利得)を受け取って、フィルタリング処理をして超音波の受信データとしてPC部5に送信する。
【0031】
一方、データ処理装置42は、受信データの画像処理や周波数解析(高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)など)などをおこなうためのデジタイザである。データ処理装置42によって画像処理などがされた超音波の受信データは、PC部5のモニタなどによって視認することができる。
【0032】
そして、PC部5には、記憶部6に記録された受信データの中からレール経由で伝搬された時間範囲のデータを抽出するレール経路抽出部と、レール経路抽出部によって抽出されたデータに基づいてレール破断の有無を判定する破断判定部とが設けられる。
【0033】
破断判定部は、
図3を参照しながら上述したように、受信プローブ32で受信される超音波強度が一定以上の大きさで得られたとき(
図3(a))は、レール破断が無いと判定し、受信プローブ32で受信された超音波強度が閾値以下となったとき(
図3(b))は、レール破断や継目などのレール2の不連続箇所が有ると判定する。
【0034】
続いて、レール破断の有無の判定に使用する「レール経由で伝搬された超音波」について説明する。
図4は、超音波がレール経由で伝搬される状況を説明するための図である。送信プローブ31と受信プローブ32は、列車10の車両1,1Aのいずれかの位置に取り付けられることによって、レール2の長手方向に所定の距離(プローブ間距離L)だけ離れた位置関係となっている。
【0035】
超音波は、音速の速さ(340m/s)相当で空気中を伝搬することができるので、送信プローブ31からプローブ間距離Lの空気を伝搬して受信プローブ32によって受信される超音波が存在する。
【0036】
超音波の経路は、このような送信プローブ31から受信プローブ32に直接、伝搬される経路だけではなく、レール2を経由する伝搬経路も存在する。ここで、送信プローブ31と受信プローブ32は、レール2の頂面から離隔Hだけ離れた高さに取り付けられているとする。この離隔Hは、例えば車両限界の制限を回避するために70mm以上に設定される。
【0037】
送信プローブ31は、レール2に対してガイド波が発生されるように設置される。レール2に超音波を伝搬させる場合、横波に近いモードのガイド波とすることが有効であることが知られている(林高弘、「超音波ガイド波の鉄道レール検査への適用」、M&M材料力学カンファレンス、2007年10月など参照)。
【0038】
送信プローブ31からは、レール2の頂面に対して垂直となる線から角度θ1だけ傾いたレール2に対する入射角で、超音波を送信させる。この角度θ1を、0度から10度程度に設定することで、レール2にガイド波を発生させることができるようになる。
【0039】
一方、受信プローブ32も、レール2の頂面に対して垂直となる線から角度θ2だけ傾いたレール2からの出射角で、超音波を受信させる。この角度θ2も、0度から10度程度に設定する。
【0040】
レール2の頂面から離隔Hだけ離れた位置の送信プローブ31から送信されて、空気中を伝搬して角度θ1の入射角でレール2の頂面の第1レール箇所2aからレール2に入った超音波は、ガイド波となってレール2の内部を伝搬して、第1レール箇所2aからレール間距離Rだけ離れた第2レール箇所2bに到達する。このレール間距離Rにおける超音波の横波(ガイド波)の伝搬速度は、3230m/s程度になる。
【0041】
そして、レール2の頂面の第2レール箇所2bから角度θ2で出射された超音波は、レール2の頂面から離隔Hだけ離れた位置の受信プローブ32によって受信される。この伝搬経路が、「レール経由で伝搬された超音波」の経路となる。
【0042】
ここで、超音波が空気中を伝搬する速度(340m/s)と、レール2の内部を伝搬する速度(横波:3230m/s)とは、オーダーが1桁、違っている。このため、空気中のみを経由する場合より多少、経路が長くなっていても、「レール経由で伝搬された超音波」を到達時間の範囲で区別することができることがわかる。
【0043】
図5は、受信プローブ32で受信された受信データの超音波の強度と到達時間(伝搬時間)との関係を例示している。この図に「時間範囲」として示した領域は、レール経由で超音波が伝搬される時間領域を示している。
【0044】
送信プローブ31からは、繰り返し同じ周期で超音波が送信され、その一部がレール経由で伝搬されて受信プローブ32で受信されることになる。要するに、レール経由やそれ以外の経路で受信プローブ32に超音波が到達すると、強い利得(電気信号)が発生するので、距離と速度との関係で求められるレール経由の到達時間に着目して、超音波強度が大きくなっているか否かを確認すればよい。レール経由の伝搬の後には、空気中のみを伝搬した超音波が到達することになる。
【0045】
図6は、離隔Hを100mmとしたときのプローブ間距離Lと超音波の横波の到達時間との関係を示した説明図である。プローブ間距離Lが判明すれば、「レール経由で伝搬された超音波」の到達時間がこの図から推定できるので、例えばこの推定値を中心とした一定の範囲を、「レール経由で伝搬された超音波」を抽出するための時間範囲として設定すればよい。
【0046】
図7は、プローブ間距離Lと受信される超音波強度との関係を、実験によって確認した結果を示している。
図7(a)は、プローブ間距離Lを500mmとしたときの受信波形を示しており、
図6で推定したプローブ間距離L=500mmの到達時間の周辺に、超音波強度(V)の絶対値が大きくなる波形が現れていることがわかる。
【0047】
同様に
図7(b)は、プローブ間距離Lを500mm,1000mm,9000mmとしたときの受信波形を重ねて示した図である。この図で見ても、
図6で推定できるそれぞれの到達時間の周辺に、超音波強度(V)の絶対値が大きくなる波形がそれぞれ現れていることがわかる。要するに、送信プローブ31と受信プローブ32とのプローブ間距離Lなどの距離に基づいて超音波の到達時間の時間範囲の設定を行うことで、レール経由の超音波の受信データのみを抽出することができる。
【0048】
次に、本実施の形態のレール破断の検知方法について、
図8に示したフローチャートを参照しながら説明する。
まず上述したように、検知センサとなる送信プローブ31及び受信プローブ32を、列車10の車両1や車両1Aなどの取り付けやすい位置に設置する。
図4では、説明を分かりやすくするために、レール2の頂面からの送信プローブ31の離隔Hと受信プローブ32の離隔Hとを同じにしたが、これに限定されるものではない。測定前に、送信プローブ31と受信プローブ32との距離に基づいて、レール経由で伝搬された超音波の時間範囲が設定できていればよい。
【0049】
ステップS1では、車両1,1Aが連結された列車10をレール2に沿って走行させて、設定された周波数で繰り返し送信プローブ31から送信される超音波が、レール2を伝搬して受信プローブ32に受信される受信データの測定を連続して行わせる。
【0050】
受信プローブ32で受信された電気信号(利得)は、外部プリアンプ41で増幅されてパルサ・レシーバ4に送られ、そこからPC部5に送信され、受信データとして距離程などの位置情報に換算できる情報とともに記憶部6に記録される(ステップS2)。例えば一定速度で列車10を走行させる場合は、受信データに測定時刻を紐付けておくことで、位置データに変換することができる。また、GPS(Global Positioning System)に基づく位置データを、測定された受信データに紐付けることもできる。
【0051】
ステップS3では、記憶部6に記録された受信データの中から、PC部5のレール経路抽出部によって、予め設定された時間範囲に基づいてレール経由のデータとなるレール経路データを抽出する。このレール経路データは、検査区間のレール2の各位置における、レール2を伝搬した超音波のデータを示している。
【0052】
ステップS4では、PC部5の破断判定部によって、閾値を基準にしたレール2の不連続箇所(レール破断箇所21、継目、欠線部)の判定が行われる。ここで、本実施の形態のレール破断の検知方法の適用例を、
図9を参照しながら説明する。
【0053】
図9(a)は、本実施の形態のレール破断の検知方法を適用した継目23がある軌道の状態を示している。この軌道には、まくらぎ22上に差し渡されて締結装置で固定されるレール2に、レール2の長手方向に間隔を置いて、複数の不連続箇所となる継目23が設けられている。
【0054】
一方、列車10側については、送信プローブ31と受信プローブ32とのプローブ間距離Lを2mとしたところ、レール経由の超音波の受信時間がおおよそ1200μsecとなったことから、波形を抽出するデータのゲート範囲(時間範囲)を、1190μsecから1210μsecの範囲に設定した。そして、このゲート範囲の最大値のデータのみを、連続的に抽出して時系列データとして表した。
【0055】
図9(b)は、その抽出された時系列データを示した図である。この図には、レール経由として抽出された受信データと閾値とが示されている。要するにこの時系列データ(受信時刻歴波形)は、レール2の各位置におけるレール経由の時間範囲(
図5参照)の受信データの中から最大強度を抽出し、その最大強度をレール2の各位置における超音波強度としたものである。このため、
図9(b)の横軸の時間は、列車10がレール2の各位置を通過した時間、換言すると位置情報を示している。
【0056】
図9(b)の時系列データにおいては、レール2が健全で不連続箇所が無い位置の受信データは、超音波強度が1V程度の値を示している。他方、継目23の位置のデータは、閾値として設定した0.4Vよりも小さな超音波強度を示している。
【0057】
すなわち、レール2に継目23という不連続箇所が存在したため超音波の伝搬が遮断されて、レール経由の超音波の受信が受信プローブ32で行われず(
図1(b)参照)、設定された時間範囲の超音波強度が小さくなっている。ここで、超音波強度の波形データは、列車10の走行速度に依存しないため、例えば0.4Vなどの一定の閾値を使用することができる。
【0058】
そこでPC部5の破断判定部において、設定された閾値以下となる超音波強度が検出されるか否かを監視し、検出された場合はレール破断箇所21や継目23などの不連続箇所があると推定する(ステップS5)。
【0059】
一方、設定された閾値以下となる超音波強度が検出されなければ、検査区間のレール2に異常はないと判定する(ステップS6)。なお、検査区間のレール2に不連続箇所があると推定された後は、レール破断箇所21と継目23などとの区別が行われる。例えば、継目23の位置は、設備台帳などに登録されているので、位置情報を基にして簡単に除外することができる。
【0060】
次に、本実施の形態のレール破断の検知装置及びレール破断の検知方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のレール破断の検知装置は、レール破断を検知させるためのセンサとなる送信プローブ31及び受信プローブ32を、車両側の任意の位置(車両1,1A)に取り付けることができる。
【0061】
要するに、車両側に取り付けられた送信プローブ31と受信プローブ32のプローブ間距離Lなどに基づいて超音波がレール経由で伝搬される時間範囲を設定し、その時間範囲の受信データによって、破断判定部においてレール破断の有無を判定する。
【0062】
このような構成であれば、地上側に何の設備を設けなくても、台車11や車体などの車両1,1Aの取り付けやすい位置に送信プローブ31及び受信プローブ32を設置することで、精度よくレール破断を車両側から検知させることができる。
【0063】
要するに、距離に基づいてレール経由で伝搬された超音波の受信データを抽出することができるので、送信プローブ31と受信プローブ32との間に空気中を直接伝搬する超音波を遮断させるための車軸などを介在させなくてはならない、といった制約がない。このため、前後に隣接する車両1,1Aなど列車10の取り付けやすい位置を選んで、送信プローブ31及び受信プローブ32の設置を行うことができる。
【0064】
そして、レール破断の検知方法の発明は、送信プローブ31及び受信プローブ32を備えた列車10を検査区間のレール2に沿って走行させることで受信データを取得し、レール経由で伝搬された時間範囲の超音波のデータからレール破断箇所の有無を判定する。
【0065】
すなわち、地上側に何の設備を設けなくても、任意の位置に取り付けられた送信プローブ31及び受信プローブ32による受信データから、レール破断を簡単に検知させることができる。
【0066】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0067】
例えば前記実施の形態では、列車10の隣接する車両1,1Aに送信プローブ31と受信プローブ32とをそれぞれ取り付ける場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、同じ車両1に送信プローブ31と受信プローブ32の両方を取り付けたり、間に別の車両を挟んだ離れた位置の車両に送信プローブ31と受信プローブ32とをそれぞれ取り付けたりすることもできる。
【符号の説明】
【0068】
1,1A:車両
2 :レール
2a :第1レール箇所
2b :第2レール箇所
21 :レール破断箇所(不連続箇所)
31 :送信プローブ(超音波送信プローブ)
32 :受信プローブ(超音波受信プローブ)
6 :記憶部
L :プローブ間距離(距離)